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特許7391300食品中に含まれる希少糖の検出方法および簡易検出キット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-27
(45)【発行日】2023-12-05
(54)【発明の名称】食品中に含まれる希少糖の検出方法および簡易検出キット
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/02 20060101AFI20231128BHJP
【FI】
G01N33/02
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020040060
(22)【出願日】2020-03-09
(65)【公開番号】P2021139849
(43)【公開日】2021-09-16
【審査請求日】2023-02-02
(73)【特許権者】
【識別番号】304028346
【氏名又は名称】国立大学法人 香川大学
(73)【特許権者】
【識別番号】592167411
【氏名又は名称】香川県
(74)【代理人】
【識別番号】100123984
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 晃伸
(74)【代理人】
【識別番号】100102314
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 阿佐子
(74)【代理人】
【識別番号】100159178
【弁理士】
【氏名又は名称】榛葉 貴宏
(74)【代理人】
【識別番号】100206689
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 恵理子
(72)【発明者】
【氏名】吉原 明秀
(72)【発明者】
【氏名】望月 進
(72)【発明者】
【氏名】加藤 志郎
(72)【発明者】
【氏名】秋光 和也
(72)【発明者】
【氏名】何森 健
(72)【発明者】
【氏名】稲津 忠雄
(72)【発明者】
【氏名】三好 美玖
【審査官】倉持 俊輔
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/057600(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/189422(WO,A1)
【文献】米国特許第04980186(US,A)
【文献】Miku MIYOSHI,et al.,High Sensitivity Analysis and Food Processing Stability of Rare Sugars,Food Science and Technology Rsearch,日本,2019年,25(6),891-901
【文献】三好美玖,外2名,食品に含まれる希少糖の分析,香川県産業技術センター研究報告,日本,2018年,18号,p.4-5
【文献】大島久華,外1名,食品に含まれる希少糖類の高感度分析法の確立,香川県産業技術センター研究報告,日本,2013年,13号,p.100-102
【文献】福井作蔵,還元糖の定量法III,化学と生物,日本,1965年,Vol.3,No.10,p549-556
【文献】Shoichi YASUNO,et al.,Two-mode Analysis by High-performance Liquid Chromatography of p-Aminobenzoic Ethyl Ester-derivatized Monosaccharides,Biosci.Biotech.Biochem,日本,1997年,61(11),1944-1946
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/38
G01N 31/00
G01N 33/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
品に含まれる希少糖の検出用水溶液を用いて、酵母による糖資化工程を経て、食品から抽出した希少糖を、システイン・カルバゾール硫酸法により検出することを特徴とする、食品中に含まれる希少糖の検出方法であって、
前記検出用水溶液は、食品試料と純水の混合物の電子レンジ加熱水溶液からなる、検出方法
【請求項2】
希少糖が、L-ソルボース、D-アロース、D-タガトースおよびD-プシコースから選ばれる1種又は2種以上の希少糖であることを特徴とする請求項に記載の検出方法。
【請求項3】
システイン・カルバゾール硫酸法に代えて、D-タガトース3-エピメラーゼとD-フルクトースデヒドロゲナーゼとを用いて、D-アルロースを定量することを特徴とする請求項1または2に記載の検出方法。
【請求項4】
システイン・カルバゾール硫酸法に加えて、ABEE試薬を用いて、D-アルドヘキソースおよび/またはD-ケトヘキソースを検出することを特徴とする請求項1または2に記載の検出方法。
【請求項5】
食品からの希少糖の抽出用純水と、
電子レンジ対応透明容器と、
パン酵母と、
システイン・カルバゾール硫酸法のための試薬と、
を備えたことを特徴とする、食品に含まれる希少糖の簡易検出キット。
【請求項6】
システイン・カルバゾール硫酸法のための試薬に代えて、あるいは該試薬に加えて、D-タガトース3-エピメラーゼおよびD-フルクトースデヒドロゲナーゼを備えたことを特徴とする、請求項に記載の食品に含まれる希少糖の簡易検出キット。
【請求項7】
システイン・カルバゾール硫酸法のための試薬に加えて、ABEE試薬を備えたことを特徴とする、請求項に記載の食品に含まれる希少糖の簡易検出キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品中に含まれる希少糖の検出方法および簡易検出キットに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、セルフメディケーションの意識の高まりにより、日常生活において健康を増進する食材を積極的に摂取する傾向にある。一方、炭水化物や糖質は、多大なカロリーを有するイメージから摂取を控えるようになり「糖質ダイエット」と称される食事制限が社会的なブームとなっている。
低炭水化物ダイエットは、肥満や糖尿病の治療を目的として炭水化物の摂取比率や摂取量を制限する食事療法の一種であり、「低糖質食」「糖質制限食」、「炭水化物制限食」「ローカーボ・ダイエット」とも呼ばれる。炭水化物が多いものを避けるか、その摂取量を減らす代わりに、タンパク質と脂肪が豊富な食べ物を積極的に食べる食事法である。「とりあえず糖質を制限すればいい」と安易に実践すると、間違ったやり方による悪影響が出てしまう恐れがあると指摘されている。
糖質の量を1日50g(茶わん1杯程度)以下にすると、肝臓は脂肪酸からケトン体を生成するといわれており、ケトン体自体は、現在、人体にとって良い・悪いの両論があり、医学界で糖質制限ダイエットの賛否が分かれる原因ともなっている。いずれにしても、極端な糖質制限ダイエットをすることは、将来、体に及ぼすリスクが未知数であることを知って、肥満や糖尿病でない人は、緩やかで長期的な、通常の食事を摂取しながら体重の増加を抑制できる「カロリーバランス食品」への関心が高まっている。
このような状況から、食後血糖値抑制作用や抗肥満作用、ノンカロリーなどの機能が解明されてきている希少糖に対する期待が高まっている。希少糖は、従来、自然界に微量しか存在しない単糖であったが、すべての希少糖生産の根幹原料となるD-プシコース(D-アルロース)の大量生産技術が確立し、入手困難であった希少糖の生産が可能となった。D-プシコースはさらに酵素反応によってD-アロースなどの新たな希少糖の生産へと展開することが想定される。
香川県では、希少糖の生産技術の確立(非特許文献1)とともに、それらの機能を解明して事業化に連結するプロジェクトが産学官連携で進められてきた。特に希少糖類の出発物質となる希少糖D-プシコースは、食後血糖値抑制作用(非特許文献2、3)、抗肥満作用(非特許文献4)、ノンカロリー(非特許文献5)など、様々な機能が解明され、食後血糖値上昇抑制効果を利用した特定保健用食品(トクホ)への申請が行われている。また、D-プシコースを含む希少糖含有異性化糖〔例えば、レアシュガースウィート(松谷化学工業)の機能性表示食品として〕の販売も行われ、様々な食品に利用されている。
このように、希少糖は、「カロリーバランス食品」の素材として優れており、特に希少糖含有異性化糖は、砂糖の代替として活用することで、有意に体重減少効果がみられることから、健康増進に訴求(宣伝・広告などで、消費者が買う気を起こすよう訴えかけること)した商品として幅広く販売されようとしている。2019年4月には米食品医薬品局(FDA)がプシコースを「糖類」から除外する方針を示した。米国の一部地域が導入する砂糖飲料税の対象甘味料から外れることで、需要増が期待され、メキシコに新設する専用工場で希少糖の製造を始めて増産に向かっている。海外での需要拡大に加え機能性表示食品として国内での認知が進むことにより、希少糖の普及に弾みがつく可能性がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】J.Biosci.Bioeng.,90,453-455 (2000).
【文献】Biosci.Biotechnol.Biochem.,70(9),2081-2085(2006).
【文献】J.Nutr.Sci.Vitaminol.,54,511-514(2008).
【文献】J.Clin.Biochem.Nutr.,30,55-65(2001).
【文献】Metabolism.,59,20-214(2010).
【文献】International Jounal of Food Science., 2015, (2015) .
【文献】F.S.T.R.,12,137-143(2006).
【文献】香川県産業技術センター研究報告,7,64-66(2006)
【文献】Tech.Bull.Fac.Agr. kagawa Univ..60,47-52(2008).
【文献】J.Biochem.147(4),501-509(2010).
【文献】F.S.T.R.,25, 891-901(2019).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
食品表示法の施行に基づき、原則として、一般用加工食品及び一般用の添加物には栄養成分表示が義務付けられており、能性表示食品として希少糖が普及するに伴い、各生産者および/または販売者は、希少糖の含有量を正確に表示することが必要となった。ところが、希少糖D-プシコースの安定性について、加工工程において低い温度、低いpHおよび短時間の加熱状態であった場合には安定であるが、高い温度、高いpHもしくは長時間の加熱を受けた場合には、着色物質メラノイジンとして変化することで、抗酸化剤、殺菌剤、抗アレルギー剤といった食品に機能性を付与するとともに、香りの形成や食品の風味を向上させることが知られている(非特許文献6)。希少糖は原料で用いたものがそのままの形態で製品の中に含有されているわけではないので、「希少糖入り食品」を製造する企業では、食品中の希少糖含量の測定に強い関心を示している。また、消費者も、希少糖の健康機能が報道される度に「希少糖入り食品」に含まれる希少糖量に高い関心を示し、その含有量が表示されることを強く望んでいる。今後、当該食品を製造する関連企業は、「希少糖入り食品」の普及や周知に伴い、希少糖含有量を明らかにしようとするはずであり、簡便にルーチン作業として希少糖を分析できるキットの入手ということが最も重要になる。
【0005】
香川県産業技術センターでは、希少糖D-プシコースの食品への事業化を支援するために、食品に含まれるD-プシコースを高感度で定量的に分析できる方法を確立し、その食経験を明らかにしてきた(非特許文献7、8)。現在、D-プシコースに続く希少糖D-アロースの開発にも期待が寄せられているが、D-アロースの食経験は未だ明らかになっていない。その理由として、従来のHPLC条件(非特許文献7、9、10)においては、D-プシコースを除く微量の希少糖類(L-ソルボース、D-アロース及びD-タガトース)と食品中に多量に存在する糖(シュクロース、D-グルコース、及びD-フルクトース)の保持時聞が近接していることが挙げられる。そのため、食品中の多量の糖質が妨害ピークとなり、希少糖類を精度よく分離できない現状がある。また、非特許文献7、8のカラム(Hitach GL-C611 ;日立化成株式会社製)では希少糖類のD-アロースとD-タガトースを分離することはできなかった。
非特許文献7、8の配位子交換カラムでは、鉛イオンをカウンターイオンとし、D-アルロースとD-タガトースとの分離を可能にするものであったが、特許文献6の分析法では高感度検出器のパルスアンペロメトリック検出器(PAD)を用いた分析法であるため、鉛イオンが化学電極である金電極に影響を及ぼすため使用することができなかったからである。
その後、高感度の検出能を有しカウンターイオンとして鉛イオンの配位子交換カラムを使用できるコロナ荷電粒子検出器を備えたHPLC装置を用いて食品に含まれる天然の糖類と希少糖含有シロップに含有される希少糖4種類の分離を検討し、全ての糖を相互に分離することを可能にした(非特許文献11)。しかしながら当該検出装置は高額であることから一般的な企業が容易に購入できるものではなく、さらに機器の操作には専門的な知識を備えていることが要求されている。
【0006】
希少糖入り食品中の希少糖を検出するには、食品中の希少糖を高い回収率で取り出す(抽出)ことが求められ、特殊な機器と専門的な知識を要することが分析する上での大きな課題となっている。糖の分析法は還元力や構造に基づく比色法(システイン―カルバゾール法等)が一般的であるが、選択性が低く希少糖と天然の糖を分別して分析することはできない。一方、希少糖を特異的に分析するためには、紙を媒体とするペーパークロマトグラフィーや高速液体クロマトグラフィー(HPLC)等によって、天然の糖と分別する必要があるが、食品原料や加工食品等は、天然の糖類を多量に含んでいることから、クロマトグラフィーによって希少糖を選択的に分析する必要があり、これが測定操作を煩雑にしているとともに、分析操作には専門的な知識と技能を要することから、これまで食品製造企業従事者が簡便に希少糖含量を分析することは困難であった。
【0007】
本発明の目的は、希少糖入り食品に含まれる希少糖を、高額な機器や専門的な知識を有しなくても分析できる簡易な希少糖分析キットを作成することであり、(1)希少糖入り食品から簡便に抽出液を調製する方法、および(2)パン酵母で抽出液中に希少糖のみを残存させる方法を(3)簡便なキットとして提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明では、「希少糖入り食品」中の希少糖を分析するため、食品から希少糖を効率よく抽出するとともに希少糖のみを分別分析する技術の確立を目的とした。特に、高額な機器を使用する従来の煩雑な分析法に代えて、簡便で安易な操作で「希少糖入り食品」中の希少糖の選択的な分析手法を確立するとともに簡易測定キットを完成したものである。
【0011】
本発明は、以下の()ないし()の食品に含まれる希少糖の検出方法を要旨とする。
品に含まれる希少糖の検出用水溶液を用いて、酵母による糖資化工程を経て、食品から抽出した希少糖を、システイン・カルバゾール硫酸法により検出することを特徴とする、食品中に含まれる希少糖の検出方法であって、前記検出用水溶液は、食品試料と純水の混合物の電子レンジ加熱水溶液からなる、検出方法
)希少糖が、L-ソルボース、D-アロース、D-タガトースおよびD-プシコースから選ばれる1種又は2種以上の希少糖であることを特徴とする上記()に記載の検出方法。
)システイン・カルバゾール硫酸法に代えて、D-タガトース3-エピメラーゼとD-フルクトースデヒドロゲナーゼとを用いて、D-アルロースを定量することを特徴とする上記(または(2)に記載の検出方法。
)システイン・カルバゾール硫酸法に加えて、ABEE試薬を用いて、D-アルドヘキソースおよび/またはD-ケトヘキソースを検出することを特徴とする上記()または()に記載の検出方法。
【0012】
本発明は、以下の(ないし(7)の食品に含まれる希少糖の簡易検出キットを要旨とする。
)食品からの希少糖の抽出用純水と、電子レンジ対応透明容器と、パン酵母と、システイン・カルバゾール硫酸法のための試薬と、を備えたことを特徴とする、食品に含まれる希少糖の簡易検出キット。
)システイン・カルバゾール硫酸法のための試薬に代えて、あるいは該試薬に加えて、D-タガトース3-エピメラーゼおよびD-フルクトースデヒドロゲナーゼを備えたことを特徴とする、上記()に記載の食品に含まれる希少糖の簡易検出キット。
)システイン・カルバゾール硫酸法のための試薬に加えて、ABEE試薬を備えたことを特徴とする、上記(5)に記載の食品に含まれる希少糖の簡易検出キット。
【発明の効果】
【0013】
本発明の食品中に含まれる希少糖の検出方法および簡易検出キットにより、食品中の希少糖類(L-ソルボース、D-アロース、D-タガトースおよびD-プシコース)の分析方法を確立することができた。当該キットを希少糖食品製造企業に普及することにより、「希少糖入り食品」の品質管理が行われることで製品中の希少糖量が明らかとなり正確な情報を消費者に提供することができる。製品中の希少糖量の正確な表示は、人類への大きな寄与が期待される希少糖をこれまで以上に普及することができて、健康と社会の発展に寄与するとともに、「香川の希少糖ブランド」の確立が期待される。
また食品産業面での活用のみならず、教育現場における学習教材「簡易希少糖検出キット」としての利用も想定され、簡易希少糖検出キット・食品中の希少糖の簡易分析および教育現場における学習教材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】従来の超音波抽出法と、本実施例の電子レンジでの加熱抽出法による、食品試料からの可溶性糖の抽出結果の示すグラフである。
図2】酵母処理反応前の1%RSS溶液の糖組成の分析結果を示す図である。
図3】酵母処理反応後の1%RSS反応液の糖組成の分析結果を示す図である。
図4】酵母処理反応前の1%HFCS溶液の糖組成の分析結果を示す図である。
図5】酵母処理反応後の1%HFCS反応液の糖組成の分析結果を示す図である。
図6】吸光波長580nmの吸光度における検量線の一例を示す図である。
図7】1%RSS反応液および1%HFCS反応液のシステイン・カルバゾール法での測定結果を示す図である。
図8】乾燥酵母添加量に応じた5%スクロース水溶液の資化挙動を示すグラフである。
図9】D-フルクトースデヒドロゲナーゼ(FDH)の基質特異性を示す図である。
図10】D-フルクトースを硫酸第二鉄-SDS溶液を用いて検量した検量線を示すグラフである。
図11】硫酸第二鉄-SDS溶液500μlを添加した後の1%RSS反応液を示す図である。
図12】アルドヘキソースの定量結果を示すグラフである。
図13】ケトヘキソースの定量結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は希少糖の簡易検出キットを開発したものである。詳細には「希少糖入り食品」に蒸留水を添加後、家庭用電子レンジを用いて抽出液(希少糖及び天然の糖を含む)を調製し、これに市販のパン酵母菌を添加することで天然の糖を除去することにより、希少糖(D-アルロース(プシコース)等)を溶液中に残存させる。次に糖に発色反応を示す比色法等によって、酵母菌処理液中に残存する希少糖を検出、定量する一式の試薬と器具が梱包されたキットに関するものである。
【0016】
[容器]
耐熱性の高い樹脂容器を使用する。耐薬品性にも優れており、非常に軽く、持続的な荷重を高温で与えた場合の変形や損傷が少ないため、注射器、ビーカー、シャーレ、メスシリンダーなど、従来ガラスで作られていたものを転化したものとできる。すなわち、医療用機器や理化学機器で広く使用されているこの丈夫で安全な素材を、食品容器に活用している。
【0017】
[システイン・カルバゾール硫酸法]
糖のなかでも、ケトースに対して特異性を示す反応であり、ケトースと硫酸との反応により生じる物質(フルフラール同族体)がシステインのSH試薬と反応して赤紫色の呈色物質(フラン誘導体)に変化し、その呈色度から糖を定量する方法である。
【0018】
[D-タガトース3-エピメラーゼとD-フルクトースデヒドロゲナーゼとを用いたD-アルロースの定量]
酵母処理した後の糖液にD-タガトース3-エピメラーゼを作用さえD-フルクトースを生成させ、その生成したD-フルクトースをD-フルクトースデヒドロゲナーゼにより酸化させることでプルシャンブルーを生成し、660nmの吸光度で測定することでD-アルロースから出来たD-フルクトースを定量する。
【0019】
[ABEE標識を用いた単糖の高感度分析]
希少糖の微量検出法として4-アミノ安息香酸エチルエステル(ABEE)を単糖の還元末端に還元アミノ化反応により付加した分析である。ABEE標識を用いた希少糖の検出法は、HPLCを行う必要があるが、システイン・カルバゾール法で検出できない微量の希少糖を検出する場合に有用であり、システイン・カルバゾール法による希少糖の検出と組み合わせることで、食品中に含まれる希少糖を高い精度で検出することができる。なお、ABEE標識を用いた希少糖の微量検出方法は、段落[0040]以下で詳述する。
【0020】
次に実施例によって本発明を更に詳細に説明する。なお、本発明はこれにより限定されるものではない。
【実施例1】
【0021】
実施例1では、以下に説明するように、(1)食品試料からの可溶性糖の抽出、(2)酵母による天然型単糖の資化、および(3)比色定量法による分析を行うことで、食品試料に含まれる希少糖の定量を行う。
(1)食品試料からの可溶性糖の抽出
試料2.5gに蒸留水20mlを加えて、電子レンジで沸騰する程度まで500Wで加熱し、静置後、水30mlを加え上澄みを分析に用いる(処理時間:約90分)。これにより、従来の超音波抽出法(処理時間:約180分)とほぼ同程度に、可溶性糖を回収することができる。
(2)酵母による天然型単糖の資化(酵母処理ともいう)
15~45mgの市販パン酵母を糖抽出液に添加し、30℃で2時間振盪することで天然型単糖を除去する(詳細は後述する)。
(3)比色定量法による分析
(3-1)システイン・カルバゾール硫酸法による希少糖の検出
システイン・カルバゾール硫酸法(詳細は後述する)により、酵母処理した後に残存する希少糖中のケトースの比色定量が可能となる。HPLCなどの高額な機器が不要で、多検体同時反応が可能(分析時間:約30分)となる。定性試験については分光光度計も必要としない。酵母処理した「希少糖含有シロップ(以下、RSSともいう)」(株式会社レアスウィート製)の検出限界は0.01%であった。
(3-2)酵素を用いたD-アルロースの特異的な検出
D-タガトース3-エピメラーゼ(DTE)を用いたD-アルロースのエピ化、および、エピ化反応によって生成されたD-フルクトースのD-フルクトースデヒドロゲナーゼによる比色定量。酵母処理することにより検体中に存在するD-フルクトースが除去されるため、残存する希少糖D-アルロースのみを検出することが可能。酵母処理した「希少糖含有シロップ」(株式会社レアスウィート製)の検出限界は0.4%であった。
以下に本実施例の詳細について説明する。
【0022】
<食品試料からの可溶性糖の簡易抽出>
従来法(非特許文献11)では、試料を石油エーテルで脱脂処理をした後、超音波で糖を抽出し、濾紙でろ過しながらメスフラスコ100mlで定容し抽出液を得る。一方、今回の簡易抽出法では、蓋つき100ml容器に試料2.5gを精秤し、水を20ml加え、電子レンジで沸騰する直前まで500Wで加熱した。冷めてから水を30ml追加し、蓋をして軽く振盪した後、沈殿するまで静置した。上層を回収して抽出溶液を得た。東京化成工業のCARBOSepCHO-882を備えた高速液体クロマトグラフ(HPLC)により、希少糖入りドーナッツを用いて、両者の抽出法(従来法と今回の簡易抽出法)の糖組成の比較分析を行なった。
[結果と考察]
図1に、各糖の従来法と簡易抽出法のピーク面積を比較した結果を示す。なお、図1において、左側(ドットで塗りつぶしたグラフ)が従来の超音波抽出法による抽出結果を示しており、右側(グレーで塗りつぶしたグラフ)が今回の簡易抽出法による抽出結果を示している。図1に示すように、すべての糖において有意差はなく、定量値に差はみられなかった。したがって、簡易抽出法は、従来の抽出法と同程度の抽出ができ、かつ、短時間で食品試料からの糖抽出ができていることが明らかとなった。
【0023】
<酵母による糖資化>
まず、乾燥酵母(Saccharomyces cerevisiae)をイオン交換水に懸濁し、濃度3g/100mlの懸濁液を調製した。そして、懸濁液2mlを、濃度2%の「希少糖含有シロップ」(株式会社レアスウィート製)2mlと、濃度2%の高果糖液糖2mlにそれぞれ添加し、温度30℃で2時間振盪して反応させて、濃度1%の希少糖含有シロップの反応液と、濃度1%の高果糖液糖の反応液とを得た。なお、以下においては、濃度1%の希少糖含有シロップの酵母処理反応液を1%RSS反応液といい、濃度1%の高果糖液糖の酵母処理反応液を1%HFCS反応液という。そして、日立GL-C611カラムを備えた高速液体クロマトグラフ(HPLC)により、1%RSS反応液および1%HFCSの糖組成を分析した。なお、本試験では、酵母による糖資化を検証するために、酵母処理反応前の1%RSS溶液および1%HFCS溶液についても糖組成を分析した。
【0024】
[結果と考察]
図2に酵母処理反応前の1%RSS溶液の糖組成の分析結果を示し、図3に酵母処理反応後の1%RSS反応液の糖組成の分析結果を示す。また、下記表3は、酵母処理反応前の1%RSS溶液における各糖のエリア面積と、酵母処理反応後の1%RSS反応液における各糖のエリア面積とを示す。
【表1】
【0025】
表1に示すように酵母による反応前の1%RSS溶液のGL-C611カラムを用いたHPLC分析結果(図2)では、D-グルコース(15.2分)、D-マンノース(18.11分)、D-フルクトース(19.4分)、D-アルロース(D-プシコース)(29.5分)が確認できた。また、L-ソルボースとガラクトース並びにD-アロースとD-タガトースはリテンションタイムが近いためにピークが重なっている事が確認された。酵母による反応後の1%RSS反応液のGL-C611カラムを用いたHPLC分析結果(図3)ではD-グルコース(15.2分)およびD-フルクトース(19.4分)について確認はできず、またD-マンノース(18.11分)についても大幅に減少していた。このことから、市販酵母(Saccharomyces cerevisiae)による発酵を2時間行った1%RSS反応液では、天然に存在するD-グルコース(15.2分)、D-フルクトース(19.4分)およびD-マンノース(18.11分)について分解されたことが分かる。これに対して、上記表3に示すように、D-アルロース(D-プシコース)(29.5分)、D-アロースとD-タガトース(22.4分)、およびソルボースとガラクトースは、図2に示す酵母処理反応前の1%RSS溶液と、図3に示す酵母処理反応後の1%RSS反応液とにおいて検出量にほぼ差がなく、分解されていないことが確認された。
【0026】
酵母による反応前の1%HFCS溶液のGL-C611カラムを用いたHPLC分析結果(図4)では、D-グルコース(15.2分)およびD-フルクトース(19.4分)が確認できた。酵母による反応後の1%HFCS反応液のGL-C611カラムを用いたHPLC分析結果(図5)ではD-グルコース(15.2分)およびD-フルクトース(19.4分)は確認できなかった。
【0027】
上記のように、酵母(Saccharomyces cerevisiae)を用いることで、RSS中に含まれるD-グルコース、D-フルクトースおよびD-マンノースなどの天然型単糖を除去する事ができた。しかしHPLCを用いた分析では、D-アロースとD-タガトース、および、ソルボースとガラクトースが同じ保持時間で検出されるだけでなく、1つのサンプルの分析に40分かかっていた。
【0028】
また、12穴プレートの各ウェルに計15mgの乾燥酵母を加え、各ウェルに1%RSS溶液または1%HFCSを1mlずつ添加した。そして、30℃で2時間振盪した。その後、9000rpmで5分間遠心分離して酵母を沈殿させた後、1%RSS反応液および1%HFCS反応液の上澄みを回収し、脱塩、フィルターろ過し、日立GL-C611カラムを用いてHPLCにより糖組成を分析した。このような手法でも、酵母(Saccharomyces cerevisiae)を用いることで、天然型単糖であるD-グルコース、D-フルクトースおよびD-マンノースを除去することができることが分かった。
【0029】
<ケトースの定量>
上述したように、HPLCでは、希少糖のうちD-アロースとD-タガトース、および、ソルボースとガラクトースが同じ時間帯で検出され、それぞれがどの程度含まれているかを検出することはできなかった。そこで、本発明では、まず、ケトースに特異的に発色を示すシステイン・カルバゾール法を用いて、ケトース(D-アルロース、タガトース、ソルボース)の含有量を測定することを試みた。
【0030】
具体的には、酵母で資化反応させた1%RSS反応液および1%HFCS反応液を9000rpmで5分間遠心分離して酵母を沈殿させた後に回収し、回収した1%RSS反応液200μlおよび1%HFCS反応液200μlを24穴プレートの各ウェルに充填した。そして、それぞれのウェルに1.5%のシステイン40μlと、70%の硫酸1200μlと、0.9%のカルバゾール溶液40μlとを加えた。その後、50℃で30分保温し、吸光波長580nmの吸光度を測定した。なお、図6は、既知の濃度のRSSを酵母処理した後の反応液を用いてシステイン・カルバゾール硫酸法を行い吸光波長580nmの吸光度を測定することで作成した検量線であり、当該検量線を用いて、様々なサンプル中のRSS存在量を測定可能である。また、24穴プレートを用いることで多数のサンプルの同時反応、短時間検出が可能となった。
【0031】
図7に、酵母処理した1%RSS反応液および酵母処理した1%HFCS反応液のシステイン・カルバゾール法での測定結果を示す。図7に示すように、1%RSS反応液では、吸光波長580nmにおける吸光度が30と酵母処理した1%HFCS反応液の吸光波長580nmにおける吸光度よりも顕著に高い数値を示し、RSS中にはHFCSに存在せず酵母に資化されない希少糖(ケトース)が存在することが確認された。このように、24穴プレートを用いて、システイン・カルバゾール法によりケトース(D-アルロース、タガトース、ソルボース)の検出が可能であることがわかった。また、既知の濃度のRSSを酵母処理した後の反応液を用いた測定結果から、システイン・カルバゾール硫酸法によるRSS溶液の検出限界は0.01%であることがわかった。
【0032】
システイン・カルバゾール法では、測定系にスクロースが存在すると硫酸による加水分解でスクロースからケトースであるD-フルクトースが生成するため、測定値に誤差を生じることが知られている。そこで、電子レンジによる簡易抽出法で想定される最大糖量である5%が全てスクロースと仮定して、5%スクロース水溶液を資化させるのに必要な乾燥酵母添加量について検討した。すなわち、5%スクロース水溶液に乾燥酵母を15、30、45mg添加し、30℃で振とう培養し、培養液を昭和電工のKS-801を備えたHPLCにより糖含量の時間推移をみた。
[結果と考察]
図8は、乾燥酵母添加量に応じた5%スクロース水溶液の資化挙動(資化時間と資化量との関係)を示すグラフである。図8に示すとおり、資化開始直後にスクロースからD-グルコース、D-フルクトースが生成し、その後生成したこの2種類の単糖が酵母のより資化さることが分かった。酵母の添加量を増やすほど、単糖の資化速度早まるが、溶液の粘性が上がりスクロースからの分解が緩慢になるため、乾燥酵母の添加量は15から45mgの範囲とし、30から45mgの範囲がより良好な資化挙動を示すことが明らかとなった。
【0033】
<D-アルロースの定量>
次に、Pseudomonas cichorii由来のD-タガトース3-エピメラーゼ(DTE)とGluconobacter sp.由来のD-フルクトースデヒドロゲナーゼ(FDH)を用いて、D-アルロースの定量を試みた。具体的には、酵母で処理した反応液にD-タガトース3-エピメラーゼ(DTE)を添加することで、DTEによりD-アルロースがD-フルクトースにエピ化される。そこにFDHを添加することで、D-フルクトースから5-ケト-D-フルクトースとフェロシアン化カリウムとが生成され、フェロシアン化カリウムと硫酸第二鉄とを反応させることでプルシャンブルーが生成される。このプルジャンブルーの生成量を660nmの吸光度で測定することで、D-アルロースを定量することができると考えられる。そこで、このような測定が可能であるか検討した。
【0034】
具体的には、まず、Gluconobacter sp.由来のD-フルクトースデヒドロゲナーゼ(FDH)の基質特異性について検討を行った。具体的には、基質である各種ケトヘキソース(D-フラクトース、D-アルロース、D-タガトース、D-ソルボ―ス、L-フラクトース、L-アルロース、L-タガトースおよびL-ソルボ―ス)に、Gluconobacter sp.由来のD-フルクトースデヒドロゲナーゼとフェリシアン化カリウムとをそれぞれ混合し37℃で20分間酵素反応を行った。その後、硫酸第二鉄-SDS溶液を添加して反応を停止させ、さらにイオン交換水3.5mlを加え、吸光波長570nmの吸光度を測定することで、FDHの基質特異性を検討した。
【0035】
その結果、図9に示すように、FDHは、D-フルクトースを基質とした際に最も高い活性を示し、L-フルクトースを基質とした際にも活性(相対活性8.86%)が確認された。また、D-フルクトースおよびL-フルクトース以外のケトヘキソースについて活性は見られなかった。このことから、FDHを用いることで、D-アロース、D-タガトース、および、ソルボースとガラクトースなどの希少糖については検出せずに、D-フルクトースおよびL-フルクトースの量のみを定量できることがわかった。
【0036】
次に、Gluconobacter sp.由来のD-フルクトースデヒドロゲナーゼ(FDH)を用いて、D-フルクトースの定量を行った。具体的には、D-フルクトースデヒドロゲナーゼを29Uと、既知の量のD-フルクトースと、フェリシアン化カリウムとを混合し、37℃で20分間酵素反応を行った。その後、硫酸第二鉄-SDS溶液を添加して反応を停止させ、さらにイオン交換水3.5mlを加えて、吸光波長570nmの吸光度を測定した。
【0037】
D-フルクトースの量をそれぞれ変えて吸光度を測定し、検量線を作成した結果、図10に示すように、D-フルクトースの濃度が10~30mg/100mlにおいて、定量性が認められた。このことから、D-アルロースをD-フルクトースに変換し、生成したD-フルクトースをFDHに反応させ、硫酸第二鉄-SDS溶液で処理することで、D-フルクトースに変換されたD-アルロースの量を、検量線に基づいて定量できるものと考えられる。
【0038】
そこで、Pseudomonas cichorii由来のD-タガトース3-エピメラーゼ(DTE)とGluconobacter sp.由来のD-フルクトースデヒドロゲナーゼ(FDH)とを用いて、D-アルロースの呈色反応を試みた。具体的には、1%RSS反応液を9000rpmで5分間遠心分離して酵母を沈殿させて、得られた1%RSS反応液の上澄みを50μlずつ24穴プレートのウェルに充填した。そして、各ウェルにPseudomonas cichorii由来のD-タガトース3-エピメラーゼ(DTE)を50μl加え、50℃で2時間保温し反応させた。その後、Gluconobacter sp.由来のD-フルクトースデヒドロゲナーゼ(FDH)100μlと緩衝液700μlとを24穴プレートの各ウェルに添加した。さらに各ウェルに0.1Mのフェリシアン化カリ溶液100μlを添加し、酵素反応を37℃で開始させた。反応1時間後、硫酸第二鉄-SDS溶液500μlを添加して、反応を停止させ、37℃で20分静置した後、吸光波長660nmの吸光度を測定した。
【0039】
図11に、硫酸第二鉄-SDS溶液500μlを添加した後の1%RSS反応液を示す。また、本試験においては、比較のため、水と、1%RSS反応液にFDHだけを添加した(DTEを添加していない)ブランクとを用意した。その結果、図11に示すように、水と、1%RSS反応液にFDHだけを添加した(DTEを添加していない)ブランクでは、硫酸第二鉄-SDS溶液による発色はほとんど確認できなかった。これに対して、1%RSS反応液にDTEとFDHとを添加したサンプルでは、図11に示すように、顕著な発色を示した。これは、1%RSS反応液に含まれるD-アルロースがDTEによってD-フルクトースにエピ化され、生産されたD-フルクトースがFDHによって検出されたためと考えられる。なお、様々な濃度のRSSを酵母処理して得られた反応液にDTEおよびFDHを添加して、D-アルロースの検出を試みた結果、RSSの検出限界の濃度は0.4%であった。
【0040】
<ABEE標識を用いた単糖の高感度分析>
次に、希少糖の微量検出法として4-アミノ安息香酸エチルエステル(ABEE)を単糖の還元末端に還元アミノ化反応により付加した分析について検討した。
【0041】
具体的には、8種のD-アルドヘキソース(D-アロース、D-アルトロース、D-グルコース、D-マンノース、D-グロース、D-イドース、D-ガラクトース、D-タロース)と、4種のD-ケトヘキソース(D-プシコース、D-フルクトース、D-ソルボース、D-タガトース)を下記のとおり処理した。すなわち、これら単糖をネジ付チューブに10μl充填した後、ABEE化試薬を40μl加え、Heating Blockで80℃、60分間保温した。空冷した後、遠心分離(4000rpm,5分)を行い、液をチューブの底に落とした。蓋を外し、純水200μl、クロロホルム200μLを加えて激しく撹拌した後、遠心分離(12000rpm、5分)した。その後、水層(上層)を回収し、Xbridge C18カラム(Waters製)を用いてHPLCで分析した。また、希少糖の分離を行うための溶媒には、0.2Mホウ酸カリウム緩衝液(pH8.9)に、アセトニトリルを加えたものを用いた。なお、溶媒に添加するアセトニトリルの濃度を7%、8%、9%、10%で検討したところ、7~8%とすることが好ましく、7%とすることがより好ましいことが分かった。そのため、本実施例では、アセトニトリルの濃度が7%となるように、0.2Mホウ酸カリウム緩衝液(pH8.9)に、アセトニトリルを添加した。
【0042】
HPLCの結果、アルドヘキソースのリテンションタイムは、D-ガラクトースが30.2分、D-アルトロースが36.8分、D-マンノースが37.6分、D-イドースが40.4分、D-アロースが41.0分、D-グルコースが43分、D-タロースが47.2分、D-グロースが47.6分であった。また、図12に示すように、D-ガラクトース、D-アルトロース、D-マンノース、D-イドース、D-アロース、D-グルコース、D-タロースおよびD-グロースのいずれについても、9~900ngの微量な範囲において定量性が確認された。
【0043】
また、ケトヘキソースのリテンションタイムは、D-プシコースが33.2分および46.1分、D-ソルボースが34.2分および38.9分、D-タガトースが41.5分および45.8分、D-フルクトースが29.0分および35.0分であった。また、図13に示すように、D-プシコース、D-フルクトース、D-ソルボース、D-タガトースのいずれについても、0.09μg~9μgにおいて定量性が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0044】
「希少糖入り食品」を製造する企業では、食品中の希少糖含量に強い関心を示している。一方、消費者も希少糖の健康機能が報道される度に「希少糖入り食品」に含まれる希少糖量に高い関心を示し、その含有量表示がおこなわれることを強く望んでいる。この希少糖の簡易検出キットを用いることで、当該食品を製造する関連企業が簡便にルーチン作業として希少糖を分析できる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13