(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-24
(45)【発行日】2023-12-04
(54)【発明の名称】ダイナミックダンパおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
F16F 15/30 20060101AFI20231127BHJP
【FI】
F16F15/30 Q
(21)【出願番号】P 2019209885
(22)【出願日】2019-11-20
【審査請求日】2022-09-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137589
【氏名又は名称】右田 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100160864
【氏名又は名称】高橋 政治
(74)【代理人】
【識別番号】100158698
【氏名又は名称】水野 基樹
(74)【代理人】
【識別番号】100217892
【氏名又は名称】松田 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 康志
(72)【発明者】
【氏名】花田 祐樹
【審査官】杉山 豊博
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/088103(WO,A1)
【文献】特開平02-253028(JP,A)
【文献】実開平02-110737(JP,U)
【文献】実開平03-033248(JP,U)
【文献】実開平03-057541(JP,U)
【文献】実開昭63-027760(JP,U)
【文献】特開2019-147906(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハブと、振動リングと、一対の弾性体と、ベアリングと、
外径側および内径側の一対のスリーブと、を備え、
前記振動リングは、前記ハブの外周側に配置され、環状の振動リング本体およびその内周側に前記ハブの外周面に向けて突出する凸部を有し、
一対の前記弾性体は、前記振動リングにおける前記凸部を軸方向の両側から挟むように配置され、前記ハブと前記振動リング本体とを前記スリーブを介して連結しており、軸方向外側に湾曲する湾曲部と、前記湾曲部における内面から前記凸部に向けて突出している突起部と有し、
前記ベアリングは、前記凸部と前記ハブとの間に配置されている、ダイナミックダンパであって、
一対の前記スリーブは
それぞれ円筒状であり、軸方向に平行な内筒面を構成する筒部と、
フランジ部とを有し、
外径側の前記スリーブの前記フランジ部は前記筒部の一方端部から外周側へ向けて突出しており、内径側の前記スリーブの前記フランジ部は前記筒部の一方端部から内周側へ向けて突出しており、前記弾性体における前記湾曲部の内径側および外径側の端部の各々が、
内径側および外径側の前記スリーブにおける記内筒面のみに
それぞれ固定されている、ダイナミックダンパ。
【請求項2】
前記スリーブにおける前記フランジ部がガイド部を有する、請求項1に記載のダイナミックダンパ。
【請求項3】
前記弾性体における前記湾曲部の端部の各々を、内径側および外径側に配置する2つの前記スリーブの各々における前記内筒面のみに固定して、スリーブ付き弾性体を得る固定工程と、
前記筒部に加わる応力の少なくとも一部を前記フランジ部を介して下方から支える治具の上に、前記スリーブ付き弾性体を、前記内筒面が鉛直方向であって前記フランジ部を下側とした状態で配置する第1圧入工程と、
前記第1圧入工程によって前記治具の上に配置された前記スリーブ付き弾性体における内周側の前記スリーブに上方から前記ハブを嵌合させ、前記スリーブ付き弾性体における外周側の前記スリーブに上方から前記振動リングを嵌合させる第2圧入工程と、
前記フランジ部を介して前記筒部に応力を加えることができる治具を用いて、別の前記スリーブ付き弾性体を、前記内筒面が鉛直方向であって前記フランジ部を上側とした状態で、上方から、前記ハブと前記振動リング本体との間へ圧入する第3圧入工程と、
を備え、請求項1または2に記載のダイナミックダンパが得られる、ダイナミックダンパの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関のプロペラシャフト等の回転駆動系に生じる捩り振動を吸収するダイナミックダンパおよびその製造方法に関する。ダイナミックダンパはティルガーと称されることもある。
【背景技術】
【0002】
後輪駆動または四輪駆動の自動車は、車両の前部に搭載された内燃機関の出力を後輪に伝達するためにプロペラシャフトを備える。
プロペラシャフトに発生した振動は車両の振動に大きな影響を与えるため、プロペラシャフトには、振動を減衰するダイナミックダンパが装着される。
【0003】
ダイナミックダンパはハブと、ハブの外周側に位置する振動リングと、ハブと振動リングとを連結する弾性体とを備える。プロペラシャフト回転時の振動を打ち消すように振動リングと弾性体とが共振することによって、プロペラシャフトの捩れ方向(回転方向)の振動を減衰することができる。
【0004】
近年、燃費改善を目的とした車両の軽量化によって、プロペラシャフトに発生する振動の周波数帯が低くなっている。振動の周波数が小さくなると、ダイナミックダンパに対する加振入力値が大きくなる傾向にあり、弾性体に大きな捩れ負荷がかかる可能性がある。
ここで、弾性体を径方向に長くすれば弾性体の耐久性が向上する。しかしながら、その場合、ダイナミックダンパの径方向のスペースが拡大してしまう。また、振動リングの相対変位量を規制するストッパを設ければ、弾性体にかかる捩れ負荷を防止できるが、ストッパを設ける分、部品点数の増加を招いてしまう。
【0005】
上記のような課題を解決するために、特許文献1に記載のダイナミックダンパが提案された。
特許文献1には、
図10に示すように、ハブ20と、このハブ20の外周側に位置する振動リング30と、前記振動リング30の軸方向両側に位置するとともに、前記ハブ20と前記振動リング30とを連結する一対のゴム状弾性体製の弾性体40を備え、前記振動リング30は、前記ハブ20の外周近傍まで延在する凸部32を備え、各弾性体40は、前記ハブ20から前記振動リング30にかけて凸部32から軸方向外側に湾曲した形状をなし、前記弾性体40における凸部32側の面には、前記凸部32に向けて延在するゴム状弾性体製の突起部44が一体として成形され、前記凸部32と前記突起部44との間には、間隙が設定されていることを特徴とするダイナミックダンパ10が記載されている。また、このようなダイナミックダンパ10における振動リング30は、ハブ20の外周側にスリーブ41および弾性体40を介して連結された環状の振動リング本体31を有し、この振動リング本体31の軸方向中央から内径方向に向けて凸部32が形成されていると記載されている。さらに、この凸部32は、その内周面にドライベアリング33が嵌合されていると記載されている。
そして、このようなダイナミックダンパ10によると、弾性体40を湾曲した形状とすることによって、弾性体40を設ける径方向のスペースを大きくすることなく弾性体40に対する捩り負荷を小さくすることができ、突起部44が凸部32に接触する際の抵抗によって振動リング30の相対変位量を減衰させ、ストッパとしての機能も発揮することができると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2018/088103号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のような特許文献1に記載のダイナミックダンパ10を組み立てる際、一方の弾性体40をハブ20と振動リング本体31との間に嵌合した後、他方の弾性体40をハブ20と振動リング本体31との間に嵌合する。ここで、軸方向両側から振動リング30の凸部32を挟むように弾性体40を嵌合する際に、弾性体40に応力を加えても嵌合(圧入)できないため、湾曲部42の2つの端部を円筒状のスリーブ41に固定し、その後、スリーブ41に応力を加えて嵌合することになる。
しかしながら、
図10に示される態様のように、スリーブ41における軸と垂直となる端面に湾曲部42の端部が固定されていると、この端面に応力を加えて嵌合(圧入)することができない。湾曲部42の端部を破損させてしまう可能性があるからである。湾曲部42の端部が破損すると、弾性体40は所定の性能を発揮し難くなり、その結果、弾性体40に対する捩れ負荷を小さくすることができず、加えて、突起部44のストッパ機能も発揮し難くなる。
【0008】
本発明は上記のような課題を解決することを目的とする。すなわち、本発明は、弾性体の破損やスリーブの変形を抑制することができるダイナミックダンパおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は上記課題を解決するため鋭意検討し、本発明を完成させた。
本発明は以下の(1)~(3)である。
(1)ハブと、振動リングと、一対の弾性体と、ベアリングと、外径側および内径側の一対のスリーブと、を備え、
前記振動リングは、前記ハブの外周側に配置され、環状の振動リング本体およびその内周側に前記ハブの外周面に向けて突出する凸部を有し、
一対の前記弾性体は、前記振動リングにおける前記凸部を軸方向の両側から挟むように配置され、前記ハブと前記振動リング本体とを前記スリーブを介して連結しており、軸方向外側に湾曲する湾曲部と、前記湾曲部における内面から前記凸部に向けて突出している突起部と有し、
前記ベアリングは、前記凸部と前記ハブとの間に配置されている、ダイナミックダンパであって、
一対の前記スリーブはそれぞれ円筒状であり、軸方向に平行な内筒面を構成する筒部と、フランジ部とを有し、外径側の前記スリーブの前記フランジ部は前記筒部の一方端部から外周側へ向けて突出しており、内径側の前記スリーブの前記フランジ部は前記筒部の一方端部から内周側へ向けて突出しており、前記弾性体における前記湾曲部の内径側および外径側の端部の各々が、内径側および外径側の前記スリーブにおける記内筒面のみにそれぞれ固定されている、ダイナミックダンパ。
(2)前記スリーブにおける前記フランジ部がガイド部を有する、上記(1)に記載のダイナミックダンパ。
(3)前記弾性体における前記湾曲部の端部の各々を、内径側および外径側に配置する2つの前記スリーブの各々における前記内筒面のみに固定して、スリーブ付き弾性体を得る固定工程と、
前記筒部に加わる応力の少なくとも一部を前記フランジ部を介して下方から支える治具の上に、前記スリーブ付き弾性体を、前記内筒面が鉛直方向であって前記フランジ部を下側とした状態で配置する第1圧入工程と、
前記第1圧入工程によって前記治具の上に配置された前記スリーブ付き弾性体における内周側の前記スリーブに上方から前記ハブを嵌合させ、前記スリーブ付き弾性体における外周側の前記スリーブに上方から前記振動リングを嵌合させる第2圧入工程と、
前記フランジ部を介して前記筒部に応力を加えることができる治具を用いて、別の前記スリーブ付き弾性体を、前記内筒面が鉛直方向であって前記フランジ部を上側とした状態で、上方から、前記ハブと前記振動リング本体との間へ圧入する第3圧入工程と、
を備え、上記(1)または(2)に記載のダイナミックダンパが得られる、ダイナミックダンパの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、弾性体の破損やスリーブの変形を抑制することができるダイナミックダンパおよびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明のダイナミックダンパの軸方向における概略断面図である。
【
図2】本発明のダイナミックダンパの軸に対して垂直な方向における概略平面図である。
【
図3】外径側のスリーブ41aおよび内径側のスリーブ41bの概略断面斜視図である。
【
図4】
図3に示した2つのスリーブに弾性体40を固定した状態を示す概略断面斜視図である。
【
図5】第1圧入工程において用いる治具の好適例を示す概略斜視図である。
【
図6】第1圧入工程を説明するための概略一部断面図である。
【
図7】第2圧入工程を説明するための概略一部断面図である。
【
図8】第3圧入工程において用いる治具の好適例を示す概略斜視図である。
【
図9】第3圧入工程を説明するための概略一部断面図である。
【
図10】従来のダイナミックダンパについての軸方向における概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明について説明する。
本発明は、ハブと、振動リングと、一対の弾性体と、ベアリングと、スリーブと、を備え、前記振動リングは、前記ハブの外周側に配置され、環状の振動リング本体およびその内周側に前記ハブの外周面に向けて突出する凸部を有し、一対の前記弾性体は、前記振動リングにおける前記凸部を軸方向の両側から挟むように配置され、前記ハブと前記振動リング本体とを前記スリーブを介して連結しており、軸方向外側に湾曲する湾曲部と、前記湾曲部における内面から前記凸部に向けて突出している突起部と有し、前記ベアリングは、前記凸部と前記ハブとの間に配置されている、ダイナミックダンパであって、前記スリーブは円筒状であり、軸方向に平行な内筒面を構成する筒部と、前記筒部の一方端部から外周側へ向けて突出するフランジ部とを有し、前記弾性体における前記湾曲部の内径側および外径側の端部の各々が、前記スリーブにおける前記内筒面のみに固定されている、ダイナミックダンパである。
このようなダイナミックダンパを、以下では「本発明のダイナミックダンパ」ともいう。
【0013】
また、本発明は、前記弾性体における前記湾曲部の端部の各々を、内径側および外径側に配置する2つの前記スリーブの各々における前記内筒面のみに固定して、スリーブ付き弾性体を得る固定工程と、前記筒部に加わる応力の少なくとも一部を前記フランジ部を介して下方から支える治具の上に、前記スリーブ付き弾性体を、前記内筒面が鉛直方向であって前記フランジ部を下側とした状態で配置する第1圧入工程と、前記第1圧入工程によって前記治具の上に配置された前記スリーブ付き弾性体における内周側の前記スリーブに上方から前記ハブを嵌合させ、前記スリーブ付き弾性体における外周側の前記スリーブに上方から前記振動リングを嵌合させる第2圧入工程と、前記フランジ部を介して前記筒部に応力を加えることができる治具を用いて、別の前記スリーブ付き弾性体を、前記内筒面が鉛直方向であって前記フランジ部を上側とした状態で、上方から、前記ハブと前記振動リング本体との間へ圧入する第3圧入工程と、を備え、本発明のダイナミックダンパが得られる、ダイナミックダンパの製造方法である。
このようなダイナミックダンパの製造方法を、以下では「本発明の製造方法」ともいう。
【0014】
本発明の製造方法によって、本発明のダイナミックダンパを得ることができる。
本発明のダイナミックダンパは、本発明の製造方法によって製造することが好ましい。
【0015】
本発明のダイナミックダンパの好適態様について、
図1~
図4を用いて説明する。
図1は好ましい態様の本発明のダイナミックダンパについての軸方向における概略断面図であり、
図2は
図1に示した本発明のダイナミックダンパについての軸に対して垂直な方向における概略平面図である。また、
図3は外径側のスリーブ41aおよび内径側のスリーブ41bの概略断面斜視図であり、
図4は
図3に示した2つのスリーブに弾性体40を固定した状態を示す概略断面斜視図である。
【0016】
なお、
図1~
図4ならびに後述する
図5~
図9は、本発明のダイナミックダンパの好適態様の例示である。本発明のダイナミックダンパは
図1~
図9に示す態様に限定されない。本発明では、各種の変形や変更が許容される。
【0017】
図1および
図2に示すように、ダイナミックダンパ10は、円筒状のハブ20と、このハブ20の外周側に位置する円筒状の振動リング30とを備え、ハブ20と振動リング30とを弾性体40が連結している。弾性体40は、振動リング30の軸方向両側に一対設けられている。このダイナミックダンパ10は、自動車等の車両の下側に位置するプロペラシャフト等に装着されて用いられる。
【0018】
ハブ20は、プロペラシャフトに固定される。ハブ20の外周面21は、弾性体40を介して振動リング30に連結されている。
【0019】
振動リング30は環状の振動リング本体31を有している。振動リング本体31は、ハブ20の外周側に、スリーブ41(41a、41b)および弾性体40を介して連結されている。また、振動リング30は、その軸方向中央から内径方向に向けて凸部32を有している。凸部32の内周面にはドライベアリング33が嵌合され、固定されている。ドライベアリング33の内周面は、ハブ20の外周面21に微少の隙間を開けて対面している。つまりドライベアリング33の内周面とハブ20の外周面21との間には、微小な隙間が設定されている。
【0020】
弾性体40は、環状のゴム状弾性体である。弾性体40は軸方向外側(
図1における左右方向)に湾曲した形状を有している湾曲部42を備えている。湾曲部42は、外面の中央部分(湾曲部42の頂点)に環状のゴム塊43を有し、湾曲部42内面の中央部分に環状の突起部44を有する。
【0021】
ゴム塊43は、突起部44と反対側に位置する湾曲部42の外面の中央部分に形成されている。ゴム塊43が位置する湾曲部42の一部は肉厚となり、弾性体40は、ゴム塊43部分の剛性を高めている。
なお、本発明のダイナミックダンパにおいて、弾性体40におけるゴム塊43の位置は特に限定されない。ただし、弾性体40の外径側と内径側とをバランスよく弾性変形させるためには、弾性体40の中心、すなわち湾曲部42の頂点近傍にゴム塊43が配置されていることが好適である。
【0022】
突起部44は、ゴム塊43と反対側に位置する湾曲部42の内面の中央部分に形成されている。突起部44は湾曲部42の内面から振動リング30の凸部32に向けて軸方向に延びている。突起部44の先端と凸部32との間には、微少の間隙C1が設けられている。間隙C1は、概ね1~2mmほどである。
【0023】
このような弾性体40における湾曲部42の外径側の端部42aおよび内径側の端部42bは、
図1および
図4に示すように、円筒状のスリーブ41aおよびスリーブ41bに固定されている。
【0024】
ここでスリーブ41aは、
図3および
図4に示すように、軸方向に平行な内筒面X
1を構成する筒部αと、筒部αの一方端部から外周側へ向けて突出するフランジ部βとを有している。ここで、フランジ部βはガイド部γを有することが好ましい。フランジ部βは一方の端部において筒部αと結合しているが、フランジ部βの他方の端部においてガイド部γと結合していることが好ましい。ガイド部γは
図3および
図4に示すように、軸方向と平行方向に延びていることが好ましい。
フランジ部βがガイド部γを有すると、製造過程において、治具の位置決めが容易となり、製造過程における作業効率の向上に寄与する。
【0025】
そして、弾性体40における湾曲部42の外径側の端部42aが、筒部αにおける軸に平行な内筒面X
1のみに固定されている。ここで端部42aは、
図4に示すように、フランジ部βにおける押圧面X
2には接していない。
このようにしてスリーブ41aは弾性体40における湾曲部42と結合している。そして、スリーブ41aは、振動リング本体31の内周面に嵌合して固定されている。すなわち、湾曲部42の外径側の端部42aは、スリーブ41aを介して振動リング本体31に連結されている。
【0026】
スリーブ41bについても同様である。スリーブ41bは、
図3および
図4に示すように、軸に平行な内筒面Y
1を構成する筒部δと、筒部δの一方端部から内周側へ向けて突出するフランジ部εとを有している。ここで、フランジ部εはガイド部ζを有することが好ましい。フランジ部εは一方の端部において筒部δと結合しているが、フランジ部εの他方の端部においてガイド部ζと結合していることが好ましい。ガイド部ζは
図3および
図4に示すように、軸方向と平行方向に延びていることが好ましい。
フランジ部εがガイド部ζを有すると、製造過程において、治具の位置決めが容易となり、製造過程における作業効率の向上に寄与する。
【0027】
そして、弾性体40における湾曲部42の内径側の端部42bが、筒部δにおける軸に平行な内筒面Y
1のみに固定されている。ここで端部42bは、
図4に示すように、フランジ部εにおける押圧面Y
2には接していない。
このようにしてスリーブ41bは弾性体40における湾曲部42と結合している。そして、スリーブ41bは、ハブ20の外周面に嵌合して固定されている。すなわち、湾曲部42の外径側の端部42bは、スリーブ41bを介してハブ20に連結されている。
【0028】
なお、スリーブ41(41a、41b)に対する湾曲部42の固定は、例えば溶着、加硫接着、接着剤を用いた接着によって実現可能である。
【0029】
したがって湾曲部42は、ハブ20と振動リング30とを固定状態で連結しており、振動リング30がハブ20に対して捩れ方向Xに変位した際に、弾性変形可能である。
【0030】
上記構成を備えるダイナミックダンパ10によれば、弾性体40と振動リング30が、プロペラシャフトの振動による捩れ方向Xの変位の位相と逆の位相で共振するため、プロペラシャフトの振動を低減することができる。
【0031】
プロペラシャフトの回転に伴う振動によって、ダイナミックダンパ10の振動リング30がハブ20に対して捩れ方向Xに変位する際には、弾性体40の湾曲部42が捩れ方向Xに引っ張られる。このとき湾曲部42に形成されたゴム塊43は弾性体40の剛性を高め、弾性体40はゴム塊43を中心にその外径側と内径側とがバランスよく弾性変形し、弾性体40の一部に応力が集中することが防止される。その結果、弾性体40の耐久性を向上させることができる。
【0032】
図1~
図4に示した態様のダイナミックダンパ10によれば、振動リング30がハブ20に対して捩れ方向Xに変位する際に、湾曲した形状をなす湾曲部42が捩れ方向Xに引っ張られる。このとき湾曲部42の湾曲形状によって弾性体40の径方向長さが長くなり、弾性体40の変位許容量が大きくなる。その結果、振動リング30の相対変位に対する捩れ耐久性が向上し、弾性体40の径方向の占有スペースを大きくすることなく、プロペラシャフトの回転に対する振動低減効果の範囲を大きくすることができる。
【0033】
プロペラシャフトの回転数が増加することに伴って、振動リング30が一定以上捩れた際には、湾曲部42が引っ張られることによって突起部44と凸部32との間の間隙C1が減少し、突起部44は凸部32に接触する。突起部44が凸部32に接触すると、捩れ方向Xへの振動の減衰量を増加させる。このとき突起部44はストッパ機能を発揮し、振動リング30が一定以上捩れることを防止することができる。
【0034】
次に、本発明の製造方法について説明する。
本発明の製造方法によって、本発明のダイナミックダンパを得ることができる。
本発明の製造方法は、以下に説明する固定工程と、第1圧入工程と、第2圧入工程と、第3圧入工程とを備える。
【0035】
<固定工程>
本発明の製造方法が備える固定工程について説明する。
固定工程では、初めに、
図1および
図4に示したような、弾性体40、外径側のスリーブ41aおよび内径側のスリーブ41bを用意する。
【0036】
弾性体40は、例えば従来公知の材料を用いて従来公知の方法によって製造することができる。例えば材料として、天然ゴム(NR)、エチレン・プロピレン・ジエンゴム(EPDM)、ブチルゴム、フッ素ゴム、ニトリルゴム、クロロプレン等のゴム状弾性材や、ポリエステル系エラストマー、熱可塑性ポリウレタン等の熱可塑性エラストマーから、適宜用途に合わせ選択して使用することができる。このような材料を金型へ流し込み、弾性体40を成型することができる。
【0037】
外径側のスリーブ41aおよび内径側のスリーブ41bについても同様に、例えば従来公知の材料を用いて従来公知の方法によって得ることができる。例えば板状の金属(好ましくは冷間圧延鋼板)をプレス加工することでスリーブ41aおよびスリーブ41bを得ることができる。
【0038】
このような弾性体40における湾曲部42の端部42aを、外径側に配置するスリーブ41aにおける内筒面X1のみに固定する。つまり、端部42aの一部でも押圧面X2には接しないようにする。ここで特許文献1に記載の態様のように、押圧面X1に湾曲部42の端部42aが存在していると、後述する第2圧入工程において、治具の上に配置されたスリーブ付き弾性体にハブおよび振動リングを嵌合させる際に、治具と押圧面X2との間に湾曲部42の端部42aが挟まることになるので、湾曲部42の端部aは破損してしまう。
また、弾性体40における湾曲部42の端部42bを、内径側に配置するスリーブ41bにおける内筒面Y1のみに固定する。つまり、端部42bの一部でも押圧面Y2には接しないようにする。ここで特許文献1に記載の態様のように、押圧面X2に湾曲部42の端部42bが存在していると、後述する第3圧入工程において、スリーブ付き弾性体における押圧面X2、Y2を上方から治具を用いて押し込む際に、治具と押圧面X2との間に湾曲部42の端部42bが挟まることになるので、湾曲部42の端部bは破損してしまう。
【0039】
このように弾性体40における湾曲部42の端部42aを、外径側に配置するスリーブ41aにおける内筒面X1のみに固定し、また、弾性体40における湾曲部42の端部42bを、内径側に配置するスリーブ41bにおける内筒面Y1のみに固定することで、後述する第2圧入工程において、治具の上に配置されたスリーブ付き弾性体にハブおよび振動リングを嵌合させる際に、湾曲部42の端部を破損させず、また、後述する第3圧入工程においてスリーブ付き弾性体における押圧面X2、Y2を上方から治具を用いて押し込むことで、ハブ20と振動リング本体32との間へ圧入しても、湾曲部42の端部を破損させない。
湾曲部42の端部を破損させてしまうと、弾性体40は所定の性能を発揮し難くなり、その結果、弾性体40に対する捩れ負荷を小さくすることができず、加えて、突起部44のストッパ機能も発揮し難くなる。
【0040】
スリーブ41a、41bと湾曲部42の端部42a、42bとの固定は、例えば溶着、架橋接着、接着剤を用いた接着によって実現可能である。
このようにして
図4に示したような、スリーブ付き弾性体50を得ることができる。
【0041】
<第1圧入工程>
本発明の製造方法が備える第1圧入工程について、
図5、
図6を用いて説明する。
図5は第1圧入工程において用いる治具の好適例を示す概略斜視図であり、
図6は、第1圧入工程を説明するための概略一部断面図である。
【0042】
第1圧入工程では、前述の固定工程によって得られたスリーブ付き弾性体50を、
図6に示すように、治具60の上に配置する。すなわち、内側のリング62が内側のスリーブ41bを下方から支え、外側のリング64が外側のスリーブ41aを下方から支えるにように、スリーブ付き弾性体50を治具60の上に配置する。
治具60は底部66が水平となるように、例えば台上に配置されて用いられる。
【0043】
治具60には、
図5に示すように、2つのリング(62、64)が同心円状に配置され、板状の底部66に固定されている。各々のリング(62、64)は筒状であり、その幅(底部66から突き出ている高さ)は各々同一である。
また、治具60における2つのリングの径方向の距離tは、スリーブ41aの内筒面X
1とスリーブ41bにおける内筒面Y
1の距離にほぼ等しい。
また、内側のリング62のリング自体の幅は、スリーブ41bの筒部δの幅よりも大きいことが好ましく、フランジ部εの押圧面Y
2の径方向の長さよりも小さいことが好ましい。
また、外側のリング64のリング自体の幅は、スリーブ41aの筒部αの幅よりも大きいことが好ましく、フランジ部βの押圧面X
2の径方向の長さよりも小さいことが好ましい。
このような場合、スリーブ付き弾性体50の筒部α、δに加わる応力の少なくとも一部を、フランジ部β、εを介して、下方から、治具60が支えることができるからである。
【0044】
ここで、フランジ部β、εがガイド部γ、ζを有すると、製造過程において、治具60に対する位置決めが容易となり、製造過程における作業効率の向上に寄与する。
【0045】
治具60は、例えば従来公知の材料を用いて従来公知の方法によって得ることができる。例えば金属(好ましくはSS400等)を切削加工することで得ることができる。
【0046】
このような治具60の上に、
図6に示すように、内筒面X
1、Y
1が鉛直方向となるように、フランジ部β、εを下側として、スリーブ付き弾性体50を配置する。
【0047】
<第2圧入工程>
本発明の製造方法が備える第2圧入工程について、
図7を用いて説明する。
図7は、第2圧入工程を説明するための概略一部断面図である。
【0048】
前述の第1圧入工程によって、治具60の上に配置されたスリーブ付き弾性体50における内周側のスリーブ41bに上方からハブ20を嵌合させ、スリーブ付き弾性体50における外周側のスリーブ41aに上方から振動リング30を嵌合させる。
ここで振動リング30を嵌合させた後、ハブ20を嵌合させてもよい。
【0049】
また、ドライベアリング33を振動リング30へ嵌合した後に、これをスリーブ付き弾性体50に嵌合させることが好ましい。
【0050】
ハブ20および振動リング30をスリーブ付き弾性体50に嵌合させる方法は特に限定されない。ハブ20または振動リング30へ上方から応力を加えることで、これらをスリーブ付き弾性体50に嵌合させることができる。
【0051】
<第3圧入工程>
本発明の製造方法が備える第1圧入工程について、
図8、
図9を用いて説明する。
図8は第3圧入工程において用いる治具の好適例を示す概略斜視図であり、
図9は、第3圧入工程を説明するための概略一部断面図である。
【0052】
第3圧入工程では、もう一つ別のスリーブ付き弾性体52を、上方から、ハブ20と振動リング本体32との間へ圧入する。
【0053】
第3圧入工程では、
図8、
図9に示すように、スリーブ付き弾性体52のフランジ部β、εを介して筒部α、δに応力を加えることができる治具70を用いる。
治具70は、前述の治具60と同様であって、2つのリング(72、74)の高さのみ、高いものを用いることできる。具体的に説明する。
【0054】
治具70には、
図8に示すように、2つのリング(72、74)が同心円状に配置され、板状の底部76に固定されている。各々のリング(72、74)は筒状であり、その幅(底部76から突き出ている高さ)は各々同一である。
また、治具70における2つのリングの径方向の距離tは、スリーブ41aの内筒面X
1とスリーブ41bにおける内筒面Y
1の距離にほぼ等しい。
また、内側のリング72のリング自体の幅は、スリーブ41bの筒部δの幅よりも大きいことが好ましく、フランジ部εの押圧面Y
2の径方向の長さよりも小さいことが好ましい。
また、外側のリング74のリング自体の幅は、スリーブ41aの筒部αの幅よりも大きいことが好ましく、フランジ部βの押圧面X
2の径方向の長さよりも小さいことが好ましい。
このような場合、別のスリーブ付き弾性体52における筒部α、δに応力を加えることができるので、スリーブの変形を抑制できるからである。治具70からの応力が筒部α、δに加わり難いと、フランジ部β、εが変形する可能性が有る。
【0055】
ここで、フランジ部β、εがガイド部γ、ζを有すると、製造過程において、治具60に対する位置決めが容易となり、製造過程における作業効率の向上に寄与する。
【0056】
治具70は底部76が水平となるように固定されて用いられる。
【0057】
治具70は、例えば従来公知の材料を用いて従来公知の方法によって得ることができる。例えば金属(好ましくはSS400等)を切削加工することで得ることができる。
【0058】
このような治具70を用いて、別のスリーブ付き弾性体52を、その内筒面X1、Y1が鉛直方向と平行とした状態で、上方から、ハブ20と振動リング本体31との間へ圧入する。ここで、フランジ部β、εを上側とした状態で、押圧面X2、Y2を治具70によって押し付けて嵌合する。
【0059】
このような本発明の製造方法によって、本発明のダイナミックダンパを得ることができる。
【符号の説明】
【0060】
10 ダイナミックダンパ
20 ハブ
21 外周面
30 振動リング
31 振動リング本体
32 凸部
33 ドライベアリング
40 弾性体
41 スリーブ
42 湾曲部
43 ゴム塊
44 突起部
50、52 スリーブ付き弾性体
60、70 治具
62、72 内側のリング
64、74 外側のリング
C1 間隙
X 捩れ方向
t 内側リングと外側リングとの距離
X1、Y1 内筒面
X2、Y2 押圧面
α、δ 筒部
β、ε フランジ部
γ、ζ ガイド部