(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-24
(45)【発行日】2023-12-04
(54)【発明の名称】高周波加熱装置
(51)【国際特許分類】
H05B 6/68 20060101AFI20231127BHJP
【FI】
H05B6/68 320A
(21)【出願番号】P 2019223529
(22)【出願日】2019-12-11
【審査請求日】2022-09-22
(73)【特許権者】
【識別番号】391001457
【氏名又は名称】アイリスオーヤマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100180644
【氏名又は名称】▲崎▼山 博教
(72)【発明者】
【氏名】宮島 隆浩
(72)【発明者】
【氏名】野田 臣光
【審査官】西村 賢
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-095493(JP,A)
【文献】特開昭62-113395(JP,A)
【文献】国際公開第2011/030515(WO,A1)
【文献】特開2013-127327(JP,A)
【文献】特開2014-232623(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0121441(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 6/48- 6/68
H05B 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加熱物を誘電加熱するためのマイクロ波発生手段であるマグネトロンと、
交流電源に接続され、
前記交流電源の瞬時電圧値が前記マグネトロンの動作開始閾値電圧に対応する電圧Vmよりも低くなる第一期間T1と、前記電圧Vmよりも高くなる第二期間T2とが繰り返される特性を有する直流電圧を発生させる非平滑直流電圧回路と、
前記非平滑直流電圧回路に接続され、高周波トランスの一次コイルに高周波電流を発生させるインバータ回路と、
前記インバータ回路を設定された出力となるように制御する制御部と、
前記高周波トランスの二次側に設けられ、マグネトロン駆動回路に接続された陽極コイルと、
前記高周波トランスの二次側に設けられ、前記マグネトロンのフィラメントに接続されたフィラメントコイルと、を備え、
前記マグネトロンの設定出力が所定値より大きいことを条件として、前記交流電源のゼロクロスを基準とする所定の停止期間に亘って前記インバータ回路の出力を停止させ、
前記マグネトロンの設定出力が所定値より小さいことを条件として、前記停止期間においても、前記インバータ回路の出力を継続させ
るものであり、
前記マグネトロンは、前記インバータ回路の駆動周波数が所定の閾周波数を基準として低周波数側の第一周波数において動作し、前記閾周波数を基準として高周波数側の第二周波数において動作停止するものであり、
前記フィラメントは、前記インバータ回路の駆動周波数が前記第一周波数であるとき、及び前記第二周波数であるときの双方において動作するものであり、
前記制御部は、前記インバータ回路の駆動周波数を前記第一周波数とする時間と、前記第二周波数とする時間との比率に基づく時分割制御により、前記マグネトロン及び前記フィラメントの出力制御を行うことを特徴とする高周波加熱装置。
【請求項2】
前記停止期間が、±1.8[msec]以内であることを特徴とする請求項1に記載の高周波加熱装置。
【請求項3】
被加熱物を誘電加熱するためのマイクロ波発生手段であるマグネトロンと、
交流電源に接続され、
前記交流電源の瞬時電圧値が前記マグネトロンの動作開始閾値電圧に対応する電圧Vmよりも低くなる第一期間T1と、前記電圧Vmよりも高くなる第二期間T2とが繰り返される特性を有する非平滑直流電圧を発生させる電源回路と、
前記直流電源回路に接続され、高周波トランスの一次コイルに高周波電流を発生させるインバータ回路と、
前記インバータ回路を設定された出力となるように制御する制御部と、
前記高周波トランスの二次側に設けられ、マグネトロン駆動回路に接続された陽極コイルと、
前記高周波トランスの二次側に設けられ、前記マグネトロンのフィラメントに接続されたフィラメントコイルと、を備え、
前記マグネトロンは、前記インバータ回路の駆動周波数が所定の閾周波数を基準として低周波数側の第一周波数において動作し、前記閾周波数を基準として高周波数側の第二周波数において動作停止するものであり、
前記フィラメントは、前記インバータ回路の駆動周波数が前記第一周波数であるとき、及び前記第二周波数であるときの双方において動作するものであり、
前記制御部は、前記インバータ回路の駆動周波数を前記第一周波数とする時間と、前記第二周波数とする時間との比率に基づく時分割制御により、前記マグネトロン及び前記フィラメントの出力制御を行うことを特徴とする高周波加熱装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マグネトロンへの通電に伴って発生するマイクロ波帯域の高周波により物品を加熱する高周波加熱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、下記特許文献1に開示されている電子レンジや、特許文献2に開示されている高周波加熱装置のようなものが、食品等の物品を加熱するための装置として提供されている。このような電子レンジや高周波加熱装置等(以下、単に「高周波加熱装置」とも称す)においては、マグネトロンの陽極(アノード)への電力供給、及びフィラメントへの電力供給を、インバータが備えている単一の高周波トランスによって賄っている。なお、このインバータは、商用交流電源周波数より高い高周波(一般的には20kHzから50kHz)に変換するものである。このような構成とされているため、高周波加熱装置においては、マグネトロンのマイクロ波出力(以下マグネトロン出力)に対応する陽極電力、及びフィラメントの温度に対応するフィラメント電力を独立的に制御できないという特性がある。そのため、従来技術の高周波加熱装置では、マグネトロン出力を低出力にして連続運転を行おうとすると、フィラメント電力も低下して、マグネトロンが正常に動作しなくなるという問題がある。低出力においても保証されたフィラメント温度が確保できるフィラメント電力になるようにフィラメントコイルの巻数を増やすと、マグネトロン出力が高出力となるときに、フィラメント電力が過大になり、フィラメント温度が保証値を超え、マグネトロン動作が不安定、短寿命化等の原因となり、高周波加熱装置の信頼性が損なわれる問題がある。
【0003】
かかる問題に鑑み、従来技術においては、商用交流電源周期より十分低い周期、例えば15秒周期で断続運転を行い、マグネトロン出力を等価的に低くすることでフィラメント温度が保証値より低くならないようにすることが一般的に行われている。この場合には、被加熱物の温度変化が大きくなり、被加熱物の種類によっては被加熱物に悪影響を与える。このことを避けるため、特許文献1の電子レンジや、特許文献2の高周波加熱装置等に開示されているようなものが提案されている。
【0004】
具体的には、特許文献1の電子レンジは、マグネトロンを駆動するために、高周波トランスの一次コイルに高周波電流を発生させるインバータ回路と、高周波トランスの二次側に設けられた陽極コイルに接続されたマグネトロン駆動回路と、高周波トランスの二次側に設けられたフィラメントコイルと、このフィラメントコイルに誘起する電圧をマグネトロンのフィラメントに印加するフィラメント回路とを備えたもの、とされている。特許文献1の電子レンジにおいては、フィラメント回路のフィラメントへの電流を直流にすることにより、インバータ周波数を変えてマグネトロン出力を変化させる際に生じるフィラメント電力の変化を抑制することができ、マグネトロンの安定した低出力連続発振が実現できる、としている。
【0005】
また、特許文献2の高周波加熱装置は、マグネトロン陽極に電力を供給すると同時にフィラメントに電力を供給するトランスと、交流電源から得た電力を高周波電力に変換し高周波トランスに供給するインバータ回路と、電力検知手段と、電力検知手段の出力と出力設定信号を比較し電力調節信号をコントロールする電力調節部と、出力設定信号に対応した電圧を発生する比較電圧発生回路と、比較電圧発生回路の出力電圧を基準電圧とし交流電源電圧を整流する整流回路の出力を反転増幅する反転増幅回路と、反転増幅回路の出力を電力調節信号に重畳した信号をもとにインバータ回路を駆動する構成としたものである。特許文献2の高周波加熱装置においては、このような構成とすることにより、マグネトロンの出力にかかわらず、安定したフィラメント電流を供給できる、としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許3923741号公報
【文献】特開平7-161463号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1の電子レンジにおいては、フィラメント回路に流れる電流を直流とするための追加部品等を必要とする。そのため、特許文献1の電子レンジは、装置構成が複雑になり、製造コストが高くなる、という問題がある。
【0008】
また、特許文献2の高周波加熱装置においては、マグネトロン出力のピークを抑制することにより、フィラメント電力の変化を小さくする方策が採られている。しかしながら、特許文献2のような構成とした場合には、上述した課題に対して大きな効果が期待できなく、マグネトロン出力を十分低出力にすることができない。また、条件によっては、入力電流を歪ませることにもなり、力率の悪化を招きかねないという問題がある。さらには、交流入力電圧の波形を使用しているため電源電圧波形が歪んでいるなどの影響を受けて効果が薄れるという問題もある。
【0009】
そこで本発明は、フィラメント電流を交流から直流に変換するための回路等を設けることなく、また、交流入力電圧波形に依存することなく、マグネトロンの設定出力を低出力から高出力まで変化させたとしても、適正に動作可能な高周波加熱装置の提供を目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)上述した課題を解決すべく提供される本発明の高周波加熱装置は、被加熱物を誘電加熱するためのマイクロ波発生手段であるマグネトロンと、交流電源に接続され、平滑されていない直流電圧を発生させる非平滑直流電圧回路と、この非平滑直流電圧回路に接続され、高周波トランスの一次コイルに高周波電流を発生させるインバータ回路と、前記インバータ回路を設定された出力となるように制御する制御部と、前記高周波トランスの二次側に設けられた陽極コイルに接続されたマグネトロン駆動回路と、前記高周波トランスの二次側に設けられ、前記マグネトロンのフィラメントに接続されたフィラメントコイルと、を備え、前記高周波トランスは、コアを有し、前記フィラメントコイルと二次コイルとの磁気結合がフィラメントコイルと一次コイルとの磁気結合より強くなる構成とされており、前記マグネトロンの設定出力が所定値より大きいことを条件として、前記交流電源のゼロクロスを基準とする所定の停止期間に亘って前記インバータ回路の出力を停止させ、前記マグネトロンの設定出力が所定値より小さいことを条件として、前記停止期間においても、前記インバータ回路の出力を継続させることによりフィラメント電流の減少を抑えることを特徴とするものである。
【0011】
ここで、高周波加熱装置において、マグネトロンが備えているフィラメントは、抵抗性を有するものである。そのため、交流電源の電圧の瞬時値が低い期間(第一期間)においても、フィラメントには相応の通電がなされる。一方、マグネトロンは、陽極・陰極間の電圧(陽極電圧という)が高電圧(発振動作開始閾値電圧;約4000[V])まで昇圧されることを条件として発振動作が行われてマイクロ波を放射するものである。そのため、マグネトロンは、陽極印加電圧が発振動作閾値電圧に到達するまでの期間(第一期間)においては動作しない。
【0012】
また、交流電源の電圧瞬時値がマグネトロンの動作開始陽極閾値電圧を超える電圧に昇圧した状態である期間(第二期間)においては、マグネトロンにおいてマイクロ波出力が得られる。第二期間において、マグネトロンの陽極電圧は、陽極内部抵抗により陽極電流の増加に応じて増加するが、この増加分は、前記発振動作閾値電圧に比較すれば非常に小さいので、高電圧(約4000[V])でほぼ一定になるとしてよい。この影響により、高周波トランスの二次側におけるコイル電圧の最大値が描く包絡線は、包絡線のピークがクランプ(平坦化)される。フィラメントコイルと二次コイルの磁気結合が強い場合、その影響を強く受け、フィラメントコイルの電圧もクランプされる。フィラメントは抵抗性の特性を有するため、フィラメントコイルの電圧がクランプされると、電力もクランプされる。そのため、交流電源の電圧瞬時値がマグネトロンの動作電圧を超える期間(第二期間)においては、フィラメントコイルの電力が経時的に緩やかな台形(完全に平らではない)状の山を描くように推移する。従って、所定の陽極電力を基準としてフィラメント電力を考えた場合、フィラメント電力の減少割合は、陽極電力の減少割合より小さくなる。
【0013】
本発明の高周波加熱装置では、第一期間及び第二期間において上述したような特性を示すことに鑑み、マグネトロンの設定出力が所定値より大きいことを条件として、交流電源のゼロクロスを基準とする所定の停止期間(第一期間)に亘ってインバータ回路の出力を停止させることとしている。すなわち、本発明の高周波加熱装置では、マグネトロンの設定出力が所定値より大きい場合、第一期間においては、マグネトロンにおいて出力が得られないため、インバータ回路の出力を停止することによる出力への影響がない。従って、この制御を行うことで、通常の制御よりフィラメント電力を減少させることができる。
【0014】
また、本発明の高周波加熱装置では、マグネトロンの設定出力が所定値より小さいことを条件として、上述した停止期間においても、インバータ回路の出力を継続させることとしている。すなわち、本発明の高周波加熱装置では、マグネトロンの設定出力が所定値より小さい場合に、第一期間においてフィラメントが作動する。そのため、マグネトロンの設定出力を低出力にして運転を行う場合でも、設定出力が所定値より大きい条件でのフィラメント電力からの低下を抑制し、フィラメント電力が保証される範囲内でマグネトロンを動作させることができる。
【0015】
以上のように、本発明によれば、マグネトロンの設定出力が高出力、あるいは低出力のいずれであったとしても、フィラメント電流を交流から直流に変換するための回路等を設けることなく、適正に動作可能な高周波加熱装置を提供できる。
【0016】
(2)上述した高周波加熱装置は、前記停止期間が、±1.8[msec]以内であることを特徴とするものであると良い。
【0017】
かかる構成によれば、十分な力率を確保しつつ、マグネトロンの設定出力が高出力、あるいは低出力のいずれであったとしても、適正に動作可能な高周波加熱装置を提供できる。
【0018】
ここで、駆動周波数の上昇に伴い、インバータの出力(電圧)低下が生じる関係と、前述したマグネトロンの陽極電圧が所定の閾値電圧を超えなければ発振動作しないというマグネトロンの動作特性から、駆動周波数が所定の周波数より低い周波数領域においては、マグネトロンの陽極に周波数の減少に対応して増加する電力が供給されるとともに、フィラメントにも電力が供給される。一方、駆動周波数が前記所定周波数よりも高い周波数領域においては、マグネトロンの陽極電力がゼロになるものの、フィラメントには周波数に対応した電力が供給される。
【0019】
(3)かかる知見に基づけば、上述した高周波加熱装置は、前記マグネトロンが、前記インバータ回路の駆動周波数が所定の閾周波数を基準として低周波数側の第一周波数において動作し、前記閾周波数を基準として高周波数側の第二周波数において動作停止するものであり、前記フィラメントが、前記インバータ回路の駆動周波数が前記第一周波数であるとき、及び前記第二周波数であるときの双方において動作するものであり、前記制御部が、前記インバータ回路の駆動周波数を前記第一周波数とする時間と、前記第二周波数とする時間との比率に基づく時分割制御により、前記マグネトロン及び前記フィラメントの電力制御を行うものであると良い。
【0020】
本発明の高周波加熱装置において、インバータ回路の駆動周波数を第一周波数とする時間と、第二周波数とする時間との比率に基づく時分割制御を行うことにより、フィラメントをオンオフさせることなく、マグネトロンの発振動作をオンオフして出力調整することができる。従って、本発明によれば、単純なオンオフ制御により出力調整を行うのとは異なり、マグネトロンの設定出力が高出力である場合はもとより、低出力である場合においてもフィラメント電力の低下を抑制できるので、適確にマグネトロンの出力調整可能な高周波加熱装置を提供できる。
【0021】
(4)上述したのと同様の知見に基づいて提供される本発明の高周波加熱装置は、被加熱物を誘電加熱するためのマイクロ波発生手段であるマグネトロンと、交流電源に接続され、平滑されていない直流電圧を発生させる非平滑直流電圧回路と、この非平滑直流電圧回路に接続され、高周波トランスの一次コイルに高周波電流を発生させるインバータ回路と、このインバータ回路を設定された出力となるように制御する制御部と、前記高周波トランスの二次側に設けられた陽極コイルに接続されたマグネトロン駆動回路と、前記高周波トランスの二次側に設けられ、前記マグネトロンのフィラメントに接続されたフィラメントコイルと、を備え、前記高周波トランスは、コアを有し、前記フィラメントコイルと二次コイルとの磁気結合がフィラメントコイルと一次コイルとの磁気結合より強くなる構成とされており、前記マグネトロンは、前記インバータ回路の駆動周波数が所定の閾周波数を基準として低周波数側の第一周波数において動作し、前記閾周波数を基準として高周波数側の第二周波数において動作停止するものであり、前記フィラメントは、前記インバータ回路の駆動周波数が前記第一周波数であるとき、及び前記第二周波数であるときの双方において動作するものであり、前記制御部は、前記インバータ回路の駆動周波数を前記第一周波数とする時間と、前記第二周波数とする時間との比率に基づく時分割制御により、前記マグネトロン及び前記フィラメントの出力制御を行うことを特徴とするものである。
【0022】
本発明の高周波加熱装置によれば、インバータ回路の駆動周波数を第一周波数とする時間と、第二周波数とする時間との比率に基づく時分割制御を行うことにより、フィラメントをオンオフさせることなく、マグネトロン動作をオンオフして出力調整することができる。従って、本発明の高周波加熱装置によれば、単純なオンオフ制御により出力調整を行うのとは異なり、マグネトロンの設定出力が高出力である場合はもとより、低出力である場合においても必要なフィラメント電力が得られるので、適確に出力調整することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、フィラメント電流を交流から直流に変換するための回路等を設けることなく、マグネトロン出力を低出力から高出力まで変化させたとしても、適正に動作可能な高周波加熱装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の一実施形態に係る高周波加熱装置を示す図である。
【
図2】
図1の高周波加熱装置が備えている駆動回路を示す回路図である。
【
図4】
図1の高周波加熱装置において、マグネトロンの設定出力が高出力であるときの交流電流、インバータ、マグネトロン、及びフィラメントの出力変動を模式的に示したグラフである。
【
図5】
図1の高周波加熱装置において、マグネトロンの設定出力が低出力であるときの交流電流、インバータ、マグネトロン、及びフィラメントの出力変動を模式的に示したグラフである。
【
図6】
図1の高周波加熱装置が備えるマグネトロンの電圧、マグネトロンの陽極電力、及びフィラメントの電力と、駆動周波数との関係を模式的に示したグラフである。
【
図7】交流電源の半周期よりも短い期間内にインバータの駆動周波数を第一周波数H1と第二周波数H2とに切り替えることによる時分割制御を行う際の交流電流、インバータ、マグネトロン、及びフィラメントの出力変動を模式的に示したグラフである。
【
図8】交流電源の半周期に相当する期間毎にインバータ32の駆動周波数を第一周波数H1あるいは第二周波数H2とすることにより時分割制御を行う際の交流電流、インバータ、マグネトロン、及びフィラメントの出力変動を模式的に示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の一実施形態に係る高周波加熱装置10について、図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下の説明においては、高周波加熱装置10の基本構成の概略、及び駆動するための回路の一例である駆動回路30について説明を行った後、高周波加熱装置10において行われる特徴的な制御方法について説明する。
【0026】
≪高周波加熱装置10の基本構成、及び駆動回路30について≫
図1に示す高周波加熱装置10は、外箱12の内部にマイクロ波を閉じ込めて被加熱物14を加熱する加熱室16を備えている。また、外箱12と加熱室16との間に形成された空間は、機械室18とされている。機械室18には、マグネトロン20(
図2参照)が設けられている。高周波加熱装置10は、マグネトロン20において発生したマイクロ波を、導波管(図示せず)を通じて加熱室16に供給している。
【0027】
マグネトロン20は、2極真空管の一種であり、整流機能を有する。また、マグネトロン20は、磁石により陽極24(アノード)及び陰極26(カソード)の間に磁界が形成されている。このため、マグネトロン20は、陽極電圧が所定の閾値電圧を超えないと電流(陽極電流)が流れないので、発振動作が行われない。また、マグネトロン20は、フィラメント28が陰極26としても機能する。
【0028】
高周波加熱装置10は、
図2及び
図3に示すような駆動回路30を備えている。駆動回路30は、マグネトロン20を駆動制御するためのものである。駆動回路30は、マグネトロン20、及び商用電源等の交流電源22に対して接続されている。駆動回路30は、インバータ32、高周波トランス34、マグネトロン駆動回路36、及び制御部38を備えている。
【0029】
インバータ32は、非平滑直流電圧回路40と、インバータ回路42とを備えている。非平滑直流電圧回路40は、全波整流回路44、チョークコイル46、及びコンデンサ48を備えている。全波整流回路44は、ダイオードブリッジによって構成されている。全波整流回路44は、入力側において交流電源22に対して接続されている。また、全波整流回路44は、出力側の一方(直流電源ライン40a)においてチョークコイル46を介してコンデンサ48の一端に接続され、他方(直流電源ライン40b)においてコンデンサ48の他端に接続されている。
【0030】
インバータ回路42は、非平滑直流電圧回路40(直流電源ライン40a,40b)の出力側に接続されている。インバータ回路42は、スイッチング素子50、フリーホールダイオード52、及びコンデンサ54を備えている。スイッチング素子50は、直流電源ライン40a,40b間に接続されている。フリーホールダイオード52は、スイッチング素子50に対して並列に接続されている。また、コンデンサ54は、高周波トランス34の一次コイル60に対して並列に接続されている。
【0031】
高周波トランス34は、一次コイル60、二次側に陽極コイル62、及びフィラメントコイル64を備えている。高周波トランス34は、フィラメントコイル64と二次コイル62との磁気結合がフィラメントコイル64と一次コイル60との磁気結合より強くなる構成とされている。
【0032】
一次コイル60は、一端側がコンデンサ54の一端側とスイッチング素子50との間、他端側がコンデンサ54の他端側に接続されている。これにより、一次コイル60は、コンデンサ54に対して並列に接続されている。また、陽極コイル62及びフィラメントコイル64は、高周波トランス34の二次側に設けられている。陽極コイル62は、マグネトロン駆動回路36を介して、マグネトロン20の陽極24及びフィラメント28の1端に対して接続されている。また、フィラメントコイル64は、マグネトロン20のフィラメント28に対して接続されている。なお、フィラメント28は陰極(カソード)26を兼ねている。
【0033】
マグネトロン駆動回路36は、二つのダイオード66,68、及び二つのコンデンサ70,72を図示のように接続した倍電圧整流回路から構成されている。マグネトロン駆動回路36は、マグネトロン20の動作に必要な高電圧を印加可能とされている。
【0034】
制御部38は、例えばマイクロコンピュータを含んだものとされている。制御部38は、上述したインバータ回路42を動作制御することにより、一次コイル60に高周波電圧を印可し、陽極コイル62およびフィラメントコイル64に高周波電圧を誘起させることができる。フィラメントコイル64に誘起された高周波電圧は、フィラメント28に供給される。これにより、マグネトロン20のフィラメント28が加熱され、電子が放出される。また、陽極コイル62に誘起された高周波電圧は、マグネトロン駆動回路36により倍電圧整流されて、マグネトロン20の陽極24に印加される。これにより、マグネトロン20は、発振動作する。また、制御部38は、インバータ回路42のスイッチング素子50を制御することにより、マグネトロン20の出力を最高出力から最低出力まで段階的、あるいは無段階に変更する制御を行うことができる。スイッチング素子50の具体的な制御内容については後述する。
【0035】
≪高周波加熱装置10において行われる制御について≫
以下、高周波加熱装置10において行われる特徴的な制御方法について、図面を参照しつつ詳細に説明する。高周波加熱装置10において、制御部38は、マグネトロン20の出力が所定値より大きいことを条件として、
図4に示すように、交流電源22のゼロクロスを基準とする所定の停止期間に亘ってインバータ32の出力を停止させる制御を行う。また、制御部38は、マグネトロン20の出力が所定値より小さいことを条件として、
図5に示すように、停止期間においても、インバータ32の出力を継続させる制御を行う。
【0036】
具体的には、高周波加熱装置10において、マグネトロン20が備えているフィラメント28は、抵抗性を有するものである。また、
図4(a)や
図5(a)に示すように、交流電源22は、所定の周波数(例えば商用周波数、50[Hz]、あるいは60[Hz])で正弦波を描くように電圧が推移するものである。高周波加熱装置10においては、平滑されていないため交流電源22を整流した波形を描くように電圧が推移する状態でインバータ32に供給される。そのため、高周波加熱装置10においてインバータ32に供給される電力は、交流電源22の瞬時電圧値(絶対値)が所定電圧(マグネトロン20の動作開始閾値電圧に対応する電圧Vm)よりも低くなる第一期間T1と、所定電圧(前記電圧Vm)よりも高くなる第二期間T2とが繰り返される特性を有する。すなわち、インバータ32に供給される電力は、交流電源22のゼロクロスを基準として所定時間だけ前後にある第一期間T1と、第一期間T1,T1間の第二期間T2とが、周期的に繰り返される特性を有する。
【0037】
ここで、マグネトロン20の出力の大小によらず、インバータ32を作動させ、高周波トランス34に電圧を印加することとした場合、高周波トランス34に作用する電圧の瞬時値が低い第一期間T1においても、フィラメント28には相応の通電がなされる。その一方で、マグネトロン20は、陽極24への印加電圧が前記電圧Vmに対応する閾値電圧約4000[V]まで昇圧されることを条件とするものである。そのため、マグネトロン20は、印加電圧が前記Vmに未到達である第一期間T1においては発振動作しない。
【0038】
また、第二期間T2においては、交流電源22からインバータ32に作用する電圧の瞬時値が前記電圧Vmまで昇圧した状態であるため、マグネトロン20において出力が得られる。第二期間T2において、マグネトロン20の電圧は、前述したように高電圧(約4000[V])でほぼ一定になる。この影響により、高周波トランス34の陽極コイル62における高周波電圧の包絡線は、ピークがクランプ(平坦化)される。陽極コイル62とフィラメントコイル64との磁気結合が強くすることにより、その影響を強く受け、フィラメントコイル64の高周波電圧の包絡線もクランプされる。フィラメント28は抵抗性の特性を有するため、フィラメントコイル64の高周波電圧の包絡線がクランプされると、電力もクランプされる。そのため、第二期間T2においては、フィラメントコイル64の電力が経時的に緩やかな台形状の山を描くように推移する。従って、所定の陽極電力を基準としてフィラメント電力を考えた場合、フィラメント電力の減少割合は、陽極電力の減少割合より小さくなる。
【0039】
制御部38は、高周波加熱装置10においてマグネトロン20やフィラメント28等が上述したような特性を有することに鑑み、マグネトロン20の出力が所定値よりも大きいか否かによってインバータ32の出力制御を行うこととしている。具体的には、
図4に示すように、マグネトロン20の出力が所定値より大きいことを条件として、交流電源22のゼロクロスを基準として所定期間だけ前後にある第一期間T1を停止期間Tsとし、この停止期間Ts(第一期間T1)に亘ってインバータ32から高周波トランス34への出力を停止させる制御を行う(
図4(b)参照)。これにより、マグネトロン20において出力が得られない期間において、フィラメント28に電力供給されるのを抑制し(
図4(d)参照)、フィラメント28の温度を下げることができ、フィラメント28の長寿命化等を図ることができる。停止期間Tsは適宜設定することが可能であるが、例えば±1.8[msec]以内とすると良い。これにより、マグネトロン20の出力が高出力、あるいは低出力のいずれであったとしても、フィラメント電力の変化を抑制でき、適正に被加熱物を加熱することができる。
【0040】
また、
図5に示すように、制御部38は、マグネトロン20の出力が所定値より小さいことを条件として、第一期間T1(停止期間Ts)においても、インバータ32から高周波トランス34への出力を継続させる制御を行う(
図5(b)参照)。これにより、マグネトロン20の出力が小さい第一期間T1においてもフィラメント28を継続的に作動させることができる(
図5(d)参照)。そのため、マグネトロン20の出力を低出力にして連続運転を行う場合でも、フィラメント28の温度低下を抑制し、マグネトロン20を正常に動作させることができる。従って、高周波加熱装置10は、マグネトロン20の出力が低出力である場合においても、フィラメント28の温度低下を招くことなく、適正に動作することができる。
【0041】
ここで、
図6(a)に示すように、マグネトロン20の陽極電圧は、駆動周波数の上昇(スイッチング素子50のON時間を短くする)に伴い陽極電流が減少することから、低下する傾向を有する。このような傾向を有するため、インバータ32の駆動周波数と、マグネトロン20の陽極電力、及びフィラメント28の電力との関係は、
図6(b),(c)に示すような特性を示す。具体的には、
図6において、インバータ32の駆動周波数が低い区間αにおいては、マグネトロン20の陽極電力が中程度から高程度の範囲で推移する。この区間αにおいては、フィラメント28の電力についても、中程度から高程度の範囲で推移する。
【0042】
インバータ32の駆動周波数が区間αよりも高くなる区間βにおいては、インバータ32の駆動周波数の増大に連動してマグネトロン20の陽極電力が低下し、所定の閾周波数Htにおいてマグネトロン20の陽極電力がゼロになる。その一方で、フィラメント28の電力は、インバータ32の駆動周波数の増大に連動して減少するものの、その減少率はマグネトロン20の出力減少率に比べて大幅に緩やかである。
【0043】
インバータ32の駆動周波数が、閾周波数Htよりも大きな区間γにおいては、駆動周波数の増減によらず、マグネトロン20の陽極電力はゼロのまま推移する。一方、区間γにおいて、フィラメント28の電力は、区間βと同様にインバータ32の駆動周波数の増大に連動して緩やかに減少するものの、依然として相応の値を維持する。
【0044】
上述した特性に鑑みれば、マグネトロン20は、インバータ32の駆動周波数が所定の閾周波数Htを基準として低周波数側の第一周波数H1において動作し、閾周波数Htを基準として高周波数側の第二周波数H2において動作停止する特性を有する。その一方で、フィラメント28は、第一周波数H1及び第二周波数H2のいずれにおいても、相応の出力を発揮する。そのため、高周波加熱装置10は、制御部38によってインバータ32の駆動周波数を第一周波数H1及び第二周波数H2の両者に切り替えることにより、フィラメント28を作動させたまま、マグネトロン20の発振動作をオンオフ制御することができる。
【0045】
上述した特性に鑑み、制御部38は、インバータ32の駆動周波数を第一周波数H1とする時間と、第二周波数H2とする時間との比率に基づく時分割制御(デューティー比制御)を行うことにより、フィラメント28を作動させたまま、マグネトロン20の出力制御を行うことができる。このような制御を行うことにより、マグネトロン20の低出力動作を実現できる。
【0046】
具体的には、上述した時分割制御(デューティー比制御)は、例えば、
図7に示すように、交流電源の半周期よりも短い期間内にインバータ32の駆動周波数を第一周波数H1と第二周波数H2とに切り替えて行うことが可能である。このような制御を行う場合には、
図7(c),(d)に示すようにマグネトロン20の陽極電力及びフィラメント28の電力が変化する。また、上述した時分割制御(デューティー比制御)は、例えば、
図8に示すように、交流電源の半周期に相当する期間毎にインバータ32の駆動周波数を第一周波数H1あるいは第二周波数H2とすることにより行うことが可能である。このような制御を行う場合には、
図8(c),(d)に示すようにマグネトロン20の陽極電力及びフィラメント28の電力が変化する。
【0047】
上述したように、本実施形態の高周波加熱装置10では、マグネトロン20の出力が所定値より大きいことを条件として、交流電源22のゼロクロスを基準とする所定の停止期間Tsに亘ってインバータ回路42の出力を停止させることとしている。このような制御を行うため、高周波加熱装置10は、例えば、フィラメント28の長寿命化等を図ることができる。また、本実施形態の高周波加熱装置10では、マグネトロン20の出力が所定値より小さいことを条件として、停止期間Tsにおいても、インバータ回路42の出力を継続させることとしている。これにより、マグネトロン20の出力を低出力にして連続運転を行う場合でも、フィラメント28の電力低下を抑制し、マグネトロン20を正常に動作させることができる。このように、本実施形態の高周波加熱装置10は、被加熱物14の加熱のために要求されるマグネトロン20の出力の大きさに応じてインバータ回路42の出力制御を行うことにより、マグネトロン20の出力が大きい場合、及び小さい場合の双方の課題を解決することができる。また、高周波加熱装置10は、インバータ回路42の出力制御により上述したような動作を行えるため、例えば上述した従来技術のようにフィラメント28に流れる電流を交流から直流に変換するための回路等を設ける必要がない。
【0048】
なお、本実施形態では、交流電源22のゼロクロスを基準として第一期間T1分だけ前の期間、及び第一期間T1分だけ後の期間の双方を停止期間Tsとした例を示したが、本発明はこれに限定されるものではない。具体的には、例えば、交流電源22のゼロクロスを基準として第一期間T1分だけ前の期間、あるいは第一期間T1分だけ後の期間のいずれか一方のみを停止期間Tsとしたり、交流電源22のゼロクロスを基準として前の期間の長さと、後の期間の長さを相違させたりしても良い。
【0049】
上述した高周波加熱装置10において、停止期間Tsは、±1.8[msec]以内であると良い。このようにすることで、十分な力率を確保することが可能となる。なお、高周波加熱装置10は、必ずしも停止期間Tsを±1.8[msec]以内に収める必要はない。具体的には、例えばある程度力率が低くなっても問題ない場合には、停止期間Tsを±1.8[msec]よりも大きく設定する等しても良い。また例えば、停止期間Tsを長くとることによる力率の低下を抑制するための他の構成や方策がとれる場合には、停止期間Tsを±1.8[msec]よりも大きく設定する等しても良い。
【0050】
また、本実施形態の高周波加熱装置10では、インバータ回路42の駆動周波数を第一周波数H1とする時間と、第二周波数H2とする時間との比率に基づく時分割制御を行うことにより、フィラメント28の出力をオンオフさせることなく、マグネトロン20をオンオフして出力調整することができる。従って、高周波加熱装置10によれば、単純なオンオフ制御により出力調整を行うのとは異なり、マグネトロン20の設定出力が高出力である場合はもとより、低出力である場合においてもフィラメント28の温度低下を抑制できるので、適確に出力調整することができる。
【0051】
本発明は、上述した実施形態や変形例等として示したものに限定されるものではなく、特許請求の範囲を逸脱しない範囲でその教示および精神から他の実施形態があり得る。上述した実施形態の構成要素は任意に選択して組み合わせて構成するとよい。また実施形態の任意の構成要素と、発明を解決するための手段に記載の任意の構成要素または発明を解決するための手段に記載の任意の構成要素を具体化した構成要素とは任意に組み合わせて構成してもよい。これらについても本願の補正または分割出願等において権利取得する意思を有する。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、例えば電子レンジ等の高周波加熱装置全般において好適に利用できる。
【符号の説明】
【0053】
10 : 高周波加熱装置
20 : マグネトロン
28 : フィラメント
30 : 駆動回路
32 : インバータ
34 : 高周波トランス
36 : マグネトロン駆動回路
38 : 制御部
40 : 非平滑直流電圧回路
42 : インバータ回路
60 : 一次コイル
62 : 陽極コイル
64 : フィラメントコイル