(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-24
(45)【発行日】2023-12-04
(54)【発明の名称】タイヤインナーライナー用ゴム組成物及び空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
C08L 23/28 20060101AFI20231127BHJP
C08L 57/02 20060101ALI20231127BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20231127BHJP
B60C 1/00 20060101ALI20231127BHJP
B60C 5/14 20060101ALI20231127BHJP
【FI】
C08L23/28
C08L57/02
C08K3/04
B60C1/00 Z
B60C5/14 A
(21)【出願番号】P 2019234920
(22)【出願日】2019-12-25
【審査請求日】2022-10-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003395
【氏名又は名称】弁理士法人蔦田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】茂苅 佳祐
【審査官】中村 英司
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-024101(JP,A)
【文献】再公表特許第2018/143379(JP,A1)
【文献】特開2012-031387(JP,A)
【文献】特開2021-102663(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102101926(CN,A)
【文献】特開2002-205507(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0092648(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 23/28
C08L 57/02
C08K 3/04
B60C 1/00
B60C 5/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハロゲン化ブチルゴムを含むゴム成分
100質量部に対して、カーボンブラック
10~70質量部と、瀝青炭粉砕物
5~30質量部と、脂肪族/芳香族共重合系石油樹脂
0.1~20質量部と、を含む、タイヤインナーライナー用ゴム組成物。
【請求項2】
請求項
1に記載のタイヤインナーライナー用ゴム組成物からなるインナーライナーを備えた空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤのインナーライナーとして用いられるゴム組成物、及びそれを用いた空気入りタイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤの内面には、タイヤの空気圧を一定に保持するために空気透過抑制層としてインナーライナーが設けられている。かかるインナーライナーを形成するゴム組成物には、耐空気透過性に優れるブチル系ゴムがゴム成分として使用されており、従来様々な提案がなされている。
【0003】
例えば、特許文献1には、耐疲労性、低温脆化性および加硫故障を悪化させることなく、空気透過防止性能を向上するために、ブチルゴム及びハロゲン化ブチルゴムを含むゴム成分に、オイル、樹脂および無機充填剤を特定の量で配合することが提案されている。特許文献2には、ガスバリア性と低温耐久性を向上するために、ブチルゴムを含むゴム成分に、特定のカーボンブラックと、層状又は板状の鉱物と、ガラス転移温度が41~75℃である樹脂とを配合することが提案されている。しかしながら、これらの文献には、瀝青炭粉砕物と脂肪族/芳香族共重合系石油樹脂との組み合わせについては記載されておらず、ガスバリア性及び低温での耐屈曲疲労性の点で必ずしも十分とはいえない。
【0004】
ところで、一般に、タイヤ成型時、インナーライナー用ゴム組成物はロールや押出機などでシート状に成形され、得られたシート状物はインナーライナーとして成型ドラム上に筒状に巻き付けられる。そして、このインナーライナー上にカーカスプライを貼り付け、更にベルト、トレッドゴム及びサイドウォールゴムなどの各タイヤ部材を貼り重ね、インフレート(拡張)することによりグリーンタイヤ(未加硫タイヤ)が作製され、該グリーンタイヤをモールド内で加硫成型することにより、空気入りタイヤが得られる。その際、筒状に巻き付けられたインナーライナーにおける巻き始め端と巻き終わり端との突き合わせ部(ジョイント部)が、上記の拡張後に部分的に剥がれて口開きが生じることがあり、タイヤ成型不良の要因となる。
【0005】
そのため、タイヤインナーライナー用ゴム組成物においては、耐空気透過性(即ち、ガスバリア性)と、低温での耐屈曲疲労性とともに、タイヤ成型時におけるインナーライナーのジョイント部の口開きを抑制することが求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2018-002872号公報
【文献】特開2019-104779号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の実施形態は、耐空気透過性と低温での耐屈曲疲労性の向上しながら、タイヤ成型時におけるインナーライナーのジョイント部の口開きを抑制することができるタイヤインナーライナー用ゴム組成物、及びそれを用いた空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の実施形態に係るタイヤインナーライナー用ゴム組成物は、ハロゲン化ブチルゴムを含むゴム成分と、カーボンブラックと、瀝青炭粉砕物と、脂肪族/芳香族共重合系石油樹脂と、を含むものである。
【0009】
本発明の実施形態に係る空気入りタイヤは、該タイヤインナーライナー用ゴム組成物からなるインナーライナーを備えたものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の実施形態によれば、耐空気透過性と低温での耐屈曲疲労性の向上しながら、タイヤ成型時におけるインナーライナーのジョイント部の口開きを抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本実施形態に係るタイヤインナーライナー用ゴム組成物(以下、単にゴム組成物ともいう。)は、ハロゲン化ブチルゴムを含むゴム成分に、カーボンブラックと、瀝青炭粉砕物と、脂肪族/芳香族共重合系石油樹脂とを配合してなるものである。
【0012】
ゴム成分は、耐空気透過性の点からハロゲン化ブチルゴムを含む。ハロゲン化ブチルゴムとしては、臭素化ブチルゴム(BIIR)、塩素化ブチルゴム(CIIR)等が挙げられ、これらはいずれか一方のみ用いても併用してもよい。
【0013】
ゴム成分は、ハロゲン化ブチルゴムの単独でもよいが、ハロゲン化ブチルゴムとブチルゴム等の他のゴムとのブレンドでもよい。ゴム成分中に占めるハロゲン化ブチルゴムの比率は70質量%であることが好ましく、80質量%以上であることが好ましい。
【0014】
ハロゲン化ブチルゴムと併用する他のゴムとしては、耐空気透過性の点からブチルゴム(IIR)であることが好ましいが、本発明の効果を損なわない範囲で、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)などのジエン系ゴムを用いてもよい。
【0015】
カーボンブラックは補強性充填剤として配合されるものであり、公知の種々の品種を用いることができる。好ましくは窒素吸着比表面積(N2SA)(JIS K6217-2)が20~70m2/gであるカーボンブラックが用いられ、より好ましくは20~50m2/gであるカーボンブラックを用いることである。具体的には、FEF級(N500番台)、GPF級(N600番台)(ともにASTMグレード)のカーボンブラックが例示される。これらのカーボンブラックは、いずれか1種又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0016】
カーボンブラックの配合量は、特に限定されないが、ゴム成分100質量部に対して10~70質量部であることが好ましく、より好ましくは20~60質量部であり、30~50質量部でもよい。
【0017】
瀝青炭粉砕物(bitumious coal)は、石炭の1種である瀝青炭を粉砕したものである。ここで、瀝青炭とはJIS M1002による石炭の分類でB1、B2及びCの区分に入るものである。瀝青炭粉砕物の平均粒径(ASTM D1511準拠:マイクロトラック・ベル株式会社製、マイクロトラックSRA150を用いて測定)は、特に限定されないが、0.5~100μmであることが好ましく、より好ましくは1~30μmである。
【0018】
このような瀝青炭粉砕物としては市販されているものを利用することもでき、例えばCoal Fillers社製「オースチンブラック325」などが挙げられる。
【0019】
瀝青炭粉砕物の配合量は、ゴム成分100質量部に対して5~30質量部であることが好ましく、より好ましくは10~30質量部である。瀝青炭粉砕物の配合量が5質量部以上であることにより、脂肪族/芳香族共重合系石油樹脂との組み合わせにより耐空気透過性と低温での耐屈曲疲労性を向上しつつジョイント部の口開きを抑制する効果を高めることができる。瀝青炭粉砕物の配合量が30質量部以下であることにより、ジョイント部の口開きを抑制する効果を高めることができる。
【0020】
脂肪族/芳香族共重合系石油樹脂は、C5/C9共重合系石油樹脂とも称され、より詳細には、炭素数4~5個相当の石油留分であるC5留分(例えばイソプレン、ペンテン、メチルブテン、ピペリレン、シクロペンテン、シクロペンタジエンなど)と、炭素数8~10個相当の石油留分であるC9留分(例えばスチレン、ビニルトルエン、アルキルスチレン、インデンなど)とを共重合して得られる樹脂であり、水添したものや変性したものであってもよい。
【0021】
脂肪族/芳香族共重合系石油樹脂は、ゴム組成物に粘着性を付与する粘着付与剤として配合されるものであり、瀝青炭粉砕物とともに配合することにより、耐空気透過性と低温での耐屈曲疲労性を向上しつつジョイント部の口開きを抑制することができる。詳細には、C5留分を重合してなる脂肪族系石油樹脂(C5系樹脂)を用いる場合に比べて耐空気透過性に優れ、C9留分を重合してなる芳香族系石油樹脂(C9系樹脂)を用いる場合に比べて耐空気透過性と低温での耐屈曲疲労性に優れ、更に、加工性がよく、タイヤ成型時におけるインナーライナーのジョイント部の口開き抑制効果に優れる。
【0022】
脂肪族/芳香族共重合系石油樹脂の軟化点は、90~110℃であることが好ましい。より好ましくは90~105℃である。軟化点が90℃以上であることにより、耐空気透過性を向上することができ、110℃以下であることにより、耐屈曲疲労性の劣化を抑えられる。ここで、軟化点は、JIS K2207に準拠した環球式にて測定される値である。
【0023】
脂肪族/芳香族共重合系石油樹脂の配合量は、上記効果の点から、ゴム成分100質量部に対して0.1~20質量部であることが好ましい。脂肪族/芳香族共重合系石油樹脂の配合量は、0.5質量部以上であることが好ましく、より好ましくは1質量部以上であり、上限は15質量部以下であることが好ましい。
【0024】
本実施形態に係るゴム組成物には、上記成分の他に、オイル、酸化亜鉛、ステアリン酸、老化防止剤、ワックス、加硫剤、加硫促進剤など、ゴム組成物において一般に使用される各種添加剤を配合することができる。
【0025】
オイルとしては、一般にゴム組成物に配合される各種オイルを用いることができる。例えば、鉱物油、即ちパラフィンオイル、ナフテンオイル、及びアロマオイルからなる群から選択される少なくとも1種の鉱物油を用いてもよい。オイルの含有量は、特に限定されず、例えば、ゴム成分100質量部に対して10質量部以下(配合しなくてもよい)でもよく、1~5質量部でもよい。
【0026】
加硫剤としては、硫黄が好ましく用いられる。加硫剤の配合量は、特に限定するものではないが、ゴム成分100質量部に対して3質量部以下(配合しなくてもよい)であることが好ましく、より好ましくは0.1~2質量部である。また、加硫促進剤としては、例えば、スルフェンアミド系、チウラム系、チアゾール系、及びグアニジン系などの各種加硫促進剤が挙げられ、いずれか1種単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。加硫促進剤の配合量は、特に限定するものではないが、ゴム成分100質量部に対して0.1~5質量部であることが好ましく、より好ましくは0.5~3質量部である。
【0027】
本実施形態に係るゴム組成物は、通常に用いられるバンバリーミキサーやニーダー、ロール等の混合機を用いて、常法に従い混練し作製することができる。例えば、第一混合段階(ノンプロ練り工程)で、ゴム成分に対し、カーボンブラック、瀝青炭粉砕物及び脂肪族/芳香族共重合系石油樹脂とともに、加硫剤及び加硫促進剤以外の添加剤を添加混合する。次いで、得られた混合物に、最終混合段階(プロ練り工程)で加硫剤及び加硫促進剤を添加混合して未加硫のゴム組成物を調製することができる。
【0028】
得られたゴム組成物は、空気入りタイヤのインナーライナーを構成するゴム組成物として用いることができる。例えば、常法に従って、ロールや押出機などでシート状物とし、該シート状物をインナーライナーとして成型ドラム上に巻き付ける。このインナーライナー上にカーカスプライを貼り付け、更にベルト、トレッドゴム及びサイドウォールゴムなどの各タイヤ部材を貼り重ねるとともにインフレート(拡張)することによりグリーンタイヤ(未加硫タイヤ)が作製される。該グリーンタイヤをモールド内で例えば140~180℃で加硫成型することにより、タイヤ内面に薄いゴム層よりなるインナーライナーを備えた空気入りタイヤが得られる。なお、インナーライナーの厚みは、タイヤサイズなどにより異なるが、通常は0.5~3.0mmである。
【0029】
本実施形態によれば、上記のように、ハロゲン化ブチルゴムを含むゴム成分に、瀝青炭粉砕物とともに脂肪族/芳香族共重合系石油樹脂を配合したことにより、耐空気透過性と低温での耐屈曲疲労性の向上しながら、タイヤ成型時におけるインナーライナーのジョイント部の口開きを抑制することができる。
【0030】
空気入りタイヤの用途としては、特に限定されず、乗用車用、トラックやバスの重荷重用など各種用途が挙げられ、様々なサイズの空気入りタイヤに用いることができる。
【実施例】
【0031】
以下、実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0032】
バンバリーミキサーを使用し、下記表1に示す配合(質量部)に従って、まず、第一混合段階で、ゴム成分に対し硫黄及び加硫促進剤を除く配合剤を添加し混練した(排出温度=160℃)。次いで、得られた混練物に、最終混合段階で、硫黄と加硫促進剤を添加し混練した(排出温度=90℃)。これによりタイヤインナーライナー用ゴム組成物を調製した。
【0033】
表1中の各成分の詳細は、以下の通りである。
・臭素化ブチルゴム:エクソンモービルケミカル社製「ブロモブチル2222」
・カーボンブラック:東海カーボン(株)製「シーストV」(N2SA:27m2/g)
・瀝青炭粉砕物:Coal Fillers社製「オースチンブラック325」(平均粒径:5.5μm)
・石油樹脂1:脂肪族系石油樹脂、エクソンモービルケミカル社製「エスコレッツ1102」
・石油樹脂2:脂肪族/芳香族共重合系石油樹脂、東ソー(株)製「ペトロタック90」(インデン、スチレン及びビニルトルエンに由来する構成単位と、ピペリレンに由来する構成単位とを含む。軟化点:95℃)
・オイル:JXTGエネルギー(株)製「NC-140」
・酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製「酸化亜鉛3種」
・ステアリン酸:日油(株)製「ビーズステアリン酸」
・加硫促進剤:大内新興化学工業(株)製「ノクセラーDM-P」
・硫黄:鶴見化学工業(株)製「5%油入微粉末硫黄」。
【0034】
得られた各ゴム組成物について、160℃で30分間加硫した試験片を用いて、耐空気透過性と低温耐屈曲疲労性を評価した。また、各ゴム組成物についてグリーンタイヤ作製時におけるジョイント部の口開き性を評価した。各測定・評価方法は以下の通りである。
【0035】
・耐空気透過性:試験片として厚み1mmの加硫ゴムシートを用いて、ガス透過率試験器((株)東洋精機製作所製、「BT-3」)により空気透過率を測定し、測定値の逆数について比較例1の値を100とした指数で表示した。数値が大きいほど耐空気透過性に優れることを示す。
【0036】
・低温耐屈曲疲労性:JIS K6260に準拠し、デマチャ屈曲試験機を用いて、-35℃の環境において亀裂成長試験を行い、亀裂長さ10mmに達するまでの屈曲回数を測定した。比較例1の屈曲回数を100とした際の指数で表示し、数値が大きいほど耐低温屈曲疲労性に優れることを示す。
【0037】
・ジョイント部口開き性:各ゴム組成物をインナーライナーに用いてそれぞれ1000本のグリーンタイヤ(タイヤサイズ:11R22.5)を作製し、インナーライナーのジョイント部における口開きの有無を調べた。口開きが発生したグリーンタイヤの本数について、比較例1の発生本数を基準にし、これよりも20%以上減少した場合を「A」、10%以上20%未満減少した場合を「B」、1%以上10%未満した場合を「C」、減少しなかった又は増加した場合を「D」と評価した。
【0038】
【0039】
結果は表1に示す通りである。瀝青炭粉砕物と脂肪族系石油樹脂とを組み合わせた比較例1に対し、瀝青炭粉砕物と脂肪族/芳香族共重合系石油樹脂を組み合わせた実施例1~6であると、耐空気透過性と低温での耐屈曲疲労性が顕著に向上しており、ジョイント部における口開きも抑制されていた。
【0040】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これら実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその省略、置き換え、変更などは、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。