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特許7391225結晶性ポリアミド樹脂、樹脂組成物および成形体
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  • 特許-結晶性ポリアミド樹脂、樹脂組成物および成形体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-24
(45)【発行日】2023-12-04
(54)【発明の名称】結晶性ポリアミド樹脂、樹脂組成物および成形体
(51)【国際特許分類】
   C08G 69/26 20060101AFI20231127BHJP
   C08L 77/06 20060101ALI20231127BHJP
【FI】
C08G69/26
C08L77/06
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022536268
(86)(22)【出願日】2021-07-05
(86)【国際出願番号】 JP2021025287
(87)【国際公開番号】W WO2022014390
(87)【国際公開日】2022-01-20
【審査請求日】2022-11-07
(31)【優先権主張番号】P 2020122161
(32)【優先日】2020-07-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西野 浩平
(72)【発明者】
【氏名】小坂 寿誉
(72)【発明者】
【氏名】鷲尾 功
【審査官】久保田 葵
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-121726(JP,A)
【文献】国際公開第2017/138604(WO,A1)
【文献】国際公開第2007/145324(WO,A1)
【文献】特開2014-208766(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 69/26
C08L 77/06
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジカルボン酸に由来する成分単位(a)と、ジアミンに由来する成分単位(b)とを含む結晶性ポリアミド樹脂であって、
前記ジカルボン酸に由来する成分単位(a)は、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸またはシクロヘキサンジカルボン酸に由来する成分単位(a1)を含み、
前記成分単位(a1)の含有量は、ジカルボン酸に由来する成分単位(a)の総モル数に対して20モル%より多く100モル%以下であり、
前記ジアミンに由来する成分単位(b)は、
1,4-ジアミノブタン、1,6-ジアミノヘキサン、1,7-ジアミノヘプタン、1,8-オクタンジアミン、1,9-ノナンジアミン、1,10-デカンジアミン、2-メチル-1,5-ペンタンジアミンおよび2-メチル-1,8-オクタンジアミンからなる群から選択されるジアミンに由来する成分単位(b1)と、
下記式(1)で表されるジアミンに由来する成分単位(b2)と
を含
前記成分単位(b1)と前記成分単位(b2)とのモル比((b1)/(b2))は、75/25~60/40である、
結晶性ポリアミド樹脂。
【化1】
(式(1)において、
nおよび2つのmは、それぞれ独立して0または1であり、
-X-は、単結合、または、-O-、-S-、-SO-、-CO-および-CH-からなる群から選ばれる二価の基である)
【請求項2】
前記式(1)で表されるジアミンに由来する成分単位(b2)の含有量は、前記ジアミンに由来する成分単位(b)の総モル数に対して25モル%以上40モル%以下である、請求項1に記載の結晶性ポリアミド樹脂。
【請求項3】
270℃以上360℃以下の範囲内に融点を有する、請求項1または2に記載の結晶性ポリアミド樹脂。
【請求項4】
前記ジカルボン酸に由来する成分単位(a)は、イソフタル酸またはアジピン酸に由来する成分単位をさらに含む、請求項1~のいずれか1項に記載の結晶性ポリアミド樹脂。
【請求項5】
請求項1~のいずれか一項に記載の結晶性ポリアミド樹脂を含む、
樹脂組成物。
【請求項6】
請求項に記載の樹脂組成物を含む、
成形体。
【請求項7】
電気機器の部品である、
請求項に記載の成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結晶性ポリアミド樹脂、樹脂組成物および成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ポリアミド樹脂は、成形加工性、機械的物性および耐薬品性に優れていることから、衣料用、産業資材用、自動車、電気・電子用および工業用などの種々の部品の材料として広く用いられている。
【0003】
これらの用途に応じた特性を発現させるため、ポリアミド樹脂の原料を変更してポリアミド樹脂の物性を変化させる試みが行われている。
【0004】
たとえば、特許文献1には、ジカルボン酸成分とジアミン成分とを重縮合させることによるポリアミドの製造に用いるジアミン成分として、ビス-アミノメチル-ノルボルナンを用いることが記載されている。引用文献1には、ジアミン成分として等モルのビス-アミノメチル-ノルボルナンと2-メチルペンタメチレンとを用いたポリアミドは、透明でありかつ高い凝固点を有していた、と記載されている。特許文献1には、ポリアミドの透明性を高めるため、ジアミン成分の選択により、冷却時に結晶化が全く行われないようにしている、と説明されている。
【0005】
また、特許文献2には、ジアミン成分として用いるビス-アミノメチル-ノルボルナンを、2,5-ビス-アミノメチル-ノルボルナンと2,6-ビス-アミノメチル-ノルボルナンとの当量の混合物とし、かつこれらビス-アミノメチル-ノルボルナンのモル比を20モル%以下にすることで、透明かつ高い転移温度を有するポリアミドが得られたと記載されている。
【0006】
一方で、特許文献3には、ビス-アミノメチル-ノルボルナンの配合比を17重量%以上にすることで、ポリアミドのガラス転移点を高めて耐熱性を高めることができると記載されている。特許文献3には、ヘキサメチレンジアミンとビス-アミノメチル-ノルボルナンとを、ヘキサメチレンジアミン/ビス-アミノメチル-ノルボルナンの重量比が30/70(モル比で36/64)となるように配合して得られたポリアミドは、高いガラス転移点を有していた、と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開昭48-60193号公報
【文献】特開昭53-125497号公報
【文献】特開昭63-154739号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
引用文献1~引用文献3に記載のように、ジアミン成分としてビス-アミノメチル-ノルボルナンを用いることにより耐熱性を高めたポリアミド樹脂は公知である。
【0009】
しかし、これらの文献に記載のポリアミド樹脂は、融点が観測されない非晶質の透明ポリアミドである。そのため、透明性が要求されるフィルムなどの用途には適しているものの、射出成型時の流動性が低く、また、機械的強度も低いという問題があった。
【0010】
さらには、近年のポリアミド樹脂の用途の拡大により、より様々な物性がポリアミド樹脂には要求されるようになってきている。たとえば、ポリアミド樹脂を電気機器の部品として用いるときには、近年の電気機器の小型化に対応するため、より高い電気抵抗性が求められている。また、電気機器の高出力化に対応するためには、高温域(150℃近辺)において高い機械的強度および電気抵抗性を発現することが求められている。
【0011】
これらの事情に鑑み、本発明は、結晶性のポリアミド樹脂であって、高温域(150℃近辺)において高い機械的強度および電気抵抗性を発現できるポリアミド樹脂、当該ポリアミド樹脂を含む樹脂組成物、および当該ポリアミド樹脂を含む成形体を提供することを、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一実施形態に関する結晶性ポリアミド樹脂は、ジカルボン酸に由来する成分単位(a)と、ジアミンに由来する成分単位(b)とを含む結晶性ポリアミド樹脂であって、前記ジカルボン酸に由来する成分単位(a)は、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸またはシクロヘキサンジカルボン酸に由来する成分単位(a1)を含み、前記成分単位(a1)の含有量は、ジカルボン酸に由来する成分単位(a)の総モル数に対して20モル%より多く100モル%以下であり、前記ジアミンに由来する成分単位(b)は、炭素原子数4以上18以下のアルキレンジアミンに由来する成分単位(b1)と、下記式(1)で表されるジアミンに由来する成分単位(b2)とを含む、結晶性ポリアミド樹脂である。
【化1】
(式(1)において、
nおよび2つのmは、それぞれ独立して0または1であり、
-X-は、単結合、または、-O-、-S-、-SO-、-CO-および-CH-からなる群から選ばれる二価の基である)
【0013】
本発明の他の実施形態に関する樹脂組成物は、前記結晶性ポリアミド樹脂を含む。
【0014】
本発明の他の実施形態に関する成形体は、前記樹脂組成物を含む。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、結晶性のポリアミド樹脂であって、高温域(150℃近辺)において高い機械的強度および電気抵抗性を発現できるポリアミド樹脂、当該ポリアミド樹脂を含む樹脂組成物、および当該ポリアミド樹脂を含む成形体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、実施例におけるポリアミド樹脂1およびポリアミド樹脂7から得られたポリアミド樹脂組成物の耐熱老化性を示すグラフである
図2図2は、実施例におけるポリアミド樹脂1およびポリアミド樹脂7から得られたポリアミド樹脂組成物の各温度における体積抵抗率を示すグラフである
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明者らは、ジカルボン酸に由来する成分単位(a)と、ジアミンに由来する成分単位(b)とを含み、かつ、上記ジアミンに由来する成分単位(b)が、炭素原子数4以上18以下のアルキレンジアミンに由来する成分単位(b1)と、下記式(1)で表されるジアミンに由来する成分単位(b2)とを含む、結晶性ポリアミド樹脂が、高温域(150℃近辺)において高い機械的強度および電気抵抗性を発現できることを見出し、もって本発明を完成させた。
【化2】
(式(1)において、
nおよび2つのmは、それぞれ独立して0または1であり、
-X-は、単結合、または、-O-、-S-、-SO-、-CO-および-CH-からなる群から選ばれる二価の基である)
【0018】
この理由は明らかではないが、以下のように推測される。
【0019】
すなわち、同一の環内で架橋された環状構造を有するアルキレンジアミン(式(1)で表されるジアミン)は、上記環状構造による回転障壁(エネルギー)が大きいため、運動性が低い。そのため、上記環状構造を有するアルキレンジアミンは、上記環状構造を有しないアルキレンジアミンよりも、樹脂のガラス転移温度(Tg)を高くしうる。これにより、上記環状構造を有するジアミンに由来する成分単位を有する結晶性ポリアミド樹脂は、高温域においても高い機械的強度を有すると考えられる。また、同様の理由により、上記環状構造を有するジアミンに由来する成分単位を有する結晶性ポリアミド樹脂は、高温域においても高い機械的強度を保持できると考えられる。
【0020】
一方で、本発明者らの知見によれば、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)などの全芳香族系ポリマーは、芳香環の炭化による短絡(トラッキング)が生じやすく、電気抵抗性が低い傾向がある。これに対し、より芳香環の数が少ない半芳香族ポリアミドおよび脂肪族ポリアミドは、トラッキングが生じにくく、電気抵抗性が高い。
【0021】
そこで、電気抵抗性が高い半芳香族ポリアミドまたは脂肪族ポリアミドにおいて、上記環状構造により高温域における分子の運動性を低めることで、高温域での一部の芳香環が炭化したとしても当該炭化した芳香環同士の移動による近接が生じにくく、高い電気抵抗性を有すると考えられる。
【0022】
そのため、完全には非晶質にせずに結晶性を維持させた、上記環状構造を有するジアミンに由来する成分単位を有する結晶性ポリアミドは、結晶性であるため射出成型時の流動性および機械的強度が高く、かつガラス転移温度(Tg)が高いため高温域でも高い機械的強度および電気抵抗性を有し、かつこれらの高い機械的強度および電気抵抗性を保持しやすいものと考えられる。
【0023】
以下、本発明の具体的な構成について、より詳細に説明する。
【0024】
1.結晶性ポリアミド樹脂
結晶性ポリアミド樹脂は、結晶性ポリアミド樹脂は、ジカルボン酸に由来する成分単位(a)と、ジアミンに由来する成分単位(b)とを含み、かつ、ジアミンに由来する成分単位(b)として、式(1)で表されるジアミンに由来する成分単位(b2)を含む。
【0025】
結晶性ポリアミド樹脂は、示差走査熱量計(DSC)により融点(Tm)が観測される。結晶性ポリアミド樹脂の融点(Tm)は、270℃以上360℃以下であることが好ましい。結晶性ポリアミド樹脂の融点(Tm)が270℃以上であると、機械的強度、耐熱性などが損なわれにくく、360℃以下であると、成形温度を過剰に高くする必要がないため、成形加工性が良好となりやすい。結晶性ポリアミド樹脂の融点(Tm)は、275℃以上330℃以下であることがより好ましい。
【0026】
なお、結晶性ポリアミド樹脂は、上記環状構造により分子の配向性が低下しており、それにより結晶性が適度に低くなることから、同様の構造(たとえば、芳香族ジカルボン酸およびアルキレンジアミンに由来する構造)を有する他の結晶性ポリアミド樹脂と比較して、融点(Tm)を適度に低くすることができる。そのため、結晶性ポリアミド樹脂は、高い機械的強度を有するにもかかわらず、成形が容易である。
【0027】
結晶性ポリアミド樹脂のガラス転移温度(Tg)は、140℃以上であることが好ましく、155℃以上であることがより好ましい。結晶性ポリアミド樹脂のガラス転移温度(Tg)が上記範囲内であると、耐熱性が損なわれにくく、かつ高温域における機械的強度および電気抵抗性をより高くすることができる。なお、結晶性ポリアミド樹脂のガラス転移温度(Tg)の上限値は、特に制限されないが、成形加工性を損なわないようにする観点では、200℃でありうる。
【0028】
結晶性ポリアミド樹脂の融解熱量(ΔH)は、10mJ/mg以上であることが好ましい。結晶性ポリアミド樹脂の融解熱量(ΔH)が10mJ/mg以上であると、結晶性を有するため、射出成型時の流動性や機械的強度を高めやすい。結晶性ポリアミド樹脂の融解熱量(ΔH)は、同様の観点から、15mJ/mgであることがより好ましく、20mJ/mg以上であることがさらに好ましい。なお、結晶性ポリアミド樹脂の融解熱量(ΔH)の上限値は、特に制限されないが、成形加工性を損なわないようにする観点では、90mJ/mgでありうる。
【0029】
なお、ポリアミド樹脂の融解熱量(ΔH)、融点(Tm)およびガラス転移温度(Tg)は、示差走査熱量計(DSC220C型、セイコーインスツル社製)を用いて測定することができる。
【0030】
具体的には、約5mgのポリアミド樹脂を測定用アルミニウムパン中に密封し、室温から10℃/minで350℃まで加熱する。樹脂を完全融解させるために、350℃で3分間保持し、次いで、10℃/minで30℃まで冷却する。30℃で5分間置いた後、10℃/minで350℃まで2度目の加熱を行う。この2度目の加熱における吸熱ピークの温度(℃)を結晶性ポリアミド樹脂の融点(Tm)とし、ガラス転移に相当する変位点をガラス転移温度(Tg)とする。融解熱量(ΔH)は、JIS K7122に準じて、2度目の昇温過程での結晶化の吸熱ピークの面積から求める。
【0031】
結晶性ポリアミド樹脂の融点(Tm)、ガラス転移温度(Tg)および融解熱量(ΔH)は、ジカルボン酸に由来する成分単位(a)の構造、式(1)で表されるジアミンに由来する成分単位(b2)の含有量や炭素原子数4以上18以下のアルキレンジアミンに由来する成分単位(b1)と式(1)で表されるジアミンに由来する成分単位(b2)の含有比、炭素原子数4以上18以下のアルキレンジアミンの炭素原子数によって調整することができる。
【0032】
たとえば、結晶性ポリアミド樹脂の融点(Tm)を上記範囲にする観点から、ポリアミド樹脂は、半芳香族ポリアミド樹脂であることが好ましい。なお、半芳香族ポリアミド樹脂は、通常はその融点(Tm)が340℃を超えない。一方で、ポリアミド樹脂は、その融点(Tm)をある程度は高めて耐熱性を確保する観点から、その主たる成分単位が、芳香族ジカルボン酸または脂環式ジカルボン酸に由来する成分単位と脂肪族ジアミンに由来する成分単位とからなる繰り返し単位で構成されている半芳香族ポリアミド樹脂であることが好ましく、芳香族ジカルボン酸に由来する成分単位と脂肪族ジアミンに由来する成分単位とからなる繰り返し単位で構成されている半芳香族ポリアミド樹脂であることがより好ましい。
【0033】
また、結晶性ポリアミド樹脂の融解熱量(ΔH)を高くする場合、成分単位(b2)の含有量や含有比(ジアミンに由来する成分単位(b)の総モル数に対する成分単位(b2)の比率)は低くすることが好ましい。一方、結晶性ポリアミド樹脂のガラス転移温度(Tg)を高くし、融点(Tm)を低くする場合、例えば成分単位(b2)の含有量や含有比(ジアミンに由来する成分単位(b)の総モル数に対する成分単位(b2)の比率)は高くすることが好ましい。
【0034】
結晶性ポリアミド樹脂の、温度25℃、96.5%硫酸中で測定される極限粘度[η]は、0.6dl/g以上1.5dl/g以下であることが好ましい。結晶性ポリアミド樹脂の極限粘度[η]が0.6dl/g以上であると、成形体の機械的強度(靱性など)を十分に高めやすく、1.5dl/g以下であると、樹脂組成物の成形時の流動性が損なわれにくい。結晶性ポリアミド樹脂の極限粘度[η]は、同様の観点から、0.8dl/g以上1.2dl/g以下であることがより好ましい。極限粘度[η]は、結晶性ポリアミド樹脂の末端封止量などによって調整することができる。
【0035】
結晶性ポリアミド樹脂の極限粘度は、JIS K6810-1977に準拠して測定することができる。
具体的には、結晶性ポリアミド樹脂0.5gを96.5%硫酸溶液50mlに溶解して試料溶液とする。この試料溶液の流下秒数を、ウベローデ粘度計を使用して、25±0.05℃の条件下で測定し、得られた値を下記式に当てはめて算出することができる。
[η]=ηSP/[C(1+0.205ηSP)]
【0036】
上記式において、各代数または変数は、以下を表す。
[η]:極限粘度(dl/g)
ηSP:比粘度
C:試料濃度(g/dl)
【0037】
ηSPは、以下の式によって求められる。
ηSP=(t-t0)/t0
t:試料溶液の流下秒数(秒)
t0:ブランク硫酸の流下秒数(秒)
【0038】
[ジカルボン酸に由来する成分単位(a)]
ジカルボン酸に由来する成分単位(a)は、特に制限されないが、融点(Tm)および結晶性を高めやすくする観点などから、芳香族ジカルボン酸または脂環式ジカルボン酸に由来する成分単位を含むことが好ましい。
【0039】
芳香族ジカルボン酸の例には、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸およびそれらのエステルが含まれる。脂環式ジカルボン酸の例には、シクロヘキサンジカルボン酸およびそのエステルが含まれる。中でも、結晶性が高く、耐熱性が高いポリアミド樹脂を得る観点などから、ジカルボン酸に由来する成分単位(a)は、芳香族ジカルボン酸に由来する成分単位を含むことが好ましく、テレフタル酸に由来する成分単位を含むことがより好ましい。
【0040】
芳香族ジカルボン酸または脂環式ジカルボン酸に由来する成分単位の含有量は、特に限定されないが、これらの合計量が、ジカルボン酸に由来する成分単位(a)の総モル数に対して50モル%以上100モル%以下であることが好ましい。上記成分単位の含有量が50モル%以上であると、結晶性ポリアミド樹脂の結晶性を高めやすい。上記成分単位の含有量は、同様の観点から、70モル%以上100モル%以下であることがより好ましい。
【0041】
本実施形態において、ジカルボン酸に由来する成分単位(a)は、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸またはシクロヘキサンジカルボン酸に由来する成分単位(a1)を含む。これらの成分単位(a1)は、たとえば特許文献1~特許文献3で用いているイソフタル酸とは異なり、ポリアミドの結晶性を高めることができる。これらの成分単位(a1)の含有量は、ポリアミド樹脂の結晶性を確保する観点から、ジカルボン酸に由来する成分単位(a)の総モル数に対して20モル%より多く100モル%以下とする。ポリアミド樹脂の結晶性をより高める観点から、これらの成分単位(a1)の含有量は、ジカルボン酸に由来する成分単位(a)の総モル数に対して45モル%以上100モル%以下であることが好ましく、50モル%以上99モル%以下であることがより好ましく、80モル%より多く99モル%以下であることがさらに好ましく、90モル%より多く99モル%以下であることが特に好ましい。
【0042】
ジカルボン酸に由来する成分単位(a)は、本発明の効果を損なわない範囲で、上記成分単位(a1)以外の芳香族カルボン酸成分単位(a2)または炭素原子数4以上20以下の脂肪族ジカルボン酸成分単位(a3)を含んでいてもよい。ただし、樹脂の結晶性を損なわないようにする観点からは、イソフタル酸に由来する成分単位やアジピン酸以外の炭素原子数4以上18以下の脂肪族ジカルボン酸に由来する成分単位の含有量は少ないこと、具体的にはジカルボン酸に由来する成分単位(a)の総モル数に対して20モル%以下であることが好ましく、10モル%以下であることがより好ましい。
【0043】
テレフタル酸以外の芳香族ジカルボン酸成分単位(a2)の例には、イソフタル酸、および2-メチルテレフタル酸に由来する成分単位などが含まれる。これらの中でも、イソフタル酸に由来する成分単位が好ましい。これらの成分単位(a2)の含有量は、ポリアミド樹脂の結晶性を確保する観点から、ジカルボン酸に由来する成分単位(a)の総モル数に対して1モル%以上50モル%以下であることが好ましく、1モル%以上20モル%以下であることがより好ましく、1モル%以上10モル%以下であることがさらに好ましく、1モル%以上5モル%以下であることが特に好ましい。
【0044】
脂肪族ジカルボン酸に由来する成分単位(a3)は、炭素原子数4以上20以下のアルキレン基を有する脂肪族ジカルボン酸に由来する成分単位であり、炭素原子数6以上12以下のアルキレン基を有する脂肪族ジカルボン酸に由来する構成単位であることが好ましい。上記脂肪族ジカルボン酸の例には、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、2-メチルアジピン酸、トリメチルアジピン酸、ピメリン酸、2,2-ジメチルグルタル酸、3,3-ジエチルコハク酸、アゼライン酸、セバシン酸、スベリン酸成分単位などが含まれる。これらの中でも、アジピン酸およびセバシン酸が好ましい。これらの成分単位(a3)の含有量は、ポリアミド樹脂の結晶性を確保する観点から、ジカルボン酸に由来する成分単位(a)の総モル数に対して0モル%以上40モル%以下であることが好ましく、0モル%以上20モル%以下であることがより好ましく、1モル%以上10モル%以下であることがさらに好ましく、1モル%以上5モル%以下であることが特に好ましい。
【0045】
半芳香族ポリアミド樹脂(A)は、上述した成分単位(a1)、成分単位(a2)、および成分単位(a-3)の外に、少量のトリメリット酸またはピロメリット酸のような三塩基性以上の多価カルボン酸成分単位をさらに含有していてもよい。このような多価カルボン酸成分単位の含有量は、ジカルボン酸に由来する成分単位(a)の総モル数に対して、0モル%以上5モル%以下とすることができる。
【0046】
[ジアミンに由来する成分単位(b)]
ジアミンに由来する成分単位(b)は、炭素原子数4以上18以下のアルキレンジアミンに由来する成分単位(b1)と、特定の環状構造を有するアルキレンジアミンに由来する成分単位(b2)とを含む。
【0047】
炭素原子数4以上18以下のアルキレンジアミンに由来する成分単位(b1)について:
炭素原子数4以上18以下のアルキレンジアミンの炭素原子数は、樹脂のTgを低下させにくくする観点から、4以上10以下であることがより好ましい。
【0048】
炭素原子数4以上18以下のアルキレンジアミン、直鎖状のアルキレンジアミンを含んでもよいし、分岐鎖状のアルキレンジアミンを含んでもよい。樹脂の結晶性を高める観点からは、炭素原子数4以上18以下のアルキレンジアミンは、直鎖状のアルキレンジアミンを含むことが好ましい。すなわち、炭素原子数4以上18以下のアルキレンジアミンに由来する成分単位は、直鎖状のアルキレンジアミンに由来する成分単位を含むことが好ましい。
【0049】
炭素原子数4以上18以下のアルキレンジアミンの例には、1,4-ジアミノブタン、1,6-ジアミノヘキサン、1,7-ジアミノヘプタン、1,8-オクタンジアミン、1,9-ノナンジアミン、および1,10-デカンジアミンなどを含む直鎖状のアルキレンジアミン、2-メチル-1,5-ペンタンジアミン、および2-メチル-1,8-オクタンジアミンなどを含む分岐鎖状のアルキレンジアミンが含まれる。これらの中でも、1,4-ジアミノブタン、1,6-ジアミノヘキサン、1,9-ノナンジアミン、1,10-デカンジアミンおよび2-メチル-1,5-ペンタンジアミンが好ましく、1,6-ジアミノヘキサンおよび1,10-デカンジアミンが好ましい。これらのアルキレンジアミンは、1種であってもよいし、2種以上あってもよい。
【0050】
特定の環状構造を有するアルキレンジアミンに由来する成分単位(b2)について:
特定の環状構造を有するアルキレンジアミンは、下記式(1)で表されるジアミンである。
【化3】
【0051】
式(1)中、nおよび2つのmは、それぞれ独立して0または1であり、-X-は、単結合、または、-O-、-S-、-SO-、-CO-および-CH-からなる群から選ばれる二価の基である。
【0052】
式(1)で表されるジアミンは、ノルボルナンジアミン(m=n=0)であるか、ビスアミノメチルノルボルナン(m=1,n=0)であることが好ましく、ビスアミノメチルノルボルナンであることがより好ましく、2,5-ビスアミノメチルノルボルナンまたは2,6-ビスアミノメチルノルボルナンであることがさらに好ましい。
【0053】
特に、2つのmの一方または双方が1であると、ポリアミド樹脂の機械的強度を高め、かつ高い機械的強度を保持しやすい。
【0054】
なお、式(1)で表されるジアミンが、幾何異性体(トランス体とシス体など)を有するときは、いずれの異性体でもよく、また、その異性体比は特に限定されない。
【0055】
式(1)で表されるジアミンに由来する成分単位(b2)の含有量は、DSCにより融点(Tm)が観測される結晶性ポリアミド樹脂が得られるものであればよく、特に制限されない。すなわち、式(1)で表されるジアミンに由来する成分単位(b2)の含有量は、組み合わされる炭素原子数4以上18以下のアルキレンジアミンの炭素原子数やその含有量にもよるが、ジアミンに由来する成分単位(b)の総モル数に対して10モル%以上45モル%以下であることが好ましい。当該成分単位(b2)が10モル%以上であると、ポリアミド樹脂のガラス転移温度(Tg)を高めて、高温域における機械的強度および電気抵抗性を高め、かつ高い機械的強度および電気抵抗性を保持しやすい。また、当該成分単位(b2)が10モル%以上であると、ポリアミド樹脂の(Tm)を適度に下げることができるため、成形加工性を高めやすい。当該成分単位(b2)が45モル%以下であると、結晶性が必要以上に損なわれにくい(非晶質になりにくい)ため、樹脂の射出成型時の流動性や機械的強度が損なわれにくい。式(1)で表されるジアミンに由来する成分単位(b2)の含有量は、ジアミンに由来する成分単位(b)の総モル数に対して15モル%以上45モル%以下であることがより好ましく、25モル%以上40モル%以下であることがさらに好ましく、27モル%以上38モル%以下であることがさらに好ましい。
【0056】
ジアミンに由来する成分単位(b)は、本発明の効果を損なわない範囲で、他のジアミンに由来する成分単位(b3)をさらに含んでもよい。他のジアミンの例には、芳香族ジアミンや脂環式ジアミンが含まれる。他のジアミンに由来する成分単位(b3)の含有量は、ジアミンに由来する成分単位(b)の総モル数に対して50モル%以下でありうる。
【0057】
結晶性ポリアミド樹脂は、コンパウンドや成形時の熱安定性を高めたり、機械的強度をより高めたりする観点から、少なくとも一部の分子の末端基が末端封止剤で封止されていてもよい。末端封止剤は、例えば分子末端がカルボキシル基の場合は、モノアミンであることが好ましく、分子末端がアミノ基である場合は、モノカルボン酸であることが好ましい。
【0058】
モノアミンの例には、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、およびブチルアミンなどを含む脂肪族モノアミン、シクロヘキシルアミン、およびジシクロヘキシルアミンなどを含む脂環式モノアミン、ならびに、アニリン、およびトルイジンなどを含む芳香族モノアミンなどが含まれる。モノカルボン酸の例には、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸およびリノ-ル酸などを含む炭素原子数2以上30以下の脂肪族モノカルボン酸、安息香酸、トルイル酸、ナフタレンカルボン酸、メチルナフタレンカルボン酸およびフェニル酢酸などを含む芳香族モノカルボン酸、ならびにシクロヘキサンカルボン酸などを含む脂環式モノカルボン酸が含まれる。芳香族モノカルボン酸および脂環式モノカルボン酸は、環状構造部分に置換基を有していてもよい。
【0059】
[製造方法]
結晶性ポリアミド樹脂は、例えば前述のジカルボン酸と、前述のジアミンとを均一溶液中で重縮合させて製造することができる。具体的には、ジカルボン酸とジアミンとを、国際公開第03/085029号に記載されているように触媒の存在下で加熱することにより低次縮合物を得て、次いでこの低次縮合物の溶融物にせん断応力を付与して重縮合させることで製造することができる。
【0060】
結晶性ポリアミド樹脂の極限粘度を調整する観点などから、反応系に前述の末端封止剤を添加してもよい。末端封止剤の添加量により、結晶性ポリアミド樹脂の極限粘度[η](または分子量)を調整することができる。
【0061】
末端封止剤は、ジカルボン酸とジアミンとの反応系に添加される。添加量はジカルボン酸の合計量1モルに対して、0.07モル以下であることが好ましく、0.05モル以下であることがより好ましい。
【0062】
2.樹脂組成物
本発明の樹脂組成物は、本発明の結晶性ポリアミド樹脂を含む。
【0063】
結晶性ポリアミド樹脂の含有量は、樹脂組成物の用途にもよるが、例えば樹脂組成物100質量部に対して、例えば35質量部以上95質量部以下としうる。結晶性ポリアミド樹脂の含有量が一定以上であると、当該樹脂に由来する特性が得られやすい。
【0064】
本発明の樹脂組成物は、必要に応じて結晶性ポリアミド樹脂以外の他の成分をさらに含んでもよい。
【0065】
他の成分の例には、繊維状充填材、核剤、エラストマー(ゴム)、難燃剤(臭素系、塩素系、リン系、アンチモン系および無機系など)、流動性向上剤、帯電防止剤、離型剤、酸化防止剤(フェノール類、アミン類、イオウ類およびリン類など)、耐熱安定剤(ラクトン化合物、ビタミンE類、ハイドロキノン類、ハロゲン化銅およびヨウ素化合物など)、光安定剤(ベンゾトリアゾール類、トリアジン類、ベンゾフェノン類、ベンゾエート類、ヒンダードアミン類およびオギザニリド類など)、他の重合体(ポリオレフィン類、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・1-ブテン共重合体などのオレフィン共重合体、プロピレン・1-ブテン共重合体などのオレフィン共重合体、ポリスチレン、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリスルフォン、ポリフェニレンオキシド、フッ素樹脂、シリコーン樹脂およびLCP)などが含まれる。中でも、本発明の樹脂組成物は、成形体の機械的強度を高める観点からは、繊維状充填材をさらに含みうる。
【0066】
繊維状充填材は、樹脂組成物に高い機械的強度を付与しうる。繊維状充填材の例には、ガラス繊維、ワラストナイト、チタン酸カリウムウィスカー、炭酸カルシウムウィスカー、ホウ酸アルミニウムウィスカー、硫酸マグネシウムウィスカー、酸化亜鉛ウィスカー、ミルドファイバーおよびカットファイバーなどが含まれる。これらのうち、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。中でも、成形体の機械的強度を高めやすいことなどから、ワラストナイト、ガラス繊維、チタン酸カリウムウィスカーが好ましく、ワラストナイトまたはガラス繊維がより好ましい。
【0067】
繊維状充填材の平均繊維長は、樹脂組成物の成形性、および得られる成形体の機械的強度や耐熱性の観点から、例えば1μm以上20mm以下、好ましくは5μm以上10mm以下としうる。また、繊維状充填材のアスペクト比は、例えば5以上2000以下、好ましくは30以上600以下としうる。
【0068】
繊維状充填材の平均繊維長と平均繊維径は、以下の方法により測定することができる。
1)樹脂組成物を、ヘキサフルオロイソプロパノール/クロロホルム溶液(10/90体積%)に溶解させた後、濾過して得られる濾過物を採取する。
2)前記1)で得られた濾過物を水に分散させ、光学顕微鏡(倍率:50倍)で任意の300本それぞれの繊維長(Li)と繊維径(di)を計測する。繊維長がLiである繊維の本数をqiとし、次式に基づいて重量平均長さ(Lw)を算出し、これを繊維状充填材の平均繊維長とする。
重量平均長さ(Lw)=(Σqi×Li)/(Σqi×Li)
同様に、繊維径がDiである繊維の本数をriとし、次式に基づいて重量平均径(Dw)を算出し、これを繊維状充填材の平均繊維径とする。
重量平均径(Dw)=(Σri×Di)/(Σri×Di)
【0069】
繊維状充填材の含有量は、特に制限されないが、結晶性ポリアミド樹脂と繊維状充填材との合計100質量部に対して、例えば15質量部以上70質量部以下としうる。
【0070】
本発明の樹脂組成物は、前述の結晶性ポリアミド樹脂、および必要に応じて他の成分を、公知の樹脂混練方法、例えばヘンシェルミキサー、Vブレンダー、リボンブレンダー、またはタンブラーブレンダーで混合する方法、あるいは混合後、さらに一軸押出機、多軸押出機、ニーダー、またはバンバリーミキサーで溶融混練した後、造粒または粉砕する方法で製造することができる。
【0071】
3.樹脂組成物の用途
本発明の樹脂組成物は、圧縮成形法、射出成形法、押出成形法などの公知の成形法で成形することにより、各種成形体として用いられる。
【0072】
本発明の樹脂組成物の成形体は、各種用途に用いることができる。そのような用途の例には、ラジエータグリル、リアスポイラー、ホイールカバー、ホイールキャップ、カウルベント・グリル、エアアウトレット・ルーバー、エアスクープ、フードバルジ、サンルーフ、サンルーフ・レール、フェンダーおよびバックドアなどの自動車用外装部品、シリンダーヘッド・カバー、エンジンマウント、エアインテーク・マニホールド、スロットルボディ、エアインテーク・パイプ、ラジエータタンク、ラジエータサポート、ウォーターポンプ、ウォーターポンプ・インレット、ウォーターポンプ・アウトレット、サーモスタットハウジング、クーリングファン、ファンシュラウド、オイルパン、オイルフィルター・ハウジング、オイルフィラー・キャップ、オイルレベル・ゲージ、オイルポンプ、タイミング・ベルト、タイミング・ベルトカバーおよびエンジン・カバーなどの自動車用エンジンルーム内部品、フューエルキャップ、フューエルフィラー・チューブ、自動車用燃料タンク、フューエルセンダー・モジュール、フューエルカットオフ・バルブ、クイックコネクタ、キャニスター、フューエルデリバリー・パイプおよびフューエルフィラーネックなどの自動車用燃料系部品、シフトレバー・ハウジングおよびプロペラシャフトなどの自動車用駆動系部品、スタビライザーバー・リンケージロッド、エンジンマウントブラケットなどの自動車用シャシー部品、ウインドーレギュレータ、ドアロック、ドアハンドル、アウトサイド・ドアミラー・ステー、ワイパーおよびその部品、アクセルペダル、ペダル・モジュール、継手、樹脂ネジ、ナット、ブッシュ、シールリング、軸受、ベアリングリテーナー、ギアおよびアクチュエーターなどの自動車用機能部品、ワイヤーハーネス・コネクター、リレーブロック、センサーハウジング、ヒューズ部品、エンキャプシュレーション、イグニッションコイルおよびディストリビューター・キャップなどの自動車用エレクトロニクス部品、汎用機器(刈り払い機、芝刈り機およびチェーンソー)用燃料タンクなどの汎用機器用燃料系部品、コネクタおよびLEDリフレクタなどの電気電子部品、建材部品、産業用機器部品、ならびに、小型筐体(パソコンや携帯電話などの筐体を含む)、外装成形品などの各種筐体または外装部品が含まれる。
【0073】
中でも、本発明の樹脂組成物は、高温域において高い機械的強度および電気抵抗性を有することなどから、電気機器の部品に好適に用いることができる。
【実施例
【0074】
以下において、実施例を参照して本発明を説明する。実施例によって、本発明の範囲は限定して解釈されない。
【0075】
[実験1]
ジアミンに由来する成分単位(b)として、式(1)で表されるジアミンに由来する成分単位(b2)を含むことにより、ポリアミド樹脂の熱特性がどのように変化するかを確認するため、以下の実験を行った。
【0076】
なお、以下の実験において、樹脂の極限粘度[η]、融点(Tm)およびガラス転移温度(Tg)は、以下の方法により測定した。
【0077】
(極限粘度[η])
JIS K6810-1977に準拠して、ポリアミド樹脂0.5gを96.5%硫酸溶液50mlに溶解させて、試料溶液とした。得られた試料溶液の流下秒数を、ウベローデ粘度計を使用して25±0.05℃の条件下で測定した。測定結果を下記式に当てはめて、ポリアミド樹脂の極限粘度[η]を算出した。
[η]=ηSP/[C(1+0.205ηSP)]
ηSP=(t-t0)/t0[η]:極限粘度(dl/g)
ηSP:比粘度
C:試料濃度(g/dl)
t:試料溶液の流下秒数(秒)
t0:ブランク硫酸の流下秒数(秒)
【0078】
(融点(Tm)、ガラス転移温度(Tg)、融解熱量(ΔH))
ポリアミド樹脂の融解熱量(ΔH)、融点(Tm)およびガラス転移温度(Tg)は、示差走査熱量計(DSC220C型、セイコーインスツル社製)を用いて測定した。
【0079】
具体的には、約5mgのポリアミド樹脂を測定用アルミニウムパン中に密封し、室温から10℃/minで350℃まで加熱する。樹脂を完全融解させるために、350℃で3分間保持し、次いで、10℃/minで30℃まで冷却する。30℃で5分間置いた後、10℃/minで350℃まで2度目の加熱を行う。この2度目の加熱における吸熱ピークの温度(℃)を結晶性ポリアミド樹脂の融点(Tm)とし、ガラス転移に相当する変位点をガラス転移温度(Tg)とする。融解熱量(ΔH)は、JIS K7122に準じて、2度目の昇温過程での結晶化の吸熱ピークの面積から求める。
【0080】
(合成例1)
テレフタル酸259.5g(1561.7ミリモル)、1,6-ジアミノヘキサン118.9g(1023.1ミリモル)、ノルボルナンジアミン85.0g(551.1ミリモル)、次亜リン酸ナトリウム一水和物0.37gおよび蒸留水81.8gを内容量1Lのオートクレーブに入れ、窒素置換した。190℃から攪拌を開始し、3時間かけて内部温度を250℃まで昇温させた。このとき、オートクレーブの内圧を3.0MPaまで昇圧させた。このまま1時間反応を続けた後、オートクレーブ下部に設置したスプレーノズルから大気放出して、低次縮合物を抜き出した。その後、この低次縮合物を室温まで冷却後、低次縮合物を粉砕機で1.5mm以下の粒径まで粉砕し、110℃で24時間乾燥させた。得られた低次縮合物の極限粘度[η]は0.12dl/gであった。
【0081】
次に、この低次縮合物を棚段式固相重合装置に入れ、窒素置換後、約1時間30分かけて215℃まで昇温させた。その後、1時間30分反応させて、室温まで降温させた。得られたプレポリマーの極限粘度[η]は、0.45dl/gであった。
【0082】
その後、得られたプレポリマーを、スクリュー径30mm、L/D=36の二軸押出機にて、バレル設定温度を330℃、スクリュー回転数200rpm、6kg/hの樹脂供給速度で溶融重合させて、ポリアミド樹脂1を得た。
【0083】
得られたポリアミド樹脂1の極限粘度[η]は0.97dl/g、融点(Tm)は312℃、ガラス転移温度(Tg)は167℃、融解熱量(ΔH)は44mJ/mgであった。
【0084】
(合成例2~合成例6)
オートクレーブに投入した1,6-ジアミノヘキサンとノルボルナンジアミンとの合計量を維持しつつ、これらの比率を変更した以外は合成例1と同様にして、それぞれポリアミド樹脂2~ポリアミド樹脂6を得た。
【0085】
(合成例7)
テレフタル酸2774g(16.7モル)、イソフタル酸1196g(7.2モル)、1,6-ヘキサンジアミン2800g(24.3モル)、安息香酸36.6g(0.3モル)、次亜リン酸ナトリウム一水和物5.7gおよび蒸留水545gを内容量13.6Lのオートクレーブに入れ、窒素置換した。190℃から攪拌を開始し、3時間かけて内部温度を250℃まで昇温させた。このとき、オートクレーブの内圧を3.0MPaまで昇圧させた。このまま1時間反応を続けた後、オートクレーブ下部に設置したスプレーノズルから大気放出して低次縮合物を抜き出した。その後、この低次縮合物を室温まで冷却後、低次縮合物を粉砕機で1.5mm以下の粒径まで粉砕し、110℃で24時間乾燥させた。得られた低次縮合物の極限粘度[η]は0.15dl/gであった。
【0086】
次に、この低次縮合物を棚段式固相重合装置に入れ、窒素置換後、約1時間30分かけて215℃まで昇温させた。その後、1時間30分反応させて、室温まで降温させた。得られたプレポリマーの極限粘度[η]は、0.20dl/gであった。
【0087】
その後、得られたプレポリマーを、スクリュー径30mm、L/D=36の二軸押出機にて、バレル設定温度を330℃、スクリュー回転数200rpm、6kg/hの樹脂供給速度で溶融重合させて、ポリアミド樹脂7を得た。
【0088】
得られたポリアミド樹脂7の極限粘度[η]は1.0dl/g、融点(Tm)は330℃、ガラス転移温度(Tg)は125℃、融解熱量(ΔH)は55mJ/mgであった。
【0089】
ポリアミド樹脂1~ポリアミド樹脂7の組成、融点(Tm)およびガラス転移温度(Tg)を、表1に示す。なお、表1中、「PA1」~「PA7」はそれぞれポリアミド樹脂1~ポリアミド樹脂7を、「TA」はテレフタル酸を、「IA」はイソフタル酸を、「HMDA」は1,6-ヘキサンジアミンを、「NBDA」はノルボルナンジアミンを、それぞれ表す。
【0090】
【表1】
【0091】
表1から明らかなように、ジアミンに由来する成分単位(b)として、式(1)で表されるジアミンに由来する成分単位(b2)を含むポリアミド樹脂1~ポリアミド樹脂6は、式(1)で表されるジアミンに由来する成分単位(b2)を含まないポリアミド樹脂7よりも、融点(Tm)が低く、かつガラス転移温度(Tg)が高くなっていた。
【0092】
[実験2]
ジアミンに由来する成分単位(b)として、式(1)で表されるジアミンに由来する成分単位(b2)を含むことにより、ポリアミド樹脂の流動長、機械的物性および電気的特性がどのように変化するかを確認するため、ポリアミド樹脂1およびポリアミド樹脂7を用いて以下の実験を行った。
【0093】
(ポリアミド樹脂組成物の調製)
70質量部のポリアミド樹脂1またはポリアミド樹脂7と、30部のガラス繊維(日東紡績株式会社製、CSX 3J-451)とをタンブラーブレンダーにて混合し、30mmφのベント式二軸スクリュー押出機を用いて300~335℃のシリンダー温度条件で溶融混練した。その後、混練物をストランド状に押出し、水槽で冷却させた。その後、ペレタイザーでストランドを引き取り、カットすることでペレット状のポリアミド樹脂組成物を得た。
【0094】
(流動長)
それぞれのポリアミド樹脂組成物を、幅10mm、厚み0.5mmのバーフロー金型を使用して以下の条件で射出し、金型内のポリアミド樹脂組成物の流動長(mm)を測定した。なお、流動長が長いほど射出流動性が良好であることを示す。
成型機:東芝機械株式会社製、EC75N-2A
射出設定圧力:2000kg/cm
成型機シリンダー温度:335℃
金型温度:160℃
【0095】
(機械的物性-1:引張強度)
得られたポリアミド樹脂組成物を以下の条件で射出成形して、厚み3.2mmのASTM-1(ダンベル片)の試験片を作製した。
成型機:住友重機械工業株式会社社製、SE50DU
成形機シリンダー温度:ポリアミド樹脂の融点+10℃
金型温度:ポリアミド樹脂のガラス転移温度+20℃
作製した試験片を、ASTMD638に準拠し、温度23℃、窒素雰囲気下で24時間放置した。次いで、温度150℃とした雰囲気下で引張試験を行い、引張強度及び伸び率(%)を測定した。
【0096】
(機械的物性-2:曲げ強度・曲げ弾性率)
得られた樹脂組成物を以下の条件で射出成形して、1/8インチ厚短冊片を作製した。
成型機:住友重機械工業(株)社製、SE50DU
成形機シリンダー温度:ポリアミド樹脂の融点+10℃
金型温度:ポリアミド樹脂のガラス転移温度+20℃
作製した試験片を、ASTMD638に準拠し、温度23℃、窒素雰囲気下で24時間放置した。次いで、温度150℃の雰囲気下で、曲げ試験機:NTESCO社製 AB5、スパン51mm、曲げ速度12.7mm/分で曲げ試験を行い、曲げ強度および曲げ弾性率を測定した。
【0097】
(機械的物性-3:耐熱老化性)
得られたポリアミド樹脂組成物を用いて、厚み3mmのASTM-1の試験片(ダンベル片)を作製した。
得られた試験片を、温度150℃の条件下、空気循環炉中でそれぞれ504時間、1008時間、1512時間、および2016時間保存した後、試験片を炉から取り出し、23℃まで冷却した。この試験片を用いて、温度23℃、相対湿度50%の雰囲気下で引張試験を行い、引張強度を測定した。得られた値を下記式に当てはめて、引張強度の保持率を算出した。
引張強度の保持率(耐熱老化性)(%)=(加熱後の引張強度/加熱前の引張強度)×100
(機械的物性-4:シャルピー衝撃強度)
得られたポリアミド樹脂組成物を用いて、ISO-179に準拠してノッチ付き多目的試験片を作製し、23℃でシャルピー衝撃強度(J/m)を測定した。
【0098】
(電気的特性)
下記の射出成型機を用い、下記の成形条件で調整した100mm角、厚さ2mmの角板試験片を成形した。
成型機:東芝機械(株)EC75N-2A
成型機シリンダー温度:ポリアミド樹脂の融点+15℃
金型温度:120℃
【0099】
この角板試験片を、温度23℃、相対湿度50%の雰囲気下で24時間放置した。その後、ASTM D257:2007に準拠し、株式会社エーディーシー社製の機種8340Aを用いて、室温を23℃、80℃、130℃、165℃および200℃としたときの角板試験片の体積抵抗率を測定した。
【0100】
ポリアミド樹脂1およびポリアミド樹脂7から得られたポリアミド樹脂組成物の流動長、引張強度、曲げ強度、曲げ弾性率、シャルピー衝撃強度および各温度における体積抵抗率を、表2に示す。また、ポリアミド樹脂1およびポリアミド樹脂7から得られたポリアミド樹脂組成物の耐熱老化性(引張強度の保持率)を図1に、ポリアミド樹脂1およびポリアミド樹脂7から得られたポリアミド樹脂組成物の各温度における体積抵抗率を図2に、それぞれ示す。
【0101】
【表2】
【0102】
表2および図1から明らかなように、ジカルボン酸に由来する成分単位(a)として、20モル%以上のテレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸またはシクロヘキサンジカルボン酸に由来する成分単位(a1)を含み、ジアミンに由来する成分単位(b)として、式(1)で表されるジアミンに由来する成分単位(b2)を含むポリアミド樹脂1は、式(1)で表されるジアミンに由来する成分単位(b2)を含まないポリアミド樹脂7よりも、流動長が長く(射出流動性が良好であり)、高温域(150℃近辺)における機械的特性および常温における耐衝撃性に優れ、かつ高温域における体積抵抗率が高かった。
【0103】
本出願は、2020年7月16日出願の日本国出願番号2020-122161号に基づく優先権を主張する出願であり、当該出願の明細書、特許請求の範囲および図面に記載された内容は本出願に援用される。
【産業上の利用可能性】
【0104】
本発明によれば、高温域において高い機械的特性および電気抵抗性を有する。そのため、本発明は、高出力となることが見込まれる電気機器の部品へのポリアミド樹脂の適用可能性を広げ、ポリアミド樹脂のさらなる普及に寄与すると期待される。
図1
図2