(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-24
(45)【発行日】2023-12-04
(54)【発明の名称】吸着保持装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/683 20060101AFI20231127BHJP
【FI】
H01L21/68 P
(21)【出願番号】P 2019236801
(22)【出願日】2019-12-26
【審査請求日】2022-11-08
(73)【特許権者】
【識別番号】715010864
【氏名又は名称】エイブリック株式会社
(72)【発明者】
【氏名】宮島 祐一
(72)【発明者】
【氏名】田中 克則
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 栄一
(72)【発明者】
【氏名】中村 典幸
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 豊
【審査官】渡井 高広
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-171892(JP,A)
【文献】特開2000-164536(JP,A)
【文献】実開平01-104726(JP,U)
【文献】国際公開第2014/157014(WO,A1)
【文献】特開2006-319182(JP,A)
【文献】特開2019-140229(JP,A)
【文献】特開2013-252608(JP,A)
【文献】特開2009-117441(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/683
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平坦な表面からの高さが異なる面が存在する裏面を有する半導体基板を載置可能な載置面に、前記半導体基板を吸着保持するための複数の吸着孔が設けられている載置板と、
前記載置板が前記半導体基板の裏面側を吸着保持したときに、前記半導体基板の裏面側から印加される支持力により前記高さが異なる面のうち低い面を前記載置面に接触させないように支持する支持機構と、
を有
し、
前記載置板には、前記載置面に複数の部材収容穴が更に設けられており、
前記支持機構は、
前記複数の部材収容穴にそれぞれ収容され、前記半導体基板を裏面側から支持する複数の支持部材と、
前記複数の支持部材の下端にそれぞれ当接し、前記半導体基板を前記載置面で吸着保持した際に、前記半導体基板の最も厚い領域を前記載置面に接触させ、前記最も厚い領域以外を前記載置面に接触しないように、前記複数の支持部材をそれぞれ付勢する複数の付勢部材と、
を備え、
前記支持機構は、
前記複数の吸着孔にそれぞれ設けられ、前記複数の支持部材が前記半導体基板を支持した際に、それぞれの前記支持部材の下降量に応じて前記複数の吸着孔をそれぞれ開閉する複数の弁を更に備えることを特徴とする吸着保持装置。
【請求項2】
平坦な表面からの高さが異なる面が存在する裏面を有する半導体基板を載置可能な載置面に、前記半導体基板を吸着保持するための複数の吸着孔が設けられている載置板と、
前記載置板が前記半導体基板の裏面側を吸着保持したときに、前記半導体基板の裏面側から印加される支持力により前記高さが異なる面のうち低い面を前記載置面に接触させないように支持する支持機構と、
を有し、
前記載置板には、前記載置面に複数の部材収容穴が更に設けられており、
前記支持機構は、
前記複数の部材収容穴にそれぞれ収容され、前記半導体基板を裏面側から支持する複数の支持部材と、
前記複数の支持部材の下端にそれぞれ当接し、前記半導体基板を前記載置面で吸着保持した際に、前記半導体基板の最も厚い領域を前記載置面に接触させ、前記最も厚い領域以外を前記載置面に接触しないように、前記複数の支持部材をそれぞれ付勢する複数の付勢部材と、
を備え
、
前記複数の吸着孔は、上部がそれぞれ閉塞され、下部には、隣接する前記部材収容穴とそれぞれ連通する複数の連通孔が設けられており、
前記支持部材は、円柱状であって、上端から所定の位置より上における直径が前記部材収容穴の直径よりも小さく、前記所定の位置から下端までの直径のうち少なくとも前記所定の位置の直径が前記複数の部材収容穴の直径と略同一であり、
前記支持部材が前記半導体基板を支持して下降すると、前記支持部材の前記所定の位置が少なくとも前記連通孔の開口部の上端より下に位置することを特徴とする吸着保持装置。
【請求項3】
平坦な表面からの高さが異なる面が存在する裏面を有する半導体基板を載置可能な載置面に、前記半導体基板を吸着保持するための複数の吸着孔が設けられている載置板と、
前記載置板が前記半導体基板の裏面側を吸着保持したときに、前記半導体基板の裏面側から印加される支持力により前記高さが異なる面のうち低い面を前記載置面に接触させないように支持する支持機構と、
を有し、
前記載置板の前記載置面と前記半導体基板の裏面との間に間隙が存在する領域である間隙領域を検知する間隙検知器を更に有し、
前記載置板の前記載置面には、
前記半導体基板の周縁を囲う載置枠と、
前記半導体基板を前記載置板で吸着保持した際に、前記間隙検知器により検知された前記間隙領域に気体を放出する複数の気体放出孔と、
が設けられていることを特徴とする吸着保持装置。
【請求項4】
前記載置枠の内壁が樹脂又はゴムで覆われていることを特徴とする請求項3に記載の吸着保持装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸着保持装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置の製造工程の一例として、洗浄、リソグラフィ、エッチング、成膜、平坦化などの処理を組み合わせて円盤状のウェハの表面に多数の半導体装置を形成した後、円盤状のウェハを切削して個片化するものが挙げられる。
【0003】
上記のような製造工程において、各半導体装置に対し、個片化する前のウェハの状態でウェハテストシステムなどにより電気的特性の検査が行われる場合が多い。このようなウェハテストシステムでは、まずウェハを吸着保持装置で吸着保持し、ウェハの表面に形成されている半導体装置の電極パッドにプローブニードルを当接させる。プローブニードルに接続されているテスタは、プローブニードルから電極パッドに電源電圧や各種の試験信号を印加し、半導体装置から出力された信号を検査することにより、各半導体装置が正常に動作するかを確認する。
【0004】
このため、ウェハが反りなどで変形すると、半導体装置の電極パッドにプローブニードルを当接させることが難しい場合がある。また、このようなウェハの変形は、検査のみならずリソグラフィの処理においてもパターン精度に影響を及ぼすため問題になる場合がある。
そこで、ウェハの平面矯正を行うことを目的に、例えば、ウェハ接触部分とウェハ非接触部分との単位面積当たりの比がウェハ外周方向に向かって増加しているウェハチャックが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一つの側面では、平坦な表面からの高さが異なる面が存在する裏面を有する半導体基板であっても、半導体基板を破損させないように表面を平坦に保ちながら吸着保持することができる吸着保持装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一つの実施形態では、吸着保持装置は、
平坦な表面からの高さが異なる面が存在する裏面を有する半導体基板を載置可能な載置面に、前記半導体基板を吸着保持するための複数の吸着孔が設けられている載置板と、
前記載置板が前記半導体基板の裏面側を吸着保持したときに、前記半導体基板の裏面側から印加される支持力により前記高さが異なる面のうち低い面を前記載置面に接触させないように支持する支持機構と、を有する。
【発明の効果】
【0008】
一つの側面では、平坦な表面からの高さが異なる面が存在する裏面を有する半導体基板であっても、半導体基板を破損させないように表面を平坦に保ちながら吸着保持することができる吸着保持装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、第1の実施形態における吸着保持装置を示す概略図である。
【
図2】
図2は、第1の実施形態における吸着保持装置の動作を示す説明図である。
【
図3】
図3は、第1の実施形態における吸着保持装置の動作を示す説明図である。
【
図4】
図4は、第1の実施形態の変形例における吸着保持装置の支持機構の動作を示す説明図である。
【
図5】
図5は、第1の実施形態の変形例における吸着保持装置の支持機構の動作を示す説明図である。
【
図6】
図6は、第1の実施形態の別の変形例における吸着保持装置の支持機構の動作を示す説明図である。
【
図7】
図7は、第1の実施形態の別の変形例における吸着保持装置の支持機構の動作を示す説明図である。
【
図8】
図8は、第2の実施形態における吸着保持装置を示す概略図である。
【
図9】
図9は、第2の実施形態における吸着保持装置の動作を示す説明図である。
【
図10】
図10は、裏面に異なる高さの面を有し、表面に複数の半導体装置を有する半導体基板の一例を示す概略図である。
【
図11】
図11は、裏面に異なる高さの面を有し、表面に複数の半導体装置を有する半導体基板の別の一例を示す概略図である。
【
図12】
図12は、検査する工程において、第1の実施形態における吸着保持装置により半導体基板を吸着保持した状態の一例を示す説明図である。
【
図13】
図13は、複数の半導体装置を個片化する工程において、半導体基板をダイシングブレードにより切削する状態の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一実施形態に係る吸着保持装置は、平坦な表面からの高さが異なる面が存在する裏面を有する半導体基板を載置可能な載置面に、半導体基板を吸着保持するための複数の吸着孔が設けられている載置板と、載置板が半導体基板の裏面側を吸着保持したときに、半導体基板の裏面側から印加される支持力により高さが異なる面のうち低い面を載置面に接触させないように支持する支持機構と、を有する。
【0011】
本発明の一実施形態に係る吸着保持装置は、以下の知見に基づくものである。
【0012】
半導体パッケージの種類としては、例えば、SOT(Small Outline Transistor)、SNT(Small outline Nonleaded Thin package)などの多様な構造や高さのものが存在する。このため、半導体パッケージの高さに合わせてウェハ全体を研削して厚みを調整している。
また、従来から半導体装置のレイアウト面積の狭小化が進められており、例えば、1枚のウェハから数万個の半導体装置(以下、「チップ」と称することがある)が得られる場合がある。このような場合、月数百個の出荷数の品種を製造すると在庫過多になってしまう。
このため、多品種少量生産に対応するには、1枚のウェハにおいて、複数種の半導体装置を表面に形成し、その後に裏面の一部の研削量を調整して半導体パッケージの構造や高さに応じた厚さにすることが考えられる。つまり、平坦な表面からの高さが異なる面が存在する裏面を有するウェハになるが、特許文献1に記載されているような従来の吸着保持装置では、裏面を吸着保持すると表面が平坦に保てない。また、上述のようなウェハを従来の吸着保持装置で無理に吸着保持すると、ウェハの表面に亀裂や割れなどが発生して破損する可能性がある。
【0013】
そこで、本発明の一実施形態に係る吸着保持装置は、平坦な表面からの高さが異なる面が存在する裏面を有するウェハを平坦な載置板で裏面側を吸着保持したときに、支持力によりウェハ裏面の薄い領域を載置板に接触させないように支持する支持機構を有する。
これにより、平坦な表面からの高さが異なる面が存在する裏面を有する半導体基板であっても、半導体基板を破損させないように表面を平坦に保ちながら吸着保持することができる。
なお、支持力としては、特に制限はなく、適宜選択することができ、例えば、付勢力、弾性力、気体や液体の圧力などが挙げられる。
【0014】
また、本発明の一実施形態に係る吸着保持方法は、平坦な表面からの高さが異なる面が存在する裏面を有する半導体基板を載置可能な載置面に、半導体基板を吸着保持するための複数の吸着孔が設けられている載置板に半導体基板を載置する載置工程と、載置板が半導体基板の裏面側を吸着保持したときに、半導体基板の裏面側から印加される支持力により高さが異なる面のうち低い面を載置面に接触させないように支持する支持工程と、を含む。
【0015】
本発明の一実施形態に係る吸着保持方法は、本発明の一実施形態に係る吸着保持装置により好適に行うことができる。また、載置工程は載置板により好適に行うことができ、支持工程は支持機構により好適に行うことができるため、以下では、本発明の一実施形態に係る吸着保持方法については、本発明の一実施形態に係る吸着保持装置の動作に沿って説明する。
【0016】
次に、本発明の吸着保持装置の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
なお、図面において、同一構成部分には同一符号を付し、重複した説明を省略する場合がある。
【0017】
[第1の実施形態]
(吸着保持装置)
図1は、第1の実施形態における吸着保持装置を示す概略図である。
図1に示すように、吸着保持装置100は、ウェハWを吸着保持する載置板110と、ウェハWが平坦な表面からの高さが異なる面が存在する裏面を有していても、ばねの付勢力によりその表面を平坦に保つように支持する支持機構120と、を有する。
【0018】
<半導体基板>
半導体基板としてのウェハWの形状及び構造は、円盤状である。なお、ウェハWの外周の一部には、オリフラやノッチが形成されていてもよい。
ウェハWの大きさは、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、直径が150mmで厚さが625μm、直径が200mmで厚さが725μm、直径が300mmで厚さが775μm、などが挙げられる。
ウェハWの材質は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、シリコン単結晶、SiC、Al2O3、GaNなどが挙げられる。
【0019】
また、ウェハWの表面には、2品種の半導体装置が品種ごとに領域を分けてそれぞれ多数形成されている。本実施形態では、この2品種の半導体装置は、表面に形成される素子のレイアウトや機能などが同様であるが、完成品である半導体パッケージの種類が異なるため、チップにしたときの厚さだけが異なる品種である。このため、ウェハWの裏面が領域ごとに分けられてそれぞれ所定の厚さに研削されており、領域W1は所定の厚さの領域であり、領域W2は領域W1よりも薄い領域である。
言い換えると、ウェハWは、裏面に異なる高さの面を有し、表面に複数の半導体装置を有する。また、裏面において、高さが異なる面のうち高い面が領域W1に該当し、低い面が領域W2に該当する。
【0020】
なお、ウェハWの表面に多数の半導体装置を形成する方法については、いわゆる前工程で用いられる周知の技術により行うことができるため、その説明を省略する。
【0021】
<載置板>
載置板110は、ウェハWの直径よりも大きい直径の円盤状であり、平坦な載置面110aにウェハW全体を吸着保持するものである。載置面110aには、複数の吸着孔111と、複数の部材収容穴112と、複数の仮支持ピン収容孔113と、が設けられている。
なお、本実施形態では、載置板110の形状を円盤状としたが、これに限ることなく、ウェハWを載置でき、かつ吸着保持できる形状であればよい。
また、載置板を「チャックテーブル」と称する場合がある。
【0022】
-吸着孔-
複数の吸着孔111は、載置面110aに点在するように配置されている。また、複数の吸着孔111は、ポンプなどの吸引装置にそれぞれ連通しており、吸引装置の負圧によりウェハWを吸着保持するために設けられている。
吸着孔111の形状、構造及び大きさは、特に制限はなく、目的に応じて選択することができる。
【0023】
-部材収容穴-
複数の部材収容穴112は、複数の吸着孔111と同様に、載置面110aに点在するように配置されている。また、部材収容穴112は、開口部が円形状であり、後述する円柱状の支持ピン121及びコイルばね122を収容する。具体的には、部材収容穴112は、コイルばね122を底部に収容し、支持ピン121をコイルばね122により上方に付勢できるように収容する。
部材収容穴112の深さは、ウェハWを吸着保持したときに、支持ピン121が部材収容穴112の開口部から突出しない深さとしている。
なお、本実施形態では、部材収容穴112の開口部を円形状としたが、これに限ることなく、部材収容穴112の全体が支持ピン121及びコイルばね122を収容できる形状であればよい。
【0024】
仮支持ピン収容孔113は、後述する仮支持ピン123が上昇及び下降できるように仮支持ピン123を収容する。
【0025】
<支持機構>
支持機構120は、複数の吸着孔111によりウェハWを載置面110aに吸着保持した際に、付勢力でウェハWの薄い領域W2を載置面110aに接触させないようにして、ウェハWの表面を平坦に支持する。
この支持機構120は、複数の支持ピン121と、複数のコイルばね122と、複数の仮支持ピン123と、を備えている。
【0026】
-支持部材-
支持部材としての支持ピン121は、円柱状であり、部材収容穴112の底部に配置されたコイルばね122と一緒に収容され、コイルばね122の付勢力により上方に付勢された状態でウェハWを裏面側から支持する。
支持ピン121の材質としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できるが、ウェハWにダメージを与えにくい点でゴムが好ましい。
なお、本実施形態では、支持ピン121の形状を円柱状としたが、これに限ることなく、ウェハWを支持できて部材収容穴112に収容できればよく、例えば、多角柱状などでもよい。
【0027】
-付勢部材-
付勢部材としてのコイルばね122は、部材収容穴112の底部に収容され、支持ピン121を上方に付勢する。
なお、本実施形態では、付勢部材をコイルばね122としたが、弾性力を有する部材であればよく、例えば、板ばねなどでもよい。
【0028】
このコイルばね122は、支持ピン121がウェハWを支持していない場合には、その付勢力により、支持ピン121の上部が部材収容穴112の開口部から突出する状態にする。また、支持ピン121がウェハWを支持すると、ウェハWの重さで支持ピン121が下降するが、部材収容穴112の開口部から突出した状態を維持する。さらに、コイルばね122は、支持ピン121が支持しているウェハWが吸着保持されると、ウェハWの最も厚い領域である領域W1を載置面110aに接触させ、ウェハWの最も厚い領域以外の領域W2を載置面110aに接触しない状態にする。
【0029】
複数の仮支持ピン123は、図示しないウェハハンドによりウェハWが吸着保持装置100の上方に搬送されてくると、複数の支持ピン121よりも高く上昇し、ウェハWを裏面側から仮支持する。その後、複数の仮支持ピン123は、ウェハWを仮支持しながら下降することにより、複数の支持ピン121にウェハWを引き渡して支持させる。
【0030】
次に、第1の実施形態における吸着保持装置100の動作について、
図1から
図3を参照して説明する。
【0031】
図1に示すように、ウェハWが吸着保持装置100の上方に搬送されると、複数の仮支持ピン123が上昇してウェハWを裏面から仮支持する。
【0032】
次に、
図2に示すように、複数の仮支持ピン123がウェハWの裏面側から仮支持しながら下降すると、複数の支持ピン121が複数の仮支持ピン123からウェハWを受け取って支持する。
【0033】
次に、
図3に示すように、複数の仮支持ピン123の上端が仮支持ピン収容孔113の開口部まで下降して、吸着孔111がウェハWの吸着を開始すると、ウェハWの最も厚い領域である領域W1を支持する支持ピン121の上端が部材収容穴112の開口部まで下降する。言い換えると、ウェハWの領域W1は、裏面が載置面110aに接触した状態で吸着保持される。
また、ウェハWの領域W1よりも薄い領域W2を支持する支持ピン121の上端は、部材収容穴112の開口部まで下降せずに載置面110aよりも高い位置となり、上端がウェハWの表面全体を平坦に支持することができる。
【0034】
このように、吸着保持装置100は、薄い領域W2が存在するウェハWを平坦な載置板110に吸着保持したときに、コイルばね122の付勢力によりウェハWの薄い領域W2を載置面110aに接触させないように支持する支持機構120を有する。これにより、吸着保持装置100は、薄い領域W2が存在するウェハWであっても、ウェハWを破損させないように表面を平坦に保ちながら吸着保持することができる。
【0035】
[第1の実施形態の変形例]
第1の実施形態の変形例における吸着保持装置100は、吸着保持装置100の支持機構120において、複数の弁124及び複数の弁開閉部材125が追加された以外は、吸着保持装置100と同様である。このため、以下では、複数の弁124及び複数の弁開閉部材125について説明する。
【0036】
図4及び
図5は、第1の実施形態の変形例における吸着保持装置の支持機構の動作を示す説明図であり、吸着保持装置100の支持機構120の一部を示す。
図4及び
図5に示すように、第1の実施形態の変形例における支持機構120は、複数の支持ピン121、複数のコイルばね122及び複数の仮支持ピン123の他に、複数の弁124及び複数の弁開閉部材125を備えている。
【0037】
-弁-
弁124は、吸着孔111に設けられ、支持ピン121がウェハWを支持した際に、支持ピン121の下降量に応じて吸着孔111を開閉する。
具体的には、複数の弁124は、複数の吸着孔111の下部にそれぞれ設けられており、ウェハWを支持した際に下降する支持ピン121の下端に当接して連動する弁開閉部材125により押下されて開く。すなわち、弁124は、吸引装置の負圧に対して開かずに、弁開閉部材125に押下されたときに開く。
この弁124は、支持ピン121が支持したウェハWの重さに応じて開く状態が変わり、ウェハWが厚いほど負圧が強くなり、ウェハWが薄いほど負圧が弱くなる。したがって、弁124は、ウェハWの薄い領域W2に対し、吸着保持のための負圧を弱くすることができるため、ウェハWを破損させにくくすることができ、かつウェハWの表面を平坦に吸着保持しやすくすることができる。
【0038】
弁開閉部材125は、支持ピン121がウェハWを支持して下降すると支持ピン121の下端に当接して弁124を押下して開き、支持ピン121がばね122の付勢力により上昇すると弁124の押下を解除して弁124を閉じる。
【0039】
次に、第1の実施形態の変形例における吸着保持装置100の動作について、
図4及び
図5を参照して説明する。
【0040】
図4に示すように、支持ピン121は、ウェハWを支持していないときは、コイルばね122により上方に付勢されているため、部材収容穴112から上方に突出した状態になる。また、コイルばね122の上端に配置されている弁開閉部材125が吸着孔111の下部に設けられた弁124と当接していないため、弁124は閉じた状態になる。
【0041】
次に、
図5に示すように、支持ピン121がウェハWを支持すると、ウェハWの重さで支持ピン121が下降して、下端が弁開閉部材125に当接する。すると、弁開閉部材125は、支持ピン121と連動して下降し、弁124に当接して吸着孔111を開く。このとき、弁124は、ウェハWの重さに応じて吸着孔111の開く状態が変わるため、ウェハWの薄い領域W2に対し、吸着保持のための負圧を弱くすることができる。
【0042】
このように、第1の実施形態の変形例における吸着保持装置100は、ウェハWの重さに応じて吸着孔111を開閉する弁124を有する。これにより、この吸着保持装置100は、ウェハWの薄い領域W2に対し、吸着保持のための負圧を弱くすることができるため、第1の実施形態の吸着保持装置100よりもウェハWを破損させにくくすることができ、かつウェハWの表面を平坦に保ちながら吸着保持しやすくすることができる。
【0043】
第1の実施形態の変形例では、弁開閉部材125を用いて弁124を開閉したが、これに限ることなく、例えば、
図6及び
図7に示すように、支持ピンが弁の機能を兼ねるようにしてもよい。
【0044】
図6及び
図7は、第1の実施形態の別の変形例における吸着保持装置の支持ピンの動作を示す説明図である。
図6及び
図7に示すように、この別の変形例における吸着保持装置100は、第1の実施形態の変形例の吸着保持装置100において、吸着孔111の上部が閉塞され、下部には、隣接する部材収容穴112と水平方向に連通する連通孔126が設けられている。
【0045】
別の変形例における支持ピン127は、円柱状であって、上端から所定の位置Pより上の部分における直径が部材収容穴112の直径よりも小さく、所定の位置Pから下端までの部分における直径が部材収容穴112の直径と略同一である。すなわち、所定の位置Pには段差が設けれられている。また、支持ピン127は、上端から所定の位置Pの段差までの長さが、部材収容穴112の開口部から連通孔126の上端までの長さよりも短い。
【0046】
この支持ピン127は、
図6に示すように、ウェハWを支持していない場合には、コイルばね122の付勢力により下端の位置が連通孔126よりも高くなり、吸着孔111が部材収容穴212の開口部に対し閉じた状態になる。また、
図7に示すように、支持ピン127は、ウェハWを支持すると連通孔126にかかる高さまで所定の位置Pの段差が下降する。言い換えると、支持ピン127がウェハWを支持して下降すると、支持ピン127の所定の位置Pの段差が少なくとも連通孔126の開口部の上端より下に位置する。このため、支持ピン127がウェハWを支持すると、吸着孔111が部材収容穴112の開口部に対し開いた状態になる。すなわち、支持ピン127は、弁124と同様に、ウェハWの薄い領域W2に対し、吸着保持のための負圧を弱くすることができるため、第1の実施形態の吸着保持装置100よりもウェハWを破損させにくくすることができ、かつウェハWの表面を平坦に保ちながら吸着保持しやすくすることができる。
【0047】
なお、本実施形態では、支持ピン127の形状を上記のようにしたが、これに限ることはなく、上端から所定の位置Pより上の部分における直径が部材収容穴112の直径よりも小さく、所定の位置Pから下端までの部分における直径のうち少なくとも所定の位置Pの直径が部材収容穴112の直径と略同一であればよい。
【0048】
[第2の実施形態]
第2の実施形態における吸着保持装置200は、第1の実施形態のようにコイルばねの付勢力によりウェハWの表面を平坦に保ちながら吸着保持するのではなく、気圧によりウェハWの表面を平坦に保ちながら吸着保持する。このため、吸着保持装置200は、吸着保持装置100において、支持ピン121及びコイルばね122の代わりに、間隙検知器、気体放出孔及び載置枠を有する以外は、吸着保持装置100と同様であるため、間隙検知器、気体放出孔及び載置枠について説明する。
なお、説明しない200番台の符号で示すものは、第1の実施形態の100番台の符号の下2桁が同一のものと同様である。
【0049】
図8は、第2の実施形態における吸着保持装置を示す概略図である。
図8に示すように、吸着保持装置200は、支持機構220として、間隙検知器221を更に有し、載置板210の載置面210aには、気体放出孔222及び載置枠224が設けられている。
【0050】
-間隙検知器-
間隙検知器221は、載置板210の載置面210aと、載置面210aに載置されたウェハWとの間に間隙が存在する領域(以下、「間隙領域」と称することがある)を検知する。この間隙検知器221は、部材収容穴212に収容されているファイバ同軸変位センサであり、部材収容穴212からレーザなどをウェハWに照射して距離を測定することにより間隙領域を検知する。
なお、本実施形態では、間隙検知器221をファイバ同軸変位センサとしたが、これに限ることなく、例えば、吸着孔の負圧センサなどでもよい。間隙検知器221が吸着孔の負圧センサであると、ウェハWが載置面310aに接触している領域と接触していない領域では吸着孔の負圧が異なるため、適切なしきい値を設けることにより間隙領域を検出することができる。
【0051】
-気体放出孔-
複数の気体放出孔222は、ウェハWが載置板210により吸着保持されると、間隙検知器221により検知された間隙領域に所定量の気体をそれぞれ放出する。
放出する気体の量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、気圧センサにより計測した気圧に基づいた量としてもよく、間隙検知器221が検知した間隙領域の面積に応じた量であってもよい。
放出する気体としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できるが、ウェハWが化学反応しにくい点で窒素が好ましい。
【0052】
-載置枠-
載置枠224は、載置板210の載置面210aに設けられており、載置面210aに載置されたウェハWの周縁を囲う。これにより、載置枠224は、複数の気体放出孔222から放出された気体による気圧を維持することができるため、平坦な表面からの高さが異なる面が存在する裏面を有するウェハWであっても、ウェハWを破損させないように表面を平坦に保ちながら吸着保持することができる。
【0053】
また、載置枠224の内壁225は、気体放出孔222から放出された気体の圧力をより維持しやすくするようにゴムで覆われている。
なお、本実施形態では、載置枠224の内壁225はゴムで覆われているとしたが、これに限ることなく、例えば、樹脂で覆われていてもよい。
【0054】
次に、第2の実施形態における吸着保持装置200の動作について、
図8及び
図9を参照して説明する。
【0055】
図8に示すように、ウェハWが吸着保持装置200の上方に搬送されると、複数の仮支持ピン223が上昇してウェハWを裏面から仮支持する。
次に、
図9に示すように、複数の仮支持ピン223は、ウェハWの裏面側から仮支持しながら下降すると、ウェハWを載置面210aに載置する。このとき、載置枠224の内壁225は、ウェハWの周縁に当接する。
【0056】
次に、間隙検知器221は、載置板210の載置面210aと、載置面210aに載置されたウェハWとの間に間隙が存在する領域、即ち間隙領域である領域W2を検知する。
そして、ウェハWの間隙領域ではない領域、即ち領域W1が載置板210により吸着保持されると、複数の気体放出孔222は間隙領域に所定量の気体を放出する。このとき、間隙領域では載置板210は吸着保持しない。これにより、間隙が存在する空間の気圧を高め、ウェハWの薄い領域W2を載置板210に接触させないように支持する
【0057】
このように、吸着保持装置200は、薄い領域W2が存在するウェハWを平坦な載置板210に吸着保持したときに、気圧により薄い領域W2を載置板210に接触させないように支持する支持機構220を有する。これにより、吸着保持装置200は、薄い領域W2が存在するウェハWであっても、ウェハWを破損させないように表面を平坦に保ちながら吸着保持することができる。
【0058】
(半導体装置の製造方法)
本発明の一実施形態に係る半導体装置の製造方法は、裏面に異なる高さの面を有し、表面に複数の半導体装置を有する半導体基板を用意する工程と、複数の半導体装置の電気的特性をそれぞれ検査する工程と、半導体基板を切削して複数の半導体装置を個片化する工程と、を含み、少なくとも検査する工程において、本発明の一実施形態に係る吸着保持方法を用いる。
これにより、この半導体装置の製造方法は、平坦な表面からの高さが異なる面が存在する裏面を有する半導体基板であっても、半導体基板を破損させないように表面を平坦に保ちながら吸着保持することができる。このため、検査する工程においては、プロービング、トリミング、バッドマーキングなどの処理を再度繰り返すことなく行うことが可能となり、生産性を向上できるとともに、半導体基板に亀裂や割れが発生する可能性を低減できる。
【0059】
次に、本発明の半導体装置の製造方法の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0060】
本発明の一実施形態に係る半導体装置の製造方法は、半導体基板を用意する工程と、検査する工程と、複数の半導体装置を個片化する工程と、を含む。
【0061】
<半導体基板を用意する工程>
半導体基板としてのウェハWを用意する工程では、
図10に示すように、裏面に異なる高さの面を有し、表面に複数の半導体装置を有するウェハWを用意する。
ウェハWの裏面に異なる高さの面を設ける方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ウェハWの裏面を研削する際に、一部を深く研削するようにしてもよい。また、
図11に示すように、ウェハWとしては、作業ミスなどにより裏面が削れてしまったものであってもよい。
なお、ウェハWの表面に複数の半導体装置を形成する方法については、いわゆる前工程で用いられる周知の技術により行うことができるため、その説明を省略する。
【0062】
<検査する工程>
検査する工程では、ウェハWの表面に形成されている複数の半導体装置の電気的特性をそれぞれ検査する。
複数の半導体装置の電気的特性をそれぞれ検査する方法としては、例えば、
図12に示すように、半導体装置の電極パッドにプローブカードCのプローブニードルNを当接させる。そして、プローブニードルNに接続されているテスタは、プローブニードルNから電極パッドに電源電圧や各種の試験信号を印加し、半導体装置から出力された信号を検査する。
【0063】
検査する工程においては、例えば、第1の実施形態で示した吸着保持装置100によりウェハWを吸着保持することでウェハWの表面を平坦に保つことができるため、プロービング、トリミング、バッドマーキングなどの処理を再度繰り返すことなく行うことが可能となり、生産性を向上できるとともに、ウェハWに亀裂や割れが発生する可能性を低減できる。
【0064】
<複数の半導体装置を個片化する工程>
複数の半導体装置を個片化する工程は、ウェハWを切削することによりウェハWの表面に形成されている複数の半導体装置を個片化する。
複数の半導体装置を個片化する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、
図13に示すように、ダイシングブレードDを回転及び移動させながらウェハWを切削してもよい。
なお、ダイシングブレードDは、市販のダイサーに備えられているものである。
【0065】
なお、本実施形態では、検査する工程で吸着保持装置100によりウェハWを吸着保持するとしたが、これに限ることなく、他の工程で吸着保持装置100によりウェハWを吸着保持するようにしてもよい。
【0066】
以上説明したように、本発明の一実施形態に係る吸着保持装置は、平坦な表面からの高さが異なる面が存在する裏面を有する半導体基板を載置可能な載置面に、半導体基板を吸着保持するための複数の吸着孔が設けられている載置板と、載置板が半導体基板の裏面側を吸着保持したときに、半導体基板の裏面側から印加される支持力により高さが異なる面のうち低い面を載置面に接触させないように支持する支持機構と、を有する。
これにより、本発明の一実施形態に係る吸着保持装置は、平坦な表面からの高さが異なる面が存在する裏面を有するウェハであっても、半導体基板を破損させないように表面を平坦に保ちながら吸着保持することができる。
【符号の説明】
【0067】
100,200 吸着保持装置
110,210 載置板
110a,210a 載置面
111,211 吸着孔
112,212 部材収容穴
113,213 仮支持ピン収容孔
120,220 支持機構
121,127 支持ピン(支持部材)
122 コイルばね(付勢部材)
123,223 仮支持ピン
124 弁
125 弁開閉部材
126 連通孔
221 間隙検知器
222 気体放出孔
224 載置枠
225 内壁
W ウェハ