(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-24
(45)【発行日】2023-12-04
(54)【発明の名称】進行方向状態検出装置及びそれを用いた台車
(51)【国際特許分類】
G01B 21/00 20060101AFI20231127BHJP
G05D 1/02 20200101ALI20231127BHJP
【FI】
G01B21/00 T
G05D1/02 S
(21)【出願番号】P 2019143389
(22)【出願日】2019-08-02
【審査請求日】2022-06-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木下 優司
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 俊介
(72)【発明者】
【氏名】谷 卓
【審査官】櫻井 仁
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-205094(JP,A)
【文献】特開2012-220227(JP,A)
【文献】特開2000-181541(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 21/00
G01B 11/00
G05D 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪が走行する走行面の段差、傾斜及び開口を検出するための進行方向状態検出装置であって、
車輪の進行方向の前側近傍に設けられ、進行方向斜め下方の走行面上であって進行方向に垂直な第1線状位置までの距離を線状に測定する第1距離センサと、
この進行方向斜め下方の走行面よりも進行方向後方、かつ、車輪の接地点よりも進行方向前方の走行面上であって進行方向に垂直な第2線状位置までの距離を線状に測定する第2距離センサと、
第2距離センサで一定の時間ごとに連続して測定された距離の変化量をもとに走行面の段差を検出し、第1距離センサで一定時間ごとに連続して測定された距離の変化量をもとに走行面の傾斜を検出し、一部の第1線状位置及び第2線状位置までの距離の変化量をもとに走行面の開口を検出する検出部と、
を備えることを特徴とする進行方向状態検出装置。
【請求項2】
請求項1に記載の進行方向状態検出装置を備えたことを特徴とする台車。
【請求項3】
請求項1に記載の進行方向状態検出装置と、
台車の走行速度を制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記第1距離センサで測定された距離の変化量が所定の第1閾値を超えた場合に、走行速度を減速させるとともに、さらに第2距離センサで測定された距離の変化量が所定の第2閾値を超えた場合に、走行を停止させる制御を行うことを特徴とする台車。
【請求項4】
前記制御部は、前記第1距離センサで測定された距離のうち、少なくとも1つの前記車輪の進行方向の距離の変化量のみが所定の第1閾値を超えた場合に、走行速度を減速させ、さらに第2距離センサで測定された距離のうち、少なくとも1つの前記車輪の進行方向の距離の変化量のみが所定の第2閾値を超えた場合に、走行を停止させる制御を行うことを特徴とする請求項3に記載の台車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輪が走行する走行面の段差、傾斜及び開口を確実に検出する進行方向状態検出装置及びそれを用いた台車に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、台車などの車両が走行する走行面の段差を検出する装置が知られている(例えば、特許文献1を参照)。こうした装置は、通常、車両の走行方向前方部に鉛直下向きに設置した距離センサ等を備えており、この距離センサ等で床面までの距離を計測することで段差を検出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、このような装置では、減速距離を加味してタイヤ(車輪)から距離センサまでの距離を適切に設定する必要がある。タイヤと距離センサまでの距離が短い場合には減速距離が取れないため、車両の移動速度を走行全般にわたって落とさなければ段差を正確に検出できないという問題がある。また、段差と傾斜路の違いを検出できないおそれや、車両が傾斜した場合などに誤検出するおそれがあるといった問題もある。
【0005】
このため、車輪から距離センサまでの距離が短い場合でも適用でき、段差と傾斜路を区別して検出することのできる高性能な装置が求められていた。
【0006】
また、台車の進行方向であって車輪の通過領域に開口が存在する場合は、脱輪して走行不能になる可能性がある。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、車輪が走行する走行面の段差、傾斜及び開口を確実に検出する進行方向状態検出装置及びそれを用いた台車を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る進行方向状態検出装置は、車輪が走行する走行面の段差、傾斜及び開口を検出するための進行方向状態検出装置であって、車輪の進行方向の前側近傍に設けられ、進行方向斜め下方の走行面上であって進行方向に垂直な第1線状位置までの距離を線状に測定する第1距離センサと、この進行方向斜め下方の走行面よりも進行方向後方、かつ、車輪の接地点よりも進行方向前方の走行面上であって進行方向に垂直な第2線状位置までの距離を線状に測定する第2距離センサと、第1距離センサおよび第2距離センサで一定の時間ごとに連続して測定された距離の変化量に基づいて、走行面の段差、傾斜及び開口を検出する検出部と、を備えることを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る台車は、上記の進行方向状態検出装置を備えたことを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る台車は、上記発明のいずれかに記載の進行方向状態検出装置と、台車の走行速度を制御する制御部と、を備え、前記制御部は、前記第1距離センサで測定された距離の変化量が所定の第1閾値を超えた場合に、走行速度を減速させるとともに、さらに第2距離センサで測定された距離の変化量が所定の第2閾値を超えた場合に、走行を停止させる制御を行うことを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る台車は、上記の発明において、前記制御部は、前記第1距離センサで測定された距離のうち、少なくとも1つの前記車輪の進行方向の距離の変化量のみが所定の第1閾値を超えた場合に、走行速度を減速させ、さらに第2距離センサで測定された距離のうち、少なくとも1つの前記車輪の進行方向の距離の変化量のみが所定の第2閾値を超えた場合に、走行を停止させる制御を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、車輪が走行する走行面の段差、傾斜及び開口を確実に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本発明に係る実施の形態である進行方向状態検出装置及び台車の概要構成を説明する説明図である。
【
図2】
図2は、長距離センサ及び短距離センサがそれぞれレーザ光をスキャンする第1線状位置及び第2線状位置を説明する説明図である。
【
図3】
図3は、段差の検出状態を示す説明図である。
【
図4】
図4は、傾斜の検出状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明に係る進行方向状態検出装置及びそれを用いた台車の実施の形態を、図面を参照して詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0015】
(進行方向状態検出装置)
まず、本発明に係る進行方向状態検出装置について説明する。
【0016】
図1に示すように、本発明に係る進行方向状態検出装置10は、車輪12が走行する走行面Gの段差、傾斜及び開口を検出するための装置である。この進行方向状態検出装置10は、車輪12の進行方向Xの前側近傍にそれぞれ設けられた長距離センサ14(第1距離センサ)、短距離センサ16(第2距離センサ)と、検出部18とを備えている。なお、走行面Gの大部分は水平になっており、部分的に図示しない段差、傾斜あるいは開口101(
図2参照)が存在する。
【0017】
図1及び
図2に示すように、長距離センサ14及び短距離センサ16は、それぞれ測定対象の走行面Gへレーザ光を進行方向Xに対して垂直な方向にスキャンし、反射光を検出して、それぞれ進行方向Xに垂直な第1線状位置LN1及び第2線状位置LN2までの距離を線状に算出する2次元レーザスキャナ式センサである。なお、本発明の長距離センサ14及び短距離センサ16はこれに限るものではなく、例えば超音波センサや他の種類のセンサを用いても構わない。
【0018】
長距離センサ14は、進行方向Xの斜め下方の走行面G上の第1線状位置LN1までの距離L1を測定するためのものである。短距離センサ16は、鉛直下方の走行面G上の第2線状位置LN2までの距離L2を測定するためのものである。長距離センサ14が測定する距離L1は比較的長く、短距離センサ16が測定する距離L2は比較的短く設定されている(L1>L2)。このように、本実施の形態では、車輪12の前側近傍に距離センサを2つ設け、一方は鉛直下方を測定対象とし、他方は斜め前方を測定対象としている。
【0019】
なお、短距離センサ16の測定対象は鉛直下方の走行面G上の第2線状位置LN2までの距離に限るものではなく、長距離センサ14の測定対象の走行面G上の第1線状位置よりも進行方向X後方、かつ、車輪12の接地点Pよりも進行方向X前方の走行面G上の第2線状位置LN2までの距離であってもよい。すなわち、鉛直下方から若干斜め前方または斜め後方の走行面G上の第2線状位置LN2を測定対象としてもよい。
【0020】
検出部18は、長距離センサ14、短距離センサ16でそれぞれ一定の時間ごとに連続して測定された距離L1、L2の変化量に基づいて、走行面Gの段差、傾斜及び開口を検出するためのものである。例えば、短距離センサ16で測定された距離L2の変化量が所定の閾値を超える場合を段差、長距離センサ14で測定された距離L1の変化量が所定の閾値を超える場合を傾斜として検出する。
【0021】
なお、長距離センサ14が測定する距離L1は、長距離センサ14の照射位置を通り、進行方向Xに垂直な直線から第1線状位置LN1までの距離に換算した値の平均値としている。同様に、短距離センサ16が測定する距離L2は、短距離センサ16の照射位置を通り、進行方向Xに垂直な直線から第2線状位置LN2までの距離に換算した値の平均値としている。
【0022】
また、長距離センサ14及び短距離センサ16は、それぞれ換算した第1線状位置LN1及び第2線状位置LN2までの距離分布を記憶し、特に車輪12の進行方向Xの距離の変化量が所定の閾値超える場合、車輪12の進行方向Xに開口101があると検出する。
【0023】
なお、長距離センサ14及び短距離センサ16のスキャンは、少なくとも車輪12が走行する走行面Gの幅W分であればよい。
【0024】
(検出動作)
まず、段差を検出する場合について説明する。
図3(a)は段差を検出する前、
図3(b)は段差を検出した後の状態を示したものである。この
図3に示すように、短距離センサ16で測定される距離L2は、段差Dを通過した瞬間に大きく変化する。検出部18は、この変化量が所定の閾値を超える場合に大きな段差として検出する。
【0025】
次に、傾斜を検出する場合について説明する。
図4(a)は傾斜を検出する前、
図4(b)は傾斜を検出した後の状態を示したものである。この
図4に示すように、長距離センサ14で測定される距離L1は、水平な走行面Gから傾斜路S(スロープ)に入った場合にわずかに変化する。検出部は、この変化量が所定の閾値を超える場合に傾斜路(スロープ)または小さな段差として検出する。
【0026】
次に、開口101を検出する場合について説明する。
図2に示すように、車輪12の進行方向Xの走行面G上に開口101が存在する場合、長距離センサ14及び短距離センサ16が測定する第1線状位置LN1及び第2線状位置LN2までの距離の一部が大きく変化する。
図2では、車輪12の進行方向Xの距離の変化量が、大きく変化する。検出部18は、一部の第1線状位置LN1及び第2線状位置LN2までの距離の変化量が所定の閾値を超える場合に開口101を検出する。なお、検出部18は、開口101以外の突起を検出することもできる。
【0027】
このように、本実施の形態では、短距離センサ16で測定された距離L2の急激な変化から大きな段差を検出し、長距離センサ14で測定された距離L1のわずかな変化から小さな段差や傾斜路を検出する。また、第1線状位置LN1あるいは第2線状位置LN2の一部の距離L1,L2の急激な変化から開口を検出する。したがって、本実施の形態によれば、車輪12から距離センサ(長距離センサ14、短距離センサ16)までの距離が短い場合でも、段差、傾斜、開口を区別して検出することができる。また、2つのレーザスキャン方式の距離センサという簡単な構成で実現することができる。
【0028】
(台車)
図1に示すように、本発明に係る台車100は、車輪12と、進行方向状態検出装置10と、台車100の走行速度などを制御する制御部20とを備えている。車輪12は、図示しないホイールとその外周に装着されたゴム製のタイヤにより構成されている。
【0029】
台車100は、平面視で矩形状の台車本体22を備えており、車輪12はその下面の四隅に設けられている。
図1及び
図2の例では台車100の前側の車輪12のみを示し、他の車輪12については図示を省略している。台車100の後側左右の車輪12は走行用の駆動輪、前側左右の車輪12は操舵輪である。なお、本発明はこれに限るものではなく、台車100の前後のいずれか一方を駆動と操舵が可能な駆動操舵輪、他方を操舵輪で構成してもよいし、台車100に備わる全ての車輪12が駆動操舵輪であってもよい。さらに、台車100に備わる車輪12の数は4輪に限るものではなく、これ以外の複数輪であってもよい。
【0030】
制御部20は、長距離センサ14および短距離センサ16の測定値に基づいて、図示しない走行モータの回転数を制御することによって、走行モータによる車輪12(駆動輪)の回転駆動を制御し、台車100の走行速度を制御する。より具体的には、この制御部20は、長距離センサ14で一定の時間ごとに連続して測定された距離L1の変化量が所定の第1閾値を超えた場合に、台車100の走行速度を減速させる制御を行う。さらに、この場合において、短距離センサ16で一定の時間ごとに連続して測定された距離L2の変化量が所定の第2閾値を超えたときには、台車100の走行を停止させる制御を行う。なお、第2閾値は第1閾値よりも大きい閾値である。また、制御部20は、長距離センサ14が一定時間ごとに連続して測定された距離L1であって、少なくとも一方の車輪12の進行方向Xに対応する部分の距離L1が第1閾値を超える場合に、台車100の走行速度を減速させる制御を行い、短距離センサ16が一定時間ごとに連続して測定された距離L2であって、少なくとも一方の車輪12の進行方向Xに対応する部分の距離L2が第2閾値を超える場合に、台車100の走行を停止させる制御を行う。
【0031】
このため、本実施の形態の長距離センサ14は減速用距離センサとして機能し、短距離センサ16は停止用距離センサとして機能する。ここで、減速とは、例えば台車100が速度30km/hで走行していた場合、15km/hで走行するように、台車100の走行速度を低速にすることであり、台車100の速度を漸次減少させることではない。
【0032】
上記構成の動作および作用について、第1閾値を30mm、第2閾値を80mmに設定した場合を例にとり説明する。
【0033】
図4に示すように、長距離センサ14で測定された距離L1の変化量が第1閾値(30mm)を超えた場合には、進行方向状態検出装置10の検出部18が小さな段差やスロープ、開口として検出する。これを検出した時点で制御部20は台車100の減速制御を行い、台車100の走行速度を比較的短い距離で停止可能な速度に落とす。第1閾値(30mm)を超えない場合には速度を維持する。
【0034】
一方、
図3に示すように、短距離センサ16で測定された距離L2の変化量が第2閾値(80mm)を超えた場合には、進行方向状態検出装置10の検出部18が大きな段差あるいは開口として検出する。これを検出した時点で制御部20は台車100の走行を停止(非常停止)する制御を行う。第2閾値(80mm)を超えない場合には、減速したままの速度を維持する。
【0035】
したがって、本実施の形態によれば、傾斜角の大きい傾斜路S(スロープ)や段差D、さらには開口101のある走行面Gを台車100が走行する場合において、車輪12が傾斜路S(スロープ)や段差D、開口101に至る前に事前にそれを検出することができる。そして、傾斜路S(スロープ)を検出した場合は減速して走行を継続し、段差Dや開口101を検出した場合は走行を停止(非常停止)するといった動作が可能となる。このため、車輪12から距離センサ(長距離センサ14、短距離センサ16)までの距離が短い場合でも、台車100の移動速度を走行全般にわたって落とす必要がなくなり、台車100の搬送効率を向上することができる。
【符号の説明】
【0036】
10 進行方向状態検出装置
12 車輪
14 長距離センサ(第1距離センサ)
16 短距離センサ(第2距離センサ)
18 検出部
20 制御部
22 台車本体
100 台車
101 開口
D 段差
G 走行面
L1,L2 距離
LN1 第1線状位置
LN2 第2線状位置
P 接地点
S 傾斜路(スロープ)
X 進行方向
W 幅