(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-24
(45)【発行日】2023-12-04
(54)【発明の名称】露光装置、露光方法、決定方法および物品製造方法
(51)【国際特許分類】
G03F 7/20 20060101AFI20231127BHJP
G02B 19/00 20060101ALI20231127BHJP
【FI】
G03F7/20 501
G03F7/20 521
G02B19/00
(21)【出願番号】P 2019093918
(22)【出願日】2019-05-17
【審査請求日】2022-05-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】八講 学
【審査官】植木 隆和
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-124870(JP,A)
【文献】特開平10-064790(JP,A)
【文献】特開2004-247737(JP,A)
【文献】特開2017-111311(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/027
G03F 7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
照明光学系と、前記照明光学系から提供される光によって基板に投影像を形成する投影光学系とを有する露光装置であって、
前記照明光学系に波長フィルタが設けられることにより、第1領域および第2領域を有する発光領域が前記照明光学系の瞳面に形成され、
前記投影像は、前記第1領域からの第1光によって形成される第1像と前記第2領域からの第2光によって形成される第2像とを含み、
デフォーカスによって生じる前記第1像における線幅の増減変化に対して、デフォーカスによって生じる前記第2像における線幅の増減変化が、異符号であり、
前記投影像の周期をP、前記投影光学系の開口数をNA、前記第1光の波長をλ1としたときに、前記第1領域は、
λ1/(2NA・P)で定める半径を有する領域を含む、
ことを特徴とする露光装置。
【請求項2】
前記第1光および前記第2光の少なくとも一方は、半値全幅が10nm以上である広帯域光である、
ことを特徴とする
請求項1に記載の露光装置。
【請求項3】
前記第1光および前記第2光の両方が広帯域光である、
ことを特徴とする請求項
2に記載の露光装置。
【請求項4】
前記第2光の波長域は、前記第1光の波長域の最長波長より長い波長を含む、
ことを特徴とする請求項
3に記載の露光装置。
【請求項5】
前記広帯域光は、水銀ランプが発生する複数の輝線を含む帯域を有する、
ことを特徴とする請求項
2乃至
4のいずれか1項に記載の露光装置。
【請求項6】
デフォーカスによって生じる、第1像と第2像との合成で得られる像の線幅の増減変化が低減される、
ことを特徴とする請求項1乃至
5のいずれか1項に記載の露光装置。
【請求項7】
前記第1領域は、前記第2領域よりも内側の領域を含む、
ことを特徴とする請求項1乃至
6のいずれか1項に記載の露光装置。
【請求項8】
前記第1領域および前記第2領域は、4回回転対称の形状である、
ことを特徴とする請求項1乃至
7のいずれか1項に記載の露光装置。
【請求項9】
前記第1領域および前記第2領域が輪帯形状を有する、
ことを特徴とする請求項1乃至
8のいずれか1項に記載の露光装置。
【請求項10】
前記第1光の波長と前記第2光の波長とが互いに異なる、
ことを特徴とする請求項1乃至
9のいずれか1項に記載の露光装置。
【請求項11】
前記第1領域および前記第2領域が輪帯形状を有し、
前記第1領域は前記第2領域よりも内側のσを有し、前記第2領域は前記第1領域よりも外側のσを有し、
前記第2光の波長域である第2波長域が前記第1光の波長域である第1波長域より長波長側であり、
前記第1領域における前記第1波長域の光の強度(I1_λ1)に対する前記第2波長域の光の強度(I1_λ2)の比((I1_λ2)/(I1_λ1))をR1とし、
前記第2領域における前記第1波長域の光の強度(I2_λ1)に対する前記第2波長域の光の強度(I2_λ2)の比((I2_λ2)/(I2_λ1))をR2としたときに、
R1がR2より小さい、
ことを特徴とする請求項1乃至
6のいずれか1項に記載の露光装置。
【請求項12】
前記第1領域および前記第2領域が輪帯形状を有し、
前記第1領域は前記第2領域よりも内側のσを有し、前記第2領域は前記第1領域よりも外側のσを有し、
前記第2光の波長域である第2波長域が前記第1光の波長域である第1波長域より長波長側であり、
前記第1領域における前記第1波長域の光の強度(I1_λ1)に対する前記第2波長域の光の強度(I1_λ2)の比((I1_λ1)/(I1_λ2))をR1とし、
前記第2領域における前記第1波長域の光の強度(I2_λ1)に対する前記第2波長域の光の強度(I2_λ2)の比((I2_λ1)/(I2_λ2))をR2としたときに、
R1がR2より大きい、
ことを特徴とする請求項1乃至
6のいずれか1項に記載の露光装置。
【請求項13】
前記第1領域および前記第2領域が輪帯形状を有し、
前記第1領域は前記第2領域よりも内側のσを有し、前記第2領域は前記第1領域よりも外側のσを有し、
前記第2光の波長域である第2波長域が前記第1光の波長域である第1波長域より長波長側であり、
前記第1領域における前記第1波長域の光の強度(I1_λ1)に対する前記第2波長域の光の強度(I1_λ2)の比((I1_λ2)/(I1_λ1))をR1とし、
前記第2領域における前記第1波長域の光の強度(I2_λ1)に対する前記第2波長域の光の強度(I2_λ2)の比((I2_λ2)/(I2_λ1))をR2としたときに、
R1がR2より大きい、
ことを特徴とする請求項1乃至
6のいずれか1項に記載の露光装置。
【請求項14】
前記照明光学系は、350nm以下の波長の光を発生する光源を含む、
ことを特徴とする請求項1乃至
13のいずれか1項に記載の露光装置。
【請求項15】
前記第1領域および前記第2領域が互いに排他的な領域である、
ことを特徴とする請求項1乃至
14のいずれか1項に記載の露光装置。
【請求項16】
光源からの光をマスクに照明する照明光学系と、
前記マスクのパターンの像を基板に投影する投影光学系と、を有し、
前記照明光学系の瞳面には、輪帯の第1強度分布と、前記第1強度分布より外側に形成される輪帯の第2強度分布が形成され、
前記第1強度分布を形成する光の波長域における最短波長は、前記第2強度分布を形成する光の波長域における最短波長よりも短いことを特徴とする露光装置。
【請求項17】
照明光学系と、前記照明光学系から提供される光によって基板に投影像を形成する投影光学系とを有する露光装置による露光方法であって、
前記照明光学系に波長フィルタが設けられることにより、第1領域および第2領域を有する発光領域が前記照明光学系の瞳面に形成され、
前記投影像は、前記第1領域からの第1光によって形成される第1像と前記第2領域からの第2光によって形成される第2像とを含み、
前記露光方法は、デフォーカスによって生じる前記第1像における線幅の増減変化に対して、デフォーカスによって生じる前記第2像における線幅の増減変化が、異符号となるように、前記発光領域を形成しながら、前記基板を露光する工程を含み、
前記投影像の周期をP、前記投影光学系の開口数をNA、前記第1光の波長をλ1としたときに、前記第1領域は、
λ1/(2NA・P)で定める半径を有する領域を含む、
ことを特徴とする露光方法。
【請求項18】
照明光学系と、前記照明光学系から提供される光によって基板に投影像を形成する投影光学系とを有する露光装置による露光条件を決定する決定方法であって、
前記照明光学系に波長フィルタが設けられることにより、第1領域および第2領域を有する発光領域が前記照明光学系の瞳面に形成され、
前記投影像は、前記第1領域からの第1光によって形成される第1像と前記第2領域からの第2光によって形成される第2像とを含み、
前記決定方法は、デフォーカスによって生じる前記第1像における線幅の増減変化に対して、デフォーカスによって生じる前記第2像における線幅の増減変化が、異符号となるように、前記発光領域を形成しながら、前記基板を露光する工程を含み、
前記投影像の周期をP、前記投影光学系の開口数をNA、前記第1光の波長をλ1としたときに、前記第1領域は、
λ1/(2NA・P)で定める半径を有する領域を含む、
ことを特徴とする決定方法。
【請求項19】
請求項1乃至
16のいずれか1項に記載の露光装置を用いて基板を露光する工程と、
露光された前記基板を現像する工程と、
現像された前記基板から物品を製造する工程と、を有する、
ことを特徴とする物品製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、露光装置、露光方法、決定方法および物品製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
露光装置は、原版(マスク)のパターンを基板に投影することによって基板を露光しうる。1つの露光装置は、照明光学系によって原版を照明しながら、投影光学系によって原版のパターンを基板に投影する。照明光学系は、光源からの光でオプティカルインテグレータを照明し、照明光学系の瞳面に相当するオプティカルインテグレータの射出面に2次光源を生成する。2次光源は、所定の形状および所定の大きさを有する発光領域で形成される。2次光源を構成する発光領域は、原版の各点を照明する光の角度分布に対応する。他の露光装置として、原版(マスク)を使用しないマスクレス露光装置もある。
【0003】
微細なパターンを転写する性能を向上させる技術として、超解像技術(RET:Resolution Enhancement Techniques)が存在する。RETの1つとして、原版の各点を照明する光の角度分布を最適化する変形照明が知られている。特許文献1には、変形照明露光法における焦点深度のパターン依存性を低減する方法が開示されている。この方法では、露光プロセス中に露光を中断して変形照明用のアパーチャ(絞り)を光軸に対して回転させることで、焦点深度のパターン依存性が低減される。特許文献2には、複数の方向のパターン間の線幅差(パターンの方向差による線幅不均一性)を小さくする方法が開示されている。この方法では、像コントラストが相対的に低い方向のパターンの結像に寄与する発光領域の波長を短波長側へシフトさせる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平10―12524号公報
【文献】特開2018-54992号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載された技術は、RETの1つである変形照明を用いた際の焦点深度のパターン依存性を低減させる効果がある。しかしながら、特許文献1に記載された技術は、焦点深度そのものを向上させるために、絞り形状と波長域を最適化するものではない。このため、特許文献1に記載された技術では、微細なパターンに対する焦点深度を十分に向上させる効果を得ることができない。特許文献2に記載された技術は、ブロードバンド照明光を用いた場合におけるパターンの方向差による線幅不均一性を解決する技術であり、微細なパターンに対する焦点深度を向上させる技術、即ち、RETではない。
【0006】
本発明は、基板に投影像を形成する際の焦点深度を向上させるために有利な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の1つの側面は、照明光学系と、前記照明光学系から提供される光によって基板に投影像を形成する投影光学系とを有する露光装置に係り、前記照明光学系に波長フィルタが設けられることにより、第1領域および第2領域を有する発光領域が前記照明光学系の瞳面に形成され、前記投影像は、前記第1領域からの第1光によって形成される第1像と前記第2領域からの第2光によって形成される第2像とを含み、デフォーカスによって生じる前記第1像における線幅の増減変化に対して、デフォーカスによって生じる前記第2像における線幅の増減変化が、異符号であり、前記投影像の周期をP、前記投影光学系の開口数をNA、前記第1光の波長をλ1としたときに、前記第1領域は、λ1/(2NA・P)で定める半径を有する領域を含む。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、基板に投影像を形成する際の焦点深度を向上させるために有利な技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図3】デフォーカスによって生じる線幅の変化を例示する図。
【
図4】デフォーカスによって生じる線幅の変化を例示する図。
【
図13】一実施形態の露光方法、および、露光方法の決定方法を示す図。
【
図14】一実施形態の露光方法、および、露光方法の決定方法を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。尚、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。実施形態には複数の特徴が記載されているが、これらの複数の特徴の全てが発明に必須のものとは限らず、また、複数の特徴は任意に組み合わせられてもよい。さらに、添付図面においては、同一若しくは同様の構成に同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0011】
図1には、本発明の一実施形態の露光装置100の構成が示されている。露光装置100は、複数の波長域を含む光(照明光)で原版9を照明し、基板12に原版9のパターンを転写しうる。露光装置100は、フラットパネルディスプレイ、半導体素子、MEMS等の製造、特に、フラットパネルディスプレイの製造に好適である。露光装置100は、照明光学系10と、照明光学系10から提供される光によって基板12に投影像を形成する投影光学系11とを備えうる。露光装置100は、原版(マスク)9を駆動あるいは位置決めする原版ステージ機構13、および、基板12を駆動あるいは位置決めする基板ステージ機構38を更に備えうる。照明光学系10は、光源を有し、該光源からの光で原版9を照明しうる。原版9は、投影光学系11の物体面に配置され、基板12は、投影光学系11の像面に配置されうる。
【0012】
投影光学系11は、例えば、反射光学系で構成され、反射光学系は、例えば、ミラー32、34及び36を含むことができ、原版9からの光をミラー32、34、36、34、32で順に反射し、原版9の投影像を基板12に形成しうる。投影光学系11が反射光学系で構成される場合、光源からの光の色収差が屈折光学系よりも小さい。このような構成は、複数の波長域を含む広帯域光(ブロードバンド照明光)を用いる場合に好適である。基板ステージ機構38は、基板12を保持するステージと、ステージを駆動する駆動機構とを含みうる。
【0013】
露光装置100は、照明光学系10、投影光学系11および基板ステージ機構38等を制御する制御部CNTを備えうる。制御部CNTは、例えば、FPGA(Field Programmable Gate Arrayの略。)などのPLD(Programmable Logic Deviceの略。)、又は、ASIC(Application Specific Integrated Circuitの略。)、又は、プログラムが組み込まれた汎用又は専用のコンピュータ、又は、これらの全部または一部の組み合わせによって構成されうる。
【0014】
図2には、照明光学系10の構成例が記載されている。照明光学系10は、例えば、光源1と、集光ミラー2と、コンデンサレンズ5と、フライアイレンズ7と、コンデンサレンズ8と、開口絞り61とを含みうる。
図2に示されていないが、コンデンサレンズ5と原版9との間の光路には、原版9を照明する光の断面が所定の形状および所定の大きさとなるように、光源1からの光を整形する光学系が配置されうる。光源1は、例えば、水銀ランプであり、波長が270nmから390nmの広帯域光を射出しうる。光源1は、集光ミラー2の第1焦点3の付近に発光部を有し、集光ミラー2は、光源1から射出された光を第2焦点4に集光しうる。
【0015】
コンデンサレンズ5は、第1焦点4に集光された光を平行光に変換しうる。コンデンサレンズ5で変換された光は、フライアイレンズ7の入射面7aに入射しうる。フライアイレンズ7は、複数の光学素子、具体的には、複数の微小なレンズで構成されたオプティカルインテグレータである。フライアイレンズ7は、入射面7aに入射した光から2次光源を射出面7b(光射出面)に形成する。フライアイレンズ7から射出された光は、複数のコンデンサレンズ8を介して、原版9を重畳的に照明しうる。原版9は、原版ステージ機構13の原版ステージによって保持されうる。基板ステージ機構38の基板ステージには、計測部(不図示)が配置されうる。該計測部は、フライアイレンズ7の射出面7bに形成される2次光源の形状や光強度を計測可能なイメージセンサ、例えば、CCDセンサを含みうる。
【0016】
超解像技術(RET)の1つである輪帯照明(輪帯形状の分布)や四重極照明などの変形照明(斜入射照明)は、投影光学系11の焦点深度、および、投影光学系11によって形成される投影像のコントラストの向上に有効である。輪帯照明は、輪帯形状の発光領域(有効光源分布)の内側の半径である内σと外側の半径である外σで規定される。所定の発光領域(強度分布)を有する変形照明は、例えば、照明光学系10の瞳面に相当するフライアイレンズ7(オプティカルインテグレータ)の射出面7bに配置された開口絞り61によって実現可能である。
【0017】
従来の変形照明では、結像性能が向上するように、発光領域の照明角度σが最適化される。ここで、照明角度σは、瞳座標で表した場合、原点からの距離(半径)に相当する。例えば、輪帯照明に対しては、前述した内σと外σが最適化される。一方、本実施形態では、第1領域I1および第2領域I2を含む複数の領域で構成される発光領域(有効光源分布)が照明光学系10の瞳面に形成される。第1領域および第2領域は、互いに排他的な領域でありうるが、互いに排他的な領域ではなくてもよい。また、本実施形態では、基板12に形成される投影像は、第1領域I1からの第1波長域の第1光によって基板12に形成される第1像と第2領域I2からの第2波長域の第2光によって基板12に形成される第2像とを含む複数の光強度分布から合成される。また、本実施形態では、デフォーカスによって生じる第1像における線幅の変化がデフォーカスによって生じる第2像における線幅の変化によって低減され、好ましくは相殺される。デフォーカスは、基板12の高さの変化、あるいは基板に塗布されたレジストの高さの変化によって生じうる。
【0018】
変形照明は、半導体素子を製造するための露光装置において発達してきた技術である。半導体素子を製造するための露光装置では、光源から射出される光のスペクトルが狭い(半値全幅が10nm未満)ため、該光の波長λは単一の値として扱われる。一方、フラットパネルディスプレイを製造するための露光装置では、光源から射出される光のスペクトルが広い広帯域照明(半値全幅が10nm以上)が用いられうる。例えば、水銀ランプのi線を用いる場合には、半値全幅は約6nmとなる。更に、水銀ランプが発生する複数の輝線(g、h、i線)を用いる場合には、波長幅は80nm以上となる。フラットパネルディスプレイを製造するための露光装置であっても、従来は、半導体素子を製造するための露光装置と同様に、変形照明の発光領域は、単一波長λ(例えば、強度が最も大きな波長や強度の重み付けをした重心波長)を有するものとして扱われてきた。広帯域(ブロードバンド)という表現は、KrFレーザー光またはArFレーザー光等のように半値全幅が小さい狭帯域(ナローバンド)という表現と区別する意味で用いられる。具体的には、本明細書において、広帯域光という表現は、半値全幅が10nm以上である光を意味する。ここで、半値全幅は、full width at half maximum:FWHMと呼ばれる量であり、スペクトルの波長幅に相当する。また、広帯域光という表現は、複数の輝線を含む帯域を有する光を意味しうる。
【0019】
本実施形態では、変形照明における発光領域の照明角度σに加えて、照明波長λも最適化されうる。照明波長λを最適化することによって、焦点深度を増大する効果が得られる。照明角度σおよび照明波長λの最適化において、照明領域を2つ以上の領域に分割し、各々の領域からの光によって形成される像のデフォーカスによって当該像における線幅(CD)の変化を考慮する発想は、従来はなかったものである。本実施形態は、特に広帯域(ブロードバンド)照明光に対するRET技術として、新規かつ有用である。
【0020】
照明波長λと解像力(R)との関係を示す式、および、照明波長λと焦点深度(DOF)との関係を示す式として、式(1)、式(2)に示されるレイリーの式が知られている。ここで、NAは投影光学系の開口数であり、k1とk2はプロセス定数である。レイリーの式では、式(1)に示されるように短波長化に伴って解像力(R)が向上する。一方で、式(2)に示されるように短波長化に伴って焦点深度(DOF)は悪化する。このように解像力と焦点深度とはトレードオフの関係にあり、解像力と焦点深度の両方を向上することは難しいことが知られている。解像力と焦点深度との両方を向上する技術としてRETの1つである変形照明が知られている。
【0021】
R=K1・λ/NA ・・・式(1)
DOF=K2・λ/NA2 ・・・式(2)
以下、いくつかの実施例を説明する。
【実施例1】
【0022】
図3は、変形照明(輪帯照明)において、発光領域の波長λを横軸とし、内σを縦軸として、基板に形成される像(像強度)のデフォーカス(15μm)によって生じる線幅の変化を示したものである。波長λは270nmから390nm、照明角度は内σを0.00から0.90まで変化させた。このとき、外σは内σ+0.05であり、0.05から0.95まで変化する。これらの照明条件は、輪帯幅が0.05の非常に細い照明に対応する。投影光学系の開口数NAは0.12、露光パターンは線幅が1μmの7本ラインアンドスペースパターンである。デフォーカスによって生じる線幅変化は中央ライン(7本のラインのなかの中央のライン)に対するものである。像強度は投影光学系の収差(色収差)を考慮して算出されてもよい。
【0023】
ハッチングで示された領域とクロスハッチングで示された領域は、デフォーカスによって線幅が大きくなる照明条件である。縦線で示された領域と灰色で示された領域は、デフォーカスによって線幅が小さくなる照明条件である。より詳細には、ハッチングで示された領域は、線幅の変化が60nmより大きい照明条件であり、クロスハッチングで示された領域は、線幅の変化が0より大きく60nm以下である照明条件である。白で示された領域は、デフォーカスによって線幅が変化しない照明条件である。縦線で示された領域は、線幅の増減変化が0より小さく-60nm以上である照明条件である。灰色で示された領域は、線幅の増減変化が-60nmより小さい照明条件である。線幅の増減変化が+(正)であることは、デフォーカスによって線幅が大きくなることを意味し、線幅の増減変化が-(負)であることは、デフォーカスによって線幅が小さくなることを意味する。線幅の増減変化が正であることと線幅の増減変化が負であることとは、線幅の増減変化の方向が反対であると表現することができる。あるいは、線幅の増減変化が正であることと線幅の増減変化が負であることとは、線幅の増減変化が互いに異符号であると表現することができる。以下では、「線幅の増減変化」を「線幅の変化」と記載する。
【0024】
図3は、発光領域の照明波長λと照明角度σを変化させることで、デフォーカス(15μm)によって生じる線幅の変化の量と、該線幅の変化の方向あるいは符号(正負)が変わることを示している。発光領域の波長範囲と照明角度範囲を制御することで、デフォーカスによって生じる線幅の変化を制御することができる。輪帯幅が0.05よりも太い輪帯照明、例えば内σ0.55かつ外σ0.75の輪帯照明の性能は、
図3において縦軸が0.55、0.60、0.65、0.70の像性能の和から推定可能である。その理由は、異なる照明領域が基板に形成する像が互いにインコヒーレントであり、そのため、弱め合いの干渉を考慮せずに細い輪帯照明で形成される像強度の和で太い輪帯照明で形成される像強度を計算できるからである。異なる波長の像強度も互いにインコヒーレントであるので、狭い波長域の像強度の和で広い波長域の像強度を計算できる。輪帯幅および波長幅は、スループットの向上のために高い照度を得るために、なるべく広く設定することが望ましい。
【0025】
例えば、
図3において、実線で示された第1発光領域I1(波長270nm以上350nm以下の広帯域光、内σ0.55かつ外σ0.75)は、線幅の変化が正である領域の方が、線幅の変化が負である領域より大きい。一方で、第2発光領域I2(波長270nm以上350nm以下の広帯域光、内σ0.75かつ外σ0.85)は、線幅の変化が正である領域が無く、線幅の変化が負である領域のみである。このため、
図4に示されるように、第1発光領域I1からの光(第1光)によって形成される像強度分布(第1像)は、デフォーカスによって正の線幅変化(+47nm)を示す。また、第2発光領域I2からの光(第2光)によって形成される像強度分布(第2像)は、デフォーカスによって負の線幅変化(-54nm)を示す。第1発光領域I1、第2発光領域I2の各々からの第1光、第2光によって形成される像強度分布(第1像、第2像)のデフォーカスによって生じる線幅変化は、互いに異符号である。換言すると、デフォーカスによって第1像における線幅が大きくなるときに、デフォーカスによって第2像における線幅が小さくなりうる。
【0026】
よって、第1発光領域I1と第2発光領域I2の両方で照明した場合は、デフォーカスによって生じる第1像における線幅の変化がデフォーカスによって生じる第2像における線幅の変化によって低減され、+9nmと小さくなる。これは、基板に形成される投影像を第1像および第2像から合成することによって、デフォーカスによって生じる線幅の変化を小さくすることができること、換言すると、焦点深度を増大させることができることを意味する。
【0027】
実施例1では、第1発光領域I1と第2発光領域I2の両方を広帯域光としたが、これらのうちの一方が狭帯域光(例えば波長290nm)の場合にもデフォーカスによって生じる線幅変化の少なくとも一部が相殺されることが
図3から分かる。したがって、第1発光領域I1と第2発光領域I2の少なくとも一方を広帯域光で形成すればよいことが分かる。
【0028】
以上のように、瞳面の発光領域を第1領域I1と第2領域I2とに分割して、第1領域I1、第2領域I2によって形成される像強度を用いて、第1領域I1、第2領域I2の両方が発光した場合に形成される投影像の像強度を考えることができる。このような考え方が可能なのは、前述したように、互いに異なる波長域の光が形成する像どうしが互いにインコヒーレントであり、また、互いに異なる発光領域σからの光が形成する像どうしが互いにインコヒーレントであることによる。
【0029】
デフォーカスによって生じる線幅の変化が互いに異符号となるように発光領域を分割する方法としては、複数の方法がありうる。このような場合には、デフォーカスによって生じる線幅の変化以外の指標を用いて、デフォーカスによって生じる線幅の変化が互いに異符号となる複数の方法の中から1つの方法を選択することができる。デフォーカスによって生じる線幅の変化以外の指標としては、例えば、コントラスト、照度、MEEF(Mask Error Enhauncement Factor)等がある。
【0030】
図5には、比較例と実施例1との比較が示されている。端ライン幅とは、複数(この例では7本)のラインのうち端に配置されたラインの幅である。端ライン幅以外の指標は全て、中央に配置されたラインについてのものである。比較例は、波長が270~390nmの広帯域光、内σ0.55かつ外σ0.85の輪帯照明とした。比較例では、発光領域を2つの領域に分割することは考慮されておらず、当然に、分割された2つの領域からの各々の光で形成される2つの像のデフォーカスによる線幅の変化を互いに異符号にすることも考慮されていない。
【0031】
実施例1は、波長が270nm以上350nm以下の広帯域光、内σ0.55かつ外σ0.85の輪帯照明を使用した。実施例1の照明は、
図4に示した第1領域I1と第2領域I2の両方からの光で投影像を形成する照明に相当する。前述したように、第1領域I1と第2領域I2とは、デフォーカスによって生じる線幅の変化が互いに異符号になるように設定されている。比較例と比べると、像コントラストは0.52から0.59に向上した。これは、波長が短波長化された効果である。焦点深度(DOF)は、波長が短波長化されているのにも拘わらず、30.9μmから32.2μmに増大した。比較例と実施例1とは内σも外σも互いに等しいため、変形照明の効果としては比較例と実施例1とで等しい。このため、実施例1のDOFが比較例に比べて増大したのは、輪帯照明の斜入射照明の効果ではなく、波長を変化させた効果である。
【0032】
実施例1では、比較例に対して波長が短波長化されているのにも拘わらず焦点深度(DOF)が増大したことになる。これは、式(1)に示されたレイリーの式では予測できない効果である。この効果は、前述したように、第1領域I1と第2領域I2の両方からの光で投影像を形成したことで、デフォーカスによって生じる線幅の変化の少なくとも一部が相殺され、焦点深度が拡大したことによる。7本のラインアンドスペースパターンの端に配置されたラインのベストフォーカスにおける線幅は745nmから799nmに向上した。ラインパターンの側壁角度は69.4度から72.6度に向上した。前述したように焦点深度)と解像力とはトレードオフの関係にあり、比較例では焦点深度と解像力の両方を向上することは難しい。実施例1では、解像力の指標として像コントラスト、側壁角度を用いた場合、焦点深度と解像力の両方を向上する効果が得られた。
【実施例2】
【0033】
図6を参照して、第2実施例における変形照明について説明する。
図6は、3種の変形照明におけるデフォーカスによって生じるレジスト像の線幅(CD)の変化を示している。投影光学系の開口数NAは0.10、露光パターンは線幅が1.5μmの7本のラインアンドスペースパターンとした。周期Pは3.0μmとした。デフォーカスによって生じる線幅の変化は、中央ラインについてのものである。比較例1の照明は、波長λが335~395nmであり、内σ0.55かつ外σ0.70の輪帯照明である。
【0034】
比較例1では、デフォーカスによって生じる線幅の変化は正の値であり、デフォーカスによって線幅が太くなる。比較例2の照明は、波長λが335~475nmであり、内σ0.70かつ外σ0.90の輪帯照明である。デフォーカスによって生じる線幅の変化は負の値であり、デフォーカスによって線幅が細くなる。実施例2の照明は、比較例1の照明を第1領域、比較例2の照明を第2領域として両方を発光させたものに相当する。実施例2の照明は、第1領域と第2領域の各々からの光によって形成されるレジスト像のデフォーカスによる線幅の変化が互いに異符号であるため、デフォーカスによって生じる線幅の変化が小さくなり焦点深度が増大した。実施例2のように、第1領域と第2領域とで互いに異なる波長(波長帯域)を用いることができる。
【0035】
また、第1領域を内σ0.55かつ外σ0.80とし、第2領域を内σ0.80かつ外σ0.90とした場合も、第1領域と第2領域の各々からの光によって形成されるレジスト像のデフォーカスによって生じる線幅の変化が互いに異符号となる。この場合、第1領域(内σ0.55かつ外σ0.80)には、波長域335~395nmの領域と、335~475nmの領域が含まれる。このように、分割された1つの領域(例えば、第1領域)の中に互いに異なる波長域が含まれてもよい。
【0036】
第2実施例のように、波長域が互いに異なる照明光を用いる場合には、瞳半径σと波長λ、パターンの周期P、投影光学系の開口数NAに対して、
σ=λ/(2NA・P) ・・・式(3)
を満たす照明光を含むようにするのが望ましい。
【0038】
式(3)は、デフォーカスによるコントラスト低下を抑制する条件式である。式(3)の条件から乖離した波長域については、波長フィルタを用いて遮光することが望ましい。例えば、第2実施例では、内σ0.55かつ外σ0.70において、式(3)の条件から
乖離した波長域λ=396~475nmの波長を遮断または減光する。波長域λが396~475nmの波長を完全に遮断しなくとも、内σ0.70かつ外σ0.90における照明強度に比べて小さな照明強度にすれば、デフォーカスによるコントラスト低下を抑制する効果が得られる。つまり、式(3)の条件から乖離した波長域の照明強度を小さくしてもよい。
【0039】
式(3)の条件は、波長λで周期Pのパターンを照明した場合の回折光分布において、回折強度が大きな角度に対応する照明角度に相当する。つまり、露光パターンの回折光分布において回折強度が大きな角度に対応する照明角度を含む変形照明を使用することが望ましい。
【0040】
式(3)の条件から乖離した波長域の照明強度を小さくする方法として、例えば以下に示す3つの照明方法が考えられる。
【0041】
第1の照明方法は、光源からの広帯域光に対して、輪帯照明の半径が小さい内側の領域の長波長領域を波長フィルタで遮断または減光する方法である。これは、第2実施例に相当し、光源からの広帯域光(波長335~475nm)に対して、内σ0.55かつ外σ0.70の輪帯照明における半径が小さい内側の領域において、波長396~475nmが波長フィルタで遮断または減光されうる。この方法は、ラインアンドスペースパターンの結像性能を向上する効果がある。
【0042】
第1の照明方法は、次のように表現されうる。第1領域I1および第2領域I2は、輪帯形状を有する。第1領域I1は第2領域I2よりも内側のσを有し、第2領域I2は第1領域I1よりも外側のσを有する。第1領域I1からの第1光は第1波長域λ1であり、第2領域I2からの第2光は第2波長域λ2であり、第2波長域λ2は第1波長域λ1より長波長側である。ここで、第1領域I1における第1波長域λ1の光の強度(I1_λ1)に対する第2波長域λ2の光の強度(I1_λ2)の比((I1_λ2)/(I1_λ1))をR1とする。また、第2領域I2における第1波長域λ1の光の強度(I2_λ1)に対する第2波長域λ2の光の強度(I2_λ2)の比((I2_λ2)/(I2_λ1))をR2とする。このとき、第1の照明方法では、R1がR2より小さい。
【0043】
第2の照明方法では、光源からの広帯域光に対して、輪帯照明の半径が大きい外側の領域の短波長領域を波長フィルタで遮断または減光する方法である。この方法も、ライン&スペースパターンの結像性能を向上する効果がある。第2の照明方法は、次のように表現されうる。第1領域I1および第2領域I2は、輪帯形状を有する。第1領域I1は第2領域I2よりも内側のσを有し、第2領域I2は第1領域I1よりも外側のσを有する。第1領域I1からの第1光は第1波長域λ1であり、第2領域I2からの第2光は第2波長域λ2であり、第2波長域λ2は第1波長域λ1より長波長側である。ここで、第1領域I1における第1波長域λ1の光の強度(I1_λ2)に対する第2波長域λ2の光の強度(I1_λ1)の比((I1_λ1)/(I1_λ2))をR1とする。また、第2領域I2における第1波長域λ1の光の強度(I2_λ2)に対する第2波長域λ2の光の強度(I2_λ1)の比((I2_λ1)/(I2_λ2))をR2とする。このとき、第2の照明方法では、R1がR2より小さい。第2の照明方法は、分子がλ2ではなくλ1である点が第1の照明方法とは異なる。
【0044】
第3の照明方法は、光源からの広帯域光に対して、輪帯照明の半径が大きい外側の領域の長波長領域を波長フィルタで遮断または減光する方法である。この方法は、ホールパターンの結像性能を向上する効果がある。第3の照明方法は、次のように表現されうる。第1領域I1および第2領域I2は、輪帯形状を有する。第1領域I1は第2領域I2よりも内側のσを有し、第2領域I2は第1領域I1よりも外側のσを有する。第1領域I1からの第1光は第1波長域λ1であり、第2領域I2からの第2光は第2波長域λ2であり、第2波長域λ2は第1波長域λ1より長波長側である。ここで、第1領域I1における第1波長域λ1の光の強度(I1_λ1)に対する第2波長域λ2の光の強度(I1_λ2)の比((I1_λ2)/(I1_λ1))をR1とする。また、第2領域I2における第1波長域λ1の光の強度(I2_λ1)に対する第2波長域λ2の光の強度(I2_λ2)の比((I2_λ2)/(I2_λ1))をR2とする。このとき、第3の照明方法では、R1がR2より大きい。
【0045】
式(3)の条件に関して、
図7を用いて説明する。
図7(a)は比較例7の照明、
図7(b)は式(3)を満たす照明を示している。原版(マスク)のパターンは線幅が1μmのラインアンドスペースパターンとし、NAは0.12とした。比較例7では、広帯域の照明光に対して、波長を考慮することなく、変形照明が用いられる。例えば、変形照明として輪帯照明を用いる場合において、広帯域の照明光に含まれる波長290nmの光に対しても波長365nmの光に対しても同じ輪帯が設定される。原版のパターンで生じる回折光の回折角度は、波長によって異なる。このため、
図7(a)に示されるように、波長290nmの回折光D
1
290と、波長365nmの回折光D
1
365とは互いに異なる角度で回折する。このため、例えばD
1
290に最適な輪帯照明を用いた場合、D
1
365にとっては、最適な輪帯照明にはならない。最適な輪帯照明とは、原版からの透過光(0次の回折光)D
0
λと1次の回折光D
1
λとが、光軸に対して逆向きに等しい角度で(対称に)進むことを意味する。
【0046】
式(3)を満たす照明では、広帯域の照明光に対して、式(3)に従って、波長に依存した変形照明が設定される。
図7(b)に示されるように、広帯域の照明光に含まれる波長290nmの光と波長365nmの光とに対して互いに異なる輪帯が設定される。式(3)を満たす照明は、波長290nmの光についての透過光D
0
290と1次の回折光D
1
290とが光軸に対して互いに等しい角度で対称に進む最適な輪帯照明である。更に、式(3)を満たす照明は、波長365nmの光についても透過光D
0
365と1次の回折光D
1
365とが光軸に対して互いに等しい角度で対称に進む最適な輪帯照明である。この輪帯照明は、前述した、露光パターンの回折光分布において、回折強度が大きな角度に対応する照明角度を含む変形照明である。
【0047】
輪帯照明では、
図7(b)に示された輪帯を含むように、
図7(b)における輪帯の内σを小さくしたり、外σを大きくしたりすることで発光領域を大きくし、照度を増すことが望ましい。しかし、比較例2のように波長を考慮せずに変形照明を設定することは、大きな焦点深度を得る観点では望ましくない。そして、前述したように、式(3)の条件から乖離した波長域の照明強度を小さくすることが望ましい。
【実施例3】
【0048】
図8を参照して、実施例3における変形照明について説明する。投影光学系の開口数NAは0.12、露光パターンは線幅が1.2μmの7本のラインアンドスペースパターンとした。端ライン幅以外については、中央ラインを評価した。比較例3の変形照明は、波長λが270~390nmであり、内σ0.45かつ外σ0.85の輪帯照明である。
【0049】
実施例3の変形照明の発光領域は、波長λが270~330nmであり、内σ0.45かつ外σ0.60の第1領域と、波長λが330~390nmであり、内σ0.70かつ外σ0.85の第2領域とを有する。σ0.60から0.70は非発光領域である。実施例3のように第1領域と第2領域との間の半径を持つ領域が非発光領域であってもよい。解像力の観点では、像コントラストが0.68から0.69に向上し、側壁角度は72.9度から73.4度に向上した。焦点深度(DOF)は33.4μmから45.3μmに増大した。実施例3でも、解像力と焦点深度の両方の性能が向上した。しかし、端ライン幅に関しては1034nmから1011nmに細くなり悪化した。
【実施例4】
【0050】
図9を参照して、実施例4における変形照明について説明する。投影光学系の開口数NAは0.12、露光パターンは線幅1.0μmの9本ラインアンドスペースパターンとした。原版は位相シフトマスク(Attenuated phase shift mask)とした。位相シフトマスクの透過率は9%とした。
図9は、横軸がデフォーカス、縦軸がレジストパターン(9本のラインアンドスペースパターンの中央のラインパターン)の線幅CDを示している。実施例4のCDカーブを実線で示した。実施例4の照明は、照明1と照明2を合わせたもので、照明1と照明2は、デフォーカスに対するCD変化が互いに異符号である。照明1では、デフォーカスに対するCD変化が小さいが、照度が小さく、実用的ではない。実施例4は、十分な照度を確保した上で、デフォーカスに対するCD変化が互いに異符号となる照明1と照明2を合わせて用いることで、デフォーカスに対するCD変化が小さく抑えられている。
【実施例5】
【0051】
図10は、実施例5の変形照明の4つの例A、B、C、Dを示している。例Dの第2領域は、単一波長の光源(つまり、狭帯域光源)の例である。狭帯域光源として、例えば、KrFレーザーまたはArFレーザーが用いられてもよい。KrFレーザーまたはArFレーザーを用いた場合には、短波長化によりコントラストの向上効果が得られる。ここでは、4つの例を挙げたが、本発明はこれらの例に限定されない。
【実施例6】
【0052】
図11は、実施例6の変形照明の例を示している。黒色、斜線、横線で示された領域は、互いに異なる波長域とする。本実施形態におけるブロードバンド照明は、波長範囲を限定しない。変形照明に用いられる波長域は、i線よりも短い波長を含んでもよいし、g線よりも長い波長を含んでもよい。
【0053】
(A)は、波長域λ1の第1領域I1と波長域λ2の第2領域I2とが内側と外側とに分かれていない例を示している。(B)は、波長域を3つに分割し、発光領域も3つ分割し、各領域に1つの波長域を割り当てた例を示している。波長域および発光領域の分割数は、4以上であってもよい。(C)は、例えばホールパターンに有効である、小σ照明の内側と外側で照明光の波長域を変えた例である。例えば、外側の領域において長波長をカットすることで、位相シフトマスクを用いた場合に、サイドローブによる膜減りを抑制しつつ焦点深度を増大することができる。(D)は、小σ照明と輪帯照明とを組み合わせた例である。
【0054】
(E)は、輪帯照明における特定のパターン方向に対応する角度成分を遮断(除去)した例である。このような方向差があってもよい。(F)は、第1領域I1と第2領域I2とが共通の内σと外σを有し、パターン方向に対応して区分けされた例である。(G)は、発光領域が90°回転対象ではない例である。この例は、原版のパターンの回折光強度が大きい領域から発光領域を決めた例に相当する。このように原版のパターンの回折光強度が大きい領域は90°回転対称ではない場合もある。これらに加え、偏光照明に対して本発明を適用することも可能である。このように本発明は輪帯照明に限らない。
【0055】
以下、他の実施形態を説明する。まず、
図12(a)、(b)を参照して、上述した変形照明を実現するための光源1および照明光学系10の構成について説明する。
図12(a)の例は、光源1を第1光源1Aと第2光源1Bとで構成した例を示している。第1光源1A、第2光源1Bは、互いに異なる波長λ1、λ2の光をそれぞれ射出する。第1光源1Aおよび第2光源1Bの各々から射出される光は、単一波長の光であってもよいし、狭帯域光であってもよいし、広帯域光であってもよい。更に、第1光源1Aと第2光源1Bの一方が狭帯域光を射出し、他方が広帯域光を射出してもよい。また、単一波長の光または狭帯域光を射出する複数の光源によって、互いに異なる複数の波長域を含む光を広帯域光として実現してもよい。第1領域I1と第2領域I2とで波長が異なる場合、変形照明は、第1光源1Aから射出される第1光と、第2光源1Bから射出される第2光とを合成することで形成されうる。第1光源1Aと第2光源1Bとで互いに異なる発光領域を形成した後で、それらを照明光学系10で合成してもよい。また、第1光源1Aと第2光源1Bとで同一の発光領域を形成し、波長フィルタ(不図示)で第1領域I1及び第2領域I2における波長域を変えてもよい。第1光源1Aおよび第2光源1Bは、LED光源であってもよい。また、光源1を構成する光源の数は、2つに限定されるものではなく、3つ以上であってもよい。
【0056】
図12(b)は、光源1を3つのブロードバンド光源1Cで構成した例を示している。ブロードバンド光源ICは、広帯域光を射出する。
図12(b)の例では、3つのブロードバンド光源1Cから射出される光の波長域は同じである。発光領域を構成する複数の領域で波長を異ならせる場合は、例えば3つのブロードバンド光源1Cの各々に対して第1波長フィルタ63A、第2波長フィルタ63B、第3波長フィルタ63Cを設けて、3つの光源に互いに異なる波長域を含む領域を形成してもよい。また、第1波長フィルタ63A、第2波長フィルタ63B、第3波長フィルタ63Cを用いずに、第4波長フィルタ65を設けてもよい。この場合、3つのブロードバンド光源1Cからの光を合成した後に、第4波長フィルタ65で互いに異なる波長域の光で、発光領域を構成する複数の領域を形成しうる。
【0057】
更に、第1波長フィルタ63A、第2波長フィルタ63B、第3波長フィルタ63Cと、第4波長フィルタ65とを併用してもよい。これらの波長フィルタは、回転ターレットに設けられていてもよいし、シフト駆動するラスタータイプの機構に設けられていてもよい。これにより、波長フィルタを用いる場合と波長フィルタを用いない場合との切り替えが容易となる。
図12(b)には、光源1を構成する光源の数が3つである例が示されているが、光源の数はこれに限定されるものではなく、例えば、1つであってもよい。本実施形態は、波長域の分割や発光領域の形成に関する手法を限定するものではない。
【0058】
波長フィルタは、特定の波長に対する透過率を小さくすればよく、特定の波長に対する透過率を完全にゼロにする(遮断する)必要はない。また、発光領域の境界部で波長域が完全に分割される必要はない。更に、波長フィルタによる波長選択に限らず、ホログラム素子を用いて光量(照度)の低下を抑制してもよい。照明光学系にアキシコンレンズを用いることで輪帯照明の照度を向上させる技術を用いてもよい。異なる露光装置間で、同一の性能が出るように、露光装置間の差の評価値を用いて照明を調整してもよい。
【0059】
以下、
図13、
図14を参照しながら一実施形態の露光方法、および、露光条件の決定方法を説明する。この露光方法および決定方法は、例えば、制御部CNTによって実行が制御される。
図13には、露光装置100における露光方法、および、露光条件の決定方法が示されている。
【0060】
S11では、照明光が複数の波長と複数の照明角度に分割される。これは、
図3に示されたように波長域を所定幅(例えば10nm刻み)で分割し、輪帯の半径σを所定の所定幅(例えば0.05刻み)で分割することに対応する。波長およびσを刻む分解能は、任意に設定可能である。S12では、各々の波長域と照明角度で照明を行った場合に形成される像の線幅がベストフォーカス状態にいついて計算される。像の線幅は、空中像で計算されてもよいし、レジスト像で計算されてもよい。また、像の線幅は、投影光学系の収差を考慮して計算してもよい。
【0061】
S13では、各々の波長と照明角度で照明を行った場合の像の線幅が特定のデフォーカスについて計算される。特定のデフォーカスは、必要とする焦点深度が例えばレンジで30μmであった場合には15μmに設定されるなど、必要な焦点深度に基づいて決定されうる。像の線幅は、空中像で計算されてもよいし、レジスト像で計算されてもよいが、S12における計算の条件と同じであることが望ましい。
【0062】
S14では、デフォーカスによって生じる線幅の変化が計算される。これは、
図3に示された、デフォーカスによって生じる線幅の変化に対応する。S15では、デフォーカスによって生じる線幅の変化が互いに異符号となる第1領域I1と第2領域I2とが決定される。S15に関しては、
図14を用いて詳しく説明する。S16では、第1領域I1と第2領域I2とによって原版の照明を行った場合に、デフォーカスによって生じる線幅の差が基準値以下になるように第1領域I1と第2領域I2の各々の波長(第1波長域、第2波長域)と照明角度が調整される。基準値は、必要精度に基づいて決定されうる。これにより、第1波長域、第2波長域、第1領域I1および第2領域I2が決定される。例えば、線幅の10%の変化を許容する場合には、1μmのパターンに対しては、基準値は0.1μmとなる。S17では、第1領域I1と第2領域I2を含む発光領域が規定された変形照明の条件(露光条件)が設定される。S18では、S17で設定された変形照明の条件(露光条件)に従って照明光学系10の瞳面に発光領域を形成しながら基板が露光される。
【0063】
図14には、
図13のS15の詳細が示されている。S151では、
図13のS11で分割された条件(λ,σ)のうち式(3)の条件を満たす条件とその近傍の条件において、ΔCDが正になる条件1(λ,σ)と、ΔCDが負になる条件2(λ,σ)とが決定される。近傍の条件とは、例えば、σ差が0.30以下、波長差が100nm以下である。この条件は任意に設定可能である。S152では、条件1を多く含むσの領域を選択し、この領域を(σ1in,σ1out)とする。このとき、照明の照度を大きくするために輪帯幅が閾値よりも太くなるように選択することが望ましい。S153では、条件2を多く含むσの領域を、(σ1in,σ1out)と重複しないように選択し、これを(σ2in,σ2out)とする。このとき、照明の照度を大きくするために輪帯幅が閾値よりも太くなるように選択することが望ましい。
【0064】
S154では、(σ1in,σ1out)の範囲にある条件(λ,σ)に対して、波長幅が閾値よりも大きくなり、かつこの波長幅に含まれる条件のΔCDの和が正になるように、波長域λ1が決定される。波長幅の閾値は、例えば広帯域波長の条件である半値全幅10nmとする。S155では、(σ2in,σ2out)の範囲にある条件(λ,σ)に対して、波長幅が閾値よりも大きくなり、かつこの波長幅に含まれる条件のΔCDの和が負になるように、波長域λ2が決定される。波長幅の閾値は、例えば広帯域波長の条件である半値全幅10nmとする。S156では、λ1と(σ1in,σ1out)で定義される領域が第1領域I1として決定される。S157では、λ2と(σ2in,σ2out)で定義される領域が第2領域I2として決定される。このようにして、
図13のS15における第1領域I1と第2領域I2とが決定される。
【0065】
以下、上記の実施形態に代表される露光装置を用いて物品を製造する物品製造方法を説明する。物品は、例えば、フラットパネルディスプレイ、半導体素子、MEMS等でありうる。物品は、前述の露光装置を使用して、感光剤が塗布された基板(プレート、ウェハ、ガラス基板等)を露光する工程と、その基板(感光剤)を現像する工程と、現像された基板を他の周知の工程で処理することにより製造される。他の周知の工程には、エッチング、レジスト剥離、ダイシング、ボンディング、パッケージング等が含まれる。本物品製造方法によれば、従来よりも高品位の物品を製造することができる。
【0066】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されないことはいうまでもなく、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。例えば、本発明は、拡大系や縮小系の非等倍系の投影光学系、マスクレス投影光学系、多重露光、LED光源を用いた露光装置にも適用することが可能である。マスクはバイナリーマスクに限定されず、位相シフトマスクを用いてもよい。
【符号の説明】
【0067】
100:露光装置、9:原版、10:照明光学系、11:投影光学系、12:基板