(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-24
(45)【発行日】2023-12-04
(54)【発明の名称】自動車用水系多層チューブ
(51)【国際特許分類】
F16L 11/08 20060101AFI20231127BHJP
B32B 1/08 20060101ALI20231127BHJP
B32B 27/32 20060101ALI20231127BHJP
【FI】
F16L11/08 B
B32B1/08 B
B32B27/32 E
(21)【出願番号】P 2020033226
(22)【出願日】2020-02-28
【審査請求日】2022-11-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079382
【氏名又は名称】西藤 征彦
(74)【代理人】
【識別番号】100123928
【氏名又は名称】井▲崎▼ 愛佳
(74)【代理人】
【識別番号】100136308
【氏名又は名称】西藤 優子
(72)【発明者】
【氏名】水谷 幸治
(72)【発明者】
【氏名】平井 亮
(72)【発明者】
【氏名】瀧本 依史
(72)【発明者】
【氏名】今西 慶次
(72)【発明者】
【氏名】齋木 計宏
【審査官】岩瀬 昌治
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-137272(JP,A)
【文献】特開平11-315967(JP,A)
【文献】特開2001-031809(JP,A)
【文献】特開2008-055640(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0330538(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16L 11/08
B32B 1/08
B32B 27/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)からなる管状の内層と、上記内層の外周面に接して設けられた下記(B)からなる中間層と、上記中間層の外周面に接して設けられた下記(C)からなる外層とを備え、かつ上記各層間が層間接着されていることを特徴とする自動車用水系多層チューブ。
(A)ポリプロピレン成分の海相内に、ポリエチレン成分またはエチレン系ゴム成分の島相が分散されたアロイを主成分とする樹脂組成物。
(B)ポリプロピレン系樹脂100重量部に対し、粒状無機フィラーを5~40重量部含有
し、上記粒状無機フィラーがタルク、マイカ、カオリン、および炭酸カルシウムからなる群より選ばれる少なくとも1種である樹脂組成物。
(C)ポリプロピレン成分の海相内に、ポリエチレン成分またはエチレン系ゴム成分の島相が分散されたアロイを主成分とする樹脂組成物。
【請求項2】
上記樹脂組成物(B)におけるポリプロピレン系樹脂が、ポリプロピレン成分の海相内にポリエチレン成分の島相が分散されたアロイである、請求項1記載の自動車用水系多層チューブ。
【請求項3】
上記樹脂組成物(A)および(C)のメルトフローレートが0.1~2.0g/10分であり、上記樹脂組成物(B)のメルトフローレートが0.1~2.0g/10分である、請求項1
または2記載の自動車用水系多層チューブ。
【請求項4】
上記樹脂組成物(A)および(C)が、ポリプロピレン成分の海相内にポリエチレン成分の島相が分散されたアロイを主成分とする樹脂組成物である、請求項1~
3のいずれか一項に記載の自動車用水系多層チューブ。
【請求項5】
上記内層の厚みが0.2~0.8mmである、請求項1~
4のいずれか一項に記載の自動車用水系多層チューブ。
【請求項6】
上記中間層の厚みが0.4~2.4mmである、請求項1~
5のいずれか一項に記載の自動車用水系多層チューブ。
【請求項7】
上記外層の厚みが0.2~0.8mmである、請求項1~
6のいずれか一項に記載の自動車用水系多層チューブ。
【請求項8】
上記中間層の厚みが、多層チューブ全体の厚みの20~80%である、請求項1~
7のいずれか一項に記載の自動車用水系多層チューブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車両において、エンジンとラジエーターとの接続に用いられるラジエーターホース等の水系チューブに使用される、自動車用水系多層チューブに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等の車両において、エンジンとラジエーターとの接続に用いられるラジエーターホース等の水系チューブの材料には、強度や耐熱性に優れることから、ポリアミド樹脂が採用されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
しかしながら、ポリアミド樹脂からなるチューブは、価格の面で課題が残る。そのため、上記課題を解決するために廉価なポリプロピレン樹脂を用いたチューブの使用も検討されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2012-091730号公報
【文献】特開2006-194318号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、ポリプロピレン樹脂からなるチューブは、耐圧性や耐衝撃性に大きな課題が残るため、その改善が望まれている。
また、従来、耐圧性、曲げ強度等を確保するため、チューブ材料中にフィラーを含有させるといった手法がとられているが、この手法に従いポリプロピレン樹脂からなるチューブ材料中にフィラーを含有させても、充分な耐圧性を得ることは難しく、さらに、背反事項として、耐衝撃性(特に低温時の耐衝撃性)の悪化につながることが懸念されるため、その改善が求められる。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、耐衝撃性、曲げ強度、耐圧性等に優れる自動車用水系多層チューブの提供を、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意研究を重ねた。その研究の過程で、本発明者らは、自動車用水系チューブの形成材料として、低コスト材料であるポリプロピレンを主たる原料としつつ耐衝撃性を改善するために、ポリプロピレン成分の海相内に、柔軟成分であるポリエチレン成分またはエチレン系ゴム成分の島相が分散されたアロイを用いることを想起した。そして、上記アロイに対し、曲げ強度等を高めるために粒状無機フィラーを加えることを検討した。
しかしながら、このようにしただけでは、耐圧性や耐衝撃性(特に低温時の耐衝撃性)に問題がみられたことから、さらなる研究を行った。
その結果、水系チューブの層構成に着目し、内層および外層を、上記アロイを主成分とする、粒状無機フィラーを殆どあるいは全く含まない樹脂組成物からなる層とし、中間層を、ポリプロピレン系樹脂100重量部に対して粒状無機フィラーを5~40重量部含有する樹脂組成物からなる層とする、三層構造のチューブとすることを想起した。このようにしたところ、耐圧性や耐衝撃性を改善する効果が充分に得られ、しかも、各層間の接着性も高く、接着剤レスで層間接着性が得られることから、チューブ性能をより高めることができ、その結果、所期の目的が達成できることを見いだし、本発明に到達した。
【0008】
すなわち、本発明は、上記の目的を達成するために、以下の[1]~[9]を、その要旨とする。
[1]下記(A)からなる管状の内層と、上記内層の外周面に接して設けられた下記(B)からなる中間層と、上記中間層の外周面に接して設けられた下記(C)からなる外層とを備え、かつ上記各層間が層間接着されていることを特徴とする自動車用水系多層チューブ。
(A)ポリプロピレン成分の海相内に、ポリエチレン成分またはエチレン系ゴム成分の島相が分散されたアロイを主成分とする樹脂組成物。
(B)ポリプロピレン系樹脂100重量部に対し、粒状無機フィラーを5~40重量部含有する樹脂組成物。
(C)ポリプロピレン成分の海相内に、ポリエチレン成分またはエチレン系ゴム成分の島相が分散されたアロイを主成分とする樹脂組成物。
[2]上記樹脂組成物(B)におけるポリプロピレン系樹脂が、ポリプロピレン成分の海相内にポリエチレン成分の島相が分散されたアロイである、[1]に記載の自動車用水系多層チューブ。
[3]上記樹脂組成物(B)における粒状無機フィラーが、タルクである、[1]または[2]に記載の自動車用水系多層チューブ。
[4]上記樹脂組成物(A)および(C)のメルトフローレートが0.1~2.0g/10分であり、上記樹脂組成物(B)のメルトフローレートが0.1~2.0g/10分である、[1]~[3]のいずれかに記載の自動車用水系多層チューブ。
[5]上記樹脂組成物(A)および(C)が、ポリプロピレン成分の海相内にポリエチレン成分の島相が分散されたアロイを主成分とする樹脂組成物である、[1]~[4]のいずれかに記載の自動車用水系多層チューブ。
[6]上記内層の厚みが0.2~0.8mmである、[1]~[5]のいずれかに記載の自動車用水系多層チューブ。
[7]上記中間層の厚みが0.4~2.4mmである、[1]~[6]のいずれかに記載の自動車用水系多層チューブ。
[8]上記外層の厚みが0.2~0.8mmである、[1]~[7]のいずれかに記載の自動車用水系多層チューブ。
[9]上記中間層の厚みが、多層チューブ全体の厚みの20~80%である、[1]~[8]のいずれかに記載の自動車用水系多層チューブ。
【発明の効果】
【0009】
以上のことから、本発明の自動車用水系多層チューブは、耐衝撃性、曲げ強度、耐圧性等に優れた効果を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の自動車用水系多層チューブの一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
つぎに、本発明の実施の形態について詳しく説明する。ただし、本発明は、この実施の形態に限られるものではない。
【0012】
本発明の自動車用水系多層チューブ(以下、単に「多層チューブ」という場合がある。)は、例えば、
図1に示すように、管状の内層1の外周面に、中間層2が積層形成され、さらにその中間層2の外周面に、外層3が積層形成されて、構成されている。そして、上記内層1が下記(A)からなり、上記中間層2が下記の(B)からなり、上記外層3が下記の(C)からなり、かつ上記各層間が接着剤レスで層間接着されている。また、下記(A)および(C)に示す樹脂組成物の「主成分」とは、その樹脂組成物全体の50重量%以上を示すものであり、上記樹脂組成物の全てが「主成分」のみからなるものを含む趣旨である。さらに、下記(A)および(C)に示す樹脂組成物は、下記に示すアロイを主成分とするものであれば、互いに同じであっても異なっていてもよい。
(A)ポリプロピレン成分の海相内に、ポリエチレン成分またはエチレン系ゴム成分の島相が分散されたアロイを主成分とする樹脂組成物。
(B)ポリプロピレン系樹脂100重量部に対し、粒状無機フィラーを5~40重量部含有する樹脂組成物。
(C)ポリプロピレン成分の海相内に、ポリエチレン成分またはエチレン系ゴム成分の島相が分散されたアロイを主成分とする樹脂組成物。
【0013】
上記のように、樹脂組成物(B)における粒状無機フィラーの含有量は、ポリプロピレン系樹脂100重量部に対し、5~40重量部であり、好ましくは7.5~30重量部、より好ましくは10~20重量部の範囲である。このような範囲で粒状無機フィラーを含有することにより、耐衝撃性、耐圧性等に優れるようになる。
ここで、上記粒状無機フィラーとは、針状の無機フィラー(例えば、水酸化アルミニウム、チタン酸カリウム、炭素繊維等の繊維状フィラー等)や、球状の無機フィラー(例えば、シリカ、カーボンブラック、ガラスビーズ等)とは異なる、粒状の無機フィラーを示すものである。なお、針状の無機フィラーは、低温時の耐衝撃性を低下させるおそれがあり、また、球状の無機フィラーは、チューブ強度を低下させるおそれがあるため、本発明では粒状無機フィラーが使用される。そして、上記樹脂組成物(B)に含まれるフィラーは、粒状無機フィラーのみからなることが望ましい。
上記粒状無機フィラーとしては、具体的には、タルク、マイカ、カオリン、炭酸カルシウム等があげられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。なかでも、押出加工性、補強性等の観点から、タルクが好ましい。
【0014】
また、上記樹脂組成物(B)に含まれるポリプロピレン系樹脂としては、例えば、プロピレンの単独重合体(ホモポリプロピレン(ホモPP))、ブテン-1等のプロピレン以外のα-オレフィンとプロピレンとのブロック共重合体,ランダム共重合体,グラフト共重合体等の共重合体、無水マレイン酸等の酸無水物で変性された変性ポリプロピレン等や、これらのポリプロピレン成分の海相内にポリエチレン成分やエチレン系ゴム成分(エチレン-プロピレン-ジエン三元共重合体(EPDM)、エチレン-プロピレン共重合体(EPR)、エチレン-ブテン共重合体(EBR)、エチレン-オクテン共重合体(EOR)等)の島相が分散されたアロイ等があげられる。これらは単独であるいは二種以上併せて用いられる。上記ポリプロピレン系樹脂のなかでも、耐衝撃性、内層1および外層3に対する層間接着性等に優れることから、ポリプロピレン成分の海相内にポリエチレン成分またはエチレン-ブテン共重合体成分の島相が分散されたアロイが好ましく、より好ましくは、ポリプロピレン成分の海相内にポリエチレン成分の島相が分散されたアロイである。また、上記アロイにおいて、そのポリプロピレン成分が、プロピレンの単独重合体(ホモポリプロピレン)であることが、より好ましい。
なお、上記のようにポリエチレン成分の島相を形成する場合、エチレン単独共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-メタクリル酸共重合体、エチレンとα-オレフィンの共重合体(エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-ブテン共重合体、エチレン-オクテン共重合体)等の、エチレン系共重合体が単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
【0015】
また、上記樹脂組成物(A)および(C)の主成分は、先に述べたように、ポリプロピレン成分の海相内にポリエチレン成分またはエチレン系ゴム成分(エチレン-プロピレン-ジエン三元共重合体(EPDM)、エチレン-プロピレン共重合体(EPR)、エチレン-ブテン共重合体(EBR)、エチレン-オクテン共重合体(EOR)等)の島相が分散されたアロイであり、好ましくは、ポリプロピレン成分の海相内にポリエチレン成分またはエチレン-ブテン共重合体成分の島相が分散されたアロイであり、より好ましくは、ポリプロピレン成分の海相内にポリエチレン成分の島相が分散されたアロイである。上記ポリプロピレン成分としては、例えば、プロピレンの単独重合体(ホモポリプロピレン(ホモPP))、ブテン-1等のプロピレン以外のα-オレフィンとプロピレンとのブロック共重合体,ランダム共重合体,グラフト共重合体等の共重合体、無水マレイン酸等の酸無水物で変性された変性ポリプロピレン等があげられる。これらは単独であるいは二種以上併せて用いられる。なかでも、上記ポリプロピレン成分が、プロピレンの単独重合体(ホモポリプロピレン)であることが、好ましい。
また、上記のようにポリエチレン成分の島相を形成する場合、エチレン単独共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-メタクリル酸共重合体、エチレンとα-オレフィンの共重合体(エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-ブテン共重合体、エチレン-オクテン共重合体)等の、エチレン系共重合体が単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
【0016】
なお、本発明の多層チューブの各層の形成材料に用いられる上記樹脂組成物(A)~(C)は、上記材料の他、耐候安定剤、滑剤、顔料、染料、帯電防止剤、可塑剤などの各種添加剤を、必要に応じて適宜配合しても差し支えない。
また、上記樹脂組成物(A)および(C)においては、局所変異を抑え耐衝撃性を高める等の観点から、その主成分であるアロイ100重量部に対する粒状無機フィラー等のフィラーの割合を5重量部未満とすることが好ましく、より好ましくは上記粒状無機フィラー等のフィラーの割合を3重量部未満とし、さらに好ましくは、粒状無機フィラー等のフィラーを不含とすることである。
【0017】
そして、上記樹脂組成物(A)~(C)は、その各材料を、二軸混練押出機等により160~270℃で0.1~10分間混練することにより調製される。なお、上記樹脂組成物(A)~(C)に使用されるアロイは、市販品を用いてもよい。市販品を用いない場合は、予め、上記アロイの構成材料であるポリプロピレン(オリゴマー)と、エチレン系共重合体(オリゴマー)とを、所定の割合で配合し、二軸混練押出機等により160~270℃で0.1~10分間混練することにより上記アロイを調製し、このものを、上記樹脂組成物(A)~(C)の構成材料として使用するようにしてもよい。
【0018】
また、上記樹脂組成物(A)~(C)における海-島構造の識別は、例えば、上記多層チューブの断面(あるいは上記多層チューブにおける各層を形成するのに用いられる樹脂組成物の硬化体断面)に対し、切削ないし研磨して面出しし、染色した後、観察倍率5000倍で走査型電子顕微鏡による反射電子像観察を行うことによりなされる。
【0019】
そして、上記の観察結果より測定された島相の平均粒径は、耐衝撃性、耐熱老化性等の観点から、0.01~100μmであることが好ましく、より好ましくは0.1~10μmの範囲である。
上記の観察結果より測定された樹脂部分(アロイ)全体に対する島相(ポリエチレン成分またはエチレン系ゴム成分)の割合は、1~49重量%の範囲であることが好ましく、より好ましくは2.5~20重量%の範囲である。
【0020】
また、上記樹脂組成物(A)および(C)のメルトフローレート(MFR)が0.1~2.0g/10分であり、上記樹脂組成物(B)のメルトフローレート(MFR)が0.1~2.0g/10分であることが、層間接着性、耐圧性等に優れるようになる観点から好ましい。同様の観点から、上記樹脂組成物(A)および(C)のMFRが0.3~1.5g/10分であり、上記樹脂組成物(B)のMFRが0.3~1.5g/10分であることがより好ましく、上記樹脂組成物(A)および(C)のMFRが0.5~1.0g/10分であり、上記樹脂組成物(B)のMFRが0.5~1.0g/10分であることが特に好ましい。
上記樹脂組成物(A)および(C)と上記樹脂組成物(B)のMFRの差が小さいほど層間接着性に優れ、その差が1.5g/10分より小さいことが好ましく、1.0g/10分より小さいことがより好ましい。
なお、上記MFRは、JIS K 7210に準拠して測定されるものであり、本発明においては、温度230℃、荷重2.16kgにおけるMFRを意味する。MFRは、メルトインデックスと同義である。
【0021】
前記
図1に示した本発明の多層チューブは、例えば、つぎのようにして作製することができる。すなわち、内層1用材料である樹脂組成物(A)、中間層2用材料である樹脂組成物(B)、および外層3用材料である樹脂組成物(C)をそれぞれ準備する。なお、上記各層の材料は、ペレット化したものを用いることが、生産性の観点から好ましい。そして、上記各層の材料を、例えば、押出成形機(プラスチック工学研究所社製の多層押出成形機)等により、160~270℃でチューブ状に共押出成形し、この共押出した溶融チューブをサイジングダイスに通すことにより、内層1の外周面に中間層2が形成され、さらにその中間層2の外周面に外層3が形成されてなる、三層構造の多層チューブを作製することができる。そして、このように溶融押出(共押出)成形することによって、層間が接着剤レスで良好に接着されるようになる。
【0022】
このようにして得られる本発明の多層チューブは、その用途上の観点から、内径が2.5~30mmの範囲であり、厚みが0.6~5.0mmの範囲であるものが好ましく、より好ましくは、内径が6~20mmの範囲であり、厚みが1~3.0mmの範囲である。
【0023】
また、本発明の多層チューブにおいて、上記内層1の厚みは、0.2~0.8mmが好ましく、より好ましくは0.2~0.6mmである。上記中間層2の厚みは0.4~2.4mmが好ましく、より好ましくは0.4~1.2mmである。上記外層3の厚みは、0.2~0.8mmが好ましく、より好ましくは0.2~0.6mmである。
そして、上記各層の厚みの比は、中間層2:(内層1+外層3)=2:8~8:2が好ましく、中間層2:(内層1+外層3)=4:6~6:4がより好ましい。
さらに、内層1と外層3の厚みの比は、内層1:外層3=1:3~3:1が好ましく、内層1:外層3=1:2~2:1がより好ましい。
さらに、上記中間層2の厚みが、多層チューブ全体の厚みの20~80%であることが好ましく、多層チューブ全体の厚みの30~75%であることがより好ましく、多層チューブ全体の厚みの50~70%であることが特に好ましい。
すなわち、これらの範囲に各層の厚み等を規定することにより、耐衝撃性、曲げ強度、耐圧性等により優れるようになる。
【0024】
なお、本発明の多層チューブは、
図1に示したように三層構造とするのが好ましいが、その他、本発明の効果を損なわない範囲において、上記内層1の内周面に最内層を形成しても差し支えない。
【0025】
そして、本発明の多層チューブは、自動車内における冷却水等の冷媒の配管に用いられるものであり、例えば、ラジエーターホース、ヒーターホース、エアコンホース等や、電気自動車や燃料電池自動車用の電池パックの冷却用チューブに用いられる。
【実施例】
【0026】
つぎに、本発明の実施例について比較例と併せて説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0027】
まず、実施例および比較例に先立ち、下記に示す材料を準備した。
【0028】
〔ホモPP(ホモポリプロピレン)〕
プライムポリプロE111G、プライムポリマー社製
【0029】
〔EPR〕
タフマーXM7070、三井化学社製
【0030】
〔EBR〕
タフマーDF710、三井化学社製
【0031】
〔タルク〕
FH108、富士タルク社製
【0032】
〔ガラスビーズ〕
UBS0010E、ユニチカ製
【0033】
〔ポリアミド〕
3030B、宇部興産社製
【0034】
<内層用材料(A1~A4)、中間層用材料(B1~B8)、外層用材料(C1~C5)の調製>
上記各材料を下記の表1~3に示す割合で混合し、各層用材料(ペレット)を調製した。詳しくは、二軸混練押出機により200℃で各材料を混練することによって、各層用材料(ペレット)を調製した。
なお、下記の表1~3に示すMFRは、JIS K 7210に準拠し、温度230℃、荷重2.16kgにて測定された値である。
【0035】
【0036】
【0037】
【0038】
[実施例1~12、比較例1~5]
後記の表4~表6に示す組合せで、各層用材料(ペレット)を、押出成形機(プラスチック工学研究所社製の多層押出成形機)を用いて、250℃でチューブ状に溶融押出成形(共押出成形)して、内径12mmの多層チューブ(三層構造のチューブ。
図1参照)を作製した。なお、各層の厚みは、後記の表4~表6に併せて示した。
【0039】
このようにして得られた実施例および比較例の多層チューブに関し、下記の基準に従って、各特性の評価を行った。その結果を、後記の表4~表6に併せて示した。
【0040】
≪低温時耐衝撃性≫
-30℃雰囲気下で、250mm上方から、500gの落錘を多層チューブに落下させたとき、多層チューブが割れるものを「×」、多層チューブが割れないものを「○」と評価した。
【0041】
≪曲げ強度≫
長さ500mmの多層チューブの曲げ荷重を、ストログラフによる三点曲げにより測定した。そして、曲げ荷重が3000N未満であったものを「×」、曲げ荷重が3000N以上であったものを「○」と評価した。
【0042】
≪耐圧性≫
多層チューブ内に、加圧媒体として水を充填し、多層チューブの両端を試験用パイプで塞ぎ、昇圧速度1MPa/minで室温(23℃)にて、多層チューブの耐圧試験を行った。そして、その際の破裂圧が1.6MPa以上であったものを「○」、破裂圧1.6MPa未満であったものを「×」と評価した。
【0043】
≪層間接着性≫
多層チューブを10mm幅に切断して、短冊状のサンプルを作製した。そして、各サンプルの層間を部分的に剥離し、その部分を各々引張試験機のチャックに挟み、引張速度50mm/分の条件で、180°剥離強度(N/cm)を測定した。そして、上記剥離強度が20N/cm以上であっても剥離しなかったものを「○」、上記剥離強度が5N/cm以上~20N/cm未満のものを「△」、上記剥離強度が5N/cm未満のものを「×」と評価した。
【0044】
【0045】
【0046】
【0047】
上記表4~表6の結果より、実施例の多層チューブは、いずれも、低温時耐衝撃性、曲げ強度、耐圧性、層間接着性の全てにおいて、優れるものであった。
【0048】
なお、実施例の多層チューブの断面に対し、切削ないし研磨して面出しし、染色した後、観察倍率5000倍で走査型電子顕微鏡による反射電子像観察を行ったところ、いずれの多層チューブにおいても、その内層および外層において、ポリプロピレン成分の海相内にポリエチレン成分またはエチレン系ゴム成分の島相が分散されたアロイとなっていることが確認された。また、実施例10を除いた実施例の多層チューブの中間層において、ポリプロピレン成分の海相内にポリエチレン成分またはエチレン系ゴム成分の島相が分散されたアロイとなっていることが確認された。
また、上記の、実施例の多層チューブの断面に認められる、樹脂部分(アロイ)全体に対する島相の割合は、上記反射電子像をもとに測定した結果、いずれも、1~49重量%の範囲であった。
【0049】
これに対し、比較例1の多層チューブは、中間層用材料として粒状無機フィラー(タルク)の割合が多すぎる中間層用材料B6を使用しており、低温時耐衝撃性に劣る結果となった。比較例2の多層チューブは、中間層用材料として粒状無機フィラー(タルク)の割合が少なすぎる中間層用材料B7を使用しており、耐圧性に劣る結果となった。比較例3の多層チューブは、中間層用材料として粒状無機フィラー(タルク)を含まない中間層用材料B8を使用しており、耐圧性に劣る結果となった。比較例4の多層チューブは、各層のポリマーがポリプロピレン樹脂のみからなり、低温時耐衝撃性に劣る結果となった。比較例5の多層チューブは、外層のポリマーにポリアミドを用いており、低温時耐衝撃性、層間接着性に劣る結果となった。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の自動車用水系多層チューブは、自動車内における冷却水等の冷媒の配管に用いられるものであり、例えば、ラジエーターホース、ヒーターホース、エアコンホース等や、電気自動車や燃料電池自動車用の電池パックの冷却用チューブに用いられる。また、本発明の自動車用水系多層チューブは、自動車用のみならず、その他の輸送機械(飛行機,フォークリフト,ショベルカー,クレーン等の産業用輸送車両、鉄道車両等)等の水系チューブとしても利用可能である。
【符号の説明】
【0051】
1 内層
2 中間層
3 外層