(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-24
(45)【発行日】2023-12-04
(54)【発明の名称】粥類ゼリーの素の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 7/104 20160101AFI20231127BHJP
A23L 7/10 20160101ALI20231127BHJP
A23L 21/10 20160101ALI20231127BHJP
A23L 29/256 20160101ALI20231127BHJP
A23L 29/269 20160101ALI20231127BHJP
【FI】
A23L7/104
A23L7/10 A
A23L7/10 B
A23L21/10
A23L29/256
A23L29/269
(21)【出願番号】P 2019152462
(22)【出願日】2019-08-23
【審査請求日】2022-08-22
(73)【特許権者】
【識別番号】510023263
【氏名又は名称】MCエフディフーズ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】519127797
【氏名又は名称】三菱商事ライフサイエンス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小林 紀子
(72)【発明者】
【氏名】今岡 麻記
(72)【発明者】
【氏名】▲猪▼股 優希
(72)【発明者】
【氏名】米屋 恵子
(72)【発明者】
【氏名】香川 寛幸
【審査官】川崎 良平
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-187600(JP,A)
【文献】特開2013-085512(JP,A)
【文献】特開2014-033649(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 7/00- 7/104
A23L 21/00-21/25
A23L 29/00-29/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(a)~(e)の工程を有する、粥類ゼリーの
素の製造方法。(a)α化していない穀粉に、α-1,4-グリコシド結合を加水分解する酵素、ゲル化剤および水を加える工程(b)上記(a)の工程で得られた混合物を、前記α-1,4-グリコシド結合を加水分解する酵素が作用可能で、かつ前記ゲル化剤による粘性の発現が可能である温度で加熱する工程(c)上記(b)の工程の後、さらに加熱して前記α-1,4-グリコシド結合を加水分解する酵素を失活させる工程(d)上記(c)の工程の後、凍結乾燥処理する工程(e)上記(d)の工程の後、得られた凍結乾燥処理物を粉砕処理する工程
【請求項2】
α-1,4-グリコシド結合を加水分解する酵素が、α-アミラーゼである、請求項
1記載の方法。
【請求項3】
ゲル化剤が、ジェランガムまたはカラギーナンである、請求項
1または
2記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、お湯を注ぐだけで容易に粥類ゼリーを調製できる粥類ゼリーの素およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
米等の穀類に対して、例えば10倍量程度の水を加え、これを約1~2時間かけて弱火で煮ることによって作られる粥類は、重湯の中に柔らかくなった穀類が分散し、まろやかな口当たりのする食品であって、古来、主食としての用途に加え、乳幼児、老人、病人等向けの流動食として好適に用いられている。しかし、流動食である粥類であっても、近年の高齢者人口の増加に伴って、摂食・嚥下機能の障害で食べ物、飲み物が正常に摂取できない人々(摂食・嚥下困難者)にとっては、細かく噛み砕くことや、うまく飲み込むことが難しく、とくに、飲み込む際に飲食物を誤って気管へ流しこんでしまう(誤嚥という)と重篤な肺炎を引き起こすことがある。
【0003】
そこで、特許文献1では、α化米及び/又はその粉末にでんぷん粉末とゼラチン粉末を配合してなる嚥下容易な粥が提案されている。また、特許文献2では、ゲル化剤を添加することによりゼリー状食品とした即席粥状食品の素やトロミ剤により咀嚼・嚥下特性を付与した即席粥状食品が開示されている。
【0004】
しかし、粥類のような澱粉を多く含む食品では、喫食時に、唾液中のアミラーゼの作用によって粘性が低下してしまい、摂食・嚥下困難者における誤嚥が誘発されるリスクが高まるとされている。そこで、特許文献3では、澱粉性食品をあらかじめアミラーゼで処理し、増粘多糖類であるネイティブジェランガムで粘性を補うことが開示されている。
【0005】
粥類の凍結乾燥物も、水やお湯をかけると凍結乾燥前の状態に復元することができ、即席飲食品として広く製造・販売されている。
このように、従来、摂食・嚥下困難者に好適となるように工夫された粥類や、粥類の凍結乾燥物は公知であるが、その製造には、穀物の炊飯工程や、粥状態とした後、さらにα化する工程が含まれている場合などがあり、工業的製造には改善する余地があった。
【0006】
一方、凍結乾燥したゼリーは、1~3mmの大きさに切断した後、一定量の水を加えることで速やかに元のゼリーに復元することが、特許文献4に開示されているが、粥類のゼリーに関する記載はなされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2002-17275号公報
【文献】特許第5235712号公報
【文献】特許第4541433号公報
【文献】特許第3835544号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、工業的製造にも適した、粥類ゼリーの素の製造方法、および該製造方法により得られる、お湯により復元容易な粥類ゼリーの素を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下の(1)~(4)に関する。
(1)70℃以上の湯5重量部に対して1重量部となる量を混合し、次いで40℃以下に冷却した場合、ゼリー状となる性質を有する粉末組成物からなる粥類ゼリーの素。
【0010】
(2)以下の(a)~(e)の工程を有する、粥類ゼリーの製造方法。
(a)α化していない穀粉に、α-1,4-グリコシド結合を加水分解する酵素、ゲル化剤および水を加える工程
(b)上記(a)の工程で得られた混合物を、前記α-1,4-グリコシド結合を加水分解する酵素が作用可能で、かつ前記ゲル化剤による粘性の発現が可能である温度で加熱する工程
(c)上記(b)の工程の後、さらに加熱して前記α-1,4-グリコシド結合を加水分解する酵素を失活させる工程
(d)上記(c)の工程の後、凍結乾燥処理する工程
(e)上記(d)の工程の後、得られた凍結乾燥処理物を粉砕処理する工程
【0011】
(3)α-1,4-グリコシド結合を加水分解する酵素が、α-アミラーゼである、上記(2)の方法。
(4)ゲル化剤が、ジェランガムまたはカラギーナンである、上記(2)または(3)の方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、工業的製造にも適した、粥類ゼリーの素の製造方法、およびお湯により復元容易な粥類ゼリーの素を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の粥類ゼリーの素の製造工程を順に説明する。
工程(a)~(b)
【0014】
本発明で用いられる穀粉としては、α-1,4-グリコシド結合を加水分解する酵素が作用可能な穀類の粉体であればいずれでもよいが、米、小麦、大麦、ライ麦、えんばく、きび、あわ、ひえ、もろこし等の粉体があげられ、米粉または大麦粉が好ましく用いられ、米粉が好ましく用いられる。米粉の米としては、うるち米、もち米のいずれでもよいが、うるち米が好ましく用いられる。
【0015】
米粉は、一般には粒径75μm以下の比率のものが50%以上含まれているものとされることもあるが、本発明においては特に制限されない。
本発明においては、あらかじめα化(糊化ともいう)させていない穀粉が用いられる。
本発明では、α化していない穀粉に、α-1,4-グリコシド結合を加水分解する酵素、ゲル化剤、および水を加え、必要に応じて混合した後、必要に応じて加熱することで、穀粉中のでんぷんの糊化と、α-1,4-グリコシド結合を加水分解する酵素による酵素処理を併行して進行させ、かつゲル化剤による増粘も併行して進行させることに特徴がある。このような併行処理を行うことで粥類ゼリーの素の製造に必要な工程数を削減することができる。
【0016】
穀粉に作用させるα-1,4-グリコシド結合を加水分解する酵素としては、α - アミラーゼ、β - アミラーゼ、グルコアミラーゼ、イソアミラーゼ等があげられるが、α - アミラーゼが好ましく用いられる。アミラーゼには、非還元性末端から特定数のグルコース単位を切り離すエキソ型の分解様式を持つものと、ほぼランダムに近い分解様式を持つエンド型のものとがあるが、目的に応じて適宜選択することができる。
【0017】
エキソ型の分解様式を持つものとしては、エキソ-1,4-α-D-グルコシダーゼ(EC3.2.1.3)、β-アミラーゼ(EC3.2.1.2)、エキソイソマルトトリオヒドロラーゼ(EC3.2.1.95)、エキソマルトテトラオヒドロラーゼ(EC3.2.1.60)、エキソーマルトヘキサオヒドロラーゼ(EC3.2.1.98)があげられる。また、エンド型の分解様式を持つものとしては、α-アミラーゼ(EC3.2.1.1)のほかにプルラナーゼ(EC3.2.1.41)やイソアミラーゼ(EC3.2.1.68)などがあげられる。
【0018】
アミラーゼは、市販品であるグルコアミラーゼ(長瀬産業製、液状)、β-アミラーゼ(長瀬産業製、粉末)、プルラナーゼ(林原生化研製、粉末)、リクイファーゼL45(HBI製、液状)、液化酵素T(HBI製、粉末)、α-アミラーゼ(シグマ製、粉末)、アミラーゼAH(天野製薬製、粉末)、アミラーゼAD(天野製薬製、液状)等を用いてもよい。
【0019】
上記のとおり、本発明においては、穀粉に含まれる澱粉の糊化と酵素による澱粉の加水分解反応を併行させるため、当該酵素の至適反応温度は澱粉の糊化温度と、少なくとも一部の範囲において重複していることが好ましい。たとえば、米粉のでんぷんの糊化温度は、米の種類によっても異なるが、糊化の開始温度として54~60℃程度である。糊化開始温度が比較的高いとされるトウモロコシでも、糊化開始温度は72℃程度であることから、本発明においては、加水分解酵素も、至適温度が50~75℃程度のものが好ましく用いられ、かつ酵素反応も該温度範囲にて行われることが望ましい。
【0020】
たとえば、本発明における加水分解酵素として例示したアミラーゼの至適温度は、α-アミラーゼ(シグマ社製)は約40℃、アミラーゼAD(天野製薬社製)は60~70℃、アミラーゼAH(天野製薬社製)は90~95℃、液化酵素T(エイチビィアイ社製)は70~80℃である。このため、米粉、酵素、ゲル化剤および水の混合物は、該温度となるように加熱することが好ましい。加熱時間は、米粉の種類、使用量、酵素の種類、使用量、およびゲル化剤の種類、使用量により異なるが、通常5~30分間である。
【0021】
また、酵素の使用量としては、酵素の種類や比活性にもよるが、通常、米粉100重量部に対して、酵素活性が100~1000u(ユニット)となる量である。たとえば、一般的なαアミラーゼ製剤である液化酵素T(エイチビィアイ社製、澱粉液化力 10,000 u/g)であれば、通常、米粉100重量部に対して0.01~0.1gである。
【0022】
本発明で用いられるゲル化剤は、α-1,4-グリコシド結合を加水分解する酵素と併用するため、ゲル化能を有するだけでなく、該酵素により分解されない構造であることが望ましい。このようなゲル化剤としては、ジェランガム、アルギン酸ナトリウム、カラギーナンが好ましく、ジェランガムまたはカラギーナンがより好ましく用いられ、ジェランガムがさらに好ましく用いられる。ジェランガムとしては、脱アシル化したものと、脱アシル化していないもの(ネイティブジェランガム)があるが、本発明では、脱アシル化していないジェランガム(ネイティブジェランガム)が好ましく用いられる。
本発明において用いられるゲル化剤の量は、通常、米粉100重量部に対して、0.1~1重量部である。
【0023】
また、本発明においては、嚥下性や、凍結乾燥復元性を阻害する等の悪影響がない限り、ジェランガム、アルギン酸ナトリウム、カラギーナン以外の多糖類として、タラガム、グァーガム、ローカストビーンガム、タマリンドガム、キサンタンガム、アラビアガム、サイリュームシードガム、ペクチン、アラビノキシラン、アラビノガラクタン、カラヤガム、プルラン、カルボキシメチルセルロース、カードラン、グルコマンナン等を併用してもよい。
【0024】
穀粉、酵素、ゲル化剤と併用する水の量は、用いるゲル化剤の種類や量により異なるが、通常、米粉100重量部に対し、500~1000重量部である。水量が多すぎると凍結乾燥に時間を要するため、該数値範囲が好ましい。
工程(c)
【0025】
本発明において用いられる酵素は、上記のとおり、至適反応温度が比較的高温であるため、該酵素を失活させるには、これより高温とすることが望ましい。たとえば、90~100℃では、失活に要する時間は10~60分間程度である。
【0026】
失活処理後に得られる組成物は、酵素処理され、かつ粘性を有する穀粉組成物であって、粥類組成物として次の工程に用いられる。
【0027】
なお、次の工程である凍結乾燥工程における容器への充填作業効率を考慮すると、粥類組成物の粘度は、1~30Pas・s程度であることが好ましく、5~20Pas・s程度の粘度であることがより好ましい。
工程(d)
【0028】
上記工程(a)~(c)により得られる粥類組成物を凍結乾燥する方法としては、即席乾燥粥の製造に用いられる一般的な方法を用いることができるが、凍結工程は、好ましくは-20℃以下で凍結し、真空凍結乾燥機を用いる常法により行う。凍結乾燥条件としては、例えば、乾燥室内の真空度が、良好に真空凍結乾燥可能な1Torr以下、加熱棚最高温度が80℃~130℃といった条件があげられる。
工程(e)
【0029】
凍結乾燥後、凍結乾燥物をトレーから出し、粉砕する。粉砕方法は特に制限されないが、お湯による復元性の観点から、粉砕後の破片の大きさは、0.1~3mm程度、好ましくは0.1~2mm程度となるように粉砕することが好ましい。
【0030】
粉砕して得られた粉砕物は、本発明の粥類ゼリーの素として用いることができる。たとえば、本発明の粥類ゼリーの素1重量部に、70℃、好ましくは75℃、より好ましくは80℃、さらに好ましくは85℃を超える温度のお湯3~10重量部を加え、撹拌する。その後、必要に応じて冷却し、40℃程度になったところで、ゼリー状の粥類組成物、すなわち本発明の粥類ゼリーを得ることができる。得られた粥類ゼリーは、易嚥下食品として、そのまま、摂食・嚥下困難者に摂食させることができる。
【0031】
本発明の粥類ゼリーの素、またはこれをお湯で復元して得られる粥類ゼリーは、嚥下の障害とならない限り、各種のカルシウム類、ビタミン類、鉄分、ミネラル類、食物繊維などの微量栄養素、粉末みそ、粉末ソース、かつおぶしの粉末、脱脂粉乳、粉末ポタージュなどの粉末調味料、乾燥わかめや乾燥野菜の粉末又は小片、細かく砕いた魚肉や肉製品の小片などの小片固形物、フルーツフレーバー、ミルクフレーバーなどの食品香料などのうち任意のものを適宜含有してもよい。
以下、本発明の実施例を示すが、本発明は、当該実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0032】
実施例1
(1)米粉(上新粉)20重量部、α-アミラーゼ0.09重量部、ネイティブジェランガム0.25重量部に、粘度調整のために市販の増粘剤0.2重量部を加え、鍋に用意した水79.4重量部に投入し、混合物が均一に分散するように撹拌しながら、70~75℃となるまでゆっくりと加熱し、10分間同温度範囲となるように保温した。米粉が糊化し、かつ酵素により粘性が低下したことを確認した後、95℃となるまで加熱し、30分間保持して酵素を失活させた。30分後、液温を60℃となるまで冷却したところ、該粥類組成物の粘度は11.6Pas・sであった。該粥類組成物を、凍結乾燥用のトレーに充填し、凍結乾燥処理した。
凍結乾燥後、凍結乾燥物をトレーから取り出し、パワーミルを用いて粉砕し、目開き2mmメッシュパスの粉体を、本発明の粥類ゼリーの素として取得した。
【0033】
なお、上記粥類ゼリーの素の調製工程において、米粉の代わりにα化澱粉を用いたところ、酵素処理の段階で「ダマ」が形成されてしまい、均一に液化せず、凍結乾燥処理するまでに至らなかった。
【0034】
(2)100mlの水を沸騰させた後、70℃、75℃、80℃および85℃の各温度となるまで放置し、上記(1)で調製した粥類ゼリーの素20gを投入し、ホイッパーを用いて手動で撹拌した。撹拌後、得られた粥類ゼリーを直径40mmのカップに20gずつ分注し、20℃に保温しつつ、直径20mmのプランジャーを装着したクリープメーターで、該粥類ゼリーの「かたさ」および「付着性」を測定した。一方、粥類ゼリーの「風味」および「食感」を喫食し、官能評価した。結果を表1に示す。
【0035】
【0036】
表1に示したとおり、本発明の粥類ゼリーの素を用いると、復元時の撹拌にミキサーを使用せずとも安定した物性のゼリー状の粥類ゼリーを得ることができた。
上記実施例ではゲル化剤としてネイティブジェランガムを使用した粥類ゼリーとその効果を示したが、この配合は好ましい例の一つであって、さらにカラギーナン0.2重量部を加えるなど、粥の種類や粘度に応じてゲル化剤を選択することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明により、工業的製造にも適した、粥類ゼリーの素の製造方法、およびお湯により復元容易な粥類ゼリーの素を提供することができる。