(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-24
(45)【発行日】2023-12-04
(54)【発明の名称】樹脂成形体
(51)【国際特許分類】
B32B 27/00 20060101AFI20231127BHJP
B32B 5/28 20060101ALI20231127BHJP
B32B 27/34 20060101ALI20231127BHJP
B29C 45/14 20060101ALI20231127BHJP
【FI】
B32B27/00 E
B32B5/28 Z
B32B27/34
B29C45/14
(21)【出願番号】P 2022148018
(22)【出願日】2022-09-16
(62)【分割の表示】P 2018183642の分割
【原出願日】2018-09-28
【審査請求日】2022-10-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000002439
【氏名又は名称】株式会社シマノ
(74)【代理人】
【識別番号】100117204
【氏名又は名称】岩田 徳哉
(72)【発明者】
【氏名】西村 泰
(72)【発明者】
【氏名】山中 大輔
(72)【発明者】
【氏名】山内 弥
【審査官】深谷 陽子
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-232665(JP,A)
【文献】特開2010-006031(JP,A)
【文献】特開2006-044264(JP,A)
【文献】特開平10-264201(JP,A)
【文献】特開2000-158481(JP,A)
【文献】特開昭57-051454(JP,A)
【文献】特開昭57-181863(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0376353(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第104781317(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
B29C 45/00-45/84、70/00-70/88
A01K 87/00-87/08
B29B 11/16、15/08-15/14
C08J 5/04- 5/10、 5/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1熱可塑性樹脂に長さが1mm以下のカーボン繊維又はガラス繊維からなる強化繊維が混合された繊維強化樹脂製の本体と、
前記本体の表面に密着している装飾シートと、を備え、
前記装飾シートは、金属光沢層と、前記金属光沢層の外側に位置する透明な保護層と、前記金属光沢層の内側に位置し、前記本体の表面に溶着している第2熱可塑性樹脂からなる溶着層と、を有し、
前記溶着層と前記本体との境界部分に、前記強化繊維が前記溶着層に食い込むことによって形成される、前記境界部分が凹凸形状となったアンカー構造を含み、
前記アンカー構造の凹凸形状の高低差は、前記強化繊維の線径よりも大きく、且つ、20μm以上である、樹脂成形体。
【請求項2】
第1熱可塑性樹脂は、ポリアミド樹脂であり、
第2熱可塑性樹脂は、ポリプロピレン樹脂又はポリカーボネート樹脂である、請求項1記載の樹脂成形体。
【請求項3】
第1熱可塑性樹脂に長さが1mm以下のカーボン繊維又はガラス繊維からなる強化繊維が混合された繊維強化樹脂製の本体の
射出成形時に、前記本体の表面に溶着される、樹脂成形体用の装飾シートであって、
金属光沢層と、前記金属光沢層の外側に位置する透明な保護層と、前記金属光沢層の内側に位置し、前記本体の表面に溶着される第2熱可塑性樹脂からなる
、厚さが数百μmの溶着層と、を備え、
前記第1熱可塑性樹脂は、ポリアミド樹脂であり、
前記第2熱可塑性樹脂は、ABS樹脂又はポリプロピレン樹脂又はポリカーボネート樹脂である、樹脂成形体用の装飾シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属光沢を有する装飾シートが表面に密着した樹脂成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
金属光沢を有する樹脂成形体は、金属製の物品よりも軽量である。樹脂成形体に金属光沢を付与する方法として、下記特許文献1においては、金属光沢を有するシートを射出成形の金型に入れて樹脂と一体成形する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、大きな力にも耐え得る強度とシートの高い密着性を備えた樹脂成形体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る樹脂成形体は、本体と、本体の表面に密着している装飾シートと、を備え、装飾シートは、金属光沢層と、金属光沢層の外側に位置する透明な保護層と、金属光沢層の内側に位置し、本体の表面に溶着している溶着層と、を有し、本体は、強化繊維を有する繊維強化樹脂製であり、溶着層と本体との境界部分に、本体の強化繊維が溶着層側に食い込むことによって境界部分が凹凸形状となったアンカー構造を備えている。
【0006】
この樹脂成形体は、本体が繊維強化樹脂製であるため、高い強度が得られ、樹脂成形体に強い力が作用してもそれに耐えることができる。また、本体と装飾シートとの境界部分に、本体の強化繊維が溶着層側に食い込むことによって境界部分が凹凸形状となったアンカー構造を備えているので、装飾シートの本体への密着性が高い。そのため、樹脂成形体に強い力が作用しても、装飾シートの本体への密着性が維持され、金属光沢が維持される。
【0007】
特に、アンカー構造における強化繊維は、溶着層側にランダムに食い込んでいることが好ましく、アンカー効果が向上する。
【0008】
特に、アンカー構造は、強化繊維の線径よりも大きい高低差を有していることが好ましく、アンカー効果が向上する。
【0009】
また、アンカー構造は、20μm以上の高低差を有していることが好ましく、アンカー効果が向上する。
【0010】
特に、樹脂成形体は、自転車又は釣具の構造部材に適している。
【発明の効果】
【0011】
以上のように、本体が繊維強化樹脂製であってその強化繊維が装飾シートの溶着層側に食い込んだアンカー構造を備えているので、大きな力にも耐え得る強度と装飾シートの高い密着性が得られる。そのため、大きな強度と高いデザイン性が要求される金属製の物品の代替品として樹脂成形体を使用することができ、物品の軽量化が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態における樹脂成形体を示す要部断面図。
【
図2】同樹脂成形体に使用されている装飾シートを示す要部断面図。
【
図4】同樹脂成形体の表面付近を示す図面代用写真。
【
図5】同樹脂成形体の表面付近を示す図面代用写真。
【
図6】同樹脂成形体の表面付近を示す図面代用写真。
【
図7】同樹脂成形体の表面付近を示す図面代用写真。
【
図8】比較例としての樹脂成形体の表面付近を示す図面代用写真。
【
図9】比較例としての樹脂成形体の表面付近を示す図面代用写真。
【
図10】比較例としての樹脂成形体の表面付近を示す図面代用写真。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態に係る樹脂成形体について
図1~
図7を参酌しつつ説明する。樹脂成形体の用途は種々であってよい。樹脂成形体は、特に、自転車の構造部材や釣具の構造部材に適している。例えば、自転車のブレーキレバーやクランク、リム、スプロケットの内側構成部品、自転車用のシューズのソール、リール本体やリールのスプール、リールシート等が挙げられる。樹脂成形体は、金属光沢と軽さと強度が求められる製品に適している。
【0014】
<本体1>
樹脂成形体は、
図1のように、本体1と、本体1の表面に密着している装飾シート2とを備えている。本体1は、繊維強化樹脂製である。本体1の強化繊維10は、例えばカーボン繊維やガラス繊維である。強化繊維10は、数ミリ単位にカットされたものや数十ミリ単位にカットされたものの他、長繊維であってもよい。本体1は、種々の成形方法によって成形される。本体1の成形方法は、例えば、数ミリ単位にカットされた強化繊維10を用いる射出成形や、数十ミリ単位にカットされた強化繊維10を用いるSMC成形、長繊維を用いるプリプレグによる成形等がある。本体1の樹脂の材質は、各種の成形に適した材質でよい。本体1の樹脂の材質は、各種の熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂でよい。本体1の樹脂の材質は、例えば射出成形の場合には射出成形用の各種の樹脂であり、プリプレグによる場合にはエポキシ樹脂等の熱可塑性樹脂であり、SMC成形の場合にはナイロン樹脂やエポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂等である。本実施形態の本体1は、射出成形により成形されたものである。強化繊維10としては数ミリ単位、特には1mm以下の長さにカットされた短繊維が使用されている。樹脂としてはポリアミド樹脂(ナイロン)が用いられている。
【0015】
<装飾シート2>
装飾シート2は、本体1の表面に溶着されている。装飾シート2は、本体1の成形時に本体1の表面に一体化される。装飾シート2の一例を
図2に示している。装飾シート2は、保護層20と、第一の接着層21と、支持層22と、金属光沢層23と、第二の接着層24と、溶着層25とを有している。保護層20は、装飾シート2の最表面に位置している。保護層20は、装飾シート2の最外層である。保護層20は、透明であり、少なくとも金属光沢層23を視認できる程度の透明度を有している。保護層20は、耐摩耗性や耐候性に優れていることが好ましい。保護層20は、各種の樹脂製のフィルムにより構成される。保護層20のフィルムの厚さは例えば数十μmである。保護層20のフィルムの樹脂は、例えばポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)等のアクリル樹脂やポリカーボネート樹脂(PC)である。第一の接着層21は、保護層20と支持層22を接着させるための層である。保護層20は、支持層22の外側(表面側)に第一の接着層21を介して積層されている。第一の接着層21には各種の接着剤が使用される。第一の接着層21は透明であり、少なくとも金属光沢層23を視認できる程度の透明度を有している。尚、第一の接着層21は無色透明であってもよいし有色透明であってもよい。
【0016】
支持層22は、金属光沢層23を保持するための層である。支持層22は、各種の樹脂製のフィルムにより構成される。支持層22のフィルムの厚さは例えば数十μmであり、支持層22のフィルムは保護層20のフィルムよりも薄い。支持層22のフィルムの樹脂は、例えばPET等のポリエステル樹脂である。金属光沢層23は、金属蒸着層や金属箔、金属色の塗装膜等である。金属色の塗装膜の場合、金属ナノ粒子から構成される。金属ナノ粒子は、例えば銀、金、銅、ニッケル、クロム、白金、パラジウム、チタン、スズ及びこれらの合金であって、これらのうち何れか1つ又は何れかの混合体が用いられる。金属色の塗装膜は各種の印刷手法により形成でき、例えばコーター塗装やグラビア印刷、インクジェット印刷等により形成できる。本実施形態における金属光沢層23は、支持層22の片面に形成された金属蒸着層である。金属蒸着層が支持層22としての樹脂フィルムの片面に形成され、その金属蒸着層付きの樹脂フィルムの外側に第一の接着層21を介して保護層20が積層されている。
【0017】
第二の接着層24は金属光沢層23と溶着層25を接着させるための層である。第二の接着層24には第一の接着層21と同様に各種の接着剤が使用される。溶着層25は、金属光沢層23の内側(裏面側)に第二の接着層24を介して積層されている。溶着層25は、装飾シート2のベースとなる層であり、熱可塑性樹脂層である。溶着層25は、装飾シート2を構成する各層のうち最も厚い層である。溶着層25の厚さは例えば数百μmである。溶着層25は、装飾シート2の最内層である。溶着層25は、本体1の成形時に、本体1の表面に溶着される。溶着層25は、種々の樹脂から構成される。溶着層25は、各種の樹脂フィルムにより構成される。溶着層25は、例えば、ABS樹脂やポリプロピレン樹脂、ポリカーボネート樹脂等のフィルムから構成される。
【0018】
装飾シート2は、例えば、真空圧空成形等のシート成形によってプリフォームされた後に、射出成形等の金型に入れられる。また、射出成形等の金型に平板状の装飾シート2をセットし、その金型において装飾シート2を金型の形状に合うように所定形状に成形したうえで、続けて本体1用の樹脂を金型内に注入して本体1を成形してもよい。
【0019】
<アンカー構造30>
図3に拡大図を示しているように、樹脂成形体は、本体1と装飾シート2との間の境界部分3にアンカー構造30を備えている。本体1と装飾シート2との間の境界部分3は、本体1と装飾シート2との間の界面であり、溶着面である。アンカー構造30は、本体1の強化繊維10が溶着層25側に食い込むことによって境界部分3が凹凸形状となった構造である。強化繊維10は、溶着層25側にランダムに食い込んでいる。従って、アンカー構造30の凹凸は、規則的ではなく不規則なものである。溶着層25側を凸とすると、アンカー構造30の凸部31の大きさ、方向、形状は、一定していない。アンカー構造30の凸部31それ自身が小さな凹凸を有する複雑な形状のものも存在している。アンカー構造30の凸部31は強化繊維10が溶着層25側に食い込むことによって形成されている。そのため、アンカー構造30の凸部31は強化繊維10を有している。強化繊維10はアンカー構造30の凸部31の先端部に位置している。
【0020】
アンカー構造30の凹凸は、強化繊維10の線径よりも大きい高低差を有していることが好ましい。特に、アンカー構造30の凹凸は、強化繊維10の線径の数倍程度の高低差を有していることが好ましい。強化繊維10の線径は例えば10μm程度である。アンカー構造30の凹凸は、20μm以上の高低差を有していることが好ましく、特に50μm以上の高低差を有していることが好ましい。アンカー構造30の凹凸は、例えば溶着層25の厚さが200~300μm程度の場合にはその10%程度であるが、10%以上の高低差となることがある。溶着層25の厚さがそれ以上のものとなってもアンカー構造30の凹凸の高低差はそれほど変わらないことが多い。
【0021】
図4~
図7に、樹脂成形体のカット断面の拡大写真を示している。尚、溶着層25にはABS樹脂フィルムを使用している。本体1は、カーボン繊維を1mm以下の長さにカットした短繊維をポリアミド樹脂に混合して射出成形することにより形成されたものである。
図4は倍率が200倍、
図5は倍率が500倍、
図6は倍率が1500倍である。
図7は、
図6の写真において溶着層25と本体1との境界部分3に線を引いたものである。写真において、本体1の強化繊維10は白く光って見える。
【0022】
図4のように溶着層25と本体1との境界部分3はかなり起伏に富んだ状態となっている。
図6及び
図7のように、本体1の強化繊維10は装飾シート2の溶着層25側にランダムに食い込んでおり、その強化繊維10の食い込み形状が境界部分3の起伏即ち凹凸形状となっている。この撮影箇所では、30μm~50μm程度の高低差を有する凹凸形状が形成されている。
【0023】
図8~
図10に、比較例としての樹脂成形体のカット断面の拡大写真を示している。この比較例の樹脂成形体は、上記
図4~
図7で示した樹脂成形体に対して、装飾シート102は同じであり、本体101の樹脂の材質が異なっている。比較例における樹脂成形体の本体101は、ABS樹脂から射出成形されたものであり、強化繊維10を含んでいない。
図8~
図10の倍率は、それぞれ200倍、500倍、1500倍であって、
図4~
図6と同じである。比較例の樹脂成形体では、装飾シート102の溶着層125と本体101との間の境界部分103が平坦であって凹凸が極めて小さい平面形状となっている。
【0024】
以上のように、本実施形態の樹脂成形体は、本体1が繊維強化樹脂製であるため、高い強度が得られる。従って、樹脂成形体に強い力が作用しても、その力に耐えることができる。また、装飾シート2と本体1との境界部分3に、強化繊維10が溶着層25側に食い込んだアンカー構造30を備えているので、装飾シート2の本体1への密着性が高い。そのため、樹脂成形体に強い力が作用しても、装飾シート2の本体1への密着性が維持され、金属光沢が維持される。このように、大きな強度と共に装飾シート2の高い密着性による金属光沢が得られるので、樹脂成形体を金属製の物品の代替品として使用することができ、物品の軽量化が可能になる。特に、大きな力が作用する自転車や釣具の構造部材を樹脂成形体とすると、構造部材の強度と美感を維持しつつ構造部材を軽量化できる。
【符号の説明】
【0025】
1 本体
2 装飾シート
3 境界部分
10 強化繊維
20 保護層
21 第一の接着層
22 支持層
23 金属光沢層
24 第二の接着層
25 溶着層
30 アンカー構造
31 凸部
101 本体
102 装飾シート
103 境界部分
125 溶着層