IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ トッパン・フォームズ株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-情報処理方法及び情報処理装置 図1
  • 特許-情報処理方法及び情報処理装置 図2
  • 特許-情報処理方法及び情報処理装置 図3
  • 特許-情報処理方法及び情報処理装置 図4
  • 特許-情報処理方法及び情報処理装置 図5
  • 特許-情報処理方法及び情報処理装置 図6
  • 特許-情報処理方法及び情報処理装置 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-24
(45)【発行日】2023-12-04
(54)【発明の名称】情報処理方法及び情報処理装置
(51)【国際特許分類】
   G01T 1/16 20060101AFI20231127BHJP
   G01T 1/167 20060101ALI20231127BHJP
【FI】
G01T1/16 A
G01T1/167 C
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020052204
(22)【出願日】2020-03-24
(65)【公開番号】P2021152455
(43)【公開日】2021-09-30
【審査請求日】2023-01-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000110217
【氏名又は名称】TOPPANエッジ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】成田 達也
(72)【発明者】
【氏名】藤井 靖大
(72)【発明者】
【氏名】溝口 達也
【審査官】右▲高▼ 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-104825(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01T 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線量の推測に用いられる情報処理方法であって、
指定された位置T(xt,yt)の近傍にある放射線観測点を3点選択し、
選択された前記放射線観測点を点P1(x1,y1),P2(x2,y2),P3(x3,y3)として前記点P1,P2,P3での放射線量の値z1,z2,z3をそれぞれ取得し、
z軸方向を放射線量とする三次元空間での3点(x1,y1,z1),(x2,y2,z2),(x3,y3,z3)を通る平面上の点(xt,yt,zt)に基づき、前記指定された位置Tにおける放射線量ztを推定し、
前記放射線量の値z 1 ,z 2 ,z 3 は、それぞれ、前記点P 1 ,P 2 ,P 3 での過去の放射線量と過去の自然環境情報とに基づいた機械学習によって生成された学習モデルに対し、予測される将来の自然環境情報を適用して得られた放射線量の予測値である、情報処理方法。
【請求項2】
利用者の現在の位置を取得して前記指定された位置とする、請求項1に記載の情報処理方法。
【請求項3】
前記放射線量の値z1,z2,z3は、それぞれ、前記点P1,P2,P3での放射線量の実測値である、請求項1または2に記載の情報処理方法。
【請求項4】
放射線量の推測に用いられる情報処理方法であって、
放射線観測点ごとに、当該放射線観測点での過去の放射線量と過去の自然環境情報を取得し、
前記過去の放射線量を正解データとして前記過去の放射線量と前記過去の自然環境情報との関係に基づく機械学習を行って学習モデルを生成する、情報処理方法。
【請求項5】
放射線量の推測に用いられる情報処理装置であって、
観測網を構成する複数の放射線観測点の中から、指定された位置T(xt,yt)の近傍にある放射線観測点を3点選択する選択手段と、
選択された前記放射線観測点を点P1(x1,y1),P2(x2,y2),P3(x3,y3)として、前記点P1,P2,P3での放射線量の値z1,z2,z3をそれぞれ取得して、z軸方向を放射線量とする三次元空間での3点(x1,y1,z1),(x2,y2,z2),(x3,y3,z3)を通る平面上の点(xt,yt,zt)に基づき、前記指定された位置Tにおける放射線量ztを推定する計算手段と、
前記観測網を構成する前記放射線観測点での過去の放射線量と過去の自然環境情報とに基づいた機械学習によって生成された学習モデルを格納する予測手段とを有し、
前記計算手段は、前記点P 1 ,P 2 ,P 3 についての前記学習モデルに対し予測される将来の自然環境情報を適用して得られた放射線量の予測値を前記値z 1 ,z 2 ,z 3 として前記予測手段から取得する、情報処理装置。
【請求項6】
前記計算手段は、前記観測網を構成する前記放射線観測点からの観測データを集約する放射線量データサーバから、前記値z1,z2,z3を取得する、請求項に記載の情報処理装置。
【請求項7】
放射線量の推測に用いられる情報処理装置であって、
観測網を構成する複数の放射線観測点の観測データを集約する放射線量データサーバから前記複数の放射線観測点の過去の放射線量を取得し、自然環境データサーバから過去の自然環境情報を取得し、前記放射線観測点ごとに、前記過去の放射線量を正解データとして前記過去の放射線量と前記過去の自然環境情報との関係に基づく機械学習を行って学習モデルを生成する学習手段を備える、情報処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、任意の地点における放射線量を推測するための情報処理方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ある場所における放射線量を測定するためには、ガイガーカウンタなどの特殊な計測器をその場所に運んで測定を行う必要があり、任意の地点の放射線量の計測を行うことは容易ではない。個人でも容易に携帯することが可能な放射線計測器具として、例えば、フィルムバッジや熱ルミネッセンス線量計、さらには特許文献1に記載されるような自己表示型の放射線測定カードなどがあるが、これらは一定の期間内に個人が受けた被ばく放射線量の評価に用いられるものであり、特定の場所における線量率すなわち単位時間あたりの吸収線量または線量当量をリアルタイムで測定するためには用いることができない。
【0003】
近年、放射線量の行う観測点を多数配備する定点観測網などの観測網が整備されてきている。各観測点にはその場所における空間線量率などの放射線量を測定する機器が備えられており、観測点での測定された放射線量の値は、インターネットなどのネットワークを介してリアルタイムで検索可能となっている。観測網によって取得されたデータを参照すれば、各観測点での放射線量を容易に知ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】米国特許第7652268号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特殊な計測器などを持ち運ぶことなく、任意の場所における空間線量率などの放射線量をリアルタイムで知りたいという要求がある。定点観測網によれば、その観測点での放射線量をリアルタイムで知ることができるが、観測点から離れた指定位置における正確な放射線量をリアルタイムで知ることは難しい。特に環境中の放射線量は、地形や風量などの影響を受けやすく天候(特に降雨の有無)によっても左右されるから、近傍の観測点での測定データを一つ一つ参照して指定位置の放射線量を推測することは煩雑である。
【0006】
本発明の目的は、指定された位置に放射線測定機器を搬入することなく、その位置での放射線量を確度高く推定することができる情報処理方法及び装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の情報処理方法は、放射線量の推測に用いられる情報処理方法であって、指定された位置T(xt,yt)の近傍にある放射線観測点を3点選択し、選択された放射線観測点を点P1(x1,y1),P2(x2,y2),P3(x3,y3)として点P1,P2,P3での放射線量の値z1,z2,z3をそれぞれ取得し、z軸方向を放射線量とする三次元空間での3点(x1,y1,z1),(x2,y2,z2),(x3,y3,z3)を通る平面上の点(xt,yt,zt)に基づき、指定された位置Tにおける放射線量ztを推定する。
【0008】
本発明の情報処理方法においては、指定された位置Tは、例えば、利用者の現在位置である。点P1,P2,P3での放射線量の値z1,z2,z3は、それぞれ、点P1,P2,P3での放射線量の実測値であってよい。この場合、指定された位置Tにおける現在の放射線量の推測値が得られる。あるいは、点P1,P2,P3での放射線量の値z1,z2,z3は、点P1,P2,P3での過去の放射線量と過去の自然環境情報とに基づいた機械学習によって生成された学習モデルに対し、予測される将来の自然環境情報を適用して得られた放射線量の予測値であってよい。この場合は、指定された位置Tにおける将来の放射線量の推測値が得られる。学習モデルは、例えば、放射線観測点ごとに、その放射線観測点での過去の放射線量と過去の自然環境情報を取得し、過去の放射線量を正解データとして過去の放射線量と過去の自然環境情報との関係に基づく機械学習を行うことによって生成することができる。
【0009】
本発明の情報処理装置は、放射線量の推測に用いられる情報処理装置であって、観測網を構成する複数の放射線観測点の中から、指定された位置T(xt,yt)の近傍にある放射線観測点を3点選択する選択手段と、選択された放射線観測点を点P1(x1,y1),P2(x2,y2),P3(x3,y3)として、点P1,P2,P3での放射線量の値z1,z2,z3をそれぞれ取得して、z軸方向を放射線量とする三次元空間での3点(x1,y1,z1),(x2,y2,z2),(x3,y3,z3)を通る平面上の点(xt,yt,zt)に基づき、指定された位置Tにおける放射線量ztを推定する計算手段と、を有する。
【0010】
本発明の情報処理装置において計算手段は、観測網を構成する放射線観測点からの観測データを集約する放射線量データサーバから、値z1,z2,z3を取得することができる。この場合、計算手段は、指定された位置Tにおける現在の放射線量の推測値を計算する。あるいは、本発明の情報処理装置では、観測網を構成する放射線観測点での過去の放射線量と過去の自然環境情報とに基づいた機械学習によって生成された学習モデルを格納する予測手段をさらに設け、計算手段が、点P1,P2,P3についての学習モデルに対し予測される将来の自然環境情報を適用して得られた放射線量の予測値を値z1,z2,z3として予測部から取得するようにしてもよい。この場合は、指定された位置Tにおける将来の放射線量の推測値が得られる。学習モデルを生成するための情報処理装置も本発明の範疇に含まれ、そのような情報処理装置は、観測網を構成する複数の放射線観測点の観測データを集約する放射線量データサーバから、複数の放射線観測点の過去の放射線量を取得し、自然環境データサーバから過去の自然環境情報を取得し、放射線観測点ごとに、過去の放射線量を正解データとして過去の放射線量と自然環境情報との関係に基づく機械学習を行って学習モデルを生成する学習手段を備える。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、指定された位置に放射線測定機器を搬入することなく、その位置での放射線量を確度高く推定することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】第1の実施形態の情報処理装置を示すブロック図である。
図2】放射線観測点の配置の一例を示す図である。
図3】放射線量の推定方法を説明する図である。
図4】放射線量の推定の処理を説明するフローチャートである。
図5】画面における表示例を説明する図である。
図6】第2の実施形態の情報処理装置を示すブロック図である。
図7】放射線量の推定の処理を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[第1の実施形態]
次に、本発明を実施するための形態について、図面を参照して説明する。図1は、本発明の第1の実施形態の情報処理装置の構成を示している。図において、本発明に基づく情報処理装置は、推測値計算サーバ10として示されている。
【0014】
第1の実施形態では、一定の地理的な領域内に多数の放射線観測点41が配置して観測網が形成されていることを前提として、この領域内の任意の位置での放射線量を推測する場合を説明する。図2は、放射線観測点41の配置の一例を地図上に示したものである。図2では、例えば、A町役場の構内や、B駅の駅前広場などに放射線観測点41が設けられている。各放射線観測点41には、その放射線観測点41での例えば空間線量率である放射線量を測定する放射線測定機器が備えられている。放射線観測点41での放射線量の実測値は、例えばネットワークを介し、観測網における観測データを集約する放射線量データサーバ40にリアルタイムで集められるようになっている。また、各放射線観測点41の位置に関する情報、例えば、緯度及び経度で表した座標値、あるいは平面直交座標系で表された座標値も放射線量データサーバ40に格納されている。以下の説明では、放射線量は、時間当たりの線量当量[μSv/h(マイクロシーベルト毎時)]で表される空間線量率であるものとするが、本発明では、他の種類の放射線量を用いることも可能である。放射線量データサーバ40は、推測値計算サーバ10の運営者とは別の外部機関が運営するものであってよく、例えば、地方自治体や原子力規制機関などによって運営される。推測値計算サーバ10は、例えばインターネットなどのネットワークを介して放射線量データサーバ40にアクセス可能である。
【0015】
推測値計算サーバ10は、観測網を構成する複数の放射線観測点41の中から、指定された位置T(xt,yt)の近傍にある放射線観測点41を3点選択する観測点選択部11と、観測点選択部11によって選択された放射線観測点41での実測値から、位置T(xt,yt)における放射線量ztを推測する計算を行う放射線量計算部12と、を備えている。図1に示した例では、例えばスマートフォンである利用者端末50から、指定された位置Tとしてその利用者の現在位置が観測点選択部11に与えられており、放射線量計算部12は、利用者の現在位置における現在の放射線量の推測値を計算して利用者端末50に送信する。利用者端末50が例えばGPS(global Positioning System)などによる衛星測位機能を備えていれば、現在位置に関する情報を利用者端末50から推測値計算サーバ10に送ることは容易である。また、放射線量の推定値が算出される位置は利用者の現在位置以外の位置とすることも可能である。利用者端末50の利用者は、観測網の範囲内における任意の位置を指定してその位置についての情報を推測値計算サーバ10に送信することにより、当該位置での放射線量の推定値を得ることができる。なお、利用者端末50は、例えばモバイルネットワークとインターネットとを介して推測値計算サーバ10に接続する。
【0016】
次に、第1の実施形態における放射線量の推定について、具体的に説明する。環境における放射線量は、地形や風量、天候などによって変化するが、地表での比較的狭い領域においては、平面位置での変化、すなわち東西方向及び南北方向での変化に対して一次で変化すると考えることができる。またこの領域においては、地球の表面は平面であると扱うことができる。そこで本実施形態では、観測点選択部11は、指定された位置Tの平面座標における座標値(xt,yt)に基づいて放射線量データサーバ40に格納された各放射線観測点41の座標値を検索し、位置Tに近い順に3点の放射線観測点41を選択する。例えば、位置Tを中心とする円の半径を0から徐々に拡げていき、円の中に放射線観測点41が3点含まれるたら円の拡大を終了させてその時点で円に含まれている放射線観測点41を選択すればよい。あるいは、放射線観測点41が十分に密に配置されているときは、位置Tを含むある大きさの領域内にあるすべての放射線観測点41について、座標値に基づき位置Tからその放射線観測点41までの距離を算出し、距離が短い方の3点を選択してもよい。選択された3点の放射線観測点41をそれぞれ点P1,P2,P3とし、それらの座標値を(x1,y1),(x2,y2),(x3,y3)とする。座標値は、平面直交座標系で表されていてもよいし、地球の北極点あるいは南極点に近い地域でなければ、緯度及び経度によって表されるものであってもよい。当然のことながら、点P1,P2,P3は同一直線上にあってはならない。
【0017】
観測点選択部11が点P1,P2,P3を選択したら、放射線量計算部12は、放射線量データサーバ40から、点P1,P2,P3での放射線量の実測値z1,z2,z3をそれぞれ取得して、z軸方向を放射線量とする三次元空間での3点(x1,y1,z1),(x2,y2,z2),(x3,y3,z3)を通る平面上の点(xt,yt,zt)に基づき、指定された位置Tにおける放射線量ztを推定する。以下、ここでの放射線量の推定のアルゴリズムを説明する。図3はこのアルゴリズムによる計算を説明する図である。x軸方向を東西方向、y軸方向を南北方向とすると、点P1,P2,P3も指定された位置Tもxy平面上に位置する。点P1,P2,P3は三角形を構成する。そして放射線量をz軸方向とする三次元空間を考える。図3はこの三次元空間を示している。狭い領域において放射線量が平面位置の変化に対して一次で変化するという上記の仮定は、図3に示す三次元空間において、放射線量zが下記式(1)に従う、ということを意味する。
z=ax+by+c (1)
ここでの目標は、式(1)を満たすように点P1,P2,P3での放射線量の実測値z1,z2,z3からパラメータa,b,cを求め、さらに式(1)において(x,y)=(xt,yt)とすることにより、位置T(xt,yt)での放射線量ztを求めることである。
【0018】
三次元空間での点(x1,y1,z1),(x2,y2,z2),(x3,y3,z3)は、式(1)を満たすことから、下記式(2)が得られ、式(2)における左辺第1項の行列をAとおき、その逆行列A-1を左から式(2)の両辺に乗じれば、式(3)が得られる。
【0019】
【数1】
【0020】
ここで行列Aの行列式をdet(A)とおけば、
det(A)=x12+x23+x31-x13-x21-x32
が得られ、式(3)から、
a={(y2-y3)z1+(y3-y1)z2+(y1-y2)z3}/det(A)
b={(x2-x3)z1+(x3-x1)z2+(x1-x2)z3}/det(A)
c={(x23-x32)z1+(x31-x13)z2+(x12-x21)z3}/det(A)
が得られる。このようにしてパラメータa,b,cを求めて式(1)に代入し、さらにx=xt及びy=ytを式(1)に代入すれば、指定された位置T(xt,yt)における放射線量ztの推測値を得ることができる。
【0021】
ところで、ここで説明した放射線量の推定方法では、点P1,P2,P3で形成される三角形(△P123)の内部に位置Tが存在するときに高い精度を得ることができるが、△P123の外部に位置Tが存在するときには十分な精度が得られないことがある。ある点が三角形の内部にあるか外部にあるかの判定方法は公知であり、例えば当該点と三角形の各頂点との外積を計算して、得られた3個の外積値が同符号であれば当該点が三角形の内部にあると判定し、同符号でない場合には外部にあると判定する方法がある。
【0022】
位置Tが△P123の外部にあって十分な推測精度が得られないと考えられるときは、一例として、
min(z1,z2,z3)≦zt≦max(z1,z2,z3
であれば、上記の方法で得られたztをそのまま推測値とし、
t<min(z1,z2,z3
であれば、zt=min(z1,z2,z3)とし、
max(z1,z2,z3)<zt
であれば、zt=max(z1,z2,z3)とすることができる。
【0023】
あるいは、位置Tが△P123の内部に含まれないときに、利用者端末50に対し、「周囲に適切な観測地点が存在しないため、誤差が大きい可能性があります」などと表示してもよく、さらには、位置Tに最も近い放射線観測点41での実測値を参考値として表示してもよい。放射線観測点41が位置Tから極端に離れている場合には、データの信頼性が得られないため、利用者端末50に対して結果が表示されないようにすることもできる。位置Tから最も近い3点の放射線観測点41によって形成される三角形△P123の内部に位置Tが存在しないが、4番目に近い放射線観測点を用いて同様に三角形を構成したときにはその三角形の内部に位置Tが存在することとなるときは、位置Tを内部に含むその三角形に基づいて位置Tにおける放射線量ztを計算してもよい。
【0024】
図4に示すフローチャートは、第1の実施形態において、利用者の現在位置を指定された位置Tとする場合の放射線量の推定の処理を示している。まず、観測点選択部11は、ステップ101において、利用者端末50から例えばGPSによる測位結果に基づく現在位置に関する情報を取得し、ステップ102において、現在位置に関する情報を正しく取得できたかどうかを判定する。現在位置に関する情報は座標値として観測点選択部11に送られる。利用者端末50において測位機能がない、あるいは測位に失敗した場合には、現在位置に関する情報を正しく取得できていないので、ステップ103において、観測点選択部11は、利用者端末50からの住所情報などの入力を受け付けて座標値に変換し、指定された位置とする。
【0025】
ステップ102において現在位置に関する情報を正しく取得したと判定したとき、及びステップ103を実行したのち、観測点選択部11は、ステップ104において、指定された位置の近傍にある3点の放射線観測点41を上述のようにして選択する。その後、放射線量計算部12は、ステップ105において、選択された3点の放射線観測点41における放射線量の実測値を放射線量データサーバ40から取得し、ステップ106において、上記の放射線量推定アルゴリズムにしたがって指定された位置における放射線量の推定値を算出し、ステップ107において、算出された推定値を利用者端末50に出力する。その結果、利用者端末50の表示画面には、利用者端末50の現在位置における放射線量の推定値が表示される。
【0026】
本実施形態では利用者端末50がスマートフォンである場合には、スマートフォンの測位機能を用いて現在位置を取得して推測値計算サーバ10に送信し、推測値計算サーバ10から放射線量の推定値を受信して表示するアプリケーション(アプリとも称する)をそのスマートフォンにインストールすることにより、スマートフォンである利用者端末50の利用者は、その現在位置における放射線量の推定値を容易に知ることができるようになる。さらに、スマートフォンにインストールされた既存の地図アプリと組み合わせることによって、表示された地図アプリ上で利用者が指定した任意の位置における放射線量の推定値を取得することも可能になる。
【0027】
上述の説明は、指定された位置Tにおける放射線量の推定値を求めることに関するものであるが、本実施形態によれば、例えば地図アプリ上において範囲指定された領域あるいは地図アプリにより現に表示されている画面に対応する領域内における放射線量の推定分布も求めることもできる。その場合、推測値計算サーバ10は、指定された領域内に一定の密度で点を配置し、各点について上述したようにして放射線量の推定値を求め、領域内での推定値の分布を表すデータを作成する。利用者端末50では、放射線量の推定分布を地図にオーバーラップして表示することができる。図5は、スマートフォンである利用者端末50において、放射線量の推定分布を表示した例を示している。この例では、利用者端末50の表示画面51に地図が表示されるとともに、放射線量の推定値の分布が、濃淡あるいは色分けで地図上にオーバーラップして表示されている。例えば、空間線量率が高い領域ほど、濃い色で示される。利用者は、このような表示を参照することにより、放射線量の二次元分布を知ることができ、その行動に役立てることができる。
【0028】
[第2の実施形態]
本発明は、指定された位置での現在の放射線量の推測に限定されるものではない。放射線量は地形や風量、天候などによって変動する。地形の影響については放射線観測点41ごとに固有であって同一の放射線観測点41では変動しないと考えられるが、風量や天候などは、放射線観測点41で実測される放射線量に影響を及ぼす。そこで、将来における風量や天候を予測することにより、各放射線観測点41での将来の放射線量を予測し、その予測された放射線量を使用することにより、指定された位置Tでの将来の放射線量を推測することが可能になる。第2の実施形態では、各放射線観測点41での将来の放射線量を予測することによって指定された位置Tでの将来の放射線量の推測値を求めることについて説明する。図6は、第2の実施形態の情報処理装置である推測値計算サーバ10を示している。
【0029】
第2の実施形態における推測値計算サーバ10は、図1に示した第1の実施形態の推測値計算サーバ10と同様のものであるが、各放射線観測点41での将来の放射線量を予測する予測部15が設けられている点で、図1に示したものと異なっている。指定された位置Tにおける放射線量の推測値の算出に関し、放射線量計算部12は、予測部15が予測した各放射線観測点41での放射線量を用いて、位置Tにおける将来の放射線量の推測値の算出を行う。予測部15には、学習モデル16が格納されているとともに、機械学習により学習モデル16を生成する機械学習部17が設けられている。学習モデル16は、放射線量データサーバ40から取得された放射線観測点41ごとの過去の放射線量の測定値と、自然環境データサーバ45から取得された過去の自然環境情報とを教師データとする機械学習を行って生成される。図6において破線で示す矢印は、学習モデル16の機械学習に用いられるデータの流れを示している。自然環境データサーバ45は、気象データなどを集積する外部機関に設けられるものであり、インターネットなどのネットワークを介して推測値計算サーバ10に接続している。
【0030】
まず、本実施形態における学習モデル16の機械学習について説明する。各放射線観測点41での過去の放射線量の実測値を検討すると、風量や天候の変化との相関が認められる。そこで、本実施形態では、機械学習部18は、自然環境情報を使用し、放射線観測点41ごとに、過去の放射線量の実測値とその実測値に対応する過去の自然環境情報のデータとを用い、放射線量の実測値を正解データとする教師あり学習によりモデルの学習を行う。そのような学習の結果が集積されて学習モデル16が形成される。自然環境情報は、例えば、温度、湿度、風速、風向、降水量、積雪深、気圧などの項目の少なくとも1つについてのデータを含むものである。モデルの学習に用いる機械学習アルゴリズムとしては、公知のものを使用することができる。対象とする放射線観測点41の数が極めて多数であってすべての放射線観測点41についてモデルの学習を行うための計算量が膨大になりすぎるときには、代表的な放射線観測点41を選んでその代表的な放射線観測点41についてモデルの学習を行ってもよい。なお、予測部15に学習モデル16が設けられることにより、各放射線観測点41の座標などのデータも予測部15に格納される。
【0031】
図7は、本実施形態における放射線量の推定の処理を示すフローチャートである。ここでは、放射線量の推測を行いたい指定された位置Tとして、利用者の現在位置が用いられるものとする。また、図4に示したフローチャートにおけるものと同じ処理には同じステップ番号が付与されており、重複する説明は適宜、省略する。まず、図4に示した場合と同様にステップ101~103の処理を実行し、続いて、ステップ104において、観測点選択部11は、ステップ104において、指定された位置の近傍にある3点の放射線観測点41を第1の実施形態と同様にして選択する。学習モデル16の生成において代表的な放射線観測点41を用いた場合には、選択される3点の放射線観測点41は、モデルが生成されている放射線観測点41、すなわち代表的な放射線観測点41の中から選択される。
【0032】
ステップ104の実行後、予測部15は、例えばインターネット上の外部サイトなどから、天気予報情報を取得する。天気予報情報には、自然環境情報に含まれている少なくとも1つの項目についての将来の値が含まれているものとする。すなわち、天気予報情報は、将来の自然環境情報を含んでいる。そして予測部15は、ステップ112において、天気予報情報を学習モデル16に当てはめることにより、観測点選択部11が選択した3点の放射線観測点41のそれぞれごとに、その放射線観測点41での将来の放射線量の予測値を算出する。その後、放射線量計算部12は、ステップ106において、予測部15が算出した放射線観測点41ごとの放射線量の予測値を使用して、上記のアルゴリズムにしたがって指定された位置Tにおける放射線量の推定値を算出し、ステップ107において、算出された推定値を利用者端末50に出力する。その結果、利用者端末50の表示画面には、利用者端末50の現在位置での将来における放射線量の推定値が表示される。
【0033】
本実施形態では、将来の天気を晴と予測したときと雨と予測したときの各々について放射線量の推定値を算出し、利用者端末50に表示させるようにしてもよい。また、将来における放射線量の分布の時間変化について、アニメーションを作成し、地図にオーバーラップするようにそのアニメーションが表示されるようにしてもよい。そのようなアニメーション表示の一例は、図5に示すように地図上に放射線量の分布が示されているときに、放射線量に応じた濃淡や色分けの形状が時間に応じて変化するものである。
【0034】
上記の説明から明らかなように、将来の放射線量の予測には現時点での実際の放射線量を使用しない。したがって、学習モデル16をひとたび作成してしまえば、推測値計算サーバ10は放射線量データサーバ40や自然環境データサーバ45にアクセスする必要はなくなる。なお、放射性物質の半減期や長期的な移動の影響を考慮すると、数か月ごとに学習モデル16を再生成することが好ましい。
【0035】
[他の実施形態]
以上、本発明の第1及び第2の実施形態を説明したが、本発明では上記の各実施形態をさらに応用することもできる。図4に示される第1の実施形態での処理と図7に示される第2の実施形態での処理とを比較すると、第1の実施形態ではステップ105において各放射線観測点41での放射線量の実測値を放射線量データサーバ40から取得するのに対し、第2の実施形態ではステップ111で天気予報情報を取得した上でステップ112において学習モデル16を用いた予測により各放射線観測点41での将来の放射線量の予測値を取得する点で相違する。そこで、利用者端末50から指示により、ステップ104の実行後にステップ105を実行するか、ステップ104の実行後にステップ111及びステップ112を実行するかを選択できるようにすることができる。これにより、利用者端末50では、現時点での放射線量の推測値を得ることも、将来の放射線量の推測値を得ることも可能になる。
【0036】
また、ナビゲーション機能を有する地図アプリとの組み合わせにより、利用者端末50において放射線量の分布を地図アプリ上で表示させたときに、放射線量が一定のしきい値を超える経路を通らないように迂回ルートの表示を行わせることもできる。このとき用いる放射線量の分布は、現時点での実測値に基づくものであってもよいし、将来の予測に基づくものであってもよい。
【0037】
以上説明した各実施形態において、情報処理装置である推測値計算サーバ10は、パーソナルコンピュータやサーバー用コンピュータを使用し、このコンピュータ上で、推測値計算サーバ10を構成する各機能ブロックの機能を実装したコンピュータプログラムを実行させることによって実現することができる。
【符号の説明】
【0038】
10 推測値計算サーバ
11 観測点選択部
12 放射線量計算部
15 予測部
16 学習モデル
17 機械学習部
40 放射線量データサーバ
45 自然環境データサーバ
41 放射線観測点
50 利用者端末
51 表示画面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7