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特許7391274消費電力推定装置、消費電力推定方法および消費電力推定プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-24
(45)【発行日】2023-12-04
(54)【発明の名称】消費電力推定装置、消費電力推定方法および消費電力推定プログラム
(51)【国際特許分類】
   H02J 3/00 20060101AFI20231127BHJP
   H02J 13/00 20060101ALI20231127BHJP
【FI】
H02J3/00 130
H02J13/00 301A
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2023541976
(86)(22)【出願日】2021-08-18
(86)【国際出願番号】 JP2021030171
(87)【国際公開番号】W WO2023021607
(87)【国際公開日】2023-02-23
【審査請求日】2023-07-11
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000236056
【氏名又は名称】三菱電機ビルソリューションズ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 冬樹
(72)【発明者】
【氏名】大谷 晋一郎
【審査官】早川 卓哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-004041(JP,A)
【文献】特開2014-229252(JP,A)
【文献】特開2019-049850(JP,A)
【文献】特開2021-002311(JP,A)
【文献】特開2015-104171(JP,A)
【文献】特開2020-205684(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J3/00-5/00
H02J13/00
G01R11/00-11/66
G01R21/00-22/10
G01R35/00-35/06
G06Q50/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定区域に設置される少なくとも1つの対象設備の各々の消費電力を推定する消費電力推定装置であって、前記所定区域には非監視設備がさらに設置され、
前記所定区域全体での消費電力である合計消費電力の時系列データを取得する合計消費電力取得部と、
前記少なくとも1つの対象設備の運転状態を数値化した運転パラメータの時系列データを取得する運転状態取得部と、
少なくとも1つの第1参照信号を生成する第1参照信号生成部と、
取得された前記合計消費電力を目的変数とし、取得された前記運転パラメータおよび前記少なくとも1つの第1参照信号を説明変数とする第1回帰モデルを用いて重回帰分析を行うことにより、前記少なくとも1つの対象設備の各々の前記合計消費電力に対する寄与度を暫定的に算出する寄与度推定部と、
前記対象設備の暫定寄与度と前記運転パラメータとを乗算することにより、前記対象設備の消費電力を暫定的に算出する消費電力推定部と、
前記合計消費電力の時系列データから前記少なくとも1つの対象設備の暫定消費電力の合計値を減算することにより、前記非監視設備の消費電力の時系列データを算出する非監視消費電力算出部と、
前記非監視設備の消費電力の時系列データを所定時間ごとの複数の波形に分割し、波形同士の類似度に基づいて前記複数の波形を複数のクラスタに分類するクラスタリング部と、
前記複数のクラスタにそれぞれ対応する複数の第2参照信号を生成する第2参照信号生成部とを備え、
前記寄与度推定部は、前記合計消費電力を目的変数とし、前記運転パラメータおよび前記複数の第2参照信号を説明変数とする第2回帰モデルを用いて重回帰分析を行うことにより、前記少なくとも1つの対象設備の各々の前記合計消費電力に対する寄与度を確定し、
前記消費電力推定部は、前記対象設備の確定した前記寄与度と前記運転パラメータとを乗算することにより、前記対象設備の消費電力を確定する、消費電力推定装置。
【請求項2】
消費電力推定部は、各時間における前記少なくとも1つの対象設備の各々の消費電力を確定することにより、前記各時間における前記合計消費電力の内訳を生成する、請求項1に記載の消費電力推定装置。
【請求項3】
前記クラスタリング部は、前記非監視設備の消費電力の時系列データを24時間ごとの複数の波形に分割し、前記複数の波形を、前記非監視設備の稼働パターン数に応じて設定された前記複数のクラスタに分類する、請求項1または2に記載の消費電力推定装置。
【請求項4】
前記第2参照信号生成部は、対応するクラスタにおいて選択状態となり、かつ、他のクラスタにおいて非選択状態となる要素を、各々が所定の基底関数で表される少なくとも1つの参照信号に乗算することにより、前記複数の第2参照信号の各々を生成する、請求項1から3のいずれか1項に記載の消費電力推定装置。
【請求項5】
前記消費電力推定部により確定された前記対象設備の消費電力を用いて、前記消費電力推定部の推定精度を評価する推定結果評価部をさらに備える、請求項1から4のいずれか1項に記載の消費電力推定装置。
【請求項6】
前記推定結果評価部は、前記消費電力推定部により確定された前記少なくとも1つの対象設備の消費電力と前記非監視設備の消費電力とを加算することにより、前記合計消費電力の推定値を算出し、前記合計消費電力の実測値に対する前記合計消費電力の推定値の誤差に基づいて前記消費電力推定部の推定精度を評価する、請求項5に記載の消費電力推定装置。
【請求項7】
前記クラスタリング部は、前記誤差が閾値以上であるクラスタに分類される複数の波形を、波形同士の類似度に基づいて、さらに複数のクラスタに分類し、
前記第2参照信号生成部は、再分類された前記複数のクラスタにそれぞれ対応する前記複数の第2参照信号を再生成し、
前記寄与度推定部は、再生成された前記複数の第2参照信号を基づいて前記第2回帰モデルを再生成し、再生成された前記第2回帰モデルを用いて重回帰分析を行うことにより、前記少なくとも1つの対象設備の各々の前記合計消費電力に対する寄与度を確定し、
前記消費電力推定部は、前記対象設備の確定した前記寄与度と前記運転パラメータとを乗算することにより、前記対象設備の消費電力を確定する、請求項6に記載の消費電力推定装置。
【請求項8】
前記第1参照信号生成部は、少なくとも1つの所定の基底関数を用いて前記少なくとも1つの第1参照信号を生成する、請求項1に記載の消費電力推定装置。
【請求項9】
前記所定の基底関数は、単位時間ごとに山形または矩形の立ち上がりが1回発生する関数である、請求項4または8に記載の消費電力推定装置。
【請求項10】
前記第1参照信号生成部は、定数項からなる前記第1参照信号を生成する、請求項1に記載の消費電力推定装置。
【請求項11】
所定区域に設置される少なくとも1つの対象設備の各々の消費電力を推定する消費電力推定方法であって、前記所定区域には非監視設備がさらに設置され、
前記所定区域全体での消費電力である合計消費電力の時系列データを取得するステップと、
前記少なくとも1つの対象設備の運転状態を数値化した運転パラメータの時系列データを取得するステップと、
第1参照信号を生成するステップと、
取得された前記合計消費電力を目的変数とし、取得された前記運転パラメータおよび前記第1参照信号を説明変数とする第1回帰モデルを用いて重回帰分析を行うことにより、前記少なくとも1つの対象設備の各々の前記合計消費電力に対する寄与度を暫定的に算出するステップと、
前記対象設備の暫定寄与度と前記運転パラメータとを乗算することにより、前記対象設備の消費電力を暫定的に算出するステップと、
前記合計消費電力の時系列データから前記少なくとも1つの対象設備の暫定消費電力の合計値を減算することにより、前記非監視設備の消費電力の時系列データを算出するステップと、
前記非監視設備の消費電力の時系列データを所定時間ごとの複数の波形に分割し、波形同士の類似度に基づいて前記複数の波形を複数のクラスタに分類するステップと、
前記複数のクラスタにそれぞれ対応する複数の第2参照信号を生成するステップと、
前記合計消費電力を目的変数とし、前記運転パラメータおよび前記複数の第2参照信号を説明変数とする第2回帰モデルを用いて重回帰分析を行うことにより、前記少なくとも1つの対象設備の各々の前記合計消費電力に対する寄与度を確定するステップと、
前記対象設備の確定した前記寄与度と前記運転パラメータとを乗算することにより、前記対象設備の消費電力を確定するステップとを備える、消費電力推定方法。
【請求項12】
所定区域に設置される少なくとも1つの対象設備の消費電力を推定する消費電力推定プログラムであって、前記所定区域には非監視設備がさらに設置され、
前記消費電力推定プログラムは、コンピュータに、
前記所定区域全体での消費電力である合計消費電力の時系列データを取得するステップと、
前記少なくとも1つの対象設備の運転状態を数値化した運転パラメータの時系列データを取得するステップと、
第1参照信号を生成するステップと、
取得された前記合計消費電力を目的変数とし、取得された前記運転パラメータおよび前記第1参照信号を説明変数とする第1回帰モデルを用いて重回帰分析を行うことにより、前記少なくとも1つの対象設備の各々の前記合計消費電力に対する寄与度を暫定的に算出するステップと、
前記対象設備の暫定寄与度と前記運転パラメータとを乗算することにより、前記対象設備の消費電力を暫定的に算出するステップと、
前記合計消費電力の時系列データから前記少なくとも1つの対象設備の暫定消費電力の合計値を減算することにより、前記非監視設備の消費電力の時系列データを算出するステップと、
前記非監視設備の消費電力の時系列データを所定時間ごとの複数の波形に分割し、波形同士の類似度に基づいて前記複数の波形を複数のクラスタに分類するステップと、
前記複数のクラスタにそれぞれ対応する複数の第2参照信号を生成するステップと、
前記合計消費電力を目的変数とし、前記運転パラメータおよび前記複数の第2参照信号を説明変数とする第2回帰モデルを用いて重回帰分析を行うことにより、前記少なくとも1つの対象設備の各々の前記合計消費電力に対する寄与度を確定するステップと、
前記対象設備の確定した前記寄与度と前記運転パラメータとを乗算することにより、前記対象設備の消費電力を確定するステップとを実行させる、消費電力推定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、消費電力推定装置、消費電力推定方法および消費電力推定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
ビルまたは工場などの建物において、省エネを目的として電力を管理する場合には、建物内部に設定されている複数の電気設備の各々の消費電力を把握する必要がある。しかしながら、各電気設備の消費電力を把握するために、電気設備ごとに電力量メータを設けることは、コストの増大を招いてしまう。
【0003】
そこで、近年、所定区域で消費される合計消費電力の時系列データと、所定区域に設置される複数の電気設備の運転状態を示す時系列データとに基づいて回帰分析を行うことにより、各電気設備の消費電力を推定する技術が提案されている。
【0004】
例えば、特開2020-4041号公報(特許文献1)には、所定区域全体で消費される合計消費電力を目的変数とし、所定区域に設置される複数の対象設備の運転状態、および、各々が所定の基底関数で表される複数の参照信号の成分値を説明変数として重回帰分析を行うことにより、各対象設備の消費電力を推定する消費電力推定装置が開示されている。特許文献1では、所定区域内に設置されている対象設備以外の電気設備(以下、「非監視設備」とも称する)で消費される電力を複数の参照信号を用いて模擬することにより、非監視設備の消費電力の推定精度を向上させている。そして、非監視設備の消費電力の推定精度の向上によって、各対象設備の消費電力の推定精度も向上させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2020-4041号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載される技術では、非監視設備の稼働パターンが1つのみである場合を想定して、非監視設備の消費電力を複数の参照信号で表現している。そのため、例えば平日と休日とで稼働パターンが異なる非監視設備のように、複数の稼働パターンを有する非監視設備においては、重回帰分析により推定される消費電力と消費電力の実績値との誤差が大きくなることが懸念される。非監視設備の消費電力の推定精度が低下することにより、各対象設備の消費電力の推定精度も低下してしまう。
【0007】
本開示は上記のような課題を解決するためになされたものであって、本開示の目的は、所定区域に設置された複数の対象設備の各々の消費電力を精度良く推定する技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示のある局面に従う消費電力推定装置は、所定区域に設置される少なくとも1つの対象設備の各々の消費電力を推定する。所定区域には非監視設備がさらに設置される。消費電力推定装置は、合計消費電力取得部と、運転状態取得部と、第1参照信号生成部と、寄与度推定部と、消費電力推定部と、非監視消費電力算出部と、クラスタリング部と、第2参照信号生成部とを備える。合計消費電力取得部は、所定区域全体での消費電力である合計消費電力の時系列データを取得する。運転状態取得部は、少なくとも1つの対象設備の運転状態を数値化した運転パラメータの時系列データを取得する。第1参照信号生成部は、少なくとも1つの第1参照信号を生成する。寄与度推定部は、取得された合計消費電力を目的変数とし、取得された運転パラメータおよび少なくとも1つの第1参照信号を説明変数とする第1回帰モデルを用いて重回帰分析を行うことにより、少なくとも1つの対象設備の各々の合計消費電力に対する寄与度を暫定的に算出する。消費電力推定部は、対象設備の暫定寄与度と運転パラメータとを乗算することにより、対象設備の消費電力を暫定的に算出する。非監視消費電力算出部は、合計消費電力の時系列データから少なくとも1つの対象設備の暫定消費電力の合計値を減算することにより、非監視設備の消費電力の時系列データを算出する。クラスタリング部は、非監視設備の消費電力の時系列データを所定時間ごとの複数の波形に分割し、波形同士の類似度に基づいて複数の波形を複数のクラスタに分類する。第2参照信号生成部は、複数のクラスタにそれぞれ対応する複数の第2参照信号を生成する。寄与度推定部は、合計消費電力を目的変数とし、運転パラメータおよび複数の第2参照信号を説明変数とする第2回帰モデルを用いて重回帰分析を行うことにより、少なくとも1つの対象設備の各々の合計消費電力に対する寄与度を確定する。消費電力推定部は、対象設備の確定した寄与度と運転パラメータとを乗算することにより、対象設備の消費電力を確定する。
【0009】
本開示の別の局面に従う消費電力推定方法は、所定区域に設置される少なくとも1つの対象設備の各々の消費電力を推定する消費電力推定方法である。所定区域には非監視設備がさらに設置される。消費電力推定方法は、所定区域全体での消費電力である合計消費電力の時系列データを取得するステップと、少なくとも1つの対象設備の運転状態を数値化した運転パラメータの時系列データを取得するステップと、第1参照信号を生成するステップと、取得された前記合計消費電力を目的変数とし、取得された運転パラメータおよび前記第1参照信号を説明変数とする第1回帰モデルを用いて重回帰分析を行うことにより、少なくとも1つの対象設備の各々の合計消費電力に対する寄与度を暫定的に算出するステップと、対象設備の暫定寄与度と運転パラメータとを乗算することにより、対象設備の消費電力を暫定的に算出するステップと、合計消費電力の時系列データから少なくとも1つの対象設備の暫定消費電力の合計値を減算することにより、非監視設備の消費電力の時系列データを算出するステップと、非監視設備の消費電力の時系列データを所定時間ごとの複数の波形に分割し、波形同士の類似度に基づいて複数の波形を複数のクラスタに分類するステップと、複数のクラスタにそれぞれ対応する複数の第2参照信号を生成するステップと、合計消費電力を目的変数とし、運転パラメータおよび複数の第2参照信号を説明変数とする第2回帰モデルを用いて重回帰分析を行うことにより、少なくとも1つの対象設備の各々の合計消費電力に対する寄与度を確定するステップと、対象設備の確定した寄与度と運転パラメータとを乗算することにより、対象設備の消費電力を確定するステップとを備える。
【0010】
本開示の別の局面に従う消費電力推定プログラムは、上記の消費電力推定方法の各ステップをコンピュータに実行させる。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、所定区域に設置された複数の対象設備の各々の消費電力を精度良く推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施の形態1に係る消費電力推定装置のハードウェア構成を示す図である。
図2】実施の形態1に係る消費電力推定装置の機能構成を示すブロック図である。
図3】第1回帰モデルを説明する図である。
図4】第1回帰モデルを用いた重回帰分析により推定された対象設備の消費電力および非監視消費電力の時間変化を示すグラフである。
図5】非監視消費電力の再定義の考え方を説明する図である。
図6】合計消費電力を説明する図である。
図7】非監視消費電力を説明する図である。
図8】クラスタリング部におけるクラスタリング処理を説明するための図である。
図9】クラスタリング結果の一例を示す図である。
図10図9に示したクラスタリング結果から生成されるパターン選択行列を示す図である。
図11】第2回帰モデルを説明する図である。
図12】第2回帰モデルを用いた重回帰分析によって推定された対象設備の消費電力および非監視消費電力を示すグラフである。
図13】実施の形態1と従来技術との比較結果を示す図である。
図14】実施の形態1に係る消費電力推定装置における消費電力推定処理の手順の一例を示すフローチャートである。
図15図14のステップS100の詳細な処理手順を示すフローチャートである。
図16図15のステップS500の詳細な処理手順を示すフローチャートである。
図17】実施の形態2に係る消費電力推定装置の機能構成を示すブロック図である。
図18】実施の形態2に係る消費電力推定装置における消費電力推定処理の手順の一例を示すフローチャートである。
図19図18のステップS600の詳細な処理手順を示すフローチャートである。
図20】実施の形態3に係る消費電力推定装置の機能構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中の同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0014】
[実施の形態1]
<消費電力推定装置の構成>
最初に、図1および図2を参照して、実施の形態1に係る消費電力推定装置の概略構成について説明する。図1は、実施の形態1に係る消費電力推定装置10のハードウェア構成を示す図である。図2は、実施の形態1に係る消費電力推定装置10の機能構成を示すブロック図である。
【0015】
実施の形態1に係る消費電力推定装置10は、所定区域内に設置された少なくとも1つの対象設備100の各々の消費電力を回帰分析により推定する装置である。所定区域は、例えば、ビルまたは工場などの建物全体あるいは当該建物のフロア全体である。対象設備100とは、建物管理システム110によって運転が管理されている設備であり、例えば、空調設備である。
【0016】
一般に、ビルまたは工場などの建物には、その建物全体またはフロア全体での消費電力を計測するための電力用メータが設けられている。この電力量メータを用いれば、所定区域の合計消費電力を把握できる。
【0017】
一方、省エネを目的として電力を管理する場合には、合計消費電力だけでなく、各対象設備100の消費電力を把握することが望まれる。各対象設備100の消費電力を正確に把握するためには、対象設備100ごとに電力量メータを設ける必要がある。ただし、対象設備100ごとに電力量メータを設けることはコストの増大を招いてしまう。
【0018】
そこで、消費電力推定装置10は、各対象設備100の消費電力を、所定区域全体での合計消費電力および各対象設備100の運転状態に基づいて推定する。以下の説明では、1つのビル全体を「所定区域」とし、このビル全体に設置された複数の空調設備を「対象設備」とする。
【0019】
図1に示すように、消費電力推定装置10は、特定のプログラムに従って駆動する1以上のコンピュータで構築される。消費電力推定装置10は、主たる構成要素として、CPU(Central Processing Unit)12と、記憶装置14と、入力装置16と、出力装置18と、通信I/F20とを備える。各構成要素は、相互にデータバス22によって接続されている。
【0020】
CPU12は、各種演算を行う。具体的には、CPU12は、記憶装置14に記憶される消費電力推定プログラムを読み込んで、消費電力の推定に必要な各種演算を行う。CPU12による処理の具体的内容については後述する。
【0021】
記憶装置14は、プログラムを含む各種データを記憶する。記憶装置14は、例えば、データを不揮発的に格納するROM(Read Only Memory)と、プログラムの実行により生成されたデータまたは入力装置16を介して入力されたデータを揮発的に格納するRAM(Random Access Memory)と、データを不揮発的に格納するHDD(Hard Disc Drive)などを1以上組み合わせて構成される。記憶装置14には、消費電力推定プログラムが格納されている。
【0022】
入力装置16は、オペレータからの操作指示およびデータ入力を受け付ける。入力装置16は、例えば、キーボード、マウス、タッチパネル、マイクなどを1以上組み合わせて構成される。
【0023】
出力装置18は、オペレータに各種情報を出力する。出力装置18は、例えば、ディスプレイおよびスピーカーなどを1以上組み合わせて構成される。
【0024】
通信I/F20は、他の機器との間で通信を行うためのインターフェイスである。例えば、建物管理システム110で検知された合計消費電力および対象設備100の運転状態は、通信I/F20を介して消費電力推定装置10に入力される。消費電力推定装置10による推定結果は、通信I/F20を介して、他の機器に送信することができる。
【0025】
なお、図1では、消費電力推定装置10を1台のコンピュータとして図示しているが、消費電力推定装置10は、互いに通信可能な複数のコンピュータで構成されてもよい。また、消費電力推定装置10と建物管理システム110との間の接続は有線であっても無線であってもよい。例えば、消費電力推定装置10と建物管理システム110とを繋ぐ通信網として、インターネットを利用することができる。あるいは、消費電力推定装置10は、建物管理システム110の一部であってもよい。
【0026】
図1の例では、ビルには、複数の対象設備100と、複数の非監視設備102とが設置されている。複数の対象設備100および複数の非監視設備102は、電力供給ライン103を介して電源106に接続されており、電源106から電力の供給を受けて運転する。なお、対象設備100および非監視設備102の各々の台数は単数であってもよい。
【0027】
対象設備100は、消費電力の推定対象となる設備であり、例えばビル内に設置された空調設備である。対象設備100は、建物管理システム110と相互に通信可能に接続されており、建物管理システム110によってその運転が管理される。
【0028】
非監視設備102は、電力を消費する設備のうち、建物管理システム110によって運転が管理されない設備である。非監視設備102には、例えば、ビル内に設置された照明またはコンセントなどが含まれる。
【0029】
電力供給ライン103には、電力量メータ104が設けられている。電力量メータ104は、複数の対象設備100および複数の非監視設備102に供給される電力の合計値、すなわち、ビル全体における合計消費電力を計測する。電力量メータ104は、建物管理システム110と通信可能に接続されており、合計消費電力の計測値を建物管理システム110に送信する。
【0030】
図2に示すように、建物管理システム110は、予め設定された管理プログラムに従って、複数の対象設備100の運転を管理する。建物管理システム110は、運転状態記憶部114と、合計消費電力記憶部112とを含む。
【0031】
運転状態記憶部114は、各対象設備100の運転状態の時系列データを記憶する。具体的には、建物管理システム110は、各対象設備100の運転状態を定期的に取得し、取得した運転状態と取得した日時とを対応付けて運転状態記憶部114に記憶する。
【0032】
このとき、建物管理システム110は、運転状態を数値で表す。例えば、運転中は「1」、運転停止中は「0」で表す。以下では、この運転状態を示す数値を「運転パラメータ」とも称する。なお、運転パラメータの数値は、「1」(運転中)および「0」(運転停止中)の2値に限定されない。別の形態として、運転パラメータの数値は、暖房運転中なら「1」、冷房運転中なら「0.8」、換気運転中なら「0.3」、運転停止中なら「0」というように、運転種類に応じて多段階に設定されてもよい。さらなる別の形態として、運転パラメータの数値は、空調の目標温度と現在の室温との差分値またはコンプレッサの回転速度などに応じて設定されてもよい。何れの形態においても、運転状態記憶部114には、複数の対象設備100の各々の運転状態を示す数値(運転パラメータ)の時系列データが記憶される。
【0033】
合計消費電力記憶部112は、ビル全体の消費電力の合計値(合計消費電力)の時系列データを記憶する。具体的には、建物管理システム110は、電力量メータ104で計測される単位時間当たりの合計消費電力を定期的に取得し、取得した合計消費電力と取得した日時とを対応付けて合計消費電力記憶部112に記憶する。
【0034】
なお、合計消費電力のサンプリングタイミングと、上述した対象設備100の運転状態のサンプリングタイミングとは一致させることが望ましい。また、サンプリング周期は、特に限定されないが、30秒以上かつ1時間以内の値に設定されることが望ましく、1分以上かつ10分以内の値に設定されることがより望ましい。
【0035】
また、図2の例では、運転パラメータおよび合計消費電力の時系列データを建物管理システム110が記憶する構成としているが、これらのデータは、消費電力推定装置10に設けられた記憶装置14に記憶されてもよい。
【0036】
消費電力推定装置10は、合計消費電力を目的変数とし、運転パラメータおよび後述する参照信号の成分を説明変数として重回帰分析を実行することにより、各対象設備100の消費電力を推定する。
【0037】
具体的には、消費電力推定装置10は、合計電力ベクトル生成部32、状態行列生成部34、参照信号生成部36、寄与度推定部38、寄与度記憶部40、内訳算出部42、非監視消費電力算出部44、クラスタリング部46、パターン選択行列生成部48、および消費電力記憶部50を含む。
【0038】
合計電力ベクトル生成部32は、合計消費電力記憶部112に記憶されている合計消費電力の時系列データを用いて、合計電力ベクトルを生成する。あるサンプリングタイミングtにおける合計消費電力をy(t)とすると、合計電力ベクトルは[y(1),y(2),・・・,y(T)]で表される。Tは合計電力ベクトル数を構成するサンプル数である。合計電力ベクトル生成部32は、合計消費電力y(t)の時系列データを取得する「合計消費電力取得部」の一実施例に対応する。
【0039】
ここで、あるサンプリングタイミングtにおける合計消費電力y(t)は、複数の対象設備100の消費電力の合計値(以下、「対象消費電力」とも称する)X(t)と、複数の非監視設備102の消費電力の合計値(以下、「非監視消費電力」とも称する)y(t)との和となる。すなわち、y(t)=X(t)+y(t)となる。
【0040】
複数の対象設備100のうちの第i対象設備100の消費電力は、その運転状態(運転パラメータx)に依存すると考えると、第i対象設備100の消費電力は(w・x)と表すことができる。ここで、wは、第i対象設備100に設定される寄与度である。これによると、第1~第M対象設備100の消費電力の合計値である対象消費電力X(t)は、次式(1)で表すことができる。
【0041】
【数1】
【0042】
一方、非監視設備102は、運転状態を把握できないため、対象設備100のようなモデルを構築することはできない。そこで、複数の非監視設備102の消費電力の合計値である非監視消費電力y(t)を、複数の参照信号φ(i=0,1,2,・・・,N)を用いて模擬する。参照信号φは「第1参照信号」の一実施例に対応する。
【0043】
参照信号φは、所定の基底関数で表される信号を単位時間ごと(例えば24時間ごと)に繰り返した信号である。基底関数の種類は特に限定されないが、山型または矩形の形状を有し、立ち上がりが1回だけ発生する関数であることが望ましい。本実施の形態では、基底関数として、式(2)に示すガウス関数を用いる。
【0044】
【数2】
【0045】
ガウス関数は、釣り鐘形の関数であるが、その山の幅はσに依存し、その山の中心はμに依存する。第j参照信号φは、式(2)で表される信号を24時間ごとに繰り返した信号である。なお、複数の参照信号の位相は、山の幅の約1/2ずつずれている。ここで、山の幅とは、参照信号φの値がピーク値の1%を超えてから1%未満になるまでの期間とする。
【0046】
本実施の形態では、非監視消費電力y(t)を、複数の参照信号φ~φを用いて、次式(3)のように表す。なお、は、参照信号φに設定される寄与度である。また、φ=1(定数)である。・φは定数項であり、時間に依存することなく、常時発生する消費電力を意味している。
【0047】
【数3】
【0048】
状態行列生成部34は、運転状態記憶部114に記憶されている運転パラメータx(t)の時系列データと、参照信号生成部36で生成された参照信号φ(t)とに基づいて、状態行列を生成する。状態行列生成部34は、運転パラメータx(t)の時系列データを取得する「運転状態取得部」の一実施例に対応する。参照信号生成部36は、状態行列生成部34からの要求に応じて、参照信号φ(t)を生成する。参照信号生成部36は、少なくとも1つの第1参照信号を生成する「第1参照信号生成部」の一実施例に対応する。
【0049】
生成された合計電力ベクトルおよび状態行列は、寄与度推定部38に入力される。寄与度推定部38は、合計電力ベクトルおよび状態行列を次式(4)に代入し、寄与度wを算出する。式(4)は、消費電力をモデル化したものである。以下では、式(4)に示す回帰モデルを「第1回帰モデル」とも称する。式(4)の各項の説明を図3に示す。
【0050】
【数4】
【0051】
式(4)の左辺は合計電力ベクトルである。式(4)の右辺の第1項は運転パラメータx(t)の時系列データに基づいた状態行列を含む。式(4)の右辺の第2項は参照信号φ(t)に基づいた状態行列を含む。以下では、運転パラメータx(t)の時系列データに基づいた状態行列を「運転状態行列」と称し、参照信号φ(t)に基づいた状態行列を「参照信号行列」とも称する。
【0052】
式(4)の第1回帰モデルにおいて、合計消費電力y(t)、運転パラメータx(t)および参照信号φ(t)は既知であり、寄与度wは未知である。寄与度wを解くことができれば、第i対象設備100の消費電力w・x(t)を求めることができる。
【0053】
なお、式(4)は、T>(M+N+1)であれば解くことができる。したがって、(M+N+1)回以上、合計消費電力y(t)および運転パラメータx(t)が収集できれば、寄与度wを算出することができる。なお、寄与度wの算出には、公知の重回帰分析技術を用いることができるため、詳細な説明は省略する。
【0054】
寄与度推定部38で算出された寄与度wは、寄与度記憶部40に暫定的に記憶される。内訳算出部42は、第i対象設備100の運転パラメータx(t)に、寄与度記憶部40に記憶されている寄与度wを乗算することにより、第i対象設備100の消費電力を算出する。内訳算出部42は「消費電力推定部」の一実施例に対応する。
【0055】
また、内訳算出部42は、参照信号φ(t)および寄与度を式(3)に代入することにより、複数の非監視設備102の消費電力の合計値である非監視消費電力y(t)を算出する。これにより、サンプリングタイミングtにおける合計消費電力y(t)の内訳が算出される。
【0056】
図4は、式(4)に示す第1回帰モデルを用いた重回帰分析により推定された対象設備100の消費電力および非監視消費電力の時間変化を示すグラフである。図4の横軸は推定期間の日時を示し、縦軸は電力を示している。
【0057】
図4には、あるビルの1週間分(2018年2月1日~2月8日)の合計消費電力yおよび非監視消費電力yの実績値の波形が示されている。実線は、ビル全体の合計消費電力yの実績値の波形を示している。破線は、非監視消費電力yの実績値の波形を示している。
【0058】
図4には、さらに、第1~第M対象設備100の消費電力の推定値および非監視消費電力yの推定値の波形が示されている。なお、図4の例では、M=6である。図4には、非監視消費電力yの推定値の上に、第1~第M対象設備100の消費電力の推定値を積み上げて描画した面グラフが示されている。
【0059】
すなわち、この面グラフの高さは、各サンプリングタイミングにおける非監視消費電力yの推定値と、第1~第M対象設備100の消費電力の推定値の合計値(すなわち、対象消費電力Xの推定値)との和であり、合計消費電力yの推定値に相当する。このように面グラフは、各サンプリングタイミングにおける合計消費電力y(t)の推定値と、この合計消費電力y(t)の内訳とを示している。
【0060】
図4から明らかなように、非監視消費電力yの実績値(破線)と非監視消費電力yの推定値との間には誤差が生じている。詳細には、1週間のうちの5日間において非監視消費電力yの実績値は推定値よりも大きくなっており、残りの2日間において非監視消費電力yの実測値は推定値よりも小さくなっている。その結果、非監視消費電力yの推定値と対象消費電力Xの推定値との和である合計消費電力yの推定値と、合計消費電力yの実績値との間にも誤差が生じている。このように非監視消費電力yの実績値に対する推定値の誤差が大きくなると、すなわち、非監視消費電力yの推定精度が低下すると、各対象設備100の消費電力の推定精度も低下することが懸念される。
【0061】
ここで、非監視消費電力yの推定精度が低下する要因を考える。式(4)に示す第1回帰モデルは、非監視消費電力yを複数の参照信号φを用いて模擬したうえで、対象設備100の運転パラメータxおよび複数の参照信号φを用いて消費電力をモデル化したものである。この第1回帰モデルを用いた重回帰分析では、図4に示すように、非監視消費電力yの推定値は、1週間の何れの日においても同一の波形パターンを有している。すなわち、式(4)の第1回帰モデルは、複数の非監視設備102が単一の稼働パターンを1日ごとに繰り返すことを仮定したモデルである。
【0062】
その一方で、図4に示すように、非監視消費電力yの実績値は、日によって異なる波形パターンを有している。すなわち、複数の非監視設備102の稼働パターンは日によって異なっている。その典型例として、平日の複数の非監視設備102の稼働パターンと、休日の複数の非監視設備102の稼働パターンとが異なる場合が挙げられる。
【0063】
したがって、非監視消費電力yの推定精度を上げるためには、複数の非監視設備102が有する複数の稼働パターンに合わせて、合計消費電力y(t)の時系列データを予め複数のデータに分離しておき、データごとに重回帰分析を行う必要がある。このようなデータの分離を行うためには、対象区域の平日および休日を示すカレンダー情報を入手する必要がある。しかしながら、本実施の形態のように、ビル全体を対象区域とする場合には、ビルに入居している全ての物件からカレンダー情報を入手することが必要となる。そのため、情報の入手およびデータの選別に多大な時間および労力がかかってしまうことが懸念される。
【0064】
また、合計消費電力y(t)の時系列データを分離する別の手法として、電力量メータ104により計測される1日ごとの合計消費電力y(t)の時系列データの波形に基づいて、平日の稼働パターンに対応するデータと休日の稼働パターンに対応するデータとを分離する方法が考えられる。しかしながら、電力量メータ104の計測値には空調設備などの対象設備100の消費電力も含まれており、一般的に、その電力変動は非監視消費電力yの電力変動に比べて大きい。そのため、電力量メータ104の計測値の波形だけでは、合計消費電力y(t)の時系列データを正確に分離することが難しいという課題がある。
【0065】
そこで、本実施の形態では、式(4)に示す第1回帰モデルを用いた重回帰分析から求められた合計消費電力yの推定値と、電力量メータ104により計測される合計消費電力yの実績値との差分を利用して、非監視消費電力yを再定義する。最初に図5を用いて、非監視消費電力yの再定義について説明する。以下に示す非監視消費電力yの再定義は、非監視消費電力算出部44によって実行される。
【0066】
図5は、式(4)に示す第1回帰モデルを用いた重回帰分析により推定された対象設備100の消費電力および非監視消費電力を示すグラフである。図5のグラフは、図4のグラフと同じ挙動を示している。
【0067】
図4で説明したように、面グラフの高さは、非監視消費電力yの推定値と第1~第M対象設備の消費電力の推定値との合計値であり、合計消費電力yの推定値に相当する。図4中の矢印A1は、合計消費電力yの実績値(実線)と合計消費電力yの推定値との差分を表している。以下では、合計消費電力yの実績値が推定値よりも大きい場合の差分を正値とし、合計消費電力yの実績値が推定値よりも小さい場合の差分を負値とする。1週間のうちの5日間において差分は正値となっており、残りの2日間において差分は負値となっている。
【0068】
本実施の形態では、合計消費電力yの実績値と推定値との差分(矢印A1)を、複数の非監視設備102の消費電力に由来する電力であると仮定する。すなわち、当該差分が、式(4)の第1回帰モデルが仮定している非監視設備102の稼働パターンと、実際の非監視設備102の稼働パターンとのずれに由来すると仮定する。そこで、当該差分を、非監視消費電力yの推定値に加算することにより、非監視消費電力yを再定義する。
【0069】
上述したように、サンプリングタイミングtにおける合計消費電力y(t)は、対象消費電力X(t)と非監視消費電力y(t)との和となる。式(1)および式(3)を用いて、合計消費電力y(t)を次式(5)で表す。式(5)の各項の説明を図6に示す。
【0070】
【数5】
【0071】
式(5)の右辺の第1項は定数項であり、時間に依存することなく、常時発生する消費電力を意味している。右辺の第2項はサンプリングタイミングtにおける対象消費電力X(t)である。右辺の第3項は、複数の参照信号φで模擬した、サンプリングタイミングtにおける非監視消費電力y(t)である。
【0072】
ここで、式(5)の第4項であるε(t)は、複数の参照信号φで模擬した非監視消費電力y(t)と非監視消費電力y(t)の実績値との残差を表している。すなわち、この残差ε(t)には、複数の参照信号φで模擬することができない非監視消費電力y(t)が含まれていると仮定する。式(5)を変形することにより、非監視消費電力y(t)は次式(6)で表すことができる。式(6)の各項の説明を図7に示す。
【0073】
【数6】
【0074】
非監視消費電力算出部44は、内訳算出部42によってサンプリングタイミングtにおける合計消費電力y(t)の内訳が暫定的に算出されると、式(6)を用いて、合計消費電力y(t)から対象消費電力X(t)の推定値を減算することにより、非監視消費電力y(t)を求める。これにより、非監視消費電力算出部44は、残差ε(t)を含むように、非監視消費電力y(t)を再定義する。
【0075】
再定義された非監視消費電力y(t)の時系列データは、複数の非監視設備102が有する複数の稼働パターンに応じて複数の波形パターンを有するものと仮定する。クラスタリング部46は、再定義された非監視消費電力y(t)の時系列データを、類似する波形パターン同士に分類(クラスタリング)する。
【0076】
図8は、クラスタリング部46におけるクラスタリング処理を説明するための図である。図8に示すように、クラスタリング部46は、最初に、再定義された非監視消費電力y(t)の時系列データを所定時間ごとの波形に切り出す(ステップS30)。所定時間は、複数の非監視設備102の稼働パターンの周期に基づいて設定することができる。図8の例では、所定周期は1日(24時間)に設定される。
【0077】
次に、クラスタリング部46は、ステップS30にて切り出した複数の波形について、波形同士の類似度を算出する(ステップS31)。波形同士の類似度の算出には、DTW(Dynamic Time Warping)法などの公知の手法を用いることができる。
【0078】
次に、クラスタリング部46は、算出された類似度を用いて、複数の波形を所定数のクラスタに分類するためのクラスタリングを行う(ステップS33)。すなわち、クラスタリング部46は、複数の波形を所定数のグループに分類する。このようにして、類似する波形同士が1つのクラスタにまとめられる。図8の例では、階層型クラスタリングが適用されている。クラスタリングには、階層型クラスタリングに代えて、非階層型クラスタリングまたはその他の手法を用いてもよい。
【0079】
図8の例では、複数の波形は3つのクラスタ(クラスタ1~3)に分類されている。クラスタ1~3の各々には、1日ごとの非監視消費電力y(t)の波形が分類されている。階層型クラスタリングでは、任意の数のクラスタを得ることができる。ただし、非監視設備102の稼働パターンの数を想定して設定することが好ましい。例えば、平日の稼働パターンが少なくとも2パターンあり、休日の稼働パターンが少なくとも1パターンあると想定される場合には、クラスタ数を3以上に設定することが好ましい。
【0080】
非監視消費電力y(t)の時系列データをクラスタリングすることにより、波形ごとに、日付とクラスタ番号とが対応付けられたクラスタリング結果が得られる。図9は、クラスタリング結果の一例を示す図である。図中左側に示されるクラスタリング結果において、日付は、波形ごとに、非監視消費電力y(t)に対応する合計消費電力y(t)が計測された日付を示している。クラスタ番号は、上記3つのクラスタ1~3のうち、当該波形が分類されたクラスタの番号を示している。
【0081】
パターン選択行列生成部48は、クラスタリング結果を、One-Hot表現に書き換える。One-Hot表現とは、ある要素のみが「1」であり、それ以外の要素が「0」となるベクトル表現である。図9に示すように、各日付のクラスタリング結果は、3つの要素を有するベクトルで表現されている。ベクトルの3つの要素は、3つのクラスタ1~3にそれぞれ対応している。日付ごとに、その波形が分類されたクラスタに対応する要素が「1」(選択状態)に設定され、他の2つの要素が「0」(非選択状態)に設定される。
【0082】
パターン選択行列生成部48は、One-Hot表現されたクラスリング結果を対角行列に変換することにより、パターン選択行列を生成する。パターン選択行列は、One-Hot表現されたクラスタリング結果を対角要素として有している。図10は、図9に示したクラスタリング結果から生成されるパターン選択行列を示す図である。
【0083】
図10に示すように、パターン選択行列は、クラスタ1に対応する選択行列S、クラスタ2に対応する選択行列Sおよびクラスタ3に対応する選択行列Sから構成される。
【0084】
選択行列Sは、S=diag(C)で表現される。Cは、図9に示したOne-Hot表現のうち、クラスタ1に対応する列成分(1,0,0,0,0,・・・)である。diag(C)は、列成分Cを対角要素に代入した対角行列である。
【0085】
選択行列Sは、S=diag(C)で表現される。Cは、図9に示したOne-Hot表現のうち、クラスタ2に対応する列成分(0,1,1,1,0・・・)である。diag(C)は、列成分Cを対角要素に代入した対角行列である。
【0086】
選択行列Sは、S=diag(C)で表現される。Cは、図9に示したOne-Hot表現のうち、クラスタ3に対応する列成分(0,0,0,0,1・・・)である。diag(C)は、列成分Cを対角要素に代入した対角行列である。
【0087】
生成されたパターン選択行列S,S,Sは、寄与度推定部38に入力される。寄与度推定部38は、パターン選択行列S,S,Sを用いて、消費電力を再びモデル化する。次式(7)は、再生成された回帰モデルである。以下では、式(7)に示す回帰モデルを「第2回帰モデル」とも称する。
【0088】
【数7】
【0089】
式(7)の各項目についての説明を図11に示す。式(7)の左辺は、合計消費電力記憶部112に記憶されている合計消費電力y(t)の時系列データから生成された合計電力ベクトルである。
【0090】
式(7)の右辺の第1項は、運転状態記憶部114に記憶されている運転パラメータx(t)の時系列データに基づいて生成された状態行列(運転状態行列)に、対象設備100の寄与度wを乗算したものである、第1項は、対象設備100の消費電力の合計値である合計消費電力X(t)を表している。
【0091】
式(7)の右辺の第2項は、クラスタ1の選択行列Sに、参照信号生成部36で生成された参照信号φ(第1参照信号)に基づいて生成された状態行列(参照信号行列)および、クラスタ1に分類された日における非監視設備102の寄与度c1を乗算したものである。第2項は、クラスタ1に分類される非監視消費電力y(t)を表している。
【0092】
式(7)の右辺の第3項は、クラスタ2の選択行列Sに、参照信号行列および、クラスタ2に分類された日における非監視設備102の寄与度c2を乗算したものである。第3項は、クラスタ2に分類される非監視消費電力y(t)を表している。
【0093】
式(7)の右辺の第4項は、クラスタ3の選択行列Sに、参照信号行列および、クラスタ3に分類された日における非監視設備102の寄与度c3を乗算したものである。第4項は、クラスタ3に分類される非監視消費電力y(t)を表している。
【0094】
このように式(7)に示す第2回帰モデルは、式(4)に示した第1回帰モデルと比較して、非監視消費電力y(t)が、複数のクラスタに分類された非監視消費電力y(t)で表現されている点が異なっている。上述したように、クラスタ数は、複数の非監視設備102の稼働パターンの数を想定して設定されている。すなわち、式(7)に示す回帰モデルでは、非監視消費電力y(t)が、非監視設備102の稼働パターンごとに分類されて表現されている。
【0095】
式(7)に示す第2回帰モデルにおいて、合計消費電力y(t)、対象設備100の運転パラメータx(t)、参照信号φ(t)および選択行列S,S,Sは既知である。寄与度wc1c2c3は未知である。寄与度推定部38は、合計電力ベクトル、運転状態行列および参照信号行列を式(7)に代入し、寄与度wc1c2c3を算出する。この算出には公知の重回帰分析技術を用いることができる。第1回帰モデルを用いて算出された寄与度wは暫定的に推定された「暫定寄与度」に対応する。第2回帰モデルを用いて算出された寄与度wc1c2c3は確定された寄与度である「確定寄与度」に対応する。
【0096】
寄与度推定部38で算出された寄与度wc1c2c3は、寄与度記憶部40に記憶される。これにより寄与度wが確定するとともに、暫定寄与度は確定寄与度c1c2c3に書き換えられる。
【0097】
内訳算出部42は、対象設備100の運転パラメータxに、寄与度記憶部40に記憶されている寄与度wを乗算することにより、第i対象設備100の消費電力を算出する。また、内訳算出部42は、参照信号φ、寄与度c1c2c3を次式(8)に代入することにより、非監視消費電力y(t)を算出する。
【0098】
【数8】
【0099】
式(8)に示すように、非監視消費電力y(t)は、対応するクラスタにおいて「1」(選択状態)となり、かつ、他のクラスタにおいて「0」(非選択状態)となる要素S,S,Sと、複数の参照信号φ(t)と、対応するクラスタにおける非監視設備102の寄与度とを用いて表される。以下では、各要素S,S,Sと複数の参照信号φとの積を「第2参照信号」とも称する。複数のクラスタにそれぞれ対応して複数の第2参照信号が生成される。パターン選択行列生成部48は、複数の第2参照信号を生成するための「第2参照信号生成部」の一実施例に対応する。
【0100】
これにより、サンプリングタイミングtにおける合計消費電力y(t)の内訳が算出される。算出された内訳(各対象設備100の消費電力および非監視消費電力y(t))は、時刻と対応付けられて消費電力記憶部50に記憶される。
【0101】
図12は、式(7)に示す第2回帰モデルを用いた重回帰分析によって推定された対象設備100の消費電力および非監視消費電力yを示すグラフである。図12において、合計消費電力yの実測値を示すグラフ(実線)および非監視消費電力yの実測値を示すグラフ(破線)は何れも、図4のグラフと同じ挙動を示している。
【0102】
図12には、式(7)に示す第2回帰モデルを用いた重回帰分析から算出された第1~第M対象設備100の消費電力の推定値および非監視消費電力yの推定値の波形が示されている。図12では、図4と同様に、非監視消費電力yの推定値の上に、第1~第M対象設備100の消費電力の推定値が積み上げて描画した面グラフが示されている。この面グラフは、各サンプリングタイミングtにおける合計消費電力y(t)の推定値と、この合計消費電力y(t)の内訳とを示している。
【0103】
図12では、図5と比較して、1週間の何れの日においても非監視消費電力yの実績値と非監視消費電力yの推定値との誤差が小さくなっている。具体的には、図12では、1週間分の非監視消費電力yの実績値において、5日間における波形パターンが2日間における波形パターンとは異なっている。これは、5日間と2日間との間で複数の非監視設備102の稼働パターンが異なることによる。図12では、2日間の稼働パターンを稼働パターンAとし、5日間の稼働パターンを稼働パターンBとしている。
【0104】
上述したように、式(7)に示す第2回帰モデルでは、非監視消費電力y(t)が、複数の非監視設備102の稼働パターンごとに分類されて表現されている。そのため、稼働パターンA,Bの各々において、非監視消費電力yを精度良く推定することができる。そして、このように非監視消費電力yを精度良く推定できることによって、対象設備100の消費電力の推定精度も向上している。これは、図12において、非監視消費電力yの推定値と第1~第M対象設備100の消費電力の推定値の合計値との和である合計消費電力yの推定値と、合計消費電力yの実績値との誤差が小さいことからも明らかである。
【0105】
図13は、消費電力の推定精度について、実施の形態1と従来技術とを比較した結果を示す図である。図13(A)は、あるビルの1週間分(2018年2月1日~2月8日)の合計消費電力の内訳についての正解データである。図13(A)には、第1~第M対象設備100の消費電力の実績値および非監視消費電力の実績値に基づいた面グラフが示されている。1週間のうちの5日間は平日であり、残り2日は休日である。各対象設備100の消費電力および非監視消費電力の何れも、平日の実績値は休日の実績値よりも大きい。そのため、平日の合計消費電力は、休日の合計消費電力よりも大きくなっている。なお、消費電力推定装置において実測することができるのは合計消費電力のみである。
【0106】
図13(B)は、従来技術による合計消費電力の内訳の推定結果である。図13(B)の推定結果は、式(4)に示す第1回帰モデルを用いた重回帰分析により得られたものである。すなわち、複数の非監視設備102が単一の稼働パターンを1日ごとに繰り返すことを仮定した回帰モデルを用いた推定結果である。
【0107】
図13(C)は、実施の形態1による合計消費電力の内訳の推定結果である。図13(C)は、式(7)に示す第2回帰モデルを用いた重回帰分析により得られたものである。すなわち、複数の非監視設備102が複数の稼働パターンを有することを仮定した回帰モデルを用いた推定結果である。
【0108】
図13(A)と図13(B)とを比較すると、従来技術では、平日の消費電力は正解データよりも小さい電力に推定される一方で、休日の消費電力は正解データよりも大きい電力に推定されている。そのため、推定精度が悪化している。
【0109】
これに対し、図13(C)に示すように、実施の形態1では、平日および休日の何れにおいても、消費電力と正解データとの誤差が小さくなっている。非監視消費電力の推定精度が向上したことにより、対象設備100の消費電力の推定精度も向上している。
【0110】
<消費電力推定装置の動作>
次に、実施の形態1に係る消費電力推定装置10における消費電力推定処理の手順について説明する。
【0111】
図14は、実施の形態1に係る消費電力推定装置10における消費電力推定処理の手順の一例を示すフローチャートである。
【0112】
図14に示すように、消費電力推定装置10は、最初に、式(4)に示す第1回帰モデルを用いた重回帰分析を行うことにより、消費電力の内訳を暫定的に推定する(ステップS100)。第1回帰モデルは、複数の非監視設備102の稼働パターンが1つであると仮定した回帰モデルである。すなわち、ステップS100では、非監視消費電力yを複数の参照信号φ(第1参照信号)で模擬したうえで、合計消費電力yの時系列データを目的変数とし、複数の対象設備100の運転パラメータxの時系列データおよび複数の参照信号φを説明変数として重回帰分析を行うことにより、各対象設備100の消費電力を暫定的に推定する。
【0113】
図15は、図14のステップS100の詳細な処理手順を示すフローチャートである。
図15に示すように、消費電力推定装置10は、最初に、合計消費電力y(t)の時系列データに基づいて、合計電力ベクトルを生成する(ステップS10)。また、消費電力推定装置10は、複数の対象設備100の運転パラメータx(t)の時系列データに基づいて運転状態行列を生成するとともに、参照信号φ(t)に基づいて参照信号行列を生成する(ステップS11)。
【0114】
消費電力推定装置10は、生成された合計電力ベクトルおよび状態行列(運転状態行列および参照信号行列)を式(4)に示す第1回帰モデルに適用する。消費電力推定装置10は、式(4)に示す第1回帰モデルを用いた重回帰分析を行うことにより、寄与度w(暫定寄与度)を算出する(ステップS12)。
【0115】
次に、消費電力推定装置10は、算出された寄与度wを用いて、合計消費電力の内訳を暫定的に推定する。具体的には、消費電力推定装置10は、第i対象設備100の運転パラメータx(t)の時系列データに寄与度wを乗算することにより、第i対象設備100の消費電力を暫定的に算出する(ステップS13)。また、消費電力推定装置10は、式(3)に参照信号φ(t)および寄与度を代入することにより、非監視消費電力y(t)を暫定的に算出する(ステップS14)。
【0116】
第1~第M対象設備100の消費電力および非監視消費電力y(t)が暫定的に算出されると、消費電力推定装置10は、式(1)に従って、第1~第M対象設備100の消費電力の合計値である対象消費電力X(t)を算出する(ステップS15)。算出された対象消費電力X(t)は、式(4)に示す第1回帰モデルを用いた重回帰分析による、対象消費電力X(t)の推定値に相当する。
【0117】
図14に戻って、次に、消費電力推定装置10は、S100で得られた消費電力の内訳の暫定的な推定結果に基づいて、非監視消費電力yを再定義する(ステップS200)。ステップS200では、消費電力推定装置10は、式(6)に従って、合計消費電力y(t)の実測値から、S100の推定処理で得られた対象消費電力X(t)の推定値を減算することにより、非監視消費電力y(t)を算出する。
【0118】
次に、消費電力推定装置10は、再定義された非監視消費電力y(t)の時系列データを、類似する波形パターン同士に分類(クラスタリング)する(ステップS300)。ステップS300では、図8に示した処理手順に従って、消費電力推定装置10は、非監視消費電力y(t)の時系列データを所定時間(24時間)ごとの複数の波形に分割さする。そして、消費電力推定装置10は、波形同士の類似度に基づいて、複数の波形を所定数のクラスタに分類する。
【0119】
消費電力推定装置10は、S300で得られたクラスタリング結果に基づいて、パターン選択行列を生成する(ステップS400)。S400では、図9および図10に示したように、消費電力推定装置10は、One-Hot表現されたクラスタリング結果を対角行列に変換することにより、クラスタ数に応じた所定数のパターン選択行列を生成する。消費電力推定装置10は、生成されたパターン選択行列および複数の参照信号φに基づいて、複数のクラスタにそれぞれ対応する複数の第2参照信号を生成する。
【0120】
消費電力推定装置10は、生成されたパターン選択行列、合成電力ベクトルおよび状態行列(運転状態行列および参照信号行列)を用いて、式(7)に示す第2回帰モデルを生成する。第2回帰モデルは、複数の非監視設備102の稼働パターンが複数であると仮定した回帰モデルである。消費電力推定装置10は、生成された第2回帰モデルを用いて再度重回帰分析を行うことにより、各対象設備100の消費電力を推定する(ステップS500)。
【0121】
図16は、図15のステップS500の詳細な処理手順を示すフローチャートである。
図16に示すように、消費電力推定装置10は、S100で生成された合計電力ベクトルおよび状態行列(運転状態行列および参照信号行列)と、S400で生成されたパターン選択行列とを式(7)に示す第2回帰モデルに適用する。消費電力推定装置10は、式(7)に示す第2回帰モデルを用いた重回帰分析を行うことにより、寄与度wc1c2c3(確定寄与度)を算出する(ステップS50)。
【0122】
消費電力推定装置10は、算出された寄与度wc1c2c3を寄与度記憶部40に記憶する(ステップS51)。
【0123】
消費電力推定装置10は、寄与度記憶部40に記憶された寄与度wc1c2c3を用いて、合計消費電力の内訳を推定する。具体的には、消費電力推定装置10は、内訳を推定したい期間中に取得された複数の対象設備100の運転パラメータx(t)の時系列データを読み込む(ステップS52)。また、消費電力推定装置10は、寄与度記憶部40に記憶されている寄与度wc1c2c3を読み込む(ステップS53)。
【0124】
次に、消費電力推定装置10は、第i対象設備100の運転パラメータx(t)に寄与度wを乗算することにより、第i対象設備100の消費電力を算出する(ステップS54)。また、消費電力推定装置10は、式(8)に参照信号φ(t)および寄与度c1c2c3を代入することにより、非監視消費電力y(t)を算出する(ステップS55)。消費電力推定装置10は、算出された第1~第M対象設備100の消費電力および非監視消費電力y(t)を消費電力記憶部50に記憶する(ステップS56)。
【0125】
以上説明したように、実施の形態1に係る消費電力推定装置によれば、複数の非監視設備102が有する複数の稼働パターンに応じて変動する非監視消費電力を精度良く推定することができる。そして、このように非監視消費電力を精度良く推定できることにより、各対象設備の消費電力を精度良く推定することができる。
【0126】
さらに、実施の形態1に係る消費電力推定装置によれば、合計消費電力の時系列データを、複数の非監視設備102が有する複数の稼働パターンに合わせて複数のデータに分離しておく必要がない。したがって、実施の形態1に係る消費電力推定装置によれば、従来技術と同様に、合計電力ベクトルおよび状態行列を回帰モデルに適用することにより、各対象設備100および複数の非監視設備102の寄与度を求めることができる。
【0127】
[実施の形態2]
図17は、実施の形態2に係る消費電力推定装置10の機能構成を示すブロック図である。実施の形態2に係る消費電力推定装置10は、図2に示す実施の形態1に係る消費電力推定装置10に対し、推定結果評価部52を追加したものである。実施の形態1に係る消費電力推定装置10と共通する部分についての説明は省略する。
【0128】
推定結果評価部52は、式(7)に示す第2回帰モデルを用いた消費電力の内訳の推定結果を評価する。具体的には、推定結果評価部52は、クラスタごとに、非監視消費電力yの推定値と第1~第M対象設備100の消費電力の推定値の合計値との和である合計消費電力yの推定値と、合計消費電力yの実測値との誤差を算出する。推定結果評価部52は、算出された誤差と予め設定された閾値とを比較する。
【0129】
推定結果評価部52は、複数のクラスタの全てにおいて誤差が閾値以下である場合には、消費電力の内訳の推定結果の精度が高いと判断する。この場合、推定結果評価部52は、内訳算出部42により算出された第1~第M対象設備100の消費電力および非監視消費電力y(t)を消費電力記憶部50に記憶する。
【0130】
これに対して、複数のクラスタの少なくとも1つにおいて誤差が閾値よりも大きい場合には、推定結果評価部52は、消費電力の内訳の推定結果の精度が低いと判定する。この場合、消費電力推定装置10は、複数の非監視設備102の稼働パターンに応じて非監視消費電力y(t)の時系列データが適切に分類されていないと判定する。そこで、消費電力推定装置10は、誤差が閾値を超えているクラスタに対して、さらにクラスタリングを行うことにより、当該クラスタを複数のクラスタに分類する。
【0131】
具体的には、クラスタリング部46は、非監視消費電力算出部44により再定義された非監視消費電力y(t)の時系列データのうち、誤差が閾値を超えているクラスタに分類されている複数の波形に対して、波形同士の類似度に基づいて分類(クラスタリング)する。クラスタリングは、図8のステップS31,S32と同様の手順に従って実行することができる。これにより、誤差が閾値を超えているクラスタは複数のクラスタに細分化される。その結果、非監視消費電力y(t)の時系列データは、元のクラスタ数よりも多い個数のクラスタに分類される。
【0132】
波形ごとに、日付とクラスタ番号とが対応付けられたクラスタリング結果が得られると、パターン選択行列生成部48は、クラスタリング結果を、One-Hot表現に書き換える。パターン選択行列生成部48は、One-Hot表現されたクラスリング結果を対角行列に変換することにより、パターン選択行列を生成する。図10に示したように、パターン選択行列は、One-Hot表現されたクラスタリング結果を対角要素として有している。パターン選択行列は、細分化された複数のクラスタにそれぞれ対応する複数の選択行列から構成される。
【0133】
生成されたパターン選択行列は、寄与度推定部38に入力される。寄与度推定部38は、パターン選択行列を用いて消費電力を再びモデル化する。これにより、第2回帰モデルが再生成される。
【0134】
寄与度推定部38は、合計電力ベクトル、運転状態行列および参照信号行列を再生成された第2回帰モデルに代入し、寄与度wc1c2c3,・・・,cnを算出する。なお、nは細分化されたクラスタ数である。
【0135】
寄与度推定部38で算出された寄与度度wc1c2c3,・・・,cnは、寄与度記憶部40に記憶される。
【0136】
内訳算出部42は、対象設備100の運転パラメータxに、寄与度記憶部40に記憶されている寄与度wを乗算することにより、第i対象設備100の消費電力を算出する。また、内訳算出部42は、参照信号φ、寄与度c1c2c3,・・・,cnを次式(9)に代入することにより、非監視消費電力y(t)を算出する。
【0137】
【数9】
【0138】
これにより、サンプリングタイミングtにおける合計消費電力y(t)の内訳が算出される。推定結果評価部52は、再生成された第2回帰モデルを用いた消費電力の内訳の推定結果を評価する。上述したように、推定結果評価部52は、クラスタごとに、非監視消費電力yの推定値と第1~第M対象設備100の消費電力の推定値の合計値との和である合計消費電力yの推定値と、合計消費電力yの実測値との誤差を算出する。推定結果評価部52は、算出された誤差と予め設定された閾値とを比較する。
【0139】
推定結果評価部52は、複数のクラスタの全てにおいて誤差が閾値以下である場合には、消費電力の内訳の推定結果の精度が高いと判断する。この場合、推定結果評価部52は、内訳算出部42により算出された第1~第M対象設備100の消費電力および非監視消費電力y(t)を消費電力記憶部50に記憶する。
【0140】
これに対して、複数のクラスタの少なくとも1つにおいて誤差が閾値よりも大きい場合には、推定結果評価部52は、消費電力の内訳の推定結果の精度が低いと判定する。この場合、消費電力推定装置10は、複数の非監視設備102の稼働パターンが適切に分類されていないと判定し、誤差が閾値を超えているクラスタに対して、さらにクラスタリングを行うことにより、当該クラスタを複数のクラスタに分類する。
【0141】
消費電力推定装置10は、複数のクラスタの全てにおいて誤差が閾値以下となるまで、クラスタリング、クラスタリング結果に基づく第2回帰モデルの再生成、消費電力の内訳の推定、および推定結果の評価を繰り返し実行する。これにより、最適なクラスタ数を求めることができる。その結果、最適な稼働パターン数に基づいて非監視消費電力を精度良く推定することができるため、各対象設備100の消費電力の推定精度を向上させることができる。
【0142】
<消費電力推定装置の動作>
次に、実施の形態2に係る消費電力推定装置10における消費電力推定処理の手順について説明する。
【0143】
図18は、実施の形態2に係る消費電力推定装置10における消費電力推定処理の手順の一例を示すフローチャートである。図18に示すフローチャートは、図14に示すフローチャートに対し、ステップS600の処理を追加したものである。
【0144】
図18に示すように、消費電力推定装置10は、S500により、生成された第2回帰モデルを用いて、各対象設備100の消費電力を重回帰分析により推定すると、クラスタごとに、合計消費電力yの内訳の推定結果を評価する(ステップS600)。
【0145】
図19は、図18のステップS600の詳細な処理手順を示すフローチャートである。
図19に示すように、消費電力推定装置10は、複数のクラスタ1~3の各々について、非監視消費電力yの推定値と、第1~第M対象設備100の消費電力の推定値の合計値(対象消費電力X)とを加算することにより、合計消費電力yの推定値を算出する(ステップS60)。
【0146】
次に、消費電力推定装置10は、各クラスタについて、算出された合計消費電力yの推定値と、合計消費電力の実測値との誤差を算出する(ステップS61)。消費電力推定装置10は、各クラスタについて、算出された誤差と予め定められた閾値とを比較する(ステップS62)。S62では、消費電力推定装置10は、複数のクラスタ1~3の中に、誤差が閾値よりも大きいクラスタが存在しているか否かを判定する。複数のクラスタ1~3の何れにおいても誤差が閾値以下である場合、S62はNO判定とされ、ステップS600の処理が終了する。
【0147】
一方、複数のクラスタ1~3の少なくとも1つにおいて、誤差が閾値よりも大きい場合、S62はYES判定とされ、ステップS63以降の処理が実行される。
【0148】
具体的には、消費電力推定装置10は、非監視消費電力y(t)の時系列データから、誤差が閾値よりも大きいクラスタに分類された複数の波形を抽出する。消費電力推定装置10は、抽出した複数の波形を、波形同士の類似度に基づいて複数のクラスタにさらに分類する(ステップS63)。
【0149】
次に、消費電力推定装置10は、S63で得られたクラスタリング結果に基づいて、パターン選択行列を生成する(ステップS64)。S64では、消費電力推定装置10は、One-Hot表現されたクラスタリング結果を対角行列に変換することにより、クラスタ数に応じた所定数のパターン選択行列を生成する。消費電力推定装置10は、生成されたパターン選択行列および複数の参照信号φに基づいて、細分化された複数のクラスタにそれぞれ対応する複数の第2参照信号を生成する。
【0150】
消費電力推定装置10は、生成されたパターン選択行列、合成電力ベクトルおよび状態行列(運転状態行列および参照信号行列)を用いて、式(7)に示す第2回帰モデルを修正することにより、第2回帰モデルを再生成する。再生成された第2回帰モデルは、複数の非監視設備102の稼働パターン数を増加させた回帰モデルである。消費電力推定装置10は、再生成された第2回帰モデルを用いて、各対象設備100の消費電力を重回帰分析により推定する(ステップS65)。
【0151】
S65によって消費電力の内訳が推定されると、消費電力推定装置10は、S60の処理に戻り、再び合計消費電力yの内訳の推定結果を評価する。消費電力推定装置10は、S62において複数のクラスタの全てにおいて誤差が閾値以下と判定されるまで(S62のNO判定)、S60~S65の処理を繰り返し実行する。
【0152】
以上説明したように、実施の形態2に係る消費電力推定装置10によれば、複数の非監視設備102の稼働パターンに応じた最適なクラスタ数で非監視消費電力の時系列データのクラスタリングを行うことができる。これにより、複数の非監視設備102の稼働パターンが適切に模擬された回帰モデルを用いて重回帰分析を行うことができるため、非監視消費電力の推定精度を向上させることができる。その結果、各対象設備の消費電力の推定精度を向上させることができる。
【0153】
[実施の形態3]
上述した実施の形態1,2では、複数の非監視設備102が単一の稼働パターンを有すると仮定した場合の非監視消費電力y(t)を、複数の参照信号φで模擬する構成例について説明した。実施の形態3では、非監視消費電力y(t)が常に一定であるとみなし、非監視消費電力y(t)を定数項で模擬する構成例について説明する。
【0154】
図20は、実施の形態3に係る消費電力推定装置の機能構成を示すブロック図である。実施の形態3に係る消費電力推定装置10は、図2に示す実施の形態1に係る消費電力推定装置10における参照信号生成部36を、参照信号生成部36Aに置き換えたものである。実施の形態1に係る消費電力推定装置10と共通する部分についての説明は省略する。
【0155】
実施の形態3に係る消費電力推定装置10は、第1回帰モデルにおいて、非監視消費電力y(t)を、既知の定数項Rで表現する。定数項Rは0または正値に設定される。参照信号生成部36Aは、第1参照信号として、定数項Rを生成する。実施の形態3では、サンプリングタイミングtにおける合計消費電力y(t)は、次式(10)のように表される。
【0156】
【数10】
【0157】
式(10)は、T>M+1であれば解くことができる。そして、各対象設備100の運転パラメータxi(t)に、算出された寄与度wiを乗算することにより、サンプリングタイミングtにおける第i対象設備100の消費電力を算出できる。
【0158】
ただし、式(10)の第1回帰モデルは、非監視消費電力y(t)を一定値とみなすため、式(4)に示す第1回帰モデルと比較して、非監視消費電力y(t)の推定値と実績値との誤差がさらに大きくなる。
【0159】
そのため、実施の形態3においても、実施の形態1と同様に、消費電力推定装置10は、式(10)に示す第1回帰モデルを用いた重回帰分析から求められた合計消費電力yの推定値と、電力量メータ104により計測される合計消費電力yの実績値との差分を利用して、非監視消費電力yを再定義する。
【0160】
具体的には、非監視消費電力算出部44は、内訳算出部42によってサンプリングタイミングtにおける合計消費電力y(t)の内訳が暫定的に算出されると、式(6)を用いて、合計消費電力y(t)から対象消費電力X(t)の推定値を減算することにより、非監視消費電力y(t)を求める。クラスタリング部46は、再定義された非監視消費電力y(t)の時系列データを、類似する波形パターン同士に分類(クラスタリング)する。
【0161】
パターン選択行列生成部48は、クラスタリング結果をOne-Hot表現に書き換えることにより、パターン選択行列を生成する。寄与度推定部38は、生成されたパターン選択行列を用いて、式(7)に示す第2回帰モデルを生成する。寄与度推定部38は、合計電力ベクトル、運転状態行列および参照信号行列を第2回帰モデルに代入し、寄与度wc1c2c3を算出する。寄与度推定部38で算出された寄与度度wc1c2c3は、寄与度記憶部40に記憶される。
【0162】
内訳算出部42は、対象設備100の運転パラメータxに、寄与度記憶部40に記憶されている寄与度wを乗算することにより、第i対象設備100の消費電力を算出する。また、内訳算出部42は、参照信号φ、寄与度c1c2c3を式(8)に代入することにより、非監視消費電力y(t)を算出する。
【0163】
以上説明したように、実施の形態3に係る消費電力推定装置においても、実施の形態1に係る消費電力推定装置と同様の効果を得ることができる。
【0164】
なお、上述した実施の形態について、明細書内で言及されていない組み合わせを含めて、不都合または矛盾が生じない範囲内で、実施の形態で説明された構成を適宜組み合わせることは出願当初から予定されている。
【0165】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明は上記した説明ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0166】
10 消費電力推定装置、14 記憶装置、16 入力装置、18 出力装置、22 データバス、32 合計電力ベクトル生成部、34 状態行列生成部、36,36A 参照信号生成部、38 寄与度推定部、40 寄与度記憶部、42 内訳算出部、44 非監視消費電力算出部、46 クラスタリング部、48 パターン選択行列生成部、50 消費電力記憶部、100 対象設備、102 非監視設備、103 電力供給ライン、104 電力量メータ、106 電源、110 建物管理システム、112 合計消費電力記憶部、114 運転状態記憶部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20