(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-24
(45)【発行日】2023-12-04
(54)【発明の名称】酸素濃縮装置、制御方法及び制御プログラム
(51)【国際特許分類】
A61M 16/10 20060101AFI20231127BHJP
B01D 53/047 20060101ALI20231127BHJP
C01B 13/02 20060101ALI20231127BHJP
【FI】
A61M16/10 B
B01D53/047
C01B13/02 A
(21)【出願番号】P 2020556178
(86)(22)【出願日】2019-11-14
(86)【国際出願番号】 JP2019044758
(87)【国際公開番号】W WO2020100996
(87)【国際公開日】2020-05-22
【審査請求日】2021-03-08
【審判番号】
【審判請求日】2022-08-17
(31)【優先権主張番号】P 2018215091
(32)【優先日】2018-11-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503369495
【氏名又は名称】帝人ファーマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100196601
【氏名又は名称】酒井 祐市
(72)【発明者】
【氏名】篠原 康一
(72)【発明者】
【氏名】山浦 佑樹
【合議体】
【審判長】佐々木 正章
【審判官】内藤 真徳
【審判官】栗山 卓也
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-207128(JP,A)
【文献】特開2009-119323(JP,A)
【文献】特開昭64-43328(JP,A)
【文献】特開2002-79030(JP,A)
【文献】国際公開第2008/035817(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 16/10
B01D 53/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加圧空気を供給する加圧空気供給部と、
前記加圧空気供給部から加圧空気が供給され、供給された加圧空気中の窒素を吸着することで、加圧空気中の酸素を濃縮して酸素ガスを生成する吸着筒と、
前記吸着筒によって生成された酸素ガスを貯留する酸素ガスタンクと、
前記酸素ガスタンクから外部に出力される前記酸素ガスの流量である酸素ガス流量を調整する流量調整部と、
前記酸素ガス流量が設定流量になるように前記流量調整部を制御し、前記加圧空気が前記設定流量に応じた設定供給量となるように前記加圧空気供給部を制御する制御部と、を有する酸素濃縮装置であって、
前記設定流量は、0.25LPM以上2.00LPM未満の低流量範囲、および2.00LPM以上5.00LPM以下の高流量範囲の両方で、設定可能であり、
前記加圧空気供給部は、前記設定可能な最大の設定流量に対応する設定供給量以上の加圧空気を供給可能であり、 前記制御部は、前記酸素濃縮装置の始動期間に限っては、前記酸素ガス流量が前記設定流量以上の始動流量となるように前記流量調整部を制御し、且つ、前記加圧空気が前記設定供給量以上の始動供給量となるように前記加圧空気供給部を制御し、
前記酸素濃縮装置は、所定の始動期間が経過したか否か、又は、所定の酸素濃度に到達したか否かにより、始動処理終了の判定を行なう始動処理終了判定部を有し、
始動処理終了の判定がなされたとき、前記制御部は、前記終了の判定から10秒以内に、前記始動供給量から前記設定供給量まで下げ、且つ、前記始動流量から前記設定流量まで下げるように制御
し、
前記設定流量が、前記低流量範囲に設定されたときは、
前記制御部は、前記始動流量を前記高流量範囲、又は前記高流量範囲を超えるように設定し、且つ前記始動供給量を、前記高流量範囲に設定された始動流量に対応する始動供給量、又は、前記対応する始動供給量を超えるように設定することを特徴とする酸素濃縮装置。
【請求項2】
前記始動供給量は前記加圧空気供給部の最大設定流量に応じた供給量であり、前記始動流量は前記流量調整部の最大設定流量である、請求項1に記載の酸素濃縮装置。
【請求項3】
前記始動供給量は前記加圧空気供給部が供給可能な最大供給量であり、前記始動流量は前記流量調整部が供給可能な最大流量である、請求項1又は2に記載の酸素濃縮装置。
【請求項4】
前記吸着筒と前記酸素ガスタンクとの間に接続された逆止弁を更に有する、請求項1~3のいずれか1項に記載の酸素濃縮装置。
【請求項5】
酸素ガス流量が0.25LPM以上2.00LPM未満の低流量範囲及び2.00LPM以上5.00LPM以下の高流量範囲の両方で設定可能な設定流量になるように、且つ前記設定可能な最大の設定流量に対応する設定供給量以上の加圧空気を供給可能なように、制御される酸素濃縮装置のプロセッサによる制御方法であって、
前記プロセッサは、酸素ガスを生成する酸素ガス生成処理が開始されることを示す処理開始信号を取得し、
前記プロセッサは、前記設定流量に応じた供給量である設定供給量以上の始動供給量を供給することを示す始動供給量供給信号を加圧空気供給部に出力すると共に、前記設定流量以上の始動流量を出力することを示す始動流量出力信号を流量調整部に出力し、
前記プロセッサは、所定の始動期間が経過したか否か、又は、所定の酸素濃度に到達したか否かにより、始動処理の終了を判定し、
前記始動処理が終了したと判定されたときに、前記プロセッサは、前記終了の判定から10秒以内に、前記始動供給量から前記設定供給量まで下がるように、且つ、前記始動流量から前記設定流量まで下がるように、前記設定供給量を供給することを示す設定供給量供給信号を前記加圧空気供給部に出力すると共に、前記設定流量を出力することを示す設定流量出力信号を前記流量調整部に出力
し、
前記設定流量が、前記低流量範囲に設定されたときは、
前記プロセッサは、前記始動流量を前記高流量範囲、又は前記高流量範囲を超えるように設定し、且つ前記始動供給量を、前記高流量範囲に設定された始動流量に対応する始動供給量、又は、前記対応する始動供給量を超えるように設定することを含む酸素濃縮装置の制御方法。
【請求項6】
出力する酸素ガスの流量が0.25LPM以上2.00LPM未満の低流量範囲及び2.00LPM以上5.00LPM以下の高流量範囲の両方で設定可能な設定流量になるように、且つ前記設定可能な最大の設定流量に対応する設定供給量以上の加圧空気を供給可能なように、制御される酸素濃縮装置の制御プログラムであって、 酸素ガスを生成する酸素ガス生成処理が開始されることを示す処理開始信号を取得し、
前記設定流量に応じた供給量である設定供給量以上の始動供給量を供給することを示す始動供給量供給信号を加圧空気供給部に出力すると共に、前記設定流量以上の始動流量を出力することを示す始動流量出力信号を流量調整部に出力し、
所定の始動期間が経過したか否か、又は、所定の酸素濃度に到達したか否かにより、始動処理の終了を判定し、
前記始動処理が終了したと判定されたときに、前記終了の判定から10秒以内に、前記始動供給量から前記設定供給量まで下がるように、且つ、前記始動流量から前記設定流量まで下がるように、前記設定供給量を供給することを示す設定供給量供給信号を前記加圧空気供給部に出力すると共に、前記設定流量を出力することを示す設定流量出力信号を前記流量調整部に出力
し、
前記設定流量が、前記低流量範囲に設定されたときは、
前記始動流量を前記高流量範囲、又は前記高流量範囲を超えるように設定し、且つ前記始動供給量を、前記高流量範囲に設定された始動流量に対応する始動供給量、又は、前記対応する始動供給量を超えるように設定することを含む処理を、プロセッサに実行させる制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、酸素濃縮装置、制御方法及び制御プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、喘息、閉塞性慢性肺疾患等の呼吸器疾患患者に対する療法の1つとして、酸素ガス又は酸素濃縮ガスを患者に吸入させる療法である酸素療法が行われている。近年では、患者のQOL(QOL:Quality of Life)を向上させるために、患者の自宅で酸素療法を行う在宅酸素療法(HOT:Home Oxygen Therapy)が主流になっている。在宅酸素療法では、患者に酸素ガスを供給する酸素供給源として、空気に含有される酸素を濃縮して酸素ガスを生成し、生成した酸素ガスを供給する酸素濃縮装置が使用される。
【0003】
酸素濃縮装置として、圧力変動吸着式(以下、PSA式:Pressure Swing Adsorption)酸素濃縮装置、及びVPSA(Vacuum Pressure Swing Adsorption)式又はVSA(Vacuum Swing Adsorption)式酸素濃縮装置が広く採用されている。
【0004】
酸素濃縮装置は、窒素ガスを選択的に吸着する吸着剤が充填された一対の吸着筒を有し、一対の吸着筒のそれぞれが吸着工程と脱着工程を繰り返すことで酸素ガスを生成し、生成した酸素ガスを酸素ガスタンクに貯蔵する。吸着工程は、吸着筒に取り込んだ加圧空気中の窒素ガスを吸着剤に吸着させて加圧空気から酸素ガスを生成し、生成した酸素ガスを酸素ガスタンクに貯蔵する工程である。脱着工程は、吸着筒内を大気開放して、吸着工程で吸着剤に吸着した窒素ガスを大気に放出する工程である。酸素濃縮装置は、吸着工程及び脱着工程を一対の吸着筒の間で交互に繰り返すことで、酸素ガスを連続的に生成することができる。
【0005】
酸素濃縮装置は、例えば酸素ガスタンクに十分な酸素ガスが貯蔵されていないときに、患者に処方すべき流量で酸素ガスが安定して供給されないおそれがある。患者の病状により、所望の流量の酸素ガスを患者が早急に要する場合があるので、酸素濃縮装置が始動してから患者に所望の流量の酸素ガスを安定して供給できるまでの期間である始動期間は可能な限り短時間であることが望ましい。
【0006】
JIS T 7209:2018「医用電気機器-酸素濃縮装置の基礎安全及び基本性能に関する個別要求事項」には、「201.12.4.4.101.2 始動期間の表示」として「酸素濃縮装置には、始動期間中に生成ガス中の酸素濃度が最小定格濃度に達しないときに、それを示す低優先度機器アラーム状態をもつアラームシステムを備えなければならない。このアラーム状態は、始動期間が120秒よりも短い場合、作動する必要はない。」と記載されている。酸素濃縮装置は、JIS T 7209:2018で要求される要求事項を充足するためにも、酸素濃度が所定の最小定格濃度に達するまでの時間を可能な限り短縮することが望ましい。
【0007】
特許文献1には、患者に供給する酸素ガスの流量を設定する流量制御弁の開度を始動時に全開にすることで、患者に供給する酸素ガスの濃度が所望の濃度に達する時間を短縮する酸素濃縮装置が記載されている。
【0008】
特許文献2には、吸着筒に加圧空気を供給するコンプレッサの回転数を始動時に最大にした後に、患者に供給する酸素ガスの流量に応じてコンプレッサの回転数を徐々に下げることで患者に供給する酸素ガスの濃度を維持する酸素濃縮装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2009-119323号公報
【文献】特開平11-207128号公報
【発明の概要】
【0010】
特許文献1及び2に記載される酸素濃縮装置は、患者に供給する酸素ガスの濃度が所望の濃度に達する時間を短縮することが可能であるが、患者に供給する酸素ガスの濃度が所望の濃度に達する時間を更に短縮する技術が望まれている。
【0011】
酸素濃縮装置、制御方法及び制御プログラムの目的は、患者に処方すべき流量の酸素ガスが供給できるまでの始動期間を短縮することにある。
【0012】
実施形態の一側面に係る酸素濃縮装置は、加圧空気を供給する加圧空気供給部と、加圧空気供給部から加圧空気が供給され、供給された加圧空気中の窒素を吸着することで、加圧空気中の酸素を濃縮して酸素ガスを生成する吸着筒と、吸着筒によって生成された酸素ガスを貯留する酸素ガスタンクと、酸素ガスタンクから外部に出力される酸素ガスの流量である酸素ガス流量を調整する流量調整部と、酸素ガス流量が設定流量になるように流量調整部を制御し、加圧空気が設定流量に応じた供給量となるように加圧空気供給部を制御する制御部と、を有する酸素濃縮装置であって、制御部は、酸素濃縮装置の始動期間に限っては、酸素ガス流量が設定流量以上の始動流量となるように流量調整部を制御し、且つ、加圧空気が各設定流量に応じた供給量である設定供給量以上の始動供給量となるように加圧空気供給部を制御する。
【0013】
実施形態の一側面に係る酸素濃縮装置は、始動供給量は加圧空気供給部の最大設定流量に応じた供給量であり、始動流量は流量調整部の最大設定流量である、ことが好ましい。
【0014】
実施形態の一側面に係る酸素濃縮装置は、始動供給量は加圧空気供給部が供給可能な最大供給量であり、始動流量は流量調整部が供給可能な最大流量である、ことが好ましい。
【0015】
実施形態の一側面に係る酸素濃縮装置は、所定の始動期間が経過したか否か、又は、所定の酸素濃度に到達したか否かにより、始動処理終了の判定を行う始動処理終了判定部を更に有する、ことが好ましい。
【0016】
実施形態の一側面に係る酸素濃縮装置は、吸着筒と酸素ガスタンクとの間に接続された逆止弁を更に有する、ことが好ましい。
【0017】
実施形態の一側面に係る制御方法は、酸素ガス流量が設定流量になるように制御される酸素濃縮装置の制御方法であって、酸素ガスを生成する酸素ガス生成処理が開始されることを示す処理開始信号を取得し、設定流量に応じた供給量である設定供給量以上の始動供給量を供給することを示す始動供給量供給信号を加圧空気供給部に出力すると共に、設定流量以上の始動流量を出力することを示す始動流量出力信号を流量調整部に出力し、所定の始動期間が経過したか否か、又は、所定の酸素濃度に到達したか否かにより、始動処理の終了を判定し、始動処理が終了したと判定されたときに、設定供給量を供給することを示す設定供給量供給信号を加圧空気供給部に出力すると共に、設定流量を出力することを示す設定流量出力信号を流量調整部に出力する、ことを含む。
【0018】
実施形態の一側面に係る制御プログラムは、出力する酸素ガスの流量が設定流量になるように制御される酸素濃縮装置の制御プログラムであって、酸素ガスを生成する酸素ガス生成処理が開始されることを示す処理開始信号を取得し、設定流量に応じた供給量である設定供給量以上の始動供給量を供給することを示す始動供給量供給信号を加圧空気供給部に出力すると共に、設定流量以上の始動流量を出力することを示す始動流量出力信号を流量調整部に出力し、所定の始動期間が経過したか否か、又は、所定の酸素濃度に到達したか否かにより、始動処理の終了を判定し、始動処理が終了したと判定されたときに、設定供給量を供給することを示す設定供給量供給信号を加圧空気供給部に出力すると共に、設定流量を出力することを示す設定流量出力信号を流量調整部に出力する、ことを含む処理を、プロセッサに実行させる。
【0019】
本実施形態によれば、酸素濃縮装置、制御方法及び制御プログラムは、患者に処方すべき流量の酸素ガスが供給できるまでの始動期間を短縮することが可能となる。
【0020】
本発明の目的及び効果は、特に請求項において指摘される構成要素及び組み合わせを用いることによって認識され且つ得られるだろう。前述の一般的な説明及び後述の詳細な説明の両方は、例示的及び説明的なものであり、特許請求の範囲に記載されている本発明を制限するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】実施形態に係る酸素濃縮装置の機能ブロック図である。
【
図2】
図1に示す制御部のブロックの一例を示す図である。
【
図3】操作部40の構成要素の1つである操作パネルの一例を示し、(a)は患者用の操作パネルの状態を示し、(b)は、医療従事者等による特殊な操作のための操作パネルの状態を示す図である。
【
図4】始動制御処理の一例を示すフローチャートである。
【
図5】始動制御処理の他の一例を示すフローチャートである。
【
図6】酸素濃縮装置の始動後の酸素濃度推移の一例を示し、(a)は従来の始動処理による酸素濃縮装置の始動後の酸素濃度推移の一例を示し、(b)は本実施形態の始動処理による酸素濃縮装置の始動後の酸素濃度推移の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本開示の一側面に係る酸素濃縮装置、制御方法及び制御プログラムについて、図を参照しつつ説明する。但し、本開示の技術的範囲はそれらの実施の形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された発明とその均等物に及ぶ点に留意されたい。尚、以下の説明及び図において、同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0023】
[実施形態に係る酸素濃縮装置の概要]
図1は、実施形態に係る酸素濃縮装置の機能ブロック図である。
【0024】
酸素濃縮装置1は、空気取入フィルタ11と、加圧空気供給部12と、切換部13と、一対の吸着筒14及び15と、一対の逆止弁16及び17と、酸素ガスタンク18とを有する。酸素濃縮装置1は、調圧弁19と、流量調整部20と、出口フィルタ21と、加湿器22と、濃度センサ23と、流量センサ24と、制御部30と、操作部40とを更に有する。酸素濃縮装置1は、原料空気Aから酸素ガスCを生成し、生成した酸素ガスCを酸素濃縮装置1を使用する患者である使用者2の鼻孔に出力する酸素ガス生成処理を実行する。
【0025】
空気取入フィルタ11は、酸素濃縮装置1の外部から取り入れられる原料空気Aに含まれる塵埃などの異物を取り除くエアフィルタである。加圧空気供給部12は、例えば、揺動型空気圧縮機、並びにスクリュー式、ロータリー式及びスクロール式等の回転型空気圧縮機である。加圧空気供給部12は、空気取入フィルタ11を通して取り込まれた空気Aを圧縮して加圧空気Bを生成し、生成した加圧空気Bを切換部13を介して一対の吸着筒14及び15の何れか一方に供給する。
【0026】
切換部13は、例えば電磁弁及び配管で形成される3つの二方バルブマニホールドを有する。切換部13は、制御部30から入力される制御信号に応じて、一対の吸着筒14及び15に供給される加圧空気Bの供給経路、及び一対の吸着筒14及び15から排出される窒素ガスDの排出経路を切り替える。
【0027】
切換部13は、空気取入フィルタ11と吸着筒14との間に加圧空気Bを供給する供給経路を形成するときに吸着筒15から酸素濃縮装置1の外部に窒素ガスDを排出する排出経路を形成する。また、切換部13は、空気取入フィルタ11と吸着筒15との間に加圧空気Bを供給する供給経路を形成するときに吸着筒14から酸素濃縮装置1の外部に窒素ガスDを排出する排出経路を形成する。
【0028】
一対の吸着筒14及び15は、加圧空気B中の酸素ガスCよりも窒素ガスDを選択的に吸着するゼオライトが吸着剤として充填されている。ゼオライトは、切換部13を介して加圧空気供給部12から供給される加圧空気に約77%含有される窒素ガスDを選択的に吸着すると共に、水蒸気を吸着するため、一対の吸着筒14及び15によって生成された酸素ガスCは乾燥状態となる。
【0029】
一対の吸着筒14及び15は、加圧空気供給部12から切換部13を介して供給される加圧空気Bから窒素ガスDを吸着して、酸素ガスCを生成する。吸着筒14が酸素ガスCを生成する間、吸着筒15は吸着した窒素ガスDを切換部13を介して酸素濃縮装置1の外部に排出する。吸着筒14が吸着した窒素ガスDを切換部13を介して酸素濃縮装置1の外部に排出する間、吸着筒15は酸素ガスCを生成する。一対の吸着筒14及び15が交互に酸素ガスCを生成することで、酸素濃縮装置1は、連続して酸素ガスCを生成することができる。なお、酸素濃縮装置1は、一対の吸着筒14及び15を有するが、実施形態に係る酸素濃縮装置は、3つ以上の吸着筒を有してもよい。
【0030】
一対の逆止弁16及び17は、一対の吸着筒14及び15のそれぞれと酸素ガスタンク18との間に配置される。逆止弁16は、吸着筒14が酸素ガスCを生成する間、開状態になり、吸着筒14により生成された酸素ガスCを酸素ガスタンク18に流入させる。また、逆止弁16は、吸着筒14が吸着した窒素ガスDを切換部13を介して酸素濃縮装置1の外部に排出する間、閉状態になり、酸素ガスタンク18に貯蔵された酸素ガスが吸着筒14を介して酸素濃縮装置1の外部に排出することを防止する。
【0031】
逆止弁17は、吸着筒15が酸素ガスCを生成する間、開状態になり、吸着筒15により生成された酸素ガスCを酸素ガスタンク18に流入させる。また、逆止弁17は、吸着筒15が吸着した窒素ガスDを切換部13を介して酸素濃縮装置1の外部に排出する間、閉状態になり、酸素ガスタンク18に貯蔵された酸素ガスCが吸着筒15を介して酸素濃縮装置1の外部に排出することを防止する。
【0032】
酸素ガスタンク18は、製品タンクとも称され、一対の吸着筒14及び15のそれぞれで生成された酸素ガスを貯蔵する。酸素ガスタンク18の内圧は、酸素ガスCの生成に伴う吸着筒14及び15のそれぞれの内圧の変化に応じて変動する。調圧弁19は、例えば減圧弁であり、酸素ガスCの生成に伴い内圧が変動する酸素ガスタンク18から出力される酸素ガスの圧力を所定の圧力に保つ。
【0033】
流量調整部20は、例えば電磁弁であり、制御部30から入力される流量出力信号に従って開度を調整して、酸素ガスタンク18から出力される酸素ガスCの流量を調整する。
【0034】
出口フィルタ21は、酸素ガス生成過程で生じた酸素ガスCに含まれる塵埃などの異物を取り除くエアフィルタである。加湿器22は、吸着筒14及び15によって生成された酸素ガスCは乾燥状態にあるので使用者2の鼻孔乃至気道内の乾燥を防ぐため、適度に加湿した酸素ガスCを供給する。加湿器22は、例えばバブリング式又は表面蒸発式の水加湿器である。
【0035】
出口フィルタ21と加湿器22の間の酸素ガスCの流路には、濃度センサ23と流量センサ24とが接続されている。濃度センサ23は酸素ガスCの濃度を計測するためのものであり、例えばジルコニア式やガルバニ電池式及び超音波式の酸素濃度センサである。また、流量センサ24は、酸素ガスCの流量を計測するためのものであり、例えば、ロータメータ式及び超音波式の流量センサである。
【0036】
濃度センサ23と流量センサ24で取得された濃度データと流量データは、制御部30に送信される。制御部30は、各データの分析を行い、使用者2に供給される酸素ガスCの品質が維持されるように、加圧空気供給部12、切換部13、及び流量調整部20を制御する。したがって、制御部30は、加圧空気供給部12、切換部13、及び流量調整部20と通信可能に接続されている。なお、制御部30は、酸素濃縮装置1の他の構成要素、例えば、加湿器22と通信可能に接続され、加湿器22による加湿度を制御してもよい。
【0037】
酸素濃縮装置1は、電源のオンオフ、及び使用者2に供給される酸素ガスCの流量の設定等に使用される操作部40を有する。操作部40は、LCDパネル及び操作ボタン、又はタッチパネル等の画像表示部と入力部を有するインタフェース部であり、制御部30に接続される。
【0038】
[制御部]
図2は、制御部30のブロック図である。
【0039】
制御部30は、制御記憶部31と、制御処理部32とを有する。制御記憶部31は、1又は複数の半導体メモリにより構成される。例えば、RAMや、フラッシュメモリ、EPROM、EEPROM等の不揮発性メモリの少なくとも一つを有する。制御記憶部31は、制御処理部32による処理に用いられるドライバプログラム、オペレーティングシステムプログラム、アプリケーションプログラム、データ等を記憶する。
【0040】
制御記憶部31に記憶されるアプリケーションプログラムは、酸素ガスCを生成して、生成した酸素ガスを使用者2の鼻孔に出力する酸素ガス生成処理を実行するための種々のプログラムを含む。例えば、アプリケーションプログラムは、加圧空気供給量処理プログラム、切換制御プログラム、酸素ガス流量調整プログラム、及び始動制御プログラムを含む。
【0041】
加圧空気供給量処理プログラムは、加圧空気供給部12の加圧空気供給量を制御する加圧空気供給量制御処理を制御処理部32に実行させるプログラムである。切換制御プログラムは、切換部13による一対の吸着筒14及び15のそれぞれの切換時間を制御する切換制御処理を制御処理部32に実行させるプログラムである。酸素ガス流量調整プログラムは、流量調整部20が酸素ガスCの流量を調整するように制御する流量調整制御処理を制御処理部32に実行させるプログラムである。始動制御プログラムは、酸素濃縮装置を始動する始動制御処理を制御処理部32に実行させるプログラムである。
【0042】
また、制御記憶部31は、ドライバプログラムとして、濃度センサ23等を制御するデバイスドライバプログラムを記憶する。コンピュータプログラムは、例えば、CD-ROM、DVD-ROM等のコンピュータ読み取り可能な可搬型記録媒体から、公知のセットアッププログラム等を用いて制御記憶部31にインストールされてもよい。また、プログラムサーバ等からダウンロードしてインストールしてもよい。
【0043】
制御記憶部31は、所定の処理に係る一時的なデータを一時的に記憶してもよい。制御記憶部31は、設定流量311、設定データテーブル312、加圧空気供給制御パラメータファイル313、流量調整制御パラメータファイル314、及び切換制御パラメータファイル315等を記憶する。設定流量311は、使用者2に供給すべき酸素ガスCの流量であって、医師の処方箋に従い設定される。
【0044】
設定データテーブル312は、始動供給量、始動流量、設定供給量、始動期間及び始動時酸素濃度を含む設定データを、設定流量と関連付けて記憶する。設定データテーブル312は、酸素濃縮装置1の機種によっても異なるが、例えば、「0.25LPM」、「1.00LPM」、「3.00LPM」及び「5.00LPM」等の設定流量に関連付けて始動供給量、始動流量、設定供給量、始動期間、及び始動時酸素濃度を記憶する。LPMは、リッター・パー・ミニッツの略であり、1分間当たりの加圧空気の供給量及び酸素ガスの流量のリットル単位で示す。
【0045】
本願明細書においては、低流量とは酸素ガスの流量が0.25LPM以上2.00LPM未満の範囲とし、高流量とは酸素ガスの流量が2.00LPM以上5.00LPM以下の範囲と定義する。
【0046】
設定データテーブル312において、「設定流量」は医師の処方箋に従い使用者2に供給すべき酸素の流量を示し、「始動供給量」は酸素濃縮装置1の始動のときの加圧空気の供給量を示す。「始動供給量」は、「設定流量」に応じた供給量である「設定供給量」以上の供給量であり、例えば酸素濃縮装置1の設定可能な最大の設定供給量である。「始動流量」は酸素濃縮装置の始動のときの酸素の流量を示し、「設定流量」以上の流量であり、例えば酸素濃縮装置1の設定可能な最大の設定流量である。又、「設定供給量」は設定流量に応じた加圧空気の供給量を示し、「始動期間」は加圧空気の供給量を始動供給量から設定供給量に切換え得ると共に、酸素流量を始動流量から設定流量に切換えるまでの始動からの期間を示す。「始動時酸素濃度」とは、例えばJIS T 7209:2018で要求される最小定格濃度である。
【0047】
酸素濃縮装置1は、例えば、0.25LPM~5.00LPMの間で医師等の処方箋に従い、何れか1つの流量に酸素流量を設定することが可能である。設定データテーブル312は、各設定流量に対応する加圧空気の始動供給量、酸素ガスCの始動流量、始動期間、及び始動時酸素濃度を記憶する。酸素濃縮装置1の設定可能な最大の設定流量5.00LPMの場合は、酸素濃縮装置1の酸素濃縮処理能力によっても異なるが、例えば、始動供給量は設定可能な最大の設定流量に対応する設定供給量の最大値と同じである。又、始動流量は設定可能な最大の設定流量と同じ5.00LPMであり、始動期間は、例えば、120秒未満である。始動期間は、酸素濃度の立ち上がり時間に関連し、例えば、110秒未満でもよい。始動時酸素濃度は、JIS T 7209:2018で要求される最小定格濃度であり、規格によって要求濃度は異なるが、例えば、標準的な規格の酸素濃縮装置の仕様は、90-3/+6[vol%]であり、その場合、最小定格濃度は87vol%である。その他、91-3/+5[vol%]の仕様の機種などもあり、その場合の最小定格濃度は88%である。
【0048】
設定流量が0.25LPMの低流量の場合は、酸素濃縮装置1の酸素濃縮処理能力によっても異なるが、例えば、酸素濃縮装置1の最大の設定流量(最大流量)が5.00LPMである場合は、始動供給量は酸素濃縮装置1の最大の設定流量5.00LPMに対応する始動供給量と同じ最大値である(最大供給量)。又、始動流量は酸素濃縮装置1の最大の設定流量5.00LPMである。設定供給量は設定流量の最低値0.25LPMに対応する最低値であり、始動期間は、例えば、120秒未満である。始動期間は、酸素濃度の立ち上がり時間に関連し、例えば、110秒未満でもよい。
【0049】
加圧空気供給部12が、酸素濃縮装置1の最大の設定流量に対応する始動供給量以上の加圧空気を供給可能なときは、始動供給量は、酸素濃縮装置1の最大の設定流量に対応する供給量以上とすることができる。また、始動流量も設定可能な最大の設定流量以上とすることができる。酸素濃縮装置1は、酸素濃度のより速い立ち上がりを実現することができる。したがって、始動期間は、例えば、100秒未満とすることができる。
【0050】
加圧空気供給制御パラメータファイル313は、加圧空気供給量制御処理を制御処理部32が実行するときに使用されるモータの回転数等のパラメータを記憶する。流量調整制御パラメータファイル314は、流量調整制御処理を制御処理部32が実行するときに使用される電磁弁の開度の調整等のパラメータを記憶する。切換制御パラメータファイル315は、切換制御処理を制御処理部32が実行するときに使用される電磁弁の切り替えタイミング等のパラメータを記憶する。
【0051】
制御処理部32は、一又は複数個のプロセッサ及びその周辺回路を有する。制御処理部32は、酸素濃縮装置1の全体的な動作を統括的に制御するものであり、例えば、MCU(Micro Control Unit)等のプロセッサである。
【0052】
制御処理部32は、制御記憶部31に記憶されているプログラム(オペレーティングシステムプログラム、ドライバプログラム、アプリケーションプログラム等)に基づいて処理を実行する。また、制御処理部32は、複数のプログラム(アプリケーションプログラム等)を並列に実行してもよい。制御処理部32は、処理開始信号取得部321、設定流量取得部322、設定データ取得部323、加圧空気供給制御部324、流量調整制御部325、切換制御部326、計時部327、操作制御部328、始動処理終了判定部329等を有する。
【0053】
制御処理部32が有するこれらの各部は、独立した集積回路、回路モジュール、マイクロプロセッサ、又はファームウェアとして制御部30に実装されてもよい。
【0054】
[操作パネル]
図3は、操作部40の構成要素の1つである操作パネルの一例を示す図である。
図3(a)は患者用の操作パネルの状態を示す図であり、
図3(b)は、医療従事者等による特殊な操作のための操作パネルの状態を示す図である。
【0055】
操作パネル41は、使用者2が酸素濃縮装置1を操作するためのユーザーインターフェースである。操作パネル41の左側には、酸素濃縮装置1の電源のオンオフと酸素ガスCを生成する酸素ガス生成処理の開始及び終了に使用される運転ボタン42が設けられている。操作パネル41の中央には、酸素ガスの設定流量を表示する液晶表示部43が設けられている。表示される設定流量値は、制御記憶部31に記憶される設定流量311に対応する流量値である。操作パネル41の右側には、流量設定を変更するためのアップボタン44とダウンボタン45が設けられている。
【0056】
運転ボタン42が押下されると、酸素濃縮装置1は電源オンとなり、酸素ガスCを生成する酸素ガス生成処理を開始する。再度、運転ボタンが押下されると、酸素濃縮装置1は酸素ガスCを生成する酸素ガス生成処理を終了し、電源オフとなる。酸素濃縮装置1は、電源コンセントに挿入されることによって休止モードとなるようにしてもよい。休止モードは、スタンバイモードとも称され、例えば、タイマー機能及び表示機能等の補助処理が動作する状態であるが、主機能の酸素ガスCを生成する酸素ガス生成処理が休止した状態である。運転ボタン42が押下されることにより、酸素ガスCを生成する酸素ガス生成処理が開始される。
【0057】
操作パネル41は、運転ボタン42が押下されることに応じて、酸素濃縮装置1の電源をオン又はオフすることを示す電源オン信号又は電源オフ信号を出力する。また、酸素ガスCを生成する酸素ガス生成処理を開始又は終了することを示す処理開始信号又は処理終了信号を出力する。
【0058】
酸素濃縮装置1は、運転ボタン42とは別には、電源ボタンを有してもよい。電源ボタンは、酸素濃縮装置1の筐体の裏側、及び筐体の内部等の使用者2が操作し難い場所に設けてもよい。電源ボタンを使用者2が操作し難い場所に設けることにより、酸素濃縮装置1が酸素ガスCを生成する酸素ガス生成処理を実行中に電源がオフされるなどの誤操作が防止される。酸素濃縮装置1が電源ボタンを有するときは、運転ボタン42は酸素ガスCを生成する酸素ガス生成処理を開始又は終了する操作のためのボタンとなる。
【0059】
操作パネル41の右側には、酸素ガスCの流量設定を変更するためのアップボタン44とダウンボタン45が設けられている。使用者は2つのボタンの操作をすることにより酸素ガスCの設定流量を変更することができ、変更操作に応じて液晶表示部43の流量表示が変わる。
【0060】
使用者が患者である場合は、医師の処方箋に指示された酸素流量の上限を超える設定流量に変更できないようにすることが望ましい。例えば、3.00LPMで酸素ガスの供給を受けるように処方された患者は、設定酸素流量を3.00LPMを超えて酸素供給できないようにする。慢性呼吸不全等の使用者2に処方以上の高濃度酸素を投与するとCO2ナルコーシスという病状が出ることがあり、その予防をするためである。したがって、アップボタン44に上限を設け、アップボタン44は設定流量3.00LPMを超える値に対しては動作しないようにすることができる。
【0061】
図3(b)は、医療従事者等による特殊な操作のための操作パネルの状態を示す図である。
【0062】
医療従事者や酸素濃縮装置1の専門取扱者が、設定流量の上限を変更できように、特殊な操作をすることにより、
図3(b)に示す液晶表示部43´に切り替えることができる。特殊な動作は、例えば、運転ボタン42を10秒以上長押しするとか、アップボタン44とダウンボタン45を同時に5秒以上長押しするとかの操作である。又、特別な切換ボタンを酸素濃縮装置1の筐体内に設けてもよい。
【0063】
特殊な操作によって、液晶表示部の表示は液晶表示部43´に示される表示に変更される。医療従事者等は、アップボタン44とダウンボタン45を用いて、酸素の設定流量の上限値を変更することができる。変更操作に応じて、液晶表示部43´に表示される流量設定上限値の値は変更される。
【0064】
操作部40は、制御部30と接続されている。例えば、運転ボタン42押下に応じた電源オン信号及び電源オフ信号並びに処理開始信号及び処理終了信号は、制御部30の操作制御部328に送信される。又、制御部30から液晶表示部43に、設定流量値を示す表示信号が送信される。更に、上述の流量設定上限値の処理も、操作制御部328により制御される。
【0065】
[始動制御フロー]
図4は、制御処理部32により実行される始動制御処理の一例を示すフローチャートである。
図4に示す始動制御処理は、予め制御記憶部31に記憶されている始動制御プログラムに基づいて、主に制御処理部32により酸素濃縮装置1の各要素と協働して実行される。
【0066】
まず、処理開始信号取得部321は、操作パネル41の運転ボタン42の押下により送信される処理開始信号を取得したか否かを判定する(ST601)。処理開始信号取得部321によって処理開始信号を取得したと判定する(ST601:YES)まで、ST601の処理を繰り返す。
【0067】
処理開始信号取得部321によって処理開始信号を取得したと判定される(ST601:YES)と、設定流量取得部322は、制御記憶部31に記憶される設定流量311を取得する(ST602)。
【0068】
設定データ取得部323は、制御記憶部31に記憶される設定データテーブル312から、ST602の処理で取得した設定流量311に一致する設定流量に関連付けられた設定データを取得する(ST603)。設定データ取得部323が取得する設定データは、設定流量311に一致する設定流量に関連付けられた始動供給量、始動流量、設定供給量及び始動期間を含む。
【0069】
流量調整制御部325は、ST603の処理で取得された始動流量を出力することを示す始動流量出力信号を流量調整部20に出力する(ST604)。流量調整部20は、始動流量出力信号が入力されることに応じて、ST603の処理で取得された始動流量の酸素ガスCの出力を開始する。
【0070】
加圧空気供給制御部324は、ST603の処理で取得された始動供給量を供給することを示す始動供給量供給信号を加圧空気供給部12に出力する(ST605)。加圧空気供給部12は、始動供給量供給信号が入力されることに応じて、ST603の処理で取得された始動供給量の加圧空気Bの供給を開始する。なお、ST604とST605の順序は入れ替えてもよい。
【0071】
計時部327は、流量調整制御部325によって始動流量出力信号が出力されてから、又は運転ボタンがオンされてからの経過時間の計測を開始する(ST606)。なお、酸素濃縮装置1の電源がオン又は運転ボタンがオンされてから経過時間計測の開始(ST606)までは数秒で行われる。次いで、計時部327は、始動供給量供給信号が出力されてから、又は運転ボタンがオンされてからの経過時間が、ST603の処理で取得された始動期間に達したか否かを判定する(ST607)。計時部327は、始動供給量供給信号が出力されてからの経過時間が始動期間に達して始動期間が経過したと判定する(ST607:YES)まで、経過時間を計時し続ける。
【0072】
計時部327によって始動期間が経過したと判定された(ST607:YES)とき、加圧空気供給制御部324は、ST603の処理で取得された設定供給量を供給することを示す設定供給量供給信号を加圧空気供給部12に出力する(ST608)。加圧空気供給部12は、設定供給量供給信号が入力されることに応じて、加圧空気Bの供給量を始動供給量から設定供給量に変更する。
【0073】
流量調整制御部325は、ST603の処理で取得された設定流量を出力することを示す設定流量出力信号を流量調整部20に出力する(ST609)。流量調整部20は、設定流量出力信号が入力されることに応じて、酸素ガスCの出力量を始動流量から設定流量に変更する。
【0074】
[始動制御フローの他の一例]
図4では、始動期間の計測判定により、始動供給量から設定供給量に、始動流量から設定流量に変更するフローを示したが、始動期間を制御するプログラムであれば変更することができる。例えば、酸素濃縮装置1の起動から濃度センサ23における出力値を装置内部で監視し、酸素濃度が始動時酸素濃度に到達した時点で始動期間を終了させるように変更することもできる。
【0075】
図5は、制御処理部32により実行される始動制御処理の他の一例を示すフローチャートである。
図5に示す始動制御処理は、予め制御記憶部31に記憶されている始動制御プログラムに基づいて、主に制御処理部32により酸素濃縮装置1の各要素と協働して実行される。
【0076】
処理開始信号取得部321は、操作パネル41の運転ボタン42の押下により送信される処理開始信号を取得したか否かを判定する(ST701)。処理開始信号取得部321によって処理開始信号を取得したと判定する(ST701:YES)まで、ST701の処理を繰り返す。
【0077】
処理開始信号取得部321によって処理開始信号を取得したと判定される(ST701:YES)と、設定流量取得部322は、制御記憶部31に記憶される設定流量311を取得する(ST702)。
【0078】
設定データ取得部323は、制御記憶部31に記憶される設定データテーブル312から、ST702の処理で取得した設定流量311に一致する設定流量に関連付けられた設定データを取得する(ST703)。設定データ取得部323が取得する設定データは、設定流量311に一致する設定流量に関連付けられた始動供給量、始動流量、設定供給量、始動期間、及び始動時酸素濃度を含む。
【0079】
流量調整制御部325は、ST703の処理で取得された始動流量を出力することを示す始動流量出力信号を流量調整部20に出力する(ST704)。流量調整部20は、始動流量出力信号が入力されることに応じて、ST703の処理で取得された始動流量の酸素ガスCの出力を開始する。
【0080】
加圧空気供給制御部324は、ST703の処理で取得された始動供給量を供給することを示す始動供給量供給信号を加圧空気供給部12に出力する(ST705)。加圧空気供給部12は、始動供給量供給信号が入力されることに応じて、ST703の処理で取得された始動供給量の加圧空気Bの供給を開始する。なお、ST704とST705の順序は入れ替えてもよい。
【0081】
計時部327は、流量調整制御部325によって始動流量出力信号が出力されてから、又は運転ボタンがオンされてからの経過時間の計測を開始する(ST706)。なお、酸素濃縮装置1の電源がオン又は運転ボタンがオンされてから経過時間計測の開始(ST706)までは数秒で行われる。
【0082】
始動処理終了判定部329は、濃度センサ23より酸素濃度を取得する(ST707)。始動処理終了判定部329は、始動供給量供給信号が出力されてから、又は運転ボタンがオンされてからの経過時間が始動期間に達したか否か、又は、濃度センサ23にて酸素濃度が所定の酸素濃度(始動時酸素濃度)に達しているか否かを判定する(ST708)。なお、始動処理終了判定部329によるST708の判定は、(1)始動供給量供給信号が出力されてから、又は運転ボタンがオンされてからの経過時間が始動期間に達したか否か、(2)濃度センサ23にて酸素濃度が所定の酸素濃度に達しているか否か、の2つの条件(1)と(2)の両方が成立することを含む。
図5は2つの条件(1)と(2)の両方が成立する場合の例を示したが、当然のことながら、いずれか一方の条件のみの成立とすることとしてもよい。
図4には条件(1)のみ成立する場合の始動制御処理の例を示したが、条件(2)のみ成立する場合の始動制御処理としてもよい。
【0083】
始動処理終了判定部329が、始動供給量供給信号が出力されてから、又は運転ボタンがオンされてからの経過時間が始動期間に達しておらず、且つ、濃度センサ23にて酸素濃度が所定の酸素濃度に達していないと判定したとき(ST708:NO)、処理はST706に戻る。計時部327は、始動供給量供給信号が出力されてからの経過時間を計測し続ける(ST706)。
【0084】
始動処理終了判定部329が、始動供給量供給信号が出力されてから、又は運転ボタンがオンされてからの経過時間が始動期間に達した、又は、酸素濃度が所定の酸素濃度に達した、と判定したとき(ST708:YES)、加圧空気供給制御部324は、設定供給量供給信号を加圧空気供給部12に出力する(ST709)。設定供給量供給信号はST703の処理で取得された設定供給量を供給することを指示する信号である。加圧空気供給部12は、設定供給量供給信号が入力されることに応じて、加圧空気Bの供給量を始動供給量から設定供給量に変更する。
【0085】
流量調整制御部325は、ST703の処理で取得された設定流量を出力することを示す設定流量出力信号を流量調整部20に出力する(ST710)。流量調整部20は、設定流量出力信号が入力されることに応じて、酸素ガスCの出力量を始動流量から設定流量に変更する。
【0086】
酸素濃縮装置1は、酸素濃度低下を防止し、低流量設定でも、酸素濃度の速い立ち上がりを実現することができる。
【0087】
酸素濃縮装置1の始動動処理の作用効果を、従来の始動処理と対比して説明する。
【0088】
図6は、酸素濃縮装置の始動後の酸素濃度推移の一例を示す図である。
図6(a)は、従来の始動処理による酸素濃縮装置の始動後の酸素濃度推移の一例を示し、
図6(b)は、本実施形態の始動処理による酸素濃縮装置の始動後の酸素濃度推移の一例を示している。
【0089】
従来の始動処理では、加圧空気供給部12が供給する加圧空気の供給量は流量調整部20から出力される酸素ガスの設定流量に対応するように設定されていた。
【0090】
本願明細書においては、低流量とは酸素ガスの流量が0.25LPM以上2.00LPM未満の範囲とし、高流量とは酸素ガスの流量が2.00LPM以上5.00LPM以下の範囲と定義する。
【0091】
グラフ横軸は、酸素濃縮装置1が始動してからの経過時間(秒)を表し、グラフ縦軸は、酸素濃度(vol%)である。低流量(0.25LPM)設定の場合の始動後の酸素濃度推移は実線で、高流量(5.00LPM)設定の場合の始動後の酸素濃度推移は破線で示されている。
【0092】
酸素濃度立ち上がりについては、酸素濃縮装置1の機種によっても異なるが、例えば、高流量設定の場合は、酸素濃度は始動後100秒のあたりで濃度目標の下限に達する。一方、低流量設定の場合は、酸素濃度は緩やかに上昇し、濃度目標の下限に達するのは始動後400秒を超えたあたりである。低流量設定でも、酸素濃度の速い立ち上がりが望まれる。
【0093】
本実施形態の始動処理では、酸素濃縮装置1の始動時に、酸素濃縮装置1に設定されている最大設定流量に対応する、加圧空気の供給量及び酸素の流量となるように、制御部30は加圧空気供給部12と流量調整部20を制御する。酸素濃度を短時間で高めるためである。その後、始動時からの所定の時間(以下、「始動期間」という。)が経過したときに、所望の設定流量に対応する加圧空気の供給量及び酸素ガスの設定流量をどちらも下げるように、制御部30は加圧空気供給部12と流量調整部20を制御する。加圧空気の供給量及び酸素ガスの設定流量をどちらも10秒以内で下げるように制御部30は制御することが好ましい。より好ましくは5秒以内で下げることが好ましい。
【0094】
制御部30が、最大設定流量に対応する、加圧空気の供給量及び酸素ガスの流量の設定で酸素濃縮装置1を始動させる。始動後、短時間で加圧空気の供給量と酸素ガスの流量をどちらか片方だけ下げる制御とすると、酸素濃縮装置1の運転条件(酸素生成プロセス)の最適条件から外れて酸素濃度低下する可能性がある。
【0095】
加圧空気の供給量のみ下げた場合には、酸素ガスの流量は最大値のままのため、原料空気及び供給圧不足で酸素濃度低下となる可能性がある。
【0096】
酸素ガスの流量のみ下げた場合には、加圧空気の供給量は最大値のままのため、吸着筒内の窒素成分がなくなり、アルゴン濃縮(酸素吸着)され、酸素濃度低下となる可能性がある。
【0097】
図6(b)は、本実施形態の始動処理による酸素濃縮装置の始動後の酸素濃度推移の一例を示す図である。低流量(0.25LPM)設定の場合の始動後の酸素濃度推移は実線で、高流量(5.00LPM)設定の場合の始動後の酸素濃度推移は破線で示されている。低流量における酸素濃度推移は、高流量における酸素濃度推移とほぼ同じである。又、始動期間は、酸素濃縮装置の機種によっても異なるが、例えば、120秒未満である。本実施形態の制御処理を用いたことにより、酸素濃縮装置1は、酸素濃度低下を防止し、低濃度設定でも、酸素濃度の速い立ち上がりを実現することができる。
【0098】
[逆止弁の固着防止対策]
【0099】
本実施形態の制御方法による効果の一つとして、逆止弁の固着防止がある。逆止弁16、17の弁本体は、配管開口部との密着性を高めるため、ゴムを成形して作られている。ゴムは、例えば、シリコンゴム、フッ素ゴムである。又、弁本体を硬質樹脂製とし、配管開口部側にゴムを貼り付けたものでもよい。
【0100】
酸素濃縮装置1が低温環境で長期間保管され又は長期間使用されなかった場合、吸着筒内のゼオライトがガスを吸着して吸着筒の圧力は下がり、吸着筒側が陰圧となる。長い時間が経過すると、例えば、吸着筒14側の配管開口部に逆止弁16のゴム製の弁本体が貼り付いてしまい開閉動作しなくなるという逆止弁の固着が発生する。逆止弁16が固着した状態で、酸素濃縮装置1を始動すると、逆止弁16の貼り付き力に対し、加圧空気供給部12の加圧空気の供給圧が不足していると、逆止弁16の固着が解除できず、閉止状態のままとなる。酸素濃縮装置1が低流量設定で始動するとき加圧空気の供給圧は低いので、酸素ガスが酸素ガスタンク18に流れない又は酸素流量が低下する可能性がある。
【0101】
本実施形態の制御方法によって、酸素濃縮装置1の始動時に、加圧空気供給部12から最大量の加圧空気が供給されることにより、逆止弁16の貼り付き力に対し、加圧空気供給部12から供給される加圧空気の圧が勝り、逆止弁16の固着は解消される。
【0102】
始動時の加圧空気の供給量は加圧空気供給部12が供給可能な最大値であり、酸素ガスの流量は流量調整部20が供給可能な最大値であることが好ましい。酸素濃度のより速い立ち上がりが実現できるからである。
【0103】
始動期間は、120秒未満であることが好ましい。JIS T 7209:2018「医用電気機器-酸素濃縮装置の基礎安全及び基本性能に関する個別要求事項」を満たすためである。
【0104】
一つの例では、始動供給量と始動流量をそれぞれ設定供給量と設定流量に切換えるときを所定の始動期間が経過したか否かのみによって判定したが、別の例として、所定の始動期間が経過したか否か、又は濃度センサ23にて所定の酸素濃度に到達したか否かによって判定してもよい。
【0105】
当業者は、本発明の精神及び範囲から外れることなく、様々な変更、置換、及び修正をこれに加えることが可能であることを理解されたい。
【符号の説明】
【0106】
1 酸素濃縮装置
11 空気取入フィルタ
12 加圧空気供給部
13 切換部
14、15 吸着筒
16、17 逆止弁
18 酸素ガスタンク
19 調圧弁
20 流量調整部
21 出口フィルタ
22 加湿器
23 濃度センサ
24 流量センサ
30 制御部
31 制御記憶部
32 制御処理部
40 操作部