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特許7391079巻付きカフ形電極アセンブリの形態の医療用インプラント
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-24
(45)【発行日】2023-12-04
(54)【発明の名称】巻付きカフ形電極アセンブリの形態の医療用インプラント
(51)【国際特許分類】
   A61N 1/05 20060101AFI20231127BHJP
   A61F 2/02 20060101ALI20231127BHJP
【FI】
A61N1/05
A61F2/02
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2021506296
(86)(22)【出願日】2019-08-05
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-12-02
(86)【国際出願番号】 EP2019071025
(87)【国際公開番号】W WO2020030592
(87)【国際公開日】2020-02-13
【審査請求日】2022-05-27
(31)【優先権主張番号】102018213120.1
(32)【優先日】2018-08-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】517119556
【氏名又は名称】ニューロループ ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】プラフタ,デニス
(72)【発明者】
【氏名】キミヒ,ファビアン
(72)【発明者】
【氏名】ボレティウス,ティム
【審査官】神ノ田 奈央
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-519628(JP,A)
【文献】米国特許第05938596(US,A)
【文献】米国特許第04602624(US,A)
【文献】特開2002-102360(JP,A)
【文献】特開2012-130579(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 1/05
A61F 2/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
巻付きカフ形電極アセンブリ、略してカフ電極の形態の医療用インプラントであって、前記巻付きカフ形電極アセンブリが、フレキシブルで生体適合性のフィルム状のキャリヤ基材を有していて、該キャリヤ基材が、巻付き軸線を中心とした巻付きによりチューブの形状となる第1キャリヤ基材領域を有している、医療用インプラントにおいて、
前記キャリヤ基材に、保護構造体が直接的または間接的に取り付けられていて、該保護構造体が、開かれた第1状態から、巻かれてチューブを形成する前記第1キャリヤ基材領域を、前記巻付き軸線に対して軸線方向では少なくとも部分的に、かつ前記チューブの周方向では完全に取り囲む閉じられた第2状態へと移行可能であり、
前記チューブを形成する前記第1キャリヤ基材領域には、第2キャリヤ基材領域が間接的または直接的に一体的に続いており、
前記保護構造体が、ウェブ状に形成された少なくとも1つの接続区分を介して、前記キャリヤ基材の前記第2キャリヤ基材領域に接続されている、医療用インプラント。
【請求項2】
前記保護構造体が、フィルム状に形成されている、請求項1に記載の医療用インプラント。
【請求項3】
前記保護構造体が、前記閉じられた第2状態において、巻かれてチューブを形成する前記第1キャリヤ基材領域を軸線方向および周方向で完全に覆っている、請求項1または請求項2に記載の医療用インプラント。
【請求項4】
前記保護構造体に、前記閉じられた第2状態において前記保護構造体の前記周方向の端部同士を接合する接合機構が取り付けられていて、該接合機構が、前記保護構造体を前記閉じられた第2状態において解除可能に固定的に拘束している、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の医療用インプラント。
【請求項5】
前記保護構造体それぞれが接合されて直円筒形を形成する2つのハーフシェルの形態にて形成されており、該2つのハーフシェルが、相互に補完し合って、前記チューブを形成する前記第1キャリヤ基材領域の内部に形成された直円柱形の中空室を取り囲む、請求項1から請求項のいずれか一項に記載の医療用インプラント。
【請求項6】
記2つのハーフシェルが、弾性ヒンジを介して互いに一体的に接続されていて、前記開かれた状態から、前記円柱形の中空室を取り囲む閉じられた状態へと移行可能である、請求項に記載の医療用インプラント。
【請求項7】
前記保護構造体が、フィルム状に形成された巻付きカフの形態にて形成されていて、該巻付きカフが、円柱形の中空室を取り囲む面状の巻付き部を有している、請求項1から請求項のいずれか一項に記載の医療用インプラント。
【請求項8】
前記保護構造体が、前記閉じられた第2状態において、前記巻付き軸線に対して半径方向で反対側の表面を有しており、該表面には、血管外の組織周辺に物理的かつ電気的に接触して電気的な信号をピックアップする少なくとも1つの接触電極が取り付けられており、該接触電極が、前記保護構造体内に統合された、前記キャリヤ基材に沿ってさらに延びる電気的な導体構造体に接続されている、請求項1から請求項のいずれか一項に記載の医療用インプラント。
【請求項9】
前記第2キャリヤ基材領域には、コネクタである電気機械的な接続構造体が該第2キャリヤ基材領域に沿って取り付けられており、該電気機械的な接続構造体に、埋込み可能な電気的なエネルギの供給ユニットにつながる線路である電気的な供給兼導出構造体が接合されており、
前記保護構造体が、前記電気的な供給兼導出構造体に間接的または直接的に取り付けられている、請求項1から請求項のいずれか一項に記載の医療用インプラント。
【請求項10】
前記第2キャリヤ基材領域が、弾性的な材料から成る被覆体により少なくとも部分的に取り囲まれている、請求項に記載の医療用インプラント。
【請求項11】
前記保護構造体が、前記被覆体に一体的に接続されている、請求項10に記載の医療用インプラント。
【請求項12】
前記保護構造体が、前記キャリヤ基材に一体的に接続されている、請求項1から請求項のいずれか一項に記載の医療用インプラント。
【請求項13】
前記キャリヤ基材は、前記チューブの形状となった前記第1キャリヤ基材領域において神経線維束を取り囲み、
前記キャリヤ基材の前記第1キャリヤ基材領域は、外的な力作用なしに前記キャリヤ基材の材料固有の機械的な力によって前記チューブの形状となり、予め規定された巻付き配置を占め、該巻付き配置では、前記第1キャリヤ基材領域の自由な区分端部が、少なくとも一層だけ前記キャリヤ基材により、つまり少なくとも1つの基材巻付き部により半径方向で前記神経線維束の自然な形状変化に追従できるよう緩く覆われている、請求項1から請求項12のいずれか一項に記載の医療用インプラント。
【請求項14】
前記フィルム状のキャリヤ基材および前記フィルム状の保護構造体が、それぞれ薄層または薄膜として形成されており、5μm~50μmの層厚もしくは膜厚を有している、請求項2から請求項13のいずれか一項に記載の医療用インプラント。
【請求項15】
フレキシブルで生体適合性のフィルム状の前記キャリヤ基材から成っている前記第1キャリヤ基材領域が、前記巻付き軸線を中心とした1周半以上の巻付きにより、チューブの形状となる、請求項1から請求項14のいずれか一項に記載の医療用インプラント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、巻付きカフ形電極アセンブリ、略してカフ電極の形態の医療用インプラントであって、巻付きカフ形電極アセンブリが、フレキシブルで生体適合性のフィルム状のキャリヤ基材を有していて、該キャリヤ基材が、巻付き軸線を中心とした巻付きによりチューブの形状となる第1キャリヤ基材領域を有している、巻付きカフ電極アセンブリに関する。
【背景技術】
【0002】
体内に永続的にまたは少なくとも長期にわたって留置するために適している電子的なインプラントは、一般的に、臓器機能に治療的な影響を与えるために使用される。それぞれ異なる治療的な使用目的のために固有に調整されて種々異なる形態にて形成される多数のインプラントでは、詳細に考慮してみると、主に巻付きカフ形電極アセンブリとして構成されたカフ電極とも呼ばれるインプラントがある。このインプラントは、少なくとも電気的な刺激信号を神経線維束に必要に応じて印加するために、特に体内における取付けと、神経線維束に沿ったできるだけ永続的な固定とのために構成されている。
【0003】
ニューロン電気信号の検出および印加を目的として、巻付きカフの形態にて、人体または獣身内に神経線維束に沿って永続的にまたは少なくとも長期にわたって留置するために適切に構成されている、冒頭で述べた形式の医療用インプラントは、国際公開第2016/055512号に記載されていて、図2に概略的に図示されている。生体適合性の面状もしくはフィルム状のキャリヤ基材2から製造され、巻付きカフとして形成された医療用インプラント1は、第1キャリヤ基材領域3を有している。この第1キャリヤ基材領域3は、空間軸線5を中心として少なくとも1つの基材巻付き部を形成するように、好適には1周半、2周または複数周の基材巻付き部を形成するように巻かれている。基材巻付き部は、直円柱形の中空室Hを半径方向で取り囲んでいる。直円柱形の中空室Hに面した基材表面には、多数の電極面(図2には図示せず)が設けられている。これらの電極面は、巻付きカフ1により取り囲まれた神経線維束の神経上膜(同様に図2には図示せず)に間接的または直接的に物理的に接触する。医療用インプラント1が、1つには、相応の埋込み後に神経線維束に沿ってできるだけ位置不変に留置され、もう1つには、神経線維束の自然な形状変化に追従することができるか、またはこの形状変化に少なくとも著しく機械的に抵抗しないことを保証するために、個々の基材巻付き部は互いに緩く接触していて、神経線維束が膨張した場合に、相応の相対運動によって、取り囲まれている中空室Hを拡径することができる。
【0004】
第1キャリヤ基材領域3のキャリヤ基材2に加えられた材料の予張力により、キャリヤ基材2は、外的な力作用がない場合には、予め規定された巻付き配置を占めている。この巻付き配置では、自由な区分端部4が、少なくとも一層だけ第1キャリヤ基材領域3により、つまり少なくとも1つの基材巻付き部により半径方向で緩く覆われている。
【0005】
巻かれた第1キャリヤ基材領域3には、この実施形態では、空間軸線5を中心として巻かれていない第2キャリヤ基材領域6が一体的に続いている。第2キャリヤ基材領域6内には、電気的な供給線路もしくは導出線路がガイドされている。電気的な供給線路もしくは導出線路は、神経線維束の神経上膜に間接的または直接的に接触する複数の電極に接続されている。同様に面状に形成された第2キャリヤ基材領域6は、図示された実施例では、空間軸線5に対して平行に配向された、ウェブ状に形成された面状区分61を有している。この面状区分61は、たとえば埋込み可能なコネクタSの形態のインタフェースS(図示せず)を介して、医療用インプラント1から離れる方向に延びる接続構造体7に接続されている。この接続構造体7に沿って、電気的な線路は、制御機器もしくはエネルギ源の形態の、好適には埋込み可能な別個の供給ユニットへとガイドされる。
【0006】
負荷がかけられていない状態では、医療用インプラント1は、図3のa)の概略図によれば、成形されて巻付きカフを形成する第1キャリヤ基材領域3の均一な直径の包囲部でもって神経線維束Nに沿って設置されている。この状態では、神経線維束Nに機械的な外的圧力は作用しないか、または最小限の外的圧力しか作用しない。これに対して、たとえば生体運動に由来する外的な力Fが医療用インプラント1に作用すると、巻付きカフとして形成された第1キャリア基材領域3に沿った巻付き幾何学形状の変形が生じてしまう。これにより、1つには、神経線維束Nに沿った医療用インプラントの固定をもはや確保しておくことができず、もう1つには、機械的な応力が医療用インプラントを介して神経線維束に作用してしまう。図3のb)~図3のe)には、このような負荷状況が描かれている。したがって、たとえば、神経線維束Nの長手延在方向に対してほぼ平行に配向されている引張力Fは、巻付きカフに漏斗状の変形をもたらし、この漏斗状の変形は、一方では、神経線維束Nに狭窄Eをもたらし、他方では、拡開Aと、これに関連する、神経線維束Nからの巻付きカフの半径方向の離間とをもたらす。これに関しては、図3のb)および図3のc)を参照されたい。神経線維束Nの狭窄Eは、医療用インプラント1に、神経線維束の長手延在方向に対して直交方向に配向された力Fが作用した場合にも同様に生じる。これに関しては、図3のd)に図示した負荷状況を参照されたい。この場合、力Fは、引張力として、神経線維束Nに対して横方向に作用する。図3のe)では、力Fが、神経線維束Nへと向けられた押力の形で逆の力方向で作用し、これにより、巻付きカフが拡径されて、神経線維束Nから緩められる傾向にある。
【0007】
冒頭で述べた形式の長期間にわたって埋め込まれたカフ電極は、機能的な損傷と、場合によっては必要となる、神経線維束からのカフ電極の外科的な取外しの難化とをもたらしてしまう、自然な組織成長(Gewebewachstum)により引き起こされる別の不都合な影響をさらに受ける。組織成長によって、カフ電極は、神経線維束に沿って本格的に食い込まれるか、もしくは組織により完全に覆われる。巻かれてチューブを形成する第1キャリヤ基材領域内の緩いキャリヤ基材領域に基づいて、このような成長による組織領域は、個々の基材巻付き層の間にも侵入してしまう。
【0008】
別の形態のカフ電極が、米国特許出願公開第2013/0123895号明細書に記載されている。このカフ電極は、巻付き電極とは異なり、正方形の基体を有している。この基体には、布状の2つの面状部材が取り付けられている。これらの面状部材は、互いに一層だけ重ねられて神経に巻き付いている。両面状部材の相互の巻付きにより、半径方向外側に位置する面状部材は、半径方向内側に位置する面状部材を安定化する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の根底にある課題は、巻付きカフ形電極アセンブリ、略してカフ電極の形態の医療用インプラントであって、巻付きカフ形電極アセンブリが、フレキシブルで生体適合性のフィルム状のキャリヤ基材を有していて、キャリヤ基材が、巻付き軸線を中心とした巻付きによりチューブの形状となる第1キャリヤ基材領域を有している、医療用インプラントを改良して、引張力に起因した機械的な負荷に関する上述の欠点と、これにより引き起こされる巻付きカフの変形と、組織成長に起因してカフ電極が覆われることと、これに関連する、神経繊維索からのインプラントの必要となる外科的な取外し時の負傷のリスクとを著しく減じるか、もしくは完全に排除することである。さらに、体内管または神経線維束からの変位および完全な剥離に対してインプラントを位置固定することが重要である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の根底にある課題の解決手段は、請求項1に記載されている。本発明の思想を有利な形式で発展させる特徴は、従属請求項に記載されている。
【0011】
本解決手段によれば、請求項1の前提部に記載の特徴を備えた、カフ電極の形態の医療用インプラントは、キャリヤ基材に、保護構造体が直接的または間接的に取り付けられていて、保護構造体が、開かれた第1状態から、巻かれてチューブを形成するキャリヤ基材領域を、巻付き軸線に対して軸線方向では少なくとも部分的に、かつチューブの周方向では完全に取り囲む閉じられた第2状態へと移行可能であることにより優れている。
【0012】
本解決手段により形成された保護構造体の根底にある思想は、カフ電極、つまり特に巻かれて直円筒形のチューブを形成し、神経索に直接的に接触するキャリヤ基材領域のための機械的な保護および付加的な保持を目的とした、神経索に沿って取り付けられたカフ電極のための包囲部または被覆部に関する。さらに、保護構造体は、カフ電極を覆う細胞もしくは組織成長に対するバリヤを形成することができる。
【0013】
医者にとってできるだけ簡単な取扱いの目的のために、本解決手段による保護構造体は、カフ電極のキャリヤ基材に直接的に、または電気的な供給兼導出構造体に直接的に分離不能に取り付けられている。電気的な供給兼導出構造体は、好適には解除可能な固定的な接合部を介してカフ電極に接続可能である。こうして、医者は、キャリヤ基材に間接的または直接的に取り付けられた保護構造体を、時間的な順序において、神経索の周囲へのカフ電極の当接直後に適用することができ、この保護構造体を、カフ電極に対して構造的に正確に予め規定された姿勢および位置で適用することができる。保護構造体をカフ電極に対して相対的に時間をかけて位置決めしかつセンタリングすることは、保護構造体とカフ電極との、空間的に不変に規定された対応配置に基づいて省略される。さらに、インプラントからの保護構造体の分離が排除されていることが確保されている。
【0014】
好適には、保護構造体は、ウェブ状に形成された少なくとも1つの接続区分を介して、キャリヤ基材に間接的または直接的に接続されている。キャリヤ基材に保護構造体が直接的に取り付けられている場合、好適にはフィルム状に形成された保護構造体は、ウェブ状に形成された少なくとも1つの接続区分を介してキャリヤ基材にモノリシックに接続されている。
【0015】
少なくとも1つの接続区分の取付けならびに幾何学形状および幾何学サイズは、好適には、フィルム状に形成された保護構造体が、巻かれてチューブを形成するキャリヤ基材領域に対して相対的に一義的な位置および姿勢を占め、これにより医者が保護構造体を開かれた第1状態から、包囲もしくは被覆を目的として、巻かれてチューブを形成する第1キャリア基材領域を取り囲む閉じられた第2状態へと一義的かつ確実に移行させることができるように選択されている。この第2状態では、保護構造体は、巻かれてチューブを形成する第1キャリヤ基材領域を、好適には軸線方向および周方向で完全に覆っている。好適には、保護構造体の軸線方向の延在長さは、カフ電極の軸線方向の延在長さよりも大きく寸法設定されているので、保護構造体は、閉じられた第2状態では、カフ電極の、巻かれてチューブを形成する第2キャリヤ基材領域を軸線方向両側でそれぞれオーバラップを伴って越える。これにより、カフ電極が、時間の経過において、周囲の組織により覆われるかもしくは覆い隠されることを確実に阻止することができる。
【0016】
カフ電極におけるフィルム状のキャリヤ基材の構成および形状に応じて、保護構造体は、直接的に、つまりウェブ状の接続区分を設けることなしに、好適にはモノリシックに、キャリヤ基材に接続されていてよい。
【0017】
閉じられた第2状態にある保護構造体が制御されずにカフ電極から外れないようにすることを確保するために、好適な1つの実施例は、保護構造体に取り付けられた接合機構を規定している。この接合機構は、形状接続部および/または力接続部を形成しながら、保護構造体を閉じられた第2状態で固定する。接合機構は、好適には係止機構の形態にて実現されている。面ファスナ状の接続構造体および/またはベルト状もしくは糸状の取付け手段が保護構造体に取り付けられていてもよい。面ファスナ状の接続構造体および/またはベルト状もしくは糸状の取付け手段は、ループおよび/または結び目を形成しながら、カフ電極への保護構造体の永続的で固定的な保持のために働く。
【0018】
保護構造体は、好適な実施形態では、円筒形の2つのハーフシェルを規定している。これらのハーフシェルは、相互に補完し合って、もしくはオーバラップして直円柱形の中空室を取り囲む。この中空室内に、巻かれてチューブを形成するキャリヤ基材領域が、カフ電極が周囲に当接させられている神経索と一緒に、継ぎ目なしに位置している。
【0019】
円筒形の2つのハーフシェルは、好適には一体的に、つまりモノリシックに、好適には弾性ヒンジを介して互いに接続されていて、開かれた状態から、円柱形の中空室を取り囲む閉じられた状態へと単なる旋回工程により移行可能である。直接的に隣接するか、または部分的にオーバラップするハーフシェル縁部の領域に、上述の種類の少なくとも1つの接合機構が、好適には係止機構の形態にて設けられている。係止機構に対して代替的に、または係止機構と組み合わせて、少なくとも1つのベルト状または糸状の位置固定手段が設けられている。この位置固定手段は、ハーフシェルに設けられた適切な取付け開口を通ってループおよび/または結び目を形成しながら位置固定可能である。
【0020】
別の1つの実施形態は、フィルム状に形成された巻付きカフの形態の保護構造体の構成を規定している。巻付きカフはその都度、円柱形の中空室を取り囲む面状の唯1つの巻付き部を有している。好適には、保護構造体は、この場合に、カフ電極の、巻かれてチューブを形成する第1キャリヤ基材領域の領域において、キャリヤ基材厚さに比べて大きなフィルム厚を有していて、とりわけ保護構造体は、形状を維持するできるだけ大きな材料固有の材料剛性を有していることが望ましく、これにより、保護保持力を内側に位置するカフ電極に作用させることができる。この場合にも、付加的な接合機構が機械的な拘束の範疇において保護構造体を閉じられた形に保つことができる。
【0021】
純粋な取付け機能もしくは保持機能ならびに組織成長に対する保護の他に、保護構造体の別の好適な1つの実施形態は、電気センサ機能を規定している。したがって、保護構造体は、閉じられた第2状態において、巻付き軸線に対して半径方向で反対側の表面に少なくとも1つの接触電極を有している。この接触電極は、保護構造体内に統合された、第2キャリヤ基材領域に沿ってさらに延びる電気的な導体構造体に接続されている。こうして、埋め込まれた状態で、保護構造体の外面に取り付けられた少なくとも1つの接触電極は、血管外の組織周辺に物理的かつ電気的に接触し、これにより電気的な信号ピックアップが可能となる。この信号ピックアップは、適切な形式で、診断信号入力のために、たとえばECG信号ピックアップの目的で使用することができる。
【0022】
カフ電極内に設けられた電極と、上記で説明した、保護構造体の外側の表面に取り付けられた少なくとも1つの接触電極とは、それぞれカフ電極のキャリヤ基材もしくは保護構造体内に延びる電気的な線路を介して接触させられている。電気的な線路は、全て一緒に、カフ電極とは別個に埋め込まれた、好適には制御ユニットおよび電気的なエネルギ源ユニットの形態の供給ユニットへとガイドされる。
【0023】
カフ電極と、埋め込まれた電気的な供給ユニットとの間に延びる電気的な供給兼導出構造体は、好適には、好適にはコネクタの形態の電気機械的な接続構造体を介して、カフ電極のキャリヤ基材に続いている。本解決手段による保護構造体は、少なくとも1つの接続区分を介して、カフ電極の第2キャリヤ基材領域に直接的に一体的に接続されているか、または電気的な供給兼導出構造体に、電気機械的な接続構造体において、または電気機械的な接続構造体のできるだけ近傍において取り付けられている。
【0024】
カフ電極のキャリヤ基材も、フィルム状の保護構造体も、薄層もしくは薄膜の形態にて形成されていて、互いに一体的に接続されていて、5μm~50μm、好適には5μm~20μmの範囲の薄層厚もしくは薄膜厚を有している。
【0025】
本発明を以下に一般的な発明の思想を制限することなしに、複数の実施例に基づき図面を参照しながら例示的に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1a】開かれた位置a)で保護構造体を備えるカフ電極を示す図。
図1b】閉じられた位置b)で保護構造体を備えるカフ電極を示す図。
図2】先行技術によるカフ電極を示す図。
図3】神経索上のカフ電極の様々な負荷状態を示す図。
図4a】カフ電極の代替的な構成および保護構造体の取付けを示す図。
図4b】カフ電極の代替的な構成および保護構造体の取付けを示す図。
図5a】保護構造体の代替的な構成を開かれた位置a)で示す図。
図5b】保護構造体の代替的な構成を閉じられた位置b)で示す図。
図6】保護構造体の代替的な構成および取付けを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0027】
図1aは、図2において既に説明された図面の巻付きカフ電極もしくはカフ電極の形態の医療用インプラント1を示していて、つまりキャリヤ基材2のキャリヤ基材領域3が、巻付き軸線を中心とした少なくとも1周半、好適には2周または複数周の巻付きにより成形されていて、材料固有の規定された予張力によりチューブの形状を占めている。このチューブにおいてカフ電極は、自己支持性を伴って、たとえば神経の周縁部に位置不変に位置固定が可能である。既に説明された符号を備えた医療用インプラント1の既に説明された構成要素は、繰返しを避けるために、ここには改めて記載しない。
【0028】
巻付き軸線5を中心として巻かれてチューブを形成するカフ電極のキャリヤ基材領域3を機械的に保護する目的のために、保護構造体8が設けられている。この保護構造体8は、ウェブ状に形成された接続区分8’を介して、第2キャリヤ基材領域6の領域において、キャリヤ基材2に、特にウェブ状に形成された面状区分61に接続されている。保護構造体8ならびにウェブ状に形成された接続区分8’は、カフ電極のキャリヤ基材2を形成する材料と同一のフィルム状の材料、好適には薄膜もしくは薄層ポリイミドフィルムから製造されている。薄膜もしくは薄層ポリイミドフィルムは、好適には5μm~20μmの範囲のフィルム厚を有している。接続区分8’とキャリヤ基材2とは、好適にはモノリシックに接続されている。
【0029】
保護構造体8は、円筒形の2つのハーフシェル9,10を有している。これらのハーフシェル9,10は、モノリシックに、好適には弾性ヒンジ(Festkoerpergelenk)11を介して互いに接続されている。弾性ヒンジ11は、好適には折り線(Knickfalze)の形態にて形成されている。
【0030】
神経線維束に沿って医療用インプラント1を取り付けた後に、機械的な保護を目的として、図1aに開かれた状態で図示された保護構造体8が、図1bに示した閉じられた状態へと移行させられて、これにより、両ハーフシェル9,10が、直円筒形を形成しながら、巻かれてチューブを形成する第1キャリヤ基材領域3の周囲で接合される。より良好な説明のために両ハーフシェル9,10がそれぞれ透明に図示されている、保護構造体8の、図1bに図示した閉じられた状態は、保護構造体8の中空円筒形の閉じられた形状が、周方向でも、巻付き軸線5に対して軸線方向でも、内側に位置する巻付きカフを完全に取り囲んでいることを明確に示している。好適には、保護構造体8は、閉じられた状態において、内側に位置する巻付きカフに対してそれぞれ両側で、軸線方向の過剰寸法を有しているので、こうして、内側に位置する巻付きカフが組織成長により機能的に損傷されることが阻止される。
【0031】
保護構造体8の、それぞれ接合されて完全な直円筒形を形成するハーフシェル9,10は、有利な形式で、単に概略的に図示された接合機構12により永続的に閉じられた状態に保つことができる。
【0032】
ウェブ状に形成された接続区分8’を面状区分61に直接的に取り付けることに対して代替的には、ウェブ状に形成された接続区分8’’を(図1bにおいて破線で示された接続区分8’’を参照)、インプラント1から離れる方向に延びる接続構造体7に、好適にはインタフェースSのすぐ近傍において接続することも同様に可能である。
【0033】
図4aには、カフ電極1の形態の医療用インプラントの代替的な構成が図示されている。カフ電極は、実質的に、巻かれてチューブを形成するキャリヤ基材領域3から成っており、キャリヤ基材領域3から、キャリヤ基材の面状区分が直接的に導出されていて、この面状区分に沿って電気的な線路(図示せず)が導出されている。図1aおよび図1bに示した構成と同様に2つのハーフシェル9,10から成っている保護構造体8は、キャリヤ基材領域3に直接的に、つまりあらゆる接続構造体なしに続いている。図4bには、保護構造体8の閉じられた状態が図示されている。より理解しやすくするという理由からのみ、保護構造体8は透明に図示されている。この実施形態では、ハーフシェル9,10の端縁部は、オーバラップ部Ueに沿ってオーバラップしている。
【0034】
図5aには、保護構造体8を形成するための代替形態が図示されている。保護構造体8は、この代替形態の場合、フィルム状の面状部材の形態にて形成されている。この面状部材には、外部の力Fが作用している状態でのみ保護構造体8を図5aに示した開かれた状態に保つことができるように、材料固有の機械的な予張力が加えられている。図1aに図示した保護構造体8と同様に、面状に形成された保護構造体8も、第2キャリヤ基材領域6に一体的に、特に面状区分61においてウェブ状に形成された接続区分8’を介してモノリシックに接続されている。
【0035】
神経索へのカフ電極の取付け後に、保護構造体8は、図5bに示した閉じられた状態に移行させられる。保護構造体8の面状領域は、材料固有の機械的な予張力に基づいて、直円筒形を形成しながら自動的に変形する。保護構造体8を閉じられた状態に保つ保持力は、好適には、保護構造体8の面状領域の厚さを相応して大きく選択する、たとえばキャリヤ基材2の領域におけるフィルム厚よりも大きく選択することによって、増強することができる。
【0036】
当然ながら、付加的な接合機構を設けること、保護構造体8と接続構造体8’との代替的な取付け、ならびに接続構造体を有しない、つまりキャリヤ基材領域3への保護構造体8の直接の取付けに関して既に説明された全ての措置は、図4aおよび図4bによるカフ電極の構成と同様であり、図5aおよび図5bに図示された実施例の場合にも転用可能である。
【0037】
図6には、保護構造体8が閉じられた状態で図示されている、つまり保護構造体8が、内側に位置するカフ電極を取り囲んでいる。保護構造体8は、図1aおよび図1bに示したような2つのハーフシェルの形態にて形成されていてもよいし、図5aおよび図5bに示したような巻付きカフの形態にて形成されていてもよい。上述された実施形態とは異なり、保護構造体8は、図6の場合、接続構造体8’’’を介して、エラストマ材料、好適にはシリコーンまたはシリコーンベースのプラスチックから製造された被覆体13に接続されている。この被覆体13は、少なくとも面状区分61の一部を取り囲んでいる。好適にはチューブ形の被覆体13は、フィルム状の面状区分61に、この面状区分61に一体的に設けられたアンカ固定構造体14を介して、形状接続部の形式で接合されている。面状区分61は、キャリヤ基材2の一部であり、カフ電極の、巻かれてチューブを形成するキャリヤ基材領域3に間接的または直接的に続いている。被覆体13の形状およびサイズは、カフ電極が、神経線維束への体内での取付けの目的のために、医者にとってより簡単に取扱い可能であるように選択されている。この場合に、必須ではないが有利な形式で、保護構造体8が、被覆体13を形成している材料と同一の材料から製造されている。
【符号の説明】
【0038】
1:医療用インプラント
2:キャリヤ基材
3:第1キャリヤ基材領域
4:自由な区分端部
5:巻付き軸線
6:第2キャリヤ基材領域
61:ウェブ状の面状区分
7:接続構造体
8:保護構造体
8’,8’’,8’’’:接続区分
9,10:ハーフシェル
11:弾性ヒンジ
12:接合機構
13:被覆体
14:アンカ固定構造体
Ue:オーバラップ部
図1a
図1b
図2
図3
図4a
図4b
図5a
図5b
図6