(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-24
(45)【発行日】2023-12-04
(54)【発明の名称】成形機
(51)【国際特許分類】
H02K 1/16 20060101AFI20231127BHJP
【FI】
H02K1/16 C
(21)【出願番号】P 2020002516
(22)【出願日】2020-01-10
【審査請求日】2022-07-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】山本 泰三
【審査官】津久井 道夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-139494(JP,A)
【文献】特開2015-012661(JP,A)
【文献】特許第5734413(JP,B2)
【文献】特開2002-125355(JP,A)
【文献】国際公開第2015/189896(WO,A1)
【文献】特開2015-130793(JP,A)
【文献】特開2014-176128(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータを備える成形機であって、
前記モータは、ステータとロータとを有
する埋込磁石型同期モータであり、
前記ステータは、
通電による前記モータの所定出力時に、ティースにおいて磁気飽和する
ことで高調波成分の電圧降下を抑制する、
成形機。
【請求項2】
前記ステータは、1スロット分のロータ外径周長に対するティース幅の割合βが、以下の式(1)を満足する、
請求項1に記載の成形機。
0.45≦β≦0.52 ・・・(1)
【請求項3】
前記ステータには巻線が分布巻きで巻回されている、
請求項1
又は請求項2に記載の成形機。
【請求項4】
前記所定出力時は最大出力時である、
請求項1から
請求項3の何れか一項に記載の成形機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、モータを駆動して成形動作を行う射出成形機などの電動の成形機が知られている(例えば、特許文献1参照)。
この種の成形機用のモータでは、ティース(電磁鋼板)とスロット(空気)との磁気的な凹凸の差に起因する、いわゆるスロットパーミアンス成分の高調波が電圧波形に重畳する。この高調波成分の波高が高いと、
図6に示すように、モータの端子電圧が電源電圧を超えてしまい、電圧波形が歪んでしまう。その結果、電流を十分に流せず、所望の出力を得られなくなるおそれがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、所望のモータ出力を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、モータを備える成形機であって、
前記モータは、ステータとロータとを有する埋込磁石型同期モータであり、
前記ステータは、通電による前記モータの所定出力時に、ティースにおいて磁気飽和することで高調波成分の電圧降下を抑制する構成とした。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、所望のモータ出力を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本実施形態に係る射出成形機を示す図である。
【
図2】(a)本実施形態のモータの断面図であり、(b)(a)の部分拡大図である。
【
図3】(a)ステータのB-H線図であり、(b)端子電圧の高調波成分の電圧振幅を示す図であり、(c)モータ駆動時の端子電圧波形を示す図である。
【
図4】ティース幅の割合に対する(a)トルク、電圧波高値、最大回転数及びステータの比透磁率の変化を示す図であり、(b)モータの出力の変化を示す図である。
【
図5】磁界と磁束密度に対する比透磁率の変化を示す図である。
【
図6】従来のモータにおける駆動時の端子電圧波形を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0010】
[射出成形機の全体構成]
図1は、本実施形態に係る射出成形機1を示す図である。
この図に示すように、本実施形態に係る射出成形機1は、成形材料を溶解及び射出する射出装置20と、射出装置20を搬送する可塑化移動装置30と、成形材料が充填される金型装置40を動かす型締装置50と、固化した成形品を金型装置40から押し出すエジェクタ装置60とを備えている。
【0011】
金型装置40は、固定プラテン51に保持される固定金型41と、可動プラテン52に保持される可動金型42とを含む。型締装置50は、三相モータである型締用モータ53を有し、型締用モータ53が駆動することで、可動金型42を保持した可動プラテン52が動いて金型装置40の開閉と型締とが行われる。射出装置20は、三相モータである射出用モータ21を有し、射出用モータ21の駆動によりスクリュ22が並進移動して加熱シリンダ23から成形材料が射出される。また、射出装置20は、三相モータである計量用モータ24を有し、計量用モータ24の駆動によりスクリュ22が回転してホッパ25から加熱シリンダ23に成形材料が供給される。可塑化移動装置30は、三相モータである可塑化移動用モータ31を有し、可塑化移動用モータ31の駆動により可動部が動作する。エジェクタ装置60は、三相モータであるエジェクト用モータ61を有し、エジェクト用モータ61の駆動により可動部が動作する。
【0012】
上述した射出用モータ21、計量用モータ24、可塑化移動用モータ31、型締用モータ53及びエジェクト用モータ61のうち、少なくとも1つには、本実施形態に係るモータ10が適用されている。
【0013】
[モータの構成]
図2は、本実施形態に係るモータ10を示す図であり、(a)が断面図、(b)が(a)の部分拡大図である。なお、
図2では巻線の図示を省略している。
この図に示すように、本実施形態のモータ10は、IPM(Interior Permanent Magnet:埋込磁石型)モータの同期モータである。このモータ10は、円筒状のロータ(回転子)11と、所定のギャップGを介してロータ11の外周側に配置されるステータ(固定子)12とを備える。
【0014】
ロータ11は、図示しない回転軸の外周に嵌合される円筒状のロータコア111と、ロータコア111内に埋設されるネオジム磁石などの複数の永久磁石112とを備える。
なお、以下の説明では、円筒状のロータ11の中心軸Axに沿った方向を「軸方向」、中心軸Axに垂直な方向を「径方向」、中心軸Axを中心とする回転方向を「周方向」という。また、ステータ12の中心軸はロータ11の中心軸Axと一致する。
【0015】
ステータ12は、円筒状のステータヨーク121と、ステータヨーク121の内周面からその径方向内側に向かって延出する複数のティース122とを備える。これらステータヨーク121及び複数のティース122は、一体の積層鋼板からなるステータコアを構成する。
周方向に隣り合うティース122間の各スロット123には、図示しない巻線(コイル)がティース122に巻回されるようにして挿入されている。本実施形態では、巻線が分布巻きで巻回されている。
【0016】
ステータ12のティース122は、所定のティース幅Wtに形成されている。
具体的に、ティース幅Wtは、1スロット分のロータ外径周長に対するティース幅Wtの割合βが下記の式(1)を満足する長さに形成されている。
0.45≦β≦0.52 ・・・(1)
ここで、1スロット分のロータ外径周長とは、ロータ11の外径Dにおける周長のうち、スロット123の1つ分に相当する長さである。すなわち、ティース幅Wtの割合βは、β=Wt/(πD/S)で与えられる。ただし、Dはロータ11の外径、Sはスロット123の数である。
【0017】
以下、モータ10(ステータ12)が上記式(1)を満足することによる作用・効果について説明する。
図3(a)は、ステータ12(ステータコア)の磁気特性を示す図であって、磁界(の強さ)Hと磁束密度Bとの関係を示すB-H線図であり、
図3(b)は、端子電圧の高調波成分の電圧振幅を示す図であり、
図3(c)は、モータ10駆動時の端子電圧波形を示す図である。このうち、
図3(b)、(c)は、βが0.45と0.55のときの計算・解析例を示す。また、
図4(a)は、ティース幅Wtの割合βに対するトルク、電圧波高値、最大回転数及びステータ12の比透磁率の変化を示す図であり、
図4(b)は、ティース幅Wtの割合βに対するモータ10の出力の変化を示す図である。なお、
図4では、縦軸をβ=0.55の時の値を基準とした比率(p.u.:per unit)で示している。
【0018】
ティース幅Wtの割合βが上記式(1)の範囲にある場合、所定量の電流投入時(例えばモータ10の最大出力時)に、ティース122が磁気飽和する。つまり、このときには、
図3(a)に示すように、βが0.52以下であることによりステータ12の磁束密度がほぼ飽和する。そのため、ティース122に磁束が通りにくくなり、ティース122とその隣のスロット123との磁気的な凹凸の差が小さくなる。
この磁気的な凹凸は、スロットパーミアンスに起因する高調波成分を電圧波形に重畳させる。このスロットパーミアンス成分は、一般に、モータ10の毎極毎相スロット数qを用いて、2q±1で表される。ここで、q=S/(m×P)、m:相数、P:極数(磁石数)。本実施形態では、
図3(b)に示すように、例えばβを0.55から0.45にすることにより、ステータ12における周方向の磁気的な凹凸の差を小さくし、スロットパーミアンス成分を大きく抑制できる。
その結果、
図3(c)に示すように、電圧波形に重畳する高調波成分(電圧波高値)が小さく抑えられ、電圧波形が電源電圧を超えることが抑制される。これにより、電圧波形が電源電圧を超えることで電流を投入できなくなる事態を回避でき、ひいては、出力の低下を抑制できる。
【0019】
より詳しくは、
図4(a)に示すように、ティース幅Wtの割合βが0.4~0.52の範囲では、トルク、電圧波高値、回転数(最大回転数)はほぼ線形的に変化する。しかし、βが0.52を超えると、電圧波高値の増加割合が増え、回転数の減少割合が増える(回転数を下げることで、電圧波高値の増加分だけ端子電圧を下げる必要があるため)。その結果、
図4(b)に示すように、トルクと回転数の積であるモータの出力は、βが0.52を超えると大きく減少してしまう。
したがって、ティース幅Wtの割合βを0.45以上として一定程度以上にトルクを出して出力を稼ぎつつ、ティース幅Wtの割合βを0.52以下に抑えることにより、出力の低下を抑制できる。
【0020】
一般的な産業用モータでは、トルク保持の観点からティース幅が比較的に広く設計されており、ティースで磁気飽和を生じさせる形状にはしない。
一方、射出成形機をはじめとする成形機用のモータは、高いピーク出力が求められることから、一般的なモータよりも入力電流が大きく、ティース幅がより広く設計される傾向にあった。
これに対し、本実施形態のモータ10では、従来よりもティース幅Wtを狭めて積極的に磁気飽和させることで、高調波を抑制しつつ、磁気飽和によるトルクの低下を回転数で補って、所望のモータ出力の確保を実現している。
【0021】
なお、本実施形態ではティース幅Wtの割合βが上記式(1)を満足することとしたが、この条件に限定されず、モータ10の所定出力時にティース122が磁気飽和していればよい。これにより、スロットパーミアンス成分の高調波を抑制できる。
ここで、本実施形態における「磁気飽和」とは、透磁率が最大値に対して例えば10分の1以下になった状態をいう。透磁率μは、磁束密度Bと磁界Hの比であり(B=μH)、真空透磁率μ
0とステータ12の比透磁率μ
rの積で表される。磁界H、磁束密度Bに対する比透磁率μ
rの変化を
図5(a)、(b)に示す。この図に示すように、本実施形態の「磁気飽和」とは、磁界H、磁束密度Bが高く、比透磁率μ
rが十分に小さくなった状態をいう。
また、ティース122が磁気飽和を生じるモータ10の「所定出力時」とは、本実施形態では最大出力時としたが、定格出力以上を出力するときであればよい。
【0022】
[本実施形態の技術的効果]
以上のように、本実施形態によれば、モータ10の所定出力時にステータ12のティース122が磁気飽和する。これにより、ティース122に磁束が通りにくくなり、電圧波形に重畳するスロットパーミアンス成分の高調波を抑制できる。
したがって、電圧波形に重畳した高調波が電源電圧を超えることを抑制し、ひいては、所望のモータ出力を得ることができる。
【0023】
また、本実施形態によれば、1スロット分のロータ外径周長に対するティース幅Wtの割合βが、0.45以上かつ0.52以下の範囲内となっている。
これにより、
図4に示すように、回転数の低下を避けつつ好適にモータ出力を得ることができる。
【0024】
[その他]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限られない。
例えば、上記実施形態では、モータ10がIPMモータであることとした。しかし、本発明は、SPM(Surface Permanent Magnet:表面磁石型)モータ、さらには誘導モータにも好適に適用できる。また、ステータ12(ステータコア)は分割コアであってもよい。
また、本発明に係るモータは、巻線が分布巻きでなく、集中巻きであってもよい。さらに、本発明に係るモータは、成形機が備えるものに限定されず、成形機以外のものに広く適用できる。
【0025】
また、上記実施形態では、射出成形機1が備えるモータ10を例に挙げて説明したが、本発明に係る成形機はモータを備えるものであればよく、射出成形機に限定されない。
その他、上記実施形態で示した細部は、発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0026】
1 射出成形機(成形機)
10 モータ
11 ロータ
12 ステータ
121 ステータヨーク
122 ティース
123 スロット
D (ロータの)外径
G ギャップ
Wt ティース幅
β ティース幅の割合