(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-24
(45)【発行日】2023-12-04
(54)【発明の名称】内在性前駆細胞又は幹細胞捕捉能及び捕捉された細胞の血管分化誘導能を有する注入型ヒドロゲル組成物
(51)【国際特許分類】
A61L 27/54 20060101AFI20231127BHJP
A61K 9/06 20060101ALI20231127BHJP
A61K 38/08 20190101ALI20231127BHJP
A61K 47/30 20060101ALI20231127BHJP
A61K 47/36 20060101ALI20231127BHJP
A61L 27/20 20060101ALI20231127BHJP
A61L 27/22 20060101ALI20231127BHJP
A61L 27/26 20060101ALI20231127BHJP
A61L 27/48 20060101ALI20231127BHJP
A61L 27/52 20060101ALI20231127BHJP
【FI】
A61L27/54
A61K9/06
A61K38/08 ZNA
A61K47/30
A61K47/36
A61L27/20
A61L27/22
A61L27/26
A61L27/48
A61L27/52
(21)【出願番号】P 2022528310
(86)(22)【出願日】2020-11-17
(86)【国際出願番号】 KR2020016135
(87)【国際公開番号】W WO2021101198
(87)【国際公開日】2021-05-27
【審査請求日】2022-05-16
(31)【優先権主張番号】10-2019-0151219
(32)【優先日】2019-11-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】508095946
【氏名又は名称】アジョウ・ユニバーシティ・インダストリー-アカデミック・コーポレイション・ファウンデイション
【氏名又は名称原語表記】AJOU UNIVERSITY INDUSTRY-ACADEMIC COOPERATION FOUNDATION
【住所又は居所原語表記】206,World cup-ro,Yeongtong-gu,Suwon-si,Gyeonggi-do 16499 Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】キム、ムン ソク
(72)【発明者】
【氏名】パク、スン フン
【審査官】金子 亜希
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2019-0040757(KR,A)
【文献】韓国公開特許第10-2015-0006223(KR,A)
【文献】特表2019-531816(JP,A)
【文献】特表2016-517906(JP,A)
【文献】特表2017-535405(JP,A)
【文献】特開2002-308798(JP,A)
【文献】特開2019-195347(JP,A)
【文献】特表2007-536936(JP,A)
【文献】国際公開第2014/161085(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 27/54
A61K 9/06
A61K 38/08
A61K 47/30
A61K 47/36
A61L 27/20
A61L 27/22
A61L 27/26
A61L 27/48
A61L 27/52
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
血管分化誘導因子とカルボン酸官能基が活性化したアニオン性ヒアルロン酸との反応生成物である、血管分化誘導因子が導入されたアニオン性ヒアルロン酸を含む
、第1溶液と、
キトサン、カチオン性デキストラン(cationic dextran)、ポリエチレンイミン(Polyethyleneimine)、ポリリシン(polylysine)及びポリヒスチジン(poly histidine)からなる群から選ばれた1種以上である、カチオン性物質を含む
、第2溶液とから構成され、
前記第1溶液及び第2溶液のうちいずれか1つ以上の溶液に幹細胞捕捉因子がさらに含まれ、
前記幹細胞捕捉因子が、サブスタンスP(substance P)、WKYMVM、SDF1α、G-SCF及びMCP-1からなる群から選ばれた1つ以上であり、
前記第1溶液及び第2溶液が
2:1~1:2の比率で混合されると、静電気的な引力によりヒドロゲルが形成され
、内在性前駆細胞又は幹細胞
の捕捉能
、及び捕捉された細胞の血管分化誘導能を有し、
前記血管分化誘導因子が、配列番号1で表されるアミノ酸配列を含む血管内皮細胞成長因子模倣ペプチドである、注入型ヒドロゲル組成物。
【請求項2】
前記第1溶液及び第2溶液の混合によって形成されたヒドロゲルの貯蔵弾性率が、10~100Paであることを特徴とする、請求項1に記載の内在性前駆細胞又は幹細胞捕捉能及び捕捉された細胞の血管分化誘導能を有する注入型ヒドロゲル組成物。
【請求項3】
請求項
1に記載の内在性前駆細胞又は幹細胞捕捉能及び捕捉された細胞の血管分化誘導能を有する注入型ヒドロゲル組成物を含む、組織再生用注射剤。
【請求項4】
請求項
1に記載の内在性前駆細胞又は幹細胞捕捉能及び捕捉された細胞の血管分化誘導能を有する注入型ヒドロゲル組成物を含む、フィラー用注射剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内在性前駆細胞又は幹細胞捕捉能及び捕捉された細胞の血管分化誘導能を有する注入型ヒドロゲル組成物に関し、より詳細には、血管分化誘導因子が導入されたアニオン性ヒアルロン酸を含む第1溶液と、カチオン性生体素材を含む第2溶液とから構成され、前記第1溶液及び/又は第2溶液に幹細胞捕捉因子をさらに含み、静電気的な引力によりヒドロゲルが形成されることを特徴とする内在性前駆細胞又は幹細胞捕捉能及び捕捉された細胞の血管分化誘導能を有する注入型ヒドロゲル組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
角膜と軟骨を除いて、すべての組織工学の代替物質は、生体内生存に必要な栄養素と酸素供給のために血管神経網が必要である。人工組織において血管新生は、自然的に発生するまで数週間かかるので、この時間の間に、組織は、必須栄養素の供給の不足によって壊死が発生する。したがって、再生医学で血管を形成することは、損傷した組織の再生又は人工臓器の開発において非常に重要な問題である。
【0003】
血管新生(angiogenesis)は、既存の血管の内皮細胞が細胞外基質(extracellular matrix,ECM)を分解し、移動、分裂及び分化して新しい毛細血管を形成する過程であり、傷修復、胚芽発生、腫瘍形成、慢性炎症、肥満などの様々な生理的及び病理的現象に関与する。血管新生過程は、血管内皮細胞の増殖及び血管壁から刺激がある方向の周辺組織への移動を含む。次いで、多様なタンパク質分解酵素が活性化して、血管内皮細胞が基底膜を浸潤させ、ループを形成し、形成されたループが分化して管を形成する。
【0004】
血管新生を誘導したり、促進させるために、幹細胞を血管内皮細胞に分化を誘導する研究が多く行われているが、実際に幹細胞自体が血管新生を誘導するよりは、幹細胞から分泌される成長因子により宿主(host)の血管新生が誘導されるという報告が主をなしている。その他にも、脂肪組織を分解して生成された細胞のうち、間質血管分画(SVF)を培養せずに、動物に移植して、血管内皮細胞に分化させることができることが報告された。しかしながら、前記方法は、脂肪幹細胞の継代培養による増殖を誘導しないので、脂肪幹細胞から分化する血管内皮細胞の量が非常に少なく、特に分化した血管内皮細胞の増殖率及び分化率が低いため、その応用が制限的である。
【0005】
幹細胞を用いる方法のうち、「自己再生(self-regeneration)」を用いる方法は、患者自身の体内に本来存在している内在性前駆細胞/幹細胞を活性化させることによって、損傷した臓器及び/又は組織を再生させ、その機能回復を図ることである。内在性前駆細胞/幹細胞は、接触する細胞の互いに異なる形態、細胞外基質の含有量、サイトカイン及び成長因子のような当該細胞が存在する微細環境に依存して、様々な形態の細胞に分化することができる。
【0006】
内在性前駆細胞/幹細胞を傷部位又は組織損傷部位に捕捉させるために、幹細胞捕捉因子を用いることができ、そのうち、幹細胞捕捉因子と知られたサブスタンスP(Substance P;SP)は、いくつかの研究において傷治療を助けることが報告されているが、これは、単純溶液状態で使用したものであり、組織損傷部位に長く留まらないという短所があるので、サブスタンスPを組織損傷部位から持続的に放出させることができる方法の開発が求められている。
【0007】
これより、本発明では、内在性前駆細胞/幹細胞を効果的に捕捉し、同時に血管分化を誘導して血管形成を促進させることができる物質を開発するために鋭意努力した結果、前駆細胞/幹細胞を血管細胞に分化させることができる血管内皮細胞成長因子模倣ペプチド(VP)をアニオン性ヒアルロン酸に化学的に導入したHA-VP及びカチオン性物質を混合した場合、静電気的な引力によりヒドロゲルが形成されることを確認し、前記ヒドロゲルに前駆細胞/幹細胞捕捉因子(substance P、WKYMVM、SDF1α、G-SCF、MCP-1など)を物理的に担持させて生体内注入すると、注入されたヒドロゲルから幹細胞捕捉因子が放出されて、内在性前駆細胞/幹細胞がヒドロゲルに捕捉され、化学的にヒアルロン酸に導入されたVPにより血管細胞に分化して、血管形成誘導が促進されることを確認し、本発明を完成した。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、前駆細胞/幹細胞捕捉能及び捕捉された細胞の血管分化誘導能を有する注入型ヒドロゲル組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、
本発明は、血管分化誘導因子が導入されたアニオン性ヒアルロン酸を含む第1溶液と、
カチオン性物質を含む第2溶液とから構成され、
前記第1溶液及び第2溶液のうちいずれか1つ以上の溶液に幹細胞捕捉因子がさらに含まれ、
前記第1溶液及び第2溶液が混合されると、静電気的な引力によりヒドロゲルが形成されることを特徴とする、内在性前駆細胞又は幹細胞捕捉能及び捕捉された細胞の血管分化誘導能を有する注入型ヒドロゲル組成物を提供する。
【0010】
本発明の好ましい一実施例によれば、前記血管分化誘導因子が導入されたアニオン性ヒアルロン酸は、血管分化誘導因子とカルボン酸官能基が活性化したアニオン性ヒアルロン酸を反応させて製造することができる。
【0011】
本発明の好ましい他の一実施例によれば、前記カチオン性物質は、キトサン、カチオン性デキストラン(cationic dextran)、ポリエチレンイミン(Polyethyleneimine)、ポリリシン(polylysine)及びポリヒスチジン(poly histidine)からなる群から選ばれた1種以上でありうる。
【0012】
本発明の好ましいさらに他の一実施例によれば、前記幹細胞捕捉因子は、サブスタンスP(substance P)、WKYMVM、SDF1α、G-SCF及びMCP-1からなる群から選ばれた1つ以上でありうる。
【0013】
本発明の好ましいさらに他の一実施例によれば、前記第1溶液の血管分化誘導因子が導入されたアニオン性ヒアルロン酸及び第2溶液のカチオン性物質の比率は、3:1~1:3でありうる。
【0014】
本発明の好ましいさらに他の一実施例によれば、前記第1溶液及び第2溶液の混合によって形成されたヒドロゲルの貯蔵弾性率は、10~100Paでありうる。
【0015】
また、前記注入用ヒドロゲル組成物を含む組織再生用注射剤又はフィラー用注射剤を提供する。
【0016】
本発明は、一態様において、
血管分化誘導因子が導入されたアニオン性ヒアルロン酸を含む第1溶液と、
カチオン性物質を含む第2溶液とから構成され、
前記第1溶液及び第2溶液のうちいずれか1つ以上の溶液に幹細胞捕捉因子がさらに含まれ、
前記第1溶液及び第2溶液が混合されると、静電気的な引力によりヒドロゲルが形成されることを特徴とする、内在性前駆細胞又は幹細胞捕捉能及び捕捉された細胞の血管分化誘導能を有する注入型ヒドロゲル組成物に関する。
【0017】
前記注入型ヒドロゲル組成物は、より具体的に、血管分化誘導因子が導入されたアニオン性ヒアルロン酸及び幹細胞捕捉因子を含む第1溶液と、カチオン性物質及び幹細胞捕捉因子を含む第2溶液とから構成される。
【0018】
本発明において、前記注入型ヒドロゲルは、血管分化誘導因子が導入されたアニオン性ヒアルロン酸及びカチオン性物質の静電気的な引力を通じて形成されうる。好ましくは、前記第1溶液及び第2溶液が目的部位に注入されるとき、混合されて、ヒドロゲルが形成されうるが、目的によって第1溶液及び第2溶液を注入直前に混合し、ヒドロゲルを形成させた後に注入することができる。
【0019】
前記目的部位は、組織再生が必要な個所であり、損傷した臓器、陥没した組織又は傷部位であり、本発明の内在性前駆細胞又は幹細胞捕捉能及び捕捉された細胞の血管分化誘導能を有する注入型ヒドロゲル組成物は、内在性前駆細胞/幹細胞をヒドロゲルに捕捉し、捕捉された前駆細胞/幹細胞が血管に分化することができるように誘導するので、より効率的に組織を再生することができるという長所がある。
【0020】
本発明において、前記幹細胞は、内在性前駆細胞又は内在性幹細胞を意味し、内在性前駆細胞又は内在性幹細胞は、特定の臓器及び/又は組織に本来存在して、当該臓器及び/又は組織が損傷を受けた場合に、その組織及び/又は臓器の再生に貢献する、自己複製能及び多分化能を有する細胞をいう。具体的な例としては、間葉系幹細胞、角膜幹細胞、心筋幹細胞、神経幹細胞及び血管内皮前駆細胞などが挙げられる。
【0021】
図1は、本発明の内在性前駆細胞又は幹細胞捕捉能及び捕捉された細胞の血管分化誘導能を有する注入型ヒドロゲル組成物を示す模式図であり、本発明では、前駆細胞/幹細胞を血管細胞に分化させることができる血管内皮細胞成長因子模倣ペプチド(VP)をヒアルロン酸(HA)に化学的に導入して、VPが化学的に導入されたHA-VPを製造し、アニオン性HA-VP(第1溶液)及びカチオン性キトサン(CH、第2溶液)を混合して、静電気的な引力を通じてヒドロゲルが形成されるようにした。
【0022】
前記ヒドロゲルに前駆細胞/幹細胞捕捉因子(substance P、WKYMVM,SDF1α、G-SCF、MCP-1など)を物理的に担持させるために、HA-VP溶液及びキトサン溶液それぞれに前駆細胞/幹細胞捕捉因子を混合し、前駆細胞/幹細胞捕捉因子を含むHA-VP溶液及びキトサン溶液は、生体内注入時に静電気的な引力を通じてヒドロゲルを形成する。形成されたヒドロゲルから幹細胞捕捉因子が放出されて、内在性前駆細胞/幹細胞がヒドロゲルに捕捉され、ヒドロゲルに捕捉された内在性前駆細胞/幹細胞は、化学的に導入されたVPにより血管細胞に分化して、血管形成誘導が促進される。
【0023】
本発明において、前記血管分化誘導因子は、血管内皮細胞成長因子模倣ペプチドであり、配列番号1のアミノ酸配列(KLTWQELYQLKYKGI)を含んでもよいが、これに限定されず、目的によって血管内皮成長因子(vascular endothelial growth factor,VEGF)、線維芽細胞成長因子(basic fibroblast growth factor,bFGF)などのような血管新生促進因子又はトロンビンを適用することができる。
【0024】
本発明において、前記血管分化誘導因子が導入されたアニオン性ヒアルロン酸は、血管分化誘導因子とカルボン酸官能基が活性化したアニオン性ヒアルロン酸を反応させて製造することができる。
【0025】
前記ヒアルロン酸の分子量は、500,000Da~6,000,000Daの範囲に該当することが好ましい。ここで、ヒアルロン酸の分子量が500,000Da未満の場合、物性が非常に低くなって、有意的にヒドロゲルを成すことができず、6,000,000Da超過の場合、粘度が上昇して、注射剤型としての適用に限界をもたらすことができるので、好ましくない。
【0026】
本発明において、前記カチオン性物質は、キトサン、カチオン性デキストラン(cationic dextran)、ポリエチレンイミン(Polyethyleneimine)、ポリリシン(polylysine)及びポリヒスチジン(poly histidine)からなる群から選ばれた1種以上でありうる。
【0027】
本発明において、前記幹細胞捕捉因子は、サブスタンスP(substance P)、WKYMVM,SDF1α、G-SCF及びMCP-1からなる群から選ばれた1つ以上でありうる。好ましくは、サブスタンスP(substance P)又はサブスタンスPの誘導体でありうるが、内在性前駆細胞/幹細胞捕捉能力を有する物質を制限なしで使用できる。
【0028】
本発明において、前記注入型ヒドロゲルは、血管分化誘導因子が導入されたアニオン性ヒアルロン酸及びカチオン性物質の静電気的な引力を通じて形成されうる。
【0029】
本発明において、前記第1溶液の血管分化誘導因子が導入されたアニオン性ヒアルロン酸及びカチオン性物質(キトサン)の比率は、3:1~1:3、好ましくは、2:1~1:2でありうる。
【0030】
本発明において、前記第1溶液及び第2溶液の混合によって形成されたヒドロゲルの貯蔵弾性率は、10~100Paでありうる。
【0031】
本発明の具体的な一実施例において、カルボン酸官能基が活性化したヒアルロン酸及び血管内皮形成因子模倣ペプチドを反応させて、血管内皮細胞成長因子模倣ペプチドが導入されたヒアルロン酸(HA-VP)を製造し(表1及び表2)、キトサン(CH)溶液とHA-VP溶液を混合したとき、キトサン及びHA-VPが静電気的な引力を通じてヒドロゲルを形成することを確認した(
図2)。
【0032】
カチオン性ポリマーであるキトサン(CH)、カチオン性デキストラン(cationic dextran;CD)、ポリエチレンイミン(Polyethyleneimine;PEI)、ポリリシン(polylysine;PL)又はポリヒスチジン(poly histidine;PH)とアニオン性であるHA又は血管内皮細胞成長因子模倣ペプチドが導入されたヒアルロン酸(HA-VP)の静電気的な引力を通じてヒドロゲルが製造されることを確認した(
図3)。
【0033】
また、VPの化学的導入の有無及び幹細胞捕捉因子の有無によってヒドロゲルの形成に影響を与えるかを確認した結果、VPの化学的導入の前後と前駆細胞/幹細胞捕捉因子の混合有無に関係なく、静電気的な引力を通じてヒドロゲルが形成されることを確認し(
図4)、VPの導入がヒドロゲルの流動学的特性に大きい影響を与えなかったことを確認した(
図5)。
【0034】
本発明の他の具体的な一実施例において、静電気的な引力により製造したヒドロゲルで幹細胞捕捉因子及びVPの放出程度を確認した結果、VPの導入がヒドロゲルの伝達体としての特性に影響を与えず、VPを単純混合した場合に比べてVPが化学的に導入された場合、高い徐放性を有することを確認した(
図6)。
【0035】
また、本発明のヒドロゲルは、毒性がないことを確認し(
図7)、幹細胞捕捉因子であるサブスタンスP(substance P)が効果的に幹細胞を捕捉することを確認した(
図8)。
【0036】
本発明のさらに他の具体的な一実施例において、生体外で本発明のヒドロゲルによる血管形成効果を確認した結果、血管内皮細胞成長因子模倣ペプチドをヒアルロン酸と単純混合して製造したヒドロゲル(CHHA+VP)に比べて、血管内皮細胞成長因子模倣ペプチドを化学的にヒアルロン酸に導入して製造したヒドロゲル(CHHA-VP)においてCD31を発現する幹細胞の数が顕著に増加し(
図8)、また、血管細胞で発現するフォン・ヴィレブランド因子(vWF)遺伝子及びCD31遺伝子の発現が顕著に増加することを確認した(
図9)。
【0037】
本発明のさらに他の具体的な一実施例において、生体内で本発明のヒドロゲルによる幹細胞捕捉能力を確認した結果、マウスの尾に注入した間葉系幹細胞が、ヒドロゲルに含まれた幹細胞捕捉因子によりヒドロゲル側に捕捉されることを確認した(
図11a及び
図11b)。
【0038】
本発明のヒドロゲルにより生体内で実際に血管形成が誘導されるかを確認した結果、4週間ヒドロゲルが形態を良好に維持しており、VPが化学的に導入された場合に、ヒドロゲルの表面でさらに多い血管が観察されることを確認した(
図12)。また、VPが単純に混合されたヒドロゲル(CHHA+VP(+SP))に比べて、幹細胞捕捉因子が含まれ、VPが化学的に導入されたヒドロゲル(CHHA-VP(+SP))に捕捉された幹細胞が観察され、CD31を発現する幹細胞の数が増加したこと(
図13a及び
図13b)を確認しただけでなく、vWF遺伝子及びCD31遺伝子の発現量が顕著に増加したことを確認した(
図14)。
【0039】
すなわち、本発明の内在性前駆細胞又は幹細胞捕捉能及び捕捉された細胞の血管分化誘導能を有する注入型ヒドロゲル組成物は、注入されたヒドロゲルから幹細胞捕捉因子が放出されて、内在性前駆細胞/幹細胞がヒドロゲルに捕捉され、化学的にヒアルロン酸に導入された血管分化誘導因子により血管細胞に分化して、血管形成誘導が促進されることを確認し、特に、血管分化誘導因子を化学的にヒアルロン酸に導入したとき、高い血管形成誘導効果を示すことを確認した。
【0040】
また、本発明では、前駆細胞/幹細胞を外部で注入せず、内在性前駆細胞/幹細胞を捕捉するので、外部細胞へ注入による様々な副作用を解決することができる。したがって、本発明のヒドロゲル組成物は、再生医学分野において内在性前駆細胞/幹細胞を活用した組織再生に活用できるので、組織改善、傷治療、傷跡改善、皮膚組織改善、軟部組織の結合補正、シワ除去又は改善、輪郭補正、組織拡大又は乳房拡大などに適用することができる。
【0041】
本発明は、他の態様において、前記注入用ヒドロゲル組成物を含む組織再生用注射剤に関する。
【0042】
本発明は、さらに他の態様において、前記注入用ヒドロゲル組成物を含むフィラー用注射剤に関する。
【0043】
前記フィラー用注射剤は、好ましくは、皮膚フィラー用注射剤であり、シワ、傷跡又は真皮組織の改善及び治療に適用することができる。
【発明の効果】
【0044】
本発明の内在性前駆細胞又は幹細胞捕捉能及び捕捉された細胞の血管分化誘導能を有する注入型ヒドロゲル組成物は、注入されたヒドロゲルから幹細胞捕捉因子が放出されて、内在性前駆細胞/幹細胞がヒドロゲルに捕捉され、化学的にヒアルロン酸に導入された血管分化誘導因子により血管細胞に分化して、血管形成誘導が促進されることを確認し、特に、血管分化誘導因子を化学的にヒアルロン酸に導入したとき、高い血管形成誘導効果を示すことを確認した。したがって、本発明のヒドロゲル組成物は、内在性前駆細胞/幹細胞捕捉能及び血管分化誘導能に優れているので、血管形成以外に多様な組織再生及び傷治療に有用に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【
図1】
図1は、本発明の内在性前駆細胞又は幹細胞捕捉能及び捕捉された細胞の血管分化誘導能を有する注入型ヒドロゲル組成物を示す模式図である。
【
図2】
図2は、カチオン性物質(キトサン)及び血管内皮細胞成長因子模倣ペプチドが導入されたアニオン性ヒアルロン酸(HA-VP)の比率によるゼータ電位(Zeta potential)及び流動学的特性を測定したデータであり、(a)反応時間による弾性率、(b)キトサン(CH)及びヒアルロン酸(HA)の比率による弾性率、(c)キトサン及びHA-VPの比率による粘度及びゼータ電位、(d)キトサン及びHA-VPの比率による減衰率(damping factor)を示す。
【
図3】
図3は、カチオン性キトサン(CH)、カチオン性デキストラン(cationic dextran;CD)、ポリエチレンイミン(Polyethyleneimine;PEI)、ポリリシン(polylysine;PL)又はポリヒスチジン(poly histidine;PH)とアニオン性ヒアルロン酸(HA)溶液又はHA-VP溶液を混合したとき、静電気的な引力により形成されたヒドロゲル写真である。
【
図4】
図4は、静電気的な引力を通じて製造したヒドロゲル写真であり、前駆細胞/幹細胞捕捉因子を含むか、含まないカチオン性キトサン(CH)溶液とアニオン性ヒアルロン酸(HA)溶液又はHA-VP溶液を混合したとき、静電気的な引力により形成されたヒドロゲル写真である。
【
図5】
図5は、キトサン及びヒアルロン酸を反応させて製造したヒドロゲル(CHHA)及びキトサン及びHA-VPを反応させて製造したヒドロゲル(CHHA-VP)の(a)貯蔵弾性率/損失弾性率及び(b)粘度を測定したデータである。
【
図6】
図6は、ヒアルロン酸にVP単純混合(CHHA+VP)又はVP化学的導入(CHHA-VP)したとき、静電気的な引力により形成されたヒドロゲルにおいて(a)サブスタンスP及び(b)VPの放出挙動を測定したデータである。
【
図7】
図7は、ヒドロゲルの毒性を評価したデータである。
【
図8】
図8は、サブスタンスPの幹細胞捕捉能力を確認したデータであり、(a)蛍光顕微鏡観察写真(赤色:幹細胞)及び(b)移動した細胞数を示す。
【
図9】
図9は、生体外で本発明のヒドロゲルによる血管分化誘導程度を確認するために、CD31に対する免疫染色を通じて細胞を観察した写真であり、(a)蛍光顕微鏡観察写真及び(b)CD31発現細胞数の測定結果である。
【
図10】
図10は、生体外で本発明のヒドロゲルによる血管分化誘導程度を確認するために、(a)vWF及び(b)CD31遺伝子発現の変化を確認したデータである。
【
図11a】
図11aは、生体内で幹細胞捕捉因子の有無によるヒドロゲルの幹細胞捕捉能力を確認したデータであり、ヒト由来間葉系幹細胞(hMSC)の移動を蛍光測定装置を用いて観察した結果を示す。緑色は、ヒドロゲル、赤色は、細胞を示す。
【
図11b】
図11bは、生体内で幹細胞捕捉因子の有無によるヒドロゲルの幹細胞捕捉能力を確認したデータであり、
図11aの結果を定量的に示した。
【
図12】
図12は、ヒドロゲルによる血管形成誘導を確認するために、生体内注入したヒドロゲルを摘出したときの外形を示す写真である。
【
図13a】
図13aは、摘出したヒドロゲルにおいてBrdU及びCD31に対する免疫染色した写真を示す。
【
図13b】
図13bは、摘出したヒドロゲルにおいてBrdU及びCD31陽性細胞を定量化したデータを示す。
【
図14】
図14は、摘出したヒドロゲルの(a)vWF及び(b)CD31遺伝子発現の変化を通した血管形成効果を確認したデータである。
【実施例】
【0046】
[発明を実施するための最良の形態]
[実施例1]
血管内皮細胞成長因子模倣ペプチドが導入されたヒアルロン酸の製造
本発明では、内在性前駆細胞又は幹細胞捕捉能及び捕捉された細胞の血管分化誘導能を有する注入型ヒドロゲル組成物を製造するために、まず、血管内皮細胞成長因子模倣ペプチドが導入されたヒアルロン酸を製造した。
【0047】
具体的に、ヒアルロン酸(hyaluronic acid;HA)を蒸留水に10mg/mlで溶かして、HA溶液を製造した後、HA溶液10mlにDMTMM(4-(4,6-Dimethoxy-1,3,5-triazin-2-yl)-4-methylmorpholinium chloride,Sigma、米国)0.3mgを添加した後、1時間の間撹拌して、ヒアルロン酸のカルボン酸官能基を活性化させた。
【0048】
血管内皮形成因子模倣ペプチド(vascular endothelial growth factor mimic peptide;VP、配列番号1:KLTWQELYQLKYKGI)1.9mgを1mlの蒸留水に溶かして製造したVP溶液に前記カルボン酸官能基を活性化させたHA溶液10mlを点滴し、24時間の間撹拌して反応させた。反応溶液を72時間の間透析し、-80℃で凍結乾燥して、VPが導入されたHA-VPを製造した。
【0049】
下記表1及び表2に示されたように、TNBSA分析(TNBSA assay、表1)及び元素分析(Elemental analysis、表2)を通じてHAに導入されたVPを確認した。
【0050】
【0051】
【0052】
[実施例2]
(キトサン及びHA-VPの比率によるゼータ電位及び流動学的特性の測定)
本発明では、前記実施例1で製造したHA-VP及びキトサンが静電気的な引力を通じてヒドロゲルを形成するかを確認するために、キトサン及びHA-VPの比率によるゼータ電位(Zeta potential)及び流動学的特性を測定した。
【0053】
まず、キトサン(chitosan;CH、sigma、米国)を0.1M酢酸水溶液に20mg/mlの濃度で溶かしてCH溶液を製造し、HA-VPは、蒸留水に20mg/mlで溶かしてHA-VP溶液を製造した。
【0054】
CH溶液とHA-VP溶液を比率別に混合し、静電気的な結合を通じて形成されたヒドロゲルのゼータ電位をELS-Z(Otsuka Electronics、日本国)で測定し、流動学的特性は、粘弾性測定装置(modular compact rheometer;MCR 102、Anton Paar、オーストリア)を用いて測定した。流動学的特性の測定条件は、平行板(parallel plate)が直径25mmであり、底面との間隔が0.3mmであり、25℃でストレーン(strain)2%、1Hzである。
【0055】
その結果、
図2に示されたように、CH溶液とHA-VP溶液を混合したとき、40秒程度にゼラチンポイント(gelation point)が観察され、比率によってゼータ電位及び弾性率(modulus)が変化することを確認した。これを通じて、キトサン及びHA-VPが静電気的な結合を形成することを確認した。また、減衰率(Damping factor)が2つの溶液を混合した場合、いずれも、1より小さいことを確認し、これを通じて、キトサン及びHA-VPが静電気的な引力を通じてヒドロゲルを形成することを確認した。
【0056】
[実施例3]
(静電気的な引力を通じたヒドロゲルの製造)
(3-1:カチオン性物質及びアニオン性物質の種類によるヒドロゲル製造)
本発明では、カチオン性ポリマーであるキトサン(CH)、カチオン性デキストラン(cationic dextran;CD)、ポリエチレンイミン(Polyethyleneimine;PEI)、ポリリシン(polylysine;PL)、ポリヒスチジン(poly histidine;PH)と、アニオン性であるHA又は血管内皮細胞成長因子模倣ペプチドが導入されたヒアルロン酸(HA-VP)をそれぞれ混合して、静電気的な引力を通じてヒドロゲルを製造した。
【0057】
まず、キトサン(chitosan;CH、sigma、米国)を0.1M酢酸水溶液に20mg/mlの濃度で溶かしてCH溶液を製造し、CD、PEI、PL、PH、HA及びHA-VPをそれぞれ蒸留水に20mg/mlで溶かしてCD溶液、PEI溶液、PL溶液、PH溶液、HA溶液及びHA-VP溶液を製造した。
【0058】
次に、CH溶液、CD溶液、PEI溶液、PL溶液、PH溶液と、HA溶液又はCH溶液、CD溶液、PEI溶液、PL溶液、PH溶液と、HA-VP溶液を同じ体積で混合してヒドロゲルを製造した。
【0059】
その結果、
図3に示されたように、カチオン性物質及びアニオン性ヒアルロン酸は、静電気的な引力によりヒドロゲルが形成されることを確認した。
【0060】
(3-2:幹細胞捕捉因子の含有によるヒドロゲルの製造)
実施例3-1で製造したCH溶液とHA溶液又はCH溶液とHA-VP溶液を同じ体積で混合してCHHAヒドロゲル又はCHHA-VPヒドロゲルを製造した。また、同じ濃度のCH、HA、HA-VP溶液それぞれにSP、WKYMVM、SDF1α、G-SCF、MCP-1(Genscript、米国)のうちの1つをそれぞれ1μg/mlの濃度で溶かした溶液を製造して、上記でヒドロゲルを形成したことと同じ方式で行った。
【0061】
【0062】
図4に示されたように、VPの化学的導入の前後と前駆細胞/幹細胞捕捉因子の混合有無に関係なく、静電気的な引力を通じてヒドロゲルが形成されることを確認した。
【0063】
[実施例4]
(ヒドロゲルの流動学的特性の評価)
前記実施例3で製造したCHHA及びCHHA-VPヒドロゲルの流動学的特性を評価するために、粘弾性測定装置(modular compact rheometer;MCR 102,Anton Paar、オーストリア)を用いて弾性率及び粘度を測定した。ここで、使用した平行板(parallel plate)が直径25mmであり、底面との間隔が0.3mmであり、25℃で歪み(strain)2%、1Hzである。
【0064】
その結果、
図5に示されたように、CHHA及びCHHA-VPは、同等なレベルの貯蔵弾性率(storage modulus)と損失弾性率(loss modulus)を有することを確認し、また、同等なレベルの粘度を示した。したがって、VPの導入がヒドロゲルの流動学的特性に大きな影響を与えなかったことが分かった。
【0065】
[実施例5]
(生体外(In vitro)における幹細胞捕捉因子及びVPの放出挙動の確認)
本発明では、静電気的な引力により製造したヒドロゲルで幹細胞捕捉因子及びVPの放出の度合いを確認しようとした。
【0066】
まず、前記実施例3で製造したHA溶液にVPを320μg/mlの濃度で単純混合してHA+VP溶液を製造し、HA溶液及びHA-VP溶液それぞれに幹細胞捕捉因子であるSPを2μg/mlの濃度で混合してHA+SP溶液とHA-VP+SP溶液をそれぞれ製造した。
【0067】
次に、CH溶液100μl及びHA+VP溶液100μlをバイアルで混合して200μlのCHHA+VPヒドロゲルを製造し、CH溶液100μl及びHA-VP溶液100μlをバイアルで混合して200μlのCHHA-VPヒドロゲルを製造した。
【0068】
また、CH溶液100μl及びHA+SP溶液100μlをバイアルで混合して200μlのCHHA+SPヒドロゲルを製造し、CH溶液100μl及びHA-VP+SP溶液100μlをバイアルで混合して200μlのCHHA-VP+SPヒドロゲルを製造した。
【0069】
各バイアルに生理食塩水を3mlずつ入れ、100rpm、37℃の条件でインキュベーターで保管しつつ、定められた時間にバイアルから1mlの生理食塩水を取った後、新しい生理食塩水1mlをバイアルに入れ、これを28日間行うことで、放出実験を行った。
【0070】
その結果、
図6(a)に示されたように、SPの放出は、VPの化学的導入と関係なく放出されることを確認し、すなわち、VPの導入がヒドロゲルの伝達体としての特性に影響を与えないことを確認した。
【0071】
また、
図6(b)に示されたように、VPの放出結果では、VPを単純混合した場合には、放出実験初期にほぼすべてのVPが放出される反面、CHHA-VPのようにVPが化学的に導入された場合には、ヒドロゲルの内部でほとんど放出されないことが確認される。すなわち、VPを単純混合した場合に比べてVPが化学的に導入された場合、高い徐放性を有することを確認した。
【0072】
[実施例6]
(ヒドロゲルの毒性評価)
本発明で製造したヒドロゲルの毒性有無を評価した。
【0073】
まず、前記実施例3で製造したCH、HA、HA-VP溶液と前記実施例5で製造したHA+VP溶液それぞれにヒト由来間葉系幹細胞(Human mesenchymal stem cell;hMSC)を1×106個/mlの濃度で混合した。
【0074】
前記製造した溶液で細胞毒性評価試験を行い、ヒドロゲルを形成させるために、(1)CH溶液200μl及びHA溶液200μlを混合して400μlのCHHAヒドロゲルを、(2)CH溶液200μl及びHA+VP溶液200μlを混合して400μlのCHHA+VPヒドロゲルを、(3)CH溶液200μl及びHA-VP 200μlを混合して400μlのCHHA-VPヒドロゲルを24ウェルプレートに製造した。比較のための対照群として、hMSC4×105個の細胞を24ウェルプレートに添加した。培地を1mlずつ加え、3日ごとに交替し、1、4、7日にMTT分析を通して細胞毒性を測定した。
【0075】
その結果、
図7に示されたように、すべてのヒドロゲル群において対照群と比較したとき、高い毒性が現れないことを確認した。
【0076】
[実施例7]
(SPの幹細胞捕捉能力の確認)
本発明では、SPの幹細胞捕捉能力を確認した。
【0077】
まず、ヒト由来間葉系幹細胞(hMSC)をPKH26染料(Sigma、米国)で標識した後、5×104個の細胞になるように24ウェルトランスウェルプレート(24 well trans well plate;SPL、韓国)の上部チャンバー(Upper chamber、8.0μm pore size)に分注した。血清のないDMEM(Dubelco’s modified eagle medium,Gibco、米国)培地を用いて48時間の間上部チャンバーで培養した後、1μg/mlのSP及び1%FBS(fetal bovine serum,Gibco、米国)が含まれたDMEMを下部ウェル(bottom well)に入れ、3日ごとに培地を交替しつつ、蛍光顕微鏡(Olympus、日本国)を用いて下部ウェルに移動したhMSCを観察した。対照群は、下部ウェルにSPを含まれていないDMEM(1%FBSを含む)培地を添加して観察した。
【0078】
その結果、
図8に示されたように、SPが存在する場合が、そうではない場合よりも、下部に移動した細胞が多いことを確認し、これを通じて、SPが幹細胞を捕捉することを確認した。下記の表4は、サブスタンスPの幹細胞捕捉能力を確認したデータの定量分析結果である。
【0079】
【0080】
[実施例8]
(生体外で本発明のヒドロゲルによる血管形成効果の確認)
(8-1:免疫蛍光分析を通した血管形成の確認)
本発明の注入型ヒドロゲルの血管形成誘導効果を確認するために、前記実施例6と同じ方法でヒト由来間葉系幹細胞が含まれたCHHA、CHHA+VP及びCHHA-VPヒドロゲルをそれぞれ製造し、3日ごとに培地を交換しつつ、4週間培養した。
【0081】
培養1、2、3、4週にヒドロゲルをホルマリンで固定し、血管細胞で発現することが知られたCD31の発現の有無を観察するために、免疫蛍光(immunofluorescence)分析を行った。
【0082】
その結果、
図9に示されたように、血管内皮細胞成長因子模倣ペプチドをヒアルロン酸と単純混合して製造したヒドロゲル(CHHA+VP)に比べて、血管内皮細胞成長因子模倣ペプチドを化学的にヒアルロン酸に導入して製造したヒドロゲル(CHHA-VP)においてCD31を発現する幹細胞の数が顕著に増加したことを確認した。
【0083】
(8-2:遺伝子発現変化を通した血管形成の確認)
前記実施例8-1のヒドロゲルからmRNAを抽出した後、抽出したmRNAを用いてcDNAを合成し、qRT-PCR(quantitative real time polymerase chain reaction)を通じて血管細胞で発現するフォン・ヴィレブランド因子(vWF)遺伝子及びCD31遺伝子の発現変化を確認した。
【0084】
【0085】
その結果、
図10に示されたように、VPが化学的に導入された場合、VPが存在しない場合、及びVPを単純混合した場合に比べて、vWF遺伝子及びCD31遺伝子の発現が高いことが確認された。すなわち、本発明のヒドロゲルは、血管細胞への分化を効果的に誘導することを確認した。
【0086】
[実施例9]
(生体内でヒドロゲルによる幹細胞捕捉能力の確認)
本発明のヒドロゲルにより生体内で実際に幹細胞が捕捉されるかを確認した。
【0087】
まず、蛍光イメージングのために、FITCを標識したキトサン(CH)溶液とヒアルロン酸(HA)溶液に幹細胞捕捉因子であるSPを1μg/mlになるようにそれぞれ入れ、デュアルシリンジを通じてヌードマウスの皮下にそれぞれ100μlずつ、合計200μlのヒドロゲルを注入した。比較のために、捕捉因子が含まれていないFITCを標識したCH溶液とHA溶液を同じ方法で注入した。
【0088】
その後、ヌードマウスの尾静脈にIR-783を標識した1×10
6個のhMSCを注入し、蛍光イメージングを通じて細胞の移動を観察した。結果は、
図10に示し、ヒドロゲルは緑色、細胞は赤色で示した。
【0089】
その結果、
図11a及び
図11bに示されたように、幹細胞捕捉因子が存在しない場合は、細胞による赤い蛍光が観察されず、捕捉因子が存在する場合、細胞による赤い蛍光が観察された。すなわち、幹細胞捕捉因子により幹細胞がヒドロゲル側に捕捉することを確認した。
【0090】
[実施例10]
(生体内でヒドロゲルによる血管形成誘導能の確認)
(10-1:ヒドロゲルの製造及び注入)
本発明のヒドロゲルにより生体内で実際に血管形成が誘導されるかを確認した。
【0091】
まず、CH、HA、HA+VP、HA-VP溶液に幹細胞捕捉因子であるSPを1μg/mlになるようにそれぞれ入れた後、CH及びHA、CH及びHA+VP、CH及びHA-VPの組み合わせでデュアルシリンジを通じてヌードマウスの皮下にそれぞれ100μlずつ、合計200μlのヒドロゲルを注入した。比較のために、捕捉因子が含まれていないCH、HA、HA+VP、HA-VP溶液を同じ方法で注入した。その後、ヌードマウスの尾静脈にBrdUで標識した1×106個のhMSCを注入した。ヒドロゲルは、1、2、3、4週に摘出して、血管形成の有無を観察した。
【0092】
その結果、
図12に示されたように、4週間ヒドロゲルが形態を良好に維持しており、VPが化学的に導入された場合に、ヒドロゲルの表面でさらに多い血管が観察されることを確認した。
【0093】
(10-2:免疫蛍光分析を通した血管形成の確認)
前記実施例10-1で摘出したヒドロゲルに捕捉されたhMSC及び血管形成程度を確認するために、BrdU及びCD31に対する免疫蛍光分析を行った。観察結果は、
図13a及び
図13bに示し、BrdUは赤色、CD31は緑色で染色した。
【0094】
その結果、
図13a及び
図13bに示されたように、捕捉因子が存在しない場合、赤色が観察されず、これは、hMSCが捕捉されないことを意味する。反面、捕捉因子が含まれた場合、ヒドロゲルの内部で赤く染色された細胞が観察され、これを通じて、ヒドロゲルの内部にhMSCが捕捉されたことを確認した。
【0095】
緑色で染色されたCD31の場合は、VPが物理的に混合された場合よりも、化学的に導入された場合、CD31を発現する細胞数が増加したことを確認した。
【0096】
また、BrdUとCD31が同時に染色された細胞の場合も、VPが化学的に導入されたヒドロゲルにおいてさらに多く増加したことを確認し、これを通じて、捕捉因子が存在する場合、ヒドロゲルの内部にhMSCが捕捉され、化学的に導入されたVPにより、単純混合したVPよりも血管細胞への分化と血管形成促進が効果的に誘導されることを確認した。
【0097】
(10-3:遺伝子発現変化を通した血管形成の確認)
前記実施例10-1で摘出したヒドロゲルからmRNAを抽出し、前記実施例8-2と同じ方法でqRT-PCRを行った。
【0098】
その結果、
図14に示されたように、ヌードマウスから摘出したヒドロゲルにおいてヒト細胞で発現するvWF及びCD31遺伝子が発現したことを確認し、これを通じて、捕捉因子により尾静脈に注入したhMSCが移動してヒドロゲルに捕捉されたことを確認した。また、VPが化学的に導入された場合に、VPが存在しない場合及びVPを単純混合した場合に比べて、vWF遺伝子及びCD31遺伝子の発現量が顕著に増加したことを確認し、これを通じて、本発明のヒドロゲルにより血管形成が誘導されたことを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明の内在性前駆細胞又は幹細胞捕捉能及び捕捉された細胞の血管分化誘導能を有する注入型ヒドロゲル組成物は、注入されたヒドロゲルから幹細胞捕捉因子が放出されて、内在性前駆細胞/幹細胞がヒドロゲルに捕捉され、化学的にヒアルロン酸に導入された血管分化誘導因子により血管細胞に分化して血管形成誘導が促進されることを確認し、特に、血管分化誘導因子を化学的にヒアルロン酸に導入したとき、高い血管形成誘導効果を示すことを確認した。したがって、本発明のヒドロゲル組成物は、内在性前駆細胞/幹細胞捕捉能及び血管分化誘導能に優れているので、血管形成以外に多様な組織再生及び傷の治療に有用に適用することができ、産業上の利用可能性が高い。
【配列表フリーテキスト】
【0100】
配列番号1は、血管分化誘導因子である血管内皮細胞成長因子模倣ペプチドのアミノ酸配列を示す。
配列番号2は、幹細胞捕捉因子であるサブスタンスP(SP)ペプチドのアミノ酸配列を示す。
配列番号3は、幹細胞捕捉因子であるWKYMVMペプチドのアミノ酸配列を示す。
配列番号4は、vWFの正方向プライマーの塩基配列を示す。
配列番号5は、vWFの逆方向プライマーの塩基配列を示す。
配列番号6は、CD31の正方向プライマーの塩基配列を示す。
配列番号7は、CD31の逆方向プライマーの塩基配列を示す。
配列番号8は、GAPDHの正方向プライマーの塩基配列を示す。
配列番号9は、GAPDHの逆方向プライマーの塩基配列を示す。
【配列表】