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  • 特許-金属焼結部材搬送用布 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-24
(45)【発行日】2023-12-04
(54)【発明の名称】金属焼結部材搬送用布
(51)【国際特許分類】
   B22F 3/10 20060101AFI20231127BHJP
   D03D 1/00 20060101ALI20231127BHJP
   D03D 15/242 20210101ALI20231127BHJP
   D03D 15/30 20210101ALI20231127BHJP
   D03D 15/41 20210101ALI20231127BHJP
   D03D 15/513 20210101ALI20231127BHJP
   D03D 15/573 20210101ALI20231127BHJP
【FI】
B22F3/10 K
D03D1/00 Z
D03D15/242
D03D15/30
D03D15/41
D03D15/513
D03D15/573
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019180530
(22)【出願日】2019-09-30
(65)【公開番号】P2021055158
(43)【公開日】2021-04-08
【審査請求日】2022-09-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000107907
【氏名又は名称】セーレン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141586
【弁理士】
【氏名又は名称】沖中 仁
(72)【発明者】
【氏名】川島 健治
【審査官】▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】実開平03-067993(JP,U)
【文献】実開昭51-119286(JP,U)
【文献】特開平08-203331(JP,A)
【文献】特開昭57-176233(JP,A)
【文献】実開昭61-059641(JP,U)
【文献】実開平07-010694(JP,U)
【文献】“セラミック ファイバー”,窯業協會誌,1961年,69巻、788号,p.C279-C283
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 3/10
F27B 9/24
D03D 1/00
D03D 15/242
D03D 15/30
D03D 15/41
D03D 15/513
D03D 15/573
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼結炉の炉本体に対し金属焼結部材を搬入・搬出する際に金属焼結部材を載せて搬送する金属焼結部材搬送用布であって、
SiO含有量が90重量%以上であり、単糸長が平均20mm以上である繊維を含み、
前記繊維からなる糸の総繊度は、140~1300texであり、
前記炉本体の内部を通過する前の厚みが0.5~2.5mmである金属焼結部材搬送用布。
【請求項2】
目付が400~1500g/mである請求項1に記載の金属焼結部材搬送用布。
【請求項3】
前記炉本体の内部を通過した後の厚みが0.5~3.0mmである請求項1又は2に記載の金属焼結部材搬送用布。
【請求項4】
熱処理後の引張強度が4N/25mm以上である請求項1~3の何れか一項に記載の金属焼結部材搬送用布。
【請求項5】
JIS L1096 45°カンチレバー法に準拠して測定される熱処理前の剛軟度が25~210mmである請求項1~4の何れか一項に記載の金属焼結部材搬送用布。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼結炉の炉本体に対し金属焼結部材を搬入・搬出する際に金属焼結部材を載せて搬送する金属焼結部材搬送用布に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的なメッシュベルト式焼結炉(以下、単に「焼結炉」と略称する。)は、主に、炉本体、及びメッシュベルトによって構成されている(例えば、特許文献1を参照)。炉本体は、筒形に形成されている。炉本体には、水平方向の一側に炉入口が、炉入口の反対側に炉出口が、それぞれ設けられている。メッシュベルトは、炉本体の炉入口から炉出口に向かって炉本体の内部を貫通し、炉本体の他側から炉本体の下側に潜って、炉本体の一側に向って真っ直ぐに延び、炉本体の一側で上向きに反り上がって元に戻るような無端状に形成されている。メッシュベルトは、炉本体を支持する架台に所定の配置で設けられる所要のアイドルプーリ、及びドライブプーリに巻き掛け装着されるとともに、テンショナーによってドライブプーリに押し付けられ、ドライブプーリの回転により、周回運動するように駆動される。
【0003】
上記の焼結炉において、焼結工程は、金属焼結部材が炉本体の内部を通過するように金属焼結部材をメッシュベルトで搬送することによって実施される。ここで、金属焼結部材とは、成形体と焼結体との二つの形態を包含するものである。成形体は、金属やセラミック等の粉末を金型等で所定の形状に成形したものである。一方、焼結体は、成形体を融点よりも低い温度で加熱して焼き固めたものである。
【0004】
焼結工程の実施にあたっては、炉本体の一側に位置するアイドルプーリと炉入口との間において成形体がメッシュベルト上に載せられる。メッシュベルト上の成形体は、メッシュベルトの移動によって炉本体の内部を通過する。成形体は、炉本体の内部を通過する間に融点よりも低い温度で加熱される。これにより、成形体が焼き固められて焼結体(製品)となる。
【0005】
上記のメッシュベルトとしては、耐熱合金製の線材を偏平コイル状に成形し、これを力骨で順次連結した構造のものが一般的に用いられている。このため、金属焼結部材をメッシュベルトに載せる際にメッシュベルトとの接触によって金属焼結部材が変形したり、搬送時の振動でメッシュベルトと金属焼結部材とが擦れて金属焼結部材に傷が付いたりして、歩留りが悪くなるという問題があった。
【0006】
このような問題を解消するために、メッシュベルトに代えて、耐熱性に優れたガラス繊維織布(例えば、特許文献2参照)で構成される金属焼結部材搬送用布を用いることが考えられる。また、リフラクトリーセラミックファイバ(以下、「RCF」と称する。)で構成される金属焼結部材搬送用布を用いることも考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】実開昭61-59641号公報
【文献】特開平8-217496号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記特許文献2に係るガラス繊維織布で構成される金属焼結部材搬送用布では、600℃程度での使用であれば十分耐えられるが、焼結炉の炉本体の内部の温度は1000℃程度であるため、焼結炉での使用に耐えることができない。一方、RCFで構成される金属焼結部材搬送用布では、1250℃以下での使用であれば耐えられるため、焼結炉での使用に十分耐えることができるものの、繊維形態を維持する性能が低いため、金属焼結部材との接触等により繊維が壊れてしまい、壊れた繊維が剥離して細かくなり、微細な繊維が金属焼結部材に付着して製品としての品質が低下してしまう。
【0009】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、焼結炉での使用に十分耐える耐熱性能を有するとともに、繊維形態維持性能に優れる金属焼結部材搬送用布を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するための本発明に係る金属焼結部材搬送用布の特徴構成は、
SiO含有量が90重量%以上であり、単糸長が平均20mm以上である繊維を含むことにある。
【0011】
本構成の金属焼結部材搬送用布は、SiO含有量が90重量%以上のシリカ繊維で構成される。シリカ繊維は、1000℃程度の高温環境でもその形状を保持しながら連続で使用できる耐熱繊維である。従って、炉本体の内部の温度が1000℃程度の焼結炉での使用に十分耐える耐熱性能を有するものとなる。また、本構成の金属焼結部材搬送用布において、シリカ繊維の単糸長は、平均20mm以上とされる。これにより、金属焼結部材との接触等によっても繊維が剥離し難いため、繊維形態維持性能に優れるものとなる。
【0012】
本発明に係る金属焼結部材搬送用布において、
前記繊維からなる糸の総繊度は、140tex以上であることが好ましい。
【0013】
本構成の金属焼結部材搬送用布によれば、前記繊維からなる糸の総繊度が140tex以上であるため、繊維の糸の芯部に対する熱影響が抑えられることになり、熱による劣化を抑えることができる。
【0014】
本発明に係る金属焼結部材搬送用布において、
目付が400~1500g/mであることが好ましい。
【0015】
本構成の金属焼結部材搬送用布によれば、目付が400~1500g/mであるため、適度な張りや腰(曲げもどり性が良い、ばたばたしない)が得られるとともに、軽量で持ち運びし易く、取り扱いが容易になる。
【0016】
本発明に係る金属焼結部材搬送用布において、
厚みが0.5~3.0mmであることが好ましい。
【0017】
本構成の金属焼結部材搬送用布によれば、厚みが0.5~3.0mmであるため、金属焼結部材を載置したときの衝撃や、搬送時の振動が吸収されるとともに、焼結炉の炉本体を通過する際にその炉本体の内部の形状に沿って滞ることなく変形されることになり、金属焼結部材の変形や損傷を防ぐのに必要なクッション性を確保することができるとともに、焼結炉の炉本体内部を円滑に進行するのに必要な柔軟性を確保することができる。
【0018】
本発明に係る金属焼結部材搬送用布において、
熱処理後の引張強度が4N/25mm以上であることが好ましい。
【0019】
本発明の金属焼結部材搬送用布が焼結炉で用いられる場合、金属焼結部材搬送用布が炉本体内面に接触しながら移動するため、摩擦抵抗を受け、その結果として金属焼結部材搬送用布には大きな張力がかかる。本構成の金属焼結部材搬送用布によれば、熱処理後においても引張強度が4N/25mm以上であるため、その張力に耐える強度を確保することができ、金属焼結部材の搬送中の破れや裂けを未然に防ぐことができ、金属焼結部材を安定的に搬送することができる。
【0020】
本発明に係る金属焼結部材搬送用布において、
JIS L1096 45°カンチレバー法に準拠して測定される熱処理前の剛軟度が25~210mmであることが好ましい。
【0021】
本構成の金属焼結部材搬送用布によれば、JIS L1096 45°カンチレバー法に準拠して測定される熱処理前の剛軟度が25~210mmであるため、炉入口に入る手前において金属焼結部材に作用する重力作用に伴って金属焼結部材搬送用布に作用する曲げ荷重に対抗し得る腰の強さを確保することができるとともに、炉本体を通過する際に炉本体の内部の形状に沿って容易に変形し得る柔軟性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る金属焼結部材搬送用布が用いられる焼結炉の要部を示し、(a)は縦断面図、(b)は(a)のA-A線切断部端面拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明について、図1を参照しながら説明する。なお、以下の実施形態では、焼結炉の炉本体に対し金属焼結部材を搬入・搬出する際に金属焼結部材を載せて搬送する金属焼結部材搬送用布を例に挙げて説明する。ただし、本発明は、以下に説明する実施形態や図面に記載される構成に限定されることは意図しない。
【0024】
<焼結炉の構成>
図1は、本発明の一実施形態に係る金属焼結部材搬送用布が用いられる焼結炉の要部を示し、(a)は縦断面図、(b)は(a)のA-A線切断部端面拡大図である。図1(a)及び(b)に示される焼結炉1は、主に、炉本体2、アンコイラ3、リコイラ4、及び金属焼結部材搬送用布10によって構成されている。なお、図1(a)及び(b)は、本発明を理解し易いように焼結炉1や金属焼結部材搬送用布10等を適宜に誇張、デフォルメして模式的に描いたものであり、炉本体2の肉厚や、金属焼結部材搬送用布10の厚み等について正確に反映したものではない。
【0025】
炉本体2は、円筒形に形成されている。炉本体2には、水平方向の一側に炉入口2aが、炉入口2aの反対側に炉出口2bが、それぞれ設けられている。アンコイラ3は、炉本体2の一側に配設されている。アンコイラ3と炉入口2aとの間には、上流側アイドルプーリ5が配設されている。リコイラ4は、炉本体2の他側に配設されている。リコイラ4と炉出口2bとの間には、下流側アイドルプーリ6が配設されている。
【0026】
アンコイラ3には、コイル状に巻かれた金属焼結部材搬送用布10が装着されている。金属焼結部材搬送用布10の先端側は、炉本体2の炉入口2aから炉出口2bに向かって炉本体2の内部を貫通し、リコイラ4に巻き掛け装着されている。
【0027】
金属焼結部材搬送用布10は、リコイラ4の回転により、アンコイラ3から繰り出され、炉入口2aから炉出口2bに向かって炉本体2の内部を移動する。金属焼結部材搬送用布10は、炉本体2の内部を通過する際、炉本体2の下部の内面に沿うように下凸円弧状(Uの字状)に変形し、炉本体2の下部の内面に接触しつつ炉本体2の内部を移動する。炉本体2の内部を通過した金属焼結部材搬送用布10は、リコイラ4によってコイル状に巻き取られる。
【0028】
焼結炉1において、焼結工程は、金属焼結部材20(成形体20A及び焼結体20B)が炉本体2の内部を通過するように金属焼結部材20を金属焼結部材搬送用布10で搬送することによって実施される。焼結工程の実施にあたっては、上流側アイドルプーリ5と炉入口2aとの間で成形体20Aが金属焼結部材搬送用布10上に載せられる。金属焼結部材搬送用布10上の成形体20Aは、金属焼結部材搬送用布10の移動によって炉本体2の内部を通過する。成形体20Aは、炉本体2の内部を通過する間に融点よりも低い温度で加熱される。これにより、成形体20Aが焼き固められて焼結体(製品)20Bとなる。
【0029】
なお、金属焼結部材搬送用布10がリコイラ4によって全て巻き取られた後には、コイル状に巻かれた新しい金属焼結部材搬送用布10がアンコイラ3に装着され、引き続き上記の焼結工程が実施される。
【0030】
<金属焼結部材搬送用布>
金属焼結部材搬送用布10は、SiO含有量が90重量%以上(残部はアルミナ等を含む金属酸化物)で単糸長が平均20mm以上であるシリカ繊維を含んでいる。シリカ繊維は、その主成分が二酸化珪素であるシリカ(SiO)が多く含まれるガラス原料(例えば、Eガラス等)を繊維にし、これを酸処理してシリカ以外の成分を抽出し、90重量%以上のシリカ成分にしたものである。シリカ繊維は、1000℃程度の高温環境でもその形状を保持しながら連続で使用することができる。
【0031】
金属焼結部材搬送用布10は、炉本体2の内部を通過する際に、炉本体2の下部の内面に沿うように下凸円弧状(Uの字状)に変形可能で、幅寸法に対し長さ寸法の方が著しく長い細長の帯状に形成されている。金属焼結部材搬送用布10は、両側部が解れない構造であれば織物、編物、不織布のいずれの形態でもよいが、織物が好ましい。織組織としては、平織、二重平織、綾織、朱子織、その他の多重織などを用いることができるが、平織、二重平織が好ましい。
【0032】
[総繊度]
金属焼結部材搬送用布10は、総繊度が140tex以上の糸を用い、織密度6~40本/2.54cmの織布であることが好適である。総繊度は、140~1300texであることが好ましく、144~1260texであることがより好ましい。総繊度が140~1300texの範囲であれば、繊維の糸の芯部に対する熱影響が抑えられることになり、熱による劣化を抑えることができる。なお、総繊度が140texよりも小さいと、金属焼結部材20を載置する際の衝撃を吸収するクッション性が損なわれる虞がある。また、総繊度が1300texよりも大きいと、炉本体2を通過する際に炉本体2の下部の内面形状に沿ってスムーズに変形しない虞がある。
【0033】
[目付]
金属焼結部材搬送用布10の目付は、400~1500g/mであることが好ましく、410~1450g/mであることがより好ましい。目付が400~1500g/mの範囲であれば、適度な張りや腰が得られるとともに、軽量で持ち運びし易く、取り扱いが容易になる。なお、目付が400g/mより小さいと、適度な張りや腰が得られないため、成形体20Aが炉本体2に入るまでの搬送、及び焼結体20Bが炉本体2から出てからの搬送が不安定になる虞がある。また、目付が1500g/mよりも大きいと、ハンドリングが悪くなり、取り扱いが難しくなる。
【0034】
[厚み]
金属焼結部材搬送用布10の厚みは、金属焼結部材搬送用布10が炉本体2の内部を通過する間に加熱される(熱処理)前の初期において、0.5~2.5mmであることが好ましく、熱処理後において、0.5~3.0mmであることが好ましい。厚みが初期(熱処理前)において0.5~2.5mm、熱処理後において0.5~3.0mmの範囲にあれば、金属焼結部材20を載置する際の衝撃や、搬送時の振動が吸収されるとともに、炉本体2を通過する際にその炉本体2の下部の内面形状に沿って滞ることなく変形されることになる。これにより、金属焼結部材20の変形や損傷を防ぐのに必要なクッション性を確保することができるとともに、炉本体2の内部を円滑に通過するのに必要な柔軟性を確保することができる。なお、厚みが0.5mmよりも小さいと、金属焼結部材20を載置する際の衝撃を吸収するクッション性が損なわれる虞がある。また、厚みが初期において2.5mmよりも大きく、熱処理後において3.0mmよりも大きいと、炉本体2を通過する際に炉本体2の下部の内面形状に沿ってスムーズに変形しない虞がある。
【0035】
[重量変化]
金属焼結部材搬送用布10の熱処理前後の重量変化は、±10%以内であることが好ましい。ここでの重量変化は、熱処理後の重量と熱処理前(初期)の重量との差を熱処理前の重量で除して百分率(%)とすることで求められる。
【0036】
[引張強度]
金属焼結部材搬送用布10の引張強度は、熱処理後において、4N/25mm以上であることが好ましい。焼結炉1においては、金属焼結部材搬送用布10が炉本体2の下部の内面に接触しながら移動するため、摩擦抵抗を受け、その結果として金属焼結部材搬送用布10には大きな張力がかかる。熱処理後においても金属焼結部材搬送用布10の引張強度が4N/25mm以上であれば、その張力に耐える強度を確保することができ、金属焼結部材20の搬送中の破れや裂けを未然に防ぐことができ、金属焼結部材20を安定的に搬送することができる。引張強度が4N/25mmよりも小さいと、金属焼結部材20の搬送中に破れや裂けが発生し、金属焼結部材20の搬送に支障を来す虞がある。
【0037】
[剛軟度]
金属焼結部材搬送用布10の剛軟度は、熱処理前において25~210mm(JIS L1096 45°カンチレバー法)であることが好ましく、30~205mmであることがより好ましい。剛軟度が25~210mmの範囲であれば、炉本体2の炉入口2aに入る手前において成形体20に作用する重力作用に伴って金属焼結部材搬送用布10に作用する曲げ荷重に対抗し得る腰の強さを確保することができるとともに、炉本体2を通過する際に炉本体2の下部の内面形状に沿って容易に変形し得る柔軟性を確保することができる。なお、剛軟度が25mmよりも小さいと、成形体20Aが炉本体2に入るまでの搬送が不安定になる虞がある。また、剛軟度が210mmよりも大きいと、炉本体2を通過する際に金属焼結部材搬送用布10が炉本体2の下部の内面形状に沿ってスムーズに変形しない虞がある。
【実施例
【0038】
次に、本発明の金属焼結部材搬送用布の具体的な実施例について説明する。本実施例では、金属焼結部材搬送用布の物性試験を実施するにあたって、本発明の構成を有する金属焼結部材搬送用布(実施例1~8)、及び本発明の構成を有しない金属焼結部材搬送用布(比較例1,2)をそれぞれ作製した(表1を参照)。下記表1において、SiO含有量の単位(%)は「重量%」を意味する。なお、本発明は、以下に述べる実施例に限定されるものではない。
【0039】
【表1】
【0040】
〔実施例1〕
実施例1においては、SiO含有量が96重量%の長繊維(切れ目の無い単糸)で構成される、繊度が180texの糸を3本合撚(総繊度:540tex)したものをそれぞれ経糸及び緯糸とし、これら経糸及び緯糸を用いて製織して、平織の金属焼結部材搬送用布を得た。
【0041】
〔実施例2〕
実施例2においては、SiO含有量が91重量%で平均25mm以上の短繊維(長くても150mm程度までの短い単糸)で構成される、繊度が180texの1本の糸(総繊度:180tex)をそれぞれ経糸及び緯糸とし、これら経糸及び緯糸を用いて製織して、平織の金属焼結部材搬送用布を得た。
【0042】
〔実施例3〕
実施例3においては、SiO含有量が96重量%の長繊維で構成される、繊度が550texの糸を2本合撚(総繊度:1100tex)したものをそれぞれ経糸及び緯糸とし、これら経糸及び緯糸を用いて製織して、平織の金属焼結部材搬送用布を得た。
【0043】
〔実施例4〕
実施例4においては、SiO含有量が91重量%で平均25mm以上の短繊維で構成される、繊度が48texの糸を3本合撚(総繊度:144tex)したものをそれぞれ経糸及び緯糸とし、これら経糸及び緯糸を用いて製織して、二重平織の金属焼結部材搬送用布を得た。
【0044】
〔実施例5〕
実施例5においては、SiO含有量が96重量%の長繊維で構成される、繊度が180texの糸を7本合撚(総繊度:1260tex)したものをそれぞれ経糸及び緯糸とし、これら経糸及び緯糸を用いて製織して、平織の金属焼結部材搬送用布を得た。
【0045】
〔実施例6〕
実施例6においては、SiO含有量が96重量%の長繊維で構成される、繊度が180texの糸を3本合撚(総繊度:540tex)したものをそれぞれ経糸及び緯糸とし、これら経糸及び緯糸を用いて製織して、平織の金属焼結部材搬送用布を得た。
【0046】
〔実施例7〕
実施例6の金属焼結部材搬送用布の目付が550g/mであるのに対し、実施例7の金属焼結部材搬送用布の目付が960g/mであること以外は、実施例6と同様にして平織の金属焼結部材搬送用布を得た。
【0047】
〔実施例8〕
実施例8においては、SiO含有量が96重量%の長繊維で構成される、繊度が180texの1本の糸(総繊度:180tex)をそれぞれ経糸及び緯糸とし、これら経糸及び緯糸を用いて製織して、二重平織の金属焼結部材搬送用布を得た。
【0048】
〔比較例1〕
比較例1においては、SiO含有量が80重量%の長繊維で構成される、繊度が180texの糸を3本合撚(総繊度:540tex)したものをそれぞれ経糸及び緯糸とし、これら経糸及び緯糸を用いて製織して、平織の金属焼結部材搬送用布を得た。
【0049】
〔比較例2〕
比較例2においては、SiO含有量が55重量%で平均10mm以下の短繊維で構成される、3番手の糸をそれぞれ経糸及び緯糸とし、これら経糸及び緯糸を用いて製織して、平織の金属焼結部材搬送用布を得た。
【0050】
実施例1~8、及び比較例1,2の各金属焼結部材搬送用布について、熱処理前(初期)の目付(試験方法:JIS L1096)、及び厚み(試験方法:JIS L1908 2kPa)を測定した。また、各金属焼結部材搬送用布について、熱処理後に重量測定及び寸法を測定し単位面積換算して目付を求めるとともに、(熱処理後重量-初期重量)/初期重量 × 100から重量変化(%)を求めた。
【0051】
<物性試験>
[引張強度、剛軟度]
実施例1~8、及び比較例1,2の各金属焼結部材搬送用布について、初期の引張強度、及び熱処理後の引張強度を、JIS L1096 A カットストリップ法に準拠して測定した。また、各金属焼結部材搬送用布について、初期の剛軟度、及び熱処理後の剛軟度を、JIS L1096 45°カンチレバー法に準拠して測定した。
【0052】
[繊維脱落]
実施例1~8、及び比較例1,2の各金属焼結部材搬送用布の繊維脱落について、次のような試験法により確認した。まず、各金属焼結部材搬送用布に幅10mm×長さ50mmの粘着テープを貼り付け、重さ2kgのゴムローラで1往復荷重を作用させた後に勢いよく剥がし、粘着テープの貼付前と剥がした後との重量差によって繊維脱落の程度を評価した。評価基準は、重量差が5%未満の場合を「○」とし、5%以上8%未満の場合を「△」とし、8%以上の場合を「×」とした。
【0053】
[緩衝性]
実施例1~8、及び比較例1,2の各金属焼結部材搬送用布の緩衝性について、次のような試験法により確認した。まず、18メッシュ(間隔1mm)のSUS304製の金網の上に50mm幅の金属焼結部材搬送用布を置き、この金属焼結部材搬送用布の中央に重さ500gの分銅を置く。次いで、金網の上で金属焼結部材搬送用布を100mm/分の速度で300mm引きずり、分銅の状態で評価した。評価基準は、金網の凹凸を金属焼結部材搬送用布が吸収し、分銅がほぼ動かない場合を「○」とし、分銅がやや動くが、金属焼結部材搬送用布から落ちることはない場合を「△」とし、分銅が倒れたり、金属焼結部材搬送用布から落ちたりした場合を「×」とした。
【0054】
実施例1~8、及び比較例1,2の各金属焼結部材搬送用布について、目付、厚み、重量、重量変化の測定結果、並びに、引張強度、剛軟度、繊維脱落及び緩衝性の評価結果を表2に示す。
【0055】
【表2】
【0056】
表2に示すように、熱処理前の初期の段階において、実施例1~8に係る金属焼結部材搬送用布は、繊維脱落の評価が「○」であるとともに、緩衝性の評価が「○」であり、繊維形態維持性能に優れるとともに、クッション性に優れている。また、熱処理後において、実施例2,4に係る金属焼結部材搬送用布は、繊維形態維持性能がやや衰えるものの、その他の実施例1,3,5~8に係る金属焼結部材搬送用布の繊維形態維持性能については、初期の性能が維持されている。クッション性については、熱処理後においても初期の性能が維持されている。以上のことから、実施例1~8に係る金属焼結部材搬送用布は、熱処理前及び熱処理後においても、概ね繊維形態維持性能を維持することができるとともに、クッション性を維持することができる。
【0057】
一方、比較例1に係る金属焼結部材搬送用布では、熱処理前の初期の段階において既に繊維脱落の評価が「△」である。これは、シリカ繊維が長繊維から構成されていても、SiO含有量が90重量%よりも小さい場合、繊維形態維持性能を初期の段階で十全に発揮することができないということである。繊維脱落の評価については、SiO含有量が91重量%である実施例2,4のものが、熱処理前の初期の段階において「○」であることから、繊維形態維持性能はSiO含有量を臨界点としてそれ以上であれば十全に発揮されることになる。
【0058】
次に、比較例2に係る金属焼結部材搬送用布では、熱処理前の初期の段階において既に繊維脱落の評価が「×」であり、熱処理後においても繊維脱落の評価が「×」である。平均10mm以下の短繊維でSiO含有量が55重量%と極端に少ない場合、線形態維持性能を十分に発揮することができない。
【0059】
比較例1,2のものは何れも、熱処理後にクッション性が著しく劣化する。これは、耐熱性向上に寄与するシリカの含有量に依るものであり、SiO含有量が90重量%以上である実施例1~8の全ての金属焼結部材搬送用布は、熱処理後においても、初期のクッション性能を維持している。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の金属焼結部材搬送用布は、焼結炉の炉本体に対する金属焼結部材の搬入・搬出の用途に利用可能である。
【符号の説明】
【0061】
1 焼結炉
2 炉本体
10 金属焼結部材搬送用布
20 金属焼結部材
図1