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特許7390740腫瘍の治療及び/又は予防のための組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-24
(45)【発行日】2023-12-04
(54)【発明の名称】腫瘍の治療及び/又は予防のための組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/17 20150101AFI20231127BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20231127BHJP
【FI】
A61K35/17
A61P35/00
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021553734
(86)(22)【出願日】2020-10-30
(86)【国際出願番号】 JP2020040920
(87)【国際公開番号】W WO2021085624
(87)【国際公開日】2021-05-06
【審査請求日】2022-04-14
(31)【優先権主張番号】P 2019199195
(32)【優先日】2019-10-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】509013703
【氏名又は名称】公立大学法人福島県立医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】望月 一弘
【審査官】柴原 直司
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2018/0355316(US,A1)
【文献】J. Chin. Med. Assoc., (2018), 81, [4], p.316-323
【文献】Leuk. Res., (2009), 33, [4], p.525-538
【文献】Blood, (2011), 117, [5], p.1555-1564
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/17
A61P 35/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験体における腫瘍の治療及び/又は予防のための、同種CD4+T細胞を含む組成物であって、
前記同種CD4+T細胞が、(a)前記被験体のMHCクラスII分子と全部又は一部が異なるMHCクラスII分子を有し、かつ(b)前記被験体又は前記被験体のMHCクラスII分子と完全一致又は部分一致するMHCクラスII分子を有する個体に由来する樹状細胞とex vivoで共培養した細胞を含む、前記組成物。
【請求項2】
腫瘍内投与のための、請求項に記載の組成物。
【請求項3】
同種CD4+T細胞を、前記被験体又は前記被験体のMHCクラスII分子と完全一致又は部分一致するMHCクラスII分子を有する個体に由来する樹状細胞とex vivoで共培養する工程を含む、請求項1又は2に記載の組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
一実施形態において、本発明は、被験体における腫瘍の治療及び/又は予防のための同種CD4+T細胞を含む組成物、該組成物の製造方法、又は被験体における腫瘍の治療及び/又は予防方法に関する。
【背景技術】
【0002】
過去10年で提案された免疫/細胞療法は難治性がんに対する有望な治療法と位置付けられ、その幾つかは既に臨床的に利用可能である。しかし、例えば免疫チェックポイント阻害療法の多がん腫に対する有効性は15%程度であり、大多数の患者では効果が得られていない(非特許文献1)。例えば、キメラ抗原受容体(Chimeric antigen receptor: CAR)T細胞療法は画期的な方法ではあるが、有望な標的抗原が限られているため、B細胞性血液腫瘍以外への適応は拡大できていない。また、CAR-T細胞の標的抗原を欠失した腫瘍細胞には無効である。さらに、非常に高額な個別化医療であり、広く一般に利用されるには至っていない。
【0003】
がん治療の最終目的は、がんを制圧しつつ永続的な再発を防ぐことにあり、その目的を達成するには、宿主自身の強力な抗腫瘍免疫を誘導することが理想的である。
【0004】
Cancer associated multiple peptides(CAMPs)によるワクチン接種又はCAMPsでパルスした自己樹状細胞によるワクチン接種は、上記目的を達成するための理論的な方法である。しかしながら、これまでの臨床試験では、これらの自己の免疫システムを利用したがんワクチン接種について、目的とする効果が限られていたことを示している(非特許文献2及び3)。
【0005】
近年、同種CD4+T細胞を用いて宿主の抗腫瘍免疫を誘導する方法が複数報告されている。例えば、マイトマイシンCで不活性化した非特異的な同種CD4+T細胞、又はCD3/CD28抗体を用いて非特異的に活性化した同種CD4+T細胞を用いる方法等が挙げられるが、いずれも単回投与では効果が得られず、宿主の免疫活性化には複数回の投与が必要である。また、いずれの方法も、非特異的に宿主免疫を活性化するものであり、十分な腫瘍特異性を付与するためにはがんワクチン療法との併用が必要である。したがって、原理的には従来からのがんワクチン療法と大きく変わるものではない。(非特許文献4~6)
【0006】
上記のごとく、難治性がんに対する治療法として細胞/免疫療法が注目されているが、既存療法の有効性には限界があり、新規治療法の開発が求められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】Pitt JM. et al. Resistance Mechanisms to Immune- Checkpoint Blockade in Cancer: Tumor-Intrinsic and -Extrinsic Factors. Immunity, 2016, 44:1255-69.
【文献】Bezu L. et al., Trial watch: Peptide-based vaccines in anticancer therapy., Oncoimmunol., 2018, 7: e1511506
【文献】Rosenberg SA.et al. Cancer Immunotherapy: Moving Beyond Current Vaccines Nat Med., 2004, Sep;10(9):909-15.
【文献】Tang Y. et al. A tritherapy combination of inactivated allogeneic leukocytes infusion and cell vaccine with cyclophosphamide in a sequential regimen enhances antitumor immunity. J Chin Med Assoc., 2018, 81(4):316-323.
【文献】Har-Noy M. et al. Allogeneic CD3/CD28 cross-linked Th1 memory cells provide potent adjuvant effects for active immunotherapy of leukemia/lymphoma. Leuk Res, 2009, 33(4):525-38.
【文献】Janikashvili N. et al. Allogeneic effector/memory Th-1 cells impair FoxP3_ regulatory T lymphocytes and synergize with chaperone-rich cell lysate vaccine to treat leukemia. Blood, 2011, 117(5):1555-64.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
一実施形態において、本発明は、腫瘍に対する治療及び/又は予防効果を有する新たな細胞免疫療法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、(a)被験体のMHCクラスII分子と全部又は一部が異なるMHCクラスII分子を有し、かつ(b)被験体又は被験体のMHCクラスII分子と完全一致又は部分一致するMHCクラスII分子を有する個体に由来する抗原提示細胞とex vivoで共培養した同種CD4+T細胞が、被験体の抗腫瘍免疫を誘導し、腫瘍に対して効果を奏し得ることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
本発明は以下の実施形態を包含する。
(1)被験体における腫瘍の治療及び/又は予防のための、同種CD4+T細胞を含む組成物であって、
前記同種CD4+T細胞が、(a)前記被験体のMHCクラスII分子と全部又は一部が異なるMHCクラスII分子を有し、かつ(b)前記被験体又は前記被験体のMHCクラスII分子と完全一致又は部分一致するMHCクラスII分子を有する個体に由来する抗原提示細胞とex vivoで共培養した細胞を含む、前記組成物。
(2)前記抗原提示細胞が樹状細胞である、(1)に記載の組成物。
(3)腫瘍内投与のための、(1)又は(2)に記載の組成物。
(4)同種CD4+T細胞を、前記被験体又は前記被験体のMHCクラスII分子と完全一致又は部分一致するMHCクラスII分子を有する個体に由来する抗原提示細胞とex vivoで共培養する工程を含む、(1)~(3)のいずれかに記載の組成物の製造方法。
本明細書は本願の優先権の基礎となる日本国特許出願番号2019-199195号の開示内容を包含する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の同種CD4+T細胞を含む組成物は、腫瘍に対して治療及び/又は予防効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、BALB/cマウスから単離したCD4+T細胞をC57BL/6マウス由来樹状細胞と共培養し、この同種CD4+T細胞を腫瘍(B16F1、0.5×106 cells)を皮下接種されたC57BL/6マウスの腫瘍内に投与した場合の腫瘍体積を示す(n=5)。CD4+T細胞の投与を行わない対照の結果(n=5)、及びC57BL/6マウスから単離したCD4+T細胞を投与した結果(自家)(n=5)も示す。矢印は、CD4+T細胞の投与を行った腫瘍接種9日後を示す(以下の図も同様)。
図2図2は、BALB/cマウスから単離したCD4+T細胞をC57BL/6マウス由来樹状細胞と共培養し、この同種CD4+T細胞を腫瘍(B16F1、0.5×106 cells)を皮下接種されたC57BL/6マウスの腫瘍内に投与した場合の生存率を示す(n=5)。CD4+T細胞の投与を行わない対照の結果(n=5)、及びC57BL/6マウスから単離したCD4+T細胞を投与した結果(自家)(n=5)も示す。
図3図3は、BALB/cマウスから単離したCD4+T細胞をC57BL/6マウス由来樹状細胞と共培養し、この同種CD4+T細胞を腫瘍(B16F、0.5×106 cells)を皮下接種されたC57BL/6マウスの腫瘍内に投与した場合の体重変化率を示す(n=5)。CD4+T細胞の投与を行わない対照の結果も示す(n=4)。
図4図4は、0日目にB16F1をC57BL/6マウスに1.0×106 cells皮下接種し、8日目に宿主CD8+細胞を抗CD8抗体により枯渇させた後、C57BL/6マウス由来樹状細胞と共培養した同種(BALB/cマウス由来)CD4+T細胞を腫瘍内に投与した場合の腫瘍体積を示す(n=4)。宿主CD8+細胞を枯渇させないコントロールIgG抗体を投与した対照の結果も示す(n=4)。
図5図5は、初回にB16F1を0.5×106cells皮下接種し、C57BL/6マウス由来樹状細胞と共培養した同種(BALB/cマウス由来)CD4+T細胞を投与して生存したC57BL/6マウスに対し、6カ月後に2回目の腫瘍接種(B16F1を2.5×106cells皮下接種)を行った場合の腫瘍体積を示す(n=4)。過去に腫瘍接種及び免疫療法を行っていないナイーブマウスに腫瘍接種を行った対照の結果も示す(n=4)。
図6図6は、C57BL/6マウスの右側腹部及び左側腹部にB16F1(それぞれに1.0×106cells)を皮下接種し、その後、C57BL/6マウス由来樹状細胞と共培養した同種(BALB/cマウス由来)CD4+T細胞を左側腹部の腫瘍内にのみ投与した場合の各マウスの左右それぞれの腫瘍体積を示す(それぞれn=5、A~Eは対照の各個体、F~Jは投与した各個体の結果を示す)。
図7図7は、C57BL/6マウスの右側腹部及び左側腹部にB16F1(それぞれに1.0×106 cells)を皮下接種し、その後、C57BL/6マウス由来樹状細胞と共培養した同種(BALB/cマウス由来)CD4+T細胞を左側腹部腫瘍内にのみ投与した場合のマウスの生存率を示す(それぞれn=5)。
図8図8は、BALB/cマウスから単離したCD4+T細胞をC57BL/6又は129X1マウス由来樹状細胞と共培養し、この同種CD4+T細胞を、腫瘍(B16F1、1.0×106 cells)を接種されたC57BL/6マウスの腫瘍内に投与した場合の腫瘍体積を示す。図8Aは、CD4+T細胞の投与を行わない対照の結果(n=3)を示す。図8Bは、C57BL/6マウス由来の樹状細胞と共培養した同種CD4+T細胞を投与した結果(n=3)を示す。図8Cは、129X1マウス由来の樹状細胞と共培養した同種CD4+T細胞を投与した結果(n=3)を示す。
図9図9は、BALB/cマウスから単離したCD4+T細胞をC57BL/6マウス由来樹状細胞と共培養し、腫瘍(B16F1、1.0×106 cells)を接種されたC57BL/6マウスの腫瘍内に、前記同種CD4+T細胞を投与した場合の腫瘍体積を示す。図中、細胞源凍結は、C57BL/6マウスの骨髄から単離したc-kit陽性細胞の段階、及びBALB/cマウスから単離したCD4+T細胞の段階で、-80℃に凍結し、使用時に解凍したことを示す。また、細胞製剤凍結は、C57BL/6マウス由来の樹状細胞と共培養したCD4+T細胞を調製した後、-80℃に凍結保存し、投与前に解凍したことを示す。図9Aは、CD4+T細胞の投与を行わない対照の結果(n=2)を示す。図9Bは、細胞源及び細胞製剤を凍結保存することなく得られた同種CD4+T細胞を投与した結果(n=2)を示す。図9Cは、細胞源凍結同種CD4+T細胞を投与した結果(n=3)を示す。図9Dは、細胞製剤凍結同種CD4+T細胞を投与した結果(n=4)を示す。
図10図10は、C57BL/6マウスから単離したCD4+T細胞をBALB/cマウス由来樹状細胞と共培養し、この同種CD4+T細胞を腫瘍(Colon-26)接種されたBALB/cマウスの腫瘍内に投与した場合の、腫瘍体積を示す。図10Aは、CD4+T細胞の投与を行わない対照の結果(n=3)を示す。図10Bは、同種CD4+T細胞を投与した結果(n=3)を示す。
図11図11は、C57BL/6マウスから単離したCD4+T細胞をBALB/cマウス由来樹状細胞と共培養し、この同種CD4+T細胞を腫瘍(Colon-26、5×104cells)接種されたBALB/cマウスの腫瘍内に投与した場合の、生存率を示す(n=3)。CD4+T細胞の投与を行わない対照の結果(n=3)も示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
一態様において、本発明は、被験体における腫瘍の治療及び/又は予防のための、同種CD4+T細胞を含む組成物に関する。前記同種CD4+T細胞は、(a)前記被験体のMHCクラスII分子と全部又は一部が異なるMHCクラスII分子を有する。また、前記同種CD4+T細胞は、(b)前記被験体又は前記被験体のMHCクラスII分子と完全一致又は部分一致するMHCクラスII分子を有する個体に由来する抗原提示細胞とex vivoで共培養した細胞を含む。同種CD4+T細胞は、前記細胞から実質的になる、又は前記細胞のみからなるものであってもよい。
【0014】
本明細書において、「被験体」の種は限定されず、例えば哺乳動物、例えばヒト及びアカゲザル等の霊長類、ラット、マウス、及びドブネズミ等の実験動物、ブタ、ウシ、ウマ、ヒツジ、及びヤギ等の家畜動物、並びにイヌ及びネコ等の愛玩動物が挙げられ、好ましくはヒトである。被験体は、腫瘍を有する、又は腫瘍を有する疑いのある被験体であってよい。被験体が腫瘍を有するか否か、また腫瘍を有する疑いがあるか否かは、常法により調べることができる。一実施形態において、被験体は、腫瘍を有していたが治療された(すなわち、再発のリスクを有する)個体であり得る。
【0015】
「腫瘍」とは、良性腫瘍及び悪性腫瘍を意味するが、本明細書においては、特に悪性腫瘍(がん)を意味する。「腫瘍」の種類は限定しないが、例えば、腺がん、扁平上皮がん、小細胞がん及び大細胞がんなどが挙げられる。具体的には、腫瘍の種類としては、例えば、悪性黒色腫、口腔がん、喉頭がん、咽頭がん、甲状腺がん、肺がん、乳がん、食道がん、胃がん、大腸がん(結腸がん及び直腸がんを含む)、小腸がん、膀胱がん、前立腺がん、精巣がん、子宮体がん、子宮頚がん、卵巣がん、胃がん、腎臓がん、膵臓がん、胆道がん、胆のうがん、脳腫瘍、骨肉腫、神経芽腫を始めとする小児腫瘍、白血病、リンパ腫などが挙げられる。後述する腫瘍内投与が可能であることから、固形腫瘍が好ましい。腫瘍は、他の療法による治療が困難な難治性腫瘍であってよい。また、転移病変を有する難治性腫瘍であってもよい。
【0016】
本明細書において、「同種(allogeneic)」とは、「同種他家」又は「同種異系」とも表現され、一卵性双胎を除く同じ種の異なる個体を意図する。
【0017】
本明細書において、「自家(autologous)」とは、「自己」とも表現され、同一の個体を意図する。
【0018】
本発明の組成物は、好ましくは有効成分として、同種CD4+T細胞を含む。同種CD4+T細胞を得る方法は限定しないが、例えば当業者に公知の方法を用いて得ることができる。例えば、アフェレーシスにより血液からリンパ球分画を得た後に、このリンパ球分画から、マイクロビーズに結合させた抗CD4抗体を用いて、又は抗CD4抗体を用いるフローサイトメトリー等により、被験体と同種の個体から同種CD4+T細胞を得ることができる。又は、リンパ球分画からCD4+T細胞以外の細胞を除去することによっても同種CD4+T細胞を得ることができる。
【0019】
本明細書において、同種CD4+T細胞は、被験体のMHC(主要組織適合遺伝子複合体)クラスII分子と全部又は一部が異なるMHCクラスII分子を有する。本明細書において、「MHC」とは移植免疫において移植片拒絶反応を引き起こす細胞表面の抗原群であり、ヒトではヒト白血球抗原(HLA)、マウスではH-2抗原(histocompatibility-2)として知られる。MHCにはクラスI分子とクラスII分子が存在し、そのうちMHCクラスII分子は、抗原提示細胞による抗原提示に関与してCD4+T細胞を活性化する。一方、MHCクラスI分子はCD8+T細胞を活性化する。HLAが異なる個体間での同種造血幹細胞移植の結果から、例えば、ヒトではMHCクラスII分子に属するHLA-DR、HLA-DP、及びHLA-DQのいずれか一つの違いにより、移植後の同種免疫反応に基づく合併症(例えば、急性移植片対宿主病)の発症リスク比が増加することが知られている。これは、MHCクラスII分子の少なくとも一つが異なれば、同種免疫を活性化し得ることを示している。したがって、被験体のMHCクラスII分子の少なくとも一つが異なる同種CD4+T細胞を用いた場合は、本発明による効果が得られる。以上より、本明細書において、「MHCクラスII分子が異なる」とは、例えばヒトにおいてはHLA-DR、HLA-DP、及びHLA-DQの少なくとも一つが異なることを含み、例えばこれらのうち二つ、好ましくは三つ全てが異なることを意味する。
【0020】
同種CD4+T細胞は、MHCクラスII分子により活性化されるが、MHCクラスI分子(例えば、ヒトにおいてはHLA-A、HLA-B、及びHLA-C)には反応しない。したがって、本発明における同種CD4+T細胞と被験体のMHCクラスI分子に関しては、その一致又は不一致、すなわち、完全一致、部分一致、又は完全不一致は問わない。
【0021】
MHCのハプロタイプの組み合わせは多様であり、ヒトHLAではその組み合わせは数万通りにも及ぶとされていることから、同種の異なる個体であれば、通常MHCは一致しない。一方、親のMHC遺伝子は半分ずつ子供に遺伝することから、兄弟姉妹間では1/4の確率でMHCが完全に一致する。なお、一卵性双胎間ではMHCは完全に一致する。なお、MHCが一致するか否かは当業者に公知の方法により検査することができ、そのような検査法の例として、血清学的検査(MHCの特異性が知られている抗血清とリンパ球の反応性によりMHCのタイピングを行う)及びDNA型検査(例えば、PCR-SSO法、PCR-SSP法、PCR-SBT法、次世代シーケンスによるタイピング等)が挙げられる。
【0022】
同種CD4+T細胞は、被験体又は被験体のMHCクラスII分子と完全一致又は部分一致するMHCクラスII分子を有する個体に由来する抗原提示細胞とex vivoで共培養されている。前記共培養により、被験体のMHCクラスII分子に反応する同種CD4+T細胞クローンがより選択的に活性化され得る。本明細書において、「被験体のMHCクラスII分子と完全一致又は部分一致するMHCクラスII分子を有する個体」には、被験体と完全に同一のMHCクラスII分子を有する個体に加え、MHCクラスII分子群のうち一部が異なる場合、被験体と実質的に同一のMHCクラスII分子を有する個体が包含される。ここで、「被験体と実質的に同一のMHCクラスII分子を有する個体」とは、上記抗原提示細胞とのex vivoでの共培養によりCD4+T細胞の被験体由来の抗原(MHCクラスII分子)に対する免疫応答が惹起され得る限りにおいて、MHCクラスII分子の間にわずかなアミノ酸の相違(例えば、1~5アミノ酸、1~4アミノ酸、1~3アミノ酸、1~2アミノ酸、又は1アミノ酸)が存在することを許容することを意図する。
【0023】
本明細書において、同種CD4+T細胞と共培養するための抗原提示細胞又は抗原提示細胞の細胞源を被験体外に提供し得る「被験体のMHCクラスII分子と完全一致又は部分一致するMHCクラスII分子を有する個体」には、例えば、被験体の一卵性双生児、MHCクラスII分子が一致する被験体の血縁者(例えば兄弟姉妹)に加え、偶然MHCクラスII分子が一致又は部分一致するする同種の異なる個体を包含する。被験体のMHCクラスII分子と完全一致又は部分一致するMHCクラスII分子を有する個体から得られた抗原提示細胞と同種CD4+T細胞との共培養により得られた同種CD4+T細胞を被験体に投与することにより、被験体由来の抗原(MHCクラスII分子)に対する強い免疫応答が惹起され、それを起点とした炎症反応に伴い被験体の抗腫瘍免疫が誘導され得る。
【0024】
本明細書において、「ex vivoでの共培養」は、生体外の人工的な環境下での培養を意図する。CD4+T細胞と抗原提示細胞とのex vivoでの共培養の条件は限定せず、通常の培養条件とすることができる。例えば培養は、市販の培地(例えば、DMEM、MEM、BME、RPMI 1640、F-10、F-12、DMEM-F12、α-MEM、IMDM、McCoy's 5A培地又はmTeSR1培地)又は調製した培地を用いて行うことができる。これらの培地には、各種添加物(例えば、血清又は血清代替物、IL-2等の免疫刺激因子、Notchリガンド等の刺激増幅因子、L-グルタミン、非必須アミノ酸、2-メルカプトエタノール、ペニシリン及びストレプトマイシン等の抗生物質、並びに塩基性線維芽細胞増殖因子等の増殖因子の少なくとも一つ)を加えたり、培養プレートに固相化して用いることもできる。培養温度は約30℃~約40℃、約35℃~約39℃、約36℃~約38℃又は約37℃とすることができる。CO2の存在下で培養を行ってもよく、CO2濃度は約2%~約10%、約4%~約6%、又は約5%であってよい。培養期間は、例えば12時間~2週間、1日~1週間、2日~4日、又は約3日であってよい。また、共培養におけるCD4+T細胞と抗原提示細胞の比も限定されず、例えば抗原提示細胞を1とした場合のCD4+T細胞の比は、0.25~16、0.5~8、1~6、又は2~4であってよい。
【0025】
CD4+T細胞は、抗原提示細胞とのex vivoでの共培養の前及び/又は後に、凍結保存することができる。凍結保存の方法は当業者には公知であり、例えば遠心分離等により細胞を分離し、これにDMSO等の細胞保存液を含む培地等を加え、これを液体窒素等により冷却することにより保存することができる。細胞保存液としては、市販の細胞保存液を使用してもよい。
【0026】
共培養後、CD4+T細胞は、抗原提示細胞から単離を行ってもよい。又は共培養中、CD4+T細胞は増殖し、抗原提示細胞はほとんど増殖しないため、共培養物からCD4+T細胞を単離せず、抗原提示細胞を含んだまま用いてもよい。
【0027】
共培養後のCD4+T細胞は、抗原提示細胞により活性化された同種反応性のCD4+T細胞に加えて、活性化されていない同種非反応性CD4+T細胞も含み得る。共培養後のCD4+T細胞は、活性化されていないCD4+T細胞を含んだまま用いてもよいし、活性化されたCD4+T細胞のみを単離して用いてもよい。共培養後のCD4+T細胞は、活性化された細胞と活性化されていない細胞の両方を含む場合、活性化された細胞の割合は限定されず、例えば3~90%、5~80%、10~70%、15~60%、20~50%であってよい。活性化されたCD4+T細胞を単離する場合、その方法は限定されず、例えばCD44等の活性化マーカーを指標にフローサイトメトリー等によるソーティングにより、活性化されたCD4+T細胞を単離することができる。
【0028】
抗原提示細胞との共培養により活性化された同種反応性のCD4+T細胞を単離し、同CD4+T細胞からiPS細胞を作成し、後にそのiPS細胞からCD4+T細胞を再生して用いてもよい。T細胞受容体遺伝子の再構成が終了している前記iPS細胞由来の再生CD4+T細胞は、全てが同種反応性に活性化された元のCD4+T細胞と同じT細胞受容体特異性を持つCD4+T細胞となる。したがって、前記再生CD4+T細胞を被験体に投与することにより、被験体由来の抗原(MHCクラスII分子)に対する免疫応答を惹起することができ、それを起点とした炎症反応に伴い被験体の抗腫瘍免疫が誘導され得る。
【0029】
抗原提示細胞の例として、樹状細胞、単球、マクロファージ、及びB細胞が挙げられ、好ましくは樹状細胞である。
【0030】
抗原提示細胞を得る方法や細胞源は当業者には公知であり、限定されない。例えば樹状細胞であれば、後述する実施例に記載の通り、骨髄採取により得られた骨髄血からマーカー(例えば、マウスであればc-kit陽性、ヒトであればCD34陽性)に基づいて造血幹細胞を単離し、これを特定の条件で培養することによって樹状細胞を得ることができる。あるいは、臍帯血から造血幹細胞を単離して、これを特定の条件で培養することによって樹状細胞を得てもよい。あるいは、末梢血単核細胞(peripheral blood mononuclear cells;PBMC)をフィコール・ハイパーク(Ficoll-Hypaque)やフィコール・コンレイ(Ficoll-Conray)等を比重液とした密度勾配遠心法を用いて、末梢全血等から得、これから樹状細胞を成熟させ又は単離してもよい。
【0031】
樹状細胞は、上記調製の各段階、例えば成熟前又は後に凍結保存することができる。凍結保存の方法は当業者には公知であり、例えば遠心分離等により細胞を分離し、これにDMSO等の細胞保存液を含む培地等を加え、これを液体窒素等により冷却することにより保存することができる。
【0032】
本発明の組成物は、本明細書に記載のCD4+T細胞以外に他の成分を含んでもよく、又は本明細書に記載のCD4+T細胞から実質的になるものであってもよい。本発明の組成物は、医薬組成物であってよい。
【0033】
本発明の組成物に含まれるCD4+T細胞の量(例えば治療及び/又は予防有効量)は、当業者であれば、被験体の性別、体重、年齢、並びに疾患等の経過及び症状等の種々の要因を考慮して適宜定めることができる。例えば、本発明の組成物に含まれるCD4+T細胞の量は、限定するものではないが、例えば組成物が投与される被験体の体重1kg当たり、約1×104cells/kg~1×1010cells/kg、1×105cells/kg~1×109cells/kg、又は1×106cells/kg~1×108cells/kgであるように調整することができる。
【0034】
本発明の組成物は、上記CD4+T細胞に加えて、他の成分、例えば滅菌水、生理食塩水、緩衝剤、安定化剤、細胞安定化剤、アルブミン等のタンパク質の少なくとも一つを含んでもよい。
【0035】
本発明の組成物は、常法により製剤化され得る。製剤化は、例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences(Merck Publishing Co.,Easton,Pa.)に記載の方法を参照することができる。
【0036】
投与形態は特に制限されず、必要に応じ適宜選択されるが、例えば注射剤又は点滴剤として投与され得る。
【0037】
本明細書に記載のCD4+T細胞の量又は組成物の投与量(例えば治療及び/又は予防有効量)、投与間隔、及び投与期間は、当業者であれば、被験体の性別、体重、年齢、並びに疾患等の経過及び症状等の種々の要因を考慮して適宜定めることができる。例えば、CD4+T細胞の投与量は、約1×104cells/kg~1×1010cells/kg、1×105cells/kg~1×109cells/kg、又は1×106cells/kg~1×108cells/kgであってよい。また、投与回数は、限定するものではないが、1日3回、1日2回、1日1回、2日に1回、3日に1回、1週間に1回、2週間に1回、1カ月に1回等であってよい。また、投与期間は、限定するものではないが、1日、2日、3日、1週間、2週間、1カ月、半年、一年、又はそれ以上であってよい。
【0038】
本明細書において、組成物の投与形態は限定されず、例えば、非経口投与であってよい。非経口投与の具体例として、静脈内投与、動脈内投与、皮下投与、皮内投与、気管/気管支投与、胸腔内投与、腹腔内投与、直腸投与、筋肉内投与、硬膜外投与、所属リンパ節内投与、及び腫瘍内投与が挙げられる。本発明の組成物は、これらの投与形態のために製剤化されたものであってよい。例えば、無菌、低エンドトキシン、ウイルスフリーの少なくとも一つ、例えば三つ全てが満たされるように製剤化を行ってもよい。一実施形態において、本発明の組成物は、腫瘍内投与のためのものであり、及び/又は腫瘍内投与のために製剤化されている。本発明の組成物を腫瘍内投与することによって、投与された同種CD4+T細胞が多数の同種抗原(例えば、被験体中のMCHクラスII分子群)に接触し、腫瘍局所において炎症反応を起こすことが可能である。これにより、腫瘍細胞に由来する抗原(例えば、被験体中の腫瘍抗原)に対する被験体の免疫応答を惹起することが可能であり、結果として本発明の効果を高める。
【0039】
本発明の組成物は、他の抗腫瘍療法、例えば外科的切除、放射線療法、化学療法及び他の免疫細胞療法の少なくとも一つと組み合わせてもよい。
【0040】
一実施形態において、本発明は、腫瘍に対して高い治療及び/又は予防効果を奏するという効果を有し得る。一実施形態において、本発明は、被験体に対する毒性等の副作用(例えば、体重減少)が少ない又は存在しないという効果を有し得る。
【0041】
一実施形態において、本発明による抗腫瘍効果は、主に被験体自身の免疫系(CD8+細胞等)が活性化することにより発揮される。したがって、一実施形態において、被験体は、移植片対腫瘍効果において典型的に必要とされる造血幹細胞移植を必要としない。一実施形態において、被験体は、本発明の組成物の投与直前、投与中、及び/又は投与直後に造血幹細胞移植を経ていない。
【0042】
一実施形態において、本発明は、再発性腫瘍及び/又は転移性腫瘍に対する治療及び/又は予防効果を有し得る。一実施形態において、本発明の組成物は、再発性腫瘍及び/又は転移性腫瘍の治療及び/又は予防のためのものである。
【0043】
一態様において、本発明は、同種CD4+T細胞を、被験体又は被験体のMHCクラスII分子と完全一致又は部分一致するMHCクラスII分子を有する個体に由来する抗原提示細胞とex vivoで共培養する工程を含む、本明細書に記載の組成物の製造方法に関する。本態様において、同種CD4+T細胞、被験体、被験体又は被験体のMHCクラスII分子と完全一致又は部分一致するMHCクラスII分子を有する個体に由来する抗原提示細胞、及び共培養等の詳細は、本発明の組成物について記載した通りである。
【0044】
一態様において、本発明は、同種CD4+T細胞又は本明細書に記載の組成物を被験体に投与することを含む、被験体における腫瘍の治療及び/又は予防方法であって、前記同種CD4+T細胞が、(a)前記被験体のMHCクラスII分子と全部又は一部が異なるMHCクラスII分子を有し、かつ(b)前記被験体又は前記被験体のMHCクラスII分子と完全一致又は部分一致するMHCクラスII分子を共有する個体に由来する抗原提示細胞とex vivoで共培養された細胞を含む、方法に関する。本態様において、被験体は当該治療法及び/又は予防法を必要とする被験体であってよく、また投与量は治療及び/又は予防有効量であってよい。本態様において、同種CD4+T細胞、被験体、被験体又は被験体のMHCクラスII分子と完全一致又は部分一致するMHCクラスII分子を有する個体に由来する抗原提示細胞、及び共培養等の詳細は、本発明の組成物について記載した通りである。
【実施例
【0045】
<実施例1:自家由来の樹状細胞と共培養した同種CD4+T細胞の悪性黒色腫に対する効果>
(材料と方法)
(1)マウス、細胞株、抗体(Abs)、試薬
C57BL/6(H-2b)、及びBALB/c(H-2d)マウスは、CLEA Japan Inc.(Tokyo, Japan)から購入した。実験プロトコルについて、福島県立医科大学の動物実験委員会の承認を得た。C57BL/6に由来する悪性黒色腫(メラノーマ)細胞株であるB16F1は、RIKEN BRC CELL BANK(Ibaraki, Japan)から購入した。細胞の単離に用いた抗体は、特に記載のない限りBioLegend(San Diego, US)から購入した。マイクロビーズを結合した抗体及びストレプトアビジンは、Miltenyi-Biotech(Auburn, US)から購入した。組換えマウスGM-CSF、組換えマウスSCF、組換えマウスIL-4、及び組換えマウスTNFαは、R&D Systems(Minneapolis, US)から購入した。組換えヒトIL-2はShenandoah Biotech(Warwick, US)から購入した。
(2)造血幹細胞の採取及び樹状細胞の生成
樹状細胞のin vitroでの生成は、以前に報告した方法に沿って行った(Mochizuki K. et al., Blood, 2016, 23, 127(25), 3270-80)。手短には、骨髄から単離したc-kit陽性細胞を、10%FBS及び組換えマウスGM-CSF(10ng/ml)、組換えマウスSCF(10 ng/ml)、組換えマウスIL-4(2.5 ng/ml)、及び組換えマウスTNFα(4 ng/ml)を含むRPMI1640培地で培養した。培養の10日目に、樹状細胞をLPS(100 ng/ml)(SIGMA-ALDRICH)と R848(100 ng/ml)(InvivoGen)で6時間刺激した。その後、活性化樹状細胞を回収した。
【0046】
(3)宿主がC57BL/6マウスである場合の同種T細胞の採取及び樹状細胞とのex vivoでの共培養
BALB/cマウスの脾臓から、CD4+T細胞及び/又はCD8+T細胞を、マイクロビーズ結合抗体(MiniMACS; Miltenyi Biotech, Germany)を用いて単離した。純度は一貫して92%以上であった。単離したT細胞を、10%FBS及び組換えヒトIL-2(200U/ml)を含むRPMI1640培地を用いて96ウェルU底プレート中で、上記の通りin vitroで生成した宿主C57BL/6マウス(自家)由来の樹状細胞と共培養することによって刺激した。共培養は、5%CO2及び37℃で3日間行い、T細胞と樹状細胞の比は2:1~4:1であった。得られたT細胞を以下のin vivo注射で使用した。
【0047】
(4)担がん(悪性黒色腫)マウスモデル
C57BL/6マウス(宿主)に、0日目に悪性黒色腫細胞株B16F1を皮下注射により接種した(接種した腫瘍量は以下にそれぞれ記載する)。その後、上記共培養により調製したBALB/cマウスに由来するex-vivo共培養同種T細胞(2×106cells/mouse)を、腫瘍接種の9日目に、腫瘍内に直接注射により投与した。腫瘍及び全身の状態は、2日~3日毎に観察した。腫瘍径をノギスを用いて測定し、測定値から以下の式により腫瘍体積を求めた:腫瘍体積(mm3)=(長径×短径2)/2。腫瘍長径が18mmを超えたマウスは、全て倫理的な理由から安楽死させた。また、合併症を観察する目的にて、ex-vivo共培養同種T細胞の投与の時から、マウスの体重を2日~3日毎に測定した。
【0048】
(結果)
BALB/cマウス(同種)から単離したCD4+T細胞をC57BL/6マウス(自家)由来樹状細胞と共培養して刺激し、この同種CD4+T細胞を腫瘍(B16F1)が接種されたC57BL/6マウスの腫瘍内に投与した場合の、腫瘍体積、生存率、及び体重変化率を、それぞれ図1~3に示す。
【0049】
図1(0日目にB16F1:0.5×106cells皮下接種)に示される通り、同種CD4+T細胞の投与は、腫瘍体積を顕著に減少させた。これに対し、CD4+T細胞の投与を行わない対照、及び自家由来の(C57BL/6マウスから単離した)CD4+T細胞の投与は腫瘍体積を減少させなかった。なお、C57BL/6マウス由来樹状細胞と共培養した、BALB/cマウス由来(同種)CD8+T細胞の投与も腫瘍体積を減少させなかった(データ示さず)。また、C57BL/6マウス由来樹状細胞と共培養しなかったBALB/cマウス由来(同種)CD4+T細胞の投与は腫瘍体積を減少させなかった(データ示さず)。
【0050】
また、図2に示される通り、同種CD4+T細胞を投与したマウスは、対照及び自家由来のCD4+T細胞を投与したマウスよりも生存率が顕著に改善していた。
【0051】
一方、図3に示される通り、同種CD4+T細胞を投与したマウスと対照の間では体重変化率に大きな差は認められなかった。これは同種CD4+T細胞の投与によって体重変化を伴う毒性が生じていないことを示している。
【0052】
これらの結果は、同種CD4+T細胞が、毒性を伴わずに顕著な腫瘍退縮効果を奏し得ることを示している。
【0053】
<実施例2:宿主CD8+細胞枯渇時の同種CD4+T細胞の効果>
(材料と方法)
実施例1に記載の方法に従い、0日目にB16F1をC57BL/6マウスに1.0×106 cells皮下接種した。実施例1に記載した通りの方法で調製したC57BL/6マウス(自家)由来樹状細胞と共培養した同種(BALB/cマウス由来)CD4+T細胞を9日目に投与した。宿主CD8+T細胞は、抗マウスCD8a抗体(腫瘍接種の8日目に500μg、10日目と12日目にそれぞれ250μgを腹腔内注射: BioXcel, New Haven,US)を用いて枯渇させた。対照にはIgG(BioXcel, New Haven, US)を腹腔内投与した。
【0054】
(結果)
図4に示す通り、宿主CD8+細胞を抗CD8抗体により枯渇させた場合、同種CD4+T細胞による腫瘍退縮効果は認められず、腫瘍は増大した。
【0055】
この結果は、同種CD4+T細胞による腫瘍退縮が主に宿主CD8+細胞に起因することを示している。
【0056】
<実施例3:同種CD4+T細胞の腫瘍再発予防効果(長期効果)>
(材料と方法)
C57BL/6マウスに0日目にB16F1を0.5×106cells皮下接種し、C57BL/6マウス(自家)由来樹状細胞と共培養した同種(BALB/cマウス由来)CD4+T細胞を9日目に投与した。生存したC57BL/6マウスに対し、6カ月後に2回目の腫瘍接種(B16F1を2.5×106cells皮下接種)を行った場合の腫瘍体積を測定した。過去に腫瘍接種および細胞療法を受けていないナイーブなC57BL/6マウスを対照とした。なお、同種(BALB/cマウス由来)CD4+T細胞の調製方法は実施例1に記載の方法に準じた。
【0057】
(結果)
図5に示す通り、C57BL/6マウス由来樹状細胞と共培養した同種CD4+T細胞を投与後、生存したマウスでは、6ヶ月後に腫瘍を再接種した場合であっても腫瘍の発生を抑制した。この結果は、腫瘍に対する同種CD4+T細胞の投与により、宿主の腫瘍特異的な免疫が誘導され、同抗腫瘍免疫が長期的な再発予防効果を有していることを示している。
【0058】
<実施例4:同種CD4+T細胞の投与部位以外の腫瘍に対する効果>
(材料と方法)
実施例1に記載したのと同様の条件で、C57BL/6マウスの右側腹部及び左側腹部に同量(それぞれに1.0×106cells)のB16F1を皮下注射により接種し、その後、C57BL/6マウス由来樹状細胞と共培養した同種(BALB/cマウス由来)CD4+T細胞(2×106cells/mouse)を左側腹部の腫瘍内に注射により投与した。
【0059】
(結果)
腫瘍体積を図6に、生存率を図7に示す。図6(A~E:対照、F~J:投与)に示される通り、同種CD4+T細胞を投与したマウスでは、5匹中4匹のマウスにおいて投与した左側腹部だけでなく、右側腹部においても腫瘍が退縮した。また、図7に示される通り、同種CD4+T細胞を投与したマウスでは、生存率が顕著に上昇していた。これらの結果は、同種CD4+T細胞の投与が、全身的な宿主の抗腫瘍免疫を誘導し、投与部位以外の腫瘍に対しても効果を奏し得ることを示している。
【0060】
<実施例5:宿主と同一のMHCクラスII分子を有する個体に由来する樹状細胞と共培養した同種CD4+T細胞の腫瘍に対する効果>
(目的)
MHCクラスII分子が同一の別個体からの樹状細胞を用いた場合でも腫瘍退縮効果が認められるかどうか検証する。
【0061】
(材料と方法)
129X1(H-2b)マウスは、Japan SLC,Inc.(Shizuoka, Japan)から購入した。BALB/cマウスから単離したCD4+T細胞をC57BL/6又は129X1マウス(C57BL/6マウスと同一のMHCクラスII分子を有する)由来の樹状細胞と共培養し、この同種CD4+T細胞を、腫瘍(B16F1)を接種されたC57BL/6マウスの腫瘍内に投与した場合の、腫瘍体積を測定した。その他の方法は、実施例1に記載した通りである。
【0062】
(結果)
図8(0日目にB16F1:1.0×106cells皮下接種)に示される通り、129X1マウス由来の樹状細胞と共培養した同種CD4+T細胞の投与は、C57BL/6マウス由来の樹状細胞と共培養した同種CD4+T細胞を投与した場合と同様に、腫瘍体積を顕著に減少させた(図8B及びC)。これに対し、CD4+T細胞の投与を行わない対照の投与は腫瘍体積を減少させなかった(図8A)。
【0063】
これらの結果は、自家由来の樹状細胞で活性化した同種CD4+T細胞と同様に、宿主と同一のMHCクラスII分子を有する個体に由来する樹状細胞と共培養した同種CD4+T細胞も、顕著な腫瘍退縮効果を奏することを示している。
【0064】
<実施例6:細胞源凍結同種CD4+T細胞及び細胞製剤凍結同種CD4+T細胞の腫瘍に対する効果>
(材料と方法)
細胞保存液としてSTEM-CELLBANKER(登録商標) DMSO Free GMP grade(Zenoaq Resource, Fukushima, Japan)を用いた。細胞源凍結においては、C57BL/6マウスの骨髄から単離したc-kit陽性細胞の段階及びBALB/cマウスから単離したCD4+T細胞の段階で、それぞれSTEM-CELLBANKER(登録商標) DMSO Free GMP grade(ゼノアックリソース)を用いて-80℃に凍結保存し、使用時に解凍した。その他の方法は実施例1に記載の通りである。
【0065】
細胞製剤凍結においては、実施例1に記載の通りの方法でC57BL/6マウス由来の樹状細胞と共培養したCD4+T細胞(細胞製剤)を調製し、これをSTEM-CELLBANKER(登録商標) DMSO Free GMP grade(ゼノアックリソース)を用いて-80℃に凍結保存した。投与前にこれを解凍して遠心し、PBS(リン酸緩衝食塩水)に再浮遊させたものをin vivo注射で使用した。
【0066】
(結果)
図9(0日目にB16F1:1.0×106cells皮下接種)に示される通り、細胞源(c-kit陽性細胞及び樹状細胞と共培養する前のCD4+T細胞)又は細胞製剤(樹状細胞との共培養により得られたCD4+T細胞)を凍結保存した場合であっても、同種CD4+T細胞の投与は、細胞源又は細胞製剤を凍結保存しない場合と同様に、腫瘍体積を顕著に減少させた(図9B~D)。これに対し、CD4+T細胞の投与を行わない対照の投与は腫瘍体積を減少させなかった(図9A)。
これらの結果は、細胞源又は細胞製剤を凍結保存した場合であっても、同種CD4+T細胞の腫瘍退縮効果が失われないことを示している。
【0067】
<実施例7:自家由来の樹状細胞と共培養した同種CD4+T細胞の他の腫瘍(結腸がん)に対する効果>
(材料と方法)
BALB/cに由来する結腸がん細胞株であるColon-26は、Cell Resource Center for Biomedical Research, Institute of Development, Aging and Cancer, Tohoku University(Sendai, Japan)から入手した。
【0068】
宿主をBALB/cマウス、接種するがん細胞株をColon-26(5×104cells/mouse)、投与する同種CD4+T細胞をBALB/cマウスから単離した樹状細胞と共培養したC57BL/6マウスから単離したCD4+T細胞とした。それ以外の方法は、実施例1に記載した通りである。
【0069】
(結果)
C57BL/6マウスから単離したCD4+T細胞をBALB/cマウス由来樹状細胞と共培養し、この同種CD4+T細胞を腫瘍(Colon-26)接種されたBALB/cマウスの腫瘍内に投与した場合の、腫瘍体積及び生存率を、それぞれ図10及び11に示す。
【0070】
図10(0日目にColon-26:5×104cells皮下接種)に示される通り、同種CD4+T細胞を投与したマウスでは、CD4+T細胞の投与を行わない対照に比べて、腫瘍体積の増加スピードが顕著に減少した。
【0071】
また、図11に示される通り、同種CD4+T細胞を投与したマウスは、対照を投与したマウスよりも、生存率が改善していた。
【0072】
これらの結果は、同種CD4+T細胞が、メラノーマ以外の悪性腫瘍に対しても顕著な腫瘍退縮効果を奏し得ることを示している。また、本発明による効果は、特定のマウス種由来の抗原提示細胞と特定のマウス種由来のCD4+T細胞の組み合わせにより偶然に誘導されるものではないことを示している。
【0073】
本明細書で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願はそのまま引用により本明細書に組み入れられるものとする。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11