(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-24
(45)【発行日】2023-12-04
(54)【発明の名称】多端子送電系統の保護システム
(51)【国際特許分類】
H02H 3/28 20060101AFI20231127BHJP
【FI】
H02H3/28 A
(21)【出願番号】P 2020028568
(22)【出願日】2020-02-21
【審査請求日】2023-01-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松本 晴泰
【審査官】田中 慎太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-042463(JP,A)
【文献】特開平10-257660(JP,A)
【文献】特開2019-068561(JP,A)
【文献】特開平09-294328(JP,A)
【文献】特開2000-050532(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02H 3/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多端子送電系統の保護システムであって、
前記多端子送電系統は、3箇所以上の変電所間を接続する複数の送電線を含み、
前記複数の送電線の各々は、前記3箇所以上の変電所のうちいずれか1つの変電所と他の1つ以上の変電所との間を接続し、
前記多端子送電系統は、さらに、
1つ以上の送電線および送電線間に設けられた複数の開閉器と、
各前記送電線の端子に隣接して個別に設けられた複数の遮断器とを含み、
前記保護システムは、前記複数の送電線の各端子に対応して個別に設けられ、互いに通信路を介して接続された複数の保護リレーを備え、
前記複数の保護リレーの各々は、
前記複数の開閉器の開閉状態が変更されたときに、前記複数の開閉器の変更後の開閉状態の情報に基づいて対応する送電線の自端子に電気的に接続される全ての他端子を特定することによって、電流差動方式を用いて保護すべき保護区間を特定する保護区間特定部と、
自端子でサンプリングされた電流値と前記特定された各他端子でサンプリングされた電流値とに基づいて、電流差動方式によるリレー演算を行う保護リレー演算部とを備える、多端子送電系統の保護システム。
【請求項2】
前記複数の保護リレーの各々は、
前記複数の開閉器の開閉状態が変更されたときに、前記自端子における電流のサンプリングタイミングと、前記特定された各他端子における電流のサンプリングタイミングとを同期させるサンプリング同期制御部をさらに備える、請求項1に記載の多端子送電系統の保護システム。
【請求項3】
前記複数の保護リレーの各々は、
前記自端子における電流のサンプリングタイミングと、前記自端子を除く前記複数の送電線の全ての端子における電流のサンプリングタイミングとを同期させるサンプリング同期制御部をさらに備える、請求項1に記載の多端子送電系統の保護システム。
【請求項4】
前記複数の保護リレーの各々は、前記複数の開閉器の開閉状態のパターンと各パターンに対応する保護区間との対応関係を表す情報を格納するメモリを備え、
前記保護区間特定部は、前記対応関係を表す情報に基づいて、前記複数の開閉器の変更後の開閉状態に対応する保護区間を特定する、請求項1~3のいずれか1項に記載の多端子送電系統の保護システム。
【請求項5】
前記保護システムは、さらに、
前記通信路に接続され、前記複数の開閉器の開閉状態を制御する開閉器制御装置と、
前記通信路に接続され、前記複数の開閉器の各々の投入指令または開放指令を前記開閉器制御装置に出力する上位計算機とを備え、
前記上位計算機は、前記複数の開閉器の開閉状態を変更するために少なくとも1つの保護リレーに対して、対応する端子に隣接して設けられた遮断器の開放指令を出力した後に、前記複数の開閉器の各々の投入指令または開放指令を出力し、その後、前記開放指令の出力先である前記少なくとも1つの保護リレーに対して、対応する遮断器の投入指令を出力する、請求項1~4のいずれか1項に記載の多端子送電系統の保護システム。
【請求項6】
前記複数の保護リレーの各々は、前記少なくとも1つの保護リレーに対して出力された対応する遮断器の開放指令ならびに前記複数の開閉器の各々の投入指令または開放指令の出力順が予め定められた順番に従っているか否かを判定する、請求項5に記載の多端子送電系統の保護システム。
【請求項7】
前記複数の保護リレーの各々は、前記出力順が予め定められた順番に従っている場合に、前記複数の開閉器の変更後の開閉状態に対応する保護区間に対して電流差動方式による保護を実行する、請求項6に記載の多端子送電系統の保護システム。
【請求項8】
多端子送電系統の保護システムであって、
前記多端子送電系統は、3箇所以上の変電所間を接続する複数の送電線を含み、
前記複数の送電線の各々は、前記3箇所以上の変電所のうちいずれか1つの変電所と他の1つ以上の変電所との間を接続し、
前記多端子送電系統は、さらに、
1つ以上の送電線および送電線間に設けられた複数の開閉器と、
各前記送電線の端子に隣接して個別に設けられた複数の遮断器とを含み、
前記保護システムは、
前記複数の送電線の各端子に対応して個別に設けられ、互いに通信路を介して接続された複数の保護リレーと、
前記通信路を介して前記複数の保護リレーに接続された上位計算機とを備え、
前記上位計算機は、
前記複数の開閉器の開閉状態が変更されたときに、前記複数の開閉器の変更後の開閉状態の情報に基づいて電流差動方式を用いて保護すべき全ての保護区間を特定する保護区間特定部と、
前記全ての保護区間の各々について、各端子でサンプリングされた電流値に基づいて電流差動方式によるリレー演算を行う保護リレー演算部とを含む、多端子送電系統の保護システム。
【請求項9】
多端子送電系統の保護システムであって、
前記多端子送電系統は、3箇所以上の変電所間を接続する複数の送電線を含み、
前記複数の送電線の各々は、前記3箇所以上の変電所のうちいずれか1つの変電所と他の1つ以上の変電所との間を接続し、
前記多端子送電系統は、さらに、
1つ以上の送電線および送電線間に設けられた複数の開閉器と、
各前記送電線の端子に隣接して個別に設けられた複数の遮断器とを含み、
前記保護システムは、
前記複数の送電線の各端子に対応して個別に設けられ、互いに通信路を介して接続された複数の保護リレーを備え、
前記複数の保護リレーのうちの第1の保護リレーは、
前記複数の開閉器の開閉状態が変更されたときに、前記複数の開閉器の変更後の開閉状態の情報に基づいて電流差動方式を用いて保護すべき全ての保護区間を特定する保護区間特定部と、
前記全ての保護区間の各々について、各端子でサンプリングされた電流値に基づいて電流差動方式によるリレー演算を行う保護リレー演算部とを含む、多端子送電系統の保護システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この開示は、多端子送電系統を保護する保護システムに関する。
【背景技術】
【0002】
送電線の接続形態が変更されても、送電線保護が継続できることが望ましい。たとえば、特許文献1(特開2011-239521号公報)は、途中に線路ジャンパまたは線路開閉器が設置された送電線に使用される電流差動リレーを開示する。
【0003】
具体的にこの文献の電流差動リレーは、状態判定部において線路ジャンパが「入」状態であると判定された場合には自端子側電流と相手端子側電流との差に基づいて送電線に発生した事故を検出する。一方、この電流差動リレーは、状態判定部において線路ジャンパが「切」状態であると判定された場合には自端子側電流のみに基づいて送電線に発生した事故を検出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
たとえば、一つの鉄塔に1号送電線および2号送電線が敷設された複数回線の多端子送電線網を保護する電流差動リレーは、1号送電線用の電流差動リレーと2号送電線用の電流差動リレーとが必要である。1号送電線用の電流差動リレーは、1号送電線の各端子の電流を用いて内部事故の有無を判定し、2号送電線用の電流差動リレーは、2号送電線の各端子の電流を用いて内部事故の有無を判定する。
【0006】
ところで、今後増加が予想される太陽光発電および風力発電などの分散電源を送電線網に接続したり、片方の回線をπ引き込み回線に変更したりする場合などにおいて、需要家への電力供給を極力停止しないようにする必要がある。このために、1号送電線と2号送電線との間を接続するための複数の開閉器を設けるのが都合がよい。他の送電線を用いた迂回ルートがとれない場合もあるからである。
【0007】
ところが、開閉器を用いて1号送電線と2号送電線とを接続したり、各送電線を途中で分離したりすると、電流差動リレーの保護区間が変更されてしまう。従来技術では、このような場合に対処する手段は明らかにされていない。
【0008】
本開示は、上記の問題を考慮してなされたものであり、その目的の1つは、複数の開閉器の開閉状態の変更によって保護区間が変更されるような多端子送電系統を、電流差動方式によって保護するための保護システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
一局面において、多端子送電系統の保護システムが提供される。多端子送電系統は、3箇所以上の変電所間を接続する複数の送電線と、複数の開閉器と、複数の遮断器とを含む。各送電線は、3箇所以上の変電所のうちいずれか1つの変電所と他の1つ以上の変電所との間を接続する。複数の開閉器は、1つ以上の送電線および送電線間に設けられる。複数の遮断器は、各送電線の端子に隣接して個別に設けられる。保護システムは、複数の送電線の各端子に対応して個別に設けられ、互いに通信路を介して接続された複数の保護リレーを備える。各保護リレーは、保護区間特定部と、保護リレー演算部とを含む。保護区間特定部は、複数の開閉器の開閉状態が変更されたときに、複数の開閉器の変更後の開閉状態の情報に基づいて対応する遮断器が設けられた送電線の自端子に電気的に接続される全ての他端子を特定することによって、電流差動方式を用いて保護すべき保護区間を特定する。保護リレー演算部は、自端子でサンプリングされた電流値と特定された各他端子でサンプリングされた電流値とに基づいて、電流差動方式によるリレー演算を行う。
【発明の効果】
【0010】
上記一局面の保護システムによれば、複数の開閉器の開閉状態が変更されたときに、各保護リレーは、複数の開閉器の変更後の開閉状態の情報に基づいて変更後の保護区間を特定し、特定した保護区間に基づいて電流差動方式によるリレー演算を行うことにより、多端子送電系統を保護できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】多端子送電系統およびその保護システムの構成例を示す図である。
【
図2】
図1の多端子送電系統の運用方法と保護区間について説明するための図である。
【
図3】イーサネット(登録商標)による通信路の構成例を示す図である。
【
図4】
図1の保護リレーのハードウェア構成の一例を示す図である。
【
図5】
図1の開閉器制御装置のハードウェア構成の一例を示す図である。
【
図6】
図1の上位計算機のハードウェア構成の一例を示す図である。
【
図7】保護リレーの演算処理部の動作を示す機能ブロック図である。
【
図8】
図1の多端子送電系統の保護システムの動作の一例を示すフローチャートである(3端子運用から2号線のπ引き込み運用に切り替わる際の手順を示す)。
【
図9】
図1の多端子送電系統の保護システムの動作の一例を示すフローチャートである(2号線のπ引き込み運用から3端子運用に切り替わる際の手順を示す)。
【
図10】実施の形態2による上位計算機の演算処理部の動作を示す機能ブロック図である。
【
図11】実施の形態3の保護システムにおいて、イーサネットによる通信路の構成例を示す図である。
【
図12】実施の形態4による多端子送電系統の保護システムの動作の一例を示すフローチャートである(3端子運用から2号線のπ引き込み運用に切り替わる際の手順を示す)。
【
図13】実施の形態4による多端子送電系統の保護システムの動作の一例を示すフローチャートである(2号線のπ引き込み運用から3端子運用に切り替わる際の手順を示す)。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、各実施の形態について図面を参照して詳しく説明する。なお、同一または相当する部分には同一の参照符号を付して、その説明を繰り返さない場合がある。
【0013】
実施の形態1.
[多端子送電系統の保護システムの全体構成例]
図1は、多端子送電系統およびその保護システムの構成例を示す図である。
【0014】
多端子送電系統30は、変電所31(A端)、変電所32(B端)、および変電所33(C端)の間を接続する1号送電線1Lと2号送電線2Lとを含む。1号送電線1Lは、変電所31の母線A-1BとノードN1とを接続する区間A-1Lと、変電所32の母線B-1BとノードN1とを接続する区間B-1Lと、変電所33の母線C-1BとノードN1とを接続する区間C-1Lとに区分される。2号送電線2Lは、変電所31の母線A-2BとノードN2とを接続する区間A-2Lと、変電所32の母線B-2BとノードN2とを接続する区間B-2Lと、変電所33の母線C-2BとノードN2とを接続する区間C-2Lとに区分される。
【0015】
多端子送電系統30は、さらに、1号送電線1Lの各端子に隣接して設けられた遮断器CB1,CB3,CB5と、2号送電線2Lの各端子に隣接して設けられた遮断器CB2,CB4,CB6とを含む。また、多端子送電系統30は、1号送電線1Lの各端子と対応する遮断器との間に個別に設けられた電流変成器CT1,CT3,CT5と、2号送電線2Lの各端子と対応する遮断器との間に個別に設けられた電流変成器CT2,CT4,CT6とを含む。以下の説明では、遮断器CB1~CB6および電流変成器CT1~CT6について、総称する場合または不特定のものを示す場合には遮断器CBおよび電流変成器CTとそれぞれ記載する。
【0016】
多端子送電系統30は、さらに、開閉器SW1~SW3を含む。開閉器SW1は、1号送電線1Lの区間C-1Lに設けられる。開閉器SW2は、2号送電線2Lの区間B-2Lに設けられる。開閉器SW3は、2号送電線2Lの区間A-2Lの開閉器SW2と遮断器CB2との間のノードN3と、1号送電線1Lの区間C-1Lの開閉器SW1と遮断器CB5との間のノードN4との間に接続される。以下の説明では、開閉器SW1~SW3について、総称する場合または不特定のものを示す場合には開閉器SWと記載する。
【0017】
なお、
図1では、図解を容易にするために、1本の送電線で記載しているが、3相送電線の場合には実際には3本の送電線がある。また、遮断器CB、電流変成器CT、および開閉器SWの各々についても実際には相ごとに設けられているが、本開示では3相分をまとめて1つの断器CB、電流変成器CT、および開閉器SWとして記載している。
【0018】
上記の構成の多端子送電系統30を保護する保護システムは、変電所31に設けられた保護リレーRY1,RY2と、変電所32に設けられた保護リレーRY3,RY4と、変電所33に設けられた保護リレーRY5,RY6と、開閉器SW1~SW3の開閉を制御する開閉器制御装置SWCUと、制御所34に設けられた上位計算機35とを含む。保護リレーRY1~RY6について、総称する場合または不特定のものを示す場合には保護リレーRYと記載する。
【0019】
保護リレーRY1は、1号送電線1Lの変電所31側の端子(A端)に隣接して設けられた電流変成器CT1および遮断器CB1と接続される。保護リレーRY1は、遮断器CB1の開閉を制御する。同様に、保護リレーRY2は、2号送電線2Lの変電所31側の端子(A端)に隣接して設けられた電流変成器CT2および遮断器CB2と接続され、遮断器CB2の開閉を制御する。保護リレーRY3は、1号送電線1Lの変電所32側の端子(B端)に隣接して設けられた電流変成器CT3および遮断器CB3と接続され、遮断器CB3の開閉を制御する。保護リレーRY4は、2号送電線2Lの変電所32側の端子(B端)に隣接して設けられた電流変成器CT4および遮断器CB4と接続され、遮断器CB4の開閉を制御する。保護リレーRY5は、1号送電線1Lの変電所33側の端子(C端)に隣接して設けられた電流変成器CT5および遮断器CB5と接続され、遮断器CB5の開閉を制御する。保護リレーRY6は、2号送電線2Lの変電所33側の端子(C端)に隣接して設けられた電流変成器CT6および遮断器CB6と接続され、遮断器CB6の開閉を制御する。
【0020】
保護リレーRY1~RY6、開閉器制御装置SWCU、および上位計算機35は、シリアル伝送を行う通信路(不図示)を介して相互に接続されている。これにより、各保護リレーRYは、開閉器SW1~SW3の開閉情報を開閉器制御装置SWCUから受信し、さらに上位計算機35からの指令を受信する。通信路の具体的な構成例については後述する。
【0021】
なお、上記の多端子送電系統30の構成は一例であって、これに限定されることは意図していない。より一般的には、多端子送電系統は、3箇所以上の変電所間を電気的に接続する複数の送電線を含む。各送電線は、3箇所以上の変電所のうちいずれか1つの変電所と他の1つ以上の変電所との間を接続する。多端子送電系統は、さらに、1つ以上の送電線および送電線間に設けられた複数の開閉器と、各送電線の端子に隣接して個別に設けられた複数の遮断器と、各送電線の端子と対応する遮断器との間に個別に設けられた複数電流変成器とを含む。複数の開閉器の開閉状態を変更することによって、上記の3箇所以上の変電所間の電気的な接続形態が変更される。複数の保護リレーは、複数の送電線の各端子に対応して個別に設けられる。
【0022】
[送電線の運用方法]
図1の開閉器SW1~SW3の開閉状態を切り替えることによって、変電所31~33の間の電気的な接続形態を変更することができる。以下、3端子運用と2号送電線のπ引き込み運用とについて説明する。
【0023】
図2は、
図1の多端子送電系統の運用方法と保護区間について説明するための図である。変電所31~33間の電気的な接続形態を変更することによって、電流差動方式による保護区間も変更される。
【0024】
まず、
図2(A)を参照して、開閉器SW1,SW2が投入され、開閉器SW3が切断されている場合、1号送電線1LはA端、B端、およびC端を接続する3端子送電線として構成され、2号送電線2LもA端、B端、およびC端を接続する3端子送電線として構成される。以下、この運用方法を3端子運用と称する。一方、開閉器SW1,SW2が切断され、開閉器SW3が投入されている場合、1号送電線1LはA端とB端とを接続する2端子送電線として構成され、2号送電線2LはA端とC端とを接続する2端子送電線およびB端とC端とを接続する2端子送電線として構成される。この運用方法を2号線のπ引き込み運用と称する。
【0025】
次に、
図2(B)を参照して、3端子運用の場合における電流差動方式の保護区間について説明する。この場合、2個の保護区間が存在する。
【0026】
第1の保護区間は、
図1の区間A-1L、区間B-1L、および区間C-1Lによって構成される。この場合、保護区間の端子に対応して設けられた保護リレーRY1,RY3,RY5によって、電流差動方式による保護リレー演算が実行される。電流変成器CT1,CT3,CT5による検出電流の瞬時値をそれぞれi1、i3、i5とすると、保護リレーRY1,RY3,RY5の各々は、これらの電流の和(すなわち、i1+i3+i5)が閾値を超えている場合に、保護区間の内部での事故であると判定する。
【0027】
第2の保護区間は、
図1の区間A-2L、区間B-2L、および区間C-2Lによって構成される。この場合、保護区間の端子に対応して設けられた保護リレーRY2,RY4,RY6によって、電流差動方式による保護リレー演算が実行される。電流変成器CT2,CT4,CT6による検出電流の瞬時値をそれぞれi2、i4、i6とすると、保護リレーRY2,RY4,RY6の各々は、これらの電流の和(すなわち、i2+i4+i6)が閾値を超えている場合に、保護区間の内部での事故であると判定する。
【0028】
次に、
図2(C)を参照して、2号線のπ引き込み運用の場合における電流差動方式の保護区間について説明する。この場合、3個の保護区間が存在する。
【0029】
第1の保護区間は、
図1の区間A-1Lおよび区間B-1Lによって構成される。この場合、保護区間の端子に対応して設けられた保護リレーRY1,RY3によって、電流差動方式による保護リレー演算が実行される。電流変成器CT1,CT3による検出電流の瞬時値をそれぞれi1、i3とすると、保護リレーRY1,RY3の各々は、これらの電流の和(すなわち、i1+i3)が閾値を超えている場合に、保護区間の内部での事故であると判定する。
【0030】
第2の保護区間は、
図1の区間A-2Lおよび区間C-1Lによって構成される。この場合、保護区間の端子に対応して設けられた保護リレーRY2,RY5によって、電流差動方式による保護リレー演算が実行される。電流変成器CT2,CT5による検出電流の瞬時値をそれぞれi2、i5とすると、保護リレーRY2,RY5の各々は、これらの電流の和(すなわち、i2+i5)が閾値を超えている場合に、保護区間の内部での事故であると判定する。
【0031】
第3の保護区間は、
図1の区間B-2Lおよび区間C-2Lによって構成される。この場合、保護区間の端子に対応して設けられた保護リレーRY4,RY6によって、電流差動方式による保護リレー演算が実行される。電流変成器CT4,CT6による検出電流の瞬時値をそれぞれi4、i6とすると、保護リレーRY4,RY6の各々は、これらの電流の和(すなわち、i4+i6)が閾値を超えている場合に、保護区間の内部での事故であると判定する。
【0032】
以上のように、電流差動方式による保護区間の構成と開閉器SW1~SW3の開閉状態とは対応付けられている。本実施の形態の各保護リレーRYは、通信路を介して開閉器制御装置SWCUから受信した開閉器SW1~SW3の開閉状態の情報に基づいて、自動的に保護区間を切り替えるように構成されている。
【0033】
[通信路の構成例]
図3は、イーサネットによる通信路の構成例を示す図である。
図3に示すように、制御所34には、ネットワークスイッチ40,50が配置される。変電所31には、ネットワークスイッチ41,42,51,52が配置される。変電所33には、ネットワークスイッチ43,44,53,54が配置される。変電所32には、ネットワークスイッチ45,46,51,52が配置される。開閉器制御装置SWCUの近傍にネットワークスイッチ47,57が配置される。
【0034】
上位計算機35は、ネットワークスイッチ40,50の各々と接続される。保護リレーRY1は、ネットワークスイッチ41,51の各々と接続される。保護リレーRY2は、ネットワークスイッチ42,52の各々と接続される。保護リレーRY5は、ネットワークスイッチ43,53の各々と接続される。保護リレーRY6は、ネットワークスイッチ44,54の各々と接続される。保護リレーRY3は、ネットワークスイッチ45,55の各々と接続される。保護リレーRY4は、ネットワークスイッチ46,56の各々と接続される。開閉器制御装置SWCUは、ネットワークスイッチ47,57の各々と接続される。
【0035】
ネットワークスイッチ40~47が光ファイバ39を介して接続されることによって、上位計算機35、保護リレーRY1~RY6、および開閉器制御装置SWCUを接続する第1の通信路49が構成される。ネットワークスイッチ50~57が光ファイバ39を介して接続されることによって、上位計算機35、保護リレーRY1~RY6、および開閉器制御装置SWCUを接続する第2の通信路59が構成される。このように第1の通信路49と第2の通信路59を設けて冗長性を持たせることにより、保護システムの信頼性を高めることができる。
【0036】
[保護リレーのハードウェア構成の一例]
図4は、
図1の保護リレーのハードウェア構成の一例を示す図である。
図1の保護リレーRY1~RY6は同一の構成を有しているので、以下では、保護リレーRY1について代表的に説明する。
【0037】
図4を参照して、保護リレーRY1は、入力変換部100と、A/D変換部110と、演算処理部120と、入出力部(I/O部)130とを備える。
【0038】
入力変換部100は、
図1の電流変成器CT1から出力された各相の電流信号が入力される入力部である。入力変換部100には、入力変換器101a,101b,…がチャンネルごとに設けられている。各チャンネルには、各相の電流信号が入力される(
図4では、代表的に2チャンネルのみ示されている)。各入力変換器101a,101bは、たとえば、補助変成器によって構成され、電流変成器CT1からの電流信号をA/D変換部110および演算処理部120での信号処理に適した電圧レベルの信号に変換する。
【0039】
A/D変換部110は、アナログフィルタ(AF:Analog Filter)111と、サンプルホールド回路(S/H:Sample and Hold Circuit)112と、マルチプレクサ(MPX:Multiplexer)113と、アナログデジタル(A/D)変換器114とを含む。アナログフィルタ111(111a,111b,…)およびサンプルホールド回路112(112a,112b,…)の各々は、複数の入力変換器101(101a,101b,…)にそれぞれ対応してチャンネルごとに設けられる。
【0040】
各アナログフィルタ111は、A/D変換の際の折返し誤差を除去するために設けられたフィルタである。各サンプルホールド回路112は、対応のアナログフィルタ111を通過した信号を規定のサンプルレート(サンプリング周波数とも称する)でサンプリングして保持する。マルチプレクサ113は、各サンプルホールド回路112に保持された電圧信号を順次選択する。A/D変換器114は、マルチプレクサによって選択された信号をデジタル値に変換する。
【0041】
演算処理部120は、CPU(Central Processing Unit)121と、RAM(Random Access Memory)122と、ROM(Read Only Memory)123と、フラッシュメモリなど電気的に書換え可能な不揮発性メモリ124とを備える。これらの各要素はバス125を介して相互に接続されている。RAM122およびROM123は、CPU121の主記憶として用いられる。CPU121は、ROM123および不揮発性メモリ124に格納されたプログラムに従って、保護リレーRY1の全体の動作を制御する。
【0042】
入出力部130は、
図3のネットワークスイッチ41と接続される通信回路(TX/RX)131と、
図3のネットワークスイッチ51と接続される通信回路132とを備える。さらに、入出力部130は、デジタル入力(D/I:Digital Input)回路133と、デジタル出力(D/O:Digital Output)回路134とを備える。デジタル入力回路133は、外部機器から出力された信号を受信するためのインターフェイス回路であり、デジタル出力回路134は、外部機器に信号を出力するためのインターフェイス回路である。たとえば、デジタル出力回路134は、対応する遮断器CB1にトリップ信号を出力し、デジタル入力回路133は、対応する遮断器CB1の開閉状態の情報を取得する。
【0043】
[開閉器制御装置のハードウェア構成の一例]
図5は、
図1の開閉器制御装置のハードウェア構成の一例を示す図である。
図5を参照して、開閉器制御装置SWCUは、演算処理部200と、入出力部(I/O部)210とを備える。
【0044】
演算処理部200は、CPU201と、RAM202と、ROM203と、フラッシュメモリなど電気的に書換え可能な不揮発性メモリ204とを備える。これらの各要素はバス205を介して相互に接続されている。RAM202およびROM203は、CPU201の主記憶として用いられる。CPU201は、ROM203および不揮発性メモリ204に格納されたプログラムに従って、開閉器制御装置SWCUの全体の動作を制御する。
【0045】
入出力部210は、
図3のネットワークスイッチ47と接続される通信回路(TX/RX)211と、
図3のネットワークスイッチ57と接続される通信回路212とを備える。さらに、入出力部210は、デジタル入力(D/I)回路213と、デジタル出力(D/O)回路214とを備える。デジタル入力回路213は、外部機器から出力された信号を受信するためのインターフェイス回路であり、デジタル出力回路214は、外部機器に信号を出力するためのインターフェイス回路である。具体的に、デジタル出力回路214は、上位計算機35から指令に基づいて、開閉器SW1~SW3に投入指令または開放指令を出力する。デジタル入力回路213は、開閉器SW1~SW3の開閉状態の情報を取得する。
【0046】
[上位計算機のハードウェア構成の一例]
図6は、
図1の上位計算機のハードウェア構成の一例を示す図である。
図5を参照して、上位計算機35は、演算処理部300と、入出力部(I/O部)310とを備える。
【0047】
演算処理部300は、CPU301と、RAM302と、ROM303と、フラッシュメモリなど電気的に書換え可能な不揮発性メモリ304とを備える。これらの各要素はバス305を介して相互に接続されている。RAM302およびROM303は、CPU301の主記憶として用いられる。CPU301は、ROM303および不揮発性メモリ304に格納されたプログラムに従って、上位計算機35の全体の動作を制御する。
【0048】
入出力部310は、
図3のネットワークスイッチ40と接続される通信回路(TX/RX)311と、
図3のネットワークスイッチ50と接続される通信回路312とを備える。
【0049】
[保護リレーの動作]
次に、各保護リレーRYによる多端子送電系統30の保護動作について説明する。保護リレーRY1~RY6の各々は同様の保護動作を実行するので、以下では、保護リレーRY1の動作について説明する。
【0050】
図7は、保護リレーRY1の演算処理部の動作を示す機能ブロック図である。
図7では、保護リレーRY1に接続される電流変成器CT1、遮断器CB1、およびネットワークスイッチ41,51と、保護リレーRY1を構成するサンプルホールド回路112、A/D変換器114、通信回路131,132、およびデジタル入出力回路133,134とも併せて示されている。
【0051】
図7を参照して、機能的に見ると演算処理部120は、保護区間特定部62と、サンプリング同期制御部61と、保護リレー演算部63と、ロジック演算部64とを含む。これらの各機能は、CPU121がプログラムを実行することによって実現される。
【0052】
保護区間特定部62は、通信路49または59を介して開閉器SW1~SW3の開閉状態の情報を開閉器制御装置SWCUから受信する。保護区間特定部62は、開閉器SW1~SW3の開閉状態が変更されたときに、対応する遮断器CB1が設けられた送電線の自端子に電気的に接続される全ての他端子を特定することによって、電流差動方式を用いて保護すべき自端子を含む保護区間を特定する。たとえば、開閉器SW1~SW3の開閉状態のパターンと各パターンに対応する保護区間との対応関係を表す情報がメモリ(ROM123、不揮発性メモリ124)に予め格納されている。保護区間特定部62は、この対応関係を表す情報に基づいて、受信した開閉器SW1~SW3の開閉状態に対応する保護区間を特定する。
【0053】
サンプリング同期制御部61は、保護区間特定部62によって特定された他端子に対応付けられている保護リレーRYのサンプリング同期制御部61と、通信路49または59を介して通信を行うことにより、自端子における電流のサンプリングタイミングと、特定された各他端子における電流のサンプリングタイミングとを同期させる。
【0054】
サンプリング同期の方法として種々の方法を採用することができる。本実施の形態では、イーサネットを利用したIEEE1588規格のPTP(Precision Time Protocol)が利用される。他の方法として、GPS(Global Positioning System)信号を利用することによって各保護リレーRYに設けられた時計を同期させてもよい。もしくは、専用線を介して自端子の保護リレーRYと他端子の保護リレーRYとから相互にタイミングフラグを送信し、自端子と他端子との両方でのタイミングフラグの送信時刻と受信時刻の時間差に基づいて、サンプリングタイミングの同期を行うことができる。
【0055】
なお、全ての送電線の全ての端子における電流のサンプリングタイミングの同期が可能な場合には、サンプリング同期制御部61は、最初に全端子におけるサンプリングタイミングの同期を確立してもよい。この場合には、開閉器SWの開閉状態の変更によって保護区間が変更されても、サンプリングタイミングの同期を確立し直す必要はない。たとえば、各保護リレーRYが光ファイバまたは複数の通信装置経由で接続されることにより、全保護リレー間で同一のサンプリング同期を実現できる。また、GPS信号を利用して保護リレーRYごとに内蔵の時計を同期化することより全端子におけるサンプリング同期を行ってもよい。詳しくは、実施の形態4で説明する。
【0056】
保護リレー演算部63は、各他端子での電流サンプリング値を、通信路49または59を介して各他端子の保護リレーRYから受信する。保護リレー演算部63は、自端子での電流のサンプリング値と、同時刻の各他端子での電流のサンプリング値とに基づいて、電流差動方式によるリレー演算を実行する。
【0057】
ロジック演算部64は、保護リレー演算部63でのリレー演算結果に基づいて、対応する遮断器CB1にトリップ信号を出力したり、対応する遮断器CB1の再閉路を行うための信号を出力したりする。また、ロジック演算部64は、上位計算機35からの指令に従って、対応する遮断器CB1に対して開放操作および投入操作を行うための制御信号を出力する。さらに、ロジック演算部64は、開閉器SW1~SW3の開閉状態を変更する際に、各開閉器SWおよび関係する遮断器CBの開放および投入の順序が、予め定められた手順に従っているか判断する。
【0058】
[保護システムの動作]
次に、上位計算機35、開閉器制御装置SWCU、および各保護リレーRYを含む保護システム全体の動作について説明する。
【0059】
図8および
図9は、
図1の多端子送電系統の保護システムの動作の一例を示すフローチャートである。以下に示すように、
図8のフローチャートは、3端子運用から2号線のπ引き込み運用に切り替わる際の手順を示し、
図9のフローチャートは、2号線のπ引き込み運用から3端子運用に切り替わる際の手順を示す。運用方式に応じて保護区間が自動的に切り替わることにより、いずれの運用においても保護リレーRYによる多端子送電系統30の保護が実現されている。
【0060】
図8を参照して、ステップS100において、上位計算機35の制御によって
図1の多端子送電系統30は、3端子運用中である。すなわち、開閉器SW1,SW2は閉状態であり、開閉器SW3は開状態である。
【0061】
次のステップS105において、上位計算機35は、3端子運用から2号線のπ引き込み運用に切り替えるために、まず保護リレーRY5に対して遮断器CB5の切断指令を出力する。ステップS300において、通信路49または59を介して遮断器CB5の切断指令を受信した保護リレーRY5は、遮断器CB5を切断するための制御信号を遮断器CB5に出力する。
【0062】
その次のステップS110において、上位計算機35は、開閉器制御装置SWCUに対して開閉器SW1の切断指令を出力する。ステップS200において、通信路49または59を介して開閉器SW1の切断指令を受信した開閉器制御装置SWCUは、開閉器SW1を切断するための制御信号を開閉器SW1に出力する。
【0063】
その次のステップS115において、上位計算機35は、保護リレーRY2に対して遮断器CB2の切断指令を出力する。ステップS305において、通信路49または59を介して遮断器CB2の切断指令を受信した保護リレーRY2は、遮断器CB2を切断するための制御信号を遮断器CB2に出力する。
【0064】
その次のステップS120において、上位計算機35は、開閉器制御装置SWCUに対して開閉器SW2の切断指令を出力する。ステップS205において、通信路49または59を介して開閉器SW2の切断指令を受信した開閉器制御装置SWCUは、開閉器SW2を切断するための制御信号を開閉器SW2に出力する。
【0065】
その次のステップS125において、上位計算機35は、開閉器制御装置SWCUに対して開閉器SW3の投入指令を出力する。ステップS210において、通信路49または59を介して開閉器SW3の投入指令を受信した開閉器制御装置SWCUは、開閉器SW3を投入するための制御信号を開閉器SW3に出力する。
【0066】
その次のステップS310において、各保護リレーRYは、上記の遮断器CB2,CB5および開閉器SW1~SW3の各々の投入または切断の順序が予め定められた順番に従っているか否かを判定する。これによって、運用方式の切替えが正当なものであるか否かが検証される。各保護リレーRYは、遮断器CBおよび開閉器SWの各々の投入または切断の順序が予め定められた順番に従っていない場合には(ステップS310でNO)、上位計算機35に対して異常を報知して処理を中断する。一方、各保護リレーRYは、遮断器CBおよび開閉器SWの各々の投入または切断の順序が予め定められた順番に従っている場合には(ステップS310でYES)、次のステップS315に処理を進める。
【0067】
ステップS315において、各保護リレーRYの保護区間特定部62(
図7を参照)は、2号線のπ引き込み運用に対応する保護区間を特定する。その次のステップS320において、各保護リレーRYはリレー動作をロックする。その次のステップS325において、各保護リレーRYのサンプリング同期制御部61は、特定した保護区間を構成する他の保護リレーRYと通信することによって、自端子と他端子との間で電流のサンプリングタイミングを同期させる。
【0068】
その次のステップS330において、各保護リレーRYは、差動リレー演算の演算式をπ引き込み運用の保護区間に対応したものに変更する。その次のステップS335において、各保護リレーRYはリレー動作のロックを解除する。以上によって、各保護リレーRYによる保護区間の切り替えが完了する。
【0069】
次のステップS130において、上位計算機35は、保護リレーRY5に対して遮断器CB5の投入指令を出力する。ステップS340において、通信路49または59を介して遮断器CB5の投入指令を受信した保護リレーRY5は、遮断器CB5を投入するための制御信号を遮断器CB5に出力する。
【0070】
その次のステップS135において、上位計算機35は、保護リレーRY2に対して遮断器CB2の投入指令を出力する。ステップS345において、通信路49または59を介して遮断器CB2の投入指令を受信した保護リレーRY2は、遮断器CB2を投入するための制御信号を遮断器CB2に出力する。以上によって、3端子運用から2号線のπ引き込み運用への切り替えが完了する。
【0071】
図9を参照して、ステップS150において、上位計算機35の制御によって
図1の多端子送電系統30は、2号線のπ引き込み運用中である。すなわち、開閉器SW1,SW2は開状態であり、開閉器SW3は閉状態である。
【0072】
次のステップS155において、上位計算機35は、2号線のπ引き込み運用から3端子運用に切り替えるために、まず、保護リレーRY2に対して遮断器CB2の切断指令を出力する。ステップS350において、通信路49または59を介して遮断器CB2の切断指令を受信した保護リレーRY2は、遮断器CB2を切断するための制御信号を遮断器CB2に出力する。
【0073】
その次のステップS160において、上位計算機35は、保護リレーRY5に対して遮断器CB5の切断指令を出力する。ステップS355において、通信路49または59を介して遮断器CB5の切断指令を受信した保護リレーRY5は、遮断器CB5を切断するための制御信号を遮断器CB5に出力する。
【0074】
その次のステップS165において、上位計算機35は、開閉器制御装置SWCUに対して開閉器SW3の切断指令を出力する。ステップS250において、通信路49または59を介して開閉器SW3の切断指令を受信した開閉器制御装置SWCUは、開閉器SW3を切断するための制御信号を開閉器SW3に出力する。
【0075】
その次のステップS170において、上位計算機35は、開閉器制御装置SWCUに対して開閉器SW2の投入指令を出力する。ステップS255において、通信路49または59を介して開閉器SW2の投入指令を受信した開閉器制御装置SWCUは、開閉器SW2を投入するための制御信号を開閉器SW2に出力する。
【0076】
その次のステップS175において、上位計算機35は、開閉器制御装置SWCUに対して開閉器SW1の投入指令を出力する。ステップS260において、通信路49または59を介して開閉器SW1の投入指令を受信した開閉器制御装置SWCUは、開閉器SW1を投入するための制御信号を開閉器SW1に出力する。
【0077】
その次のステップS360において、各保護リレーRYは、上記の遮断器CB2,CB5および開閉器SW1~SW3の各々の投入または切断の順序が予め定められた順番に従っているか否かを判定する。これによって、運用方式の切替えが正当なものであるか否かが検証される。各保護リレーRYは、遮断器CBおよび開閉器SWの各々の投入または切断の順序が予め定められた順番に従っていない場合には(ステップS360でNO)、上位計算機35に対して異常を報知して処理を中断する。一方、各保護リレーRYは、遮断器CBおよび開閉器SWの各々の投入または切断の順序が予め定められた順番に従っている場合には(ステップS360でYES)、次のステップS365に処理を進める。
【0078】
ステップS365において、各保護リレーRYの保護区間特定部62(
図7を参照)は、3端子運用に対応する保護区間を特定する。その次のステップS370において、各保護リレーRYはリレー動作をロックする。その次のステップS375において、各保護リレーRYのサンプリング同期制御部61は、特定した保護区間を構成する他の保護リレーRYと通信することによって、自端子と他端子との間で電流のサンプリングタイミングを同期させる。
【0079】
その次のステップS380において、各保護リレーRYは、差動リレー演算の演算式を3端子運用の保護区間に対応したものに変更する。その次のステップS385において、各保護リレーRYはリレー動作のロックを解除する。以上によって、各保護リレーRYによる保護区間の切り替えが完了する。
【0080】
その次のステップS180において、上位計算機35は、保護リレーRY2に対して遮断器CB2の投入指令を出力する。ステップS390において、通信路49または59を介して遮断器CB2の投入指令を受信した保護リレーRY2は、遮断器CB2を投入するための制御信号を遮断器CB2に出力する。
【0081】
次のステップS185において、上位計算機35は、保護リレーRY5に対して遮断器CB5の投入指令を出力する。ステップS395において、通信路49または59を介して遮断器CB5の投入指令を受信した保護リレーRY5は、遮断器CB5を投入するための制御信号を遮断器CB5に出力する。以上によって、2号線のπ引き込み運用から3端子運用への切り替えが完了する。
【0082】
[実施の形態1の効果]
上記のとおり、多端子送電系統30を保護する保護システムにおいて、各保護リレーRYは、複数の開閉器の開閉状態の情報を取得し、複数の開閉器の開閉状態が変更されたときに、変更後の開閉状態に対応する保護区間を自動的に特定する。そして、各保護リレーRYは、変更後の保護区間の各端子における電流のサンプリングタイミングを同期させる。さらに、各保護リレーRYは、電流差動方式による演算対象の電流値を変更後の保護区間に対応するように自動的に変更する。これにより、開閉器の開閉状態の変更後の多端子送電系統30に対しても、電流差動方式による保護を継続することができる。
【0083】
また、上位計算機35は、複数の開閉器の開閉状態を変更するために少なくとも1つの保護リレーRYに対して対応する遮断器CBの開放指令を出力した後に、複数の開閉器SWの各々の投入指令または開放指令を出力する。その後、上位計算機35は、開放指令を出力した上記少なくとも1つの保護リレーRYに対して、対応する遮断器CBの投入指令を出力する。各保護リレーRYは、上位計算機35から出力された上記の遮断器CBの開放指令および各開閉器SWの投入指令および開放指令の出力順が予め定められた順番に従っているか否かを判定する。そして、各保護リレーRYは、各指令の出力順が予め定められた順番に従っている場合に、複数の開閉器SWの変更後の開閉状態に対応する保護区間に対して電流差動方式による保護を実行する。これによって、多端子送電系統30をより確実に保護することができる。
【0084】
実施の形態2.
実施の形態2では、各保護リレーRYは保護リレー演算を実行せずに、上位計算機35が保護区間ごとの保護リレー演算をまとめて実行する場合について説明する。この場合、
図7の演算処理部120には、保護リレー演算部63は設けられていない。各保護リレーRYは、A/D変換後の電流データを、通信路49または59を介して上位計算機35に送信する。
【0085】
図10は、実施の形態2による上位計算機の演算処理部の動作を示す機能ブロック図である。
図10では、上位計算機35に接続されるネットワークスイッチ40,50と、上位計算機35を構成する通信回路311,312も併せて示されている。
【0086】
図10を参照して、機能的に見ると演算処理部300は、保護区間特定部66と、保護リレー演算部67と、ロジック演算部68とを含む。これらの各機能は、CPU301がプログラムを実行することによって実現される。
【0087】
保護区間特定部66は、開閉器SW1~SW3の開閉状態を変更することにより運用方式を切り替えたときに、切り替え後の運用方式に対応する全ての保護区間を特定する。たとえば、開閉器SW1~SW3の開閉状態のパターンと各パターンに対応する全ての保護区間との対応関係を表す情報がメモリ(ROM303、不揮発性メモリ304)に予め格納されている。保護区間特定部66は、この対応関係を表す情報に基づいて、開閉器SW1~SW3の開閉状態に対応する全ての保護区間を特定する。
【0088】
保護リレー演算部67は、保護リレーRY1~RY6の各々によってサンプリングされた電流データを受信する。保護リレー演算部67は、受信した電流データに基づいて、保護区間ごとに電流差動方式によるリレー演算を実行する。
【0089】
ロジック演算部68は、保護区間ごとの保護リレー演算結果に基づいて内部事故が発生している保護区間があった場合には、当該事故区間を多端子送電系統30から分離するために、当該事故区間に対応する各保護リレーRYに対して遮断器CBの開放指令を出力する。
【0090】
[実施の形態2の変形例]
保護リレーRY1~RY6のうちいずれか1つが全部の保護リレー演算をまとめて実行するように構成されていてもよい。たとえば、保護リレーRY1が全部の保護リレー演算をまとめて実行する場合には、保護リレーRY2~RY6の各々の演算処理部120には、保護リレー演算部63は設けられていない。保護リレーRY2~RY6の各々は、A/D変換後の電流データを、通信路49または59を介して保護リレーRY1に送信する。
【0091】
保護リレーRY1の保護区間特定部62は、開閉器SW1~SW3の開閉状態が変更されたときには、変更後の開閉器SW1~SW3の開閉状態に対応する全ての保護区間を特定する。開閉器SW1~SW3の開閉状態のパターンと各パターンに対応する全ての保護区間との対応関係を表す情報がメモリ(ROM123、不揮発性メモリ124)に予め格納されている。保護区間特定部62は、この対応関係を表す情報に基づいて、開閉器SW1~SW3の開閉状態に対応する全ての保護区間を特定する。
【0092】
保護リレー演算部63は、保護リレーRY2~RY6の各々によってサンプリングされた電流データを受信する。保護リレー演算部63は、自らがサンプリングした自端の電流データと受信した電流データとに基づいて、保護区間ごとに電流差動方式によるリレー演算を実行する。
【0093】
ロジック演算部64は、保護区間ごとの保護リレー演算結果に基づいて内部事故が発生している保護区間があった場合には、当該事故区間を多端子送電系統30から分離するために、当該事故区間に対応する各保護リレーRYに対して遮断器CBの開放指令を出力する。自端子が事故区間に含まれている場合には、ロジック演算部64は、対応する遮断器CB1に対してトリップ信号を出力する。
【0094】
実施の形態3.
実施の形態3では、同一の変電所に設けられた保護リレーRYが共通のユニットとして構成されている場合において、保護リレーユニット間のネットワーク構成を説明する。
【0095】
図11は、実施の形態3の保護システムにおいて、イーサネットによる通信路の構成例を示す図である。
図11に示すように、変電所31において、保護リレー要素RY1,RY2は共通の保護リレーユニットRY1&RY2として設けられる。変電所32において、保護リレー要素RY3,RY4は共通の保護リレーユニットRY3&RY4として設けられる。変電所33において、保護リレー要素RY5,RY6は共通の保護リレーユニットRY5&RY6として設けられる。
【0096】
保護リレーユニットRY1&RY2は、ネットワークスイッチ41,51の各々と接続される。すなわち、保護リレー要素RY1,RY2は、
図4の通信回路131,132を共有化している。同様に、保護リレーユニットRY3&RY4はネットワークスイッチ45,55の各々と接続され、保護リレーユニットRY5&RY6はネットワークスイッチ43,53と接続される。
【0097】
ネットワークスイッチ40,41,43,45,47が光ファイバ39を介して接続されることによって、上位計算機35、保護リレーユニットRY1&RY2、保護リレーユニットRY5&RY6、保護リレーユニットRY3&RY4、および開閉器制御装置SWCUを接続する第1の通信路49が構成される。同様に、ネットワークスイッチ50,51,53,55,57が光ファイバ39を介して接続されることによって、上位計算機35、保護リレーユニットRY1&RY2、保護リレーユニットRY5&RY6、保護リレーユニットRY3&RY4、および開閉器制御装置SWCUを接続する第2の通信路59が構成される。
【0098】
上記の構成によれば、ネットワークスイッチの個数を削減することができる。なお、実施の形態3は、実施の形態2およびその変形例と組み合わせることができる。
【0099】
実施の形態4.
実施の形態4では、全ての送電線の全端子において、最初にサンプリングタイミングの同期を確立する場合について説明する。各保護リレーRYが光ファイバまたは複数の通信装置経由で接続されることにより、全保護リレー間で同一のサンプリング同期を実現できる。また、GPS信号を利用して保護リレーRYごとに内蔵の時計を同期化することより全端子におけるサンプリング同期を行ってもよい。
【0100】
図12および
図13は、実施の形態4による多端子送電系統の保護システムの動作の一例を示すフローチャートである。
図12のフローチャートは、3端子運用から2号線のπ引き込み運用に切り替わる際の手順を示し、
図13のローチャートは、2号線のπ引き込み運用から3端子運用に切り替わる際の手順を示す。
図12および
図13のフローチャートは、
図8および
図9のフローチャートにそれぞれ対応している。以下では、
図8および
図9のフローチャートと共通するステップについては、同一の参照符号を付すことにより基本的に説明を繰り返さない。
【0101】
図12を参照して、全保護リレーRYは、サンプリング同期を確立済みである(ステップS3000)。本方式では、開閉器の切り替えに伴う保護区間の変更によらず、各々の保護区間で必要とされる差動電流リレー演算を、各保護リレーRYが常に計算できる。この結果、保護区間が変更されても、出力すべき保護リレー演算結果を切り替えるだけよいので、リレー動作のロックおよびロック解除を実行する必要がない。
【0102】
その後のステップS100~S125、ステップS200~S210、およびステップS300~S310までは、
図8のフローチャートと同様の手順であるので説明を繰り返さない。
【0103】
次のステップS315において、各保護リレーRYの保護区間特定部62(
図7を参照)は、2号線のπ引き込み運用に対応する保護区間を特定する。その次のステップS330において、各保護リレーRYは、差動リレー演算の演算式をπ引き込み運用の保護区間に対応したものに変更する。
【0104】
図8の場合には、各保護リレーRYのリレー動作をロックするステップS320と、特定した保護区間内の各端子におけるサンプリング同期を確立するステップS325と、リレー動作のロックを解除するステップS335とが必要であった。しかしながら、
図12の場合にはこれらのステップS320,S325,S335は必要でない。全端子についてのサンプリング同期は確立済みであり、さらに、遮断器CBの開放によって、保護区間の変更に関係する電流変成器CTには電流が流れていないので、リレー動作を停止する必要はない。どのような保護区間に変更されても即座に電流差動リレー方式に従う演算を実行し、演算結果を出力できる。
【0105】
その後、上位計算機35からの投入指令(ステップS130,S135)に基づいて、遮断器CB5および遮断器CB2が投入される(ステップS340,S345)ことによって、3端子運用から2号線のπ引き込み運用への切り替えが完了する。
【0106】
図13を参照して、全保護リレーは、サンプリング同期を確立済みである(ステップS3500)。その後のステップS150~S175、ステップS250~S260、およびステップS350~S360までは、
図9のフローチャートと同様の手順であるので説明を繰り返さない。
【0107】
次のステップS365において、各保護リレーRYの保護区間特定部62(
図7を参照)は、3端子運用に対応する保護区間を特定する。その次のステップS380において、各保護リレーRYは、差動リレー演算の演算式を3端子運用の保護区間に対応したものに変更する。
【0108】
図13の場合には、
図9の場合と異なり、各保護リレーRYのリレー動作をロックするステップS370と、特定した保護区間内の各端子におけるサンプリング同期を確立するステップS375と、リレー動作のロックを解除するステップS385とを必要としない。
図12で説明したように、全端子についてのサンプリング同期は確立済みであり、さらに、遮断器CBの開放によって、保護区間の変更に関係する電流変成器CTには電流が流れていないので、リレー動作を停止する必要はないからである。
【0109】
その後、上位計算機35からの投入指令(ステップS180,S185)に基づいて、遮断器CB2および遮断器CB5が投入される(ステップS390,S395)ことによって、2号線のπ引き込み運用から3端子運用への切り替えが完了する。
【0110】
[実施の形態1~4の変形例]
図4~
図6において、保護リレーRY、開閉器制御装置SWCU、および上位計算機35のハードウェア構成例を示したが、他の構成であっても構わない。たとえば、CPUは複数設けられていてもよい。演算処理部120,200,300は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)などの専用の回路として構成されていてもよいし、FPGA(Field Programmable Gate Array)を利用して構成されていてもよい。もしくは、演算処理部120,200,300は、CPU、ASIC、FPGAのうちの少なくとも2つを適宜組み合わせることによって構成されていてもよい。また、上位計算機35は、複数のサーバ装置によって構成されていてもよい。
【0111】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものでないと考えられるべきである。この出願の範囲は上記した説明ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0112】
1L,2L 送電線、30 多端子送電系統、31~33 変電所、34 制御所、35 上位計算機、40~47,50~57 ネットワークスイッチ、49,59 通信路、61 サンプリング同期制御部、62,66 保護区間特定部、63,67 保護リレー演算部、64,68 ロジック演算部、120,200,300 演算処理部、CB 遮断器、CT 電流変成器、RY 保護リレー、SW 開閉器、SWCU 開閉器制御装置。