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特許7391000乾燥剤組成物、封止構造体、有機ELデバイス、及び、有機ELデバイスを製造する方法
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  • 特許-乾燥剤組成物、封止構造体、有機ELデバイス、及び、有機ELデバイスを製造する方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-24
(45)【発行日】2023-12-04
(54)【発明の名称】乾燥剤組成物、封止構造体、有機ELデバイス、及び、有機ELデバイスを製造する方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 53/28 20060101AFI20231127BHJP
   H10K 50/10 20230101ALI20231127BHJP
   H05B 33/04 20060101ALI20231127BHJP
   B01J 20/04 20060101ALI20231127BHJP
【FI】
B01D53/28
H05B33/14 A
H05B33/04
B01J20/04 B
B01J20/04 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020171035
(22)【出願日】2020-10-09
(65)【公開番号】P2022062866
(43)【公開日】2022-04-21
【審査請求日】2022-06-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000201814
【氏名又は名称】双葉電子工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100140578
【弁理士】
【氏名又は名称】沖田 英樹
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 義孝
(72)【発明者】
【氏名】御園生 敏行
(72)【発明者】
【氏名】新山 剛宏
【審査官】長谷部 智寿
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-106961(JP,A)
【文献】国際公開第2019/235630(WO,A1)
【文献】特開2012-033434(JP,A)
【文献】国際公開第2019/026956(WO,A1)
【文献】特開2003-187962(JP,A)
【文献】特開2020-021559(JP,A)
【文献】特開2014-067485(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/26-53/28
H10K 50/10
H05B 33/00-33/28
B01J 20/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化ストロンチウム粒子及び酸化カルシウム粒子を含む捕水成分と、
重合性成分を含むバインダーと、
を含む、乾燥剤組成物であって、
前記酸化ストロンチウム粒子及び前記酸化カルシウム粒子の合計量が、当該乾燥剤組成物の質量を基準として70~95質量%であり、
前記酸化ストロンチウム粒子及び前記酸化カルシウム粒子の合計量に対する前記酸化ストロンチウム粒子の量の割合が87.5質量%を超え、
前記重合性成分が、式(10)で表される(メタ)アクリル変性シリコーンを含み、
【化1】
式(10)中、R は2価の有機基を示し、R は水素原子又はメチル基を示し、xは1以上の整数を示す、
ペースト状の乾燥剤組成物。
【請求項2】
当該乾燥剤組成物の25℃における粘度が5~500Pa・sである、請求項1に記載の乾燥剤組成物。
【請求項3】
対向配置された一対の基板と、
前記一対の基板の外周部を封止する封止シール剤と、
前記封止シール剤の内側で前記一対の基板の間に設けられた、請求項1又は2に記載の乾燥剤組成物の硬化物を含む乾燥剤層と、
を備える封止構造体。
【請求項4】
素子基板と、
前記素子基板に対して対向配置された封止基板と、
前記素子基板及び前記封止基板の外周部を封止する封止シール剤と、
前記封止シール剤の内側で前記素子基板上に設けられた有機EL素子と、
前記封止シール剤の内側で前記素子基板と前記封止基板との間に設けられ、請求項1又は2に記載の乾燥剤組成物の硬化物を含む乾燥剤層と、
を備える有機ELデバイス。
【請求項5】
請求項4に記載の有機ELデバイスを製造する方法であって、
請求項1又は2に記載の乾燥剤組成物を塗布することにより、前記素子基板上に設けられると共に前記有機EL素子を覆う膜状の乾燥剤組成物、又は、前記封止基板上に設けられた膜状の乾燥剤組成物を形成する工程と、
前記乾燥剤組成物を硬化させて、前記乾燥剤層を形成する工程と、
を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乾燥剤組成物、封止構造体、有機ELデバイス、及び、有機ELデバイスを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子の発光部への水分の侵入を防止する方法が種々検討されている。例えば、特許文献1は、(メタ)アクリル基を有し、25℃で液状の高分子量(メタ)アクリル化合物と、アルカリ土類金属の酸化物を含む酸化物粒子とを含有する乾燥剤組成物の塗布によって、有機EL素子の乾燥剤層を形成することを開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-106961号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の一側面は、乾燥剤組成物を基板等へ塗布することによって高い吸湿性能を有する乾燥剤層を形成でき、しかも形成される乾燥剤層におけるシワの発生を抑制できる、乾燥剤組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一側面は、酸化ストロンチウム粒子を含み、酸化カルシウム粒子を含んでいてもよい捕水成分と、重合性成分を含むバインダーとを含むペースト状の乾燥剤組成物を提供する。前記酸化ストロンチウム粒子及び前記酸化カルシウム粒子の合計量に対する前記酸化ストロンチウム粒子の量の割合は、87.5質量%を超える。
【0006】
本発明の別の一側面は、対向配置された一対の基板と、前記一対の基板の外周部を封止する封止シール剤と、前記封止シール剤の内側で前記一対の基板の間に設けられた、上記乾燥剤組成物の硬化物を含む乾燥剤層と、を備える封止構造体を提供する。
【0007】
本発明の更に別の一側面は、素子基板と、前記素子基板に対して対向配置された封止基板と、前記素子基板及び前記封止基板の外周部を封止する封止シール剤と、前記封止シール剤の内側で前記素子基板上に設けられた有機EL素子と、前記封止シール剤の内側で前記素子基板と前記封止基板との間に設けられ、上記乾燥剤組成物の硬化物を含む乾燥剤層と、を備える有機ELデバイスを提供する。
【0008】
本発明の更に別の一側面は、上記有機ELデバイスを製造する方法を提供する。当該方法は、上記乾燥剤組成物を塗布することにより、前記素子基板上に設けられると共に前記有機EL素子を覆う膜状の乾燥剤組成物、又は、前記封止基板上に設けられた膜状の乾燥剤組成物を形成する工程と、前記乾燥剤組成物を硬化させて、前記乾燥剤層を形成する工程とを含む。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一側面によれば、乾燥剤組成物を基板等へ塗布することによって高い吸湿性能を有する乾燥剤層を形成でき、しかも形成される乾燥剤層におけるシワの発生を抑制できる、乾燥剤組成物を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】有機ELデバイスの一実施形態を示す断面図である。
図2】有機ELデバイスの一実施形態を示す断面図である。
図3】乾燥剤組成物の重量が初期の重量に対して増加した割合(重量増加、質量%)と、放置時間との関係を示すグラフである。
図4】高温高湿環境における有機ELデバイスの発光面積残存率と経過時間との関係を示すグラフである。
図5】乾燥剤層の電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明のいくつかの実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0012】
一実施形態に係る乾燥剤組成物は、捕水成分と、バインダーとを含むペーストである。捕水成分は、酸化ストロンチウム粒子を含み、酸化カルシウム粒子を含んでいてもよい。バインダーは、重合性成分を含む。重合性成分を含む乾燥剤組成物は、塗布可能な流動性を有するともに、塗布後の硬化によって安定した乾燥剤層を形成することができる。
【0013】
酸化ストロンチウム粒子及び酸化カルシウム粒子の合計量に対する酸化ストロンチウム粒子の量の割合は、87.5質量%を超える。吸湿性能の観点から、酸化ストロンチウム粒子の量の割合は、88質量%以上、89質量%以上、又は90質量%以上であってもよい。乾燥剤層におけるシワ等の欠陥の抑制の観点から、酸化ストロンチウム粒子の量の割合は、99質量%以下、98質量%以下、97質量%以下、96質量%以下、又は95質量%以下であってもよい。
【0014】
乾燥剤組成物における酸化カルシウム粒子及び酸化ストロンチウム粒子の合計の含有量は、乾燥剤組成物の質量を基準として、30質量%以上、40質量%以上、50質量%以上、又は60質量%以上であってもよく、95質量%以下、90質量%以下、又は85質量%以下であってもよい。酸化カルシウム粒子及び/又は酸化ストロンチウム粒子を多く含む乾燥剤組成物であっても、ハイドロジェン変性シリコーンの導入により良好な粘度安定性を有することができる。ここで、乾燥剤組成物が溶剤を含む場合、本明細書で言及される乾燥剤組成物の質量を基準とする各成分の含有量は、乾燥剤組成物のうち溶剤を除く成分の合計質量を基準とする値を意味する。
【0015】
酸化カルシウム粒子及び酸化ストロンチウム粒子は、それぞれ、酸化カルシウム(CaO)及び酸化ストロンチウム(SrO)を主成分として含む粒子である。酸化カルシウム粒子は、通常、酸化カルシウム粒子の質量を基準として80質量%以上、又は90質量%以上の酸化カルシウムを含む。酸化ストロンチウム粒子は、通常、酸化ストロンチウム粒子の質量を基準として80質量%以上、又は90質量%以上の酸化ストロンチウムを含む。
【0016】
酸化カルシウム粒子及び酸化ストロンチウム粒子の平均粒径は、特に制限されないが、例えば、0.01~30μmであってもよい。酸化カルシウム粒子及び酸化ストロンチウム粒子の平均粒径がこの範囲であると、より高い捕水性能が得られる傾向にある。同様の観点から、酸化カルシウム粒子及び酸化ストロンチウム粒子の平均粒径は、0.1μm以上、0.5μm以上、又は1μm以上であってもよく、20μm以下、10μm以下、又は5μm以下であってもよい。
【0017】
本明細書において、酸化カルシウム粒子及び酸化ストロンチウム粒子の平均粒径は、動的光散乱式粒度分布計で測定した体積分布の中央値を意味する。この平均粒径は、酸化物粒子を所定の分散媒中に分散させて調整した分散液を用いて測定される値である。
【0018】
酸化カルシウム粒子及び酸化ストロンチウム粒子の比表面積は、5~60m/gであってもよい。比表面積が5~60m/gであると、乾燥剤組成物がより一層優れた捕水性能を有することできる。同様の観点から、酸化カルシウム粒子及び酸化ストロンチウム粒子の比表面積は、10m/g以上又は15m/g以上であってもよく、50m/g以下、40m/g以下、又は35m/g以下であってもよい。ここでの比表面積は、BET法によって測定される値を意味する。
【0019】
バインダー中の重合性成分は、1以上の重合性不飽和基を有する重合性化合物を含んでもよい。重合性化合物は、ポリシロキサン鎖と、ポリシロキサン鎖に結合した、重合性不飽和基を有する置換基とを有するシリコーン化合物であってもよい。例えば、重合性化合物が、下記式(10)で表される(メタ)アクリル変性シリコーンであってもよい。式(10)中、Rは2価の有機基を示し、Rは水素原子又はメチル基を示し、xは1以上の整数を示す。Rは、アルキレン基であってもよい。
【0020】
【化1】
【0021】
重合性成分(例えば(メタ)アクリル変性シリコーン)の含有量は、乾燥剤組成物の質量を基準として、12~48質量%であってもよい。
【0022】
バインダーは、乾燥剤組成物の粘度の安定性を向上するための分散剤を更に含んでもよい。分散剤は、例えば、下記式(1)で表される構成単位及び下記式(2)で表される構成単位を有するポリシロキサン鎖を有するシリコーン化合物であるハイドロジェン変性シリコーンを含んでもよい。式(1)及び(2)中、Rは炭素数1~3のアルキル基であり、メチル基であってもよい。
【0023】
【化2】
【0024】
粘度の安定性向上の観点から、分散剤(例えばハイドロジェン変性シリコーン)の含有量は、乾燥剤組成物の質量を基準として1~35質量%であってもよい。
【0025】
乾燥剤組成物は、ジメチルシリコーンを更に含んでもよい。ジメチルシリコーンを含む乾燥剤組成物は、塗工に適した粘度を更に有し易い。ジメチルシリコーンの25℃における粘度は、0.9~100Pa・sであってもよい。ジメチルシリコーンの含有量は、乾燥剤組成物の質量を基準として、1~37質量%であってもよい。
【0026】
乾燥剤組成物が、シリカ粒子等の無機フィラーを更に含んでもよい。無機フィラーの含有量は、例えば、乾燥剤組成物のうち無機フィラー以外の成分の合計量を基準として0.1~1.0質量%であってもよい。
【0027】
乾燥剤組成物が光重合開始剤を更に含んでもよい。光重合開始剤としては、例えば、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-1-ブタノン、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン、2-メチル-1[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モリフォリノプロパン-1-オン、及び1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オンが挙げられる。光重合開始剤の含有量は、乾燥剤組成物中の重合性成分の含有量に対して、例えば0.01~10質量%であってもよい。
【0028】
乾燥剤組成物の25℃における粘度は、5~500Pa・sであってもよい。乾燥剤組成物の25℃における粘度がこの範囲であると、塗布によって乾燥剤層をより容易に形成することができる。同様の観点から、乾燥剤組成物の粘度は、10Pa・s以上又は50Pa・s以上であってもよく、400Pa・s以下又は300Pa・s以下であってもよい。
【0029】
封止構造体
一実施形態に係る封止構造体は、対向配置された一対の基板と、一対の基板の外周部を封止する封止シール剤と、封止シール剤の内側で一対の基板の間に設けられた乾燥剤層とを備える。乾燥剤層は、上述の実施形態に係る乾燥剤組成物によって形成された層であることができる。乾燥剤層が、乾燥剤組成物の硬化物であってもよい。
【0030】
本実施形態の封止構造体は、水分の影響を受けやすいデバイスを封入する際に特に好適に利用することができる。このようなデバイスとしては、例えば、有機EL素子、有機半導体、有機太陽電池等の有機電子デバイスが挙げられる。
【0031】
有機ELデバイス
図1は、有機ELデバイスの一実施形態を示す断面図である。図1に示す有機ELデバイス20Aは、素子基板1と、素子基板1上に設けられた有機EL素子7と、封止基板3と、乾燥剤層10と、シール剤5とを備える。乾燥剤層10は、上述の実施形態に係る乾燥剤組成物の硬化物である。
【0032】
封止基板3は、素子基板1に対向する平坦な主面3Sを有する天板部3Aと、天板部3Aの外周端部から主面3Sに垂直な方向に延出する側壁部3Bとを有する。天板部3A及び側壁部3Bは、主面3Sを底面として有する凹部を形成している。乾燥剤層10は、封止基板3の主面3S上に形成されている。
【0033】
シール剤5は、封止基板3の側壁部3Bと素子基板1との間に介在しながら、封止基板3と素子基板1とを接着している。これにより素子基板1、封止基板3及びシール剤5に囲まれた気密空間30が形成されている。この気密空間30内に有機EL素子7及び乾燥剤層10が配置される。封止基板3は、側壁部3Bを有していない平坦な板状体であってもよい。
【0034】
有機ELデバイス20Aを構成する素子基板1は、特に限定されないが、典型的には、絶縁性及び透光性を有する、矩形の主面を有するガラス基板である。素子基板1上には、透明導電材(例えば、ITO(Indium Tin Oxide))によって電極51が形成されている。電極51は、例えば、真空蒸着法、スパッタ法等のPVD(Physical Vapor Deposition)法により素子基板1上にITO膜を形成することと、ITO膜をフォトレジスト法によるエッチングで所定のパターン形状にパターニングすることとを含む方法により形成される。電極51は、気密空間30の外側まで引き出されていてもよく、それにより電極51が駆動回路に接続されていてもよい。
【0035】
有機EL素子7は、対向配置された一対の電極51,52と、電極51及び電極52の間に設けられた有機層40とを有する。電極51が陽極で、電極52が陰極であってもよい。有機層40は、ホール注入層41、ホール輸送層42、発光層43及び電子輸送層44を有しており、これらが電極51側からこの順に積層されている。
【0036】
ホール注入層41は、例えば数10nmの膜厚の銅フタロシアニン(CuPc)から形成される。ホール輸送層42は、例えば数10nmの膜厚のbis[N-(1-naphthyl)-N-phenyl]benzidine(α-NPD)から形成される。発光層43は、例えば数10nmの膜厚のトリス(8-キノリノラト)アルミニウム(Alq)から形成される。電子輸送層44は、例えば数nmの膜厚のフッ化リチウム(LiF)から形成される。
【0037】
有機層40の上面上に電極52が積層されている。電極52は、真空蒸着法等のPVD法により形成された金属薄膜であってもよい。金属薄膜の材料としては、例えばAl、Li、Mg、In等の仕事関数の小さい金属単体やAl-Li、Mg-Ag等の仕事関数の小さい合金などが挙げられる。電極52は、例えば数10nm~数100nm、又は50nm~200nmの膜厚で形成される。電極52は、素子基板2の端部まで引き出されていてもよく、それにより電極52が駆動回路に接続されていてもよい。
【0038】
封止基板3は、ガラス基板であってもよい。シール剤5は、有機EL素子の封止のために通常用いられている材料を用いて形成することができる。例えば、紫外線硬化性樹脂によってシール剤5を形成することができる。
【0039】
有機ELデバイス20Aは、例えば、封止基板3の主面3S上に乾燥剤層10を形成する工程と、素子基板1上に有機EL素子7を形成する工程と、封止基板3を主面3Sが素子基板1に対向する向きで配置し、それにより素子基板1、有機EL素子7、乾燥剤層10及び封止基板3を備える有機ELデバイス20Aを形成する工程とを含む方法により、製造することができる。
【0040】
その他の工程は、有機ELデバイスの製造において通常採用されている方法に従って、行うことができる。封止基板を素子基板に接着する工程は、通常、除湿された乾燥雰囲気下で行われる。
【0041】
図2は、有機ELデバイスの他の一実施形態を示す断面図である。図2に示される有機ELデバイス20Bは、素子基板1と、素子基板1と対向配置された封止基板3と、素子基板1及び封止基板3の外周部を封止するシール剤5と、シール剤5の内側で素子基板1上に設けられた有機EL素子7と、シール剤5の内側で素子基板1と封止基板3との間に設けられた乾燥剤層10とを備える。
【0042】
乾燥剤層10は、上述の実施形態に係る乾燥剤組成物の硬化物である。乾燥剤層10は、有機EL素子7に接しながら有機EL素子7のうち素子基板1に接していない部分を覆うように形成されている。乾燥剤層10と封止基板3との間に気密な中空空間が形成されている。乾燥剤層10の厚さは、例えば1~300μmであってもよい。
【0043】
有機ELデバイス20Bは、例えば、乾燥剤組成物を塗布することにより、素子基板1上に設けられると共に有機EL素子7を覆う膜状の乾燥剤組成物を形成する工程と、膜状の乾燥剤組成物を硬化させて、乾燥剤層10を形成する工程とを含む方法によって製造することができる。乾燥剤層10が封止基板3上に設けられる場合、封止基板3上に膜状の乾燥剤組成物が形成される。塗布される乾燥剤組成物は、溶剤を含み得るが、典型的には実質的に無溶剤である。シール剤は、通常、UV照射及び/又は加熱により硬化することができる。
【実施例
【0044】
以下、実施例を挙げて本発明についてさらに具体的に説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0045】
1.乾燥剤組成物の調製
以下の原材料を準備した。バインダーとして用いられる各原材料の粘度は25℃における粘度である。これらを表1に示される配合量(g)で混合し、混合物を撹拌して、白色ペースト状の乾燥剤組成物1~7を得た。表1には、酸化ストロンチウム粒子及び酸化カルシウム粒子の合計量に対する前記酸化ストロンチウム粒子の量の割合(SrOの割合)も示される。
(1)捕水成分
・酸化ストロンチウム粒子(SrO、平均粒径2.5μm、比表面積1.7m/g)
・酸化カルシウム粒子(CaO、平均粒径1.7μm、比表面積15m/g)
(2)バインダー
・重合性成分:メタクリル変性シリコーン(粘度55mPa・s)
・分散剤:ハイドロジェン変性シリコーン(粘度1Pa・s)
・ジメチルシリコーン(粘度100Pa・s又は10Pa・s)
(3)無機フィラー
・シリカ粒子(アエロジル(商品名))
【0046】
2.乾燥剤組成物の粘度
乾燥剤組成物1~7の25℃における粘度を回転粘度計で測定した。その結果を下記表1に示す。
【0047】
【表1】
【0048】
3.乾燥剤組成物の吸湿性能
乾燥剤組成物1~7をぞれぞれ基板に塗布し、形成された乾燥剤組成物の膜を大気雰囲気下に放置した。放置された乾燥剤組成物の吸湿に伴う重量変化を測定した。図3は、乾燥剤組成物の重量が初期の重量に対して増加した割合(重量増加、質量%)と、放置時間との関係を示すグラフである。図3に示される結果から、SrOの割合が87.5質量%を超える乾燥剤組成物6、7は、特に高い吸湿性能を示すといえる。
【0049】
3.有機ELデバイスの作製とその評価
素子基板上に、ITO膜(膜厚140nm)をスパッタ法により形成し、これをフォトレジスト法によるエッチングで所定パターン形状にパターニングし、陽極を形成した。陽極の上面に、抵抗加熱法により、ホール注入層としての銅フタロシアニン(CuPc)膜(膜厚70nm)、ホール輸送層としてのBis[N-(1-naphthyl)-N-phenyl]benzidine(α-NPD)の膜(膜厚30nm)、発光層としてのトリス(8-キノリノラト)アルミニウム(Alq3)の膜(膜厚50nm)を順に形成した。さらに、発光層の上面に7nmの膜厚で電子輸送層としてのフッ化リチウム(LiF)膜(膜厚7nm)、及び陰極としてのアルミニウム膜(膜厚150nm)を物理蒸着により形成した。これにより、素子基板上に有機EL素子を形成した。
【0050】
次に、露点-76℃以下の窒素で置換されたグローブボックス中で、素子基板及び有機EL素子上に乾燥剤組成物1~6をそれぞれディスペンスによって塗布した。塗布により形成された膜状の乾燥剤組成物を紫外線照射により硬化させて、乾燥剤層を形成した。乾燥剤層を囲むように紫外線硬化型樹脂からなる封止シール剤をディスペンサによって塗布した。
【0051】
陽極、有機層及び陰極を積層した素子基板と封止基板とを貼り合わせた後、紫外線照射及び80℃の加熱により封止シール剤を硬化させて、有機ELデバイスを得た。
【0052】
得られた有機ELデバイスを85℃、85%RHの高温高湿環境に放置し、発光面積率の変化を追跡した。図4は、高温高湿環境における有機ELデバイスの発光面積残存率と経過時間との関係を示すグラフである。SrOの割合が87.5質量%を超える乾燥剤組成物6によって形成された乾燥剤層を含む有機ELデバイスは、2000時間経過後まで高い発光面積残存率を維持した。
【0053】
図5は、乾燥剤組成物6によって形成された乾燥剤層の光学顕微鏡写真である。シワが発生することなく、欠陥の認められない乾燥剤層が形成されていた。
【符号の説明】
【0054】
20A,20B…有機ELデバイス、1…素子基板、3…封止基板、5…シール剤、10…乾燥剤層。
図1
図2
図3
図4
図5