(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-24
(45)【発行日】2023-12-04
(54)【発明の名称】油圧ブレーカ
(51)【国際特許分類】
B25D 9/04 20060101AFI20231127BHJP
【FI】
B25D9/04
(21)【出願番号】P 2020054429
(22)【出願日】2020-03-25
【審査請求日】2023-02-07
(73)【特許権者】
【識別番号】594149398
【氏名又は名称】古河ロックドリル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】小柴 英俊
(72)【発明者】
【氏名】原 秀治
【審査官】城野 祐希
(56)【参考文献】
【文献】特公昭36-024199(JP,B2)
【文献】実開昭63-113577(JP,U)
【文献】特公昭52-021286(JP,B1)
【文献】特開2019-188603(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25D 9/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自身先端側からチゼルが挿着されるフロントヘッドと、前記チゼルを打撃するピストンが自身内部に摺嵌されるシリンダと、前記シリンダの後部に装着されるバックヘッドと、を備え、前記フロントヘッド、前記シリンダおよび前記バックヘッドがこの順にスルーボルトによって連結される油圧ブレーカであって、
前記フロントヘッドと前記シリンダとの間の部分に打撃室を設けるとともに、前記スルーボルトが挿入されるスルーボルト穴を前記打撃室に連通させるように形成して、前記スルーボルト穴の空間を前記打撃室の容積の一部を兼ねる構成としたことを特徴とする油圧ブレーカ。
【請求項2】
前記バックヘッドには、前記シリンダ寄りの位置に、当該バックヘッドの前記スルーボルト穴と外気とを連通する連通穴が設けられており、該連通穴にチェック弁が付設されている請求項1に記載の油圧ブレーカ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧ブレーカに関する。
【背景技術】
【0002】
油圧ブレーカの打撃室は、ピストン前進時に圧縮される。そのため、打撃室が狭いと、ピストン前進後退時の圧力変動が大きくなる。そして、ピストン後退工程では、打撃室の容積が広がるので、打撃室の圧力変動が大きくなると、外部からダストが吸い込まれ易くなるという問題がある。
これに対し、打撃室が広いと、ピストン前進後退時の圧力変動が少なくなり、打撃室の圧力上昇が少なければ、ピストン後退工程でのダストの吸い込み量も少なくすることができる(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-136302号公報(段落0006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方、油圧ブレーカをより軽量コンパクトに構成したいという小型化の要求がある。そのため、単に打撃室自体を広く設けることは、油圧ブレーカを軽量コンパクトに構成する上では、必ずしも好ましいとはいえない。
そこで、本発明は、このような問題点に着目してなされたものであって、装置を軽量コンパクトに構成しつつ、より広い打撃室容量を得ることができる油圧ブレーカを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明の一態様に係る油圧ブレーカは、自身先端側からチゼルが挿着されるフロントヘッドと、前記チゼルを打撃するピストンが自身内部に摺嵌されるシリンダと、前記シリンダの後部に装着されるバックヘッドと、を備え、前記フロントヘッド、前記シリンダおよび前記バックヘッドがこの順にスルーボルトによって連結される油圧ブレーカであって、前記フロントヘッドと前記シリンダとの間の部分に打撃室を設けるとともに、前記スルーボルトが挿入されるスルーボルト穴を前記打撃室に連通させるように形成して、前記スルーボルト穴の空間を前記打撃室の容積の一部を兼ねる構成としたことを特徴とする。
【0006】
本発明の一態様に係る油圧ブレーカによれば、フロントヘッドのスルーボルト穴を打撃室に連通させて、スルーボルト穴の空間を打撃室の容積の一部を兼ねる構成としたので、装置を軽量コンパクトに構成しつつ、より広い打撃室容量を得ることができる。これにより、打撃室の容積が実質的に広がるので、ピストン後退工程でのダストの吸い込みを抑制できる。
ここで、本願発明に係る油圧ブレーカにおいて、前記バックヘッドには、前記シリンダ寄りの位置に、当該バックヘッドの前記スルーボルト穴と外気とを連通する連通穴が設けられており、該連通穴にチェック弁が付設されていることは好ましい。
このような構成であれば、外部からダストが吸い込まれるという問題に対し、バックヘッド側のチェック弁により、チゼルから可及的に遠いバックヘッドの位置からスルーボルト穴を介して新気を打撃室まで吸い込むことができる。そのため、外部からダストが打撃室に吸い込まれるという問題に対し、これを防止または抑制する上でより好適である。
【発明の効果】
【0007】
上述のように、本発明によれば、装置を軽量コンパクトに構成しつつ、より広い打撃室容量を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の一態様に係る油圧ブレーカの一実施形態の説明図であり、同図(a)は、その平面図、(b)は、正面視方向における軸線に沿った縦断面図であり、軸線を境にしてピストンの一方が前進位置、他方が後退位置を示している。
【
図2】本発明の一態様に係る油圧ブレーカの一実施形態の説明図であり、同図(a)は、
図1(a)でのC-C断面図、(b)は
図1(a)でのD-D断面図である。
【
図3】本発明の一態様に係る油圧ブレーカの一実施形態の説明図であり、バックヘッドよりも前方の部分は、
図2(a)でのA-O-A断面を示し、バックヘッドの部分は、
図2(b)でのB-O-B断面を示している。なお、軸線を境にしてピストンの一方が前進位置、他方が後退位置を示している。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の一実施形態について、図面を適宜参照しつつ説明する。なお、図面は模式的なものである。そのため、厚みと平面寸法との関係、比率等は現実のものとは異なることに留意すべきであり、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている。
また、以下に示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の材質、形状、構造、配置等を下記の実施形態に特定するものではない。
【0010】
図1に示すように、本実施形態の油圧ブレーカ100は、軸方向の中央部にシリンダ101を有し、シリンダ101の前側にフロントヘッド102が連結されるとともに、後側にバックヘッド103が連結されている。フロントヘッド102、シリンダ101およびバックヘッド103は、4本の長尺なスルーボルト121によって相互に締結されている。
シリンダ101内にはピストン105が摺嵌されている。フロントヘッド102の先端側には、フロントブシュ104が同軸に設けられ、また、フロントヘッド102の途中部分には、フロントホルダ109が同軸に設けられている。
【0011】
フロントヘッド102内には、先端側からチゼル112が挿着され、チゼル112は、フロントブシュ104およびフロントホルダ109によりピストン105と同軸線CL上に保持されている。このチゼル112の後端側とピストン105の先端側との間に打撃室111が形成されている。打撃室111は、フロントヘッド102の上端部分に設けられている。
シリンダ101には、コントロールバルブ106とアキュムレータ107とを含む公知の油圧打撃機構が設けられ、不図示の油圧供給源からコントロールバルブ106を介してシリンダ101に圧油を供給することにより圧力油の流路を切り換えてピストン105が軸線CL上で前後進可能になっている。
【0012】
そして、チゼル112は、ピストン105の打撃によって軸方向に所定距離の往復移動が可能になっている。なお、チゼル112は、不図示のロッドピンによって、軸方向での移動が規制され、その往復移動範囲が制限されている。
本実施形態の油圧ブレーカ100では、シリンダ101の先端内面には、フロントヘッド102側から侵入した異物が、シリンダ101内面とピストン105との間隙にまで侵入するのを防止するダストシール120が設けられている。
【0013】
ここで、本実施形態の油圧ブレーカ100では、
図3に示すように、フロントヘッド102、シリンダ101及びバックヘッド103には、スルーボルト穴102h、101h、103hが同軸に穿孔され、上記スルーボルト121によって相互に締結される。
そして、スルーボルト121が挿入されるスルーボルト穴102hを、ダストシール120よりも先端側の位置に形成した連絡穴102rを介して打撃室111に連通させるように形成し、フロントヘッド102、シリンダ101及びバックヘッド103の、スルーボルト穴102h、101h、103hの空間を打撃室111の容積の一部を兼ねる構成としている。
【0014】
詳しくは、
図2(a)および
図3に示すように、フロントヘッド102には、自身のスルーボルト穴102hの先端に対し軸方向で対向する4つの位置それぞれに、二面幅を有するナット挿入穴102mが軸線CLに直交する方向から形成されており、このナット挿入穴102mに、先端側ナット122が二面幅間に拘束されて回転不能に挿入される。なお、先端側ナット122の回り止め構造は二面幅間による拘束に限定されず、ナットを回り止め可能であれば、種々の態様とすることができる。
【0015】
フロントヘッド102に形成された4つのスルーボルト穴102hのうち、コントロールバルブ106が設けられた側とは反対側に位置する二つのフロントヘッド102のスルーボルト穴102hには、円形の連絡穴102rが、スルーボルト穴102hの一部に連通するように軸線CLに直交する方向から穿設され、連絡穴102rの先端が打撃室111まで貫通している。本実施形態では、連絡穴102rは、フロントヘッド102とシリンダ101のインロー部が形成する円環状の隙間の部分に開口するように設けられている。
【0016】
また、バックヘッド103には、
図2(b)および
図3に示すように、自身のスルーボルト穴103hに連通するように、シリンダ101の側面の軸心寄りの位置に、チェック弁140を装着するための連通穴103rが軸線CLに直交する方向から貫通形成されるとともに、チェック弁140が連通穴103rに付設されている。
チェック弁140は、外気圧よりも内気側の圧力が高いときには閉止され、内気側の圧力が下がるときには、弁が開いて外気が連通穴103rを介してスルーボルト穴103h内に吸い込まれる。そのため、このチェック弁140により、チゼル112から可及的に遠いバックヘッド103側の位置から新気を吸い込むことができるようになっている。
【0017】
スルーボルト121は、先端側から順に、先端雄ねじ121a、第一逃げ部121b、第一保持部121c、第二逃げ部121d、第二保持部121e、第三逃げ部121g、第三保持部121h、第四逃げ部121i、および、後端雄ねじ121jを同軸に有する。
このスルーボルト121が、先端雄ねじ121aを先にしてバックヘッド103の後端面側からスルーボルト穴103h~101h~102hに挿入され、先端雄ねじ121aが先端側ナット122に螺合される。さらに、後端雄ねじ121jが、ワッシャ123を介装後に後端側ナット124を螺合することで、フロントヘッド102、シリンダ101及びバックヘッド103が相互に締結される。
【0018】
スルーボルト121の後端雄ねじ121jに後端側ナット124を締結すると、相互のネジ山同士、並びに、フロントヘッド102と先端側ナット122との座面同士およびバックヘッド103と後端側ナット124との座面同士がそれぞれ密着してスルーボルト穴102h、101h、103hの軸方向両端が閉止される。
この締結状態において、フロントヘッド102およびシリンダ101相互の対向面の位置に、第一保持部121cが位置し、シリンダ101およびバックヘッド103相互の対向面の位置に、第二保持部121eが位置するようになっている。また、第一逃げ部121bは、連絡穴102rに対向する位置とされ、円滑な連通状態が確保されるようになっている。
【0019】
ここで、フロントヘッド102およびシリンダ101相互の対向面の当接位置、およびシリンダ101およびバックヘッド103相互の対向面の当接位置には、極僅かな段が生じる。
これに対し、本実施形態のスルーボルト121は、フロントヘッド102およびシリンダ101相互の対向面の当接位置には、円環溝121f1が形成され、また、シリンダ101およびバックヘッド103相互の対向面の当接位置には、円環溝121f2が形成されている。これにより、当該箇所での極僅かな段による応力集中等の悪影響がスルーボルト121に及ばないようになっている。
【0020】
次に、本実施形態の油圧ブレーカ100の作用効果について説明する。
ここで、油圧ブレーカ100を使用した際、破砕作業雰囲気中の粉塵(ダスト)や内蔵部品摩耗粉等の異物が油圧打撃機構側へ流動するところ、シリンダ101の先端内面には、フロントヘッド102側から侵入した異物がシリンダ101内面とピストン105との間隙にまで侵入するのを防止するために、上述したダストシール120が設けられる。
これにより、シリンダ101の前側に設置されたダストシール120にて油圧打撃機構内への異物の侵入防止を図っている。しかし、油圧打撃機構内への異物の侵入は、ダストシール120によって、ある程度は防止できるものの、ダストが飛散し易い場合など、油圧ブレーカ100の使用条件によっては、ダストシール120の寿命が短くなるおそれがある。
【0021】
一方、油圧ブレーカ100による破砕作業の雰囲気中のダスト若しくは内蔵部品の摩耗粉等の異物が打撃室111に侵入した場合、打撃室111の内径がピストン105外径と同程度の寸法であるとチゼルの潤滑用のグリスと共に油圧打撃機構側に異物が侵入し易くなる。
そこで、この種の油圧ブレーカでは、打撃室111の容積を一定量確保する必要がある。その理由は、ピストン105の往復運動による打撃室111中の空気の圧力変化を最小限にする必要があるためである。
【0022】
換言すれば、打撃室111中の圧力変化が大きくなると、大気側への排出だけではなく、油圧打撃機構側へのダスト等の異物の侵入も起こり易くなるため、ある程度の容積が必要となるのである。
これに対し、本実施形態の油圧ブレーカ100では、
図3に示したように、スルーボルト121が挿入されるスルーボルト穴102hを、ダストシール120よりも先端側の位置に形成した連絡穴102rを介して打撃室111に連通させるように形成して、スルーボルト穴102h、101h、103hの空間を打撃室111の容積の一部を兼ねる構成としている。
【0023】
これにより、本実施形態の油圧ブレーカ100によれば、スルーボルト穴102hを打撃室111に連通させて、スルーボルト穴102h、101h、103hの空間を打撃室111の容積の一部を兼ねる構成としたので、装置を軽量コンパクトに構成しつつ、より広い打撃室容量を得ることができる。これにより、打撃室111の容積が実質的に広がるので、ピストン後退工程でのダストの吸い込みを抑制できる。特に、本実施形態では、連絡穴102rの開口箇所は、フロントヘッド102とシリンダ101のインロー部が形成する円環状の隙間なので、気流の均一化が図られる。
【0024】
また、本実施形態では、バックヘッド103側に、スルーボルト穴103hに連通するようにチェック弁140を付設した。これにより、本実施形態の油圧ブレーカ100によれば、外部からダストが吸い込まれるという問題に対し、バックヘッド103側のチェック弁140により、チゼル112から可及的に遠い位置から新気を吸い込むことができる。
【0025】
特に、本実施形態では、チェック弁140をバックヘッド103の側面の軸心寄りの位置に配置しているので、平置き姿勢(非稼働時)において、水等の侵入リスクが低減される。
そのため、ピストン104の後退時に、バックヘッド103側、つまり、チゼル112から離れた位置から空気を「吸い込む」ため、ピストン後退工程で外部からダストが吸い込まれるという問題に対し、これを防止または抑制する上でより好適である。
なお、本発明に係る油圧ブレーカは、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しなければ種々の変形が可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0026】
100 油圧ブレーカ
101 シリンダ
101h スルーボルト穴
102 フロントヘッド
102h スルーボルト穴
102r 連絡穴
103 バックヘッド
103h スルーボルト穴
103r 連通穴
104 フロントブシュ
105 ピストン
106 コントロールバルブ
107 アキュムレータ
109 フロントホルダ
111 打撃室
112 チゼル
120 ダストシール
121 スルーボルト
121a 先端雄ねじ
121b 第一逃げ部
121c 第一保持部
121d 第二逃げ部
121e 第二保持部
121f1 第一逃げ溝
121f2 第二逃げ溝
121g 第三逃げ部
121h 第三保持部
121i 第四逃げ部
121j 後端雄ねじ
122 先端側ナット
123 ワッシャ
124 後端側ナット
130 埋栓
140 チェック弁
CL 軸線