(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-24
(45)【発行日】2023-12-04
(54)【発明の名称】圧電センサーおよび圧電センサーの製造方法
(51)【国際特許分類】
H10N 30/87 20230101AFI20231127BHJP
H10N 30/30 20230101ALI20231127BHJP
H10N 30/857 20230101ALI20231127BHJP
H10N 30/074 20230101ALI20231127BHJP
B32B 15/08 20060101ALI20231127BHJP
【FI】
H10N30/87
H10N30/30
H10N30/857
H10N30/074
B32B15/08 105Z
(21)【出願番号】P 2021501936
(86)(22)【出願日】2020-02-14
(86)【国際出願番号】 JP2020005787
(87)【国際公開番号】W WO2020170962
(87)【国際公開日】2020-08-27
【審査請求日】2022-11-24
(31)【優先権主張番号】P 2019026616
(32)【優先日】2019-02-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229564
【氏名又は名称】株式会社バルカー
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】米田 哲也
(72)【発明者】
【氏名】市川 泰央
(72)【発明者】
【氏名】元野 雄太
【審査官】小山 満
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/137251(WO,A1)
【文献】特開2012-243974(JP,A)
【文献】特開2010-246142(JP,A)
【文献】特開2000-177128(JP,A)
【文献】国際公開第2008/066098(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/033493(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/117450(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/069477(WO,A1)
【文献】特開2018-002913(JP,A)
【文献】特開2012-009768(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10N 30/87
H10N 30/30
H10N 30/857
H10N 30/074
B32B 15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属層、圧電層および導電性塗膜層をこの順で含み、
前記導電性塗膜層の曲げ剛性に対する金属層の曲げ剛性の比が10~100であ
り、
前記導電性塗膜層が導電性フィラーとバインダーとを含む層であり、
前記導電性塗膜層の曲げ剛性の値が、0.1GPa以上、30GPa以下であり、
前記金属層および導電性塗膜層の一方がグランド極であり、他方が信号極である、
圧電センサー。
【請求項2】
前記圧電層が、分子および結晶構造に起因する双極子を持たない有機ポリマーを含む不織布または織布である、請求項
1に記載の圧電センサー。
【請求項3】
前記有機ポリマーがポリテトラフルオロエチレンである、請求項
2に記載の圧電センサー。
【請求項4】
前記不織布または織布を構成する繊維の平均繊維径が0.05~50μmである、請求項
2または
3に記載の圧電センサー。
【請求項5】
前記不織布または織布を構成する繊維の繊維径変動係数が0.7以下である、請求項
2~
4のいずれか1項に記載の圧電センサー。
【請求項6】
前記圧電層の空孔率が0.1~70体積%である、請求項1~
5のいずれか1項に記載の圧電センサー。
【請求項7】
圧電層に、導電性フィラーとバインダーとを含む組成物を塗装し、該塗装された組成物を乾燥または硬化させる工程を含む、
金属層、圧電層および導電性塗膜層をこの順で含む
、請求項1~6のいずれか1項に記載の圧電センサーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の一実施形態は、圧電センサーおよび圧電センサーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
人や物の出入りなどを検知する際に、圧電センサー(マットセンサー)が用いられている。
【0003】
このような圧電センサーとして、特許文献1には、圧電シートの一方の面にアルミニウム箔からなるシグナル電極を積層し、他方の面にアルミニウム箔からなるグランド電極を積層した圧電センサーが開示されている。
また、特許文献2には、圧電層の両側に、エラストマーおよび導電材を含む電極層を設けた圧電センサーが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-179126号公報
【文献】国際公開第2017/010135号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者が確認したところ、前記特許文献に記載されているような従来の圧電センサーを長期間使用すると、出力電圧が低下し、場合によっては、圧電センサーとして利用できない程度まで出力電圧が低下する場合があることが分かった。
このように、出力電圧が低下すると、ノイズとの判別がつかなくなり、誤検知が生じやすく、圧電センサーを高い頻度で交換する必要があった。
【0006】
本発明の一実施形態は、長期使用時においても、高い出力電圧を示す圧電センサーを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような状況のもと、本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討した結果、下記構成例によれば、前記の課題を解決できることを見出した。
本発明の構成例は以下の通りである。
【0008】
[1] 金属層、圧電層および導電性塗膜層をこの順で含み、
前記導電性塗膜層の曲げ剛性に対する金属層の曲げ剛性の比が10~100である、
圧電センサー。
【0009】
[2] 前記導電性塗膜層が導電性フィラーとバインダーとを含む層である、[1]に記載の圧電センサー。
【0010】
[3] 前記圧電層が、分子および結晶構造に起因する双極子を持たない有機ポリマーを含む不織布または織布である、[1]または[2]に記載の圧電センサー。
[4] 前記有機ポリマーがポリテトラフルオロエチレンである、[3]に記載の圧電センサー。
【0011】
[5] 前記不織布または織布を構成する繊維の平均繊維径が0.05~50μmである、[3]または[4]に記載の圧電センサー。
[6] 前記不織布または織布を構成する繊維の繊維径変動係数が0.7以下である、[3]~[5]のいずれかに記載の圧電センサー。
[7] 前記圧電層の空孔率が0.1~70体積%である、[1]~[6]のいずれかに記載の圧電センサー。
【0012】
[8] 圧電層に、導電性フィラーとバインダーとを含む組成物を塗装し、該塗装された組成物を乾燥または硬化させる工程を含む、
金属層、圧電層および導電性塗膜層をこの順で含む圧電センサーの製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の一実施形態によれば、初期および長期使用時においても、高い出力電圧を示す圧電センサーを得ることができ、長期信頼性、具体的には、長期にわたり使用しても、検知対象となる圧力とノイズとを容易に判別でき、誤検知の少ない圧電センサーを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
≪圧電センサー≫
本発明の一実施形態に係る圧電センサー(以下「本センサー」ともいう。)は、金属層、圧電層および導電性塗膜層をこの順で含み、前記導電性塗膜層の曲げ剛性に対する金属層の曲げ剛性の比(金属層の曲げ剛性/導電性塗膜層の曲げ剛性)が10~100であることを特徴とする。
本センサーでは、金属層と導電性塗膜層とを用いるため、前記のような曲げ剛性の比となり、圧電層を挟む層がこのような曲げ剛性の比を有していることで、初期および長期使用時においても、高い出力電圧を示す圧電センサーを得ることができ、長期信頼性、具体的には、長期にわたり使用しても、検知対象となる圧力とノイズとを容易に判別でき、誤検知の少ない圧電センサーを得ることができる。
なお、本発明において、「長期使用」とは、例えば、本センサーを下記実施例のように1000回以上押圧した場合が挙げられる。
【0015】
本センサーがこのような効果を奏する理由は必ずしも明らかではないが、本センサーが押圧された時に、圧電層の上面側と下面側の変形量に違いが生じるため、本センサーは高い出力電圧を示すと考えられ、また、圧電層の塑性変形を抑制することができるため、本センサーは長期にわたり高い出力電圧を示すと考えられる。
【0016】
前記曲げ剛性の比は、初期および長期使用時において、より高い出力電圧を示すセンサーを得ることができる等の点から、10以上、100以下であり、好ましくは20以上、より好ましくは30以上であり、好ましくは70以下、より好ましくは60以下、特に好ましくは50以下である。
該曲げ剛性の比は、具体的には、下記実施例に記載の方法で測定することができる。
【0017】
本センサーは、前記金属層側から圧力がかかるように配置して用いられることが好ましい。このように本センサーを用いることで、圧電層の塑性変形をより抑制することができるため、より長期にわたって高い出力電圧を示すセンサーを容易に得ることができる。
【0018】
本センサーは、金属層、圧電層および導電性塗膜層を含めは特に制限されず、必要により、これらの層間などに接着層等の従来公知の層を含んでもよいが、圧電層の最も大きい面の一方に金属層を有し、圧電層の最も大きい面の他方に導電性塗膜層を有することが好ましく、圧電層の最も大きい面の一方に直接金属層が接し、圧電層の最も大きい面の他方に直接導電性塗膜層が接していることがより好ましい。つまり、圧電層の最も大きい面に隣接する2つの層の曲げ剛性の比が前記範囲にあることが好ましい。
【0019】
なお、本センサーは、従来の圧電センサーが有する従来公知の層、例えば、絶縁層、前記金属層や導電性塗膜層以外の電極層などを有していてもよく、また、本センサーから電気を取り出す部材などを有していてもよい。
【0020】
本センサーを製造する方法としては、金属層、圧電層および導電性塗膜層をこの順で含む積層体が得られれば特に制限されず、例えば、下記導電性塗料などを絶縁層などの絶縁体に塗装し、得られた導電性塗膜層付き絶縁体を導電性塗膜層が圧電層側となるように積層したり、下記導電性塗料などを支持体に塗装し、得られた導電性塗膜層付き支持体から剥離した導電性塗膜層を圧電層と積層してもよいが、製造容易性に優れ、初期および長期使用時においても高い出力電圧を示すセンサーを得ることができ、長期信頼性に優れるセンサーを容易に得ることができる等の点から、下記本製造方法が好ましい。
なお、前記のような導電性塗膜層付き絶縁体を用いる場合、該絶縁体は前記曲げ剛性の比の計算には関与しない。
【0021】
本センサーは、圧力を検知するセンサーであり、マットセンサー、衝撃センサー、脈波などの生体センサー、着座センサー等に好適に用いられる。
【0022】
<金属層>
前記金属層としては特に制限されず、従来の圧電センサーで用いられてきた電極を用いることができる。
前記金属層の形状、大きさ等は、所望の用途に応じて適宜選択すればよく、特に制限されない。
【0023】
前記金属層を構成する金属としては特に制限されないが、例えば、リチウム、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、インジウム、アンチモン、錫、銀、金、銅、ニッケル、パラジウム、白金、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、コバルト、これらの合金が挙げられる。特に好適には、例えば、アルミニウム、銅、銀、ニッケルが挙げられる。
【0024】
前記金属層としては、本センサーの製造容易性、曲げ剛性の比が前記範囲にあるセンサーを容易に得ることができる等の点から、市販の金属板(箔)を用いることが好ましい。
【0025】
前記金属層の曲げ剛性の値は、初期および長期使用時において、高い出力電圧を示すセンサーを容易に得ることができる等の点から、好ましくは10GPa以上、より好ましくは40GPa以上、より好ましくは50GPa以上であり、好ましくは300GPa以下、より好ましくは200GPa以下である。
【0026】
前記金属層の厚さは特に制限されず、従来の電極と同様の厚さであればよいが、曲げ剛性が前記範囲となるような厚さであることが好ましく、所望のセンサーを容易に製造できる等の点から、好ましくは0.001mm以上、より好ましくは0.01mm以上であり、好ましくは1mm以下、より好ましくは0.1mm以下である。
【0027】
<導電性塗膜層>
前記導電性塗膜層は、導電性塗料から形成される導電性を有する層であれば特に制限されないが、通常、電極として機能する層である。該導電性塗料としては特に制限されず、従来公知の塗料を用いることができ、導電性フィラーとバインダーとを含む導電性塗料が好ましい。
本発明において、「導電性」とは、1×10-3Ω・cm未満の比抵抗を有することをいう。該比抵抗は、デジタルマルチメーターで抵抗を測定し、下記式により算出することができる。
比抵抗(Ω・cm)=R×S/l
[R:デジタルマルチメーターの抵抗値、S:導電性塗料から得られる層の断面積、l:電極間距離]
【0028】
前記導電性フィラーとしては特に制限されず、従来公知のフィラーを用いることができる。
前記導電性塗料に含まれる導電性フィラーは、1種でもよく、形状、大きさ、材質等の異なる2種以上でもよい。
【0029】
前記導電性フィラーの材質としては、導電性を有する材質であれば特に制限されないが、例えば、銅、銀、金、スズ、ビスマス、亜鉛、インジウム、ニッケル、パラジウム等の金属、これらの金属を含む合金、カーボンブラック、グラファイトが挙げられ、これらの中でも、銅、銀、カーボンブラックが好ましい。
なお、前記導電性フィラーとしては、ある材料の表面を前記金属や合金等でメッキなどすることにより得られるフィラーであってもよい。
【0030】
前記導電性フィラーの形状も特に制限されず、例えば、塊状、球状、フレーク状、針状、繊維状、デンドライト状、コイル状が挙げられる。
【0031】
前記導電性フィラーのレーザー回折散乱法(マイクロトラック法)により測定されるメジアン径(D50)は、塗装性に優れる塗料が得られ、導電性に優れる層を容易に得ることができる等の点から、好ましくは5~30μmである。
【0032】
前記導電性フィラーの含有量は、導電性に優れる層を容易に得ることができる等の点から、前記導電性塗料の固形分100質量%に対し、好ましくは60質量%以上、より好ましくは65質量%以上であり、好ましくは95質量%以下、より好ましくは93質量%以下である。
【0033】
前記バインダーとしては特に制限されないが、前記導電性フィラーを保持できるものであることが好ましい。
前記導電性塗料に含まれるバインダーは、1種でも2種以上でもよい。
【0034】
前記バインダーとしては特に制限されず、例えば、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ブチラール樹脂、熱可塑性イミド樹脂などの熱可塑性樹脂;ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、ノボラック型等のエポキシ樹脂、液状エポキシ化合物等のエポキシ化合物、不飽和ポリエステル樹脂等のポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、レゾール型、ノボラック型等のフェノール樹脂、イミド樹脂などの熱硬化性樹脂;スチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、シリコーン系エラストマー等のエラストマーが挙げられる。
【0035】
前記バインダーの含有量は、導電性フィラーを十分に保持でき、形状保持性および導電性に優れる層を容易に得ることができる等の点から、前記導電性フィラー100質量部に対し、好ましくは5質量部以上、より好ましくは7質量部以上であり、好ましくは35質量部以下、より好ましくは20質量部以下である。
【0036】
前記導電性塗料は、塗装性等の点から、1種または2種以上の溶剤を含んでいることが好ましく、該溶剤としては特に制限されないが、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブチルカルビトール、ブチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のアルコール系溶剤;トルエン、キシレン等の芳香族系溶剤、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶剤;酢酸メチル、酢酸エチル、ブチルカルビトールアセテート等のエステル系溶剤が挙げられる。
【0037】
前記導電性塗料には、前記成分以外にも、必要により、本発明の効果を損なわない範囲で、従来公知の添加剤を含んでいてもよい。
このような添加剤としては、例えば、パルミチン酸、ステアリン酸等の飽和脂肪酸;リノレン酸、リノール酸、オレイン酸等の不飽和脂肪酸;これらの金属塩(金属の例:ナトリウム、カリウム);乳酸、酒石酸等のヒドロキシ基を有する有機酸;アルキルスルホン酸類、アルキルベンゼンスルホン酸等のスルホン酸基を有する有機酸;金属キレート形成剤;硬化性樹脂を硬化させるための硬化剤;分散剤;造膜助剤;表面調整剤;可塑剤;老化防止剤;顔料が挙げられる。
これらの添加剤はそれぞれ、1種でもよく、2種以上でもよい。
【0038】
前記導電性塗膜層の曲げ剛性の値は、初期および長期使用時において、高い出力電圧を示すセンサーを容易に得ることができる等の点から、好ましくは0.1GPa以上、より好ましくは0.4GPa以上、特に好ましくは0.5GPa以上であり、好ましくは30GPa以下、より好ましくは20GPa以下、特に好ましくは10GPa以下である。
【0039】
前記導電性塗膜層の厚さは特に制限されず、従来の電極と同様の厚さであればよいが、曲げ剛性が前記範囲となるような厚さであることが好ましく、所望のセンサーを容易に製造できる等の点から、好ましくは1~1000μm、より好ましくは1~100μmである。
なお、圧電層が多孔質層であり、このような多孔質層に導電性塗料を塗装する場合、該多孔質層の内部にも導電性塗料の乾燥体または硬化体が形成される場合があるが、この場合であっても、前記導電性塗膜層の厚さは、多孔質層の表面からの厚さのことをいう。
【0040】
<圧電層>
前記圧電層としては特に制限されず、従来公知の圧電シート等を使用することができるが、例えば、圧電性樹脂層;多孔質層;水晶、チタン酸バリウム、チタンジルコン酸鉛等の無機圧電材料からなる層が挙げられる。
前記圧電層は、モノモルフ、バイモルフおよび積層型のいずれであってもよい。
また、前記圧電層の形状および大きさ等も特に制限されず、所望の用途等に応じて適宜選択すればよい。
【0041】
前記圧電層の厚さは、用いる用途に応じて適宜選択すればよいが、通常10μm以上、好ましくは50μm以上であり、通常1mm以下、好ましくは500μm以下である。
【0042】
前記圧電層としては、多孔質層が好ましく、樹脂分を含有する多孔質シートがより好ましい。該多孔質シートの具体例としては、多孔質有機ポリマーシート、有機ポリマーを含む不織布または織布が挙げられる。
これらの中でも、耐久性、長期に変形性能が維持できる等の点から、有機ポリマーを含む不織布または織布が好ましく、絶縁性不織布または織布に有機ポリマーを付着させたもの、有機ポリマーを含む繊維からなる不織布または織布がより好ましく、圧電層の伸縮ではなく外部からの圧力により起電し、長期にわたり高い出力電圧を示すセンサーをより容易に得ることができることができる等の点から、有機ポリマーを含むガラスクロスまたはガラス不織布が特に好ましい。
【0043】
前記多孔質層の空孔率は、電荷保持性の高い圧電層を容易に得ることができる等の点から、好ましくは0.1体積%以上、より好ましくは1体積%以上、さらに好ましくは2体積%以上であり、好ましくは70体積%以下、より好ましくは60体積%以下、さらに好ましくは50体積%以下である。
該空隙率は、下記実施例に記載の方法で測定でき、また、有機ポリマーからなる多孔質層の空孔率は以下の方法により算出することができる。
空孔率=(有機ポリマーの真密度-多孔質層の見掛けの密度)×100/有機ポリマーの真密度
なお、見掛けの密度は、多孔質層の質量および見掛けの体積を用いて算出される値を用いる。
【0044】
前記有機ポリマーには、電荷保持量が高く、圧電特性に優れる圧電層が得られる等の点から、本発明の効果を損なわない範囲で1種または2種以上の無機フィラーが含まれていてもよい。該無機フィラーとしては、より高い圧電率を有する圧電層が得られる等の点から、ポリマーより高い誘電率を有するフィラーが好ましく、例えば、比誘電率εが10~10000の無機フィラーが好ましい。無機フィラーの具体例としては、酸化チタン、酸化アルミニウム、チタン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸鉛、酸化ジルコニウム、酸化セリウム、酸化ニッケル、酸化スズが挙げられる。
【0045】
前記有機ポリマーとしては特に限定されないが、例えば、ポリテトラフルオロエチレン重合体〔PTFE〕、テトラフルオロエチレンとパーフルオロアルキルビニルエーテルとの共重合体〔PFA〕、テトラフルオロエチレンとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体〔FEP〕、ポリクロロトリフルオロエチレン〔PCTFE〕、テトラフルオロエチレンとエチレンとの共重合体〔ETFE〕、ポリビニリデンフルオライド〔PVdF〕、ポリビニルフルオライド〔PVF〕、テトラフルオロエチレンとヘキサフルオロプロピレンとビニリデンフルオライドとの共重合体〔THV〕等の含フッ素系樹脂;ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン系樹脂;ポリスチレン、ポリ(メタ)アクリル酸エステル、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等のビニル系重合体;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリ乳酸、ポリヒドロキシアルカノエート、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネートアジペート等のポリエステル系重合体;6-ナイロン、6,6-ナイロン、11-ナイロン、12-ナイロン等のポリアミド系樹脂;アラミド等の芳香族ポリアミド系樹脂;ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ビスマレイミド等のイミド系樹脂;ポリカーボネート、ポリシクロオレフィン類等のエンジニアリングプラスチック類などの熱可塑性樹脂;不飽和ポリエステル、ビニルエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、エポキシ樹脂、フェノール系樹脂、ポリウレタン、ケイ素系樹脂、アルキド樹脂、フラン樹脂、ジシクロペンタジエン樹脂、アクリル樹脂、アリルカーボネート樹脂等の熱硬化性樹脂;シリコーン樹脂が挙げられる。
【0046】
前記有機ポリマーとしては、体積抵抗率が1.0×1013Ω・cm以上であるポリマーが好ましく、例えば、ポリアミド系樹脂、芳香族ポリアミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアクリロニトリル、フェノール系樹脂、含フッ素系樹脂、イミド系樹脂が挙げられる。
【0047】
これらの中でも、耐熱性、耐候性に優れる等の点から、分子および結晶構造に起因する双極子を持たない有機ポリマーであることが好ましい。このようなポリマーとしては、例えば、ポリオレフィン系樹脂(例:ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンプロピレン樹脂)、ポリエステル系樹脂(例:ポリエチレンエレフタレート)、ポリウレタン樹脂、ポリスチレン樹脂、シリコーン樹脂等の非フッ素系樹脂、および、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)等の含フッ素系樹脂が挙げられる。
【0048】
これらの中でも、耐熱性および耐候性等の観点から、連続使用可能温度が高く、ガラス転移点を本センサーの使用温度域に持たないポリマーであることが好ましい。連続使用可能温度は、UL746B(UL規格)に記載の連続使用温度試験により測定でき、50℃以上であることが好ましく、80℃以上であることがより好ましい。また、耐湿性の観点から、撥水性を示すポリマーであることが好ましい。
これらの特性を有するポリマーとしては、ポリオレフィン系樹脂、含フッ素系樹脂が好ましく、特に、高温下であっても圧電特性が低下しにくく、圧力を正確に検知することができるセンサーが得られる等の点から、含フッ素系樹脂がより好ましく、PTFEが特に好ましい。特に、前記ポリマーとして、PTFEを用いる場合には、耐熱性、圧力検知能および耐久性にバランスよく優れるセンサーを得ることができる。
【0049】
前記圧電層が圧電材料以外の材料からなる層の場合、例えば前記多孔質層の場合、分極処理された層であることが好ましい。分極処理を施すことによって、該層に電荷を注入することができる。多孔質層の場合、注入された電荷は、多孔質層内に存在する空孔内に集中して分極を誘起させる。内部分極した層は、層の厚さ方向に圧縮荷重を印加することによって、層の表裏面を通して電荷を取り出すことが可能となる。すなわち、外部負荷(電気回路)に対して電荷移動が生じて起電力が得られる。
【0050】
[多孔質有機ポリマーシート]
前記多孔質有機ポリマーシートとしては、電荷を保持し得る有機ポリマーからなるシートであることが好ましい。このような多孔質有機ポリマーシートとしては、例えば、有機ポリマーからなるシート状の発泡体、有機ポリマーからなる延伸多孔質膜、マトリックス樹脂(有機ポリマー)と電荷誘起性中空粒子(中空粒子の表面の少なくとも一部に導電性物質が付着している粒子)とを含む多孔質有機ポリマーシート、有機ポリマー中に分散させた相分離化剤を、超臨界二酸化炭素などの抽出剤を用いて除去し、空孔を形成する方法によって形成されるシートが挙げられる。
【0051】
[有機ポリマーを含む不織布または織布]
有機ポリマーを含む不織布または織布としては、具体的には、絶縁性不織布または織布に有機ポリマーを付着させたもの、有機ポリマーを含む繊維からなる不織布または織布等が挙げられる。これらの中でも、前記効果がより発揮される等の点から、絶縁性不織布または織布に有機ポリマーを付着させたものが好ましい。
【0052】
前記不織布としては、湿式抄紙方式、ウォーターパンチ方式、ケミカルボンド方式、サーマルボンド方式、スパンボンド方式、ニードルパンチ方式、ステッチボンド方式等の種々の製法で得られた不織布を使用することができるが、耐熱性、機械的特性、耐溶剤性の点から、自己溶融繊維によるサーマルボンド方式やスパンボンド方式で得られた不織布が好ましい。
【0053】
前記織布を構成する繊維(糸)は、モノフィラメント糸、マルチフィラメント糸、ステープル糸のいずれを用いてもよい。織り方としても特に制限されず、平織り、綾織り、朱子織り、二十織り、筒織りなどが挙げられる。織構成としては、織組織、糸番手、糸密度に特に制限はない。
【0054】
前記不織布または織布を構成する繊維の平均繊維径は、好ましくは0.05μm以上、より好ましくは0.1μm以上、さらに好ましくは0.3μm以上であり、好ましくは50μm以下、より好ましくは20μm以下、さらに好ましくは10μm以下である。
平均繊維径が前記範囲内にある場合には、高い柔軟性を示す不織布または織布を形成でき、繊維表面積が大きくなることで電荷を保持する十分な空間を形成でき、薄い不織布または織布を形成した場合でも繊維の分布均一性を高くすることができる点で好ましい。
【0055】
前記不織布または織布を構成する繊維の平均繊維径は、繊維を形成する条件を適宜選択することで調整することができるが、例えば、電界紡糸法により製造する場合には、電界紡糸の際に湿度を下げる、ノズル径を小さくする、印加電圧を大きくする、あるいは電圧密度を大きくすることにより、得られる繊維の平均繊維径を小さくできる傾向にある。
【0056】
なお、前記平均繊維径は、測定対象となる繊維(群)を走査型電子顕微鏡(SEM)観察(倍率:10000倍)し、得られたSEM画像から無作為に20本の繊維を選び、これらの各繊維の繊維径(長径)を測定し、この測定結果に基づいて算出される平均値である。
【0057】
前記不織布または織布を構成する繊維の、下記式で算出される繊維径変動係数は、好ましくは0.7以下であり、より好ましくは0.01以上、より好ましくは0.5以下である。繊維径変動係数が前記範囲内にあると、繊維は繊維径が均一となり、該繊維を用いて得られる不織布または織布はより高い空孔率を有するため、また、電荷保持性の高い不織布または織布を得ることができ好ましい。
繊維径変動係数=標準偏差/平均繊維径
(なお、「標準偏差」とは、前記20本の繊維の繊維径の標準偏差である。)
【0058】
前記不織布または織布を構成する繊維の繊維長は、好ましくは0.1mm以上、より好ましくは0.5mm以上、さらに好ましくは1mm以上であり、好ましくは1000mm以下、より好ましくは100mm以下、さらに好ましくは50mm以下である。
【0059】
前記不織布および織布の目付は、好ましくは100g/m2以下、より好ましくは0.1~50g/m2、さらに好ましくは0.1~20g/m2である。
前記目付は、紡糸時間を長くする、紡糸ノズル数を増やすなどにより、増大する傾向にある。
【0060】
前記不織布および織布は、前記繊維をシート状に集積または製織したものであるが、このような不織布および織布は、単層から構成されるもの、材質や繊維径の異なる2層以上から構成されるものの何れでもよい。
【0061】
・絶縁性不織布または織布に有機ポリマーを付着させたもの
絶縁性不織布または織布に有機ポリマーを付着させたもの(以下「有機ポリマー付着体」ともいう。)における有機ポリマーの存在場所は特に制限されず、絶縁性不織布または織布を構成する繊維に付着していてもよく、絶縁性不織布または織布中の空隙に存在していてもよいが、絶縁性不織布または織布を構成する繊維を被覆していることが好ましい。
【0062】
前記絶縁性不織布または織布は、有機材料製の不織布または織布であってもよく、無機材料製の不織布または織布であってもよいが、前記効果がより発揮される等の点から、無機材料製の不織布または織布であることが好ましい。
該有機材料としては、例えば、前記有機ポリマーと同様のポリマーが挙げられる。
該無機材料としては、例えば、ガラス繊維、ロックウール、炭素繊維、アルミナ繊維、ウォラストナイトやチタン酸カリウムなどのセラミックス繊維が挙げられる。これらの中でも、ガラス繊維および/またはセラミックス繊維が好ましい。
【0063】
帯電特性等の点から、絶縁性不織布または織布は、プラス帯電であってもよく、マイナス帯電であってもよい。
なお、絶縁性不織布または織布と、付着する有機ポリマーとは、帯電傾向が略同一のものであってもよく、異なるものであってもよいが、帯電列でより離れた材料である組み合わせが好ましい。絶縁性不織布または織布として、ガラス織布を用いると、高い圧電定数を示し、高い圧電率を保持できる圧電層を容易に得ることができるため好ましい。
【0064】
前記絶縁性不織布または織布に付着させる有機ポリマーは、帯電特性の観点から、マイナスに帯電しやすいものであっても、プラスに帯電しやすいものであってもよい。絶縁性不織布または織布が、ガラス繊維から構成される場合、該有機ポリマーは、ガラス繊維よりも帯電列がマイナス側に位置する樹脂、例えば含フッ素系樹脂が好ましい。
【0065】
また、前記絶縁性不織布または織布に付着させる有機ポリマーは、耐熱特性の観点から、溶融温度が高く、熱分解開始温度が高い樹脂であることが好ましく、例えば、含フッ素系樹脂、イミド系樹脂が好ましく、ガラス織布または不織布と組み合わせるには、含フッ素樹脂、特にPTFEが好ましい。このような含フッ素系樹脂やイミド系樹脂を用いる場合、得られる圧電層が、耐熱性および耐候性に優れ、特に70℃以上の高温における圧電特性の経時安定性に優れるためより好ましい。
【0066】
前記有機ポリマー付着体の製造方法は特に制限されないが、製造容易性等の点から、有機ポリマー(有機ポリマーを含む液体)に絶縁性不織布または織布を浸漬した後、絶縁性不織布または織布を取り出し、乾燥または硬化させる方法が好ましい。
【0067】
前記有機ポリマー付着体における有機ポリマーの含有量は、より高い出力電圧を示すセンサーをより容易に得ることができることができる等の点から、好ましくは10質量%以上、より好ましくは30質量%以上であり、好ましくは90質量%以下、より好ましくは80質量%以下である。
この含有量は、例えば、窒素などの不活性雰囲気下、有機ポリマーの分解開始温度以上、絶縁性不織布または織布を構成する材料の軟化温度以下程度の温度で加熱した時の、加熱前後の質量変化から算出することができる。
【0068】
・有機ポリマーを含む繊維からなる不織布または織布
該繊維は、例えば、電界紡糸法、溶融紡糸法、溶融電界紡糸法、スパンボンド法(メルトブロー法)、湿式法、スパンレース法により製造されるが、特に電界紡糸法により得られる繊維は繊維径が小さく、このような繊維より形成される不織布または織布は、空孔率が高くかつ高比表面積であるため、高い圧電性を有する不織布または織布を得ることができる。
【0069】
電界紡糸法を用いて有機ポリマーを含む繊維を形成する際には、例えば、前記有機ポリマーおよび必要に応じて溶媒を含む紡糸液が用いられる。
前記紡糸液中に含まれる有機ポリマーの割合は、例えば5質量%以上、好ましくは10質量%以上であり、例えば100質量%以下、好ましくは80質量%以下、より好ましくは70質量%以下である。
前記ポリマーは、1種単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0070】
前記溶媒としては、前記ポリマーを溶解または分散し得るものであれば特に限定されず、例えば、水、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、メチルピロリドン、キシレン、アセトン、クロロホルム、エチルベンゼン、シクロヘキサン、ベンゼン、スルホラン、メタノール、エタノール、フェノール、ピリジン、プロピレンカーボネート、アセトニトリル、トリクロロエタン、ヘキサフルオロイソプロパノール、ジエチルエーテルが挙げられる。これらの溶媒は、1種を用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
紡糸液中の前記溶媒の含有量は、例えば0質量%以上、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上であり、例えば90質量%以下、好ましくは80質量%以下である。
【0071】
前記紡糸液は、さらに、前記有機ポリマー以外の、無機フィラー、界面活性剤、分散剤、電荷調整剤、機能性粒子、接着剤、粘度調整剤、繊維形成剤等の添加剤を含んでいてもよい。これらの添加剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
前記紡糸液において、前記有機ポリマーの前記溶媒への溶解度が低い場合(例えば、有機ポリマーがPTFEであり、溶媒が水である場合)、紡糸時に有機ポリマーを繊維形状に保持させる等の点から、1種または2種以上の繊維形成剤を含むことが好ましい。
【0072】
前記繊維形成剤としては、溶媒に対し高い溶解度を有する有機ポリマーであることが好ましく、例えば、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレングリコール、デキストラン、アルギン酸、キトサン、でんぷん、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリアクリルアミド、セルロース、ポリビニルアルコールが挙げられる。
前記繊維形成剤を使用する場合、溶媒の粘度、溶媒への溶解度にもよるが、紡糸液中の前記繊維形成剤の含有量は、例えば0.1質量%以上、好ましくは1質量%以上であり、例えば15質量%以下、好ましくは10質量%以下である。
【0073】
前記紡糸液は、前記有機ポリマー、溶媒および必要に応じて添加剤を従来公知の方法で混合することにより製造できる。
【0074】
前記有機ポリマーがPTFEである場合、前記紡糸液の好ましい例としては、以下の紡糸液(1)が挙げられる。
紡糸液(1):PTFEを30質量%以上、70質量%以下、好ましくは35質量%以上、好ましくは60質量%以下含み、繊維形成剤を0.1質量%以上、10質量%以下、好ましくは1質量%以上、好ましくは7質量%以下含み、合計が100質量%となるよう溶媒を含む紡糸液
【0075】
電界紡糸を行う際の印加電圧は、好ましくは1kV以上、より好ましくは5kV以上、さらに好ましくは10kV以上であり、好ましくは100kV以下、より好ましくは50kV以下、さらに好ましくは40kV以下である。
【0076】
電界紡糸に用いられる紡糸ノズルの先端径(外径)は、好ましくは0.1mm以上、より好ましくは0.2mm以上であり、好ましくは2.0mm以下、より好ましくは1.6mm以下である。
【0077】
より具体的には、例えば前記紡糸液(1)を用いる場合であれば、前記印加電圧は、好ましくは10~50kV、より好ましくは10~40kVであり、前記の紡糸ノズルの先端径(外径)は、好ましくは0.3~1.6mmである。
【0078】
前記繊維を用いて不織布を形成するには、具体的には、例えば、電界紡糸法を用いて、前記繊維を製造する工程、および、前記繊維をシート状に集積して不織布を形成する工程を同時に行ってもよいし、前記繊維を製造する工程を行った後に、湿式法等により前記繊維をシート状に集積して不織布を形成する工程を行ってもよい。
【0079】
前記湿式法により不織布を形成する方法としては、例えば、前記繊維を含有する水分散液を用い、例えばメッシュ上に前記繊維を堆積(集積)させてシート状に成形(抄紙)する方法が挙げられる。
【0080】
この湿式法における繊維の使用量は、前記水分散液全量に対して、好ましくは0.1~10質量%、より好ましくは0.1~5質量%である。繊維をこの範囲内で使用すれば、繊維を堆積させる工程で水を効率よく活用することができ、また、繊維の分散状態がよくなり、均一な湿式不織布を得ることができる。
【0081】
前記水分散液には、分散状態を良好にするためにカチオン系、アニオン系、ノニオン系等の界面活性剤などからなる分散剤や油剤、また、泡の発生を抑制する消泡剤等をそれぞれ1種または2種以上添加してもよい。
【0082】
前記繊維を用いて織布を形成するには、前記繊維を製造する工程、および、得られた繊維をシート状に製織して織布を形成する工程を含む方法で製造できる。
繊維をシート状に製織する方法としては、従来公知の製織方法を用いることができ、ウォータージェットルーム、エアージェットルーム、レピアルームなどの方法が挙げられる。
【0083】
前記有機ポリマーがPTFEである場合、不織布または織布を形成した後に、加熱処理を行うことが好ましい。該加熱処理は、得られた不織布または織布を、通常200~390℃で、30~300分間熱処理することで行われる。この加熱処理により、不織布または織布に残留している前記溶媒および繊維形成剤などを除去することができる。
【0084】
前記不織布の製造方法として、PTFEからなる繊維を電界紡糸法により製造する工程を含む場合を例に挙げて具体的に説明する。PTFE繊維からなる不織布の製造方法としては、従来公知の製造方法を採用することができ、例えば、特表2012-515850号公報に記載された以下の方法が挙げられる。
PTFE、繊維形成剤および溶媒を含み、少なくとも50,000cPの粘度を有する紡糸液を提供するステップと;
紡糸液をノズルより紡糸し静電的牽引力により繊維化するステップと;
前記繊維をコレクター(例:巻き取りスプール)の上に集め、前駆体を形成するステップと;
前記前駆体を焼成して前記溶媒および前記繊維形成剤を除去することでPTFE繊維からなる不織布を形成するステップとを含む方法
【0085】
≪圧電センサーの製造方法≫
本発明の一実施形態に係る圧電センサーの製造方法(以下「本製造方法」ともいう。)は、前記圧電層に、前記導電性塗料を塗装し、該塗装された塗料を乾燥または硬化させる工程を含み、
金属層、圧電層および導電性塗膜層をこの順で含む圧電センサー、好ましくは前記本センサーを製造する方法である。
【0086】
導電性塗料を塗装する方法としては特に制限されず、従来公知の方法を制限なく使用できるが、例えば、エアレススプレー、エアースプレー、刷毛塗り、ローラー塗り等の塗布方法や、圧電層を導電性塗料に浸漬する方法が挙げられる。
この塗装の際には、形成される圧電層の厚さが前記範囲となるように塗装することが好ましい。
【0087】
前記塗料を乾燥または硬化させる際の条件としては特に制限されず、用いるバインダーや溶剤等に応じて適宜選択すればよく、常温で乾燥および/または硬化させてもよく、加熱下で乾燥および/または硬化させてもよい。
また、前記乾燥または硬化は、必要により、減圧下で行ってもよく、窒素ガス雰囲気下等の不活性ガス雰囲気下で行ってもよい。
【0088】
前記金属層と圧電層とを積層する際には、必要により接着剤を用いてもよいが、金属箔などと圧電シートなどを単に接触させるだけでもよい。後者の場合、このように接触させた後に圧力をかけてもよい。
【0089】
金属層と圧電層とを積層する前や、導電性塗料を塗装する前には、金属層や圧電層の表面を、プラズマ処理やコロナ処理等の従来公知の方法で表面処理しておくことが好ましい。
【0090】
前記圧電層が圧電材料以外の材料からなる層の場合、例えば前記多孔質層の場合、該圧電層を、分極処理することが好ましい。分極処理を施すことによって、該層に電荷を注入することができる。
前記分極処理の方法としては、従来公知の方法を用いることができ、特に制限されないが、例えば、直流電圧印加処理や交流電圧印加処理等の電圧印加処理、コロナ放電処理が挙げられる。
【0091】
例えば、コロナ放電処理は、市販の高電圧電源と電極からなる装置を使用して行うことができる。
放電条件は、用いる圧電層の材料および厚さに応じて適宜選択すればよいが、例えば、圧電層がPTFEからなる多孔質層である場合は、好ましい条件として、高電圧電源の電圧が-0.1~-100kV、より好ましくは-1~-20kV、電流が0.1mA以上、100mA以下、より好ましくは1mA以上、より好ましくは80mA以下、電極間距離が0.1cm以上、100cm以下、より好ましくは1cm以上、より好ましくは10cm以下、印加電圧が0.01MV/m以上、10.0MV/m以下、より好ましくは0.5MV/m以上、より好ましくは2.0MV/m以下である条件が挙げられる。
【0092】
前記分極処理は、圧電シート等の圧電層単体を分極処理してもよいが、前記導電性塗膜を形成した後、圧電層と金属層とを積層した後、金属層、圧電層および導電性塗膜層をこの順で含む積層体を形成した後、前記圧電層として、多孔質層と絶縁層等の従来公知の層との積層体を用いる場合における該積層体を形成した後、などに、分極処理をすることが好ましい。
これは、分極処理により圧電層に保持された電荷が外部環境と電気的に接続して減衰するのを、圧電層に積層される層により防止することができるため、より高感度の圧電センサーを得ることができると考えられること、また、圧電層と該圧電層に積層される層との間に電荷を保持し得る新たな界面を形成できる傾向にあるため、得られる圧電センサーにおける圧電層の圧電率が向上すると考えられることによる。
【実施例】
【0093】
次に、本発明の一実施形態について実施例を示してさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0094】
[実施例1]
10cm角の下記圧電シートの片面側中央部の9cm角の範囲に、プラスコート(株)製ポリカームPCS-1201S(導電性フィラーとバインダーとを含む)を塗布し、80℃で30分間養生して硬化させることで導電性塗膜(厚さ:10μm)を形成し、信号極とした。
【0095】
前記圧電シートは、以下の通り作製した。
単繊維径が5~8μmであり、繊維径変動係数が0.3であるガラス繊維を束ねることで繊維束(繊維束径(長径):15μm)を形成し、得られた繊維束を平織することでガラス織布を作成した。このガラス織布を、PTFE分散液に浸潰してPTFE粒子を含浸させることで、圧電シート(厚さ:100μm)を作製した。
得られた圧電シートの質量は、1.2g/m2であった。
得られた圧電シートから試験片を切り出し、窒素雰囲気下、400℃で30分間加熱した前後の質量変化により、ガラスの質量およびPTFEの質量を算出することで、得られた圧電シートにおけるPTFE含有比率を求めた。該PTFE含有比率は、35質量%であった。
また、前記PTFEおよびガラスの質量比および試験片の質量実測値から、空隙がないものとして算出された試験片の理論体積と、同試験片の寸法を測定することにより算出された実測体積との差から下記式により、得られた圧電シートの空隙率を算出した。該空隙率は、34体積%であった。
空隙率(体積%)=(1-(理論体積/実測体積))×100
【0096】
圧電シートの導電性塗膜と反対側面に、グランド極として9cm角のアルミニウム箔(厚さ:18μm)を設置することで圧電センサーを形成した。
得られた圧電センサーに、春日電機(株)製のコロナ放電装置を用いて、電極間距離12.5mm、電極間電圧-15kV、室温下で3分間(但し、過電流にならない条件下)コロナ放電することで、前記圧電センサーを分極処理した。
分極処理した圧電センサーに、該圧電センサーからの電気信号を取り出すために、銀ペーストを用いて、前記信号極と同軸ケーブルの芯線とを電気的に接続し、銀ペーストを用いて、前記グランド極と該同軸ケーブルの編組線とを電気的に接続した。
【0097】
得られた圧電シートにおける信号極およびグランド極の曲げ剛性は、以下のように測定した。信号極の曲げ剛性は2GPaであり、グランド極の曲げ剛性は70GPaであった。
【0098】
<曲げ剛性>
曲げ剛性は、材料のヤング率と断面二次モーメントの積として定義する。断面二次モーメントは、W×D3/12で表され、WおよびDはそれぞれ材料の幅および厚さである。
なお、信号極のヤング率は、ポリカームPCS-1201Sをガラス板上に塗布し、80℃で30分間養生して硬化させた後、ガラス板から剥離することで、厚さ10μmの塗膜を形成し、得られた塗膜を用い、JIS R 1602(3点曲げ法)に基づいて静的ヤング率を測定した。
また、グランド極のヤング率は、前記積層する前のアルミニウム箔を用い、JIS Z 2280(3点曲げ法)に基づいて静的ヤング率を測定した。
【0099】
前記同軸ケーブルと接続した圧電センサー全体をPET製テープで封止し、さらにその外側両面に、電磁シールド層として導電性テープを積層した。次いで、銀ペーストを用いて、この電磁シールド層と前記同軸ケーブルの編組線とを電気的に接続した。その後、得られた積層体をPET製テープで封止することで、評価用センサーを作製した。
【0100】
<押圧に対するセンサーの初期性能評価>
評価用センサーの初期性能を評価するために、作製した評価用センサーを、信号極が下側になるように絶縁性の水平な台の上に置き、同軸ケーブルをオシロスコープに接続し、JIS B 9717-1に準拠して出力電圧を測定した。室温において、このように配置した評価用センサーの上側中央に、鉛直方向からφ80mmのステンレス製の圧子を2mm/sの速度で押圧したときの出力電圧を測定した。結果を表1に示す。
【0101】
<繰り返し押圧に対するセンサーの耐久性能評価>
評価用センサーの耐久性を評価するために、前記と同様の方法でオシロスコープと接続した評価用センサーの上側中央に、室温において、鉛直方向から斜め14°の角度から、φ80mmのステンレス製の圧子を500mm/sの速度で繰り返し、具体的には、10,000回、100,000回または1,000,000回押圧したときそれぞれの出力電圧を測定した。結果を表1に示す。
【0102】
[比較例1]
信号極として、前記導電性塗膜の代わりに、前記グランド極と同じアルミニウム箔を信号極とした以外は、実施例1と同様の方法で評価用センサーを作製し、実施例1と同様にして該センサーの性能評価を行った。結果を表1に示す。
【0103】
【0104】
[実施例2]
実施例1で用いたグランド極の代わりに、グランド極として9cm角の銅箔(厚さ:35μm)を用いた以外は実施例1と同様にして、繰り返し押圧に対するセンサーの耐久性能評価を行った。1000回押圧したときの出力電圧が、1500mV以上であった場合をAAと評価とし、1000mV以上1500mV未満であった場合をBBと評価し、300mV以上1000mV未満であった場合をCCと評価し、300mV未満であった場合をDDと評価した。結果を表2に示す。
なお、実施例1と同様に測定したグランド極の曲げ剛性は129GPaであった。
【0105】
[実施例3]
実施例2で用いたグランド極の代わりに、グランド極として9cm角のニッケル箔(厚さ:30μm)を用いた以外は実施例2と同様にして、繰り返し押圧に対するセンサーの耐久性能評価を行った。結果を表2に示す。
なお、実施例1と同様に測定したグランド極の曲げ剛性は198GPaであった。
【0106】
[比較例2]
実施例3で用いた信号極の代わりに、信号極として9cm角の銅箔(厚さ:35μm)を用いた以外は実施例3と同様にして、繰り返し押圧に対するセンサーの耐久性能評価を行った。結果を表2に示す。
なお、実施例1と同様に測定した信号極の曲げ剛性は129GPaであった。この際の信号極のヤング率は、積層する前の銅箔を用い、JIS Z 2280(3点曲げ法)に基づいて静的ヤング率を測定した。
【0107】