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特許7391075カルボン酸又はそのアルカリ金属塩及び遊離フッ化物イオンの供給源を含む歯磨剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-24
(45)【発行日】2023-12-04
(54)【発明の名称】カルボン酸又はそのアルカリ金属塩及び遊離フッ化物イオンの供給源を含む歯磨剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/362 20060101AFI20231127BHJP
   A61K 8/365 20060101ALI20231127BHJP
   A61K 8/21 20060101ALI20231127BHJP
   A61Q 11/00 20060101ALI20231127BHJP
   A61K 8/81 20060101ALI20231127BHJP
【FI】
A61K8/362
A61K8/365
A61K8/21
A61Q11/00
A61K8/81
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021500030
(86)(22)【出願日】2019-07-03
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-11-04
(86)【国際出願番号】 EP2019067791
(87)【国際公開番号】W WO2020007888
(87)【国際公開日】2020-01-09
【審査請求日】2022-03-29
(31)【優先権主張番号】1811061.9
(32)【優先日】2018-07-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】315010950
【氏名又は名称】グラクソスミスクライン コンシューマー ヘルスケア(ユーケー) アイピー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】クリース,ジョナサン エドワード
(72)【発明者】
【氏名】カーン,シャザダ ヤサール
(72)【発明者】
【氏名】リンチ,リチャード
(72)【発明者】
【氏名】アーカート,デビッド
【審査官】▲高▼ 美葉子
(56)【参考文献】
【文献】特表2000-504037(JP,A)
【文献】特開2005-206592(JP,A)
【文献】特表平05-504555(JP,A)
【文献】Extra Fresh Whitening Fluoride Toothpaste,ID 5537705,Mintel GNPD[online],2018年3月,[検索日2023.11.06],インターネット<https://www.portal.mintel.com>
【文献】Extra Fresh Intensive Enamel Repair Toothpaste,ID 6386379,Mintel GNPD[online],2019年3月,[検索日2023.11.06],インターネット<https://www.portal.mintel.com>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K8/00-8/99
A61Q1/00-90/00
Mintel GNPD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マロン酸、グルタル酸、酒石酸、乳酸及びそれらの混合物からなるリストから選択されるカルボン酸又はそのアルカリ金属塩、
メチルビニルエーテル(MVE)とマレイン酸のコポリマーであって、MVEとマレイン酸の1:1コポリマーであり、100,000~2,000,000の範囲の分子量を有し、組成物の0.1重量%~0.4重量%の量で使用されるコポリマー、及び
遊離フッ化物イオンの供給源
を含む練り歯磨剤組成物であって、5.0を超え6.5未満までの範囲のスラリーpHを有する、練り歯磨剤組成物。
【請求項2】
アルカリ金属塩が前記カルボン酸のナトリウム塩である、請求項1に記載の練り歯磨剤組成物。
【請求項3】
アルカリ金属塩が、組成物全体の0.5重量%~5.0重量%の量で存在する乳酸ナトリウムである、請求項2に記載の練り歯磨剤組成物。
【請求項4】
遊離フッ化物イオンの供給源がアルカリ金属フッ化物である、請求項1から3のいずれか一項に記載の練り歯磨剤組成物。
【請求項5】
アルカリ金属フッ化物が、組成物の0.05重量%~0.5重量%の量で存在するフッ化ナトリウムである、請求項4に記載の練り歯磨剤組成物。
【請求項6】
5.4~6.3の範囲のスラリーpHを有する、請求項1から5のいずれか一項に記載の練り歯磨剤組成物。
【請求項7】
pH調整剤を含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の練り歯磨剤組成物。
【請求項8】
pH調整剤が水酸化ナトリウムである、請求項7に記載の練り歯磨剤組成物。
【請求項9】
減感剤をさらに含む、請求項1から8のいずれか一項に記載の練り歯磨剤組成物。
【請求項10】
歯牙浸食から歯を保護することに使用するための、請求項1から9のいずれか一項に記載の練り歯磨剤組成物。
【請求項11】
齲歯から歯を保護することに使用するための、請求項1から9のいずれか一項に記載の練り歯磨剤組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、本来の歯のエナメル質を強化及び保護し、それによって酸の負荷から保護する歯磨剤組成物に関する。本発明による組成物は、特定のカルボン酸又はそのアルカリ金属塩、遊離フッ化物イオンの供給源、及び場合によって、メチルビニルエーテル(MVE)と無水マレイン酸又はマレイン酸のコポリマーを含む。重要なことには、歯磨剤組成物は、5.0を超え6.5未満までの範囲のスラリーpHを有する弱酸性である。
【背景技術】
【0002】
歯の無機質は、カルシウムヒドロキシアパタイト、Ca10(PO4)6(OH)2で主に構成され、これは、アニオン、例えば炭酸イオン又はフッ化物イオン、及びカチオン、例えば亜鉛又はマグネシウムで部分的に置換されていてもよい。歯の無機質はまた、非アパタイト無機質相、例えばリン酸八カルシウム及び炭酸カルシウムを含有してもよい。
【0003】
虫歯は、齲歯の結果として生じ得、これは、食事由来の糖の代謝によって生成した、細菌性の酸、例えば乳酸が表面下の脱石灰化を引き起こし、糖への曝露の間に十分に再石灰化せず、進行性の組織損失及びついには空洞形成をもたらす多因子病である。プラークバイオフィルムの存在は、齲歯の前提条件であり、酸産生菌、例えばストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)は、糖(すなわち、容易に発酵し得る炭水化物、例えばスクロース)のレベルが長期間高い場合、病原となることがある。
【0004】
プラークバイオフィルムの存在しない状態でさえ、歯の硬組織の損失が酸浸食及び/又は物理的な歯の摩耗の結果として生じる場合があり、これらのプロセスは相乗的に作用すると考えられる。歯の硬組織の酸への曝露は脱石灰化の原因となり、表面軟化及び無機質密度の低下をもたらす場合がある。この軟化した無機質は、物理的接触からの摩耗に脆弱である。通常の生理学的条件の下で、部分的に脱石灰化した組織は、唾液の再石灰化効果によって自己修復する。唾液は、カルシウム及びリン酸塩に関して過飽和していて、健康的な個体においては、唾液の分泌は、酸の負荷を洗い流し、無機質の堆積のために平衡を改変するようにpHを上げる役目をする。
【0005】
歯牙浸食(すなわち酸浸食又は酸摩耗)は、歯の表面の脱石灰化、及び細菌起源でない酸によって究極的には完全溶解を伴う表面現象である。酸は、最も一般的には、食事起源、例えば果物若しくは炭酸飲料からのクエン酸、コーラ飲料からのリン酸、及び酢酸、例えばビネグレット由来のものである。歯牙浸食はまた、無意図的応答、例えば胃食道からの逆流によって、又は過食症の罹患者に見受けられ得るような誘発された応答によって口腔に入り得る、胃によって生成される塩酸(HCl)との接触の繰り返しが原因となることがある。
【0006】
歯の摩耗(すなわち物理的な歯の摩耗)は、摩擦及び/又は擦過が原因となる。歯の表面が互いにこすれる場合、2体摩耗の形で摩擦が生じる。多くの場合の劇的な例は、歯ぎしりにまつわる対象において観察されるものであり、加わる力が大きい睡眠中の歯の摩砕癖であり、特に咬合面で加速される摩耗を特徴とする。典型的には3体摩耗の結果、擦過が生じ、最も一般的な例は、練り歯磨剤を用いてブラシをかけることに付随する。完全に石灰化したエナメル質の場合には、市販の練り歯磨剤が原因となる摩耗のレベルは最小で、臨床的にほとんど又は全く重大ではない。しかしながら、浸食の負荷に曝露されてエナメル質が脱石灰化され、軟化した場合、エナメル質は摩耗により影響されやすくなる。エナメル質は象牙質とのその接合部が最も薄く、健康な場合、ちょうど歯肉縁の下に位置する。しかし、歯肉退縮(特に高齢化に関連する)は、エナメル質-象牙質接合部を露出させることがあり、この領域のエナメル質の摩耗は象牙質を露出させ、下記のように過敏症を引き起こすことがある。
【0007】
象牙質は、通常、生体内で位置に応じて、すなわち歯冠と歯根でそれぞれ、エナメル質又はセメント質で覆われた生体の組織である。象牙質はエナメル質よりはるかに高い有機含有量を有し、その構造は、象牙質-エナメル質又は象牙質-セメント質接合部の表面から歯髄界面に流れる液体で満たされた細管の存在を特徴とする。象牙質はエナメル質よりはるかに柔らかく、結果的に、摩耗により影響されやすい。露出した象牙質を有する対象は、高擦過性の練り歯磨剤の使用を回避するべきである。浸食の負荷による象牙質の軟化は、やはり、摩耗への組織の感受性を増加させる。象牙質過敏症の起源は、露出した細管中の流体の流れの変化に関係があり(流体力学理論)、歯髄界面に接近して位置すると思われる機械受容器の刺激をもたらすことが広く受け入れられている。象牙質は、一般にスミア層(象牙質自体に由来する無機質及びタンパク質で主に構成された閉塞性の混合物、しかしまた唾液からの有機成分も含有する)で覆われているのですべての露出した象牙質が過敏だとは限らない。経時的に、細管の管腔は、石灰化組織で完全に閉塞されるようになり得る。また、歯髄の外傷又は化学的刺激に応じた修復象牙質の形成は文書による十分な裏づけがある。それにもかかわらず、浸食の負荷は、スミア層及び細管「栓」を取り除き、歯液流動を解放して、外部刺激、例えば熱さ、冷たさ及び圧迫に象牙質をはるかに強く影響されやすくすることがある。先に示したように、浸食の負荷によってもまた、象牙質表面は摩耗にはるかに影響されやすくなり得る。さらに、露出した細管の直径が増すにつれて、象牙質過敏症は悪化し、歯髄界面の方向に進むにつれて細管直径が増すので、進行性の象牙質摩耗は、特に象牙質摩耗が迅速である場合、過敏症の増大に帰着する場合がある。
【0008】
したがって、浸食及び/又は酸を媒介とした歯の摩耗は、象牙質過敏症の発生において主要な原因論的な要因である。
【0009】
食事由来の酸の摂取増加、及び決められた食事時間からの逸脱が、先進国の集団において歯牙浸食及び歯の摩耗の発生の上昇と関係していると主張されている。このことを考慮すると、歯牙浸食及び歯の摩耗を予防するのを支援することができ、齲歯から保護することができる口腔ケア組成物は有利である。
【0010】
口腔ケア組成物は、歯の再石灰化を促進し、歯の硬組織の耐酸性を増加させるフッ化物イオンの供給源をしばしば含有する。効果的であるためには、フッ化物イオンは、処置される歯の硬組織への取込みに対して利用可能でなければならない。
【0011】
脱石灰化されたエナメル質は、中性溶液からより酸性溶液からフッ化物を多く取り込むことが観察された(例えば、Friberger、The effect of pH upon fluoride uptake in intact enamel. Scand. J. Dent. Res. (1975) 83:339~344)。Fribergerの研究では、7.1~4.5の範囲の異なるpHの歯磨剤スラリーから及びフッ化ナトリウム溶液からの、インビトロのフッ化物取込みを調べた。pHは、0.1M HCl酸又はNaOHの少量の液滴を用いて調節された。試験は、試剤(すなわち、同じフッ化物濃度のフッ化ナトリウム歯磨剤、フッ化カリウム及び塩化マンガンの歯磨剤、並びにフッ化ナトリウム溶液)間には有意差がないが、pHの影響が著しいことを示した。より低いpHレベルで、フルオロアパタイトの形態のフッ化物の取込みは5倍を超えた。
【0012】
GB 1,018,665(Unilever Ltd)は、弱有機酸及びアルカリ金属塩、例えば酢酸/酢酸ナトリウム、及びリンゴ酸/リンゴ酸ナトリウムを含む水溶性の緩衝系を組み込んだフッ化物歯磨剤について記載し、模擬唾液中で歯磨剤のスラリーのpHは、5~6である。歯磨剤は、中性pHの溶液と比較して、エナメル質溶解性を低減することができることが開示されている。
【0013】
US 2009/0087391A1(Joziak)は、非イオン性、双性イオン性若しくはベタイン界面活性剤又はその混合物からなる群から選択される界面活性剤、及びpHを3~5に調節するのに十分な量の酸性化剤を含む発泡性フッ化物歯科用組成物について記載している。適切な酸性化剤は、有機酸、例えばリンゴ酸、ヒドロコハク酸、クエン酸及び酒石酸又はそれらの混合物である。
【0014】
WO 01/66074(Colgate)は、1つの相がアルカリ性であり、フッ化物イオンを含有し、別の相は酸性であり、リン酸イオンを含有し、使用前に混合すると酸性のリン酸フッ化物組成物(pH4~6)を与える2元系成分の歯磨剤について記載している。酸性pHにおける歯磨剤の送達が歯のエナメル質へのフッ化物イオンの取込みを高めることができると示唆されている。
【0015】
US 4,363,794(Lion Corporation)は、第一スズ塩、例えばフッ化第一スズ、水溶性フッ化物塩、例えばフッ化ナトリウム、並びに経口的に許容される酸、例えばL-アスコルビン酸、乳酸、マロン酸、酒石酸、クエン酸、塩酸及びピロリン酸を含む口腔組成物であって、フッ化物イオンと第一スズイオンとのモル比が水性条件で3.2~7:1、好ましくは3.5~6:1の範囲であり、組成物のpHが2~4の範囲である組成物を開示している。組成物は、齲歯の阻害に優れた効果を示すことが開示されている。US 4,363,794によると、特定のpH領域は、処置されたエナメル質の耐酸性の増大について、及び第一スズイオンの安定性について、効果の増大をもたらす。低いpH(2未満)は、組成物の口腔適用に対して障害となる傾向があるが、4を超えるpHは、しばしば第一スズイオンの利用可能性及び安定性の低減につながる。
【0016】
実質的に中性pHに製剤化されたフッ化物含有歯磨剤の使用もまた、当業界で再石灰化及び歯の強化について記載されている。WO2006/1000071(Glaxo Group Ltd)は、種々の成分の中でも、フッ化物イオン供給源を含み、範囲6.5~7.5のpHを有する歯磨剤組成物を開示している。そのような組成物は、食事由来の酸の負荷から歯を保護する際に使用されるSENSODYNE Pronamel練り歯磨剤として商品化されている。
【0017】
一態様において、本発明は、フッ化物イオンの供給源を含む弱酸性の歯磨剤組成物における本明細書に記載の特定のカルボン酸の組込みが、有利には、中性pHの下で同じ組成物と比較した場合、又は、同じ弱酸性の組成物であるが異なるカルボン酸(例えばリンゴ酸)、又は無機酸(例えばリン酸)を含有する組成物と比較した場合、歯のエナメル質へのフッ化物イオンの取込みを高めるという発見に基づいている。
【0018】
さらなる態様において、本発明は、メチルビニルエーテルと無水マレイン酸又はマレイン酸のコポリマーの組込みが、フッ化物の取込みに不利な影響を与えずに、エナメル質溶解性の低減を有意に増加させるというさらなる利点を提供するという発見に基づいている。
【0019】
口腔ケア組成物中でのメチルビニルエーテル及びマレイン酸に基づくコポリマーの使用は、当業界で公知である。例えば、US 4,485,090は、ポリマー状アニオン性膜形成材料、例えば「Gantrez AN」を含む歯磨剤組成物を開示している。US 4,485,090によると、この材料はそれ自体が歯の表面に付着し、歯に存在するカルシウムと複合体を形成することにより実質的に連続的な障壁をそこに形成する。形成された障壁は、先に適用される治療剤(例えば歯のフッ化物処置)の溶離を実質的に低減し、それによってそのような剤の有効性を延長すると記載されている。US 4,485,090によると、その中の発明の組成物は、溶離の所望の低減及びその結果としての齲食及びプラークの制御を達成するために周期的な適用(例えば1日1回)のみを必要とする。
【0020】
その後出願されたUS2004/0146466(Baigら)は、特定のポリマー状無機質表面活性剤、例えば合成アニオンポリマー(例えばポリアクリレート、及び無水マレイン酸又はマレイン酸とメチルビニルエーテルのコポリマー(例えばGantrez))が、歯のエナメル質表面への強力な親和性を有し、そのようなポリマーはエナメル質表面に層又はコーティングを堆積させることを開示している。ポリマー状無機質表面活性剤の有効量は、口腔組成物全体の、約1重量%~約35重量%、好ましくは約2重量%~約30重量%、より好ましくは約5重量%~約25重量%、最も好ましくは約6重量%~約20重量%の範囲と記載されている。
【0021】
WO2007/069429(Lion Corporation)は、(A)0.3~1.2質量%の、式Mn+2PnO3n+1 (式中、MはNa又はKを表わし、nは整数2又は3である)によって表わされる、少なくとも1種の線形水溶性ポリリン酸塩、(B)0.1質量%~2.0質量%のメチルビニルエーテル/無水マレイン酸コポリマー(25℃及びpH7.0で5~1000mPa.sの粘度を有する2.0質量%水溶液)、(C)0.6~2.0質量%のラウリル硫酸塩、及び(D)0.2~1.0質量%のベタイン型両性界面活性剤を含有し、質量構成比(C)/(D)が1~4の範囲の練り歯磨剤組成物を開示している。そのような組成物は、口腔粘膜への刺激を低くし、使用中好ましい泡立ちを与え、そのうえ、歯の表面への着色の付着の予防に優れた効果があると記載されている。
【0022】
WO2011/094499(Colgate-Palmolive Company)は、メチルビニルエーテル及び無水マレイン酸のコポリマー、例えばGantrez、及び酸性のpHでより可溶性になる金属化合物又は塩を含む抗浸食口腔ケア製剤を開示している。WO2011/094499によると、粘膜付着性ポリマー、例えばGantrezは、成分の0.01~20重量%、好ましくは0.1~10重量%、及び最も好ましくは0.5~7重量%の範囲の量で経口的に許容される媒体に組み込まれてもよい。WO2011/094499に例示された「低ポリマー製剤」及び「高ポリマー製剤」は、Gantrezをそれぞれ0.5重量%及び2.0重量%含む。
【0023】
Ashland Speciality Chemicals(Rev. 02-2015)によって公開されたTechnical Information Sheet、Bulletin VC-862Aは、2%のGantrez S-97ポリマーを含有する練り歯磨剤を用いてエナメル質の前処置をした後、インビトロ試験でエナメル質の優れた耐酸浸食が観察され、Gantrezの存在は、酸浸食の低減において観察された改善の主要な理由であると考えられたことを報告した。
【0024】
WO2015/171836(Procter & Gamble)は、5%の金属イオン、少なくとも0.001%の第一スズイオン及び場合によって約0.001%~約4%の亜鉛イオン;少なくとも約100重量ppmのフッ化物イオン、及びとりわけ無水マレイン酸又はマレイン酸とメチルビニルエーテルのコポリマーから選択される少なくとも約0.03重量%の無機質表面活性剤;少なくとも5%の水;10重量%未満の溶融シリカ、カルシウム系研磨剤及びそれらの混合物、5%未満のn+3以上を有するポリリン酸塩を含有する口腔ケア組成物について記載し、金属イオンの合計(第一スズ、場合によって亜鉛)重量比は、0.5以下である。WO2015/171836は、合計金属イオンと選択された群の無機質表面活性剤との比の平衡を適切に保つことによって、フッ化物取込みが改善され、口腔ケアの「スイートスポット」に到達するために必要な特定の効果(抗菌性効能、フッ化物取込み、脱石灰化及び着色の低減)を1つの組成物で達成することができることを開示している。WO2015/171836によると、その中に記載の組成物は、過剰に堆積した場合、フッ化物取込み及び表面下の歯の病変の再石灰化に負の影響を与える表面保護剤の堆積の制御により、再石灰化増強及び脱石灰化阻害の効果を与える。緩衝剤の包含は任意であり、口腔組成物は、典型的には約4~約7、好ましくは約4.5~約6.5、及びより好ましくは約5~約6のpHを有する。WO2015/171836は、Gantrezの包含はNaF含有処方からのフッ化物取込みに影響を与えないことを開示している。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0025】
一態様において、本発明は、マロン酸、グルタル酸、酒石酸、乳酸及びそれらの混合物からなる群から選択されるカルボン酸又はそのアルカリ金属塩、及び遊離フッ化物イオンの供給源を含む歯磨剤組成物であって、5.0を超え6.5未満の範囲のスラリーpHを有する、歯磨剤組成物を提供する。
【0026】
さらなる態様において、本発明は、マロン酸、グルタル酸、酒石酸、乳酸及びそれらの混合物からなる群から選択されるカルボン酸又はそのアルカリ金属塩、遊離フッ化物イオンの供給源、及びメチルビニルエーテルと無水マレイン酸又はマレイン酸のコポリマーを含む歯磨剤組成物であって、5.0を超え6.5未満の範囲のスラリーpHを有する、歯磨剤組成物を提供する。
【0027】
そのような組成物は、歯牙浸食から歯を保護することに役に立つ。そのような組成物は、また齲歯から歯を保護することに役に立つ。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】マロン酸及びpHのEFUに対する効果を示す図である。
図2】マロン酸及びクエン酸(pH5.50で)のEFUに対する効果を示す図である。
図3】マロン酸及びpHのEFUに対する効果を示す図である。
図4】特定のカルボン酸及びリン酸のEFUに対する効果を示す図である。
図5】乳酸及びpHのEFUに対する効果を示す図である。
図6】PVM/MA(pH6.2)のEFUに対する効果を示す図である。
図7】PVM/MA(pH6.2)のESRに対する効果を示す図である。
図8】4時間再石灰化後のSMHRのまとめを示す図である。
図9】4時間再石灰化後の平均%RERのまとめを示す図である。
図10】4時間再石灰化のEFUのまとめを示す図である。
図11】ヒトエナメル質の歯磨剤を用いる処置、続いて浸食負荷の後の組織損失データを示す図である。
図12】50μm深さにわたる平均フッ化物取込みの変化を示す図である。
図13】20μm深さにわたる平均相対的44Ca取込みを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明による組成物は、マロン酸、グルタル酸、酒石酸、乳酸及びそれらの混合物からなる群から選択されるカルボン酸又はそのアルカリ金属塩を含む。一実施形態において、カルボン酸は乳酸又はそのアルカリ金属塩である。適切なアルカリ金属塩の典型例は、前記カルボン酸のナトリウム及びカリウム塩を含む。一実施形態において、アルカリ金属塩は、マロン酸、グルタル酸、酒石酸、乳酸及びそれらの混合物のカリウム塩である。一実施形態において、アルカリ金属塩は、マロン酸、グルタル酸、酒石酸、乳酸及びそれらの混合物のナトリウム塩から選択される。一実施形態において、カルボン酸塩は乳酸カリウムである。一実施形態において、カルボン酸塩は乳酸ナトリウムである。
【0030】
カルボン酸又は塩は、固体又は水溶液、例えば乳酸ナトリウム溶液(60%w/w)の形態で用意されてもよい。
【0031】
適切には、カルボン酸又はそのアルカリ金属塩は、組成物全体の0.5重量%~5.0重量%、例えば組成物全体の1.0重量%~4.5重量%、又は1.5%~3.0重量%の量で存在する。好ましい量は、2.0重量%の酸又は2.5重量%の塩である。
【0032】
本発明による組成物は、遊離フッ化物イオンの供給源を含む。遊離フッ化物イオンの供給源の適切な例は、25~5000ppm、好ましくは100~1500ppmのフッ化物イオンを与える量のアルカリ金属フッ化物、例えばフッ化ナトリウム又はフッ化カリウム、多価金属イオンフッ化物塩、例えばフッ化第一スズ、又はフッ化物とカチオン性有機イオンの塩、例えばフッ化アンモニウム若しくはビス-(ヒドロキシエチル)アミノ-プロピル-N-ヒドロキシエチルオクタデシルアミン-ジヒドロフルオリド、(アミンフッ化物)又はその混合物を含む。一実施形態において、遊離フッ化物イオンの供給源はフッ化第一スズである。一実施形態において、遊離フッ化物イオンの供給源はフッ化第一スズではない。一実施形態において、遊離フッ化物イオンの供給源は、アルカリ金属フッ化物、例えばフッ化ナトリウムである。適切には、組成物は、フッ化ナトリウムを0.05重量%~0.5重量%、例えば0.1重量%(450ppmのフッ化物イオンと等しい)、0.205重量%(927ppmのフッ化物イオンと等しい)、0.2542重量%(1150ppmのフッ化物イオンと等しい)又は0.3152重量%(1426ppmのフッ化物イオンと等しい)含む。
【0033】
本発明による組成物は、弱酸性であり、すなわち、5.0を超え6.5未満までの、例えばpH5.1~6.4、5.4~6.3、又は5.5~6.2の範囲のスラリーpHを有する。言及されるpHは、歯磨剤組成物を、組成物と水との1:3重量比の水を用いてスラリー化した場合に測定されたものである。適切には、スラリーは、1部の歯磨剤組成物と3部の蒸留水の重量比で、水で歯磨剤組成物をスラリー化することにより調製される。pHは標準pH計を使用して求められる。
【0034】
適切には、本発明の歯磨剤組成物は、組成物のpHを所望のpHに調節するためのpH調整剤を含む。適切なpH調整剤は、アルカリ金属水酸化物、例えば水酸化ナトリウム及び水酸化カリウム、又は無機酸、例えば塩酸又は硫酸を含む。一実施形態において、pH調整剤は、水酸化ナトリウムである。pH調整剤は、組成物の0.005重量%~5重量%の量、例えば組成物の0.01重量%~2重量%又は0.02重量%~1重量%の量で使用されてもよい。
【0035】
一態様において、本発明による組成物は、メチルビニルエーテル(MVE)と無水マレイン酸又はマレイン酸のコポリマーである表面保護剤を含む。一実施形態において、表面保護剤はMVEとマレイン酸のコポリマーである。一般に、コポリマーは、MVE及び無水マレイン酸又はマレイン酸の交互の単位を含む線状コポリマーである。一実施形態において、コポリマーは、1:4~4:1の比のMVE:無水マレイン酸又はマレイン酸、例えば1:1の比のMVE:無水マレイン酸又はマレイン酸(すなわち、MVEの含有量が約50モル%であり、無水マレイン酸又はマレイン酸の含有量が約50モル%である)を含む。一実施形態において、コポリマーは、無水物が、例えば共重合の後、完全に又は部分的に加水分解されて対応する酸を与える、MVEと無水マレイン酸のコポリマーの酸形態である。一実施形態において、コポリマーは、100,000~2,000,000、例えば、500,000~1,900,000又は1,000,000~1,800,000の範囲の分子量を有する。適切には、本発明で使用されるコポリマーは、商品名GANTREZ(登録商標)、例えばGANTREZ(登録商標)S-97 HSU溶液(Mw 1,500,000)、GANTREZ(登録商標)S-97 BF(Mw 1,200,000)、GANTREZ(登録商標)S-96(Mw 700,000)及びGANTREZ(登録商標)S-95(Mw 150,000)の下で市販されており、それらはすべてMVEとマレイン酸のコポリマーである。一実施形態において、コポリマーは、1,200,000又は1,500,000のおよその分子量を有する、MVEとマレイン酸のコポリマーであるGANTREZ(登録商標)S-97である。
【0036】
GANTREZ(登録商標)S-97は、固体(粉末)の形態で又は液体、例えば水溶液、例えばGANTREZ(登録商標)S-97 HSU溶液として用意されてもよい。一実施形態において、コポリマーは、以下の構造、及び以下に示された性質を有するGANTREZ(登録商標)ポリマーを含む。
【0037】
【化1】
pKa1=3.5、pKa2=6.5を有する二塩基酸
【0038】
【表1】
【0039】
適切には、コポリマーの流動学的性質は、塩及び塩基の添加によって修正することができる。GANTREZ(登録商標)コポリマーは、Ashland Speciality Chemicals、Bound Brook、N.J. 08805、USA及びInternational Specialty Products、Wayne、NJ、USA.を含む様々な供給源から市販されている。
【0040】
組成物が、表面保護剤(すなわち、上記に規定される本発明において使用されるコポリマー)を含む場合、高いフッ素添加の効果を達成する歯磨剤組成物を提供することは難問である。これは、典型的にはフッ素添加を起こす剤による歯の表面部位の表面被覆のためである。有利なことに、本発明において、コポリマーは、歯のエナメル質へのフッ化物の送達の際に不利な影響を与えることなく、フッ化物イオンの供給源と組み合わせることができる。今ここで、思いがけず、少量のコポリマーが、フッ化物取込みに著しく負の影響を与えることなく、エナメル質溶解性低減に関して改善をもたらすことが発見された。したがって、存在する場合、コポリマーは、組成物の0.05重量%~2重量%、例えば組成物の0.1重量%~1重量%、0.15重量%~0.5重量%、又は0.2重量%~0.4重量%の量で使用される。一実施形態において、コポリマーは組成物の約0.25重量%の量で使用される。驚いたことに、本明細書において報告されるインビトロ試験で、少量(0.2重量%~0.3重量%、本明細書の例示では約0.25重量%)のコポリマーが使用される場合、フッ化物取込みに悪影響を及ぼさずに、脱石灰化の阻害に関して著しい改善が観察され得ることが見出された。これらの発見は、約0.25重量%のメチルビニルエーテル-マレイン酸コポリマーを含む本発明による組成物が、フッ化物取込み、再石灰化増強及び脱石灰化阻害に関して、試験した他のすべての歯磨剤組成物より優れていることがわかったという、本明細書においても報告されるインサイチュー浸食試験の結果によって、さらに支持されている。一実施形態において、コポリマーは組成物の約0.25重量%の量で使用され、組成物は約6.2のスラリーpHを有する。
【0041】
一実施形態において、本発明の組成物は第一スズイオン及び/又は亜鉛イオンを含まない。例えば、一実施形態において、本発明の組成物は、少なくとも0.001%の第一スズイオン、及び場合によって約0.001%~約4%の亜鉛イオンを含む、約0.001%~約5%の金属イオンを含まない。一実施形態において、組成物は、酸性のpHで、より可溶性になる金属化合物又は塩を含まない。一実施形態において、組成物はカルシウム若しくは亜鉛の化合物又は塩を含まない。
【0042】
本発明の組成物は、好適な製剤化剤、例えば口腔ケア組成物技術においてそのような目的に対して通常使用されるものから選択される歯科用研磨剤、界面活性剤、増粘剤、湿潤剤、香味剤、甘味剤、不透明化剤又は着色剤、防腐剤及び水を含有していてもよい。
【0043】
適切な歯科用研磨剤の例は、シリカ研磨剤、例えばHuber、Degussa、Ineos及びRhodiaによって以下の商品名、Zeodent、Sident、Sorbosil又はTixosilの下でそれぞれ市販されているものを含む。シリカ研磨剤は、歯の擦過を促進しないで歯磨剤によって歯の適切な清浄化を保証するのに十分な量で存在しなければならない。
【0044】
シリカ研磨剤は、一般に組成物全体の15重量%までの量で、例えば、組成物全体の2重量%~10重量%、及び好ましくは少なくとも5重量%、例えば5重量%~7重量%、特に6重量%の量で存在する。シリカ研磨剤のレベルを低減することは、歯磨剤の研磨性を下げることだけでなく、フッ化物イオンとの研磨剤の何らかの相互作用をも最小限にし、それによって遊離フッ化物イオンの利用可能性を増すという利点を有する。
【0045】
本発明で使用される適切な界面活性剤は、両性界面活性剤、例えば、長鎖アルキルベタイン、例えばAlbright & Wilsonによって商品名「Empigen BB」の下で市販されている製品、好ましくは長鎖アルキルアミドアルキルベタイン、例えばコカミドプロピルベタイン、又は低イオン性界面活性剤、例えばCrodaによって商品名Adinol CTの下で市販されているヤシ油脂肪酸メチルタウリンナトリウム、又はその混合物を含む。両性界面活性剤は、単一界面活性剤として単独で使用することができ、又は、低イオン性界面活性剤と組み合わせることができる。一実施形態において、界面活性剤は、C10~18アルキル硫酸塩界面活性剤、例えば一般に口腔組成物に使用されるラウリル硫酸ナトリウムではない。
【0046】
適切には、界面活性剤は、組成物全体の0.1重量%~10重量%、好ましくは0.1重量%~5重量%、及びより好ましくは0.5重量%~1.5重量%の範囲で存在する。
【0047】
適切な増粘剤は、例えば、非イオン性増粘剤、例えば、(C1-6)アルキルセルロースエーテル、例えばメチルセルロース;ヒドロキシ(C1-6)アルキルセルロースエーテル、例えばヒドロキシエチルセルロース、及びヒドロキシプロピルセルロース;(C2-6)アルキレンオキシド修飾(C1-6)アルキルセルロースエーテル、例えばヒドロキシプロピルメチルセルロース;及びそれらの混合物を含む。他の増粘剤、例えば天然及び合成ゴム又はゴム様材料、例えばトチャカ、キサンタンガム、トラガカントゴム、ナトリウムカルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、デンプン及び増粘シリカも使用されてもよい。好ましくは、増粘剤は増粘シリカ及びキサンタンガムの混合物である。
【0048】
有利なことに、増粘剤は、組成物全体の0.1重量%~30重量%、好ましくは1重量%~20重量%、より好ましくは5重量%~15重量%の範囲で存在する。
【0049】
本発明の組成物で使用される適切な湿潤剤は例えば、グリセリン、キシリトール、ソルビトール、プロピレングリコール若しくはポリエチレングリコール、又はその混合物を含み、組成物全体の10重量%~80重量%、好ましくは20重量%~60重量%、より好ましくは25重量%~50重量%の範囲で存在してもよい。
【0050】
好ましい不透明化剤は、二酸化チタンであり、組成物全体の0.05重量%~2重量%、好ましくは0.075重量%~0.2重量%、例えば0.1重量%の範囲で存在してもよい。この量は、組成物の外観を高める。
【0051】
本発明の組成物において使用されてもよい香味剤は、様々な香味アルデヒド、エステル、アルコール、及び同様の材料、並びにメントール、カルボン及びアネトール、並びにその混合物を含む。精油の例は、スペアミント、ペパーミント、ウィンターグリーン、サッサフラス、クローブ、セージ、ユーカリ、マジョラム、シナモン、レモン、ライム、グレープフルーツ及びオレンジを含む。適切には、香味剤は、組成物の0.01重量%~4重量%、例えば0.1重量%~3重量%又は0.5重量%~2重量%の範囲の量で使用されてもよい。
【0052】
本発明の組成物において使用されてもよい甘味剤は、例えば、スクロース、グルコース、サッカリン、スクラロース、デキストロース、レブロース、ラクトース、マンニトール、ソルビトール、フルクトース、マルトース、キシリトール、サッカリン塩(例えばサッカリンナトリウム)アセスルファム及びそれらの混合物を含む。一実施形態において、サッカリンナトリウムが甘味剤として使用される。適切には、甘味剤は、組成物の0.005重量%~10重量%、例えば0.01重量%~3重量%又は0.1重量%~1重量%の範囲の量で使用されてもよい。
【0053】
適切には、本発明の歯磨剤組成物は水性の歯磨剤組成物である。水が、歯磨剤組成物の残部を構成してもよい。一実施形態において、組成物は5重量%~80重量%、例えば10重量%~60重量%、15重量%~40重量%又は20重量%~30重量%の水を含む。水のこの量は、添加される遊離水、及び歯磨剤組成物の他の成分、例えばソルビトールとともに導入される量を含む。
【0054】
本発明の歯磨剤組成物は典型的には練り歯磨剤又はゲル剤の形態で製剤化される。
【0055】
追加の口腔ケア有効成分が本発明の組成物中に含まれてもよい。
【0056】
本発明の組成物は、象牙質過敏症に効果がある減感剤をさらに含んでもよい。減感剤の例は、例えばWO 02/15809に記載のような、細管遮断薬又は神経減感剤及びその混合物を含む。
【0057】
適切な細管遮断薬は、ストロンチウム塩、例えば塩化ストロンチウム、酢酸ストロンチウム又は硝酸ストロンチウムを含む。適切には、ストロンチウム塩は、一般に組成物の5重量%~15重量%の量で使用される。
【0058】
一実施形態において、細管遮断薬はアルギニン炭酸カルシウム塩である。適切には、アルギニン塩は、組成物の0.5重量%~30重量%、例えば組成物の1重量%~10重量%、又は組成物の1重量%~10重量%、例えば組成物の2重量%~8重量%の範囲の量で存在する。
【0059】
一実施形態において、細管遮断薬は生体活性ガラスである。適切には、生体活性ガラスは、45重量%の二酸化ケイ素、24.5重量%の酸化ナトリウム、6重量%の酸化リン及び24.5重量%の酸化カルシウムからなる。そのような1種の生体活性ガラスは、45S5 BIOGLASSとしても知られる商品名、NOVAMINの下で市販されている。適切には、生体活性ガラスは、一般に組成物の1重量%~10重量%の量で使用される。
【0060】
一実施形態において、細管遮断薬はフッ化第一スズである。フッ化第一スズは、加水分解及び酸化反応によって不溶性金属塩を形成し、象牙質細管中及び象牙質表面で析出して象牙質過敏症を効果的に軽減する。フッ化第一スズはまた、齲食及びプラーク/歯肉炎からの保護を達成することができるフッ化物の供給源を与えるために使用されてもよい。
【0061】
適切な神経減感剤は、カリウム塩、例えばクエン酸カリウム、塩化カリウム、重炭酸カリウム、グルコン酸カリウム、及び特に硝酸カリウムを含む。感度を減じる量のカリウム塩は、一般に組成物全体の2~8重量%の間にあり、例えば、5重量%の硝酸カリウムを使用することができる。
【0062】
本発明の組成物は、例えば、ポリリン酸塩から選択される美白剤、例えば、トリポリリン酸ナトリウム(STP)を含んでもよく、及び/又は、存在する任意の追加のシリカ研磨剤は、高度な清浄性を有していてもよい。STPは、組成物全体の2重量%~15重量%、例えば5重量%~10重量%の量で存在してもよい。
【0063】
本発明の組成物は口臭剤、例えば亜鉛塩、例えば酸化亜鉛、又は塩化亜鉛を含んでもよい。
【0064】
本発明の組成物は、通常当業界で使用されるような、アルミニウム-プラスチック積層チューブ又はプラスチックポンプに格納し分注するのに適している。
【0065】
本発明の組成物は、都合のよい任意の順序で好適な相対量の成分を混合すること、及びpHを調節して所望の値を得ることによって調製されてもよい。
【0066】
本発明による例示的な歯磨剤組成物は、0.5%~5.0%の量の乳酸のアルカリ金属塩、例えば乳酸ナトリウム、0.05%~0.5%の量の遊離フッ化物イオンの供給源、例えばフッ化ナトリウム、0.05%~2%の量のMVEと無水マレイン酸又はマレイン酸のコポリマー、例えばGANTREZ(登録商標)S-97を含み、組成物は5.0を超え6.5未満までの範囲のスラリーpHを有する。
【0067】
本発明は歯牙浸食から歯を保護することに使用するための上文に規定される組成物を提供する。本発明はさらに、齲歯から歯を保護することに使用するための上文に規定される組成物を提供する。
【0068】
本発明は、歯の表面の歯牙浸食の処置及び/又は阻害に使用するための上文に規定される組成物を提供する。本発明は、歯の表面の齲蝕の処置及び/又は阻害に使用するための上文に規定される組成物を提供する。
【0069】
本発明は、また有効量の上文に規定される組成物をそれを必要とする個体に適用することを含む、歯牙浸食から歯を保護する方法を提供する。本発明は、また、有効量の上文に規定される組成物をそれを必要とする個体に適用することを含む、齲歯から歯を保護する方法を提供する。
【0070】
本発明は、歯の表面を上文に規定される組成物と接触させることを含む、歯の表面の歯牙浸食を処置及び/又は阻害する方法を提供する。
【0071】
本発明は、歯の表面を上文に規定される組成物と接触させることを含む、歯の表面の齲歯を処置及び/又は阻害する方法を提供する。本発明は、以下の実施例によってさらに説明される。
【実施例
【0072】
[実施例1]
表1に記載したように歯磨剤組成物(製剤I)を以下のように調製した:
適切な容器に、精製水、ソルビトール及びグリセリンを添加した。次いで、水酸化ナトリウム、乳酸ナトリウム溶液、サッカリンナトリウム、フッ化ナトリウム、硝酸カリウム、Gantrez、二酸化チタン、及び香味料の20%を添加し、固形分が溶けるまで高剪断で混合した。次いで真空下で混合しながら、歯科用シリカを添加し、濡れるまで混合した。コカミドプロピルベタイン溶液及び香味料の残りの80%を添加し混合した。別に、プレミックス容器中で、キサンタンガムをポリエチレングリコールのおよそ95%と混合してスラリーを形成した。真空下で、高剪断の下で混合しながら主容器にこのスラリーを添加した。プレミックス容器にポリエチレングリコールの残りを添加し、得られた混合物を主容器に流し入れた。得られたペーストを真空下で均質になるまで混合し、次いで、適切なチューブに移した。
【0073】
【表2】
【0074】
[実施例2]
エナメル質フッ化物取込み(EFU)
この実施例は、本発明の歯磨剤組成物について行ったエナメル質フッ化物取込み試験を説明する。
【0075】
歯磨剤組成物の調製
表2に示すような組成の詳細を有する製剤2~4を調製した。
【0076】
【表3】
【0077】
歯磨剤スラリーの調製
製剤2~4を使用して、歯磨剤スラリーを調製した。3部の希釈剤と混合した1部のペースト(製剤2、3又は4)で構成されるスラリーを調製した。希釈剤は2部の酸溶液及び1部の水からなっていた。「対照」として、酸溶液を水と置き換えた。スラリーの合計量は、すべての場合で36gであり、したがって、スラリー全体の組成は、9gのペースト:18gの酸溶液:9gの水からなっていた。ペーストが成分をすべて含有するかのように、適切な構成を有する共通ベースからのスラリーの生成を可能にするために、この手法をとった。例えば、製剤3が2%のマロン酸を含有し、水のみと混合した場合、最終スラリー中の濃度は0.5%になる(9gのペースト+27gの水、4倍の稀釈)。1%のマロン酸溶液18gを、マロン酸を含まないベースペースト9gに9gの水を加えたものに添加すると、これもまた0.5%の最終スラリー中の濃度になる(マロン酸18gと、ペースト及び水の合計18g、マロン酸溶液の2倍希釈)。次いで、得られたスラリーを10,000rpm(約16,000g)で10分間遠心分離にかけた。以下の表3にスラリーの組成の詳細及びそれぞれのpH値を示す。
【0078】
【表4】
【0079】
方法
EFUテスト手順は、米国食品医薬品局(FDA)試験手順に記載の手順40を基準にした。本件において、ヒドロキシアパタイトで50%飽和した0.2%w/vポリアクリル酸(Carbopol 907)を含有する0.1M乳酸pH5.0を使用して、初期病変を形成した。
【0080】
健康な上側中央のウシ門歯の、付着した軟質組織をすべて清浄した。流水下で中空コアのダイヤモンドドリルビットを使用して、各歯から直径3mmのエナメル質のコアを調製した。メタクリル酸メチルを使用して、プレキシグラスロッドの端部に試験片を埋め込み、600番砂粒耐水サンドペーパー(600 grit wet/dry paper)、次いで微細ガンマアルミナを用いて研磨した。試験では1つの群当たり12の試験片を使用した。
【0081】
連続的にかき混ぜながら1M過塩素酸(HCl04)溶液0.5mlへ15秒間浸漬することによって、各エナメル質試験片をエッチングした。
【0082】
フッ化物電極の使用によりこの溶液のフッ化物含有量を求めて、エナメル質試験片のバックグラウンドのフッ化物含有量を求めた。
【0083】
試験片をもう一度砕き、上に記載のように研磨した。0.1M乳酸/0.2%Carbopol 907溶液へ37℃で24時間浸漬することによって、初期病変を各エナメル質試験片に形成した。これらの試験片を水ですすぎ、使用するまで湿度の高い環境に保管した。
【0084】
特定のスラリーのpHを、1M塩酸又は1M水酸化ナトリウムを滴下添加して調整し、表3で明示した所望のpHを達成した。30分間一定の撹拌(350rpm)をしながら、試験片を、割り当てたスラリーの上澄み25mlに浸漬した。処置後、試験片は水を用いてすすいだ。上記のようにエッチングすることにより各試験片からエナメル質の1つの層を除去した。エッチング溶液を、フッ化物(イオン特異性電極)及びカルシウムについて分析した。次いで、後処置値から各試験片の前処置フッ化物(固有)レベルを差し引いて試験処置によるエナメル質フッ化物の変化を求めた。
【0085】
統計的分析
一元配置分散分析モデルを用いて個々の平均値の統計的分析を行った。スチューデント・ニューマン・クールズ検定によって、差異の有意性を分析した。
【0086】
結果
以下の表4(平均EFU±平均値の標準誤差)及び図1~3に試験の結果を示す。
【0087】
【表5】
【0088】
図1において、5%の有意水準で、処置はすべて、互いに統計的に有意差があった。マロン酸を含む中性pHで適度な効果が観察され、カルボン酸を添加せずに1M HClの滴下添加によってpHをpH5.5に低減することにより、少し大きな効果が観察された。pH5.5とカルボン酸の2つを組み合わせることによって、どちらか単独より実質的に大きな効果が観察され、pHを低減することと、特定のカルボン酸を添加することの予期しない相乗作用が示された。
【0089】
図2において、pH5.5で2%のマロン酸の効果は、pH5.5で2%のクエン酸の効果よりはるかに大きく、使用する酸の性質への予期しない依存性が示された。
【0090】
図3において、pH5.5に到達するまで、pHが低下するにつれて、EFUは上昇した。pH5.5をpH5.25に下げることによるEFUのさらなる増加はなかった。
【0091】
結論
pHをpH5.5に下げて、2%のカルボン酸のマロン酸を添加することにより、EFUに対する相乗的な効果が観察された。2%のカルボン酸のEFUに対する最大の効果は、マロン酸についてpH5.5で観察され、この値未満では、EFUは増加しなかった。これらの条件でマロン酸を含むことによるEFUの上昇は、クエン酸を含むことによる上昇よりはるかに大きかった。
【0092】
[実施例3]
エナメル質フッ化物取込み(EFU)
この実施例は、本発明の歯磨剤組成物について行ったエナメル質フッ化物取込みの試験を説明する。
【0093】
歯磨剤組成物(製剤5~11)を調製し(下記の表5を参照)、上記の実施例2に記載のようにEFUを求めた。表6及び図4に結果を示す。
【0094】
【表6】
【0095】
結果
【0096】
【表7】
【0097】
5%の有意水準で、pH5.5で添加した酸を用いる処置はすべて、pH7.2で酸を含まない練り歯磨剤より統計的に有意に大きなEFU値を有していた。2%の乳酸製品は、他のすべての処置より優れ、2%の酒石酸製品がそれに続いた。
【0098】
リン酸の例及びリンゴ酸の例についてのEFU値は、本発明において使用したカルボン酸を用いて観察されたものより有意に低かった。
【0099】
結論
pH5.5で2%w/wで練り歯磨剤に添加した場合、異なる酸はEFUに実質的に異なる効果を示した。乳酸は、試験したものの中で最も効果的であった。フッ化物取込みに関する著しい効果は、酸性のpH(5.5)に歯磨剤組成物を製剤化することによってのみ達成されるのではなく、任意のカルボン酸を使用することによってのみ達成されるのでもないことを、この試験による結果は示す。リン酸及びリンゴ酸を用いて観察された結果は、本発明において使用したカルボン酸を用いて観察されたものと比較して、それほど著しく印象的ではなかった。
【0100】
[実施例4]
エナメル質フッ化物取込み(EFU)
下記の歯磨剤組成物製剤12~14(表7を参照)を調製し、上記の実施例2に記載のようにEFUを求めた。表8及び図5に結果を示す。
【0101】
【表8】
【0102】
結果
【0103】
【表9】
【0104】
結論
製剤14はフッ化物対照製剤より優れていた。フッ化物含有製剤の両方は、フッ化物を含まない対照製剤より優れていた。
【0105】
[実施例5]
EFU試験
下記の歯磨剤組成物製剤15~21(表9を参照)を調製し、上記の実施例2に記載のようにEFUを求めた。表10及び図6に結果を示す。
【0106】
【表10】
【0107】
結果
【0108】
【表11】
【0109】
5%の有意水準で、すべてのフッ化物含有製剤は、フッ化物を含まない偽薬より統計的に有意に高かった。0.25%のPVM/MAコポリマーを含有する製剤(製剤19)は、試験した他のすべての製剤より統計的に有意に優れていた。他の製剤間に有意差はなかった。
【0110】
結論
フッ化物含有製剤はすべてフッ化物を含まない偽薬より優れていた。
【0111】
しかしながら、0.25%のポリマーの使用がEFUに対して驚くほど有利であったことを示唆する証拠があった。
【0112】
[実施例6]
エナメル質溶解性低減試験
表10の上記の歯磨剤組成物製剤15~21を調製し、下記のようにESRを求めた。表11及び図7に結果を示す。
【0113】
歯の調製
3本の健康なヒト臼歯をエナメル質表面のみが露出するようにワックス中に置き、次いで、清浄し、研磨した。それぞれ3本の歯の12組を試験のために用意した。
【0114】
乳酸塩緩衝液の調製
pH4.5に緩衝した0.1M乳酸溶液を調製した。
【0115】
脱保護
歯の表面を、0.1M乳酸塩緩衝液中室温で1時間を2期エッチングし、次いで、水を用いてよくすすいだ。
【0116】
前処置エッチング
インキュベーター中で予備加熱(37℃)した歯の組及び乳酸塩緩衝液を使用して、試験を行なった。酸で前処置した歯の組は、溶融ワックスを用いてアクリル棒の端部に載せた。各容器蓋に小さな穴を空けて歯の組を載せたプラスチック棒を収容した。0.1M乳酸緩衝液の40ml部分を各容器に入れた。第1の歯の組の棒を蓋の穴に押し込み、第1の容器中に置き、エナメル質表面がすべて乳酸溶液へ浸漬するように調節した。緩衝した乳酸塩溶液への15分間の撹拌した曝露の後、容器から歯の組を取り出し、水中ですすいだ。乳酸塩緩衝液を保持し、リンについて分析した。次いで、処置工程のために37℃の水浴中に歯の組を戻した。
【0117】
処置
歯の組をすべて同時に処置した(各製品につき1つ)。処置手順は、酸の代わりの歯磨剤スラリー以外は、エッチング手順と同様であった。各容器に予備加熱した歯磨剤スラリーの30mlの部分を添加し、次いで、歯を歯磨剤スラリー中に浸漬し、5分間撹拌した。他の歯磨剤スラリーと同様の方法で他の歯の組を処置した。処置の終わりに、歯の組を取り出し、水を用いてよくすすいだ。
【0118】
後処置
第2の乳酸曝露は、歯磨剤処置した試料について前処置エッチングと同じ方法によって行い、リンについて処置溶液を分析した。Klett-Summerson Photelectric Colorimeterを使用して、リンについて前処置及び後処置溶液を分析した。
【0119】
歯の組はもう一度エッチングし、各歯の組を各歯磨剤を用いて処置するために、手順をさらなる回数繰り返した。処置順序の変動を保証するためにラテン方格法で処置を割り付けた。
【0120】
E.S.R.の計算
エナメル質溶解性低減のパーセントを、前及び後酸性溶液中のリンの量の差を前酸性溶液中のリンの量で割り100を掛けて計算した。
【0121】
結果
【0122】
【表12】
【0123】
結果
フッ化物含有歯磨剤はすべてフッ化物を含まない偽薬より統計的に優れたESR値を与えた。PVM/MAコポリマー含有量に対して明瞭な用量応答が、0%から0.25%の間で観察された。およそ15%のESRの増加が、0.25%PVM/MAコポリマーの存在により観察された。0.25%を超えると、少なくとも1%までのPVM/MAコポリマーで、それ以上のESRの増加は観察されなかった。
【0124】
結論
0.25%までのPVM/MAコポリマーの添加は、エナメル質溶解性低減において著しい増加をもたらした。より高レベルのコポリマーの添加についてそれ以上の増加は認められなかった。
【0125】
[実施例7]
序論
試験製剤の有効性を評価するために、フッ化物を含まない偽薬対照、及び、またエナメル質浸食に適応される比較品練り歯磨剤に対する試験製剤の有効性を比較するために臨床的インサイチュー試験を行った。ここで用いた試験企画は、酸で軟化したエナメル質の再石灰化における製剤の性能を調べるために以前に広範囲に使用されている[Creeth、2018; Zero、2006; Barlow、2009; Creeth、2015]。
【0126】
2017年9月28日にthe ClinicalTrials.govウェブサイトに試験用プロトコールが投稿された (Clinicaltrials.gov (Identifier: NCT03296072))。
【0127】
製剤
試験製剤、製剤1は実施例1に記載されている。フッ化物を含まない偽薬は、試験と同じtreatment visit処方であるが、フッ化物は水と置き換え、比較品練り歯磨剤はCrest ProHealth Sensitivity及びEnamel Shieldであった。
【0128】
試験詳細
この試験は、歯磨剤の再石灰化能を試験する、単一施設での、対照を用いる、単純盲検の(歯の検査員及び試験片解析者について)、無作為化、3つの処置、3つの期間、交差するインサイチュー企画であった。処置は1回行い、適用の2及び4時間後に評価した。2日間の洗い流し相(フッ化物を含まない歯磨剤を使用)を各処置が訪れるより前に実行した。
【0129】
この試験において、口中で8つのエナメル質試験片を口蓋で保持することができる口腔内用具を対象に装着した。ウシの永久切歯からエナメル質試験片を切断し、鏡面仕上げに連続的に研磨した。25分間グレープフルーツジュースと接触させることによりインビトロで、試験片を脱石灰化した。次いで、試験片を口腔内装具に載せ、試験期間の間対象に着用させた。練り歯磨剤処置で歯の頬面に25秒間ブラシをかけ、次いで、得られたスラリーで口付近を95秒間洗浄し、吐き出し、水ですすいだ。処置の2時間後に装具から4つのエナメル質試験片を取り出し、処置の4時間後に残りの4つの試験片を取り出した。次いでエナメル質は、グレープフルーツジュースに、インビトロで2回目の浸漬をした。
【0130】
Knoop微小圧子を使用して、エナメル質表面の微小硬度を測定することによって、生じた再石灰化の量を求めた。押込みは、グレープフルーツジュースとの接触前の健康なエナメル質、口中の挿入前、2時間又は4時間の再石灰化期間後、及び2回目のグレープフルーツジュースの負荷の後に行った。押込みの長さを使用して、表面微小硬度回復率(%SMHR)及び相対的耐浸食性率(%RER)を計算した。
% SMHR = [(E1-R) / (E1-B)]×100 [Gelhard、1979から]
% RER = [(E1-E2) / (E1-B)]×100 [Corpron、1986から]
ここで、B=基準線での健康なエナメル質の押込み長さ(μm)、E1=最初のグレープフルーツジュースの負荷後の押込み長さ(μm)、R=インサイチュー再石灰化後の押込み長さ(μm)、及びE2=2回目のグレープフルーツジュースの負荷後の押込み長さ(μm)である。
【0131】
再石灰化された病変に取り込まれたフッ化物の量(エナメル質フッ化物取込み(EFU))を、エナメル質試験片を口から取り出した後であるが、2回目のグレープフルーツジュースの負荷より前に化学的に求めた(Sakab [Sakkab 1984]の方法を使用)。
【0132】
結果
図8~10に結果を示す。試験練り歯磨剤は、偽薬対照又は比較品練り歯磨剤のいずれよりも統計的に有意に大きな再石灰化(%SMHRによって示されるように)を示した。試験練り歯磨剤はまた、偽薬又は比較品練り歯磨剤のいずれよりも脱石灰化(%RERによって示されるように)の統計的に優れた防止を示した。さらに、試験練り歯磨剤を用いて処置したエナメル質は、再石灰化病変に取り込まれたフッ化物(EFU)が、フッ化物を含まない偽薬又は比較品練り歯磨剤のいずれかを用いて処置したエナメル質よりも統計的に優れていた。
【0133】
結論
この結果は、フッ化物を含まない対照又は浸食に適応される比較品製品のいずれよりも、試験練り歯磨剤が酸で軟化したエナメル質の再石灰化及びさらなる脱石灰化の予防に、効果的であったことを示す。
【0134】
参考文献
Barlow AP, Sufi F, Mason SC. Evaluation of different fluoridated dentifrice formulations using an in-situ erosion remineralization model. The Journal of Clinical Dentistry. 2009;20(6):192-8.
Corpron RE, Clark JW, Tsai A, More FG, Merrill DF, Kowalski CJ, Tice TR, Rowe CE. Intraoral effects of a fluoride-releasing device on acid-softened enamel. The Journal of the American Dental Association. 1986 Sep 1;113(3):383-8.
Creeth JE, Kelly SA, Martinez-Mier EA, Hara AT, Bosma ML, Butler A, Lynch RJ, Zero DT. Dose-response effect of fluoride dentifrice on remineralisation and further demineralisation of erosive lesions: A randomised in situ clinical study. Journal of Dentistry. 2015 Jul 1;43(7):823-31.
Creeth JE, Parkinson CR, Burnett GR, Sanyal S, Lippert F, Zero DT, Hara AT. Effects of a sodium fluoride-and phytate-containing dentifrice on remineralisation of enamel erosive lesions-an in situ randomised clinical study. Clinical oral investigations. 2018 Feb 8:1-0.
Gelhard TB, Ten Cate JM, Arends J. Rehardening of artificial enamel lesions in vivo. Caries Research. 1979;13(2):80-3.
Sakkab NY, Cilley WA, Haberman JP. Fluoride in deciduous teeth from an anti-caries clinical study. Journal of Dental Research. 1984 Oct;63(10):1201-5.
Zero DT, Hara AT, Kelly SA, Gonzalez-Cabezas C, Eckert GJ, Barlow AP, Mason SC. Evaluation of a desensitizing test dentifrice using an in-situ erosion remineralization model. The Journal of Clinical Dentistry. 2006;17(4):112-6.
【0135】
[実施例8]
白色光干渉分析(エナメル質保護)
序論
この試験の目的は、食事由来の酸によって続いて起こる浸食への、歯磨剤製剤を用いてヒトエナメル質をインビトロ処置する効果をモニターし、定量することであった。
【0136】
白色光干渉法の技法は表面トポグラフィーの迅速な視覚化を提供することができる。粗さパラメーターの判定は非接触様式で実行することができ、ナノメートル尺度の高さ分解能が入手できる。
【0137】
試験製品
【0138】
【表13】
【0139】
方法
20のヒトエナメル質試験片を平らに研磨し、その表面領域に耐酸性テープを使用して貼った。次いで、試験片を4つの処置群(各群についてn=5)に分割し、手でブラシを2分間かけ、歯磨剤スラリー(脱イオン水中1:3重量%)の1つへ浸漬した。次いで、試料を脱イオン水で1分間洗った。歯磨剤で処置した後、1%のクエン酸中pH3.8で、かき混ぜずに5分間試験片を懸濁した。脱イオン水で試験片を洗浄し、風乾し、次いで、白色光干渉計を使用して分析した。
【0140】
ADE PhaseShift MicroXAM White Light Interferometerを使用して試験片の表面トポグラフィーを調べた。各試験片について複数の領域(687μm x 511μm及び215μm x 160μmの大きさ)からデータを得た。テープの覆いを除去した後、バルク組織損失を評価するために追加の測定を行った。>95%の信頼水準に対して両側不等分散スチューデントt検定を使用して統計的分析を実行した。
【0141】
結果
結果を図11に示す。
【0142】
処置群について物質的損失は以下の傾向に従った:
[最大ステップ]C3>C2>C1>T1[最小ステップ]。すべての処置群間のステップ高さの差は、95%の信頼水準で統計的に有意である。
【0143】
処置群について表面粗さは以下の傾向に従った:
[最大のSa]C3>C2>C1>T1[最小ステップ]。対。
【0144】
すべての処置群間のSa差は、C2及びC1の例以外においては95%の信頼水準で統計的に有意である。
【0145】
結論
上記のデータは、T1を用いる前処置は、浸食の負荷に対して最大の保護を提供し、次にC1を用いる前処置、次いでC2を用いる前処置がそれに続き、C3を用いる前処置によって提示された保護が最も小さいことを示す。
【0146】
[実施例9]
動的二次イオン質量分析(フッ化物取込み)
序論
ナノメートル目盛間隔で材料元素の深さプロファイルを半定量的に求めるために動的二次イオン質量分析(DSIMS)を使用することができる。この技法は、歯磨剤及び口内洗浄剤を用いる浸食病変の処置後に、ヒトエナメル質表面へのフッ化物及びカルシウム取込みの程度を求めるために使用した。この試験の目的は、上に詳述した白色光干渉試験で試験した4種の歯磨剤を用いる処置後に、ヒトエナメル質の人工的浸食病変中へのフッ化物取込みの程度を求めることであった。
【0147】
20のヒトエナメル質試験片を研磨し、1%のクエン酸中pH3.8でかき混ぜずに5分間懸濁して、人工的浸食病変を生成した。脱イオン水で洗浄した後、試験片を4つの処置群(n=5)に分割し、歯磨剤スラリー(1:3重量%)へ2分間浸漬し、その後脱イオン水で1分間洗浄した。処置後、試験片を風乾し、フッ化物DSIMSを使用して分析した。
【0148】
Cameca ims 6f機を用いて15keVのO2 +一次イオンビーム(約50ピコアンペア)及び電子銃を電荷補正のために使用してDSIMS画像分析を実行した。寸法100μm×100μmの領域から画像を得た。-5.0keVの名目抽出視野で負の二次イオン検出を使用した。フッ素/酸素積分値を50μmの深さ範囲について求めた。すなわち、歯のエナメル質表面の上側50μm中へのフッ化物の相対的な取込みを測定した。4つの処置群にわたるフッ化物取込みの結果のグラフによる比較を図3に示す。
【0149】
試験製品(実施例8と同一)
【0150】
【表14】
【0151】
方法
20のヒトエナメル質試験片を研磨し、1%のクエン酸中pH3.8でかき混ぜずに5分間懸濁して人工的浸食病変を生成した。脱イオン水で洗浄した後、試験片を4つの処置群(n=5)に分割し、歯磨剤スラリー(1:3重量%)へ2分間浸漬し、その後脱イオン水で1分間洗浄した。処置後、試験片を風乾し、フッ化物DSIMSを使用して分析した。
【0152】
Cameca ims 6f機を用いて15keVのO2 +一次イオンビーム(約50ピコアンペア)及び電子銃を電荷補正のために使用してDSIMS画像分析を実行した。寸法100μm×100μmの領域から画像を得た。-5.0keVの名目抽出視野で負の二次イオン検出を使用した。フッ素/酸素積分値を50μmの深さ範囲について求めた。すなわち、歯のエナメル質表面の上側50μm中へのフッ化物の相対的な取込みを測定した。4つの処置群にわたるフッ化物取込みの結果のグラフによる比較を図12に示す。
【0153】
結果
フッ化物DSIMS分析及び遡及的な線走査分析の結果は、フッ化物取込みはT1歯磨剤を用いて処置した試験片について最も高く、続いてC2、続いてC1歯磨剤であることを示した。C3歯磨剤を用いる処置は非常にわずかなフッ化物取込みに終わった。処置群間のフッ化物取込みの統計的有意差を評価するためにスチューデント「T」試験を実行した。処置群間の差異はすべて統計的に有意であることがわかった。
【0154】
[実施例10]
動的二次イオン質量分析(カルシウム取込み)
序論
この試験の目的は、3種の歯磨剤を用いる処置後に、ヒトエナメル質の人工的浸食病変へのカルシウム取込みの程度を求めることであった。
【0155】
試験製品(実施例8と同一)
【0156】
【表15】
【0157】
方法
20のヒトエナメル質試験片を研磨し、1%のクエン酸中pH3.8でかき混ぜずに5分間懸濁した。脱イオン水で洗浄した後、次に、試験片を4つの処置群(n=5)に分割し、歯磨剤スラリー(1:3重量%)へ2分間浸漬し、その後脱イオン水で1分間洗浄した。歯磨剤T1から作ったスラリー中で4つの処置群のうちの2つからのエナメル質試験片をインキュベートした。続いてエナメル質を人工唾液溶液に24時間入れた。この溶液は、3つの処置について44カルシウム(塩化カルシウムとして)に有意に富むカルシウムを含んでいた。第2の歯磨剤C3(T1に対する偽薬)中のエナメル質については、対照として標準人工唾液溶液を使用した(他の処置のために使用した人工唾液と同一だが、40カルシウムを塩化カルシウムとして含む)。次いで、試験片を脱イオン水で1分間洗浄し、風乾し、44カルシウムについてDSIMSを使用して分析した。
【0158】
15keVのO2+一次イオンビーム(約100ピコアンペア)を利用するCameca ims 4F機を用いてDSIMS画像分析を実行した。種40Ca、42Ca、44Ca及び40Ca19Fに関する画像が、典型的には寸法100μm×100μmの、1試料当たり最低2つの領域から得られた。+4.5keVの試料表面に抽出視野及び電荷補正のための垂直入射電子銃を用いて正の二次イオン検出を使用した。続いてCameca ims 4fデータ処置ソフトウェアを使用して、各画像から線走査データを得た。図13に結果のグラフ表示を示す。
【0159】
結果
エナメル質のDSIMS画像及び遡及的な線走査分析は、C3を用いて処置したが、続いて通常の同位体組成のカルシウムから構成される人工唾液溶液中でインキュベートした試験片では、44カルシウム取込みは無視できることを示した。44カルシウムに富む人工唾液中でインキュベートした試験片については、44カルシウム取込みの程度は、T1歯磨剤を用いて前処置した試験片について最も高く、続いてC2歯磨剤を用いて処置したもの、続いてC1歯磨剤であることを示した(図13)。44カルシウム取込みは、第1の3つの処置については20μmを超える深さに生じるが、平均の44カルシウム取込みの最も大きな群間の差異はエナメル質表面の上側約10μmで生じる。この領域において、T1を用いる処置は、C2を用いる処置よりおよそ3.5倍高く、C1を用いる処置よりおよそ5倍高い44カルシウム取込みをもたらす。C2は、C1を用いる処置より約1.5倍高い44カルシウム取込みを有する。処置群間の44カルシウム取込みの統計的有意差を評価するためにスチューデント「T」試験を実行した。カルシウム取込みの差異はすべて統計的に有意であることが観察された。
【0160】
結論
比較品製剤(C1及びC2)と比較して試験歯磨剤(T1)について観察されたより大きなカルシウム取込み値は、試験歯磨剤に関して歯のエナメル質表面の再石灰化が高められたことを示す。
以下は、本発明の実施形態の一つである。
(1)マロン酸、グルタル酸、酒石酸、乳酸及びそれらの混合物からなるリストから選択されるカルボン酸又はそのアルカリ金属塩、及び遊離フッ化物イオンの供給源を含む歯磨剤組成物であって、5.0を超え6.5未満までの範囲のスラリーpHを有する、歯磨剤組成物。
(2)アルカリ金属塩が前記カルボン酸のナトリウム塩である、(1)に記載の歯磨剤組成物。
(3)アルカリ金属塩が、組成物全体の0.5重量%~5.0重量%の量で存在する乳酸ナトリウムである、(2)に記載の組成物。
(4)遊離フッ化物イオンの供給源がアルカリ金属フッ化物である、(1)から(3)のいずれかに記載の組成物。
(5)アルカリ金属フッ化物が、組成物の0.05重量%~0.5重量%の量で存在するフッ化ナトリウムである、(4)に記載の組成物。
(6)5.4~6.3の範囲のスラリーpHを有する、(1)から(5)のいずれかに記載の組成物。
(7)pH調整剤を含む、(1)から(6)のいずれかに記載の組成物。
(8)pH調整剤が水酸化ナトリウムである、(7)に記載の組成物。
(9)メチルビニルエーテル(MVE)と無水マレイン酸又はマレイン酸のコポリマーを含む、(1)から(8)のいずれかに記載の組成物。
(10)コポリマーがMVEとマレイン酸のコポリマーである、(9)に記載の組成物。
(11)コポリマーがMVEとマレイン酸の1:1コポリマーである、(10)に記載の組成物。
(12)コポリマーが100,000~2,000,000の範囲の分子量を有する、(9)から(11)のいずれかに記載の組成物。
(13)コポリマーが組成物の0.05重量%~2重量%の量で使用されている、(9)から(12)のいずれかに記載の組成物。
(14)減感剤をさらに含む、(1)から(13)のいずれかに記載の組成物。
(15)歯牙浸食から歯を保護することに使用するための、(1)から(14)のいずれかに記載の組成物。
(16)齲歯から歯を保護することに使用するための、(1)から(15)のいずれかに記載の組成物。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13