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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-24
(45)【発行日】2023-12-04
(54)【発明の名称】ポリシロキサン系樹脂およびその利用
(51)【国際特許分類】
   C08F 290/14 20060101AFI20231127BHJP
   C08L 33/14 20060101ALI20231127BHJP
   C08F 230/08 20060101ALI20231127BHJP
   C08G 77/20 20060101ALI20231127BHJP
【FI】
C08F290/14
C08L33/14
C08F230/08
C08G77/20
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019163333
(22)【出願日】2019-09-06
(65)【公開番号】P2021042279
(43)【公開日】2021-03-18
【審査請求日】2022-07-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】横井 宙是
(72)【発明者】
【氏名】深海 洋樹
(72)【発明者】
【氏名】松尾 陽一
【審査官】中落 臣諭
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-224127(JP,A)
【文献】特表2010-500436(JP,A)
【文献】特開2004-075755(JP,A)
【文献】特表2015-505338(JP,A)
【文献】特開2018-184621(JP,A)
【文献】特表2017-523981(JP,A)
【文献】特開2016-169327(JP,A)
【文献】特開平08-134308(JP,A)
【文献】特開2009-197042(JP,A)
【文献】特開2000-169510(JP,A)
【文献】特開平08-120085(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F2/00-301/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラジカル重合性不飽和基を有するオルガノポリシロキサン化合物(A)と、
酸と塩基からなる塩構造を有し、かつラジカル重合性基を有する単量体(B)と、
任意で、前記(A)および(B)以外の、ラジカル重合性基を有する単量体(C)と、
を共重合する工程を含み、
さらに、アルコキシシラン化合物と、ラジカル重合性不飽和基を有するアルコキシシラン化合物と、を縮合させて、前記ラジカル重合性不飽和基を有するオルガノポリシロキサン化合物(A)を取得する工程を含み、
前記アルコキシシラン化合物は、下記一般式(I):
-(Si(OR 4-a ) (I)
(式中、R は炭素数1~10のアルキル基、または非置換もしくは置換アリール基であり、R はそれぞれ独立して水素原子または炭素数1~10のアルキル基であり、aは0~3の整数である。)
で表される、加水分解性シリル基を有する化合物であり、
前記ラジカル重合性不飽和基を有するアルコキシシラン化合物は、下記一般式(II):
-(Si(OR 4-b ) (II)
(式中、R は重合性不飽和基を有する炭素数1~10の置換アルキル基、アルケニル基、または重合性不飽和基を有しかつ任意にそれ以外の置換基を有しても良いアリール基であり、R はそれぞれ独立して水素原子または炭素数1~10のアルキル基であり、bは1~3の整数である。)
で表される、加水分解性シリル基を有する化合物であり、
前記ラジカル重合性不飽和基を有するアルコキシシラン化合物が、全アルコキシシラン化合物に対して、2~8重量%であり、
前記単量体(B)は、スルホエチルメタクリル酸ナトリウム、アクリルアミド-tブチルスルホン酸ナトリウム、2-(メタクリロイルオキシ)エタンスルホン酸ナトリウム、2-(メタクリロイルオキシ)ポリアルキレンオキシドスルホン酸ナトリウム、アクリルアミド-tブチルスルホン酸ナトリウム、2-(メタクリロイルオキシ)エタンスルホン酸カリウム、2-(メタクリロイルオキシ)ポリアルキレンオキシドスルホン酸カリウム、アクリルアミド-tブチルスルホン酸カリウム、2-(メタクリロイルオキシ)エタンスルホン酸カルシウム、2-(メタクリロイルオキシ)ポリアルキレンオキシドスルホン酸カルシウム、アクリルアミド-tブチルスルホン酸カルシウム、スルホエチルメタクリル酸アンモニウム、アクリルアミド-tブチルスルホン酸アンモニウム、2-(メタクリロイルオキシ)エタンスルホン酸アンモニウム、2-(メタクリロイルオキシ)ポリアルキレンオキシドスルホン酸アンモニウム、アクリルアミド-tブチルスルホン酸アンモニウム、アクリル酸ナトリウム、アクリル酸カリウム、アクリル酸カルシウム、アクリル酸アンモニウム、メタクリル酸ナトリウム、メタクリル酸カリウム、メタクリル酸カルシウムおよびメタクリル酸アンモニウムからなる群から選択される1種以上である、ポリシロキサン系樹脂の製造方法。
【請求項2】
前記共重合が非水系溶媒中で行われる、請求項1に記載のポリシロキサン系樹脂の製造方法。
【請求項3】
さらに、前記共重合する工程の後に、前記非水系溶媒を水系溶媒に置換する工程を含む、請求項2に記載のポリシロキサン系樹脂の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリシロキサン系樹脂およびその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
高い耐久性を示す塗膜が得られる塗料として、ポリシロキサンを含む塗料が知られている。例えば、特許文献1には、加水分解性シリル基を有する重合体と、珪素原子に結合した水酸基を有するポリシロキサンとを縮合反応させて得られる樹脂と、硬化触媒とを含有する硬化性樹脂組成物(塗料)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平9-176489号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した特許文献1は、有機溶剤を用いた塗料である。しかし、近年、塗料の分野においても、公害対策および省資源の観点より、有機溶剤を使用するものから、水溶性あるいは水分散性樹脂への転換が試みられている。
【0005】
一方、水性塗料として、アクリルシリコン樹脂を含む塗料が知られている。アクリルシリコン樹脂を含む塗料から得られる塗膜は耐候性に優れるものであるが、昨今の市場ニーズとして、より高い耐候性の塗料の開発が要望されている。
【0006】
本発明は、上記問題点に鑑みなされたものであり、その目的は、水性塗料として使用可能であって、かつ耐候性に優れた塗膜が得られる、新規のポリシロキサン系樹脂およびその利用技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、ポリシロキサン系樹脂において、酸と塩基からなる塩構造を付加することにより、水溶性のポリシロキサン系樹脂が得られること、および当該ポリシロキサン系樹脂を水性塗料として使用した場合に耐候性に優れた塗膜が得られること、を初めて見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
したがって、本発明の一態様は、以下の構成を包含する。
<1>構成単位として、ラジカル重合性基を有する単量体に由来する構成単位を含む重合体を有し、
さらに、酸と塩基からなる塩構造を有する、
ポリシロキサン系樹脂。
<2>ラジカル重合性不飽和基を有するオルガノポリシロキサン化合物(A)に由来する構成単位(a)と、
酸と塩基からなる塩構造を有し、かつラジカル重合性基を有する単量体(B)に由来する構成単位(b)と、
任意で、前記(A)および(B)以外の、ラジカル重合性基を有する単量体(C)に由来する構成単位(c)と、
を含む、<1>に記載のポリシロキサン系樹脂。
<3>前記構成単位(b)が、前記(a)~(c)の全量に対して、2重量%以上である、<2>に記載のポリシロキサン系樹脂。
<4><1>~<3>のいずれかに記載のポリシロキサン系樹脂を含み、
前記ポリシロキサン系樹脂が、水に均一に分散または可溶な状態となっている水溶液。
<5><1>~<3>のいずれかに記載のポリシロキサン系樹脂を含む、樹脂組成物。
<6>前記ポリシロキサン系樹脂に対して、水が30重量%以上、かつ非水系溶媒が10重量%以下の割合で含まれる、<5>に記載の樹脂組成物。
<7>ラジカル重合性不飽和基を有するオルガノポリシロキサン化合物(A)と、
酸と塩基からなる塩構造を有し、かつラジカル重合性基を有する単量体(B)と、
任意で、前記(A)および(B)以外の、ラジカル重合性基を有する単量体(C)と、
を共重合する工程を含む、ポリシロキサン系樹脂の製造方法。
<8>前記共重合が非水系溶媒中で行われる、<7>に記載のポリシロキサン系樹脂の製造方法。
<9>さらに、前記共重合する工程の後に、前記非水系溶媒を水系溶媒に置換する工程を含む、<7>または<8>に記載のポリシロキサン系樹脂の製造方法。
<10>さらに、アルコキシシラン化合物と、ラジカル重合性不飽和基を有するアルコキシシラン化合物と、を縮合させて、前記ラジカル重合性不飽和基を有するオルガノポリシロキサン化合物(A)を取得する工程を含む、<7>~<9>のいずれかに記載のポリシロキサン系樹脂の製造方法。
【0009】
また、本発明の別の一態様は、以下の構成を包含する。
<11>前記縮合に使用する水のモル数が、アルコキシシラン化合物とラジカル重合性不飽和基を有するアルコキシシラン化合物との合計モル数に対して、1.0~4.0倍である、<10>に記載のポリシロキサン系樹脂の製造方法。
<12>前記ラジカル重合性不飽和基を有するアルコキシシラン化合物が、全アルコキシシラン化合物に対して、2~10重量%である、<10>または<11>に記載のポリシロキサン系樹脂の製造方法。
<13>前記単量体(B)が、前記(A)~(C)の全量に対して、2重量%以上である、<7>~<12>のいずれかに記載のポリシロキサン系樹脂の製造方法。
<14>前記オルガノポリシロキサン化合物(A)が、前記(A)~(C)の全量に対して、30重量%以上である、<7>~<13>のいずれかに記載のポリシロキサン系樹脂の製造方法。
<15>構成単位として、ラジカル重合性基を有する単量体に由来する構成単位を含む重合体を有し、
さらに、酸と塩基からなる塩構造を有し、
水に均一に分散または可溶である、
ポリシロキサン系樹脂。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一態様によれば、水性塗料として使用可能であって、かつ耐候性に優れた塗膜が得られる、新規のポリシロキサン系樹脂およびその利用技術を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施の一形態について、以下に詳細に説明する。なお、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上、B以下」を意味する。また、本明細書中に記載された文献の全てが、本明細書中において参考文献として援用される。
【0012】
〔1.本発明の概要〕
従来、ポリシロキサン系樹脂は水に不溶または均一に分散しない性質のため、水性塗料用組成物とすることは困難であった。一方、水性塗料として利用可能なアクリルシリコン樹脂は、耐候性に限界があることがわかった。その理由として、アクリルシリコン樹脂は、その主骨格となる主鎖が比較的結合エネルギーの低いアクリルから構成されており、結合エネルギーの高いシロキサンは側鎖として用いられていることに起因すると考えられた。
【0013】
そこで、本発明者は、より高い耐候性能と環境性能を両立させ得る、水性塗料用として利用可能なポリシロキサン系樹脂を開発すべく、鋭意検討した。その結果、酸と塩基からなる塩構造を、側鎖としてポリシロキサン系樹脂に導入することにより、水系溶媒に均一に分散または可溶なポリシロキサン系樹脂の開発に成功した。また、このポリシロキサン系樹脂を水性塗料とした場合、得られた塗膜は、耐候性試験において、従来のアクリルシリコン樹脂に比べて、高い耐候性を示す。
【0014】
〔2.ポリシロキサン系樹脂〕
本発明の一実施形態に係るポリシロキサン系樹脂(以下、「本ポリシロキサン系樹脂」と称する。)は、構成単位として、ラジカル重合性基を有する単量体に由来する構成単位を含む重合体を有し、さらに、酸と塩基からなる塩構造を有することを特徴とする。
【0015】
本ポリシロキサン系樹脂は、上記のような特徴的な構成を有することにより、水性塗料として使用可能であって、かつかかるポリシロキサン系樹脂を水性塗料として用いた場合に、得られる塗膜が耐候性に優れる。
【0016】
また、本ポリシロキサン系樹脂は、上記のような性能を有することから、以下のように表現することもできる。
【0017】
構成単位として、ラジカル重合性基を有する単量体に由来する構成単位を含む重合体を有し、さらに、酸と塩基からなる塩構造を有し、水に均一に分散または可溶である、ポリシロキサン系樹脂。
【0018】
本明細書において「ポリシロキサン系樹脂」とは、主成分としてポリシロキサン構造を含む樹脂を意味する。ポリシロキサン系樹脂としては、上記定義を満たすものであれば特に限定されないが、例えば、下記一般式(1)で示される単独の化合物での加水分解縮合または下記一般式(1)で示される複数の化合物での共加水分解縮合により得られるポリシロキサン系樹脂等が挙げられる。
【0019】
Si(OR4-n (1)
(式中、Rはそれぞれ独立して、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、ハロゲン置換炭化水素基、エポキシ基含有炭化水素基、(メタ)アクリロイル基含有炭化水素基、またはアミノ基含有炭化水素基であり、Rはそれぞれ独立して水素原子または炭素数1~10のアルキル基であり、nは0~3の整数である。)
本発明の一実施形態において、ポリシロキサン系樹脂は、上記一般式(1)において、貯蔵安定性の観点から、好ましくは、Rはアルキル基であり、初期光沢値の観点から、n=1~2が好ましく、縮合させやすいという観点から、好ましくは、Rはメチル基であり、耐候性の観点から、好ましくは、n=1である。
【0020】
本明細書において「塩構造」とは、酸と塩基とを中和することにより得られる中性塩の構造を意味する。ここで、中和に供される酸は、強酸であってもよいし、弱酸であってもよい。また、中和に供される塩基は、強塩基であってもよいし、弱塩基であってもよい。
【0021】
本発明の一実施形態において、塩構造は、例えば、強酸と強塩基との中性塩の構造、強酸と弱塩基との中性塩の構造、弱酸と強塩基との中性塩の構造、または弱酸と弱塩基との中性塩の構造であり得る。より具体的な塩構造としては、例えば、スルホン酸ナトリウム、スルホン酸カリウム、スルホン酸カルシウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硝酸カルシウム等(強酸と強塩基との中性塩の構造)、スルホン酸アンモニウム、硝酸アンモニウム等(強酸と弱塩基との中性塩の構造)、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸カルシウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸カルシウム等(弱酸と強塩基との中性塩の構造)、酢酸アンモニウム、リン酸アンモニウム等(弱酸と弱塩基との中性塩の構造)等が挙げられる。本発明の一実施形態において、塩構造は、好ましくは、スルホン酸ナトリウムである。
【0022】
本明細書において「水に均一に分散または可溶である」とは、後述する実施例の(水溶液外観)に記載の方法によりポリシロキサン系樹脂を含む溶液を評価したときに、「沈殿物」が生じないものを意味する。換言すれば、「水に均一に分散または可溶である」とは、後述する実施例の(水溶液外観)に記載の方法によりポリシロキサン系樹脂を含む溶液を評価したときに、ポリシロキサン系樹脂を含む溶液が、「無色透明」、「青白透明」または「白色分散」と評価されるものを意味する。
【0023】
本発明の一実施形態において、本ポリシロキサン系樹脂は、ラジカル重合性不飽和基を有するオルガノポリシロキサン化合物(A)に由来する構成単位(a)と、酸と塩基からなる塩構造を有し、かつラジカル重合性基を有する単量体(B)に由来する構成単位(b)と、任意で、前記(A)および(B)以外の、ラジカル重合性基を有する単量体(C)に由来する構成単位(c)と、を含むことが好ましい。
【0024】
なお、以下において、「ラジカル重合性不飽和基を有するオルガノポリシロキサン化合物(A)に由来する構成単位(a)」を、単に「構成単位(a)」と称し、「酸と塩基からなる塩構造を有し、かつラジカル重合性基を有する単量体(B)に由来する構成単位(b)」を、単に「構成単位(b)」と称し、「前記(A)および(B)以外の、ラジカル重合性基を有する単量体(C)に由来する構成単位(c)」を、単に「構成単位(c)」と称する。また、以下において、「ラジカル重合性不飽和基を有するオルガノポリシロキサン化合物(A)」を、単に「オルガノポリシロキサン化合物(A)」と称し、「酸と塩基からなる塩構造を有し、かつラジカル重合性基を有する単量体(B)」を、単に「単量体(B)」と称し、「前記(A)および(B)以外の、ラジカル重合性基を有する単量体(C)」を、単に「単量体(C)」と称する。
【0025】
(構成単位(a))
構成単位(a)は、ラジカル重合性不飽和基を有するオルガノポリシロキサン化合物(A)に由来する構成単位からなる。構成単位(a)が由来するオルガノポリシロキサン化合物(A)は、アルコキシシラン化合物と、ラジカル重合性不飽和基を有するアルコキシシラン化合物とを縮合させて得られる。以下、アルコキシシラン化合物およびラジカル重合性不飽和基を有するアルコキシシラン化合物について説明する。
【0026】
アルコキシシラン化合物は、下記一般式(I):
-(Si(OR4-a) (I)
(式中、Rは炭素数1~10のアルキル基、または非置換もしくは置換アリール基であり、Rはそれぞれ独立して水素原子または炭素数1~10のアルキル基であり、aは0~3の整数である。)
で表される、加水分解性シリル基を有する化合物である。
【0027】
ラジカル重合性不飽和基を有するアルコキシシラン化合物は、下記一般式(II):
-(Si(OR4-b) (II)
(式中、Rは重合性不飽和基を有する炭素数1~10の置換アルキル基、アルケニル基、または重合性不飽和基を有しかつ任意にそれ以外の置換基を有しても良いアリール基であり、Rはそれぞれ独立して水素原子または炭素数1~10のアルキル基であり、bは1~3の整数である。)
で表される、加水分解性シリル基を有する化合物である。
【0028】
一般式(I)のRにおけるアルキル基の具体例としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、アミル基、イソアミル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、シクロヘキシルメチル基、シクロヘキシルエチル基、ヘプチル基、イソヘプチル基、n-オクチル基、イソオクチル基、2-エチルヘキシル基等が挙げられる。
【0029】
一般式(I)のRは水素原子または炭素数1~10のアルキル基であり、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等が挙げられる。
【0030】
一般式(I)で表される具体的な化合物としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリイソプロポキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、エチルトリイソプロポキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、プロピルトリイソプロポキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、ブチルトリエトキシシラン、ブチルトリイソプロポキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、ヘキシルトリイソプロポキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、オクチルトリイソプロポキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルトリイソプロポキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、トリメチルモノメトキシシラン、トリフェニルモノメトキシシラン等が挙げられる。
【0031】
特に、入手性の観点から好適な化合物としては、メチルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシランが挙げられる。
【0032】
アルコキシシラン化合物と、ラジカル重合性不飽和基を有するアルコキシシラン化合物とを縮合させやすいという観点から、一般式(I)におけるRのアルキル基の炭素数は1~3が好ましく、最も好ましくは1である。
【0033】
一般式(II)のRは、ラジカル重合性不飽和基を有する炭素数1~10の置換アルキル基、アルケニル基、ラジカル重合性不飽和基を有する非置換または置換アリール基である。ラジカル重合性不飽和基としては、例えば、(メタ)アクリロイル基等が挙げられる。
【0034】
がラジカル重合性不飽和基を有するアルキル基であるシラン化合物としては、例えば、(メタ)アクリロキシメチルトリメトキシシラン、(メタ)アクリロキシメチルメチルジメトキシシラン、(メタ)アクリロキシメチルジメチルメトキシシラン、(メタ)アクリロキシメチルトリエトキシシラン、(メタ)アクリロキシメチルメチルジエトキシシラン、(メタ)アクリロキシメチルジメチルエトキシシラン、2-(メタ)アクリロキシエチルトリメトキシシラン、2-(メタ)アクリロキシエチルメチルジメトキシシラン、2-(メタ)アクリロキシエチルジメチルメトキシシラン、2-(メタ)アクリロキシエチルトリエトキシシラン、2-(メタ)アクリロキシエチルメチルジエトキシシラン、2-(メタ)アクリロキシエチルジメチルエトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルジメチルメトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルジメチルエトキシシラン、4-(メタ)アクリロキシブチルトリメトキシシラン、4-(メタ)アクリロキシブチルメチルジメトキシシラン、4-(メタ)アクリロキシブチルジメチルメトキシシラン、4-(メタ)アクリロキシブチルトリエトキシシラン、4-(メタ)アクリロキシブチルメチルジエトキシシラン、4-(メタ)アクリロキシブチルジメチルエトキシシラン、5-(メタ)アクリロキシペンチルトリメトキシシラン、5-(メタ)アクリロキシペンチルメチルジメトキシシラン、5-(メタ)アクリロキシペンチルジメチルメトキシシラン、5-(メタ)アクリロキシペンチルトリエトキシシラン、5-(メタ)アクリロキシペンチルメチルジエトキシシラン、5-(メタ)アクリロキシペンチルジメチルエトキシシラン、6-(メタ)アクリロキシヘキシルトリメトキシシラン、6-(メタ)アクリロキシヘキシルメチルジメトキシシラン、6-(メタ)アクリロキシヘキシルジメチルメトキシシラン、6-(メタ)アクリロキシヘキシルトリエトキシシラン、6-(メタ)アクリロキシヘキシルメチルジエトキシシラン、6-(メタ)アクリロキシヘキシルジメチルエトキシシラン等が挙げられる。
【0035】
がアルケニル基であるシラン化合物としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルジメチルメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシラン、ビニルジメチルエトキシシラン等が挙げられる。
【0036】
が重合性不飽和基を有しかつ任意にそれ以外の置換基を有しても良いアリール基であるシラン化合物としては、例えば、p-スチリルトリメトキシシラン、p-スチリルメチルジメトキシシラン、p-スチリルジメチルメトキシシラン、p-スチリルトリエトキシシラン、p-スチリルメチルジエトキシシラン、p-スチリルジメチルエトキシシラン等が挙げられる。
【0037】
これらの中でも、熱ラジカル重合反応性の点から、Rとしては、(メタ)アクリロイル基置換アルキル基が好ましい。
【0038】
一般式(II)のRは水素原子または炭素数1~10のアルキル基であり、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等が挙げられる。
【0039】
アルコキシシラン化合物と、ラジカル重合性不飽和基を有するアルコキシシラン化合物とを縮合させやすいという観点から、一般式(II)におけるRのアルキル基の炭素数は1~3が好ましく、最も好ましくは1である。
【0040】
アルコキシシラン化合物と、ラジカル重合性不飽和基を有するアルコキシシラン化合物とを縮合させるために添加する水のモル数は、アルコキシシラン化合物とラジカル重合性不飽和基を有するアルコキシシラン化合物との合計モル数に対して、例えば、1.0倍であり得る。水のモル数が、アルコキシシラン化合物とラジカル重合性不飽和基を有するアルコキシシラン化合物との合計モル数に対して、1.0倍よりも少ない場合には、アルコキシシラン化合物と、ラジカル重合性不飽和基を有するアルコキシシラン化合物とを縮合反応が完結せず、一部が高分子量化せずに残存する。このため、反応過程で発生したアルコールの除去工程である減圧蒸留工程においてアルコキシシラン化合物およびラジカル重合性不飽和基を有するアルコキシシラン化合物が揮発し、ロスを生じる。また、アルコキシシリル基を加水分解して生じるシラノール基は、シラノール基との脱水縮合やアルコキシシリル基との脱アルコール縮合を生じるために、オルガノポリシロキサン化合物の貯蔵安定性を下げる要因となる。一方、シラノール基はアルコール等の親水性溶媒と溶媒和するため、一定量以上のシラノール基は、オルガノポリシロキサン化合物の貯蔵安定性を向上させる効果もある。さらには減圧蒸留工程において濃縮されたときにオルガノポリシロキサン化合物はゲル化し易いため、高濃度まで濃縮することができないおそれがある。この観点から、添加する水のモル数は、アルコキシシラン化合物とラジカル重合性不飽和基を有するアルコキシシラン化合物との合計モル数に対して、1.5倍以上がより好ましい。
【0041】
添加する水のモル数は、多い分には特に制限は無いが、製造するときの固形分濃度が下がることで製造コストが上昇するため、アルコキシシラン化合物とラジカル重合性不飽和基を有するアルコキシシラン化合物との合計モル数に対して、4.0倍以下に抑えることが好ましい。これらの観点を踏まえ、添加する水のモル数は、アルコキシシラン化合物とラジカル重合性不飽和基を有するアルコキシシラン化合物との合計モル数に対して、1.0~4.0倍が好ましく、1.5~3.0倍がさらに好ましく、2.0~2.5倍が特に好ましい。
【0042】
アルコキシシラン化合物と、ラジカル重合性不飽和基を有するアルコキシシラン化合物とを縮合させるときの上記ラジカル重合性不飽和基を有するアルコキシシラン化合物の量は、アルコキシシラン化合物およびラジカル重合性不飽和基を有するアルコキシシラン化合物の総重量に対して(全アルコキシシラン化合物に対して)、例えば、2~10重量%であり、好ましくは、3~8重量%であり、より好ましくは、4~6重量%である。ラジカル重合性不飽和基を有するアルコキシシラン化合物の量が上記範囲内であると、構成単位(b)との十分なグラフト重合により、水に均一に分散または可溶となり、かつ、オルガノポリシロキサン化合物(A)間での自己重合によるゲル化を防ぐ効果を奏する。
【0043】
アルコキシシラン化合物と、ラジカル重合性不飽和基を有するアルコキシシラン化合物とを縮合させるときには、反応速度を向上させる目的で触媒を添加することが好ましい。アルコキシシリル基の加水分解および縮合の触媒としては、酸性触媒、塩基性触媒等が利用可能である。
【0044】
酸性触媒としては、オルガノポリシロキサン化合物や希釈溶剤との相溶性から、有機酸が好ましく、リン酸エステルやカルボン酸を好適に用いることができる。有機酸の具体例としては、例えば、エチルアシッドホスフェート、ブチルアシッドホスフェート、ジブチルピロホスフェート、ブトキシエチルアシッドホスフェート、2-エチルヘキシルアシッドホスフェート、イソトリデシルアシッドホスフェート、ジブチルホスフェート、ビス(2-エチルヘキシル)ホスフェート、ギ酸、酢酸、酪酸、イソ酪酸等が挙げられる。また、塩基性触媒としては、オルガノポリシロキサン化合物や希釈溶剤との相溶性から、有機塩基触媒が好ましく、アミン化合物を好適に用いることができる。有機塩基の具体例としては、例えば、トリエチルアミン、ジアザビシクロウンデセン、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン等が挙げられる。触媒の添加量は、アルコキシシラン化合物およびラジカル重合性不飽和基を有するアルコキシシラン化合物に対して0.1ppm~50000ppmが好ましく、1ppm~10000ppmがより好ましく、5ppm~1000ppmが特に好ましく、10ppm~500ppmが最も好ましい。触媒の添加量が0.1ppm未満である場合には、触媒として殆ど作用しない。触媒は、多いと反応時間を短縮することができるものの、反応終了後にオルガノポリシロキサン化合物から分離除去することが容易ではないことが多い。残存した触媒はオルガノポリシロキサン化合物(A)、本ポリシロキサン系樹脂の貯蔵安定性を低下させることがあるため、製造時間との兼ね合いもあるが、実用面を考えると少ない程、好適である。
【0045】
また、製造時に希釈溶剤を用いてもよい。アルコキシシラン化合物およびラジカル重合性不飽和基を有するアルコキシシラン化合物は疎水性であり、反応時に水を使用することから、希釈溶剤は水溶性であることが好ましい。希釈溶剤の使用量に制限は無いが、多くなると得られるオルガノポリシロキサン化合物(A)の濃度が低くなるため、生産コストの面から好ましくない。オルガノトリアルコキシシランの有機基の炭素数が3以上である場合には、得られるオルガノポリシロキサン化合物(A)が、製造時に発生するアルコール(メタノール、エタノール、プロパノール)に相溶しないことが多いため、希釈溶剤を用いて相溶系で反応させることが好ましい。この観点から、希釈溶剤としては、炭素数が4以上である親水性溶剤が好適である。炭素数が3以下である場合には、上述したようにオルガノポリシロキサン化合物(A)に対する溶解性が不十分になることがある。希釈溶剤の具体例としては、例えば、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノイソブチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル等が挙げられる。これらの中でも、本ポリシロキサン系樹脂の製造後や塗膜の形成時に揮発させる必要性を考慮すると、大気圧下における沸点が150℃以下である希釈溶剤が好ましく、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテルが特に好ましい。
【0046】
本発明の一実施形態において、構成単位(a)の含有量は、例えば、上記(a)~(c)の全量に対して、30重量%以上であり、好ましくは、35重量%以上であり、より好ましくは、40重量%以上であり、特に好ましくは、43重量%以上であり、とりわけ好ましくは、45重量%以上である。構成単位(a)の含有量が上記範囲内であると、塗料として用いた際に高耐候性の効果を奏する。また、構成単位(a)の含有量の上限は、本発明の効果を奏する限り特に限定されないが、例えば、95重量%以下であり、好ましくは、90重量%以下であり、より好ましくは、85重量%以下である。
【0047】
(構成単位(b))
構成単位(b)は、酸と塩基からなる塩構造を有し、かつラジカル重合性基を有する単量体(B)に由来する構成単位からなる。構成単位(b)が由来する単量体(B)は、オルガノポリシロキサン化合物(A)および/または単量体(C)とのラジカル重合により結合し、構成単位(a)および/または構成単位(c)に結合する。
【0048】
構成単位(b)が由来する単量体(B)が、酸と塩基からなる塩構造を有することにより、本ポリシロキサン系樹脂は、水に均一に分散または可溶である。
【0049】
単量体(B)中のラジカル重合性不飽和基は、オルガノポリシロキサン化合物(A)および単量体(C)とのラジカル重合に寄与し得るものであれば特に限定されない。単量体(B)中のラジカル重合性不飽和基としては、例えば、(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリルアミド基、ビニル基等が挙げられる。
【0050】
本発明の一実施形態において、単量体(B)中のラジカル重合性不飽和基は、好ましくは、(メタ)アクリロイル基および(メタ)アクリルアミド基の少なくともいずれか一方のラジカル重合性不飽和基であり得る。
【0051】
構成単位(b)が由来する単量体(B)としては、酸と塩基からなる塩構造を有し、かつラジカル重合性基を有する単量体であれば特に限定されないが、例えば、スルホエチルメタクリル酸ナトリウム、アクリルアミド-tブチルスルホン酸ナトリウム、2-(メタクリロイルオキシ)エタンスルホン酸ナトリウム、2-(メタクリロイルオキシ)ポリアルキレンオキシドスルホン酸ナトリウム、アクリルアミド-tブチルスルホン酸ナトリウム、2-(メタクリロイルオキシ)エタンスルホン酸カリウム、2-(メタクリロイルオキシ)ポリアルキレンオキシドスルホン酸カリウム、アクリルアミド-tブチルスルホン酸カリウム、2-(メタクリロイルオキシ)エタンスルホン酸カルシウム、2-(メタクリロイルオキシ)ポリアルキレンオキシドスルホン酸カルシウム、アクリルアミド-tブチルスルホン酸カルシウム、スルホエチルメタクリル酸アンモニウム、アクリルアミド-tブチルスルホン酸アンモニウム、2-(メタクリロイルオキシ)エタンスルホン酸アンモニウム、2-(メタクリロイルオキシ)ポリアルキレンオキシドスルホン酸アンモニウム、アクリルアミド-tブチルスルホン酸アンモニウム、アクリル酸ナトリウム、アクリル酸カリウム、アクリル酸カルシウム、アクリル酸アンモニウム、メタクリル酸ナトリウム、メタクリル酸カリウム、メタクリル酸カルシウム、メタクリル酸アンモニウム等が挙げられる。
【0052】
また、構成単位(b)が由来する単量体(B)は、市販品として入手することができる。そのような市販品としては、例えば、日本乳化剤(株)製の「アントックスMS-2N-D」、東亞合成(株)製の「ATBS-Na」、三洋化成工業製の「エレミノールRS-3000」、浅田化学工業(株)製の「アクリル酸ナトリウム」、「アクリル酸カリウム」等が挙げられる。
【0053】
本発明の一実施形態において、構成単位(b)の含有量は、例えば、上記(a)~(c)の全量に対して、2重量%以上であり、好ましくは、2.3重量%以上であり、より好ましくは、2.5重量%以上であり、特に好ましくは、2.7重量%以上であり、とりわけ好ましくは、2.9重量%以上である。構成単位(b)の含有量が上記範囲内であると、水に均一に分散または可溶化する効果を奏する。また、構成単位(b)の含有量の上限は、本発明の効果を奏する限り特に限定されないが、例えば、50重量%以下であり、好ましくは、30重量%以下であり、より好ましくは、20重量%以下である。
【0054】
(構成単位(c))
構成単位(c)は、上記(A)および(B)以外の、ラジカル重合性不飽和基を有する単量体(C)に由来する構成単位からなる。構成単位(c)が由来する単量体(C)は、オルガノポリシロキサン化合物(A)および/または単量体(B)とのラジカル重合により結合し、構成単位(a)および/または構成単位(b)に結合する。
【0055】
構成単位(c)が由来する単量体(C)としては、上記(A)および(B)以外の、ラジカル重合性不飽和基を有する単量体であれば特に限定されないが、例えば、以下で示すような(メタ)アクリル酸アルキルエステル、および(メタ)アクリル酸アルキルエステル以外の単量体が挙げられる。
【0056】
<(メタ)アクリル酸アルキルエステル>
本発明の一実施形態において、(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、炭素数1~18個のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルであり、水酸基、エポキシ基等の官能基を含まない(メタ)アルキル単量体であり得る。本発明の一実施形態において、(メタ)アクリル酸アルキルエステル中のアルキル基は、直鎖状であっても分岐状であってもよく、また、環状であるシクロアルキル基であってもよい。その具体例としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、iso-ブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)メタクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソボニル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0057】
<(メタ)アクリル酸アルキルエステル以外の単量体>
(メタ)アクリル酸アルキルエステル以外の単量体としては、例えば、(メタ)アクリロニトリル等のニトリル基含有ラジカル重合性単量体;グリシジル(メタ)アクリレート等のエポキシ基含有ラジカル重合性単量体;2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート;2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート;2-スルホエチルメタクリレートナトリウム、2-スルホエチルメタクリレートアンモニウム、ポリオキシアルキレン鎖を有するラジカル重合性単量体等の親水性を有するラジカル重合性単量体;ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート等の重合性の不飽和結合を2つ以上有する単量体;トリフルオロ(メタ)アクリレート、ペンタフルオロ(メタ)アクリレート、パーフルオロシクロヘキシル(メタ)アクリレート、2,2,3,3-テトラフルオロプロピルメタクリレート、β-(パーフルオロオクチル)エチル(メタ)アクリレート等のふっ素含有ラジカル重合性単量体;等が挙げられる。
【0058】
また、上記ポリオキシアルキレン鎖を有するラジカル重合性単量体としては、特に限定されないが、ポリオキアルキレン鎖を有するアクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステルが好ましい。その具体例としては、例えば、日本油脂(株)製ブレンマーPE-90、PE-200、PE-350、AE-90、AE-200、AE-350、PP-500、PP-800、PP-1000、AP-400、AP-550、AP-800、700PEP-350B、10PEP-550B、55PET-400、30PET-800、55PET-800、30PPT-800、50PPT-800、70PPT-800、PME-100、PME-200、PME-400、PME-1000、PME-4000、AME-400、50POEP-800B、50AOEP-800B、AEP、AET、APT、PLE、ALE、PSE、ASE、PKE、AKE、PNE、ANE、PNP、ANP、PNEP-600、共栄社化学(株)製ライトエステル130MA、041MA、MTG、ライトアクリレートEC-A、MTG-A、130A、DPM-A、P-200A、NP-4EA、NP-8EA、EHDG-A、日本乳化剤(株)製MA-30、MA-50、MA-100、MA-150、RMA-1120、RMA-564、RMA-568、RMA-506、MPG130-MA、Antox MS-60、MPG-130MA、RMA-150M、RMA-300M、RMA-450M、RA-1020、RA-1120、RA-1820、新中村化学工業(株)製NK-ESTER M-20G、M-40G、M-90G、M-230G、AMP-10G、AMP-20G、AMP-60G、AM-90G、LA等があげられる。
【0059】
本発明の一実施形態において、構成単位(c)の含有量は、例えば、上記(a)~(c)の全量に対して、6重量%以上であり、好ましくは、7重量%以上であり、より好ましくは、8重量%以上である。構成単位(c)の含有量が上記範囲内であると、塗膜に弾性を付与する効果を奏する。また、構成単位(c)の含有量の上限は、本発明の効果を奏する限り特に限定されないが、例えば、50重量%以下であり、好ましくは、48重量%以下であり、より好ましくは、47重量%以下である。
【0060】
また、本ポリシロキサン系樹脂の重量平均分子量は、例えば、1000~1000000であり、好ましくは、3000~100000であり、より好ましくは4000~50000である。本ポリシロキサン系樹脂の重量平均分子量が上記範囲内であれば、耐候性と粘度が両立できる利点を有する。
【0061】
〔3.樹脂組成物〕
本発明の一実施形態に係る樹脂組成物(以下、「本樹脂組成物」と称する。)は上記〔2.ポリシロキサン系樹脂〕に記載のポリシロキサン系樹脂を含む樹脂組成物である。本樹脂組成物は、水性塗料として使用可能であって、かつ水性塗料として用いた場合に、得られる塗膜が耐候性に優れるとの効果を奏するポリシロキサン系樹脂を含むため、とりわけ水性塗料用途において有用である。
【0062】
本樹脂組成物は、上記〔2.ポリシロキサン系樹脂〕に記載のポリシロキサン系樹脂に対して、例えば、水が30重量%以上、かつ非水系溶媒が10重量%以下の割合で、好ましくは、水が35重量%以上、かつ非水系溶媒が5重量%以下の割合で、より好ましくは、水が37重量%以上、かつ非水系溶媒が3重量%以下の割合で含み得る。
【0063】
本明細書において「非水系溶媒」とは、水以外のすべての溶媒を意味する。本明細書における「非水系溶媒」は、水を含む混合溶媒であってもよく、水が50重量%未満の量で含まれる溶媒を含む。非水系溶媒としては、上記定義を満たすものであれば特に限定されないが、例えば、トルエン、キシレン、n-ヘキサン、シクロヘキサン等の炭化水素類;酢酸エチル、酢酸ブチル等の酢酸エステル類;エチルセロソルブ、ブチルセロソロブ等のセロソルブ類;セロソルブアセテート等のエーテルエステル類;メチルエチルケトン、アセト酢酸エチル、アセチルアセトン、メチルイソブチルケトン、アセトン等のケトン類;メタノール、イソプロピルアルコール、n-ブタノール、イソブタノール、ヘキサノール、オクタノール等のアルコール類等が挙げられる。本発明の一実施形態において、非水系溶媒は、好ましくは、アルコール類であり、より好ましくは、イソプロピルアルコールである。
【0064】
また、本樹脂組成物は、〔2.ポリシロキサン系樹脂〕に記載のポリシロキサン系樹脂の他に、硬化触媒を含んでいてもよい。本樹脂組成物を塗装する際に、アルコキシシリル基の加水分解縮合反応を促進させる硬化触媒を添加することにより、架橋反応が促進される。
【0065】
硬化触媒としては、特に限定されないが、例えば、有機金属化合物、酸性触媒、塩基性触媒等が挙げられる。なかでも、活性の観点から、有機錫化合物、酸性リン酸エステル、酸性リン酸エステルとアミン化合物との反応物が好ましい。
【0066】
有機錫化合物としては、例えば、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジマレート、ジブチル錫ジオレイルマレート、ジオクチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジメトキサイド、ジブチル錫チオグリコレート、ジブチル錫ビスイソノニル3-メルカプトプロピオネート、ジブチル錫ビスイソオクチルチオグリコレート、ジブチル錫ビス2-エチルヘキシルチオグリコレート、ジメチル錫ビスドデシルメルカプチド、ジメチル錫ビス(オクチルチオグルコール酸エステル)塩、オクチル酸錫等が挙げられる。
【0067】
なかでも、水中での安定性の観点から、ジブチル錫チオグリコレート、ジブチル錫ビスイソノニル3-メルカプトプロピオネート、ジブチル錫ビスイソオクチルチオグリコレート、ジブチル錫ビス2-エチルヘキシルチオグリコレート、ジメチル錫ビスドデシルメルカプチド、ジブチル錫ビスドデシルメルカプチド、ジメチル錫ビス(オクチルチオグルコール酸エステル)塩等のメルカプチド系のものが好ましい。
【0068】
酸性リン酸エステル化合物としては、例えば、プロピルアシッドホスフェート、ジブチルホスフェート、2-エチルヘキシルアシッドホスフェート、ジ-2-エチルヘキシルホスフェート、モノイソデシルアシッドホスフェート、ジイソデシルホスフェート、ラウリルアシッドホスフェート、ステアリルアシッドホスフェート等が挙げられる。
【0069】
また、上記の酸性リン酸エステル化合物と反応させ得るアミン化合物としては、例えば、トリエチルアミン、n-ブチルアミン、ヘキシルアミン、トリエタノールアミン、ジアザビシクロウンデセン、アンモニア等が挙げられる。
【0070】
本発明の一実施形態において、硬化触媒の添加量は、樹脂組成物の固形分100重量部に対し、0.1~10重量部配合することが好ましく、0.5~5.0重量部がより好ましく、1.0~3.0重量部が特に好ましい。0.1重量部未満では、硬化活性が低く、10重量部を超えると塗料の可使時間が短くなり、また、硬化収縮による割れや硬化物の脆化が起こる。
【0071】
本樹脂組成物は、本発明の効果を奏する範囲で、当該技術分野(とりわけ、塗料の分野)において通常用いられる添加剤を含んでいてもよい。そのような添加剤としては、例えば、料、充填剤、可塑剤、成膜助剤、湿潤・分散剤、増粘剤、消泡剤、防腐剤、酸化防止剤、沈降防止剤、レベリング剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、凍結防止剤、抗菌剤、抗かび剤、粘着付与剤、防錆剤等が挙げられる。添加剤としては、1種のみが含まれていてもよいし、2種以上が含まれていてもよい。これら添加剤の量は、その使用目的に応じて当業者が適宜設定可能である。
【0072】
本発明の一実施形態において、本樹脂組成物の貯蔵安定性は、後述する実施例に記載の方法で測定した場合に、例えば、50℃で2週間以上である。貯蔵安定性が上記範囲内であると、貯蔵安定性に優れる。
【0073】
本発明の一実施形態において、本樹脂組成物を水性塗料として使用した場合の塗膜の光沢値(初期)は、後述する実施例に記載の方法で測定した場合に、例えば、51以上であり、好ましくは、55以上であり、より好ましくは、58以上であり、さらに好ましくは、60以上である。
【0074】
本発明の一実施形態において、本樹脂組成物を水性塗料として使用した場合の塗膜の光沢保持率は、後述する実施例に記載の方法で測定した場合に、例えば、65%以上であり、好ましくは、70%以上であり、より好ましくは、75%以上であり、特に好ましくは、80%以上である。光沢保持率が上記範囲内であると、耐候性が優れる。
【0075】
また、本発明の一実施形態において、上記〔2.ポリシロキサン系樹脂〕に記載のポリシロキサン系樹脂を含む水溶液(以下、「本水溶液」と称する。)を提供し得る。
【0076】
本明細書において「水溶液」とは、全媒体中で水が90重量%以上含まれている溶液を意味する。すなわち、本水溶液は、全媒体中で水が90重量%以上含まれている溶液であればよく、水以外の媒体(例えば、有機溶剤)を10%未満の量で含んでいる溶液もまた、本水溶液の概念に含まれる。
【0077】
本水溶液は、水性塗料として使用可能であって、かつ水性塗料として用いた場合に、得られる塗膜が耐候性に優れるとの効果を奏するポリシロキサン系樹脂を含むため、とりわけ水性塗料用途において有用である。
【0078】
〔4.製造方法〕
本発明の一実施形態に係る水溶性のポリシロキサン系樹脂の製造方法(以下、「本製造方法」と称する。)は、ラジカル重合性不飽和基を有するオルガノポリシロキサン化合物(A)と、酸と塩基からなる塩構造を有し、かつラジカル重合性基を有する単量体(B)と、任意で、前記(A)および(B)以外の、ラジカル重合性基を有する単量体(C)と、を共重合する工程を含むことを特徴とする。
【0079】
上述の通り、従来、ポリシロキサン系樹脂は水に不溶または均一に分散しない性質のため、水性塗料用組成物とすることは困難であった。しかし、本製造方法では、特定の構造を有する、上記オルガノポリシロキサン化合物(A)、単量体(B)および単量体(C)を用いることにより、水系溶媒に均一に分散または可溶なポリシロキサン系樹脂が得られる。
【0080】
また、本製造方法により得られるポリシロキサン系樹脂は、上記のような性能を有することから、本製造方法は、以下のように表現することもできる。
【0081】
ラジカル重合性不飽和基を有するオルガノポリシロキサン化合物(A)と、酸と塩基からなる塩構造を有し、かつラジカル重合性基を有する単量体(B)と、任意で、前記(A)および(B)以外の、ラジカル重合性基を有する単量体(C)と、を共重合する工程を含む、水に均一に分散または可溶であるポリシロキサン系樹脂の製造方法。
【0082】
本発明の一実施形態において、本製造方法における共重合は、非水系溶媒中で行われ得る。本製造方法における共重合は、従来のポリシロキサン系樹脂の製造方法と同様に、非水系溶媒中で行うことができる。
【0083】
非水系溶媒としては、例えば、上記〔3.樹脂組成物〕に記載の非水系溶媒が使用され得る。
【0084】
本発明の一実施形態において、本製造方法は、上記共重合する工程の後に、上記非水系溶媒を水系溶媒に置換する工程を含むことが好ましい。当該工程を含むことにより、水性塗料として使用可能な、水に均一に分散または可溶であるポリシロキサン系樹脂が得られる。
【0085】
本発明の一実施形態において、非水系溶媒を水系溶媒に置換する工程は、例えば、後述する実施例に記載の工程により行うことができる。
【0086】
本製造方法における共重合工程で使用される重合開始剤としては、特に限定されないが、例えば、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、tert-ブチルパーオキシピバレート、tert-ブチルパーオキシベンゾエート、tert-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、ジ-tert-ブチルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルパーオキシカーボネート等が挙げられる。
【0087】
上記重合開始剤の使用量は、例えば、単量体全量100重量部に対して0.01~10部であり、好ましくは、0.05~7重量部であり、より好ましくは、0.1~5重量部である。かかる重合開始剤の使用量が0.01重量部未満である場合には、重合が進行しにくくなることがあり、10重量部を超える場合には、生成する重合体の分子量が低下する傾向がある。
【0088】
本発明の一実施形態において、単量体(B)の量は、例えば、前記(A)~(C)の全量に対して、2重量%以上であり、好ましくは、2.3重量%以上であり、より好ましくは、2.5重量%以上であり、特に好ましくは、2.7重量%以上であり、とりわけ好ましくは、2.9重量%以上である。単量体(B)の量が上記範囲内であると、ポリシロキサン系樹脂が水に均一に分散または可溶になる効果を奏する。また、単量体(B)の量の上限は、本発明の効果を奏する限り特に限定されないが、例えば、50重量%以下であり、好ましくは、30重量%以下であり、より好ましくは、20重量%以下である。
【0089】
本発明の一実施形態において、オルガノポリシロキサン化合物(A)の量は、例えば、前記(A)~(C)の全量に対して、30重量%以上であり、好ましくは、35重量%以上であり、より好ましくは、40重量%以上であり、特に好ましくは、43重量%以上であり、とりわけ好ましくは、45重量%以上である。オルガノポリシロキサン化合物(A)の量が上記範囲内であると、塗料として用いた際に高耐候性の効果を奏する。また、オルガノポリシロキサン化合物(A)の量の上限は、本発明の効果を奏する限り特に限定されないが、例えば、95重量%以下であり、好ましくは、90重量%以下であり、より好ましくは、85重量%以下である。
【0090】
本発明の一実施形態において、単量体(C)の含有量は、例えば、前記(A)~(C)の全量に対して、6重量%以上であり、好ましくは、7重量%以上であり、より好ましくは、8重量%以上である。単量体(C)の含有量が上記範囲内であると、塗膜に弾性を付与する効果を奏する。また、単量体(C)の含有量の上限は、本発明の効果を奏する限り特に限定されないが、例えば、50重量%以下であり、好ましくは、48重量%以下であり、より好ましくは、47重量%以下である。
【0091】
本発明の一実施形態において、本製造方法は、さらに、アルコキシシラン化合物と、ラジカル重合性不飽和基を有するアルコキシシラン化合物と、を縮合させて、前記ラジカル重合性不飽和基を有するオルガノポリシロキサン化合物(A)を取得する工程を含み得る。
【0092】
アルコキシシラン化合物およびラジカル重合性不飽和基を有するアルコキシシラン化合物としては、例えば、上記(構成単位(a))に記載のものが使用され得る。
【0093】
当該工程における縮合は、当該技術分野で公知の方法により行うことができる。例えば、アルコキシシラン化合物と、ラジカル重合性不飽和基を有するアルコキシシラン化合物とを含む混合物に、水とアルコキシシリル基の加水分解および縮合の触媒を添加することにより行われる。当該工程における縮合で溶媒を用いる際は、非水系溶媒を用いることが好ましい。
【0094】
当該工程におけるアルコキシシリル基の加水分解および縮合の触媒としては、例えば、上記した触媒が使用され得る。
【0095】
なお、アルコキシシラン化合物と、ラジカル重合性不飽和基を有するアルコキシシラン化合物との縮合に関しては、上記の(構成単位(a))に記載の通りである。
【0096】
本発明の一実施形態において、上記縮合に使用する水のモル数は、アルコキシシラン化合物とラジカル重合性不飽和基を有するアルコキシシラン化合物との合計モル数に対して、1.0~2.5倍であり得る。
【0097】
本発明の一実施形態において、上記縮合に供されるラジカル重合性不飽和基を有するアルコキシシラン化合物は、全アルコキシシラン化合物に対して、2~10重量%であり得る。
【0098】
〔5.用途〕
本ポリシロキサン系樹脂、本樹脂組成物および本水溶液は、例えば、建築内外装用、メタリックベースあるいはメタリックベース上のクリアー等の自動車用、アルミニウム、ステンレス、銀等の金属直塗用、スレート、コンクリート、瓦、モルタル、石膏ボード、石綿スレート、アスベストボード、プレキャストコンクリート、軽量気泡コンクリート、珪酸カルシウム板、タイル、レンガ等の窯業系直塗用、ガラス用、天然大理石、御影石等の石材用の塗料あるいは上面処理剤として好適に用いられる。
【0099】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例
【0100】
以下、本発明を実施例に基づいてより詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0101】
〔材料〕
実施例および比較例において、以下の材料を使用した。
【0102】
(a成分)
メチルトリメトキシシラン:ダウ・東レ(株)製の「Z-6033」
フェニルトリメトキシシラン:ダウ・東レ(株)製の「Z-6124」
ジメチルジメトキシシラン:ダウ・東レ(株)製の「Z-6329」
γーメタクリロキシプロピルトリメトキシシラン:モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製の「A-174」
γーメタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン:ダウ・東レ(株)製の「Z-6033」
(b成分)
純水
ジブチルホスフェート:城北化学工業(株)製の「DBP」
(c成分)
メチルメタクリレート(略称「MMA」):三菱ガス化学株式会社製
ブチルアクリレート(略称「BA」):株式会社日本触媒製
γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン(略称「TESMA」):モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製の「Y-9936」
アクリルアミド-tブチルスルホン酸ナトリウム:東亞合成(株)製の「ATBS-Na」、市販分類「モノマー」
スルホエチルメタクリル酸ナトリウム:日本乳化剤(株)製の「アントックスMS-2N-D」、市販分類「乳化剤」
アクリル酸ナトリウム(略称「AANa」):浅田化学工業(株)製、弱酸と強塩基からなる塩構造を有する(強酸と強塩基からなる塩構造を有さない)、市販分類「モノマー」
アデカスタブSR-10:(株)アデカ製、(メタ)アクリロイル基および(メタ)アクリルアミド基のいずれも含まない、市販分類「乳化剤」
2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル):和光純薬工業株式会社製、重合開始剤
2-プロパノール:ナカライテスク(株)製
純水
(d成分)
純水
2-プロパノール:ナカライテスク(株)製
過硫酸カリウム:三菱ガス化学(株)製
(e成分)
2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル):和光純薬工業株式会社製、重合開始剤
2-プロパノール:ナカライテスク(株)製
過硫酸カリウム:三菱ガス化学(株)製
(その他)
純水
二酸化チタン:石原産業(株)製の「タイペーク PFC105」
凍結防止剤:関東化学(株)製の「プロピレングリコール」
分散剤:Cray Valley製の「SMA1440H Solution」、ビックケミー・ジャパン(株)製の「Disperbyk-2090」
湿潤分散剤:BASF製の「Dispex Ultra FA 4437」
防腐剤:大阪ガスケミカル(株)製の「スラウト 99N」
消泡剤:MUNZING CHEMIE製の「AGITAN 295」
増粘剤:サンノプコ(株)製の「SNシックナー 612NC」
成膜助剤:JNC(株)製の「CS-12」。
【0103】
〔測定および評価方法〕
実施例および比較例における測定および評価を、以下の方法で行った。
【0104】
(重合安定性)
重合中の増粘により流動性がなくなり攪拌が不可能になるか否かにより、重合安定性(重合中のゲル化・沈殿)を評価した。問題なく重合が行われた場合を「可」とした。
【0105】
(水溶液安定性)
共重合体の揮発成分が40%になるよう水で希釈した際に、目視にて観察することで、水溶液安定性(水置換性)を評価した。水に均一に分散または溶解した場合を「良」とし、共重合体と水との相分離が見られた際を「不良」と判断した。
【0106】
(水溶液外観)
各合成例で得られた共重合体の水溶液を25℃の条件下で1週間静置し、目視にて観察することで、水溶液外観を評価した。
【0107】
(貯蔵安定性)
固形分濃度40%に調整した樹脂含有水溶液をガラス瓶内に密閉した状態で、50℃に昇温した熱風乾燥機内に静置し、前記ガラス瓶を45度傾けた際に内溶液に流動性が確認できなくなった時点をゲル化点として、貯蔵安定性(50℃下でのゲル化日)を評価した。
【0108】
(光沢値)
特許第5695950号公報を参照して、光沢値を測定した。簡潔には、ミノルタ(株)製光沢計Multi-Gloss268を用いて、後述する方法で作製した試験片の、入射角60°の光沢値を測定した。光沢値が高いほど外観に優れることを示す。
【0109】
(耐候性)
国際公開第2016/052636号公報および特許第5555449号公報を参照して、耐候性の評価を行った。
【0110】
簡潔には、メタルハライドランプ灯式試験機〔ダイプラ・ウィンテス株式会社製、型式KU-R5CI-A〕を用いて、後述する方法で作製した試験片上硬化膜の促進耐候性試験を実施した。促進耐候性試験400時間前後における硬化膜の60°光沢値を測定し、光沢保持率を算出した。光沢保持率が高いほど、耐候性が良好であることを示す。
【0111】
なお、促進耐候性試験の試験条件は、次の通りである。
【0112】
照度:85mW/cm2
照射 63℃ 50% 6時間
結露 30℃ 98% 2時間
シャワー 結露の前後に30秒。
【0113】
〔合成例1~9〕
(共縮合物;a-1およびa-2)
表1に記載の各種成分を表1に記載の量で用いて、各共縮合物(a-1およびa-2)を合成した。
【0114】
具体的には、攪拌機、温度計および還流冷却器を備えた反応器に、シラン化合物として表1に記載の種類および量のa成分、次いでb成分を仕込み、反応温度105℃にて3時間撹拌しながら反応させ、各共縮合物(a-1およびa-2)を得た。
【0115】
(アクリルグラフト共縮合物:A-1~A-9)
表2に記載の各種成分を表2に記載の量で用いて、各アクリルグラフト共縮合物(A-1~A-9)を合成した。
【0116】
具体的には、攪拌機、温度計、還流冷却器、窒素ガス導入管および滴下ロートを備えた反応器に、表2に記載の種類および量のd成分を仕込み、窒素ガスを導入しつつ75℃に昇温した後、表2に記載の種類および量のc成分の混合溶液を滴下ロートから5時間かけて等速滴下した。次に、表2に記載の種類および量のe成分の混合溶液を1時間かけて等速滴下した。その後、引き続き、75℃で2時間攪拌した後、ロータリーエバポレーターにより不揮発成分が90%以上になるまで脱気を行い、続いて、不揮発成分が40%になるよう水で希釈を行った。室温まで冷却し、各アクリルグラフト共縮合物(A-1~A-9)を得た。
【0117】
〔合成例10〕
(水性アクリルシリコン共重合体エマルション:A-10)
表2に記載の各種成分を表2に記載の量で用いて、アクリルグラフト共縮合物(A-10)を合成した。
【0118】
具体的には、攪拌機、温度計、還流冷却器、窒素ガス導入管および滴下ロートを備えた反応器に、表2に記載の種類および量のd成分を仕込み、窒素ガスを導入しつつ75℃に昇温した後、表2に記載の種類および量のc成分の混合溶液を滴下ロートから5時間かけて等速滴下した。次に、表2に記載の種類および量のe成分の混合溶液を1時間かけて等速滴下した。その後、引き続き、75℃で2時間攪拌した後、室温まで冷却し、水性アクリルシリコン共重合体エマルション(A-10)を得た。
【0119】
【表1】
【0120】
【表2】
【0121】
〔樹脂組成物の製造例〕
国際公開第2016/052636号公報および特許第6059864号公報を参照して、樹脂組成物の一例として、顔料含有コーティング剤用樹脂組成物を作製した。簡潔には、表3に記載の種類および量で各成分を配合し、各顔料含有コーティング剤用樹脂組成物を作製した。
【0122】
〔試験片の作製〕
国際公開第2016/052636号公報を参照して、「光沢値」および「耐候性」を測定および評価するための試験片を作製した。簡潔には、上記で作製した各顔料含有コ-ティング剤用樹脂組成物100重量部に対し、硬化触媒としてジアザビシクロウンデセン0.4重量部を加え、プライマーとしてハイポンファインプライマーII(日本ペイント製)を塗布したアルミ板(50mm×150mm)上に、エアスプレ-を用いて、乾燥膜厚が約40μmとなるように塗布し、23℃、50%RHにて1週間乾燥して、各塗装板を得た。この各塗装板を各試験片として用いた。
【0123】
【表3】
【0124】
〔実施例1~8および比較例2〕
上記で作製した各共重合体および各試験片を用いて、上記の〔測定および評価方法〕に記載の方法により、各種パラメータの測定および評価を行った。結果を表4に示す。
【0125】
〔比較例1〕
上記で作製した共重合体(A-9)を用いて、上記の〔測定および評価方法〕に記載の方法により、各種パラメータの測定および評価を行った。結果を表4に示す。
【0126】
【表4】
【0127】
〔結果〕
表4より、実施例1~8では、水性塗料としての性能を示す、重合安定性、水溶液安定性、水溶液外観および貯蔵安定性に優れ、かつ耐候性に関連する、光沢値および光沢保持率も良好であった。
【0128】
一方、比較例1では、側鎖に、酸と塩基からなる塩構造を有さない共重合体を用いたため、水溶液安定性(水置換性)が不良であり、生成物が沈降する結果となった。
【0129】
また、比較例2では、エマルションの形態の共重合体を用いたため、光沢値が低く、光沢保持率も劣る結果となった。
【産業上の利用可能性】
【0130】
本発明の樹脂は、水性塗料として使用可能であって、かつ耐候性に優れた塗膜が得られる。したがって、本発明は、様々なコーティング剤の分野に好適に利用することができる。