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▶ ハイネケン サプライ チェーン ベー.フェー.の特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-24
(45)【発行日】2023-12-04
(54)【発明の名称】生物交配による稀少生成物の同定
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/04 20060101AFI20231127BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20231127BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20231127BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20231127BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20231127BHJP
   C12Q 1/04 20060101ALI20231127BHJP
   C12Q 1/686 20180101ALI20231127BHJP
   G01N 33/48 20060101ALI20231127BHJP
【FI】
C12N15/04 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12Q1/04
C12Q1/686 Z
G01N33/48 N
G01N33/48 P
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2020563455
(86)(22)【出願日】2019-05-10
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-09-09
(86)【国際出願番号】 NL2019050279
(87)【国際公開番号】W WO2019216769
(87)【国際公開日】2019-11-14
【審査請求日】2022-05-09
(31)【優先権主張番号】2020912
(32)【優先日】2018-05-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】NL
(73)【特許権者】
【識別番号】591211799
【氏名又は名称】ハイネケン サプライ チェーン ベー.フェー.
【氏名又は名称原語表記】Heineken Supply Chain B.V.
【住所又は居所原語表記】Tweede Weteringplantsoen21 1017 ZD Amsterdam The Netherlands
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】デ・ブリース, アーサー ルーロフ フォーテル
(72)【発明者】
【氏名】コステル, ハルロッテ カサリーナ
(72)【発明者】
【氏名】ダラン, ジャン‐マルク ジョルジュ
(72)【発明者】
【氏名】ヘールトマン, ヤン‐マールテン
(72)【発明者】
【氏名】カウイペルス, ニールス ヘラルド アドリアーン
【審査官】菅原 洋平
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-066583(JP,A)
【文献】米国特許第04812405(US,A)
【文献】特開平03-072869(JP,A)
【文献】P. J. L. BELL, et al.,APPLIED AND ENVIRONMENTAL MICROBIOLOGY,1998年,Vol. 64, No. 5,pp. 1669-1672
【文献】酵母の細胞融合とその利用,日本醸造協会雑誌,1984年,第79巻第4号,pp. 210- 215
【文献】酵母の増殖,日本醸造協会雑誌,1974年,第69巻第1号,pp. 21-24
【文献】Drew Thacker, et al.,Genetics,2011年,Vol. 189,pp. 423-439
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00-7/08
C12N 15/04
C12Q 1/04
C12Q 1/686
G01N 33/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハイブリッド酵母生物を同定する方法であって、
(a)第1及び第2の親酵母生物から細胞を提供し、
前記第1及び第2の酵母生物が、交配適合性を有し、
前記第1の親酵母生物が、前記第2の親酵母生物と異なり、
前記第2の親酵母生物ではなく前記第1の親酵母生物が、栄養要求性マーカーを有し、
(b)蛍光色素を用いて前記第2の親酵母生物からの細胞を標識し、
(c)前記第1の親からの細胞を、標識された前記第2の親からの細胞と、5℃から15℃の間の温度でハイブリッド化させ、
(d)栄養要求性の標識された細胞としてハイブリッド酵母生物を同定する、
ことを含む方法。
【請求項2】
ハイブリッド酵母生物を同定する方法において、
-色素Aを用いて第1の親酵母生物からの細胞を標識し、
-色素Bを用いて第2の親酵母生物からの細胞を標識し、
前記第1の親酵母生物が、前記第2の親酵母生物と異なり、
前記第1及び第2の親酵母生物が、交配適合性を有し、
色素Aと色素Bが蛍光色素であり、かつ色素Aは色素Bと異なり、
色素Aを用いて標識された細胞が、色素Bを用いて標識された細胞から区別され得、
-標識された前記第1の親酵母生物からの細胞を、標識された前記第2の親酵母生物からの細胞と、5℃から15℃の間の温度でハイブリッド化させ、
-二重標識された細胞としてハイブリッド酵母生物を同定する、
ことを含む方法。
【請求項3】
二重標識された細胞の倍数性を決定し、前記第1及び第2の親酵母生物の合計の倍数性を有する二重標識された細胞として、ハイブリッド酵母生物を同定することを更に含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記第1及び/又は前記第2の親酵母生物からの前記細胞が、発芽後に標識された配偶子又は胞子である、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記第1又は前記第2の親酵母生物からの前記細胞が、ディプロイドである、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記第1又は前記第2の親酵母生物からの前記細胞が、ホモタリックなディプロイド細胞である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記第1の親酵母生物、前記第2の親酵母生物、又は両者の親酵母生物からの前記細胞が、ハプロイド配偶子を取得するために、前記細胞を染色及び交配前に胞子形成及び発芽される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記第1又は前記第2の親酵母生物からの前記細胞が、ハプロイドである、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記第1又は前記第2の親酵母生物からの前記細胞が、アニュプロイド又はポリプロイドである、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記第1及び第2の親酵母生物が、サッカロミセス・センス・ストリクト酵母である、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記第1及び第2の親酵母生物が、異なる種であり、得られたハイブリッドが、種間ハイブリッドである、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
ハイブリッド酵母生物の同定が、蛍光活性化セルソーティング(FACS)により実施される、請求項1から11いずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
二重標識された細胞の同定の後に、単一標識された細胞からの前記二重標識された細胞の単離が行われる、請求項2から12のずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
単離後の前記二重標識された細胞が、ハイブリッド酵母生物を二重標識された細胞として同定し、単一標識された細胞から前記二重標識された細胞を単離する第2のラウンドに供される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
色素A及び色素Bのうちの少なくとも1つが、スクシニミジルエステルカップリング色素である、請求項から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
親酵母生物のハイブリッド化が、化学的に又は不活性化されたウイルスを用いて誘発される、請求項1から15のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物、特に微生物、例えば酵母等の分野に関する。より具体的には、本発明は、ハイブリッド生物、特に稀少交配事象等により生み出された種間ハイブリッドの生成及び同定に関する。
【背景技術】
【0002】
サッカロミセス(Saccharomyces)属の酵母は、ビール醸造[Krogerusら、2017.Appl Microbiol Biotechnol 101:65-78]、ワイン製造[Marsit及びDequin、2015.FEMS Yeast Res 15:72]、バイオ医薬品タンパク質の製造[Nielsen、2013.Bioengin 4:207-211]、並びに第1及び第2世代バイオ燃料の合成[Balat、2011.Energy Conv Management 52:858-875;Jansenら、2017.FEMS Yeast Res 17:fox044]を含む様々な生物工学産業において幅広く使用されている。サッカロミセス・センス・ストリクト(Saccharomyces sensu stricto)複合体は、9個の異なる種を包含する:サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、S.パラドキサス(S.paradoxus)、S.カリオカヌス(S.cariocanus)、S.ウバルム(S.uvarum)、S.ミカタエ(S.mikatae)、S.クドリアブゼビ(S.kudriavzevii)、S.アルボリコラ(S.arboricola)、S.ユーバヤヌス(S.eubayanus)、及び最近発見されたS.ジュレイ(S.Jurei)[Hittinger、2013.Trends Genet 29:309-317;Naseebら、2017.Int J Syst Evol Microbiol 67:2046-2052]。異なるサッカロミセス種の間に接合後障壁が存在するが、それは種の間の種間交配は可能であるが、非結実性(sterile)の子孫が生ずることを意味する[Greigら、2002.Proc Royal Society London B:Biological Sciences 269:1167-1171;Houら、2014.Current Biol 24:1153-1159]。いくつかの種間ハイブリッドが、多様な自然環境において、例えばスズメバチ(Wasp)の消化管内等に見出されるものの[Stefaniniら、2016.PNAS 113:2247-2251]、サッカロミセスハイブリッドは、飼育環境において最も一般的に見出され、様々な工業的発酵プロセスで使用されている[Boynton及びGreig、2014.Yeast、31:449-462;Gorter de Vriesら、2017.Applied Environm Microbiol 83:e03206-16]。例えば、より大規模な醸造は、S.セレビシエとS.ユーバヤナウスとの間のハイブリッドであるS.パストリアヌス(S.pastorianus)を用いて実施されるが[Libkindら、2011.PNAS 108:14539-14544]、S.パストリアヌスは、S.セレビシエの発酵能力及び糖利用と、S.ユーバヤナウスの低温許容性とを併せ持つ[Heblyら、2015.FEMS Yeast Res 15:fov005]。S.セレビシエ、S.クドリアブゼビ、及びS.ウバルムの間の様々な二重及び三重ハイブリッドがワイン醸造物から単離されており、芳香の生成において重要な役割を演じているものと思われる[Gonzalezら、2006.FEMS Yeast Res 6:1221-1234]。飼育化されたサッカロミセス株の遺伝的変異に対するハイブリッド化の別の重要な寄与は、遺伝子の浸透性交雑であり、種間ハイブリッド化と、後続する親株の1つを用いた戻し交配のラウンドにより引き起こされる。そのような浸透性交雑は、多くの飼育化されたサッカロミセス株において一般的であり、また例えばサイダー醸造用のS.ウバルム株、及びワイン醸造用のS.セレビシエ株の異なる表現型に寄与する[Naumovaら、2011.Research Microbiol 162:204-213;Dunnら、2012.Genome Res 22:908-924]。
【0003】
1つのハイブリッド内で2つ又はそれよりも多くのサッカロミセスゲノムが組み合わさると、その結果、相乗的効果である「ヘテロシス(heterosis)」又は「雑種強勢(hybrid vigor)」と呼ばれる現象が一般的に生じ、ハイブリッドが、特定の環境において、その親のいずれかよりも良好に働くのを可能にする[Shapiraら、2014.Heredity 113:316]。従って、標的を定めたサッカロミセス酵母のハイブリッド化が、工業用途のための新たな、又は改善した表現型を備える菌株を生成するのに一般的に使用される。例えば、研究室製のS.セレビシエ×S.ユーバヤヌスハイブリッドは、その親株よりも高い耐寒性、及びオリゴ糖消費[Heblyら、2015.FEMS Yeast Res 15:fov005]、異なるフレーバープロファイル[Steenselsら、2014.Applied Environment Microbiol 80:6965-6975]、高い発酵速度、及び高いエタノール力価[Krogerusら、2015.J Industrial Microbiol&Biotechnol 42:769-778]を示した。天然に存在するハイブリッドに加えて、自然界では単離されていない新規の種間ハイブリッド、例えばS.セレビシエ×S.パラドキサスハイブリッド[Bellonら、2011.Appl Microbiol and Biotechnol 91:603-612]、S.セレビシエ×S.ミカタエハイブリッド[Bellonら、2013.PLoS One 8:e62053;Nikulinら、2018.Yeast 35:113-127]、S.セレビシエ×S.アルボリコラハイブリッド[Nikulinら、2018.Yeast 35:113-127]、及びS.セレビシエ×S.ウバルムハイブリッド[Bellonら、2015.Appl Microbiol Biotechnol 99:8597-8609;Lopandicら、2016.Appl Microbiol Biotechnol 100:6331-6343]等が創出された。これらのハイブリッドは、両方の親株の特性を併せ持ち、その結果、発酵飲料業界からバイオ燃料の製造に及ぶ用途で利用され得る、新たな表現型多様性をもたらした[Perisら、2017.Biotechnol Biofuels 10:78]。
【0004】
ヘテロシスは、いまだ十分に理解されていない複雑な現象である。染色体コピー数の量[Gorter de Vriesら、2017.Applied Environm Microbiol 83:e03206-16;Krogerusら、2016.Appl Microbiol Biotechnol 100:7203-7222]、異なる優性及び劣性の対立遺伝子の間の相互作用、並びにエピスタティック相互作用[Shapiraら、2014.Heredity 113:316]を含む、複数の要因の組み合わせにより引き起こされる可能性が極めて高い。得られた表現型は、必ずしも不明確であるとは限らない。優性で通常より複雑な表現型、例えば低温許容性又はフロキュレーション(Flocculation)等は、親株の1つから通常完全に受け継がれる一方[Heblyら、2015.FEMS Yeast Res 15:fov005;Colorettiら、2006.Food Microbiol 23:672-676]、フレーバー化合物及びその他の二次代謝物の場合、ハイブリッドは、その親株により生成される濃度の平均付近の濃度を一般的に生成する[Krogerusら、2015.J Industrial Microbiol&Biotechnol 42:769-778;Bellonら、2011.Appl Microbiol and Biotechnol 91:603-612]。ヘテロシスは、種間ハイブリッド化で使用される親種だけでなく、使用される特定の株にも依存し、異系交雑の表現型の予測をよりいっそう困難にしている。例えば、異なる親株からなる、研究室製のS.セレビシエ×S.ユーバヤヌスハイブリッドは、特徴的な発酵特性及びフレーバープロファイルを示す[Krogerusら、2017.Microbial Cell Factories 16:66;Mertensら、2015.Appl Environm Microbiol 81:8202-8214]。結果的に、工業的に意義のあるハイブリッドの生成は、最適な特性を有する菌株を見つけるために、できるだけ多くのハイブリッドが生成及びスクリーニングされなければならない試行錯誤プロセスに立脚する[Steenselsら、2014.FEMS Microbiol Reviews 38:947-995]。従って、新しい効率的なハイスループットスクリーニング戦略を開発することで、工業的用途において有望なハイブリッドの生成が単純化及び能率化し得る。
【0005】
接合前障壁を有さない種からなる種間ハイブリッドは、種内交配と同様に取得可能である。ハイブリッドは、反対の交配型のハプロイド株の交配により、又は、反対の交配型を有さない菌株であって交配型遺伝子座内でヘテロ接合性が自然発生的に喪失しているものの間での稀少交配により形成される[Steenselsら、2014.FEMS Microbiol Reviews 38:947-995]。種間ハイブリッド化の発生率は比較的低い。ハイブリッド化の頻度は、胞子間交配について1.5~3.6%[Krogerusら、2016.Appl Microbiol Biotechnol 100:7203-7222;Mertensら、2015.Appl Environment Microbiol 81:8202-8214]から、稀少交配については1×10-6~1×10-7ほどに低い頻度[Krogerusら、2017.Microbial Cell Factories 16:66;Gunge及びNakatomi、1972.Genetics 70:41-58]の範囲で報告されている。種間交配がそのように低頻度で生ずるので、交配培養物の大多数は、交配前親細胞及び交配後非ハイブリッド細胞から構成され、所望のハイブリッドの単離を困難なものとしている。種間ハイブリッド化の効率は、様々な方法、例えば交配を可能にする交配型の切り替えの発生率を増加させる誘導可能なHO-エンドヌクレアーゼの発現等により改善可能である[Alexanderら、2016.Fungal Genet Biol 89:10-17]。ハイブリッドが交配培養物内で取得される場合には、非ハイブリッド細胞よりもハイブッド化した細胞に有利に働く条件下での増殖により交配培養物から単離可能である。これは、両親株の相補的表現型を利用することにより、例えば37℃において増殖することができるS.セレビシエ株と、特定の糖をより効率的に発酵可能である、又は低pHにおいて増殖することができるその他のサッカロミセス種とを交配させることにより達成可能である[Bizajら、2012.FEMS Yeast Res 12:456-465]。そのような選択法は、例えば栄養要求性又は耐性等を有するものを得る又は排除することで容易に選択可能である親株内に選択可能な表現型を導入することにより大幅に単純化可能である。そのようなマーカーの導入は遺伝子改変を使用して容易に実現されるが[Heblyら、2015.FEMS Yeast Res 15:fov005;Piotrowskiら、2012. BMC Evolut Biol 12:46;da Silvaら、2015.PloS one 10:e0123834]、このプロセスは時間がかかる可能性があり、また顧客許容性及び法令問題により、食品関連の工業的用途においてはほとんど用いられない[Wunderlich及びGatto、2015.Advances Nutrition 6:842-851]。結果として、種間ハイブリッドの構築物は、相補的栄養要求性が既に存在する菌株を交配させること、及び選択培地上でそのハイブリッドを選択することに主に立脚する。栄養要求性は自然発生する可能性があり[Magalhaesら、2017.J Indus Microbiol Biotechnol 44:1203-1213;Fernandez-Gonzalezら、2015.Current Microbiol 70:441-449]、又は栄養要求性株に有利に働く条件下での研究室での進化により、遺伝子工学技術を一切用いずに取得可能であり[Krogerusら、2015.J Industrial Microbiol&Biotechnol 42:769-778;Perez-Travesら、2012.Int J Food Microbiol 156:102-111;Scannellら、2011.Genes Genomes Genet 1:11-25]、したがってこれは、信頼性のある非GMO技術である。しかしながら、栄養要求性が親株毎に取得されなければならず、また栄養要求性突然変異の発生頻度は低いので、交配に必要とされる栄養要求性突然変異体の取得は、時間及び労働集約的である[Alexanderら、2016. Fungal Genet Biol 89:10-17]。更に、多くの工業的に意義のあるサッカロミセス株は、ポリプロイド又はアニュプロイドであり、栄養要求性突然変異体の生成を複雑にしている[Gorter de Vriesら、2017.Applied Environm Microbiol 83:e03206-16;Perez-Travesら、2012.Int J Food Microbiol 156:102-111;Bell,1998.Appl Environment Microbiol 64:1669-1672]。
【0006】
全体として、事前の遺伝子改変又は冗長な手順を伴わない任意の株間の交配から得られたハイブリッドを選択するハイスループットな方法は、一般的に種間交配、及び特に工業的に意義のあるハイブリッドであるサッカロミセス株の生成を大幅に単純化する。蛍光物質は、遺伝子工学を必要としない単純且つ簡潔な手順により、任意の細胞を標識するのに使用可能であるので、蛍光色素は洗練された解決策をここに提供する。好ましい色素が生存能力に与える影響は限定的である。親株の両方について異なる蛍光物質を使用するとき、ハイブリッド細胞は、二重に染色されたものとして識別可能であり、また蛍光活性化セルソーティング(FACS)を使用して単離され得る。1994年において、サッカロミセス・セレビシエ及びサッカロミコプシス・フィブリゲラ(Saccharomycopsis fibulgera)株のプロトプラストが蛍光標識され、融合され、二重染色された細胞がFACSによりソーティングされた[Katsuragiら、1994.Letters Appl Microbiol 19:92-94]。この技術を使用して、3,600個の生存能力のある潜在的融合体が、9,800,000個のプロトプラストのプール品からソーティングされ、そのうちの少なくとも1つはハイブリッドであることが確認された。しかしながら、プロトプラスト融合はGMO技術と考えられるので[Krogerusら、2017.Appl Microbiol Biotechnol 101:65-78]、その適用は、食品及び飲料産業においては排除される。
【0007】
1998年において、2つのヘテロタリックなハプロイドのS.セレビシエ酵母が、異なる蛍光染色剤を用いて標識され、その後相互に交配され、そして二重染色された細胞についてFACSを使用して富化された[Bell、1998.Appl Environment Microbiol 64:1669-1672]。2回の連続するソーティングラウンドにおいて、培養物は33%の交配細胞から96%の交配細胞(3倍弱の富化)まで富化された。著者らは、ディプロイドの工業的S.セレビシエ株およびハプロイドのS.セレビシエ株であって、ヒスチジン及びトリプトファンについて栄養要求性を有しLacZマーカーが組み込まれたものを交配するのに同一の方法を適用した。2×10個を超える細胞を含有するプール品から2回の連続するソーティングラウンドを行った後、50個の二重染色された細胞のうち3個が、ヒスチジン及びトリプトファンに対するその原栄養性、LacZ活性、並びにPCRフィンガープリントによりハイブリッドとして同定されたが、但しデータは示さていない。更に、顕微鏡下でソーティングされた細胞を観察すると、ソーティングされた集団は交配された親細胞及び非交配親細胞の細胞クラスターから構成されたことが示された。従って、二重染色された細胞は単一の細胞でなく、ハイブリッドと一致するPCRフィンガープリントを合わせて有する、又は選択培地の圧力下でハイブリッド化した親細胞のクラスターであることは除外されない。単一の交配細胞と細胞クラスターとを区別できないことから、ソーティング前の交配細胞の33%という例外的な頻度が説明される可能性があり、またソーティングされた細胞内に混合集団が生じた可能性がある。この混合集団は、マーカーを有する株が使用されるときは問題ではないが、マーカーを含まない株が使用されるときには、ハイブリッド細胞を同定することは不可能なとなる。ソーティング前の稀少交配事象の初期頻度は不明であるので、富化係数を決定することはできない。種内交配は、種間ハイブリッド化よりも高い発生率を有するが[Morales及びDujon、2012.Microbiol Molec Biol Reviews 76:721-739]、マーカーを含まない種内交配に対するこの方法は、十分高い富化係数が達成可能な場合には、種間ハイブリッドを生成し得る。
【発明の概要】
【0008】
本発明は、ハイブリッド生物を同定する方法であって、第1及び第2の親生物からの細胞を提供することであって、第1及び第2の生物が交配適合性を有し、第1の親生物が第2の親生物と異なり、当該第2の親生物ではなく当該第1の親生物が栄養要求性マーカーを有することと、蛍光色素を用いて第2の親生物からの細胞を標識することと、第1の親からの細胞を、標識された第2の親からの細胞と、第1及び/又は第2の親生物の最適増殖温度を少なくとも5℃下回る温度でハイブリッド化させることと、栄養要求性の標識された細胞としてハイブリッド生物を同定することとを含む方法を提供する。
【0009】
本発明は、ハイブリッド生物を同定する方法であって、色素Aを用いて第1の親生物からの細胞を標識することと、色素Bを用いて第2の親生物からの細胞を標識することであって、第1の親生物が、第2の親生物と同一であるか又は異なり、第1及び第2の生物が交配適合性を有し、色素Aと色素Bが蛍光色素であり、色素Aは色素Bと異なり、色素Aを用いて標識された細胞が、色素Bを用いて標識された細胞から区別され得ることと、標識された第1の親からの細胞を、標識された第2の親からの細胞と、第1及び/又は第2の親生物の最適増殖温度を少なくとも5℃下回る温度でハイブリッド化させることと、二重標識された細胞としてハイブリッド生物を同定することとを含む方法を更に提供する。
【0010】
第1及び/又は第2の親生物からの上記細胞は、好ましくは配偶子又は胞子である。より具体的には、第1及び/又は第2の親生物からの細胞は、発芽の後に標識された配偶子又は胞子である。特に酵母では、配偶子はハプロイド胞子とも呼ばれ、適切な条件において有糸分裂細胞周期に入り得る。配偶子、特にハプロイド胞子の標識は、細胞が発芽後に標識された場合には劇的に改善することが判明した。
【0011】
第1又は第2の親生物からの上記細胞は、好ましくはポリプロイド、例えばディプロイド、トリプロイド、テトラプロイド、ペンタプロイド、又はアニュプロイド等、好ましくはディプロイドである。
【0012】
第1及び第2の親生物は、好ましくは微生物、より好ましくは酵母、好ましくはサッカロミセス・センス・ストリクト酵母である。
【0013】
本発明の好ましい方法では、第1及び第2の生物は、異なる種であり、及び得られたハイブリッドは、種間ハイブリッドである。
【0014】
本発明の方法におけるハイブリッド生物の同定は、好ましくは蛍光活性化セルソーティング(FACS)により実施される。
【0015】
本発明の好ましい方法では、二重標識された細胞の同定の後に、単一標識された細胞からの二重標識された細胞の単離が行われる。上記単離後の二重標識された細胞は、好ましくはハイブリッド生物を二重標識された細胞として同定し、及び単一標識された細胞から二重標識された細胞を単離する第2のラウンドに供される。上記第2のラウンドは、単離後の二重標識された細胞を培養した後に実施され得る。
【0016】
蛍光色素A及びBのうちの少なくとも1つは、スクシニミジルエステルカップリング色素であり、好ましくは蛍光色素A及びBの両方は、スクシニミジルエステルカップリング色素であることが好ましい。
【0017】
本発明は、色素A及び色素Bを用いて標識されたハイブリッド生物を更に提供する。上記ハイブリッド生物は、好ましくは種間ハイブリッドである。上記ハイブリッド生物は、好ましくは酵母、より好ましくはサッカロミセス・セレビシエ親株とS.ユーバヤヌス親株との交配体の子孫である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1-1】図1は、CEN.PK113-5A(MATa URA3 his3-Δ1 leu2-3,112trp1-289)×IMK439(MATαHIS3 TRP1 LEU2 ura3Δ::KanMX)の種内交配の分析及び検証を示す図である。(A)交配前及び交配後18、24、及び42時間における未染色のCEN.PK113-5A、CFSEを用いて染色されたCEN.PK113-5A、及びVioletを用いて染色されたIMK439の蛍光強度のコンタープロット。各プロットについて細胞100,000個を分析し、各細胞のグリーン及びバイオレットの蛍光強度を示す。細胞をソーティングするのにゲート化されたエリアを使用し、各ゲートの事象発生率を割合(%)として示す。
図1-2】図1は、CEN.PK113-5A(MATa URA3 his3-Δ1 leu2-3,112trp1-289)×IMK439(MATαHIS3 TRP1 LEU2 ura3Δ::KanMX)の種内交配の分析及び検証を示す図である。(B)FACSによりソーティングされた異なる集団を対象とする、合成最少培地において増殖することができる細胞の割合(%)。交配した細胞の量は、YPD上で増殖し、合成最少(SM)培地においてもやはり増殖することができる生存細胞の割合として決定される。(C)二重染色された集団(C+V+)からソーティングされた接合子細胞の顕微鏡画像(400×)。ソーティング後の二重染色された細胞の最大10%がこのような生理学を有した一方、残りの細胞は、正常な発芽生理を有した。(D)CEN.PK113-5A×IMK439交配体の倍数性評価。CEN.PK122(ディプロイド)、IMK439(ハプロイド)、及び推定交配細胞のDNA含有量を、DNA染色及びフローサイトメトリーにより測定した。ディプロイドゲノム含有量、ハプロイドゲノム含有量、及び両者の混合物により、コロニーの3つの代表的なグラフ(左から右)を表わす。
図2図2は、S.ユーバヤヌスとS.セレビシエとの間の交配の最適化、及び推定ハイブリッドの単離を示す図である。(A)YPD及びYPT上で交配してから30時間後の染色されたCBS12357及びIMK439細胞の蛍光強度のコンタープロット。各プロットについて細胞100,000個を分析し、各細胞のグリーン及びバイオレットの蛍光強度を示す。細胞をソーティングするのにゲート化されたエリアを使用し、各ゲートの事象発生率を割合(%)として示す。(B)YPT及びYPD上でインキュベートしてから3.5、7、24、及び30時間後の二重染色された集団中に存在するハイブリッドの割合(%)。割合(%)を、SM+G418上で増殖することができる単一セルソーティングされたコロニーの量として計算する。(C)S.ユーバヤヌスCBS12357及びS.セレビシエIMK439の胞子-細胞間の種間ハイブリッド化のためのプロトコール内の最適化されたパラメーターの概要。
図3-1】図3は、CBS12357(S.ユーバヤヌス、胞子形成後)×CEN.PK113-7D(MATa)とAS2.4940(S.ユーバヤヌス、胞子形成後)×Ale28(S.セレビシエ、胞子形成後)とのマーカーを含まない種間交配の分析及び検証を示す図である。(A)CBS12357(CFSE染色後)×CEN.PK113-7D(Violet染色後)とAS2.4940(CFSE染色後)×Ale28(Violet染色後)との間の交配培養物において測定された蛍光強度のコンタープロット。各プロットについて細胞100,000個を分析し、各集団のグリーン及びバイオレットの蛍光強度を示す。細胞をソーティングするのにゲート化されたエリアを使用し、各ゲートの事象発生率を割合(%)として図に示す。(B)構築されたマーカーを含まないハイブリッドの倍数性評価。CEN.PK122(ディプロイド、レッド)、CEN.PK113-7D(ハプロイド、グリーン)、及びPCR確認されたハイブリッド(色付き)のDNA含有量を、DNA染色及びフローサイトメトリーにより測定した。
図3-2】図3は、CBS12357(S.ユーバヤヌス、胞子形成後)×CEN.PK113-7D(MATa)とAS2.4940(S.ユーバヤヌス、胞子形成後)×Ale28(S.セレビシエ、胞子形成後)とのマーカーを含まない種間交配の分析及び検証を示す図である。(C)CBS12357×CEN.PK113-7D、及びAS2.4940×Ale28ハイブリッド化培養物に由来する二重染色された集団の単一細胞の単離物において、S.ユーバヤヌス及びS.セレビシエマーカー遺伝子の存在を確認するためのマルチプレックスコロニーPCR。CBS12357×CEN.PK113-7Dについて代表的な例を示し、全体で22個の単離物を試験した。親株の単一細胞の単離物をコントロールとして、ハイブリッド株IMS0408(S.セレビシエ×S.ユーバヤヌス)のゲノムDNAと共に含めた。L:Generuler 50bp DNAラダー。矢印はハイブリッドを示し、数字は異なる単一細胞の単離物に対応する。
図4-1】図4は、FACS分析により測定された二重染色後の集団からソーティングされ、異なる倍数性を有する、CFSE染色されたS.ユーバヤヌス細胞と近赤外染色されたS.セレビシエ細胞との間のハイブリッド化について、その蛍光顕微鏡画像(630×)を示す図である。上段から下段:CBS12357(S.ユーバヤヌス、胞子形成後)×IMK439(S.セレビシエ、MATα ura3Δ::KanMX)、CBS12357(胞子形成後)×IMX1471(S.セレビシエ、MATa/α ura3Δ::KanMX/ura3Δ::KanMX)。
図4-2】図4は、FACS分析により測定された二重染色後の集団からソーティングされ、異なる倍数性を有する、CFSE染色されたS.ユーバヤヌス細胞と近赤外染色されたS.セレビシエ細胞との間のハイブリッド化について、その蛍光顕微鏡画像(630×)を示す図である。上段から下段:CBS12357(ディプロイド)×IMK439、及びCBS12357(ディプロイド)×IMX1471。
図5-1】図5は、富化されていない交配培養物に由来し異なる倍数性を有する、CFSE染色されたS.ユーバヤヌスと近赤外染色されたS.セレビシエ細胞との間のハイブリッド化について、その蛍光顕微鏡画像(630×)を示す図である。上段から下段:CBS12357(S.ユーバヤヌス、胞子形成後)×IMK439(S.セレビシエ、MATα ura3Δ::KanMX)、CBS12357(胞子形成後)×IMX1471(S.セレビシエ、MATa/α ura3Δ::KanMX/ura3Δ::KanMX)。
図5-2】図5は、富化されていない交配培養物に由来し異なる倍数性を有する、CFSE染色されたS.ユーバヤヌスと近赤外染色されたS.セレビシエ細胞との間のハイブリッド化について、その蛍光顕微鏡画像(630×)を示す図である。上段から下段:CBS12357(ディプロイド)×IMK439、及びCBS12357(ディプロイド)×IMX1471。
図6-1】図6は、IMK439(S.セレビシエ、MATα ura3Δ::KanMX)をIMK440(S.セレビシエ、MATα ura3Δ::KanMX)と交配させることによる、IMX1471の構築及び検証を示す図である。(A)YPD上での30時間の交配後における、染色後のIMK439(CFSE)及びIMK440(近赤外)細胞の蛍光強度のコンタープロット。細胞100,000個を分析し、各細胞についてグリーン及びレッドの蛍光強度を示す。細胞をソーティングするのにゲート化されたエリアを使用し、各ゲートの事象発生率を割合(%)として示す。(B)IMK439×IMK440交配培養物に由来する二重染色された集団について、その単一細胞の単離物におけるMATa及びMATαの存在を確認するためのマルチプレックスコロニーPCR。交配型を、プライマー11、12、及び13を用いて決定した(補足表1)。L:Generuler 50bp DNAラダー、矢印は交配細胞を示し、数字は異なる単一細胞の単離物に対応する。(C)合成最少培地(SM)、SM+G418、及びSM+G418+ウラシル上に播種することによる、IMK439及びIMX1471における遺伝マーカーの存在の検証。(D)IMX1471の胞子形成能力を示す顕微鏡画像(400×)。
図6-2】図6は、IMK439(S.セレビシエ、MATα ura3Δ::KanMX)をIMK440(S.セレビシエ、MATα ura3Δ::KanMX)と交配させることによる、IMX1471の構築及び検証を示す図である。(E)交配後のIMK439×IMK440細胞の倍数性評価。CEN.PK122(ディプロイド)、CEN.PK113-5A(ハプロイド)、及び交配細胞のDNA含有量を、DNA染色及びフローサイトメトリーにより測定した。
【発明を実施するための形態】
【0019】
定義
用語「ハイブリッド」又は「ハイブリッド生物」とは、本明細書で使用されるように、異なる変種(varieties)、種、又は属の2つの生物のゲノムを組み合わせた結果である生物を指す。ハイブリッドは、好ましくは性的交配の結果であり、ハイブリッド生物は、異なる性の2つの細胞、例えば異なる交配型の2つの細胞、好ましくは2つの配偶子等が融合した結果であることを意味する。
【0020】
用語「種間ハイブリッド」とは、本明細書で使用されるように、異なる種又は属の2つの生物のゲノムを組み合わせた結果である生物を指す。
【0021】
用語「第1の親生物」及び「第2の親生物」とは、本明細書で使用されるように、異なる変種、種、又は属の2つの生物を指す。当該2つの生物は、ハイブリッド化適合性を有する。
【0022】
用語「ハイブリッド化適合性を有する」とは、本明細書で使用されるように、交配可能、好ましくは性的に交配可能である2つの生物を指す。2つの生物が酵母生物であるとき、用語「交配適合性を有する」が使用され得るが、その用語は、用語「ハイブリッド化適合性を有する」に等しい。
【0023】
用語「色素A」及び「色素B」とは、細胞を染色するのに使用可能である異なる蛍光色素を指す。
【0024】
用語「最適増殖温度」とは、本明細書で使用されるように、第1の親生物及び第2の親生物からの細胞が最適に増殖する温度を指し、細胞は全細胞周期を最速で完了することを意味する。ほとんどの植物、藻類、及び酵母は、10℃~50℃、好ましくは15~40℃、例えば18℃~25℃等、より具体的には20℃~22℃の最適増殖温度を有する。
【0025】
用語「栄養要求性マーカー」とは、本明細書で使用されるように、生合成で使用される必須の代謝物、特にモノマーに向かう代謝経路において重要な酵素をコードするマーカー遺伝子を指す。例としてサッカロミセス・セレビシエ内のピリミジン生合成において必須の酵素であるオロチジン-5’-ホスフェートデカルボキシラーゼをコードするURA3遺伝子が挙げられる。同様に、HIS3、LEU2、TRP1、及びMET15マーカー遺伝子は、アミノ酸であるヒスチジン、ロイシン、トリプトファン、及びメチオニンそれぞれの新規合成にとって必須の酵素をコードする。栄養要求性マーカーが存在すれば、対応する必須代謝物が存在しなくても細胞の増殖が可能になる。
【0026】
用語「配偶子」とは、本明細書で使用されるように、受精期間中に別のハプロイド細胞と融合し得るハプロイド細胞を指す。当該ハプロイド細胞は、減数分裂と呼ばれる減数性の細胞分裂プロセスに起因する。ほとんどの生物は、2つの形態学的に異なる種類の配偶子を有する。酵母を含むいくつかの生物は、形態学的に同一種類の配偶子を有するが、しかしながら交配型領域と呼ばれる1つ又は複数の遺伝子座における対立遺伝子発現が異なる。ほとんどの植物、藻類、及び酵母生物は、ディプロイドステージとハプロイドステージの間で循環することができる。
【0027】
用語「ディプロイド」とは、本明細書で使用されるように、2セットの染色体からなる細胞又は生物を指す。1セット目の染色体は一方の親から得られる一方、2セット目の染色体は、通常第2の親から得られる。用語「ディプロイド」は、ハプロイドと呼ばれる1セットの染色体を有する細胞及び生物から、並びにポリプロイドと呼ばれる複数セットの染色体を有する細胞及び生物から、2セットの染色体を有する細胞及び生物を区別するのに使用される。ポリプロイド細胞及び生物として、トリプロイド、テトラプロイド、ペンタプロイド、ヘキサプロイド、及びオクタプロイド細胞及び生物が挙げられる。
【0028】
用語「アニュプロイド」とは、本明細書で使用されるように、必ずしもすべての染色体がコピー数を同じくして存在するわけではない細胞又は生物を指す。従って、染色体組は、当業者にとって公知のように、完全な染色体セットの定義された数、例えばn、2n、3n、又は4n等として表すことができない。染色体異数性の語は、ユープロイド細胞とは対照的に、細胞又は生物内に異常な数の染色体が存在することを指す。アニュプロイド細胞は、染色体の余剰部分を欠いたり、また有したりし得る、又は1つ若しくは複数の染色体を欠いたり、また1つ若しくは複数の染色体の余剰を有したりし得る。
【0029】
用語「発芽」とは、本明細書で使用されるように、種子又は配偶子が栄養(vegetatively)増殖する能力を回復するプロセスであって、多細胞構造又は有糸分裂増殖による細胞複製を引き起こすプロセスを指す。発芽の最も一般的な例は、種子から幼芽への発芽過程である。更に、胞子から胞子発芽体(sporeling)、例えば真菌胞子からの菌糸の胞子等の増殖も、発芽と呼ばれる。更に、真菌胞子がその胞子壁から脱皮し、そして正常な代謝活性を回復する、例えば酵母において生ずるプロセスは、発芽とも呼ばれる。発芽は、多くの場合、温度、湿度、酸素供給量、及び時に明暗のような条件に依存する。
【0030】
用語「微生物」とは、本明細書で使用されるように、単細胞又は多細胞真核生物、例えば酵母を含む菌類や、藻類等の原生生物を指す。ほとんどの微生物は単細胞である。
【0031】
用語「酵母」とは、本明細書で使用されるように、菌界のメンバーとして分類される、真核生物の単細胞微生物を指す。最も好ましい酵母は、サッカロミセス・センス・ストリクト複合体である。サッカロミセス・センス・ストリクト複合体は、現在のところ9個の異なる種を包含する:サッカロミセス・セレビシエ、S.パラドキサス、S.カリオカヌス、S.ウバルム、S.ミカタエ、S.クドリアブゼビ、S.アルボリコラ、S.ユーバヤヌス、及び最近発見されたS.ジュレイ[Hittinger、2013.Trends Genet 29:309-317;Naseebら、2017.Int J Syst Evol Microbiol 67:2046-2052]。
【0032】
細胞
生物の細胞は、例えばペプトン/酵母エキスを含む好適な培地、又は合成培地において増殖し得る。必要であれば、特定の遺伝マーカーの存在下で増殖が可能な好適な化合物、例えばG418(2R,3S,4R,5R,6S)-5-アミノ-6-[(1R,2S,3S,4R,6S)-4,6-ジアミノ-3-[(2R,3R,4R,5R)-3,5-ジヒドロキシ-5-メチル-4-メチルアミノオキサン-2-イル]オキシ-2-ヒドロキシシクロヘキシル]オキシ-2-(1-ヒドロキシエチル)オキサン-3,4-ジオール)が、そのような化合物に対して抵抗性の細胞を特別に増殖させるために添加され得る。
【0033】
ホモタリックなディプロイド細胞、特にホモタリックなディプロイド酵母細胞は、好ましくは、ハプロイド配偶子を取得するために、染色及び交配前に胞子形成及び発芽する。代替案として、ディプロイド細胞は染色されてもよく、またディプロイドとして直接交配されてもよい。
【0034】
胞子形成では、細胞は、例えば濾過及び/又は遠心分離により単離され、例えばリン酸緩衝生理食塩水を用いて、又は滅菌水を用いて洗浄され、並びに胞子形成培地、例えば所与の生物に依存して、KOHの添加によりpH=7に調整され、及びアデニン、アルギニン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、トレオニン、トリプトファン、チロシン、バリン、及び/又はウラシルが補充された1%(w/v)酢酸カリウム、0.02%(w/v)ラフィノース中で再懸濁され得る。胞子形成では呼吸作用要求性が高いので、細胞は、好ましくは十分な通気を可能にするプレート又はチューブ内でインキュベートされる。
【0035】
胞子形成は、少なくとも48時間、好ましくは48~96時間、好ましくは約72時間、15~25℃、好ましくは約20℃において実施される。細胞は、好ましくは胞子形成期間中に、約200RPMにおいて振盪される。
【0036】
胞子形成後、胞子は、当業者にとって公知のように単離され得る。胞子の胞子形成及び単離に関する好適なプロトコールは、Beckman及びPayne、1983.Phytopathol 73:286-289;El-Ghollら、1982.Can J Botany 60:862-868;Wangら、2016.Nature Scientific Reports 6:24923;Alaniら、1990.Cell 61:419-436を含め、公知である。
【0037】
発芽では、胞子は、好ましくは好適な培地、好ましくは富栄養培地、例えばYPD等において、少なくとも1時間、例えば2~10時間、好ましくは約5時間インキュベートされる。胞子はインキュベーション期間中に撹拌されることが好ましい。インキュベーションは、好ましくは最適増殖温度、例えば20~35℃、好ましくは約30℃の温度である。
【0038】
細胞の染色
第1及び第2生物の細胞は、細胞染色蛍光色素を用いて染色される。当該細胞染色色素は、好ましくは無毒性であり、またイン・ビボ(in vivo)及び/又はイン・ビトロ(in vitro)において、蛍光色素を用いて細胞を恒久的に標識するのに適する。当該細胞の染色又は細胞の標識は、好ましくは細胞形態及び/又は細胞生理に影響を及ぼさない。
【0039】
当該細胞の標識は、直接的又は間接的な標識により実施され得る。間接的な標識には、例えば蛍光色素を用いて標識された二次抗体の使用、及びタグ化された化合物、例えばタグ化されたタンパク質であって、それに対して蛍光標識された色素を含む抗体が使用されるものの使用が含まれる。
【0040】
標識化は、好ましくは直接的である。標識化は、好ましくは、タンパク質の一級アミン(R-NH2)や、アミン修飾されたオリゴヌクレオチド、及びその他のアミン含有分子を標識することにより実施される。
【0041】
この場合、色素を細胞内リジン残基及びその他のアミン供給源にカップリングさせるために、色素は、好ましくはスクシニミジル基、好ましくはスクシニミジルエステルを含む。更なる好ましい色素として、チオール反応性色素であって、蛍光標識が、例えばヨードアセトアミド、マレイミド、ベンジルハロゲン化物(benzylic halide)、又はブロモメチルケトンとカップリングしているものが挙げられる。更に、ホールセルパッチクランピング法、イオン導入法、飲作用胞の浸透圧溶解法により細胞に導入され得る極性の色素、例えばLucifer Yellow CH、Cascade Blueヒドラジド、Alexa Fluorヒドラジド、及びビオシチン等を含む微量注入可能な色素、並びに/或いは侵襲的技術、例えば微量注射、ホールセルパッチクランピング法、スクレープ負荷、微粒子銃、エレクトロポレーション、又は浸透圧ショック等により細胞に負荷され得る蛍光デキストランコンジュゲート若しくは蛍光マイクロスフェアが、本発明の方法において細胞を染色するのに使用可能である。
【0042】
当該蛍光標識は、好ましくはAbz(アントラニリル、2-アミノベンゾイル)、N-Me-Abz(N-メチル-アントラニリル、N-メチル-2-アミノベンゾイル)、FITC(フルオレセインイソチオシアネート)、5-FAM(5-カルボキシフルオレセイン)、6-FAM(6-カルボキシフルオレセイン)、TAMRA(カルボキシテトラメチルローダミン)、Mca(7-メトキシクマリニル-4-アセチル)、AMCA又はAmc(アミノメチルクマリンアセテート)、ダンシル(5-(ジメチルアミノ)ナフタレン-1-スルホニル)、EDANS(5-[(2-アミノエチル)アミノ]ナフタレン-1-スルホン酸)、Atto(例えば、Atto465、Atto488、Atto495、Atto550、Atto647)、Cy3(1-(5-カルボキシペンチル)-3,3-ジメチル-2-((1E,3E)-3-(1,3,3-トリメチルインドリン-2-イリデン)プロプ-1-エン-1-イル)-3H-インドール-1-イウム塩化物)、トリスルホネート化Cy5を含むCy5(1-(5-カルボキシペンチル)-3,3-ジメチル-2-((1E,3E,5E)-5-(1,3,3-トリメチルインドリン-2-イリデン)ペンタ-1,3-ジエニル)-3H-インドリウム塩化物)、及びCy7(1-(5-カルボキシペンチル)-2-[7-(1-エチル-5-スルホ-1,3-ジヒドロ-2H-インドール-2-イリデン)ヘプタ-1,3,5-トリエン-1-イル]-3H-インドリウム-5-スルホネート)を含むシアニン(Cy)色素、Alexa Fluor(例えば、Alexa Fluor647、Alexa488、Alexa532、Alexa546、Alexa594、Alexa633、Alexa647)、Bodipy(例えば、Bodipy(登録商標)FL)、Dylight(例えば、DyLight488、DyLight550)、Lucifer Yellow(エチレンジアミン又は6-アミノ-2-(2-アミノ-エチル)-1,3-ジオキソ-2,3-ジヒドロ-1H-ベンゾ[de]イソキノリン-5,8-ジスルホン酸)、並びにその誘導体から選択される。
【0043】
第1の生物の細胞は、本明細書において以後色素Aと呼ばれる第1の色素を用いて標識され得る一方、第2の生物の細胞は、本明細書において以後色素Bと呼ばれる第2の色素を用いて標識され得る。色素A及び色素Bは蛍光色素であり、色素Aは色素Bとは異なる。更に、色素Aを用いて標識された細胞は、好ましくは、例えば励起及び/又は発光スペクトルが異なる色素を利用することにより、色素Bを用いて標識された細胞から区別可能である。本発明の方法において使用可能である好適な色素は、単色光源、好ましくはレーザーにより、より好ましくは紫外レーザー(約355nm)、バイオレットレーザー(約405nm)、ブルーレーザー(約488nm)、又はレッドレーザー(約640nm)により励起可能である。例えば、色素Aは、約630nmのレッドレーザーを用いて励起され、そして約661nmにおいて発光する色素であり得る一方、色素Bは、約492nmのブルーレーザーを用いて励起され、そして約517nmにおいて発光する色素である。
【0044】
好ましい色素の組み合わせには、好ましくはスペクトルのオーバーラップがない2つのエミッションフィルター(emission filter)により、好ましくは蛍光補正する必要がなく、明確に測定可能な色素が含まれ、より好ましくはスペクトルのオーバーラップを最低限に抑えるために、2つの異なるレーザー、例えばバイオレットレーザー(約405nm)、ブルーレーザー(約488nm)、又はレッドレーザー(約640nm)等を用いて励起可能である色素が含まれることは当業者にとって明白である。好ましい組み合わせであって、色素Aを用いて染色される細胞の同定及び色素Bを用いて染色される細胞からの単離を可能にするものは、バイオレットレーザー及びブルーレーザーを用いて、バイオレットレーザー及びレッドレーザーを用いて、又はブルーレーザー及びレッドレーザーを用いて励起可能である蛍光色素である。
【0045】
色素A及び色素Bは、好ましくは、色素Aのみ及び色素Bのみを有する細胞と区別して、色素A及び色素Bの両方を有する細胞を同定及び単離することも可能にする色素である。この場合、好ましい色素として、約630nmのレッドレーザーを用いて励起され、そして約661nmにおいて発光する色素、及び約492nmのブルーレーザーを用いて励起され、そして約517nmにおいて発光する色素が挙げられる。
【0046】
細胞の染色は、当技術分野において公知の方法により実施可能である。例えば、生物の細胞は、色素、好ましくはスクシニミジルエステルカップリング色素と共に、好ましくは0.1時間~1日、好ましくは10分~オーバーナイトの期間、インキュベートされ得る。細胞は、例えば濾過又は遠心分離により濃縮され、平衡電解質溶液中でのインキュベーションが後続することが好ましい。
【0047】
染色は、好ましくは細胞増殖を防止するために低下した温度で実施される。従って、染色は、好ましくは20℃未満、好ましくは5℃~15℃、より好ましくは10℃~13℃、最も好ましくは約12℃の温度で実施される。温度を低下させることにより、細胞分裂の時間はより長くなる。
【0048】
染色、及び染色された細胞の更なる交配及び処理は、好ましくは光量が低下した条件下、好ましくは暗い中で実施される。
【0049】
細胞のハイブリッド化
細胞の融合を通じてハイブリッド生物を生み出すことは、ハイブリッド化と呼ばれる。細胞が、イン・ビトロ条件下でハイブリッド化した体細胞である場合には、体細胞性のハイブリッド化(somatic hybridization)という用語が適用され得る。
【0050】
イン・ビトロでの体細胞のハイブリッド化は、George Barski(Barskiら、1960.C R Hebd Seances Acad Sci 251:1825-7)のグループにより最初に発見された。自然発生的なハイブリッド化は稀である。染色された親生物のハイブリッド化は、例えばポリエチレングリコールを用いて化学的に、又は不活性化されたウイルス、例えばセンダイウイルスを用いて誘発され得る。種間ハイブリッドを含む、ハイブリッドを生成するためのプロトコールが知られている。そのようなプロトコールの例は、例えば、Grosserら、1996.Theor Appl Genet 92:577-582;Kisakaら、1998.Plant Cell Rep 17:362-367;Matsumotoら、2002.Euphytica 125:317-324中に存在する。
【0051】
親生物が酵母である場合には、ハイブリッド化又は交配は、染色された親細胞を富栄養培地、例えば1%(w/w)酵母エキス、2%(w/w)ペプトン、及び2%(w/w)グルコース内でインキュベートすることにより実施され得る。
【0052】
ハイブリッド化では、例えば濾過又は遠心分離し、その後適切な培地中で細胞をインキュベートすることにより、染色細胞を相互に緊密接触させる場合もある。
【0053】
ハイブリッド化は、好ましくは、過剰の細胞増殖を防止するために、親生物の最適増殖温度を下回る温度で実施される。温度を低下させることにより、細胞分裂により長い時間がかかる一方、ハイブリッド化はそれほど影響を受けない。従って、より高い温度におけるハイブリッド化と比較したとき、得られた細胞のより多くの割合がハイブリッド細胞である。親生物の最適増殖温度を少なくとも5℃下回るハイブリッド化温度が、色素による染色の喪失を制限し、また第1の親生物と第2の親生物との間のハイブリッド化に起因する稀な種間ハイブリッドの同定を実現することが判明した。
【0054】
第1及び/又は第2の親生物の最適増殖温度を少なくとも5℃下回る温度は、好ましくは18℃未満、好ましくは5℃~15℃、より好ましくは10℃~13℃、最も好ましくは約12℃である。当業者は、例えば異なる複数の温度において植物、藻類、及び/又は酵母の細胞を増殖させることにより、通常の最適増殖温度を有さない植物、藻類、及び/又は酵母の最適増殖温度を確実に決定することができる。
【0055】
細胞のハイブリッド化は、当業者にとって明白であるように、好ましくは蛍光色素のブリーチングを防止するために暗い中で実施される。
【0056】
ハイブリッド化は、好ましくは第1及び第2の親生物の細胞を、暗い中で、最適増殖温度を少なくとも5℃下回る温度で、少なくとも2時間、好ましくは2~48時間、例えば12時間、16時間、24時間、及び36時間等、静的にインキュベートすることにより実施される。好ましい期間はオーバーナイトであり、ルーチン的には約16時間である。
【0057】
細胞の単離
第1及び第2の親生物の細胞をハイブリッド化した後、ハイブリッド細胞、例えば種間ハイブリッド細胞等が同定され、そして第1及び第2の親生物から分離される。第1の親生物からの細胞は蛍光色素Aで染色され、また第2の親生物からの細胞は色素Bで染色されるので、ハイブリッド細胞、例えば種間ハイブリッド細胞等は、色素A及び色素Bの両方を用いて染色することに基づいて単離され得る。例えば、第1の親の細胞がカルボキシフルオレセインで染色され、及び第2の親の細胞はFar Redで染色される場合、ハイブリッド細胞は、約630nmのレッドレーザーを用いて励起されるとき、約661nmにおいて発光し、また約492nmのブルーレーザーを用いて励起されるとき、約517nmにおいて発光するので、ハイブリッド細胞は目視可能である。
【0058】
そのような二重染色されたハイブリッド細胞は、当技術分野において知られている任意の方法により、単一の染色細胞から単離可能である。例えば、マイクロマニピュレーターを備えた顕微鏡が、二重標識されたハイブリッド細胞を同定及び単離するのに使用され得る。
【0059】
二重標識された細胞をソーティングする好ましい方法は、フローサイトメトリー技術、例えば蛍光活性化細胞ソーティング(FACS)等を含む。FACSは、細胞の形態を前方散乱及び側方散乱により同時に分析可能であるという更なる長所を有する。染色パターン及び前方/側方散乱に基づき、ソーティングゲートは、ソーティングされる細胞の種類を決定するために設定可能である。ゲート化された単一細胞は、個別容器、例えばマルチウェルプレートのウェル、例えば96ウェルマイクロタイタープレート等内で単離可能である。
【0060】
単一ハイブリッド細胞を単離した後、該細胞は個別容器内で増殖し得る。ゲート化された細胞が、第1及び第2の親が密接に結びついた細胞を含み、二重染色された単一の細胞としてスコア化された偽陽性ハイブリッド細胞を含まないようにするため、単離後の二重標識された細胞は、二重標識された細胞としてハイブリッド生物を同定し、そして単一標識された細胞から二重標識された細胞を単離する第2ラウンドに供され得る。この第2ラウンドで使用される色素は、ハイブリッド生物が単一標識された細胞から二重標識された細胞として単離可能である限り、第1ラウンドで使用される色素と同一であっても、またそれとは異なってもよい。
【0061】
ハイブリッド生物を同定する第2ラウンドの前に、結びついた細胞は、当業者にとって知られているように、例えば界面活性剤と共に細胞をインキュベートすること、及び/又は細胞を超音波処理若しくはボルテックス処理することにより引き離され得る。更に、細胞は、キレート剤、例えばエチレンジアミン四酢酸、界面活性剤、並びに/又はチモリアーゼ及び/若しくはリチカーゼ等の酵素の存在下でインキュベートされ得る。
【0062】
代替的に又は加えて、細胞の倍数性が、例えばフロー式又はレーザー走査式の細胞数計測により決定され得る。そのような方法は、蛍光色素による細胞の標識に立脚し、DNAを化学量論的に染色し、従ってDNA含有量を正確に報告するものと期待される。分析目的では、細胞の一部分が、界面活性剤及び/又は定着剤、例えばメタノール若しくはエタノール等により透過処理され、DNA特異的蛍光色素を用いて標識され得る。例えば、細胞のサンプルは、例えばエタノールを使用して固定され得るが、また例えばSYTOX(登録商標)Green Nucleic Acid Stain(Invitrogen社S7020)等の核酸染色剤で染色され得る。好ましくは、細胞膜の先天的な透過性に起因して、生存細胞中に侵入することができる蛍光色素、例えばVybrant(商標)dyecycle(商標)色素(ThermoFisher Scientific社)等が使用される。サンプルの蛍光は、DNA結合蛍光染色剤の検出に適するレーザー及びエミッションフィルターを使用して、フローサイトメーター上で決定され得る。好適な条件は、488nmレーザーによる励起、及びバンド幅が30nmの533バンドパスフィルターを通過する発光の検出であり得る。第1及び第2の親生物の倍数性の合計であるような、期待される倍数性を有する細胞がソーティングされ得る。例えば、第1の親生物がハプロイド(1N)であり、及び第2の親生物がディプロイド(2N)であるとき、ハイブリッド生物は3Nとしてスコア化され得る。
【0063】
説明を明確化し、簡潔にするために、同一の又は分離した実施形態の一部としていくつかの特性が本明細書に記載されているが、しかしながら本発明の範囲は、記載されている特性の全部又は一部の組み合わせを有する実施形態を含み得るものと認識される。
【実施例
【0064】
実施例1
材料及び方法
菌株、培地、及び培養
この試験で使用されるS.セレビシエ及びS.ユーバヤヌス株は、表1に記載されている。菌株を、10g L-1の酵母エキス及び20g L-1のペプトンを含有し、YPDについて20g L-1のグルコース、及びYPTについて20g L-1のトレハロースが補充された複合培地(YP)内でルーチン的に増殖させた。20g L-1のグルコース、3g L-1のKHPO、5.0g L-1の(NHSO、0.5g L-1のMgSO・7HO、1mL L-1の微量元素溶液及び1mL L-1のビタミン溶液を含有する合成培地(SM)をこれまでの記載に従い調製し[Verduynら、1992.Yeast 8:501-517]、そしてpHを2MのKOHを使用して6.0に設定した。0.2g L-1のG418(Invitrogen社、Carlsbad、CA、米国)が補充されたSM培地であって、硫酸アンモニウムがG418を妨害するため(NHSOを1g L-1のグルタミン酸一ナトリウムに置き換えたものに対応するSM+G418内で、KanMXマーカーに対する選択を実施した[Chengら、2000.Nucleic Acids Res 28:e108-e108]。固体培地では、20g L-1の寒天を培地に添加した。酢酸を使用してpHが7.0に設定された2%の酢酸カリウムを含有する胞子形成培地内で胞子形成を実施した[Bahalulら、 2010.Yeast 27:999-1003]。サッカロミセス株を、YPDにおいて、500mL丸底振盪フラスコ中、100mLのワーキングボリュームで、又は50mLのGreiner Polypropylene Filter Top Tube中、30mLのワーキングボリュームで増殖させた。S.セレビシエ及びS.ユーバヤヌス培養物を、Innova(登録商標)44インキュベーターシェイカー(Eppendorf社、ナイメーヘン、オランダ)内で、それぞれ30℃及び20℃、200RPMにて増殖させた。指数関数的に増殖している振盪フラスコ培養物へのグリセロール(30%v/v)の添加により凍結ストックを調製し、そして1mLの一定分量で-80℃において無菌的に保管した。
【0065】
サッカロミセス培養物の染色
染色では、CellTrace(商標)Violet、CellTrace(商標)CFSE及びCellTrace(商標)Far Red蛍光色素(Thermo Fisher Scientific社、Waltham、MA、米国)を、製造業者の勧告に基づき調製した。培養物を、培養物1mL当たり2μLのCellTrace(商標)色素で染色し、そして暗い中で、12℃及び200RPM、オーバーナイトでインキュベートした。酵母エキス及びペプトンに結合することによるあらゆる残存色素を取り除くために、着色した培養物を、YP培地を用いて2回洗浄した。
【0066】
種内交配
種内交配実験では、2つのヘテロタリックなハプロイドであるS.セレビシエ株を、中対数増殖期まで増殖させた。記載されている通り、培養物を洗浄し、そして無菌のIsoton II(Beckman Coulter社、Woerden、NL)中でおよそ細胞106個mL-1の最終細胞密度まで稀釈し、そしてCellTrace(商標)Violet及びCellTrace(商標)CFSEで染色した。2つの染色された培養物を、1つのGreinerチューブ内に共に注入することにより交配させた。細胞を、YPT中でペレット化及び再懸濁した。交配培養物をエッペンドルフチューブに移し、そして細胞の近接を高め、より効率的に交配させるために短時間遠心分離した(2000g、1分)。その後、FACS分析まで、交配培養物を、暗い中、12℃において静的にインキュベートした。
【0067】
種間交配及び稀少交配
ホモタリックなディプロイド株を、ホモタリックなハプロイド配偶子又は他方の種のヘテロタリックなハプロイド細胞と容易に交配し得るハプロイド配偶子を取得するため、胞子形成及び発芽させた後、染色し、交配させた。稀少交配では、ディプロイド株を、上記の通り処置し、又は染色し、及びディプロイドとして直接交配させた。胞子形成では、10mLの静止期培養物をスピンダウンし、無菌の脱塩水で洗浄し、そして胞子形成は呼吸作用要求性が高いので、50mL Polypropylene Filter Top Tube内の9mLの胞子形成培地中で再懸濁して十分な通気を確保した[Sherman、1963.Genetics 48:375]。胞子形成培養物を、20℃及び200RPMで少なくとも72時間インキュベートした。子嚢の存在を顕微鏡検査を使用して決定した。既定的には、軽微な改変を施したHerman及びRineの記載に従い、胞子を単離した[Herman及びRine、1997.EMBO J 16:6171-6181]。要するに、胞子をペレット化し(1000g、5分)、軟化バッファー(10mMのジチオスレイトール、100mMのトリス-SO、HSOを用いてpHを9.4に設定)中で再懸濁し、そして30℃で10分間インキュベートした。脱塩水を使用して細胞を洗浄し、0.8gL-1のチモリアーゼ20-T(AMS Biotechnology Ltd.社、Abingdon、英国)を含むスフェロプラスト化バッファー(2.1Mのソルビトール、10mMのKHPO、1MのNaOHを用いてpHを7.2に設定)中で再懸濁し、そして30℃、オーバーナイトでインキュベートした。インキュベーション後、培養物をペレット化し(1000g、10分)、脱塩水を使用して洗浄し、そして0.5%のトリトンX-100中で再懸濁した。氷上に保持しながら、50Hz、6ミクロンの振幅でおよそ15秒間、胞子を超音波処理した。プロトコールの初期の最適化期間中は、チモリアーゼステップのみを使用する短縮版プロトコールについてもテストした。胞子の単離を、顕微鏡を使用して確認し、そして単離した子嚢胞子を4℃で保管したか、又は速やかに使用した。発芽では、YPDを用いて胞子を既定的に1回洗浄し、その後20mLのYPD中でおよそ細胞10個mL-1の濃度まで再懸濁した。発芽培養物を、30℃、200RPMにおいて5時間、100mL丸底フラスコ中でインキュベートした。YPDの代わりに2%のグルコース、およびYPD上、異なる回数での発芽を使用するプロトコールを、種間ハイブリッド化の初期の最適化期間中にテストした。既定的には、ハプロイドのS.ユーバヤヌス及びS.セレビシエ株を洗浄し、無菌のIsoton II(Beckman Coulter社)中でおよそ細胞個10mL-1の最終細胞密度まで稀釈し、そしてCellTrace(商標)Violet及びCellTrace(商標)CFSEを用いて記載の通り染色した。稀少交配では、およそ細胞20×10個mL-1の最終細胞密度を使用し、そして細胞をCellTrace(商標)Far Red及びCellTrace(商標)CFSEで記載の通り染色した。2つの染色された培養物を、1つのGreinerチューブ内に共に注入することにより交配させた。細胞をペレット化し、そしてYPD中で再懸濁した。交配培養物をエッペンドルフチューブに移し、そして細胞の近接性を高め、より効率的に交配させるために、短時間遠心分離した(2000g、1分)。交配培養物を、FACS分析まで、暗い中、12℃において静的にインキュベートした。
【0068】
FACS分析及びソーティング
FACS分析及びソーティングするための培養物を無菌のIsoton II中で稀釈し、そして短時間ボルテックス処理して細胞凝集物を破壊した。稀少交配では、50mMのEDTAを添加して、無性のフロキュレーションを残らず破壊した。培養物を、355nm、445nm、488nm、561nm、及び640nmレーザー、並びに70μmノズルを備えたBD FACSAria(商標)II SORP Cell Sorter(BD Biosciences社、Franklin Lakes、NJ、米国)上で分析し、そして濾過されたFACSFlow(商標)(BD Biosciences社)を用いて操作した。サイトメーターの性能が適正であることを、対応するCS&T Bead(BD Biosciences社)を用いてCSTサイクルを稼働させることにより、各実験に先立ち評価した。ソーティングするためのドロップディレイを、Accudrop Bead(BD Biosciences社)を用いてAuto Drop Delayサイクルを稼働させることにより決定した。CellTrace(商標)Violet蛍光を355nmレーザーにより励起し、そしてバンド幅が50nmの450nmバンドパスフィルターを通じて発光を検出し、CellTrace(商標)CFSEを488nmレーザーにより励起し、そしてバンド幅が30nmの545nmバンドパスフィルターを通じて発光を検出し、並びにCellTrace(商標)Far Redを640nmレーザーにより励起し、そしてバンド幅が60nmの780nmバンドパスフィルターを通じて発光を検出した。Violetに対するCFSEプロット又はFar Redに対するCFSEプロット上で、交配培養物の蛍光を分析した。側方散乱(SSC)に対して前方散乱(FSC)をプロットすることにより、細胞の形態を分析した。測定毎に、少なくとも100,000事象を分析した。ソーティングされる細胞の種類を決定するために、これらのプロット上でソーティング領域(「ゲート」)を設定した。ゲート化された単一細胞を、イールドマスク0、ピュアリティーマスク32、及びフェーズマスク16に対応する「単一細胞」ソーティングマスクを使用して、YPDを含有する96ウェルマイクロタイタープレート中でソーティングした。必要な場合には、増殖時、エタノール火炎滅菌済み96ピンレプリケーターを使用して、選択培地(SM又はSM+G418)を含む96ウェルプレートに対して、コロニーをレプリカ播種した。FACSデータを、FlowJo(登録商標)ソフトウェア(バージョン3.05230、FlowJo社、LLC、Ashland、OR、米国)を使用して分析した。
【0069】
生存能力の決定
生存率又は交配効率が低い培養物の生存率又は交配効率を決定するために、ポアソン統計学を使用した。ポアソン統計学によれば、各ウェル中で設定された数のソーティング後の細胞から現れる生存コロニーの確率は数学的に決定可能であるが(式1)、ここで式中、Pは、コロニー出現の確率の推定であり、またλは1ウェル当たりの生存細胞の割合である[Dubeら、2008.PloS One 3:e287650]。
【数1】

式1
【0070】
ハイブリッド細胞の合計割合(%)は、従ってλにウェル(W)の量を掛け算したものとして定義され、真の陽性の補正後の量をもたらす。これは、全集団に占めるハイブリッドの収率を決定するために、ソーティングされた細胞の量により除算される(式2)。
%ハイブリッド=(λ*W)/(ソーティングされた全細胞)
式2
【0071】
生存率が高い実験では、各ウェルにおいて1つの細胞のみがソーティングされるので、1つのウェル内で複数事象が生ずる確率についてポアソン補正は適用されなかった(式1)。ここでは、コロニーの量をカウントし、そしてソーティングされた細胞の量で除算することにより、生存率(%)を計算した。
【0072】
画像化
Zeiss Axio Imager Z1(Carl Zeiss AG社、Oberkochen、ドイツ)を使用して細胞を画像化した。蛍光画像化では、異なる蛍光物質について異なるフィルターセットを使用しながら、キセノンランプで細胞を励起した。1つの蛍光物質から他方のチャンネルへのブリードスルーが最低限に抑えられるように、フィルターセットを選択した。バンド幅が20nmの470nmバンドパス励起フィルター及びバンド幅が25nmの540nmエミッションフィルターを含有するGFPフィルターセット(Carl Zeiss AG社)を通じて、CellTrace(商標)CFSEからの蛍光を画像化した。CellTrace(商標)Far Redを、バンド幅が30nmの640nmバンドパス励起フィルター、及びバンド幅が50nmの690nmエミッションフィルターを含有するCy5フィルターセット(Carl Zeiss AG社)を通じて画像化した。AxioVision SE64(Rel.4.9.1.Carl Zeiss AG社、Oberkochen、ドイツ)及びFIJIを使用して画像を処理した[Schindelinら、2012.Nature Methods 9:676-682]。
【0073】
フローサイトメトリーによる倍数性の決定
倍数性の決定では、これまでの記載に従い、エタノールを使用してサンプルを固定した[Heblyら、2015.FEMS Yeast Res 15:fov005]。記載されている通りに[Haase及びReed、2002.Cell Cycle 1:117-121]、但しいくつかの軽微な改変を施して、SYTOX(登録商標)Green Nucleic Acid Stain(Invitrogen社S7020)による細胞の染色を実施した。細胞を、50mMのトリス-Cl(pH7.5)中で洗浄し、そして100μLのRNase溶液(50mMのトリス-Clに溶解した1mg/mLのRNase A)中に再懸濁した。既定的には、100μLの細胞を、1mLのSYTOX(登録商標)Green溶液に添加した。大量のサンプルを処理するとき、PIPETMAN(登録商標)Mマルチチャンネル電動ピペット(Gilson社、Middleton、WI、米国)と共に、96ウェルマイクロタイタープレート内でのハイスループットプロトコールを使用した。この改変されたプロトコールでは、150μLの70%エタノールを添加することにより、100μLのサンプルを固定し、そして最終ステップでは、20μLのサンプルを180μLのSYTOX(登録商標)Green溶液に添加した。未染色コントロールをサンプル毎に含めた。サンプルの蛍光を、BD Accuri(商標)C6 CSampler Flow Cytometer(BD Biosciences社)上で測定した。フローサイトメーターの488nmレーザーを用いて蛍光物質を励起し、そしてバンド幅が30nmの533バンドパスフィルターを通じて発光を検出した。倍数性データを、FlowJo(登録商標)ソフトウェア(バージョン3.05230、FlowJo社)を使用して分析した。
【0074】
PCRによる種間ハイブリッドの同定
S.セレビシエ及びS.ユーバヤヌスに由来する遺伝物質の存在を、PCRにより確認した。水、プライマー、及び2X DreamTaq PCR Mastermix(Life Technologies社、Carlsbad、CA、米国)を含有するマスター混合物を調製した。S.セレビシエ(8570&8571、表3を参照)及びS.ユーバヤヌス(8572&8573、表3)に対して特異的なプライマー[Muirら、2011.FEMS Yeast Res 11:552-563;Pengelly及びWheals、2013.FEMS Yeast Res 13:156-16153]を、各プライマーについて0.25mMの最終濃縮まで添加した。2μLの液体培養物を2μLのNaOH中、99℃において15分間沸騰させることにより、DNAを単離した。18μLのPCRマスター混合物をテンプレートDNAに添加した。DreamTaqを用いたPCRのためのサイクリングパラメーターは以下の通りであった:95℃において2分間の初期変性、次に35回の95℃で30秒間、55℃で30秒間、及び72℃で1分間のPCRサイクル、72℃で10分間の最終期間で終了。同一のプロトコールを使用して、但し交配型に対して特異的なプライマーを使用して、交配型を決定した(表3)。PCR反応を、Tecan Freedom EVO(登録商標)リキッドハンドラー(Tecan社、Mannedorf、スイス)を使用して、又はPIPETMAN(登録商標)Mマルチチャンネル電動ピペット(Gilson社)を用いて調製した。PCR産物を、0.5×TBEバッファー(45mMのトリス-ホウ酸塩、1mMのEDTA、pH8)中、SERVA DNA Stain G(Serva electrophoresis GmbH社、Heidelberg、ドイツ)を用いて染色された2%(w/v)アガロースゲル上、100Vでおよそ30分間分離した。ゲルを、InGenius LHR Gel Imaging System(Syngene社、Bangalore、インド)を使用して画像化した。
【0075】
結果
FACSを使用する交配培養物からの種内ハイブリッドの単離
種内交配は、種間交配よりも効率的に生ずるので、2つのヘテロタリックなS.セレビシエハプロイド株を交配させることにより、染色、交配、及びソーティングに関する機能的プロトコールを開発した。コンプリメンタリー(complimentary)な栄養要求性を有する2つの菌株を交配させると、その結果、合成最少培地(SM)上で増殖することができる原栄養性の交配したディプロイドをもたらし、サンプル中の交配した細胞についてその割合の容易且つ正確な測定を可能にした。菌株CEN.PK113-5A(MATa、His-、Lys-、Trp-)及びIMK439(MATα、Ura-)をCFSE及びViolet色素でそれぞれ染色し、その後交配させた。細胞1個当たりの色素の濃度は各分裂期間中に稀釈され、その結果、細胞1個当たりの蛍光シグナル強度の減少を経時的に引き起こす。この蛍光の喪失を最低限に抑えるために、交配培養物をYPT中、12℃でインキュベートした。S.セレビシエはこの条件下ではゆっくりと増殖するためである。細胞より放出された蛍光をFACS上で異なる時点において測定した。染色前、交配前の染色後、並びに交配から18時間、24時間、及び42時間後(図1A)である。交配したと推定される細胞に対応する、二重染色を呈する事象周辺に、ゲーティングエリアを設定し、そして存在する栄養要求性マーカーについて、そのあらゆる選択圧を防止するために、このゲーティングエリア内の事象を、YPDを含有する96ウェルプレート上でソーティングした。FACS分析は、18時間後、0.90%の割合の交配培養物が、二重染色されたことを示した。この数字は24時間後に2.65%、そして交配から42時間後には5.25%まで増加した(図1A)。顕微鏡下、「shmoo」形態が二重染色された集団に認められたが(図1C)、それはサッカロミセス接合体に特徴的であり[Herskowitz,1988.Microbiol Reviews 52:536]、またこの集団中に交配細胞が存在することを確認する。二重染色された細胞、単一染色された細胞、及び全培養物の単一細胞のソーティングされたコロニーを、合成最少培地内で増殖するその能力についてテストした。二重染色された集団のうち、74~82%が選択培地内で増殖することができ、交配の成功を示している(図1B)。全交配培養物からの細胞のうち4%のみが選択培地内で増殖し、交配した細胞が二重染色された集団において20倍富化したことを示している。フローサイトメトリーにより、二重染色された集団からの10個のコロニーについて倍数性を決定し、3種類の倍数性、ハプロイド細胞、ディプロイド細胞、及び両者の混合物を同定した(図1D)。これまでの観察に基づき[Bell、1998.Appl Environment Microbiol 64:1669-1672]、これらの結果は、二重染色された事象は、交配した細胞だけではなく、染色細胞の凝集物からも構成されることを示唆した。交配細胞は多くの場合凝集物を形成し、又は交配中に分裂するので[Lipke及びKurjan、1992、Microbiol Reviews 56:180-194]、二重染色された事象の単一細胞の単離が、交配した細胞のみを取得するのに必要である。凝集が観測されたにもかかわらず、選択培地上で増殖することができる細胞の割合は、二重染色された集団において約20倍まで改善し、そして交配した細胞は、SM上に播種することによる交配及び倍数性の検証により18時間後には容易に取得可能であった。
【0076】
FACSを使用する交配培養物からの種間ハイブリッドの単離
開発された染色及びソーティングプロトコールが、交配培養物から種間ハイブリッドを単離するのにもやはり適用可能か調査するために、ディプロイド野生型S.ユーバヤヌス株CBS12357を、ハプロイドのS.セレビシエ株IMK439と交配させた(MATα、ura3Δ::KanMX)。これらの株のハイブリッド細胞は、ウラシル原栄養性及びG418に対する耐性に起因して、容易に同定可能なはずである。S.ユーバヤヌスCBS12357はホモタリックなディプロイドであるので、染色及び交配前に胞子形成及び胞子の単離が必要であった。ホモタリックなディプロイドから得られた胞子はホモディプロイド化することができるので、種間交配と競合する自己交配を最低限に抑えるために、子嚢内での胞子の効率的な分離が必要とされる。従って、子嚢細胞壁を消化するための2つのプロトコールを、(i)チモリアーゼを使用して、及び(ii)チモリアーゼ消化に加えて界面活性剤トリトンX-100を使用してテストしたが[Herman及びRine、1997.EMBO J 16:6171-6181]、後者は胞子の分離に改善をもたらした(データ図示せず)。更に、FACS分析から、S.ユーバヤヌス細胞のおよそ半分が、染色完了後、蛍光性でなかったことが立証された(データ図示せず)。発芽期間中に胞子の細胞壁が失われる。胞子細胞壁の不透過性を前提とすれば、胞子染色後に蛍光色素の多くを含有する可能性がある。発芽期間中のその細胞壁喪失は、蛍光の喪失が観測されたことを説明し得る。従って、異なる複数のインキュベーション時間において、2%のグルコース及びYPD中で発芽をテストすることにより、染色前に使用される最適な発芽法を開発した。YPD内での発芽から5時間後、最初の有意な増殖が認められ、種内交配はなおも最低限度であったものの、発芽に十分な時間が経過したことを示している(データ図示せず)。最後に、唯一の炭素源としてトレハロースを用いたときにS.ユーバヤヌスが増殖又は交配する能力については不明である。従って、YPD培地内でのCFSEで染色されたS.ユーバヤヌスCBS12357の発芽した細胞と、Violet色素で染色されたS.セレビシエ株IMK439のハプロイド細胞との交配を、YPT培地内でのこれらの菌株の交配と比較した。ハイブリッドの量を、FACSを使用して二重染色された集団をソーティングすること(図2A)、及び選択培地に対してレプリカ播種することにより経時的に評価した。7時間後、YPT及びYPD上での両交配培養物の二重染色された集団のうち、1%がハイブリッドであることが判明した。YPT上での交配はハイブリッドの数について増加を引き起こさなかったが、YPD上でインキュベートした二重染色された集団内のハイブリッドの量は、ハイブリッド化から24時間後、18%まで増加し、そして30時間後も一定に保たれた(図2B)。ゲート化なしのソーティング後の細胞の96ウェルマイクロタイタープレート全体を、選択培地に対してレプリカ播種した後、増殖を認めなかったが、それは交配培養物内には0.3%未満しかハイブリッドが存在しなかったことを示唆した。これは、培養物は、二重染色された細胞をFACSソーティングするための最適化されたプロトコールを使用することにより、種間ハイブリッドについて少なくとも70倍富化したことを意味する(図2C)。これは、FACSを使用して細胞を染色及びソーティングする方法は、種間ハイブリッドの富化に適用され得ること、及びYPD培地上で24~30時間交配させると、二重染色された集団が生じ、その5個のうち1個が真正なハイブリッドであったことを示唆する。
【0077】
マーカーを含まない種間ハイブリッドの生成
以前の実験では、FACSによるソーティングを行い、その二重染色された集団内にハイブリッドが存在することを、選択培地上での増殖により検証した。しかしながら、相補的で選択可能な表現型を有する親株は、必ずしも利用可能又は適用可能ではない。従って、親株の選択可能な表現型の存在に依存しないスクリーニング法が好ましい。選択可能な表現型を有さないハイブリッドは、PCRによる親株の種固有遺伝子の増幅[Muirら、2011.FEMS Yeast Res 11:552-563;Pengelly及びWheals、2013.FEMS Yeast Res 13:156-161]、及び細胞の倍数性の評価により同定することができる。しかしながら、そのようなスクリーニング法はスループットが限定されており、1つ又は複数のハイブリッドを同定するためにスクリーニングされなければならない細胞の量が合理的な量に保たれるような、ハイブリッドの頻度が高いサンプルにおいて有効であるに過ぎない。IMK439とCBS12357の胞子とを交配するとき、取得された細胞の20%が、ハイブリッド表現型に対応する表現型を有し、従ってハイブリッドを見つけるためには約5個の細胞がスクリーニングされなければならないこととなる。S.ユーバヤヌス及びS.セレビシエに対して特異的なプライマーの対を使用するマルチプレックスPCRに基づき、推定ハイブリッドについてスクリーニングする可能性をテストするために、マーカーを含まないS.ユーバヤヌス及びS.セレビシエを交配させた。これまでに開発されたPCR法を使用し、プライマー8570及び8571を用いたとき、S.セレビシエのゲノムDNAの存在下で150bpの断片、プライマー8572及び8573を用いたとき、S.ユーバヤヌスのゲノムDNAの存在下で228bpの断片が得られた(表3)。このPCRは、ハイブリッドを2つの種の混合集団から区別することができないので、単一のコロニー単離物がテストされたことを保証するために、最初にソーティングされた二重染色した細胞を繁殖させた後、第2の単一細胞ソーティングステップを実施した。更に、倍数性が均一であれば、第2のソーティングを行わないで観察されたような混合集団は存在しなかったことを立証するので、ソーティングされた細胞の倍数性をDNA染色及びフローサイトメトリーを用いて決定した(図1D)。高スクリーニングスループットを保証するために、スクリーニングが96ウェルマイクロタイタープレート中で自動化及び実行可能なように、マルチプレックスPCRプロトコール及び倍数性決定プロトコールを設計した。マーカーを含まない種間ハイブリッドを生成し、スクリーニングする方法の案をテストするために、2つの交配体を作製した。胞子形成したCBS12357を用いて種間ハイブリッドを生成するこれまでの実験を、S.セレビシエ親株として、遺伝的に改変されたIMK439を、マーカーを含まない研究室株CEN.PK113-7D(MATa)に置き換えて繰り返した。並行して、提示された方法が、新規の工業的に意義がある可能性のあるハイブリッドを生成するためにやはり適用可能であるか調査するために、2つの工業的に意義のある株間の交配を実施した。工業的な菌株は、多くの場合より複雑なアニュプロイドゲノムを有し、その胞子形成は不十分であり、その結果、ハイブリッド化率は、研究室株を使用する種間ハイブリッドについて観測される場合よりも低くなる[Steenselsら、2014.FEMS Microbiol Reviews 38:947-995]。S.ユーバヤヌス株AS2.4940(J.Bingの好意により供与された[Bingら、2014.Current Biol 24:R380-R381])を、S.セレビシエの工業的なエール-型株であるAle28と交配させた。両株はディプロイドであり、従って両者をこれまでに考察された最適化プロトコールを使用して胞子形成及び発芽させて、ハプロイド配偶子を取得した(図2C)。CBS12357(S.ユーバヤヌス、胞子形成後、CFSE)を、CEN.PK113-7D(S.セレビシエ、MATa、Violet)と交配させ、AS2.4940(S.ユーバヤヌス、胞子形成後、CFSE)をAle28(S.セレビシエ、胞子形成後、Violet)と交配させ、そして二重染色された集団を両交配培養物からソーティングした(図3A)。ソーティングされた細胞を繁殖させ、そして各コロニーの単一細胞を再度ソーティングして単一細胞の単離物を取得した。CBS12357×CEN.PK113-7Dの交配では、22個の単一細胞の単離物を取得し、そしてこれらの単離物の種について評価を行い、2つの単離物が真正なハイブリッドであることを明らかにした(IMH001及びIMH002、図3B)。AS2.4940×Ale28の交配では、34個の単一細胞の単離物を取得し、そのうちの5個をハイブリッドとして同定した(IMH003-IMH007、図3B)。従って、CBS12357とCEN.PK113-7Dとの間の交配から得られた9%の細胞、及びAS2.4940とAle28との間の交配から得られた15%の細胞がハイブリッドであった。フローサイトメトリーによりDNA含有量を決定し、これらのハイブリッドは、アニュプロイドであったIMH007を除いてディプロイドであることが示された(図3C)。二重染色された集団内のハイブリッドの頻度は、遺伝マーカーを内包する株を使用して決定された頻度と同一範囲内にあり、ハイブリッドはPCRを使用してスクリーニングすることにより成功裏に同定され、本試験に記載されているプロトコールを使用する種間交配により取得された、マーカーを含まないハイブリッドを同定する可能性を実証した。
【0078】
稀少交配による種間ハイブリッドの生成
工業プロセスで使用されるハイブリッドの多くは、ポリプロイド又はアニュプロイドであり、またこの倍数性は、これらの株が示す工業的に意義のある表現型に寄与する可能性がある。そのような株は、より高い倍数性を有する株を交配することにより構築可能である。しかしながら、反対の交配型の株に限り相互に交配可能であるに過ぎず、またディプロイド株は交配型a/αを有するので、自然発生的な交配型の切り替えが生ずるときに限り交配が生ずる可能性があり、ホモ接合性a/a又はα/α交配型をもたらす。この型の交配の頻度は、10-6~10-8であることが報告されており[Gunge及びNakatomi、1972.Genetics 70:41-58]、従って稀少交配と呼ばれている。この研究で考察される技術は、交配した細胞について、培養物を成功裏に富化することが明らかにされているので、ハプロイド及びディプロイドであるS.ユーバヤヌス及びS.セレビシエ株の間で異なる交配を行わせることにより生じた、このような極めて稀な交配事象を単離するのに、富化が十分有意であるか調査した。稀少交配頻度を容易に測定できるようにするために、株IMK439を、ハプロイドのS.セレビシエ親株として使用した(MATα ura3Δ::KanMX)。同一の選択可能な表現型を使用してディプロイドのS.セレビシエ染色体組を有する株を取得するために、ディプロイド株IMX1471を、以前の記載に従い、CFSEで染色したIMK439(S.セレビシエ、MATα)と、新しい色素のFar Redで染色したIMK440(S.セレビシエ、MATa)との間の種内交配により構築した。二重染色された細胞をソーティングし、そしてオーバーナイトでインキュベーション後、各ウェルからの単一細胞を再度ソーティングした。ソーティングされた細胞の交配型を決定するために、プライマー12、13、及び14(表3)を使用してPCRを実施し、そして倍数性、胞子形成能力、及びウラシル栄養要求性の有無、及びKanMXマーカーについてテストした(図6)。MATa/MATαであった単離物のうちの1つは、あるディプロイドゲノム含有量を有し、正常な胞子形成効率を示し、そして適正で選択可能な表現型がIMX1471(MATa/a、ura3Δ::KanMX/ura3Δ::KanMX)としてストックされ、そしてディプロイドのS.セレビシエ親株として使用された。ディプロイドとして、又は胞子形成及び発芽後にハプロイドとして、CBS12357をS.ユーバヤヌス親株として使用した。
【0079】
これまでの実験では、CFSE染色された集団とViolet染色された集団の分離は、最適とは言えなかった;Violet蛍光強度は比較的低く、またCFSEにより放出される蛍光と若干オーバーラップしていた。稀少交配事象の頻度は低いので、単一染色された集団と二重染色された集団の明確な分離が必須である。CFSE染色された親株とFar Red染色された親株との交配により、株IMX1471を構築すると、Far Red色素はViolet色素よりも強い蛍光シグナルを有し、異なる集団を明確に分離することが判明した(図6)。従って、Violet色素を、スペクトルの赤色部分において光を放出するFar Redに交換した。S.ユーバヤヌス親株をCFSEで、S.セレビシエ親株をFar Redで染色した。CBS12357(胞子形成後、1n)×IMK439(1n)、CBS12357(胞子形成後、1n)×IMX1471(2n)、CBS12357(2n)×IMK439(1n)、及びCBS12357(2n)×IMX1471(2n)の、4つの異なる交配体を作製した。CFSE染色した細胞及びFar Red染色した細胞のあらゆる無性的な凝集を防止するために、EDTAを交配前に添加した[Johnsonら、1988.Canad J Microbiol 34:1105-1107]。各交配培養物におけるハイブリッド細胞の頻度を、SM+G418プレート上に固定量の交配培養物を播種すること及びコロニーを計測することにより評価した。並行して、FACSにより交配培養物を分析し、そしてソーティング後のハイブリッド細胞の頻度を決定するために、二重染色された集団をソーティングし、SM+G418に対してレプリカ播種した。ハイブリッド細胞についてその低い頻度を定量化できるようにするために、ウェルを、1、10、又は100個の二重染色された細胞でイノキュレーションし、そしてポアソン統計学を使用して頻度を計算した。ソーティングされていないハプロイド×ハプロイド種間交配培養物では、細胞4×10個中約1個が24時間後、選択培地内で増殖したが、168時間後には3×10個中1個まで増加した。この培養物に由来するソーティング後の二重染色された細胞において、発生率は平均3×10個中1個まで増加し、平均700の富化係数に対応し、時間が経過しても比較的一定に留まった(表2)。ディプロイドのS.ユーバヤヌスとハプロイドのS.セレビシエとの間のソーティングされていない交配培養物では、24時間後、播種した細胞のいずれも選択培地中で増殖しなかったが、しかしながらハイブリッド細胞の頻度は、168時間後には4.7×10中、最大1個まで増加した。この培養物に由来するソーティング後の二重染色された細胞では、発生率は平均2.4×10-3中1個まで増加し、平均600の富化係数に対応する。ハプロイドのS.ユーバヤヌスとディプロイドのS.セレビシエとの間のソーティングされていない交配培養物では、10-7個中、約1個が、選択培地内で増殖した。96時間後、FACSを用いて二重染色された細胞をソーティングすると、ハイブリッド細胞の比率は約550倍増加し、その結果、ハイブリッド細胞の頻度は4.3×10-4となった。ディプロイド×ディプロイド交配では、すべての細胞を播種しても、細胞20×10個のプール品からたった1個のハイブリッドしか得られず、細胞25,664個をFACSソーティングしても1個も取得されなかった。全体として、稀少交配は、ハプロイド株とディプロイド株との間で可能であったが、交配した細胞は、交配培養物及び二重染色された細胞のいずれにおいても非常に低い頻度で存在した。二重染色された細胞をソーティングすることにより取得されたハイブリッド細胞の頻度は正常な交配よりもかなり低いので、ディプロイドのCBS12357×ハプロイドのIMK439交配について細胞約400個、及びその他の交配ではいっそう多くの細胞がソーティングされる必要がある。Far Red色素及びCFSE色素は、スペクトルがオーバーラップすることなく顕微鏡下で画像化可能であり、従って各交配の組み合わせについて、そのソーティングされていない、二重染色された細胞をガラススライド上でソーティングし、そして蛍光顕微鏡検査を使用して検査した。二重蛍光細胞が、4つの交配培養物のすべてにおいて、またほとんど又は全く希少交配事象が単離されない培養物内でも観測された(図4)。若干の均質に二重蛍光性の細胞も、均質に単一染色された細胞と共に認められたものの、CFSE及びFar Redの両者の蛍光は、出芽細胞の一部又は細胞のクラスターに通常局在化した。酵母の出芽及び交配は対称的に生じないので、染色剤がどのように娘細胞に伝達されるかは不明であり、従ってこの二重蛍光が、交配時に染色剤のクロスオーバーにより引き起こされるのか、又は別の原因を有するのかは不明である。このような二重染色された事象は、単一染色された細胞を一般的に含む富化されていない交配培養物に稀に認められた(図5)。これは、二重染色された集団をFACSソーティングすると、必ずしもそのすべてが生存性のハイブリッドではない可能性はあるものの、二重染色された細胞について確かに富化させることを示唆する。
【0080】
【表1】
【0081】
【表2】
【0082】
【表3】
図1-1】
図1-2】
図2
図3-1】
図3-2】
図4-1】
図4-2】
図5-1】
図5-2】
図6-1】
図6-2】