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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-24
(45)【発行日】2023-12-04
(54)【発明の名称】変速機
(51)【国際特許分類】
   F16H 3/083 20060101AFI20231127BHJP
   F16D 11/10 20060101ALI20231127BHJP
【FI】
F16H3/083
F16D11/10 C
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021563557
(86)(22)【出願日】2019-12-13
(86)【国際出願番号】 JP2019048876
(87)【国際公開番号】W WO2021117212
(87)【国際公開日】2021-06-17
【審査請求日】2022-05-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000154347
【氏名又は名称】株式会社ユニバンス
(74)【代理人】
【識別番号】110000534
【氏名又は名称】弁理士法人真明センチュリー
(72)【発明者】
【氏名】山内 義弘
(72)【発明者】
【氏名】中條 泰雅
(72)【発明者】
【氏名】加藤 忠彦
【審査官】小川 克久
(56)【参考文献】
【文献】特許第6438292(JP,B2)
【文献】特開2016-061411(JP,A)
【文献】特開2016-080127(JP,A)
【文献】特開2012-127471(JP,A)
【文献】特開昭61-084441(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 3/083
F16D 11/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸に配置され所定のギヤ段を構成し軸方向の端面に第1歯が設けられた第1ギヤと、
前記第1ギヤが構成するギヤ段よりも高いギヤ段を構成し前記軸に配置され軸方向の端面に第2歯が設けられた第2ギヤと、
前記第1ギヤ及び前記第2ギヤを前記軸に選択的に結合するシフト装置と、を備え、
前記シフト装置は、前記軸に結合する円環状の第1ハブ及び第2ハブと、
前記第1ハブの外周に配置され前記第1ハブに対して回転方向に係合可能かつ軸方向に移動可能であって前記第1歯にかみ合う第1ドグ歯が軸方向の端面に設けられた第1リングと、
前記第2ハブの外周に配置され前記第2ハブに対して回転方向に係合可能かつ軸方向に移動可能であって前記第2歯にかみ合う第2ドグ歯が軸方向の端面に設けられた第2リングと、
前記第1リングに取り付けられる第1フォークと、
前記第2リングに取り付けられる第2フォークと、
第1カム溝および第2カム溝が形成されたシフトドラムと、
前記第1カム溝に係合する第1係合部が配置され、前記第1カム溝に沿って前記第1フォークを軸方向に移動させる第1ロッドと、
前記第2カム溝に係合する第2係合部が配置され、前記第2カム溝に沿って前記第2フォークを軸方向に移動させる第2ロッドと、を備える変速機であって、
前記シフトドラムは、前記第1ロッド及び前記第2ロッドを中立位置に設定する中立領域と、
前記第2ドグ歯が前記第2歯にかみ合うように前記第2ロッドの軸方向の位置を設定し、前記第1歯にかみ合う前記第1ドグ歯のかみ合いを解除するように前記第1ロッドの軸方向の位置を設定する解除領域と、を備え、
前記シフト装置は、前記第1ロッドと前記第1フォークとの間に介在し、前記解除領域において弾性力によって前記第1フォークを軸方向に付勢するばねと、
前記ばねの弾性力とは別に、前記解除領域において前記第1ドグ歯と前記第1歯とを離隔させる軸方向の推力を前記第1リングに加える推力発生部と、を備え
前記第1フォークは、前記中立領域において、前記第1フォークに前記ばねの弾性力が加わらない状態で前記第1ロッドに軸方向の位置が固定されている変速機。
【請求項2】
軸に配置され所定のギヤ段を構成し軸方向の端面に第1歯が設けられた第1ギヤと、
前記第1ギヤが構成するギヤ段よりも高いギヤ段を構成し前記軸に配置され軸方向の端面に第2歯が設けられた第2ギヤと、
前記軸に配置され軸方向の端面に第3歯が設けられた第3ギヤと、
前記第1ギヤ及び前記第2ギヤを前記軸に選択的に結合するシフト装置と、を備え、
前記シフト装置は、前記軸に結合する円環状の第1ハブ及び第2ハブと、
前記第1ハブの外周に配置され前記第1ハブに対して回転方向に係合可能かつ軸方向に移動可能であって前記第1歯にかみ合う第1ドグ歯が軸方向の端面に設けられた第1リングと、
前記第2ハブの外周に配置され前記第2ハブに対して回転方向に係合可能かつ軸方向に移動可能であって前記第2歯にかみ合う第2ドグ歯が軸方向の端面に設けられた第2リングと、
前記第1リングに取り付けられる第1フォークと、
前記第2リングに取り付けられる第2フォークと、
第1カム溝および第2カム溝が形成されたシフトドラムと、
前記第1カム溝に係合する第1係合部が配置され、前記第1カム溝に沿って前記第1フォークを軸方向に移動させる第1ロッドと、
前記第2カム溝に係合する第2係合部が配置され、前記第2カム溝に沿って前記第2フォークを軸方向に移動させる第2ロッドと、を備える変速機であって、
前記シフトドラムは、前記第1ロッド及び前記第2ロッドを中立位置に設定する中立領域と、
前記第2ドグ歯が前記第2歯にかみ合うように前記第2ロッドの軸方向の位置を設定し、前記第1歯にかみ合う前記第1ドグ歯のかみ合いを解除するように前記第1ロッドの軸方向の位置を設定する解除領域と、を備え、
前記シフト装置は、前記第1ロッドと前記第1フォークとの間に介在し、前記解除領域において弾性力によって前記第1フォークを軸方向に付勢するばねと、
前記ばねの弾性力とは別に、前記解除領域において前記第1ドグ歯と前記第1歯とを離隔させる軸方向の推力を前記第1リングに加える推力発生部と、を備え
前記第1リングは、前記第1ドグ歯が設けられた前記端面の反対側の軸方向の端面に、前記第3歯とかみ合う第3ドグ歯が設けられ、
前記中立領域において、前記ばねに予荷重が加えられている変速機。
【請求項3】
軸に配置され所定のギヤ段を構成し軸方向の端面に第1歯が設けられた第1ギヤと、
前記第1ギヤが構成するギヤ段よりも高いギヤ段を構成し前記軸に配置され軸方向の端面に第2歯が設けられた第2ギヤと、
前記第1ギヤ及び前記第2ギヤを前記軸に選択的に結合するシフト装置と、を備え、
前記シフト装置は、前記軸に結合する円環状の第1ハブ及び第2ハブと、
前記第1ハブの外周に配置され前記第1ハブに対して回転方向に係合可能かつ軸方向に移動可能であって前記第1歯にかみ合う第1ドグ歯が軸方向の端面に設けられた第1リングと、
前記第2ハブの外周に配置され前記第2ハブに対して回転方向に係合可能かつ軸方向に移動可能であって前記第2歯にかみ合う第2ドグ歯が軸方向の端面に設けられた第2リングと、
前記第1リングに取り付けられる第1フォークと、
前記第2リングに取り付けられる第2フォークと、
第1カム溝および第2カム溝が形成されたシフトドラムと、
前記第1カム溝に係合する第1係合部が配置され、前記第1カム溝に沿って前記第1フォークを軸方向に移動させる第1ロッドと、
前記第2カム溝に係合する第2係合部が配置され、前記第2カム溝に沿って前記第2フォークを軸方向に移動させる第2ロッドと、を備える変速機であって、
前記シフトドラムは、前記第1ロッド及び前記第2ロッドを中立位置に設定する中立領域と、
前記第2ドグ歯が前記第2歯にかみ合うように前記第2ロッドの軸方向の位置を設定し、前記第1歯にかみ合う前記第1ドグ歯のかみ合いを解除するように前記第1ロッドの軸方向の位置を設定する解除領域と、を備え、
前記シフト装置は、前記第1ロッドと前記第1フォークとの間に介在し、前記解除領域において弾性力によって前記第1フォークを軸方向に付勢するばねと、
前記ばねの弾性力とは別に、前記解除領域において前記第1ドグ歯と前記第1歯とを離隔させる軸方向の推力を前記第1リングに加える推力発生部と、を備え
前記第1ロッド及び前記第1フォークの一方に、軸方向に延びる長穴が形成され、
前記第1ロッド及び前記第1フォークの他方に、前記長穴の内側に配置されるピンが固定され、
前記長穴は、前記解除領域において、前記長穴の内面と前記ピンとの間に軸方向の隙間が形成されるように、軸方向の長さが設定されている変速機。
【請求項4】
軸に配置され所定のギヤ段を構成し軸方向の端面に第1歯が設けられた第1ギヤと、
前記第1ギヤが構成するギヤ段よりも高いギヤ段を構成し前記軸に配置され軸方向の端面に第2歯が設けられた第2ギヤと、
前記第1ギヤ及び前記第2ギヤを前記軸に選択的に結合するシフト装置と、を備え、
前記シフト装置は、前記軸に結合する円環状の第1ハブ及び第2ハブと、
前記第1ハブの外周に配置され前記第1ハブに対して回転方向に係合可能かつ軸方向に移動可能であって前記第1歯にかみ合う第1ドグ歯が軸方向の端面に設けられた第1リングと、
前記第2ハブの外周に配置され前記第2ハブに対して回転方向に係合可能かつ軸方向に移動可能であって前記第2歯にかみ合う第2ドグ歯が軸方向の端面に設けられた第2リングと、
前記第1リングに取り付けられる第1フォークと、
前記第2リングに取り付けられる第2フォークと、
第1カム溝および第2カム溝が形成されたシフトドラムと、
前記第1カム溝に係合する第1係合部が配置され、前記第1カム溝に沿って前記第1フォークを軸方向に移動させる第1ロッドと、
前記第2カム溝に係合する第2係合部が配置され、前記第2カム溝に沿って前記第2フォークを軸方向に移動させる第2ロッドと、を備える変速機であって、
前記シフトドラムは、前記第1ロッド及び前記第2ロッドを中立位置に設定する中立領域と、
前記第2ドグ歯が前記第2歯にかみ合うように前記第2ロッドの軸方向の位置を設定し、前記第1歯にかみ合う前記第1ドグ歯のかみ合いを解除するように前記第1ロッドの軸方向の位置を設定する解除領域と、を備え、
前記シフト装置は、前記第1ロッドと前記第1フォークとの間に介在し、前記解除領域において弾性力によって前記第1フォークを軸方向に付勢するばねと、
前記ばねの弾性力とは別に、前記解除領域において前記第1ドグ歯と前記第1歯とを離隔させる軸方向の推力を前記第1リングに加える推力発生部と、
前記ばねと前記第1フォークとの間に介在する弾性体と、を備え、
前記弾性体の静ばね定数は、前記ばねの静ばね定数よりも小さい変速機。
【請求項5】
軸に配置され所定のギヤ段を構成し軸方向の端面に第1歯が設けられた第1ギヤと、
前記第1ギヤが構成するギヤ段よりも高いギヤ段を構成し前記軸に配置され軸方向の端面に第2歯が設けられた第2ギヤと、
前記第1ギヤ及び前記第2ギヤを前記軸に選択的に結合するシフト装置と、を備え、
前記シフト装置は、前記軸に結合する円環状の第1ハブ及び第2ハブと、
前記第1ハブの外周に配置され前記第1ハブに対して回転方向に係合可能かつ軸方向に移動可能であって前記第1歯にかみ合う第1ドグ歯が軸方向の端面に設けられた第1リングと、
前記第2ハブの外周に配置され前記第2ハブに対して回転方向に係合可能かつ軸方向に移動可能であって前記第2歯にかみ合う第2ドグ歯が軸方向の端面に設けられた第2リングと、
前記第1リングに取り付けられる第1フォークと、
前記第2リングに取り付けられる第2フォークと、
第1カム溝および第2カム溝が形成されたシフトドラムと、
前記第1カム溝に係合する第1係合部が配置され、前記第1カム溝に沿って前記第1フォークを軸方向に移動させる第1ロッドと、
前記第2カム溝に係合する第2係合部が配置され、前記第2カム溝に沿って前記第2フォークを軸方向に移動させる第2ロッドと、を備える変速機であって、
前記シフトドラムは、前記第1ロッド及び前記第2ロッドを中立位置に設定する中立領域と、
前記第2ドグ歯が前記第2歯にかみ合うように前記第2ロッドの軸方向の位置を設定し、前記第1歯にかみ合う前記第1ドグ歯のかみ合いを解除するように前記第1ロッドの軸方向の位置を設定する解除領域と、を備え、
前記シフト装置は、前記第1ロッドと前記第1フォークとの間に介在し、前記解除領域において弾性力によって前記第1フォークを軸方向に付勢するばねと、
前記ばねの弾性力とは別に、前記解除領域において前記第1ドグ歯と前記第1歯とを離隔させる軸方向の推力を前記第1リングに加える推力発生部と、を備え
前記シフトドラムは、前記解除領域において、前記第2ドグ歯が前記第2歯にかみ合うように前記第2ロッドの軸方向の位置を設定する前に、前記第1歯にかみ合う前記第1ドグ歯のかみ合いを解除するように前記第1ロッドの軸方向の位置を設定し始め、
前記解除領域において、前記第1歯にかみ合う前記第1ドグ歯のかみ合いを解除するように前記第1ロッドを前記中立位置に設定した後、前記第2ドグ歯が前記第2歯にかみ合うように前記第2ロッドの軸方向の位置を設定する変速機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は変速機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
軸に配置され軸方向の端面に第1歯が設けられた第1ギヤと、第1ギヤが構成するギヤ段よりも高いギヤ段を構成し軸に配置され軸方向の端面に第2歯が設けられた第2ギヤと、第1ギヤ及び第2ギヤを選択的に軸に結合するシフト装置と、を備える変速機が知られている。特許文献1に開示の変速機は、軸に結合する円環状の第1ハブ及び第2ハブと、第1ハブの外周に配置され第1ハブに対して回転方向に係合可能かつ軸方向に移動可能な第1リングと、第2ハブの外周に配置され第2ハブに対して回転方向に係合可能かつ軸方向に移動可能な第2リングと、を備え、第1歯にかみ合う第1ドグ歯が第1リングの軸方向の端面に設けられ、第2歯にかみ合う第2ドグ歯が第2リングの軸方向の端面に設けられている。
【0003】
この変速機では、第1歯に第1ドグ歯がかみ合い第1ギヤが駆動する低いギヤ段から第2ギヤが駆動する高いギヤ段へ切り替えるときに、第2歯に第2ドグ歯がかみ合うと、第2ギヤに比べて回転が遅い第1ギヤの第1歯と第1リングの第1ドグ歯との係合が解除され、それと同時に、第1歯と第1ドグ歯とのかみ合いを解除する方向に、ばねの弾性力によって第1リングをスライドする。これにより、駆動トルクの途切れを抑制した変速、いわゆるシームレスシフトを達成できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6438292号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら特許文献1の技術では、第1歯に第1ドグ歯がかみ合い、且つ、第2歯に第2ドグ歯がかみ合う二重かみ合いが発生しないので、第1歯と第1ドグ歯とのかみ合いを解除するときに、二重かみ合いによって生じる循環トルクを利用して第1リングをスライドさせることができない。ばねの弾性力だけで第1リングをスライドしなければならないので、第1ハブと第1リングとの摩擦に打ち勝つ、弾性力の大きなばねを採用しなければならないという問題点がある。弾性力の大きなばねを採用すると、ばねが変位するために必要なスペースが大きくなり、また、大きな弾性力を得るためにばねに加える力が大きくなるので、組み付け性が悪化する。
【0006】
また、第1歯に第1ドグ歯がかみ合っているときに、第2歯に第2ドグ歯をかみ合わせるには、第2歯と第2ドグ歯とのバックラッシを大きくする必要がある。しかし、バックラッシを大きくすると、トルクの伝達時に歯面同士が当たる衝撃音が発生し易くなるという問題点がある。
【0007】
本発明はこの問題点を解決するためになされたものであり、騒音とばねに要求される弾性力とを抑制しつつシームレスシフトを達成できる変速機を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的を達成するために本発明の変速機は、軸に配置され所定のギヤ段を構成し軸方向の端面に第1歯が設けられた第1ギヤと、第1ギヤが構成するギヤ段よりも高いギヤ段を構成し軸に配置され軸方向の端面に第2歯が設けられた第2ギヤと、第1ギヤ及び第2ギヤを軸に選択的に結合するシフト装置と、を備え、シフト装置は、軸に結合する円環状の第1ハブ及び第2ハブと、第1ハブの外周に配置され第1ハブに対して回転方向に係合可能かつ軸方向に移動可能であって第1歯にかみ合う第1ドグ歯が軸方向の端面に設けられた第1リングと、第2ハブの外周に配置され第2ハブに対して回転方向に係合可能かつ軸方向に移動可能であって第2歯にかみ合う第2ドグ歯が軸方向の端面に設けられた第2リングと、第1リングに取り付けられる第1フォークと、第2リングに取り付けられる第2フォークと、第1カム溝および第2カム溝が形成されたシフトドラムと、第1カム溝に係合する第1係合部が配置され、第1カム溝に沿って第1フォークを軸方向に移動させる第1ロッドと、第2カム溝に係合する第2係合部が配置され、第2カム溝に沿って第2フォークを軸方向に移動させる第2ロッドと、を備え、シフトドラムは、第1ロッド及び第2ロッドを中立位置に設定する中立領域と、第2ドグ歯が第2歯にかみ合うように第2ロッドの軸方向の位置を設定し、第1歯にかみ合う第1ドグ歯のかみ合いを解除するように第1ロッドの軸方向の位置を設定する解除領域と、を備え、シフト装置は、第1ロッドと第1フォークとの間に介在し、解除領域において弾性力によって第1フォークを軸方向に付勢するばねと、ばねの弾性力とは別に、解除領域において第1ドグ歯と第1歯とを離隔させる軸方向の推力を第1リングに加える推力発生部と、を備えている。
【発明の効果】
【0009】
請求項1記載の変速機によれば、シフトドラムの解除領域により、第2ドグ歯が第2歯にかみ合うように第2ロッドの軸方向の位置が設定され、第1歯にかみ合う第1ドグ歯のかみ合いを解除するように第1ロッドの軸方向の位置が設定される。第1ロッドと第1フォークとの間に介在するばねは、解除領域において弾性力によって第1フォークを軸方向に付勢する。推力発生部は、第1歯に第1ドグ歯がかみ合い、且つ、第2歯に第2ドグ歯がかみ合う二重かみ合いによって生じる循環トルクを利用して、ばねの弾性力とは別に、解除領域において第1ドグ歯と第1歯とを離隔させる軸方向の推力を第1リングに加える。これによりシームレスシフトを達成しつつ、推力発生部が第1リングに加える推力の分だけ、ばねに要求される弾性力を抑制できる。さらに、第2歯と第2ドグ歯とのバックラッシを大きくする必要がないので、トルクの伝達時に生じる衝撃音を抑制できる。
【0010】
1フォークは、中立領域において、第1フォークにばねの弾性力が加わらない状態で第1ロッドに軸方向の位置が固定されている。ばねの弾性力によって第1フォークが振動しないようにできるので、第1リングの第1ドグ歯を第1ギヤの第1歯にかみ合わせるために、第1ロッドを軸方向に移動させて第1フォークを介して第1リングを軸方向に移動させるときの第1リングの位置を制御し易くできる。よって第1ロッドの移動に伴う第1フォークの操作性を確保できる。
【0011】
請求項記載の変速機によれば、軸に配置された第3ギヤの軸方向の端面に第3歯が設けられる。第1リングは、第1ドグ歯が形成された端面の反対側の軸方向の端面に、第3歯とかみ合う第3ドグ歯が設けられている。中立領域においてばねに予荷重が加えられているので、ばねの初期の変位によって生じる弾性力を大きくできる。よって、第1ドグ歯と第1歯とを離隔させて中立位置に到達した第1フォークが、その位置を超えて第3ギヤに近づかないようにできる。従って第2歯に第2ドグ歯がかみ合い、且つ、第3歯に第3ドグ歯がかみ合う二重かみ合いが起こらないようにできる。
【0012】
請求項記載の変速機によれば、第1ロッド及び第1フォークの一方に、軸方向に延びる長穴が形成され、第1ロッド及び第1フォークの他方に、長穴の内側に配置されるピンが固定される。長穴は、解除領域において、長穴の内面とピンとの間に軸方向の隙間が形成されるように、軸方向の長さが設定されている。よって第1フォークの軸方向の相対移動が規制されないようにしつつ、長穴の内面にピンが当たることによって第1フォークの回転を規制できる。
【0013】
請求項記載の変速機によれば、ばねと第1フォークとの間に、ばねの静ばね定数よりも静ばね定数が小さい弾性体が介在する。ばねの弾性エネルギーの変化を弾性体によって吸収できるので、変速のときの衝撃を抑制できる。
【0014】
請求項記載の変速機によれば、シフトドラムは、解除領域において、第2ドグ歯が第2歯にかみ合うように第2ロッドの軸方向の位置を設定する前に、第1歯にかみ合う第1ドグ歯のかみ合いを解除するように第1ロッドの軸方向の位置を設定し始める。その結果、ばねの弾性力が、推力発生部によって生じる軸方向の推力を相殺しないようにできる。よって第1歯と第1ドグ歯とのかみ合いを解除し易くできる。
【0015】
フトドラムは、解除領域において、第1歯にかみ合う第1ドグ歯のかみ合いを解除するように第1ロッドを中立位置に設定した後、第2ドグ歯が第2歯にかみ合うように第2ロッドの軸方向の位置を設定する。よって第1歯と第1ドグ歯とのかみ合いをより解除し易くできる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】一実施の形態における変速機のスケルトン図である。
図2】第1リングが配置された第1ハブの斜視図である。
図3】第1ロッド及び第2ロッドが中立位置にある変速機の模式図である。
図4】第1フォークが配置された第1ロッドの断面図である。
図5】低速段のドライブ走行時の変速機の模式図である。
図6】低速段から高速段へ切り替えるときの変速機の模式図である。
図7】低速段から高速段へ切り替えるときの変速機の模式図である。
図8】高速段のドライブ走行時の変速機の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好ましい実施の形態について添付図面を参照して説明する。まず図1を参照して本発明の変速機1の概略構成を説明する。図1は一実施の形態における変速機1のスケルトン図である。変速機1は、動力が入力される駆動軸2と、駆動軸2と平行に配置される被動軸3とを備え、被動軸3に出力ギヤ4が配置されている。駆動軸2及び被動軸3は、複数のギヤ段を構成する1速ギヤ10、2速ギヤ20、3速ギヤ30、4速ギヤ40、5速ギヤ50及び6速ギヤ60を支持する。本実施の形態では変速機1は自動車(図示せず)に搭載されている。
【0018】
1速ギヤ10は、駆動軸2に相対回転不能に固定された駆動ギヤ11と、駆動ギヤ11と常にかみ合いつつ被動軸3に相対回転可能に固定された被動ギヤ12と、を備える。2速ギヤ20は、駆動軸2に相対回転可能に固定された駆動ギヤ21と、駆動ギヤ21と常にかみ合いつつ被動軸3に相対回転不能に固定された被動ギヤ22と、を備える。3速ギヤ30は、駆動軸2に相対回転不能に固定された駆動ギヤ31と、駆動ギヤ31と常にかみ合いつつ被動軸3に相対回転可能に固定された被動ギヤ32と、を備える。
【0019】
4速ギヤ40は、駆動軸2に相対回転可能に固定された駆動ギヤ41と、駆動ギヤ41と常にかみ合いつつ被動軸3に相対回転不能に固定された被動ギヤ42と、を備える。5速ギヤ50は、駆動軸2に相対回転可能に固定された駆動ギヤ51と、駆動ギヤ51と常にかみ合いつつ被動軸3に相対回転不能に固定された被動ギヤ52と、を備える。6速ギヤ60は、駆動軸2に相対回転可能に固定された駆動ギヤ61と、駆動ギヤ61と常にかみ合いつつ被動軸3に相対回転不能に固定された被動ギヤ62と、を備える。
【0020】
変速機1は、駆動軸2や被動軸3にギヤを選択的に結合するシフト装置70をさらに備えている。シフト装置70は、第1ハブ71、第2ハブ72、第3ハブ73、第1リング81、第2リング82、第3リング83、第1フォーク101、第2フォーク102、第3フォーク103、第1ロッド104、第2ロッド106、第3ロッド108及びシフトドラム110を備えている。
【0021】
第1ハブ71は、駆動ギヤ41と駆動ギヤ61との間に配置され駆動軸2に結合する円環状の部材である。第2ハブ72は、駆動ギヤ21と駆動ギヤ51との間に配置され駆動軸2に結合する円環状の部材である。第3ハブ73は、被動ギヤ12と被動ギヤ32との間に配置され被動軸3に結合する円環状の部材である。
【0022】
駆動ギヤ41の軸方向の端面には、第1ハブ71へ向けて軸方向に突出する第1歯43が設けられている。駆動ギヤ61の軸方向の端面には、第1ハブ71へ向けて軸方向に突出する第3歯63が設けられている。駆動ギヤ51の軸方向の端面には、第2ハブ72へ向けて軸方向に突出する第2歯53が設けられている。駆動ギヤ21の軸方向の端面には、第2ハブ72へ向けて軸方向に突出する第4歯23が設けられている。被動ギヤ12の軸方向の端面には、第3ハブ73へ向けて軸方向に突出する第5歯13が設けられている。被動ギヤ32の軸方向の端面には、第3ハブ73へ向けて軸方向に突出する第6歯33が設けられている。
【0023】
第1リング81、第2リング82、第3リング83は、第1ハブ71、第2ハブ72、第3ハブ73に対してそれぞれ回転方向に係合可能かつ軸方向に移動可能に、第1ハブ71、第2ハブ72、第3ハブ73の外周にそれぞれ配置されている。第1リング81の軸方向の端面には、駆動ギヤ41へ向けて軸方向に突出する第1ドグ歯84,85(図3参照)、及び、駆動ギヤ61へ向けて軸方向に突出する第3ドグ歯88,89(図3参照)が設けられている。
【0024】
第2リング82の軸方向の端面には、駆動ギヤ51へ向けて軸方向に突出する第2ドグ歯93,94(図3参照)、及び、駆動ギヤ21へ向けて軸方向に突出する第4ドグ歯97,98(図3参照)が設けられている。第3リング83の軸方向の端面には、被動ギヤ12へ向けて軸方向に突出する第5ドグ歯(図示せず)、及び、被動ギヤ32へ向けて軸方向に突出する第6ドグ歯(図示せず)が設けられている。
【0025】
第1フォーク101、第2フォーク102、第3フォーク103は、第1リング81、第2リング82、第3リング83にそれぞれ取り付けられる。第1フォーク101、第2フォーク102、第3フォーク103は、第1ロッド104、第2ロッド106、第3ロッド108にそれぞれ固定されている。
【0026】
シフトドラム110は、周方向に延びる第1カム溝111、第2カム溝112、第3カム溝113が外周に形成された円柱状の部材である。シフトドラム110はケースCに回転可能に固定されており、モータ(図示せず)により中心軸の周りを回転する。第1ロッド104に配置された第1係合部105は第1カム溝111に係合し、第2ロッド106に配置された第2係合部107は第2カム溝112に係合する。第3ロッド108に配置された第3係合部109は第3カム溝113に係合する。
【0027】
シフトドラム110は、シフトレバー(図示せず)の操作信号に基づき、或いはアクセルペダル(図示せず)の操作によるアクセル開度および車速信号等に基づき回転する。シフトドラム110が回転すると、第1カム溝111、第2カム溝112、第3カム溝113に第1係合部105、第2係合部107、第3係合部109がそれぞれガイドされた第1ロッド104、第2ロッド106、第3ロッド108を介して、第1フォーク101、第2フォーク102、第3フォーク103が軸方向に移動する。第1フォーク101、第2フォーク102、第3フォーク103の軸方向の移動に伴い、第1リング81、第2リング82、第3リング83は軸方向に移動する。
【0028】
図2を参照して第1ハブ71及び第1リング81について説明する。図2は第1リング81が配置された第1ハブ71の斜視図である。第2ハブ72及び第3ハブ73の構成は、第1ハブ71の構成と同じであり、第2リング82及び第3リング83の構成は、第1リング81の構成と同じである。従って、第2ハブ72、第3ハブ73、第2リング82及び第3リング83の説明は省略する。
【0029】
図2に示すように第1ハブ71の内周面には、駆動軸2(図1参照)に結合するスプライン74が形成されている。第1ハブ71の外周面には、第1ハブ71の中心軸Oと平行な溝75が形成されている。溝75は、第1ハブ71の軸方向の全長に亘って形成されている。
【0030】
第1リング81は、第1リング81の中心軸Oに沿って片方の端面から突出する第1ドグ歯84,85と、もう片方の端面から軸方向へ突出する第3ドグ歯88,89と、を備えている。第1ハブ71及び第1リング81の中心軸Oは駆動軸2の中心軸と一致する。本実施形態では、第1ドグ歯84は第3ドグ歯88と同じ位置に設けられており、第1ドグ歯85は第3ドグ歯89と同じ位置に設けられている。第1ドグ歯84は第1ドグ歯85よりも軸方向に長く、第3ドグ歯88は第3ドグ歯89よりも軸方向に長い。第1ドグ歯84は第1ドグ歯85と円周方向に交互に配置されており、第3ドグ歯88は第3ドグ歯89と円周方向に交互に配置されている。
【0031】
第1ドグ歯84,85は、円周方向の一方を向く第1面86と、第1面86の反対側の面であって円周方向の他方を向く第2面87と、を備えている。第3ドグ歯88,89は、円周方向の一方を向く第1面90と、第1面90の反対側の面であって円周方向の他方を向く第2面91と、を備えている。第1面86,90は、中心軸Oに平行な仮想平面(図示せず)に対して傾く傾斜面である。第2面87,91は、中心軸Oに平行な面である。第1面86,90は、第1リング81から軸方向へ離れるにつれて、それぞれ第2面87,91へ近づくように傾斜している。
【0032】
第1ドグ歯84及び第3ドグ歯88の内面には、中心軸Oに平行な歯92が設けられている。歯92は、第1ドグ歯84及び第3ドグ歯88の全長に亘って切れ目なく連なっている。第1リング81の歯92は、第1ハブ71の溝75にはまり合うので、第1リング81は第1ハブ71に対して軸方向に移動できるが、第1リング81は第1ハブ71の周りを回転できない。
【0033】
図3は第1ロッド104及び第2ロッド106が中立位置にある変速機1の模式図である。図3では、シフトドラム110の第3カム溝113、駆動ギヤ21の図示が省略されている。シフトドラム110の第1カム溝111及び第2カム溝112にそれぞれ係合する第1係合部105及び第2係合部107が、シフトドラム110の中立領域114に位置することにより、第1ロッド104及び第2ロッド106が中立位置に設定される。
【0034】
第1ロッド104と第1フォーク101との間には、弾性力によって第1フォーク101を軸方向に付勢するばね129(図4参照)が配置されている。同様に、第2ロッド106と第2フォーク102との間にも、弾性力によって第2フォーク102を軸方向に付勢するばね(図示せず)が配置されている。第2ロッド106と第2フォーク102との間にばねを配置する構造は、第1ロッド104と第1フォーク101との間にばね129を配置する構造と同じなので、説明を省略する。
【0035】
図4は第1フォーク101が配置された第1ロッド104の、第1ロッド104が中立位置にあるときの断面図である。図4では、第1ロッド104の軸方向の一部、第1フォーク101の一部の図示が省略されている。
【0036】
第1フォーク101の取付部120は筒状に形成されており、第1ロッド104の外周に取り付けられている。取付部120には、径方向に貫通する穴121が形成されている。筒部122は、第1ロッド104と間隔をあけて第1ロッド104の外周を取り囲む。筒部122の片方の端部は、取付部120に結合している。筒部122のもう片方の端部には、径方向の内側へ向かって突出する凸部123(ストッパ)が設けられている。
【0037】
第1ロッド104には、軸方向に互いに間隔をあけて溝が形成されており、その溝に止め輪124,125がそれぞれ固定されている。止め輪124は筒部122の内側に位置する。第1ロッド104には、止め輪124,125の軸方向の内側に、止め輪124,125の外径よりも外径が大きなワッシャ126,127がそれぞれ配置されている。ワッシャ126,127は、軸方向に互いに間隔をあけて、筒部122の内側に配置されている。
【0038】
ワッシャ127と筒部122の凸部123との間に、円環状のゴム製、合成樹脂製等の弾性体128が介在する。ワッシャ126とワッシャ127との間にばね129が配置されている。本実施形態ではばね129は圧縮コイルばねである。ワッシャ126とワッシャ127との間の距離は、ばね129の自由長の長さよりも短いので、ばね129に予荷重が加えられている。予荷重が加えられたばね129の弾性力により、ワッシャ126は止め輪124に押し付けられており、ワッシャ127は止め輪125に押し付けられている。
【0039】
ワッシャ126と取付部120との間に、円筒状のスペーサ130(ストッパ)が配置されている。スペーサ130と取付部120との間に、円環状のゴム製や合成樹脂製の弾性体131が介在する。弾性体128,131の静ばね定数は、ばね129の静ばね定数よりも小さい。
【0040】
取付部120、弾性体131、スペーサ130、ワッシャ126は互いに隙間なく並んでおり、ワッシャ127、弾性体128、凸部123は互いに隙間なく並んでいる。予荷重が加えられたばね129の弾性力によって、スペーサ130とワッシャ126との間に隙間ができ難く、弾性体128と凸部123との間に隙間ができ難いので、第1ロッド104が中立位置にあるときに、第1ロッド104における第1フォーク101の軸方向の位置が、がたつき無く固定される。ばね129の復元は止め輪124,125で規制されているので、第1ロッド104が中立位置にあるときに、第1フォーク101(取付部120)にばね129の弾性力は加えられない。
【0041】
第1ロッド104のうち取付部120が配置される部位には、軸方向に延びる長穴132が形成されている。長穴132は第1ロッド104を貫通している。長穴132により第1ロッド104に、互いに軸方向に対向する第1壁133及び第2壁134が形成される。ピン135は、取付部120に形成された穴121に固定され、第1壁133と第2壁134との間に配置される。これにより第1ロッド104に対する第1フォーク101の回転は制限される。
【0042】
第1壁133と第2壁134との間の距離は、ピン135の太さよりも大きいので、ピン135と第1壁133との間、ピン135と第2壁134との間に軸方向の隙間がそれぞれ設けられる。これにより第1壁133がピン135に当たるまで、第1ロッド104は第1フォーク101に対して相対移動できる。また、第2壁134がピン135に当たるまで、第1ロッド104は第1フォーク101に対して相対移動できる。
【0043】
図3に戻って説明する。駆動ギヤ41(第1ギヤ)の第1歯43は、高歯43aと、高歯43aよりも歯たけが短い並歯43bと、を備えている。高歯43aは並歯43bと円周方向に交互に配置されている。第1歯43は、円周方向の一方を向く第3面44と、第3面44の反対側の面であって円周方向の他方を向く第4面45と、を備えている。第3面44は第1リング81の第1面86に向き合い、第4面45は第1リング81の第2面87に向き合う。
【0044】
第1面86及び第3面44は、第1面86と第3面44とを接触させる方向のトルクに応じて駆動ギヤ41と第1リング81とが軸方向に離隔する推力を発生させる傾斜面である。第3面44は、駆動ギヤ41から離れる方向へ向かうにつれて、第4面45へ近づくように傾斜している。中心軸Oに平行な仮想平面(図示せず)に対する第3面44の傾斜角は、第1面86の傾斜角θと同じである。
【0045】
第2面87及び第4面45は、第2面87と第4面45とを接触させてトルクを伝達するときに、駆動ギヤ41と第1リング81とが軸方向に離隔しない面である。本実施形態では第4面45は中心軸Oに平行な面である。
【0046】
駆動ギヤ51(第2ギヤ)の第2歯53は、高歯53aと、高歯53aよりも歯たけが短い並歯53bと、を備えている。高歯53aは並歯53bと円周方向に交互に配置されている。第2歯53は、円周方向の一方を向く第3面54と、第3面54の反対側の面であって円周方向の他方を向く第4面55と、を備えている。
【0047】
第2リング82は、第2リング82の片方の端面から突出する第2ドグ歯93,94を備えている。第2ドグ歯93は第2ドグ歯94よりも軸方向に長い。第2ドグ歯93は第2ドグ歯94と円周方向に交互に配置されている。第2ドグ歯93,94は、円周方向の一方を向く第1面95と、第1面95の反対側の面であって円周方向の他方を向く第2面96と、を備えている。第1面95は、中心軸Oに平行な仮想平面(図示せず)に対して傾く傾斜面である。第2面96は中心軸Oに平行な面である。第1面95は、第2リング82から軸方向へ離れるにつれて、第2面96へ近づくように傾斜している。第1面95は駆動ギヤ51の第3面54に向き合い、第2面96は駆動ギヤ51の第4面55に向き合う。
【0048】
第1面95及び第3面54は、第1面95と第3面54とを接触させる方向のトルクに応じて駆動ギヤ51と第2リング82とが軸方向に離隔する推力を発生させる傾斜面である。第3面54は、駆動ギヤ51から離れる方向へ向かうにつれて、第4面55へ近づくように傾斜している。中心軸Oに平行な仮想平面(図示せず)に対する第3面54の傾斜角は、第1面95の傾斜角θと同じである。
【0049】
第2面96及び第4面55は、第2面96と第4面55とを接触させてトルクを伝達するときに、駆動ギヤ51と第2リング82とが軸方向に離隔しない面である。本実施形態では第4面55は中心軸Oに平行な面である。
【0050】
駆動ギヤ61(第3ギヤ)の第3歯63は、高歯63aと、高歯63aよりも歯たけが短い並歯63bと、を備えている。高歯63aは並歯63bと円周方向に交互に配置されている。第3歯63は、円周方向の一方を向く第3面64と、第3面64の反対側の面であって円周方向の他方を向く第4面65と、を備えている。第3面64は第1リング81の第1面90に向き合い、第4面65は第1リング81の第2面91に向き合う。
【0051】
第1面90及び第3面64は、第1面90と第3面64とを接触させる方向のトルクに応じて駆動ギヤ61と第1リング81とが軸方向に離隔する推力を発生させる傾斜面である。第3面64は、駆動ギヤ61から離れる方向へ向かうにつれて、第4面65へ近づくように傾斜している。中心軸Oに平行な仮想平面(図示せず)に対する第3面64の傾斜角は、第1面90の傾斜角θと同じである。
【0052】
第2面91及び第4面65は、第2面91と第4面65とを接触させてトルクを伝達するときに、駆動ギヤ61と第1リング81とが軸方向に離隔しない面である。本実施形態では第4面65は中心軸Oに平行な面である。
【0053】
図5から図8を参照して、高速段へ変速(シフトアップ)するときの変速機1の動作を説明する。本実施形態では一例として4速ギヤ40から5速ギヤ50への変速について説明するが、他の段へ変速する動作も同様なので、他のギヤ段のシフトアップの動作やシフトダウンの動作については説明を省略する。
【0054】
図5は低速段(4速ギヤ40)のドライブ走行時の変速機1の模式図である。図5から図8では、駆動ギヤ41,51,61、第1リング81、第2リング82の回転方向は、紙面に沿って下向き(矢印R方向)である。シフトドラム110の回転方向は、紙面に沿って上向き(矢印S方向)である。第1リング81及び第2リング82の第2面87,96は、第1リング81や第2リング82の回転方向に対面する。
【0055】
シフトドラム110を回転させて、シフトドラム110の中立領域114から第1かみ合い領域115へ第1係合部105が移動すると、第1ロッド104及び第1フォーク101が駆動ギヤ41(第1ギヤ)へ移動し、第1リング81の第1ドグ歯84,85が駆動ギヤ41の第1歯43にかみ合う。中立領域114では第1フォーク101にばね129(図4参照)の弾性力が加わらないので、ばね129の振動等が第1フォーク101に伝わることがない。この状態で第1フォーク101は第1ロッド104にがたつき無く固定されているので、第1ロッド104の移動に伴う第1フォーク101の位置精度を確保できる。
【0056】
駆動ギヤ41から被動ギヤ42(図1参照)へ動力が伝達されるドライブ走行時には、第1リング81の第2面87は駆動ギヤ41の第4面45に接している。このときに第1面86と第3面44との間に円周方向の隙間ができる。第2面87と第4面45とを接触させてトルクを伝達するときに、駆動ギヤ41と第1リング81とを軸方向に離隔する推力が作用しないので、第1カム溝111による第1係合部105の軸方向の移動の制限、第2面87と第4面45との摩擦、及び、ばね129(図4参照)の予荷重による弾性力等によってギヤ抜けを防ぎ、ドライブトルクを伝達する。
【0057】
図6及び図7は低速段(4速ギヤ40)から高速段(5速ギヤ50)へ変速途中の変速機1の模式図であり、図8は高速段(5速ギヤ50)のドライブ走行時の変速機1の模式図である。
【0058】
図6に示すように、低速段(4速ギヤ40)のドライブ走行時にシフトドラム110を回転させてシフトドラム110の第1かみ合い領域115から解除領域116へ第1係合部105が移動すると、第2面87を第4面45に押し付けて駆動トルクを伝達している第1リング81は軸方向へ移動できないので、第1ロッド104の止め輪125(図4参照)がばね129を圧縮して、第1ロッド104は中立位置へ移動する。これにより筒部122の凸部123と弾性体128との間に隙間ができる。
【0059】
このときに第1壁133(図4参照)はピン135に近づくが、ピン135と第1壁133との間には軸方向の隙間がある。これにより第1フォーク101の軸方向の相対移動が規制されないようにできる。一方、第2カム溝112の解除領域116のうち、第2ロッド106を中立位置に保つ保持部112aに第2係合部107が位置する間は、第2ロッド106は軸方向に移動しない。
【0060】
図7に示すように、さらにシフトドラム110を回転させると、第2カム溝112の解除領域116のうち傾斜部112bに第2係合部107が移動し、第2ロッド106は軸方向に移動する。その結果、第2フォーク102が駆動ギヤ51(第2ギヤ)へ移動し、第2リング82の第2ドグ歯93,94が駆動ギヤ51に近づき、第2リング82の第2ドグ歯93の歯先が駆動ギヤ51の第2歯53の歯先に接する。第2リング82の第2ドグ歯93は、歯たけが第2ドグ歯94より長いので、第2ドグ歯93と駆動ギヤ51の高歯53aとをかみ合い易くできる。
【0061】
駆動ギヤ41(第1ギヤ)の第1歯43と第1リング81の第1ドグ歯84,85とがかみ合った状態で、駆動ギヤ51(第2ギヤ)の第2歯53と第2リング82の第2ドグ歯93とがかみ合うと、駆動ギヤ51は駆動ギヤ41より速く回転するので、4速側はコースト状態、5速側はドライブ状態となる。
【0062】
4速ギヤ40では、第1リング81の第1面86と駆動ギヤ41の第3面44とが接触したコースト状態であり、第1面86及び第3面44の傾斜角θにより、トルクに応じて駆動ギヤ41と第1リング81とが軸方向に離隔する推力が生じる。その推力によって、第1ハブ71(図2参照)の外周面に形成された溝75に、第1リング81の内周面に形成された歯92がはまり合った状態で、第1リング81がトルクを伝達しながら第1フォーク101が軸方向に移動する。このときにばね129(図4参照)が復元して、弾性体128に凸部123が近づく。
【0063】
第1リング81が駆動ギヤ41から離隔するときは、歯92と溝75との間に径方向の隙間があっても、歯92の軸方向に延びる部分に溝75の軸方向に延びる部分が接するので、第1ハブ71に対して第1リング81が傾き難くなり、第1リング81の力のモーメントを抑制できる。これにより溝75に擦れて軸方向へ移動する歯92の摩擦を抑制できる。その結果、駆動ギヤ41から第1リング81が離隔するときに内部循環トルクが解放されることに起因して生じる音や振動を抑制できる。
【0064】
ばね129(図4参照)が復元して弾性体128に凸部123が衝突すると、第1フォーク101の軸方向の移動が止まり、第1リング81が中立位置に設定される。弾性体128に凸部123が当たったときの運動エネルギーやばね129の弾性エネルギーの変化によって衝撃が生じる。しかし、軸方向に移動したのは第1フォーク101と第1リング81なので、第1ロッド104、第1フォーク101及び第1リング81の全体の移動を止める場合に比べ、第1ロッド104の質量が含まれない分だけ運動エネルギーの変化を小さくできる。また、ばね129が衝撃を緩衝するので、衝撃に伴って生じる音や振動を抑制できる。さらに、弾性体128が、ばね129の弾性エネルギーの変化を吸収するので、衝撃に伴って生じる音や振動をさらに抑制できる。
【0065】
ばね129に予荷重が加えられているので、ばね129の初期の変位によって生じる弾性力を大きくできる。よって、駆動ギヤ41から第1リング81が離隔して中立位置に到達した第1フォーク101が、その位置を超えて駆動ギヤ61(第3ギヤ)に近づかないようにできる。従って、駆動ギヤ51の第2歯53に第2ドグ歯93,94がかみ合い、且つ、駆動ギヤ61の第3歯63に第3ドグ歯88,89がかみ合う二重かみ合いが起こらないようにできる。
【0066】
一方、5速ギヤ50では、第2リング82の第2面96と駆動ギヤ51の第4面55とが接触したドライブ状態であり、駆動ギヤ51と第2リング82とが軸方向へ離隔する推力が生じない。よって、第2カム溝112の傾斜部112bにガイドされる第2係合部107に伴い、第2ロッド106が軸方向に移動し、第2フォーク102及び第2リング82が駆動ギヤ51へより近づき、第2リング82の第2ドグ歯93,94と駆動ギヤ51の第2歯53とのかみ合いが深くなる。
【0067】
かみ合いが深くなるときに第2リング82の第2面96と駆動ギヤ51の第4面55との摩擦は生じる。しかし、第2ロッド106に配置されたばね129(図4参照)に予荷重が加えられているので、第2面96と第4面55との摩擦に抗して、第2ロッド106の移動と共に第2フォーク102を移動させ、かみ合いを深くすることができる。
【0068】
シフトドラム110の解除領域116において、第2カム溝112の傾斜部112bによって、第2ドグ歯93,94が第2歯53にかみ合うように第2ロッド106の軸方向の位置を設定する前に、第1歯43にかみ合う第1ドグ歯84,85のかみ合いを解除するように第1ロッド104の軸方向の位置を設定し始める。その結果、ばね129の弾性力が、第1面86と第3面44との間に生じる軸方向の推力を相殺しないようにできる。よって、第1歯43と第1ドグ歯84,85とのかみ合いを解除し易くできる。特にシフトドラム110の解除領域116において、第1歯43にかみ合う第1ドグ歯84,85のかみ合いを解除するように第1ロッド104を中立位置に設定した後、第2ドグ歯93,94が第2歯53にかみ合うように第2ロッド106の軸方向の位置を設定するので、第1歯43と第1ドグ歯84,85とのかみ合いをより解除し易くできる。
【0069】
図8に示すように、さらにシフトドラム110を回転させてシフトドラム110の第2かみ合い領域117に第1係合部105及び第2係合部107が移動すると、第1ロッド104は中立位置に維持され、第2ロッド106は、第2リング82と駆動ギヤ51とのかみ合い位置に維持される。
【0070】
以上のように変速機1は、低速段から高速段への変速時に、低いギヤ段を構成する第1ギヤの第1歯43に第1リング81の第1ドグ歯84,85がかみ合い、高いギヤ段を構成する第2ギヤの第2歯53に第2リング82の第2ドグ歯93,94がかみ合うと、内部循環トルクにより、ばね129の弾性力とは別に、第2ギヤに比べて回転が遅い第1ギヤに結合する第1リング81が、第1面86と第3面44との間に生じる推力によって軸方向へ押し出される。
【0071】
これにより駆動トルクの途切れを抑制した変速、いわゆるシームレスシフトを達成しつつ、第1面86と第3面44との間に生じる推力の分だけ、ばね129に要求される弾性力を抑制できる。ばね129は、第1面86と第3面44との間に生じる推力によって、第1リング81及び第1フォーク101が軸方向に移動し停止したときの衝撃を吸収できる弾性力があれば良いので、ばね129が変位するために必要なスペースを小さくできる。また、ばね129の弾性力を得るためにばね129に加える力を小さくできるので、シフトドラム110を回転させるモータ(図示せず)を小さくできる。よって、ばね129の組み付け性を向上し、さらに変速機1の大型化を抑制できる。
【0072】
以上、実施形態に基づき本発明を説明したが、本発明はこの実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。例えば、変速機1のギヤ段の数や配置、シフトドラム110に形成されたカム溝111,112の形状、第1ハブ71に形成された溝75の数や形状、第1リング81に形成された歯92の数や形状などは適宜設定できる。
【0073】
実施形態では、駆動ギヤ41に設けられた第1歯43の第4面45、駆動ギヤ51に設けられた第2歯53の第4面55、第1リング81に設けられた第1ドグ歯84,85の第2面87、及び、第2リング82に設けられた第2ドグ歯93,94の第2面96が、中心軸Oに平行な面である場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。第2面87,96と第4面45,55とが接触してトルクを伝達しているときに、そのトルクによる力の軸方向の成分と、第2面87,96と第4面45,55との摩擦力のうちの軸方向の成分と、の合力が、第1リング81や第2リング82を駆動ギヤ41,51から離隔させる方向に作用しなければ良い。この関係を満たせば、第2面87,96や第4面45,55が、中心軸Oに平行な仮想平面(図示せず)に対して傾斜していても良い。
【0074】
実施形態では、駆動ギヤ41に設けられた第1歯43の第3面44と、第1リング81に設けられた第1ドグ歯84,85の第1面86とが、トルクに応じて駆動ギヤ41と第1リング81とを軸方向に離隔する推力を生じさせる推力発生部の場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。例えば、特開2012-127471号公報に記載の変速機のように、第1面86や第3面44の傾斜角をほぼゼロにし、第1リング81に設けた歯92の代わりに、第1リング81に円柱状の突起を設け、第1ハブ71に設けた平行な溝75の代わりに、中心軸Oを含む平面に対して傾斜するV字状のカム溝を第1ハブ71の外周面に形成し、そのカム溝の中に第1リング81の突起を配置することは当然可能である。第1ハブ71のカム溝と第1リング81の突起とを推力発生部とする場合も、本実施形態と同様の作用効果を実現できる。
【0075】
実施形態では、ばね129が圧縮コイルばねの場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。コイルばね以外のばねをばね129に採用することは当然可能である。
【0076】
実施形態では、ワッシャ127と凸部123との間に弾性体128が介在し、スペーサ130と取付部120との間に弾性体131が介在する場合について説明したが、弾性体128,131の少なくとも一方を省略することは当然可能である。弾性体128,131が無くても、ばね129によって衝撃を緩衝できる。また、スペーサ130とワッシャ126との間に弾性体131を配置することは当然可能である。
【0077】
実施形態では、第1ロッド104に長穴132を設け、取付部120にピン135を設ける場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。これと反対に、取付部120に長穴を設け、第1ロッド104にピンを設けることは当然可能である。
【0078】
実施形態では、駆動軸2に配置された駆動ギヤ41,51の間で駆動トルクの伝達を切り替える場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。被動軸3に配置された被動ギヤ12と駆動ギヤ21との間で駆動トルクの伝達を切り替えたり、被動軸3に配置された被動ギヤ32と駆動ギヤ41との間で駆動トルクの伝達を切り替えたりする場合も、本実施形態と同様の作用効果を実現できる。これらの場合も、実施形態と同様に、低速のギヤ段を構成するギヤが第1ギヤであり、高速のギヤ段を構成するギヤが第2ギヤである。
【0079】
実施形態では、変速機1を自動車に搭載する場合について説明したが、これに限られるものではなく、建設機械、産業車両、農業機械等に変速機1を搭載することは当然可能である。この場合も変速機1により変速のときの駆動トルクの途切れを解消できる。その結果、駆動軸2の空回りをなくし燃費を改善できる。
【符号の説明】
【0080】
1 変速機
2 駆動軸(軸)
3 被動軸(軸)
41 駆動ギヤ(第1ギヤ)
43 第1歯
44 第3面(推力発生部の一部)
45 第4面
51 駆動ギヤ(第2ギヤ)
53 第2歯
61 駆動ギヤ(第3ギヤ)
63 第3歯
70 シフト装置
71 第1ハブ
72 第2ハブ
81 第1リング
82 第2リング
84,85 第1ドグ歯
86 第1面(推力発生部の一部)
88,89 第3ドグ歯
93,94 第2ドグ歯
101 第1フォーク
102 第2フォーク
104 第1ロッド
105 第1係合部
106 第2ロッド
107 第2係合部
110 シフトドラム
111 第1カム溝
112 第2カム溝
114 中立領域
116 解除領域
128,131 弾性体
129 ばね
132 長穴
133 第1壁(長穴の内面)
134 第2壁(長穴の内面)
135 ピン
図1
図2
図3
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図8