(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-24
(45)【発行日】2023-12-04
(54)【発明の名称】表示装置用シール剤
(51)【国際特許分類】
G02F 1/1679 20190101AFI20231127BHJP
C09K 3/10 20060101ALI20231127BHJP
G02F 1/1339 20060101ALI20231127BHJP
【FI】
G02F1/1679
C09K3/10 L
C09K3/10 B
G02F1/1339 505
(21)【出願番号】P 2022527617
(86)(22)【出願日】2021-04-28
(86)【国際出願番号】 JP2021017086
(87)【国際公開番号】W WO2021241129
(87)【国際公開日】2021-12-02
【審査請求日】2022-10-06
(31)【優先権主張番号】P 2020094354
(32)【優先日】2020-05-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】永田 桂
【審査官】磯崎 忠昭
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/092508(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/108629(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/047579(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/221027(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/1679
G02F 1/1339
C09K 3/10
C08G 59/50
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多官能エポキシ化合物(a1)およびビフェニル構造を有する単官能エポキシ化合物(a2)を含むエポキシ化合物(A)と、
ポリアミン系潜在性熱硬化剤(B)と、
を含み、E型粘度計で25℃、2.5rpmで測定した粘度が20.0Pa・s以下であ
り、
前記多官能エポキシ化合物(a1)のエポキシ当量が、100~250g/当量であり、
前記エポキシ化合物(A)の総量に対する、前記多官能エポキシ化合物(a1)の量が、30~65質量%である、
表示装置用シール剤。
【請求項2】
多官能エポキシ化合物(a1)およびビフェニル構造を有する単官能エポキシ化合物(a2)を含むエポキシ化合物(A)と、
ポリアミン系潜在性熱硬化剤(B)と、
を含み、E型粘度計で25℃、2.5rpmで測定した粘度が20.0Pa・s以下であり、
前記エポキシ化合物(A)の総量に対する、前記単官能エポキシ化合物(a2)の量が、40~70質量%である、
表示装置用シール剤。
【請求項3】
前記ポリアミン系潜在性熱硬化剤(B)の軟化点が70℃~110℃である、
請求項1
または2に記載の表示装置用シール剤。
【請求項4】
前記ポリアミン系潜在性熱硬化剤(B)のアミン当量が、前記エポキシ化合物(A)のエポキシ当量に対して0.4~2.0当量の範囲である、
請求項1
~3のいずれか一項に記載の表示装置用シール剤。
【請求項5】
電子ペーパー用のシール剤である、
請求項1~4のいずれか一項に記載の表示装置用シール剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表示装置用シール剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、各種電子機器の表示装置として、液晶方式の表示装置、有機EL方式の表示装置、電気泳動方式の表示装置等が実用化されている。例えば液晶方式の装置では、一対の基板間に、液晶が封止された構造を有する。
【0003】
このような液晶方式の装置は、例えば以下の方法で作製できる。まず、透明な基板の上に液晶シール剤を塗布して液晶を充填するための枠を形成する。そして、当該枠内に微小の液晶を滴下する。液晶シール剤が未硬化状態のままで、上記基板に対向するように、他方の基板を高真空下で重ね合わせる。そして、液晶シール剤を硬化させる。液晶を封止するためのシール剤として種々のシール剤が提案されており、液晶に対する溶解性の低いエポキシ樹脂、およびエポキシ樹脂硬化剤を含む液晶シール剤が提案されている(例えば特許文献1)。
【0004】
一方、電気泳動方式の表示装置として、例えばマイクロカップ構造を有する表示装置が提案されている(例えば、特許文献2)。当該電気泳動方式の表示装置は、表示素子が一対の基板間に封止された構造を有する。当該表示装置では、表示素子と、それを挟持する一対の基板とを有する積層体を作製した後、積層体の周縁部の隙間にシール剤を塗布し、これを硬化させてシール部材を形成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2005-018022号公報
【文献】特表2004-536332号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特に、電気泳動方式の表示装置のシール剤には、微小な隙間に侵入可能な低い粘度が求められている。一方で、シール剤の硬化物には、素子や液晶等を保護する観点で耐湿性も求められており、フィラーを大量に含めることが一般的であった。しかしながら、シール剤が大量のフィラーを含むと、粘度が著しく高くなりやすかった。つまり、微小な隙間にも侵入可能な低い粘度と、硬化物の耐湿性とを兼ね備えることは難しかった。また、シール剤には、低温で硬化可能であり、かつ粘度安定性が良好であることも求められる。
【0007】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものである。すなわち、低い粘度を有し、粘度安定性が良好であり、低温で硬化可能であり、かつ硬化物の耐湿性が高い表示装置用シール剤の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の表示装置用シール剤を提供する。
[1]多官能エポキシ化合物(a1)およびビフェニル構造を有する単官能エポキシ化合物(a2)を含むエポキシ化合物(A)と、ポリアミン系潜在性熱硬化剤(B)と、を含み、E型粘度計で25℃、2.5rpmで測定した粘度が20.0Pa・s以下である、表示装置用シール剤。
【0009】
[2]前記ポリアミン系潜在性熱硬化剤(B)の軟化点が70℃~110℃である、[1]に記載の表示装置用シール剤。
[3]前記ポリアミン系潜在性熱硬化剤(B)のアミン当量が、前記エポキシ化合物(A)のエポキシ当量に対して0.4~2.0当量の範囲である、[1]または[2]に記載の表示装置用シール剤。
【0010】
[4]前記エポキシ化合物(A)100質量部中の、前記単官能エポキシ化合物(a2)の量が35質量部~90質量部である、[1]~[3]のいずれかに記載の表示装置用シール剤。
[5]電子ペーパー用のシール剤である、[1]~[4]のいずれかに記載の表示装置用シール剤。
【発明の効果】
【0011】
本発明の表示装置用シール剤は、低い粘度を有する。さらに、当該表示装置用シール剤の硬化物は耐湿性が高い。さらに、当該シール剤は低温硬化性に優れ、粘度安定性にも優れる。したがって、例えば電子ペーパーや液晶表示装置等、各種表示装置を封止するためのシール剤として、非常に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の表示装置用シール剤(以下、単に「シール剤」とも称する)は、電子ペーパーや液晶表示装置等、各種表示装置を封止するための組成物である。
【0013】
例えば、電子ペーパー等に用いるシール剤には、低い粘度、および硬化したときの耐湿性が高いこと、が求められる。しかしながら、従来のシール剤では、上述のように、耐湿性を高めるために、フィラーを使用することが一般的であり、このような方法では、シール剤の粘度が高まりやすい、という課題があった。
【0014】
これに対し、本発明のシール剤は、E型粘度計で25℃、2.5rpmで測定した粘度が20.0Pa・s以下であり、少なくとも多官能エポキシ化合物(a1)およびビフェニル構造を有する単官能エポキシ化合物(a2)(以下、単に「単官能エポキシ化合物(a2)」とも称する)を含むエポキシ化合物(A)と、ポリアミン系潜在性熱硬化剤(B)と、を含む。本発明者らが鋭意検討した結果、ビフェニル構造を有する単官能エポキシ化合物(a2)をシール剤に含めると、上述のように低い粘度を達成でき、さらにはフィラーを添加しなくても、硬化物の耐湿性が高まることを見出した。その理由は定かではないが、当該単官能エポキシ化合物(a2)のビフェニル構造によって、硬化物の耐湿性が高まると考えられる。また、当該単官能エポキシ化合物(a2)は、ビフェニル構造の他にエポキシ構造も有するため、多官能エポキシ化合物(a1)との親和性が高い。したがって、シール剤の硬化物全体に、ビフェニル構造が配置されることとなり、硬化物の耐湿性が格段に高まると考えられる。さらに、単官能エポキシ化合物(a2)は比較的粘度が低い。一般的に、シール剤が潜在性熱硬化剤を含むと、粘度が高まりやすい。しかしながら、本発明のシール剤では、単官能エポキシ化合物(a2)を含むため、シール剤は、粘度が上記範囲に収まる。
【0015】
また、本発明のシール剤では、エポキシ化合物(A)を硬化させる硬化剤として、ポリアミン系潜在性熱硬化剤(B)を使用している。上記エポキシ化合物(A)にポリアミン系潜在性熱硬化剤を組み合わせることで、貯蔵安定性に優れた一液型のシール剤とすることができる。
【0016】
以下、本発明のシール剤が含む、各成分およびシール剤の物性について説明する。なお、シール剤は、必要に応じて、エポキシ化合物(A)およびポリアミン系潜在性熱硬化剤(B)以外の成分をさらに含んでいてもよい。
【0017】
(1)エポキシ化合物(A)
本発明のエポキシ化合物(A)は、多官能エポキシ化合物(a1)およびビフェニル構造を有する単官能エポキシ化合物(a2)と、を含み、必要に応じてその他のエポキシ化合物をさらに含んでいてもよい。
【0018】
シール剤の総量に対するエポキシ化合物(A)の総量は、30~80質量%が好ましく、40~70質量%がより好ましい。エポキシ化合物(A)の総量が当該範囲であると、シール剤の硬化物が、表示装置を確実に封止できる。
【0019】
・多官能エポキシ化合物(a1)
多官能エポキシ化合物は、1分子中に2以上のエポキシ基を有する化合物であればよい。当該多官能エポキシ化合物は、常温で固体状であってもよいが、液状であることがより好ましい。
【0020】
多官能エポキシ化合物(a1)は、モノマーまたはオリゴマー、もしくはポリマーのいずれであってもよいが、シール剤の粘度を上述の範囲にするとの観点で、モノマーまたはオリゴマーが好ましく、モノマーがさらに好ましい。
【0021】
多官能エポキシ化合物(a1)の重量平均分子量(Mw)は、200~700が好ましく、300~500がより好ましい。多官能エポキシ化合物(a1)の重量平均分子量が当該範囲であると、シール剤の粘度が所望の範囲に収まりやすい。多官能エポキシ化合物(a1)の重量平均分子量は、例えば、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、ポリスチレンを標準として測定できる。
【0022】
また、多官能エポキシ化合物(a1)が一分子中に有するエポキシ基の数は2以上であればよく、3以上であってもよいが、結晶性が比較的低く、塗布性や粘度安定性が良好であり、架橋構造を有する硬化物が得られやすい等の観点から、2がより好ましい。さらに、多官能エポキシ化合物(a1)のエポキシ当量は、100~250g/当量が好ましく、110~200g/当量がより好ましい。多官能エポキシ化合物(a1)のエポキシ基の量が当該範囲であると、得られる硬化物が適度な硬度になりやすい。多官能エポキシ化合物(a1)のエポキシ当量は、公知の方法によって特定でき、例えば滴定等によって特定できる。
【0023】
多官能エポキシ化合物(a1)の構造は特に制限されず、例えば複数のエポキシ基の間に芳香環を有していてもよく、脂肪族基を有していてもよく、脂環基を有していてもよい。多官能エポキシ化合物(a1)の例には、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、ビスフェノールE型、ビスフェノールS型、ビスフェノールAD型、および水添ビスフェノールA型等のビスフェノール型エポキシ化合物;ジフェニルエーテル型エポキシ化合物;フェノールノボラック型、クレゾールノボラック型、ビフェニルノボラック型、ビスフェノールノボラック型、ナフトールノボラック型、トリスフェノールノボラック型、ジシクロペンタジエンノボラック型等のノボラック型エポキシ化合物;ビフェニル型エポキシ化合物;ナフチル型エポキシ化合物;トリフェノールメタン型、トリフェノールエタン型、トリフェノールプロパン型等のトリフェノールアルカン型エポキシ化合物;脂環式エポキシ化合物;脂肪族エポキシ化合物;ポリサルファイド変性エポキシ化合物;レゾルシン型エポキシ化合物;グリシジルアミン型エポキシ化合物;等が含まれる。エポキシ化合物(A)は、多官能エポキシ化合物(a1)を一種のみ含んでいてもよく、二種以上含んでいてもよい。
【0024】
これらの中でも、硬化物の耐湿性が高いことから、多官能エポキシ化合物(a1)は芳香環、もしくはその水添物を含むことが好ましく、ビスフェノールA型エポキシ化合物、ビスフェノールF型エポキシ化合物、ビスフェノールE型エポキシ化合物、および水添ビスフェノールA型等のビスフェノール型エポキシ化合物が特に好ましい。
【0025】
エポキシ化合物(A)中の多官能エポキシ化合物(a1)の量は、10~65質量%が好ましく、30~60質量%がより好ましい。エポキシ化合物(A)中の多官能エポキシ化合物(a1)の量が当該範囲であると、シール剤の硬化性を良好にできる。また、硬化物中に適度な架橋構造を含めることができる。
【0026】
・ビフェニル構造を有する単官能エポキシ化合物(a2)
単官能エポキシ化合物(a2)は、一分子内にビフェニル構造と、1つのエポキシ基と、有する化合物であればよい。当該単官能エポキシ化合物(a2)は、ビフェニル構造およびエポキシ基以外の構造を一部に含んでいてもよい。
【0027】
単官能エポキシ化合物(a2)の例には、フェニルフェノールとエピクロロヒドリンとの反応物が含まれる。単官能エポキシ化合物(a2)の具体例には、o-フェニルフェノールグリシジルエーテル、m-フェニルフェノールグリシジルエーテル、p-フェニルフェノールグリシジルエーテル、およびこれらの誘導体が含まれる。エポキシ化合物(A)は、単官能エポキシ化合物(a2)を一種のみ含んでいてもよく、二種以上含んでいてもよい。
【0028】
単官能エポキシ化合物(a2)のエポキシ当量は、226~260が好ましい。単官能エポキシ化合物(a2)のエポキシ当量が当該範囲であると、得られる硬化物の耐湿性が高まりやすい。単官能エポキシ化合物(a2)のエポキシ当量は、公知の方法によって特定でき、例えば滴定によって特定できる。
【0029】
エポキシ化合物(A)中の単多官能エポキシ化合物(a2)の量は、35~90質量%が好ましく、40~70質量%がより好ましい。エポキシ化合物(A)中の単官能エポキシ化合物(a2)の量が当該範囲であると、硬化物の耐湿性を良好にできる。
【0030】
・その他のエポキシ化合物
エポキシ化合物(A)は、多官能エポキシ化合物(a1)または単官能エポキシ化合物(a2)に相当しないエポキシ化合物を一部に含んでいてもよい。その他のエポキシ化合物の例には、ビフェニル構造を有さない単官能のエポキシ化合物等が含まれる。
【0031】
ただし、硬化物の耐湿性や硬化性等の観点から、エポキシ化合物(A)中のその他のエポキシ化合物の量は、10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましく、特にその他のエポキシ化合物を含まないことが好ましい。
【0032】
(2)ポリアミン系潜在性熱硬化剤(B)
ポリアミン系潜在性熱硬化剤は、一分子中にアミノ基を2つ以上有し、かつ加熱によって上述のエポキシ化合物(A)と反応する化合物であればよい。
【0033】
ポリアミン系潜在性熱硬化剤(B)は、室温で固体であることが好ましい。ポリアミン系潜在性熱硬化剤(B)が室温で固体であると、シール剤の保存時に、ポリアミン系潜在性熱硬化剤(B)がエポキシ化合物(A)と反応し難く、シール剤の粘度安定性が高まる。
【0034】
ポリアミン系潜在性熱硬化剤(B)の軟化点は、70~110℃が好ましく、70~80℃がより好ましい。ポリアミン系潜在性熱硬化剤(B)の軟化点が当該範囲であると、常温におけるエポキシ化合物(A)との反応を抑制でき、その一方で、過度に加熱しなくても、ポリアミン系潜在性熱硬化剤(B)とエポキシ化合物(A)とを反応させることが可能となる。
【0035】
ポリアミン系潜在性熱硬化剤(B)の例には、アミンとエポキシとを反応させて得られるポリマー構造を有する潜在性硬化剤等が含まれる。具体的には、ADEKA社製アデカハードナーEH5015S(軟化点:85~105℃)、ADEKA社製アデカハードナーEH4357S(軟化点:75~85℃)、ADEKA社製アデカハードナーEH5030S(軟化点:70℃~80℃)等が含まれる。
【0036】
ポリアミン系潜在性熱硬化剤(B)のアミン当量は、エポキシ化合物(A)のエポキシ当量に対して0.4~2.0当量が好ましい、0.6~1.4当量がより好ましい。ポリアミン系潜在性熱硬化剤(B)のアミン当量が当該範囲であると、シール剤の硬化性が良好になる。なお、エポキシ化合物(A)のエポキシ当量(g/当量)とは、シール剤中のエポキシ化合物(A)由来のエポキシ基の総数に対するエポキシ化合物(A)の総量、すなわち(シール剤中のエポキシ化合物(A)の総量/シール剤中のエポキシ基の総数)である。
【0037】
一方、ポリアミン系潜在性熱硬化剤(B)のアミン当量(g/当量)は、ポリアミン系潜在性熱硬化剤(B)由来のアミノ基の数に対する、ポリアミン系潜在性熱硬化剤(B)の総量、すなわち(ポリアミン系潜在性熱硬化剤(B)の量/シール剤中のアミノ基の数)である。ポリアミン系潜在性熱硬化剤(B)のアミン当量は、公知の方法により特定でき、例えば滴定等により求められる。
【0038】
また、ポリアミン系潜在性熱硬化剤(B)のエポキシ化合物(A)のエポキシ当量に対する当量は、(ポリアミン系潜在性熱硬化剤(B)のアミン当量/エポキシ化合物(A)のエポキシ当量)から求められる。ポリアミン系潜在性熱硬化剤(B)のアミン当量は、ポリアミン系潜在性熱硬化剤(B)が有するアミノ基の数、およびポリアミン系潜在性熱硬化剤(B)の量によって調整できる。
【0039】
シール剤の総量に対するポリアミン系潜在性熱硬化剤(B)の総量は、10~50質量%が好ましく、20~40質量%がより好ましい。ポリアミン系潜在性熱硬化剤(B)の総量が当該範囲であると、シール剤の硬化物が、表示装置を確実に封止できる。
【0040】
(3)その他
シール剤は、本発明の目的および効果を損なわない範囲において、上述のエポキシ化合物(A)およびポリアミン系潜在性熱硬化剤(B)以外の成分を含んでいてもよい。その他の成分の例には、フィラーや、各種添加剤等が含まれる。
【0041】
シール剤がフィラーを含むと、シール剤の硬化物の耐湿性や線膨張性が調整される。フィラーは、無機フィラーおよび有機フィラーのいずれであってもよく、これらを両方含んでいてもよい。
【0042】
無機フィラーの例には、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、硫酸マグネシウム、珪酸アルミニウム、珪酸ジルコニウム、酸化鉄、酸化チタン、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化亜鉛、二酸化ケイ素、チタン酸カリウム、カオリン、タルク、ガラスビーズ、セリサイト活性白土、ベントナイト、窒化アルミニウム、窒化ケイ素等が含まれる。
【0043】
有機フィラーの例には、融点または軟化点が60~120℃である粒子が含まれ、その例には、シリコーン微粒子、アクリル微粒子、スチレン・ジビニルベンゼン共重合体等のスチレン微粒子、およびポリオレフィン微粒子からなる群より選ばれる微粒子;およびカルナバワックス、マイクロクリスタリンワックス、変性マイクロクリスタリンワックス、フィッシャートロプッシュワックスおよび変性フィッシャートロプッシュワックス等が含まれる。
【0044】
フィラーの形状は、特に限定されず、球状、板状、針状等の定形状あるいは非定形状のいずれであってもよいが、微小な隙間への埋め込み性を高める観点では、球状が好ましい。
【0045】
フィラーの平均一次粒径は、0.1~20μmが好ましく、0.1~10μmがより好ましく、0.5~5μmがさらに好ましい。フィラーの平均一次粒径は、JIS Z8825-1に記載のレーザー回折法で測定できる。さらに、フィラーの質量平均粒径d50は、0.05~30μmが好ましく、25μm未満がより好ましい。フィラーの質量平均粒径d50が前記範囲にあると、シール剤の粘度安定性が高くなる。また耐湿性を高めるという観点からは、フィラーの質量平均粒径d50は0.05μm以上が好ましく、0.1μm以上がより好ましく、0.2μm以上がさらに好ましく、1.0μm超であってもよい。
【0046】
フィラーの質量平均粒径d50は、JIS Z8825-1に準拠した方法でレーザー法粒子測定器によって求められる。具体的には、質量加積曲線上の50質量%値で示される粒径である。粒子測定器としては、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置Microtrac社製MT-3300EX2(レーザー波長780nm)等を用いることができる。
【0047】
フィラーの量は、シール剤の粘度に応じて適宜選択される。フィラーの量が多くなると、シール剤の粘度が高まる傾向にある。
【0048】
各種添加剤の例には、シランカップリング剤、ゴム剤、イオントラップ剤、イオン交換剤、レベリング剤、顔料、染料、可塑剤、消泡剤等が含まれる。これらの添加剤は、単独で、あるいは複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0049】
(4)シール剤の調製方法
上述のシール剤の調製方法は、特に限定されない。各成分を公知の方法で混合して調製できる。各成分を混合する手段は、特に限定されず、撹拌機の例には、双腕式攪拌機、ロール混練機、2軸押出機、ボールミル混練機、および遊星式撹拌機等が含まれる。シール剤は、各成分の混合後、フィルタでろ過して不純物を取り除いてもよい。さらに真空脱泡処理等を施してもよい。
【0050】
(5)シール剤およびその硬化物の物性
本発明のシール剤は、E型粘度計により25℃、2.5rpmで測定される粘度が20.0Pa・s以下であり、粘度は1~10Pa・sが好ましく、1~5Pa・sがより好ましい。シール剤の粘度が20.0Pa・s以下であると、各種表示装置を作製する際に、微小な隙間にも入り込むことができる。
【0051】
また、シール剤を微小な隙間に対して埋め込み易くする観点から、比較的低いせん断速度で測定した粘度と比較的高いせん断速度で測定した粘度との比(低シェア粘度(1rpm粘度測定値)/高シェア粘度(10rpm粘度測定値)を示すチキソトロピー指数(TI値)が1に近いことが好ましい。チキソトロピー指数は、例えばフィラーの量等によって調整される。
【0052】
一方、シール剤の硬化物は、各種表示装置の基板との接着強度を維持するため、高い耐熱性を有することが好ましい。シール剤を80℃で60分間加熱硬化させて得られる硬化物のガラス転移温度(Tg)は、30~120℃が好ましい。シール剤の硬化物のガラス転移温度が当該範囲であれば、各基板とシール剤の硬化物との間での界面剥離等が生じる可能性が少なく、信頼性の高い表示装置とすることが可能となる。
【0053】
また、2枚の樹脂シートの間、もしくは2枚の無機基板の間に表示素子を挟持する表示装置にシール剤を使用する場合、シール剤を80℃で60分間加熱硬化させて得られる硬化物のガラス転移温度(Tg)は、10~40℃が好ましい。2枚の樹脂シート間、もしくは2枚の無機基板をシール剤の硬化物で封止する場合、基板との剥離を防いだり、表示装置に柔軟性を付与したりするとの観点で、ガラス転移温度を上記範囲にすることが好ましい。シール剤の硬化物のガラス転移温度は、シール剤を、80℃で60分間熱硬化させて得られる、厚さ100μmのフィルムのガラス転移温度を、熱分析装置により5℃/分の昇温速度で測定することにより求められる。
【0054】
なお、本発明のシール剤と接合可能な基板の例には、ガラス基板等の無機基板;ポリエチレンテレフタレート、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、環状ポリオレフィン(COC)、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、透明ABS樹脂、透明ナイロン、透明ポリイミド、ポリビニルアルコール等からなる樹脂基板;が含まれる。
【0055】
(6)シール剤の用途
本発明のシール剤は、各種表示装置の端面、特に表示素子を挟持する2枚の基板の間の隙間を封止するための表示装置端面シール剤として用いられることが好ましい。上記シール剤は、適度に低粘度であるため、特に表示素子を挟持する基板間の隙間に入り込みやすい。また、上述のように、硬化物の耐湿性が高い。
【0056】
したがって、液晶素子、EL素子、LED素子、電気泳動方式の表示素子等を有する各種表示装置のシール剤に使用可能である。特に、2枚の基板の間の隙間にシール剤を塗布する必要がある電気泳動方式や電気流動方式の表示素子を有する表示装置の端面を封止するシール剤として非常に有用である。電気泳動方式の表示装置の例には、電子ペーパー等が含まれる。
【0057】
電気泳動方式の表示装置は、例えば、表示素子と、当該表示素子を挟持する一対の基板とを有し、一対の基板の周縁部に形成される基板同士の隙間を、シール部材が封止する構造を有する。そして、当該シール部材に、上述のシール剤の硬化物を用いることができる。
【0058】
上述のシール剤の塗布方法は特に制限されず、特に制限されず、ディスペンサー、スクリーン印刷等、公知の方法を用いることができる。また、上記シール剤の硬化方法も特に制限されず、熱硬化でも光硬化であってもよいが、表示装置の劣化を抑制する点で、熱硬化が好ましい。熱硬化温度は、表示装置へのダメージを少なくする観点から、60~80℃が好ましい。熱硬化時間は、熱硬化温度や、シール剤の量にもよるが、例えば30~90分程度である。
【実施例】
【0059】
以下において、実施例を参照して本発明をより詳細に説明する。これらの実施例によって、本発明の範囲は限定して解釈されない。
【0060】
1.シール剤の材料
(1)エポキシ化合物(A)
・多官能エポキシ化合物(a1)
EXA-835LV(DIC社製、ビスフェノールF型/ビスフェノールA型2官能エポキシ化合物、エポキシ当量:165g/当量、E型粘度計で25℃、2.5rpmで測定した粘度:2200mPa・s)
YED216D(三菱ケミカル社製、以下の化学式で表される脂肪族系2官能エポキシ化合物、エポキシ当量120g/当量、E型粘度計で25℃、2.5rpmで測定した粘度:15mPa・s)
【化1】
CE-2021P(ダイセル社製、以下の化学式で表される脂環式2官能エポキシ化合物、エポキシ当量156g/当量、E型粘度計で25℃、2.5rpmで測定した粘度:200mPa・s)
【化2】
YX8000D(三菱ケミカル社製、水添ビスフェノールA型2官能エポキシ化合物、エポキシ当量205g/当量、E型粘度計で25℃、2.5rpmで測定した粘度:800mPa・s)
EP-4088S(ADEKA社製、ジシクロペンタジエン系2官能エポキシ化合物、エポキシ当量170g/当量、E型粘度計で25℃、2.5rpmで測定した粘度:230mPa・s)
【0061】
・ビフェニル構造を有する単官能エポキシ化合物(a2)
OPP-EP(四日市合成社製、以下の化学式で表されるエポキシ化合物、エポキシ当量:230g/当量、E型粘度計で25℃、2.5rpmで測定した粘度:200mPa・s)
【化3】
【0062】
・その他のエポキシ化合物
ED-509S(ADEKA社製、以下の化学式で表されるエポキシ化合物、エポキシ当量:206g/当量、E型粘度計で25℃、2.5rpmで測定した粘度:20mPa・s)
【化4】
【0063】
(2)ポリアミン系潜在性熱硬化剤(B)
EH5030S(ADEKA社製、アデカハードナー(商品名)、軟化点:70~80℃、アミン当量:105g/当量)
【0064】
(3)その他
ポリアミノアミド系硬化剤:トーマイド245(T&K TOKA社製、液状)
芳香族アミン系潜在性硬化剤:カヤハードAA(日本化薬社製)
潜在性硬化剤:DICY7(三菱ケミカル社製、ジシアンジアミド)
SO-C6(アドマテックス社製、シリカ、平均一次粒径:1.8~2.3μm)
KBM403(信越シリコーン社製、3-グリシジドキシプロピルトリメトキシシラン)
【0065】
2.シール剤の調製
[実施例1]
EXA-835LV(多官能エポキシ化合物(a1))320質量部、OPP-EP(ビフェニル構造を有するエポキシ化合物(a2))250質量部、およびEH-5030S(ポリアミン系潜在性熱硬化剤)400質量部を混合し、シール剤を得た。なお、エポキシ当量に対するアミン当量は、以下のように算出した。まず、個々のエポキシ化合物のエポキシ当量から、シール剤が含むエポキシ基の数を算出し、エポキシ化合物(A)全体のエポキシ当量(エポキシ化合物(A)の総量/エポキシ基の数)を算出した。続いて、アミン当量/エポキシ当量を算出した。
【0066】
[実施例2~7、および比較例1~5]
表1に示す組成に変更した以外は、実施例1と同様にシール剤を調製した。
【0067】
3.評価
得られたシール剤、およびその硬化物に対し、以下の評価を行った。
【0068】
(1)粘度
シール剤の粘度は、25℃、E型粘度計、回転速度2.5rpmにより測定した。
【0069】
(2)TI値
TI値は、E型粘度計、回転速度1.0rpm測定値/10rpm測定値により算出した。
【0070】
(3)硬化物のガラス転移温度(Tg)
シール剤をアプリケータにて離型紙上に100μmの膜厚に塗布した。シール剤の塗膜が形成された離型紙を、80℃の熱風乾燥オーブンで60分間保持した後、取り出して冷却した。その後、離型紙から塗膜を剥離して、膜厚100μmのフィルムを得た。得られたフィルムのガラス転移温度(Tg)を、セイコーインスツルメント社製 DMS-6100を用いて、5℃/minの昇温速度で測定した。
【0071】
(4)透湿量(60℃、80%Rh)
シール剤をアプリケータにて離型紙上に100μmの膜厚に塗布した。シール剤の塗膜が形成された離型紙を、80℃の熱風乾燥オーブンで60分間保持した後、取り出して冷却した。その後、離型紙から塗膜を剥離して、膜厚100μmのフィルムを得た。その後、JIS:Z0208に準拠した方法でアルミカップを作製し、60℃80%RHの高温高湿槽に24h放置した。そして、高温高湿槽放置前後の質量から、下記の計算式で透湿量を算出した。
透湿量(g/m2・100μm・24h)=[24h放置後のアルミカップ重量(g)-放置前のアルミカップ重量(g)]/フィルム面積(m2)
【0072】
(5)透湿量(60℃、90%Rh)
高温高湿槽の湿度を90%Rhに変更した以外は、上記透湿量の測定方法と同様に測定した。
【0073】
(6)粘度安定性
製造したシール剤を23℃で8日間放置した。放置前後のシール剤の粘度を比較し、以下の基準で評価した。
〇:放置前の粘度に対して放置後の粘度が1.5倍以下
△:放置前の粘度に対して放置後の粘度が、1.5倍超2倍以下
×:放置前の粘度に対して放置後の粘度が、2倍超、もしくはゲル化した
【0074】
(7)低温硬化性(80℃60分硬化性)
日立ハイテク社製 示差走査熱量計DSC7020を使用し、硬化前のシール剤10mg、昇温範囲20℃~250℃、昇温速度5℃/分で20~250℃における発熱量Aを測定した。また、硬化前のシール剤10mgを20℃~80℃まで昇温速度50℃/分で昇温し、その後80℃で60分間保持し、この間の発熱量Bを測定した。そして、発熱量B/発熱量Aを算出し、硬化率を求めた。以下の基準で評価した。
〇:発熱量B/発熱量Aが80%以上である
×:発熱量B/発熱量Aが80%未満である
【0075】
【0076】
上記表1に示されるように、多官能エポキシ化合物(a1)と、ビフェニル構造を有する単官能エポキシ化合物(a2)と、ポリアミン系潜在性熱硬化剤(B)と、を含むシール剤は、いずれも粘度が低く、かつ透湿量が少なかった(実施例1~7)。さらに、これらは、粘度安定性や低温硬化性(80℃60分硬化性)も優れていた。
【0077】
これに対し、ビフェニル構造を有さない単官能エポキシ化合物を用いた場合(比較例1)には、粘度は低くなったものの、透湿量が高かった。また、単官能エポキシ化合物を含まない場合(比較例2)にも、透湿量が高かった。さらに、液状のポリアミノアミド系硬化剤を用いた場合(比較例3)には、配合後、すぐに硬化してしまい、シール剤とすることが困難であった。また、ポリアミン系ではない潜在性熱硬化剤を用いた場合(比較例4および5)には、80℃60分硬化性が低かった。
【0078】
本出願は、2020年5月29日出願の特願2020-094354号に基づく優先権を主張する。当該出願明細書に記載された内容は、すべて本願明細書に援用される。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明の表示装置用シール剤は、低い粘度を有する。さらに、当該表示装置用シール剤の硬化物は耐湿性が高い。したがって、電子ペーパーや液晶表示装置等のシール剤として、非常に有用である。