(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-27
(45)【発行日】2023-12-05
(54)【発明の名称】高電圧発生器
(51)【国際特許分類】
B05B 5/053 20060101AFI20231128BHJP
H02M 7/10 20060101ALI20231128BHJP
【FI】
B05B5/053
H02M7/10 B
(21)【出願番号】P 2019080901
(22)【出願日】2019-04-22
【審査請求日】2022-01-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000117009
【氏名又は名称】旭サナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】弁理士法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大野 将宏
(72)【発明者】
【氏名】西尾 達哉
【審査官】清水 晋治
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-134824(JP,A)
【文献】実開昭58-068088(JP,U)
【文献】実開昭55-166184(JP,U)
【文献】特開昭51-051722(JP,A)
【文献】実開昭54-125417(JP,U)
【文献】実開昭57-168991(JP,U)
【文献】実開昭57-101594(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/00-7/40
H05K 1/00-1/02
B05B 5/00-5/16
B05D 1/00-7/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回路基板と、
前記回路基板に実装されることで電圧倍増回路を構成する電子部品と、
前記回路基板と前記電子部品を覆うモールド部と、
前記回路基板を
板厚方向に貫通
し、前記回路基板の実装面に開口した形態の開口部とを備え、
前記電子部品は、チップ型をなすコンデンサと、ダイオードとを含み、
前記開口部は、前記回路基板の外周縁を凹ませた形態の切欠溝と、前記回路基板の外周縁に対して非開口のスリットとを含み、
前記切欠溝は、
前記実装面を前記実装面と直角に視たときに、前記切欠溝の開口領域の少なくとも一部が前記コンデンサの少なくとも一部と重なるように開口しており、
前記スリットは、
前記実装面を前記実装面と直角に視たときに、前記スリットの
前記実装面における開口領域の少なくとも一部が前記ダイオードの少なくとも一部と重なるように開口しており、
前記コンデンサが、前記切欠溝を横切って前記切欠溝の両側縁部を橋渡しするように配置され、
前記コンデンサが前記回路基板に対してリフロー半田によって表面実装されることによって、前記回路基板における前記切欠溝の両側縁部の変形が防止されていることを特徴とする高電圧発生器。
【請求項2】
前記切欠溝と前記スリットが、前記実装面においてI字形に開口していることを特徴とする請求項1記載の高電圧発生器。
【請求項3】
1つの前記ダイオードに対し複数の前記スリットが臨んでいることによって、前記実装面を前記実装面と直角に見たときに、前記スリットの開口領域の少なくとも一部が前記ダイオードの少なくとも一部と重なっていることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の高電圧発生器。
【請求項4】
前記ダイオードが前記スリットを横切るように配され、
前記実装面を前記実装面と直角に視たときに、前記スリットの長さ方向における両方の端部が前記ダイオードと重ならないことを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の高電圧発生器。
【請求項5】
前記実装面を前記実装面と直角に視たときに、1つの前記スリットの開口領域の少なくとも一部が2つの前記ダイオードの少なくとも一部と重なっていることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の高電圧発生器。
【請求項6】
前記実装面を前記実装面と直角に視たときに、前記1つのスリットの長さ方向における少なくとも一方の端部が、前記ダイオードと重ならないことを特徴とする請求項5に記載の高電圧発生器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高電圧発生器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、多段倍電圧整流回路を備えた静電塗装装置用の高電圧発生器が開示されている。多段倍電圧整流回路は、回路基板にコンデンサとダイオードを取り付けて構成されており、ケース内に収容されている。多段倍電圧整流回路における沿面放電を防止する手段として、ケース内にモールド材を充填し、充填したモールド材を多段倍電圧整流回路の表面に密着させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の多段倍電圧整流回路では、コンデンサやダイオードが空中配線されている。これにより、回路基板とコンデンサとの間や、回路基板とダイオードとの間に、モールド用の溶融樹脂が回り込み易くなっている。しかしながら、コンデンサやダイオードを空中配線すると、高電圧発生器が大型化するという問題がある。小型化を図るためには、コンデンサやダイオードを表面実装すればよいのであるが、そうすると、溶融樹脂の流れが悪くなるため、モールド材内に気泡が生じ、沿面放電を生じる虞がある。
【0005】
本発明は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、絶縁性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、
回路基板と、
前記回路基板に実装されることで電圧倍増回路を構成する電子部品と、
前記回路基板と前記電子部品を覆うモールド部と、
前記回路基板を貫通した形態であり、前記電子部品に臨むように開口する開口部とを備えている。
尚、本発明において「開口部が電子部品に臨む」は、「回路基板の実装面を実装面と直角に視たときに、開口部の開口領域の少なくとも一部が、電子部品の少なくとも一部と重なる」ことを意味する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の高電圧発生器は、回路基板を貫通する開口部を有しているので、モールド部を成形するための溶融樹脂の流れが良好であり、回路基板と電子部品に対する溶融樹脂の密着性が高い。開口部は電子部品に臨むように開口しているので、回路基板と電子部品との隙間に溶融樹脂が流入し易く、回路基板と電子部品に対する溶融樹脂の密着性が、更に良好となっている。これにより、本発明の高電圧発生器は、回路基板の表面や電子部品の外面における気泡の発生が防止されるので、絶縁性に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施例1の高電圧発生器の一部切欠側面図である。
【
図4】高電圧発生器の一部切欠部分拡大底面図である。
【
図6】実施例2の高電圧発生器の一部切欠平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、前記開口部が、I字形をなしていることが好ましい。I字形の開口部は、屈曲形状の開口部に比べると、開口部内における溶融樹脂の流れが良好である。
【0010】
本発明は、前記開口部が、前記回路基板の外周縁を凹ませた形態の切欠溝であり、前記電子部品が、前記切欠溝を横切るように配され、且つ前記回路基板に対し表面実装されていることが好ましい。切欠溝は回路基板の外周縁を凹ませた形態なので、回路基板のうち切欠溝の両側縁部が変形することが懸念される。しかし、電子部品が、切欠溝の両側縁部を橋渡しするような形態で回路基板に表面実装されているので、回路基板における切欠溝の両側縁部の変形を防止できる。これにより、切欠溝を長くして、溶融樹脂の流動性を高めることができる。
【0011】
本発明は、前記開口部が、前記回路基板の外周縁に対して非開口のスリットであり、1つの前記電子部品に対し複数の前記スリットが臨んでいることが好ましい。この構成によれば、電子部品に対する溶融樹脂の密着性が良好となる。尚、本発明において「スリットが回路基板の外周縁に対して非開口である」は、「スリットの長さ方向両端部が回路基板の外周縁に開放されず、スリットの開口縁が全周に亘って連続して繋がった形態である」ことを意味する。
【0012】
本発明は、前記開口部が、前記回路基板の外周縁に対して非開口のスリットであり、前記電子部品が前記スリットを横切るように配され、前記スリットの長さ方向における両方の端部が前記電子部品と非対応であることが好ましい。この構成によれば、スリットの長さ方向両端部において、溶融樹脂が回路基板を貫通するので、溶融樹脂の流れが良好となる。尚、本発明において「スリットの端部が電子部品と非対応」は、「回路基板の実装面を実装面と直角に視たときに、スリットの端部が、電子部品と重ならない」ことを意味する。
【0013】
本発明は、前記開口部が、前記回路基板の外周縁に対して非開口のスリットであり、1つの前記スリットが、間隔を空けて隣り合うように配された2つの前記電子部品に臨んでいることが好ましい。この構成によれば、隣り合う2つの電子部品の間では、溶融樹脂が回路基板を貫通するように流れるので、溶融樹脂の流動性が良好となる。
【0014】
本発明は、前記1つのスリットの長さ方向における少なくとも一方の端部が、前記電子部品と非対応であることが好ましい。この構成によれば、スリットの長さ方向における中間部だけでなく端部においても、溶融樹脂が回路基板を貫通するように流れるので、溶融樹脂の流れが良好となる。
【0015】
<実施例1>
以下、本発明を具体化した実施例1を
図1~
図5を参照して説明する。尚、以下の説明において、前後の方向については、
図1~4における右方を前方と定義する。上下の方向については、
図1にあらわれる向きを、そのまま上方、下方と定義する。
【0016】
本実施例1の高電圧発生器Aは、静電塗装用の塗装ガン(図示省略)、静電コーティング装置や静電シーラー装置用の塗布ガン(図示省略)等に内蔵される。
図1,2に示すように、高電圧発生器Aの前端部には出力端子10が設けられ、高電圧発生器Aの後端部には入力コネクタ11が設けられている。入力コネクタ11に入力された電圧は、高電圧発生器Aにより昇圧され、出力端子10において高電圧となる。塗装ガン又は塗布ガンから吐出される塗料や塗布材は、出力端子10に接続された高電圧の電極(図示省略)により帯電する。
【0017】
高電圧発生器Aは、ケース12と、モールド部26と、基板モジュール14とを備えて構成されている。
図1,2に示すように、ケース12は、全体として前後方向に細長く形状である。ケース12のうち後端部を除いた領域は偏平な形状をなし、ケース12の後端部は上方へ直方形状に突出した形状をなしている。ケース12の内部は、下面の全領域が開放された収容空間13となっている。
【0018】
基板モジュール14は、回路基板15(プリント基板)と、電圧倍増回路16とを備えて構成されている。
図2に示すように、回路基板15は、平面視形状が長辺を前後方向に向けた長方形の平板状をなす。回路基板15の表面(上面)と裏面(下面)にはプリント回路(図示省略)が印刷されている。基板モジュール14は、回路基板15を水平に向けた姿勢で収容空間13に収容されている。
【0019】
電圧倍増回路16は、回路基板15のプリント回路と、回路基板15の表面(上面)に実装した各種電気部品17~21と、コッククロフト・ウォルトン回路23とを備えて構成されている。
図5に示すように、各種電気部品は、トランス17、ダイオード18、入力側抵抗19、アレスタ20、LED21を備えて構成されている。トランス17は、回路基板15の後端部に実装されている。回路基板15の後端部には、ダイオード18、入力側抵抗19、アレスタ20、LED21が実装されている。回路基板15の後端部に実装された各種電気部品17~21は、トランス17の一次回路に接続されている。回路基板15の前端部には出力側抵抗22が実装されている。出力側抵抗22には、出力端子10が接続されている。
【0020】
図5に示すように、コッククロフト・ウォルトン回路23は、回路基板15のプリント回路と、複数のコンデンサ24と、複数のダイオード25とを備えて構成されている。コッククロフト・ウォルトン回路23(複数のコンデンサ24と複数のダイオード25)は、トランス17の二次回路と、回路基板15の前端部に実装した出力側抵抗22との間に接続されている。
【0021】
回路基板15に、各種電気部品17~21と、コッククロフト・ウォルトン回路23を構成するコンデンサ24及びダイオード25を実装し、入力コネクタ11と出力端子10を取り付けることにより、基板モジュール14が構成される。基板モジュール14はケース12の収容空間13内に収容され、ケース12と基板モジュール14との隙間には、モールド部26で埋められている。モールド部26を成形する際には、ケース12と基板モジュール14を上下反転させ、収容空間13が上方へ開口する向きにして、溶融樹脂を収容空間13内に注入する。注入された溶融樹脂が基板モジュール14の表面に密着して固化することにより、基板モジュール14が絶縁状態となる。
【0022】
絶縁性能を高めるためには、回路基板15とモールド部26との間、各種電気部品とモールド部26との間、コンデンサ24とモールド部26との間、ダイオード25とモールド部26との間に気泡(隙間)が生じないようにしなければならない。気泡の発生を防止するためには、溶融樹脂の流動性を高める必要がある。本実施例1の高電圧発生器Aには、溶融樹脂の流動性を高める手段として、回路基板15には、複数対の切欠溝27(請求項に記載の開口部)と複数対のスリット28(請求項に記載の開口部)が形成されている。
【0023】
複数対の切欠溝27は、回路基板15を厚さ方向に貫通し、回路基板15の表面と裏面とに開口している。複数対の切欠溝27は、回路基板15の左右両外側縁(長辺)に沿って前後方向に一定ピッチで配されている。切欠溝27は、右外側縁部と左外側縁部に形成されたもの同士が対をなす。対をなす2つの切欠溝27の位置、形状及び大きさは、左右対称である。対をなす切欠溝27は、前後方向(長辺と平行な方向)において同じ位置に配されている。
【0024】
切欠溝27は、回路基板15の外側縁から直角に内側へ一定幅のスリット28状に切り込んだ形態である。即ち、切欠溝27は、回路基板15の表面を直角に視た平面視において、I字形(直線状)に開口している。換言すると、切欠溝27は、回路基板15の外側縁を深く凹ませた形態である。切欠溝27の奥端部は半円形をなしている。切欠溝27の長さ寸法(左右方向の開口寸法)は、切欠溝27の幅寸法(前後方向の開口寸法)よりも大きい。本実施例1では、切欠溝27の長さ寸法は幅寸法の約4倍である。前後に隣り合う切欠溝27同士の間隔は、切欠溝27の幅寸法の約2倍である。
【0025】
複数対のスリット28は、回路基板15を厚さ方向に貫通し、回路基板15の表面と裏面とに開口している。複数対のスリット28は、回路基板15の左右方向における中央部、即ち、左右方向において対をなす切欠溝27よりも内側の領域に配されている。スリット28は、左右に並ぶもの同士が対をなす。対をなす2つのスリット28の位置、形状及び大きさは、左右対称である。対をなすスリット28は、前後方向(長辺と平行な方向)において同じ位置に配されている。複数対のスリット28は、前後方向に一定ピッチ(切欠溝27と同じピッチ)で配されている。前後方向において、スリット28と切欠溝27は、1/2ピッチずつ交互に並ぶように配されている。
【0026】
スリット28は、前後方向に細長い形状であり、回路基板15の表面を直角に視た平面視において、I字形に開口している。スリット28の左右方向の幅寸法は、前後両端部を除いて一定の寸法である。スリット28の前後両端部は半円形をなしている。スリット28の前後方向の長さ寸法は、スリット28の幅寸法よりも大きい。本実施例1では、スリット28の長さ寸法は、幅寸法の約5倍であり、前後に隣り合う切欠溝27の間の間隔よりも少し大きい寸法である。
【0027】
コンデンサ24は、偏平な直方体をなすチップ型と称されるものである。コンデンサ24の下面(裏面)には、前後一対の電極(図示省略)が設けられている。コンデンサ24の前後方向寸法は、切欠溝27の溝幅より大きく、切欠溝27の並列ピッチよりも小さい。コンデンサ24は、切欠溝27を橋渡しするように配置され、前後両電極を切欠溝27の前後両側縁部に載置し、リフロー半田により表面実装されている。左右方向におけるコンデンサ24の位置は、切欠溝27の左右方向中央よりも外側(外側縁に近い位置)に設定されている。
【0028】
コンデンサ24を回路基板15に表面実装した状態では、1つの切欠溝27が、1つのコンデンサ24に臨むように開口している。ここで、「切欠溝27がコンデンサ24に臨む」は、「回路基板15の実装面(表面)を実装面と直角に視た平面視において、切欠溝27の開口領域の少なくとも一部が、コンデンサ24の少なくとも一部と重なる」ことを意味する。本実施例1では、切欠溝27の開口領域のうち左右方向における中央よりも外側の領域が、コンデンサ24の下面に臨んでいる。換言すると、切欠溝27のうちコンデンサ24に臨む領域は、回路基板15の表面側からコンデンサ24で塞がれている。切欠溝27の外側の端部と内側の端部は、コンデンサ24と非対応であり、回路基板15の表裏両面に開口した状態である。
【0029】
ダイオード25は、細長い円柱形の素子本体25Eと、素子本体25Eの長さ方向両端面から一対のリード25Lを導出させたものである。ダイオード25を回路基板15に実装する手段として、回路基板15のうち各切欠溝27の奥端部を前後から挟む2位置には、夫々、スルーホールHが形成されている。各スルーホールHには、ダイオード25のリード25Lが挿入され、半田29により導通可能に固着されている。リード25Lを回路基板15に固着する半田29は、回路基板15の表裏両面において、略半球形状に盛り上げた形状をなしている。
【0030】
平面視において、各ダイオード25の素子本体25Eは、前後方向(スリット28の長さ方向)と左右方向(対をなすスリット28が並ぶ方向)の両方向に対して斜めを向くように配置されている。ダイオード25は、2つの形態で回路基板15に実装されている。第1の実装形態M1は、ダイオード25が、対をなす切欠溝27のうち一方(右側)の切欠溝27の後側に隣り合うスルーホールHから、他方(左側)の切欠溝27の前側に位置するスルーホールHとの間に配置される形態である。換言すると、ダイオード25が対をなす切欠溝27の間を斜めに横切る形態である。
【0031】
第2の実装形態M2は、前後で隣り合う二対の切欠溝27の間にダイオード25を配置する形態である。詳細には、ダイオード25が、後側に位置する一対の切欠部のうち一方(右側)の切欠溝27の前側に隣り合うスルーホールHと、前側に位置する一対の切欠部のうち他方(左側)の切欠溝27の後側に隣り合うスルーホールHとの間に配置される形態である。更に換言すると、ダイオード25が、前後で隣り合う二対の切欠溝27の間の領域において、対角位置にある2つの切欠溝27と隣り合う2つにスルーホールHの間に配置する形態である。
【0032】
第1の実装形態M1では、ダイオード25の素子本体25Eが、対をなす2つ切欠溝27の奥端部と、2つのスリット28の前端部又は後端部を回路基板15の表面側から覆う。換言すると、第1の実装形態M1のダイオード25に対し、対をなす2つの切欠溝27の一部と、対をなさない2つのスリット28の一部が臨んでいる。ここで、「切欠溝27とスリット28がダイオード25に臨む」は、「回路基板15の実装面(表面)を実装面と直角に視た平面視において、切欠溝27の開口領域の少なくとも一部とスリット28の開口領域の少なくとも一部が、ダイオード25の少なくとも一部と重なる」ことを意味する。
【0033】
第2の実装形態M2では、ダイオード25の素子本体25Eが、対をなす2つのスリット28の長さ方向における中央部を、回路基板15の表面側から覆う。換言すると、第2の実装形態M2のダイオード25に対し、対をなす2つのスリット28の一部が臨んでいる。ここで、「スリット28がダイオード25に臨む」は、「回路基板15の実装面(表面)を実装面と直角に視た平面視において、スリット28の開口領域の少なくとも一部が、ダイオード25の少なくとも一部と重なる」ことを意味する。
【0034】
各スリット28は、その前端部又は後端部において第1の実装形態M1のダイオード25に臨むと同時に、前後方向中央部において第2の実装形態M2のダイオード25に臨んでいる。即ち、1つのスリット28が、前後に隣り合うように配された2つのダイオード25に臨んでいる。各スリット28のうち第1の実装形態M1のダイオード25に臨んでいない側の端部は、ダイオード25と非対応となっている。ここで、「スリット28の端部がダイオード25と非対応」は、「回路基板15の実装面を実装面と直角に視たときに、スリット28の端部が、ダイオード25と重ならない」ことを意味する。
【0035】
上記形態の基板モジュール14を収容空間13内にセットした後は、溶融樹脂を回路基板15の裏面に垂らすようにして流し込む。流し込まれた溶融樹脂は、回路基板15の外周縁とケース12の内周面との隙間、切欠溝27及びスリット28を通過し、収容空間13のうち回路基板15より下方の領域に充填されていく。充填された溶融樹脂が、ケース12と基板モジュール14との隙間を埋めた状態で固化すると、モールド部26が成形されると同時に高電圧発生器Aの製造が完了する。
【0036】
本実施例1の高電圧発生器Aは、回路基板15と、回路基板15に実装されることで電圧倍増回路16を構成するコンデンサ24及びダイオード25とを備える。回路基板15とコンデンサ24とダイオード25はモールド部26で覆われる。モールド部26が基板モジュール14に密着することにより、沿面放電が防止される。溶融樹脂の流動性を向上させる手段として、回路基板15には、回路基板15を貫通した形態の切欠溝27とスリット28が形成されている。切欠溝27とスリット28は、コンデンサ24及びダイオード25に臨むように開口している。
【0037】
回路基板15には、貫通形態の切欠溝27とスリット28が形成されているので、モールド部26を成形するための溶融樹脂の流れが良好である。切欠溝27とスリット28はI字形をなしているので、屈曲形状の開口部に比べると、切欠溝27内及びスリット28内における溶融樹脂の流れが、更に良好となっている。溶融樹脂の流動性が良好であるから、回路基板15とコンデンサ24とダイオード25に対する溶融樹脂の密着性が高い。
【0038】
しかも、切欠溝27はコンデンサ24とダイオード25に臨むように開口し、スリット28はダイオード25に臨むように開口しているので、回路基板15の表面(実装面)からコンデンサ24やダイオード25が突出していても、溶融樹脂は、回路基板15とコンデンサ24との隙間や回路基板15とダイオード25との隙間に回り込むことができる。このことによっても、回路基板15とコンデンサ24とダイオード25に対する溶融樹脂の密着性が、良好となっている。溶融樹脂の密着性が良好なので、回路基板15の表面やコンデンサ24の外面やダイオード25の外面における気泡の発生が防止される。したがって、本実施例1の高電圧発生器Aは、絶縁性に優れている。
【0039】
コンデンサ24に臨む開口部は、回路基板15の外周縁部をスリット28状に凹ませた形態の切欠溝27である。コンデンサ24は、切欠溝27を幅方向に横切るように配され、且つ回路基板15に対し表面実装されている。切欠溝27は回路基板15の外周縁をスリット28状に凹ませた形態なので、回路基板15のうち切欠溝27の両側縁部が変形することが懸念される。
【0040】
しかし、コンデンサ24が、切欠溝27の両側縁部を橋渡しするような形態で回路基板15に表面実装されているので、回路基板15における切欠溝27の両側縁部の変形を防止できる。これにより、切欠溝27の左右方向の長さ寸法を大きくし、溶融樹脂が回路基板15を貫通し易くすることができ、ひいては、溶融樹脂の流動性を高めることができる。
【0041】
ダイオード25に臨む開口部は、回路基板15の外周縁に対して非開口のスリット28であり、1つのダイオード25に対し複数のスリット28が臨んでいる。この構成によれば、ダイオード25に対する溶融樹脂の密着性が良好となる。尚、本実施例1において「スリット28が回路基板15の外周縁に対して非開口である」は、「スリット28の長さ方向両端部が回路基板15の外周縁に開放されず、スリット28の開口縁が全周に亘って連続して繋がった形態である」ことを意味する。
【0042】
1つのスリット28が、間隔を空けて前後に隣り合うように配された2つのダイオード25に臨んでいる。この構成によれば、隣り合う2つのダイオード25の間では、溶融樹脂が回路基板15を貫通するように流れるので、溶融樹脂の流動性が良好となる。また、1つのスリット28の長さ方向(前後方向)における少なくとも一方の端部が、ダイオード25と非対応である。この構成によれば、スリット28の長さ方向における中間部だけでなく端部においても、溶融樹脂が回路基板15を貫通するように流れるので、溶融樹脂の流れが良好となる。
【0043】
<実施例2>
次に、本発明を具体化した実施例2を
図6~
図9を参照して説明する。本実施例2の高電圧発生器Bは、回路基板30(プリント基板)に形成された複数対の切欠溝31(請求項に記載の開口部)と複数の第1スリット32(請求項に記載の開口部)と複数の第2スリット35(請求項に記載の開口部)、及びコッククロフト・ウォルトン回路23を構成するコンデンサ38(請求項に記載の電子部品)とダイオード39(請求項に記載の電子部品)が、上記実施例1と相違する。その他の構成については上記実施例1と同じであるため、同じ構成については、同一符号を付し、構造、作用及び効果の説明は省略する。
【0044】
複数対の切欠溝31は、回路基板30を厚さ方向に貫通し、回路基板30の表面(上面)と裏面(下面)とに開口している。複数対の切欠溝31は、回路基板30の左右両外側縁(長辺)に沿って前後方向に一定ピッチで配されている。切欠溝31は、右外側縁部と左外側縁部に形成されたもの同士が対をなす。対をなす2つの切欠溝31の位置、形状及び大きさは、左右対称である。対をなす切欠溝31は、前後方向(長辺と平行な方向)において同じ位置に配されている。
【0045】
切欠溝31は、回路基板30の外側縁から直角に内側へ一定幅のスリット状に切り込んだ形態である。切欠溝31は、回路基板30の表面を直角に視た平面視において、I字形(直線状)に開口している。換言すると、切欠溝31は、回路基板30の外側縁を凹ませた形態である。切欠溝31の奥端部は半円形をなしている。切欠溝31の長さ寸法(左右方向の開口寸法)は、切欠溝31の幅寸法(前後方向の開口寸法)よりも大きい。本実施例1では、切欠溝31の長さ寸法は幅寸法の約2倍である。前後に隣り合う切欠溝31同士の間隔は、切欠溝31の幅寸法の約2倍である。
【0046】
第1スリット32は、回路基板30を厚さ方向に貫通し、回路基板30の表面と裏面とに開口している。第1スリット32は、左右方向において対をなす切欠溝31よりも内側の領域に配されている。第1スリット32は、全体としては前後方向に細長く、台形状に屈曲した形状をなしている。詳細には、第1スリット32は、前後方向に細長い1本の縦溝部33と、縦溝部33の前後両端から斜め方向に延出した2本の斜溝部34とによって構成されている。第1スリット32の前後方向の長さ寸法は、前後に隣り合う切欠溝31の間の間隔よりも少し大きい寸法である。第1スリット32は、第1スリット32の前後方向中央部が、前後に隣り合う切欠溝31の中間に位置するように配されている。
【0047】
第2スリット35は、回路基板30を厚さ方向に貫通し、回路基板30の表面と裏面とに開口している。第2スリット35は、左右方向において対をなす切欠溝31よりも内側の領域に配されている。第2スリット35は、全体としては前後方向に細長く、鈍角状に屈曲した形状をなしている。詳細には、第2スリット35は、前後方向に細長い1本の縦溝部36と、縦溝部36の前端又は後端から斜め方向に延出した1本の斜溝部37とによって構成されている。第2スリット35の前後方向の長さ寸法は、前後に隣り合う切欠溝31の間の間隔よりも少し大きい寸法である。第2スリット35は、第2スリット35の前後方向中央部が、前後に隣り合う切欠溝31の中間に位置するように配されている。
【0048】
複数の第1スリット32と複数の第2スリット35は千鳥配置されている。即ち、第1スリット32と第2スリット35は、左右二列に分かれ、各列において前後方向に交互に並ぶように配されている。したがって、左右方向においては、第1スリット32と第2スリット35が対をなすように並んでいる。
【0049】
コンデンサ38は、偏平な直方体をなすチップ型と称されるものである。コンデンサ38の下面(裏面)には、前後一対の電極(図示省略)が設けられている。コンデンサ38の前後方向寸法は、切欠溝31の溝幅より大きく、切欠溝31の並列ピッチよりも小さい寸法である。コンデンサ38は、回路基板30の表面(上面)と裏面(下面)の両面に表面実装されている。即ち、コンデンサ38は、切欠溝31を橋渡しするように配置され、前後両電極を切欠溝31の前後両側縁部に載置され、リフロー半田により固着されている。左右方向におけるコンデンサ38の位置は、切欠溝31の左右方向中央部に設定されている。
【0050】
コンデンサ38を回路基板30に表面実装した状態では、1つの切欠溝31が、1つのコンデンサ38に臨むように開口している。ここで、「切欠溝31がコンデンサ38に臨む」は、「回路基板30の実装面(表面)を実装面と直角に視た平面視において、切欠溝31の開口領域の少なくとも一部が、コンデンサ38の少なくとも一部と重なる」ことを意味する。本実施例2では、切欠溝31の開口領域のうち左右方向中央部が、コンデンサ38の下面に臨んでいる。切欠溝31のうちコンデンサ38に臨む領域は、回路基板30の表面側からコンデンサ38で塞がれている。切欠溝31の外側の端部と内側の端部は、コンデンサ38と非対応であり、回路基板30の表裏両面に開口した状態である。
【0051】
ダイオード39は、偏平な直方体をなすチップ型と称されるものである。ダイオード39の下面(裏面)には、前後一対の電極(図示省略)が設けられている。1つのダイオード39は、1つの第1スリット32又は1つの第2スリット35のいずれか一方のみを橋渡しするように配置されている。ダイオード39は、回路基板30の表面(上面)と裏面(下面)の両面に表面実装されている。即ち、ダイオード39は、前後両電極を第1スリット32又は第2スリット35の前後両側縁部に載置し、リフロー半田により表面実装されている。
【0052】
図6,7に示すように、回路基板30の表面(上面)において、ダイオード39が第1スリット32又は第2スリット35を横切る方向は、前後方向及び左右方向の両方向に対して斜めの方向である。
図8,9に示すように、回路基板30の裏面(下面)において、ダイオード39が第1スリット32又は第2スリット35を横切る方向は、左右方向である。
【0053】
回路基板30の表面と裏面にいずれにおいても、1つの第1スリット32は1つのダイオード39のみに臨んでいる。1つの第2スリット35は1つのダイオード39のみに臨んでいる。ここで、「第1スリット32と第2スリット35がダイオード39に臨む」は、「回路基板30の実装面(表面)を実装面と直角に視た平面視において、第1スリット32の開口領域の少なくとも一部と第2スリット35の開口領域の少なくとも一部が、ダイオード39の少なくとも一部と重なる」ことを意味する。
【0054】
第1スリット32のうちダイオード39に臨んでいない両端部は、ダイオード39と非対応となっている。第2スリット35のうちダイオード39に臨んでいない両端部は、ダイオード39と非対応となっている。ここで、「第1スリット32の両端部と第2スリット35の両端部がダイオード39と非対応」は、「回路基板30の実装面(表面)を実装面と直角に視たときに、第1スリット32の両端部と第2スリット35の両端部が、ダイオード39と重ならない」ことを意味する。
【0055】
上記形態の基板モジュール40を収容空間13内にセットした後は、溶融樹脂を回路基板30の裏面に垂らすようにして流し込む。流し込まれた溶融樹脂は、回路基板30の外周縁とケース12の内周面との隙間、切欠溝31及びスリットを通過し、収容空間13のうち回路基板30より下方の領域に充填されていく。充填された溶融樹脂が、ケース12と基板モジュール40との隙間を埋めた状態で固化すると、モールド部26が成形されると同時に高電圧発生器Bの製造が完了する。
【0056】
本実施例2の高電圧発生器Bは、回路基板30と、回路基板30に実装されることで電圧倍増回路16を構成するコンデンサ38及びダイオード39とを備える。回路基板30とコンデンサ38とダイオード39はモールド部26で覆われる。モールド部26が基板モジュール40に密着することにより、沿面放電が防止される。溶融樹脂の流動性を向上させる手段として、回路基板30には、回路基板30を貫通した形態の切欠溝31と第1スリット32と第2スリット35が形成されている。切欠溝31と第1スリット32と第2スリット35は、コンデンサ38又はダイオード39に臨むように開口している。
【0057】
回路基板30には、貫通形態の切欠溝31と第1スリット32と第2スリット35が形成されているので、モールド部26を成形するための溶融樹脂の流れが良好である。切欠溝31はI字形をなしているので、屈曲形状の開口部に比べると、切欠溝31内における溶融樹脂の流れが、更に良好となっている。溶融樹脂の流動性が良好であるから、回路基板30とコンデンサ38とダイオード39に対する溶融樹脂の密着性が高い。
【0058】
しかも、切欠溝31はコンデンサ38に臨むように開口し、第1スリット32と第2スリット35はダイオード39に臨むように開口しているので、回路基板30の表面(実装面)からコンデンサ38やダイオード39が突出していても、溶融樹脂は、回路基板30とコンデンサ38との隙間や回路基板30とダイオード39との隙間に回り込むことができる。このことによっても、回路基板30とコンデンサ38とダイオード39に対する溶融樹脂の密着性が、良好となっている。溶融樹脂の密着性が良好なので、回路基板30の表面やコンデンサ38の外面やダイオード39の外面における気泡の発生が防止される。したがって、本実施例1の高電圧発生器Bは、絶縁性に優れている。
【0059】
<他の実施例>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施例に限定されるものではなく、例えば次のような実施例も本発明の技術的範囲に含まれる。
上記実施例1,2では、切欠溝を横切るように配されたコンデンサ(電子部品)が、回路基板に表面実装されているが、切欠溝を横切るように配されたコンデンサは、リードをスルーホールHに挿入した形態で回路基板に実装されていてもよい。
上記実施例1,2では、コンデンサに臨む開口部が、回路基板の外周縁に開口する切欠溝であるが、コンデンサに臨む開口部は、回路基板の外周縁に開口しないスリットであってもよい。
上記実施例1,2では、1つのコンデンサ(電子部品)に対し1つの切欠溝が臨んでいるが、1つのコンデンサ(電子部品)に対し複数の切欠溝が臨むようにしてもよい。
上記実施例1,2では、電圧増幅回路が多段タイプのコッククロフト・ウォルトン回路で構成されているが、電圧増幅回路はコッククロフト・ウォルトン回路以外の回路であってもよい。
上記実施例1,2において回路基板に実装されるダイオード(電子部品)とコンデンサ(電子部品)の数は、これらの実施例に開示した数に限定されるものではなく、回路基板に実装するダイオードとコンデンサの数は、いずれも、任意に設定することができる。
【0060】
上記実施例1では、回路基板の外周縁に対して非開口のスリット(開口部)が、全てI字形をなしているが、一部のスリット(開口部)が屈曲した形状であってもよい。
上記実施例1では、1つのダイオード(電子部品)に対し複数(2つ)のスリット(開口部)が臨んでいるが、1つのダイオードに臨むスリットの数は、1つだけであってもよい。
上記実施例1では、スリットの長さ方向における一方の端部がダイオード(電子部品)に臨み、他方の端部が、ダイオード(電子部品)と非対応であって回路基板の表裏両面に開放された形態となっているが、スリットの長さ方向における両方の端部が電子部品に臨む形態としてもよく、スリットの長さ方向における両方の端部が回路基板の表裏両面に開放された形態としてもよい。
上記実施例1では、1つのスリット(開口部)が、間隔を空けて隣り合うように配された2つのダイオード(電子部品)に臨んでいるが、1つのスリットが臨むダイオード(電子部品)の数は、1つだけであってもよい。
上記実施例1では、ダイオード(電子部品)が、回路基板のスルーホールHに貫通させたリードを介して回路基板に実装されているが、ダイオードは回路基板に表面実装されていてもよい。
上記実施例1では、回路基板の表面(トランスが実装されている側の面)のみに電子部品(コンデンサとダイオード)を実装したが、回路基板の表裏両面に電子部品を実装してもよい。
【0061】
上記実施例2では、回路基板にI字形の開口部(スリット)と屈曲形状の開口部(スリット)が形成されているが、全ての開口部がI字形でもよく、全ての開口部が屈曲した形状であってもよい。
上記実施例2では、1つのダイオード(電子部品)に対し1つのスリットが臨んでいるが、1つのダイオードに複数のスリットが臨むようにしてもよい。
上記実施例2では、スリットの長さ方向における両方の端部が、電子部品と非対応であって回路基板の表裏両面に開放された形態となっているが、スリットの長さ方向における両方の端部が電子部品に臨む形態としてもよく、スリットの長さ方向における一方の端部が回路基板の表裏両面に開放され、他方の端部が電子部品に臨む形態としてもよい。
上記実施例2では、回路基板の表裏両面に電子部品(コンデンサとダイオード)を実装したが、回路基板の表面(トランスが実装されている側の面)のみ又は裏面のみに電子部品を実装してもよい。
【符号の説明】
【0062】
A,B…高電圧発生器
15,30…回路基板
16…電圧倍増回路
24,38…コンデンサ(電子部品)
25…ダイオード(電子部品)
26…モールド部
27,31…切欠溝(開口部)
28…スリット(開口部)
32…第1スリット(開口部)
35…第2スリット(開口部)