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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-24
(45)【発行日】2023-12-04
(54)【発明の名称】膨張弁
(51)【国際特許分類】
   F16K 31/68 20060101AFI20231127BHJP
   F25B 41/335 20210101ALI20231127BHJP
【FI】
F16K31/68 S
F25B41/335
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019153676
(22)【出願日】2019-08-26
(65)【公開番号】P2021032348
(43)【公開日】2021-03-01
【審査請求日】2022-06-20
(73)【特許権者】
【識別番号】391002166
【氏名又は名称】株式会社不二工機
(74)【代理人】
【識別番号】110000062
【氏名又は名称】弁理士法人第一国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】久保田 耕平
(72)【発明者】
【氏名】早川 潤哉
(72)【発明者】
【氏名】奥津 欣也
【審査官】橋本 敏行
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-037340(JP,A)
【文献】特開2018-025269(JP,A)
【文献】特開2013-178060(JP,A)
【文献】特開2013-185753(JP,A)
【文献】実開昭63-047294(JP,U)
【文献】特開2007-278616(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16K 31/64-31/72
F25B 31/00-31/02
39/00-41/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体が通過する流路内に配置され、弁座を備えた弁本体と、
前記弁座に対して接近又は離間することにより、前記弁座を介する前記流体の通過を制限し又は許容する弁体と、
前記弁体を前記弁座に向かって付勢するコイルばねと、
前記弁体に一端を当接させた作動棒と、
前記作動棒を駆動するパワーエレメントと、を有し、
前記パワーエレメントは、上蓋部材と、ダイアフラムと、前記ダイアフラムを挟んで前記上蓋部材と対向する側に配置される受け部材と、前記ダイアフラムと前記作動棒との間に配置されたストッパ部材と、を備え、
前記ダイアフラムが前記弁体側に向かって前記ストッパ部材を押圧したときに、前記ストッパ部材から前記作動棒を介して前記弁体に駆動力が伝達され、
前記ダイアフラムと前記弁体との間における駆動力伝達経路内に配置された部品に、所定温度未満の熱膨張率よりも前記所定温度以上の熱膨張率の方が大きい感温材を配置した、
ことを特徴とする膨張弁。
【請求項2】
前記部品は、前記感温材を内包し、前記感温材の膨張に応じて変形可能な前記ストッパ部材である、
ことを特徴とする請求項1に記載の膨張弁。
【請求項3】
前記部品は、前記感温材を内包し、前記感温材の膨張に応じて変形可能な前記作動棒である、
ことを特徴とする請求項1に記載の膨張弁。
【請求項4】
前記部品は、前記ストッパ部材と前記作動棒との間に配置され、前記感温材を内包し、前記感温材の膨張に応じて変形可能である、
ことを特徴とする請求項1に記載の膨張弁。
【請求項5】
前記感温材は、前記所定温度を境として固体状態と液体状態との間で変化する、
ことを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の膨張弁。
【請求項6】
前記感温材は、複数種類の化合物からなる複合材料であり、前記複数種類の化合物のうち一つが前記所定温度を境として固体状態と液体状態との間で変化する、
ことを特徴とする請求項5に記載の膨張弁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膨張弁に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車に搭載される空調装置等に用いる冷凍サイクルにおいては、冷媒の通過量を温度に応じて調整する感温式の膨張弁が使用されている。あるタイプの膨張弁は、蒸発器から圧縮機へ向かう低圧冷媒の冷媒通路内に配置された作動棒と、この作動棒を介して弁体を駆動するパワーエレメントとを備えている。パワーエレメントの感温室には、冷凍サイクルを流れる冷媒と同一又は異なる冷媒ガスと不活性ガスとが適切な混合比で充填された作動ガスが封入されている。
【0003】
冷媒通路を通過する低圧冷媒と、パワーエレメントの感温室内の作動ガスとの間で伝熱が生じると、温度変化により感温室内の作動ガスの内圧が変化する。この内圧変化を利用して、作動棒を介して弁体を駆動し開弁または閉弁を行うことができる。膨張弁の開弁特性は作動ガスの温度-圧力特性に依存し、その特性曲線の傾きは、温度変化の際に生じる圧力変動の大きさを示すから、開弁特性を定める重要なファクターである。
【0004】
特許文献1において、一例として膨張弁の開弁特性を示すグラフが示されている。特許文献1に示すように、単一の冷媒に不活性ガスを適量加えた作動ガスを用いることにより感温部の温度に対する開弁圧力が変化することを利用し、膨張弁の開弁特性を変更することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2013-250020号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、冷凍サイクルに用いるコンプレッサとして、固定容量型コンプレッサと可変容量型コンプレッサとが知られている。固定容量型コンプレッサは、冷媒を圧縮するコンプレッサの容量を固定としたものであり、目標温度に達したときにコンプレッサの動作を停止させることで過冷却を防止する。一方、可変容量型コンプレッサは、冷媒を圧縮するコンプレッサの容量を可変にすることにより過冷却を防止しつつ省エネを図るものであり、低負荷でも動作を停止させないという特徴を有する。
【0007】
一般的な冷凍サイクルでは、摺動部の摩耗を軽減すべく、冷媒中に少量のオイルを混入させて、サイクル内を循環させているが、可変容量型コンプレッサは低負荷でも動作し続けるために、その潤滑のため冷媒の循環を行わせる必要がある。そこで、可変容量型コンプレッサを備えた冷凍サイクルでは、感温部の温度が低い場合でも、わずかに開弁させる開弁特性(クロスチャージ)を持つ膨張弁が使用されることが多い。
【0008】
このようなクロスチャージの開弁特性においては、感温部が低温でも開弁しやすくするように、作動ガスの組成を変更して、開弁特性を示す曲線の傾きを緩やかにしている。しかし、かかる開弁特性によれば、感温部が高温になったときには、過熱度(コンプレッサ吸い込みガス温度-蒸発温度)がより増加することとなる。高負荷時における過熱度が増加すると、冷媒圧力に対して弁が開きにくくなり、エバポレータの出口温度が高くなりすぎて、効率の低下などを招く虞がある。しかしながら、作動ガスの組成を変更するのみでは、所望の開弁特性を得ることができない。
【0009】
そこで本発明は、例えば可変容量型コンプレッサを用いた冷凍サイクルで使用されるような場合でも、高負荷時の過熱度を抑制できる膨張弁を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明によるパワーエレメントは、
流体が通過する流路内に配置され、弁座を備えた弁本体と、
前記弁座に対して接近又は離間することにより、前記弁座を介する前記流体の通過を制限し又は許容する弁体と、
前記弁体を前記弁座に向かって付勢するコイルばねと、
前記弁体に一端を当接させた作動棒と、
前記作動棒を駆動するパワーエレメントと、を有し、
前記パワーエレメントは、上蓋部材と、ダイアフラムと、前記ダイアフラムを挟んで前記上蓋部材と対向する側に配置される受け部材と、前記ダイアフラムと前記作動棒との間
に配置されたストッパ部材と、を備え、
前記ダイアフラムが前記弁体側に向かって前記ストッパ部材を押圧したときに、前記ストッパ部材から前記作動棒を介して前記弁体に駆動力が伝達され、
前記ダイアフラムと前記弁体との間における駆動力伝達経路内に配置された部品に、所定温度未満の熱膨張率よりも前記所定温度以上の熱膨張率の方が大きい感温材を配置したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、例えば可変容量型コンプレッサを用いた冷凍サイクルで使用されるような場合でも、高負荷時の過熱度を抑制できる膨張弁を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、本実施形態における膨張弁を、冷媒循環システムに適用した例を模式的に示す概略断面図である。
図2図2は、パワーエレメント8の断面図である。
図3図3は、膨張弁1の開弁圧力特性を示すグラフである。
図4図4は、第1の変形例にかかるパワーエレメント8Aを弁本体2に取り付けた状態で示す拡大断面図である。
図5図5は、第2の変形例にかかるパワーエレメント8Bを弁本体2に取り付けた状態で示す拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明にかかる実施形態について説明する。
【0014】
(方向の定義)
本明細書において、弁体3から作動棒5に向かう方向を「上方向」と定義し、作動棒5から弁体3に向かう方向を「下方向」と定義する。よって、本明細書では、膨張弁1の姿勢に関わらず、弁体3から作動棒5に向かう方向を「上方向」と呼ぶ。
【0015】
図1を参照して、本実施形態におけるパワーエレメントを含む膨張弁1の概要について説明する。図1は、本実施形態における膨張弁1を、冷媒循環システム100に適用した例を模式的に示す概略断面図である。本実施例では、膨張弁1は、コンプレッサ101と、コンデンサ102と、エバポレータ104とに流体接続されている。膨張弁1の軸線をLとする。
【0016】
図1において、膨張弁1は、弁室VSを備える弁本体2と、弁体3と、付勢装置4と、作動棒5と、パワーエレメント8を具備する。
【0017】
弁本体2は、弁室VSに加え、第1流路21と、第2流路22と、中間室221と、戻り流路23とを備える。第1流路21は供給側流路であり、弁室VSには、供給側流路を介して冷媒(流体ともいう)が供給される。第2流路22は排出側流路(出口側流路ともいう)であり、弁室VS内の流体は、弁通孔27、中間室221及び排出側流路を介して膨張弁外に排出される。
【0018】
第1流路21と弁室VSとの間は、第1流路21より小径の接続路21aにより連通している。弁室VSと中間室221との間は、弁座20及び弁通孔27を介して連通している。
【0019】
中間室221の上方に形成された作動棒挿通孔28は、作動棒5をガイドする機能を有し、作動棒挿通孔28の上方に形成された環状凹部29は、リングばね6を収容する機能を有する。リングばね6は、作動棒5の外周に複数のばね片を当接させて、所定の付勢力を付与するものである。
【0020】
弁体3は弁室VS内に配置される。弁体3が弁本体2の弁座20に着座しているとき、弁通孔27の冷媒の流れが制限される。この状態を非連通状態という。ただし、弁体3が弁座20に着座した場合でも、制限された量の冷媒を流すこともある。一方、弁体3が弁座20から離間しているとき、弁通孔27を通過する冷媒の流れが増大する。この状態を連通状態という。
【0021】
作動棒5は、弁通孔27に所定の隙間を持って挿通されている。作動棒5の下端は、弁体3の上面に接触している。作動棒5の上端は、後述するストッパ部材84の嵌合孔84eに嵌合している。
【0022】
作動棒5は、付勢装置4による付勢力に抗して弁体3を開弁方向に押圧することができる。作動棒5が下方向に移動するとき、弁体3は、弁座20から離間し、膨張弁1が開状態となる。
【0023】
図1において、付勢装置4は、断面円形の線材を螺旋状に巻いたコイルばね41と、弁体サポート42と、ばね受け部材43とを有する。
【0024】
弁体サポート42は、コイルばね41の上端に取り付けられており、その上面には球状の弁体3が溶接され、両者は一体となっている。
【0025】
コイルばね41の下端を支持するばね受け部材43は、弁本体2の開口に対して螺合可能となっていて、弁室VSを密封する機能と、コイルばね41の付勢力を調整する機能とを有する。
【0026】
次に、パワーエレメント8について説明する。図2は、パワーエレメント8の断面図である。パワーエレメント8は、栓81と、上蓋部材82と、ダイアフラム83と、受け部材86と、ストッパ部材84とを有する。
【0027】
略円錐形状の上蓋部材82の頂部には開口82aが形成され、栓81により封止可能となっている。
【0028】
ダイアフラム83は、同心円の凹凸形状を複数個形成した薄い金属(たとえばSUS)製の板材からなり、上蓋部材82及び受け部材86の外径とほぼ同じ外径を有する。
【0029】
受け部材86は、例えば金属製の板材をプレス成形することによって形成され、上蓋部材82のフランジ部82bの外径とほぼ同じ外径を持つフランジ部86aと、フランジ部86aの下面中央に連設された中空円筒部86bとを有している。中空円筒部86bの外周には、雄ねじ86cが形成されている。
【0030】
ストッパ部材84は、円形状の上板84aと、有底形状の桶部84bとを有しており、上板84aの外周下面と、桶部84bの上端フランジ部84cの上面とがろう付けなどにより接合されている。上板84aの肉厚は、桶部84bの側壁及び底壁より薄くなっており、上板84aは比較的撓みやすくなっている。上板84aはダイアフラム83の下面中央と広い面積で接しており、また受け部材86のフランジ部82bの上方まで外周が張り出している。桶部84bの下面中央には、嵌合孔84eが形成されている。
【0031】
上板84aと桶部84bの間に形成された空間に、感温材84dが密に充填され(空気等が内部に併存しない状態で)封入されている。感温材84dは、融点を境にして固体相から液体相に変化し、固体状態(融点未満)の熱膨張率に比べ液体状態(融点以上)の熱膨張率の方が相当に大きい特性を有する。感温材84dとして、例えば融点調整をした脂肪族化合物が使用可能である。ただし、融点を下げるために、感温材84dとして炭素数20未満のアルカンを使用するか、或いは当該アルカンを炭素数20以上のパラフィンに付加してもよい。感温材84dとして複数種の脂肪族化合物を配合した混合材料を使用した場合、各化合物の融点は異なるため、温度変化に応じた各化合物の相状態により段階的に熱膨張率が変化することとなる。
感温材84dは、所定温度未満の熱膨張率よりも当該所定温度以上の熱膨張率の方が大きくなるよう調整されている。感温材84dが単一の化合物により構成される場合、当該所定温度は当該化合物の融点と一致する。感温材84dが前述のごとく混合材料(複合材料)である場合、この混合材料を構成する複数の化合物のいずれか一つの融点が当該所定温度と一致し、すなわち複数種類の化合物のうち一つが融点を境として固体状態と液体状態との間で変化すると好ましい。
【0032】
パワーエレメント8の組み立て手順を説明する。あらかじめ、上板84aと、桶部84bと、感温材84dとを組み立てて、ストッパ部材84を形成する。さらに、ダイアフラム83と受け部材86との間に、形成したストッパ部材84を配置し、上蓋部材82と、ダイアフラム83と、受け部材86のそれぞれ外周部を重ね合わせる。そして、当該外周部を例えばTIG溶接やレーザ溶接、プラズマ溶接等により周溶接して一体化する。
【0033】
続いて、上蓋部材82に形成された開口82aから、上蓋部材82とダイアフラム83とで囲われる空間(感温室又は圧力作動室POという)内に作動ガスを封入した後、開口82aを栓81で封止し、更にプロジェクション溶接等を用いて、栓81を上蓋部材82に固定する。
【0034】
このとき、圧力作動室POに封入された作動ガスにより、ダイアフラム83は受け部材86側に張り出す形で圧力を受けるため、ダイアフラム83と受け部材86とで囲われる下部空間LSに配置されたストッパ部材84の上板84aの上面と当接して支持される。
【0035】
以上のようにアッセンブリ化したパワーエレメント8を、弁本体2に組み付けるときは、受け部材86の中空円筒部86bの下端外周の雄ねじ86cを、弁本体2の戻り流路23に連通する凹部2aの内周に形成した雌ねじ2bに螺合させる。中空円筒部86bの雄ねじ86cを雌ねじ2bに対して螺進させてゆくと、受け部材86が弁本体2の上端面に当接する。これによりパワーエレメント8を弁本体2に固定できる。
【0036】
このとき、パワーエレメント8と弁本体2との間には、パッキンPKが介装され、弁本体2にパワーエレメント8を取り付けた際の凹部2aからの冷媒のリークを防止する。かかる状態で、パワーエレメント8の下部空間LSは戻り流路23と連通し、すなわち同じ内圧となる。
【0037】
(膨張弁の動作)
図1を参照して、膨張弁1の動作例について説明する。コンプレッサ101で加圧された冷媒は、コンデンサ102で液化され、膨張弁1に送られる。また、膨張弁1で断熱膨張された冷媒はエバポレータ104に送り出され、エバポレータ104で、エバポレータの周囲を流れる空気と熱交換される。エバポレータ104から戻る冷媒は、膨張弁1(より具体的には、戻り流路23)を通ってコンプレッサ101側へ戻される。このとき、エバポレータ104を通過することで、第2流路22内の流体圧は、戻り流路23の流体圧より大きくなる。
【0038】
膨張弁1には、コンデンサ102から高圧冷媒が供給される。より具体的には、コンデンサ102からの高圧冷媒は、第1流路21を介して弁室VSに供給される。
【0039】
弁体3が、弁座20に着座しているとき(非連通状態のとき)には、弁室VSから弁通孔27、中間室221及び第2流路22を通ってエバポレータ104へ送り出される冷媒の流量が制限される。他方、弁体3が、弁座20から離間しているとき(連通状態のとき)には、弁室VSから弁通孔27、中間室221及び第2流路22を通って、エバポレータ104へ送り出される冷媒の流量が増大する。膨張弁1の閉状態と開状態との間の切り換えは、ストッパ部材84を介してパワーエレメント8に接続された作動棒5によって行われる。
【0040】
図1において、パワーエレメント8の内部には、ダイアフラム83により仕切られた圧力作動室POと下部空間LSとが設けられている。このため、圧力作動室PO内の作動ガスが液化されると、ダイアフラム83とストッパ部材84が上昇するため、コイルばね41の付勢力に応じて作動棒5は上方向に移動する。一方、液化された作動ガスが気化されると、ダイアフラム83とストッパ部材84が下方に押圧されるため、作動棒5は下方向に移動する。こうして、膨張弁1の開状態と閉状態との間の切り換えが行われる。
【0041】
更に、パワーエレメント8の下部空間LSは、戻り流路23と連通している。このため、戻り流路23を流れる冷媒の温度・圧力に応じて、圧力作動室PO内の作動ガスの体積が変化し、作動棒5が駆動される。換言すれば、図1に記載の膨張弁1では、エバポレータ104から膨張弁1に戻る冷媒の温度・圧力に応じて、膨張弁1からエバポレータ104に向けて供給される冷媒の量が自動的に調整される。
【0042】
図3は、膨張弁1の開弁圧力特性を示すグラフであり、横軸はパワーエレメントの温度、縦軸は下部空間LSの冷媒圧力である。図3において、冷媒ガスの飽和曲線を点線Aで示し、本実施形態にかかる膨張弁1の開弁特性を、実線Bで示す。更に参考として、固定容量式コンプレッサを用いた冷凍サイクルに用いる膨張弁(比較例1)の開弁特性(ストレートチャージ)を二点鎖線Cで示す。また、可変容量式コンプレッサを用いた冷凍サイクルに用いる膨張弁(比較例2)の開弁特性(クロスチャージ)を一点鎖線Dで示す。各曲線の上方が閉弁領域、下方が開弁領域となる。なお、クロスポイントE(15℃)より低温の領域では、実線Bと一点鎖線Dとは重なっている。
【0043】
ここで、蒸発圧力を0.5MPaGとしたときに、その際における作動ガスの飽和曲線(点線A)と、各開弁特性の曲線との差SH3deg、SH5deg、SH10degは、静止過熱度(開弁に必要な過熱度)といい、これが大きいほど開弁しにくいことを意味する。
【0044】
まず、一点鎖線Dで示すクロスチャージの開弁特性は、冷媒が低温となる範囲(例えば17℃未満)において、二点鎖線Cで示すストレートチャージの開弁特性に比べ開弁領域が拡大しており、すなわち低温側でも開弁しやすい特性となっている。このため、クロスチャージの開弁特性は、低負荷領域でも冷媒を循環させることができるため、可変容量式コンプレッサの冷凍サイクルに適していることがわかる。
【0045】
ところが、一点鎖線Dで示すクロスチャージの開弁特性は、その傾きが緩やかであるため、冷媒が高温となる範囲(例えば17℃以上)において、二点鎖線Cで示すストレートチャージの開弁特性に比べ開弁領域が狭くなっており、すなわち閉弁しやすい特性となっている。このため、高温側でコンプレッサの過熱や効率低下を招きやすいといえる。
【0046】
これに対し、実線Bで示す本実施形態の膨張弁1の開弁特性によれば、クロスポイントE(15℃)未満の低温の範囲において、一点鎖線Dで示すクロスチャージの開弁特性と同じ開弁特性を持つ。一方、本実施形態の膨張弁1の開弁特性によれば、クロスポイントE(15℃)以上の高温の範囲において、一点鎖線Dで示すクロスチャージの開弁特性よりも、静止過熱度が小さく(SH5deg)、二点鎖線Cで示すストレートチャージの開弁特性に近づけている。すなわち、本実施形態の膨張弁1によれば、低負荷側で可変容量式コンプレッサの冷凍サイクルに適しているとともに、高負荷側でコンプレッサの過熱を抑制し、効率向上を実現できる。
【0047】
このような本実施形態の膨張弁1の開弁特性を実現する仕組みについて説明する。パワーエレメント8の圧力作動室POの作動ガス圧力をPとし、ダイアフラム83の受圧面積(有効面積)をAとし、下部空間LS内の冷媒圧力をPとし、コイルばね41の付勢力をFとすると、膨張弁1が釣り合い状態にあるとき、以下の式(1)が成立する。
×A=P×A+F (1)
【0048】
ここで、作動ガスはクロスチャージの開弁特性を持つものとする。また、クロスポイントE未満の温度で、ストッパ部材84の感温材84dが固体状態である。膨張弁1が閉弁状態にあるときに、コンプレッサ101の駆動により冷媒が吸引されると、冷媒圧力Pが低下し、また冷媒が供給されないエバポレータ104の出口で過熱度が増大するため、その伝熱により作動ガス圧力Pが上昇する。すると、式(1)の左辺の値が右辺の値より大きくなるから、釣り合い状態が崩れて開弁がなされることとなる。したがって、クロスポイントE未満の温度でクロスチャージと同じ開弁特性を得ることができる。
【0049】
一方、クロスポイントE以上の温度で、ストッパ部材84の感温材84dが溶融して液体状態になると、その温度に応じて体積が膨張する。このとき、感温材84dの膨張した体積に応じて上板84aが上方に(駆動力伝達経路に沿った方向に)膨らむように変形し、それによりダイアフラム83を押し上げるとともに、作動棒5を押し下げる。これによりダイアフラム83と弁体3との間の駆動力伝達経路内に配置される部品の合計長さが変化するため、図3の実線Bで示すように、クロスポイントE以上の温度でクロスチャージとは異なる開弁特性を得ることができる。すなわち、本実施形態においては、感温材84dが低い膨張係数から高い膨張係数に変化する所定温度は、クロスポイントEの温度或いはその近傍と一致するように調整されている。
【0050】
(第1の変形例)
図4は、第1の変形例にかかるパワーエレメント8Aを弁本体2に取り付けた状態で示す拡大断面図である。本変形例においては、ストッパ部材84Aと作動棒5の間に、感温材を内包した膨張可能部品85を配置している。ストッパ部材84Aは、金属製の板材を皿状にプレス成形することによって形成されており、受け部材86のフランジ部82bの上方まで外周が張り出すように配置される。
【0051】
膨張可能部品85は、上側桶部材85aと、下側桶部材85bと、感温材85cとを有する。感温材85cは、上述した実施の形態の感温材84dと同様の素材から形成できる。上側桶部材85aと下側桶部材85bは、それぞれ金属製の板材をプレス成形することによって形成できる。また、下側桶部材85bの下面中央には、作動棒5の上端が係合する嵌合孔85fが形成される。
【0052】
膨張可能部品85は、感温材85cを介在させつつ、上側桶部材85aのフランジ部85dと、下側桶部材85bのフランジ部85eとを突き合わせるように対向させてろう付けなどの手法により接合される。これにより、上側桶部材85aと下側桶部材85bとの間に形成された空間に、感温材85cが空気等が内部に併存しない状態で封入される。それ以外の構成は、上述した実施形態と同様であるため、同じ符号を付して重複説明を省略する。
【0053】
パワーエレメント8Aの組み付け時において、ダイアフラム83と受け部材86との間に、形成したストッパ部材84A及び膨張可能部品85を重ねて配置する。そして、上蓋部材82と、ダイアフラム83と、受け部材86のそれぞれ外周部を重ね合わせ、この重ね合わせ部を周溶接して一体化する。
【0054】
本変形例では、上側桶部材85aと下側桶部材85bの肉厚はそれぞれ均一となっているが、接合されたフランジ部85d、85eにより膨張可能部品85の側面の剛性が高くなっている。したがって、感温材85cの膨張時に、上側桶部材85aの上壁と下側桶部材85bの下壁が駆動力伝達経路方向に比較的大きく変形し、作動棒5を下方へ変位させることができる。
【0055】
(第2の変形例)
図5は、第2の変形例にかかるパワーエレメント8Bを弁本体2に取り付けた状態で示す拡大断面図である。本変形例において、ストッパ部材84Bは、円形のフランジ部84Baと、円筒状の本体84Bbとからなり、本体84Bbの中央下面には、作動棒5Bの上端が嵌合する嵌合孔84Bcが形成されている。
【0056】
作動棒5Bの上端に、軸線方向に延在する円筒状の袋孔5Baが形成されており、その内部に感温材52が、空気等が併存しない状態で封入される。感温材52は、上述した実施の形態の感温材84dと同様の材料から構成できる。袋孔5Baの上端には、円筒状のプラグ51が内挿されている。プラグ51の中央外周には、周溝51aが形成されており、その内部にO-リングORが配置されている。O-リングORは、プラグ51と袋孔5Baとの間隙を封止している。それ以外の構成は、上述した実施形態と同様であるため、同じ符号を付して重複説明を省略する。
【0057】
感温材52が固体状態のとき、プラグ51の上端面は、作動棒5Bの上端と同じレベルか、もしくは若干突出して、ストッパ部材84Bの下面に接している。一方、感温材52が液体状態になって体積が膨張したとき、O-リングORが液漏れを封止するため、袋孔5Baの内圧が高まり、プラグ51が押されて袋孔5Baから上方へと突出するようになる。これにより作動棒5Bの全長が伸びるため、ストッパ部材84Bを介してダイアフラム83に押圧力が伝達され、その反力でコイルばね41の付勢に抗して作動棒5Bを押し下げる力が作用する。
【0058】
なお、本発明は、上述の実施形態に限定されない。本発明の範囲内において、上述の実施形態の任意の構成要素の変形が可能である。また、上述の実施形態において任意の構成要素の追加または省略が可能である。例えば、本実施形態と、第1の変形例と、第2の変形例のいずれか2つ以上を組み合わせて用いてもよい。
【符号の説明】
【0059】
1 :膨張弁
2 :弁本体
3 :弁体
4 :付勢装置
5、5B :作動棒
6 :リングばね
8,8A、8B :パワーエレメント
20 :弁座
21 :第1流路
22 :第2流路
221 :中間室
23 :戻り流路
27 :弁通孔
28 :作動棒挿通孔
29 :環状凹部
41 :コイルばね
42 :弁体サポート
43 :ばね受け部材
81 :栓
82 :上蓋部材
83 :ダイアフラム
84、84A、84B:ストッパ部材
85 :膨張可能部品
86 :受け部材
100 :冷媒循環システム
101 :コンプレッサ
102 :コンデンサ
104 :エバポレータ
VS :弁室

図1
図2
図3
図4
図5