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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-27
(45)【発行日】2023-12-05
(54)【発明の名称】細胞製造装置及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12M 3/00 20060101AFI20231128BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20231128BHJP
【FI】
C12M3/00 Z
C12M1/00 C
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2021542013
(86)(22)【出願日】2020-05-28
(86)【国際出願番号】 JP2020021240
(87)【国際公開番号】W WO2021038996
(87)【国際公開日】2021-03-04
【審査請求日】2022-02-25
(31)【優先権主張番号】62/893,605
(32)【優先日】2019-08-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】517123221
【氏名又は名称】アイ ピース,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100112357
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 繁樹
(72)【発明者】
【氏名】伴 一訓
(72)【発明者】
【氏名】木下 聡
(72)【発明者】
【氏名】田邊 剛士
(72)【発明者】
【氏名】平出 亮二
【審査官】坂崎 恵美子
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-513684(JP,A)
【文献】国際公開第2019/043130(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第103667054(CN,A)
【文献】特表平09-500818(JP,A)
【文献】特開2014-064475(JP,A)
【文献】国際公開第2012/020458(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/175580(WO,A1)
【文献】特開2005-287425(JP,A)
【文献】特開2007-136322(JP,A)
【文献】国際公開第2006/043642(WO,A1)
【文献】国際公開第2005/049196(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/038887(WO,A1)
【文献】特開2017-046592(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 3/00
C12M 1/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の機能部位を集約した流体回路を備える細胞作製プレートと、
前記流体回路を外部空間に対して閉鎖的に接続する閉鎖式コネクタと、
を備え、
前記流体回路は、前記複数の機能部位として、
前記閉鎖式コネクタを介して流体を前記流体回路内に注入又は流体回路外に排出する注入排出部と、
注入した前記流体に基づき細胞の誘導及び培養を行う細胞誘導培養部と、
相互に不混和な複数の流体を混合する流体混合部と、を備え、
該流体混合部は、相互に不混和な流体を1本の流路に合流させる流体合流路を含み、
前記流体混合部は、前記流体合流路により合流した流体に混合流を発生させる混合流発生路をさらに含み、
該混合流発生路は流体の進行方向とは異なる方向に流路幅を変化させる部分と前記異なる方向に流路深さを変化させる部分とを流体の進行方向に対して交互に備えている、細胞製造装置。
【請求項2】
注入又は排出した前記流体によって押出される流体又は引出される流体を貯留する容積可変部をさらに備え、前記容積可変部は物理的又は化学的な容積可変材を備える、請求項1に記載の細胞製造装置。
【請求項3】
前記物理的な容積可変材は、柔軟性バッグ又はシリンジを備える、請求項2に記載の細胞製造装置。
【請求項4】
前記流体回路は、注入した前記流体を前記流体回路内で移送する移送部をさらに備える、請求項1から3のいずれか一項に記載の細胞製造装置。
【請求項5】
前記流体回路は、前記移送部の前段又は後段に流量計測部をさらに備える、請求項4に記載の細胞製造装置。
【請求項6】
前記流量計測部は、前記移送部に連通する流路及び貯溜漕の少なくとも一方に隣接して設けた流量センサを備える、請求項5に記載の細胞製造装置。
【請求項7】
前記流量計測部は、前記移送部に連通する流路及び貯溜漕の少なくとも一方における流体の継時変化を画像に捉える画像認識センサを備える、請求項5に記載の細胞製造装置。
【請求項8】
前記注入排出部は、前記誘導及び前記培養の少なくとも一方を施した細胞を含む流体をサンプルとして前記流体回路外に排出又は前記流体回路内に注入可能な注入排出チャネルを備える、請求項1から7のいずれか一項に記載の細胞製造装置。
【請求項9】
前記流体回路は、細胞又は細胞塊を分離する細胞分離部をさらに備える、請求項1から8のいずれか一項に記載の細胞製造装置。
【請求項10】
前記細胞作製プレートの少なくとも一部が透明である、請求項1から9のいずれか一項に記載の細胞製造装置。
【請求項11】
前記流体回路は、前記細胞作製プレートの表側で、第1方向に延びる第1流路と、前記第1方向とは異なる第2方向に延びる第2流路と、を備え、前記第1流路は前記細胞作製プレートの裏側に向かって延びて前記第2流路を迂回する迂回路を備える、請求項1から10のいずれか一項に記載の細胞製造装置。
【請求項12】
前記細胞作製プレートは、平板と、前記平板を覆う蓋と、を備え、前記迂回路は、前記平板の表面から裏面へ貫通する複数の貫通穴と、前記平板の前記裏面で前記貫通穴同士を連通する連通路と、を備える、請求項11に記載の細胞製造装置。
【請求項13】
前記細胞作製プレートに着脱可能に連結するベースプレートと、前記細胞作製プレート及び前記ベースプレートの連結面に取付けられたプレート封止部材と、をさらに備える、請求項1から12のいずれか一項に記載の細胞製造装置。
【請求項14】
前記細胞作製プレートに着脱可能に連結するベースプレートを備え、前記流体回路は注入した前記流体を前記流体回路内で移送するペリスタルティックポンプを備え、前記ベースプレートが前記ペリスタルティックポンプを駆動する駆動部を備える、請求項1から13のいずれか一項に記載の細胞製造装置。
【請求項15】
前記ペリスタルティックポンプの回転運動の状態を画像に捉える画像認識センサをさらに備える、請求項14に記載の細胞製造装置。
【請求項16】
複数の機能部位を集約した流体回路を備える平板を成型する工程と、
前記流体回路を覆うように蓋を前記平板に固着して細胞作製プレートを形成する工程と、
前記流体回路を外部空間に対して閉鎖的に接続する閉鎖式コネクタを前記細胞作製プレートに取付ける工程と、
を備え、
前記流体回路は、前記複数の機能部位として、
前記閉鎖式コネクタを介して前記流体回路内に流体を注入又は流体回路外に排出する注入排出部と、
注入又は排出した前記流体に基づき細胞の誘導及び培養を行う細胞誘導培養部と、
相互に不混和な複数の流体を混合する流体混合部と、を備え、該流体混合部は、相互に不混和な流体を1本の流路に合流させる流体合流路を含み、
前記流体混合部は、前記流体合流路により合流した流体に混合流を発生させる混合流発生路をさらに含み、
該混合流発生路は流体の進行方向とは異なる方向に流路幅を変化させる部分と前記異なる方向に流路深さを変化させる部分とを流体の進行方向に対して交互に備えている、細胞製造装置の製造方法。
【請求項17】
前記平板を成型する工程は、前記平板の表面及び裏面の少なくとも一方に前記流体回路として溝又は貯溜槽を形成する工程を含む、請求項16に記載の細胞製造装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞製造装置及びその製造方法に関し、特に細胞製造装置の製造の合理化と自動化システムへの適合性を同時に実現した細胞製造装置及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
胚性幹細胞(ES細胞)は、ヒトやマウスの初期杯から樹立された幹細胞であり、生体に存在する全ての細胞へと分化できる多能性を有する。ヒトES細胞は、パーキンソン病、若年性糖尿病、及び白血病等、多くの疾患に対する細胞移植法に利用可能であると考えられている。しかし、ES細胞の移植は、臓器移植と同様に、拒絶反応を惹起するという問題がある。また、ヒト杯を破壊して樹立されるES細胞の利用に対しては、倫理的見地から反対意見が多い。
【0003】
これに対し、京都大学山中伸弥教授は、4種の遺伝子:Oct3/4、Klf4、c-Myc、及びSox2を体細胞に導入することにより、誘導多能性幹細胞(iPS細胞)を樹立することに成功し、2012年のノーベル生理学・医学賞を受賞した(例えば、特許文献1参照。)。iPS細胞は、拒絶反応や倫理的問題のない理想的な多能性細胞であり、細胞移植法への利用が期待されている。
【0004】
iPS細胞のような誘導幹細胞は、細胞に遺伝子等の誘導因子を導入することによって樹立され、拡大培養、凍結保存される。しかし、例えば臨床用iPS細胞(GLP,GMPグレード)等を作製するには、非常に綺麗に保たれたクリーンルームを必要とし、高額な維持コストが掛かる。産業化のためには、クリーンルームの運用方法をいかに効率化してコスト削減に努めるかが課題になっていた。
【0005】
またiPS細胞の作製は手作業によるところが大きいが、臨床用iPS細胞を作製できる技術者は少ない。幹細胞の樹立から保存までの一連の作業が複雑であるという問題がある。臨床用の細胞培養では、標準的な工程(SOP:Standard Of Process)の確認と、SOPに従った操作と、SOP通りに実施されたか否かの確認、という3つのステップを行う必要があり、これらステップを人が行う事は非常に非生産的である。細胞培養は24時間毎日管理する必要があり、幹細胞の保存は何十年にも及ぶため、人材だけで管理するのは限界があった。
【0006】
そこで、高度に清浄なクリーンルームを不要とし、通常管理区域(例えばWHO-GMP規格において微生物及び微粒子の少なくとも一方がグレードDレベル又はそれ以上)で作業可能な閉鎖系の細胞製造装置が開発されてきた(例えば、特許文献2参照。)。また人材も排除して複雑な細胞製造工程を自動化するため、細胞製造を補助するロボットを備えた細胞製造システムも開発されている。斯かる細胞製造装置に関する先行技術としては、次の文献が公知である。
【0007】
特許文献3には、導入前細胞送液路と、導入前細胞に体細胞誘導因子を導入して誘導因子導入細胞を作製する因子導入装置と、誘導因子導入細胞を培養して体細胞を作製する細胞作製装置と、を1つの筐体内にパッケージ化した体細胞製造システムが開示されている。
【0008】
特許文献4には、培養容器及び流路を閉鎖系にした細胞培養容器が開示されており、細胞培養容器が第一容器内に第二容器を偏心して保持することにより、細胞培養の育成状態が明瞭に観察できる。
【0009】
特許文献5には、培地貯溜手段、細胞接種手段、及び培養容器が閉鎖系で構成された細胞培養装置が開示されている。細胞培養装置は、培養容器内の細胞の画像から細胞の培養状況を判定し、この判定に基づき培養操作を実行することにより、操作者の労力を軽減している。
【0010】
特許文献6には、細胞培養チャンバの容積を囲む側壁を有する本体と、細胞培養チャンバを覆う蓋と、本体下部に配置された底板と、を備え、本体には、流入排出コネクタと細胞培養チャンバとの間を流体連通させるマイクロ流体導管を一体形成した細胞培養装置が開示されている。
【0011】
特許文献7には、マイクロチップの内部空間の気泡を外部空間に移動させる気泡除去手段を備えたマイクロチップ反応装置が開示されている。特許文献8には、第1培養液貯留室及び第2培養液貯留室から気体を排出可能な通気孔を備え、通気孔にエアフィルタを設けた細胞培養装置が開示されている。
【0012】
特許文献9には、2つの流路が合流する液体混合部を備えた細胞培養プレートが開示されている。特許文献10には、放射状に分布する微小チャネル部品を支持する基板と、基板上に配置されるカバープレートと、を備え、細胞増殖及び細胞検定を行う装置が開示されている。微小チャネル部品は、液体試料を導入する導入チャネルと、流路面積を相対的に大きくした細胞増殖チャンバ及び検定チャンバと、液体試料を除去する排出チャネルと、を備えている。
【0013】
特許文献11は、第一のマイクロ流体チャネルを画定する第一の層と、第二のマイクロ流体チャネルを画定する第二の層と、を備える培養装置が開示されている。
【0014】
特許文献12には、流路一体プレート及びベースプレートを備えた細胞培養装置が開示されている。流路一体プレートは、培養液の流路を形成した流路プレートと、培養液の供給及び排出を行うペリスタルティックポンプ群を配置したポンプ部と、を備え、ベースプレートがモータ等の駆動源を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【文献】特許第4183742号公報
【文献】特開2018-019685号公報
【文献】国際公開第2018/154788号
【文献】国際公開第2014/049701号
【文献】国際公開第2007/052716号
【文献】特表2014-514926号公報
【文献】特開2014-226623号公報
【文献】国際公開第2017/154880号
【文献】特開2005-80607号公報
【文献】特表2002-512783号公報
【文献】特表2017-513483号公報
【文献】特開2017-221166号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
従来の装置は、培地貯留リザーバ、培地供給排出流路、細胞培養容器といった細胞培養機能のみを一体的に構成した細胞培養装置が多く、誘導因子導入による、細胞の初期化、リプログラミング、運命転換、ダイレクトリプログラミング、分化転換、分化誘導、形質転換といった細胞誘導機能までを一体化したものは少ない。これら種々の機能部位を閉鎖系で構成するためには、別個の部材をチューブ、ポンプ、コネクタ等を介して閉鎖的に接続するといった煩雑な工程を要するため、製造工数、製造コスト等を増大させる虜がある。また、斯かる装置による細胞製造を完全に自動化するとなると、別個の部材で構成された細胞製造装置がロボットにとって取扱い難いものとなる。
【0017】
そこで、細胞製造装置の製造の合理化と自動化システムへの適合性を同時に実現する技術が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本開示の一態様は、複数の機能部位を集約した流体回路を備える細胞作製プレートと、流体回路を外部空間に対して閉鎖的に接続する閉鎖式コネクタと、を備え、流体回路は、複数の機能部位として、閉鎖式コネクタを介して流体を流体回路内に注入又は流体回路外に排出する注入排出部と、注入した流体に基づき細胞の誘導及び培養の少なくとも一方を行う細胞誘導培養部と、相互に不混和な複数の流体を混合する流体混合部と、を備え、該流体混合部は、相互に不混和な流体を1本の流路に合流させる流体合流路を含み、前記流体混合部は、前記流体合流路により合流した流体に混合流を発生させる混合流発生路をさらに含み、該混合流発生路は流体の進行方向とは異なる方向に流路幅を変化させる部分と前記異なる方向に流路深さを変化させる部分とを流体の進行方向に対して交互に備えている、細胞製造装置を提供する。
本開示の他の態様は、複数の機能部位を集約した流体回路を備える平板を成型する工程と、流体回路を覆うように蓋を平板に固着して細胞作製プレートを形成する工程と、流体回路を外部空間に対して閉鎖的に接続する閉鎖式コネクタを細胞作製プレートに取付ける工程と、を含み、流体回路は、複数の機能部位として、閉鎖式コネクタを介して流体を流体回路内に注入又は流体回路外に排出する注入排出部と、注入した流体に基づき細胞の誘導及び培養の少なくとも一方を行う細胞誘導培養部と、相互に不混和な複数の流体を混合する流体混合部と、を備え、該流体混合部は、相互に不混和な流体を1本の流路に合流させる流体合流路を含み、前記流体混合部は、前記流体合流路により合流した流体に混合流を発生させる混合流発生路をさらに含み、該混合流発生路は流体の進行方向とは異なる方向に流路幅を変化させる部分と前記異なる方向に流路深さを変化させる部分とを流体の進行方向に対して交互に備えている、細胞製造装置の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0019】
本開示の態様によれば、複数の機能部位が1つの細胞作製プレート内に集約されるため、別個の部品をチューブ、ポンプ、コネクタ等を介して閉鎖的に接続するといった製造工程が不要となり、細胞製造装置の製造工数、製造コスト等が削減される。また同時に、注入又は排出した流体によって押出又は引出される流体が流体回路内に閉じ込められるため、細胞作製プレートの外部に流体を逃がしたり又は外部から流体を取込んだりする必要がなく、流体回路の密閉性を保ちながら細胞作製プレートをプレート状に形成することが可能になる。斯かる細胞作製プレートは、ロボットにとって取扱い易く、自動化システムへの適合性を向上させる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】一実施形態における細胞製造装置の構成図である。
図2】細胞作製プレートの一例を示す分解斜視図である。
図3A】平板と蓋の固着方法の一例を示す拡大断面図である。
図3B】平板と蓋の固着方法の一例を示す拡大断面図である。
図4A】混合流路の一例を示す平面図である。
図4B】混合流路の一例を示すB-B’断面図である。
図5】破砕流路の一例を示す拡大斜視図である。
図6】交差流路の一例を示す拡大斜視図である。
図7A】ベースプレートの一例を示す正面斜視図である。
図7B】ベースプレートの一例を示す背面斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、添付図面を参照して本開示の実施形態を詳細に説明する。各図面において、同一又は類似の構成要素には同一又は類似の符号が付与されている。また、以下に記載する実施形態は、特許請求の範囲に記載される発明の技術的範囲及び用語の意義を限定するものではない。なお、本書における用語「閉鎖」とは、微生物、ウイルス等の汚染源が装置内部に侵入して生物学的汚染を発生しないこと、及び/又は装置内部の流体(細胞、微生物、ウイルス粒子、タンパク質、核酸等の物質を含む。)が漏出して交叉汚染を発生しないこと、及び/又は病原体に感染したドナーの流体を装置内部で取扱ってもバイオハザードを発生しないことを意味する。但し、本書における装置は、例えば二酸化炭素、窒素、酸素等の汚染源でない流体が装置内部に侵入又は装置外部へ漏出するように構成してもよい。
【0022】
図1は本実施形態における細胞製造装置1の構成を示している。細胞製造装置1は、誘導因子導入による、細胞の初期化、リプログラミング、運命転換、ダイレクトリプログラミング、分化転換、分化誘導、形質転換等を行う細胞誘導機能を備えた細胞誘導装置であるが、単に培養、拡大培養等を行う細胞培養機能のみを備えた細胞培養装置でもよい。細胞製造装置1は、元細胞(例えば血液細胞、線維芽細胞等の体細胞、又はES細胞、iPS細胞等の幹細胞)を含む流体を注入し、元細胞から目的細胞(例えば幹細胞、前駆細胞、最終分化細胞)を製造すると共に、目的細胞を含む流体を排出する。目的細胞として、線維芽細胞、神経細胞、網膜上皮細胞、肝細胞、β細胞、腎細胞、間葉系幹細胞、血液細胞、メガカリオサイト、T細胞、軟骨細胞、心筋細胞、筋細胞、血管細胞、上皮細胞、腎細胞、又は他の体細胞等の分化細胞を作製してもよい。細胞製造装置1は、高度にクリーンであるべき部分を全て内部に集約した閉鎖系の細胞処理装置であり、通常管理区域でも使用可能である。装置内部の閉鎖空間は、気体、ウイルス、微生物、不純物等を外部と交換しないように構成される。但し、後述の流体交換フィルタ等を装置に付加的に設けることにより、汚染源でない流体を装置内部と外部で交換可能に構成してもよい。
【0023】
図1に示すように、細胞製造装置1は細胞作製プレート2及び閉鎖式コネクタ3を備えている。細胞作製プレート2は外部空間Sから遮断された閉鎖系の流体回路4を備えており、流体回路4は複数の機能部位を高度に集約した流路を備えている。閉鎖式コネクタ3は、流体回路4へ流体を注入し、又は流体回路4から流体を排出するためのコネクタであり、細胞作製プレート2に取付けられる。閉鎖式コネクタ3は、流体回路4と流体容器を外部空間Sに対して閉鎖的に接続するコネクタであり、例えば無菌接続コネクタ、ニードルレスコネクタ、ニードルコネクタ、熱溶断チューブ等でよい。ニードルレスコネクタは、スプリットセプタム型でもよいし、メカニカルバルブ型でもよい。流体容器とは、シリンジ、容積可変バッグ等であり、閉鎖式コネクタ3と流体容器との接続時には流体回路4が流体容器と流体連通する一方、閉鎖式コネクタ3と流体容器との非接続時には流体回路4が外部空間Sから遮断される。これにより、流体回路4の生物学的汚染、交叉汚染、及びバイオハザードを防止できる。複数種類の流体の注入又は排出を可能にするため、細胞製造装置1は複数の閉鎖式コネクタ3を備えていることが好ましい。
【0024】
図2は細胞作製プレート2の一例を示している。図2に示すように、細胞作製プレート2は平板20及び蓋21を備えている。平板20は、例えば生物学的に安全な樹脂、金属等で成形することができる。平板20は、金型を用いた成型加工、例えば射出成形、圧縮成形等によって成型するのが好ましいが、3Dプリンタ等を用いて平板20を成形してもよい。3Dプリンタとしては、光造形、熱溶解積層、粉末焼結、インクジェット等の種々の造形方式を採用できる。平板20の表面及び裏面の少なくとも一方に、流体を流す流路として溝20aを設け、複数の溝20aを組み合わせることによって流体回路4を形成する。また、流体回路4の一部に、溝20aの幅又は深さを相対的に大きくした箇所を設け、流体を一時的に貯溜する貯溜槽20bを形成する。溝20a及び貯溜槽20bの壁面には、poly-HEMA(poly 2-hydroxyethyl methacrylate)をコーティングして細胞非接着性にしてもよい。逆に、細胞が溝20a又は貯溜槽20bに入り難い場合には、溝20a及び貯溜槽20bの壁面を低タンパク吸着性にしてもよい。溝20a及び貯溜槽20bの少なくとも一部は、流体、細胞、細胞塊等の経時変化を画像認識センサ、超音波認識センサ等によって観察するため、白色又は黒色とすることが好ましい。
【0025】
蓋21は、例えば生物学的に安全な樹脂、石英ガラス等で形成されてもよい。蓋21(即ち、細胞作製プレート2の少なくとも一部)は、流体回路4内の流体、細胞、細胞塊等の経時変化を画像認識センサ、超音波認識センサ等によって観察するため、透明であることが好ましい。この観察により、適切なタイミングで次の細胞製造工程に移行することが可能になる。蓋21は、流体回路4を外部空間から遮断するため、生物学的に安全な固着方法、例えば化学結合、溶着結合、接着結合等によって流体回路4を覆うように平板20に固着される。化学結合としては、シランカップリング剤、プラズマ照射等を用いてもよい。また溶着結合としては、レーザ溶着、超音波溶着等を用いてよく、接着結合としては、紫外線硬化接着剤等を用いてもよい。平板20と蓋21の固着後に、細胞作製プレート2に対して殺菌処理、例えば加熱滅菌、ガンマ線滅菌、紫外線滅菌、電子線滅菌等を施し、流体回路4を高度にクリーンな状態にする。
【0026】
図3A図3Bは平板と蓋の固着方法の一例を示している。流体回路4を外部空間から遮断するため、溝20aと貯溜槽20bの両側に土手部20cを予め形成しておき、平板20を蓋21で覆い、少なくとも土手部20cにレーザ光、超音波等を照射又は印加して土手部20cを加熱し、平板20と蓋21を溶着することによって溝20aと貯溜槽20bを密封してもよい。或いは、溝20a及び貯溜槽20bを含む平板20に対して蓋21をして、少なくとも溝20a及び貯溜槽20b以外の部分をレーザ光、超音波等を照射又は印加して加熱し、平板20と蓋21を溶着することによって溝20aと貯溜槽20bを密封してもよい。この場合、溝20a及び貯溜槽20b以外の部分が全て固着されるため、固着強度が高まる。
【0027】
図1を再び参照すると、流体回路4は、複数の機能部位として、注入排出部10及び細胞誘導培養部13を少なくとも備えている。流体回路4は、所望により、容積可変部11、移送部12、流体溜め部14、流体混合部15、細胞分離部16、及び細胞塊破砕部17を備えていてもよい。これら種々の機能部位が1つの細胞作製プレート2内に集約されるため、別個の部品をチューブ、ポンプ、コネクタ等を介して閉鎖的に接続するといった製造工程が不要となり、細胞製造装置1の製造工数、製造コスト等が削減される。
【0028】
注入排出部10は、閉鎖式コネクタ3を介して流体を流体回路4内に注入又は排出する注入排出チャネルを備えている。複数種類の流体を注入又は排出可能にするため、注入排出部10は複数の注入排出チャネル10a-10fを備えていることが好ましい。例えば、第1注入排出チャネル10aは元細胞を含む流体等を注入又は排出可能であり、第2注入排出チャネル10bは、元細胞分離用試薬、抗凝固剤、リン酸緩衝生理食塩水等の流体を注入又は排出可能である。また第3注入排出チャネル10cは誘導因子導入試薬等の流体を注入又は排出可能であり、第4注入排出チャネル10dは、初期化用又は誘導用培地等の種々の培地、トリプシン代替組替え酵素等の細胞剥離試薬、シングルセル分離試薬、細胞間接着剥離薬等の流体を注入又は排出可能である。誘導用培地は、初期化用培地、リプログラミング用培地、運命転換用培地、ダイレクトプログラミング用培地、分化転換用培地、分化誘導用培地、形質転換用培地等を含む。さらに第5注入排出チャネル10eは誘導及び培養の少なくとも一方を施した細胞を含む流体をサンプルとして流体容器19に排出又は注入可能であり、第6注入排出チャネル10fは目的細胞を含む流体を流体容器に排出又は注入可能である。サンプル排出用の流体容器19は、閉鎖式コネクタ3、例えば熱溶断チューブに接続する容積可変バッグ等でよい。また、目的細胞を含む流体を排出する際に、第6注入排出チャネル10fの周囲に液体窒素等の冷媒を供給し、目的細胞を含む流体を凍結させて細胞作製プレートをシーリングしてもよいし、又は第6注入排出チャネル10fから閉鎖式コネクタ3を介して排出した流体容器を液体窒素等の冷媒で凍結してもよい。
【0029】
容積可変部11は、注入又は排出した流体によって押出又は引出される流体を貯溜する物理的又は化学的な容積可変材を備えている。流体回路4内に元々入っていた流体を逃がす流体逃がし流路を設け、流体逃がし流路に物理的な容積可変材を接続するか、又は流体逃がし流路に一定の圧力で開閉する圧力弁を設けて貯溜槽に化学的な容積可変材を留置することにより、流体回路4の密閉性を保ちながら流体の移動を可能にする。物理的な容積可変材は、例えば柔軟性バッグ、シリンジ等でよい。化学的な容積可変材は、例えばソーダ石灰、シリカゲル等の流体吸収剤と、流体吸収剤を留置する貯溜槽とは別の貯溜槽に留置した流体放出剤と、を含んでいてよい。容積可変材により、閉鎖された流体回路4の内圧が概ね一定になると共に、注入又は排出した流体によって押出又は引出される流体が細胞作製プレート2内に閉じ込められるため、細胞作製プレート2の外部に流体を逃がしたり又は外部から流体を取込んだりする必要がなく、流体回路4の密閉性を保ちながら細胞作製プレート2をプレート状に形成することが可能になる。このような細胞作製プレート2はロボットにとって取扱い易い。
【0030】
移送部12は、流体回路4内で流体を移送するポンプを備えている。ポンプは、流量制御可能な容積式ポンプ、例えば回転ポンプ、往復ポンプ等でよい。回転ポンプとしては、ペリスタルティックポンプが好ましい。ペリスタルティックポンプの場合、流路の端部に設けたコネクタに柔軟性チューブを密閉接続し、チューブをローラで扱くことによって流体を移送する。チューブはローラで遮断されているので、ポンプ停止時は、流体の流れが遮断され、流量制御が可能となる。また往復ポンプとしては、ダイヤフラムポンプが望ましい。但しダイヤフラムポンプの場合、ダイヤフラムが流路を遮断しないため、流路遮断弁を併用することにより、流量制御が可能になる。
【0031】
適切なタイミングで適切な機能部位に流体を移送するため、移送部12は複数のポンプP1-P8を備えていることが好ましい。例えば、第1ポンプP1-第3ポンプP3は流体溜め部A1-A3に貯溜する流体を適切なタイミングで移送し、第4ポンプP4及び第8ポンプP8は細胞分離部16に貯溜する流体を適切なタイミングで移送する。第5ポンプP5は流体溜め部A4に貯溜する流体を適切なタイミングで移送し、第6ポンプP6-第7ポンプP7は細胞誘導培養部13に貯溜する流体を適切なタイミングで移送する。ポンプとして例えばペリスタルティックポンプを使用する場合、ポンプが確実に回転したか、又は適切な角度だけ回転したか等、ポンプが正常に作動しているか否かの情報を取得するために、ポンプの回転主軸に回転量を検知できるロータリーエンコーダを備えてもよい。或いは、例えばポンプの回転主軸端部に視覚的な目印を設けておき、画像認識センサによって目印の回転運動を画像で直接捉えてもよい。ポンプによる移送が確実に行われていることを確認するため、ポンプの前段又は後段に流量計測部(図示せず)をさらに備えていてもよい。流量計測部は、例えば移送部に連通する流路及び貯溜槽の少なくとも一方に隣接して設けた流量センサ、又は移送部に連通する流路及び貯溜槽の少なくとも一方における流体の経時変化を画像に捉える画像認識センサ等でよい。流量センサは、例えばカルマン渦式、羽根車式、ダイヤフラム式等、細胞に悪影響を及ぼさない種々の計測方式を採用でき、直接流体の流量情報を取得する。画像認識センサは、透明な蓋21を介して外部カメラ等から画像認識することによって流体の動きから流量情報を取得する。画像認識センサは、本書に記載の他の画像認識センサを流用してもよく、これにより部品点数及び製造コストを低減できる。
【0032】
細胞誘導培養部13は、移送した流体に基づき細胞の誘導及び培養の少なくとも一方を行う細胞誘導培養槽13aと、細胞誘導培養槽13aに流体連通していて培地を循環させる培地循環路13bと、を備えている。細胞誘導培養槽13aは、加温素子によって所定の培養温度、例えば37℃に加温される。培地循環路13bは、冷却素子によって所定の培地品質保持温度、例えば4℃-8℃に冷却される。細胞誘導培養槽13aは、密閉された状態であり、二酸化炭素、窒素、酸素等の流体を供給されなくてもよいが、細胞誘導培養槽13a及び培地循環路13bの少なくとも一方に、二酸化炭素、窒素、酸素等の流体を装置内部と外部で交換する流体交換フィルタをさらに備えていてもよい。また、細胞誘導培養槽13aは、細胞浮遊培養を行う三次元培養槽でよいが、接着培養を行う二次元培養槽でもよい。接着培養のため、細胞誘導培養槽13aは、マトリゲル、コラーゲン、ポリリジン、フィブロネクチン、ヴィトロネクチン、ゼラチン、及びラミニン、ラミニンフラグメント等の細胞接着用コーティング剤でコーティングされてもよいし、又は中空糸を充填されていてもよい。さらに、細胞誘導培養槽13aは、培養槽30と、培養槽30に培地を供給する培地槽31と、を一体的に備えていてもよい。この場合、細胞誘導培養槽13aは、培養槽30と培地槽31との間に特定成分のみの行き来を許容する特定成分透過部材32、例えば半透膜を備えていることが好ましい。特定成分透過部材32は、例えば種々の培地、細胞接着用コーティング剤、細胞剥離用試薬等の特定成分を透過する。
【0033】
細胞誘導培養部13は、使用した培地のpH値を測定するpH測定部13cをさらに備えていてもよい。pH測定部13cは、使用した培地のpH値を測定するため、培地循環路13b又は細胞誘導培養槽13aに設けることが好ましい。pH測定部13cは、例えば画像認識センサ、電極計測センサ等でよい。画像認識センサはpH値を透明な蓋を介して外部カメラ等で色相計測する。電極計測センサはガラス電極法によってpH値を計測する。色相計測の場合、培地循環路13bの少なくとも一部(例えば、色相計測箇所の底面等)を白色とすることにより、色相を正確に検出できるようになる。このpH値により、培地の状態を定量的に把握することが可能になる。また、画像上の細胞の像の輪郭を鮮明にするため、細胞誘導培養槽13aの前方、周囲方向(例えば、観察面と直交する方向)、及び後方のうちの少なくとも1つから照明を当てる照明部をさらに備えていることが好ましい。照明部は、例えばLED照明等を含み、細胞作製プレート2の内部に埋め込むか、又は細胞誘導培養槽13aを細胞作製プレート2よりも凸状にして細胞作製プレート2の外部に設けてもよい。照明が細胞に到達するように、培養槽30は光を通す透明部材で覆われていてもよい。
【0034】
流体溜め部14は、流体回路4内に注入又は流体回路4外へ排出すべき流体を貯溜する貯溜槽を備えている。複数種類の流体を貯溜可能にするため、流体溜め部14は複数の貯溜槽A1-A4を備えていることが好ましい。貯溜槽A1-A4は、流路の幅又は深さを相対的に大きくした箇所として形成され、種々の流体を適切なタイミングで所定量だけ利用するのを可能にする。例えば、第1貯溜槽A1は元細胞を含む流体を貯溜し、第2貯溜槽A2は、元細胞分離用試薬、抗凝固剤、リン酸緩衝生理食塩水等の流体を貯溜し、第3貯溜槽A3は誘導因子導入試薬等の流体を貯溜し、第4貯液槽A4は種々の培地、細胞接着用コーティング剤、細胞剥離用試薬等の流体を貯溜する。目的細胞を含む流体等を貯溜する貯溜槽を備えていてもよい。
【0035】
流体混合部15は、相互に不混和な複数の流体を混合する混合流路を備えている。図4A図4Bは混合流路の一例を示している。混合流路40は、流体合流路41及び混合流発生路42を備えていることが好ましい。流体合流路41は相互に不混和な流体L1-L2を1本の流路に合流させる流路であり、混合流発生路42は合流した流体L1-L2に混合流を発生させる流路である。混合流発生路42は、例えば流路の断面積を不連続に変化させた流路であり、流体の進行方向とは異なる方向に流路幅及び流路深さの少なくとも一方を変化させていることが好ましい。例えば、混合流発生路42は、流体の進行方向に対して交互に、流路幅変化部42a及び流路深さ変化部42bを備えている。これにより、流路幅方向に流れが変化する混合流と流路深さ方向に流れが変化する混合流が交互に発生し、相互に不混和な流体L1-L2が混合され易くなる。また代替実施形態として、混合流発生路42は、平板の表面から裏面へ向かって貫通する螺旋流路でもよい。平板の裏面から表面へ流体を戻すため、平板を貫通する2つの螺旋流路を設け、平板の裏面にはこれら螺旋流路間を流体連通する連通路を設ける。
【0036】
再び図1を参照すると、細胞分離部16は、細胞又は細胞塊を分離する分離槽D1-D2を備えている。例えば、分離槽D1-D2は、流路の幅又は深さを相対的に大きくして形成された貯溜槽であり、第1分離槽D1は元細胞を含む流体から元細胞のみを含む流体に分離し、第2分離槽D2は比較的大きな細胞塊のみを沈降させることで、それ以外の細胞塊と分離する。元細胞の分離方法としては、元細胞分離用試薬、パニング、磁気細胞分離(MACS)、フローサイトメトリー等を用いることができる。
【0037】
細胞塊破砕部17は、分離した細胞塊(1以上の細胞の塊)をさらに破砕する破砕流路を備えている。図5は破砕流路の一例を示している。破砕流路50は、上流流路51と比べて相対的に小さい流路面積を有し、蛇行することが好ましい。流路を蛇行させることにより、潜流を発生させ、細胞塊に剪断応力を加えて大きく成長した細胞塊を小さな細胞塊に分解する。潜流とは、例えば、渦巻きを生じさせる流れ、乱流、逆流、流れの速さの異なる部分を生じさせる流れ、剪断力を生じさせる流れ、及び進行方向の異なる流れが衝突する部分を生じさせる流れのいずれかをいう。
【0038】
以上のような複数の機能部位が1つの細胞作製プレート2内の流体回路4に集約されているため、流体回路4は種々の方向に延びて複雑に交差した交差流路を備えている。図6は交差流路の一例を示している。交差流路は、細胞作製プレート2の表側に、X方向に延びる第1流路60と、X方向とは異なるY方向に延びる第2流路61と、を備えており、第1流路60は細胞作製プレート2の裏側に向かって延びて第2流路61を迂回する迂回路62を備えている。例えば、迂回路62は、平板20の表面から裏面へ貫通する2つの貫通穴62a-62bと、平板20の裏面で貫通穴62a-62b同士を連通する連通路62cと、を備えていることが好ましい。平板20の裏面に形成した連通路62cを覆うため、蓋21は、平板20の表面を覆う表蓋21aと、平板20の裏面を覆う裏蓋21bと、を備えていることが望ましい。このような交差流路により、高度に集積した流体回路4を備えた小型な細胞作製プレート2を提供できるようになる。
【0039】
細胞製造装置1は、細胞作製プレート2に着脱可能に連結するベースプレートをさらに備えていることが好ましい。図7A図7Bはベースプレートの一例を示している。ベースプレート5は、細胞作製プレート2の流体制御、温度制御等を行う。細胞作製プレート2はロボット等が作用を及ぼす危険領域側70の方を向くように配置されるのに対し、ベースプレート5は危険領域側70とは反対側の安全領域側71の方を向くように配置される。生物学的汚染防止の観点から、細胞作製プレート2を使い捨て可能とし、ベースプレート5を使い回し可能としてもよい。また、細胞製造装置1は安全領域側71からメンテナンス可能に構成する。細胞製造装置1がこのような二面的構造を備えることにより、ロボット等が複数の細胞製造装置1に対して1対多で関わり合えるようになる。
【0040】
細胞製造装置1は、細胞作製プレート2とベースプレート5の連結面に、位置決め部材72及びプレート封止部材73をさらに備えていてもよい。位置決め部材72は、相互に嵌合する凸部及び凹部でよく、細胞作製プレート2とベースプレート5との連結位置を位置決めする。プレート封止部材73は、連結面外周に取付けたガスケット、パッキン等でよく、細胞作製プレート2とベースプレート5を連結することにより、プレート封止部材73の内側が外部空間から遮断され、細胞作製プレート2の裏面からのガス透過が抑制される。ベースプレート5は、移送部12を駆動する駆動部74を備えている。駆動部74は、例えばペリスタルティックポンプを駆動するモータを備えている。さらに、細胞作製プレート2とベースプレート5の連結面に、細胞作製プレート2に配置する電気素子、例えば加温素子、冷却素子、流量センサ等に電力供給する電気接点75を備えていることが好ましい。
【0041】
以上の実施形態によれば、複数の機能部位が1つの細胞作製プレート2内に集約されるため、別個の部品をチューブ、ポンプ、コネクタ等を介して閉鎖的に接続するといった手間が無くなり、細胞製造装置1の製造が合理化される。また同時に、注入又は排出した流体によって押出又は引出される流体が細胞作製プレート2内に閉じ込められるため、細胞作製プレート2の外部に流体を逃がしたり又は外部から流体を取込んだりする必要がなく、流体回路の密閉性を保ちながら細胞作製プレート2をプレート状に形成することが可能になる。このようなプレート状の細胞作製プレート2は、ロボットにとって取扱い易く、自動化システムへの適合性を向上させる。
【0042】
本明細書において種々の実施形態について説明したが、本発明は、前述した種々の実施形態に限定されるものではなく、以下の特許請求の範囲に記載された範囲内において種々の変更を行えることを認識されたい。
【符号の説明】
【0043】
1 細胞製造装置
2 細胞作製プレート
3 閉鎖式コネクタ
4 流体回路
5 ベースプレート
10 注入排出部
10a-10f 第1-第6注入排出チャネル
11 容積可変部
12 移送部
13 細胞誘導培養部
13a 細胞誘導培養槽
13b 培地循環路
13c pH測定部
14 流体溜め部
15 流体混合部
16 細胞分離部
17 細胞塊破砕部
19 流体容器
20 平板
20a 溝
20b 貯溜槽
20c 土手部
21 蓋
21a 表蓋
21b 裏蓋
30 培養槽
31 培地槽
32 特定成分透過部材
40 混合流路
41 流体合流路
42 混合流発生路
42a 流路幅変化部
42b 流路深さ変化部
50 破砕流路
51 上流流路
60 第1流路
61 第2流路
62 迂回路
62a-62b 貫通穴
62c 連通路
70 危険領域側
71 安全領域側
72 位置決め部材
73 プレート封止部材
74 駆動部
75 電気接点
A1-A4 第1-第4貯溜槽
D1-D2 第1-第2分離槽
L1-L2 第1-第2流体
P1-P8 第1-第8ポンプ
S 外部空間
図1
図2
図3A
図3B
図4A
図4B
図5
図6
図7A
図7B