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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-24
(45)【発行日】2023-12-04
(54)【発明の名称】幹細胞の治療特性を改善するための方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/0775 20100101AFI20231127BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20231127BHJP
   A61K 35/28 20150101ALI20231127BHJP
   A61K 35/34 20150101ALI20231127BHJP
   A61K 35/44 20150101ALI20231127BHJP
【FI】
C12N5/0775
A61P21/00
A61K35/28
A61K35/34
A61K35/44
【請求項の数】 38
(21)【出願番号】P 2020502587
(86)(22)【出願日】2018-07-20
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-12-03
(86)【国際出願番号】 CA2018050883
(87)【国際公開番号】W WO2019014774
(87)【国際公開日】2019-01-24
【審査請求日】2021-07-20
(31)【優先権主張番号】62/534,905
(32)【優先日】2017-07-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】502395295
【氏名又は名称】アトミック エナジー オブ カナダ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】クロコフ、ドミトリー
(72)【発明者】
【氏名】セバスチャン、ソジ
(72)【発明者】
【氏名】ル、イェブゲニヤ
【審査官】小倉 梢
(56)【参考文献】
【文献】American Journal of Clinical Oncology,2011年,Vol. 34, No. 2,p. 215, 47
【文献】Stem Cell Research,2014年,Vol. 13,p. 492-507
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/00 - 5/28
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
幹細胞をプレコンディショニングする方法であって、
該方法が、
a)複数の標的幹細胞を含むサンプルを提供すること、
b)標的幹細胞に、放射線照射期間中に放射線源から放射される第1の線量の放射線を照射して、標的幹細胞を、その後の治療的処置プロセスにおける使用のために好適である放射線照射されているプレコンディショニングされた幹細胞に転換すること
を含み、
該標的幹細胞が筋幹細胞を含み、
該放射線の第1の線量が10mGy~100mGyの放射線を含み、かつ
標的筋幹細胞に放射線照射することにより、それぞれの標的筋幹細胞の少なくとも第1の細胞機能の加齢に伴う低下が軽減される、上記方法。
【請求項2】
第1の細胞機能が初期パフォーマンス値を有し、閾値加齢時間における加齢時パフォーマンス値を定義し、かつプレコンディショニングされた幹細胞が、加齢時パフォーマンス値と初期パフォーマンス値との間である閾値加齢時間での処理時パフォーマンス値を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
処理時パフォーマンス値が加齢時パフォーマンス値よりも初期パフォーマンス値に近い、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
標的幹細胞はそれぞれが、第2の初期パフォーマンス値を有し、かつ、第2の閾値加齢時間における第2の加齢時パフォーマンス値を定義する第2の細胞機能を含み、及びプレコンディショニングされた幹細胞が、第2の加齢時パフォーマンス値と第2の初期パフォーマンス値との間である第2の閾値加齢時間における第2の処理時パフォーマンス値を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
第2の閾値加齢時間が第1の閾値加齢時間と異なる、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
第2の処理時パフォーマンス値が第2の加齢時パフォーマンス値よりも第2の初期パフォーマンス値に近い、請求項4又は5に記載の方法。
【請求項7】
閾値加齢時間及び第2の閾値加齢時間のうちの少なくとも一方が閾値回数の細胞継代の完了によって決定される、請求項2~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
細胞継代の閾値回数が4を超える、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
細胞継代の閾値回数が4~23の間である、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法
【請求項10】
閾値加齢時間及び第2の閾値加齢時間のうちの少なくとも一方が細胞培養における経過時間によって決定される、請求項2~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
第1の細胞機能が細胞融合であり、初期パフォーマンス値が初期融合指数を含み、加齢時パフォーマンス値が加齢時融合指数を含み、及び処理時パフォーマンス値が処理時融合指数を含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
処理時融合指数が加齢時融合指数よりも大きい、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
処理時融合指数が加齢時融合指数の少なくとも2倍である、請求項11又は12に記載の方法。
【請求項14】
処理時融合指数が50%を超える、請求項11~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
処理時融合指数が60%を超える、請求項11~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
処理時融合指数が70%を超える、請求項11~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
プレコンディショニングされた幹細胞が、放射線照射されない標的幹細胞と比較して、筋線維への増大した分化を示す、請求項11~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
プレコンディショニングされた幹細胞が、放射線照射されない標的幹細胞と比較して、ミオゲニン、MyH3、MyoD、TKS5及びTMEM8cからなる群から選択される少なくとも1つのマーカーの発現が高くなっている、請求項11~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
標的幹細胞がヒト幹細胞である、請求項1~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
標的幹細胞がマウス幹細胞である、請求項1~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
放射線が電離放射線を含む、請求項1~20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
放射線が低線エネルギー付与(LET)電離放射線を含む、請求項1~21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
放射線がγ放射線及びX線放射線の少なくとも1つを含む、請求項1~22のいずれか一項記載の方法。
【請求項24】
放射線がγ放射線を含む、請求項1~23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
放射線の第1の線量が10mGyである、請求項1~24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
放射線の第1の線量が50mGyである、請求項1~25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
放射線の第1の線量が100mGyである、請求項1~26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
標的幹細胞がインビトロの間に放射線照射される、請求項1~27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
標的幹細胞がエクスビボの間に放射線照射される、請求項1~28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
請求項1~29のいずれか一項に記載の方法によって得られるプレコンディショニングされた幹細胞を含む医薬組成物。
【請求項31】
プレコンディショニングされた幹細胞がその必要性のある対象に投与される、請求項30に記載の医薬組成物。
【請求項32】
対象がヒトである、請求項31に記載の医薬組成物。
【請求項33】
対象が筋疾患を有する、請求項31又は32に記載の医薬組成物。
【請求項34】
請求項1~29のいずれか一項に記載の方法を使用することによって得られる、プレコンディショニングされた幹細胞の集団。
【請求項35】
プレコンディショニングされた幹細胞が、筋幹細胞を含み、LDRにさらされたことがない標的幹細胞と比較したとき、閾値加齢時間において筋線維への増大した分化を示す、請求項34に記載の集団。
【請求項36】
プレコンディショニングされた筋幹細胞は、LDRにさらされたことがない筋幹細胞と比較して、ミオゲニン、MyH3、MyoD、TKS5及びTMEM8cからなる群から選択される少なくとも1つのマーカーの発現が高くなっている、請求項35に記載の集団。
【請求項37】
請求項1~29のいずれか一項に記載の方法を使用することによって得られるプレコンディショニングされた幹細胞と、担体とを含む医薬組成物。
【請求項38】
請求項1~29のいずれか一項に記載の方法を使用することによって得られるプレコンディショニングされた幹細胞を含む、筋疾患を治療するための医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は米国仮特許出願第62/534,905号(2017年7月20日出願、発明の名称:幹細胞の治療特性を改善するための方法)の利益を主張する。尚、当該仮特許出願の全体が参照によって本明細書中に組み込まれる。
【0002】
本開示は、幹細胞の再生特性及び治療特性を改善するための方法、ならびに開示された方法を使用して得られる幹細胞に関する。具体的には、本開示は、幹細胞を低線量放射線(LDR)にさらすことによって幹細胞の再生特性及び治療特性を改善するための方法に関する。本開示はまた、LDRにさらされた幹細胞、及びその使用方法に関する。
【背景技術】
【0003】
骨格筋はヒト身体における最大の器官であり、その長期維持は筋幹細胞(これは別名、サテライト細胞として知られている)に依存している。筋幹細胞は、成人の骨格筋における常在性幹細胞の主要な集団を表している[Sambasivan及びTajbakhsh、2007]。これらの成体幹細胞により、筋組織の生後の成長、再構築及び修復が促進させられる。筋損傷(これは、どのような身体活動であれその期間中にヒトが日常的に経験するものである)を受けたとき、サテライト細胞が筋肉塊を横切って筋線維の表面から損傷領域に再配置し、広範囲に増殖する[Charge他、2004]。この増殖の期間中に、サテライト細胞は下記の2つの運命の一方を取る:1)自己再生及びスタンバイモードへの切り替え(この場合、サテライト細胞は予備細胞と呼ぶことができる)、又は2)損傷した筋線維と融合して筋肉を修復することになる筋芽細胞を形成するための分化。実際、骨格筋の再生能力により、そのような分化は、哺乳類の組織再生の最もよく研究された例の1つになっている。その結果、サテライト細胞を使用する筋疾患の処置には大きな将来性がある[Aziz他、2012]。
【0004】
筋疾患は大雑把には、a)遺伝性(例えば、デュシェンヌ型筋ジストロフィー、顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー)、b)加齢に関連したもの(例えば、サルコペニア)、及びc)その他の疾患に関連したもの(例えば、ガン、腎不全又は慢性閉塞性肺疾患などに伴う悪液質)に分けることができる。一括して、様々な筋ジストロフィーの一群は主要な医学的問題を表しており、現在、それらのいずれについても治療法がない。集中的な取り組みが、サテライト細胞の使用を含む再生治療戦略を開発することに向けて行われている[Bengal他、2017;Crist、2017]。
【0005】
過去10年において、サテライト細胞の単離及び適度な濃縮のための様々な方法が進歩している。しかしながら、多くの制約のために、これらの取り組みは、筋疾患を処置するための効率的な治療法にはまだなっていない。例えば、制約の1つが、治療的移植目的のためには十分でないサテライト細胞の低い収量に関連する[Kuang及びRudnicki、2008]。エクスビボでの増殖により、最終的な収量が改善される場合がある。しかしながら、何回かの継代培養は典型的には、幹細胞性の喪失、DNA損傷の蓄積、より高い免疫原性、及び他の望ましくない結果を引き起こす。その後、これらは、移植後における免疫学的拒絶、及び非効率的な筋線維形成/再生をもたらす可能性がある。加えて、筋幹細胞は注入点から大きい距離を移動することができず、このことが、宿主筋肉への一体化が不良であることの原因となっている。筋疾患を処置するためにサテライト細胞又は筋芽細胞を使用する臨床試験がいまだ成功していないことは驚くことではない[Tedesco他、2010]。代替となるアプローチには、多能性ヒト胚性幹細胞(hES)又は人工ヒト多能性幹細胞(ihPS)の使用が含まれる[Maffioletti他、2015]。それにもかかわらず、サテライト細胞をhES細胞又はihPS細胞から定方向的に産生させる非常に長いプロトコルは依然として、インビトロでの成長及び増殖に関連づけられる問題に悩まされる場合がある[Chal他、2015]。したがって、インビトロ又はエクスビボで維持された筋幹細胞のプレコンディショニングで、成功した治療にとって重要であるその筋同一性及び幹細胞同一性ならびに他の特性又は機能を保っておくこと、及び/又は改善することを助けるであろうプレコンディショニングが必要である。
【発明の概要】
【0006】
身体内のすべての細胞又は特定の組織系譜(例えば、血液)を生じさせる多分化能実体の存在が1909年にロシア人科学者アレクサンダー・マキシモウ(Alexander Maximow)によって仮定されたにもかかわらず、成体組織幹細胞(SC)の概念が認められ、受け入れられたのは、最近になってからであった1。今では、身体内のほぼすべての組織が、自己再生、増殖、及び成熟細胞サブタイプへの分化が可能である多分化能の静止細胞の小さいサブセットを内部に有することが知られている。これらの細胞は組織損傷のときに活性化され、動員され、分裂し、分化して、疾患組織、加齢組織又は損傷組織に取って代わる。幹細胞のこのような特異な特性及びその再生能力の発見により、これらの細胞を治療目的のために利用することが可能となった。
【0007】
非常に有望であるが、幹細胞療法は、治療法の開発を裏付けるために十分である数でSCを得るという難題によって妨げられている。幹細胞は、所与の組織におけるすべての成体細胞の非常に少ない割合(0.01%~0.001%の程度)を構成している。したがって、幹細胞を、特殊な培地配合物を使用してインビトロで増やすことが必要である。残念ながら、幹細胞のこのエクスビボ操作は、その早期加齢、幹細胞性の喪失、ならびに著しく低下した機能的能力及び再生能力を引き起こしている4。結果として、北米における唯一の現時点で承認された幹細胞療法は造血幹細胞移植であり、この場合、エクスビボでの幹細胞増殖が何ら要求されていない。したがって、インビトロでの増殖の後において幹細胞の加齢を遅らせ、かつ、SCの機能的能力及び再生能力を改善する方法が非常に望ましい。
【0008】
本開示では、幹細胞を低線量放射線(LDR)にさらすことによって幹細胞の再生特性及び治療特性を改善することが記載される。いくつかの例において、本明細書中に記載される方法は、特定の幹細胞タイプの加齢ならびに当該幹細胞タイプの1つ又は複数の属性及び/又は特性の加齢関連劣化を遅らせることを助けるために使用することができる。すなわち、加齢の放射線照射幹細胞は、1つ又は複数の標的属性の加齢関連劣化が、若齢の幹細胞と比較したとき、加齢の放射線非照射幹細胞よりも少ない場合がある。例えば、放射線照射される幹細胞は、同じタイプの放射線非照射幹細胞よりも、細胞が加齢するにつれてその属性の1つ又は複数(例えば、増殖、分化、融合指数など)における低下が遅くなっていることを示す場合がある。
【0009】
一例において、本発明者らは、放射線照射された筋幹細胞は1つ又は複数の属性の加齢関連劣化が少なくなっていることを示す場合があることを明らかにしている。例えば、放射線照射された筋幹細胞は、培養物がLDRにさらされるならば、筋芽細胞が筋線維に分化する能力に対するその効率が高まっている。本発明者らはまた、本明細書中に記載される技術が場合によっては、また、いくつかのタイプの幹細胞については、幹細胞の機能的能力を高めることを助ける場合があること、及び/又は機能における加齢に伴う低下の少なくともいくつかの局面を遅らせることを助ける場合があることを明らかにしている。本発明者らはまた、刺激されると、筋形成の分化マーカーが、放射線非照射コントロールと比較して、LDRにさらされていた筋芽細胞の培養物では増大することを明らかにしている。
【0010】
他の例において、本発明者らは、放射線照射された間葉系の幹細胞/間質細胞及び始原体細胞(MSC/MSPC)は、同じタイプで、細胞齢/状態が類似する放射線非照射の幹細胞と比較した場合、1つ又は複数の属性(例えば、増殖及び/又は分化など)の加齢関連劣化が少なくなっていることを示す場合があることを明らかにしている。
【0011】
他の例において、本発明者らは、放射線照射された内皮コロニー形成細胞(ECFC)/内皮幹細胞(ESC)が、同じタイプで、細胞齢/状態が類似する放射線非照射の幹細胞と比較した場合、1つ又は複数の属性(例えば、増殖潜在能及び/又は遊走潜在能など)の加齢関連劣化が少なくなっていることを示す場合があることを明らかにしている。
【0012】
本明細書中に記載される教示の1つの幅広い局面に一致して、幹細胞をプレコンディショニングする方法は、幹細胞を、プレコンディショニングされた幹細胞を提供することを助け得る低線量放射線(LDR)にさらすことを含む場合がある。これにより、例えば、幹細胞の機能的能力が高まる場合があり、また、放射線照射されていない類似した幹細胞と比較されるような、幹細胞機能における加齢に伴う低下を遅らせることが助けられる場合がある。
【0013】
放射線は電離放射線である場合があり、必要に応じてγ放射線又はX線放射線である場合がある。
【0014】
細胞は1mGy~500mGyの放射線にさらされる場合があり、必要に応じて5mGy~200mGyの放射線又は8mGy~150mGyの放射線にさらされる場合がある。
【0015】
幹細胞は筋幹細胞である場合がある。
【0016】
幹細胞は間葉系の幹細胞/間質細胞及び始原体細胞である場合がある。
【0017】
幹細胞は内皮コロニー形成細胞/内皮の幹細胞及び始原体細胞である場合がある。
【0018】
幹細胞は造血系の幹細胞及び始原体細胞である場合がある。
【0019】
幹細胞はヒト幹細胞である場合があり、又は必要に応じてマウス幹細胞である場合がある。
【0020】
幹細胞は、インビトロ又はエクスビボでLDRにさらされる場合がある。
【0021】
プレコンディショニングされた筋幹細胞は場合によっては、LDRにさらされたことがない筋幹細胞と比較して、筋線維への増大した分化を示す場合がある。
【0022】
プレコンディショニングされた筋幹細胞は場合によっては、LDRにさらされたことがない筋幹細胞と比較して、ミオゲニン、MyH3、MyoD、TKS5及びTMEM8cからなる群から選択される少なくとも1つのマーカーの発現が高くなっている場合がある。
【0023】
上記方法は、プレコンディショニングされた幹細胞をその必要性のある対象に投与する工程を含む場合がある。
【0024】
対象はヒトである場合がある。
【0025】
対象は筋疾患を有する場合がある。
【0026】
プレコンディショニングされた幹細胞の集団が提供される場合があり、また、幹細胞を低線量放射線(LDR)にさらすことによって得られる場合がある。
【0027】
放射線は電離放射線である場合があり、必要に応じてγ放射線又はX線放射線を含む場合がある。
【0028】
細胞は約1mGy~約500mGyの放射線にさらされる場合があり、必要に応じて約5mGy~約200mGyの放射線又は約8mGy~約150mGyの放射線にさらされる場合がある。幹細胞は筋幹細胞である場合がある。
【0029】
幹細胞は間葉系の幹細胞/間質細胞及び始原体細胞である場合がある。
【0030】
幹細胞は内皮コロニー形成細胞/内皮の幹細胞/始原体細胞である場合がある。
【0031】
幹細胞はヒト幹細胞である場合があり、又は必要に応じてマウス幹細胞である場合がある。
【0032】
プレコンディショニングされた筋幹細胞は、LDRにさらされたことがない筋幹細胞と比較して、筋線維への増大した分化を示す場合がある。
【0033】
プレコンディショニングされた筋幹細胞は、LDRにさらされたことがない筋幹細胞と比較して、ミオゲニン、MyH3、MyoD、TKS5及びTMEM8cからなる群から選択される少なくとも1つのマーカーの発現が高くなっている場合がある。
【0034】
本明細書中に記載される教示の別の幅広い局面に一致して、医薬組成物は、本明細書中に記載されるプレコンディショニングされた幹細胞を含めて、プレコンディショニングされた幹細胞の細胞集団と、担体とを含む場合がある。
【0035】
本明細書中に記載される教示の別の幅広い局面に一致して、対象における筋疾患を処置する方法は、本明細書中に記載される少なくともいくつかのプレコンディショニングされた幹細胞をその必要性のある対象に投与することを含む場合がある。プレコンディショニングされた幹細胞は筋幹細胞である場合がある。
【0036】
本明細書中に記載されるプレコンディショニングされた筋幹細胞は、筋疾患の処置をその必要性のある対象において行うために使用される場合がある。
【0037】
本明細書中に記載される教示の別の幅広い局面に一致して、幹細胞をプレコンディショニングする方法は、下記の工程を含む場合がある:
a)複数の標的幹細胞を含むサンプルを提供する工程、
b)標的幹細胞に、放射線照射期間中に放射線源から放射される第1の線量の放射線を照射して、標的幹細胞を、その後の治療的処置プロセスにおける使用のために好適である放射線照射されているプレコンディショニングされた幹細胞に転換する工程。
【0038】
標的幹細胞に放射線照射することにより、それぞれの標的幹細胞の少なくとも第1の細胞機能の加齢に伴う低下が軽減される場合がある。
【0039】
第1の細胞機能は初期パフォーマンス値を有する場合があり、閾値加齢時間における加齢時パフォーマンス値を規定する場合がある。プレコンディショニングされた幹細胞は、加齢時パフォーマンス値と初期パフォーマンス値との間であってもよい閾値加齢時間における処理時パフォーマンス値、場合によってはそれよりも大きくてもよい閾値加齢時間における処理時パフォーマンス値を有する場合がある。
【0040】
処理時パフォーマンス値は、加齢時パフォーマンス値よりも初期パフォーマンス値に近い場合がある。
【0041】
標的幹細胞はそれぞれが、第2の初期パフォーマンス値を有し、かつ、第2の閾値加齢時間における第2の加齢時パフォーマンス値を規定する第2の細胞機能を含む場合がある。プレコンディショニングされた幹細胞は第2の閾値加齢時間における第2の処理時パフォーマンス値を有する場合があり、第2の処理時パフォーマンス値は、第2の加齢時パフォーマンス値と第2の初期パフォーマンス値との間である場合がある。
【0042】
第2の閾値加齢時間は第1の閾値加齢時間と異なる場合がある。
【0043】
第2の処理時パフォーマンス値は、第2の加齢時パフォーマンス値よりも第2の初期パフォーマンス値に近い場合がある。
【0044】
閾値加齢時間及び第2の閾値加齢時間のうちの少なくとも一方が閾値回数の細胞継代の完了によって決定される場合がある。
【0045】
細胞継代の閾値回数は4を超える場合があり、4~23の間である場合がある。
【0046】
閾値加齢時間及び第2の閾値加齢時間のうちの少なくとも一方が細胞培養における経過時間によって決定される場合がある。
【0047】
標的幹細胞は筋幹細胞を含む場合がある。第1の細胞機能は細胞融合を含む場合があり、初期パフォーマンス値は初期融合指数を含む場合があり、加齢時パフォーマンス値は加齢時融合指数を含む場合があり、処理時パフォーマンス値は処理時融合指数を含む場合がある。
【0048】
処理時融合指数は加齢時融合指数よりも大きい場合がある。
【0049】
処理時融合指数は加齢時融合指数の少なくとも2倍である場合がある。
【0050】
処理時融合指数は50%を超える場合があり、60%超及び70%超である場合がある。
【0051】
プレコンディショニングされた幹細胞は、放射線照射されない標的幹細胞と比較して、筋線維への増大した分化を示す場合がある。
【0052】
プレコンディショニングされた幹細胞は、放射線照射されない標的幹細胞と比較して、ミオゲニン、MyH3、MyoD、TKS5及びTMEM8cからなる群から選択される少なくとも1つのマーカーの発現が高くなっている場合がある。
【0053】
【0054】
標的幹細胞は間葉系幹細胞を含む場合がある。第1の細胞機能は増殖を含む場合があり、初期パフォーマンス値は初期倍加時間を含む場合があり、加齢時パフォーマンス値は加齢時倍加時間を含む場合があり、処理時パフォーマンス値は処理時倍加時間を含む場合がある。
【0055】
処理時倍加時間は加齢時倍加時間よりも少ない場合がある。
【0056】
処理時倍加時間は加齢時倍加時間の50%未満である場合がある。
【0057】
処理時倍加時間は初期倍加時間の3倍未満である場合がある。
【0058】
細胞継代の閾値回数は12~15の間である場合がある。
【0059】
細胞継代の閾値回数は14又は15である場合があり、必要に応じて15である場合がある。
【0060】
標的幹細胞は、軟骨形成分化である第2の細胞機能を含む場合がある。第2の初期パフォーマンス値は初期分化能力を含む場合があり、第2の加齢時パフォーマンス値は第2の閾値加齢時間における加齢時分化能力を含む場合があり、第2の処理時パフォーマンス値は第2の閾値加齢時間における処理時分化能力を含む場合がある。
【0061】
標的幹細胞は間葉系幹細胞を含む場合がある。第1の細胞機能は軟骨形成分化である場合があり、初期パフォーマンス値は初期分化能力を含む場合があり、加齢時パフォーマンス値は加齢時分化能力を含む場合があり、処理時パフォーマンス値は処理時分化能力を含む場合がある。
【0062】
処理時分化能力は加齢時分化能力よりも大きい場合がある。
【0063】
処理時分化能力は初期分化能力よりも大きい場合がある。
【0064】
処理時分化能力は初期分化能力の少なくとも60%である場合がある。
【0065】
処理時分化能力は加齢時分化能力の少なくとも150%である場合がある。
【0066】
処理時分化能力と初期分化能力との差が、加齢時分化能力と初期分化能力との差よりも小さい場合がある。
【0067】
標的幹細胞は内皮コロニー形成細胞を含む場合がある。第1の細胞機能は増殖である場合があり、初期パフォーマンス値は初期倍加時間を含む場合があり、加齢時パフォーマンス値は加齢時倍加時間を含む場合があり、処理時パフォーマンス値は処理時倍加時間を含む場合がある。
【0068】
処理時倍加時間は加齢時倍加時間よりも少ない場合がある。
【0069】
処理時倍加時間は加齢時倍加時間よりも少ない場合がある。
【0070】
閾値加齢時間は、5~8の間、6~8の間、7又は8である、必要に応じて少なくとも5又は少なくとも8であってもよい閾値回数の細胞継代によって規定される場合がある。
【0071】
第2の細胞機能は遊走である場合がある。第2の初期パフォーマンス値は、所定の細胞密集度を達成するための初期時間を含む場合があり、第2の加齢時パフォーマンス値は、所定の細胞密集度を第2の閾値時間において達成するための加齢時時間を含む場合があり、第2の処理時パフォーマンス値は、所定の細胞密集度を第2の閾値時間において達成するための処理時時間を含む場合がある。
【0072】
所定の細胞密集度は少なくとも60%である場合がある。
【0073】
所定の細胞密集度を達成するための処理時時間は、所定の細胞密集度を達成するための加齢時時間よりも少ない場合がある。
【0074】
所定の細胞密集度を達成するための処理時時間は、所定の細胞密集度を達成するための初期時間の約1.4倍~1.8倍の間である場合がある。
【0075】
標的幹細胞は内皮コロニー形成細胞を含む場合がある。細胞機能は遊走を含む場合があり、初期パフォーマンス値は、所定の細胞密集度を達成するための初期時間を含む場合があり、加齢時パフォーマンス値は、所定の細胞密集度を達成するための加齢時時間を含む場合があり、処理時パフォーマンス値は、所定の細胞密集度を達成するための処理時時間を含む場合がある。
【0076】
所定の細胞密集度は少なくとも60%である場合がある。
【0077】
所定の細胞密集度を達成するための処理時時間は、所定の細胞密集度を達成するための加齢時時間よりも少ない場合がある。
【0078】
所定の細胞密集度を達成するための処理時時間は、所定の細胞密集度を達成するための初期時間の約1.4倍~1.8倍の間である場合がある。
【0079】
標的幹細胞はヒト幹細胞である場合がある。
【0080】
標的幹細胞はマウス幹細胞である場合がある。
【0081】
放射線は電離放射線を含む場合がある。
【0082】
放射線は低線エネルギー付与(LET)電離放射線を含む場合がある。
【0083】
放射線はγ放射線及びX線放射線の少なくとも一方を含む場合があり、必要に応じてγ放射線である場合がある。
【0084】
放射線の第1の線量は約1mGy~約500mGyの間の放射線を含む場合がある。
【0085】
放射線の第1の線量は約2mGy~約200mGyの間の放射線を含む場合がある。
【0086】
放射線compの第1の線量は、約2mGy~約200mGyの間での放射線の増大を含む場合がある。
【0087】
放射線の第1の線量は約10mGy~約100mGyの間の放射線を含む場合がある。
【0088】
放射線の第1の線量は約10mGyである場合がある。
【0089】
放射線の第1の線量は約50mGyである場合がある。
【0090】
放射線の第1の線量は約100mGyである場合がある。
【0091】
標的幹細胞は、処置されることになる対象の体内内においてインビトロの間に放射線照射される場合がある。
【0092】
標的幹細胞はエクスビボの間に放射線照射される場合がある。
【0093】
上記方法は、プレコンディショニングされた幹細胞をその後の治療プロセスにおいて使用することを含む場合がある。
【0094】
上記方法は、プレコンディショニングされた幹細胞をその必要性のある対象に投与することを含む場合がある。対象はヒトである場合があり、必要に応じて筋疾患を有する場合がある。
【0095】
本明細書中に記載される教示の別の幅広い局面に一致して、プレコンディショニングされた幹細胞の集団が、本明細書中に記載される方法を使用することによって得られる場合がある。
【0096】
プレコンディショニングされた幹細胞は筋幹細胞を含む場合があり、LDRにさらされたことがない標的幹細胞と比較したとき、閾値加齢時間において筋線維への増大した分化を示す場合がある。
【0097】
プレコンディショニングされた筋幹細胞は、LDRにさらされたことがない筋幹細胞と比較して、ミオゲニン、MyH3、MyoD、TKS5及びTMEM8cからなる群から選択される少なくとも1つのマーカーの発現が高くなっている場合がある。
【0098】
本明細書中に記載される教示の別の幅広い局面に一致して、医薬組成物は、本明細書中に記載される方法を使用することによって得られるプレコンディショニングされた幹細胞をいずれかの好適な担体との組合わせで含む場合がある。
【0099】
本明細書中に記載される教示の別の幅広い局面に一致して、筋疾患を処置する方法は、本明細書中に記載される方法を使用することによって得られるプレコンディショニングされた幹細胞をその必要性のある対象に投与することを含む場合がある。
【0100】
本明細書中に記載される教示の別の幅広い局面に一致して、本明細書中に記載される方法に従って作製されるプレコンディショニングされた幹細胞の使用は、筋疾患をその必要性のある対象において処置するために使用される場合がある。
【0101】
本開示の他の特徴及び利点が以下の詳細な説明から明らかになるであろう。しかしながら、詳細な説明及び具体的な例は、本開示の好ましい実施形態を示す一方で、例示としてのみ与えられることを理解しなければならない。これは、本開示の精神及び範囲に含まれる様々な変更及び改変がこの詳細な説明から当業者には明らかになるであろうからである。
【0102】
次に、開示が図面に関連して説明される。
【図面の簡単な説明】
【0103】
図1】筋幹細胞を筋肉の加齢及び再生についてのモデルとして示す。寿命期間の全体にわたる多数回のこのサイクルにより、尽きてくる再生潜在能及び筋肉記憶の喪失を介した筋幹細胞の加齢が表される。具体的には、筋幹細胞は、増殖的拡大をもたらす数回の分裂を受ける。分裂している幹細胞の一部が自己再生プロセスを受け、予備の幹細胞になる。外部シグナルを受け取ると、幹細胞は分化し、融合して、幹細胞としての予備細胞を含む筋線維を形成する[Yaffe及びSaxel、1997]。予備細胞はこのサイクルを再び受けることができる。多数回のそのような循環と、幹細胞プールの枯渇とにより、加齢特徴がもたらされる。このプロセスを、C2C12細胞を使用してインビトロでモデル化することができる。
【0104】
図2】実験設計を示す。C2C12筋芽細胞をLDR(0mGy、10mGy又は100mGy)にさらし、予備細胞の分化及び分離を(図1に記載されるように)連続して繰り返すことにより、30日間、60日間及び90日間にわたって維持した。
【0105】
図3】LDR曝露が、培養の経過に伴う筋原性潜在能の低下を反転させることを示す。A:分化培地で4日間維持された培養物の抗MHC抗体による筋特異的ミオシン重鎖(MHC)についての免疫染色(倍率、40X)。B:LDRを伴う、又は伴わない様々な培養齢の分化したC2C12培養物における融合指数の定量化。値は3つの独立した実験の平均である。
【0106】
図4】LDR曝露が、C2C12筋芽細胞の長期培養物によって形成される筋線維における筋原性のタンパク質及び遺伝子のレベルを回復させることを示す。A:様々な培養齢の非処理コントロール及び放射線照射培養物(10mGy及び100mGy)、同様にまた若齢細胞を、筋管を形成させるために2%ウマ血清において72時間インキュベーションした。全細胞溶解物に対するウエスタンブロット分析は、ミオゲニン及びMyh3が未処理コントロールでは低下したこと、しかし、レベルが放射線照射細胞では部分的に回復したことを示した。B:未処理コントロール及び放射線照射細胞(10mGy及び100mGy)の60日齢培養物、同様にまた若齢細胞を2%ウマ血清において48時間インキュベーションした。RNAを抽出し、RT-qPCR分析を行って、筋分化及び融合の様々な遺伝子マーカーのmRNAレベルを定量化した。データは、分化マーカーのミオゲニン及びMyh3ならびに融合遺伝子のTKS5及びTMEM8c(Myomaker)が未処理コントロールでは培養の経過に伴って急激に低下したこと、しかし、mRNAレベルが放射線照射細胞では部分的に回復したことを示す。値は単回実験の3つの技術的反復物の平均+/-SDである。
【0107】
図5】次世代シーケンシングを使用するマウス筋細胞における網羅的遺伝子発現プロファイリングを示す。A.NGSによるRNAseqのための実験計画の概略図。若齢のマウス筋細胞を10mGy及び100mGyの線量のために急性放射線照射し、60日間にわたって培養で加齢させ、筋線維を形成するように分化させた。サンプルを、NGS技術を使用するRNAseq分析のために供した。B.10mGy及び100mGyで処理された細胞における遺伝子発現を、Cuffdiff NGS分析ツールを使用して非処理コントロール細胞と比較し、示差的発現遺伝子をベン図として表した。
【0108】
図6A図5Bにおけるベン図からの示差的発現遺伝子に対する遺伝子オントロジー分析を示すグラフである。
図6B図5Bにおけるベン図からの示差的発現遺伝子に対する遺伝子オントロジー分析を示すグラフである。処理された細胞は、筋原性の経路及びプロセスを介した筋線維形成のために要求される遺伝子の発現がより大きいことを示した。表1を参照のこと。
【0109】
図7】生検物由来のヒト筋幹細胞に対して行われた実験からの認められた有益な効果を示す。A:実験計画のグラフ表示であり、若齢のヒト筋幹細胞をLDR(0mGy、10mGy又は100mGy)にさらし、14日間にわたって成長培地で維持し、2%ウマ血清を含有する分化培地で3日間にわたって分化させて、筋線維を形成させた。B:処理された幹細胞及び非処理の幹細胞に由来する筋線維から得られる代表的な免疫蛍光顕微鏡法画像。グラフ表示は、非処理コントロール幹細胞と比較して、処理された幹細胞での融合指数における60%~70%の増大を示す(n=3回の実験)。
【0110】
図8】放射線照射MSPCの培養物における遅れた加齢を示す。A:p4からp15にまで培養で加齢するにつれ、倍加時間がMSPCについては24.4時間から95.5時間にまで増大した。B:p4細胞を、10mGy、50mGy及び100mGyで放射線照射し、p14及びp15にまで加齢させた。倍加時間の測定を行い、p4の非処理コントロールの倍加時間に対してプロットした。放射線照射群を同じ継代で未処理コントロールと比較した。アスタリスクは、有意な変化であることを示す(p<0.5)。
【0111】
図9】放射線照射ECFCの培養物における遅れた加齢を示す。A:細胞がp4からp8にまで培養で加齢するにつれ、倍加時間がECFCクローン13については20.0時間から71.9時間にまで増大した。B:p4細胞を、10mGy、50mGy及び100mGyで放射線照射し、p8にまで加齢させた。倍加時間の測定を行い、p4の非処理コントロールの倍加時間に対してプロットした。放射線照射群を同じ継代で未処理コントロールと比較した。アスタリスクは、比較的有意な変化であることを示す(p<0.5)。
【0112】
図10】放射線照射された加齢MSPCの増大した軟骨形成分化を示す。若齢のp4細胞を、10mGy、50mGy及び100mGyのガンマ線で急性放射線照射し、5回及び15回の継代にまで加齢させた。p5及びp15の放射線照射細胞をその後、軟骨形成分化培地において14日間、軟骨形成系譜に沿って分化させた。得られた軟骨細胞ペレットを処理し、切片化し、材料及び方法において記載されるアグリカンについて染色した。A:ペレット切片の総蛍光強度を、ImageJの未処理積算密度計算を使用して定量化した。すべての値を未処理のp5コントロールに対して正規化した。アスタリスクは、統計学的に有意な(p<0.05)変化であることを示す。B:加齢のp15未処理(UT)細胞ペレット及び10mGy放射線照射細胞ペレットに由来する代表的な染色された軟骨細胞切片。実験を二連で行った。白色棒は400umを表す。
【0113】
図11】放射線照射された加齢ECFCの増大した遊走を示す。データは引っ掻き創傷アッセイを表す。傷を細胞単層において生じさせた。細胞を24時間モニターし、その遊走能を傷閉鎖速度によって推定した。A:創傷部の細胞密集度を加齢の未処理細胞及び処理細胞について引っ掻き後10時間で測定し、若齢(p4)の未処理細胞によって達成される細胞密集度と比較して表した。B:60%の細胞密集度を達成するまでの時間を加齢の未処理細胞及び処理細胞について推定し、若齢(p4)の未処理細胞によって達成される細胞密集度と比較して表した。アスタリスクは、有意な変化であることを示す(p<0.5)。
【発明を実施するための形態】
【0114】
様々な装置又はプロセスが、それぞれの特許請求された発明の1つの実施形態の一例を提供するために下記に記載されるであろう。下記に記載される実施形態はどれも、特許請求されたどの発明も限定するものではなく、また、特許請求された発明はどれも、下記に記載されるプロセス又は装置とは異なるプロセス又は装置を包含し得る。特許請求された発明は、下記に記載されるいずれか1つの装置又はプロセスの特徴のすべてを有する装置又はプロセス、あるいは下記に記載される装置の複数又はすべてに共通する特徴に限定されない。下記に記載される装置又はプロセスは、どのような発明であれ特許請求された発明の実施形態でないことが可能である。本書において特許請求されない下記に記載される装置又はプロセスにおいて開示される発明はどれも、保護のための別の書類(例えば、継続特許出願)の主題となる場合があり、本出願人、発明者又は所有者は、どのような発明であれそのような発明を本書におけるその開示によって放棄すること、否認すること、又は公開することを意図していない。
【0115】
広範囲の様々なヒトの障害及び疾患を臨床において処置するための、例えば、ヒト幹細胞を含めて幹細胞の使用が、過去10年間にわたって拡大してきており、しかし、これらの過去の使用法に関してはいくつかの制限がある。例えば、いくつかの制限が、幹細胞がエクスビボ又はインビトロで操作され続けられるにつれて一般には低下することがある幹細胞の様々な機能的特性(例えば、効率的かつ堅調に増殖及び分化し得ること、細胞死及びその他の抑制シグナルに抵抗し得ることなど)に関連する場合がある。
【0116】
そのような治療的処置のための幹細胞の使用を伴ういくつかの既存の慣行に関する1つの難題が、元の若齢幹細胞の提供と、治療的処置におけるその最終的使用との間における時間遅延又は時間差であり得る。この期間中において、幹細胞は加齢する可能性があり、このことにより、細胞の1つ又は複数の機能が影響を受ける場合がある。例えば、所与の幹細胞の1つ又は複数の細胞機能が、加齢に伴うその機能における低下に遭遇する場合がある。このことは場合によっては、その後の治療的処置におけるその有用性及び/又は有効性に影響を及ぼすことがある損なわれた細胞機能を有する加齢の幹細胞をもたらす可能性がある。本明細書中に記載されるように、本発明者らは、未処理の標的幹細胞の一群に放射線照射することを含む、幹細胞をプレコンディショニングする方法であって、依然として幹細胞を生きたままにし、かつ、治療的処置における使用のために好適にしたままにしながら、処理された幹細胞が加齢する際のいくつかの細胞機能の加齢に伴う低下の少なくともいくつかのタイプを軽減するのを助け得る方法を発見している。本明細書中で使用される場合、用語「プレコンディショニング」は、細胞の再生特性及び/又は機能的特性を改善するための薬剤又は刺激に幹細胞をさらすことを示すことができる。例えば、幹細胞は治療的移植に先立ってプレコンディショニングされる場合がある。
【0117】
いくつかのプロトコルが、そのような処置において使用されることになる所与の幹細胞の治療特性を改善しようとするために、また、改善するのを助けるために開発されてきており(これらはプレコンディショニングと総称される)、また提案されており、これらには、例えば、低酸素状態、増殖因子、及び他の細胞からの馴化培地にさらすことが含まれる。文献によれば、これらの方法は、幹細胞タイプ、疾患及び測定評価項目に依存して、様々な程度の改善を有する場合がある。
【0118】
しかしながら、これらのプレコンディショニング技術のいくつかは制限及び/又は欠点を有する可能性がある。例えば、幹細胞を低酸素によりプレコンディショニングすると、比較的より不良な分化が引き起こされることがあるということがいくつか示されている。増殖因子にさらすことには、当該処置のコストが大きくなることが伴う場合がある。幹細胞を馴化培地とインキュベーションすることには、多くの場合には達成されないことがある、又は治療原理にあてはまらない「影響を受けていない」幹細胞のさらなる培養が必要となる場合がある。
【0119】
低線量放射線は、公衆に対するさらなる健康リスク要因であると一般に見なされている。しかしながら、この共通した見解に反して、本発明者らは、いくつかの細胞が低線量放射線への曝露から利益を得る場合があること、そして、そのような曝露により、標的細胞の望ましい治療特性が実際に改善され得ることを発見している。具体的には、本明細書中に記載されるように、本発明者らは、比較的高線量の放射線に集中するいくつかの知られている放射線生物学研究と比較した場合、既存の治療方法を改善するための方法としての低線量放射線を発見しており、低線量の放射線にさらされた幹細胞の特徴におけるいくつかの改善を明らかにしている。
【0120】
この発見に基づいて、また、そのような従来のプレコンディショニング技術の代替として、本発明者らは、幹細胞(例えば、患者レシピエントへの治療的移植又は何らかの他の潜在的使用のために意図される細胞)を、この細胞を低線量の放射線(例えば、好適な放射線源から放射される電離放射線など)にさらすことによってプレコンディショニングする方法を発見している。本発明者らは、そのような曝露が、所与の幹細胞又は幹細胞群のある特定の細胞機能(例えば、細胞増殖、細胞生存能、組織特異的記憶、分化潜在能、及び治療効力又は他の使用に関連づけられる他の機能的特性など)を保っておくこと(すなわち、そのような細胞機能の衰退/劣化を遅らせること)を助けることを見出していること、そして、幹細胞が加齢する際のそのような属性又は機能の経時的な劣化を軽減することを助け得ることを発見している。このことは、加齢のプレコンディショニングされた幹細胞が、若齢の幹細胞の属性に比較的より近い属性を同じタイプのプレコンディショニングされていない(すなわち、コントロール)幹細胞よりも長い期間にわたって示すことを助ける場合がある。
【0121】
このタイプのプレコンディショニングは場合によっては、幹細胞の特性を改変する他のタイプ、及び/又は未処理の若齢幹細胞の標準的特性もしくはコントロール特性を超えて高めようと試みる他のタイプと区別することができる。例えば、本明細書中に開示される技術のいくつかでは、若齢幹細胞の未改変の属性がベースライン/参照として使用され、そして、幹細胞を改変して、その結果、その属性が未処理の若齢幹細胞コントロール群のベースライン機能を超えるようにすることを意図することと比較した場合、幹細胞が加齢するにつれて属性が低下する程度、又はこれらのベースライン値から外れる程度を低減させることが意図される。
【0122】
すなわち、開示された方法では、いくつかの細胞及びいくつかの機能について、それぞれの標的幹細胞の少なくとも第1の細胞機能の加齢に伴う低下が低減される場合がある。例えば、所与の細胞機能は、若齢(すなわち、非加齢)の幹細胞の一群に関して測定することができる初期パフォーマンス値であって、所与の機能についてのベースライン値又はコントロール値を形成すると見なすことができる初期パフォーマンス値を有する場合がある。
【0123】
標的幹細胞の少なくとも一部を、本明細書中に記載されるように処理されることなく加齢させることを、未処理の幹細胞についての加齢時パフォーマンス値を規定するために使用することができる。この加齢時パフォーマンス値は加齢プロセス期間中のどのような時点であれ好適な時点で測定することができ、処理された幹細胞及び未処理の幹細胞の特性を比較するための参照時間として役立ち得る閾値加齢時間において決定することができる。この閾値加齢時間は時間の経過によって定義することができ(例えば、秒、分、時間及び日などで測定される場合があり)、又は他の特徴によって、例えば、継代培養の回数又は細胞継代の数などによって定義される場合がある。
【0124】
本明細書中に記載される方法を使用してプレコンディショニングされた幹細胞はまた、閾値加齢時間に達するまで加齢させることができ、この場合、そのような時点で、関連のある細胞機能の測定により、処理時パフォーマンス値を確立することができる。細胞を本明細書中に記載される方法で処理することにより、少なくともいくつかの細胞機能の劣化を低減させることができることが、本発明者らによって発見されており、このことは、処理時パフォーマンス値が、未処理細胞の加齢時パフォーマンス値よりもコントロールの初期パフォーマンス値に近いままであること(例えば、加齢の処理された細胞は、加齢の未処理細胞よりも元の若齢細胞に近い機能性を有すること)を意味しているとして理解することができる。すなわち、ほとんどの測定値について、処理時パフォーマンス値は加齢時パフォーマンス値と初期パフォーマンス値との間であり得る。本明細書中に記載される方法のいくつかの例において、処理時パフォーマンス値は、加齢時パフォーマンス値に近いことよりも初期パフォーマンス値に近い場合がある。
【0125】
本明細書中における方法のいくつかの局面が、ただ1つだけの細胞機能及びその関連パフォーマンス値に関して記載されるが、本明細書中における方法のいくつかの使用は、所与の幹細胞における2つ以上の細胞機能の値を保っておくことを助ける場合がある。そのような場合、様々な異なるそれぞれのパフォーマンス値が、モニターされている/比較されているそれぞれの細胞機能について計算される場合がある。異なる細胞機能に対する方法の影響は類似している場合があり(すなわち、プレコンディショニングされた細胞は、パフォーマンス値が未処理の加齢コントロール細胞よりも良好である傾向があり)、しかし、大きさ、比率、関係などが、測定されている/比較されている細胞機能の性質に基づいて異なる場合がある。
【0126】
プレコンディショニングされた幹細胞の機能性を維持することを助けることにより、プレコンディショニングされた幹細胞が、所与の治療的処置において利用される前のより長い期間にわたって貯蔵されることが可能となる場合がある。このことは、移動/配達時間に対応することを助ける場合があり、及び/又は1回分の幹細胞が、この幹細胞が要求されるときに先立って調製され、必要となるまで手元に置かれることを可能にする場合がある。代替として、処理された幹細胞が、未処理の細胞が利用されていたであろうのとほぼ同じ時間で利用されるならば、処理された幹細胞は、未処理の幹細胞と比較されるようなパフォーマンス及び/又は効力を示し、呈示し、高める場合がある。このことはまた、治療用途のために好適である比較的(より)大きい数にまで細胞を増やすことを助ける場合がある。例えば、いくつかの幹細胞療法は、比較的大きい治療指数を達成するための最小数の幹細胞を必要とする場合があり、また、加齢における遅れは、そのような細胞をより長い時間にわたって、かつ、より大きい数にまで増殖することを容易にするのを助ける場合がある。
【0127】
本明細書中で使用される場合、用語「幹細胞」は、専門化した細胞に分化することができ、かつ、自己再生することができる(すなわち、より多くの幹細胞を産生させるために分裂することができる)細胞を示す場合がある。様々なタイプの幹細胞がこの技術分野では広く知られており、本明細書中に開示される方法において意図される。幹細胞の例には、筋幹細胞、間葉系の幹細胞/間質細胞及び始原体細胞(これらはまた、間葉系幹細胞又は間葉系の幹細胞及び始原体細胞として知られている)、造血系の幹細胞及び始原体細胞(これらはまた、造血幹細胞として知られている)、及び内皮コロニー形成細胞(これはまた、内皮幹細胞及び内皮始原体細胞として知られている)が含まれるが、これらに限定されない。
【0128】
例えば、単独で、及び/又は本明細書中に記載される他の好適な局面のいずれかとの組合わせで使用されることがあるが、本明細書中に記載される教示の1つの幅広い局面に一致して、本発明者らは、C2C12筋芽細胞を低線量放射線(LDR)にさらすことにより、筋線維に分化するその潜在能を改善することを助け得る筋幹細胞記憶を高めること(すなわち、筋幹細胞記憶機能における加齢関連低下を抑制すること)が助けられ得ることを示している。例えば、LDRへの曝露は、長期にわたるインビトロ成長の期間中に分化し、筋線維を形成する筋幹細胞の能力を保持することを高める場合がある。この特性は、再生医療における筋幹細胞の成功した治療的適用に寄与することを助ける場合があり、また、逆に、細胞培養の長さ及び/又は加齢に関連づけられる場合がある。本発明者らはまた、筋分化の様々なマーカーが、放射線非照射コントロールと比較して、LDRにさらされるC2C12筋芽細胞の培養物では増大することを示している。
【0129】
したがって、本開示は、幹細胞を低線量放射線(LDR)にさらすことを含み、それにより、同じように加齢したプレコンディショニングされていない幹細胞と比較した場合、治療特性が高まっているプレコンディショニングされた幹細胞を提供する、幹細胞をプレコンディショニングする方法の少なくとも1つの例を提供する。
【0130】
LDRプレコンディショニングによって高められることがある属性及び/又は治療特性には、いくつかの例では、(類似するプレコンディショニングされていない幹細胞の細胞機能と比較した場合)プレコンディショニングされた幹細胞の遅れた加齢、及び増殖の加齢に伴う喪失における対応する遅れが含まれる場合がある。これは比較的若齢の幹細胞の増殖における改善を含む必要がないことには留意される(すなわち、若齢のLDRプレコンディショニングされた幹細胞の増殖は、若齢のプレコンディショニングされていない幹細胞の増殖を超えない場合がある)。LDRプレコンディショニングによって高められることがある他の機能的能力には、いくつかの例では、長期にわたるインビトロ成長の期間中に分化し、筋線維形成する筋幹細胞の能力の高まった保持が含まれる場合がある。
【0131】
本明細書中に記載される教示のいくつかの実施形態において、幹細胞は筋幹細胞である場合がある。本明細書中で使用される場合、用語「筋幹細胞」は、自己再生することができ、かつ、骨格筋細胞を生じさせる能力がある、骨格筋組織に存在する幹細胞を示す。筋幹細胞はまた、サテライト細胞として示される。これらの幹細胞は筋損傷に応答して活性化され、損傷した筋肉組織を再生させる。
【0132】
代替において、LDRプレコンディショニングされることになる幹細胞は間葉系の幹細胞/間質細胞及び始原体細胞(MSC/MSPC)である場合がある。MSCは、脂肪細胞、軟骨細胞及び骨細胞(これらに限定されない)を含めて様々な細胞タイプに分化することができる多分化能の間質細胞である。
【0133】
いくつかの実施形態において、LDRプレコンディショニングされることになる幹細胞は内皮コロニー形成細胞又は内皮の幹細胞及び始原体細胞である場合がある。内皮コロニー形成細胞は、すべての血管、心臓の内室及びリンパ管を裏打ちする内皮細胞を生じさせる場合がある。
【0134】
必要に応じて、LDRプレコンディショニングされることになる幹細胞は造血系の幹細胞及び始原体細胞(HSC)である場合がある。HSCは骨髄に位置し、すべての血液細胞系譜及び血小板を生じさせる場合がある。
【0135】
実験データが、いくつかの例示的なタイプの幹細胞への放射線照射について本明細書中に提供されているが、他のタイプの幹細胞(例えば、心臓幹細胞など)が、LDRによる放射線照射を介した技術を含めて本明細書中に記載される技術に従ってプレコンディショニングされたときには類似する加齢遅延挙動を示し得ることが、本発明者らによって予想される。例えば、種々の幹細胞が、類似した生物学及び機能を有する傾向がある。すなわち、そのような幹細胞は、専門化したニッチに存在し、遊走、分裂及び分化を生じさせるための生理学的シグナルを待っている静止細胞である。遅れた加齢の影響が、類似する程度の改善を伴って3つの異なる幹細胞タイプについて明らかにされたため、本発明者らは、他の幹細胞が同様な様式での振る舞いをし得ると思うことは妥当であると考えている。
【0136】
本明細書中で使用される場合、用語「低線量放射線」(LDR)は、放射線の自然界バックグラウンドレベルに類似する、又は放射線の自然界バックグラウンドレベルを辛うじて超える線量の低線エネルギー付与(LET)電離放射線を示す。500mGy未満の放射線量が低線量の放射線レベルであると理解され、本明細書中に記載される教示によれば、低線量の放射線は、約500mGy、400mGy、300mGy、200mGy、150mGy、125mGy、110mGy、100mGy、75mGy、50mGy、25mGy、12mGy又は10mGyよりも少ない線量の電離放射線である場合がある。本明細書中に記載される例において、いくつかの特定の放射線線量が、幹細胞の加齢関連劣化を抑制することを助けるとして明らかにされている。
【0137】
本明細書中に記載される低線量放射線は、低線エネルギー付与(LET)電離放射線を本明細書中に記載される線量範囲で放射することができる好適な照射源をどのようなものであれ使用して提供される場合がある。ガンマ(γ)線放射線及びX線放射線が、プレコンディショニングのために使用することができる好適なLET放射線の2つの例である。当業者によって理解されるであろうように、LETは、単位長さ当たりに横断される物質に蓄積されるエネルギーの量(すなわち、keV/um)である。約10keV/um未満はどれも、本明細書中に記載される方法による使用のための低LETであると見なすことができる(例えば、γ線放射線及びX線放射線)。
【0138】
したがって、好適なタイプの電離放射線は、必要に応じてX線又はγ放射線を含むことができる。本明細書中に記載される方法の1つの実施形態において、電離放射線はγ放射線である場合があり、別の実施形態においてはX線放射線である場合がある。記載された方法において、幹細胞は、約1mGy~約500mGyの間の放射線の線量で放射線にさらされる場合があり、いくつかの例では約2mGy~約200mGyの間、約10mGy~約150mGyの間の放射線、約10mGy~約100mGyの間で放射線にさらされる場合がある。いくつかのプレコンディショニングプロセスにおいて、標的幹細胞は、約10mGy、50mGy及び/又は約100mGyの電離放射線にさらされる場合がある。他の実施形態において、幹細胞は、8mGy~12mGyの放射線、必要に応じて10mGyの放射線、又は90mGy~110mGyの放射線、必要に応じて100mGyにさらされる場合がある。
【0139】
幹細胞をLDRにさらすためのγ放射線の線源には、60Co及び137Csが含まれるが、これらに限定されない。尚、これらは、医療目的のために使用され得るものである。別の実施形態において、幹細胞はX線照射装置からのLDRにさらされる。
【0140】
幹細胞は、本明細書中に記載される方法を含めて、どのような方法であれ好適な方法によるプレコンディショニングのために放射線照射される(すなわち、LDRにさらされる)場合がある。幹細胞は必要に応じて、インビトロ又はエクスビボでLDRにさらされる場合がある。
【0141】
本明細書中に記載される方法のいくつかの実施形態において、LDRプレコンディショニングされることになる細胞は、そのプレコンディショニング/曝露のときにおいて細胞培養の状態である場合がある。例えば、ペトリ皿又は試験管における幹細胞の集団又は培養物がLDRにさらされる場合がある。
【0142】
所与の幹細胞の所望されるレベルのプレコンディショニングを達成するための放射線照射のための曝露時間は変化し得る。所与の幹細胞のための放射線照射時間は、例えば、LDRの所望される線量、放射線照射方法、及び利用可能な機器を含めて様々な要因に基づいて選択される場合がある。いくつかの適用において、曝露時間は1秒~24時間の間で変化する場合がある。1つの実施形態において、幹細胞は1秒~10分にわたってLDRにさらされる。
【0143】
1つの実施形態において、LDRにさらされていた加齢の幹細胞は、LDRにさらされたことがない加齢の幹細胞と比較して、改善された(すなわち、劣化がより少ない)特性を有する。これらの改善された特性には、改善された再生特性、増大した、又は改善された分化潜在能、増大した生存能、増大した増殖、増大した治療効力、及び幹細胞特性の増大した保持が含まれる場合があるが、これらに限定されない。これらの特性は、どのような方法であれ好適な方法によって評価される場合がある。属性/特性のどれもが、LDRにさらされたことがない幹細胞と比較して、少なくとも10%、25%、50%、75%、100%、200%又は300%増大する場合がある。
【0144】
例えば、幹細胞が筋幹細胞である実施形態において、LDRにさらされていた加齢の筋幹細胞は、LDRにさらされたことがなかった加齢の筋幹細胞と比較した場合、筋線維への増大した分化を示している(すなわち、若齢細胞のコントロール値からの低下が、未処理の筋幹細胞からの低下よりも少ない場合がある)。
【0145】
筋線維への分化をアッセイするための様々な方法がこの技術分野では知られており、これらの方法は、新たに形成された筋線維の一部となる幹細胞の割合を定量化することを伴うことができる。
【0146】
例えば、1つの実施形態において、筋線維分化アッセイが使用される。この例では、融合指数が、下記の式を使用して計算される:l=N融合/N総数×100%、式中、N融合は、ミオシン陽性細胞(すなわち、筋線維)に関する核の数であり、N総数は、スコア化された核の総数である。より大きい融合指数は、筋線維への分化が増大していることを示している。したがって、1つの実施形態において、LDRにさらされていた筋幹細胞は、曝露後少なくとも5日、10日、15日、30日、60日又は90日の培養の後における、あるいは放射線照射後の培養の約1日~約100日の範囲における融合指数が、LDRにさらされたことがない筋幹細胞と比較した場合には大きくなっている。
【0147】
他の実施形態において、LDRにさらされていた幹細胞は、LDRにさらされたことがない幹細胞と比較して、細胞分化に伴う少なくとも1つのマーカーの発現が高くなっている場合がある。例えば、幹細胞が筋幹細胞である場合、LDRにさらされていた筋幹細胞は、LDRにさらされたことがない筋幹細胞と比較して、筋細胞分化に伴う少なくとも1つのマーカーの発現が高くなっている場合がある。筋分化のマーカーには、ミオゲニン、MyH3、MyoD、TKS5及びTMEM8cが含まれ得るが、これらに限定されない。したがって、1つの実施形態において、LDRにさらされていた筋幹細胞は、LDRにさらされたことがない筋幹細胞と比較して、筋分化のマーカー(必要に応じて、ミオゲニン、MyH3、MyoD、TKS5及び/又はTMEM8c)の遺伝子発現又はタンパク質発現が、LDRにさらされた後での少なくとも5日、10日、15日、30日、60日又は90日の培養の後で増大している。多くの筋原性経路が、次世代の遺伝子発現シーケンシングによって確認される処理された筋幹細胞において活性化される場合がある。
【0148】
いくつかの実施形態において、上記方法は、幹細胞をLDRにさらす前に幹細胞を得ること又は提供することを含むことができる。例えば、幹細胞が組織サンプルから採取される場合がある。本明細書中で使用される場合、「組織サンプル」は、幹細胞を含有する組織のどのようなサンプルであってもよい。組織サンプルが、ヒト及びマウス(これらに限定されない)を含めて、どのような哺乳動物からでも得られる場合がある。1つの実施形態において、組織は筋肉である。本明細書中で使用される場合、用語「細胞を採取する」は、細胞を組織サンプル(例えば、筋肉など)から単離すること、又は取り出すことを示す。細胞を組織サンプルから採取する好適な様々な方法がこの技術分野では知られている。
【0149】
本明細書中の方法において使用される幹細胞は、どのような供給源であれ好適な供給源からのものである場合があり、また、他の細胞タイプから生じさせられる場合がある。例えば、胚性幹細胞(ESC)及び誘導多能性幹細胞(iPS)が筋幹細胞に転換される場合がある(Maffioleti他、2015、及びChal他、2015)。
【0150】
幹細胞は、LDRへの曝露の前、その期間中及び/又はその後で、細胞培養での成長及び/又は維持に供される場合がある。この技術分野では一般に理解されるように、細胞培養は、細胞が、一般にはその天然環境ではない制御された条件のもとで成長させられるプロセスである。通常、培養での細胞は培地において維持される。本明細書中で使用される場合、用語「培養培地」は、細胞(特に幹細胞)の成長を支援するために設計される培地を示す。様々な培養培地がこの技術分野では知られている。1つの実施形態において、培養培地は、基礎培地(例えば、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)など)、改良型DMEM、Biogro(商標)、SkGM(商標)、ハムF10、ハムF12、イスコブ改変ダルベッコ培地、神経基礎培地、RPMI1640培地又はMCDB120培地である。培地は血清を含有する場合があり、又は血清非含有である場合がある。1つの実施形態において、筋幹細胞は、10%のFBSを含むDMEMにおいて成長させられ、2%のウマ血清、5μg/mlのインスリン、及びトランスフェリンを含有するDMEMにおいて筋線維を形成するように分化させられる。
【0151】
必要に応じて、採取された幹細胞は、LDRへの曝露に先立って、少なくとも1回、2回、3回、4回、5回、6回、7回、8回、9回、10回又はそれ以上の継代にわたって、必要に応じて3回の継代にわたって培養で維持される。
【0152】
他の実施形態において、上記方法はさらに、プレコンディショニングされた幹細胞をその必要性のある対象に投与することを含む。
【0153】
プレコンディショニングされた幹細胞の集団
本開示はまた、LDRにさらされた幹細胞を含む細胞集団(例えば、細胞培養物)を提供する。1つの実施形態において、細胞集団は、本明細書中に記載される方法によって得られるプレコンディショニングされた幹細胞を含む。本明細書中で使用される場合、用語「細胞」は、ただ1個だけの細胞及び複数の細胞の両方を示す。「複数の細胞」には、細胞集団が含まれる場合がある。
【0154】
必要に応じて、集団におけるプレコンディショニングされた幹細胞は、プレコンディショニングされた筋幹細胞であることが可能である。代替として、集団におけるプレコンディショニングされた幹細胞は間葉系の幹細胞/間質細胞及び始原体/細胞である場合があり、又は内皮コロニー形成細胞/内皮の幹細胞及び始原体細胞である。さらに別の例において、集団におけるプレコンディショニングされた細胞は造血系の幹細胞及び始原体細胞である場合がある。プレコンディショニングされた幹細胞は必要に応じて、ヒト幹細胞である場合がある。
【0155】
医薬組成物
本明細書中に記載される教示の別の幅広い局面に一致して、有効成分として、本明細書中に記載される方法を使用して作製されるプレコンディショニングされた幹細胞を、好適な医薬的に許容され得る担体と一緒に含む医薬組成物が作製される場合がある。
【0156】
本明細書中で使用される場合、用語「医薬的に許容され得る担体」は、薬学的投与と適合可能であるあらゆる溶媒、分散媒体、被覆剤、等張性剤及び吸収遅延剤などを含むことが意図される。好適な担体が、Remington’s Pharmaceutical Sciences(この分野における標準的な参考書;これは参照によって本明細書中に組み込まれる)の最新版に記載される。そのような担体又は希釈剤の随意的な例には、水、生理食塩水、リンゲル液、デキストロース溶液及び5%ヒト血清アルブミンが含まれるが、これらに限定されない。
【0157】
医薬組成物は、その意図された投与経路と適合可能であるように配合される場合がある。投与経路の例には、非経口投与、例えば、静脈内投与、皮内投与、皮下投与、経口投与(例えば、吸入投与)、経皮投与(すなわち、局所投与)、経粘膜投与及び直腸投与が含まれる。
【0158】
有効成分は、有効成分を身体からの迅速な排出から保護するであろう担体とともに調製される場合がある(例えば、インプラント及びマイクロカプセル化された送達システムを含めて、持続型/制御型放出配合物など)。生分解性の生体適合性ポリマーを使用することができる(例えば、エチレンビニルアセタート、ポリ無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステル及びポリ乳酸など)。そのような配合物を調製するための様々な方法が当業者には明らかであろう。
【0159】
必要に応じて、経口用又は非経口用の組成物が、投与の容易さ及び投薬量の均一性のために投薬単位形態物で配合される場合がある。本明細書中で使用されるような投薬単位形態物は、処置されることになる対象のための単位投薬物として適する物理的に個別の単位物を示し、それぞれの単位物が、要求される医薬用担体と共同での所望の治療効果をもたらすために計算される所定量の有効成分を含有する。投薬単位形態物についての仕様は、有効成分(すなわち、プレコンディショニングされた幹細胞)の独特の特徴、及び達成されることになる特定の治療効果、ならびにそのような有効成分を個体の処置のために調製する技術において固有の制約によって決定され、それらに依存する場合がある。
【0160】
配合物はまた、特定の適応症が処置されるために必要となるような2つ以上の有効成分を含有する場合があり、必要に応じて、互いに悪影響を及ぼさない補完的な活性を有する2つ以上の有効成分を含有する場合がある。代替として、又は加えて、医薬組成物は、その機能を強化する薬剤を含むことができる。そのような分子は好適には、意図される目的のために効果的である量で組み合わされて存在する。
【0161】
プレコンディショニングされた幹細胞の使用
プレコンディショニングされた幹細胞の集団を本明細書中に記載される方法に従って得ることができる。プレコンディショニングされた幹細胞の適用及び使用には、増殖期間中における幹細胞特性の保持、特定の系譜への幹細胞の分化(例えば、筋線維への筋幹細胞の分化)、及び組織再生が含まれる場合があるが、これらに限定されない。分化した系譜物をインビトロ目的又はインビボ目的の両方のために使用することができる。
【0162】
本明細書中に記載されるプレコンディショニングされた幹細胞及び医薬組成物は、疾患又は状態を処置するために、又は防止するために有用である場合がある。あるタイプのプレコンディショニングされた幹細胞、必要な場合には本明細書中に記載されるプレコンディショニングされた幹細胞を使用して処置され得る疾患又は状態のいくつかの例には、筋ジストロフィー、サルコペニア、2型糖尿病、敗血症性ショック、多発性硬化症、変形性膝関節炎、急性移植片対宿主病、心不全、クローン病、急性心筋梗塞、急性心筋梗塞、肺高血圧症及び重症虚血肢が含まれる場合がある。
【0163】
好ましくは、疾患又は状態は、幹細胞療法から利益を受けることが知られている疾患又は状態である。例えば、本明細書中に記載されるプレコンディショニングされた筋幹細胞及び医薬組成物は、筋疾患又は筋状態を処置するために、又は防止するために有用である場合がある。
【0164】
本明細書中に記載されるプレコンディショニングされた筋幹細胞及び医薬組成物は必要に応じて、筋疾患又は筋状態を処置するための、又は防止するための方法であって、本明細書中に開示されるプレコンディショニングされた筋幹細胞又は医薬組成物の効果的な量をその必要性のある対象に投与することを含む方法において使用される場合がある。
【0165】
必要に応じて、本明細書中に開示されるプレコンディショニングされた筋幹細胞又は医薬組成物の効果的な量が、筋疾患又は筋状態を処置するために、又は防止するために使用される場合がある。
【0166】
必要に応じて、筋疾患又は筋状態は遺伝性的疾患である場合がある(例えば、デュシェンヌ型筋ジストロフィー又は顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー)。別の実施形態において、筋疾患又は筋状態は加齢関連の筋疾患である(例えば、サルコペニア)。別の実施形態において、筋疾患又は筋状態は筋損傷である。さらに別の実施形態において、筋疾患又は筋状態は非遺伝性又は加齢関連である(例えば、ガン、腎不全又は慢性閉塞性肺疾患などに伴う悪液質)。
【0167】
本明細書中で使用される場合、用語「対象」には、例えば、哺乳動物、特にヒトを含めて、動物界の好適なものがどのようなものであれ含まれる場合がある。例えば、対象は、疾患又は状態(例えば、筋疾患又は筋状態など)を有する患者である場合がある。
【0168】
プレコンディショニングされた幹細胞は自己の幹細胞(すなわち、対象に由来する幹細胞)である場合があり、又は同種の幹細胞(すなわち、対象に由来しない幹細胞)である場合がある。
【0169】
本開示のプレコンディショニングされた幹細胞又は医薬組成物の効果的な量は一般には、治療目的を達成するために必要とされる量に関連する。治療の有効性が、どのような方法であれ、疾患を診断するための、又は処置するための好適な方法に関連して決定される場合がある。疾患の1つ又は複数の症状の緩和は、プレコンディショニングされた幹細胞又は医薬組成物が臨床上の利益をもたらし得ることを示している。
【0170】
本明細書中で使用される場合、「処置すること、又は防止すること」には、疾患もしくは状態又は疾患もしくは状態に伴う症状もしくは状態の進行を逆戻りさせること、緩和すること、又は阻止することが含まれるが、これらに限定されない。防止することには、疾患もしくは状態又は疾患もしくは状態に伴う症状もしくは状態の出現を防止すること、あるいは疾患もしくは状態又は疾患もしくは状態に伴う症状もしくは状態の重篤度の悪化を防止することが含まれる。したがって、「疾患又は状態を処置すること、又は防止すること」には必要に応じて、疾患もしくは状態又は疾患もしくは状態に伴う症状もしくは状態の発生又は再発を防止するための、又は低減するための対象の予防的処置が含まれる。
【0171】
幹細胞を対象に投与する様々な方法がこの技術分野において知られている。例えば、本明細書中に記載されるプレコンディショニングされた幹細胞又は組成物は、全身的に、又は目的とする特定の部位もしくは組織に対して局所的に投与される場合がある。1つの実施形態において、本明細書中に記載されるプレコンディショニングされた幹細胞又は組成物は対象に注射される。別の実施形態において、プレコンディショニングされた筋幹細胞が筋肉内に注射される。
【0172】
本明細書中に記載されるプレコンディショニングされた幹細胞又は組成物は、別の幹細胞療法又は細胞療法との組合わせで使用される場合があり、又は投与される場合がある。この様式において、本明細書中に記載されるプレコンディショニングされた幹細胞又は組成物は、放射線照射されていない細胞の治療能力を増強するために使用される場合がある。
【0173】
下記は幹細胞のいくつかの例をプレコンディショニングする方法の限定されない例である。
【0174】
例1:
低線量のX線及びγ放射線は、細胞レベル及び生物レベルでの様々な刺激効果(これらはまとめて、放射線ホルミシス又は放射線恒常性と呼ばれる)を生じさせることが示されている[Calabrese、2015;Calabrese、2016;Baldwin及びGrantham、2015;Jolly及びMeyer、2009]。以前の結果では、低線量の放射線(LDR)、具体的には低線量のγ放射線が腫瘍形成の開始をインビボで遅らせ得ること[Mitchel他、2003;Mitchel、1999]、そして、DNA傷害の加齢に関連した蓄積をインビボで抑制し得ること[Osipov他、2013]が明らかにされた。幹細胞に対するLDRの影響についてはほとんど知られていない。幹細胞に対するLDRの影響を調べた数少ない研究の結果には一貫性がない。本発明者らは、マウス筋幹細胞及びヒト筋幹細胞の治療特性が、LDRを使用して筋幹細胞をプレコンディショニングすることによって高められ得ることを発見している。
【0175】
C2C12マウスの筋肉の筋芽細胞(筋幹細胞生物学において一般に使用される細胞モデル)を、筋幹細胞に対するLDRの影響を研究するために使用した。その結果から、C2C12細胞へのLDR曝露がこの細胞による筋線維形成を改善すること、そして、この能力の損失(これは、長期間の培養で日常的に認められることである)が、放射線非照射コントロールと比較した場合、若齢培養物へのLDR曝露の結果として部分的に逆戻りすることが示される。
【0176】
方法
C2C12マウス筋幹細胞
この細胞(これは筋芽細胞とも呼ばれており、元々は成体C3Hマウスの後肢筋肉に由来するものである)をATCCから購入した。C2C12筋芽細胞はC2筋芽細胞の効率的融合サブクローンであり、組織培養における筋分化及び筋幹細胞生物学のためのモデルとして広範囲に使用されている。成長のために、細胞を、細胞密度が80%超の細胞密集度を達成することがないようにしながら、10%のウシ胎児血清、4mMのL-グルタミン及び1.5g/Lの重炭酸ナトリウムを添加したダルベッコ改変培地(4.5g/Lのグルコース)で維持した。
【0177】
ヒト生検由来筋幹細胞の培養
筋生検由来の幹細胞をバイオテクノロジー企業のLonzaから購入した。指数関数的に成長する培養を達成するために、細胞を、細胞密度が80%超の細胞密集度を達成することがないようにしながら、20%のFBS(ウシ胎児血清)、4mMのL-グルタミン、ゲンタマイシン、ヒトEGF(上皮増殖因子)、デキサメタゾン及び1.5g/Lの重炭酸ナトリウムを添加した骨格筋基礎培地で維持した。
【0178】
長期培養
筋組織再生は、生物の寿命の全体にわたって続く連続プロセスであり、増殖モード(筋芽細胞)と、分化及び自己再生と、スタンバイモード又は予備モードとの間における多数回の連続した変化を伴う(図1)。これをインビトロでモデル化するために、C2C12筋芽細胞(増殖モード)を、分化し、自己再生し、その後、自己再生したスタンバイ細胞(これは予備細胞とも呼ばれる)を放出し、増殖モードに戻るように刺激することができる[Yaffe及びSaxel、1997]。多数回のこれらの変化により、筋幹細胞の尽きてくる筋原性潜在能のインビトロモデルが表される(図1)。この低下は、インビトロの増殖条件のもとでのサテライト細胞において生じる変化によく似ている場合がある。予備細胞はサテライト細胞の多くの古典的な特徴を示す(例えば、非対称的な幹細胞分裂、特定化のマーカー(例えば、Pax7など)のより大きい発現、及び分化のための潜在能など)。多数回の分化-増殖を受ける筋幹細胞の機能的特性がその回数とともに低下するであろう。予備細胞を、示差的な酵素消化を行うことによって、分化した筋線維の培養から得た。
【0179】
本明細書中に記載されるC2C12筋芽細胞とは異なり、筋生検に由来する新たに単離された筋幹細胞は、限定された(10~12)倍加能力を有する場合がある。したがって、予備細胞の単離を行う代わりに、筋幹細胞を成長培地において14日間、分化培地において3日間維持した。
【0180】
筋線維へのC2C12筋細胞の分化
成長培地において80%~90%の細胞密集度にまで成長させた培養物をリン酸塩緩衝生理食塩水により2回洗浄し、分化培地(DM:2%ウマ血清及び抗生物質を含むDMEM)においてインキュベーションした。DMを、終点に達するまで毎日取り替えた。DM培地におけるインキュベーションにより、分化のプロセス(その不可欠な部分が多核筋線維への筋芽細胞の融合である)が誘発される。分化の72時間までに、およそ50%~70%の筋芽細胞が筋線維に融合する。
【0181】
筋線維へのヒト筋幹細胞の分化
成長培地において80%~90%の細胞密集度にまで成長させた培養物をリン酸塩緩衝生理食塩水により2回洗浄し、分化培地(DM:2%ウマ血清及び抗生物質を含む1:1のDMEM-F12)においてインキュベーションした。
【0182】
放射線照射
本例において、若齢のC2C12筋芽細胞に、10mGy又は100mGyの放射線照射あるいは擬似の放射線照射を、60Co線源を備えるGamma-Cell 200装置を使用して行った。放射線照射後、細胞を、「長期培養」のサブセクションで記載されるように、最大で90日間にわたって培養で維持した(図2)。30日、60日及び90日の時点で、細胞を増殖及び分化の評価項目についてアッセイした。
【0183】
若齢のヒト生検由来筋幹細胞に、10mGy又は100mGyの放射線照射あるいは擬似の放射線照射を、60Co線源を備えるGamma-Cell 200装置を使用して行った。放射線照射後、細胞を、「長期培養」のサブセクションで記載されるように、最大で14日間にわたって培養で維持した。14日の終わりに、細胞を、筋線維を得るために分化培地に移し、分化及び融合指数についてアッセイした。
【0184】
筋線維分化アッセイ
様々な期間にわたって分化を受けているガラス製カバースリップ上の培養物を4%パラホルムアルデヒドにおいて固定し、PBS/5%BSA溶液で希釈される一次抗MyH3抗体(ミオシン重鎖)により4℃で一晩、免疫標識した。洗浄後、細胞を、Alexa Fluor 488とコンジュゲート化される二次抗体(Invitrogen-A11001)とインキュベーションした。可視化に先立って、カバースリップをDAPI(Vector Laboratories Inc.H-1500)とともに封入剤で固定した。画像を40倍の倍率で、Zeiss Epifluorescence Observer Z1顕微鏡を使用して取得した。
【0185】
融合指数を、下記の式を使用して計算した:
=N融合/N総数×100%、
式中、
融合は、ミオシン陽性細胞(筋線維)内の核の数であり、
総数は、スコア化された核の総数である。
【0186】
合計で、500個の核をサンプルあたりスコア化した。
【0187】
ウエスタンブロット
全細胞溶解物を、分化したC2C12筋線維から下記のように調製した。細胞ペレットを1ペレット体積の改変緩衝液C(20mM Hepes(pH7.6)、1.5mM MgCl、650mM KCl、ベンゾナーゼ(2.5単位/10細胞)、0.2mM PMSF、0.5mM DTT、5mM β-グリセロールリン酸、及び1mMオルトバナジン酸ナトリウム)に再懸濁し、4℃で30分間にわたって遠心分離した。その後、ホモジネートを1ペレット体積の緩衝液E(20mM Hepes(pH7.6)、1.5mM MgCl、0.2mM EDTA、1mM PMSF、0.5mM DTT、5mM β-グリセロールリン酸、及び1mMオルトバナジン酸ナトリウム)により希釈した。その後、抽出されたタンパク質を、15,000×gでの遠心分離を4℃で30分間行うことによって細胞から回収した。抽出物をSDS-PAGEに先立ってタンパク質濃度について定量化した。それぞれの定量化された抽出物をグラジエントポリアクリルアミドゲルにおいて負荷し、分離し、ウエスタンブロット分析のためのPVDFメンブレンに転写した。抗体を、Santa Cruz Biotechnologiesから購入した(MyoD、SC304;ミオゲニン、SC12732;Myh3、SC53091;及びチューブリン、SC23948)。
【0188】
定量的RT-PCR
細胞培養物をトリプシン処理し、ペレットを遠心分離によって得た。RNAを、Qiazol(Qiagen)を使用して培養細胞から単離した。付着している培養物を冷PBSにより1回洗浄し、残留PBSを除き、細胞をQiazol内に掻き取った(4X10個の細胞については1mL、2X10個については0.5mL)。溶解物を激しくボルテックス処理して、ゲノムDNAをせん断し、その後、さらに処理するまで-70℃で貯蔵した。RNAを製造者の説明書(Invitrogen)に従って精製した。簡単に記載すると、サンプルを室温で5分間解凍し、1mLのQiazolあたり200μLのクロロホルムを加え、30秒間にわたって激しくボルテックス処理し、相を12000rpmでの遠心分離によって分離させた。水相中のRNAを慎重に取り出し、mi RNeasyミニキット(Qiagenカタログ#217004)を使用して処理した。最後に、RNAをヌクレアーゼ非含有水(エッペンドルフ)に溶解/溶出し、Nanodrop分光光度計及びExperionを使用して品質及び量について調べた。2.5μgの総RNAを使用して、cDNAを作製した(RT first strand Kit、Qiagenカタログ#330404)。cDNAをHOに1:5で希釈し、Sybrグリーンマスターミックス(2x SYBR Biotool)及び2.5ピコモルのプライマーと混合した。分析を、7900HT Sequence Detection Systemsサイクラー(BioRad)及びCFXマネージャーソフトウェアを使用して三連で行った。定量的RT-PCRで使用されるプライマーをPrimer3ソフトウェアによって設計し、BLAST(Basic Local Alignment Search Tool)分析によって確認した。この研究で使用されるプライマー配列が下記のように列挙される。ミオゲニンフォワード、GGC TCA AGA AAG TGA ATG AGG C;ミオゲニンリバース、CGA TGG ACG TAA GGG AGT GC;Myh3フォワード、GCATAGCTGCACCTTTCCTC;Myh3リバース、GGC CAT GTC CTC AAT CTT GT;TKSフォワード、CTT TGT GGG GAA GAT GCT CG;TKS5リバース、TCC TTC TGG CCA CCT TCA AT;TMEM8Cフォワード、GCT CCT ATG CAA AGA CTG GC;TMEM8Cリバース、GGT CGA TCT CTG GGG TTC AT。
【0189】
RNAseq
60日齢のマウス筋肉(C2C12)細胞培養物をトリプシン処理し、ペレットを遠心分離によって得た。RNAを本明細書中に記載されるように製造者の説明書(Invitrogen)に従って単離し、精製した。精製されたRNAを後に品質管理のために供した。5μgのRNAをライブラリー調製において使用し、75塩基対の片側配列決定を、Next Seq 500ゲノムシーケンサーのための標準的なイルミナ手順に従って行った。RNAseqデータを、Bowtie,Tophat2 Cuffdiff(CuffLinks v1)ソフトウェアスイートを使用して分析した。配列決定読取りを、GENCODE vm12遺伝子発現モデルによって導かれるHISAT2(v2.0.4)によるGRC m38マウスゲノムアセンブリーに対してマッピングした。異なる発現を示した遺伝子の特定及び定量を、Cuffdiffと、ベン図として示されるデータセットとを使用して行った。LDR(10mGy及び100mGy)処理群における示差的発現遺伝子の機能的関連性を、生物学的プロセス(BP)を特に考慮するGene Ontology(GO)経路分析ソフトウェアを使用して解釈した。
【0190】
統計学的分析
RNAseqを除くすべての実験を組織培養開始及びLDR曝露の段階から3回繰り返し、その結果、生物学的反復物が表されるようにした。3つの反復物からの平均値を計算した。群を比較している際の統計学的有意性を、スチューデントt検定によりP<0.05で求めた。
【0191】
結果
LDRは、筋線維に分化するC2C12細胞の潜在能を改善する
長期培養実験の期間中の様々な時点での、筋線維を形成するC2C12筋芽細胞の潜在能、及びこの潜在能がLDRによってどのように影響され得るかを評価した。筋線維を形成する能力は筋幹細胞の重要な機能的特徴を表している。この能力は、筋芽細胞を数日間にわたって分化誘導成長条件のもとで維持し、その後、新たに形成された筋線維の一部となった筋芽細胞の割合を定量化することによって実験的に確実に測定することができる。この測定が免疫蛍光顕微鏡法によって行われ、この場合、筋線維がMyH3により染色され、線維内の核が核の総数に対して定量化される(図3)。筋線維の一部である核の得られた割合が融合指数と呼ばれる。
【0192】
コントロールの放射線非照射培養物では、融合指数(すなわち、コントロール融合指数)が、若齢細胞における50%から、90日齢細胞における3%未満にまで時間依存的様式で劇的に低下することが見出された(図3)。筋芽細胞への10mGy又は100mGyの放射線照射が培養実験の開始時に行われたならば、融合指数における低下は、放射線非照射培養物の場合ほど顕著でなかった。融合指数が、10mGy及び100mGyの両方の放射線照射細胞において(すなわち、処理時融合指数において)、30日、60日及び90日でのコントロール細胞と比較して大きくなっていた(図3)。若齢筋芽細胞のLDRへの曝露はその機能的低下を遅らせ、その結果、筋線維を形成する潜在能が、進行した培養齢では2倍~5倍大きくなっていた。
【0193】
本例において、処理時融合指数が、閾値培養齢測定点のそれぞれ(本例では30日、60日及び90日)で、(図3においてUTの棒として示される)加齢時融合指数よりも一貫して大きく、場合によっては加齢時融合指数の少なくとも2倍であり、初期融合指数の少なくとも10%、20%、30%又はそれ以上の値を有した。
【0194】
LDRは、筋線維に分化するヒト筋幹細胞の潜在能を改善する
マウス筋肉の筋芽細胞に加えて、実験をヒト筋肉生検由来の幹細胞に対して行った。この筋幹細胞が、放射線照射された培養物を形成するように放射線照射されたならば、放射線照射された培養物の融合指数(すなわち、処理時融合指数)が、未処理/放射線非照射の筋幹細胞を含むコントロール培養物の融合指数(すなわち、コントロール融合指数)よりも大きいことが認められた。例えば、図7A及び図7Bを参照した場合、図7Aに例示されるように、筋幹細胞への10mGy又は100mGyの放射線照射が実験開始時に行われ、細胞を培養で14日間にわたって加齢させ、その後、3日間にわたって分化させたならば、放射線照射された培養物は、(例えば、図7Bに示されるように)未処理(放射線非照射)のコントロール幹細胞と比較して約2.5倍増大した融合指数を示した。例示された例において、処理時融合指数は加齢時融合指数よりも大きく、10mGy及び100mGyの放射線線量の両方についての初期融合指数(コントロール)の約70%を超えていた。
【0195】
筋同一性がLDR曝露の筋芽細胞においてより長く保持される機構
LDR曝露筋芽細胞の進んだ培養齢の培養物における高まった筋線維形成が古典的な筋分化経路に起因するかどうかを調べるために、最終分化のいくつかの古典的マーカーを総タンパク質抽出物においてウエスタンブロット分析によって定量化した。これらは、ミオゲニン、Myh3(ミオシン重鎖)及びMyoDであった。ミオゲニン及びMyH3は、コントロール群では長期培養したときには同程度の減少を示し、これに対して、これらのタンパク質レベルにおける顕著な増大が放射線照射細胞において見出された(図4Aにおいて、10mGy群及び100mGy群についての60日及び90日を培養齢一致コントロールと比較のこと)。
【0196】
本例において、プレコンディショニングされた幹細胞は、未処理細胞よりも大きい細胞密集度を所与の時間(この場合には10時間)の後で達成することができる(最初のサンプルについては、認められる最大細胞密集度増加が67.9%(未処理時)から78.6%(処理時)にであった)。2番目のサンプルについては、最大増加が61.9%(未処理時)から、処理時についての77.2%(処理時)にであった。すなわち、処理された幹細胞は、所定の目標細胞密集度に到達するためにより短い時間を要する場合があり、及び/又はそれぞれの時間では比較の未処理細胞よりも大きいレベルの細胞密集度に達する場合がある。
【0197】
これらの観察結果が、60日齢の培養物が分化させられ、分化及び融合のマーカーであるいくつかの遺伝子の発現が定量的RT-PCRによって評価される独立した実験において確認された(例えば、図4Bを参照のこと)。
【0198】
加えて、図5もまた参照して、60日目でのマウス筋細胞のRNAseqを使用する包括的遺伝子発現分析により、これらの既に行われた観察が補強された。10mGy及び100mGyの放射線照射マウス筋細胞では、放射線非照射コントロールと比較したとき、例えば、表1に示されるように、分化及び融合のマーカーが改善されている。
【表1】
【0199】
データ分析から得られる遺伝子リストは筋線維形成の改善を示唆している。10mGy及び100mGyにおいて示差的に発現する遺伝子の大多数が、図6A及び図6Bにそれぞれ示されるように、分化、筋組織発達、骨格筋線維形成及び筋収縮における決定的な機能を有する。
【0200】
考察
C2C12筋芽細胞の能力の保持が通常、培養における時間/細胞齢とともに、また、分化サイクルの回数とともに低下する。しかしながら、本明細書中に記載される方法を利用すると、C2C12筋芽細胞の能力の保持が、培養物をLDRにさらすことによって高められている。ヒト筋幹細胞の分化の認められた2.5倍の改善は、幹細胞のプレコンディショニングにおける低線量放射線の有益な効果の少なくとも一部を強調している(図7)。注目すべきことに、ヒト筋幹細胞の限定された倍加能力が、記載された培養を不死C2C12マウス筋肉細胞における延長された90日よりはむしろ、14日~17日に制限するための基礎であった。
【0201】
本例では、LDR(10mGy又は100mGy)は、多数回の成長→分化→予備細胞分画にさらされたC2C12培養物の分化能力を改善することが見出された。培養の長さ又は分化の回数に伴うコントロールの放射線非照射細胞での融合指数における低下(1/16)が見出された。細胞が培養の7日目にLDRにさらされたとき、この低下が部分的に逆戻りした。注目すべきことに、改善の大きさが時間とともに増大した(30日での約50%から、90日での300%超にまで、図3B)。このことは、LDR曝露の効果が長期間にわたって維持され得ることを示している。
【0202】
しかしながら、60日齢のマウス筋細胞において行われた次世代遺伝子発現シーケンシングでは、10mGy及び100mGyの処理細胞における筋原性マーカーの誘導が示されただけでなく、図5を参照すると、図6A及び図6Bにもまた示されるように、筋原性融合及び成熟化のために要求される筋線維形成、筋組織発達及び筋細胞遊走に関与するいくつかのクラスの遺伝子もまた示された。
【0203】
筋原性分化の古典的マーカーが、放射線非照射コントロールと比較して、LDRにさらされる培養物では増大することがさらに確認された。このことは、LDRにより、最終的には筋線維形成の古典的な経路に収束する分子的変化が誘発され得ることを示唆している。理論によって縛られないが、これらの変化には、筋幹細胞同一性の保持の機構が含まれ得るのではないかと考えられる。例えば、ヒストンH3.3変異体による筋原性分化特異的な遺伝子発現の調節が1つのそのような機構であるかもしれない[Ng及びGurdon、2008]。この可能性は、LDRが([Miousse他、2017]において総説される)エピジェネティックなクロマチン再構成を引き起こし得ることを示す報告と一致している。
【0204】
コントロール培養物における分化能力の低下には、筋芽細胞の増殖速度における変化が伴わなかった。増殖速度がLDR曝露によって影響されたという証拠は何ら見出されなかった。理論によって縛られないが、本発明者らは、このことはさらに、分化能力の改善が、筋肉同一性の高まった保持を可能にする長期培養における質的変化に起因していたかもしれないことを示唆しているかもしれないと考えている。
【0205】
認められた効果は、筋疾患の幹細胞に基づく治療法における様々な意味合いを有する場合がある。そのような治療的アプローチの現在の1つの制限が、患者由来の筋幹細胞のエクスビボ培養において、又はhES細胞もしくはihPS細胞からの定方向分化によって生じる筋幹細胞のインビトロ培養においてそのどちらであれ筋幹細胞を増やさなければならないことである。そのような培養における細胞を、LDRを使用してプレコンディショニングすることは、長期培養条件によってそうでない場合には負の影響を受ける筋原性の機能的特性の保持を強化することを助ける場合がある。これは、全体的な治療効力を改善するのを助ける場合がある。LDRは、多数回の成長→分化→予備細胞単離にさらされるC2C12マウス筋芽細胞における筋特異的同一性の保持を改善することが示されている。そのような改善は、幅広い使用が再生医療において、具体的には様々な筋疾患の幹細胞に基づく将来の治療法において見出される場合がある。
【0206】
例2:
本明細書中に記載される教示の別の幅広い局面に一致して、間葉系幹細胞及び内皮幹細胞に対するLDRの影響を、本明細書中に記載される方法に従って詳しく調べた。
【0207】
材料及び方法
細胞培養
本例において、臍帯血(UCB)由来の間葉系の間質細胞/幹細胞及び始原体細胞(MSPC)を、American Type Culture Collection(ATCC、Manassas、VA、米国)から得て、製造者の説明書に従ってUCB間葉系幹細胞(MSC)増殖培地(#PCS-500-030及びPCS-500-040、ATCC)において増やした。内皮コロニー形成細胞(ECFC)を、承認された倫理プロトコル(Veritas Independent Research Board)に従って新鮮な臍帯血単位物(Canadian Blood Services、Ottawa、ON、カナダ)から得た。臍帯血を、Ficoll Paque Plus密度分離勾配(GE Healthcare Bio-Sciences AB、Uppsala、スウェーデン)を使用して処理して、単核細胞(MNC)を得た。MNCをCellBind被覆の6ウエルプレート(#3335、Corning、NY、米国)に置床し、ECFC増殖培地(#CC-3162、Lonza Group Ltd.、Basel、スイス)を添加した。培地を2日毎~3日毎に交換した。すべての細胞を標準的な加湿CO2インキュベーターにおいて37℃で接着させ、増やした。
【0208】
80%の細胞密集度がMSPC培養物について達成され、目に見える密集した内皮コロニーがECFC培養物に現れると、細胞を継代した(p1)。個々のECFCコロニー/クローンを、DOW Corning高真空グリース(DOW Corning Corporation、Midland、MI、米国)で被覆されたガラスリングを使用して別々に継代し、2.5×103細胞/cm2で6ウエルプレートにおいて個別ウエルに播種し、p2にまで、そしてp100ではp3~p4にまでさらに増やした。継代したMSPCを3.0×103細胞/cm2でp100プレートに再置床し、p2~p4にまで増やした。p4において、すべての細胞に、Gamma Cell 200細胞照射装置(Atomic Energy of Canda Ltd.、Chalk River、ON、カナダ)を使用して、0mGy、10mGy、50mGy及び100mGyのガンマ線を急性放射線照射し、細胞を培養で加齢させた。ECFC実験では、生物学的反復物を表す3つの異なるクローン(3-2、3-3及び13)を使用した。実験を少なくとも二連で行った。
【0209】
機能的分析
加齢を、培養細胞の増殖能力(機能)における漸進的低下としてこの場合には定義した。細胞培養物が「加齢した」と見なされる継代がMSPC及びECFCクローンについては異なり、MSPCについてはp15であると定め、ECFCクローン3-2についてはp5であると定め、ECFCクローン13についてはp8であると定め、ECFCクローン3-3についてはp11であると定めた。細胞培養物についての成長曲線を、Incucyte機器(Essen Bioscience,Inc.、Ann Arbor、Michigan、米国)によって行われるパーセント細胞密集度測定に基づいて作成した。Incucyteを使用して、細胞の画像を継代毎において細胞培養の1時間毎に4倍及び10倍の対物レンズにより撮影した。細胞増殖を、通常の場合には20%~80%の細胞密集度の間で細胞成長曲線の直線部分における倍加時間として測定した。次式を倍加時間の計算のために使用した:
(t2-t1)/(3.32×(log n2-log n1))、式中
t2-最終時点
t1-初期時点
n1-t1での細胞数/細胞密集度
n2-t2での細胞数/細胞密集度
【0210】
ECFC細胞の遊走を、引っ掻き創傷アッセイ及び細胞遊走キット(#4493、Essen Bioscience)を製造者の説明書に従って使用して測定した。簡単に記載すると、細胞を90%~100%の細胞密集度で特殊な96ウエルプレートに播種し、接着させた。プレートにおけるすべてのウエルを、ウエル-ウエル間の変動を最小限に抑えるように一貫した引っ掻きが行われることを可能にする特別に設計された創傷作製器を使用して引っ掻いた。プレートをIncucyte機器に入れ、24時間にわたってモニターし、1時間毎に画像を、10倍の対物レンズを使用して得た。遊走分析は2つの測定に基づいた:1)創傷部を60%の細胞密集度にまで「治癒させる」ために要した時間の量、及び2)引っ掻き後10時間での創傷部の細胞密集度。すべての値をp4の放射線非照射細胞と比較して表した。このアッセイを、加齢細胞がp6及びp13をそれぞれ代表する2つのクローン(3-2及び3-3)に対して、5つの反復物を用いて行った。
【0211】
加齢したMSPCを、ヒトMSC分化キット(#SC006、R&D System Inc.、Minneapolis、MN、米国)を製造者の説明書に従って使用して14日間、軟骨形成系譜に沿って分化させた。簡単に記載すると、p5及び15の細胞を遠心分離して、ペレットにし、2日毎~3日毎に行われる新鮮培地交換を伴って分化させた。軟骨細胞のペレットを、クライオスタット(CM3050、Leica Biosystems Inc.、Concord、ON、カナダ)を使用して10umで切片化し、抗アグリカン抗体により蛍光染色した。アグリカンは、軟骨細胞において特異的に産生され、軟骨細胞分化のマーカーとして作用するタンパク質である。ペレット切片の画像を、Evos FL蛍光顕微鏡(Thermo Fisher Scientific、Waltham、MA、米国)を使用して、10倍の対物レンズにより取得した。蛍光染色を、画像におけるすべてのピクセルの未処理積算強度を測定するImageJソフトウェア(ImageJ v.1.52b、国立衛生研究所、米国;http://imagej.nih.gov/ij)を使用して定量化した。すべての値をp5の未処理コントロールに対して正規化し、実験を二連で行った。
【0212】
統計学的分析
すべての値を未処理(UT)の初期継代(p4又はp5)細胞に対してプロットした。処理された加齢群を、同じ継代での未処理の加齢コントロールと比較し、有意性を、p<0.5が有意な変化を表すペアード片側スチューデントt検定を使用して求めた。
【0213】
結果及び考察
低線量放射線照射細胞の遅れた加齢
培養における幹細胞の加齢に対するLDRの影響を調べるために、未処理細胞及び放射線照射細胞の培養物の画像を継代毎について1時間毎に取得し、細胞単層のパーセント細胞密集度を測定した。これらの値を使用して、成長曲線を作製し、細胞の倍加時間を材料及び方法において記載されるように求めた。図8Aは、MSCPがp4からp15にまで加齢する際のMSCPの倍加時間における変化を示し、増殖における比較的有意な低下がp14~p15で認められる。同様の観察がECFCについてなされた。図9Aには、ECFCクローン13の加齢プロセスが表される。興味深いことに、MSPC及びECFCが初期の継代において放射線照射され、培養で加齢させられるとき、加齢プロセスが遅れる。図8B及び図9Bは、放射線照射群対未処理コントロールについての低下した倍加時間によって測定されるような、MSPC及びECFCSについての加齢における遅れをそれぞれ明らかにする。
【0214】
増大した軟骨形成分化によって測定されるようなMSPCの増大した機能的能力
間葉系幹細胞/間質細胞の決定的特徴の1つが、この細胞は骨格系譜の細胞(例えば、軟骨細胞など)に分化することができることである。MSPCの機能的能力における変化に対するLDRの影響を調べるために、p4において前もって放射線照射された5回継代細胞及び15回継代細胞を軟骨形成系譜に沿って分化させた。14日間の分化の後、軟骨細胞ペレットを切片化し、アグリカンについて染色し、染色量を定量化した。染色量を図10Aに示す。p15細胞の分化能力をp5の若齢MSPCの分化と比較して表した。未処理の若齢コントロールに対して、未処理の加齢細胞では、軟骨形成分化におけるおよそ1/2の低下が認められた。しかしながら、LDR処理したとき、加齢細胞はその分化潜在能を維持し、改善さえした(例えば、10mGyの条件)。加齢UT群及び加齢の10mGy群についての軟骨細胞ペレット切片の代表的な画像を図10Bに示す。
【0215】
高まった遊走によって測定されるような低線量放射線照射ECFC細胞の増大した機能的能力
ECFCの機能的能力に対するLDRの影響を評価するために、細胞遊走アッセイを行った。内皮幹細胞の最も重要な機能的属性の1つが、この細胞は組織損傷の部位に移動/遊走し、血管ネットワークを修復することができることである。ECFCの遊走能力を調べるために、引っ掻き創傷アッセイを、未処理の加齢ECFC及び放射線照射の加齢ECFCを用いて行った。すべての値を、若齢(すなわち、非加齢の)未処理(すなわち、放射線非照射)コントロールと比較して表した。2つの別個の測定を材料及び方法の節で記載されるように行った。図11Aは、引っ掻きが行われた10時間後における創傷部の相対的パーセント細胞密集度を示し、図11Bは、細胞が創傷部内において60%の細胞密集度に達するために要した相対的時間を要約する。加齢細胞は、若齢細胞と比較した場合、低下した遊走を明らかにすることが、両方のグラフから明白である。例えば、加齢細胞は、細胞密集度に到達することにおいて若齢細胞の約70%の効率であり、創傷部を閉じるために約1.8倍長い時間を要している。しかしながら、加齢の放射線照射細胞は、若齢細胞と同様なパフォーマンスを示さないが、その遊走能力の大部分を依然として維持している。したがって、図11は、未処理のコントロールと比較した場合、その遊走能力における有意な増大によって明白であるように、培養で増やされたときの放射線照射ECFCの遅れた加齢能力を明らかにしている。
【0216】
本発明が例示的な実施形態及び例を参照して説明されているが、説明は、限定的な意味で解釈されることは意図されない。そのため、例示的な実施形態の様々な改変、同様にまた、本発明の他の実施形態が、この説明を参照したとき、当業者には明らかになるであろう。したがって、添付された請求項は、そのような改変又は実施形態をどのようなものであれ包含するであろうことが意図される。
【0217】
本明細書中で参照されるすべての刊行物、特許及び特許出願は、それぞれの個々の刊行物、特許又は特許出願が、その全体が参照によって組み込まれることが具体的かつ個々に示されていたのと同じ程度にそれらの全体が参照によって組み込まれる。




図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7
図8
図9
図10
図11