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  • 特許-人の感覚の算出方法および算出装置 図1
  • 特許-人の感覚の算出方法および算出装置 図2
  • 特許-人の感覚の算出方法および算出装置 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-24
(45)【発行日】2023-12-04
(54)【発明の名称】人の感覚の算出方法および算出装置
(51)【国際特許分類】
   G01V 1/28 20060101AFI20231127BHJP
   A61B 5/16 20060101ALI20231127BHJP
【FI】
G01V1/28
A61B5/16 120
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020092698
(22)【出願日】2020-05-27
(65)【公開番号】P2021188972
(43)【公開日】2021-12-13
【審査請求日】2023-03-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡沢 理映
(72)【発明者】
【氏名】神原 浩
【審査官】佐々木 崇
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-120660(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0153477(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01V1/00-99/00
A61B5/06-5/22
G01H1/00-17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地震の揺れに対する人の感覚を算出する方法であって、
地震時の応答波形を複数の時系列の区間に分割し、分割した区間の中から、応答波形全体において所定値以上の加速度が生じた区間を抽出するステップと、抽出した区間の最大加速度を補正するステップと、補正した最大加速度を、揺れに対する人の感覚を表す性能評価曲線に当てはめて、抽出した区間の人の感覚の割合を算出するステップと、継続時間の長い揺れに対する慣れを考慮して、算出した割合を補正するステップと、補正した割合を用いて、応答波形全体での人の感覚の割合を算出するステップとを備えることを特徴とする人の感覚の算出方法。
【請求項2】
地震の揺れに対する人の感覚を算出する装置であって、
地震時の応答波形を複数の時系列の区間に分割し、分割した区間の中から、応答波形全体において所定値以上の加速度が生じた区間を抽出する抽出手段と、抽出した区間の最大加速度を補正する加速度補正手段と、補正した最大加速度を、揺れに対する人の感覚を表す性能評価曲線に当てはめて、抽出した区間の人の感覚の割合を算出する区間割合算出手段と、継続時間の長い揺れに対する慣れを考慮して、算出した割合を補正する割合補正手段と、補正した割合を用いて、応答波形全体での人の感覚の割合を算出する全体割合算出手段とを備えることを特徴とする人の感覚の算出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物応答波形から揺れに対する人の感覚を算出する算出方法および算出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、地震発生時の建物在館者の不安度、行動難度、避難行動の可否といった揺れに対する感覚を確率分布関数で表した研究が知られている(非特許文献1、2を参照)。非特許文献1では、揺れに対する人の感覚を性能評価曲線で表し、揺れの最大加速度、最大速度を用いてその揺れに対する不安度、行動難度、避難行動の可否を評価できるとしている。また、非特許文献2では、継続時間の影響を考慮した評価曲線が提案されている。
【0003】
一方、人の感覚を判断する従来の技術として、例えば特許文献1、2に記載の技術が知られている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】岡沢理映, 神原浩, 猿田正明:被験者実験による地震の揺れに対する人の感覚の定量化に関する研究, 日本建築学会技術報告集, No.56, pp.81-86, 2013.2.
【文献】岡沢理映, 神原浩:被験者実験による揺れに対する人の感覚の定量化に関する研究 その4 継続時間の影響評価, 日本建築学会大会学術講演梗概集, pp.301-302, 2019.9.
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2019-201720号公報
【文献】特表2005-504268号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記の非特許文献1の性能評価曲線は、ある一定の長さ(継続時間が5秒もしくは3波長分の時間)の正弦波を加振波として行った被験者実験の結果より提案されているが、実際の地震では最大加速度、最大速度で揺れている時間が一定の長さ続くことはほとんどない。また、上記の非特許文献2では、継続時間の影響を考慮した評価曲線を提案しているが、継続時間の長い揺れに対しては、揺れへの慣れの影響がみられる。したがって、このような方法では人の感覚を過大評価してしまうおそれがある。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、揺れに対する人の感覚をより適切に算出することができる人の感覚の算出方法および算出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る人の感覚の算出方法は、地震の揺れに対する人の感覚を算出する方法であって、地震時の応答波形を複数の時系列の区間に分割し、分割した区間の中から、応答波形全体において所定値以上の加速度が生じた区間を抽出するステップと、抽出した区間の最大加速度を補正するステップと、補正した最大加速度を、揺れに対する人の感覚を表す性能評価曲線に当てはめて、抽出した区間の人の感覚の割合を算出するステップと、継続時間の長い揺れに対する慣れを考慮して、算出した割合を補正するステップと、補正した割合を用いて、応答波形全体での人の感覚の割合を算出するステップとを備えることを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る人の感覚の算出装置は、地震の揺れに対する人の感覚を算出する装置であって、地震時の応答波形を複数の時系列の区間に分割し、分割した区間の中から、応答波形全体において所定値以上の加速度が生じた区間を抽出する抽出手段と、抽出した区間の最大加速度を補正する加速度補正手段と、補正した最大加速度を、揺れに対する人の感覚を表す性能評価曲線に当てはめて、抽出した区間の人の感覚の割合を算出する区間割合算出手段と、継続時間の長い揺れに対する慣れを考慮して、算出した割合を補正する割合補正手段と、補正した割合を用いて、応答波形全体での人の感覚の割合を算出する全体割合算出手段とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る人の感覚の算出方法によれば、地震の揺れに対する人の感覚を算出する方法であって、地震時の応答波形を複数の時系列の区間に分割し、分割した区間の中から、応答波形全体において所定値以上の加速度が生じた区間を抽出するステップと、抽出した区間の最大加速度を補正するステップと、補正した最大加速度を、揺れに対する人の感覚を表す性能評価曲線に当てはめて、抽出した区間の人の感覚の割合を算出するステップと、継続時間の長い揺れに対する慣れを考慮して、算出した割合を補正するステップと、補正した割合を用いて、応答波形全体での人の感覚の割合を算出するステップとを備えるので、揺れに対する人の感覚をより適切に算出することができるという効果を奏する。
【0011】
また、本発明に係る人の感覚の算出装置によれば、地震の揺れに対する人の感覚を算出する装置であって、地震時の応答波形を複数の時系列の区間に分割し、分割した区間の中から、応答波形全体において所定値以上の加速度が生じた区間を抽出する抽出手段と、抽出した区間の最大加速度を補正する加速度補正手段と、補正した最大加速度を、揺れに対する人の感覚を表す性能評価曲線に当てはめて、抽出した区間の人の感覚の割合を算出する区間割合算出手段と、継続時間の長い揺れに対する慣れを考慮して、算出した割合を補正する割合補正手段と、補正した割合を用いて、応答波形全体での人の感覚の割合を算出する全体割合算出手段とを備えるので、揺れに対する人の感覚をより適切に算出することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、本発明に係る人の感覚の算出方法の実施の形態を示す説明図である。
図2図2は、慣れによる補正係数を示す図である。
図3図3は、ある建物応答波形に対する不安度の算出例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明に係る人の感覚の算出方法および算出装置の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0014】
(人の感覚の算出方法)
まず、本発明に係る人の感覚の算出方法の実施の形態について説明する。
【0015】
本実施の形態は、建物で観測された加速度応答波形を用いて以下の手順により、地震発生時の建物在館者の不安度、行動難度、避難行動の可否といった揺れに対する感覚を算出する。
【0016】
まず、加速度応答スペクトルにより、建物応答波形の卓越周期Tを求める。
次に、図1に示すように、建物応答波形を基本長さTで分割する。基本長さTは、非特許文献1と同様の長さを用いることができる。例えば、10/T>5の場合は5秒、それ以外はT×3秒を用いてもよい。
【0017】
次に、分割した区間について、建物応答波形全体での最大加速度Amaxのある区間と、例えばAi/Amax≧αとなる区間を抽出する。Aiは抽出した区間での最大加速度である。αは定数であり、適宜設定可能である。図の例では、最大加速度Amaxのある区間をi、Ai/Amax≧αとなる区間をi+1、i+2としている。
【0018】
次に、抽出した区間の最大加速度Aiを補正係数βにより補正する。本実施の形態では、最大加速度Aiに補正係数βを乗じて補正する。
ここで、補正係数β=β1×β2×β3
β1:応答波形の最大速度Vmaxを考慮した補正値
β2:正弦波相当の加速度に変換するための補正値
β3:視覚情報(家具の転倒の有無、地震情報等)による補正値
【0019】
次に、性能評価曲線の諸元を用いて、抽出した区間の人の感覚の割合yiを算出する。本実施の形態では、上記の補正後の最大加速度を性能評価曲線に当てはめて、抽出した区間の人の感覚の割合yiを算出する。性能評価曲線には、例えば非特許文献1に記載のものを用いることができる。
【0020】
次に、慣れによる補正を行う。図2に示すように、慣れによる補正係数γは、区間ごとに設定した補正値を用いることができる。本実施の形態では、各区間の補正係数γiを上記の人の感覚の割合yiに乗じることで、継続時間の長い揺れに対する慣れを考慮する。
【0021】
次に、応答波形全体での人の感覚の割合Yを次式により算出する(非特許文献2を参照)。式中のγiiは、慣れが考慮された人の感覚の割合である。
Y=1-Π(1-γii
【0022】
このような方法により、揺れに対する人の感覚をより適切に算出することができる。
【0023】
(実施例)
次に、実験データを用いた実施例について説明する。
図3に示すような約55秒間の揺れ(卓越周期5秒、最大加速度150cm/s)の建物応答波形に対する被験者実験を行った。被験者には、非特許文献1と同様に揺れに対する感覚として不安度を5段階で評価してもらった。その結果、不安度2以上と回答した被験者は79人中、24%であった。
【0024】
不安度に関する性能評価曲線(非特許文献1を参照)を用いて、この建物応答波形に対する不安度2以上を感じる人の割合の予測値を算出する。この性能評価曲線は、標準正規分布の累積分布関数で表される。まず、不安度2以上の性能評価曲線の諸元は表1の通りである。表中のμは平均値、σは標準偏差である。従来の非特許文献1の方法で不安度2以上を感じる人の割合を計算すると、建物応答波形の最大加速度が150cm/sであるので、表1の諸元より28.9%となる。実験結果と比較すると過大評価となっていることが分かる。
【0025】
これに対し、表2の加速度の補正値、表3の慣れによる補正値を用いて、上記の実施の形態の手順で不安度2以上を感じる人の割合を算出すると、図3に示すように24.6%という予測値が得られる。このように、本実施例によれば、実験結果に近い予測値を算出することができる。
【0026】
【表1】
【表2】
【表3】
【0027】
本実施の形態によれば、実際の建物で観測された建物応答波形から性能評価曲線を用いて不安度、行動難度、避難行動の可否に対する予測値を算出することができる。また、評価の対象とする区間の抽出や加速度の補正、慣れによる補正を行うことで、より実態に合った予測値を算出することができる。
【0028】
(人の感覚の算出装置)
次に、本発明に係る人の感覚の算出装置の実施の形態について説明する。
本実施の形態の算出装置は、上記の算出方法を装置として具体化したものである。この算出装置は、抽出手段と、加速度補正手段と、区間割合算出手段と、割合補正手段と、全体割合算出手段とを備えている。
【0029】
抽出手段は、地震時の応答波形を複数の時系列の区間に分割し、分割した区間の中から、応答波形全体において所定値以上の加速度が生じた区間を抽出するものである。加速度補正手段は、抽出した区間の最大加速度を補正するものである。区間割合算出手段は、補正した最大加速度を、揺れに対する人の感覚を表す性能評価曲線に当てはめて、抽出した区間の人の感覚の割合を算出するものである。割合補正手段は、継続時間の長い揺れに対する慣れを考慮して、算出した割合を補正するものである。全体割合算出手段は、補正した割合を用いて、応答波形全体での人の感覚の割合を算出するものである。上記の各手段は、例えば各種演算処理を行うコンピュータ、データベースなどを用いて構成することができる。
【0030】
本実施の形態によれば、揺れに対する人の感覚をより適切に算出することができる。
【0031】
以上説明したように、本発明に係る人の感覚の算出方法によれば、地震の揺れに対する人の感覚を算出する方法であって、地震時の応答波形を複数の時系列の区間に分割し、分割した区間の中から、応答波形全体において所定値以上の加速度が生じた区間を抽出するステップと、抽出した区間の最大加速度を補正するステップと、補正した最大加速度を、揺れに対する人の感覚を表す性能評価曲線に当てはめて、抽出した区間の人の感覚の割合を算出するステップと、継続時間の長い揺れに対する慣れを考慮して、算出した割合を補正するステップと、補正した割合を用いて、応答波形全体での人の感覚の割合を算出するステップとを備えるので、揺れに対する人の感覚をより適切に算出することができる。
【0032】
また、本発明に係る人の感覚の算出装置によれば、地震の揺れに対する人の感覚を算出する装置であって、地震時の応答波形を複数の時系列の区間に分割し、分割した区間の中から、応答波形全体において所定値以上の加速度が生じた区間を抽出する抽出手段と、抽出した区間の最大加速度を補正する加速度補正手段と、補正した最大加速度を、揺れに対する人の感覚を表す性能評価曲線に当てはめて、抽出した区間の人の感覚の割合を算出する区間割合算出手段と、継続時間の長い揺れに対する慣れを考慮して、算出した割合を補正する割合補正手段と、補正した割合を用いて、応答波形全体での人の感覚の割合を算出する全体割合算出手段とを備えるので、揺れに対する人の感覚をより適切に算出することができる。
【産業上の利用可能性】
【0033】
以上のように、本発明に係る人の感覚の算出方法および算出装置は、地震の揺れに対する人の感覚を算出するのに有用であり、特に、人の感覚をより適切に算出するのに適している。
図1
図2
図3