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  • 特許-水電解装置を動作させる方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-24
(45)【発行日】2023-12-04
(54)【発明の名称】水電解装置を動作させる方法
(51)【国際特許分類】
   C25B 15/02 20210101AFI20231127BHJP
   C25B 9/00 20210101ALI20231127BHJP
【FI】
C25B15/02
C25B9/00 A
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2019558762
(86)(22)【出願日】2018-04-23
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-06-25
(86)【国際出願番号】 EP2018060352
(87)【国際公開番号】W WO2018197419
(87)【国際公開日】2018-11-01
【審査請求日】2021-02-08
【審判番号】
【審判請求日】2022-12-02
(31)【優先権主張番号】PCT/EP2017/059628
(32)【優先日】2017-04-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】519379879
【氏名又は名称】ヘラー・エレクトロライザー・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Hoeller Electrolyzer GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100129425
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 護晃
(74)【代理人】
【識別番号】100168642
【弁理士】
【氏名又は名称】関谷 充司
(72)【発明者】
【氏名】ヘラー,シュテファン
【合議体】
【審判長】池渕 立
【審判官】山本 佳
【審判官】佐藤 陽一
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-173788号公報(JP,A)
【文献】特開2015-048506号公報(JP,A)
【文献】特開2014-074207号公報(JP,A)
【文献】特開2001-152378号公報(JP,A)
【文献】特開2003-105577号公報(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B1/04-1/044,9/00,15/00-15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水から水素及び酸素を発生させる水電解装置を動作させる方法であって、
前記水を、イオン交換器(11)と、水素及び酸素を発生させるように、PEM電解槽(1)とが組み込まれた水供給配管回路(4)に導き、前記PEM電解槽(1)には、流れの方向を反転させる弁機構(17、18)が割り当てられており、前記水電解装置の始動段階の間、前記水供給配管回路(4)は、該水供給配管回路(4)内の金属イオンを含む水を、バイパス配管(14)を介して前記PEM電解槽(1)を迂回させて前記イオン交換器(11)に導き、該イオン交換器(11)を通って流れる際に前記金属イオンを含む水から前記金属イオンが除去されることを特徴とする、水電解装置を動作させる方法。
【請求項2】
前記PEM電解槽(1)に供給される前記水は、加熱装置(16)によって予熱されることを特徴とする、請求項1に記載の水電解装置を動作させる方法。
【請求項3】
前記PEM電解槽(1)を通る前記水の流れ方向は、前記水電解装置が停止されるたびに周期的に反転されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の水電解装置を動作させる方法。
【請求項4】
前記水供給配管回路(4)において、前記PEM電解槽(1)からの水を、冷却を行う第1の熱交換器(10)、続いて、前記イオン交換器(11)、次いで、加熱を行う第2の熱交換器(12)、そして、再び前記PEM電解槽(1)に送ることと、
前記熱交換器(10、12)の二次側は、共通の熱媒回路(20)の部分を形成することと、
前記熱媒回路(20)は、冷却装置(24)を備え、前記イオン交換器(11)及び/又は前記PEM電解槽(1)に送られる前記水の温度を制御及び/又は調節するように、熱媒流を前記冷却装置(24)に、全て通すのか、一部を通すのか、又は全く通さないのかを選択することと、
を行うことを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の水電解装置を動作させる方法。
【請求項5】
水から水素及び酸素を発生させる水電解装置であって、
PEM電解槽(1)が、電解を行うために、水を供給する水供給配管回路(4)に組み込まれ、前記PEM電解槽(1)には、流れの方向を反転させる弁機構(17、18)が割り当てられ、該水供給配管回路(4)には、イオン交換器(11)が設けられると共に、前記PEM電解槽(1)に対して並列に、弁(13)によって遮断可能なバイパス配管(14)が設けられ、
始動段階の間、水供給配管回路(4)内の金属イオンを含む水を、前記バイパス配管(14)を通って、前記PEM電解槽(1)を迂回するように導く始動制御部が設けられ、
前記金属イオンを含む水が前記イオン交換器(11)を通って流れる際に、前記金属イオンを含む水から前記金属イオンが除去されることを特徴とする、水電解装置。
【請求項6】
前記PEM電解槽(1)の入口(2)及び出口(3)は、前記弁機構(17、18)である3/2方向弁を介して、前記水供給配管回路(4)の供給配管(15)及び送出配管(5)にそれぞれ接続されることを特徴とする、請求項5に記載の水電解装置。
【請求項7】
前記PEM電解槽(1)の入口(2)及び出口(3)は、前記弁機構(17、18)である3/3方向弁を介して、前記水供給配管回路(4)の供給配管(15)又は送出配管(5)にそれぞれ接続され、前記3/3方向弁は、ボールバルブ様式に従って構成されることを特徴とする、請求項5に記載の水電解装置。
【請求項8】
前記PEM電解槽(1)の入口(2)及び出口(3)は、前記弁機構(17、18)である4/2方向弁を介して、又は4/3方向弁を介して、前記水供給配管回路(4)の供給配管(15)及び送出配管(5)に接続されることを特徴とする、請求項5に記載の水電解装置。
【請求項9】
前記PEM電解槽(1)に割り当てられた前記弁機構(17、18)の方向を、時間的に間隔を置いて制御する反転制御部が設けられることを特徴とする、請求項5~8のいずれか1項に記載の水電解装置。
【請求項10】
前記水供給配管回路(4)において、前記PEM電解槽(1)と、第1の熱交換器(10)と、前記イオン交換器(11)と、更なる熱交換器(12)とが連続して配置され、該更なる熱交換器(12)の出口は、前記PEM電解槽(1)に配管接続されていることと、
前記熱交換器(10、12)の二次側は、共通の熱媒回路(20)に組み込まれることと、
前記熱媒回路(20)には、冷却性能を制御可能な冷却装置(24)が割り当てられ、該冷却装置(24)は、制御可能な活栓(25)を介して前記熱媒回路(20)に組み込まれることと、
を特徴とする、請求項5~9のいずれか1項に記載の水電解装置。
【請求項11】
前記活栓(25)及び/又は前記冷却装置(24)を、前記イオン交換器(11)及び/又は前記PEM電解槽(1)に供給される前記水の温度調節のために制御する、制御調節装置が設けられることを特徴とする、請求項10に記載の水電解装置。
【請求項12】
前記活栓(25)は、混合弁であることを特徴とする、請求項10又は11に記載の水電解装置。
【請求項13】
前記熱媒回路(20)において、回転数を制御可能な循環ポンプ(21)が配置され、該循環ポンプ(21)の回転数は、前記制御調節装置によって制御されることを特徴とする、請求項11に記載の水電解装置。
【請求項14】
前記冷却装置(24)は、前記熱媒回路(20)において、前記更なる熱交換器(12)に対して並列に接続されるか、又は、流れ方向において前記第1の熱交換器(10)の上流に、前記第1の熱交換器(10)と直列に接続されることを特徴とする、請求項10に記載の水電解装置。
【請求項15】
前記水供給配管回路(4)において前記更なる熱交換器(12)の前記出口と前記PEM電解槽(1)の入口との間に加熱装置(16)が組み込まれること、又は前記熱媒回路(20)において前記更なる熱交換器(12)の上流に加熱装置(16)が配置されることを特徴とする、請求項10に記載の水電解装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1に記載されたプリアンブルの特徴による、水素及び酸素を発生させる水電解装置を動作させる方法、並びに、請求項5に記載されたプリアンブルの特徴による、上記方法を実行する水電解装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術として、特許文献1より、PEM電解槽を水回路に組み込んだ水電解装置が挙げられる。PEM電解槽に供給される水は、水素と酸素とに分解され、ここで、余剰の水は、酸素と一緒に気体分離タンクに送られ、気体分離タンクの液体搬送出口配管は、冷却装置に通じ、その後、フィルタを介して、再びPEM電解槽に通じる。電解により水素と酸素とに分解された水は、脱塩水に置き換えられ、気体分離タンクに送られる。
【0003】
この水電解装置の動作時、PEM電解槽内では金属イオンが遊離し、この金属イオンは、新たに水を供給する際に電解プロセスに悪影響を及ぼすとともに、PEM電解槽に損害を与える。このことは、イオン交換器を上流に配置することによって防ぐことができるものの、これには、供給される水の温度を、約60℃という最高許容温度を超えないように下げることが必要となる。しかしながら、水の温度を下げることで、70℃~80℃又はそれ以上の温度の水で動作することが好ましいPEM電解槽の性能及び効率が低下する。特許文献1から既知の装置において、このような温度低下は、PEM電解槽の上流のイオン交換器を排除することで可能になる。この場合、脱塩水を常時供給することにより、PEM電解槽に供給される水の金属イオン含量が許容値を超えないように配慮する。
【0004】
従来技術として、特許文献2より、配管回路においてPEM電解槽の上流にイオン交換器が配置される水電解装置が挙げられる。特許文献2では、上記温度問題を改善するために、一方ではイオン交換器の許容温度を超えないように、他方ではイオン交換器から流れ出る水よりも高い温度の水をPEM電解槽に供給するように、一次側においてイオン交換器に供給され、二次側においてイオン交換器から送出される水を、向流で導く熱交換器が設けられている。ただし、ここでは、イオン交換器に必要な入口温度を保証するために、熱交換器とイオン交換器との間に冷却装置が更に必要とされる。この構成の問題は、一次側及び二次側では、同じ配管回路にあることから、常に同じ水量が上流の熱交換器を通って必ず流れることである。冷却装置のレギュレータは、実際には、相反する温度要件を満たすには不十分であることがわかっている。
【0005】
また、PEM電解槽の寿命は、使用期間及び供給される水の純度に強く左右される。性能及び効率は、通常80℃を超える動作温度に達するまで、上昇する温度に伴って増大する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】欧州特許出願公開第1243671号
【文献】欧州特許出願公開第2792769号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記従来技術を起点として、本発明の目的は、水電解装置を動作させる方法を、特に、PEM電解槽の効率、寿命、及び水電解装置の電解性能に関して改善することを基礎とする。さらに、そのような改善された方法を実行可能である水電解装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的の方法に関する部分は、請求項1に記載の方法によって解決され、装置に関する部分は、請求項5に記載の水電解装置によって解決される。本発明の有利な実施の形態は、従属請求項、以降の明細書、及び図面に開示される。
【0009】
本発明においてPEM電解槽とは、典型的には、PEM電解セルを重ねたものとして理解される。これは、従来技術の一部をなす。また、場合によっては、別の形態で並列接続された多数のPEM電解セルとすることもできる。
【0010】
本発明によれば、水電解装置の始動時、水回路がバイパス配管を介してPEM電解槽を迂回するように導かれることが意図される。この手法は、PEM電解槽の長寿命化にも寄与する。なぜなら、イオン交換器は、通常、流れているときではなく、水電解装置を停止した際等に、内部にある媒体が、金属イオンを水に放出し、この金属イオンが、装置の次の始動時にPEM電解槽に入り、PEM電解槽に損害を与えるような性質を有するためである。このことは、始動の間にバイパス配管を通ることによって、効果的に防ぐことができる。このとき水回路内にある金属イオンは、新たにイオン交換器を通って流れる際に除去される。
【0011】
水電解装置の始動時のPEM電解槽の性能を可能な限り迅速に高水準にするために、本発明の発展形態によれば、PEM電解槽に供給される水を加熱装置によって予熱することが意図される。これは、通常、装置の始動時には冷たい水が流れ、その水をヒータの方式で加熱する電気ヒータによって行われる。
【0012】
通常はスタックとして形成されるPEM電解槽の耐用期間を向上させ、ひいては長期にわたる高性能を保証するために、本発明の発展形態によれば、PEM電解槽を通る流れ方向を周期的に反転させることが意図される。本発明によれば、各方向に常に同じ長さの流れ間隔(Durchstromungsintervalle)を得ることは必須ではなく、動作期間にわたって或る程度均一な分布であればよい。したがって、本発明において周期的とは、厳密に数学的なものではなく、交互であるという意味で理解される。この場合、その方向転換は、動作中ではなく、水電解装置の停止後又は開始前、すなわち、いずれにせよ水電解装置が停止しているときに行われることが好ましい。ただし、水電解装置が常に稼働している場合には、そのような方向転換は、必要に応じて動作中に行うこともできる。
【0013】
水回路において、PEM電解槽からの水を、冷却を行う第1の熱交換器、続いてイオン交換器、次いで、加熱を行う第2の熱交換器、そして再びPEM電解槽に送ることで、水素及び酸素を発生させる水電解装置を動作させる方法は、熱交換器の二次側が共通の熱媒回路の一部を形成し、熱媒回路は、冷却装置を備え、イオン交換器に送られる水の温度及び/又はPEM電解槽に送られる水の温度を制御及び/又は調節するように、熱媒流を冷却装置に、全て通すのか、一部を通すのか、又は全く通さないのかを選択することによって、改善されることが有利である。
【0014】
この方法の基本構想は、まず、PEM電解槽の水回路内の冷却装置を排除し、その代わりに、二次側で熱交換器を通って導かれる熱媒流を冷却装置に、要件に応じて、全て送るか、一部を送るか、又は全く送らないことによって、イオン交換器に送られる水の温度若しくはPEM電解槽に送られる水の温度のいずれか又は双方の温度を制御する、好ましくは調節することである。この場合、冷却装置は、好ましくは混合弁を介して第2の熱交換器に対して並列に接続され、冷却装置から流れ出る熱媒流が、まず第1の熱交換器に送られ、次いで、その全部又は一部が第2の熱交換器又は再び冷却装置に送られるようになっている。この構成により、対応する制御調節装置を使用して、PEM電解槽に送られる水の温度又は熱交換器に送られる水の温度のいずれかを、必要に応じて調節することができる。本発明によって同様に意図されるように、これらの温度の双方を調節する場合、更なるレギュレータ(アクチュエータ)を設ける必要がある。調節されるのは、例えば、冷却装置の性能、すなわち、冷却性能及び/又は熱媒回路を通る流量とすることができる。性能は、例えば、回転数を制御可能な循環ポンプの対応する制御によって変化させることができる。上述した調節は、本質的には、動作を開始する間の温度調節に関し、PEM電解槽を始動させるためには、ひとまず、この温度に、少なくともほぼ到達しなければならない。
【0015】
代替的には、本発明によれば、熱媒回路の冷却装置は、流れ方向において第1の熱交換器の上流に配置することができ、すなわち、第1の熱交換器と直列に接続することができる。混合弁を介して、第2の熱交換器に送られるか又は第2の熱交換器を迂回して冷却装置に送られる流量が制御される。そのような構成によって、冷却装置の性能が制御可能とされる。
【0016】
したがって、基本構想としては、水回路を直接冷却するのではなく、冷却装置を二次回路に組み込み、有利な方法で、双方の熱交換器を同じ熱媒回路に割り当てて、単に、熱媒を冷却装置に、全て通すか、一部を通すか、又は全く通さないことによって、温度制御又は調節を行う。
【0017】
ここでは、第1の熱交換器及び第2の熱交換器は、必ずしも単一の熱交換器から構成される必要はなく、並列及び/又は直列に接続される1つ以上の個々の熱交換器であってもよい。冷却装置及びイオン交換器についても同様であり、ここでは、冷却装置は、通常、一次側が熱媒回路にあり、二次側を冷媒、例えば冷却機構からの空気又は冷却流体が流れることができる熱交換器を含む。
【0018】
本願において、一方では水回路又は水供給配管回路という用語、及び他方では熱媒回路という用語が、一貫して用いられる。水回路又は水供給配管回路とは、PEM電解槽及びイオン交換器が存在する一次回路を指し、熱媒回路とは、二次側においてイオン交換器の前後に配置される熱交換器を通る二次回路を指すが、いずれも同様に、熱媒として水を用いて動作することができる。ここでは、通常、脱塩水又は蒸留水ではなく、必要に応じてグリセリン又は他の添加物を混合した普通の水道水が使用される。
【0019】
PEM電解槽に供給される水を予熱することで、初めのうち水回路の温度が低すぎる場合には所望のように機能しない、本発明による調節を理想的に補完する。加熱装置は、一次回路に必ずしも配置する必要がなく、代わりに、熱媒回路に、例えば流れ方向において更なる熱交換器の上流に設けることもでき、いずれにせよ、PEM電解槽に供給される水を加熱する機能を果たす。また、加熱装置は、最初のバイパス動作中に既に有効にすることができるため、バイパス配管を遮断すると、予熱された水が即座にPEM電解槽に達するようになっている。さらに、上述のようにバイパス配管を通ることによって、循環の停止時にイオン交換器内の水に入った金属イオンも十分に除去される。
【0020】
本発明によれば、水供給配管回路において、バイパス配管がPEM電解槽に対して並列に設けられ、バイパス配管は、弁によって遮断することができることが好ましい。このバイパス配管は、以下に更に説明されるように、弁自体によって形成することもできる。そのようなバイパス配管は、水電解装置を始動させるために、水回路がPEM電解槽を迂回するように、例えば、金属イオンが溶け込んでいる場合があるイオン交換器内にある水を、PEM電解槽を通して導くのではなく、イオン交換器から出てPEM電解槽に供給される水の十分な量において金属イオンが含まれない、すなわち、イオン交換器が効果的に動作することが保証されてから、PEM電解槽を水供給配管回路に組み込むようになっていることが有利である。
【0021】
バイパス機能の有効化は、多様な用途において、弁によって行われることが最も好適である。ただし、これは、バイパス配管に配置された圧力制御弁と併せて、配管に組み込まれたポンプ又はPEM電解槽の上流にある遮断弁によって行うこともできる。
【0022】
1つの発展形態による本発明に係る水電解装置は、始動段階の間、水供給配管回路を、バイパス配管を通してPEM電解槽を迂回するように導く始動制御部を備えることが有利である。この始動制御部は、制御調節装置の一部とすることができるが、制御調節装置とは独立して実現することもでき、最も簡単な形態では、始動段階の間、遮断弁は開いた状態に制御される。この始動制御部は、上述したように4/3方向弁を使用する場合、バイパス配管を形成する弁の第3の切換え位置に向くように構成することができる。
【0023】
水電解装置の始動時に可能な限り迅速に、高い性能、すなわち、PEM電解槽の電気的な入力性能を得るために、ひいては、可能な限り大きな気体発生量を得るために、本発明によれば、PEM電解槽の上流、特に水供給配管回路においてイオン交換器とPEM電解槽との間に、加熱装置を設けることができることが有利である。この加熱装置は、更なる熱交換器の下流かつPEM電解槽の上流に配置されることが有益である。代替的には、そのような加熱装置は、熱媒回路に設けることができ、正確には、流れ方向において、更なる熱交換器の二次側の上流に配置される。加熱装置は、必ずしも電気ヒータである必要はなく、ここでは、別の側が例えば内燃機関の廃熱を導く熱交換器を設けることもできる。
【0024】
最初に記載したように、水供給配管回路内でPEM電解槽を通る流れの方向転換を可能にするために、本発明の発展形態によれば、それを実現可能にする弁機構が設けられる。
【0025】
これは、2つの3/2方向弁を設けることによって実現することができ、この場合、弁のうちの一方は、PEM電解槽の1つの水接続部と、水供給配管回路の供給配管及び送出配管とに接続され、他方の弁は、PEM電解槽の別の配管接続部と、同じく水供給配管回路の供給配管及び送出配管とに接続されることが有利である。そのような3/2方向弁は、ここで水供給配管回路に必要とされる特殊な材料要件でも、安価に市販されている。水回路に接触する弁部分は、例えば、テフロンコーティング若しくはチタンコーティングされるか、又はテフロン若しくはチタンから構成される。
【0026】
2つの3/2方向弁が3/3方向弁に置き換えられる有利な場合では、これらの弁は、PEM電解槽を通る流れ方向の反転を制御することができるだけでなく、更なるバイパス弁及びバイパス配管を設ける必要なくバイパス動作をも更に制御することができる。ここでは、この3/3方向弁がボールバルブ様式に従って構成される場合が特に有利である。なぜなら、ボールバルブは、コスト効果的かつ機能的に信頼性をもって実現することができるためである。そのような方向弁は、通常、互いに90度ずらされて配置された3つの接続部と、T字形の内腔(Innenbohrung)を有する球とを有し、切換え位置に応じて、3つの接続部のうちの2つが互いに配管接続されるようになっている。
【0027】
2つの3/2方向弁の代わりに、PEM電解槽を水供給配管回路に接続するのを、4/2方向弁によって有利な方法で行うことができる。ここで、2つの切換え位置は、2つの流れ方向に対応する。有利な4/2方向弁の代わりに、第3の切換え位置において水供給配管回路の供給配管及び送出配管を互いに接続する4/3方向弁が使用される場合、単一の弁を通したPEM電解槽を通る流れの方向転換も、水電解装置の始動のためのバイパス機能も、1つの弁のみによって実現することができることが有利である。
【0028】
弁は、ステンレス鋼から形成されることが有利である。代替的には、適切にコーティングされた弁、例えばテフロンコーティング又はチタンコーティングの弁を使用することができる。また、弁をチタン又は他の好適な材料から製造することも考えられる。
【0029】
水電解装置は、流れ方向の反転を行うために、PEM電解槽に割り当てられた弁の方向を、時間的に間隔を置いて制御する反転制御部を備えることが有利である。この反転制御部は、制御調節装置の一部又は別個の部分を形成することもできる。
【0030】
水から水素及び酸素を発生させる本発明に係る水電解装置は、蒸留水、少なくとも脱塩水のための水供給配管回路を備え、この水供給配管回路には、PEM電解槽、第1の熱交換器、イオン交換器、及び更なる熱交換器が配置され、更なる熱交換器の出口は、PEM電解槽に配管接続されることが有利である。PEM電解槽の水供給出口は、通常、水と酸素とが同時に流れ出る酸素供給出口であり、その後、水と酸素とは分離され、水が水供給配管回路に通される。この場合、第1の熱交換器だけでなく、更なる熱交換器も二次側において共通の熱媒回路に組み込まれることが有利であり、この熱媒回路には冷却装置が割り当てられ、冷却装置は、制御可能な活栓(Armatur:可動栓)を介して熱媒回路に可変に組み込むことができる。冷却装置自体も冷却性能を制御可能であり、代替的又は付加的に、熱媒回路における流速に関する制御を提供することができることが好ましい。
【0031】
また、基本構想としては、水供給配管回路内の冷却装置を排除し、イオン交換器の前後の熱交換器を共通の二次側熱媒回路に割り当て、この熱媒回路に冷却装置を組み込む。冷却装置は、制御可能な活栓を介して、好ましくは無段階に、熱媒回路に完全に組み込まれるか、部分的に組み込まれるか、又は全く組み込まれない場合がある。
【0032】
本発明の発展形態によれば、水電解装置は、制御調節装置を備え、制御調節装置は、活栓若しくは冷却装置又はその双方を、イオン交換器若しくはPEM電解槽又はその双方に送られる水の温度を調節するために制御する。この温度は、水電解装置全体の性能を決定付けるので、制御調節装置は、PEM電解槽に送られる水の温度調節を行うように設計されることが好ましい。
【0033】
通常、プロセス中にPEM電解槽に供給される水を加熱するのに必要とされるよりも多くの熱が水供給配管回路内に放出されることから、本発明によれば、PEM電解槽に供給される水の温度が主に調節され、イオン交換器に送られる水の温度は限界温度に関してのみ調節される形態での段階的な調節を行うこともできる。上記限界温度は、例えば最大60℃である。
【0034】
本発明の有利な1つの発展形態によれば、例えば、加熱技術分野から従来技術とみなされるように、活栓は混合弁(混合器とも称する)である。そのような混合弁は、サーボモータによって制御することができ、コスト効果的に提供することができる。これは(二次側の)熱媒回路であるため、加熱技術分野からの簡単に試験されるコスト効果的な活栓を使用することができる。
【0035】
本発明の有利な1つの発展形態によれば、熱媒回路には、回転数を制御可能な循環ポンプが配置され、その回転数は、制御調節装置によって制御される。典型的には周波数変換器により制御されるそのような循環ポンプはまた、加熱技術分野からコスト効果的に使用可能であり、広範な性能範囲で動作することができる。このような循環ポンプの使用は、熱媒回路をエネルギー的に適切に動作させることができるように、搬送流が調節のための更なる調整変数として用いられる場合だけでなく、この要件が与えられない場合にも有用である。
【0036】
冷却装置は、更なる熱交換器、すなわちイオン交換器とPEM電解槽との間の熱交換器に対して並列に接続され、冷却装置から流れ出る熱媒流が、まず、イオン交換器に流れ込む水を冷却するために設けられた第1の熱交換器に送られるようになっていることが有利である。この場合、活栓、特に混合弁は、第1の熱交換器から出て更なる熱交換器又は冷却装置に通じる分岐配管に組み込むことができるか、又は好ましくは、この配管の開口領域に、すなわち、更なる熱交換器からの配管と、冷却装置から延びる配管と、第1の熱交換器に通じる配管とが互いに合流する場所に組み込むことができる。これらの記載は、特定の流れ方向を指すものと理解される。代替的には、冷却装置は、熱媒回路の第1の熱交換器に通じる配管に組み込むことができ、性能を制御可能な冷却装置であることが好ましい。ここでは、混合弁により、熱媒流のどのくらいの割合が更なる熱交換器を通り、どのくらいの割合でこの熱交換器を迂回させるかを制御する。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1】本発明による水電解装置の回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本発明を、実施例に基づいて詳細に説明する。1つのみの図によって、水電解装置の回路図が非常に簡略的な表現で示され、ここでは、本発明に必須ではない構成要素は示していない。
【0039】
図示の水電解装置は、通常の形態ではスタックとして形成されるPEM電解槽1を備えるとともに、第1の配管接続部2と第2の配管接続部3とを備える。第1の配管接続部2及び第2の配管接続部3は、PEM電解槽1を水供給配管回路4に組み込むのに用いられる。水供給配管回路4は、PEM電解槽1から導かれる送出配管5を含み、この送出配管5によって、PEM電解槽1から流れ出る水が、PEM電解槽1内で発生した酸素と一緒にタンク6に送られる。タンク6は、一方では酸素を分離する役目を果たし、他方ではPEM電解槽1に水を供給する役目を果たす。したがって、このタンク6は、貯蔵タンクでもある。電解によって水供給配管回路4からPEM電解槽1を経て除去される水は、水供給配管7を介してタンク6に送られる。この水は、ここでは脱塩水又は蒸留水である。タンク6の水搬送出口8は、循環ポンプ9を介して第1の熱交換器10に配管接続し、第1の熱交換器10の出口は、イオン交換器11の入口に配管接続し、イオン交換器11の出口は、更なる熱交換器、ここでは第2の熱交換器12に接続する。第2の熱交換器12の出口は、3/2方向弁13を介して、バイパス配管14又はPEM電解槽に通じる供給配管15のいずれかに接続する。供給配管15には、電気ヒータ16が組み込まれている。
【0040】
送出配管5及び供給配管15は、それぞれ、3/2方向弁を介してPEM電解槽1に接続し、正確には、これらの配管をPEM電解槽1の第1の配管接続部2に接続する第1の3/2方向弁17と、これらの配管をPEM電解槽の第2の配管接続部3に接続する第2の3/2方向弁18とを経由する。
【0041】
通常の動作時、水は水供給配管回路4を通り、ここでは、水はタンク6から流れ出て、まず循環ポンプ9に導かれ、そこから第1の熱交換器10の一次側を通って導かれる。この熱交換器10において、水が、後続のイオン交換器11の最高許容動作温度を超えないことを確実にするような温度(例えば60℃未満)に下げられる。イオン交換器11から出た後、水は、第2の熱交換器12の一次側に送られ、ここで、例えば70℃~80℃の温度に上げられてから、場合によって第1の配管接続部2を介して又は流れ方向の反転時には第2の配管接続部3を介して、PEM電解槽1に供給される。この場合、第2の熱交換器12によって水が加熱される温度は、後続の電解プロセスがPEM電解槽1において高効率かつ高性能で行われるように選択される。PEM電解槽1から酸素と一緒に流れ出る水は、第2の配管接続部3を介して又は流れ反転時には第1の配管接続部2を介して、送出配管5によって、タンク6に送られる。タンク内では、気体の分離が行われ、水供給配管回路4の水側が終了となる。
【0042】
熱交換器10及び12の二次側には、共通の熱媒回路20が割り当てられ、熱媒回路20は、第1の熱交換器10の二次側から流れ出る熱媒、通常は添加剤を含む水を、回転数を制御可能な循環ポンプ21を通して、配管22を介して、及び、第2の熱交換器12に対して並列に配置されるとともに、混合弁25を介して熱媒回路に組み込まれた冷却装置24の配管23を介して、第2の熱交換器12の二次側の入口に送る。混合弁は、第2の熱交換器12の二次側から延びる配管26と、冷却装置24から延びる配管27とを、第1の熱交換器10に通じる配管28に合流させる。混合弁25の1つの端位置において、冷却装置24は、熱媒回路20に組み込まれず、したがって、熱交換器10及び12の二次側は、配管26及び28を介して配管接続され、循環ポンプ21及び循環ポンプ21に接続する配管22を介して循環が行われる。混合弁の位置をこの第1の端位置から第2の端位置に変更することにより、第2の熱交換器12から延びる配管26が、第1の熱交換器10に通じる配管28に対して遮断され、冷却装置24から延びる配管27が配管28に接続される。配管26は実際には完全に閉鎖されるわけではないので、この端位置は、むしろ理論的な性質のものである。配管27を介して冷却装置24から流れ出る熱媒流がどれほど解放されるかに応じて、すなわち、配管28を介して第1の熱交換器10にどれほど導かれるかに応じて、熱媒回路20から除去される熱の量が決まる。
【0043】
図示省略の制御調節装置が設けられており、この制御調節装置は、PEM電解槽1に供給される水が、例えば80℃の所定の温度を有するように、混合弁25の位置を制御するようになっている。この温度は、PEM電解槽1の性能、ひいては水電解装置全体の性能をも決定付けるものである。基本的に、混合弁25の制御によって、イオン交換器11に送られる水の温度を調節することもできる。ただし、ここでは、正確な温度を維持するのではなく、入口温度が例えば60℃未満となることを保証するだけなので、循環ポンプ21の回転数制御又は冷却装置24の性能の制御によって行われる二次的な調節が重ねて行われる。
【0044】
さらに、この制御調節装置は、水電解装置の始動時、すなわち、水供給配管回路4内の水がまだ所望の動作温度になっていないときに、電気ヒータ16を介して水を予熱するようになっている。ただし、このような予熱を行う前に、始動制御部によって、3/2方向弁の方向が変えられ、バイパス配管14を通ってPEM電解槽1を迂回するように制御される。すなわち、イオン交換器11から流れ出て第2の熱交換器12に導かれる水は、最初、PEM電解槽1ではなく、送出配管5、ひいてはタンク6に送られる。この制御は、イオン交換器内にあった全ての水が、送出配管5に達することが確実になるまでの間行われる。その後、初めて弁13の方向を変え、水回路4に導かれる水が電気ヒータ16に送られ、したがって、PEM電解槽1内で予熱が行われるようにする。
【0045】
さらに、制御調節装置は、PEM電解槽1を通る流れ方向を決める3/2方向弁17及び18の方向を、時間的に間隔を置いて制御するようになっている。第1の位置において、3/2方向弁17は、供給配管15をPEM電解槽1の第1の配管接続部2に接続し、送出配管5に対する配管接続は遮断される。同様にして、第2の3/2方向弁は、PEM電解槽1の第2の配管接続部3を送出配管5に接続し、供給配管15に対する配管接続は遮断される。双方の3/2方向弁17、18の方向を変えた後(この変更は同時に行われるものとする)、3/2方向弁17は、PEM電解槽1の第1の配管接続部2を送出配管5に接続し、供給配管15は遮断される。一方で、第2の3/2方向弁は、PEM電解槽1の第2の配管接続部3を供給配管15に接続し、送出配管5に対する配管接続は遮断される。したがって、PEM電解槽1は、反転方向の流れを有する。
【0046】
3/2方向弁17、18の代わりに3/3方向弁が設けられる場合、3/2方向弁13及びバイパス配管14は省くことができる。この場合、上記双方の3/3方向弁によって、流れ方向の反転だけでなく、バイパス機能も実現することができる。このために、3/2方向弁17及び18として図に概略的に示されているような、弁ハウジング内で互いに90度ずらされて配管接続されるボールバルブ様式の方向弁を使用することができ、この方向弁は、球形状の弁体を有し、弁体は、切換え位置に応じて、全部で3つの接続部のうちの2つと配管接続するT字状断面の貫通孔(Durchgangsbohrung)を有することが有利である。
【0047】
冷却装置24は、配管23、27に配置される、すなわち、第2の熱交換器12に対して並列に配置される代わりに、配管28に配置することができ、ここでは、冷却性能を制御可能な冷却装置であることが好ましい。第2の熱交換器12に対して並列する配管23、27は、混合弁25を介して、第2の熱交換器12に送られる熱媒流及び配管23、27を介して並列に流れる熱媒流を制御するように維持される。
【0048】
上記の実施例において、電気ヒータは、PEM電解槽1に通じる供給配管15に配置される。代替的には、そのような電気ヒータは、熱媒回路において、通常、流れ方向に沿って第2の熱交換器12の上流に、すなわち配管22に配置することもできる。このような構成は、ヒータが一次回路に必要な要件に特別に適合する必要がなく、それよりも、加熱又は他の技術分野からのコスト効果的な構成要素を使用することができるという点でも有利である。
【符号の説明】
【0049】
1 PEM電解槽
2 第1の配管接続部
3 第2の配管接続部
4 水供給配管回路/水回路
5 送出配管
6 タンク
7 水供給配管
8 水搬送出口
9 配管回路用の循環ポンプ
10 第1の熱交換器
11 イオン交換器
12 第2の熱交換器
13 バイパス配管に対する3/2方向弁
14 バイパス配管
15 供給配管
16 電気ヒータ
17 3/2方向弁
18 3/2方向弁
20 熱媒回路
21 熱媒回路用の循環ポンプ
22 第2の熱交換器12への配管
23 冷却装置への配管
24 冷却装置
25 混合弁
26 第2の熱交換器12から混合弁への配管
27 冷却装置から混合弁への配管
28 混合弁から第1の熱交換器10への配管
図1