(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-24
(45)【発行日】2023-12-04
(54)【発明の名称】眼内レンズ挿入器
(51)【国際特許分類】
A61F 2/16 20060101AFI20231127BHJP
【FI】
A61F2/16
(21)【出願番号】P 2020033060
(22)【出願日】2020-02-28
【審査請求日】2023-01-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000113263
【氏名又は名称】HOYA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100161034
【氏名又は名称】奥山 知洋
(74)【代理人】
【識別番号】100187632
【氏名又は名称】橘高 英郎
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 義崇
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 唯
【審査官】白土 博之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2008/149794(WO,A1)
【文献】特開2009-18009(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
眼内レンズを眼内に挿入する眼内レンズ挿入器であって、
中空体である挿入器本体と、
前記挿入器本体の内部に設けられるレンズ設置部と、
前記レンズ設置部に設置される前記眼内レンズを前進させる前進部材と、
前記挿入器本体とは別体の挿入筒であって前記挿入器本体の前方先端部にて接続された挿入筒と、
を有し、
前記レンズ設置部に前記眼内レンズが設置された際の前記眼内レンズの光軸方向(Z方向)であって前記レンズ設置部と接触する方向を下方(Z2方向)、その反対方向を上方(Z1方向)とし、前記眼内レンズの前進方向を前方(X1方向)、その反対方向を後方(X2方向)とし、Z方向およびX方向に垂直な方向を幅方向(Y方向)としたとき、
前記挿入筒における、前記挿入器本体との接続部分の内周下部には、前記前進部材が前記眼内レンズを前進させる際に前記眼内レンズの後方側が部分的に下方に退避可能なスペースが設けられた、眼内レンズ挿入器。
【請求項2】
前記スペースは、前記挿入筒における、前記挿入器本体との接続部分の内周下部が切り欠かれて形成された空間であり、
前方から見たとき、前記前進部材のうち前記眼内レンズの光学部の外周に当接する部分の幅方向の位置を、前記スペースの幅方向の位置が包含する、請求項1に記載の眼内レンズ挿入器。
【請求項3】
前記前進部材は、
前記レンズ設置部に載置された前記眼内レンズを前進させるスライダと、
前記スライダにより前進させた前記眼内レンズを更に前進させるロッドと、
を有し、
前記スライダのうち前記眼内レンズの光学部の外周と当接する部分の前方への可動域の限界は、前記スペースの上方の領域内にある、請求項1または2に記載の眼内レンズ挿入器。
【請求項4】
前記スペースは面取り形状である、請求項1~3のいずれかに記載の眼内レンズ挿入器。
【請求項5】
前記眼内レンズが前記レンズ設置部に予め設置された、請求項1~4のいずれかに記載の眼内レンズ挿入器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼内レンズ挿入器に関する。
【背景技術】
【0002】
白内障手術においては、超音波乳化術による混濁した水晶体の除去、および水晶体除去後の眼内への埋植が広く行われている。そして現在では、シリコーンエストラマー等の軟質な材料からなる軟性の眼内レンズを、眼内レンズ挿入器を用いて眼内に挿入することが行われている。
【0003】
軟性の眼内レンズを眼内に挿入する場合、該眼内レンズを折り畳むことが可能となり、角膜に対する切開創を小さくすることができる。
【0004】
眼内レンズを折り畳む方法として、眼内レンズ挿入器内にて、挿入筒の内径が前方に向けて狭まることを利用し、スライダを前進させることによって眼内レンズを折り畳む手法が知られている(例えば本出願人による特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1で言うところの挿入器本体と挿入筒は互いに別体として形成されることが多い。挿入筒には別途潤滑性コーティングが予めなされるためである。別体として形成された後、両者は一体に組み立てられる。
【0007】
以下、挿入器本体と挿入筒とが別体として形成されることに起因する新たな課題を本発明者は知見した。以下、特許文献1に記載の符号と同じ符号を本明細書では採用する。
【0008】
本明細書においては、眼内レンズ挿入器の各部の相対的な位置関係や動作の方向などを説明するにあたって、X軸方向(X方向)の一方をX1方向、同他方をX2方向、Y軸方向(Y方向)の一方をY1方向、同他方をY2方向、Z軸方向(Z方向)の一方をZ1方向、同他方をZ2方向とする。
そして、X1方向を先端側(前方、レンズ進行方向)、X2方向を後端側(後方)、Y1方向を左側(左方)、Y2方向を右側(右方)、Z1方向を上側(上方、レンズ設置部に眼内レンズが設置された際の眼内レンズの光軸方向)、Z2方向を下側(下方)と定義する。
このうち、X1方向およびX2方向は、眼内レンズ挿入器の長さ方向に相当し、Y1方向およびY2方向は、眼内レンズ挿入器の幅方向に相当し、Z1方向およびZ2方向は、眼内レンズ挿入器の高さ方向に相当する。
【0009】
図1は、別体として作製された挿入器本体5と挿入筒7とを組み合わせて作製した眼内レンズ挿入器1であってスライダ6を採用した場合の眼内レンズ挿入器1の一部断面概略図であり、眼内レンズ4がスライダ6により挿入器本体5と挿入筒7との接続部分51,71上を前進する様子を示す図である。
【0010】
図2は、
図1の眼内レンズ挿入器1の一部断面概略図において、挿入器本体5と挿入筒7とを組み合わせたときに、挿入筒7の内周下部74が挿入器本体5の内周下部54よりも一段高くなる誤差が生じたことにより、接続部分51,71上を前進途中の眼内レンズ4の下面の後方側4cが挿入筒とスライダ6との間に挟まれてせん断される様子を示す図である。
【0011】
図3は、
図1の眼内レンズ挿入器1の一部断面概略図において、挿入器本体5と挿入筒7とを組み合わせたときに、挿入筒7の内周下部74が挿入器本体5の内周下部54よりも一段低くなる誤差が生じたことにより、接続部分51,71上を前進途中の眼内レンズ4の上面の後方側4cが挿入筒7とスライダ6との間に巻き込まれて削り取られる様子を示す図である。
【0012】
図1に示すように、設計通りならば、挿入筒7の内周下部74と、挿入器本体5の内周下部54との間に段差は生じない。その結果、スライダ6により眼内レンズ4が前方に問題無く押し出され、眼内レンズ4は適切に折り畳まれる。その後、折り畳まれた眼内レンズ4はロッド10によりノズル部7bの排出孔まで前進する。
【0013】
その一方、挿入器本体5または挿入筒7の製造の際の寸法誤差、或いは、挿入器本体5と挿入筒7との組み合わせの際の位置合わせ誤差等により、挿入筒7の内周下部74と、挿入器本体5の内周下部54との間に段差が生じ得ることに、本発明者は着目した。その場合、
図2または
図3に示すように眼内レンズ4の破損が生じ得ることに、本発明者は着目した。
【0014】
もちろん、挿入器本体5および挿入筒7に関する製造精度を向上させれば、上記課題は解決する。その一方、挿入器本体5と挿入筒7との接続部分51,71の間に段差が発生しただけで眼内レンズ挿入器1全体を廃棄することは現実的ではない。その結果、製造精度を向上させる以外の手法を模索する必要がある。
【0015】
本発明は、挿入器本体および挿入筒に関する製造精度を厳密にせずとも眼内レンズの破損の発生を抑制可能な眼内レンズ挿入器を提供することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者は、上記課題について鋭意検討を加えた。
図2に示す場合にしても、
図3に示す場合にしても、眼内レンズ4の後方側4cの逃げ場所が無いため、挿入筒7とスライダ6との間に挟まれたり巻き込まれたりすることに本発明者は着目した。その結果、接続部分51,71上を前進途中の眼内レンズ4の後方側4cが破損する前に、該後方側4cを部分的に逃がすためのスペースを、段差が生じ得る部分すなわち挿入筒7の内周下部74に形成するという手法を想到した。
【0017】
図4は、
図1の眼内レンズ挿入器1の一部断面概略図において、挿入器本体5と挿入筒7とを組み合わせたときに、挿入筒7の内周下部74が挿入器本体5の内周下部54よりも一段高くなる誤差が生じたとしても、眼内レンズ4の後方側4cを部分的に逃がすためのスペース72を挿入筒7の内周下部74に形成しておくことにより、接続部分51,71上を前進途中の眼内レンズ4の下面の後方側4cが挿入筒7とスライダ6との間に挟まれずに済む様子を示す図である。
【0018】
図5は、
図1の眼内レンズ挿入器1の一部断面概略図において、挿入器本体5と挿入筒7とを組み合わせたときに、挿入筒7の内周下部74が挿入器本体5の内周下部54よりも一段低くなる誤差が生じたとしても、眼内レンズ4の後方側4cを部分的に逃がすためのスペース72を挿入筒7の内周下部74に形成しておくことにより、接続部分51,71上を前進途中の眼内レンズ4の上面の後方側4cが挿入筒7とスライダ6との間に巻き込まれずに済む様子を示す図である。
【0019】
上記手法を採用すれば、
図4のように挿入筒7の内周下部74が挿入器本体5の内周下部54よりも一段高くなる誤差が生じ、スライダ6が前進したとしても、スペース72のおかげで眼内レンズ4の後方側4cが下方に逃げることができ、眼内レンズ4の後方側4cはスライダ6と挿入筒7との間でせん断されずに済む(符号72の矢印が指す部分参照)。
【0020】
また、
図5のように挿入筒7の内周下部74が挿入器本体5の内周下部54よりも一段低くなる誤差が生じ、スライダ6が前進したとしても、スペース72のおかげで眼内レンズ4の後方側4cが下方に逃げることができ、眼内レンズ4の後方側4cはスライダ6と挿入筒7との間に巻き込まれずに済む(符号72の矢印が指す部分参照)。
【0021】
いずれにせよ、眼内レンズ4の破損の発生を抑制可能となる。しかも、挿入器本体5および挿入筒7に関する製造精度を厳密化せずに済む。つまり、挿入筒7に設けた退避用のスペース72により、該製造精度の誤差を許容可能となる。
【0022】
上記の知見に基づいて得られた構成は以下の通りである。
本発明の第1の態様は、
眼内レンズを眼内に挿入する眼内レンズ挿入器であって、
中空体である挿入器本体と、
前記挿入器本体の内部に設けられるレンズ設置部と、
前記レンズ設置部に設置される前記眼内レンズを前進させる前進部材と、
前記挿入器本体とは別体の挿入筒であって前記挿入器本体の前方先端部にて接続された挿入筒と、
を有し、
前記レンズ設置部に前記眼内レンズが設置された際の前記眼内レンズの光軸方向(Z方向)であって前記レンズ設置部と接触する方向を下方(Z2方向)、その反対方向を上方(Z1方向)とし、前記眼内レンズの前進方向を前方(X1方向)、その反対方向を後方(X2方向)とし、Z方向およびX方向に垂直な方向を幅方向(Y方向)としたとき、 前記挿入筒における、前記挿入器本体との接続部分の内周下部には、前記前進部材が前記眼内レンズを前進させる際に前記眼内レンズの後方側が部分的に下方に退避可能なスペースが設けられた、眼内レンズ挿入器である。
【0023】
本発明の第2の態様は、第1の態様に記載の態様であって、
前記スペースは、前記挿入筒における、前記挿入器本体との接続部分の内周下部が切り欠かれて形成された空間であり、
前方から見たとき、前記前進部材のうち前記眼内レンズの光学部の外周に当接する部分の幅方向の位置を、前記スペースの幅方向の位置が包含する。
【0024】
本発明の第3の態様は、第1または第2の態様に記載の態様であって、
前記前進部材は、
前記レンズ設置部に載置された前記眼内レンズを前進させるスライダと、
前記スライダにより前進させた前記眼内レンズを更に前進させるロッドと、
を有し、
前記スライダのうち前記眼内レンズの光学部の外周と当接する部分の前方への可動域の限界位置は、前記スペースの上方の領域内にある。
【0025】
本発明の第4の態様は、第1~第5のいずれかの態様に記載の態様であって、
前記スペースは面取り形状である。
【0026】
本発明の第5の態様は、第1~第4のいずれかの態様に記載の態様であって、
前記眼内レンズが前記レンズ設置部に予め設置される。
【0027】
上記の態様に対して組み合わせ可能な本発明の他の態様は以下の通りである。
【0028】
前記前進部材は、前記レンズ設置部に載置された前記眼内レンズを前進させるロッドであってもよい。
【0029】
ロッドは、挿入器本体および挿入筒からなる中空体の内部に配置されてもよい。ロッドはプランジャと連結され、眼内レンズを前進させる役割を担う。なお、ロッドはプランジャと一体成形されてもよい。
【0030】
面取り面の傾斜は急すぎない方がよく、XY平面から70度以下であるのが好ましく、50度以下がより好ましい。下限には限定は無いが、傾斜角度が小さすぎると挿入筒のX方向に伸ばさざるを得なくなるため、例えば30度、或いは40度が挙げられる。
【0031】
接続部分を挿入器本体の高さから低くする度合いは、部品の製造誤差および部品間の位置合わせ誤差に加え、眼内レンズの光学部における最大厚の分を低くしてもよく、寸法としては0.2~5.0mm(好適には0.5~2.0mm)低くしてもよい。
【0032】
スペースのY方向の幅は、スライダ下部のY方向の幅に対してマージンを持たせてもよい。このマージンとしては、各スライダ下部のY方向の幅に対して0.1mm以上(或いは0.2mm以上、上限としては例えば1mm)の余裕を各スペースに対して設定してもよい。また、寸法以外でこのマージンの好適例を表すと、各スペースのY方向の幅を、スライダ下部のY方向の幅の1.1~1.5倍としてもよい。挿入筒の接続部分の内周下部全体にスペースを設けてもよい。
【0033】
スライダ下部の前方への可動域の限界位置の好適例としては、スペースにおいて、挿入器本体との接続部分からスペースの前後方向の距離の半分までの間(好適には1/4までの間)が挙げられる。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、挿入器本体および挿入筒に関する製造精度を厳密にせずとも眼内レンズの破損の発生を抑制可能な眼内レンズ挿入器を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】
図1は、別体として作製された挿入器本体と挿入筒とを組み合わせて作製した眼内レンズ挿入器であってスライダを採用した場合の眼内レンズ挿入器の一部断面概略図であり、眼内レンズがスライダにより挿入器本体と挿入筒との接続部分上を前進する様子を示す図である。
【
図2】
図2は、
図1の眼内レンズ挿入器の一部断面概略図において、挿入器本体と挿入筒とを組み合わせたときに、挿入筒の内周下部が挿入器本体の内周下部よりも一段高くなる誤差が生じたことにより、接続部分上を前進途中の眼内レンズの下面の後方側が挿入筒とスライダとの間に挟まれてせん断される様子を示す図である。
【
図3】
図3は、
図1の眼内レンズ挿入器の一部断面概略図において、挿入器本体と挿入筒とを組み合わせたときに、挿入筒の内周下部が挿入器本体の内周下部よりも一段低くなる誤差が生じたことにより、接続部分上を前進途中の眼内レンズの上面の後方側が挿入筒とスライダとの間に巻き込まれて削り取られる様子を示す図である。
【
図4】
図4は、
図1の眼内レンズ挿入器の一部断面概略図において、挿入器本体と挿入筒とを組み合わせたときに、挿入筒の内周下部が挿入器本体の内周下部よりも一段高くなる誤差が生じたとしても、眼内レンズの後方側を部分的に逃がすためのスペースを挿入筒の内周下部に形成しておくことにより、接続部分上を前進途中の眼内レンズの下面の後方側が挿入筒とスライダとの間に挟まれずに済む様子を示す図である。
【
図5】
図5は、
図1の眼内レンズ挿入器の一部断面概略図において、挿入器本体と挿入筒とを組み合わせたときに、挿入筒の内周下部が挿入器本体の内周下部よりも一段低くなる誤差が生じたとしても、眼内レンズの後方側を部分的に逃がすためのスペースを挿入筒の内周下部に形成しておくことにより、接続部分上を前進途中の眼内レンズの上面の後方側が挿入筒とスライダとの間に巻き込まれずに済む様子を示す図である。
【
図6】
図6は、実施形態1に係る眼内レンズ挿入器の外観の構成例を示す斜視図である。
【
図7】
図7は、実施形態1に係る挿入器本体の先端部分の構造および配置を示す斜視図である。
【
図8】
図8は、実施形態1に係る眼内レンズ挿入器(プリロードタイプ)の挿入器本体と挿入筒との接続部分を表出させた分解斜視図であり、スライダを前進させる前の図である。
【
図10】
図10は、実施形態1に係る眼内レンズ挿入器(プリロードタイプ)の挿入器本体と挿入筒との接続部分を表出させた分解斜視図であり、スライダを前進させた後の図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しつつ詳細に説明する。本明細書において「~」は所定の値以上かつ所定の値以下を指す。
【0037】
なお、先に述べておくと、本発明の実施の形態における主な特徴部分は、特許文献1に記載の挿入器本体5、前進部材としてのスライダ6(またはロッド10)、挿入筒7の態様にある(例えば特許文献1の
図2、
図6、
図8、
図10およびその関連記載を参照)。そのため、眼内レンズ挿入器1における上記各構成以外の構成については特許文献1に記載の通りとし、説明を省略または簡素化する。以下に記載が無い内容は、特許文献1に記載の構成を採用するものとし、特許文献1の記載は本明細書に全て記載されているものとする。
【0038】
[実施形態1]
実施形態1では、特許文献1に記載の眼内レンズ挿入器と同様、スライダ6により眼内レンズ4を折り畳み、その後、プランジャ9(ひいてはロッド10)により眼内レンズ4をノズル部7bから放出する場合を例示する。なお、後掲の実施形態2ではスライダ6を設けず、プランジャ9(ひいてはロッド10)により眼内レンズ4の折り畳みとノズル部7bからの放出を行う場合を例示する。
【0039】
<眼内レンズ挿入器の構成>
図6は、実施形態1に係る眼内レンズ挿入器の外観の構成例を示す斜視図である。
図7は、実施形態1に係る挿入器本体の先端部分の構造および配置を示す斜視図である。
なお、本願
図6、
図7は、特許文献1の
図3、
図6とは構成が類似する。そのため、本願
図6、
図7に記載の符号のうち本明細書に記載のない符号は特許文献1に記載の説明の通りである。
【0040】
眼内レンズ挿入器1は、眼内レンズ4を眼内に挿入する際に使用されるものである。
【0041】
<眼内レンズ>
本発明の実施の形態においては、眼内レンズの一例として、シリコーンエラストマーや軟性アクリルなどの軟質材料からなるワンピースタイプの眼内レンズ4であって、光学的な機能を果たす円形の光学部4aと、この光学部4aの外周部の2箇所から湾曲して外向きに延びる2つの支持部4bとを有する眼内レンズ4を取り扱うものとする。
【0042】
眼内レンズ4の光学部4aおよび光学部4aと連結する支持部4bの基端側は軟質材料により構成される場合を例示する。この構成により眼内レンズ4の折り畳みが容易になる。なお、支持部4bの末端側も同様に軟質材料により構成されてもよいし、硬質材料(例:ポリエチレン、PMMA等)により構成されてもよい。
【0043】
なお、実施形態1にて眼内レンズ4はスライダ6により前進するが、正確には光学部4aにおける外周をスライダ6が押し出すことにより眼内レンズ4が前進する。本明細書では、説明の便宜上、単に「眼内レンズ4の押し出し」という。
【0044】
<眼内レンズ挿入器>
眼内レンズ挿入器1は、挿入器本体5と、スライダ6と、挿入筒7と、回転部材8と、プランジャ9と、ロッド10と、を備えた構成となっている。これらの構成要素は、好ましくは、それぞれ樹脂の成形品によって構成されるものである。
【0045】
挿入器本体5および挿入筒7は、それぞれ中空構造をなし、互いに連結されることによって中空体を構成するものである。
【0046】
スライダ6は、挿入器本体5に装着されている。
【0047】
挿入筒7は、挿入器本体5の先端部と連通するように配置されている。挿入筒7と挿入器本体5の先端部とは一体成形されてもよいし、別体に成形され且つ該先端部に挿入筒7が装着されてもよい。挿入筒7は、中空の挿入筒本体7aと、細い管状のノズル部7bとを有している。その際、挿入器本体5のレンズ設置部11は、そこに設置された眼内レンズ4と一緒に、挿入筒7の挿入筒本体7a内に収容して配置される。挿入筒本体7aの上面には注入孔7cが形成されている。注入孔7cは、粘弾性物質(たとえば、ヒアルロン酸ナトリウムなど)を注入するためのものである。注入孔7cから注入される粘弾性物質は、レンズ設置部11に設置される眼内レンズ4に供給される。
【0048】
回転部材8は、挿入器本体5の後端部に回転自在に連結されている。
【0049】
プランジャ9は、挿入器本体5と同軸に配置されている。プランジャ9の一部は回転部材8を介して挿入器本体5の内部に配置される。なお、プランジャ9の他部は回転部材8から後方に突出する状態で配置されても良い。
【0050】
ロッド10は、挿入器本体5および挿入筒7からなる中空体の内部に配置されている。ロッド10はプランジャ9と連結され、眼内レンズ4を前進させる役割を担う。なお、ロッド10はプランジャ9と一体成形されてもよい。
【0051】
レンズ設置部11は、
図7に示すように、底面部11aと、レンズ受け部11bと、レンズガイド部11cとを備えている。レンズ受け部11bは、眼内レンズ4を下方から受けて支持するものである。眼内レンズ挿入器1は、予め眼内レンズ4が挿入器本体5のレンズ設置部11に設置されるプリロードタイプとなっている。このため、眼内レンズ4は、眼内レンズ挿入器1の構成要素の1つとなる。但し、本発明を実施するにあたっては、必ずしもプリロードタイプである必要はない。
【0052】
本発明の特徴の一つである、挿入器本体5と挿入筒7との接続部分71であって、挿入筒7の内周下部74に設けられた、眼内レンズ4の後方側4cの退避用のスペース72以外の、眼内レンズ挿入器1の構成の一例を表現すると、以下の通りである。
「中空体である挿入器本体5と、
挿入器本体5の内部に設けられるレンズ設置部11と、
レンズ設置部11に配置される眼内レンズ4を前進させる前進部材(スライダ6および/またはプランジャ9と連結したロッド)と、
挿入器本体5とは別体の挿入筒7であって挿入器本体5の先端部にて接続された挿入筒7と、
を有し、
挿入筒7は、中空の挿入筒本体7aと、管状のノズル部7bとを有する、眼内レンズ挿入器1。」
【0053】
<挿入筒における、挿入器本体と挿入筒との接続部分>
本発明の特徴の一つは、挿入筒7における、挿入器本体5と挿入筒7との接続部分71の形状にある。なお、本発明の実施の形態では、上記内容は、正確には「挿入器本体5と挿入筒本体7aとの接続部分」と表現するが、説明の便宜上、単に挿入筒7と表現する。
【0054】
図8は、実施形態1に係る眼内レンズ挿入器(プリロードタイプ)の挿入器本体と挿入筒との接続部分を表出させた分解斜視図であり、スライダを前進させる前の図である。
図9は、
図8の挿入筒の分解斜視図である。
図10は、実施形態1に係る眼内レンズ挿入器(プリロードタイプ)の挿入器本体と挿入筒との接続部分を表出させた分解斜視図であり、スライダを前進させた後の図である。
【0055】
本発明の実施の形態においては、挿入筒7における、挿入器本体5との接続部分71の内周下部74には、前進部材が眼内レンズ4を前進させる際に眼内レンズ4の後方側が部分的に下方に退避可能なスペース72が設けられる。
【0056】
「眼内レンズ4の後方側が部分的に退避可能なスペース72」は、挿入筒7における、挿入器本体5との接続部分71の内周下部74に設けられていれば、形状には限定は無い。また、スペース72の大きさに関しては、
図4または
図5に記載のように眼内レンズ4の後方側の一部を一時的に収容可能であれば限定は無い。結局のところ、眼内レンズ4の後方側が、
図2に記載のようなせん断や、
図3に記載のような巻き込みから逃れられるスペース72であれば限定は無い。
【0057】
スペース72の一例としては、挿入筒7における、挿入器本体5との接続部分71の内周下部74が切り欠かれて形成された空間であってもよい。挿入筒7における該接続部分71を下方に曲げることによりスペース72を形成しても構わないが、その場合、眼内レンズ挿入器1内を嵩高く設計する必要がある。そのため、切り欠き73を採用するのが好ましい。
【0058】
この切り欠き73の形状は、好ましくは斜面となる面取り形状である。面取り形状ならば、眼内レンズ4の光学部4aにおける最大厚の分だけ、挿入筒7における該接続部分71の高さを低くしつつ、スライダ6で眼内レンズ4を前進させる際に、
図2に示すようなせん断や
図3に示すような巻き込みが起こらないような面取り面の傾斜角度を設定すれば済む。その際の面取り面の傾斜は急すぎない方がよく、XY平面から70度以下であるのが好ましく、50度以下がより好ましい。下限には限定は無いが、傾斜角度が小さすぎると挿入筒7のX方向に伸ばさざるを得なくなるため、例えば30度、或いは40度が挙げられる。
【0059】
なお、
図8~
図10に示すように切り欠き73全体を面取り形状としてもよいし、切り欠き73のうち前方側のみを面取り形状とし、後方側すなわち接続部分71は、挿入器本体5の高さから一定数値低くした段差であってもよい。つまり、切り欠き73のうち少なくとも前方側を面取り形状とするのが好ましい。
【0060】
接続部分71を挿入器本体5の高さから低くする度合いは、部品の製造誤差および部品間の位置合わせ誤差に加え、眼内レンズ4の光学部4aにおける最大厚の分を低くしてもよく、寸法としては0.2~5.0mm(好適には0.5~2.0mm)低くしてもよい。
【0061】
なお、面取り形状を採用する場合は面取り面傾斜角度に応じて上記寸法を設定してもよい。
【0062】
眼内レンズ4の前進の際に眼内レンズ4の後方側4cの退避を確実に実施するという観点から、以下の構成を採用するのが好ましい。すなわち、前方から見たとき、前進部材(実施形態1ではスライダ6)のうち挿入器本体5の内周下部54と接する部分の幅方向(Y方向)の位置を、スペース72の幅方向(Y方向)の位置が包含するのが好ましい。
【0063】
この構成の意図は以下の通りである。そもそも、
図2に示すようなせん断や
図3に示すような巻き込みが起こるのは、眼内レンズ4の光学部4aの外周にスライダ6の一部(例えばスライダ下部64)が当接しながら眼内レンズ4を押すときに、スライダ下部64が挿入筒7の内周下部74と接触(
図2)しようとしたり該内周下部74上を通過(
図3)したりするためである。
【0064】
眼内レンズ4の破損の原因という点について発想を転換すると、前方から見たとき、少なくとも、スライダ下部64が存在する部分の幅方向に対応する挿入筒7の接続部分71にスペース72を設ければ、上記せん断や巻き込み自体が起こらないことになる。
【0065】
図9には、この思想を反映させた構成を記載している。つまり、
図9では、スライダ下部64の前方に配置された挿入筒7の接続部分71における内周下部74に対し、面取り形状の切り欠き73(傾斜角度45度)を設けている。
【0066】
スペース72のY方向の幅は、スライダ下部64のY方向の幅に対してマージンを持たせてもよい。このマージンとしては、各スライダ下部64のY方向の幅に対して0.1mm以上(或いは0.2mm以上、上限としては例えば1mm)の余裕を各スペース72に対して設定してもよい。また、寸法以外でこのマージンの好適例を表すと、各スペース72のY方向の幅を、スライダ下部64のY方向の幅の1.1~1.5倍としてもよい。挿入筒7の接続部分71の内周下部74全体にスペース72を設けてもよい。
【0067】
但し、全体にスペース72を設ける場合、眼内レンズ4全体がスペース72に落ち込むことによりスライダ下部64が眼内レンズ4と接触できなくなることがないよう、スペース72の形状および大きさを設定する。「眼内レンズ4の後方側が部分的に下方に退避可能」という表現は、眼内レンズ4の後方側が全体的にスペース72に落ち込むことによりスライダ下部64(実施形態2の場合はロッド10下部)が眼内レンズ4と接触できなくなる場合は除外する。
【0068】
面取り面の傾斜角度を上記範囲に設定することにより、および/または、スライダ下部64が存在する部分の幅方向に対応する挿入筒7の接続部分71のみに各スペース72を設定することにより、眼内レンズ4の大半がスペース72の前方の水平な内周下部74に乗っかり、例え眼内レンズ4の最大厚分高さを低くしたとしても、眼内レンズ4の後方側はわずかに下方に変位するに過ぎない。その一方、
図2に記載のせん断や
図3に記載の巻き込みは、眼内レンズ4の後方側4cの逃げ場所がないため生じるのであり、本例のようにわずかな下方への変位であっても眼内レンズ4の後方側4cはせん断や巻き込みからは十分逃れられる。
【0069】
その結果、スライダ6と挿入筒7との間の巻き込みによる削り取りから眼内レンズ4は逃げることができ、且つ、挿入器本体5の内周下部54と接触するスライダ6の一部(以降、スライダ下部64とも称する。)は、眼内レンズ4の側面を変わらず押し続けることができる。
【0070】
スライダ下部64が存在する部分の幅方向に対応する挿入筒7の接続部分71のみにスペース72を設ける場合(すなわち挿入筒7の内周下部74のY方向の幅の一部のみにスペース72を設ける場合)、眼内レンズ4の後方側4cの一部がスペース72に落ち込んだとしても眼内レンズ4の他の部分はスペース72以外の部分すなわち挿入筒7における水平な内周下部74に乗っかったままであり、眼内レンズ4の後方側4cのスペース72への過度の落ち込みを抑制できる。
【0071】
これらの場合を包括する表現が「前進部材のうち挿入器本体5の内周下部54と接する部分の幅方向の位置を、スペース72の幅方向の位置が包含する」である。
【0072】
眼内レンズ4の前進の際に眼内レンズ4の後方側4cの退避を確実に実施するという観点から、眼内レンズ4の破損の原因という点について発想を別方向に転換すると、スライダ下部64の前方への可動域の限界位置Lは、スペース72の上方の領域内にあるのが好ましい。
図10は、スライダ下部64を前進限界位置Lまで移動させたときの図である(
図4、
図5も同様)。
【0073】
この構成の意図は以下の通りである。挿入筒7の内周下部74が製造誤差等により挿入器本体5の内周下部54よりも高くなったり低くなったりしたところで、スライダ下部64が水平な内周下部74の上に位置しなければ眼内レンズ4の破損は起こらない。その一方、上記スペース72を挿入筒7の接続部分71に設けるにしても、スライダ6が前進し続けると、結局、スペース72の前方にある挿入筒7の内周下部74の上にスライダ6が位置してしまい、せん断や巻き込みの問題が生じ得ることになる。このような問題が生じないようにすべく、X方向でのスライダ下部64の前進限界位置LとX方向でのスペース72の位置関係を規定したのが上記構成である。
【0074】
スライダ下部64の前方への可動域の限界位置Lの好適例としては、スペース72において、挿入器本体5との接続部分71からスペース72の前後方向の距離の半分までの間(好適には1/4までの間)が挙げられる。
【0075】
[実施形態2]
実施形態2では、スライダ6を設けず、プランジャ9(ひいてはロッド10)により眼内レンズ4の折り畳みとノズル部7bからの放出を行う場合を例示する。つまり、前進部材がプランジャ9(眼内レンズ4と直接接触するのはロッド10)の場合を例示する。以下に記載が無い内容は、実施形態1の記載を援用する。
【0076】
実施形態2だと、ロッド10はノズル部7bの排出孔の近くまで前進する。その関係上、挿入筒7における挿入器本体5との接続部分71の幅方向の中央のみにロッド10(ひいてはロッド10下部)が位置する。そのため、少なくとも、挿入筒7における該接続部分71の幅方向(Y方向)の中央に、眼内レンズ4の後方側4cの退避用のスペース72を設ければよい。この構成は、ロッド10が通過する中心ではスペース72を設けず、そのY方向の両脇にスライダ下部64に対応する面取り形状の切り欠き73を設けた
図9とは逆の構成である。
【0077】
また、X方向でのスライダ下部64の可動域の限界位置Lを規定した実施形態1とは異なり、実施形態2だとロッド10がノズル部7bの排出孔近傍まで前進せざるを得ない。そうなると、
図3のように眼内レンズ4の後方側4cがロッド10と挿入筒7との間に巻き込まれることが起こるように見える。
【0078】
その一方、スペース72のうち少なくとも前方部分を面取り形状すなわち斜面とすることにより、眼内レンズ4は斜面に沿ってロッド10下部により押され続け易くなり、結果としてロッド10下部が容易には眼内レンズ4の上に乗っからなくなる。
【0079】
その結果、ロッド10下部が眼内レンズ4の上方部分を削り取りながら前進するのではなく、眼内レンズ4と共に(つまり通常の状態で)ロッド10が前進可能となる。スペース72を面取り形状とすることにはこのような利点もある。
【0080】
[その他]
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、発明の構成要件やその組み合わせによって得られる特定の効果を導き出せる範囲において、種々の変更や改良を加えた形態も含む。
【0081】
本発明に至ったきっかけの一つは、挿入器本体5の内面下部と挿入筒7の内周下部74との高さの差である。その一方、これはあくまできっかけに過ぎず、本発明の眼内レンズ挿入器1においてこの高さの差は必須要件ではない。
【0082】
本発明は、仮に該高さの差が製造誤差として存在したとしても、退避のためのスペース72を設けることにより、その製造誤差を許容できることに特徴がある。該製造誤差が無く、挿入器本体5の内面下部と挿入筒7の内周下部74が結果的に面一であったとしても、退避のためのスペース72を予め設けておけば、該製造誤差が生じた眼内レンズ挿入器1であったとしても該スペース72により該製造誤差が許容され、従来だと廃棄されるはずだった眼内レンズ挿入器1が使用可能となる。これは、実用上大きな利点である。
【符号の説明】
【0083】
1…眼内レンズ挿入器
4…眼内レンズ
4a…光学部
4b…支持部
4c…(眼内レンズの)後方側
5…挿入器本体
51…(挿入器本体における、挿入筒本体との)接続部分
54…(挿入器本体の)内周下部
6…スライダ
64…スライダ下部
7…挿入筒
71…(挿入筒本体における、挿入器本体との)接続部分
72…スペース
73…切り欠き(面取り面)
74…(挿入筒の)内周下部
7a…挿入筒本体
7b…ノズル部
7c…注入孔
8…回転部材
9…プランジャ
10…ロッド
11…レンズ設置部
11a…底面部
11b…レンズ受け部
11c…レンズガイド部
L…スライダ下部の前進限界位置