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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-24
(45)【発行日】2023-12-04
(54)【発明の名称】ピリミジン化合物の結晶
(51)【国際特許分類】
   C07D 487/04 20060101AFI20231127BHJP
   A61K 31/519 20060101ALI20231127BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20231127BHJP
【FI】
C07D487/04 140
C07D487/04 CSP
A61K31/519 ZNA
A61P35/00
【請求項の数】 23
(21)【出願番号】P 2022536418
(86)(22)【出願日】2021-07-14
(86)【国際出願番号】 JP2021026460
(87)【国際公開番号】W WO2022014638
(87)【国際公開日】2022-01-20
【審査請求日】2023-01-13
(31)【優先権主張番号】P 2020121520
(32)【優先日】2020-07-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000207827
【氏名又は名称】大鵬薬品工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100194423
【弁理士】
【氏名又は名称】植竹 友紀子
(72)【発明者】
【氏名】中村 浩之
(72)【発明者】
【氏名】山中 博義
(72)【発明者】
【氏名】浅井 隆宏
【審査官】安藤 倫世
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/038838(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/118817(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/065898(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/145374(WO,A1)
【文献】国際公開第2022/014639(WO,A1)
【文献】国際公開第2022/014640(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
A61K
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉末X線回折スペクトルにおいて、回折角(2θ±0.2°)が、5.5°,6.8°,9.3°,13.4°,15.3°,16.3°,18.5°,19.8°,22.0°及び24.5°から選択される3つ以上にピークを有する、7-((3R,5S)-1-アクリロイル-5-メチルピロリジン-3-イル)-4-アミノ-6-(シクロプロピルエチニル)-N-((R)-1-フェニルエチル)-7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-5-カルボキサミドのフマル酸とのII型結晶であって、7-((3R,5S)-1-アクリロイル-5-メチルピロリジン-3-イル)-4-アミノ-6-(シクロプロピルエチニル)-N-((R)-1-フェニルエチル)-7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-5-カルボキサミドとフマル酸のモル比が1:1である、結晶。
【請求項2】
粉末X線回折スペクトルにおいて、回折角(2θ±0.2°)が、5.5°,6.8°,9.3°,13.4°,15.3°,16.3°,18.5°,19.8°,22.0°及び24.5°にピークを有する、請求項1に記載の結晶。
【請求項3】
図1に示される粉末X線回折スペクトルを有する結晶である、請求項1又は2に記載の結晶。
【請求項4】
示差熱-熱重量同時測定により決定した吸熱ピークが178℃付近である、請求項1~3のいずれか1項に記載の結晶。
【請求項5】
粉末X線回折スペクトルにおいて、回折角(2θ±0.2°)が、8.3°,14.8°,17.3°,18.0°,19.1°,20.3°,21.0°,22.5°,23.0°及び26.2°から選択される3つ以上にピークを有する、7-((3R,5S)-1-アクリロイル-5-メチルピロリジン-3-イル)-4-アミノ-6-(シクロプロピルエチニル)-N-((R)-1-フェニルエチル)-7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-5-カルボキサミドのII型結晶。
【請求項6】
粉末X線回折スペクトルにおいて、回折角(2θ±0.2°)が、8.3°,14.8°,17.3°,18.0°,19.1°,20.3°,21.0°,22.5°,23.0°及び26.2°にピークを有する、請求項5に記載の結晶。
【請求項7】
図3に示される粉末X線回折スペクトルを有する結晶である、請求項5又は6に記載の結晶。
【請求項8】
示差熱-熱重量同時測定により決定した吸熱ピークが182℃付近である、請求項5~7のいずれか1項に記載の結晶。
【請求項9】
粉末X線回折スペクトルにおいて、回折角(2θ±0.2°)が、9.9°,11.7°,13.2°,17.7°,18.1°,18.8°及び20.8°から選択される3つ以上にピークを有する、7-((3R,5S)-1-アクリロイル-5-メチルピロリジン-3-イル)-4-アミノ-6-(シクロプロピルエチニル)-N-((R)-1-フェニルエチル)-7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-5-カルボキサミドのI型結晶。
【請求項10】
粉末X線回折スペクトルにおいて、回折角(2θ±0.2°)が、9.9°,11.7°,13.2°,17.7°,18.1°,18.8°及び20.8°にピークを有する、請求項9に記載の結晶。
【請求項11】
図5に示される粉末X線回折スペクトルを有する結晶である、請求項9又は10に記載の結晶。
【請求項12】
示差熱-熱重量同時測定により決定した吸熱ピークが183℃付近である、請求項9~11のいずれか1項に記載の結晶。
【請求項13】
粉末X線回折スペクトルにおいて、回折角(2θ±0.2°)が、6.9°,9.4°,10.2°,13.7°,21.1°,23.6°及び26.5°から選択される4つ以上にピークを有する、7-((3R,5S)-1-アクリロイル-5-メチルピロリジン-3-イル)-4-アミノ-6-(シクロプロピルエチニル)-N-((R)-1-フェニルエチル)-7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-5-カルボキサミドのフマル酸とのV型結晶であって、7-((3R,5S)-1-アクリロイル-5-メチルピロリジン-3-イル)-4-アミノ-6-(シクロプロピルエチニル)-N-((R)-1-フェニルエチル)-7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-5-カルボキサミドとフマル酸のモル比が1:1である、結晶。
【請求項14】
粉末X線回折スペクトルにおいて、回折角(2θ±0.2°)が、6.9°,9.4°,10.2°,13.7°,21.1°,23.6°及び26.5°にピークを有する、請求項13に記載の結晶。
【請求項15】
図7に示される粉末X線回折スペクトルを有する結晶である、請求項13又は14に記載の結晶。
【請求項16】
示差熱-熱重量同時測定により決定した吸熱ピークが151℃付近である、請求項13~15のいずれか1項に記載の結晶。
【請求項17】
粉末X線回折スペクトルにおいて、回折角(2θ±0.2°)が、6.4°,10.3°,12.8°,15.0°,20.7°,23.4°及び26.6°から選択される4つ以上にピークを有する、7-((3R,5S)-1-アクリロイル-5-メチルピロリジン-3-イル)-4-アミノ-6-(シクロプロピルエチニル)-N-((R)-1-フェニルエチル)-7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-5-カルボキサミドのフマル酸とのI型結晶であって、7-((3R,5S)-1-アクリロイル-5-メチルピロリジン-3-イル)-4-アミノ-6-(シクロプロピルエチニル)-N-((R)-1-フェニルエチル)-7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-5-カルボキサミドとフマル酸のモル比が1:1である、結晶。
【請求項18】
粉末X線回折スペクトルにおいて、回折角(2θ±0.2°)が、6.4°,10.3°,12.8°,15.0°,20.7°,23.4°及び26.6°にピークを有する、請求項17に記載の結晶。
【請求項19】
図9に示される粉末X線回折スペクトルを有する結晶である、請求項17又は18に記載の結晶。
【請求項20】
示差熱-熱重量同時測定により決定した吸熱ピークが153℃付近である、請求項17~19のいずれか1項に記載の結晶。
【請求項21】
請求項1~20のいずれか1項に記載の結晶を含有する、医薬組成物。
【請求項22】
請求項1~20のいずれか1項に記載の結晶を含有する、経口投与用の医薬組成物。
【請求項23】
請求項1~20のいずれか1項に記載の結晶を含有する、抗腫瘍剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗腫瘍剤として有用なピリミジン化合物の結晶及び当該結晶を含む医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
HER2(ErbB2とも呼ばれる)は、ErbBファミリーに属する受容体型チロシンキナーゼである。
HER2は、がん原因遺伝子として考えられ、HER2の遺伝子増幅や過剰発現、変異等が様々ながんで報告されている。非臨床・臨床研究データから、これらHER2の遺伝子異常・過剰発現等を伴うがん細胞において、HER2及び下流シグナルの活性化が、がん細胞の生存・増殖等において重要な役割を担っていると考えられている(非特許文献1)。
従って、HER2のキナーゼ活性を制御できる阻害剤は、HER2の遺伝子増幅や過剰発現、変異を有するがん細胞において、HER2及び下流シグナル伝達を阻害することにより抗腫瘍効果を発揮することが想定されるため、がん患者の治療、延命やQOL向上に有用であると考えられる。
【0003】
肺癌では約25-40%、乳癌では約15-30%、その他複数のがんにおいても一定の割合で脳転移を生じるとの報告がある(非特許文献2、3)。実際に、HER2陽性の乳癌では、約20-30%が脳転移を生じるとの報告がある(非特許文献4)。
【0004】
HER2阻害活性を有する化合物としては、ラパチニブ(Lapatinib)、ネラチニブ(Neratinib)などがHER2陽性乳癌に対する治療剤として承認されている。しかしながら、いずれもp-gp、Bcrpの基質であることから、非臨床試験では脳移行性は限定的であるとの報告がある(非特許文献5)。実際に、ラパチニブやネラチニブの臨床試験において、脳転移がんに対する十分な効果は得られていない(非特許文献6、7、8、9)。
脳転移巣も含めた病態のコントロールという観点から、HER2に対して阻害活性を持ち、かつ、脳移行性も有するHER2阻害剤が望まれている。
【0005】
また、一般的に、医薬品の有効活性成分として化合物が使用されるとき、品質を安定に保持するために及び/又は保管管理を容易にするために、化合物の化学的及び物理学的な安定性が必要である。このため、化学的及び物理学的な安定性を有し、HER2に対して阻害活性を持ち、かつ、脳移行性も有するHER2阻害剤が望まれている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Cancer Treatment Reviews,40,p.770-780(2014)
【文献】Current Oncology,25,p.S103-S114(2018)
【文献】Breast Cancer Reseach,18(1),8,p.1-9(2016)
【文献】Journal of Clinical Oncology,28,p3271-3277(2010)
【文献】Journal of Medicinal Chemistry,59,p10030-10066(2016)
【文献】Journal of Medicinal Chemistry,26,p2999-3005(2008)
【文献】Journal of Clinical Oncology,26,p1993-1999(2008)
【文献】Journal of Clinical Oncology,28,p1301-1307(2010)
【文献】Journal of Clinical Oncology,34,p945-952(2016)
【発明の概要】
【0007】
本発明は、化学的及び物理学的な安定性を有し、HER2に対して阻害活性を持ち、かつ、脳移行性も有するHER2阻害剤を提供することを目的とする。特に本発明は、安定性に優れ、経口吸収性が良好で、かつ、再現性良く取得可能なHER2阻害剤の結晶を提供することを目的とする。
【0008】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を行ったところ、下記式(I)で表される7-((3R,5S)-1-アクリロイル-5-メチルピロリジン-3-イル)-4-アミノ-6-(シクロプロピルエチニル)-N-((R)-1-フェニルエチル)-7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-5-カルボキサミド(以下、「化合物(I)」ともいう)が、HER2阻害活性及び脳移行性を有し、HER2を阻害することによりHER2が関与する疾患(特に、悪性腫瘍)の治療剤として有用であることを見出した。
【0009】
【化1】
【0010】
そして、本発明者らは、化合物(I)にはフリー体として2つの結晶形(I型結晶、II型結晶)、及び酸との結晶(塩体の結晶又は共結晶)として、塩酸との結晶(塩酸とのI型結晶、塩酸とのII型結晶、塩酸とのIII型結晶)、臭化水素酸との結晶、1当量の酒石酸との結晶、フマル酸との結晶(0.5当量のフマル酸とのI型結晶、0.5当量のフマル酸とのII型結晶、1当量のフマル酸とのI型結晶、1当量のフマル酸とのII型結晶、1当量のフマル酸とのIII型結晶、1当量のフマル酸とのIV型結晶、1当量のフマル酸とのV型結晶)、コハク酸との結晶を見出した。
その結晶形のうちフリー体I型結晶、フリー体II型結晶、1当量のフマル酸とのII型結晶、1当量のフマル酸とのV型結晶それぞれにおいて、非吸湿性で優れた固体安定性があるという医薬品製造において有利な性質を見出し、また経口吸収性に優れること等を見出し、本発明を完成させた。
【0011】
すなわち、本発明は、下記の実施形態を含む。
〔1〕 粉末X線回折スペクトルにおいて、回折角(2θ±0.2°)が、5.5°,6.8°,9.3°,13.4°,15.3°,16.3°,18.5°,19.8°,22.0°及び24.5°から選択される3つ以上にピークを有する、7-((3R,5S)-1-アクリロイル-5-メチルピロリジン-3-イル)-4-アミノ-6-(シクロプロピルエチニル)-N-((R)-1-フェニルエチル)-7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-5-カルボキサミドのフマル酸とのII型結晶であって、7-((3R,5S)-1-アクリロイル-5-メチルピロリジン-3-イル)-4-アミノ-6-(シクロプロピルエチニル)-N-((R)-1-フェニルエチル)-7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-5-カルボキサミドとフマル酸のモル比が1:1である、結晶。
〔2〕 粉末X線回折スペクトルにおいて、回折角(2θ±0.2°)が、5.5°,6.8°,9.3°,13.4°,15.3°,16.3°,18.5°,19.8°,22.0°及び24.5°にピークを有する、〔1〕に記載の結晶。
〔3〕 図1に示される粉末X線回折スペクトルを有する結晶である、〔1〕又は〔2〕に記載の結晶。
〔4〕 示差熱-熱重量同時測定により決定した吸熱ピークが178℃付近である、〔1〕~〔3〕のいずれか1項に記載の結晶。
〔5〕 結晶の純度が90質量%以上である、〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の結晶。
〔6〕 粉末X線回折スペクトルにおいて、回折角(2θ±0.2°)が、8.3°,14.8°,17.3°,18.0°,19.1°,20.3°,21.0°,22.5°,23.0°及び26.2°から選択される3つ以上にピークを有する、7-((3R,5S)-1-アクリロイル-5-メチルピロリジン-3-イル)-4-アミノ-6-(シクロプロピルエチニル)-N-((R)-1-フェニルエチル)-7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-5-カルボキサミドのII型結晶。
〔7〕 粉末X線回折スペクトルにおいて、回折角(2θ±0.2°)が、8.3°,14.8°,17.3°,18.0°,19.1°,20.3°,21.0°,22.5°,23.0°及び26.2°にピークを有する、〔6〕に記載の結晶。
〔8〕 図3に示される粉末X線回折スペクトルを有する結晶である、〔6〕又は〔7〕に記載の結晶。
〔9〕 示差熱-熱重量同時測定により決定した吸熱ピークが182℃付近である、〔6〕~〔8〕のいずれかに記載の結晶。
〔10〕 結晶の純度が90質量%以上である、〔6〕~〔9〕のいずれかに記載の結晶。
〔11〕 粉末X線回折スペクトルにおいて、回折角(2θ±0.2°)が、9.9°,11.7°,13.2°,17.7°,18.1°,18.8°及び20.8°から選択される4つ以上にピークを有する、7-((3R,5S)-1-アクリロイル-5-メチルピロリジン-3-イル)-4-アミノ-6-(シクロプロピルエチニル)-N-((R)-1-フェニルエチル)-7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-5-カルボキサミドのI型結晶。
〔12〕 粉末X線回折スペクトルにおいて、回折角(2θ±0.2°)が、9.9°,11.7°,13.2°,17.7°,18.1°,18.8°及び20.8°にピークを有する、〔11〕に記載の結晶。
〔13〕 図5に示される粉末X線回折スペクトルを有する結晶である、〔11〕又は〔12〕に記載の結晶。
〔14〕 示差熱-熱重量同時測定により決定した吸熱ピークが183℃付近である、〔11〕~〔13〕のいずれかに記載の結晶。
〔15〕 結晶の純度が90質量%以上である〔11〕~〔14〕のいずれかに記載の結晶。
〔16〕 粉末X線回折スペクトルにおいて、回折角(2θ±0.2°)が、6.9°,9.4°,10.2°,13.7°,21.1°,23.6°及び26.5°から選択される4つ以上にピークを有する、7-((3R,5S)-1-アクリロイル-5-メチルピロリジン-3-イル)-4-アミノ-6-(シクロプロピルエチニル)-N-((R)-1-フェニルエチル)-7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-5-カルボキサミドのフマル酸とのV型結晶であって、7-((3R,5S)-1-アクリロイル-5-メチルピロリジン-3-イル)-4-アミノ-6-(シクロプロピルエチニル)-N-((R)-1-フェニルエチル)-7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-5-カルボキサミドとフマル酸のモル比が1:1である、結晶。
〔17〕 粉末X線回折スペクトルにおいて、回折角(2θ±0.2°)が、6.9°,9.4°,10.2°,13.7°,21.1°,23.6°及び26.5°にピークを有する、〔16〕に記載の結晶。
〔18〕 図7に示される粉末X線回折スペクトルを有する結晶である、〔16〕又は〔17〕に記載の結晶。
〔19〕 示差熱-熱重量同時測定により決定した吸熱ピークが151℃付近である、〔16〕~〔18〕のいずれかに記載の結晶。
〔20〕 結晶の純度が90質量%以上である、〔16〕~〔19〕のいずれかに記載の結晶。
〔21〕 粉末X線回折スペクトルにおいて、回折角(2θ±0.2°)が、6.4°,10.3°,12.8°,15.0°,20.7°,23.4°及び26.6°から選択される4つ以上にピークを有する、7-((3R,5S)-1-アクリロイル-5-メチルピロリジン-3-イル)-4-アミノ-6-(シクロプロピルエチニル)-N-((R)-1-フェニルエチル)-7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-5-カルボキサミドのフマル酸とのI型結晶であって、7-((3R,5S)-1-アクリロイル-5-メチルピロリジン-3-イル)-4-アミノ-6-(シクロプロピルエチニル)-N-((R)-1-フェニルエチル)-7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-5-カルボキサミドとフマル酸のモル比が1:1である、結晶。
〔22〕 粉末X線回折スペクトルにおいて、回折角(2θ±0.2°)が、6.4°,10.3°,12.8°,15.0°,20.7°,23.4°及び26.6°にピークを有する、〔21〕に記載の結晶。
〔23〕 図9に示される粉末X線回折スペクトルを有する結晶である、〔21〕又は〔22〕に記載の結晶。
〔24〕 示差熱-熱重量同時測定により決定した吸熱ピークが153℃付近である、〔21〕~〔23〕のいずれかに記載の結晶。
〔25〕 結晶の純度が90質量%以上である、〔21〕~〔24〕のいずれかに記載の結晶。
〔26〕 粉末X線回折スペクトルにおいて、回折角(2θ±0.2°)が、6.4°,7.5°,9.7°,11.7°,15.1°,19.6°及び23.9°から選択される4つ以上にピークを有する、7-((3R,5S)-1-アクリロイル-5-メチルピロリジン-3-イル)-4-アミノ-6-(シクロプロピルエチニル)-N-((R)-1-フェニルエチル)-7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-5-カルボキサミドのフマル酸とのI型結晶であって、7-((3R,5S)-1-アクリロイル-5-メチルピロリジン-3-イル)-4-アミノ-6-(シクロプロピルエチニル)-N-((R)-1-フェニルエチル)-7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-5-カルボキサミドとフマル酸のモル比が1:0.5である、結晶。
〔27〕 粉末X線回折スペクトルにおいて、回折角(2θ±0.2°)が、6.4°,7.5°,9.7°,11.7°,15.1°,19.6°及び23.9°にピークを有する、〔26〕に記載の結晶。
〔28〕 図11に示される粉末X線回折スペクトルを有する結晶である、〔26〕又は〔27〕に記載の結晶。
〔29〕 示差熱-熱重量同時測定により決定した吸熱ピークが161℃付近である、〔26〕~〔28〕のいずれかに記載の結晶。
〔30〕 結晶の純度が90質量%以上である、〔26〕~〔29〕のいずれかに記載の結晶。
〔31〕 粉末X線回折スペクトルにおいて、回折角(2θ±0.2°)が、5.4°,6.4°,7.3°,12.8°,13.4°,14.7°及び15.4°から選択される4つ以上にピークを有する、7-((3R,5S)-1-アクリロイル-5-メチルピロリジン-3-イル)-4-アミノ-6-(シクロプロピルエチニル)-N-((R)-1-フェニルエチル)-7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-5-カルボキサミドのフマル酸とのII型結晶であって、7-((3R,5S)-1-アクリロイル-5-メチルピロリジン-3-イル)-4-アミノ-6-(シクロプロピルエチニル)-N-((R)-1-フェニルエチル)-7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-5-カルボキサミドとフマル酸のモル比が1:0.5である、結晶。
〔32〕 粉末X線回折スペクトルにおいて、回折角(2θ±0.2°)が、5.4°,6.4°,7.3°,12.8°,13.4°,14.7°及び15.4°にピークを有する、〔31〕に記載の結晶。
〔33〕 図13に示される粉末X線回折スペクトルを有する結晶である、〔31〕又は〔32〕に記載の結晶。
〔34〕 示差熱-熱重量同時測定により決定した吸熱ピークが162℃付近である、〔31〕~〔33〕のいずれかに記載の結晶。
〔35〕 結晶の純度が90質量%以上である、〔31〕~〔34〕のいずれかに記載の結晶。
〔36〕〔1〕~〔35〕のいずれかに記載の結晶を含有する医薬組成物。
〔37〕〔1〕~〔35〕のいずれかに記載の結晶を含有する経口投与用の医薬組成物。
〔38〕〔1〕~〔35〕のいずれかに記載の結晶を含有する抗腫瘍剤。
〔39〕 医薬として使用するための〔1〕~〔35〕のいずれかに記載の結晶。
〔40〕 経口投与用の抗腫瘍剤を製造するための〔1〕~〔35〕のいずれかに記載の結晶の使用。
〔41〕 腫瘍の治療に使用するための〔1〕~〔35〕のいずれかに記載の結晶。
〔42〕 経口投与して腫瘍の治療に使用するための〔1〕~〔35〕のいずれかに記載の結晶。
〔43〕 腫瘍の治療方法であって、それを必要とする対象に、〔1〕~〔35〕のいずれかに記載の結晶の有効量を投与することを含む、方法。
〔44〕 医薬組成物を製造するための〔1〕~〔35〕のいずれかに記載の結晶の使用。
〔45〕 抗腫瘍剤を製造するための〔1〕~〔35〕のいずれかに記載の結晶の使用。
【0012】
本発明の化合物(I) 7-((3R,5S)-1-アクリロイル-5-メチルピロリジン-3-イル)-4-アミノ-6-(シクロプロピルエチニル)-N-((R)-1-フェニルエチル)-7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-5-カルボキサミドのフリー体I型結晶、フリー体II型結晶、1当量のフマル酸とのII型結晶、1当量のフマル酸とのV型結晶は、高い安定性、取り扱い性(より低い吸湿性)、品質管理性等の観点から、他の結晶形と比較して優れている。さらにフリー体II型結晶、1当量のフマル酸とのII型結晶は、経口吸収性に優れており、該化合物を医薬品用の原薬として使用する際の有用な形態である。また、1当量のフマル酸とのI型結晶はアセトン(溶媒)から固体として単離できる形態(単離後、乾燥してV型結晶にする)であるため,1当量のフマル酸とのV型結晶の製造の中間体としても有用である。
本発明によれば、化合物(I)の新規な結晶もしくは化合物(I)と酸との新規な結晶、これを含む医薬組成物、抗腫瘍剤、又は経口投与用の抗腫瘍剤が提供される。
好ましい態様において、化合物(I)の1当量のフマル酸とのII型結晶、フリー体II型結晶、フリー体I型結晶、1当量のフマル酸とのV型結晶、0.5当量のフマル酸とのI型結晶、0.5当量のフマル酸とのII型結晶は、非吸湿性、取得再現性、固体安定性、経口吸収性などの医薬品製造において有利な性質の少なくとも一つを備える。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例1で得られた化合物(I)の1当量のフマル酸とのII型結晶の粉末X線回折スペクトルを示す(縦軸は強度(counts)、横軸は回折角(2θ)を表す)。
図2】実施例1で得られた化合物(I)の1当量のフマル酸とのII型結晶の示差熱-熱重量同時測定(TG-DTA)の結果を示す(左縦軸はTG曲線における重量(mg)、右縦軸はDTA曲線における熱流束(μV)、横軸は温度(℃)を表す)。
図3】実施例2で得られた化合物(I)のII型結晶の粉末X線回折スペクトルを示す(縦軸は強度(counts)、横軸は回折角(2θ)を表す)。
図4】実施例2で得られた化合物(I)のII型結晶の示差熱-熱重量同時測定(TG-DTA)の結果を示す(左縦軸はTG曲線における重量(mg)、右縦軸はDTA曲線における熱流束(μV)、横軸は温度(℃)を表す)。
図5】実施例3で得られた化合物(I)のI型結晶の粉末X線回折スペクトルを示す(縦軸は強度(counts)、横軸は回折角(2θ)を表す)。
図6】実施例3で得られた化合物(I)のI型結晶の示差熱-熱重量同時測定(TG-DTA)の結果を示す(左縦軸はTG曲線における重量(mg)、右縦軸はDTA曲線における熱流束(μV)、横軸は温度(℃)を表す)。
図7】実施例4で得られた化合物(I)の1当量のフマル酸とのV型結晶の粉末X線回折スペクトルを示す(縦軸は強度(counts)、横軸は回折角(2θ)を表す)。
図8】実施例4で得られた化合物(I)の1当量のフマル酸とのV型結晶の示差熱-熱重量同時測定(TG-DTA)の結果を示す(左縦軸はTG曲線における重量(mg)、右縦軸はDTA曲線における熱流束(μV)、横軸は温度(℃)を表す)。
図9】実施例5で得られた化合物(I)の1当量のフマル酸とのI型結晶の粉末X線回折スペクトルを示す(縦軸は強度(counts)、横軸は回折角(2θ)を表す)。
図10】実施例5で得られた化合物(I)の1当量のフマル酸とのI型結晶の示差熱-熱重量同時測定(TG-DTA)の結果を示す(左縦軸はTG曲線における重量(mg)、右縦軸はDTA曲線における熱流束(μV)、横軸は温度(℃)を表す)。
図11】実施例6で得られた化合物(I)の0.5当量のフマル酸とのI型結晶の粉末X線回折スペクトルを示す(縦軸は強度(counts)、横軸は回折角(2θ)を表す)。
図12】実施例6で得られた化合物(I)の0.5当量のフマル酸とのI型結晶の示差熱-熱重量同時測定(TG-DTA)の結果を示す(左縦軸はTG曲線における重量(mg)、右縦軸はDTA曲線における熱流束(μV)、横軸は温度(℃)を表す)。
図13】実施例7で得られた化合物(I)の0.5当量のフマル酸とのII型結晶の粉末X線回折スペクトルを示す(縦軸は強度(counts)、横軸は回折角(2θ)を表す)。
図14】実施例7で得られた化合物(I)の0.5当量のフマル酸とのII型結晶の示差熱-熱重量同時測定(TG-DTA)の結果を示す(左縦軸はTG曲線における重量(mg)、右縦軸はDTA曲線における熱流束(μV)、横軸は温度(℃)を表す)。
図15】参考例1で得られた化合物(I)の1当量のフマル酸とのIII型結晶の粉末X線回折スペクトルを示す(縦軸は強度(counts)、横軸は回折角(2θ)を表す)。
図16】参考例1で得られた化合物(I)の1当量のフマル酸とのIII型結晶の示差熱-熱重量同時測定(TG-DTA)の結果を示す(左縦軸はTG曲線における重量(mg)、右縦軸はDTA曲線における熱流束(μV)、横軸は温度(℃)を表す)。
図17】参考例2で得られた化合物(I)の1当量のフマル酸とのIV型結晶の粉末X線回折スペクトルを示す(縦軸は強度(counts)、横軸は回折角(2θ)を表す)。
図18】参考例2で得られた化合物(I)の1当量のフマル酸とのIV型結晶の示差熱-熱重量同時測定(TG-DTA)の結果を示す(左縦軸はTG曲線における重量(mg)、右縦軸はDTA曲線における熱流束(μV)、横軸は温度(℃)を表す)。
図19】参考例3で得られた化合物(I)の塩酸とのI型結晶の粉末X線回折スペクトルを示す(縦軸は強度(counts)、横軸は回折角(2θ)を表す)。
図20】参考例3で得られた化合物(I)の塩酸とのI型結晶の示差熱-熱重量同時測定(TG-DTA)の結果を示す(左縦軸はTG曲線における重量(mg)、右縦軸はDTA曲線における熱流束(μV)、横軸は温度(℃)を表す)。
図21】参考例4で得られた化合物(I)の塩酸とのII型結晶の粉末X線回折スペクトルを示す(縦軸は強度(counts)、横軸は回折角(2θ)を表す)。
図22】参考例4で得られた化合物(I)の塩酸とのII型結晶の示差熱-熱重量同時測定(TG-DTA)の結果を示す(左縦軸はTG曲線における重量(mg)、右縦軸はDTA曲線における熱流束(μV)、横軸は温度(℃)を表す)。
図23】参考例5で得られた化合物(I)の塩酸とのIII型結晶の粉末X線回折スペクトルを示す(縦軸は強度(counts)、横軸は回折角(2θ)を表す)。
図24】参考例5で得られた化合物(I)の塩酸とのIII型結晶の示差熱-熱重量同時測定(TG-DTA)の結果を示す(左縦軸はTG曲線における重量(mg)、右縦軸はDTA曲線における熱流束(μV)、横軸は温度(℃)を表す)。
図25】参考例6で得られた化合物(I)の臭化水素酸との結晶の粉末X線回折スペクトルを示す(縦軸は強度(counts)、横軸は回折角(2θ)を表す)。
図26】参考例6で得られた化合物(I)の臭化水素酸との結晶の示差熱-熱重量同時測定(TG-DTA)の結果を示す(左縦軸はTG曲線における重量(mg)、右縦軸はDTA曲線における熱流束(μV)、横軸は温度(℃)を表す)。
図27】参考例7で得られた化合物(I)の1当量のL-酒石酸との結晶の粉末X線回折スペクトルを示す(縦軸は強度(counts)、横軸は回折角(2θ)を表す)。
図28】参考例7で得られた化合物(I)の1当量のL-酒石酸との結晶の示差熱-熱重量同時測定(TG-DTA)の結果を示す(左縦軸はTG曲線における重量(mg)、右縦軸はDTA曲線における熱流束(μV)、横軸は温度(℃)を表す)。
図29】参考例8で得られた化合物(I)のコハク酸との結晶の粉末X線回折スペクトルを示す(縦軸は強度(counts)、横軸は回折角(2θ)を表す)。
図30】参考例8で得られた化合物(I)のコハク酸との結晶の示差熱-熱重量同時測定(TG-DTA)の結果を示す(左縦軸はTG曲線における重量(mg)、右縦軸はDTA曲線における熱流束(μV)、横軸は温度(℃)を表す)。
図31】化合物(I)のLuciferase遺伝子導入HER2発現細胞株(NCI-N87-luc)の脳直接移植モデルに対する抗腫瘍効果を示す。
図32】化合物(I)のLuciferase遺伝子導入HER2発現細胞株(NCI-N87-luc)の脳直接移植モデルに対する体重増減率を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、下記式(I)で表される7-((3R,5S)-1-アクリロイル-5-メチルピロリジン-3-イル)-4-アミノ-6-(シクロプロピルエチニル)-N-((R)-1-フェニルエチル)-7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-5-カルボキサミドの結晶、及びその酸との結晶(その塩の結晶または共結晶)に関する。
【化2】
具体的には、化合物(I)の1当量のフマル酸とのII型結晶、フリー体のII型結晶、フリー体のI型結晶、1当量のフマル酸とのV型結晶、1当量のフマル酸とのI型結晶、0.5当量のフマル酸とのI型結晶、0.5当量のフマル酸とのII型結晶に関する。
なお、本明細書中、I型、II型、III型、IV型及びV型という記載は、結晶形を区別するための便宜的な名称であり、本発明に係る結晶はこの名称で限定されるものではない。
【0015】
本明細書において、7-((3R,5S)-1-アクリロイル-5-メチルピロリジン-3-イル)-4-アミノ-6-(シクロプロピルエチニル)-N-((R)-1-フェニルエチル)-7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-5-カルボキサミド(化合物(I))の酸との結晶とは、塩の結晶又は酸との共結晶を示す。
塩の結晶は、化合物(I)と酸の分子とがイオン結合で結合した結晶であり、共結晶は、化合物(I)と酸の分子とが非イオン性の相互作用により結合した結晶である。本発明において、化合物(I)の酸との結晶は、塩の結晶であっても共結晶であってもよく、その両方の意味を包含する。例えば、7-((3R,5S)-1-アクリロイル-5-メチルピロリジン-3-イル)-4-アミノ-6-(シクロプロピルエチニル)-N-((R)-1-フェニルエチル)-7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-5-カルボキサミドのフマル酸とのII型結晶であれば、7-((3R,5S)-1-アクリロイル-5-メチルピロリジン-3-イル)-4-アミノ-6-(シクロプロピルエチニル)-N-((R)-1-フェニルエチル)-7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-5-カルボキサミドのフマル酸塩の結晶又は7-((3R,5S)-1-アクリロイル-5-メチルピロリジン-3-イル)-4-アミノ-6-(シクロプロピルエチニル)-N-((R)-1-フェニルエチル)-7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-5-カルボキサミドのフマル酸との共結晶の意を示す。
【0016】
結晶は、原子や分子が規則的な繰り返し構造を配置している固体を示し、繰り返し構造を持たないアモルファス(非晶質)の固体とは異なる。粉末X線回折測定(XRD測定)、示差走査熱量測定(DSC測定)、熱重量-示差熱同時測定(TG-DTA測定)、単結晶解析などの方法により、結晶、又はアモルファスの固体を調べることができる。結晶多形は、同一分子であって結晶中の原子や分子の配列が異なるものを示し、XRD測定で得られるピークが結晶多形によって異なることが知られている。また、それぞれの結晶多形の間で溶解性、経口吸収性、安定性などが異なることが知られている。
【0017】
本明細書中、「結晶」、「非晶質体」なる語は、通常の意味で用いられる。
【0018】
本明細書中で単に「化合物(I)」と記載した場合は、7-((3R,5S)-1-アクリロイル-5-メチルピロリジン-3-イル)-4-アミノ-6-(シクロプロピルエチニル)-N-((R)-1-フェニルエチル)-7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-5-カルボキサミドを意味し、「非晶質体」、「結晶」のいずれをも含む意味で用いられる。
本明細書で「化合物(I)の結晶」と記載した場合は、化合物(I)のフリー体の結晶、及び、化合物(I)との酸との結晶(化合物(I)の塩の結晶及び化合物(I)の共結晶)のいずれをも含む意味で用いられる。
本明細書中で結晶を構成する化合物(I)以外の分子(塩又は共結晶を構成する他の分子)が特定されていない結晶は、7-((3R,5S)-1-アクリロイル-5-メチルピロリジン-3-イル)-4-アミノ-6-(シクロプロピルエチニル)-N-((R)-1-フェニルエチル)-7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-5-カルボキサミド(化合物(I))のフリー体の結晶を意味する。 本明細書中で当量と書かれていた場合は、モル当量を意味する。
化合物(I)と酸との結晶(塩体の結晶又は共結晶)において、化合物(I)に対する酸の当量は、例えばNMRやイオンクロマトグラフィーで分析できる。
本明細書中で結晶は、水和物であっても良い。
【0019】
また、化合物(I)、又はその塩のラベル体、すなわち、化合物(I)や化合物(I)の塩の、1つ以上の原子を放射性同位元素若しくは非放射性同位元素で置換した化合物も、本発明に包含される。
【0020】
結晶は、化合物(I)の結晶を含むものであればよく、単一結晶であってもそれ以外の化合物(I)の結晶を含む多形混合物であってもよい。具体的には結晶の純度が50重量%以上である、すなわち50重量%以上が単一の結晶であることが好ましく、結晶の純度が75重量%以上である、すなわち75重量%以上が単一の結晶であることが好ましく、結晶の純度が90重量%以上である、すなわち90重量%以上が単一の結晶であることがより好ましく、結晶の純度が95重量%以上である、すなわち95重量%以上が単一の結晶であることがさらに好ましく、結晶の純度が99重量%以上である、すなわち99重量%以上が単一の結晶であることが特に好ましい。
【0021】
本明細書において、化学純度とは高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で測定した際の純度であり、化合物(I)の化学純度と記載したときには、化合物(I)を高速液体クロマトグラフィーで測定した際の純度を言う。その際に、純度測定に用いる検出器の波長は適宜設定することができる。具体的には、化合物(I)の結晶の化学純度は95%以上が好ましく、98%以上がより好ましく、99%以上が特に好ましい。
【0022】
尚、粉末X線回折パターンは、データの性質上、結晶の同一性を認定する際は、回折角及び全体的なパターンが重要である。粉末X線回折パターンの相対強度は結晶成長の方向、粒子の大きさ、測定条件によって多少変動し得るものであるから、厳密に解されるべきではない。
【0023】
各種パターンから得られる数値は、その結晶成長の方向、粒子の大きさ、測定条件等によって多少の誤差が生じる場合がある。したがって、本明細書中、粉末X線回折パターンにおける回折角(2θ)の数値は、±0.2°程度の範囲で測定誤差を有し得る。
【0024】
本明細書において、「室温」は通常約10℃から約35℃を示す。
【0025】
また、示差熱熱重量同時測定(TG-DTA)曲線における吸熱ピークは、1分あたりの昇温の幅、試料の化学純度等により測定温度が変化することがあり、通常±5.0℃を意味する。よって、本発明に係る結晶を(TG-DTA測定した際には、ピーク(ピークトップ値)の誤差は±5.0℃を考慮する。その際に使用する「付近」という用語は±5.0℃を意味する。
【0026】
本発明の一形態は、化合物(I)のフリー体の結晶(I型結晶、II型結晶)、化合物(I)の1当量のフマル酸との結晶(I型結晶、II型結晶、III型結晶、IV型結晶、V型結晶)、化合物(I)の0.5当量のフマル酸との結晶(I型結晶、II型結晶)に関する。
【0027】
(化合物(I)の1当量のフマル酸とのII型結晶)
化合物(I)の1当量のフマル酸とのII型結晶は、図1に示される粉末X線回折スペクトルを有し、また、図2に示される示差熱-熱重量同時測定(TG-DTA)の曲線を有する。
また、本発明の一実施形態において、化合物(I)の1当量のフマル酸とのII型結晶は、粉末X線回折において表2に示す回折角(2θ)及び強度(cts)を有する。
【0028】
ここで、化合物(I)の1当量のフマル酸とのII型結晶の粉末X線回折スペクトルにおける特徴的なピークは、回折角(2θ±0.2°)として、5.5°,6.8°,9.3°,13.4°,15.3°,16.3°,18.5°,19.8°,22.0°及び24.5°を挙げることができる。
本発明にかかる化合物(I)の1当量のフマル酸とのII型結晶は、上記特徴的なピークから選択される3つ以上のピークを有する結晶であり、好ましくは上記特徴的なピークから選択される4つ以上のピークを有する結晶であり、より好ましくは上記特徴的なピークから選択される5つ以上のピークを有する結晶であり、さらに好ましくは上記特徴的なピークから選択される6つ以上のピークを有する結晶であり、さらに好ましくは上記特徴的なピークから選択される7つ以上のピークを有する結晶であり、一層好ましくは上記特徴的なピークから選択される8つ以上のピークを有する結晶であり、より一層好ましくは上記特徴的なピークから選択される9つ以上のピークを有する結晶であり、特に好ましくは上記ピークのいずれもを有する結晶である。
【0029】
また、化合物(I)の1当量のフマル酸とのII型結晶の示差熱-熱重量同時測定により決定した吸熱ピーク(ピークトップ値)は173~183℃、言い換えると178℃付近を挙げることができる。
【0030】
(化合物(I)のフリー体II型結晶)
化合物(I)のII型結晶は、図3に示される粉末X線回折スペクトルを有し、また、図4に示される示差熱-熱重量同時測定(TG-DTA)の曲線を有する。
また、本発明の一実施形態において、化合物(I)のフリー体のII型結晶は、粉末X線回折において表3に示す回折角(2θ)及び強度(cts)を有する。
【0031】
ここで、化合物(I)のII型結晶の粉末X線回折スペクトルにおける特徴的なピークは、回折角(2θ±0.2°)として、8.3°,14.8°,17.3°,18.0°,19.1°,20.3°,21.0°,22.5°,23.0°及び26.2°を挙げることができる。
本発明にかかる化合物(I)のII型結晶は、上記特徴的なピークから選択される3つ以上のピークを有する結晶であり、好ましくは上記特徴的なピークから選択される4つ以上のピークを有する結晶であり、より好ましくは上記特徴的なピークから選択される5つ以上のピークを有する結晶であり、さらに好ましくは上記特徴的なピークから選択される6つ以上のピークを有する結晶であり、さらに好ましくは上記特徴的なピークから選択される7つ以上のピークを有する結晶であり、一層好ましくは上記特徴的なピークから選択される8つ以上のピークを有する結晶であり、より一層好ましくは上記特徴的なピークから選択される9つ以上のピークを有する結晶であり、特に好ましくは上記特徴的なピークのいずれもを有する結晶である。
【0032】
また、化合物(I)のII型結晶の示差熱-熱重量同時測定により決定した吸熱ピーク(ピークトップ値)は177~187℃、言い換えると182℃付近を挙げることができる。
【0033】
(化合物(I)のフリー体I型結晶)
化合物(I)のI型結晶は、図5に示される粉末X線回折スペクトルを有し、また、図6に示される示差熱-熱重量同時測定(TG-DTA)の曲線を有する。
また、本発明の一実施形態において、化合物(I)のフリー体のI型結晶は、粉末X線回折において表4に示す回折角(2θ)及び強度(cts)を有する。
【0034】
ここで、化合物(I)のI型結晶の粉末X線回折スペクトルにおける特徴的なピークは、回折角(2θ±0.2°)として、9.9°,11.7°,13.2°,17.7°,18.1°,18.8°及び20.8°を挙げることができる。
本発明にかかる化合物(I)のI型結晶は、上記特徴的なピークから選択される3つ以上のピークを有する結晶であり、好ましくは上記特徴的なピークから選択される4つ以上のピークを有する結晶であり、より好ましくは上記特徴的なピークから選択される5つ以上のピークを有する結晶であり、さらに好ましくは上記特徴的なピークから選択される6つ以上のピークを有する結晶であり、特に好ましくは上記特徴的なピークのいずれもを有する結晶である。
ここで、化合物(I)のI型結晶の粉末X線回折スペクトルにおける特徴的なピークは、回折角(2θ±0.2°)として、9.9°,11.7°,13.2°,18.8°及び20.8°を挙げることができる。
本発明にかかる化合物(I)のI型結晶は、上記特徴的なピークから選択される3つ以上のピークを有する結晶であり、好ましくは上記特徴的なピークから選択される4つ以上のピークを有する結晶であり、特に好ましくは上記特徴的なピークのいずれもを有する結晶である。
【0035】
また、化合物(I)のI型結晶の示差熱-熱重量同時測定により決定した吸熱ピーク(ピークトップ値)は178~188℃、言い換えると183℃付近を挙げることができる。
【0036】
(化合物(I)の1当量のフマル酸とのV型結晶)
化合物(I)の1当量のフマル酸とのV型結晶は、図7に示される粉末X線回折スペクトルを有し、また、図8に示される示差熱-熱重量同時測定(TG-DTA)の曲線を有する。
また、本発明の一実施形態において、化合物(I)の1当量のフマル酸とのV型結晶は、粉末X線回折において表5に示す回折角(2θ)及び強度(cts)を有する。
【0037】
ここで、化合物(I)の1当量のフマル酸とのV型結晶の粉末X線回折スペクトルにおける特徴的なピークは、回折角(2θ±0.2°)として6.9°,9.4°,10.2°,13.7°,21.1°,23.6°及び26.5°を挙げることができる。
本発明にかかる化合物(I)の1当量のフマル酸とのV型結晶は、上記特徴的なピークから選択される3つ以上のピークを有する結晶であり、好ましくは上記特徴的なピークから選択される4つ以上のピークを有する結晶であり、より好ましくは上記特徴的なピークから選択される5つ以上のピークを有する結晶であり、さらに好ましくは上記特徴的なピークから選択される6つ以上のピークを有する結晶であり、特に好ましくは上記特徴的なピークのいずれもを有する結晶である。
ここで、化合物(I)の1当量のフマル酸とのV型結晶の粉末X線回折スペクトルにおける特徴的なピークは、回折角(2θ±0.2°)として6.9°,13.7°,21.1°,23.6°及び26.5°を挙げることができる。
本発明にかかる化合物(I)の1当量のフマル酸とのV型結晶は、上記特徴的なピークから選択される3つ以上のピークを有する結晶であり、好ましくは上記特徴的なピークから選択される4つ以上のピークを有する結晶であり、特に好ましくは上記特徴的なピークのいずれもを有する結晶である。
【0038】
また、化合物(I)の1当量のフマル酸とのV型結晶の示差熱-熱重量同時測定により決定した吸熱ピーク(ピークトップ値)は146~156℃、言い換えると151℃付近を挙げることができる。
【0039】
(化合物(I)の1当量のフマル酸とのI型結晶)
化合物(I)の1当量のフマル酸とのI型結晶は、図9に示される粉末X線回折スペクトルを有し、また、図10に示される示差熱-熱重量同時測定(TG-DTA)の曲線を有する。
また、本発明の一実施形態において、化合物(I)の1当量のフマル酸とのI型結晶は、粉末X線回折において表6に示す回折角(2θ)及び強度(cts)を有する。
【0040】
ここで、化合物(I)の1当量のフマル酸とのI型結晶の粉末X線回折スペクトルにおける特徴的なピークは、回折角(2θ±0.2°)として、6.4°,10.3°,12.8°,15.0°,20.7°,23.4°及び26.6°を挙げることができる。
本発明にかかる化合物(I)の1当量のフマル酸とのI型結晶は、上記特徴的なピークから選択される3つ以上のピークを有する結晶であり、好ましくは上記特徴的なピークから選択される4つ以上のピークを有する結晶であり、より好ましくは上記特徴的なピークから選択される5つ以上のピークを有する結晶であり、さらに好ましくは上記特徴的なピークから選択される6つ以上のピークを有する結晶であり、特に好ましくは上記特徴的なピークのいずれもを有する結晶である。
また、化合物(I)の1当量のフマル酸とのI型結晶の示差熱-熱重量同時測定により決定した吸熱ピーク(ピークトップ値)は148~158℃、言い換えると153℃付近を挙げることができる。
ここで、化合物(I)の1当量のフマル酸とのI型結晶の粉末X線回折スペクトルにおける特徴的なピークは、回折角(2θ±0.2°)として、6.4°,10.3°,12.8°,20.7°,23.4°及び26.6°を挙げることができる。
本発明にかかる化合物(I)の1当量のフマル酸とのI型結晶は、上記特徴的なピークから選択される3つ以上のピークを有する結晶であり、好ましくは上記特徴的なピークから選択される4つ以上のピークを有する結晶であり、より好ましくは上記特徴的なピークから選択される5つ以上のピークを有する結晶であり、特に好ましくは上記特徴的なピークのいずれもを有する結晶である。
また、化合物(I)の1当量のフマル酸とのI型結晶の示差熱-熱重量同時測定により決定した吸熱ピーク(ピークトップ値)は148~158℃、言い換えると153℃付近を挙げることができる。
【0041】
(化合物(I)の0.5当量のフマル酸とのI型結晶)
化合物(I)の0.5当量のフマル酸とのI型結晶は、図11に示される粉末X線回折スペクトルを有し、また、図12に示される示差熱-熱重量同時測定(TG-DTA)の曲線を有する。
【0042】
ここで、化合物(I)の0.5当量のフマル酸とのI型結晶の粉末X線回折スペクトルにおける特徴的なピークは、回折角(2θ±0.2°)として、6.4°,7.5°,9.7°,11.7°,15.1°,19.6°及び23.9°を挙げることができる。
本発明にかかる化合物(I)の0.5当量のフマル酸とのI型結晶は、上記特徴的なピークから選択される4つ以上のピークを有する結晶であり、好ましくは上記特徴的なピークから選択される5つ以上のピークを有する結晶であり、より好ましくは上記特徴的なピークから選択される6つ以上のピークを有する結晶であり、特に好ましくは上記ピークのいずれもを有する結晶である。
【0043】
また、化合物(I)の0.5当量のフマル酸とのI型結晶の示差熱-熱重量同時測定により決定した吸熱ピーク(ピークトップ値)は156~166℃、言い換えると161℃付近を挙げることができる。
【0044】
(化合物(I)の0.5当量のフマル酸とのII型結晶)
化合物(I)の0.5当量のフマル酸とのII型結晶は、図13に示される粉末X線回折スペクトルを有し、また、図14に示される示差熱-熱重量同時測定(TG-DTA)の曲線を有する。
【0045】
ここで、化合物(I)の0.5当量のフマル酸とのII型結晶の粉末X線回折スペクトルにおける特徴的なピークは、回折角(2θ±0.2°)として、5.4°,6.4°,7.3°,12.8°,13.4°,14.7°及び15.4°を挙げることができる。
本発明にかかる化合物(I)の0.5当量のフマル酸とのII型結晶は、上記特徴的なピークから選択される4つ以上のピークを有する結晶であり、好ましくは上記特徴的なピークから選択される5つ以上のピークを有する結晶であり、より好ましくは上記特徴的なピークから選択される6つ以上のピークを有する結晶であり、特に好ましくは上記ピークのいずれもを有する結晶である。
【0046】
また、化合物(I)の0.5当量のフマル酸とのII型結晶の示差熱-熱重量同時測定により決定した吸熱ピーク(ピークトップ値)は157~167℃、言い換えると162℃付近を挙げることができる。
【0047】
(化合物(I)の1当量のフマル酸とのIII型結晶)
化合物(I)の1当量のフマル酸とのIII型結晶は、図15に示される粉末X線回折スペクトルを有し、また、図16に示される示差熱-熱重量同時測定(TG-DTA)の曲線を有する。
【0048】
ここで、化合物(I)の1当量のフマル酸とのIII型結晶の粉末X線回折スペクトルにおける特徴的なピークは、回折角(2θ±0.2°)として、8.1°,13.2°,20.4°,23.1°,24.7°及び26.1°を挙げることができる。
本発明にかかる化合物(I)の1当量のフマル酸とのIII型結晶は、上記特徴的なピークから選択される3つ以上のピークを有する結晶であり、好ましくは上記特徴的なピークから選択される4つ以上のピークを有する結晶であり、より好ましくは上記特徴的なピークから選択される5つ以上のピークを有する結晶であり、特に好ましくは上記特徴的なピークのいずれもを有する結晶である。
また、化合物(I)の1当量のフマル酸とのIII型結晶示差熱-熱重量同時測定により決定した発熱ピーク(ピークトップ値)は148~158℃、言い換えると153℃付近を挙げることができる。
【0049】
(化合物(I)の1当量のフマル酸とのIV型結晶)
化合物(I)の1当量のフマル酸とのIV型結晶は、図17に示される粉末X線回折スペクトルを有し、また、図18に示される示差熱-熱重量同時測定(TG-DTA)の曲線を有する。
【0050】
ここで、化合物(I)の1当量のフマル酸とのIV型結晶の粉末X線回折スペクトルにおける特徴的なピークは、回折角(2θ±0.2°)として、6.0°,15.7°及び18.8°を挙げることができる。
本発明にかかる化合物(I)の1当量のフマル酸とのIV型結晶は、上記特徴的なピークのいずれもを有する結晶である。
また、化合物(I)の1当量のフマル酸とのIV型結晶の示差熱-熱重量同時測定により決定した発熱ピーク(ピークトップ値)は125~135℃、言い換えると130℃付近を挙げることができる。
【0051】
(1当量のフマル酸とのII型結晶の製造方法)
本明細書中における一実施形態として、化合物(I)の1当量のフマル酸とのII型結晶は、例えば以下の2工程を含む方法により得られる。
工程1 化合物(I)のI型結晶にフマル酸及び下記の溶媒を添加し、任意選択で種結晶を添加する工程。
工程2 前記工程で得た懸濁液を攪拌し、化合物(I)の1当量のフマル酸との結晶を得る工程。
その後濾取し、固体を回収する。回収された固体を水で洗浄し、乾燥することが好ましい。
工程1のフマル酸は、化合物(I)のフリー体1当量に対して、フマル酸を好ましくは1.5~10当量(より好ましくは2~5当量、最も好ましくは3当量)添加する。
工程1の溶媒は好ましくは5~35倍量(v/w)(より好ましくは5~30倍量(v/w)、最も好ましくは10倍量(v/w))添加する。
工程1で使用する溶媒は、メタノール、エタノール、イソプロパノール、tert-ブタノールなどのアルコール類、1,4-ジオキサン、テトラヒドロフランなどのエーテル類、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類、アセトニトリルなどの非プロトン性極性溶媒等の単一溶媒あるいは混合溶媒が例示できる。
化合物(I)のI型結晶は、「(フリー体I型の結晶の製造方法)」の項や実施例3で後述する方法にて取得することが可能である。
工程2の反応中の温度は、上記の通り室温以上各溶媒の沸点以下が好ましいが、特に制限されず適宜設定することができ、好ましくは25~70℃(より好ましくは40~60℃、最も好ましくは50℃)である。
工程2の反応中の攪拌時間は、懸濁液を好ましくは24~124時間(より好ましくは48~72時間、最も好ましくは60~65時間)撹拌である。
【0052】
(フリー体II型結晶の製造方法)
(方法A-1)
本明細書中における一実施形態として、化合物(I)のフリー体II型結晶は、例えば以下の2工程を含む方法(方法A-1)により得られる。
工程1 化合物(I)にコハク酸、リン酸、及びアジピン酸のいずれかの酸及び富溶媒/貧溶媒の混合溶媒を添加し、任意選択で種結晶を添加する工程。
工程2 前記工程で得られた懸濁液を攪拌し、固体状の化合物(I)の結晶を得る工程。
上記懸濁攪拌中には、溶媒の蒸発量に応じて、追加の溶媒(例えば富溶媒としての1-プロパノール)を必要に応じて複数回に分割して添加してもよい。
その後、濾取し、固体を回収し、乾燥する。
工程1の酸は、化合物(I)1当量に対して好ましくは0.5~2当量(より好ましくは0.75~1.5当量、特に1当量)添加する。
工程1の富溶媒/貧溶媒の混合溶媒(例えば1-プロパノール/水)を化合物(I)のフリー体に対して好ましくは5~50倍量(v/w)(より好ましくは10~30倍量(v/w)、特に20倍量(v/w))添加する。
工程2の反応中の温度は、好ましくは25~70℃(より好ましくは40~60℃、特に好ましくは50℃)である。
工程2の反応中の攪拌時間は、好ましくは2~7日間(より好ましくは3~5日間、特に4日間)懸濁撹拌する。
【0053】
(方法A-2)
また本明細書中における別の実施形態として、化合物(I)のフリー体II型結晶は、例えば以下の2工程を含む方法(方法A-2)により得られる。
工程1 化合物(I)に富溶媒/貧溶媒の混合溶媒および種結晶を添加し、任意選択でコハク酸、リン酸、及びアジピン酸のいずれかの酸を添加する工程。
工程2 前記工程で得られた懸濁液を攪拌し、固体状の化合物(I)の結晶を得る工程。
上記懸濁攪拌中には、溶媒の蒸発量に応じて、追加の溶媒(例えば富溶媒としての1-プロパノール)を必要に応じて複数回に分割して添加してもよい。
その後、濾取し、固体を回収し、乾燥する。
工程1のコハク酸の量は、化合物(I)1当量に対して好ましくは0.5~2当量(より好ましくは0.75~1.5当量、特に1当量)添加する。
工程1の富溶媒/貧溶媒の混合溶媒(例えば1-プロパノール/水の混合溶媒)を化合物(I)のフリー体に対して好ましくは1~10倍量(v/w)(より好ましくは2~5倍量(v/w)、特に3倍量(v/w))及び種結晶(例えば(i)又は(ii)のいずれかで得られた種結晶)を添加する。
工程2の反応温度は、好ましくは25~70℃(より好ましくは40~60℃、特に好ましくは50℃)である。
工程2の反応時間は好ましくは6~48時間(より好ましくは12~24時間、特に好ましくは17.5~24時間)である。
【0054】
(方法B)
また本明細書中における別の実施形態として、化合物(I)のフリー体II型結晶は、例えば以下の2工程を含む方法(方法B)により得られる。
工程1 化合物(I)に貧溶媒を添加し、任意選択で種結晶を添加する工程。
工程2 前記工程で得られた溶液に、富溶媒を添加し、得られた懸濁液を攪拌し、固体状の化合物(I)の結晶を得る工程。
工程1の貧溶媒の量は、化合物(I)に、貧溶媒(例えばジイソプロピルエーテル)を化合物(I)のフリー体に対して好ましくは2~10倍量(v/w)(より好ましくは3~7倍量(v/w)、特に5倍量(v/w))を添加する。
工程1の反応時間は、好ましくは24~96時間(より好ましくは36~72時間、特に44.5時間)懸濁攪拌する。
工程2の反応温度は、好ましくは25~70℃(より好ましくは40~60℃、特に好ましくは50℃)である。
工程2の富溶媒の量は、富溶媒(例えばエタノール)を化合物(I)のフリー体に対して好ましくは0.5~3倍量(v/w)(より好ましくは0.8~2倍量(v/w)、特に1倍量(v/w))を添加する。
工程2の攪拌時間は好ましくは6~72時間(より好ましくは12~48時間、特に21時間)懸濁攪拌した後、濾取し、固体を回収し、乾燥する。
上記懸濁攪拌中には、溶媒の蒸発量に応じて、追加の溶媒(例えば貧溶媒としてのジイソプロピルエーテル及び/又は富溶媒としてのエタノール)を必要に応じて複数回に分割して添加してもよい。
【0055】
化合物(I)のフリー体II型結晶の製造に使用される富溶媒と貧溶媒の組み合わせとしては、メタノール(富溶媒)と水(貧溶媒)、メタノール(富溶媒)とジイソプロピルエーテル(IPE)(貧溶媒)、メタノール(富溶媒)とヘプタン(貧溶媒)、エタノール(富溶媒)とIPE(貧溶媒)、エタノール(富溶媒)とヘプタン(貧溶媒)、1-プロパノール(富溶媒)と水(貧溶媒)、1-プロパノール(富溶媒)とIPE(貧溶媒)、1-プロパノール(富溶媒)とヘプタン(貧溶媒)、2-プロパノール(富溶媒)とヘプタン(貧溶媒)、アセトン(富溶媒)とIPE(貧溶媒)、アセトン(富溶媒)とヘプタン(貧溶媒)、ジメチルスルホキシド(DMSO)(富溶媒)と水(貧溶媒)、ジメチルアセトアミド(DMA)(富溶媒)と水(貧溶媒)、テトラヒドロフラン(THF)(富溶媒)とIPE(貧溶媒)、又はTHF(富溶媒)とヘプタン(貧溶媒)等を使用することができる。
中でも、富溶媒と貧溶媒の好ましい組み合わせとしては酢酸エチル(富溶媒)とn-ヘプタン(貧溶媒)、エタノール(富溶媒)と水(貧溶媒)、1-プロパノール(富溶媒)と水(貧溶媒)、エタノール(富溶媒)とジイソプロピルエーテル(貧溶媒)との組み合わせである。貧溶媒の量は、富溶媒の1~20倍量(v/v)が好ましく、1~10倍量(v/v)がより好ましい。
【0056】
上記方法において、種結晶の添加量は、化合物(I)投入量の好ましくは0.5~30(w/w)%、より好ましくは1~5(w/w)%とすることができる。
【0057】
(フリー体I型の結晶の製造方法)
本明細書中における一実施形態として、化合物(I)のフリー体I型結晶は、例えば化合物(I)の粗体を溶媒に懸濁し、任意選択で種結晶を添加し、固体状の化合物(I)の結晶を得る工程を含む方法により得られる。
種結晶は、フリー体I型結晶の晶析を促すため、任意選択で添加され、種結晶としては、適当量の化合物(I)のI型結晶又はI型結晶を含む混合結晶を加えることができる。種結晶を添加しなくとも上記方法により化合物(I)のI型結晶を得ることができるが、種結晶を添加することにより、上記化合物を取得する時間を短縮することができる。また、晶析時間の短縮と粒子径のコントロールのために攪拌しながら晶析させてもよい。
加える種結晶は、化合物(I)の投入量の0.5~30(w/w)%であり、好ましくは1~10(w/w)%である。
温度は、適宜設定することができるが、50~65℃が好ましい。
上記の溶解温度にて化合物(I)を析出させることができるが、溶解温度で析出しない場合は、25℃まで冷却することによりフリー体I型結晶を得ることができる。
【0058】
溶媒としては、酢酸エチル、エタノール、アセトニトリル、アセトン、tert-ブチルメチルエーテル等を使用することができる。
【0059】
(1当量のフマル酸とのV型結晶の製造方法)
本明細書中における一実施形態として、化合物(I)の1当量のフマル酸とのV型結晶は、例えば、以下の2工程からなる方法により得られる。
工程1 化合物(I)に、化合物(I)のフリー体1当量に対して1~2当量のフマル酸及び溶媒としてのアセトンを化合物(I)のフリー体に対して40~60倍量(v/w)添加し、任意選択で種結晶を添加する工程。
工程2 前記工程で得られた懸濁液を攪拌し、濾取し、固体を回収する工程。
工程3 前記工程で得た固体を、好ましくは20~60℃の減圧条件下(好ましくは、2kPa以下の圧力)で乾燥し、化合物(I)の1当量のフマル酸との結晶を得る工程。
工程1のフマル酸は、化合物(I)のフリー体1当量に対して、より好ましくは2当量添加する。
工程1のアセトンは化合物(I)のフリー体に対して好ましくは40~60倍量(v/w)(より好ましくは50倍量(v/w))添加する。
工程2の反応温度は、好ましくは10~30℃(好ましくは25℃)の温度である。
工程2の反応時間は、好ましくは12~96時間(より好ましくは71時間)である。
工程3の反応温度は、得られた固体を20~60℃(例えば、室温)である。
工程3の減圧時間は、(例えば、2kPa以下の圧力で、)好ましくは6~24時間(より好ましくは7.5時間)乾燥する。
【0060】
本明細書中における別の実施形態として、化合物(I)の1当量のフマル酸とのV型結晶は、以下の工程を含む方法により得られる。
工程1 1当量のフマル酸とのI型結晶を減圧条件下(好ましくは、2kPa以下の圧力)で乾燥する。
工程1の反応温度は、20~60℃である。
【0061】
(1当量のフマル酸とのI型結晶の製造方法)
本明細書中における一実施形態として、化合物(I)の1当量のフマル酸とのI型結晶は、例えば以下の2工程からなる方法により得られる。
工程1 化合物(I)に化合物(I)のフリー体1当量に対して1~2当量のフマル酸及び溶媒としてのアセトンを40~60倍量添加し、任意選択で種結晶を添加する工程。
工程2 前記工程で得られた懸濁液を30℃以下で攪拌し、化合物(I)のフマル酸との結晶を得る工程。
その後濾取し、固体を回収する。
工程1のフマル酸の量は、化合物(I)のフリー体1当量に対して、フマル酸を好ましくは2当量添加する。
工程1のアセトンは化合物(I)のフリー体に対して好ましくは40~60倍量(より好ましくは50倍量)を添加する。
工程2の反応温度は、好ましくは10~30℃(より好ましくは25℃)である。
工程2の反応時間は、好ましくは12~24時間(より好ましくは19.5時間)である。
【0062】
(1当量のフマル酸とのIII型結晶の製造方法)
本明細書中における一実施形態として、化合物(I)の1当量のフマル酸とのIII型結晶は、例えば以下の2工程を含む方法により得られる。
工程1 化合物(I)にフマル酸及び溶媒としてアセトニトリルを添加し、任意選択で種結晶を添加する工程。
工程2 前記工程で得られた懸濁液を1.5時間以下の短時間攪拌し、化合物(I)の1当量のフマル酸との結晶を得る工程。
その後、濾取し、固体を回収する。
工程1の化合物(I)のフリー体1当量に対して、フマル酸を好ましくは1~5当量(より好ましくは3当量)加える。
工程1の溶媒(例えばアセトニトリル)を化合物(I)のフリー体に対して好ましくは25~35倍量(v/w)(より好ましくは30倍量(v/w))を添加する。
工程2の反応温度は、好ましくは45~55℃(特に好ましくは50℃)の温度である。
工程2の反応時間は、好ましくは0.5~1.5時間(より好ましくは1時間)である。
【0063】
(1当量のフマル酸とのIV型結晶の製造方法)
本明細書中における一実施形態として、化合物(I)の1当量のフマル酸とのIV型結晶は、例えば以下の2工程を含む方法により得られる。
工程1 化合物(I)にフマル酸及び溶媒として水を添加し、任意選択で種結晶を添加する工程。
工程2 前記工程で得られた懸濁液を2時間以下の短時間攪拌し、化合物(I)の1当量のフマル酸との結晶を得る工程。
その後、濾取し、固体を回収する。
工程1のフマル酸は、化合物(I)のフリー体1当量に対して、フマル酸を好ましくは1~5当量(より好ましくは3当量)添加する。
工程1の溶媒として水を化合物(I)のフリー体に対して好ましくは15~25倍量(より好ましくは20倍量)を添加する。
工程2の反応時間は、好ましくは45~55℃(特に好ましくは50℃)である。
工程2の反応温度は、好ましくは1~2時間(より好ましくは1.5時間)である。
【0064】
(0.5当量のフマル酸とのI型結晶の製造方法)
本明細書中における一実施形態として、化合物(I)の0.5当量のフマル酸とのI型結晶は、例えば以下の2工程を含む方法により得られる。
工程1 化合物(I)にフマル酸及び溶媒としての水を添加し、任意選択で種結晶を添加する工程。
工程2 前記工程で得られた懸濁液を、好ましくは室温以上溶媒の沸点以下の温度で、攪拌し、結晶を得る工程。
その後濾取し、固体を回収し、乾燥する。
工程1のフマル酸は、化合物(I)のフリー体1当量に対して、フマル酸を好ましくは0.5~1当量(より好ましくは0.5~0.75当量、最も好ましくは0.5当量)添加する。
工程1の溶媒としての水は化合物(I)のフリー体に対して好ましくは10~40倍量(v/w)(より好ましくは15~25倍量(v/w)、最も好ましくは20倍量(v/w))を添加する。
工程2の反応温度は、好ましくは40~60℃(より好ましくは45~55℃、最も好ましくは50℃)である。
工程2の反応時間は、好ましくは48~120時間(より好ましくは72~96時間、最も好ましくは93.5時間)である。
【0065】
(0.5当量のフマル酸とのII型結晶の製造方法)
本明細書中における一実施形態として、化合物(I)の0.5当量のフマル酸とのII型結晶は、例えば以下の2工程を含む方法により得られる。
工程1 化合物(I)にフマル酸及びエタノールを添加し、任意選択で種結晶を添加する工程。
工程2 前記工程で得られた懸濁液を、好ましくは室温以上溶媒の沸点以下の温度で、攪拌し、結晶を得る工程。
その後濾取し、固体を回収し、乾燥する。
工程1のフマル酸の量は、化合物(I)のフリー体1当量に対して、フマル酸を好ましくは0.5~1当量(好ましくは1当量)添加する。
工程1の溶媒としてのエタノールは、化合物(I)のフリー体に対して好ましくは10~40倍量(v/w)(より好ましくは15~25倍量(v/w)、最も好ましくは20倍量(v/w))を添加する。
工程2の反応温度は、好ましくは40~60℃(より好ましくは45~55℃、最も好ましくは50℃)である。
工程2の反応時間は、好ましくは6~48時間(より好ましくは12~24時間、最も好ましくは19.5時間)である。
【0066】
化合物(I)の1当量のフマル酸とのII型結晶、フリー体II型結晶、フリー体I型結晶、1当量のフマル酸とのV型結晶、0.5当量のフマル酸とのI型結晶、0.5当量のフマル酸とのII型結晶は、非吸湿性、取得再現性、固体安定性、経口吸収性などの医薬品製造において有利な性質の少なくとも一つを備える。
中でも、化合物(I)の1当量のフマル酸とのII型結晶、フリー体II型結晶、フリー体I型結晶、1当量のフマル酸とのV型結晶は、化合物(I)の他の結晶形態と比較して非吸湿性、取得再現性、固体安定性、経口吸収性等の医薬品製造において有利な性質を有する。
【0067】
化合物(I)の1当量のフマル酸とのII型結晶は、吸湿性が低く、取得安定性がある。医薬品の開発候補化合物において、吸湿性が低く、安定して取得できることは医薬品の工業的生産の上で重要である。また、固体安定性と溶解性や、経口吸収性に優れるなどの医薬品として取り扱いやすい性質を持つ。したがって、化合物(I)の1当量のフマル酸とのII型結晶は、医薬品又は医薬品原薬として必要とされる優れた性質を有する。
【0068】
化合物(I)のフリー体II型結晶は吸湿性が低い。これは医薬品の開発候補化合物において、安定した品質の医薬品の工業的生産の上で重要である。また、固体安定性と溶解性や、経口吸収性に優れるなどの医薬品として取り扱いやすい性質を持つ。したがって化合物(I)のフリー体II型結晶は、医薬品又は医薬品原薬として必要とされる優れた性質を有する。
【0069】
化合物(I)のフリー体I型結晶は、吸湿性が低く、取得安定性に優れる。医薬品の開発候補化合物が低い吸湿性と取得安定性を備えることは、安定した品質の医薬品の工業的生産の上でも重要である。したがって、化合物(I)のI型結晶は、医薬品又は医薬品原薬として必要とされる優れた性質を有する。
【0070】
化合物(I)の1当量のフマル酸とのV型結晶は、吸湿性が低く、取得安定性に優れる。医薬品の開発候補化合物が低い吸湿性と取得安定性を備えることは、安定した品質の医薬品の工業的生産の上でも重要である。したがって、本発明に係る化合物(I)の1当量のフマル酸とのV型結晶は、医薬品又は医薬品原薬として必要とされる優れた性質を有する。
【0071】
化合物(I)の1当量のフマル酸とのI型結晶は、取得安定性に優れる。医薬品の開発候補化合物が取得安定性を備えることは、安定した品質の医薬品の工業的生産の上でも重要である。したがって、化合物(I)の1当量のフマル酸とのI型結晶は、医薬品又は医薬品原薬として必要とされる優れた性質を有する。
化合物(I)の1当量のフマル酸とのI型結晶は固体として回収可能であるため、1当量のフマル酸とのV型結晶の製造のための中間体としても有用である。
【0072】
化合物(I)の1当量のフマル酸とのIII型結晶は、取得安定性に優れる。医薬品の開発候補化合物が取得安定性を備えることは、安定した品質の医薬品の工業的生産の上でも重要である。したがって、化合物(I)の1当量のフマル酸とのIII型結晶は、医薬品又は医薬品原薬として必要とされる優れた性質を有する。
【0073】
化合物(I)の1当量のフマル酸とのIV型結晶は、取得安定性に優れる。医薬品の開発候補化合物が取得安定性を備えることは、安定した品質の医薬品の工業的生産の上でも重要である。したがって、化合物(I)の1当量のフマル酸とのIV型結晶は、医薬品又は医薬品原薬として必要とされる優れた性質を有する。
【0074】
化合物(I)の0.5当量のフマル酸とのI型結晶は、取得安定性に優れる。医薬品の開発候補化合物が取得安定性を備えることは、安定した品質の医薬品の工業的生産の上でも重要である。したがって、化合物(I)の0.5当量のフマル酸とのI型結晶は、医薬品又は医薬品原薬として必要とされる優れた性質を有する。
【0075】
化合物(I)の0.5当量のフマル酸とのII型結晶は、取得安定性に優れる。医薬品の開発候補化合物が取得安定性を備えることは、安定した品質の医薬品の工業的生産の上でも重要である。したがって、本発明に係る化合物(I)の0.5当量のフマル酸とのII型の結晶は、医薬品又は医薬品原薬として必要とされる優れた性質を有する。
【0076】
(その他の酸との結晶)
本発明の他の形態は、化合物(I)の塩酸との結晶(I型結晶、II型結晶、III型結晶)、化合物(I)の臭化水素酸との結晶、化合物(I)の1当量のL-酒石酸との結晶、又は化合物(I)のコハク酸との結晶に関する。
これらの結晶についての粉末X線回折スペクトル及び示差熱-熱重量同時測定(TG-DTA)の曲線は、図19~30に示されている。
これらの結晶についての粉末X線回折スペクトルにおける特徴的なピークは、参考例3~7に記載されている。これらの結晶は、参考例に記載された特徴的なピークから選択される3つ以上(好ましくは4つ以上、存在する場合にはより好ましくは5つ以上)のピークを有する結晶であり、特に好ましくは特徴的なピークのいずれもを有する結晶である。
また、これらの結晶についての示差熱-熱重量同時測定により決定した吸熱ピークの温度についても参考例に記載されている。
【0077】
上述した化合物(I)のフリー体の結晶、酸との結晶(塩の結晶又は共結晶)に関して、析出した結晶は、例えば、ろ過、水による洗浄、減圧乾燥等の公知の分離精製手段によって、前記結晶の溶解溶液、混合溶液等から単離精製することができる。
【0078】
本発明の化合物(I)のフリー体の結晶、又は、酸との結晶(塩の結晶又は共結晶)は、優れたHER2阻害活性を有する。また、HER2に対する優れた選択性を有している。したがって、本発明の化合物(I)のフリー体の結晶、又は、酸との結晶(塩の結晶又は共結晶)は、HER2過剰発現、HER2遺伝子増幅、又はHER2変異等を有する疾患や悪性腫瘍に対し、抗腫瘍剤として有用であり、副作用が少ないという利点を有する。
本明細書において「HER2」とは、ヒト又は非ヒト哺乳動物のHER2を含み、好ましくはヒトHER2である。また、「HER2」の語にはアイソフォームが含まれる。
本発明の化合物(I)のフリー体の結晶、又は、酸との結晶(塩の結晶又は共結晶)は、その優れたHER2阻害活性により、HER2が関与する疾患の治療のための医薬として有用である。
「HER2が関与する疾患」とは、HER2の機能を欠失、抑制及び/又は阻害することによって、発症率の低下、症状の寛解、緩和、及び/又は完治する疾患が挙げられる。このような疾患として、例えば、悪性腫瘍等が挙げられるがこれに限定はされない。好ましくは、HER2過剰発現、HER2遺伝子増幅、又はHER2変異を有する悪性腫瘍である。
【0079】
本発明の一形態の化合物(I)のフリー体の結晶、又は、酸との結晶(塩の結晶又は共結晶)は、野生型HER2、及びエクソン20挿入変異などのHER2ドメイン内に1つ以上の挿入変異、点変異、又は欠失変異などを有する変異型HER2を選択的に阻害する。
本発明の一実施形態は、野生型HER2、及びエクソン20挿入変異の一つであるYVMA挿入変異を有するHER2などを含む変異型HER2に対する阻害活性を有する化合物(I)のフリー体の結晶、又は、酸との結晶(塩の結晶又は共結晶)又はこれを含む医薬もしくは医薬組成物を提供する。
本発明の一実施形態は、本発明の化合物(I)のフリー体の結晶、又は、酸との結晶(その塩の結晶又は共結晶)を含む、野生型HER2、及びYVMA挿入変異を有するHER2などを含む変異型HER2に対する阻害剤を提供する。
【0080】
ヒトHER2遺伝子は、例えば配列番号1、配列番号3、又は配列番号5に示されるものであり、野生型HER2タンパク質は、例えば配列番号2、配列番号4、又は配列番号6に示されるアミノ酸配列からなる。ヒトHER2遺伝子の塩基配列情報及び野生型HER2タンパク質のアミノ酸配列情報は、例えばアクセッション番号NM_004448、又はNM_001289936、又はNM_001005862などにより得ることができる。
【0081】
いくつかの実施形態において、本発明の一形態の化合物(I)のフリー体の結晶、又は、酸との結晶(塩の結晶又は共結晶)は、配列番号2に示されるアミノ酸配列を基準として、G309A、S310F、R678Q、L755S、L755_T759del、D769H、A775_G776insYVMA、V777L、V842I、R896Cのうちの1つ以上の変異を含む変異型HER2に対する阻害活性を示す。他の実施形態では、本発明の一形態の化合物(I)のフリー体の結晶、又は、酸との結晶(塩の結晶又は共結晶)は、配列番号2に示されるアミノ酸配列を基準として、A775_G776insYVMAを含む変異型HER2に対する阻害活性を示す。
いくつかの実施形態において、本発明の一形態の化合物(I)のフリー体の結晶、又は、酸との結晶(塩の結晶又は共結晶)は、配列番号4に示されるアミノ酸配列を基準として、G294A、S295F、R663Q、L740S、L740_T744del、D754H、A760_G761insYVMA、V762L、V827I、R881Cのうちの1つ以上の変異を含む変異型HER2に対する阻害活性を示す。他の実施形態では、本発明の一形態の化合物(I)のフリー体の結晶、又は、酸との結晶(塩の結晶又は共結晶)は、配列番号4に示されるアミノ酸配列を基準として、A760_G761insYVMAを含む変異型HER2に対する阻害活性を示す。
いくつかの実施形態において、本発明の一形態の化合物(I)、又は、酸との結晶(塩の結晶又は共結晶)は、配列番号6に示されるアミノ酸配列を基準として、G279A、S280F、R648Q、L725S、L725_T729del、D739H、A745_G746insYVMA、V747L、V812I、R866Cのうちの1つ以上の変異を含む変異型HER2に対する阻害活性を示す。他の実施形態では、本発明の一形態の化合物(I)のフリー体の結晶、又は、酸との結晶(塩の結晶又は共結晶)は、配列番号6に示されるアミノ酸配列を基準として、A745_G746insYVMAを含む変異型HER2に対する阻害活性を示す。
【0082】
また、いくつかの実施形態において、あるHER2アイソフォームにおける変異において、アミノ酸の欠失や挿入によって、配列番号2で示されるアミノ酸の位置とは異なる場合であっても配列番号2で示されるアミノ酸の位置に相当する位置の変異と同様であると解される。そのため、例えば、配列番号2で表されるHER2における309番目のグリシンは、配列番号4で示されるアミノ酸配列からなるHER2においては、294番目のグリシンに相当する。そのため、例えば、「G309A」は、配列番号2で表されるHER2の309番目のグリシンがアラニンに変異していることを意味するが、配列番号4で示されるアミノ酸配列からなるHER2においては、294番目のアミノ酸に相当する位置であるため、配列番号4で示されるアミノ酸配列からなるHER2における「G294A」は配列番号2で表されるHER2における「G309A」に相当する。なお、あるHER2アイソフォームのあるアミノ酸が、配列番号2で示されるアミノ酸のどの位置に相当するアミノ酸であるかどうかは、例えば、BLASTのMultiple Alignmentにより確認することができる。
【0083】
配列リスト
[表A]
【0084】
本発明の一実施形態は、上述した化合物(I)の結晶(すなわち、化合物(I)のフリー体の結晶又は化合物(I)の酸との結晶(塩の結晶若しくは共結晶))を含む抗腫瘍剤を提供する。また、本発明の一実施形態は、腫瘍の治療方法であって、それを必要とする対象に、上述した化合物(I)の結晶(すなわち、化合物(I)のフリー体の結晶又は化合物(I)の酸との結晶(塩の結晶若しくは共結晶))の有効量を投与することを含む方法を提供する。本発明の一実施形態は、抗腫瘍剤を製造するための化合物(I)の結晶(すなわち、化合物(I)のフリー体の結晶又は化合物(I)の酸との結晶(塩の結晶若しくは共結晶))の使用が提供される。また、本発明の一実施形態は、腫瘍の治療に使用するための化合物(I)の結晶(すなわち、化合物(I)のフリー体の結晶又は化合物(I)の酸との結晶(塩の結晶若しくは共結晶))が提供される。
【0085】
本発明の結晶は、腫瘍を外科的に摘出した後に再発防止のために行われる術後補助化学療法に用いるものであっても、腫瘍を外科的に摘出するために事前行われる術前補助化学療法に用いるものであってもよい。
【0086】
本発明の対象となる腫瘍は特に制限はされないが、例えば、脳腫瘍、頭頚部癌、消化器癌(食道癌、胃癌、十二指腸癌、肝臓癌、胆道癌(胆嚢・胆管癌等)、膵臓癌、結腸直腸癌(結腸癌、直腸癌等)等)、肺癌(非小細胞肺癌、小細胞肺癌、中皮腫等)、乳癌、生殖器癌(卵巣癌、子宮癌(子宮頚癌、子宮体癌等)等)、泌尿器癌(腎癌、膀胱癌、前立腺癌、精巣腫瘍等)、造血器腫瘍(白血病、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫等)、骨・軟部腫瘍、皮膚癌等が挙げられ、好ましくは肺癌、乳癌、胃癌、結腸直腸癌、膀胱癌、胆道癌、又は子宮癌であり、より好ましくは肺癌、乳癌、胃癌、膀胱癌、又は胆道癌である。
【0087】
一実施態様において、腫瘍は脳腫瘍である。本発明の化合物は、血液脳関門の通過を必要とする脳の症状の治療に有用であり得る。一実施態様の化合物は、脳への送達のための血液脳関門の好ましい通過性、すなわち優れた脳移行性を有する。化合物の脳への移行性の指標としては、脳内の化合物濃度、Kp値(脳対血漿中薬物濃度比)がある。
本発明の化合物で治療される脳腫瘍は、転移性脳腫瘍及び原発性脳腫瘍を含む。
脳腫瘍は特に制限はないが、例えば、転移性脳腫瘍(例えば、肺癌、乳癌、胃癌、結腸直腸癌、膀胱癌、胆道癌、子宮癌等(好ましくは肺癌、乳癌又は胃癌)の脳転移)、毛様細胞性星状細胞腫、びまん性星細胞腫、乏突起膠腫・乏突起星細胞腫、退形成性星細胞腫・退形成性乏突起膠腫、退形成性乏突起星細胞腫、膠芽腫、上衣腫、退形成性上衣腫、神経節膠腫、中枢性神経細胞腫、髄芽腫、胚腫(germinoma)、中枢神経系悪性リンパ腫、髄膜腫、神経鞘腫、GH産生下垂体腺腫、PRL産生下垂体腺腫、ACTH産生下垂体腺腫、非機能性下垂体腺腫、頭蓋咽頭腫、脊索腫、血管芽腫、類上皮腫等が挙げられる。
【0088】
本明細書において、化合物の「有効量」という用語は、対象の生物学的又は医学的応答、例えば、酵素やタンパク質活性の減少もしくは阻害を引き起こし、又は症状を改善し、状態を緩和し、疾患の進行を遅くもしくは遅延させる、などの、本発明の化合物の量(治療有効量)を指す。
本明細書において、「対象」という用語は、哺乳動物及び非哺乳動物を包含する。哺乳動物の例としては、限定されないが、ヒト、チンパンジー、類人猿、サル、ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、ウサギ、イヌ、ネコ、ラット、マウス、モルモット、ハリネズミ、カンガルー、モグラ、イノシシ、クマ、トラ、ライオンなどが挙げられる。非哺乳動物の例としては、限定されないが、鳥類、魚類、は虫類などが挙げられる。一実施形態において、対象はヒトであり、本明細書で開示される症状、状態、又は疾患のための処置を必要とすると診断されたヒトであってもよい。
【0089】
化合物(I)、その塩の結晶又は共結晶を医薬として用いるにあたっては、当該結晶を粉砕するか又は粉砕することなく、治療目的に応じて各種の投与形態を採用可能であり、該形態としては、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、細粒剤、散剤、ドライシロップ剤等の経口剤;坐剤、吸入剤、点鼻剤、軟膏剤、貼付剤、注射剤等の非経口剤のいずれでもよい。これらの投与形態に適した医薬組成物は、薬学的に許容される担体を用いて、当業者に公知慣用の製剤方法により製造できる。
【0090】
本発明の一実施形態は、上述した化合物(I)の結晶(すなわち、化合物(I)のフリー体の結晶又は化合物(I)の酸との結晶(塩の結晶若しくは共結晶))を含む抗腫瘍剤を提供する。また、本発明の一実施形態は、腫瘍の治療方法であって、それを必要とする対象に、上述した化合物(I)の結晶(すなわち、化合物(I)のフリー体の結晶又は化合物(I)の酸との結晶(塩の結晶若しくは共結晶))の有効量を投与することを含む方法を提供する。また、本発明の一実施形態は、抗腫瘍剤を製造するための、上述した化合物(I)の結晶(すなわち、化合物(I)のフリー体の結晶又は化合物(I)の酸との結晶(塩の結晶若しくは共結晶))の使用が提供される。また、本発明の一実施形態は、腫瘍の治療に使用するための、上述した化合物(I)の結晶(すなわち、化合物(I)のフリー体の結晶又は化合物(I)の酸との結晶(塩の結晶若しくは共結晶))が提供される。
本発明の一実施形態は、上述した化合物(I)の結晶(すなわち、化合物(I)のフリー体の結晶又は化合物(I)の酸との結晶(塩の結晶若しくは共結晶))を含む経口投与用の抗腫瘍剤を提供する。また、本発明の一実施形態は、腫瘍の治療方法であって、それを必要とする対象に、上述した化合物(I)の結晶(すなわち、化合物(I)のフリー体の結晶又は化合物(I)の酸との結晶(塩の結晶若しくは共結晶))の有効量を経口投与することを含む方法を提供する。また、本発明の一実施形態は、経口投与用の抗腫瘍剤を製造するための、上述した化合物(I)の結晶(すなわち、化合物(I)のフリー体の結晶又は化合物(I)の酸との結晶(塩の結晶若しくは共結晶))の使用が提供される。また、本発明の一実施形態は、経口投与して腫瘍の治療に使用するための、上述した化合物(I)の結晶(すなわち、化合物(I)のフリー体の結晶又は化合物(I)の酸との結晶(塩の結晶若しくは共結晶))が提供される。
【0091】
本発明の一形態は、上述した化合物(I)の結晶(すなわち、化合物(I)のフリー体の結晶又は化合物(I)の酸との結晶(塩の結晶若しくは共結晶))を含む医薬組成物が提供される。本発明の一実施形態の医薬組成物は、上述した化合物(I)の結晶(すなわち、化合物(I)のフリー体の結晶又は化合物(I)の酸との結晶(塩の結晶若しくは共結晶))、及び薬学的に許容される担体を含む。また、本発明の一実施形態は、医薬組成物を製造するための、上述した化合物(I)の結晶(すなわち、化合物(I)のフリー体の結晶又は化合物(I)の酸との結晶(塩の結晶若しくは共結晶))の使用が提供される。本発明の別の一実施形態は、医薬として使用するための、上述した化合物(I)の結晶(すなわち、化合物(I)のフリー体の結晶又は化合物(I)の酸との結晶(塩の結晶若しくは共結晶))が提供される。本発明の一実施形態では、(i)上述した化合物(I)の結晶(すなわち、化合物(I)のフリー体の結晶又は化合物(I)の酸との結晶(塩の結晶若しくは共結晶))を含む医薬組成物と(ii)該組成物の使用説明書とを含むキットが提供される。
【0092】
薬学的に許容される担体としては、製剤素材として慣用の各種有機或いは無機担体物質が用いられ、固形製剤における賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、コーティング剤、液状製剤における溶剤、溶解補助剤、懸濁化剤、等張化剤、緩衝剤、無痛化剤等として配合される。また、必要に応じて防腐剤、抗酸化剤、着色剤、甘味剤、安定化剤等の製剤添加物を用いることもできる。
【0093】
賦形剤としては、乳糖、白糖、D-マンニトール、デンプン、結晶セルロース、ケイ酸カルシウム等が挙げられる。
結合剤としては、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、ポリビニルピロリドン、アメ粉、ヒプロメロース等が挙げられる。
崩壊剤としては、デンプングリコール酸ナトリウム、カルメロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、クロスポビドン、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、部分アルファー化デンプン等が挙げられる。
滑沢剤としては、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ショ糖脂肪酸エステル、ステアリン酸、フマル酸ステアリルナトリウム等が挙げられる。
コーティング剤としては、エチルセルロース、アミノアルキルメタクリレートコポリマーRS、ヒプロメロース、白糖等が挙げられる。
溶剤としては、水、プロピレングリコール、生理食塩液が挙げられる。
溶解補助剤としては、ポリエチレングリコール、エタノール、α-シクロデキストリン、マクロゴール400、ポリソルベート80等が挙げられる。
懸濁化剤としては、カラギーナン、結晶セルロース・カルメロースナトリウム、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油が挙げられる。
等張化剤としては、塩化ナトリウム、グリセリン、塩化カリウム等が挙げられる。
pH調節剤・緩衝剤としては、クエン酸ナトリウム、塩酸、乳酸、リン酸、リン酸二水素ナトリウム等が挙げられる。
無痛化剤としては、プロカイン塩酸塩、リドカイン等が挙げられる。
防腐剤としては、パラオキシ安息香酸エチル、クレゾール、ベンザルコニウム塩化物等が挙げられる。
抗酸化剤としては、亜硫酸ナトリウム、アスコルビン酸、天然ビタミンE等が挙げられる。
着色剤としては、酸化チタン、三二酸化鉄、食用青色1号、銅クロロフィル等が挙げられる。
矯味・矯臭剤としてはアスパルテーム、サッカリン、スクラロース、l-メントール、ミントフレーバー等が挙げられる。
安定化剤としては、ピロ亜硫酸ナトリウム、エデト酸ナトリウム、エリソルビン酸、酸化マグネシウム、ジブチルヒドロキシトルエン等が挙げられる。
【0094】
経口用固形製剤を調製する場合は、化合物(I)の結晶(すなわち、化合物(I)のフリー体の結晶又は化合物(I)の酸との結晶(塩の結晶若しくは共結晶))に賦形剤、必要に応じて結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、矯味・矯臭剤等を加えた後、常法により錠剤、被覆錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤等を製造することができる。
注射剤を調製する場合は、化合物(I)の結晶(すなわち、化合物(I)のフリー体の結晶又は化合物(I)の酸との結晶(塩の結晶若しくは共結晶))にpH調整剤・緩衝剤、安定化剤、等張化剤、局所麻酔剤等を添加し、常法により皮下、筋肉内及び静脈内用注射剤を製造することができる。
【0095】
各投与単位形態中に配合されるべき化合物(I)の結晶(すなわち、化合物(I)のフリー体の結晶又は化合物(I)の酸との結晶(塩の結晶若しくは共結晶))の量は、これを適用すべき患者の症状により、或いはその剤形等により一定ではないが、一般に投与単位形態あたり、化合物(I)のフリー体換算で、経口剤では約0.05~1000mg、注射剤では約0.1~500mg、坐剤又は外用剤では約1~1000mgとするのが望ましい。
【0096】
また、各投与形態を有する薬剤の化合物(I)の結晶(すなわち、化合物(I)のフリー体の結晶又は化合物(I)の酸との結晶(塩の結晶若しくは共結晶))の1日あたりの投与量は、患者の症状、体重、年齢、性別等によって異なり一概には決定できないが、通常成人(体重50kg)1日あたり化合物(I)のフリー体換算で、約0.05~5000mg、好ましくは0.1~1000mgとすればよく、これを1日1回又は2~3回程度に分けて投与するのが好ましい。
【実施例
【0097】
以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。本発明は実施例により十分に説明されているが、当業者により種々の変更及び/又は修飾が可能であろうことは理解される。したがって、そのような変更及び/又は修飾が本発明の範囲を逸脱するものでない限り、それらは本発明に包含される。
【0098】
以下の化合物の実施例において、%は特記しない限り重量パーセントを示す。
【0099】
実施例で用いた各種試薬は、特に記載の無い限り市販品を使用した。シリカゲルカラムクロマトグラフィーには、モリテックス社製プリフパック(登録商標)SI、バイオタージ社製KP-Sil(登録商標)Silicaプレパックドカラム、又はバイオタージ社製HP-Sil(登録商標)Silicaプレパックドカラムを用いた。塩基性シリカゲルカラムクロマトグラフィーにはモリテックス社製プリフパック(登録商標)NH又はバイオタージ社製KP-NH(登録商標)プレパックドカラムを用いた。分取用薄層クロマトグラフィーにはメルク社製KieselgelTM60F254,Art.5744又は和光社NH2シリカゲル60F254プレートを用いた。NMRスペクトルは、AL400(400MHz;日本電子(JEOL))、Mercury400(400MHz;アジレント・テクノロジー)型スペクトロメータ、又は400MNMRプローブ(Protasis)を装備したInova400(400MHz;アジレント・テクノロジー)型スペクトロメータを使用し、重溶媒中にテトラメチルシランを含む場合は内部基準としてテトラメチルシランを用い、それ以外の場合には内部基準としてNMR溶媒を用いて測定し、全δ値をppmで示した。
【0100】
LCMSスペクトルはWaters社製ACQUITY SQD(四重極型)を用いて下記条件にて測定した。
カラム:Waters製 ACQUITY UPLC(登録商標)BEH C18,2.1X50mm,1.7μm
MS検出:ESI positive
UV検出:254及び210nm
カラム流速:0.5mL/min
移動相A:0.1%ギ酸水溶液
移動相B:0.1%ギ酸アセトニトリル溶液
インジェクション量:1μL
グラディエント(表1)
【0101】
【表1】
【0102】
逆相分取HPLC精製はWATERS社製分取システムを用いて下記条件にて実施した。
カラム:YMC社製YMC-Actus Triart C18,20×50mm,5μmとYMC社製YMC-Actus Triart C18,20×10mm,5μmを連結したものを使用した。
UV検出:254nm
MS検出:ESI positive
カラム流速:25mL/min
移動相:水/アセトニトリル(0.1%ギ酸)
インジェクション量:0.1-0.5mL
【0103】
略号の意味を以下に示す。
s:シングレット
d:ダブレット
t:トリプレット
dt:ダブル トリプレット
m:マルチプレット
DMSO-d6:重ジメチルスルホキシド
CDCl:重クロロホルム
THF:テトラヒドロフラン
DMA:N,N-ジメチルアセトアミド
NMP:1-メチル-2-ピロリジノン
DMSO:ジメチルスルホキシド
【0104】
粉末X線回折測定
粉末X線回折は、試験物質適量を必要に応じてメノウ製乳鉢で軽く粉砕した後、次のいずれかの試験条件に従って測定した。
【0105】
装置:PANalytical製EMPYREAN(A法)
反射法(集中法)
ターゲット:Cu
X線菅電流:40mA
X線菅電圧:45kV
走査範囲 :2θ=5.0~40.0°
ステップ :2θ=0.0131°
平均時間/ステップ:8.670s
スキャンスピード:0.0015°/s
発散スリット:1°
散乱スリット:2.0 mm
受光スリット:8.0 mm

装置:PANalytical製EMPYREAN(B法)
透過法
ターゲット:Cu
X線菅電流:40mA
X線菅電圧:45kV
走査範囲 :2θ=2.0~40.0°
ステップ :2θ=0.0066°
平均時間/ステップ:8.670s
スキャンスピード:0.0008°/s
発散スリット:1/2°
散乱スリット:2.0 mm
受光スリット:無し
【0106】
データ処理を含む装置の取り扱いは、各装置で指示された方法及び手順にしたがった。なお、各種スペクトルから得られる数値は、その結晶成長の方向、粒子の大きさ、測定条件等によって多少変動する場合がある。したがって、それらの数値は厳密に解されるべきではない。
【0107】
示差熱-熱重量同時測定(TG-DTA測定)は、試験物質2~3mgにつき、次の試験条件に従い試験を行った。
装置:TG/DTA7200
日立ハイテクサイエンス株式会社製
試料容器: アルミニウム製
昇温速度:25~290℃まで10℃/分で昇温
雰囲気ガス:空気(200mL/分)
対照物質:空パン
データ処理を含む装置の取り扱いは、各装置で指示された方法及び手順にしたがった。
【0108】
合成例1 7-((3R,5S)-1-アクリロイル-5-メチルピロリジン-3-イル)-4-アミノ-6-(シクロプロピルエチニル)-N-((R)-1-フェニルエチル)-7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-5-カルボキサミド(化合物(I))の合成
合成例1(1) tert-ブチル(2S,4R)-4-(4-アミノ-5-ヨード-7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-7-イル)-2-メチルピロリジン-1-カルボキシラートの合成
tert-ブチル(2S,4S)-4-ヒドロキシ-2-メチルピロリジン-1-カルボキシラート(19.0g)と4-クロロ-5-ヨード-7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン(13.1g)をTHF(190mL)に溶解して、0℃に冷却後、トリフェニルホスフィン(37.2g)とジイソプロピルアゾジカルボキシラート(28.1mL)を加え、室温に昇温して1時間攪拌した。反応混合物を減圧濃縮した後、得られた残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル)にて精製し、対応するカップリング体を得た。得られた化合物はさらに精製することなく次の反応に用いた。
耐圧管中に、得られたカップリング体とTHF(114mL)とアンモニア水(114mL)を加え、100℃にて14時間攪拌した。反応混合物を室温に冷却した後、水(285mL)に注ぎ込み、室温にて5時間撹拌した。析出した固体をろ取し、水で洗浄し、乾燥することで目的物(34.5g)を得た。
HNMR(CDCl)δ: 8.27(s,1H) 7.15(s,1H) 5.55-5.73(m,2H) 5.12-5.25(m,1H) 3.86-4.18(m,2H) 3.43-3.57(m,1H) 2.59-2.69(m,1H) 1.92-2.03(m,1H) 1.48(s,9H) 1.30-1.40(m,3H)
ESI-MS m/z 444(MH
【0109】
合成例1(2) 4-アミノ-7-((3R,5S)-1-(tert-ブトキシカルボニル)-5-メチルピロリジン-3-イル)-7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-5-カルボン酸の合成
耐圧管に、合成例1(1)の化合物(28.0g)、10%パラジウム炭素触媒(720mg)、NMP(84mL)、メタノール(26mL)、トリエチルアミン(17.6mL)を加えた後、一酸化炭素置換して、100℃にて2時間攪拌した。反応混合物を室温に冷却し、2M水酸化ナトリウム水溶液(79mL)を加え、80℃にて2時間攪拌した。反応混合物を室温に冷却し、セライトろ過し、メタノールで洗浄し、ろ液のメタノールを減圧濃縮した。さらに水を加えた後、水層をtert-ブチルメチルエーテルで洗浄した。水層に1M硫酸水素カリウム水溶液を加えpHを約3に調整し、析出した固体をろ取し、水で洗浄し、乾燥することで目的物(23.4g)を得た。
HNMR(400MHz, DMSO-d6)δ: 8.14(s,1H) 8.08
(s,1H) 5.16-4.93(m,1H) 4.07-3.79(m,2H) 3.61-3.45(m,1H) 2.53(m,1H) 2.33-2.02(m,1H) 1.42(s,9H) 1.29(d,J=6.1Hz,3H)
ESI-MS m/z 362(MH
【0110】
合成例1(3) tert-ブチル (2S,4R)-4-(4-アミノ-6-ブロモ-5-(((R)-1-フェニルエチル)カルバモイル)-7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-7-イル)-2-メチルピロリジン-1-カルボキシラートの合成
合成例1(2)の化合物(1.00g)、(R)-(+)-1-フェニルエチルアミン(0.503g)、ジイソプロピルエチルアミン(1.79g)、N,N-ジメチルホルムアミド(10mL)を加え、続いてHATU(1.58g)を加えて室温にて終夜攪拌した。反応混合物に酢酸エチル、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加え、酢酸エチルで抽出し、合わせた有機層を水、次いで飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧濃縮した。得られた残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン:アセトン)にて精製し、アミド体(1.53g)を得た。得られた化合物はさらに精製することなく次の反応に用いた。
アミド体(1.53g)にクロロホルム(15mL)を加え、0℃に冷却した後、N-ブロモスクシンイミド(0.88g)を加え、0℃にて1時間攪拌した。反応混合物を減圧濃縮し、得られた残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル)にて精製し、目的物(1.39g)を得た。
HNMR(CDCl)δ: 8.21(s,1H) 7.42-7.28(m,5H) 6.97(d,J=7.3Hz,1H) 5.36-5.29(m,1H) 5.20-5.07(m,1H) 4.30(t,J=10.3Hz,1H) 4.04-3.72(m,2H) 3.00-2.86(m,1H) 2.38(dt,J=14.3,6.0Hz,1H) 1.63(d,J=7.0Hz,3H) 1.53-1.43(m,12H)
ESI-MS m/z 543,545(MH
【0111】
合成例1(4)7-((3R,5S)-1-アクリロイル-5-メチルピロリジン-3-イル)-4-アミノ-6-ブロモ-N-((R)-1-フェニルエチル)-7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-5-カルボキサミド
合成例1(3)の化合物(600mg)にクロロホルム(3mL)を加え、0℃に冷却した後、トリフルオロ酢酸(4.44g)を加え、室温にて1時間攪拌した。反応混合物を減圧濃縮し、残渣にアセトニトリル(5mL)を加えて再度減圧濃縮し、アミン体を得た。得られた化合物はさらに精製することなく次の反応に用いた。
得られたアミン体にアセトニトリル(3mL)を加え、0℃に冷却した後、塩化アクリル(99.9mg)、ジイソプロピルエチルアミン(713mg)を加え、0℃にて1時間攪拌した。反応混合物を減圧濃縮し、得られた残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(酢酸エチル:メタノール)にて精製し、目的物(281mg)を得た。
HNMR(CDCl)δ: 8.20(d,J=7.3Hz,1H) 7.42-7.36(m,4H) 7.32-7.28(m,1H) 7.00-6.94(m,1H) 6.57-6.33(m,2H) 5.76-5.66(m,1H) 5.36-5.29(m,1H) 5.14-5.08(m,1H) 4,71(t,J=9.9Hz,0.7H) 4.42-4.23(m,1.6H) 3.83(t,J=8.6Hz,0.7H) 3.03-2.92(m,1H) 2.60-2.57(m,0.3H) 2.44-2.40(m,0.7H) 1.64(d,J=6.6Hz,3H) 1.56(dd,J=11.7,6.2Hz,3H)
ESI-MS m/z 497,499(MH+)
【0112】
合成例1(5) 7-((3R,5S)-1-アクリロイル-5-メチルピロリジン-3-イル)-4-アミノ-6-(シクロプロピルエチニル)-N-((R)-1-フェニルエチル)-7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-5-カルボキサミド(化合物(I))の合成
合成例1(4)の化合物(65mg)、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)ジパラジウム(9.2mg)、ヨウ化銅(I)(5.0mg)、シクロプロピルアセチレン(13.0mg)、トリエチルアミン(39.7mg)、N,N-ジメチルホルムアミド(1.3mL)を加え、系内を窒素置換した後、70℃にて2.5時間攪拌した。反応混合物に酢酸エチル、飽和塩化アンモニウム水溶液を加え、酢酸エチルで抽出し、合わせた有機層を水、次いで飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧濃縮した。得られた残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(クロロホルム:メタノール)にて精製し、目的物(50mg)を得た。
HNMR(CDCl)δ: 8.22(d,J=5.1Hz,1H) 7.82(d,J=7.3Hz,1H) 7.43-7.35(m,4H) 7.30(t,J=6.8Hz,1H) 6.58-6.34(m,2H) 5.77-5.66(m,1H) 5.35-5.20(m,2H) 4.54(t,J=10.1Hz,0.7H) 4.35-4.25(m,1.6H) 3.88(t,J=8.8Hz,0.7H) 2.90-2.78(m,1H) 2.65-2.56(m,0.3H) 2.49-2.40(m,0.7H) 1.63(d,J=7.0Hz,3H) 1.56-1.45(m,4H) 1.03-0.91(m,2H) 0.84-0.69(m,2H)
ESI-MS m/z 483(MH
【0113】
実施例1 7-((3R,5S)-1-アクリロイル-5-メチルピロリジン-3-イル)-4-アミノ-6-(シクロプロピルエチニル)-N-((R)-1-フェニルエチル)-7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-5-カルボキサミド(化合物(I))の1当量のフマル酸とのII型結晶の製造
以下製造方法1、製造方法2に記載の2つの方法でフマル酸とのII型結晶を製造した。なお、化合物(I)のフリー体のI型結晶は後述する実施例3と同様の方法にて合成した。
(i)製造方法1
化合物(I)のフリー体のI型結晶30mgにフマル酸3当量添加し,tert-ブタノール0.3mLを添加し、25℃で懸濁液を約124時間撹拌した後、濾取し、固体を回収し、乾燥することで標記結晶を得た。
(ii)製造方法2
化合物(I)のフリー体のI型結晶 2.20gにフマル酸1.06g及びアセトン22mLを添加し、50℃で懸濁液を約62時間撹拌した後、30分自然冷却し、濾取し、固体を回収した。これを2-プロパノールで洗浄し、濾取し、固体を回収し、乾燥することで標記結晶を2.27g得た。
【0114】
粉末X線回折スペクトル(A法):図1に示した。粉末X線回折スペクトルデータを表2に示す。
【表2】

また、特徴的な回折角は以下のとおりである。
特徴的な回折角(2θ±0.2°):
5.5°,6.8°,9.3°,13.4°,15.3°,16.3°,18.5°,19.8°,22.0°及び24.5°
示差熱-熱重量同時測定曲線:図2に示した。
示差熱-熱重量同時測定曲線における吸熱ピーク(ピークトップ値):178℃付近
【0115】
実施例2 7-((3R,5S)-1-アクリロイル-5-メチルピロリジン-3-イル)-4-アミノ-6-(シクロプロピルエチニル)-N-((R)-1-フェニルエチル)-7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-5-カルボキサミド(化合物(I))のフリー体II型結晶の製造
以下製造方法1~製造方法4に記載の4つの方法のいずれかでフリー体II型結晶を製造した。
(i)製造方法1
合成例1の方法に従って得られた化合物(I) 15mgにコハク酸1当量及び1-プロパノール/水(1:3 v/v)0.3mLを添加し、50℃で4日間懸濁撹拌した後、濾取し、固体を回収し、乾燥することで標記結晶を得た。
(ii)製造方法2
合成例1の方法に従って得られた化合物(I) 300mgにコハク酸1当量及び1-プロパノール/水(1:3 v/v)1.5mLを添加し、(i)で得られた結晶のうち少量を種結晶として添加し、50℃で5時間懸濁攪拌した後、1-プロパノール0.3mLを添加し、さらに50℃で2時間懸濁攪拌した後、1-プロパノール0.3mLを添加し、50℃で17時間懸濁撹拌した後、濾取し、固体を回収し、乾燥することで標記結晶を84.5mg得た。
(iii)製造方法3
合成例1の方法に従って得られた化合物(I) 1000mgにコハク酸1当量及び1-プロパノール/水(1:1 v/v)3mLを添加し、(ii)で得られた結晶のうち少量を種結晶として添加し、50℃で17.5時間懸濁攪拌した後、濾取(ろ過時に水で洗浄)し、固体を回収し、乾燥することで標記結晶を487.6mg得た。
(iv) 製造方法4
合成例1の方法に従って得られた化合物(I) 1000mgにジイソプロピルエーテル5mLを添加し、(iii)で得られた結晶のうち少量を種結晶として添加し、50℃で懸濁攪拌した。42.5時間後、溶媒が蒸発していたため、ジイソプロピルエーテル5mLを添加した。50℃で2時間懸濁攪拌した後、エタノール0.5mLを添加した。さらに50℃で2時間懸濁攪拌した後、エタノール0.5mLを添加した。さらに、50℃で19時間懸濁攪拌した後、30分かけて自然冷却し、濾取し、固体を回収し、乾燥することで標記結晶を798.8mg得た。
【0116】
粉末X線回折スペクトル(A法):図3に示した。粉末X線回折スペクトルデータを表3に示す。
【表3】
また、特徴的な回折角は以下のとおりである。
【0117】
特徴的な回折角(2θ±0.2°):
8.3°,14.8°,17.3°,18.0°,19.1°,20.3°,21.0°,22.5°,23.0°及び26.2°
示差熱-熱重量同時測定曲線:図4に示した。
示差熱-熱重量同時測定曲線における吸熱ピーク(ピークトップ値):182℃付近
【0118】
実施例3 7-((3R,5S)-1-アクリロイル-5-メチルピロリジン-3-イル)-4-アミノ-6-(シクロプロピルエチニル)-N-((R)-1-フェニルエチル)-7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-5-カルボキサミド(化合物(I))のフリー体I型結晶の製造
化合物(I)の粗体(100mg)をエタノール(500μL)に懸濁し、50℃にて終夜攪拌した。溶液を25℃まで冷却し、得られた懸濁液をろ取することで、化合物(I)のフリー体I型結晶(31mg)を得た。
【0119】
粉末X線回折スペクトル(A法):図5に示した。粉末X線回折スペクトルデータを表4に示す。
【表4】
また、特徴的な回折角は以下のとおりである。
特徴的な回折角(2θ±0.2°):
9.9°,11.7°,13.2°,17.7°,18.1°,18.8°及び20.8°
示差熱-熱重量同時測定曲線:図6に示した。
示差熱-熱重量同時測定曲線における吸熱ピーク(ピークトップ値):183℃付近
【0120】
実施例4 7-((3R,5S)-1-アクリロイル-5-メチルピロリジン-3-イル)-4-アミノ-6-(シクロプロピルエチニル)-N-((R)-1-フェニルエチル)-7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-5-カルボキサミド(化合物(I))の1当量のフマル酸とのV型結晶の製造
合成例1の方法に従って得られた化合物(I) 1000mgにフマル酸481mg及びアセトン50mLを添加し、25℃で71時間懸濁撹拌した後、濾取し、固体を回収した。これを室温減圧条件で、7.5時間乾燥することで標記結晶を695.0mg得た。
【0121】
粉末X線回折スペクトル(A法):図7に示した。粉末X線回折スペクトルデータを表5に示す。
【表5】
また、特徴的な回折角は以下のとおりである。
特徴的な回折角(2θ±0.2°):
6.9°,9.4°,10.2°,13.7°,21.1°,23.6°及び26.5°
示差熱-熱重量同時測定曲線:図8に示した。
示差熱-熱重量同時測定曲線における吸熱ピーク(ピークトップ値):151℃付近
【0122】
実施例5 7-((3R,5S)-1-アクリロイル-5-メチルピロリジン-3-イル)-4-アミノ-6-(シクロプロピルエチニル)-N-((R)-1-フェニルエチル)-7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-5-カルボキサミド(化合物(I))の1当量のフマル酸とのI型結晶の製造
合成例1の方法に従って得られた化合物(I) 1000mgにフマル酸481mg及びアセトン50mLを添加し、25℃で19.5時間懸濁撹拌した後、濾取し、固体を回収することで標記結晶を868.8mg得た。
【0123】
粉末X線回折スペクトル(A法):図9に示した。粉末X線回折スペクトルデータを表6に示す。
【表6】
また、特徴的な回折角は以下のとおりである。
特徴的な回折角(2θ±0.2°):
6.4°,10.3°,12.8°,15.0°,20.7°,23.4°及び26.6°
示差熱-熱重量同時測定曲線:図10に示した。
示差熱-熱重量同時測定曲線における吸熱ピーク(ピークトップ値):153℃付近
【0124】
実施例6 7-((3R,5S)-1-アクリロイル-5-メチルピロリジン-3-イル)-4-アミノ-6-(シクロプロピルエチニル)-N-((R)-1-フェニルエチル)-7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-5-カルボキサミド(化合物(I))の0.5当量のフマル酸とのI型結晶の製造
合成例1の方法に従って得られた化合物(I) 15mgにフマル酸0.5当量及び水0.3mLを添加し、50℃で93.5時間懸濁撹拌した後、濾取し、固体を回収し、乾燥することで標記結晶を得た。
【0125】
粉末X線回折スペクトル(B法):図11に示した。
特徴的な回折角(2θ±0.2°):6.4°,7.5°,9.7°,11.7°,15.1°,19.6°及び23.9°
示差熱-熱重量同時測定曲線:図12に示した。
示差熱-熱重量同時測定曲線における吸熱ピーク(ピークトップ値):161℃付近
【0126】
実施例7 7-((3R,5S)-1-アクリロイル-5-メチルピロリジン-3-イル)-4-アミノ-6-(シクロプロピルエチニル)-N-((R)-1-フェニルエチル)-7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-5-カルボキサミド(化合物(I))の0.5当量のフマル酸とのII型結晶の製造
合成例1の方法に従って得られた化合物(I) 300mgにフマル酸1当量及びエタノール6mLを添加し、50℃で19.5時間懸濁撹拌した後、3時間自然冷却し、濾取し、固体を回収した。これを水で洗浄し、濾取し、固体を回収し、乾燥することで標記結晶を224.6mg得た。
【0127】
粉末X線回折スペクトル:図13に示した。
特徴的な回折角(2θ±0.2°):5.4°,6.4°,7.3°,12.8°,13.4°,14.7°及び15.4°
示差熱-熱重量同時測定曲線:図14に示した。
示差熱-熱重量同時測定曲線における吸熱ピーク(ピークトップ値):162℃付近
【0128】
実施例8 化合物(I)とフマル酸のモル比の分析
化合物(I)とフマル酸及び化合物(I)とL-酒石酸とのモル比については、H-NMRで確認した。化合物(I)の1当量のフマル酸とのI型結晶、1当量のフマル酸とのII型結晶、及び1当量のフマル酸とのV型結晶のNMRスペクトルの測定結果を以下に示す。また、化合物(I)のフリー体I型の結晶、及びフリー体II型の結晶のNMRスペクトルの測定結果も以下に示す。

(化合物(I)のフリー体I型の結晶)
HNMR(400MHz,DMSO-d6)δ: 8.32(brd,J=7.38Hz,1H) 8.14(s,1H) 7.25-7.50(m,5H) 6.54-6.72(m,1H) 6.13-6.23(m,1H) 5.65-5.76(m,1H) 5.12-5.39(m,2H) 4.33-4.40(m,1H) 4.00-4.22(m,2H) 2.44-2.70(m,2H) 1.73(tt,J=4.99,8.27Hz,1H) 1.51(d,J=6.88Hz,3H) 1.36-1.43(m,3H) 0.78-1.03(m,4H)
(化合物(I)のフリー体II型の結晶)
HNMR(400MHz,DMSO-d)δ: 8.32(brd,J=7.38Hz,1H) 8.14(s,1H) 7.27-7.46(m,5H) 6.54-6.72(m,1H) 6.13-6.23(m,1H) 5.65-5.76(m,1H) 5.12-5.39(m,2H) 4.32-4.40(m,1H) 4.00-4.22(m,2H) 2.44-2.69(m,2H) 1.73(tt,J=4.99,8.27Hz,1H) 1.51(d,J=6.88Hz,3H) 1.40-1.43(m,3H) 0.78-1.03(m,4H)
(化合物(I)の1当量のフマル酸とのI型結晶)
HNMR(400MHz,DMSO-d6)δ: 13.13(brs,2H) 8.32(brd,J=7.38Hz,1H) 8.14(s,1H) 7.24-7.48(m,5H) 6.46-6.78(m,3H) 6.06-6.30(m,1H) 5.63-5.77(m,1H) 5.11-5.38(m,2H) 4.27-4.44(m,1H) 3.98-4.23(m,2H) 2.42-2.73(m,2H) 1.73(tt,J=5.02,8.30Hz,1H) 1.51(d,J=6.88Hz,3H) 1.32-1.45(m,3H) 0.77-1.02(m,4H)
(化合物(I)の1当量のフマル酸とのII型結晶)
HNMR(400MHz,DMSO-d6)δ: 13.14(brs,2H) 8.32(brd,J=7.38Hz,1H) 8.14(s,1H) 7.25-7.49(m,5H) 6.39-6.89(m,3H) 6.07-6.28(m,1H) 5.62-5.77(m,1H) 5.12-5.39(m,2H) 4.27-4.45(m,1H) 3.99-4.24(m,2H) 2.42-2.75(m,2H) 1.74(tt,J=5.02,8.30Hz,1H) 1.51(d,J=6.88Hz,3H) 1.37-1.46(m,3H) 0.78-1.03(m,4H)
(化合物(I)の1当量のフマル酸とのV型結晶)
HNMR(400MHz,DMSO-d6)δ: 13.13(brs,2H) 8.32(brd,J=7.38Hz,1H) 8.14(s,1H) 7.21-7.49(m,5H) 6.47-6.80(m,3H) 6.09-6.26(m,1H) 5.63-5.77(m,1H) 5.11-5.38(m,2H) 4.27-4.44(m,1H) 3.98-4.23(m,2H) 2.42-2.72(m,2H) 1.73(tt,J=4.99,8.27Hz,1H) 1.51(d,J=6.88Hz,3H) 1.34-1.46(m,3H) 0.77-1.02(m,4H)
【0129】
参考例1 7-((3R,5S)-1-アクリロイル-5-メチルピロリジン-3-イル)-4-アミノ-6-(シクロプロピルエチニル)-N-((R)-1-フェニルエチル)-7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-5-カルボキサミド(化合物(I))の1当量のフマル酸とのIII型結晶の製造
合成例1の方法に従って得られた化合物(I) 300mgにフマル酸3当量及びアセトニトリル9mLを添加し、50℃で1時間懸濁撹拌した後、自然冷却し、濾取し、固体を回収した。これを乾燥することで標記結晶を303.7mg得た。
【0130】
粉末X線回折スペクトル(B法):図15に示した。
特徴的な回折角(2θ±0.2°):8.1°,13.2°,20.4°,23.1°,24.7°及び26.1°
示差熱-熱重量同時測定曲線:図16に示した。
示差熱-熱重量同時測定曲線における発熱ピーク(ピークトップ値):153℃付近
【0131】
参考例2 7-((3R,5S)-1-アクリロイル-5-メチルピロリジン-3-イル)-4-アミノ-6-(シクロプロピルエチニル)-N-((R)-1-フェニルエチル)-7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-5-カルボキサミド(化合物(I))の1当量のフマル酸とのIV型結晶の製造
合成例1の方法に従って得られた化合物(I) 300mgにフマル酸3当量及び水6mLを添加し、50℃で1.5時間懸濁撹拌した後、自然冷却し、濾取し、固体を回収した。これを水で洗浄し、濾取し、固体を回収し、乾燥することで標記結晶を311.2mg得た。
【0132】
粉末X線回折スペクトル(B法):図17に示した。
特徴的な回折角(2θ±0.2°):6.0°,15.7°及び18.8°
示差熱-熱重量同時測定曲線:図18に示した。
示差熱-熱重量同時測定曲線における発熱ピーク(ピークトップ値):130℃付近
【0133】
参考例3 7-((3R,5S)-1-アクリロイル-5-メチルピロリジン-3-イル)-4-アミノ-6-(シクロプロピルエチニル)-N-((R)-1-フェニルエチル)-7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-5-カルボキサミド(化合物(I))の塩酸とのI型結晶の製造
合成例1の方法に従って得られた化合物(I) 15mgに2M塩酸/エタノール溶液15μL及び2―プロパノール/ヘプタン混液(1:3 v/v)0.3mLを添加し、4日間懸濁撹拌した後、自然冷却し、濾取し、固体を回収した。これを乾燥することで標記結晶を得た。
【0134】
粉末X線回折スペクトル(B法):図19に示した。
特徴的な回折角(2θ±0.2°):7.0°,7.4°,12.6°,19.0°及び25.4°
示差熱-熱重量同時測定曲線:図20に示した。
示差熱-熱重量同時測定曲線における吸熱ピーク(ピークトップ値):51℃及び179℃付近
【0135】
参考例4 7-((3R,5S)-1-アクリロイル-5-メチルピロリジン-3-イル)-4-アミノ-6-(シクロプロピルエチニル)-N-((R)-1-フェニルエチル)-7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-5-カルボキサミド(化合物(I))の塩酸とのII型結晶の製造
合成例1の方法に従って得られた化合物(I) 15mgに2M塩酸/エタノール溶液15μL及びアセトン/ヘプタン混液(1:3 v/v)0.3mLを添加し、4日間懸濁撹拌した後、自然冷却し、濾取し、固体を回収した。これを乾燥することで標記結晶を得た。
【0136】
粉末X線回折スペクトル(B法):図21に示した。
特徴的な回折角(2θ±0.2°):6.3°,7.4°,8.0°,17.6°,22.0°及び23.6°
示差熱-熱重量同時測定曲線:図22に示した。
示差熱-熱重量同時測定曲線における吸熱ピーク(ピークトップ値):147℃付近
【0137】
参考例5 7-((3R,5S)-1-アクリロイル-5-メチルピロリジン-3-イル)-4-アミノ-6-(シクロプロピルエチニル)-N-((R)-1-フェニルエチル)-7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-5-カルボキサミド(化合物(I))の塩酸とのIII型結晶の製造
合成例1の方法に従って得られた化合物(I) 15mgに2M塩酸/エタノール溶液15μL及び酢酸エチル0.3mLを添加し、4日間懸濁撹拌した後、自然冷却し、濾取し、固体を回収した。これを乾燥することで標記結晶を得た。
【0138】
粉末X線回折スペクトル(B法):図23に示した。
特徴的な回折角(2θ±0.2°):5.3°,6.5°,8.1°,15.3°及び24.2°
示差熱-熱重量同時測定曲線:図24に示した。
示差熱-熱重量同時測定曲線における吸熱ピーク(ピークトップ値):156℃付近
【0139】
参考例6 7-((3R,5S)-1-アクリロイル-5-メチルピロリジン-3-イル)-4-アミノ-6-(シクロプロピルエチニル)-N-((R)-1-フェニルエチル)-7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-5-カルボキサミド(化合物(I))の臭化水素酸との結晶の製造
合成例1の方法に従って得られた化合物(I) 15mgに臭化水素酸1当量及び2―プロパノール/ヘプタン混液(1:3 v/v)0.3mLを添加し、5日間懸濁撹拌した後、自然冷却し、濾取し、固体を回収した。これを乾燥することで標記結晶を得た。
【0140】
粉末X線回折スペクトル(B法):図25に示した。
特徴的な回折角(2θ±0.2°):7.0°,7.4°,13.4°,15.6°,19.2°及び25.6°
示差熱-熱重量同時測定曲線:図26に示した。
示差熱-熱重量同時測定曲線における吸熱ピーク(ピークトップ値):204℃付近
【0141】
参考例7 7-((3R,5S)-1-アクリロイル-5-メチルピロリジン-3-イル)-4-アミノ-6-(シクロプロピルエチニル)-N-((R)-1-フェニルエチル)-7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-5-カルボキサミド(化合物(I))の1当量のL-酒石酸との結晶の製造
合成例1の方法に従って得られた化合物(I) 500mgにL-酒石酸466mg及びアセトン10mLを添加し、50℃で40分攪拌し,溶解した。この後、室温で17時間攪拌し、得られた懸濁液を濾取し、固体を回収した。これを乾燥することで標記結晶を506.3mg得た。
【0142】
粉末X線回折スペクトル(A法):図27に示した。
特徴的な回折角(2θ±0.2°):7.2°,12.6°,17.3°及び23.4°
示差熱-熱重量同時測定曲線:図28に示した。
示差熱-熱重量同時測定曲線における吸熱ピーク(ピークトップ値):121℃付近
【0143】
参考例8 7-((3R,5S)-1-アクリロイル-5-メチルピロリジン-3-イル)-4-アミノ-6-(シクロプロピルエチニル)-N-((R)-1-フェニルエチル)-7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-5-カルボキサミド(化合物(I))のコハク酸との結晶の製造
合成例1の方法に従って得られた化合物(I) 15mgにコハク酸3当量及びアセトニトリル0.3mLを添加し、50℃で3日間懸濁撹拌した後、自然冷却し、濾取し、固体を回収した。これを乾燥することで標記結晶を得た。
【0144】
粉末X線回折スペクトル(B法):図29に示した。
特徴的な回折角(2θ±0.2°):6.5°,10.7°,13.2°,14.6°,18.7°及び23.9°
示差熱-熱重量同時測定曲線:図30に示した。
示差熱-熱重量同時測定曲線における吸熱ピーク(ピークトップ値):148℃及び159℃付近
【0145】
試験例1 HER2リン酸化活性阻害作用(in vitro)の測定
HER2リン酸化活性に対する化合物のインビトロでの阻害活性測定法の条件設定において、パーキンエルマー社のProfilerPro Peptide 22と同配列(5-FAM-EEPLYWSFPAKKK-CONH)のペプチドを基質として用いたHER2キナーゼ反応の報告(Xie H et al., PLoS One.2011;6(7):e21487)に基づき、ProfilerPro Peptide 22を基質に用いた。試験に用いた精製リコンビナントヒトHER2蛋白質はカルナバイオサイエンス社から購入した。化合物の阻害活性測定においては、まず、合成例1の方法に従って得られた化合物(I)をジメチルスルホキシド(DMSO)で段階希釈した。次に、キナーゼ反応用緩衝液(13.5mM Tris(pH 7.5)、2mM ジチオトレイトール、0.009% Tween20)中にHER2蛋白質、基質ペプチド(終濃度は1μM)、塩化マンガン(終濃度は10mM)、ATP(終濃度は5μM)と化合物(I)のDMSO溶液(DMSOの終濃度は5%)を加えて25℃で30分間インキュベーションしキナーゼ反応を行った。そこへ終濃度30mMになるようEDTAを加えることで反応を停止させた。最後に、LabChip(登録商標) EZ Reader II(パーキンエルマー社)で、リン酸化されなかった基質ペプチド(S)とリン酸化されたペプチド(P)をマイクロ流路キャピラリー電気泳動によって分離・検出した。SとPそれぞれのピークの高さからリン酸化反応量を求め、リン酸化反応を50%抑制することのできる化合物濃度をIC50値(nM)と定義し以下の表7に示した。
【0146】
試験例2 エクソン20挿入変異型HER2(HER2ex20insYVMA)リン酸化活性阻害作用(in vitro)の測定
エクソン20挿入変異型HER2リン酸化活性に対する化合物のインビトロでの阻害活性測定法の条件設定において、HER2と同様にProfilerPro Peptide 22を基質に用いた。試験に用いた精製リコンビナントヒトエクソン20挿入変異型HER2(A775_G776insYVMA)蛋白質は、SignalChem社から購入した。化合物の阻害活性測定においては、まず、合成例1の方法に従って得られた化合物(I)をジメチルスルホキシド(DMSO)で段階希釈した。次に、キナーゼ反応用緩衝液(13.5mM Tris(pH 7.5)、2mM ジチオトレイトール、0.009% Tween20)中にエクソン20挿入変異型HER2蛋白質と化合物(I)DMSO溶液(DMSOの終濃度は5%)を加えて25℃で30分間プレインキュベーションした。その後、基質ペプチド(終濃度は1μM)、塩化マンガン(終濃度は25mM)、塩化マグネシウム(終濃度は20mM)、ATP(終濃度は200μM)を加えて25℃で220分間インキュベーションしキナーゼ反応を行った。そこへ終濃度30mMになるようEDTAを加えることで反応を停止させた。最後に、LabChip(登録商標) EZ Reader II(パーキンエルマー社)で、リン酸化されなかった基質ペプチド(S)とリン酸化されたペプチド(P)をマイクロ流路キャピラリー電気泳動によって分離・検出した。SとPそれぞれのピークの高さからリン酸化反応量を求め、リン酸化反応を50%抑制することのできる化合物濃度をIC50値(nM)と定義し以下の表7に示した。
【0147】
【表7】
【0148】
以上の結果より、化合物(I)は、HER2リン酸化の優れた阻害活性およびエクソン20挿入変異型HER2リン酸化に対して、優れた阻害活性を有することが明らかとなった。
【0149】
試験例3 HER2発現細胞株に対する増殖阻害活性の測定
HER2過剰発現ヒト乳癌細胞株であるSK-BR-3細胞を、10%ウシ胎児血清を含むMcCoy’s 5a培地(ライフテクノロジーズ社製)中に懸濁させた。細胞懸濁液を、384ウェル平底マイクロプレートの各ウェルに播種し、5%炭酸ガス含有の培養器中37℃で1日培養した。合成例1の方法に従って得られた化合物(I)をDMSOに溶解し、DMSOを用いて化合物を終濃度の500倍の濃度になるように希釈した。化合物のDMSO溶液を細胞の懸濁に用いた培地で希釈し、これを細胞の培養プレートの各ウェルにDMSOの最終濃度が0.2%になるように加え、5%炭酸ガス含有の培養器中37℃でさらに3日培養した。化合物存在下で3日間培養後の細胞数計測をCellTiter-Glo2.0(プロメガ社製)を用いて行い、以下の式より増殖阻害率を算出した。増殖を50%阻害することのできる化合物濃度をIC50(nM)と定義した。
増殖阻害率(%)=(C-T)/(C)×100
T:被検化合物を添加したウェルの発光強度
C:被検化合物を添加しなかったウェルの発光強度
結果を以下の表8に示した。
【0150】
試験例4 エクソン20挿入変異型HER2発現細胞株に対する増殖阻害活性の測定
エクソン20挿入変異型HER2に対する増殖阻害活性は、ヒトエクソン20挿入変異型HER2遺伝子を導入したマウスBリンパ球前駆細胞株であるBa/F3細胞を用いて行った。Ba/F3細胞は10%ウシ胎児血清(FBS)、100U/mL ペニシリン、100μg/mL ストレプトマイシン(サーモフィッシャーサイエンティフィック)及び1ng/mL マウスインターロイキン-3(mIL-3)(CST)を含むRPMI-1640培地(サーモフィッシャーサイエンティフィック)にて維持し、ヒトエクソン20挿入変異型HER2遺伝子(A775_G776insYVMA(HER2ex20insYVMA))、Internal Ribosome Binding Sequence(IRES)およびクサビラオレンジ遺伝子を組み込んだpCDNA3.1-hyg(+)ベクターをAmaxa(登録商標) Cell Line Nucleofector (登録商標) Kit Vによる電気穿孔法により導入した。ハイグロマイシンB(ナカライテスク)にて選択したエクソン20挿入変異型HER2を発現したBa/F3細胞(Ba/F3-HER2insYVMA)はmIL-3非依存的な増殖を示した。
細胞増殖阻害活性の評価に際し、Ba/F3-HER2insYVMA細胞を10% FBS、100U/mL ペニシリン、100μg/mL ストレプトマイシンを含むRPMI-1640培地にて懸濁し、細胞懸濁液を96ウェル平底マイクロプレートの各ウェルに播種し、5%炭酸ガス含有の培養器中37℃で1日培養した。合成例1の方法に従って得られた化合物(I)をDMSOに溶解し、DMSOもしくは細胞の懸濁に用いた培地を用いて希釈し、これを細胞の培養プレートの各ウェルにDMSOの最終濃度が0.2%になるように加え、5%炭酸ガス含有の培養器中37℃でさらに3日培養した。化合物存在下で3日間培養後の細胞数計測はCellTiter-Glo(プロメガ社製)を用い、以下の式より増殖阻害率を算出した。増殖を50%阻害することのできる化合物濃度をIC50(nM)と定義した。
増殖阻害率(%)=(C-T)/(C)×100
T:被検化合物を添加したウェルの発光強度
C:被検化合物を添加しなかったウェルの発光強度
結果を以下の表8に示した。
【0151】
【表8】
【0152】
以上の結果より、化合物(I)は、HER2発現細胞株(SK-BR-3)およびエクソン20挿入変異型HER2発現細胞株(Ba/F3-HER2insYVMA)においても優れた細胞増殖抑制活性を有することが明らかとなった。
【0153】
試験例5 HER2発現細胞株(NCI-N87)に対する増殖阻害活性の測定
HER2過剰発現ヒト胃がん細胞株であるNCI-N87細胞(American Type Culture Collection,Cat No.ATCC(登録商標) CRL-5822)を、10%ウシ胎児血清を含むRPMI1640培地(和光純薬工業株式会社)中に懸濁させた。次いで、細胞懸濁液を、96ウェル平底マイクロプレートの各ウェルに播種し、5%炭酸ガス含有の培養器中37℃で1日培養した。合成例1の方法に従って得られた化合物(I)をDMSOに溶解し、DMSOを用いて被検化合物を終濃度の1000倍の濃度になるように希釈した。化合物(I)のDMSO溶液を細胞の懸濁に用いた培地で希釈し、これを細胞の培養プレートの各ウェルにDMSOの最終濃度が0.1%になるように加えた。Control用ウェルには、DMSOを細胞の懸濁に用いた培地で希釈し、これを細胞の培養プレートの各ウェルにDMSOの最終濃度が0.1%になるように加えた。薬液を添加後、5%炭酸ガス含有の培養器中37℃でさらに3日培養した。化合物存在下で3日間培養後の細胞数計測はCellTiter-Glo2.0(プロメガ社製)を用い、プロメガ社の推奨するプロトコールに準じて行った。以下の式より増殖阻害率を算出し、増殖を50%阻害することのできる被検化合物の濃度をIC50値(nM)と定義した。
増殖阻害率(%)=(C-T)/C×100
T:被検化合物を添加したウェルの発光強度
C:被検化合物を添加しなかったウェルの発光強度
結果を以下の表9に示した。
【0154】
【表9】
【0155】
以上の結果より、化合物(I)は、HER2過剰発現細胞株(NCI-N87)においても優れた細胞増殖抑制活性を有することが明らかとなった。
【0156】
試験例6 経口吸収性の評価
合成例1の方法に従って得られた化合物(I)を0.5%HPMC水溶液、0.1N塩酸に懸濁又は溶解し、BALB/cAマウス(日本クレア株式会社)に50mg/kg/dayの用量にて経口投与した。経口投与後、0.5、1、2、4及び6時間後に顔面静脈より経時採血し血漿を得た。得られた血漿中の化合物濃度をLC-MS/MSにより測定し、経口吸収性の評価を行った。
結果を以下の表10に示した。
【0157】
【表10】
【0158】
以上の結果より、化合物(I)は十分な血漿中濃度が観測され、良好な経口吸収性を示した。
【0159】
試験例7 脳移行性の評価
合成例1の方法に従って得られた化合物(I)を0.5%HPMC水溶液、0.1N塩酸に懸濁又は溶解し、BALB/cAマウス日本クレア株式会社)に50mg/kg/dayの用量にて経口投与した。経口投与後、0.5時間後に顔面静脈より採血後、全脳を摘出し血漿及び脳サンプルを得た。得られた脳サンプルに3倍量の水を添加後、超音波ホモジナイザーを用いてホモジナイズし、脳ホモジネートを得た。得られた血漿中及び脳ホモジネート中の化合物濃度をLC-MS/MSにより測定し、脳/血漿中化合物濃度から脳移行性を評価した。
結果を以下の表11に示した。
【0160】
【表11】
【0161】
以上の結果より、化合物(I)は良好な脳移行性を示した。
【0162】
試験例8 Luciferase 遺伝子導入HER2発現細胞株(NCI-N87-luc)の脳直接移植モデルに対する抗腫瘍効果確認試験(in vivo)
脳直接移植モデルによる被検化合物の抗腫瘍効果は、American Type Culture Collectionから購入したヒト胃癌腫瘍細胞であるNCI-N87にLuciferase 遺伝子を導入した、NCI-N87-Lucを使用した。NCI-N87-Lucは、10%ウシ胎仔血清(FBS)を含むRPMI-1640 (4.5g/L グルコース、10mM HEPES及び1mMピルビン酸ナトリウム含有)(和光純薬株式会社)培地において、5% CO2インキュベーター中において37℃で細胞株を培養した。
NCI-N87-Luc細胞をPBS中に6.25×10 cells/mLの濃度で再懸濁した。
マウス用イヤーバーを用いて約6~7週齢のヌードマウス(BALB/cAJcl-nu/nu、日本クレア株式会社)を脳定位固定装置に固定し、 脳上部の皮膚をアルコール綿にて消毒後に、メスにて切開した。
マイクロドリルを用いて、頭蓋骨に穴をあけ、針、マニュピュレーター、シリンジポンプを用いて、細胞懸濁液4μLを 0.8μL/minの条件で脳内に移植した。
脳内腫瘍量の目安として、移植約3週間後に生存例全例について、IVIS(PerkinElmer,Inc.,型式:Lumina II)を用いてTotal Flux(Photon/sec)を測定した。その結果から、MiSTAT(Ver.2.00)の群分けプログラムを用いて、各群6匹ずつの動物を割り付けた。
被検化合物は1日1回、群分け翌日から21日間(Day1-21)連日経口投与した。
効果の有無の判断には、判定日(Day22)のTotal Fluxを対数変換(Log10)した値を用いた。被検化合物としては合成例1の方法に従って得られた化合物(I)を用い、25mg/kg/dayの用量にて投与した。
縦軸に平均Total Fluxを対数変換(Log10)した値、横軸に移植後の日数(Day)を設定したグラフを作成し、薬剤投与期間中のTotal Fluxの経時的推移を観察した。
コントロール(Control)としては0.1N HCl,0.5%HPMC水溶液を用いた。
【0163】
結果を以下の図31および図32に示した。各群Day22のTotal Fluxを対数変換(Log10)した値を有意差検定した結果、コントロール群に比して、統計学的に有意(有意水準両側5%)に低いことが示された。また、体重の測定には動物用電子天秤を用いた。n日目の体重(BWn)からn日目体重変化率(Body weight change;BWCn)を下記の式により算出した。
BWCn(%)=[(n日目の体重)-(群分け日の体重)]/(群分け日の体重)×100
この試験結果から、化合物(I)は、ヌードマウス脳内に移植したHER2過剰発現細胞株(NCI-N87-luc)に対して,優れた抗腫瘍効果を有することが明らかとなった。また、全ての個体で-20%以上の体重減少は見られなかったため、重篤な副作用はないことが明らかとなった。
【0164】
試験例9 固体安定性試験
実施例及び比較例で得られた化合物(I)のフリー体II型結晶,1当量のフマル酸とのII型結晶を4週間保存したときの固体安定性を評価した。
保存条件:60℃(閉鎖系)
保存期間:4週間
保存量:約30mg
保存容器:ガラス瓶
結果を以下の表12に示す。
【表12】
類縁物質量(化合物(I)以外に検出された物質の量)の変化は、試料約1mgを秤量し、水・アセトニトリル混液(1:1)約1mLに溶解させ、この液5μLを正確に測りとって、以下の方法でHPLCにて分析を行った。

HPLC測定法(安定性試験)
試料溶液中の類縁物質量をHPLC分析にて測定した。なお、データ処理を含む装置の取扱いは、各装置で指示された方法及び手順に従った。
カラム:Waters製 XSelect CSH C18 (4.6×150mm,3.5μm)
UV検出:246nm
カラム温度:40℃
流量:1.0mL/分
サンプル温度:5℃
サンプル濃度:1mg/mL
移動相A:5 mmol/L ギ酸アンモニウム緩衝液(pH6.5)/アセトニトリル(9:1)混液
移動相B:アセトニトリル
グラディエントを表13に示す。
【表13】
その結果、化合物(I)のフリー体II型結晶、1当量のフマル酸とのII型結晶ともに粉末X線回折パターンの変化は認められず、また、類縁物質の増加もほとんど認められず、極めて安定な結晶であることが判明した。
【0165】
試験例10 動的水分吸脱着(DVS)試験
実施例及び参考例で得られた化合物(I)の1当量のフマル酸とのII型結晶、フリー体II型結晶、フリー体I型結晶、1当量のフマル酸とのV型結晶、及び1当量のL-酒石酸との結晶を用いて水分吸脱着試験を行った。
水分吸脱着試験は、次の条件に従って測定した。
試料およそ10mgを専用の石英製ホルダーに充填し、以下の条件下に試料の各湿度における重量を連続的に測定し記録した。なお、データ処理を含む装置の取扱いは、各装置で指示された方法及び手順にしたがった。
装置:VTI SA+(ティー・エイ・インスツルメント社製)
乾燥温度:60℃
昇温速度:1℃/min
乾燥の平衡:300分を超えない範囲で、5分間で0.01wt%減少しないことを確認
測定温度:25℃
加湿の平衡:120分を超えない範囲で、5分間で0.01wt%増加しないことを確認
相対湿度プログラム:5~95%RHまで5%RHずつ上げ、95%RH~5%RHまで5%RHずつ下げる
これらの試験で得られた測定条件範囲における重量変化を表14~表18に示す。
【表14】
【表15】
【表16】
【表17】
【表18】
【0166】
表14に示すように化合物(I)の1当量のフマル酸とのII型結晶は水分吸脱着試験において95%の相対湿度下で0.38%の重量増加であり、1%に満たないことから、ほとんど吸湿性がないと判断された。同様に化合物(I)のフリー体II型結晶、フリー体I型結晶、1当量のフマル酸とのV型結晶についても水分吸脱着試験において95%の相対湿度下で質量増加が1%に満たないことから、ほとんど吸湿性がないと判断された(表15~17)。一方、化合物(I)の1当量のL-酒石酸との結晶は表18に示すように、水分吸脱着試験において95%の相対湿度下で6.41%もの質量増加が認められ、高い吸湿性を有することが明らかとなった。
したがって、化合物(I)の1当量のフマル酸とのII型結晶、フリー体II型結晶、フリー体I型結晶、1当量のフマル酸とのV型結晶は、化合物(I)の1当量のL-酒石酸との結晶と比較して吸湿性が低く、医薬品の開発候補化合物において、安定した品質の医薬品の工業的生産の観点で優れているといえる。化合物(I)の1当量のフマル酸とのII型結晶、フリー体II型結晶、フリー体I型結晶、1当量のフマル酸とのV型結晶は医薬品又は医薬品原薬として、優れた性質を有することが確認された。
【0167】
試験例11 血中濃度測定試験
実施例で得られた化合物(I)のI型結晶、化合物(I)のII型結晶、及び化合物(I)の1当量のフマル酸塩II型結晶について、血中濃度測定試験を行った。具体的には、化合物(I)のI型結晶は0.1N塩酸を含んだ0.5%HPMCを用いて、化合物(I)のII型結晶、及び化合物(I)の1当量のフマル酸とのII型結晶は0.5%HPMCを用いて、それぞれ化合物(I)(フリー体)に分子量換算して100mg/10mL及び300mg/10mLの懸濁液を作製した。これらの投与液を摂食条件下にて飼育していた雌性ラット(Crl:CD(SD),日本チャールス・リバー株式会社)に体重1kgあたり10mLの容量で経口投与用ゾンデを用いて経口投与した。投与後、ラット用ケージに戻し状態を確認した。ケージ内では給水及び給餌は自由に取れる状態とした。投与0.5、1、2、4、6時間後にラットをイソフルランにて麻酔し、ヘパリン処理シリンジと注射針(25G)を用いて約80μL頸静脈より採血した。
採血した血液は、氷冷し、遠心操作により血漿を分離した。採血終了後のラットは、ラット用ケージに戻し麻酔覚醒後の状態を確認した。最終採血終了後は、イソフルラン麻酔の深度確認を行った後に、小動物実験固定器で仰向けに四肢を固定し開腹し、腹部大動静脈の切開による放血により安楽死させた。
LC/MS/MSを用いて、MRM法で測定し検量線から定量した各血漿中の化合物(I)の濃度から、Phoenix WinNonlin(v6.4.0,Certara USA,Inc.)を用いて、AUC0-6hr(台形法にて算出した投与後0~6時間の血中濃度-時間曲線下面積)、Cmax(最高血中濃度)、Tmax(最高血中濃度到達時間)を算出した。
【0168】
結果を表19に示す。投与量を100mg/kgから300mg/kgに上げた場合、塩酸を添加した化合物(I)のI型結晶及び化合物(I)のII型結晶のCmaxがそれぞれ0.8倍及び1.2倍上昇し、AUC0-6hrがそれぞれ1.0倍及び1.5倍上昇したのに対し、化合物(I)の1当量のフマル酸とのII型結晶はCmax及びAUC0-6hrがそれぞれ1.9倍上昇した。また、投与量300mg/kgにおける、化合物(I)の1当量のフマル酸とのII型結晶のCmaxは、同用量での酸を添加した化合物(I)のI型結晶及び化合物(I)のII型結晶の値と比較して、それぞれ1.7倍及び1.4倍、AUC0-6hrはそれぞれ2.4倍高い値を示すことがわかった。したがって、本発明にかかる化合物(I)の1当量のフマル酸とのII型結晶はより優れた経口吸収性を示すことが確認された。
【表19】
【0169】
なお、本明細書に記載した全ての文献及び刊行物は、その目的にかかわらず参照によりその全体を本明細書に組み込むものとする。また、本明細書は、本願の優先権主張の基礎となる日本国特許出願である特願2020-121520号(2020年7月15日出願)の特許請求の範囲、明細書、および図面の開示内容を包含する。
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
図1
図2
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図4
図5
図6
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図11
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【配列表】
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