(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-24
(45)【発行日】2023-12-04
(54)【発明の名称】ポリマー非含有の適合性光学部材支持体
(51)【国際特許分類】
G02B 7/02 20210101AFI20231127BHJP
G02B 7/00 20210101ALI20231127BHJP
【FI】
G02B7/02 A
G02B7/00 F
(21)【出願番号】P 2019570530
(86)(22)【出願日】2018-06-28
(86)【国際出願番号】 US2018040042
(87)【国際公開番号】W WO2019006137
(87)【国際公開日】2019-01-03
【審査請求日】2021-06-25
(32)【優先日】2017-06-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】397068274
【氏名又は名称】コーニング インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100073184
【氏名又は名称】柳田 征史
(74)【代理人】
【識別番号】100123652
【氏名又は名称】坂野 博行
(74)【代理人】
【識別番号】100175042
【氏名又は名称】高橋 秀明
(72)【発明者】
【氏名】マクマスター,ブライアン モンロー
(72)【発明者】
【氏名】マクマイケル,トッド ロバート
(72)【発明者】
【氏名】パーカー,グレン エー
【審査官】登丸 久寿
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0090144(US,A1)
【文献】米国特許第06548176(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 7/02
G02B 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学素子;
マウント;
複数の可撓性部材であって、該
複数の可撓性部材の各々が第1端部と第2端部とを有し、該第1端部が第1の結合剤のみにより前記マウントに接続されている、
複数の可撓性部材;
前記光学素子と前記
複数の可撓性部材の各々の第2端部との間の間隙;及び
前記光学素子を前記
複数の可撓性部材の各々の第2端部に結合させるための水酸化物触媒結合を形成するポリマー非含有結合剤を有する第2の結合剤
を備え、
前記ポリマー非含有結合剤が前記間隙内に適用されている、適合性の光学素子マウント組立体。
【請求項2】
前記光学素子はガラスを含み、前記
複数の可撓性部材は金属を含む、請求項1に記載の組立体。
【請求項3】
前記光学素子はレンズを含む、請求項1又は2に記載の組立体。
【請求項4】
前記
複数の可撓性部材の各々の第1端部と前記マウントとの間の第2の間隙を更に備え、
前記第1の結合剤が、前記
複数の可撓性部材の各々の第1端部を前記マウントに接続するための、前記第2の間隙内のポッティング化合物を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の組立体。
【請求項5】
光学素子;
リテーナ開口を画定するマウント;
複数の可撓性部材であって、該
複数の可撓性部材の各々が第1端部と第2端部とを有し、該第1端部が前記リテーナ開口内に設置されたリテーナを有するとともに第1の結合剤により前記マウントに接続されている、
複数の可撓性部材;
前記リテーナと前記リテーナ開口との間の第1の間隙であって、該第1の間隙内に前記第1の結合剤が設けられている、第1の間隙;
前記
複数の可撓性部材の各々の第2端部と前記光学素子との間の第2の間隙;並びに
前記光学素子を前記
複数の可撓性部材の各々の第2端部に結合させるために前記第2の間隙内に設けられたポリマー非含有結合剤を含む第2の結合剤
を備え、
前記リテーナが、前記リテーナ開口の内側形状と実質的に同様の外側形状を有する、適合性の光学素子マウント組立体。
【請求項6】
光学素子をマウントに接続する方法であって、
前記方法は:
前記マウントを提供するステップ;
前記光学素子と各々が第1端部と第2端部とを有する
複数の可撓性部材とを、前記光学素子と前記
複数の可撓性部材の各々の第2端部との間に間隙が存在するように、整列させるステップ;
前記光学素子を前記
複数の可撓性部材に結合させるために、水酸化物触媒結合を形成するためのポリマー非含有結合剤を前記間隙内に塗布することにより、前記間隙内に塗布された前記ポリマー非含有結合剤を用いて、前記
複数の可撓性部材の各々の第2端部を前記光学素子に結合させるステップ;及び
前記
複数の可撓性部材の各々の第1端部をポッティング化合物を用いて前記マウントに結合することにより、前記
複数の可撓性部材を前記マウントに接続するステップ
を含み、
前記第1端部が前記ポッティング化合物のみにより前記マウントに接続されている、方法。
【請求項7】
前記
複数の可撓性部材の各々の第1端部を前記マウントに接続する前記ステップは、前記
複数の可撓性部材の各々の第2端部を前記光学素子に結合させる前記ステップの後に行われる、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記光学素子はガラスを含み、前記
複数の可撓性部材は金属を含む、請求項6または7に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【優先権】
【0001】
本出願は、2017年6月28日出願の米国仮特許出願第62/525,882号の優先権を主張するものであり、上記仮特許出願の内容は依拠され、全体が参照によって本出願に援用される。
【技術分野】
【0002】
本開示は、光学素子用の支持構造体に関し、より詳細には、光学部材を応力及び熱ひずみから効果的に分離する、光学素子用の適合性支持構造体に関する。
【背景技術】
【0003】
リソグラフィ装置用の精密レンズといった光学素子を設置するための産業上の慣行は、レンズをマウントに固定するための適合性材料の使用を含む。上記適合性材料は、上記マウントが機械的応力又は熱ひずみを受けた場合に上記光学素子に誘発される変形を低減する。
【0004】
典型的には、上記適合性材料は、上記光学素子に結合する有機ポリマーで構成されるプラスチックである。更に、上記適合性材料が有機材料を含むか金属等の無機材料を含むかにかかわらず、光学部材をマウントに連結する上記適合性材料は典型的には、エポキシ樹脂又はシアノアクリレート樹脂といった有機接着剤を用いて、光学部材に固定される。
【0005】
特定の光学系では、有機ポリマーは、光学素子の性能を損なう汚染の問題を生み出す場合がある。
【発明の概要】
【0006】
ここで開示されるのは、光学素子の適切な動作を可能とするための上記光学素子の整列を容易にするための所望の自由度を提供しながら、及び適合性材料及び接着剤からポリマーを排除しながら、上記光学素子を機械的応力及び熱ひずみから分離するように、上記光学素子を固定するための、支持構造体である。
【0007】
上記光学素子組立体は:リソグラフィ機械の光学系のレンズハウジングといった光学系への堅固な取り付けのために構成できる光学素子マウント;上記マウントに取り付けられるか又は上記マウントと一体となって上記マウントから延在する第1の端部と、光学素子を支持するための支承面を画定する自由端部とをそれぞれ有する、複数の可撓性金属部材;並びに無機接着剤を用いて上記可撓性部材の各上記支承面に接合された光学素子を含む。
【0008】
本開示の一実施形態によると、適合性の光学素子マウント組立体が提供される。上記組立体は、光学素子、マウント、上記マウントに接続された1つ以上の可撓性部材、及び上記光学素子を上記1つ以上の可撓性部材に結合させるための水酸化物触媒結合を形成するポリマー非含有結合剤を含む。
【0009】
別の実施形態によると、適合性の光学素子マウント組立体が提供される。上記組立体は、光学素子、マウント、上記マウントに接続された1つ以上の可撓性部材、上記1つ以上の可撓性部材と上記光学素子及び上記マウントのうちの一方との間の間隙、並びに上記光学素子を上記1つ以上の可撓性部材に結合させるために上記間隙内に設けられたポリマー非含有結合剤を含む。
【0010】
また更なる実施形態によると、光学素子をマウントに接続する方法が提供される。上記方法は:マウントを提供するステップ;光学素子と1つ以上の可撓性部材とを、上記光学素子と上記1つ以上の可撓性部材との間に間隙が存在するように、整列させるステップ;上記間隙内に塗布されたポリマー非含有結合剤を用いて、上記1つ以上の可撓性部材を上記光学素子に結合させるステップ;及び上記1つ以上の可撓性部材を上記マウントに接続するステップを含む。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本開示による、光学素子を設置するための組立体の断面斜視図
【
図2】本開示による、光学素子を設置するための代替的な組立体の断面斜視図
【
図3】本開示による、可撓性金属部材へのレンズの接着取り付けの詳細を示す概略図
【
図4】本開示による、可撓性金属部材へのレンズの代替的な接着取り付けの詳細を示す概略図
【
図5】本開示による、光学素子を設置するための更なる代替的な組立体の斜視図
【
図6】別の実施形態による、光学素子を設置するための組立体の正面斜視図
【
図8】一実施形態による、可撓性金属部材の取り付けを示す、
図6の組立体の一部分の拡大分解図
【
図9】組み立てられた可撓性金属部材、並びに光学素子及びマウントへの取り付けを示す、
図6のセクションIXの拡大斜視図
【
図11】別の実施形態による、可撓性部材を有する組立体の一部分の斜視図
【
図12】更なる実施形態による、可撓性部材を有する組立体の一部分の斜視図
【発明を実施するための形態】
【0012】
本開示の光学素子組立体は、正確な整列を促進し、かつ有機材料を採用した場合に発生し得る汚染の問題を回避しながら、レンズとレンズマウントとの間の変形を分離するためのバネのように作用する可撓性金属部材に光学素子を取り付けるために、無機接着剤を採用する。
【0013】
図1は、本開示による光学素子組立体10の一実施形態を示す。組立体10はマウント12を含み、これはリング形状を有しており、リソグラフィ装置で使用される光学素子の組み合わせのためのハウジングといった光学系に、ネジ又は他の締結器具を用いて上記マウントを取り付けるための、取り付け用特徴部分又は孔14を画定する。クランプ又は他の固定デバイスを用いた、光学系への上記マウントの堅固な取り付けを促進するために、代替的な取り付け用特徴部分を用いてもよい。
図1に示す実施形態では、可撓性金属部材16は、リング状マウント12の内周壁22に当接してこれに固定されたリング状壁部20を有するリテーナ18と一体となった部分である。可撓性部材16は径方向内向きに、壁20から光学素子24の光軸に向かって略垂直に延在する。「光軸(optical axis)」は、光学素子の主延長平面の中心を通って垂直に延在する直線を指す。可撓性部材16は離間しており、また、光学素子24を機械的応力及び熱ひずみから効果的に隔離及び分離するために上記可撓性部材の湾曲を可能とするために好適な厚さを有する。この実施形態では、可撓性部材16は逆U字型プロファイルを有し、これにより弾性、弾力性及び/又は反発特性が付与される。
【0014】
リテーナ18の一体型壁20及び可撓性部材16は、締結器具(例えばネジ)、摩擦締り嵌め、及び/又は無機(若しくは有機)接着剤を用いてマウント12の壁22に固定できる金属で形成される。各可撓性部材16の第1の端部26は、壁20と一体となって壁20から延在し、また反対側の自由端部28は、光学素子24を支持するための上側支承面30を画定する。
【0015】
無機接着剤32は支承面30上の、可撓性部材16と光学素子24の対応する表面との間に配置されて、光学素子24をリテーナ18上に固定し、従って光学素子24は、リテーナ18の可撓性部材16によって機械的応力及び熱ひずみから依然として分離されたまま、マウント12によって保持される。
【0016】
本明細書中で使用される場合、「無機接着剤(inorganic adhesive)」は、表面付着によって複数の材料を一体として保持できる物質を指す。更に、本明細書中で使用される場合、「無機接着剤組成物(inorganic adhesive composition)」又は「無機接着剤組成物前駆体(inorganic adhesive composition precursor)」はそれぞれ、金属酸化物、他の無機添加物又はこれら両方といった無機材料を、通常は全重量の大半として含有する、接着剤又は接着剤の前駆体である。本明細書に記載されるように、無機接着剤組成物は、有機接着促進剤といった有機材料をある程度の量だけ含有してよい。しかしながら、一実施形態では、無機接着剤組成物は一般にセラミック材料を含んでよい。いくつかの実施形態では、無機接着剤組成物は、限定するものではないが、亜鉛、スズ、アルミニウム、インジウム、鉄、タングステン、チタン、ジルコニウム、ケイ素、窒化ケイ素、ホウ素、窒化ホウ素、銅、銀、イットリウム、希土類イオンの酸化物又はこれらの組み合わせといった、1つ以上の金属酸化物を含んでよい。無機接着剤は、本明細書中で「YSZ」と呼ばれることもあるイットリア安定化ジルコニアといった、1つ以上の他の金属酸化物でドープされた1つ以上の金属酸化物を含んでよい。
【0017】
上記光学素子は:無機接着剤組成物前駆体を光学素子24上及び/又は支承面30上に堆積させるステップ;並びにその後、光学素子24及び支承面30を互いに接触させ、上記無機接着剤組成物前駆体を固化させて、無機接着剤組成物を形成するステップを一般に含む方法によって、可撓性部材16に固定してよい。
【0018】
無機接着剤組成物前駆体は、金属塩又は他の金属イオン含有化合物を溶媒中に含んでよい。上記金属塩及び/又は他の金属イオン含有化合物は、亜鉛、スズ、アルミニウム、インジウム、鉄、タングステン、チタン、ジルコニウム、ケイ素、窒化ケイ素、ホウ素、窒化ホウ素、銅、銀、イットリウム、希土類のイオン、又はこれらの組み合わせを含んでよい。一実施形態では、上記金属塩及び/又は他の金属イオン含有化合物は、ジルコニウム、イットリウム又はこれら両方のイオンを含んでよい。
【0019】
いくつかの実施形態では、上記溶媒は、極性非プロトン性溶媒であってよい。本明細書に記載の極性非プロトン性溶媒は、安定した無機接着剤組成物前駆体を作製するプロセスを促進するイオン溶媒和特性を有する。無機接着剤組成物前駆体は、ゾル‐ゲル溶液であってよい。本明細書に記載のゾル‐ゲルは、従来のゾル‐ゲルの化学的特徴とはいくつかの重要な点で異なっていてよい。例えば、上記ゾル‐ゲル溶液を形成するための、提案される材料の反応は、アルコール溶媒又は従来の水/酸触媒を用いなくてよい。その代わりに、上記反応は、比較的高濃度(0.5~2.0M)である極性非プロトン性溶媒(例えばDMF、NMP)中の金属塩濃度を利用してよい。
【0020】
例えばジメチルホルムアミド(DMF)及びn‐メチルピロリドン(NMP)といった極性非プロトン性溶媒を用いて、金属塩及び/又は他の金属イオン含有化合物を含む安定した前駆体溶液を製造できる。極性非プロトン性溶媒は、プロトン性溶媒とイオン溶解力を共有するものの酸性水素を含まない溶媒として記述できる。これらの溶媒は一般に、中程度の比誘電率及び極性を有する。非プロトン性溶媒は一般に水素結合を示さず、又は酸性水素を有しない。これらは一般にイオンを安定化できる。好適な極性非プロトン性溶媒の例としては、ジクロロメタン(DCM)、テトラヒドロフラン(THF)、酢酸エチル、アセトン、ジメチルホルムアミド(DMF)、アセトニトリル及びジメチルスルホキシド(DMSO)が挙げられる。
【0021】
無機接着剤組成物前駆体の成分に基づいて、様々な金属酸化物が無機接着剤組成物中に含まれ得る。例えばYSZを含む無機接着剤組成物を、無機接着剤組成物前駆体を利用して調製できる。このような無機接着剤組成物前駆体は、第1のジルコニア含有金属塩溶液と、第2のイットリア含有塩溶液とを混合することによって調製できる。上記第1の溶液は、N,N‐ジメチルホルムアミド(DMF)中に溶解したオキシ塩化ジルコニウム八水和物(Zr(OCl2).8H2O、>99%、Sigma‐Aldrich社製)を含んでよい。上記第2の溶液は、N,N‐ジメチルホルムアミド(DMF)中に溶解した塩化イットリウム(YCl3、Sigma‐Aldrich社製)を含んでよい。上記第1及び第2の溶液は、ジルコニアの原子%値とイットリウムの原子%値との間のある比率を達成するための化学量論を有するモル濃度で調製してよい。例えば試料は、ジルコニア中に1%、2%、4%及び8%の原子含有量のイットリウムを含有してよい。超音波浴を用いて混合を促進してよい。無機接着剤組成物前駆体は透明で、かなりの粘度を有したものであってよい。
【0022】
本明細書で開示される無機接着剤組成物の利点は、無機接着剤組成物前駆体の安定性である。無機接着剤組成物前駆体は、金属イオン又は溶媒のゾル‐ゲル化学構造を大きく劣化させることなく、環境条件下で少なくとも1ヶ月保存できる。
【0023】
無機接着剤組成物前駆体は、固化ステップによって無機接着剤組成物に変換される。この固化は、無機接着剤組成物前駆体を約200℃~約1200℃の温度に曝露するステップを含む。他の実施形態では、上記固化は、無機接着剤組成物前駆体を約250℃~約1100℃、約300℃~約800℃、又は約300℃~約600℃の温度に曝露するステップを含む。固化中、溶媒を無機接着剤組成物前駆体から遊離させることができ、また無機接着剤組成物前駆体の成分の少なくとも一部が沈殿し得る。
【0024】
加熱は、オーブン、ホットプレート又は他のいずれの好適な加熱機構によるものであってよい。いくつかの実施形態では、マイクロ波及び誘導加熱といった他の加熱機構を用いてよい。このような加熱プロセスの時間及び温度は、固化ステップで利用する加熱機構に応じて変化し得る。一実施形態では、無機接着剤組成物前駆体をレーザで加熱してよい。例えば、およそ2mmのスポットサイズに集束する、40Wの電力定格を有する810nmのレーザを使用してよい。しかしながらここで、様々なレーザ出力、波長及び表面積の使用が考えられる。この加熱ステップは、約3分未満、約2分未満、約1分未満、約45秒未満、約30秒未満、約20秒未満、約15秒未満、約10秒未満、又はわずか約5秒未満であってよい。しかしながらこの時間は、レーザの出力及びレーザの接触表面に応じて変化し得る。次に接着剤組成物を、いずれのプロセスによって、例えば加速冷却によって、又は室温若しくは室温付近の環境雰囲気下での冷却によって、冷却してよい。
【0025】
光学素子を設置するための本開示の組立体の別の実施形態110を
図2に示す。この実施形態では、可撓性金属部材116は、マウント112を形成する材料と一体として形成される。換言すれば、可撓性金属部材116及びマウント112は、モノリシック部品の一部分である。その他の点では、実施形態110の構造は実施形態10と同様又は略同一である。この実施形態110は、リテーナ18をマウント12に取り付ける作業を排除する。
【0026】
本開示の実施形態のうちのいずれにおいて、光学素子24、124と可撓性金属部材16、116との間の接着は任意に、
図3に示すように、光学素子の結合面、可撓性金属部材の結合面(支承面)又は光学素子及び可撓性金属部材の両方の結合面に接着促進性コーティング40を塗布することによって、増強できる。上記接着促進性コーティングとしては、限定するものではないが、チタン酸塩(例えばDuPont社から市販されているTyzor 131)、ジルコン酸塩(例えばDuPont社から市販されているTyzor 217)、シラン(Gelest社から市販されているSIB 1824及びSIB 1821)が挙げられる。
【0027】
図4は、光学部材224の縁部表面に沿った、可撓性金属部材216への光学素子224の代替的な設置を示す。これらの幾何学的形状は例示的なものであり、複数の代替的な幾何学的形状を採用してよいことは明らかである。
【0028】
図5は、可撓性部材316が径方向内向きに、光学素子324の光軸に向かって延在し、また可撓性部材316が側方部分又は自由端部を含み、これらは周方向に延在して、光学部材を機械的応力及び熱ひずみから隔離しながらレンズをリング状マウント312に接着接合するための支承面を画定する、別の実施形態310を示す。
図5の湾曲部は、光学素子を光学素子の側部周囲の周りで固定できるように連接されている。湾曲部の幾何学的形状にかかわらず、上述のものと同一の任意の1つ以上のコーティング及び結合剤を用いて、光学素子を固定でき、また把持による応力が光学素子に伝わらないことを保証できる。
【0029】
図6~10を参照すると、別の実施形態による、光学素子424をマウント412に接続する複数の可撓性部材416を有する光学素子組立体410が示されている。この実施形態では、可撓性部材416は、光学素子424とマウント412との間に位置決めされ、光学素子24とマウント412及び1つ以上の可撓性部材416のうちの一方との間には、結合剤が充填される離間空間又は間隙が形成される。一実施形態では、上記間隙は、可撓性部材416の各接続端部と、光学素子424の接触面との間に形成され、これにより光学素子424は、整列及び組み立てプロセス中に、可撓性部材416又はマウント412の一部分上に支承又は静置されない。これにより、光学素子424を、光学素子424が接続された可撓性部材416及びマウント412上での静置位置を略有することなく、左、右、上方、下方、及び傾斜位置を含む複数の方向に配向できる。光学素子424は、一実施形態によると、水酸化物触媒結合を形成するポリマー非含有無機結合剤で、各可撓性部材416に接続される。結合剤は充填材料を含んでよく、上記間隙にわたって広がって、可撓性部材416を光学素子424に接続する。
【0030】
図6及び7に見られるように、一例によると、3つの可撓性部材を180°の離間角度で光学素子424の周りに等間隔に離間させた状態で、複数の可撓性部材416が示されている。マウント412に対する光学素子424の位置及び整列配向を支持するために、1つ以上の可撓性部材416を採用してよいことを理解されたい。マウント412はリング状マウントとして示されており、これは、一実施形態によると、ステンレス鋼合金、ニッケル鋼、チタン、アルミニウム、真鍮、若しくは他の金属で形成された金属セル、又はガラスであってよく、取り付け用特徴部分又は孔414を有してよい。一実施形態ではガラスレンズとして示されている光学素子424は円形の外周を有し、上記外周は、リング状マウント412の内径より小さな外径を有し、またリング状マウント412と共形の形状を有する。他の実施形態によると、光学素子424は、鏡又はプリズムであってよい。他の形状及びサイズの光学素子424及びマウント412を採用してもよいことを理解されたい。
【0031】
第1の端部426、及びマウント412との接続のために第1の端部426に設けられたリテーナ418を有する、可撓性部材416のうちの1つが、
図8に示されている。可撓性部材416は、第1の端部426の反対側の第2の自由端部428も有する。
図8に示す実施形態では、可撓性部材416は、略直線状又は平面状のバネであり、これは湾曲中に曲げられた場合に、弾性、弾力性及び/又は反発特性を付与できる。可撓性部材416は、一実施形態によると、表面上に酸化物を有する金属製であってよく、又は別の実施形態によると、ガラス製であってよい。各可撓性部材416は、マウント412の上面に形成された別個の切り欠き部分450内に配置される。マウント412の上面には、保持用開口452、及び保持用開口452を切り欠き部分450に接続する通路454も形成される。切り欠き部分450及び通路454により、整列及び組み立てプロセス中、並びに応力及び歪みによる可撓性部材416の湾曲中に、可撓性部材416を移動させることができる。保持用開口452は、リテーナ418の外形と略同様の形状、及びリテーナの外面よりわずかに大きな開口を有し、これにより、光学素子424と可撓性部材416との組み立て中に、リテーナ418を開口452内に、間に空間又は間隙を設けて配置し、整列させることができる。リテーナ418はまた、その中に形成された垂直開口456及び横断水平開口458を有するものとして示されている。リテーナ418を開口452内に配置し、可撓性部材416を光学素子424と所望の配向で整列させると、水酸化物触媒結合を形成するポリマー非含有結合剤、又は結合剤若しくは接着剤、例えばポリマー非含有無機接着剤、若しくはエポキシ又は紫外線(UV)硬化性ポリマー等のポリマーを含んでよいポッティング化合物を、リテーナ418を取り囲む開口452内の間隙内、並びに開口456及び458内に配置して、リテーナ418をマウント412に固定結合又は接着させる。開口452とリテーナ418との間の空間内の間隙により、光学素子424はマウント412に対して、マウント412との整列及び組み立てのために移動できる。
【0032】
光学素子424は、外側リング状表面が、可撓性部材416への結合前に、各可撓性部材416の自由端部428上又はその付近の表面に隣接する間隙431を有して自立して位置決めされて整列されるように、配設される。整列プロセス中、光学素子424をマウント412に対して様々な方向に配向できることを理解されたい。光学素子424を、可撓性部材416に結合する前に、及び/又は可撓性部材416をマウント412に結合する前に、水平に(例えば左右に)、及び垂直に(例えば上下に)移動させる、並びにある角度で傾斜させることによって、マウント412との所望の整列を達成できる。
【0033】
図9及び10を参照すると、光学素子424は、一実施形態によると、水酸化物触媒結合を形成する水酸化物イオン結合剤432等のポリマー非含有無機結合剤432を用いて、各可撓性部材416に接続できる。充填材料を含む水酸化物イオンの形態のポリマー非含有無機結合剤432を間隙431内に塗布して、光学素子424の接続用外面及び各可撓性部材416の接続用自由端部428の両方と接触させてよい。水酸化物結合剤432を塗布する前に、光学素子424の接続用外面及び各可撓性部材416の接続用自由端部428の両方を、洗剤を用いる超音波プロセスを使用して有機材料を剥がすことによって準備し、弱酸を塗布することによって又は紫外線(UV)オゾン洗浄技法を使用して、汚染物質を洗浄してよい。水酸化物イオンを含む水酸化物結合剤432は、SiO2(二酸化ケイ素)で形成してよいガラス光学素子424と、接続面上に酸化物を伴う金属で形成してよい、あるいはシリカ等のガラスで形成してよい可撓性部材416との間に、水酸化物触媒結合を形成する触媒である。水酸化物結合剤432は、間隙431内の空間を消費する場合であっても、極めてわずかな空間しか消費しないものとすることができる。間隙431を充填するために、水酸化物イオンと共に充填材料を採用してよい。充填材料の例としては、ガラス、砂又は金属といった無機材料が挙げられる。充填材料は、水酸化物触媒結合によって、それ自体及び接続面に結合する。よって、水酸化物結合剤432は、充填材料と共に使用しても、充填材料を伴わずに使用してもよい。
【0034】
水酸化物イオンは水酸化物触媒結合を形成して、ガラスで形成された光学素子424の表面を、各可撓性部材416の表面に結合させる。水酸化物触媒結合は、水酸化物触媒水和/脱水とも呼ばれる。この方法は、結合剤を結合対象の表面のうちの少なくとも一方に塗布するステップと、上記表面を、結合対象のもう一方の表面に十分に近接させて配置することにより、これら2つの表面間に結合界面を形成するステップとを含んでよい。シリケート(例えばガラス)等の充填材料を任意に含んでよい、水酸化物イオンの源の形態の結合剤又は材料を、使用してよい。水酸化物イオンはアルカリ水溶液に含有されていてよく、上記アルカリ水溶液を上記2つの表面のうちの少なくとも一方に塗布してよい。水溶液中に入れると水酸化物イオンの源として機能する材料としては、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化ナトリウム、アンモニア水、及びナトリウムエトキシドが挙げられる。水和/脱水により、水酸化物触媒水和及び脱水によって、シリケート様ネットワークを形成できる。ガラス又はシリカで形成された光学素子424は、水酸化物触媒水和及び脱水によって、シリケート様ネットワークを形成できる。酸化物を伴う金属又はガラスで作製された可撓性部材416を、水酸化物触媒水和及び脱水を用いて、シリケート様ネットワークに連結できる。その結果、光学素子424の表面と、可撓性部材416の各表面及びこれらの間のいずれの充填材料との間に、強固な結合が形成され、またこの強固な結合は、光学素子424の汚染又はUV照射によって引き起こされる損傷の影響を受けにくい。
【0035】
自由端部428と光学素子424の接触面との間に間隙431を設けることに加えて、又はその代わりに、開口452とリテーナ418との間に形成された間隙を、水酸化物触媒結合を形成するための、充填材料を伴う水酸化物結合剤で、又は別の接着剤若しくは結合剤で、充填してよい。従って、可撓性部材416の一方又は両方の端部に間隙を形成でき、これにより、光学素子424をマウント412に対して容易に整列させることができ、また結合剤及び充填材料と結合させて組立体を固定できる。
【0036】
組み立て中、各可撓性部材416と光学素子424との間に間隙431が存在するように、光学素子424を、マウント412内において各可撓性部材416に近接して位置決めしてよい。光学素子424は、用途に応じて、可撓性部材416と接触した状態から、所望の位置及び整列へと配向できる。光学素子424及び可撓性部材416の配向を達成した後、水酸化物触媒結合を形成するための水酸化物イオンを含有したポリマー非含有無機結合剤432を用いて、可撓性部材416の自由端部428を光学素子424の外面に結合させる。可撓性部材416の第1の端部426は、リテーナ418が開口452内に延在するように、開口450内に延在して位置決めされる。次に、光学素子424が所望の配向に位置決めされた後、結合剤又は接着剤460をリテーナ418と開口450との間及び開口456、458内に塗布して、各可撓性部材416の第1の端部426をマウント412に接着して固定する。従って、まず可撓性部材416の第2の自由端部428を、光学素子424と整列させてよく、そして、可撓性部材の第1の端部426をマウント412に固定することによって、組立体の最終的な配向を達成してよい。別の実施形態によると、可撓性部材416は、マウント412の一部としてモノリシックに形成してよい。
【0037】
図示されている実施形態では、可撓性部材416は、可撓性部材416が容易に回転できるようにする円筒状開口452内に配置された、円筒状リテーナ418を有する。リテーナ418は、他の様々な形状及びサイズを有してよいことを理解されたい。例えば
図11に示すように、可撓性部材416Aは、長方形リテーナ開口452A内に配置された長方形の形状を有するリテーナ418Aを有してよい。結合剤又は接着剤460をリテーナ418Aと開口452Aとの間に塗布して、第1の端部426をマウント412に固定接着する。
【0038】
図12を参照すると、別の実施形態による、概ねL字型構成に形成された可撓性部材416Bを有する光学素子組立体410が示されている。この実施形態では、可撓性部材416Bは、水平延在部分472に接続された垂直延在部分470を有する。垂直部分470は、水酸化物触媒結合を形成するための水酸化物イオンを含有したポリマー非含有無機結合剤432によって、光学素子424の外面に結合できる。水平部分472は、第2のポリマー非含有無機結合剤又は接着剤460によって、開口450内のマウント412に接着される。従って、L字型の可撓性部材416Bによって、光学素子424とマウント412を、間に間隙431を設けて整列させることができ、この間隙431はポリマー非含有無機結合剤又は接着剤432で充填される。他の実施形態によると、可撓性部材416、416A及び416Bを他の形状及びサイズで構成してよいことを理解されたい。
【0039】
特段の記載がない限り、いずれの実施形態のいずれの特徴は、不適合なものでない限りは、他のいずれの実施形態において使用できると想定される。採用してよい光学素子としては、レンズ、鏡及びプリズムが挙げられる。
【0040】
上述の実施形態は好ましいもの及び/又は例示的なものであり、限定的なものではない。添付の請求項の範囲内において、様々な修正が考えられる。
【0041】
以下、本発明の好ましい実施形態を項分け記載する。
【0042】
実施形態1
光学素子;
マウント;
上記マウントに接続された1つ以上の可撓性部材;及び
上記光学素子を上記1つ以上の可撓性部材に結合させるための水酸化物触媒結合を形成するポリマー非含有結合剤
を備える、適合性の光学素子マウント組立体。
【0043】
実施形態2
上記光学素子はガラスを含み、上記1つ以上の可撓性部材は金属を含む、実施形態1に記載の組立体。
【0044】
実施形態3
上記光学素子はレンズを含む、実施形態1又は2に記載の組立体。
【0045】
実施形態4
上記光学素子と上記1つ以上の可撓性部材との間の間隙を更に備え、
上記結合剤は上記間隙内に塗布される、実施形態1~3のいずれか1つに記載の組立体。
【0046】
実施形態5
上記結合剤は更に、上記間隙を充填するための充填材料を含む、実施形態4に記載の組立体。
【0047】
実施形態6
上記1つ以上の可撓性部材と上記マウントとの間の間隙と、上記1つ以上の可撓性部材を上記マウントに接続するための、上記間隙内のポッティング化合物とを更に備える、実施形態1~5のいずれか1つに記載の組立体。
【0048】
実施形態7
上記マウントは金属セルを含む、実施形態1~6のいずれか1つに記載の組立体。
【0049】
実施形態8
光学素子;
マウント;
上記マウントに接続された1つ以上の可撓性部材;
上記1つ以上の可撓性部材と上記光学素子及び上記マウントのうちの一方との間の間隙;並びに
上記光学素子を上記1つ以上の可撓性部材に結合させるために上記間隙内に設けられたポリマー非含有結合剤
を備える、適合性の光学素子マウント組立体。
【0050】
実施形態9
上記間隙は、上記光学素子と上記1つ以上の可撓性部材との間に設けられる、実施形態8に記載の組立体。
【0051】
実施形態10
上記結合剤は、水酸化物触媒結合を形成する、実施形態8又は9に記載の組立体。
【0052】
実施形態11
上記光学素子はガラスを含み、上記1つ以上の可撓性部材は金属を含む、実施形態8~10のいずれか1つに記載の組立体。
【0053】
実施形態12
上記光学素子はレンズを含む、実施形態8~11のいずれか1つに記載の組立体。
【0054】
実施形態13
上記1つ以上の可撓性部材を上記マウントに接続するポッティング化合物を更に備える、実施形態8~12のいずれか1つに記載の組立体。
【0055】
実施形態14
光学素子をマウントに接続する方法であって、
上記方法は:
上記マウントを提供するステップ;
上記光学素子と1つ以上の可撓性部材とを、上記光学素子と上記1つ以上の可撓性部材との間に間隙が存在するように、整列させるステップ;
上記間隙内に塗布されたポリマー非含有結合剤を用いて、上記1つ以上の可撓性部材を上記光学素子に結合させるステップ;及び
上記1つ以上の可撓性部材を上記マウントに接続するステップ
を含む、方法。
【0056】
実施形態15
上記光学素子を上記1つ以上の可撓性部材に結合させるために、水酸化物触媒結合を形成するためのポリマー非含有結合剤を上記間隙内に塗布するステップを含む、実施形態14に記載の方法。
【0057】
実施形態16
上記1つ以上の可撓性部材を上記マウントに接続する上記ステップは、ポッティング化合物を用いて上記1つ以上の可撓性部材を上記マウントに結合させるステップを含む、実施形態14又は15に記載の方法。
【0058】
実施形態17
上記1つ以上の可撓性部材を上記マウントに接続する上記ステップは、上記1つ以上の可撓性部材を上記光学素子に結合させる上記ステップの後に行われる、実施形態16に記載の方法。
【0059】
実施形態18
上記光学素子はガラスを含み、上記1つ以上の可撓性部材は金属を含む、実施形態14~17のいずれか1つに記載の方法。
【0060】
実施形態19
上記ポリマー非含有結合剤は、上記間隙を充填するための充填材料を更に含む、実施形態14~18のいずれか1つに記載の方法。
【0061】
実施形態20
上記マウントは金属セルを含む、実施形態14~19のいずれか1つに記載の方法。
【符号の説明】
【0062】
10、110、310、410 光学素子組立体
12、112、312、412 マウント、リング状マウント
14、414 取り付け用特徴部分又は孔
16、116、216 可撓性金属部材
18、418、418A リテーナ
20 リング状壁部、壁
22 リング状マウント12の内周壁、マウント12の壁
24、124、324、424 光学素子
26、426 第1の端部
28、428 第2の自由端部、自由端部、接続用自由端部
30 上側支承面
32 無機接着剤
40 接着促進性コーティング
224 光学素子、光学部材
316、416、416A、416B 可撓性部材
431 間隙
432 水酸化物結合剤
450 切り欠き部分、開口
452、452A 開口
454 通路
456 垂直開口
458 横断水平開口
460 結合剤又は接着剤
470 垂直延在部分、垂直部分
472 水平延在部分、水平部分