(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-27
(45)【発行日】2023-12-05
(54)【発明の名称】風車の耐雷装置
(51)【国際特許分類】
F03D 80/30 20160101AFI20231128BHJP
H05F 3/04 20060101ALI20231128BHJP
H02G 13/00 20060101ALI20231128BHJP
【FI】
F03D80/30
H05F3/04 F
H02G13/00 040
(21)【出願番号】P 2019238686
(22)【出願日】2019-12-27
【審査請求日】2022-09-16
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 発行者 一般社団法人電気学会 酒井 祐之 刊行物 電気学会研究会資料 高電圧研究会 発行日 2019年1月24日 〔刊行物等〕集会名 高電圧研究会 開催場所 平得公民館 開催日 2019年1月24日~2019年1月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】591282205
【氏名又は名称】島根県
(73)【特許権者】
【識別番号】391016509
【氏名又は名称】株式会社守谷刃物研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】500433225
【氏名又は名称】学校法人中部大学
(73)【特許権者】
【識別番号】518375672
【氏名又は名称】株式会社北拓
(74)【代理人】
【識別番号】100081673
【氏名又は名称】河野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100141483
【氏名又は名称】河野 生吾
(72)【発明者】
【氏名】上野 敏之
(72)【発明者】
【氏名】守谷 吉弘
(72)【発明者】
【氏名】山本 和男
(72)【発明者】
【氏名】尾立 志弘
【審査官】藤原 弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-100658(JP,A)
【文献】特開2006-052719(JP,A)
【文献】特開2012-117447(JP,A)
【文献】特表2014-525857(JP,A)
【文献】特開2019-209699(JP,A)
【文献】特開2012-246815(JP,A)
【文献】特開2005-113735(JP,A)
【文献】特開2013-155330(JP,A)
【文献】特開2008-231395(JP,A)
【文献】特開2000-235825(JP,A)
【文献】特開平05-234425(JP,A)
【文献】上野敏之,金属系複合材料による風車用耐雷素材の開発,電気学会研究会,日本,2018年06月07日,第63-68頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F03D 1/00-80/80
H05F 3/04
H05F 7/00
H02G 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
風車の耐雷装置であって、
風車のブレードの表面に少なくとも一部が露出した状態で設けられたレセプタと、
前記ブレードの表面における前記レセプタ以外の少なくとも一部の箇所で生じた雷電流を、該レセプタに導くガイド部と、
前記レセプタと電気的に接続され且つ該レセプタ側からの雷電流をアース側に導くダウンコンダクタとを備え、
前記ガイド部は導電性を有する導電性部材を複数有し、
複数の前記導電性部材は前記レセプタ側に向かって
直線状又は曲線状に並べられ、
前記導電性部材は、モリブデン、タングステン、ハフニウム、タンタル、クロム又はニオブの少なくとも何か1つが含有された耐熱性材料を含
み、
前記導電性部材は、方形板状に成形され且つ前記ブレードの表面に沿う姿勢で該ブレード側に固定され、
前記導電性部材の互いに平行又は略平行に対向する隣接端面同士の間の距離は2ミリメートル以下に設定され、
前記導電性部材の前記端面は、フラットな形状に成形され、その面積が3mm
2
以上に設定された
ことを特徴とする風車の耐雷装置。
【請求項2】
前記ガイド部は、前記レセプタが並べられる方向に帯状に延設された絶縁部材を有し、
前記導電性部材は、その少なくとも一部が前記絶縁部材に埋設して固定され、
前記絶縁部材が前記ブレードの表面側に取り付けられた
請求項
1に記載の風車の耐雷装置。
【請求項3】
前記導電性部材の前記端面の面積が5mm
2以上に設定された
請求項
1に記載の風車の耐雷装置。
【請求項4】
前記導電性部材が、前記耐熱性材料と、該耐熱性材料以外の材料である非耐熱性材料とを含むか、或いは、一又は複数の前記耐熱性材料のみから構成された
請求項1乃至
3の何れかに記載の風車の耐雷装置。
【請求項5】
前記導電性部材の20℃における体積抵抗率が20μΩcm以下に設定された
請求項
3に記載の風車の耐雷装置。
【請求項6】
前記耐熱性材料がモリブデンであり、
前記非耐熱性材料が銅であり、
前記モリブデンの前記導電性部材の全体に占める重量比率が10%以上に設定された
請求項
4に記載の風車の耐雷装置。
【請求項7】
前記導電性部材が前記耐熱性材料のみから構成され、
前記耐熱性材料がモリブデンである
請求項
4又は
5の何かに記載の風車の耐雷装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、風車の耐雷装置に関する。
【背景技術】
【0002】
風車のブレードの表面に少なくとも一部が露出した状態で設けられたレセプタと、前記ブレードの表面における前記レセプタ以外の少なくとも一部の箇所で生じた雷電流を、該レセプタに導くガイド部と、前記レセプタと電気的に接続され且つ該レセプタ側からの雷電流をアース側に導くダウンコンダクタとを備え、前記ガイド部は導電性を有する導電性部材を複数有する風車の耐雷装置が公知になっている(例えば、特許文献1を参照。)。
【0003】
上記文献に記載された風車の耐雷装置は、ブレードの表面におけるレセプタ以外の少なくとも一部の箇所に雷が落ちて雷電流が発生した場合でも、この雷電流をガイド部によってレセプタ側まで導くことが可能になるため、落雷によるブレードの破損を抑制することが可能になる。
【0004】
一方、落雷時に生じる熱は、導電性部材が破損又は消失する原因になり得る。この導電性部材の破損又は消失に起因してガイド部の機能が低下するか、或いは機能不全に陥った場合、ブレードの破損防止という本来の目的を結局達成できないことになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、導電性部材の十分な耐熱性によって、安定的且つ長期的にブレードの破損を抑制できる風車の避雷装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、風車の耐雷装置であって、風車のブレードの表面に少なくとも一部が露出した状態で設けられたレセプタと、前記ブレードの表面における前記レセプタ以外の少なくとも一部の箇所で生じた雷電流を、該レセプタに導くガイド部と、前記レセプタと電気的に接続され且つ該レセプタ側からの雷電流をアース側に導くダウンコンダクタとを備え、前記ガイド部は導電性を有する導電性部材を複数有し、複数の前記導電性部材は前記レセプタ側に向かって直線状又は曲線状に並べられ、前記導電性部材は、モリブデン、タングステン、ハフニウム、タンタル、クロム又はニオブの少なくとも何か1つが含有された耐熱性材料を含み、前記導電性部材は、方形板状に成形され且つ前記ブレードの表面に沿う姿勢で該ブレード側に固定され、前記導電性部材の互いに平行又は略平行に対向する隣接端面同士の間の距離は2ミリメートル以下に設定され、前記導電性部材の前記端面は、フラットな形状に成形され、その面積が3mm
2
以上に設定されたことを特徴とする。
【0008】
前記ガイド部は、前記ガイド方向に帯状に延設された絶縁部材を有し、前記導電性部材は、その少なくとも一部が前記絶縁部材に埋設して固定され、前記絶縁部材が前記ブレードの表面側に取り付けられたものとしてもよい。
【0009】
前記導電性部材の前記端面の面積が5mm2以上に設定されたものとしてもよい。
【0010】
前記導電性部材が、前記耐熱性材料と、該耐熱性材料以外の材料である非耐熱性材料とを含むか、或いは、一又は複数の前記耐熱性材料のみから構成されたものとしてもよい。
【0011】
前記導電性部材の20℃における体積抵抗率が20μΩcm以下に設定されたものとしてもよい。
【0012】
前記耐熱性材料がモリブデンであり、前記非耐熱性材料が銅であり、前記モリブデンの前記導電性部材の全体に占める重量比率が10%以上に設定されたものとしてもよい。
【0013】
前記導電性部材が前記耐熱性材料のみから構成され、ものとしてもよい。
【発明の効果】
【0014】
耐熱性材料が含まれた導電性部材が高い耐熱性を有するため、安定的且つ長期的にブレードの破損を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明を適用した耐雷装置を備えた風車の正面図である。
【
図6】ガイド部の他の実施形態の構成を示す断面図である。
【
図8】雷を模した2種類の放電時の夫々における溶損を示したグラフである。
【
図9】電荷60Cの波形Bよりなる放電を生じさせた場合における各ガイド部の放電後の状態を示す写真であり、(A)が本発明を適用したモリブデン製の導電プレートを用いたガイド部の状態であり、(B)が本発明を適用した複合材製の導電プレートを用いたガイド部の状態であり、(C)がアルミニウムよりなる比較プレートを用いたガイド部の状態であり、(D)が銅よりなる比較プレートを用いたガイド部の状態である。
【
図10】電荷180Cの波形Bよりなる放電を生じさせた場合における各ガイド部の放電後の状態を示す写真であり、(A)が本発明を適用したモリブデン製の導電プレートを用いたガイド部の状態であり、(B)が本発明を適用した複合材製の導電プレートを用いたガイド部の状態であり、(C)がアルミニウムよりなる比較プレートを用いたガイド部の状態であり、(D)が銅よりなる比較プレートを用いたガイド部の状態である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は本発明を適用した耐雷装置を備えた風車の正面図であり、
図2はブレードの要部拡大正面図であり、
図3は
図2のA-A´断面図である。同図に示す風車は風力発明装置として用いられる。この風車は、地上の基礎1から直上に突出形成され且つ内部に空洞を有するタワー2と、該タワー2の上端部に設置され且つ水平方向に形成されたナセル3と、該ナセル3の長手方向の一端側に配置された複数のブレード4とを備えている。ちなみに、ナセル3の形成方向を、便宜上、前後方向とし、ナセル3のブレードを備えた側を前側とする。
【0017】
複数のブレード4は、ナセル3の長手方向視で中央側に配され且つ該ナセル3の方向に形成された図示しない回転軸であるハブ(図示しない)によって、全体が一体的に回転作動するように、ナセル3に支持されている。複数のブレード4は、ハブの軸方向視で該ハブから放射状に突出形成され、該ハブの軸回り方向に所定間隔毎に配置される。各ブレード4はFRP等の頑丈且つ軽量な絶縁体材料によって構成されている。各ブレード4の内部には、空洞4aが形成されている。
【0018】
ブレード4及び空洞4aは、該ブレード4の全長方向断面視で凸レンズ状に成形されている。空洞4aはブレード4の全長方向の全体又は略全体に亘る範囲に形成されている。また、ブレード4は、その前後の外面が外側に膨出した曲面状をなしてる。
【0019】
複数のブレード4は、風を受けると、ハブと共に、全体が一体的に回転し、この回転動力によって、ナセル3の内部に設置した図示しない発電機が発電作動する。発電された電力は、図示しない送電線やバッテリに供給される。
【0020】
ところで、風力発電の効率を上げるためには、周辺に影響されることなく、ブレード4が強い風を受けることが必要になるため、ブレード4を高所に設置することが望ましい。しかし、高所では落雷の可能性が高くなり、落雷によるブレード4の破損リスクが高くになる。このような落雷に対応するため、この風車には、耐雷装置が設けられている。
【0021】
耐雷装置は、各ブレード4の全長方向における前記ハブから遠い側の端部である先端部の前後の外面(表面)に設置されたレセプタ6と、レセプタ6をグランド接続するダウンコンダクタ(引き下げ導線)7と、ブレード4の空洞4aの先端寄り部分に配置され且つレセプタ6を固定する固定ブロック8と、ブレード4の表面におけるレセプタ6以外の一部の箇所への落雷等によって該箇所に生じた雷電流を該レセプタ4側に導く(雷電流の導通経路を形成する)ガイド部9とを有している。
【0022】
ブレード4の内外を貫通するボルト11によって、外側のレセプタ6と、内側の固定ブロック8とが、該ブレード4に着脱可能に共締め固定されている。固定ブロック8及びボルト11は、導電性材料の一種である金属材料から構成されているため、レセプタ6と電気的に接続され、固定ブロック8はダウンコンダクタ7によってグランド接続(アース)されている。以上の構成によって、レセプタ6がアースされ、落雷時に生じる雷電流を地中に逃すことが可能になる。ちなみに、固定ブロック8は、ブレード4の前後両方の外面側からボルト固定されている。
【0023】
該構成によれば、ブレード4のレセプタ6又はその近傍に落雷した場合は勿論、ブレード4のレセプタ6以外の箇所に落雷した場合でも、その際に発生する雷電流を、該レセプタ6からダウンコンダクタ7を介して逃がすことが可能になる。このため、ブレード4の落雷による破損を効率的に防止できる。
【0024】
次に、
図2、
図4及び
図5に基づいて、ガイド部9を構成する説明する。
【0025】
図4はガイド部の正面図であり、
図5は
図4のB-B´断面図である。ガイド部9は、ブレード4の所定位置からレセプタ4に向かう方向であるガイド方向に所定間隔毎又は連続的(図示する例では所定間隔毎)に直線状又は曲線状(図示する例では、直線状)に並べられ且つ導電性を有する複数の導電プレート(導電性部材)12と、前記ガイド方向の全体に亘り帯状に形成された絶縁テープ(絶縁部材)13とを有している。
【0026】
前記ガイド方向は、図示する例では、ブレード4の全長方向に向けられている。そして、ハブの軸方向視で、該ブレード4の先端部のレセプタ6近傍から該ハブ側に向かって所定距離だけ離れた範囲に、前記ガイド部9が設けられている。
【0027】
各導電プレート12は、上述したガイド方向に若干長い方形状をなし、該ガイド方向視で等脚台形状をなしている。この導電プレート12は、モリブデン、タングステン、ハフニウム、タンタル、クロム又はニオブの少なくとも1つが含有される耐熱性材料のみから構成されるか、或いは耐熱性材料と、それ以外の材料である非耐熱性材料とを少なくとも有している。
【0028】
本例では、導電プレート12が、耐熱性材料であるモリブデンと、非耐熱性材料である銅とから構成されている。モリブデンよりも銅の方が導電プレート12の全体に占める重量比率が高く設定されてる。モリブデンの導電プレート12の全体に占める具体的な重量比率は10%以上に設定され、より好ましくは20%以上に設定される。
【0029】
ちなみに、導電プレート12において、モリブデン及び銅の夫々を可能な限り均一化させる必要がある。しかし、モリブデン及び銅を溶融させて導電プレート12を製造した場合、それぞれの材料の融点の違いにより、偏析が生じてしまう。このような材料の偏りを防止するため、粉末状の銅及びモリブデンを用い、機械的な加圧及びパルス通電加熱によって焼結させる放電プラズマ焼結(SPS)法によって、導電プレート12を製造している。
【0030】
このようにして製造される導電プレート12を用いることによって、安価なコストで高い耐熱性が付与されたガイド部9を容易に製造することが可能になる。この耐熱性によって、落雷時に生じる熱に起因したガイド部9の破損(具体的には導電プレート12の溶融や消失)を防止し、その機能を長期間保持させることが可能になる。
【0031】
また、隣接する導電プレート12,12の端面は、夫々、近接して平行又は略平行に対向する対向面12a,12aになる。この対向面12aは、上述した導電プレート12の形状によって等脚台形状をなすフラット面である。このような導電プレート12の形状によって、前記対向面12aと導電プレート12のフラットな表裏面との接続部分や、前記対向面12aと導電プレート12の両サイド面との接続部分には、コーナーが形成される。
【0032】
導電プレート12の両側のサイド面は、該導電プレート12の表裏面に対して、その傾斜角度が適宜設定可能である。一方、導電プレート12の対向面12aの面積である対向面積と、全長方向の断面の面積である断面積とは、導電プレート12の溶融に関連するため、適切に設定する必要がある。ちなみに、対向面積と断面積とは、本例では同一である。
【0033】
まず、導電プレート12の発熱量Qは以下の式により算出される。
【0034】
【0035】
この算出式において、Iは電流、Rは抵抗、tは時間、ρeは導電プレート12を構成する材料の体積抵抗率、Lは導電プレート12の全長、Sは導電プレート12の断面積になる。
【0036】
また、導電プレート12の熱容量Cは以下の式により算出される。
【0037】
【0038】
この算出式において、Cpは導電プレート12を構成する材料の比熱、ρmは導電プレート12を構成する材料の密度、Vは導電プレート12の体積になる。
【0039】
そして、導電プレート12の温度上昇ΔTは以下の式により算出される。
【0040】
【0041】
そして、夏よりもエネルギーが高い傾向にある冬の雷は、100[kA]の電流が1[ms]流れる程度である。ここで、例えば、その融点が2600[℃]であるモリブデンを導電プレート12に含める場合、その常温(具体的には20[℃])における体積抵抗率(ρe)が5.34[μΩcm]、比熱(Cp)が0.25[J/gK]、密度(ρm)が10.2[g/cm3]である。発生する熱が全て温度に寄与した場合、導電プレート12の前記断面積は、3[mm2]以上に設定する必要があり、好ましくは5[mm2]以上、より好ましくは10[mm2]以上であることが望ましい。
【0042】
なお、導電プレート12の幅方向の寸法は5[mm]以上に設定するとともに、その全長方向の寸法は5~100[mm]の範囲に設定し、取り扱いを容易にしている。
【0043】
また、隣接する導電プレート12,12の対向面12a,12aの間の距離は、放電を生じ易くするため、2[mm]以下に設定することが望ましい。
【0044】
各導電プレート12は、上述した通り、その全長方向を前記ガイド方向に向け(言い換えると、その幅方向を該ガイド方向と垂直な方向に向け)、その表裏面の両面における幅が長い方の面を、前記ブレード4の表面に近い側の面である固定面12bとし、もう片側の幅が短い方向の面を、該ブレード4の表面から遠い側の面である受雷面12cとした姿勢で、絶縁部材13を介して該ブレード4に対して固定される。この結果、導電プレート12は、その全体がブレード4の表面に沿う姿勢で、該ブレード4の表面側に固定される。
【0045】
この絶縁テープ13を構成する材料は、柔軟性、耐候性、ブレード4への接着性等を加味し、これらを満たす材料であれば、どのような材料を選んでもよく、例えば、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂等の弾性変形可能な合成樹脂を絶縁テープ13の材料として選択してもよい。
【0046】
また、絶縁テープ13は、複数の導電プレート12毎に設けられ且つ該導電プレート12を係止して収容する凹部13aを有している。この凹部13aは、前記ガイド方向断面視でアリ溝状に成形され、導電プレート12が、その受雷面12cが外部に露出された状態で、埋設される。ちなみに、絶縁テープ13の厚みは5[mm]以下に設定されている。
【0047】
ガイド部9の製造方法について簡単に説明すると、型枠の内部に複数の導電プレート12を並列させた後、該型枠内に、絶縁部材13を構成する材料を流体状態で導入させ、該材料を冷却又は乾燥等させて固体の状態にすることによって、ガイド部9を一体的に形成する。
【0048】
ちなみに、この導電プレート12は、その構成材料から、ブレード4の表面に直接的に接着させ難く、また、複数の導電プレート12を並列させながら個別にブレード4の表面側に設置させる場合、手間も掛かるが、ガイド部9の上述した構成によって、これらの問題を解決している。
【0049】
すなわち、断面形状がアリ溝状の凹部13aは、それと同一又は略同一の断面形状を有する導電プレート12の略全てを収容することによって該導電プレート12を絶縁テープ13に確実に固定せしめ、さらに絶縁テープ13を接着剤や両面テープ等によってブレードの表面に接着等して固定することにより、並列された状態の複数の導電プレート12を、ブレード4の表面側にまとめて固定させることが可能になる。
【0050】
以上のように構成されるガイド部9によれば、高価な耐熱性材料であるモリブデンの特定を利用しつつ、安価な非耐熱性材料である銅を多く含有させることにより、十分な耐熱性が付与された安価な導電プレート12とすることができるため、落雷時に発生する熱に起因した破損を極力防止できる。また、弾性変形可能な絶縁テープ13によって、凸曲面状をなすブレード4外面にも、容易且つ迅速に設置することが可能になる。
【0051】
なお、導電プレート12の受雷面12cは、帯状の絶縁材料13から露出させることが必須ではなく、その一部又は全部が絶縁材料13によって覆われている状態でもよい。
【0052】
また、ガイド部9を、複数の導電プレート12のみによって構成し、該導電プレート12を、接着剤等によってブレード4に直に取り付け固定してもよい。
【0053】
さらに、導電プレート12の耐熱性材料としてセラミックス、タングステン又はグラファイトを用い、その非耐熱性材料として銅等の汎用的な金属材料を用いてもよい。また、導電プレート12を、耐熱性材料であるタングステンと、酸化トリウムとから構成してもよい。
【0054】
次に、
図6に基づいて、ガイド部9の他の実施形態について説明する。
【0055】
図6は、ガイド部の他の実施形態の構成を示す断面図である。この実施形態では、導電プレート12及び凹部13aにおける前記ガイド方向断面視の形状を同一又は略同一に成形することは、上述した実施形態と同様であるが、その形状を、台形ではなく、長方形状に成形している。また、帯状をなす絶縁材料13のブレード4に接着する側の面の幅を、反対側の面と比べて大きく設定してもよい。
【0056】
ちなみに、
図5及び
図6に示すような形状に限定されることなく、様々な形状を適宜選択することが可能である。
【0057】
次に、本発明を適用したガイド部9を用いる導電プレート12について行った実験の結果について説明する。
【0058】
前記導電プレート12を構成する銅及びモリブデンの複合材として3種類の複合材を用意した。具体的には、銅の全体に示す重量比が90%であって且つモリブデンの全体に占める重量比が10%である「Cu-10Mo複合材」と、銅の全体に示す重量比が80%であって且つモリブデンの全体に占める重量比が20%である「Cu-20Mo複合材」と、銅の全体に示す重量比が70%であって且つモリブデンの全体に占める重量比が30%である「Cu-30Mo複合材」との計3種類の複合材を用意した。
【0059】
導電プレート12の形状は、実験のし易さを考慮して円盤状に成形した。
【0060】
一方、これら3種類の複合材から構成された導電プレート12との比較のため、銅のみから構成され且つ該導電プレート12と同一のサイズ及び形状に成形された比較プレートを用意した。
【0061】
上述した3種類の複合材の製造方法について簡単に説明すると、まず、粉末状の銅及びモリブデンを上述した所定の割合で混合して混合粉末を得る。この混合粉末を、ステンレス製の直径(φ)10[mm]のボールと共に、ポリエチレン製ポットの中に注入されたアルコール溶液中に加え、数時間ボールミルを行った後、該ボールを除去して乾燥させることにより、粒径が小さくなった混合粉末である乾燥粉末を得る。
【0062】
この乾燥粉末を、内径が102[mm]の可動ポンチを有する黒鉛ダイス中に充填し、10[Pa]以下の真空又は真空に近い低圧で且つ1173[K]以上の温度を有する雰囲気下において、50[MPa]の一軸加圧によって1200秒以上保持し、SUS法によって焼成して上述した3種類の複合材を得る。
【0063】
図7は、雷を模した2種類の放電の波形である。同図に「Wave form A」で示される波形Aは夏の雷を模したものであり、同図に「Wave form B」で示される波形Bは冬の雷を模したものであり、波形Aは「JIS Z 9290-1」の規格に準拠している。
【0064】
3種類の導電プレート12及び比較プレートは、グランド接続されたダウンコンダクタにボルト固定され、ステンレス製の直径12mmの丸棒よりなる電極を、3種類の導電プレート12及び比較プレートの円盤形状の縁側に近接させ、波形A,Bの夫々による放電を行い、その溶損を確認した。
【0065】
図8は、雷を模した2種類の放電時の夫々における溶損を示したグラフである。ちなみに、同図に示されたものは、比エネルギーが1680[MWΩ
ー1]の際の溶損を、その実験の結果から計算によって求め、3種類の導電プレート12と比較プレートの計4種類の試料間での比較を可能としている。
【0066】
夏の雷を模した波形Aによる放電では、溶損について、比較プレートと、3種類の導電プレート12の間に有意な差が認められ、しかも、モリブデンの含有率が高くなるに従い、溶損が抑制されている状態が確認できる。すなわち、モリブデンの全体に示す重量比を10%以上に設定すれば、十分な効果が望めることが確認された。
【0067】
一方、冬の雷を模した波形Bによる放電では、溶損について、比較プレート及び「Cu-10Mo複合材」の導電プレート12と、「Cu-20Mo複合材」及び「Cu-30Mo複合材」の導電プレート12との間に有意な差が認められ、しかも、モリブデンの含有率が高くなるに従い、溶損が抑制されている状態が確認できる。すなわち、モリブデンの全体に示す重量比を20%以上に設定すれば、エネルギーが大きい冬の雷に対しても十分な効果が望めることが確認された。
【0068】
次に、本発明を適用したガイド部9について行った実験の結果について説明する。
【0069】
導電プレート12として、「Cu-30Mo複合材」の材料を用い、その厚みを1.5[mm]に設定し、その幅を10[mm]に設定し、その全長を30,50[mm]の2パータンで用意し、その両側のサイド面の前記傾斜角度を夫々45度に設定した。また、導電プレートとして、耐熱性材料であるモリブデンのみから構成され、前記導電プレート12と同一又は略同一の寸法及び形状に成形されたものも用意した。一方、比較プレートとして、銅のみから構成されたものと、アルミニウムのみから構成されたものとの2種類を用意し、前記導電プレート12と同一又は略同一の寸法及び形状に成形した。
【0070】
これらの2種類の導電プレート12又は2種類の比較プレートが埋設される凹部13aを有する絶縁テープ13は、その構成材料をシリコーン樹脂とし、その全長は900[mm]に設定し、厚みを2.0[mm]とし、隣接する凹部13a同士の間隔を1[mm]に設定した
【0071】
用いる放電は前記波形Bよりなる冬の雷を模したものを採用し、電荷が60[C]の場合と、180[C]の場合との2パータンで実験を行った。放電を生じさせる箇所は、導電プレートを用いたガイド部9と、比較プレートを用いた3つのガイド部との両方について、その中央部付近とした。
【0072】
図9は、電荷60Cの波形Bよりなる放電を生じさせた場合における各ガイド部の放電後の状態を示す写真であり、(A)が本発明を適用したモリブデン製の導電プレートを用いたガイド部の状態であり、(B)が本発明を適用した複合材製の導電プレートを用いたガイド部の状態であり、(C)がアルミニウムよりなる比較プレートを用いたガイド部の状態であり、(D)が銅よりなる比較プレートを用いたガイド部の状態である。
【0073】
同図(A)では、蒸発して消失した範囲の全長が1.9[mm]であるとともに、溶損した範囲の全長が6.8[mm]であった。同図(B)では、蒸発して消失した範囲の全長が1.9[mm]であるとともに、溶損した範囲の全長が11.9[mm]であった。同図(C)では、蒸発して消失した範囲の全長が9.1[mm]であるとともに、溶損した範囲の全長が16.9[mm]であった。同図(D)では、蒸発して消失した範囲の全長が2.9[mm]であるとともに、溶損した範囲の全長が10.2[mm]であった。
【0074】
導電プレート12にモリブデンのみを用いた同図(A)の結果に対して、前記複合材を用いた同図(B)に示すものも、消失範囲は同一であり、同図(C),(D)に比べて優れた耐熱耐熱性を示す結果となった。
【0075】
図10は、電荷180Cの波形Bよりなる放電を生じさせた場合における各ガイド部の放電後の状態を示す写真であり、(A)が本発明を適用したモリブデン製の導電プレートを用いたガイド部の状態であり、(B)が本発明を適用した複合材製の導電プレートを用いたガイド部の状態であり、(C)がアルミニウムよりなる比較プレートを用いたガイド部の状態であり、(D)が銅よりなる比較プレートを用いたガイド部の状態である。
【0076】
同図(A)では、蒸発して消失した範囲の全長が3.3[mm]であるとともに、溶損した範囲の全長が14.6[mm]であった。同図(B)では、蒸発して消失した範囲の全長が5.8[mm]であるとともに、溶損した範囲の全長が23.5[mm]であった。同図(C)では、蒸発して消失した範囲の全長が25.2[mm]であるとともに、溶損した範囲の全長が40.0[mm]であった。同図(D)では、蒸発して消失した範囲の全長が16.0[mm]であるとともに、溶損した範囲の全長が25.4[mm]であった。
【0077】
導電プレート12にモリブデンのみを用いた同図(A)の結果に対して、前記複合材を用いた同図(B)に示すものは、消失した範囲及び溶損の範囲は劣るが、アルミニウムや銅を用いた同図(C),(D)の示す結果と比較すると、その差は歴然であり、優れた耐熱性を示す結果となった。
【0078】
すなわち、電荷を増すほど、本発明のガイド部9が優位な耐熱性を示す結果となった。
【符号の説明】
【0079】
4 ブレード
6 レセプタ
7 ダウンコンダクタ
9 ガイド部
12 導電プレート(導電性部材)
13 絶縁テープ(絶縁部材)