(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-24
(45)【発行日】2023-12-04
(54)【発明の名称】ジャーナル軸受およびジャーナル軸受を用いた回転機器
(51)【国際特許分類】
F16C 17/06 20060101AFI20231127BHJP
F16C 33/10 20060101ALI20231127BHJP
【FI】
F16C17/06
F16C33/10 Z
(21)【出願番号】P 2022513726
(86)(22)【出願日】2020-04-07
(86)【国際出願番号】 JP2020015600
(87)【国際公開番号】W WO2021205523
(87)【国際公開日】2021-10-14
【審査請求日】2022-08-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002941
【氏名又は名称】弁理士法人ぱるも特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼良 直克
(72)【発明者】
【氏名】内田 洋介
(72)【発明者】
【氏名】岡野 紗耶
【審査官】藤村 聖子
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-157956(JP,A)
【文献】実公昭48-8520(JP,Y1)
【文献】特開2014-202268(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 17/06
F16C 33/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転機器の回転軸を支えるジャーナル軸受であって、
前記回転軸の軸方向に延びて潤滑油を供給する油分配部を有する給油ノズルと、
前記給油ノズルの前記回転軸の回転方向の後方に設けられ、前記回転軸を回転自在に支えるパッドと、を備え、
前記回転軸の外周面に対向する前記パッドの内周面は、
前記パッドの前記回転軸の回転方向の前方の前端面から回転方向の後方に向けて、前記内周面と前記回転軸の外周面との径方向の間隔が減少する開口面を有し、
前記油分配部と前記パッドとの間に、前記潤滑油の中に混入した気泡を排出する気泡排出路を有していることを特徴とするジャーナル軸受。
【請求項2】
前記パッドの前記内周面の周方向の寸法に対する前記開口面の周方向の寸法は、前記回転軸の周方向における角度において6から16%の範囲であることを特徴とする請求項1に記載のジャーナル軸受。
【請求項3】
前記パッドの前記開口面は、前記前端面と接する位置での接線が前記気泡排出路の中を通るように設けられていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のジャーナル軸受。
【請求項4】
前記パッドの前記開口面は、前記開口面の接線と、前記接線の接点に対して径方向に対向する位置における前記回転軸の前記外周面の接線との角度が、前記パッドの前記回転軸の回転方向の前方の前記前端面から後方に向けて、減少する曲面形状を有していることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のジャーナル軸受。
【請求項5】
前記パッドの前記開口面は、複数の傾斜面または曲面を有し、前記傾斜面または前記曲面の接線と、前記接線の接点に対して径方向に対向する位置における前記回転軸の前記外周面の接線との角度が、前記開口面の前記回転軸の回転方向の最も後方で最小となることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のジャーナル軸受。
【請求項6】
前記給油ノズルの前記油分配部に前記潤滑油を給油する給油口の軸方向の最小外形寸法は、前記油分配部の軸方向の最大外形寸法の半分以下であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のジャーナル軸受。
【請求項7】
前記給油ノズルの前記油分配部に前記潤滑油を給油する給油口は、前記油分配部の軸方向中央より外側に設けられていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のジャーナル軸受。
【請求項8】
前記給油ノズルは、給油口を設けず直接に前記油分配部に前記潤滑油を給油するようにしたことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のジャーナル軸受。
【請求項9】
ジャーナル軸受により回転軸を支えられている回転機器であって、
前記回転軸の軸方向に延びて潤滑油を供給する油分配部を有する給油ノズルと、
前記給油ノズルの前記回転軸の回転方向の後方に設けられ、前記回転軸を回転自在に支えるパッドと、を備え、
前記回転軸の外周面に対向する前記パッドの内周面は、
前記パッドの前記回転軸の回転方向の前方の前端面から回転方向の後方に向けて、前記内周面と前記回転軸の外周面との径方向の間隔が減少する開口面を有し、
前記油分配部と前記パッドとの間に、前記潤滑油の中に混入した気泡を排出する気泡排出路を有していることを特徴とするジャーナル軸受を用いた回転機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、ジャーナル軸受およびジャーナル軸受を用いた回転機器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、直接潤滑方式を用いたパッド型ジャーナル軸受が記載されている。このジャーナル軸受は、軸受内輪内に揺動可能に設けられジャーナルを自動調心可能に支持する複数個のパッドと、回転軸の回転方向に対して各パッドの回転上流に設けられ、パッドの内周面と回転軸の外周面との隙間に潤滑油を供給する給油ノズルと、を有している。パッドの前側縁部の少なくとも中央部には、パッドの内周面に向かって傾斜した面取り部が形成されている。特許文献1には、面取り部が設けられることにより油が隙間へ効率よく流入するため、少ない給油量で隙間を油で充足できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1のジャーナル軸受において、回転軸の外周面近傍では、回転軸の回転方向のせん断流れが強く、油中に含まれる空気の気泡が隙間に流入してしまうため、隙間を油で充足できない場合があるという課題があった。
また、回転軸の外周面から少し離れたパッドの面取り部近傍では、回転軸の回転方向のせん断流れを持つ油と気泡がパッドの面取り部に跳ね返されて、回転軸の回転方向とは逆方向の旋回流が発生する。油中に含まれる空気の気泡の密度は油より低く、旋回流による遠心力は気泡の方が油より小さいため、気泡は旋回流の中心に留まりやすい。そのため、旋回流が発生するパッドの面取り部近傍に気泡が集まってより大きな気泡となり、最終的に気泡が隙間に侵入してしまう場合があった。これらの気泡は油より圧縮されやすいため、隙間に気泡が侵入すると、回転軸を支える油膜圧力が低下し、回転軸およびパッドに不安定振動が発生するという問題があった。
【0005】
本願は、上述のような課題を解決するためになされたものであり、油中に含まれる気泡を除去し、少ない給油量で効率よく隙間を油で充足できるジャーナル軸受および回転機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願に係わるジャーナル軸受は、回転機器の回転軸を支えるジャーナル軸受であって、前記回転軸の軸方向に延びて潤滑油を供給する油分配部を有する給油ノズルと、前記給油ノズルの前記回転軸の回転方向の後方に設けられ、前記回転軸を回転自在に支えるパッドと、を備え、前記回転軸の外周面に対向する前記パッドの内周面は、前記パッドの前記回転軸の回転方向の前方の前端面から回転方向の後方に向けて、前記内周面と前記回転軸の外周面との径方向の間隔が減少する開口面を有し、前記油分配部と前記パッドとの間に、前記潤滑油の中に混入した気泡を排出する気泡排出路を有しているものである。
【発明の効果】
【0007】
本願によれば、前記給油ノズルの後方の前記パッドの内周面に、前記パッドの前記回転軸の回転方向の前方の前端面から回転方向の後方に向けて、前記内周面と前記回転軸の外周面との径方向の間隔が減少する開口面を有している。そのため、前記パッドの内周面と回転軸の外周面との隙間に効率よく給油できる。さらに、前記油分配部と前記パッドとの間に、前記潤滑油の中に混入した気泡を排出する気泡排出路を有しているので、前記パッドの内周面と前記回転軸の外周面との油膜領域に気泡が侵入することがなく、回転軸およびパッドに不安定振動が発生することを防ぐことができる。
【0008】
以上のように、本願によれば、油中に含まれる気泡を除去し、少ない給油量で効率よく隙間を油で充足できるジャーナル軸受およびジャーナル軸受を用いた回転電機を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施の形態1に係わるジャーナル軸受の構成を示す軸方向に垂直な断面図である。
【
図2】実施の形態1に係わるジャーナル軸受の構成を示す、
図1のA-A断面図である。
【
図3】実施の形態1に係わるジャーナル軸受の構成を示す、
図2のB-B断面図である。
【
図4】実施の形態1に係わるジャーナル軸受の給油ノズルの周辺の構成を示す、
図3のC部詳細断面図である。
【
図5】実施の形態1に係わるジャーナル軸受の給油ノズルの周辺の構成を示す、
図3のC部詳細断面図である。
【
図6】実施の形態1に係わるジャーナル軸受の給油ノズルの周辺の構成を示す、
図3のC部詳細断面図である。
【
図7】実施の形態1に係わるジャーナル軸受の給油ノズルの周辺の構成を示す、
図3のC部詳細断面図である。
【
図8】実施の形態2に係わるジャーナル軸受の構成を示す軸方向に垂直な断面図である。
【
図9】実施の形態2に係わるジャーナル軸受の給油量削減効果を示す図である。
【
図10】実施の形態3に係わるジャーナル軸受の給油ノズルの周辺の構成を示す断面図である。
【
図11】実施の形態4に係わるジャーナル軸受の給油ノズルの周辺の構成を示す断面図である。
【
図12】実施の形態5に係わるジャーナル軸受の構成を示す、要部断面図である。
【
図13】実施の形態6に係わるジャーナル軸受の構成を示す、要部断面図である。
【
図14】実施の形態7に係わるジャーナル軸受の構成を示す、要部断面図である。
【
図15】実施の形態8に係わるジャーナル軸受を用いた回転機器の構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
実施の形態1.
実施の形態1に係わるジャーナル軸受は、回転軸を回転自在に支持する滑り軸受である。本実施の形態に係わるジャーナル軸受は、回転電機等の種々の回転機器に適用することが可能である。
図1は、本実施の形態に係わるジャーナル軸受100の構成を示す断面図である。
図1では、ジャーナル軸受100および回転軸900を回転軸900の軸心と垂直な平面で切断した断面を示している。
図2は、
図1のA-A断面を示す断面図である。
図1中の上下方向は、例えば、鉛直上下方向を表している。
図1および後述する
図3以降の図では、回転軸900の回転方向を矢印で示している。また、回転軸900の回転方向の前方を上流側、回転方向の後方を下流側という。
【0011】
図1および
図2に示すように、ジャーナル軸受100は、全体として環状の形状を有している。ジャーナル軸受100には、回転軸900が挿入されている。ジャーナル軸受100は、回転軸900を回転自在に支持するように構成されている。回転軸900の回転方向は、
図1において反時計回り方向である。回転軸900の軸心は、水平方向に延伸している。以下の説明では、回転軸900の軸心に平行な方向のことを軸方向という。また、軸心を中心とした径方向のことを単に径方向という。軸心を中心とした周方向のことを単に周方向という。
【0012】
ジャーナル軸受100は、回転軸900の外周側に配置されるキャリアリング10と、回転軸900の外周側であってキャリアリング10の内周側に配置され、回転軸900の回転方向において下流側に配置した下流パッド20と、回転軸900の回転方向において上流側に配置した上流パッド21と、を有している。下流パッド20および上流パッド21は、回転軸900の外周面のうち下方の半周部分と、キャリアリング10の内周面のうち下方の半周部分と、の間に設けられている。下流パッド20および上流パッド21は、回転軸900の外周面に沿って、互いに異なる周方向位置に設けられている。上流パッド21は、回転軸900の回転方向において、間隔を空けて下流パッド20の上流側に配置されている。
【0013】
本実施の形態では、下流パッド20および上流パッド21のそれぞれは、回転軸900の外周面に対して傾くことができるように構成されている。このような下流パッド20および上流パッド21を有するジャーナル軸受100は、ティルティングパッドジャーナル軸受と呼ばれる。
【0014】
ジャーナル軸受100は、回転軸900と下流パッド20および上流パッド21のそれぞれとの間に潤滑油800を供給する給油ノズル30を有している。給油ノズル30は、上流パッド21の上流側に設けられている。給油ノズル30は、軸方向に油を分配して供給する軸方向に複数配置した給油穴301aを備えた油分配部301と、油分配部301に給油する給油口302とを備えている。回転軸900が回転すると、給油穴301aから供給された潤滑油800は、回転軸900の回転によるせん断力に伴って、回転軸900の回転方向と同じ方向に流れる。つまり、ジャーナル軸受100における潤滑油800の流れ方向は、回転軸900の回転方向と同方向となる。また、ジャーナル軸受100の軸方向の両側にはサイドプレート50が配されており、潤滑油800はキャリアリング10とサイドプレート50と回転軸900で囲まれた中に供給されている。
【0015】
次に、上流パッド21の構成について説明する。上流パッド21は、全体として部分円筒状の形状を有している。上流パッド21は、内周面21aおよび外周面21bおよび前端面21cを有している。内周面21aは、回転軸900の外周面と対向して配置される。外周面21bは、キャリアリング10の内周面と対向して配置される。上流の前端面21cは、内周面21aに対して上流側に形成され、内周面21aと外周面21bとを接続する端面である。また、内周面21aは、部分円筒面21a1と、部分円筒面21a1の上流側に配置され、部分円筒面21a1よりも外径側に位置する開口面21a2と、を有している。
【0016】
さらに、ジャーナル軸受100は、油分配部301の外壁面のうち、給油穴301aより下流側に位置する外壁面3011と、上流パッド21の前端面21cまたは開口面21a2とで囲む気泡排出路40、を備えている。
図3は、
図2のB-B断面を示す断面図、
図4は、
図3のC部詳細を示す図である。ここで、気泡排出路40は、前端面21cまたは開口面21a2と垂直な面のうち、外壁面3011と交わるなかで、回転軸900の外周面に最も近い面と、最も遠い面とで囲まれている。
【0017】
本実施の形態における、油と空気の流れを
図5、
図6、
図7を使って説明する。これらの図は、
図4と同様に
図3のC部詳細を示す図である。ジャーナル軸受100の内部は、鉛直上方が空気層、鉛直下方が油層となっており、空気層と油層の境界面で、回転軸900の回転によるせん断に伴って空気が油層内に巻き込まれ、気泡801となる。
図5において潤滑油800と気泡801の流れを太矢印で示している。給油穴301aから供給された潤滑油800は、周囲の気泡801と一体となって下流側に流れるが、潤滑油800の少なくとも一部は、開口面21a2と回転軸900の外周面との隙間を通った後、部分円筒面21a1と回転軸900の外周面との隙間を通る。
【0018】
部分円筒面21a1と回転軸900の外周面との隙間(油膜領域と定義する)にある油(油膜と定義する)が回転軸900の回転によってせん断され、部分円筒面21a1および回転軸900の外周面に対して垂直な力(油膜圧力と定義する)が発生する。回転軸900の回転数が高い時には、この油膜圧力が回転軸900を支持するため、回転軸900と下流パッド20および上流パッド21とが接触することはない。この油膜圧力は、油膜の径方向の寸法が下流側に向かうに従って減少するくさび形状の時にのみ発生し、このくさび形状により油膜圧力を発生させる効果をくさび効果と言う。一般的な軸受において、効率的にくさび効果を得るためには、部分円筒面21a1の曲率半径を回転軸900の曲率半径より0から1%ほど大きくすると良いとされている。油膜の径方向の寸法は、大型の軸受でも数百μm以下と非常に狭いため、給油穴301aから供給した潤滑油800のうち、回転軸900の外周面近傍にある極めてわずかな油のみが油膜領域に流入し、その他の油のほとんどは開口面21a2に沿って上流側に逆流し、気泡排出路40を通って外径側に排出される。回転軸900の外周面から遠いほど、回転軸900の回転によるせん断流れの影響が小さくなるため、逆流する油の速度は大きくなる。
【0019】
次に、本実施の形態における開口面21a2と気泡排出路40の作用について、比較例と対比しつつ説明する。
図6は、大きな気泡801の流れを太矢印で示している。気泡801に働く力には、乱流に起因して壁面から遠ざける方向に作用する乱流揚力と、気泡801と油の相対速度と逆方向に作用する抗力があり、乱流揚力は気泡801の体積に比例するのに対し、抗力は気泡801の表面積に比例する。大きな気泡801は表面積に対して体積が相対的に大きいため、抗力に対して乱流揚力が大きくなり、回転軸900の外周面から離れやすい。また、回転軸900の外周面から遠いほど開口面21a2に沿って上流側に逆流する油の速度が大きいため、回転軸900の外周面近傍にある大きな気泡801は乱流揚力によって回転軸900の外周面から離れた後、逆流する油の流れに乗って効率よく気泡排出路40まで排出される。
【0020】
図7は、小さな気泡801の流れを太矢印で示している。回転軸900の外周面から離れている小さな気泡801は、逆流する油の流れに乗って効率よく気泡排出路40まで排出される。開口面21a2は、回転軸900の外周面との径方向距離の最小値が下流側に向かうに従って減少するように形成されているため、ここでもくさび効果によって油に圧力が発生する。回転軸900の外周面近傍の小さな気泡801は、油膜領域まで流れようとするが、下流側に向かうに従って、開口面21a2と回転軸900の外周面との径方向距離の最小値が減少し、くさび効果によって油に発生する圧力が上昇する。そのため、圧力が高いほど気体の溶解度が高くなるというヘンリーの法則により、小さな気泡801は油膜領域に侵入する前に油に溶解する。
【0021】
以上のように、
図1から7に示す本実施の形態のジャーナル軸受100には、油分配部301および気泡排出路40を備えている。油分配部301は、回転軸900の回転方向のせん断流れを持つ潤滑油800と気泡801が、前端面21cおよび開口面21a2に跳ね返されて発生する旋回流の中心位置に設けることもでき、気泡801を開口面21a2近傍に留める要因となる旋回流を抑制することができる。また、大きな気泡801は気泡排出路40を通って外径側に排出され、浮力によってキャリアリング10と油分配部301との隙間を通って鉛直上方の大気層まで逃がすことができる。回転軸900近傍に残された小さな気泡801は、くさび効果で発生した圧力によって油に溶解するため、油膜領域への気泡801の侵入を抑制することができる。
【0022】
以上説明したように、本実施の形態に係わるジャーナル軸受100は、回転軸900の軸方向に延びて潤滑油800を供給する油分配部301を有する給油ノズル30と、給油ノズル30の回転軸900の回転方向の後方に設けられ、回転軸900を回転自在に支える上流パッド21と、を備え、回転軸900の外周面に対向する上流パッド21の内周面21aは、上流パッド21の回転軸900の回転方向の前方の前端面21cから回転方向の後方に向けて、内周面21aと回転軸900の外周面との径方向の間隔が減少する開口面21a2を有し、油分配部301と上流パッド21との間に、潤滑油800の中に混入した気泡801を排出する気泡排出路40を有しているものである。
【0023】
この構成によれば、油膜領域に気泡801が侵入することが抑制されるため、少ない給油量で油膜領域を油で充足でき、不安定振動を防止することができる。
【0024】
また、給油ノズル30から供給される油の中にも気泡801が含まれている場合があるが、本実施の形態の構成によれば、給油穴301aから噴射した油を油膜領域に供給するためには、周囲の油と同様に開口面21a2と回転軸900の外周面との隙間を必ず通る必要があるため、給油穴301aから噴射した油中の気泡801は、周囲の油中の気泡801と同様に、気泡排出路40へ排出される。そのため、給油穴301aから噴射した油中の気泡801についても、油膜領域への侵入が抑制され、少ない給油量で油膜領域を油で充足でき、不安定振動を防止することができる。
【0025】
回転軸と油との摩擦により発生する摩擦損失は、油膜領域のせん断による摩擦損失である油膜損失と、油膜領域以外の領域に溜まっている油の攪拌による摩擦損失である攪拌損失と、に分けられる。回転軸のエネルギーに対してジャーナル軸受で発生する損失を軸受損失と定義すると、軸受損失は、油膜損失と攪拌損失との和にほぼ等しい。一般に、油膜損失はパッドの内周面の面積に比例し、攪拌損失は給油量に比例する。
【0026】
本実施の形態では、少ない給油量で油膜領域を油で充足できるため、油膜領域以外の領域に溜まっている油を削減することができる。したがって、本実施の形態によれば、攪拌損失を低減することができ、それによりジャーナル軸受100の軸受損失を低減することができる。
【0027】
また、
図1および
図3から
図7に示した構成のように、開口面21a2を、開口面21a2の接線と、この接線の接点に対して径方向に対向する位置における回転軸900の外周面の接線、とがなす角度が下流側に向かうに従って減少する曲面形状とする。そうすることで、開口面21a2に沿って逆流する気泡801の径方向の速度ベクトルが大きくなるため、油分配部301に遮られることなく気泡排出路40を通って外径側に効率的よく排出することができる。また、開口面21a2と回転軸900との隙間を下流側に向かうに従って2次関数的に狭くすることで、隙間内の油の圧力をより効率的に上昇させることができるため、小さな気泡801をより効率的に溶解でき、油膜領域への小さな気泡801の侵入を抑制できる。
【0028】
実施の形態2.
実施の形態2に係わるジャーナル軸受100について説明する。
図8は、本実施の形態に係わるジャーナル軸受100の構成を示す軸方向に垂直な断面図である。なお、実施の形態1と同様の構成については説明を省略する。
【0029】
図8に示すように、開口面21a2の、回転軸900の周方向における角度の最大値αは、内周面21aの周方向における角度の最大値βに対して8から16%の範囲にある。
図9は、本実施の形態に係わるジャーナル軸受の給油量削減効果を示す図である。横軸の開口率は、角度βに対する角度αの割合(100α/β)と定義し、縦軸の給油量削減効果は、上流パッド21に開口面21a2を備えていない場合に対して、開口面21a2を備えることで不安定振動を抑制することで削減できた給油量の割合と定義する。
【0030】
開口面21a2と回転軸900との隙間で発生するくさび効果による油の圧力は、開口率が大きいほど2次関数的に上昇する。開口率が6%以上になると、圧力上昇で小さな気泡801の一部が油に溶解し始め、開口率が8%を超えると、小さな気泡801のほとんどが油に溶解する。また、開口率が大きいほど部分円筒面21a1の面積が減少するため、回転軸900を支えられるだけの油膜圧力を得るために、回転軸900が部分円筒面21a1に接近する。それと共に、上流パッド21の支持位置でのモーメントのつり合いで、回転軸900の回転方向とは逆方向に上流パッド21が回転するため、油膜の上流側の厚みが減少する。油膜の上流側の厚みが減少するほど、少ない給油量で油膜領域を油で充足しやすくなるため、気泡除去による給油量削減効果とは別に、開口率に比例した給油量削減効果を得られる。
【0031】
しかし、開口率が16%を超えると、油膜の厚みが極端に減少し、回転軸900と部分円筒面21a1とが接触してしまう場合、または油膜のせん断が上昇することで油膜の温度が極端に上昇してしまう場合があり、最終的に部分円筒面21a1の焼付きまたは異常摩耗に繋がってしまう場合がある。その場合には、あらゆる給油量の条件下で運転できなくなるため、給油量削減効果はない。
【0032】
つまり、
図11に示すように、小さな気泡801の溶解による効果と油膜厚さ減少による効果を足し合わせると、開口率を6から16%の範囲にすることで突出した給油量削減効果を得ることができ、さらに、開口率を8から16%の範囲に限定することで、さらに安定的に突出した給油量削減効果を得ることができる。
【0033】
この構成によれば、開口率おいて、すなわち、上流パッド21の内周面21aの周方向の寸法に対する開口面21a2の周方向の寸法を、回転軸900の周方向における角度において、6から16%の範囲にすることで、突出した給油量削減効果を得ることができ、少ない給油量で油膜領域を油で充足でき、より効率的に不安定振動を抑制することができる。さらに、開口率を8から16%の範囲に限定することで、さらに安定的に突出した給油量削減効果を得ることができる。
【0034】
実施の形態3.
実施の形態3に係わるジャーナル軸受について説明する。
図10は、本実施の形態に係わるジャーナル軸受100の給油ノズル30の周辺の構成を示す、
図3のC部詳細断面図である。実施の形態1による上流パッド21の開口面21a2の形状を変化させたものであり、実施の形態1と同様の構成については説明を省略する。
図10に示すように、前端面21cと開口面21a2とが接続される位置における、開口面21a2の接線21a20が気泡排出路40(境界面も含む)を通るように傾斜面を設けたものである。
【0035】
この構成によれば、開口面21a2の接線21a20が通る気泡排出路40を確保できるので、油分配部301によって遮られることなく、開口面21a2に沿って上流側に逆流する気泡801を効率よく気泡排出路40まで誘導することができる。
【0036】
実施の形態4.
実施の形態4に係わるジャーナル軸受について説明する。
図11は、本実施の形態に係わるジャーナル軸受100の給油ノズル30の周辺の構成を示す、
図3のC部詳細断面図である。なお、実施の形態1による上流パッド21の開口面21a2の形状を変化させたものであり、実施の形態1と同様の構成については説明を省略する。
【0037】
図11に示すように、開口面21a2は、複数の傾斜面または曲面で構成され、傾斜面または曲面のうち、部分円筒面21a1となす角度が最も小さくなる開口面21a23は、複数の傾斜面または曲面の中で最も前記下流側に位置している。すなわち、傾斜面または曲面の接線と、この接線の接点に対して径方向に対向する位置における回転軸900の外周面の接線、とがなす角度が、開口面21a2の回転軸900の回転方向の最も後方で最小となる。
【0038】
この構成によれば、開口面21a23に沿って上流側に逆流する気泡801を、上流側の開口面21a22および開口面21a21に遮られることなく気泡排出路40を通って外径側に効率的よく排出することができる。
【0039】
実施の形態5.
実施の形態5に係わるジャーナル軸受について説明する。
図12は、本実施の形態に係わるジャーナル軸受の構成を示す、
図2の要部断面図である。なお、実施の形態1と同様の構成については説明を省略する。
【0040】
図12に示すように、給油ノズル30のうち、給油口302の軸方向の最小外形寸法aを、油分配部301の軸方向の最大外形寸法bの半分以下にしている。すなわち、a<b/2の関係となる。
【0041】
この構成によれば、キャリアリング10と油分配部301との間に十分な流路が確保されるため、気泡排出路40を通った気泡801が、浮力によってキャリアリング10と油分配部301との間にある流路を通って鉛直上方の大気層までより効率的に排出することができる。
【0042】
実施の形態6.
実施の形態6に係わるジャーナル軸受について説明する。
図13は、本実施の形態に係わるジャーナル軸受の構成を示す、
図2の要部断面図である。実施の形態1の給油ノズル30の形状を変化させたものであり、実施の形態1と同様の構成については説明を省略する。
【0043】
図13に示すように、給油ノズル30のうち、油分配部301とキャリアリング10とが接続する給油口302を、油分配部301の軸方向中央の外側、例えば軸方向両端部に配置している。
【0044】
この構成によれば、油分配部301の軸方向中心位置において、油分配部301とキャリアリング10との間に流路が確保されるため、気泡排出路40を通った気泡801が、浮力によってキャリアリング10と油分配部301との間にある流路を通って鉛直上方の大気層までより効率的に排出することができる。回転軸900を支える油膜圧力は、部分円筒面21a1の軸方向中心位置で最も高くなるため、軸方向中心位置での気泡801の侵入を重点的に抑制することで、より効率的に不安定振動を抑制することができる。
【0045】
また、本実施の形態によれば、油分配部301の内部の油の流れは、軸方向両端の給油口302から軸方向中心に向かう方向になるため、給油穴301aを通って供給される油の流れも軸方向両端から軸方向中心に向かう方向の速度ベクトルを含む。そのため、軸方向中心位置での油の供給量を相対的に多くすることができ、少ない給油量で、油膜圧力が高い軸方向中心位置の油膜領域を油で充足でき、より効率的に不安定振動を抑制することができる。
【0046】
さらに、本実施の形態では、給油口302を油分配部301の軸方向両端部に配置しているが、どちらか片方のみにすると油分配部301とキャリアリング10との間の流路がさらに広く確保されるため、気泡801をより効率的に大気層まで排出することができる。つまり、より効率的に気泡801の侵入を抑制でき、不安定振動を抑制することができる。
【0047】
実施の形態7.
実施の形態7に係るジャーナル軸受について説明する。
図14は、本実施の形態に係るジャーナル軸受の構成を示す、
図2の要部断面図である。実施の形態1の給油ノズル30の形状を変化させたものであり、実施の形態1と同様の構成については説明を省略する。
【0048】
図14に示すように、油分配部301は、下流パッド20および上流パッド21を軸方向に囲う2つのサイドプレート50と、給油口302を設けずに直接に接続されている。
【0049】
この構成によれば、油分配部301の全ての軸方向位置において、油分配部301とキャリアリング10との間に流路が確保されるため、気泡801をより効率的に大気層まで排出することができる。つまり、より効率的に気泡801の侵入を抑制でき、不安定振動を抑制することができる。
【0050】
また、本実施の形態では、油分配部301は2つのサイドプレート50と接続しているが、1つのサイドプレート50とだけ接続するように構成していても同様な効果を生むことが可能である。
【0051】
実施の形態8.
実施の形態8に係る回転機器について説明する。
図15は、本実施の形態に係る回転機器1000を軸方向に沿って切断した構成を示す断面図である。
図15中の上下方向は、例えば、鉛直上下方向を表している。
図15に示すように、回転機器1000は、水平に設置された回転軸900と、回転軸900の両端部を回転自在に支持する一対のジャーナル軸受100と、回転軸900の外周側に設置された固定子901と、を備えている。一対のジャーナル軸受100のうちの少なくとも一方は、実施の形態1から7のいずれかに係るジャーナル軸受である。
【0052】
ジャーナル軸受100のそれぞれは、回転軸900の端部の外周側に設置されている。ジャーナル軸受100のそれぞれは、回転軸900の自重を含む回転軸900の径方向荷重を支持している。回転軸900は、磁極が形成された回転子900aを有している。本実施の形態では、回転機器1000として、固定子901に交流電圧を誘導させて発電を行う回転電機を例示している。
【0053】
本実施の形態によれば、回転軸900のエネルギーに対してジャーナル軸受100で発生する軸受損失を低減することができるため、回転電機の発電効率を向上させることができる。また、ジャーナル軸受100に供給される給油量を削減することができるため、給油ポンプ902などの給油設備を小型化することができる。
【0054】
上記実施の形態1から8のいずれかに係るジャーナル軸受100において、給油ノズルの数は2つ以上であってもよい。また、パッドおよび給油ノズルのそれぞれの配置位置についても、
図2に示した配置位置には限定されない。
【0055】
上記実施の形態1から8のいずれかに係るジャーナル軸受100において、給油口302へ油を供給するための流路の形状および配置は限定されない。
【0056】
上記実施の形態1から8のいずれかに係るジャーナル軸受100において、開口面21a2は、下流パッド20に設けてもよく、油分配部301および給油穴301aおよび気泡排出路40は、下流パッド20の上流側に備えていてもよい。これにより、回転軸900の軸心の位置が左右対称の位置として、油膜の厚みを大きくすることも可能である。また、上流パッド21の内周面21aと回転軸900の外周面との隙間にあった油が、回転方向に隙間から抜け出すと、急激な圧力低下により、キャビテーション(気体の発砲)が発生するが、キャビテーションにより発生した気体が、回転軸900の回転に沿って下流パッド20の内周面と回転軸900の外周面との隙間に流入することを抑制することも可能である。
【0057】
上記実施の形態1から8のいずれかに係るジャーナル軸受100において、下流パッド20および上流パッド21は、単一の材料により形成された単層構造を有していてもよいし、複数の材料により形成された多層構造を有していてもよい。下流パッド20および上流パッド21の形成材料には、金属、樹脂などの種々の材料を用いることができる。
【0058】
上記実施の形態1から8のいずれかに係るジャーナル軸受100において、下流パッド20および上流パッド21は、周方向の全体にわたって一定の軸方向幅を有していてもよいし、周方向の位置によって異なる軸方向幅を有していてもよい。
【0059】
上記実施の形態1から8のいずれかに係るジャーナル軸受100は、ジャーナル軸受100の内部に潤滑油800が供給されていない状態も含まれる。
【0060】
上記実施の形態1から8のいずれかに係るジャーナル軸受100において、給油ノズル30の油分配部301の形状は、円筒形に限定されず、断面形状が楕円または多角形など、潤滑油800の流れによって気泡排出路40が形成できる形状であれば、他の形状でも同様な効果が得られる。
【0061】
本願明細書において、「軸方向」、「径方向」、「周方向」、「回転方向」、「垂直」等の方向を表す表現は、厳密にそのような方向を含むだけでなく、実質的に同じ機能が得られる方向をも含む。
【0062】
本願明細書において、「下流側に向かうに従って減少する」等の長さ又は数の変化を表す表現は、単調に減少する状態には限定されず、ある一部の範囲でのみ減少する状態、範囲毎に減少率が異なる状態、および段階的に減少する状態を含む。「下流側に向かうに従って上昇する」等の表現も同様である。
【0063】
本願明細書において、「備える」、「設ける」、「含む」および「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的な表現ではない。
【0064】
本願は、様々な例示的な実施の形態および実施例が記載されているが、1つ、または複数の実施の形態に記載された様々な特徴、態様、および機能は特定の実施の形態の適用に限られるのではなく、単独で、または様々な組み合わせで実施の形態に適用可能である。従って、例示されていない無数の変形例が、本願明細書に開示される技術の範囲内において想定される。例えば、少なくとも1つの構成要素を変形する場合、追加する場合または省略する場合、さらには、少なくとも1つの構成要素を抽出し、他の実施の形態の構成要素と組み合わせる場合が含まれるものとする。
【符号の説明】
【0065】
10 キャリアリング、20 下流パッド、21 上流パッド、21a 内周面、21a1 部分円筒面、21a2 開口面、21a20 接線、21a21 開口面、21a22 開口面、21a23 開口面、21b 外周面、21c 前端面、30 給油ノズル、301 油分配部、301a 給油穴、302 給油口、3011 外壁面、40 気泡排出路、50 サイドプレート、100 ジャーナル軸受、800 潤滑油、801 気泡、900 回転軸、900a 回転子、901 固定子、902 給油ポンプ、1000 回転機器。