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特許7391181人工多能性幹細胞(iPSC)由来間葉系幹細胞の前駆細胞、及びその製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-24
(45)【発行日】2023-12-04
(54)【発明の名称】人工多能性幹細胞(iPSC)由来間葉系幹細胞の前駆細胞、及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/0775 20100101AFI20231127BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20231127BHJP
【FI】
C12N5/0775
C12N5/10
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2022505336
(86)(22)【出願日】2019-12-24
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-29
(86)【国際出願番号】 KR2019018426
(87)【国際公開番号】W WO2021020666
(87)【国際公開日】2021-02-04
【審査請求日】2022-01-25
(31)【優先権主張番号】10-2019-0091269
(32)【優先日】2019-07-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2019-0173078
(32)【優先日】2019-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【微生物の受託番号】KCTC  KCTC 14019BP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】521504245
【氏名又は名称】プレクソジェン インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100135079
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 修
(72)【発明者】
【氏名】スゥ・キム
【審査官】藤澤 雅樹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/135645(WO,A1)
【文献】特表2015-523083(JP,A)
【文献】国際公開第2008/070258(WO,A2)
【文献】Int. J. Mol. Sci. (2018) Vol.19, No.3119, pp.1-16
【文献】Stem Cell Reports (2014) Vol.3, pp.414-422, Table S2
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
人工多能性幹細胞を、FBS及びbFGFを含む培地で日間培養する段階、及び
SSEA-4細胞を分離し、FBS及びbFGFを含む培地で日間培養する段階を含むことを特徴とする人工多能性幹細胞由来間葉系幹細胞の前駆細胞の製造方法。
【請求項2】
人工多能性幹細胞を、FBS及びbFGFを含む培地で日間培養する段階、
SSEA-4細胞を分離し、FBS及びbFGFを含む培地で日間培養する段階、及び
前記培地からエキソソームを分離する段階を含むことを特徴とするエキソソームの生産方法。
【請求項3】
前記培地は、エキソソームの除去されたウシ胎児血清が含まれる、請求項2に記載のエキソソームの生産方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本特許出願は、2019年7月26日に大韓民国特許庁に提出された大韓民国特許出願第10-2019-0091269号に対して優先権を主張し、該特許出願の開示事項は、本明細書に援用により組み込まれる。
【0002】
本発明は、人工多能性幹細胞(iPSC)由来間葉系幹細胞の前駆細胞、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
間葉系幹細胞は、多能性の間質細胞で、骨細胞、軟骨細胞、筋細胞、脂肪細胞などを含む様々な細胞へと分化可能な細胞のことを指す。間葉系幹細胞は、軟骨や骨組織、靭帯、骨髄間質などの様々な結合組織へと分化可能なことから、関節炎、創傷、火傷などによって生じた軟部組織の欠陥を治療するなど、様々な疾患に対する治療用途として研究されている。また、間葉系幹細胞は、このような構造的支持機能の他にも、抗炎症性サイトカインの発現やマクロファージのM2型マクロファージへの軽質転換等の免疫調節機能又は免疫抑制機能を有するので、炎症反応を抑制し、関節炎、炎症性腸疾患、アトピー性皮膚炎、自己免疫疾患等の免疫系の過度な活性化によって引き起こされる免疫疾患の治療剤として用いるために、数多くの研究がなされている。
【0004】
最近では、間葉系幹細胞自体を使用せず、間葉系幹細胞が分泌するエキソソームを用いて、様々な疾患への治療効果を積極的に研究している。このようなエキソソームを商業的に用いるためには、多量かつ高品質のエキソソームが必要である。しかしながら、間葉系幹細胞から得られるエキソソームの量は非常に少なく、間葉系幹細胞の機能及び増殖能も継代を繰り返すと減少するため、間葉系幹細胞と比較して同等又はより優れた機能性を有しながらも、増殖能に優れた細胞を樹立する技術の開発の必要性が台頭した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】大韓民国公開特許公報 第10-2019-0063453号(2019.01.15.公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、従来の間葉系幹細胞と比較して同等又はより優れた機能性を有する上に、増殖能にも優れた幹細胞を開発しようと鋭意研究努力した。その結果、人工多能性幹細胞に由来する間葉系幹細胞よりも未分化状態を維持する間葉系前駆細胞を樹立し、その優れた機能性及び増殖能を究明し、本発明を完成するに至った。
したがって、本発明の目的は、人工多能性幹細胞由来間葉系幹細胞の前駆細胞(precursor cell of iPSC-derived mesenchymal stem cell)、該前駆細胞からなる細胞集団(cell population)、及びそれらの製造方法を提供することである。
本発明の他の目的は、前記人工多能性幹細胞由来間葉系幹細胞の前駆細胞からエキソソームを生産する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一様態によれば、本発明は、間葉系幹細胞(mesenchymal stem cell,MSC)の前駆細胞を含む細胞集団(cell population)を提供する。
【0008】
本明細書において用語“幹細胞”とは、自己複製能を有し、2つ以上の異なる種類の細胞に分化する能力を有する未分化細胞を示す。本発明の幹細胞は、自己幹細胞又は同種異系由来幹細胞であってよい。
【0009】
本明細書において用語“間葉系幹細胞”は、骨細胞、軟骨細胞、筋細胞、脂肪細胞などを含む様々な細胞に分化可能な多能性細胞を指す。前記間葉系幹細胞は、骨髄由来の間葉系幹細胞が最も多用されているが、骨髄の他に、臍帯又は臍帯血、脂肪組織、羊膜液、奥歯の歯蕾(tooth bud)に由来してもよい。間葉系幹細胞は、間質細胞(stromal cell)とも呼ばれる。
【0010】
本明細書において、本発明者らが開発した間葉系幹細胞の前駆細胞は、一般の間葉系幹細胞ではなく、人工多能性幹細胞(induced pluripotent stem cell,iPSC)に由来する間葉系幹細胞の前駆細胞である。
前記“人工多能性幹細胞”は、分化した細胞からの人工的なリプログラミングプロセスによって、多能性分化能を有するように誘導された細胞を示し、リプログラミングされた幹細胞とも称する。人工的なリプログラミングプロセスは、レトロウイルス、レンチウイルス、及びセンダイウイルスを用いたウイルス媒介リプログラミング因子、又は非ウイルス性ベクター、タンパク質、及び細胞抽出物などを用いる非ウイルス媒介リプログラミング因子の導入によって行われる。リプログラミングプロセスには、幹細胞抽出物、化合物などによるリプログラミングも含まれる。人工多能性幹細胞は、胚性幹細胞とほぼ同じ特性を有し、特に類似の細胞形態を示し、遺伝子及びタンパク質の発現パターンが類似であり、in vitro及びin vivoで多能性を有し、テラトーマ(teratoma)を形成し、マウスの胚盤胞(blastocyst)に挿入するとキメラ(chimera)マウスを形成し、遺伝子の生殖細胞系伝達(germline transmission)が可能である。
本発明の人工多能性幹細胞には、ヒト、サル、ブタ、ウマ、ウシ、ヒツジ、イヌ、ネコ、マウス、ラット、ウサギなどのあらゆる種由来の人工多能性幹細胞を含むが、好ましくは、ヒト由来の人工多能性幹細胞である。
また、本発明の前記人工多能性幹細胞がリプログラミングする前の体細胞は、臍帯、臍帯血、骨髄、脂肪、筋肉、神経、皮膚、羊膜、羊水、又は胎盤などに由来する体細胞であるが、これに限定されない。具体的には、前記体細胞は、線維芽細胞(fibroblast)、肝細胞(hepatocyte)、脂肪細胞(adipose cell)、上皮細胞(epithelial cell)、表皮細胞(epidermal cell)、軟骨細胞(chondrocyte)、筋細胞(muscle cell)、心筋細胞(cardiac muscle cell)、メラノサイト(melanocyte)、神経細胞(neural cell)、膠細胞(glial cell)、星状膠細胞(astroglial cell)、単球(monocyte)、マクロファージ(macrophage)などを含むが、これに限定されるものではない。
【0011】
本発明の一実施形態において、前記細胞集団は、少なくとも80%以上の細胞の細胞表面上に発現するマーカータンパク質が、CD73、CD90、CD105、又はそれらの組み合わせであることを特徴とする。本発明の特定の実施形態において、前記細胞集団は、少なくとも80%、85%、90%、又は95%以上の細胞の細胞表面上に発現するマーカータンパク質がCD73、CD90、CD105、又はそれらの組み合わせであることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の別の実施形態において、前記細胞集団は、最大で5%の細胞の細胞表面上に発現するマーカータンパク質がCD34、及び/又はCD45であることを特徴とする。本発明の特定の実施形態において、前記細胞集団は、最大で5%、4%、又は3%の細胞の細胞表面上に発現するマーカータンパク質がCD34、及び/又はCD45であることを特徴とする。
【0013】
本明細書において、CDは、細胞表面上の分化抗原群(cluster of differentiation)を意味し、“+”又は“(+)”は、細胞表面に対応する細胞表面マーカーが存在する(陽性)ことを意味し、“-”又は“(-)”は、細胞表面に対応する細胞表面マーカーが存在しない(陰性)ことを意味する。前記マーカーの存在(陽性)又は不在(陰性)は、物理的に絶対的な存在の有無を意味するものではなく、当業界における技術レベルで実験的に検出可能な数値以上であれば存在(陽性)し、その数値以下であれば不在(陰性)すると判断する、相対的な基準に基づく存在又は不在を意味する。
【0014】
本発明の別の実施形態において、本発明の間葉系幹細胞の前駆細胞は、同等な数の間葉系幹細胞に比べて、ANKRD1、CPE、NKAIN4、LCP1、CCDC3、MAMDC2、CLSTN2、SFTA1P、EPB41L3、PDE1C、EMILIN2、SULT1C4、TRIM58、DENND2A、CADM4、AIF1L、NTM、SHISA2、RASSF4、及びACKR3からなる群から選ばれる少なくとも1以上の遺伝子をより高いレベルで発現する。
より高いレベルとは、同等の数の間葉系幹細胞によって発現される遺伝子発現の量と比較して、少なくとも3倍、5倍、7倍、又は10倍高いレベルを意味する。
【0015】
また、本発明のさらに別の実施形態において、本発明の間葉系幹細胞の前駆細胞は、同等な数の間葉系幹細胞に比べて、DHRS3、BMPER、IFI6、PRSS12、RDH10、及びKCNE4からなる群から選ばれる少なくとも1以上の遺伝子をより低いレベルで発現する。
より低いレベルとは、同等の数の間葉系幹細胞によって発現される遺伝子発現の量と比較して、少なくとも3倍、5倍、7倍、又は10倍低いレベルを意味する。
【0016】
本発明の特定の実施形態において、前記間葉系幹細胞の前駆細胞及び同等な数の間葉系幹細胞は、同種組織由来である。より具体的には、前記間葉系幹細胞の前駆細胞は、同種組織由来の人工多能性幹細胞に由来する間葉系幹細胞の前駆細胞である。
本発明の一実施形態において、前記間葉系幹細胞の前駆細胞は、臍帯組織由来の人工多能性幹細胞に由来する間葉系幹細胞の前駆細胞であり、これと比較される同等な数の間葉系幹細胞は、臍帯組織由来の間葉系幹細胞である。
【0017】
本発明者らは、前記人工多能性幹細胞由来間葉系幹細胞の前駆細胞をBxC(brexogen stem cell)と命名した。本明細書において前記“人工多能性幹細胞由来間葉系幹細胞の前駆細胞(BxC)”は、“人工多能性幹細胞由来間葉系前駆細胞”、又は“人工多能性幹細胞由来の機能的に増強された間葉系前駆細胞”とも表現される。
本明細書において、前記“人工多能性幹細胞由来間葉系幹細胞の前駆細胞(BxC)”は、“韓国生命工学研究院微生物資源センター(Korean Collection for Type Culture,KCTC)”に受託番号“KCTC14019BP”として寄託されたものである。
本発明の実施例から立証されるように、本発明の同一組織(例えば、臍帯組織)由来の人工多能性幹細胞の間葉系幹細胞の前駆細胞(BxC)は、同一組織(例えば、臍帯組織)由来の間葉系幹細胞(MSC)と比較して、染色体核型異常がなく、増殖能にも優れている。具体的には、本発明のBxCは、9回以上の継代を繰り返した場合に、同一組織由来の間葉系幹細胞(MSC)と比較して10倍以上の増殖能の差異を示し、12回以上の継代を繰り返しても増殖能の減少が観察されなかった。また、BxCは、MSCに比べて、細胞増殖能に関連するマーカーであるKi67の2倍以上の発現レベルを示した。
【0018】
本発明の一実施形態において、本発明の人工多能性幹細胞由来間葉系幹細胞の前駆細胞(BxC)は、エンドスタチン(Endostatin)、エンドセリン(Endothelin)-1、VEGF-A、トロンボスポンジン(Thrombospondin)-2、PlGF、PDGF-AA、beta-NGF、及びHB-EGF等のタンパク質を、同等な数の間葉系幹細胞と比較して多量に分泌する。
本明細書において、前記エンドスタチンは、天然に生成されたXVIII型コラーゲンに由来する20kDaのC末端フラグメントであり、抗血管新生剤として報告されている。
本明細書において、前記エンドセリン-1は、プレプロエンドセリン(preproendothelin)-1(PPET1)とも知られており、EDN1遺伝子によってコードされるタンパク質であり、血管内皮細胞で生産される。エンドセリン-1は、強力な血管収縮剤として知られている。
本明細書において、血管内皮増殖因子A(VEGF-A(vascular endothelial growth factor A))は、VEGFA遺伝子によってコードされるタンパク質で、血管内皮細胞のVEGFR1及びVEGFR2との相互作用によって血管の成長を誘導することが知られている。
本明細書において、前記トロンボスポンジン(Thrombospondin)-2は、THBS2遺伝子によってコードされるタンパク質で、細胞間相互作用又は細胞-マトリックス相互作用を媒介するものと知られている。トロンボスポンジン-2の癌に対する役割には論議の余地があるが、間葉系幹細胞の細胞表面特性を調節することが報告されており、細胞接着及び細胞移動に関与するものと知られている。
本明細書において、胎盤成長因子(PlGF(placental growth factor))は、PGF遺伝子によってコードされるタンパク質で、VEGFサブファミリーのメンバーとして胚発生段階における血管新生に主要な役割を果たすタンパク質として知られている。
本明細書において、血小板由来成長因子(PDGF-AA(platelet-derived growth factor))は、細胞の成長及び分裂を調節する成長因子であり、血管の形成及び成長、及び間葉系幹細胞の増殖、化学走性、及び遊走において重要な役割を担うものと知られている。
本明細書において、神経成長因子(NGF(Nerve growth factor))は、主にニューロンの成長、維持、増殖、及び生存に関与する神経栄養因子、及び神経ペプチドである。NGFは、alpha-NGF、beta-NGF、及びgamma-NGFが、約2:1:2の割合で発現する3種のタンパク質の複合体である。gamma-NGFはセリンプロテアーゼとして作用し、beta-NGFのN末端を切断してNGFを活性化させるものと知られている。
本明細書において、ヘパリン結合性EGF様成長因子(HB-EGF(heparin-binding EGF-like growth factor))は、HBEGF遺伝子によってコードされるEGFファミリータンパク質のメンバーである。HB-EGFは、心臓の発達及び血管分布に重要な役割を担うものと知られており、皮膚の創傷治癒において上皮化に必須なタンパク質であることが知られている。
【0019】
本発明の他の実施形態によれば、人工多能性幹細胞(iPSC)由来の間葉系幹細胞の前駆細胞を調製するための方法が提供され、この方法には以下が含まれる。:
人工多能性幹細胞を、FBS及びbFGFを含む培地で1~10日間培養する段階;及び
SSEA-4(-)細胞を分離し、FBS及びbFGFを含む培地で1~10日間培養する段階。
【0020】
本発明の前記間葉系幹細胞の前駆細胞は、上述した間葉系幹細胞の前駆細胞と同一の細胞であるので、これら両者に共通する内容は、その記載を省略する。
本発明の一実施形態によれば、前記人工多能性幹細胞は、ヒトの臍帯、臍帯血、骨髄、脂肪、筋肉、神経、皮膚、羊膜、羊水、又は胎盤に由来する体細胞をリプログラミング用培地で培養して製造されたものである。
具体的に、前記体細胞は、線維芽細胞(fibroblast)、肝細胞(hepatocyte)、脂肪細胞(adipose cell)、上皮細胞(epithelial cell)、表皮細胞(epidermal cell)、軟骨細胞(chondrocyte)、筋細胞(muscle cell)、心筋細胞(cardiac muscle cell)、メラノサイト(melaonocyte)、神経細胞(neural cell)、膠細胞(glial cell)、星状膠細胞(astroglial cell)、単球(monocyte)、マクロファージ(macrophage)、又は骨髄、臍帯、臍帯血、脂肪組織、羊膜、奥歯の歯蕾(tooth bud)に由来する間葉系幹細胞などを含むが、これに限定されるものではない。
【0021】
本明細書において、ステージ特異的胚性抗原-4(SSEA-4(stage-specific embryonic antigen-4))は、ヒトの人工多能性幹細胞及び胚性幹細胞の特徴的な細胞表面マーカーの一つである。本発明の一実施形態において、前記SSEA-4は、本発明の間葉系幹細胞前駆細胞(BxC)への分化過程において、人工多能性幹細胞の特徴を失った細胞と、人工多能性幹細胞の特徴を保持する細胞と、を区分するためのスクリーニング因子として用いられてよい。
【0022】
本発明の一実施形態によれば、本発明者は、人工多能性幹細胞を培養し、SSEA-4を発現するか否かを基準にスクリーニングして、SSEA-4(-)細胞を分離した後、追加培養を実施した。
本発明の一実施形態において、人工多能性幹細胞、及びSSEA-4(-)細胞の培養は、具体的には1~10日、3~10日、5~10日間行われてよく、より具体的には、5~7日又は7~10日間行われてよい。
【0023】
本発明の一実施形態において、人工多能性幹細胞を1~10日間培養した後のSSEA-4(-)細胞の分離は、FACS(fluorescence-activated cell sorting)又はMACS(magnetic-activated cell sorting)方法が用いられてよく、好ましくは、FACS方法が用いられてよいが、これに限定されず、当業界に知られた細胞の分離方法を制限なく用いることができる。
【0024】
本発明の他の実施形態において、前記細胞を培養する培地は、5~20%、5~15%、5~10%、10~15%、又は10~20%のFBSを含み、最も具体的には10%のFBSを含むが、これに限定されない。
本発明の他の実施形態において、前記細胞を培養する培地は、1~20ng/ml、2~20ng/ml、3~20ng/ml、5~20ng/ml、7~20ng/ml、10~20ng/ml、1~15ng/ml、2~15ng/ml、3~15ng/ml、5~15ng/ml、7~15ng/ml、10~15ng/ml、1~10ng/ml、2~10ng/ml、3~10ng/ml、5~10ng/ml、7~10ng/mlのbFGFを含み、最も具体的には10ng/mlのbFGFを含む。
【0025】
本発明のさらに他の実施形態において、本発明は、次の段階を含むエキソソームの製造方法を提供する:
請求項1から5のいずれか一項に記載の細胞集団を、細胞培養培地において培養する段階;及び
前記細胞培養培地からエキソソームを分離する段階。
【0026】
本発明の一実施形態において、前記細胞培養培地は、エキソソームの除去されたウシ胎児血清を含む。
本発明の特定の実施形態において、前記細胞培養培地にエキソソームを除去したFBSを使用する理由は、一般的に使用されるFBSにはウシ胎児血清由来のエキソソームが非常に多く含まれており、幹細胞が分泌するエキソソームの他に、FBSに由来するエキソソームが混入することを防止するためである。
【0027】
本明細書において、用語“エキソソーム(Exosome)”は、エンドサイトーシス経路(endocytic pathway)の細胞小器官である多胞体(multivesicular body)と、原形質膜(plasma membrane)との融合により放出されるナノサイズの膜小胞体(vesicle)であり、エキソソームの大部分は真核生物の体液に存在する。
エキソソームの直径は30~150nm程度であり、LDLよりは大きいが、赤血球よりは遥かに小さい。エキソソームは、多胞体(multivesicular bodies)が細胞膜と融合されるときに細胞から放出されるか、或いは細胞膜から直接放出される。エキソソームが細胞性免疫の媒介や細胞間シグナル伝達等の重要ながらも特化した機能を有するということはよく知られている。
エキソソームのマーカータンパク質としては、CD9、CD63、CD81などがよく知られている。
本発明の前記エキソソームは、30~150nmサイズに厳格に限定されるものではなく、前記サイズの範囲内に属する多胞体(multivesicular body)、前記サイズ以上の脂質二重層で構成された微小胞(microvesicle)、及びそれらの混合物を含む概念である。
【0028】
本発明の一実施形態において、前記培養は、12時間~120時間、24時間~96時間、48時間~96時間、又は60時間~84時間、最も具体的には72時間培養されてよいが、これに限定されない。
【0029】
本発明の一実施形態において、前記間葉系幹細胞の前駆細胞は、エキソソームを分離する前に様々な物質で前処理されてよい。例えば、本発明の前記間葉系幹細胞の前駆細胞は、エキソソームを分離する前に、インターフェロンガンマ(interferon-gamma)、ピオグリタゾン(pioglitazone)、メトホルミン(metformin)、AICAR(5-Aminoimidazole-4-carboxamide ribonucleotide)、トロンビン(thrombin)、レスベラトロール(resveratrol)、P物質(substance P)、ヒアルロン酸(hyaluronic acid)、テトランドリン(tetrandrine)、PMA(Phorbol 12-myristate 13-acetate)、エキセンジン-4(exendine-4)、デキサメタゾン(dexamethason)、インスリン(insulin)、アスコルビン酸(ascorbate)、軟骨成長因子(cartilage growth factor)、IGF(Insulin-like Growth Factor)、及びTGF-β1(Transforming Growth Factor β1)などを含む群から選ばれる1種以上の物質で前処理されてよいが、これに限定されない。
【0030】
また、本発明の他の実施形態において、前記細胞培養培地からエキソソームを分離する段階は、前記培養された間葉系幹細胞の前駆細胞から細胞培養培地に分泌したエキソソームを分離する過程である。
本発明の一実施形態において、前記エキソソームの分離方法は、次の通りである。前記培養培地を200~400×gで5~20分間遠心分離して、残っている細胞と細胞残余物を除去した後、上清を取り、9,000~12,000×gで60~80分間高速遠心分離する。このとき、再び上清を取り、90,000~120,000×gで80~100分間遠心分離し、上清を除去することにより、下層に残っているエキソソームを得ることができる。
本発明の特定の実施形態によれば、間葉系幹細胞培養培地を回収し、300×gで10分間遠心分離して、残っている細胞と細胞残余物を除去し、高速遠心分離機(high speed centrifuge)を用いて10,000×g、4℃で70分間遠心分離する。遠心分離された上清を再び取り、超遠心分離機(ultracentrifuge)を用いて100,000×g、4℃で90分間遠心分離して上清を除去することにより、下層に残っているエキソソームを分離する。
【0031】
上述したエキソソームの製造方法は、上述した間葉系幹細胞の前駆細胞を培養してエキソソームを生産するという点で、上述した間葉系幹細胞の前駆細胞と共通する。本明細書において、上述したエキソソームの分離方法は、例示的なものであり、当業界で用いられるエキソソームの分離方法も制限がなく用いられてよい。
【0032】
本発明の製造方法によって製造されたエキソソームは、治療剤を含んでも含まなくてもよい。
本発明の一実施形態において、前記治療剤は、治療用タンパク質、抗体(例えば、全長抗体、モノクローナル抗体、scFv、Fabフラグメント、F(ab’)、ダイアボディ(diabody)、トリアボディ(triabody)、又はミニボディ(minibody))、抑制性RNA、又は小分子薬物である。
本発明の一実施形態において、治療用タンパク質は、その喪失又は不活性化が疾患の治療に関連するタンパク質である。例えば、腫瘍抑制因子、キナーゼ、ホスファターゼ、又は転写因子である。
【0033】
本発明の一実施形態において、抗体は、細胞内抗原に結合する。そのような細胞内抗原は、細胞増殖及び/又は生存のために活性が必要とされる癌遺伝子などのタンパク質であってよい。場合によっては、抗体が抗原の機能を遮断する。場合によって、抗体はタンパク質間相互作用を妨げる。
【0034】
本発明の一実施形態において、抑制性RNAは、siRNA、shRNA、miRNA、又はpre-miRNAである。様々な実施形態において、抑制性RNAは、特定の疾患状態を維持するために活性が必要なタンパク質、例えば、腫瘍遺伝子の発現を遮断する。癌遺伝子が遺伝子の変異型である場合、抑制性RNAは、野生型タンパク質ではなく、変異した癌遺伝子の発現を優先的に遮断する。
【0035】
本発明の一実施形態において、前記小分子薬物は造影剤である。本発明の他の実施形態において、前記小分子薬物は化学治療剤である。
本発明の一実施形態において、本組成物は、経口投与のために剤形化されるか、又は非経口投与、例えば、静脈内、筋肉内、皮下、又は腹腔内注射のために剤形化される。
本発明の一実施形態において、前記治療剤は、抗菌剤を含む。抗菌剤は、ベンザルコニウム塩化物、ベンゼトニウム塩化物、ベンジルアルコール、ブロノポール、セントリミド、セチルピリジニウム塩化物、クロルヘキシジン、クロロブタノール、クロロクレゾール、クロロキシレノール、クレゾール、エチルアルコール、グリセリン、エキセチジン、イミド尿素、フェノール、フェノキシエタノール、フェニルエチルアルコール、フェニル水銀硝酸塩、プロピレングリコール、又はチメロサールであってよいが、これに限定されない。
【0036】
本発明の他の実施形態によれば、本発明は、人工多能性幹細胞に由来する間葉系幹細胞の前駆細胞を提供する。本発明の一実施形態において、前記人工多能性幹細胞は、ヒトの臍帯に由来する。本発明の他の実施形態において、前記前駆細胞は、受託番号KCTC14019BPとして寄託されたものである。
【発明の効果】
【0037】
本発明は、人工多能性幹細胞由来間葉系幹細胞の前駆細胞及びその製造方法を提供する。本発明の人工多能性幹細胞由来間葉系幹細胞の前駆細胞は、一般の間葉系幹細胞、又は人工多能性幹細胞由来間葉系幹細胞に比べて機能性が増強し、増殖能に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1A図1Aは、人工多能性幹細胞(iPSC)の0日目培養後の細胞表面発現マーカーSSEA-4の発現比率及び顕微鏡写真を示す図である。
図1B図1Bは、人工多能性幹細胞(iPSC)の7日目培養後の細胞表面発現マーカーSSEA-4の発現比率及び顕微鏡写真を示す図である。
図1C図1Cは、人工多能性幹細胞を7日間培養し、SSEA-4(-)に該当する細胞を分離した後、7日間培養した後の細胞(BxC)の表面発現マーカーSSEA-4の発現比率及び顕微鏡写真を示す図である。
図2図2は、人工多能性幹細胞の培養0日目(iPSC)、培養7日目(pre-BxC)、SSEA-4(-)分離後培養7日目(BxC)、及び間葉系幹細胞(MSC)の細胞表面マーカーの種類を示すグラフである。
図3図3は、人工多能性幹細胞由来間葉系幹細胞の前駆細胞(BxC)と同種組織由来間葉系幹細胞(MSC)の核型を分析した結果である。
図4A図4Aは、人工多能性幹細胞由来間葉系幹細胞の前駆細胞(BxC)と同種組織由来間葉系幹細胞(MSC)の継代培養を用いた細胞数を示す図である。
図4B図4Bは、人工多能性幹細胞由来間葉系幹細胞の前駆細胞(BxC)と同種組織由来間葉系幹細胞(MSC)の細胞増殖性因子であるKi67の発現比率を比較して示す図である。
図5A図5Aは、人工多能性幹細胞由来間葉系幹細胞の前駆細胞(BxC)で発現する機能性タンパク質の分泌量を比較して示す図である(エンドスタチン、エンドセリン-1)
図5B図5Bは、人工多能性幹細胞由来間葉系幹細胞の前駆細胞(BxC)で発現する機能性タンパク質の分泌量を比較して示す図である(VEGF-A、トロンボスポンジン-2)
図5C図5Cは、人工多能性幹細胞由来間葉系幹細胞の前駆細胞(BxC)で発現する機能性タンパク質の分泌量を比較して示す図である(PlGF、PDGF-AA)
図5D図5Dは、人工多能性幹細胞由来間葉系幹細胞の前駆細胞(BxC)で発現する機能性タンパク質の分泌量を比較して示す図である(beta-NGF、HB-EGF)
図6A図6Aは、人工多能性幹細胞由来間葉系幹細胞の前駆細胞(BxC)と同種組織由来間葉系幹細胞(MSC)の増殖能力を比較するためにCFU-F分析結果を示す図である。
図6B図6Bは、人工多能性幹細胞由来間葉系幹細胞の前駆細胞(BxC)と同種組織由来間葉系幹細胞(MSC)の増殖能力を比較するためにCFU-F分析結果を示す図である。
図7A図7Aは、人工多能性幹細胞由来間葉系幹細胞の前駆細胞(BxC)と同種組織由来間葉系幹細胞(MSC)との間に発現量の差を示す遺伝子を確認するために行われたRNA-seq分析結果の模式図である。
図7B図7Bは、前記MSCと比較してBxCにおいて発現量の高い遺伝子を示す図である。
図7C図7Cは、前記MSCと比較してBxCにおいて発現量の低い遺伝子を示す図である。
図8A図8Aは、本発明のBxCから分離したエキソソームの数とサイズ分布を確認したグラフである。
図8B図8Bは、エキソソーム特異的表面抗原であるTSG101及びCD63の発現を確認した図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明する。これらの実施例は単に本発明をより具体的に説明するためのもので、本発明の要旨によって本発明の範囲がこれら実施例に制限されないということは、当業界における通常の知識を有する者にとって明らかであろう。
【実施例
【0040】
本明細書の全体を通じて、特定物質の濃度を示すために用いられる“%”は、特に言及がない限り、固体/固体は(重量/重量)%、固体/液体は(重量/体積)%、そして液体/液体は(体積/体積)%である。
【0041】
実施例1:人工多能性幹細胞(iPSC)由来間葉系幹細胞の前駆細胞(BxC)の分離及び培養
まず、人工多能性幹細胞(iPSC)を、10%のFBS及び10ng/mlのbFGFを添加したDMEMで7日間培養した。次に、培養された人工多能性幹細胞から、FACSを用いて、細胞表面にSSEA-4(stage-specific embryonic antigen 4)タンパク質を発現していないSSEA-4(-)細胞を分離した。また、分離されたSSEA-4(-)細胞を継代し、前記と同じ培地で7日間さらに培養し、本発明の人工多能性幹細胞由来間葉系幹細胞の前駆細胞を調製した。本発明者らは、前記人工多能性幹細胞由来間葉系幹細胞の前駆細胞をBxC(brexogen stem cell)と命名し、“韓国生命工学研究院微生物資源センター(Korean Collection for Type Culture,KCTC)”に受託番号“KCTC14019BP”として寄託した。
BxCと命名された人工多能性幹細胞由来間葉系幹細胞の前駆細胞を培養培地[高グルコースDMEM(Gibco,Cat no.11995-065)、10%ウシ胎児血清(HyClone)、1% MEM非必須アミノ酸溶液(100X)(Gibco,Cat no.11140-050)]でさらに培養した。
上記の0日目人工多能性幹細胞(iPSC)(D0)、7日培養後の人工多能性幹細胞(Pre-BxC)(D7)、及び本発明の人工多能性幹細胞由来間葉系幹細胞の前駆細胞(BxC)の各細胞別細胞表面マーカーSSEA-4の比率は、下表1及び図1A図1C図2に示した。
最初の人工多能性幹細胞集団の96.6%は、細胞表面にSSEA-4タンパク質を発現させたが(図1A)、7日間培養した後には、SSEA-4タンパク質を発現させるSSEA-4(+)細胞集団が全細胞の35.8%と減少した(図1B)。全細胞の残りの64.2%を占めるSSEA-4(-)細胞を分離し、継代して7日間培養した(BxC細胞)。その結果、SSEA-4タンパク質発現細胞が全細胞集団の3%以下であることを確認した(図1C)。
したがって、本発明の人工多能性幹細胞(iPSC)由来の機能的に増強された間葉系前駆細胞(BxC)の細胞集団では、SSEA-4タンパク質の発現率が5%以下であることがわかる。
【0042】
実施例2:人工多能性幹細胞(iPSC)由来の機能的に増強された間葉系前駆細胞(BxC)の細胞表面マーカー発現
0日目人工多能性幹細胞(iPSC)(D0)、7日培養後の人工多能性幹細胞由来分化細胞(Pre-BxC)(D7)、人工多能性幹細胞由来間葉系幹細胞の前駆細胞(BxC)、及び間葉系幹細胞(MSC)の各細胞別の細胞表面マーカー(SSEA-4、CD34、CD45、CD73、CD90、CD105)を次のように分析した。
各段階の細胞をTrypLETM Express(Gibco,12604-021)で処理して単細胞懸濁液とし、PBSで洗浄した。単細胞懸濁液を、SSEA-4(BD560128)、CD73(BD550257)、CD90(BD5555950)、CD105(BD560839)、CD45(BD555483)、及びCD34(BD348053)に特異的に結合する抗体の波長になるようにチューブに分けて入れ、遠心分離した。細胞ペレットをFACS用のバッファー100μLに再懸濁させ、6μLの抗体を波長が重ならないように2個ずつ共に入れ、暗(dark)状態にて、室温で30分間静置した後、PBSで洗浄した後、300μL FACSバッファーに懸濁させ、FACS装置で分析した。
幹細胞の細胞表面マーカー(SSEA-4、CD34、CD45、CD73、CD90、CD105)別発現比率は、下記表1及び図2に示した。
以上の結果から、本発明の人工多能性幹細胞(iPSC)由来の機能的に増強された間葉系前駆細胞(BxC)の細胞集団には、CD73、CD90及びCD105タンパク質の発現率が90%以上であることが分かった。
【0043】
【表1】
【0044】
実施例3:人工多能性幹細胞(iPSC)由来の機能的に増強された間葉系前駆細胞(BxC)の染色体分析
本発明の人工多能性幹細胞由来の機能的に増強された間葉系前駆細胞(BxC)と人工多能性幹細胞由来間葉系幹細胞(MSC)の染色体異常の有無を確認するために、それぞれ6回ずつ継代したBxCとMSCの核型を分析した。
図3に示すように、本発明のBxCとMSCは、染色体数及び構造に異常がないことを確認した。
【0045】
実施例4:人工多能性幹細胞(iPSC)由来の機能的に増強された間葉系前駆細胞(BxC)増殖能特性の比較
本発明の人工多能性幹細胞由来の機能的に増強された間葉系前駆細胞(BxC)と人工多能性幹細胞由来間葉系幹細胞(MSC)の増殖能を比較するために次のように実験した。
同一継代数(P4)の人工多能性幹細胞由来の機能的に増強された間葉系前駆細胞(BxC)と同種組織(臍帯)由来の間葉系幹細胞(MSC)とを、6ウェル培養プレートのウェルにつき1×10細胞ずつシード(seeding)した後、3.5日(1週に2回)ごとに培養培地を除去し、PBSで洗浄後にTrypLETM Expressを処理して細胞を剥がした。300×g、5分間遠心分離後に1mLの培養培地に再懸濁させた後、細胞数を測定した。細胞数を測定した細胞は、再びウェルにつき1×10細胞ずつシード後に、3.5日間隔で培養を反復しながら継代別細胞数増加量を確認した。
また、各細胞の細胞増殖指標であるKi67の発現比率を確認するために、次のように実験した。
同一継代数(P4)の人工多能性幹細胞由来の機能的に増強された間葉系前駆細胞(BxC)と同種組織(臍帯)由来の間葉系幹細胞(MSC)とを、TrypLETM Express(Gibco,12604-021)を処理して単細胞懸濁液とし、PBSで洗浄した。洗浄後に細胞を冷たい80%エタノール(ethanol)に入れて-20℃で2時間以上固定し、PBSで3回洗浄した。PEマウス抗-Ki-67キット(BD556027)に含まれているバッファー100μLにつき20μLのKi-67特異的抗体を新しいチューブに移して、室温で30分静置後にPBSで洗浄し、インジケーター付き二次抗体と反応させた後、暗(dark)状態にて、室温で30分間静置後にFACS装置で分析した。
図4Aに示すように、本発明の人工多能性幹細胞由来の機能的に増強された間葉系前駆細胞(BxC)は、間葉系幹細胞(MSC)と比較して、第9継代目からは10倍以上の増殖能の差を示した。また、間葉系幹細胞(MSC)は、第12継代目からは増殖能が減少したが、本発明の人工多能性幹細胞由来の機能的に増強された間葉系前駆細胞(BxC)は、12継代以上継代しても増殖能が減少しなかった。
また、図4Bに示すように、本発明の人工多能性幹細胞由来の機能的に増強された間葉系前駆細胞(BxC)は、間葉系幹細胞(MSC)と比較して、細胞増殖指標のKi67の発現量が2倍以上高く示された。
したがって、本発明の人工多能性幹細胞由来の機能的に増強された間葉系前駆細胞(BxC)は、間葉系幹細胞(MSC)に比べて増殖能の面で非常に優れた効果があることが分かった。
【0046】
実施例5:人工多能性幹細胞(iPSC)由来の機能的に増強された間葉系前駆細胞(BxC)のタンパク質分泌能の比較
本発明の人工多能性幹細胞由来の機能的に増強された間葉系前駆細胞(BxC)と人工多能性幹細胞由来間葉系幹細胞(MSC)との間の機能関連タンパク質の分泌能を比較するために、次のような実験を行った。
同一継代数の人工多能性幹細胞由来の機能的に増強された間葉系前駆細胞(BxC)と間葉系幹細胞(MSC)とを、6ウェル培養プレートのウェルにつき1×10細胞ずつシードし、24時間後に上清を除去した。DPBSで洗浄した後、無血清培地(serum free media)を1mLずつ入れ、48時間後に培地を除去した。300×g、5分間遠心分離し、死細胞又は破片を沈め、上清のみを取って-80℃で保管した。R&D systems社のLuminex High performance assayの受託サービス(custom service)を用いてアレイキットを製作し、Luminex解析(assay)を行った。
【0047】
【表2】
【0048】
図5A図5Dに示すように、本発明の人工多能性幹細胞由来の機能的に増強された間葉系前駆細胞(BxC)は、人工多能性幹細胞由来間葉系幹細胞(MSC)と比較して、間葉系幹細胞(MSC)の機能関連タンパク質を相対的に多量分泌した。したがって、本発明の人工多能性幹細胞由来の機能的に増強された間葉系前駆細胞(BxC)は、機能性の面において間葉系幹細胞(MSC)に比べて増強されていることが分かった。
【0049】
実施例6.人工多能性幹細胞(iPSC)由来の機能的に増強された間葉系前駆細胞(BxC)の幹細胞性(Stemness)の調査
本発明の人工多能性幹細胞由来の機能的に増強された間葉系前駆細胞(BxC)と間葉系幹細胞(MSC)との幹細胞性(Stemness)を比較するために、次のような実験を行った。
10mL培養培地[高グルコースDMEM(Gibco,Cat no.11995-065)、10%ウシ胎児血清(HyClone)、1% MEM非必須アミノ酸溶液(100X)(Gibco,Cat no.11140-050)]が含まれた100mm細胞培養皿(dish)に、間葉系幹細胞及び人工多能性幹細胞由来の機能的に増強された間葉系前駆細胞(BxC)をそれぞれ皿につき1000細胞ずつ播種し、21日間培養した。培養された細胞が付着した皿をPBSで2回洗浄し、常温で約2分間、95%メタノールで固定した。固定された細胞をPBSで3回洗浄した後、0.5%クリスタルバイオレット溶液[クリスタルバイオレット(sigma,C-3886,USA)5g、メタノール100ml]を添加した後、5分間染色し、水で洗浄後に室温で乾燥させた。各皿において50個以上の細胞で構成されたコロニーの数を計数して比較した。
図6A及び図6Bに示すように、本発明の人工多能性幹細胞由来の機能的に増強された間葉系前駆細胞(BxC)に比べて、人工多能性幹細胞由来間葉系幹細胞(MSC)は、コロニー形成単位-線維芽細胞(CFU-F)の個数が約3倍高かった。したがって、本発明の人工多能性幹細胞由来の機能的に増強された間葉系前駆細胞(BxC)は、間葉系幹細胞(MSC)に比べて幹細胞性(stemness)に優れていることを確認した。
【0050】
実施例7.人工多能性幹細胞(iPSC)由来の機能的に増強された間葉系前駆細胞(BxC)の特徴的な遺伝子発現パターンに関する調査
本発明の人工多能性幹細胞由来の機能的に増強された間葉系前駆細胞(BxC)と間葉系幹細胞(MSC)との遺伝子発現パターンの差異を確認するために、各細胞集団からmRNAを抽出し、RNA-seq分析法で細胞別に遺伝子の発現量を比較した。
遺伝子発現量の差を有する遺伝子の種類及び発現量差(BxCの遺伝子発現量/MSCの遺伝子発現量)を、下記表2及び図7A図7Cに示した。
図7A図7Cに示すように、本発明の人工多能性幹細胞由来の機能的に増強された間葉系前駆細胞(BxC)は、同等な数の間葉系幹細胞(MSC)に比べて、ANKRD1、CPE、NKAIN4、LCP1、CCDC3、MAMDC2、CLSTN2、SFTA1P、EPB41L3、PDE1C、EMILIN2、SULT1C4、TRIM58、DENND2A、CADM4、AIF1L、NTM、SHISA2、RASSF4、及びACKR3の遺伝子発現量が少なくとも10倍、多くとも55倍程度高く示された。
これに対し、DHRS3、BMPER、IFI6、PRSS12、RDH10、及びKCNE4の遺伝子は、本発明の人工多能性幹細胞由来の機能的に増強された間葉系前駆細胞(BxC)において少なくても10倍から多くても20倍も、より少なく発現した。
【0051】
【表3】
【0052】
実施例8.人工多能性幹細胞(iPSC)由来の機能的に増強された間葉系前駆細胞(BxC)に由来するエキソソームの分離及び確認
前記実施例1で製造した人工多能性幹細胞由来の機能的に増強された間葉系前駆細胞(BxC)を、エキソソームの除去されたFBS(Exosome-depleted FBS)を10%添加した培養培地でさらに培養した。72時間培養した後、BxC細胞培養培地を回収して300×gで10分間遠心分離し、残っている細胞と細胞片を除去した。高速遠心分離機(high speed centrifuge)を用いて10000×g、4℃で70分間遠心分離を行った。遠心分離された上清を、超高速遠心分離機(ultracentrifuge)を用いて100,000xg、4℃で90分間遠心分離して上清を除去し、下層に残っているエキソソームをPBS(phosphate bufferd saline)で希釈して使用した。分離されたエキソソームを、それぞれナノ粒子トラッキングアッセイ(nanoparticle tracking assay)(NanoSight NS300,Malvern)を用いてエキソソームの数及びサイズ分布を確認した(図8A)。ウェスタンブロットでエキソソーム特異的な表面抗原であるTSG101及びCD63の発現を確認した(図8B)。
【0053】
[寄託機関名]微生物資源センター(KCTC)
[受託番号]KCTC14019BP
[受託日]2019年11月13日
【0054】
図1A
図1B
図1C
図2
図3
図4A
図4B
図5A
図5B
図5C
図5D
図6A
図6B
図7A
図7B
図7C
図8A
図8B