(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-24
(45)【発行日】2023-12-04
(54)【発明の名称】種汚泥製品、種汚泥の投入装置及び種汚泥の投入方法
(51)【国際特許分類】
C02F 3/00 20230101AFI20231127BHJP
C02F 3/28 20230101ALI20231127BHJP
C02F 11/04 20060101ALI20231127BHJP
【FI】
C02F3/00 G ZAB
C02F3/28 A
C02F3/28 B
C02F11/04 A
(21)【出願番号】P 2020014449
(22)【出願日】2020-01-31
【審査請求日】2022-09-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 祐二
(72)【発明者】
【氏名】小川 尚樹
(72)【発明者】
【氏名】鵜飼 展行
(72)【発明者】
【氏名】田中 友樹
(72)【発明者】
【氏名】野間 彰
(72)【発明者】
【氏名】沖野 進
【審査官】河野 隆一朗
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-279894(JP,A)
【文献】特開平01-218690(JP,A)
【文献】特開平10-327850(JP,A)
【文献】特開平03-101897(JP,A)
【文献】特開2003-259867(JP,A)
【文献】特開2016-203153(JP,A)
【文献】特開2005-218897(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 11/00 - 11/20
C12N 1/04
C02F 3/00
C02F 3/28 - 3/34
C12N 11/00 - 11/18
Japio-GPG/FX
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
封入された種汚泥のメタン菌の活性を維持したまま保存可能、かつ、前記種汚泥の使用時に開封可能な種汚泥製品であって、
COD成分を含む培養液と、
前記培養液に浸漬されるとともに、
前記メタン菌が担持された多孔質体と、
前記培養液及び前記多孔質体を嫌気状態で収納するための容器と、
を備え
、
前記容器は、密閉容器又は気密容器であり、
前記多孔質体は、前記種汚泥製品の保存中、前記メタン菌を含むメタン発酵汚泥の粒子を前記多孔質体の表面に吸着させて、前記培養液と前記粒子の沈降層との分離を防止するように構成された
種汚泥製品。
【請求項2】
前記培養液は、難分解性COD成分を含む
請求項1に記載の種汚泥製品。
【請求項3】
前記容器内の圧力を
陽圧かつ閾値以下に維持するためのベント管を備える
請求項1又は2に記載の種汚泥製品。
【請求項4】
前記ベント管に設けられ、ベントされたガスの量を計測するように構成された流量計を備える
請求項3に記載の種汚泥製品。
【請求項5】
前記容器内の圧力を計測するための圧力計を備える
請求項1乃至4の何れか一項に記載の種汚泥製品。
【請求項6】
前記容器内の前記培養液のpHを計測するためのpH計を備える
請求項1乃至5の何れか一項に記載の種汚泥製品。
【請求項7】
前記容器内の温度を計測するための温度計を備える
請求項1乃至6の何れか一項に記載の種汚泥製品。
【請求項8】
前記容器内に前記COD成分とpH調整材との少なくとも一方を注入するためのフィード管を備える
請求項1乃至7の何れか一項に記載の種汚泥製品。
【請求項9】
メタン発酵するように構成された発酵槽の状態を監視する監視する監視装置と、
前記発酵槽において、メタン発酵が停止した状態又は停止する虞がある状態になった場合に請求項1乃至8の何れか一項に記載の種汚泥製品に封入されている種汚泥を投入する投入装置と、
を備える種汚泥の投入装置。
【請求項10】
メタン発酵するように構成された発酵槽の状態を監視する監視するステップと、
前記発酵槽において、メタン発酵が停止した状態又は停止する虞がある状態になった場合に請求項1乃至8の何れか一項に記載の種汚泥製品に封入されている種汚泥を投入するステップと、
を含む種汚泥の投入方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、種汚泥製品、種汚泥の投入装置及び種汚泥の投入方法に関する。
【背景技術】
【0002】
メタン菌に有機性廃棄物や廃水等を分解させてメタンを生成するシステムが知られている(例えば、特許文献1、2)。このようなシステムでは、メタン菌を保持するように構成されたメタン発酵槽に有機性廃棄物や廃水等を処理した溶液を投入することにより、メタンを生成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-203153号公報
【文献】特開2005-218897号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
メタン発酵槽におけるメタン発酵系の立ち上げには1ヶ月以上の期間を要する。これはメタン菌の増殖に時間がかかるためである。また、メタン発酵を阻害する物質の混入やアンモニア濃度の過度な上昇、有機酸濃度の過度な上昇等により、メタン発酵系が破綻する場合がある。この場合においても、メタン発酵系の再立ち上げに、1ヶ月以上の期間を要する。
【0005】
ここで、メタン発酵系を早く立ち上げる方法として、他のメタン発酵槽から取得した種汚泥をメタン発酵槽に投入する方法がある。しかし、この方法では、種汚泥に含まれるメタン菌の活性が低下しないように、取得してから投入するまでの期間において種汚泥の嫌気状態を保つことが必要である。実際には、このような期間において嫌気状態を維持することは難しいため、メタン菌の活性が低下した状態の種汚泥を投入することとなる。この場合、メタン菌の増殖に時間がかかってしまう。
【0006】
したがって、メタン発酵系の早い立ち上げを実現するためには、メタン菌の活性が維持された新鮮な種汚泥を投入可能な手法を確立することが必要である。なお、このような手法が確立できれば、例えばメタン発酵槽において系の破綻の兆候が見られた場合等においても、種汚泥を投入することにより、破綻リスクを軽減する効果も期待できる。
【0007】
上述の事情に鑑みて、本開示は、メタン発酵槽の立ち上げ期間を短縮すること又はメタン発酵槽の系が破綻するリスクを軽減することが可能な種汚泥製品、種汚泥の投入装置及び種汚泥の投入方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示に係る種汚泥製品は、
COD成分を含む培養液と、
前記培養液に浸漬されるとともに、メタン菌が担持された多孔質体と、
前記培養液及び前記多孔質体を嫌気状態で収納するための容器と、
を備える。
【0009】
本開示に係る種汚泥の投入装置は、
メタン発酵するように構成された発酵槽の状態を監視する監視する監視装置と、
前記発酵槽において、メタン発酵が停止した状態又は停止する虞がある状態になった場合に上記の種汚泥製品に封入されている種汚泥を投入する投入装置と、
を備える。
【0010】
本開示に係る種汚泥の投入方法は、
メタン発酵するように構成された発酵槽の状態を監視する監視するステップと、
前記発酵槽において、メタン発酵が停止した状態又は停止する虞がある状態になった場合に上記の種汚泥製品に封入されている種汚泥を投入するステップと、
を含む。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、メタン発酵槽の立ち上げ期間を短縮すること又はメタン発酵槽の系が破綻するリスクを軽減することが可能な種汚泥製品、種汚泥の投入装置及び種汚泥の投入方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】一実施形態に係る種汚泥製品の構成を概略的に示す図である。
【
図2】比較例に係る種汚泥製品の構成を概略的に示す図である。
【
図3】
図1に示す多孔質体に担持されるメタン菌に対するCOD成分の供給状態を説明するための模式図である。
【
図4】一実施形態に係る種汚泥製品に含まれるメタン菌の量の一例を示すグラフである。
【
図5】一実施形態に係る種汚泥製品におけるメタンガス発生量の一例を示すグラフである。
【
図6】一実施形態に係る種汚泥製品の汚泥を投入することによる効果を説明するための概念図である。
【
図7】一実施形態に係る種汚泥の投入装置の構成を概略的に示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照して幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
例えば、「ある方向に」、「ある方向に沿って」、「平行」、「直交」、「中心」、「同心」或いは「同軸」等の相対的或いは絶対的な配置を表す表現は、厳密にそのような配置を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の角度や距離をもって相対的に変位している状態も表すものとする。
例えば、「同一」、「等しい」及び「均質」等の物事が等しい状態であることを表す表現は、厳密に等しい状態を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の差が存在している状態も表すものとする。
例えば、四角形状や円筒形状等の形状を表す表現は、幾何学的に厳密な意味での四角形状や円筒形状等の形状を表すのみならず、同じ効果が得られる範囲で、凹凸部や面取り部等を含む形状も表すものとする。
一方、一の構成要素を「備える」、「具える」、「具備する」、「含む」、又は、「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的な表現ではない。
【0014】
(種汚泥製品の構成)
以下、一実施形態に係る種汚泥製品100について説明する。
図1は、一実施形態に係る種汚泥製品100の構成を概略的に示す図である。
【0015】
図1に示すように、種汚泥製品100は、COD(化学的酸素要求量)成分を含む培養液110と、培養液110に浸漬されるとともに、メタン菌が担持された多孔質体120と、培養液110及び多孔質体120を嫌気状態で収納するための容器130と、を備える。一実施形態では、多孔質体120は、活性炭である。なお、多孔質体120は、例えば、木炭、パーライト、ゼオライト、軽石材等であってもよい。培養液110には、汚泥の粒子(不図示)が含まれる。容器130は、密閉容器や気密容器であってもよい。
【0016】
糖(グルコース、シュクロース、オリゴ糖)や有機酸(酢酸、酪酸、プロピオン酸など)は、メタン発酵の原料になる。そのため、培養液110のCOD成分は、糖(グルコース、シュクロース、オリゴ糖)や有機酸(酢酸、酪酸、プロピオン酸など)を含んでいてもよい。多孔質体120は、メタン菌の大きさ以上(例えば、0.5μm以上)の径を有する一以上の細孔121(後述する
図3参照)を含むことが好ましい。また、担体として用いる多孔質体120の粒径は、ハンドリング性や撹拌性を考慮して、1~10mmの範囲内であることが好ましい。
【0017】
幾つかの実施形態において、培養液110は、難分解性COD成分を含んでいてもよい。難分解性COD成分は、メタン菌によって少しずつ分解される。この場合、メタン菌の活性を維持するために必要な成分が枯渇しにくいため、種汚泥製品100の長期間の保存に適している。難分解性COD成分は、界面活性剤、芳香剤、セルロース等である。難分解性COD成分は、直鎖構造で炭素原子Cの数が3以上の炭化水素であってもよい。なお、ここで言う難分解性COD成分には、メタン菌が分解できないプラスチック(ポリマー)や殺菌性の次亜塩素酸は含まれない。
【0018】
酢酸やグルコースは、難分解性COD成分には含まれない。ただし、汚泥の一部としては、これらが含まれてもよい。これらは、すぐにメタン菌によって分解されるため、封入してから使用可能となるまでの待機期間を短縮するためのスターターとして使用されてもよい。
【0019】
幾つかの実施形態において、例えば、
図1に示すように、種汚泥製品100は、容器130内の圧力を閾値以下に維持するためのベント管140を備えていてもよい。ベント管140は、例えば、容器130の上部に設けられる。ベント管140は、圧力が閾値を超えないようにガスを排出するリリース弁であってもよいし、圧力が閾値を超えた場合にガスを排出するように制御される電磁弁であってもよい。このような構成によれば、容器130内の圧力が過度に上昇することを抑えることができるため、安全性を向上させることができる。
【0020】
幾つかの実施形態において、例えば、
図1に示すように、種汚泥製品100は、ベント管140に設けられ、ベントされたガスの量を計測するように構成された流量計150を備えていてもよい。このような構成によれば、ベントされたガスの量(積算値)からメタンガス発生量すなわちメタン菌の活性状態をモニタリングすることができる。そのため、種汚泥として使用可能な状態か否かを容易に確認することができる。
【0021】
幾つかの実施形態において、例えば、
図1に示すように、種汚泥製品100は、容器130内の圧力を計測するための圧力計160を備えていてもよい。この場合、容器130内の圧力を監視することができるため、容器130内の圧力異常を容易に検出することができる。
【0022】
幾つかの実施形態において、例えば、
図1に示すように、種汚泥製品100は、容器130内の培養液110のpHを計測するためのpH計170を備えていてもよい。この場合、培養液110のpHがメタン菌の活性維持に適した範囲内の値であるか否かを確認することができる。
【0023】
幾つかの実施形態において、例えば、
図1に示すように、種汚泥製品100は、容器130内の温度を計測するための温度計180を備えていてもよい。かかる構成によれば、メタン菌の保存環境として適切な温度範囲内(例えば、37~55℃)であるか否かを確認することができる。例えば、適切な温度範囲から逸脱している場合には、外部から冷却又は加熱を行うことにより、容器130内の温度を調整することが可能となる。例えば、温度計180の計測値が所定温度を超えている場合に、送風や冷却水で容器130を冷却してもよい。これにより、保存性が向上する。
【0024】
なお、温度計180は、容器130内の温度ではなく、容器130の周囲の雰囲気温度を計測するように設けられてもよい。この場合においても、間接的に、メタン菌の保存環境として適切な温度範囲内であるか否かを確認することができる。
【0025】
幾つかの実施形態において、例えば、
図1に示すように、種汚泥製品100は、容器130内にCOD成分とpH調整材との少なくとも一方を注入するためのフィード管190を備えていてもよい。フィード管190には、開閉弁191が設けられてもよい。
【0026】
pH調整材は、例えば、NH3、NaOH等のアルカリ成分である。NH3は、pH調整材として特に適している。このような構成によれば、COD成分とpH調整材との少なくとも一方を注入することにより、容器130内におけるメタン菌の環境を適切に調整することができる。そのため、保存性が向上する。例えば、pH計170の計測値がpH7.0以下となった場合にpH調整材を容器130内に投入してもよい。圧力計160の計測値が陰圧又は常圧を示す場合にCOD成分を容器130内に追加投入してもよい。
【0027】
なお、フィード管190は、培養液110の一部を容器130内から抜き出すことを可能とする構成であってもよい。すなわち、フィード管190は、注入用ではなく、培養液110の成分分析用であってもよい。
【0028】
なお、
図1に示す、ベント管140、流量計150、圧力計160、pH計170、温度計180、フィード管190等の構成は、省略されてもよい。また、
図1では、多孔質体120が円形で示されているが、多孔質体120は、このような形状に限られない。
【0029】
ここで、多孔質体120を用いた場合の利点について説明する。
図2は、比較例に係る種汚泥製品200の構成を概略的に示す図である。
【0030】
図2に示すように、比較例に係る種汚泥製品200には、多孔質体120が使用されていない。この場合、長時間が経過すると、メタン菌と粒子を含むメタン発酵汚泥111が沈降し、COD成分を含む培養液110と分離してしまう。この場合、メタン菌へのCOD成分の供給不良が生じてしまう。
【0031】
図3は、
図1に示す多孔質体120に担持されるメタン菌に対するCOD成分の供給状態を説明するための模式図である。黒色のプロットBは、多孔質体120に担持されるメタン菌を模式的に示している。破線で示すように、多孔質体120の細孔121にメタン菌が担持される。
【0032】
多孔質体120の表面には、汚泥の粒子(不図示)が吸着しやすい。そのため、一実施形態に係る種汚泥製品100によれば、メタン発酵汚泥111の粒子沈降が生じにくい。その結果、粒子沈降に起因したメタン菌へのCOD成分の供給不良の問題を回避し、培養液110に浸漬された多孔質体120に担持されるメタン菌に対するCOD成分の良好な供給状態を維持できる。
【0033】
例えば、
図3において矢印で示すように、多孔質体120の表面上の細孔121に対して、あらゆる方向からCOD成分が供給される。この場合、多孔質体120に担持されたメタン菌による分解により、メタン菌近傍でCOD成分が消費されても、培養液110中のCOD成分が多孔質体120の細孔121内へと拡散する。そのため、メタン菌近傍でのCOD成分の枯渇が防止される。
【0034】
したがって、種汚泥製品100によれば、長期間にわたってメタン菌の活性を維持したままの状態で種汚泥を保存することができる。このため、例えばメタン発酵槽において系の破綻の兆候が見られた場合等に、上記構成の種汚泥製品100を使用することにより、メタン発酵槽の系が破綻するリスクを軽減することができる。あるいは、メタン発酵槽の立ち上げ時に、上記構成の種汚泥製品100を使用することで立ち上げ期間を短縮することができる。例えば、1ヶ月程度の期間が必要な立ち上げ又は再立ち上げを種汚泥製品100の使用により1週間程度に短縮化することが可能となる。
【実施例】
【0035】
以下、具体的な実施例を挙げて、上記実施形態をさらに具体的に説明する。まず、種汚泥製品100の仕込み量の一例を説明する。
【0036】
培養液110として、50~100ppm(50~100g)のCODを含む水10m3を使用する。多孔質体120として、活性炭10kgを使用する。COD成分は、難分解性COD成分、有機酸(塩)、糖類である。培養液110には、1g以上(好ましくは10g以上、より好ましくは100g以上)のメタン発酵汚泥を投入する。これらを容器130内に収納する。なお、メタン発酵汚泥を含む培養液110として、界面活性剤を含む洗濯排水が使用されてもよい。
【0037】
嫌気状態で保管するため、容器130内の酸素濃度はほとんどゼロであることが好ましい。なお、収納時に空気が混入したとしても、容器130内には好気性の菌も少なからず存在するため、酸素成分は好気性の菌によって減少する。また、メタンガスの発生により、容器130内が陽圧となるため、酸素成分はベント管140から排出される。
【0038】
このような仕込み量を収納した種汚泥製品100は、所定の温度条件(例えば、37℃以上)で長期保管することができる。なお、本願発明者は、実験により種汚泥製品100の保存性を確認した。以下、メタン発酵汚泥を容器130に収納して保存した実験結果を説明する。
【0039】
表1は、比較例1及び実施例2-1、2-2において、アルキメデス法によって計測した体積増加量を示している。なお、体積増加量の計測誤差は10ml程度と考えられる。
【表1】
【0040】
表2は、比較例1及び実施例2-1、2-2において、シリンジを用いた体積増加量の計測法によって計測した体積増加量と容器130内のガス成分を分析した分析結果とを示している。なお、実施例2-1、2-2における「<1」は1%未満を意味する。
【表2】
【0041】
比較例1は、水に活性炭(汚泥なし)を投入したサンプルを使用した例である。実施例2-1、2-2は、活性炭を多孔質体120として使用し、界面活性剤を含む培養液110を使用した場合の実施例である。実施例2-1、2-2は、メタン発酵汚泥と活性炭(粒径が極小)と培養液110がスラリー状で混合したサンプルを使用した例である。
【0042】
表1を見ると、比較例1では、試験開始から4日後、7日後、11日後の体積増加量はほとんどないことがわかる。一方、実施例2-1、2-2では、徐々に体積が増加していることがわかる。表2を見ると、実施例2-1、2-2について試験開始から15日後の体積増加量を表1の場合とは異なる手法で計測した結果、体積増加量を再確認できたことがわかる。体積の増加は、メタン発酵によるものと考えられる。
【0043】
表2を見ると、実施例2-1、2-2において15日後の容器130内のガス成分としてメタンガスが検出されていることがわかる。このように、実施例2-1、2-2では、メタン菌の活性が維持されていることを推測可能な実験結果が得られた。一方、比較例1の実験結果では、そのような実験結果が得られなかった。このような実験結果からメタンガスの生成速度と温度の関係性を導き出して、長期保存に最適な条件を得ることも可能である。
【0044】
以下、メタン菌を含む洗濯排水を培養液110として使用し、活性炭を多孔質体120として使用し、ドラム缶を容器130として使用した場合の種汚泥製品100の実施例について説明する。この実施例では、16SrDNAと“メチルコエンザイムM 還元酵素”DNAとをPCR(Polymerase Chain Reaction)で計測した。具体的には、THUNDERBIRD(登録商標) SYBR qPCR Mix(東洋紡)をPCR用酵素として用い、ロシュ製のlightcycler(制御用PC 付き)を用いて遺伝子増幅試験を実施した。増幅作業フローは以下の通りである。手順2~4は65回繰り返した。
手順1:プレヒート(95℃),60sec
手順2:融解反応:(95℃),10sec
手順3:アニーリング反応:(55℃),10sec
手順4:伸長反応(60℃):50sec
【0045】
図4は、一実施形態に係る種汚泥製品100に含まれるメタン菌の量の一例を示すグラフである。
図4において、縦軸は、初期値を1とした場合のメタン菌の量(相対値)を対数形式で示し、横軸は、種汚泥製品100が製造されてから経過した経過期間を示している。
図5は、一実施形態に係る種汚泥製品100におけるメタンガス発生量の一例を示すグラフである。
図5において、縦軸は、初期値を1とした場合のメタンガス発生量(相対値)を対数形式で示し、横軸は、種汚泥製品100が製造されてから経過した経過期間を示している。
【0046】
図4及び
図5に示すように、1年後でもメタン菌の活性状態が維持されていることがわかる。また、7年後では1年後の場合よりも活性が高く、メタン菌が増加していることがわかる。14年後では、7年後と同等の活性が維持されていることがわかる。
【0047】
図6は、一実施形態に係る種汚泥製品100の汚泥を投入することによる効果を説明するための概念図である。このグラフは、種汚泥製品100の汚泥を投入した場合と投入しない場合とを比較したメタン発酵槽におけるメタンガス回収量の一例を示している。縦軸は、1日当たりのメタン発酵槽の1kgの汚泥から回収されるメタンガス回収量m
3を示し、横軸は経過期間(運用開始から経過した日数)を示している。
【0048】
プロットP1は、種汚泥製品100の汚泥を投入しない場合のメタンガス回収量の推移を示している。プロットP2は、破線で示す閾値(例えば、メタンガス回収量の目標値の70%)を下回ったタイミングで種汚泥製品100の汚泥を投入した場合のメタンガス回収量の推移を示している。
【0049】
プロットP1で示すように、何らかの理由により、メタン発酵系が阻害された場合に、種汚泥製品100の汚泥を投入しない場合、メタンガス回収量は徐々に低下していき、メタン発酵系が破綻してしまう。これに対し、プロットP2で示すように、メタン発酵系が阻害されても、その兆候が表れてきたタイミング(閾値を下回ったタイミング)で種汚泥製品100の汚泥を投入した場合、メタンガス回収量が増加して、メタン発酵系の破綻を回避することができる。
【0050】
(種汚泥の投入装置の構成)
以下、メタン発酵するように構成された発酵槽(メタン発酵槽)に自動的に種汚泥製品100に封入されている種汚泥を投入する種汚泥の投入装置1について説明する。
図7は、一実施形態に係る種汚泥の投入装置1の構成を概略的に示すブロック図である。
【0051】
図7に示すように、種汚泥の投入装置1は、メタン発酵するように構成された発酵槽の状態を監視する監視する監視装置2と、発酵槽において、メタン発酵が停止した状態又は停止する虞がある状態になった場合に種汚泥製品100に封入されている種汚泥を投入する投入装置3と、を備える。監視装置2は、センサ、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)等から構成される。投入装置3は、監視装置2によって制御され、制御信号に応じて種汚泥製品100の開封及び種汚泥の投入を実行するように構成される。
【0052】
メタン発酵が停止する虞がある状態としては、例えば、メタン発酵を阻害する物質が発酵槽内に流入したこと又は流入する可能性があることが判明した状態が考えられる。このような構成によれば、メタン発酵系が破綻した場合の再立ち上げを種汚泥の投入によって短期間かつ容易に行うことが可能となる。
【0053】
なお、種汚泥の投入装置1によらず、ユーザが発酵槽の状態(例えばガス発生量)を監視して、必要と判断した場合に種汚泥製品100を開封し、種汚泥を投入してもよい。毎年1回程度の定期点検で、メタンガスの回収量を計測し、その計測結果に基づいて、種汚泥を投入するか否かの判断とその投入量の決定が行われてもよい。種汚泥製品100は、メタン発酵槽の施設に保管され、常時投入可能に配備されてもよい。
【0054】
本開示は上述した実施形態に限定されることはなく、上述した実施形態に変形を加えた形態や、これらの形態を適宜組み合わせた形態も含む。
【0055】
(まとめ)
上記各実施形態に記載の内容は、例えば以下のように把握される。
【0056】
(1)本開示の一実施形態に係る種汚泥製品(100)は、
COD成分を含む培養液(110)と、
前記培養液(110)に浸漬されるとともに、メタン菌が担持された多孔質体(120)と、
前記培養液(110)及び前記多孔質体(120)を嫌気状態で収納するための容器(130)と、
を備える。
【0057】
上記(1)に記載の構成によれば、メタン菌を担持する多孔質体(120)を用いているため、メタン発酵汚泥の粒子沈降に起因したメタン菌へのCOD成分の供給不良の問題を回避し、培養液(110)に浸漬された多孔質体(120)に担持されるメタン菌に対するCOD成分の良好な供給状態を維持できる。即ち、多孔質体(120)に担持されたメタン菌による分解でCOD成分が消費されると、培養液(110)中のCOD成分が多孔質体(120)の細孔(121)内へと拡散してメタン菌近傍でのCOD成分の枯渇が防止される。
【0058】
その結果、長期間にわたってメタン菌の活性を維持したままの状態で種汚泥を保存することができる。このため、例えばメタン発酵槽において系の破綻の兆候が見られた場合等に、上記構成の種汚泥製品(100)を使用することにより、メタン発酵槽の系が破綻するリスクを軽減することができる。あるいは、メタン発酵槽の立ち上げ時に、上記構成の種汚泥製品(100)を使用することで立ち上げ期間を短縮することができる。
【0059】
(2)幾つかの実施形態では、上記(1)に記載の構成において、
前記培養液(110)は、難分解性COD成分を含む。
【0060】
上記(2)に記載の構成によれば、難分解性COD成分は、メタン菌によって少しずつ分解されるため、枯渇しにくい。そのため、種汚泥製品の長期間の保存に適している。
【0061】
(3)幾つかの実施形態では、上記(1)又は(2)に記載の構成において、前記種汚泥製品(100)は、
前記容器(130)内の圧力を閾値以下に維持するためのベント管(140)を備える。
【0062】
上記(3)に記載の構成によれば、容器(130)内の圧力が過度に上昇することを抑えることができるため、安全性を向上させることができる。
【0063】
(4)幾つかの実施形態では、上記(3)に記載の構成において、前記種汚泥製品(100)は、
前記ベント管(140)に設けられ、ベントされたガスの量を計測するように構成された流量計(150)を備える。
【0064】
上記(4)に記載の構成によれば、ベントされたガスの量からメタンガス発生量すなわちメタン菌の活性状態をモニタリングすることができる。そのため、種汚泥として使用可能な状態か否かを容易に確認することができる。
【0065】
(5)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(4)の何れか一つに記載の構成において、前記種汚泥製品(100)は、
前記容器(130)内の圧力を計測するための圧力計(160)を備える。
【0066】
上記(5)に記載の構成によれば、容器(130)内の圧力を監視することができる。そのため、容器(130)内の圧力異常を容易に検出することができる。
【0067】
(6)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(5)の何れか一つに記載の構成において、前記種汚泥製品(100)は、
前記容器(130)内の前記培養液(110)のpHを計測するためのpH計(170)を備える。
【0068】
上記(6)に記載の構成によれば、培養液(110)のpHがメタン菌の活性維持に適した範囲内の値であるか否かを確認することができる。
【0069】
(7)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(6)の何れか一つに記載の構成において、前記種汚泥製品(100)は、
前記容器(130)内の温度を計測するための温度計(180)を備える。
【0070】
上記(7)に記載の構成によれば、メタン菌の保存環境として適切な温度範囲内であるか否かを確認することができる。例えば、適切な温度範囲から逸脱している場合には、外部から冷却又は加熱を行うことにより、容器(130)内の温度を調整することが可能となる。そのため、保存性が向上する。
【0071】
(8)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(7)の何れか一つに記載の構成において、前記種汚泥製品(100)は、
前記容器(130)内に前記COD成分とpH調整材との少なくとも一方を注入するためのフィード管(190)を備える。
【0072】
上記(8)に記載の構成によれば、COD成分とpH調整材との少なくとも一方を注入することにより容器(130)内におけるメタン菌の環境を適切に調整することができる。そのため、保存性が向上する。
【0073】
(9)本開示の一実施形態に係る種汚泥の投入装置(1)は、
メタン発酵するように構成された発酵槽の状態を監視する監視する監視装置(2)と、
前記発酵槽において、メタン発酵が停止した状態又は停止する虞がある状態になった場合に上記(1)乃至(8)の何れか一つに記載の種汚泥製品(100)に封入されている種汚泥を投入する投入装置(3)と、
を備える。
【0074】
上記(9)に記載の構成によれば、メタン発酵系が破綻した場合の再立ち上げを種汚泥の投入によって短期間かつ容易に行うことが可能となる。
【0075】
(10)本開示の一実施形態に係る種汚泥の投入方法は、
メタン発酵するように構成された発酵槽の状態を監視する監視するステップと、
前記発酵槽において、メタン発酵が停止した状態又は停止する虞がある状態になった場合に上記(1)乃至(8)の何れか一つに記載の種汚泥製品(100)に封入されている種汚泥を投入するステップと、
を含む。
【0076】
上記(10)に記載の方法によれば、メタン発酵系が破綻した場合の再立ち上げを種汚泥の投入によって短期間かつ容易に行うことが可能となる。
【符号の説明】
【0077】
1 種汚泥の投入装置
2 監視装置
3 投入装置
100,200 種汚泥製品
110 培養液
111 メタン発酵汚泥
120 多孔質体
121 細孔
130 容器
140 ベント管
150 流量計
160 圧力計
170 pH計
180 温度計
190 フィード管
191 開閉弁