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特許7391341電気角取得システム、電気角取得方法および電気角取得プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-27
(45)【発行日】2023-12-05
(54)【発明の名称】電気角取得システム、電気角取得方法および電気角取得プログラム
(51)【国際特許分類】
   G01D 5/20 20060101AFI20231128BHJP
【FI】
G01D5/20 110Q
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022206107
(22)【出願日】2022-12-23
(62)【分割の表示】P 2017214933の分割
【原出願日】2017-11-07
(65)【公開番号】P2023024682
(43)【公開日】2023-02-16
【審査請求日】2022-12-23
(73)【特許権者】
【識別番号】594183299
【氏名又は名称】株式会社松尾製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000660
【氏名又は名称】Knowledge Partners弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】阿久津 一史
(72)【発明者】
【氏名】今枝 宏旨
【審査官】吉田 久
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-118520(JP,A)
【文献】特開2008-139100(JP,A)
【文献】特開2010-145149(JP,A)
【文献】特開2000-55695(JP,A)
【文献】特開2007-132909(JP,A)
【文献】特開2009-250790(JP,A)
【文献】特開2013-172602(JP,A)
【文献】特開2012-165493(JP,A)
【文献】特開2012-108092(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01D 5/12-5/252
H02K 11/00-11/40、24/00、
29/00-29/14
H02P 6/00-6/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1相励磁2相出力の回転検出器の励磁信号と出力信号とに基づいて前記回転検出器の電気角を取得する電気角取得システムであって、
サンプリング周波数fs、サンプリング数N、励磁周波数frの少なくとも1個の入力または指定を受け付け、受け付けた値に設定するパラメータ設定部と、
アナログの前記励磁信号をサンプリング周波数fsでN個サンプリングすることでデジタルデータに変換し、フーリエ変換して励磁フーリエ信号を取得し、
【数1】
前記励磁フーリエ信号から式(1)におけるX(m)(ただし、mはN×fr/fsに等しい整数値またはN×fr/fsに最も近い整数値(ただし、N×fr/fsは整数値ではない)であり、frは励磁周波数である)に相当するデータを選択して前記励磁信号の励磁周波数成分として取得する励磁信号取得部と、
2相のアナログの前記出力信号をサンプリング周波数fsでN個サンプリングすることでデジタルデータに変換し、フーリエ変換して出力フーリエ信号を取得し、前記出力フーリエ信号から式(1)におけるX(m)に相当するデータを選択して前記出力信号の励磁周波数成分として取得する出力信号取得部と、
前記励磁信号の励磁周波数成分と、2相の前記出力信号の励磁周波数成分とに基づいて、前記励磁信号と2相の前記出力信号との位相の関係を取得する位相関係取得部と、
2相の前記出力信号の励磁周波数成分に基づいて、2相の前記出力信号の振幅を取得する振幅取得部と、
前記位相の関係と2相の前記出力信号の前記振幅とに基づいて、前記回転検出器の電気角を取得する電気角取得部と、
を備え、
前記振幅取得部は、
一方の前記出力信号の励磁周波数成分における前記振幅の最大値が他方の前記出力信号の励磁周波数成分における前記振幅の最大値のb/a倍である場合、一方の前記出力信号の励磁周波数成分における前記振幅をa/b倍に補正するか、または、他方の前記出力信号の励磁周波数成分における前記振幅をb/a倍に補正する処理を、アナログの前記出力信号をN個サンプリングすることで得られたデジタルデータがフーリエ変換され、式(1)におけるX(m)に相当するデータが選択されることで得られた前記出力信号の励磁周波数成分に基づいて、前記電気角を取得する段階で1度実行する、
電気角取得システム。
【請求項2】
前記励磁信号取得部が前記励磁信号をサンプリングするタイミングと、前記出力信号取得部が2相の前記出力信号をサンプリングするタイミングは同時である、
請求項1に記載の電気角取得システム。
【請求項3】
前記励磁信号取得部が前記励磁信号をサンプリングするタイミングと、前記出力信号取得部が2相の前記出力信号をサンプリングするタイミングは異なるタイミングであり、
前記励磁信号取得部および前記出力信号取得部は、前記励磁信号をサンプリングするタイミングと2相の前記出力信号をサンプリングするタイミングとのずれに起因して、フーリエ変換後の前記励磁信号の励磁周波数成分および前記出力信号の励磁周波数成分に生じている位相のずれを補償して、前記励磁信号の励磁周波数成分および前記出力信号の励磁周波数成分を取得する、
請求項1または請求項2に記載の電気角取得システム。
【請求項4】
1相励磁2相出力の回転検出器の励磁信号と出力信号とに基づいて前記回転検出器の電気角を取得する電気角取得方法であって、
サンプリング周波数fs、サンプリング数N、励磁周波数frの少なくとも1個の入力または指定を受け付け、受け付けた値に設定するパラメータ設定工程と、
アナログの前記励磁信号をサンプリング周波数fsでN個サンプリングすることでデジタルデータに変換し、フーリエ変換して励磁フーリエ信号を取得し、
【数1】
前記励磁フーリエ信号から式(1)におけるX(m)(ただし、mはN×fr/fsに等しい整数値またはN×fr/fsに最も近い整数値(ただし、N×fr/fsは整数値ではない)であり、frは励磁周波数である)に相当するデータを選択して前記励磁信号の励磁周波数成分として取得する励磁信号取得工程と、
2相のアナログの前記出力信号をサンプリング周波数fsでN個サンプリングすることでデジタルデータに変換し、フーリエ変換して出力フーリエ信号を取得し、前記出力フーリエ信号から式(1)におけるX(m)に相当するデータを選択して前記出力信号の励磁周波数成分として取得する出力信号取得工程と、
前記励磁信号の励磁周波数成分と、2相の前記出力信号の励磁周波数成分とに基づいて、前記励磁信号と2相の前記出力信号との位相の関係を取得する位相関係取得工程と、
2相の前記出力信号の励磁周波数成分に基づいて、2相の前記出力信号の振幅を取得する振幅取得工程と、
前記位相の関係と2相の前記出力信号の前記振幅とに基づいて、前記回転検出器の電気角を取得する電気角取得工程と、
を含み、
前記振幅取得工程では、
一方の前記出力信号の励磁周波数成分における前記振幅の最大値が他方の前記出力信号の励磁周波数成分における前記振幅の最大値のb/a倍である場合、一方の前記出力信号の励磁周波数成分における前記振幅をa/b倍に補正するか、または、他方の前記出力信号の励磁周波数成分における前記振幅をb/a倍に補正する処理が、アナログの前記出力信号をN個サンプリングすることで得られたデジタルデータがフーリエ変換され、式(1)におけるX(m)に相当するデータが選択されることで得られた前記出力信号の励磁周波数成分に基づいて、前記電気角を取得する段階で1度実行される、
電気角取得方法。
【請求項5】
1相励磁2相出力の回転検出器の励磁信号と出力信号とに基づいて前記回転検出器の電気角を取得するコンピュータを、
サンプリング周波数fs、サンプリング数N、励磁周波数frの少なくとも1個の入力または指定を受け付け、受け付けた値に設定するパラメータ設定部、
アナログの前記励磁信号をサンプリング周波数fsでN個サンプリングすることでデジタルデータに変換し、フーリエ変換して励磁フーリエ信号を取得し、
【数1】
前記励磁フーリエ信号から式(1)におけるX(m)(ただし、mはN×fr/fsに等しい整数値またはN×fr/fsに最も近い整数値(ただし、N×fr/fsは整数値ではない)であり、frは励磁周波数である)に相当するデータを選択して前記励磁信号の励磁周波数成分として取得する励磁信号取得部、
2相のアナログの前記出力信号をサンプリング周波数fsでN個サンプリングすることでデジタルデータに変換し、フーリエ変換して出力フーリエ信号を取得し、前記出力フーリエ信号から式(1)におけるX(m)に相当するデータを選択して前記出力信号の励磁周波数成分として取得する出力信号取得部、
前記励磁信号の励磁周波数成分と、2相の前記出力信号の励磁周波数成分とに基づいて、前記励磁信号と2相の前記出力信号との位相の関係を取得する位相関係取得部、
2相の前記出力信号の励磁周波数成分に基づいて、2相の前記出力信号の振幅を取得する振幅取得部、
前記位相の関係と2相の前記出力信号の前記振幅とに基づいて、前記回転検出器の電気角を取得する電気角取得部、
として機能させ、
前記振幅取得部は、
一方の前記出力信号の励磁周波数成分における前記振幅の最大値が他方の前記出力信号の励磁周波数成分における前記振幅の最大値のb/a倍である場合、一方の前記出力信号の励磁周波数成分における前記振幅をa/b倍に補正するか、または、他方の前記出力信号の励磁周波数成分における前記振幅をb/a倍に補正する処理を、アナログの前記出力信号をN個サンプリングすることで得られたデジタルデータがフーリエ変換され、式(1)におけるX(m)に相当するデータが選択されることで得られた前記出力信号の励磁周波数成分に基づいて、前記電気角を取得する段階で1度実行するようにコンピュータを機能させる、
電気角取得プログラム。
【請求項6】
1相励磁2相出力の回転検出器の励磁信号と出力信号とに基づいて前記回転検出器の電気角を取得する電気角取得システムであって、
サンプリング周波数fs、サンプリング数N、励磁周波数frの少なくとも1個の入力または指定を受け付け、受け付けた値に設定するパラメータ設定部と、
2相のアナログの前記出力信号をサンプリング周波数fsでN個サンプリングすることでデジタルデータに変換し、フーリエ変換して出力フーリエ信号を取得し、
【数1】
前記出力フーリエ信号から式(1)におけるX(m)(ただし、mはN×fr/fsに等しい整数値またはN×fr/fsに最も近い整数値(ただし、N×fr/fsは整数値ではない)であり、frは励磁周波数である)に相当するデータを選択して前記出力信号の励磁周波数成分として取得する出力信号取得部と、
励磁信号発生部で生成されたデジタルの前記励磁信号と、2相のアナログの前記出力信号が前記出力信号取得部でデジタル変換された信号とに基づいて、前記デジタルの前記励磁信号と2相のアナログの前記出力信号が前記出力信号取得部でデジタル変換された信号との位相の関係を取得する位相関係取得部と、
2相の前記出力信号の励磁周波数成分に基づいて、2相の前記出力信号の振幅を取得する振幅取得部と、
前記位相の関係と2相の前記出力信号の前記振幅とに基づいて、前記回転検出器の電気角を取得する電気角取得部と、
を備え、
前記振幅取得部は、
一方の前記出力信号の励磁周波数成分における前記振幅の最大値が他方の前記出力信号の励磁周波数成分における前記振幅の最大値のb/a倍である場合、一方の前記出力信号の励磁周波数成分における前記振幅をa/b倍に補正するか、または、他方の前記出力信号の励磁周波数成分における前記振幅をb/a倍に補正する処理を、アナログの前記出力信号をN個サンプリングすることで得られたデジタルデータがフーリエ変換され、式(1)におけるX(m)に相当するデータが選択されることで得られた前記出力信号の励磁周波数成分に基づいて、前記電気角を取得する段階で1度実行する、
電気角取得システム。
【請求項7】
1相励磁2相出力の回転検出器の励磁信号と出力信号とに基づいて前記回転検出器の電気角を取得する電気角取得方法であって、
サンプリング周波数fs、サンプリング数N、励磁周波数frの少なくとも1個の入力または指定を受け付け、受け付けた値に設定するパラメータ設定工程と、
2相のアナログの前記出力信号をサンプリング周波数fsでN個サンプリングすることでデジタルデータに変換し、フーリエ変換して出力フーリエ信号を取得し、
【数1】
前記出力フーリエ信号から式(1)におけるX(m)(ただし、mはN×fr/fsに等しい整数値またはN×fr/fsに最も近い整数値(ただし、N×fr/fsは整数値ではない)であり、frは励磁周波数である)に相当するデータを選択して前記出力信号の励磁周波数成分として取得する出力信号取得工程と、
励磁信号発生部で生成されたデジタルの前記励磁信号と、2相のアナログの前記出力信号が前記出力信号取得工程でデジタル変換された信号とに基づいて、前記デジタルの前記励磁信号と2相のアナログの前記出力信号が前記出力信号取得工程でデジタル変換された信号との位相の関係を取得する位相関係取得工程と、
2相の前記出力信号の励磁周波数成分に基づいて、2相の前記出力信号の振幅を取得する振幅取得工程と、
前記位相の関係と2相の前記出力信号の前記振幅とに基づいて、前記回転検出器の電気角を取得する電気角取得工程と、
を含み、
前記振幅取得工程では、
一方の前記出力信号の励磁周波数成分における前記振幅の最大値が他方の前記出力信号の励磁周波数成分における前記振幅の最大値のb/a倍である場合、一方の前記出力信号の励磁周波数成分における前記振幅をa/b倍に補正するか、または、他方の前記出力信号の励磁周波数成分における前記振幅をb/a倍に補正する処理が、アナログの前記出力信号をN個サンプリングすることで得られたデジタルデータがフーリエ変換され、式(1)におけるX(m)に相当するデータが選択されることで得られた前記出力信号の励磁周波数成分に基づいて、前記電気角を取得する段階で1度実行される、
電気角取得方法。
【請求項8】
1相励磁2相出力の回転検出器の励磁信号と出力信号とに基づいて前記回転検出器の電気角を取得するコンピュータを、
サンプリング周波数fs、サンプリング数N、励磁周波数frの少なくとも1個の入力または指定を受け付け、受け付けた値に設定するパラメータ設定部と、
2相のアナログの前記出力信号をサンプリング周波数fsでN個サンプリングすることでデジタルデータに変換し、フーリエ変換して出力フーリエ信号を取得し、
【数1】
前記出力フーリエ信号から式(1)におけるX(m)(ただし、mはN×fr/fsに等しい整数値またはN×fr/fsに最も近い整数値(ただし、N×fr/fsは整数値ではない)であり、frは励磁周波数である)に相当するデータを選択して前記出力信号の励磁周波数成分として取得する出力信号取得部と、
励磁信号発生部で生成されたデジタルの前記励磁信号と、2相のアナログの前記出力信号が前記出力信号取得部でデジタル変換された信号とに基づいて、前記デジタルの前記励磁信号と2相のアナログの前記出力信号が前記出力信号取得部でデジタル変換された信号との位相の関係を取得する位相関係取得部、
2相の前記出力信号の励磁周波数成分に基づいて、2相の前記出力信号の振幅を取得する振幅取得部、
前記位相の関係と2相の前記出力信号の前記振幅とに基づいて、前記回転検出器の電気角を取得する電気角取得部、
として機能させ、
前記振幅取得部は、
一方の前記出力信号の励磁周波数成分における前記振幅の最大値が他方の前記出力信号の励磁周波数成分における前記振幅の最大値のb/a倍である場合、一方の前記出力信号の励磁周波数成分における前記振幅をa/b倍に補正するか、または、他方の前記出力信号の励磁周波数成分における前記振幅をb/a倍に補正する処理を、アナログの前記出力信号をN個サンプリングすることで得られたデジタルデータがフーリエ変換され、式(1)におけるX(m)に相当するデータが選択されることで得られた前記出力信号の励磁周波数成分に基づいて、前記電気角を取得する段階で1度実行するようにコンピュータを機能させる、
電気角取得プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転検出器の出力信号に基づいて電気角を取得する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、レゾルバの出力信号に基づいて、レゾルバの電気角を示すデジタルデータを出力するレゾルバ/デジタル変換器が知られている。例えば、特許文献1には、トラッキングループ型デジタル角度変換器が開示されている。
また、レゾルバには各種方式が知られており、特許文献1のような振幅変調方式以外にも位相変調方式が知られている。位相変調方式のレゾルバとしては、例えば、特許文献2が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許4226044号公報
【文献】特開平4-16712号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の特許文献1のような従来技術においては、多くのアナログ回路によって複雑な信号処理を行っており、正確な電気角を取得することが困難であった。また、特許文献2のような位相変調方式のレゾルバの解析法は、出力信号の振幅を解析する振幅変調方式に対して適用することはできない。
本発明は、前記課題にかんがみてなされたもので、正確な電気角を取得することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成するために、電気角取得システムは、1相励磁2相出力の回転検出器の励磁信号の励磁周波数成分をフーリエ変換によって取得する励磁信号取得部と、回転検出器の2相の出力信号の励磁周波数成分をフーリエ変換によって取得する出力信号取得部と、励磁信号の励磁周波数成分と、2相の出力信号の励磁周波数成分とに基づいて、励磁信号と2相の出力信号との位相の関係を取得する位相関係取得部と、2相の出力信号の励磁周波数成分に基づいて、2相の出力信号の振幅を取得する振幅取得部と、位相の関係と2相の出力信号の振幅とに基づいて、回転検出器の電気角を取得する電気角取得部と、を備える。
【0006】
すなわち、電気角取得システムにおいては、回転検出器の励磁信号と出力信号とを取り込み、これらの信号に基づいて電気角を取得するが、この際、励磁信号と出力信号との位相の関係および出力信号の振幅に基づいて電気角が取得される。そして、電気角取得システムにおいては、励磁周波数成分を、フーリエ変換によって励磁信号および出力信号から抽出し、抽出した信号に基づいて電気角を取得する。この構成によれば、ノイズ等による影響を低減することができ、電気角を正確に取得することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】電気角取得システムの第1実施形態を示すブロック図である。
図2図2Aは励磁信号とSIN信号とCOS信号の理想的な例を示す図、図2Bは励磁信号と出力信号との位相の関係を示す図、図2Cは振幅と電気角の関係を示す図である。
図3】アナログデジタル変換とサンプリングとを説明するための図である。
図4図4Aは複素平面の座標軸の回転を示す図、図4Bは電気角演算処理のフローチャートである。
図5】電気角取得システムの第2実施形態を示すブロック図である。
図6】位相の関係の取得例を示す図である。
図7】電気角取得システムの第3実施形態を示すブロック図である。
図8】アナログデジタル変換とサンプリングとを説明するための図である。
図9】電気角取得システムの第4実施形態を示すブロック図である。
図10】電気角取得システムの第5実施形態を示すブロック図である。
図11】電気角取得システムの第6実施形態を示すブロック図である。
図12】電気角取得システムの第7実施形態を示すブロック図である。
図13】電気角取得システムの第8実施形態を示すブロック図である。
図14】電気角取得システムの第9実施形態を示すブロック図である。
図15】出力信号の振幅が不一致である場合の楕円補正を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
ここでは、下記の順序に従って本発明の実施の形態について説明する。
(1)電気角取得システムの構成:
(2)第2実施形態:
(3)第3実施形態:
(4)第4~第8実施形態:
(5)第9実施形態:
(6)他の実施形態:
【0009】
(1)電気角取得システムの構成:
図1は、本発明の一実施形態にかかる電気角取得システム10の構成を示すブロック図である。本実施形態において、電気角取得システム10は、励磁信号取得部20と出力信号取得部30と位相関係取得部40と振幅取得部50と電気角取得部60とパラメータ設定部70とを備えている。また、電気角取得システム10は、励磁信号発生部13と増幅器13a~13cを備えている。これらの励磁信号発生部13と増幅器13a~13cは、電気角取得システム10の外部に備えられていてもよい。図1においては、励磁信号発生部13が電気角取得システム10の外部に存在する状態が破線によって示されている。
【0010】
電気角取得システム10は、回転検出器の例であるレゾルバ11の電気角を取得するシステムであり、レゾルバ11に接続されている。すなわち、励磁信号発生部13が発生させた励磁信号は、増幅器12に入力され、増幅後の励磁信号がレゾルバ11に入力される。また、レゾルバ11から出力された信号は電気角取得システム10に取り込まれる。なお、本実施形態においては、増幅器12によって増幅された励磁信号も電気角取得システム10に取り込まれる。むろん、レゾルバ11の励磁の負荷が小さい場合などにおいて増幅器12が設けられない構成であっても良い。
【0011】
レゾルバ11は、1相励磁2相出力のレゾルバであり、本実施形態においてレゾルバ11は振幅変調型である。すなわち、レゾルバ11は、1相の励磁巻線と2相の出力巻線とロータとを備えている。励磁巻線と出力巻線とは、既定の関係で配置されており、増幅器12で増幅された励磁信号が励磁巻線に供給されると、ロータの機械角および軸倍角(極対数)に応じて変調された出力信号が2相の出力巻線から出力される。
【0012】
機械角と電気角との理想的な対応関係はレゾルバ11の構成によって決まる。ロータの軸倍角が2以上であれば、機械角が0°~360°の角度を1周する過程において電気角が0°~360°の角度を軸倍角と同数だけ回転する。本実施形態は任意の軸倍角について適用可能であるが、以下、簡単のために軸倍角は1、すなわち、機械角が1周する過程で電気角も1周する構成を例に説明を行う。
【0013】
本実施形態において、2相の出力巻線は各巻線の出力信号が直交するように配置されている。本実施形態においては、2相の出力巻線から出力される信号の一方をSIN信号、他方をCOS信号とも呼ぶ。励磁信号は正弦波形の信号であり、本実施形態においては図1に示すR1-R2として電気角取得システム10に取り込まれる。出力巻線からの出力信号は図1に示すS2-S4およびS1-S3として電気角取得システム10に取り込まれる。ここでは、S2-S4をSIN信号、S1-S3をCOS信号とする。
【0014】
電気角取得システム10に取り込まれた励磁信号は、増幅器13aによって増幅される。本実施形態においては増幅器13aによって増幅された後の励磁信号をEsin(2πfrt)と表記する。ここで、Eは増幅後の励磁信号の振幅、frは励磁信号の周波数(励磁周波数)、tは時間(秒)である。また、励磁信号がEsin(2πfrt)である場合のSIN信号が増幅器13bで増幅された後の信号をKsinθe・sin(2πfrt)と表記し、COS信号が増幅器13cで増幅された後の信号をKcosθe・sin(2πfrt)と表記する。ここで、Kは増幅後の出力信号の振幅であり、θeは電気角、frは励磁周波数、tは時間である。
【0015】
図2Aは、励磁信号とSIN信号とCOS信号の理想的な例を示す図である。図2Aにおいては、励磁信号とSIN信号とCOS信号とを並べて示している。また、図2Aにおいては、ロータが固定されており、電気角θeが特定の値(135°)である場合についての信号の例を示している。励磁信号とSIN信号とCOS信号とは、ともにsin(2πfrt)という成分を含んでいる。そして、励磁信号はsin(2πfrt)という成分の振幅Eが一定値であるのに対し、SIN信号とCOS信号はsin(2πfrt)という成分の振幅がsinθeまたはcosθeに従って変化する。
【0016】
このため、ロータが回転する場合、図2Aに示すようなSIN信号とCOS信号の振幅は励磁周波数frで変化するとともに、電気角θeの周波数でも変化する。実際のレゾルバにおいて、励磁周波数fr(例えば、10kHz)は、電気角θeの周波数(例えば、数Hz~数百Hz)より大きいため、多くの場合、SIN信号とCOS信号の振幅は、励磁周波数frで頻繁に変化しつつ、電気角θeの周波数でもゆっくりと変化し、包落線に電気角θeのsinθeやcosθeが現れたような信号となる。本実施形態においては、電気角θeの周波数が励磁周波数frよりも小さいことを利用し、現在以前の所定期間内の信号に基づいて現在の電気角θeを取得する。例えば、図2Aに示す例において、現在時刻t0である場合、期間Tの信号に基づいて時刻t0の電気角θeを取得する。
【0017】
すなわち、ある電気角θeにおける励磁信号と出力信号との位相の関係や、出力信号の振幅の関係は、レゾルバ11の特性(巻線の構成等)に依存する。従って、特定のレゾルバ11を利用する場合に、励磁信号と出力信号との位相の関係と、2相の出力信号の振幅との組み合わせを、電気角θeに対応づけておけば、当該位相の関係および振幅の組み合わせと電気角θeとの関係に基づいて、電気角θeを取得することができる。
【0018】
例えば、図2Aに示す例は、あるレゾルバ11における電気角θeが135°である場合の励磁信号とSIN信号とCOS信号である。電気角θeが135°である場合、SIN信号に含まれるsinθeは1/21/2,COS信号に含まれるcosθeは-1/21/2である。従って、SIN信号は、励磁周波数frで変化するsin(2πfrt)と同相の波形となる。一方、COS信号は、励磁周波数frで変化するsin(2πfrt)と逆相の波形となる。さらに、sinθeは1/21/2,cosθeは-1/21/2であるため、絶対値は等しく、SIN信号とCOS信号の振幅が等しい。このように、励磁信号とSIN信号との位相の関係および励磁信号とCOS信号との位相の関係を特定し、SIN信号とCOS信号の振幅を特定すれば、これらの組み合わせから電気角θeを特定することが可能になる。
【0019】
図2Bは、本実施形態にかかるレゾルバ11における、電気角θeによる励磁信号と出力信号との位相の関係の変化を示す図である。図2Bにおいては、レゾルバの電気角θeが0°~360°に変化した場合における、励磁信号とCOS信号との位相の関係と、励磁信号とSIN信号との位相の関係とを示している。例えば、電気角θeが135°である範囲に着目すると、励磁信号とCOS信号とが逆相であり、励磁信号とSIN信号とが同相である。この状況は、図2Aと整合している。
【0020】
図2Cは、本実施形態にかかるレゾルバ11における、電気角θeによるSIN信号とCOS信号との振幅の変化を示す図である。なお、SIN信号、COS信号の振幅は、励磁信号と同相の時に正、逆相の時に負としている。図2Cにおいては、COS信号の振幅を横軸、SIN信号の振幅を縦軸とし、当該軸で規定される平面上に(COS信号の振幅,SIN信号の振幅)で表される座標をプロットした点を一点鎖線で示している。COS信号の振幅はKcosθe、SIN信号の振幅はKsinθeであるため、図2Cに示す平面上のプロットは、一点鎖線で示されるように円形となる。また、電気角θeは、図2Cに示すように、COS軸正方向と、原点から円上の座標に延びる線との間の角度である。電気角θeが135°である場合、sinθeは1/21/2,cosθeは-1/21/2であるため、SIN信号の振幅はK/21/2、COS信号の振幅は-K/21/2となる。従って、(COS信号の振幅,SIN信号の振幅)で表される座標が特定されると、電気角θeを特定することができる。
【0021】
本実施形態においては、2相の出力信号の振幅(絶対値)を取得する構成を採用しており、振幅の絶対値が取得された状態においては電気角θeの候補が4点発生する。例えば、図2Cに示す例において、SIN信号の振幅の絶対値がK/21/2、COS信号の振幅の絶対値がK/21/2となる点は4カ所(45°、135°、225°、315°)存在する。そこで、本実施形態においては、励磁信号とCOS信号との位相の関係および励磁信号とSIN信号との位相の関係に基づいて電気角θeの範囲を特定する(図2Cに示す4個の象限のいずれであるのかを特定する)ことで、電気角θeを特定する。
【0022】
以上のように、励磁信号と出力信号を解析すれば、レゾルバ11の電気角θeを取得することが可能である。ただし、上述の図2Aのような信号の関係は、理想化された状態であり、実際の信号はより複雑に変化し得る。例えば、電気角取得システム10において解析対象とする励磁信号、SIN信号およびCOS信号は、増幅器(増幅器12や増幅器13a~13c)による増幅後の信号である。これらの増幅器はアナログ増幅回路であり、一般的に抵抗素子、コンデンサ素子、インダクタンス素子等を含むため、増幅後の信号は位相等が変化し得る。また、各種の要因によるノイズが含まれる。
【0023】
このため、図2Aのような理想的な関係になるとは限らず、図2Aのような励磁信号に対して出力信号の位相がずれた状態となる場合や、振幅が複雑に変化することで励磁周波数fr以外の周波数成分が含まれている場合がある。従って、増幅器13a~13cから出力されるアナログの信号に基づいて電気角θeを取得すると、電気角θeに誤差が生じてしまう。そこで、本実施形態においては、増幅器13a~13cから出力される励磁信号、SIN信号、COS信号に対してフーリエ変換を行い、励磁周波数成分を抽出して解析を行う構成が採用されている。
【0024】
励磁信号取得部20は、励磁信号の励磁周波数成分をフーリエ変換によって取得するための回路を備えている。具体的には、励磁信号取得部20は、アナログデジタル変換部21aとフーリエ変換部22aとを備えている。アナログデジタル変換部21aは、増幅器13aが出力したアナログの励磁信号をデジタルデータに変換する回路である。すなわち、アナログデジタル変換部21aは、アナログの励磁信号をサンプリング周波数fsによってサンプリングし、デジタルデータ列として出力する機能を有している。
【0025】
図3は、アナログデジタル変換とサンプリングとを説明するための図であり、図2Aに示す信号を例にしてアナログデジタル変換およびサンプリングを示している。図3においてはサンプリング周波数fsで規定されるサンプリング周期(1/fs)が破線によって示されている。アナログデジタル変換部21aにおいては、図3に示すように、サンプリング周期(1/fs)毎にアナログの励磁信号をデジタル値に変換してデジタルデータ列を生成する。図3においては、白丸によってサンプリングされたデータの例を示している。
【0026】
フーリエ変換部22aは、アナログデジタル変換部21aが出力したデジタルデータ列をフーリエ変換する回路である。フーリエ変換は例えば、FFT(Fast Fourier Transform)等で実施可能である。すなわち、フーリエ変換部22aは、アナログデジタル変換部21aが出力するデジタルデータ列を受け取り、サンプリング数N個のデジタルデータ列に基づいてフーリエ変換を行い、デジタルデータ列として出力する機能を有している。ここでは、フーリエ変換後の励磁信号を励磁フーリエ信号と呼ぶ。また、サンプリング数Nが16である場合にフーリエ変換の対象となるデジタルデータ列をp(0)~p(15)とする。図3においては、サンプリング数Nが16の場合におけるデジタルデータ列の最初と最後(p(0)、p(15))を示している。
【0027】
フーリエ変換部22aは、このようにしてサンプリングしたN個のデジタルデータを式(1)によってフーリエ変換する。
【数1】
【0028】
以上の式(1)によって励磁フーリエ信号が生成されると、フーリエ変換部22aは、当該励磁フーリエ信号から励磁周波数成分を選択して出力する。すなわち、式(1)による変換が行われて励磁フーリエ信号が得られると、kが0~N-1個のそれぞれについてX(k)が得られた状態になる。そして、フーリエ変換の周波数分解能をf0(f0=fs/N)とするとk×f0が周波数に相当するため、X(k)は周波数k×f0の信号と見なすことができる。
【0029】
そこで、本実施形態においてフーリエ変換部22aは、k×f0が励磁周波数frであるk、またはk×f0が励磁周波数frに最も近いkを選択することで励磁周波数成分を取得する。ここでは、フーリエ変換された励磁フーリエ信号から励磁周波数成分を取得することができればよく、kの選択には種々の態様が採用可能である。本実施形態においては、k×f0が、励磁周波数frと等しいkが必ず存在するように、後述のパラメータ設定部70によってN,fr,fsが予め決められる。すなわち、本実施形態においては、m=N×fr/fsとしたとき、mが整数になるようにN,fr,fsが予め決められる。
【0030】
このようにN,fr,fsが決められている場合、m×fs/N=fr(すなわち、m×f0=fr)とすることができ、m×f0が励磁周波数frであるmを選択することが可能になる。ただし、フーリエ変換のサンプリング定理により、fs>2frである。本実施形態においては、このように、m=N×fr/fsが整数になるように設定されており、フーリエ変換部22aは、m×f0が励磁周波数frであるmを選択し、フーリエ変換によって得られた励磁フーリエ信号X(k)(k=0~N-1)からX(m)を選択することにより、励磁信号の励磁周波数成分を取得する。
【0031】
以後、フーリエ変換によって得られた励磁フーリエ信号から抽出された励磁周波数成分をP(m)=Pr+iPiと表記する。ここで、Prはフーリエ変換によって得られた実数部であり、Piはフーリエ変換によって得られた虚数部であり、Piの前のiは虚数単位である。
【0032】
出力信号取得部30は、2相の出力信号の励磁周波数成分をフーリエ変換によって取得するための回路を備えている。具体的には、出力信号取得部30は、アナログデジタル変換部31b,31cとフーリエ変換部32b,32cとを備えている。アナログデジタル変換部31b,31cは、増幅器13b,13cが出力したアナログのSIN信号,COS信号をデジタルデータに変換する回路である。すなわち、アナログデジタル変換部31b,31cは、アナログの出力信号をサンプリング周波数fsによってサンプリングし、デジタルデータ列として出力する機能を有している。図3に示す例においては、アナログデジタル変換部31b,31cによって、サンプリング周期(1/fs)毎にサンプリングが行われたアナログの出力信号がデジタル値に変換された様子が白丸によって示されている。
【0033】
フーリエ変換部32b,32cは、アナログデジタル変換部31b,31cが出力したデジタルデータ列をフーリエ変換する回路である。すなわち、フーリエ変換部32b,32cは、アナログデジタル変換部31b,31cが出力するデジタルデータ列を受け取り、サンプリング数N個のデジタルデータ列に基づいてフーリエ変換を行い、デジタルデータ列として出力する機能を有している。ここでは、フーリエ変換後の出力信号を出力フーリエ信号と呼ぶ。また、サンプリング数Nが16である場合にフーリエ変換の対象となるSIN信号のデジタルデータ列をs(0)~s(15)とする。また、サンプリング数Nが16である場合にフーリエ変換の対象となるCOS信号のデジタルデータ列をc(0)~c(15)とする。
【0034】
フーリエ変換部32b,32cは、このようにしてサンプリングしたN個のデジタルデータを上述の式(1)によってフーリエ変換する。以上の式(1)によって出力フーリエ信号が生成されると、フーリエ変換部32b,32cは、当該出力フーリエ信号から励磁周波数成分を選択して出力する。すなわち、式(1)による変換が行われて出力フーリエ信号が得られると、kが0~N-1個のそれぞれについてX(k)が得られた状態になる。また、上述のように、m=N×fr/fsとしたとき、mが整数になるようにN,fr,fsが予め決められている。そこで、フーリエ変換部32b,32cは、m×f0が励磁周波数frであるmを選択し、フーリエ変換によって得られた出力フーリエ信号X(k)(k=0~N-1)からX(m)を選択する。
【0035】
このような選択がフーリエ変換部32b,32cのそれぞれで行われることにより、出力信号としてのSIN信号の励磁周波数成分と、出力信号としてのCOS信号の励磁周波数成分とが取得される。以後、フーリエ変換によって得られた出力フーリエ信号であるSIN信号から抽出された励磁周波数成分をS(m)=Sr+iSiと表記する。ここで、Srはフーリエ変換によって得られた実数部であり、Siはフーリエ変換によって得られた虚数部であり、Siの前のiは虚数単位である。また、フーリエ変換によって得られた出力フーリエ信号であるCOS信号から抽出された励磁周波数成分をC(m)=Cr+iCiと表記する。ここで、Crはフーリエ変換によって得られた実数部であり、Ciはフーリエ変換によって得られた虚数部であり、Ciの前のiは虚数単位である。
【0036】
なお、本実施形態においては、励磁信号取得部20のアナログデジタル変換部21aがアナログの励磁信号をサンプリングするタイミングと、出力信号取得部30のアナログデジタル変換部31b,31cが出力信号(SIN信号,COS信号)をサンプリングするタイミングは同時である。すなわち、本実施形態にかかる電気角取得システム10は、図1に示すように、アナログデジタル変換部21a,31b,31cが並列に設けられており、それぞれの変換部に励磁信号、SIN信号、COS信号が入力される。そして、図3に示すように、各変換部においてサンプリング周波数fsで同時にサンプリングが行われる。以上の構成によれば、サンプリングタイミングのずれによる位相のずれを考慮することなく、励磁信号と出力信号との関係を解析することができる。なお、ここでは、位相のずれを考慮する必要がない程度にサンプリングタイミングが一致していれば良く、この範囲でサンプリングタイミングがずれることは許容される。
【0037】
さらに、本実施形態においては、励磁信号、SIN信号、COS信号のそれぞれをフーリエ変換するためのフーリエ変換部22a,32b,32cを設け、3種の信号を並列的にフーリエ変換している。しかし、フーリエ変換に時間がかかることを許容できる状態であれば、1個または2個のフーリエ変換部を設ける構成とし、励磁信号、SIN信号、COS信号の少なくとも2種の信号が1個のフーリエ変換部でフーリエ変換される構成であってもよい(以下、他の実施形態においても同様)。
【0038】
位相関係取得部40は、励磁信号の励磁周波数成分と、2相の出力信号の励磁周波数成分とに基づいて、励磁信号と2相の出力信号との位相の関係を取得するための回路を備えている。すなわち、位相関係取得部40は、励磁信号とSIN信号とが同相または逆相のいずれであるのか特定し、励磁信号とCOS信号とが同相または逆相のいずれであるのかを特定する。
【0039】
位相の関係の取得は、種々の手法で実施されて良く、本実施形態においては、フーリエ変換後の実数部および虚数部をプロット可能な複素平面の座標軸の回転を利用して位相の関係を取得する。図4Aは、複素平面を示しており、横軸が実軸Re、縦軸が虚軸Imである。本実施形態において、位相関係取得部40は、励磁信号の励磁周波数成分P(m)=Pr+iPiの当該複素平面上へのプロット位置に基づいて座標軸の回転角を特定する。
【0040】
すなわち、位相関係取得部40は、励磁信号の励磁周波数成分P(m)の位相角αを座標軸の回転角として取得する。なお、位相角αは、arctan(Pi/Pr)であるが、位相角αの演算の際にはPrが0であっても不定とならない手法(例えば、atan2(Pi,Pr)等)で算出することが好ましい。以下、説明を簡略化するため、科学や工学の分野において一般的に用いられているatan2(y,x)関数を使用する。なお、標準的なarctan(y/x)とは以下の関係がある。
x>0の場合、 atan2(y、x)=arctan(y/x)
y≧0、x<0の場合、atan2(y、x)=arctan(y/x)+π
y<0、x<0の場合、atan2(y、x)=arctan(y/x)-π
y>0、x=0の場合、atan2(y、x)=π/2
y<0、x=0の場合、atan2(y、x)=-π/2
y=0、x=0の場合、atan2(y、x)=未定義
座標軸を位相角αだけ回転させた場合、図4Aにおいて一点鎖線で示すように座標軸が回転し、実軸Reは実軸Re'となり、虚軸Imは虚軸Im'となる。この結果、回転後の実軸Re'、虚軸Im'において、励磁信号の励磁周波数成分P(m)は実数部のみが残り(これをPr'と表記する)、虚数部は0になる。なお、Pr'=Pr×cosα+Pi×sinαである。
【0041】
座標軸が回転されたとしても励磁信号と2相の出力信号との位相の関係は不変である。従って、回転後の実軸Re'、虚軸Im'に基づいてSIN信号およびCOS信号の励磁周波数成分を表現し、Pr'との関係を特定することで位相の関係を特定することができる。そこで、位相関係取得部40は、SIN信号の励磁周波数成分を回転後の座標軸で表現した場合の実数部Sr'をSr'=Sr×cosα+Si×sinαとして取得する。なお、SIN信号の励磁周波数成分は、本来、励磁信号の励磁周波数成分と同期しており、位相のずれは小さいはずであるため、虚数部Si'を無視することができる。
【0042】
また、位相関係取得部40は、COS信号の励磁周波数成分を回転後の座標軸で表現した場合の実数部Cr'をCr'=Cr×cosα+Ci×sinαとして取得する。なお、COS信号の励磁周波数成分も、本来、励磁信号の励磁周波数成分と同期しており、位相のずれは小さいはずであるため、虚数部Ci'を無視することができる。
【0043】
以上の座標軸変換が行われると、Pr'とSr'の符号を比較することで、励磁信号とSIN信号との位相の関係を特定することができ、Pr'とCr'の符号を比較することで、励磁信号とCOS信号との位相の関係を特定することができる。そこで、位相関係取得部40は、Pr'とSr'の符号を比較し、同符号であれば励磁信号とSIN信号とが同相、異符号なら励磁信号とSIN信号とが逆相であると判定する。位相関係取得部40は、Pr'とCr'の符号を比較し、同符号であれば励磁信号とCOS信号とが同相、異符号なら励磁信号とCOS信号とが逆相であると判定する。
【0044】
以上のように、複素平面の座標軸を回転して位相の関係を取得する構成によれば、SIN信号およびCOS信号における虚数部を演算する必要がなく、演算量を低減することが可能である。むろん、演算量を重視しないのであれば、虚数部を演算する構成であっても良い。さらに、本実施形態のような位相の関係の取得法においては、位相が同相または逆相のいずれであるのかを判定することができればよい。従って、励磁信号に対するSIN信号およびCOS信号の位相のずれが±90°より小さければ、正確に位相の関係を取得することができる。当該ずれの許容範囲は、従来のトラッキングループ型デジタル角度変換器(許容範囲は±10°や±45°)と比較して各段に広い。なお、ここでは実軸ReをP(m)と重なるように回転させたが、虚軸ImをP(m)と重なるように回転させ、虚数部で判定してもよい
【0045】
位相関係取得部40は、以上のような判定を行うと、判定結果を示す信号を出力する。本実施形態において位相関係取得部40は、励磁信号とSIN信号との位相の関係を示すDirSin信号と、励磁信号とCOS信号との位相の関係を示すDirCos信号とを出力する。なお、励磁信号とSIN信号とが同相の場合DirSin=1を示す信号が出力され、逆相の場合DirSin=-1を示す信号が出力される。また、励磁信号とCOS信号とが同相の場合DirCos=1を示す信号が出力され、逆相の場合DirCos=-1を示す信号が出力される。
【0046】
振幅取得部50は、2相の出力信号(SIN信号およびCOS信号)の励磁周波数成分に基づいて、2相の出力信号の振幅を取得するための回路である。すなわち、振幅取得部50は、SIN信号の励磁周波数成分S(m)を取得し、実数部Srと虚数部Siとに基づいて振幅PwrSin=(Sr2+Si21/2を取得する。そして、振幅取得部50は、SIN信号の振幅を示す信号PwrSinを出力する。また、振幅取得部50は、COS信号の励磁周波数成分C(m)を取得し、実数部Crと虚数部Ciとに基づいて振幅PwrCos=(Cr2+Ci21/2を取得する。そして、振幅取得部50は、COS信号の振幅を示す信号PwrCosを出力する。
【0047】
電気角取得部60は、位相の関係と2相の出力信号の振幅とに基づいて、レゾルバ11の電気角θeを取得するための回路である。すなわち、電気角取得部60は、位相の関係を示すDirSinおよびDirCosと、振幅を示すPwrSinおよびPwrCosに基づいて電気角θeを取得する。電気角θeは、種々の手法で取得されて良く、本実施形態においては、電気角取得部60が図4Bに示す電気角演算処理を実行することによって電気角を取得する。なお、ここでは、図2Bに示した励磁信号と出力信号との位相の関係と、図2Cに示した振幅毎の電気角θeを適宜参照して説明を行う。図2Cにおいては、電気角θeの範囲を90°毎に分割し、0°~90°の範囲を第1象限Z1、90°~180°の範囲を第2象限Z2、180°~270°の範囲を第3象限Z3、270°~360°の範囲を第4象限Z4として説明する。
【0048】
具体的には、電気角取得部60は、励磁信号とCOS信号との位相の関係を示すDirCosが1であるか否か、すなわち、励磁信号とCOS信号とが同相であるか否かを判定する(ステップS100)。ステップS100において、DirCosが1(励磁信号とCOS信号とが同相)であると判定された場合、図2Bに示されるように電気角θeは0°~90°または270°~360°である。従って、電気角θeは図2Cに示す第1象限Z1または第4象限Z4のいずれかに含まれる。
【0049】
ステップS100において、DirCosが1であると判定された場合、電気角取得部60は、励磁信号とSIN信号との位相の関係を示すDirSinが1であるか否か、すなわち、励磁信号とSIN信号とが同相であるか否かを判定する(ステップS105)。ステップS105において、DirSinが1(励磁信号とSIN信号とが同相)であると判定された場合、図2Bに示されるように電気角θeは0°~90°または90°~180°である。従って、電気角θeは図2Cに示す第1象限Z1に含まれる。そこで、ステップS105において、DirSinが1であると判定された場合、電気角取得部60は、上述のatan2関数を利用し、電気角θeをatan2(PwrSin,PwrCos)によって算出する(ステップS110)。
【0050】
一方、ステップS105において、DirSinが1であると判定されない場合、励磁信号とSIN信号とが逆相である。従って、図2Bに示されるように電気角θeは180°~270°または270°~360°である。このため、電気角θeは図2Cに示す第4象限Z4に含まれる。そこで、ステップS105において、DirSinが1であると判定されない場合、電気角取得部60は、電気角θeをatan2(-PwrSin,PwrCos)によって算出する(ステップS115)。以上のように、本実施形態においては、振幅PwrSin,PwrCosが正の値として取得されているため、位相の関係に基づいて正負の関係を特定した状態でatan2を算出することで電気角θeを取得する。
【0051】
ステップS100において、DirCosが1であると判定されない場合、励磁信号とCOS信号とが逆相であるため、図2Bに示されるように電気角θeは90°~180°または180°~270°である。従って、電気角θeは図2Cに示す第2象限Z2または第3象限Z3のいずれかに含まれる。
【0052】
ステップS100において、DirCosが1であると判定されない場合、電気角取得部60は、励磁信号とSIN信号との位相の関係を示すDirSinが1であるか否か、すなわち、励磁信号とSIN信号とが同相であるか否かを判定する(ステップS120)。ステップS120において、DirSinが1(励磁信号とSIN信号とが同相)であると判定された場合、図2Bに示されるように電気角θeは0°~90°または90°~180°である。従って、電気角θeは図2Cに示す第2象限Z2に含まれる。そこで、ステップS120において、DirSinが1であると判定された場合、電気角取得部60は、電気角θeをatan2(PwrSin,-PwrCos)によって算出する(ステップS125)。
【0053】
一方、ステップS120において、DirSinが1であると判定されない場合、励磁信号とSIN信号とが逆相である。従って、図2Bに示されるように電気角θeは180°~270°または270°~360°である。このため、電気角θeは図2Cに示す第3象限Z3に含まれる。そこで、ステップS120において、DirSinが1であると判定されない場合、電気角取得部60は、電気角θeをatan2(-PwrSin,-PwrCos)によって算出する(ステップS130)。
【0054】
以上の処理によって電気角θeが演算されると、電気角取得部60は、電気角θeを示す信号を出力する。このため、電気角取得システム10の外部において当該電気角取得部60の出力信号を取得することにより、電気角を特定することが可能になる。なお、以上の電気角演算処理においては、励磁信号とSIN信号との位相を比較し、励磁信号とCOS信号との位相を比較したが、SIN信号とCOS信号の位相は一定の関係にあるためこの関係を利用して判定を行ってもよい。すなわち、励磁信号とSIN信号との位相を比較し、SIN信号とCOS信号の位相を比較する構成であってもよいし、励磁信号とCOS信号との位相を比較し、SIN信号とCOS信号の位相を比較する構成であってもよく、これらの例は上述の図4Bに示す例と実質的に等価である。
【0055】
パラメータ設定部70は、サンプリング周波数fs、サンプリング数N、励磁周波数frの少なくとも1個を入力するための回路である。すなわち、パラメータ設定部70は、電気角取得システム10の外部から信号線を接続可能なインタフェースを備えており、利用者は当該インタフェースを介してサンプリング周波数fs、サンプリング数N、励磁周波数frを入力することができる。インタフェースは、種々の仕様であってよく、例えば、シリアル通信による入力、I/O端子による入力、電圧値による入力の少なくとも1個を備える仕様等を採用可能である。なお、シリアル通信は、例えば、IICバス等の各種規格を想定可能である。I/O端子による入力は、端子に対して異なる電圧値の電圧を印加し、1以上の電圧値が示すコードで情報を入力する態様等を想定可能である。電圧値による入力は、印加電圧のレベルで入力情報を指定する態様等を想定可能である。また、スイッチやつまみ等で調整可能であってもよい。
【0056】
いずれにしても、パラメータ設定部70は、サンプリング周波数fs、サンプリング数N、励磁周波数frの少なくとも1個を示す情報を受け付けることが可能であり、受け付けたパラメータによって各部を動作させることができる。すなわち、パラメータ設定部70は、信号線等を介して励磁信号発生部13と接続されており、利用者が入力した励磁周波数frを励磁信号発生部13に対して出力する。励磁信号発生部13は、信号線等を介して入力された周波数で正弦波を生成することができる。従って、励磁信号は、利用者が入力した励磁周波数frの正弦波となる。パラメータ設定部70は、サンプリング周波数fs、サンプリング数N、励磁周波数frの全てを入力可能であっても良いし、一部が入力可能であっても良い。一部が入力可能である場合、入力されないパラメータは予め決められている。
【0057】
また、パラメータ設定部70は、信号線等を介して励磁信号取得部20および出力信号取得部30と接続されている。利用者が入力したサンプリング周波数fsは、信号線等を介して励磁信号取得部20のアナログデジタル変換部21aに供給され、出力信号取得部30のアナログデジタル変換部31b,31cに供給される。アナログデジタル変換部21a,31b,31cは、信号線等を介して入力された周波数でアナログ信号をサンプリングしてデジタルデータ列を生成することができる。従って、アナログデジタル変換部21a,31b,31cは、増幅器13a~13cから入力されたアナログ信号をサンプリング周波数fsでサンプリングしたデジタルデータ列を生成し、出力する。
【0058】
さらに、利用者が入力したサンプリング数Nは、信号線等を介して励磁信号取得部20のフーリエ変換部22aに供給され、出力信号取得部30のフーリエ変換部32b,32cに供給される。フーリエ変換部22a,32b,32cは、信号線等を介して入力されたサンプリング数のデジタルデータを取得してフーリエ変換を行うことができる。従って、フーリエ変換部22a,32b,32cは、アナログデジタル変換部21a,31b,31cが生成したデジタルデータ列をサンプリング数Nでサンプリングしてフーリエ変換して励磁フーリエ信号および出力フーリエ信号を生成することができる。
【0059】
以上のように、本実施形態においては、パラメータ設定部70に対して利用者が入力した励磁周波数frの励磁信号を生成し、励磁信号や出力信号をサンプリング周波数fsでサンプリング数N個でサンプリングしてフーリエ変換を行うことができる。従って、利用者は、m=N×fr/fsが整数になるように容易に設定することができる。
【0060】
なお、電気角取得システム10を構成する各部は、専用の回路(例えばICチップ等)で構成されても良いし、汎用の回路(例えば、CPU、RAM,ROM等のプログラム実行環境)をプログラムによって動作させることで実現されても良く、種々の構成を採用可能である。むろん、1個または複数個の機能が1個のチップで構成されても良いし、複数のチップで構成されても良い。また、製造後にプログラムすることが可能なFPGA(Field Programmable Gate Array)や、内部の回路セルの接続や設定を再構成可能なリコンフィギュラブル・プロセッサ(Reconfigurable Processor)が利用されても良い。また、半導体技術の進歩又は派生する別技術により、LSIに置き換わる集積回路化の技術が登場すれば、当然、その技術を用いて機能ブロックの集積化を行ってもよい。
【0061】
以上のような本実施形態においては、フーリエ変換によって励磁周波数成分を抽出して励磁信号と出力信号の位相の関係や出力信号の振幅を解析している。従って、フーリエ変換を行わないで位相の関係や振幅を解析する構成と比較して、正確に電気角θeを取得することができる。特に、本実施形態のように励磁信号や出力信号が増幅器13a~13cで増幅されることで位相が理想の信号と異なっていたり、ノイズが含まれていたりしても、正確に電気角θeを取得することができる。
【0062】
また、特許文献1に挙げたような従来のトラッキングループ型デジタル角度変換器においては、SIN信号やCOS信号に対してcosφやsinφを乗じ、得られた信号の和からsin(θe-φ)sin(2πfrt)を生成し、同期検波して制御偏差sin(θe-φ)を抽出し、当該制御偏差が0になるようにフィードバック制御することでφが電気角θeと見なせる状況を生成する。従って、cosφやsinφを乗じるための回路、同期検波を行うための回路、フィードバック制御のための回路(電圧制御発振器やカウンタ)など、複雑なアナログ回路を含んでいる。
【0063】
このため、従来の構成においては、全体構成を簡略化しにくく、低コスト化、高信頼性、利便性を達成することは困難である。しかし、本実施形態においては、複雑なアナログ回路は不要であり、アナログ回路としては単純な増幅器を備えていれば良い。また、アナログデジタル変換部21a,31b,31c以後の信号処理はデジタル信号処理であるため、フーリエ変換部22a,32b,32cや位相関係取得部40、振幅取得部50、電気角取得部60は、簡易な構成の回路によって実現可能である。また、アナログ回路はデジタル回路に比べて回路面積が大きく、IC化の際にチップ面積が大きくなりコストアップになる。従って、本実施形態は、従来技術と比較して低コストで実現可能である。
【0064】
さらに、アナログ回路は温度により特性が変化するため、温度補正回路が必要となるが、本実施形態においてはアナログ回路で構成される機能は少なく、電気角θeの算出のための処理はデジタル回路またはデジタル信号処理で実現される。従って、温度補正回路は不要であり、高い信頼性で電気角θeを取得する構成を容易に実現することができる。
【0065】
さらに、複雑なアナログ回路によって電気角取得システムを構成する場合、電気角θeの取得精度を高めるために、回路特性を調整して作りこみを行う必要がある。このため、回路定数の変更は極端に制限され、例えば、レゾルバの励磁周波数が10kHzに限定されるなど、特定用途向けになってしまう。しかし、本実施形態においては、励磁周波数等の調整が可能であり、特定用途に限定されない。
【0066】
さらに、上述の従来技術においては、制御偏差ε=sin(θe-φ)=0となるようにフィードバックループが構成されるため、安定化までに時間を要し、動作が遅くなる。また動作を速めようとすると発振対策が必要となる。しかし、本実施形態においてフィードバックループは存在せず、N個のサンプリングが行われれば即座に電気角θeを取得することができる。従って、高速に電気角θeを出力するシステムを提供することができる。
【0067】
さらに、従来の技術においては、入力信号である励磁信号やSIN信号、COS信号等のノイズを減らす必要があり、ノイズの程度に応じてアナログノイズフィルタ回路を追加するなどの検討が必要である。しかし、本実施形態においては、フーリエ変換によって励磁周波数成分を取得する構成であるため、励磁周波数成分以外のノイズの影響が少ない状態で電気角θeを取得することができる。従って、ノイズに強く、従来技術と比較してノイズ対策の必要性は低い。このため、本実施形態においては、漏洩磁束などのノイズが含まれ得る状況において、高度なノイズ対策を行わなくても高精度に電気角θeを取得することができる。
【0068】
さらに、従来技術においては、励磁信号とSIN信号、COS信号との位相のずれは、出力される角度の精度劣化や応答速度の低下につながるため、位相のずれを少なくしなければならない。通常は、±10度、もしくは±45度以下が求められる。しかし、本実施形態においては、励磁信号とSIN信号、COS信号との位相のずれは±90°より小さければ良い。従って、本実施形態においては高度な位相ずれ対策を行わなくても高精度に電気角θeを取得することができる。
【0069】
(2)第2実施形態:
上述の第1実施形態においては、フーリエ変換によって得られた励磁フーリエ信号と出力フーリエ信号に基づいて位相の関係と振幅の関係を取得していたが、フーリエ変換が行われていないデジタルデータ列に基づいて位相の関係が取得されても良い。図5は、フーリエ変換が行われていないデジタルデータ列に基づいて位相の関係を取得する構成例を示す図である。
【0070】
図5においては、図1と同様の構成に図1と同一の符号を付して示している。ここでは、図1と異なる構成について説明し、図1と同一の構成については説明を省略する。図5に示す電気角取得システム100は、フーリエ変換によって励磁周波数成分を取得する励磁信号取得部20を備えていない。むろん、電気角θeの算出以外の目的(例えば断線検出等)で励磁信号を電気角取得システム100に入力しても良い。
【0071】
ただし、本実施形態においては励磁信号発生部130と位相関係取得部400とが接続されている。励磁信号発生部130は、パラメータ設定部70で設定された励磁周波数frで正弦波信号を生成する機能を有しており、励磁周波数frの正弦波信号のデジタルデータを生成し、当該正弦波信号のアナログ信号を増幅器12に出力する機能を有している。本実施形態において励磁信号発生部130は、当該正弦波信号のデジタルデータに基づいて、励磁信号として出力した正弦波信号の任意のタイミングでの振幅を出力可能である。従って、励磁信号発生部130は、サンプリング周波数fsで正弦波信号をサンプリングした場合と同等のデジタルデータ列を位相関係取得部400に出力することができる。位相関係取得部400においては、この出力に基づいて、励磁信号のデジタルデータ列を取得することができる。
【0072】
出力信号取得部300は、上述の第1実施形態における出力信号取得部30と同等の機能(アナログデジタル変換部31b,31cおよびフーリエ変換部32b,32c)を備えているが、信号配線が異なっている。すなわち、アナログデジタル変換部31b,31cの出力は、フーリエ変換部32b,32cに供給されるとともに、位相関係取得部400にも供給される。
【0073】
位相関係取得部400は、励磁信号と出力信号(SIN信号およびCOS信号)との位相の関係を取得する回路であるが、上述の第1実施形態とは異なる演算法で位相の関係を取得する。すなわち、位相関係取得部400は、励磁信号の正負を示す値と、出力信号との積によって位相の関係を取得する。
【0074】
具体的には、位相関係取得部400は、励磁信号を示すデジタルデータ列p(n)を取得しながら、当該p(n)の値が正、負、0のいずれであるのかに基づいてp(n)をp'(n)に変換する。すなわち、位相関係取得部400は、p(n)>0ならばp'(n)=1、p(n)<0ならばp'(n)=-1、p(n)=0ならばp'(n)=0と変換する。ここで、nは0~N-1である。図6は、位相関係取得部400による処理の例を示す図であり、最上部には図3に示す励磁信号と同様の励磁信号p(n)が示されている。なお、サンプリングタイミングにおけるデジタルデータ列は白丸で示されている。図6においては、励磁信号p(n)の下部に変換後のp'(n)も示されている。これらの図に示されるように、変換後のp'(n)は、励磁信号の値の正負または0に応じて1,-1,0のいずれかを取るデジタルデータ列となる。このような変換によれば、励磁信号の振幅の影響を除外して位相の関係を評価することができる。なお、p'(n)は、p(n)から変換するのではなく、回路で生成する構成等であっても良い。
【0075】
位相関係取得部400は、このようにして得られたp'(n)とSIN信号s(n)との積の和に基づいて励磁信号とSIN信号との位相の関係を取得する。すなわち、位相関係取得部400は、以下の式(2)に基づいて判定指標Disを算出する。そして、位相関係取得部400は、判定指標Disが正であれば励磁信号とSIN信号とが同相であると判定し、判定指標Disが負であれば励磁信号とSIN信号とが逆相であると判定する。
【数2】
【0076】
なお、s(n)は、アナログデジタル変換部31bから位相関係取得部400に供給されたデジタルデータ列である。図6においては、SIN信号s(n)の例も示されており、当該SIN信号s(n)とp'(n)との積も示されている。この例の場合、SIN信号s(n)とp'(n)との積は正であるため判定指標Disも正となり、同相であると判定される。この判定結果は、図6に示す励磁信号とSIN信号との位相の関係に整合している。以上のような判定を行った結果、励磁信号とSIN信号とが同相であれば、位相関係取得部400はDirSin=1であることを示す信号を出力する。また、励磁信号とSIN信号とが逆相であれば、位相関係取得部400はDirSin=-1であることを示す信号を出力する。
【0077】
さらに、位相関係取得部400は、p'(n)とCOS信号c(n)との積の和に基づいて励磁信号とCOS信号との位相の関係を取得する。すなわち、位相関係取得部400は、以下の式(3)に基づいて判定指標Dicを算出する。そして、位相関係取得部400は、判定指標Dicが正であれば励磁信号とCOS信号とが同相であると判定し、判定指標Dicが負であれば励磁信号とCOS信号とが逆相であると判定する。
【数3】
【0078】
なお、c(n)は、アナログデジタル変換部31cから位相関係取得部400に供給されたデジタルデータ列である。図6においては、COS信号c(n)の例も示されており、当該COS信号c(n)とp'(n)との積も示されている。この例の場合、COS信号c(n)とp'(n)との積は負であるため判定指標Dicも負となり、逆相であると判定される。この判定結果は、図6に示す励磁信号とCOS信号との位相の関係に整合している。以上のような判定を行った結果、励磁信号とCOS信号とが同相であれば、位相関係取得部400はDirCos=1であることを示す信号を出力する。また、励磁信号とCOS信号とが逆相であれば、位相関係取得部400はDirCos=-1であることを示す信号を出力する。なお、以上の演算は一例であり、例えば、式(2)式(3)においてp'(n)ではなくp(n)がs(n)やc(n)に乗じられる構成等であっても良い。
【0079】
以上のようにして位相関係取得部400から出力される信号(DirSin、Dircos)は、上述の第1実施形態と同様であり、本実施形態における振幅取得部50は第1実施形態と同様である。従って、本実施形態における電気角取得部60は、位相関係取得部400の出力信号と振幅取得部50の出力信号とに基づいて、第1実施形態と同様の処理によって電気角を取得することができる。以上の構成においても、フーリエ変換によって出力信号の励磁周波数成分が取得されるため、励磁周波数成分以外の信号の影響を除外した状態で電気角θeを取得することができ、ノイズや位相のずれ等が生じたとしても正確に電気角θeを取得することができる。
【0080】
(3)第3実施形態:
上述の第1実施形態においては、励磁信号がサンプリングされるタイミングと、出力信号がサンプリングされるタイミングは同時であったが、励磁信号取得部が励磁信号をサンプリングするタイミングと、出力信号取得部が2相の出力信号をサンプリングするタイミングは異なるタイミングであってもよい。図7は、励磁信号と2相の出力信号のサンプリングタイミングが異なる構成例を示す図である。
【0081】
図7においては、図1と同様の構成に図1と同一の符号を付して示している。ここでは、図1と異なる構成について説明し、図1と同一の構成については説明を省略する。図7に示す電気角取得システム110は、励磁信号取得部と出力信号取得部とが一部の機能を共有することで実現されている。この意味で、図7においては、励磁信号取得部と出力信号取得部とを1個の矩形内に示し、1個の符号310を付して示している。
【0082】
符号310で示される励磁信号取得部および出力信号取得部は、マルチプレクサ211aとアナログデジタル変換部210aと、フーリエ変換部22a,32b,32cを備えている。フーリエ変換部22a,32b,32cの構成は第1実施形態と同様である。マルチプレクサ211aは3入力1出力のマルチプレクサであり、増幅器13a~13cの出力が接続されている。すなわち、マルチプレクサ211aは、一定のタイミングで入力と出力との関係を切り替える回路である。本実施形態においてマルチプレクサ211aは、パラメータ設定部70で設定されたサンプリング周波数fsからサンプリング周期1/fsを特定し、当該サンプリング周期1/fsの1/3の周期で入力と出力との関係を切り替える機能を有している。
【0083】
なお、本実施形態においてマルチプレクサ211aは、励磁信号、SIN信号、COS信号の順に出力する構成となっており、COS信号の後には再び励磁信号を出力する。従って、マルチプレクサ211aは、励磁信号、SIN信号、COS信号の順に出力する動作を繰り返す。むろん、各信号の順序は一例であり、順序は任意である。
【0084】
アナログデジタル変換部210aは、励磁信号、SIN信号、COS信号のそれぞれをサンプリング周波数fsでサンプリングしたデジタルデータ列を生成するための回路である。すなわち、アナログデジタル変換部210aは、パラメータ設定部70で設定されたサンプリング周波数fsからサンプリング周期1/fsを特定し、アナログデジタル変換部210aに入力されたアナログ信号を当該サンプリング周期1/fsの1/3の周期でデジタルデータ列に変換する。
【0085】
図8は、励磁信号、SIN信号、COS信号がサンプリングされる様子を説明する図である。同図8に示す各信号は、図3に示した各信号と同等である。ここでは、このような各信号からサンプリング周波数fsでサンプリング数N=8のデータを生成する例を説明する。アナログデジタル変換部210aは、サンプリング周期1/fsの1/3の周期で励磁信号、SIN信号、COS信号の順にサンプリングを行うが、図8においては、最初にサンプリングされる信号はCOS信号である例が示されており、サンプリングによってCOS信号のデジタルデータc(0)が生成される。この後、サンプリング周期1/fsの1/3の時間が経過すると、アナログデジタル変換部210aにはマルチプレクサ211aによって励磁信号が入力された状態となっている。従って、アナログデジタル変換部210aが次のサンプリングをすると、励磁信号のデジタルデータp(0)が生成される。
【0086】
さらに、サンプリング周期1/fsの1/3の時間が経過すると、アナログデジタル変換部210aにはマルチプレクサ211aによってSIN信号が入力された状態となっている。従って、アナログデジタル変換部210aが次のサンプリングをすると、SIN信号のデジタルデータs(0)が生成される。アナログデジタル変換部210aは、以後、サンプリング周期1/fsの1/3の周期でサンプリングを行うため、N×3回のデジタル変換が行われることで、COS信号c(0)~c(7)、励磁信号p(0)~p(7)、SIN信号s(0)~s(7)が生成される。
【0087】
さらに、アナログデジタル変換部210aは、フーリエ変換部22a,32b,32cに接続されており、サンプリング周期1/fsの1/3の周期で出力先を切り替える。すなわち、マルチプレクサ211aから励磁信号が出力されているタイミングにおいてアナログデジタル変換部210aがアナログデジタル変換を行った場合、アナログデジタル変換部210aは、変換後のデジタルデータをフーリエ変換部22aに出力する。マルチプレクサ211aからSIN信号が出力されているタイミングにおいてアナログデジタル変換部210aがアナログデジタル変換を行った場合、アナログデジタル変換部210aは、変換後のデジタルデータをフーリエ変換部32bに出力する。マルチプレクサ211aからCOS信号が出力されているタイミングにおいてアナログデジタル変換部210aがアナログデジタル変換を行った場合、アナログデジタル変換部210aは、変換後のデジタルデータをフーリエ変換部32cに出力する。
【0088】
本実施形態においては、アナログデジタル変換部210aがこの切り替えをサンプリング周期1/fsの1/3の周期で実施して繰り返すことにより、フーリエ変換部22aには、第1実施形態と同様に励磁信号を示すデジタルデータ列p(n)が入力される。同様に、フーリエ変換部32bには、第1実施形態と同様にSIN信号を示すデジタルデータ列s(n)が入力される。さらに、フーリエ変換部32cには、第1実施形態と同様にCOS信号を示すデジタルデータ列c(n)が入力される。
【0089】
以上のようにしてフーリエ変換部22a,32b,32cに入力される信号(p(n),s(n),c(n))は、上述の第1実施形態と同様であり、本実施形態におけるフーリエ変換部22a,32b,32c、位相関係取得部40、振幅取得部50、電気角取得部60は第1実施形態と同様である。従って、フーリエ変換部22a,32b,32c、位相関係取得部40、振幅取得部50、電気角取得部60が第1実施形態と同様の動作を行うことにより、電気角を取得することができる。以上の構成においても、フーリエ変換によって励磁信号および出力信号の励磁周波数成分が取得されるため、励磁周波数成分以外の信号の影響を除外した状態で電気角θeを取得することができ、ノイズや位相のずれ等が生じたとしても正確に電気角θeを取得することができる。
【0090】
なお、本実施形態においては、マルチプレクサ211aおよびアナログデジタル変換部210aによって順番に励磁信号、SIN信号、COS信号のデジタル変換を実施するため、各信号の異なるタイミングにおけるデジタルデータが取り込まれる状態になる。従って、各デジタルデータが示す信号の位相がずれた状態となっている。そこで、本実施形態においては、当該位相のずれを補償する構成を備えていても良い。
【0091】
このような位相のずれの補償は、例えば、上述の第1実施形態における回転後の座標軸による励磁周波数成分の表現において、SIN信号の励磁周波数成分の実数部Sr'をSr'=Sr×cos(α+β)+Si×sin(α+β)として取得する構成等によって実現可能である。なお、βは、位相のずれ、すなわち、2π/(3fs)である。COS信号においては、励磁周波数成分の実数部Cr'をCr'=Cr×cos(α-β)+Ci×sin(α-β)として取得すればよい。以上の構成においては、SIN信号およびCOS信号の位相のずれが±90°より小さければ、励磁信号とSIN信号、COS信号との位相の関係を正確に特定することが可能である。なお、図8の例では、fs/fr=8/3=2.667>2であり、サンプリング定理fs>2frを満たしており、正確に電気角θeを取得することができる。なお、第3実施形態のように、マルチプレクサを使用する構成においては、例えば、第1実施形態等と比較してアナログデジタル変換部の数を低減することができる。従って、より低いコストで電気角取得システムを構成することができる。
【0092】
(4)第4~第8実施形態:
他にも、上述の実施形態における特徴を組み合わせた任意の実施形態を構成することが可能である。図9は、図5に示す第2実施形態のように増幅器を介することなく励磁信号発生部から励磁信号のデジタルデータ列を位相関係取得部400に供給し、さらに、図7に示す第3実施形態のようにマルチプレクサを備える構成を示す図である。当該図9に示す第4実施形態においても、上述の実施形態と同様の構成には同一の符号が付してある。
【0093】
図9に示す構成においては、マルチプレクサ221aが2入力1出力の構成であり、1個のアナログデジタル変換部220aによってSIN信号とCOS信号のそれぞれを順番にデジタルデータ化する。なお、マルチプレクサ221aは、2入力であるため、アナログデジタル変換部220aのサンプリング周期は、1/(2fs)である。このようにしてデジタルデータ列とされたSIN信号とCOS信号と、励磁信号発生部130が出力する励磁信号のデジタルデータ列が位相関係取得部400に入力される。また、アナログデジタル変換部220aによってデジタルデータ化されたSIN信号とCOS信号は、フーリエ変換部32b,32cのそれぞれでフーリエ変換され、励磁周波数成分が取得される。
【0094】
図10は、図1に示す第1実施形態から、励磁信号を増幅して取り込む増幅器13aや励磁信号取得部20を省略し、替わりに図5に示す第2実施形態と同様に励磁信号発生部130から位相関係取得部40に励磁信号が供給される構成である。ただし、当該図10に示す第5実施形態においては、励磁信号発生部130が出力する励磁信号のデジタルデータを、フーリエ変換部240aでフーリエ変換するように構成されている。フーリエ変換部240aでフーリエ変換された励磁フーリエ信号は位相関係取得部40に供給され、第1実施形態と同様の処理によって位相の関係が取得される。
【0095】
図11は、図1に示す第1実施形態から、位相の関係を取得するためにフーリエ変換を行う構成を省略した構成である。ただし、当該図11に示す第6実施形態においては、励磁信号が増幅器13aによって増幅された信号を取り込むため、アナログデジタル変換部250aで励磁信号をデジタルデータ化する。アナログデジタル変換部250aでデジタルデータとされた励磁信号は位相関係取得部400に入力される。また、アナログデジタル変換部31b,31cによってデジタルデータとされたSIN信号およびCOS信号が位相関係取得部400に入力される。位相関係取得部400においては、第2実施形態と同様の処理によって位相の関係を取得する。
【0096】
図12は、図9に示す第4実施形態の位相関係取得部400を位相関係取得部40に置換し、フーリエ変換後の励磁信号、SIN信号およびCOS信号に基づいて位相の関係を取得するように構成された第7実施形態を示す図である。なお、当該第7実施形態においては、励磁信号発生部130が出力した励磁信号のデジタルデータをフーリエ変換するため、フーリエ変換部360aが設けられている。
【0097】
図13は、図7に示す第3実施形態において、フーリエ変換していないデジタルデータ列から位相の関係を取得するように構成した第8実施形態を示す図である。すなわち、第3実施形態においてフーリエ変換部22aを省略し、位相関係取得部40を位相関係取得部400に置換する。そして、アナログデジタル変換部210aの出力信号を位相関係取得部400に供給する構成とすることで第8実施形態を構成することができる。
【0098】
(5)第9実施形態:
さらに、電気角取得システムは、レゾルバ11の運用過程においてレゾルバの電気角を測定する構成以外にも、種々の目的に使用可能である。図14は、レゾルバ11が取得する電気角の取得特性を測定する電気角取得特性測定システム190の構成例を示す図である。すなわち、レゾルバ11の製造過程等においては、レゾルバ11における電気角の取得特性を特定した上で出荷される場合が多い。このような場合に、レゾルバ11の特性を測定する際にも電気角取得システムを使用することができる。
【0099】
さらに、上述の第1実施形態においては、励磁信号取得部20および出力信号取得部30がアナログの励磁信号および出力信号を取得していたが、既にデジタルデータ化された励磁信号および出力信号を取得する構成であっても良い。図14の電気角取得特性測定システム190は、デジタルデータ化された励磁信号および出力信号を取得する構成を備えている。
【0100】
本実施形態においては、データ収集システム200によって励磁信号および出力信号がデジタルデータ化される。データ収集システム200は、上述の第1実施形態と同様の増幅器13a~13cと、アナログデジタル変換部21a,31b,31cを備えている。これらの機能は第1実施形態と同一である。従って、増幅器12で増幅された励磁信号が増幅器13aでさらに増幅され、アナログデジタル変換部21aでデジタルデータ列に変換される。また、レゾルバ11からの出力信号であるSIN信号は増幅器13bで増幅され、アナログデジタル変換部31bでデジタルデータ列に変換される。レゾルバ11からの出力信号であるCOS信号は増幅器13cで増幅され、アナログデジタル変換部31cでデジタルデータ列に変換される。
【0101】
データ収集システム200は、FIFOメモリ201を備えている。また、データ収集システム200は、通信ケーブルによって電気角取得特性測定システム190に接続されている。FIFOメモリ201は、アナログデジタル変換部21a,31b,31cが出力するデジタルデータ列を記録し、先入れ先出し形式で電気角取得特性測定システム190にデジタルデータ列を出力する。なお、データ収集システム200と電気角取得特性測定システム190とを接続する通信ケーブルは種々のケーブルであって良く、例えば、USBケーブル等を採用可能である。
【0102】
本実施形態において、モータ15aのシャフト(またはシャフトに連動して回転する部位)には、レゾルバ11のロータとエンコーダ15cが取り付けられている。モータ15aはモータドライバ15bから供給される電力によってシャフトを回転させる。エンコーダ15cは、ロータの回転角度に応じた信号(ABZ信号)を出力する。むろん、エンコーダ15cの出力態様は一例であり、絶対角が取得される構成等であっても良い。エンコーダ15cの出力信号は、データ収集システム200に入力され、他の信号と同時にサンプリングされる。
【0103】
データ収集システム200は、エンコーダ15cの出力信号を取り込む機械角変換部202を備えている。機械角変換部202は、エンコーダ15cの出力信号を機械角に変換する機能を有する回路である。すなわち、機械角変換部202は、エンコーダ15cの出力信号に基づいて、ロータの機械角(0°~360°)を示すデータを生成し、FIFOメモリ201に記憶させる。当該機械角を示すデータも、先入れ先出し形式で電気角取得特性測定システム190に出力される。なお、本実施形態においては、エンコーダ15cの出力信号から得られた機械角がリファレンスとなる。
【0104】
電気角取得特性測定システム190は、汎用的なコンピュータであり、CPU等を含む図示しない制御部を備えている。当該制御部は、図示しないプログラムを実行することが可能であり、当該プログラムにより、メモリ191を適宜利用して第1実施形態と同様の種々の機能を実行することができる。すなわち、制御部は、励磁信号取得部290、出力信号取得部390、位相関係取得部40、振幅取得部50、電気角取得部60、パラメータ設定部700として機能する。ここで、第1実施形態と同一の機能は同一の符号で表記している。なお、制御部は、これらの機能以外にも精度取得部800として機能する。
【0105】
電気角取得特性測定システム190においては、利用者が与えたトリガ等に応じてメモリ191におけるデータの取り込みの開始や停止を実施可能である。取り込みが開始されると、データ収集システム200から出力された励磁信号および出力信号のデジタルデータや機械角を示すデータがメモリ191に記録される。
【0106】
励磁信号取得部290は、フーリエ変換部22aを有しており、第1実施形態と同様のフーリエ変換を実施可能である。すなわち、励磁信号取得部290は、メモリ191を参照してデジタルデータ化された励磁信号を取得し、フーリエ変換部22aの機能によって励磁信号の励磁周波数成分P(m)を取得し、出力する。出力信号取得部390は、フーリエ変換部32b,32cを有しており、第1実施形態と同様のフーリエ変換を実施可能である。すなわち、出力信号取得部390は、メモリ191を参照してデジタルデータ化されたSIN信号を取得し、フーリエ変換部32bの機能によってSIN信号の励磁周波数成分S(m)を取得し、出力する。また、出力信号取得部390は、メモリ191を参照してデジタルデータ化されたCOS信号を取得し、フーリエ変換部32cの機能によってCOS信号の励磁周波数成分C(m)を取得し、出力する。
【0107】
位相関係取得部40、振幅取得部50、電気角取得部60は、第1実施形態と同様の機能を有している。ただし、本実施形態において、これらの機能はソフトウェアによって実現される。電気角取得部60が電気角θeを取得すると、精度取得部800は、取得された電気角θeとリファレンスとのずれを示す情報を取得し、出力する。
【0108】
精度取得部800は、ロータの機械角に基づいて、電気角取得部60が取得した電気角の精度を取得する機能を有している。すなわち、データ収集システム200においては、機械角変換部202がエンコーダ15cの出力信号に基づいてロータの機械角を取得してリファレンスとするため、本実施形態では当該リファレンスに基づいて電気角の精度を取得する。
【0109】
電気角の精度は、種々の指標で特定されて良く、本実施形態においては、機械角誤差=(電気角-(軸倍角×機械角))/軸倍角が精度を示す指標である。精度取得部800は、エンコーダ15cの出力信号から得られた機械角と、電気角取得部60が取得した電気角θeと軸倍角とに基づいて機械角誤差を取得する。なお、軸倍角が2以上の場合、軸倍角×機械角が360°より大きくなる場合があるため、軸倍角×機械角が360°より大きい場合、軸倍角×機械角が360°未満になるまで360°を減じる処理を繰り返す。
【0110】
機械角誤差が取得されると、精度取得部800は機械角誤差を出力する。なお、出力態様は、種々の態様であって良く、例えば、機械角を横軸とし、機械角誤差を縦軸としたグラフ等であっても良いし、機械角誤差の統計値等であっても良く、種々の態様を想定可能である。また、電気角の精度は、ロータの機械角に基づいて評価されれば良く、当該機械角を電気角に変換し、変換後の電気角と電気角取得部60が取得した電気角θeとの差分等によって精度が評価されても良く、種々の構成を採用可能である。また、出力先も限定されず、図示しないディスプレイ以外にも、測定データを記録するための図示しないデータベースや、図示しないプリンター等が出力先となる構成等であっても良い。
【0111】
なお、本実施形態において、パラメータ設定部700は、キーボード等の入力部による利用者の入力に基づいてパラメータの入力を受け付けることができる。パラメータ設定部700は、上述の第1実施形態と同様にサンプリング数Nを受け付けることが可能であり、受け付けたパラメータでフーリエ変換部22a,32b,32cにフーリエ変換を実施させることができる。従って、例えば、励磁信号発生部13における励磁信号の励磁周波数frが10kHzであり、アナログデジタル変換部21a,31b,31cにおけるサンプリング周波数fsが320kHzに設定されている場合等において、利用者は、f/fが1/32であることに基づいてNを32,64などと設定することにより、m=N×fr/fsを整数にすることが可能である。
【0112】
むろん、パラメータ設定部700においてサンプリング周波数fs、励磁周波数frを受け付け、データ収集システム200におけるアナログデジタル変換のサンプリング周波数を制御可能であっても良いし、励磁信号発生部13における励磁信号の励磁周波数を制御可能であっても良い。
【0113】
本実施形態において、パラメータ設定部700は、さらに、モータ15aを制御するためのパラメータの入力を受け付けることができ、当該パラメータでモータ15aを制御することができる。この意味で、パラメータ設定部700はモータ制御部として機能する。すなわち、パラメータ設定部700は、モータ15aを動作させるためのパラメータ、例えば、回転速度や、一定期間毎に一定角度回転させる際の期間および角度等を設定することができる。
【0114】
モータ15aを操作させるためのパラメータが入力されると、パラメータ設定部700からモータドライバ15bに対してパラメータに応じた制御信号が出力される。この結果モータドライバ15bは、当該パラメータが示す動作でモータ15aが駆動するようにモータ15aを制御する。
【0115】
以上の構成において、利用者の指示等により測定開始トリガが発生すると、パラメータ設定部700がモータ制御部として機能し、モータ15aの動作パラメータに応じた制御信号をモータドライバ15bに出力する。この結果モータドライバ15bがモータ15aを回転駆動させ、パラメータに応じた回転を行わせる。
【0116】
また、電気角取得特性測定システム190は、測定開始トリガに応じてメモリ191に対する取り込みを開始する。この結果、励磁信号および出力信号のデジタルデータや機械角を示すデータがメモリ191に記録される。この後、電気角取得特性測定システム190は、FIFOメモリ201がオーバーフローしないように、定期的にFIFOメモリ201のデータを取り込む。
【0117】
機械角0°~360°に相当するデジタルデータ列がメモリ191に取り込まれると、パラメータ設定部700は、モータドライバ15bに制御信号を出力してモータ15aの回転を停止させる。さらに、励磁信号取得部290および出力信号取得部390は、フーリエ変換処理を開始する。なお、エンコーダ15cの出力信号に基づいて機械角が取得された時点での電気角を計算する際にフーリエ変換に算入されるデータは、種々の手法で特定されて良い。例えば、当該時点を中心に前後ほぼ等しい数のデータをサンプリング数N個収集してフーリエ変換に算入する構成等を採用可能である。なお、サンプルの収集は、当該時点を含む前後の期間におけるサンプルがN個収集される構成であれば良い。
【0118】
以上のようにして、N個のサンプルが収集されると、フーリエ変換部22a、32b,32cがフーリエ変換を行い、その結果に基づいて位相関係取得部40が位相の関係を取得し、振幅取得部50が振幅を取得する。そして、これらの結果に基づいて電気角取得部60が電気角θeを取得し、精度取得部800が機械角誤差を取得する。このような処理は、エンコーダ15cの出力信号によって特定された複数の機械角について実施され、当該複数の機械角のそれぞれにおける機械角誤差が取得される。以上の構成によれば、数秒程度で機械角毎の機械角誤差が取得される。上述の特許文献1のようなトラッキングループ型デジタル角度変換器を使用して電気角取得特性測定システムを構築する場合、測定データが落ち着くまで時間がかかることや、FIFOメモリが備わっていないため、ロータが停止した状態で測定し、移動させ、再度停止させて測定する作業を繰り返す必要がある。このため、例えば、1周で72点の機械角誤差を取得するのに、回転を開始してから数分を要していた。しかし、本実施形態においてはモータ15aを停止させる必要はなく、例えば、1周512点の機械角誤差を取得するのに、モータ15aの回転開始から数秒程度で機械角誤差が取得され、レゾルバ11の特性として評価することが可能になる。従って、製造段階でレゾルバ11の良否の判定等に多大な効果がある。
【0119】
なお、電気角取得特性測定システム190において電気角を取得するための構成は、図14に示す構成以外にも種々の構成を採用可能である。例えば、電気角を取得するための構成が、第2実施形態~第8実施形態のいずれかの構成であってもよい。従って、例えば、フーリエ変換されていない励磁信号および出力信号のデジタルデータに基づいて励磁信号と出力信号との位相の関係が取得されても良い。また、例えば、データ収集システム200において励磁信号や出力信号を取り込む際に、マルチプレクサが利用されても良い。さらに、ロータがモータ15a以外の動力によって回転駆動されても良い。例えば、手動や空気圧、油圧、バネ等の弾性力等によってロータが回転駆動される構成等が採用されてもよい。さらに、モータ15aの回転がギア等を介してロータに伝達されても良いし、モータ15aのシャフトがギアを介して回転する構成等であっても良い。
【0120】
(6)他の実施形態:
以上の実施形態は本発明を実施するための一例であり、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において他にも種々の実施形態を採用可能である。例えば、電気角取得システムや電気角取得特性測定システムがノイズ低減のためのフィルタを備えていても良い。フィルタは各所に配置可能であるが、例えば、デジタルデータ列に対してフィルタリングするのであれば、アナログデジタル変換部21a,31b,31cのそれぞれとフーリエ変換部22a,32b,32cのそれぞれとの間にデジタルフィルタを配置する構成等を採用可能である。デジタルフィルタは、種々の態様であって良く、FIR(Finite impulse response)、IIR(Infinite impulse response)、バタワース形式のローパスフィルタやバンドパスフィルタ等を採用可能である。むろん、電気角θeを取得し、さらに他の値、例えば、ロータの回転速度等を取得する構成であってもよい。
【0121】
さらに、振幅の最大値が一致していないSIN信号とCOS信号に基づいて楕円補正を行う構成であっても良い。すなわち、上述の実施形態においては、SIN信号の振幅はKsinθeでありCOS信号の振幅はKcosθeであるため、振幅の最大値が
一致する。しかし、両信号の振幅の最大値を完全に一致させるために増幅器13b,13cの増幅率や、出力巻線の巻線数を詳細に調整することが必要になると、電気角θeを取得するための準備が煩雑になる場合がある。
【0122】
そこで、SIN信号とCOS信号における振幅の最大値が不一致である状態で測定を行ってもよい。すなわち、増幅器13bによる増幅後のSIN信号がb・sinθe・sin(2πfrt)、増幅器13cによる増幅後のCOS信号がa・cosθe・sin(2πfrt)である場合を想定する。ただし、b≠aである。
【0123】
この場合において、図2Cに示すような電気角θeによるSIN信号とCOS信号との振幅の変化を示す図を作成すると、振幅値のプロットが円にならず楕円になる。図15は、a>bである場合における電気角θeによるSIN信号とCOS信号との振幅の変化を示す図である。図15においては、振幅値のプロットを二点鎖線で示しており、同図15に示すようにプロット結果は楕円になる。一方、SIN信号とCOS信号の振幅の最大値が等しい場合における振幅値のプロットは、一点鎖線で示すような円形になる。
【0124】
ここで、COS信号の振幅値がxとなる場合の振幅値を、振幅値が不一致の場合についてy、振幅値が一致する場合についてy'とすると、y'=(a/b)yとなる。従って、この関係を利用すれば、振幅値が不一致である場合の電気角θeを取得することが可能になる。具体的には、例えば、第1実施形態において、振幅取得部50が、一方の出力信号であるSIN信号の励磁周波数成分における振幅をa/b倍に補正するか、または、他方の出力信号であるCOS信号の励磁周波数成分における振幅をb/a倍に補正する構成を採用可能である。すなわち、振幅取得部50が、上述のPwrSinを(a/b)PwrSinに補正する構成や、PwrCosを(b/a)PwrCosに補正する構成等を採用可能である。以上の構成の場合、補正は電気角θeを取得する段階で1度実行すればよく、演算量を低減することができる。また、SIN信号をデジタルデータ化したデータ列をs(n)、COS信号をデジタルデータ化したデータ列をc(n)とした場合において、s(n)を(a/b)s(n)と補正する構成や、c(n)を(b/a)c(n)と補正する構成等を採用可能である。なお、この構成において、補正は、サンプリング毎に行われる。なお、a,bは、増幅器13b,13cの出力信号における振幅の最大値を測定して取得する構成や、パラメータ設定部70によって設定される構成等を採用可能であり、種々の構成を採用可能である。なお、前者の場合、ロータを複数回回転させて振幅の最大値を測定すれば、より正確な値を取得することができる。
【0125】
さらに、電気角取得システムにおいては、ある瞬間の電気角θeを取得するためにサンプリング数Nのサンプルの収集を必要とするため、当該サンプリング数Nの収集の過程でロータが回転すると、測定値と現在の値とで誤差が発生し得る。そこで、このような誤差を補正する構成が採用されてもよい。例えば、サンプリング数Nの収集に要する期間をロータの回転速度から演算したり、ロータの回転速度に対する誤差の特性を予め演算や統計等によって算出したりすれば、誤差の特性を特定することができる。そこで、当該特性に基づいて特定される誤差を、電気角θeから減じた値を電気角θeとして取得する構成が採用されてもよい。なお、誤差の特性は、例えば、回転速度に対する誤差の関係を示す関数等によって特定可能である。この場合、ロータの回転速度と誤差との関係がパラメータ設定部70によって設定され、ロータの回転速度に応じて誤差が特定され、電気角θeが補正される構成等を採用可能である。
【0126】
さらに、パラメータ設定部70,700においては、上述のサンプリング周波数fs、サンプリング数N、励磁周波数fr以外にも種々のパラメータを設定可能に構成されて良い。例えば、軸倍角、レゾルバ11と電気角取得システムとの結線情報(結線によって図2B図2Cの特性が変化し得る)、励磁信号の振幅E、励磁信号や出力信号の振幅の中心電圧(例えば、異常検出に利用可能)、上述の出力信号の振幅a,b、ノイズフィルタの特性(例えば、パラメータによってフィルタリング特性を指定可能にする等)、電気角出力の形式(シリアル、パラレル、電圧、A B Z、U V W等)、励磁信号に対するSIN信号、COS信号の位相ずれ(既知のずれを補正可能にする)、機械角、電気角の原点ずれ(例えば、レゾルバ11を装置に任意の角度で固定し、後で機械角0度の位置と電気角0度の位置を調整できる構成とする等)、N個のサンプリングの間における電気角θeのずれ(ロータの回転速度による誤差の補正値)等が入力可能であっても良い。
【0127】
回転検出器は、1相励磁2相出力の構成であれば良く、励磁巻線が1相存在し、出力巻線が2相存在し、励磁巻線に対して励磁信号が入力された状態で、2相の出力巻線から出力信号が出力される構成であれば良い。すなわち、出力信号がロータの回転に応じて変調され、当該出力信号と励磁信号とに基づいて、電気角を特定することができればよい。励磁巻線や出力巻線、ロータの態様は、各種の態様とされて良い。
【0128】
励磁信号取得部は、励磁信号の励磁周波数成分をフーリエ変換によって取得することができればよい。すなわち、励磁信号取得部は、励磁信号を取り込み、電気角を取得するために必要な成分である励磁周波数成分を抽出することができればよい。励磁信号取得部においては、励磁信号の励磁周波数成分を取得することができればよく、励磁信号取得部が取り込む励磁信号の態様は種々の態様であって良い。
【0129】
例えば、励磁信号取得部に対してアナログの励磁信号が入力されてもよいし、励磁信号取得部に対してデジタルの励磁信号が入力されても良い。前者であれば、励磁信号取得部においてアナログデジタル変換が行われる。後者においては、励磁信号取得部が励磁信号をデジタルデータとして取り込むことができればよく、デジタルデータとしての励磁信号は、パラメータに基づいて生成された信号であっても良いし、回転検出器に供給されたアナログの励磁信号がアナログデジタル変換された信号であっても良く、種々の構成が採用可能である。なお、励磁信号の発生源は、電気角取得システムに備えられていても良いし、電気角取得システムの外部に備えられていても良い。
【0130】
励磁周波数は、励磁信号の周波数であり、当該励磁周波数で振動する種々の信号を励磁信号とすることができる。励磁信号は、典型的には正弦波等の三角関数で表現される信号であり、励磁信号が生成された段階では単一の周波数成分を有する。
【0131】
フーリエ変換は、時間空間の信号である励磁信号を周波数空間の信号に変換することができればよく、励磁信号の励磁周波数成分を抽出できるように変換が行われればよい。従って、複数の周波数成分を示すデジタルデータ列が生成され、デジタルデータ列の中から励磁周波数成分が選択されてもよいし、励磁周波数成分に相当するデータが算出される構成等であっても良い。
【0132】
励磁周波数成分の抽出は、種々の態様で実行されてよい。例えば、フーリエ変換において、励磁周波数と等しい周波数成分が得られている場合、当該周波数成分が励磁周波数成分として取得される。また、励磁周波数と等しい周波数成分が得られていない場合、フーリエ変換によって得られた複数の周波数成分のデータの中から、励磁周波数に最も近い周波数の成分や励磁周波数から既定範囲内の周波数の成分が選択されて励磁周波数成分と見なされても良い。このようなフーリエ変換の特徴は、出力信号取得部も同様である。従って、励磁信号取得部と出力信号取得部とは、同一のフーリエ変換部によって実現されても良く、この場合、順番に励磁信号と出力信号とのそれぞれについてフーリエ変換が行われる。
【0133】
出力信号取得部は、2相の出力信号の励磁周波数成分をフーリエ変換によって取得することができればよい。すなわち、出力信号は、回転検出器のロータの回転に応じて変調された状態で出力される。そして、当該出力信号は、励磁信号によって励磁された信号であるため、振幅等が変調したとしても、励磁信号の周波数と同等の周波数で変化する信号となって出力される。出力信号が変調された様子を特定するための基準は励磁信号であり、励磁信号は励磁周波数の信号であるため、出力信号において電気角を取得するために必要な成分は励磁周波数成分である。そこで、出力信号取得部は、出力信号を取り込み、電気角を取得するために必要な成分である励磁周波数成分を抽出することができればよい。
【0134】
2相の出力信号は、回転検出器から出力される信号であり、これらの2相の出力信号に基づいて電気角が取得可能であれば良い。出力信号取得部が取り込む出力信号の態様は種々の態様であって良い。例えば、出力信号取得部に対してアナログの出力信号が入力されてもよいし、出力信号取得部に対してデジタルの出力信号が入力されても良い。前者であれば、出力信号取得部においてアナログデジタル変換が行われる。後者であれば、出力信号取得部の外部で出力信号がアナログデジタル変換される。
【0135】
位相関係取得部は、励磁信号と、2相の出力信号とに基づいて、励磁信号と2相の出力信号との位相の関係を取得することができればよい。すなわち、回転検出器の特性(巻線の結線等)が変化しなければ、励磁信号と2相の出力信号とにおける位相の関係は固定的である。従って、位相の関係が判明すれば、電気角の象限(電気角が属する角度範囲)が特定される。位相関係取得部は、このような電気角の取得の基になる情報として位相の関係を取得することができればよい。
【0136】
位相の関係を取得するための構成としては、種々の構成を採用可能であり、上述のような座標軸の回転以外にも種々の手法を採用可能である。例えば、励磁信号とSIN信号との内積によって両者の位相の関係が取得され、励磁信号とCOS信号との内積によって両者の位相の関係が取得される構成を採用可能である。より具体的には、励磁信号の励磁周波数成分P(m)とSIN信号をフーリエ変換した出力フーリエ信号であるS(m)の内積、すなわち、Sr・Pr+Si・Piを計算し、計算結果が正であれば同相、負であれば逆相とする構成を採用可能である。また、励磁信号の励磁周波数成分P(m)とCOS信号をフーリエ変換した出力フーリエ信号であるC(m)の内積、すなわち、Cr・Pr+Ci・Piを計算し、計算結果が正であれば同相、負であれば逆相とする構成を採用可能である。
【0137】
振幅取得部は、2相の出力信号の励磁周波数成分に基づいて、2相の出力信号の振幅を取得することができればよい。すなわち、回転検出器の特性が変化しなければ、2相の出力信号の振幅によって電気角の角度の候補が特定される。振幅取得部は、このような電気角の取得の基になる情報として振幅を取得することができればよい。振幅を取得するための構成としては、種々の構成を採用可能であり、上述のような実数部と虚数部の2乗の平方根以外の手法で取得されても良い。例えば、上述の座標軸回転が行われた後の実数部が振幅と見なされる構成等が採用されてもよい。
【0138】
電気角取得部は、位相の関係と2相の出力信号の振幅とに基づいて、回転検出器の電気角を取得することができればよい。すなわち、電気角取得部は、振幅の比によって特定される角度の候補から、位相の関係に基づいて特定された電気角の象限内に含まれる角度を選択して電気角とすることができればよい。
【0139】
さらに、フーリエ変換結果X(k)から励磁周波数成分を取得する際には、k=mであり、m=N×fr/fsが整数となることが好ましいが、N×fr/fsが整数値でない場合であっても、mがN×fr/fsに近ければよい。すなわち、mがN×fr/fsに近ければ、フーリエ変換結果X(m)が励磁周波数成分であると見なすことが可能である。mとN×fr/fsとの差分が生じている場合、その差分に応じて電気角θeの誤差が変化するため、誤差が許容範囲にあるmが選択できるのであれば、X(m)が励磁周波数成分であると見なす構成であると言える。
【0140】
なお請求項に記載された各手段の機能は、構成自体で機能が特定されるハードウェア資源、プログラムにより機能が特定されるハードウェア資源、又はそれらの組み合わせにより実現される。また、これら各手段の機能は、各々が物理的に互いに独立したハードウェア資源で実現されるものに限定されない。さらに、本発明は、方法としても、コンピュータプログラムとしても、コンピュータプログラムの記録媒体としても成立する。むろん、そのコンピュータプログラムの記録媒体は、磁気記録媒体であってもよいし光磁気記録媒体であってもよいし、今後開発されるいかなる記録媒体であってもよい。
【符号の説明】
【0141】
10…電気角取得システム、11…レゾルバ、12…増幅器、13…励磁信号発生部、13a…増幅器、13b…増幅器、13c…増幅器、15a…モータ、15b…モータドライバ、15c…エンコーダ、20…励磁信号取得部、21a…アナログデジタル変換部、22a…フーリエ変換部、30…出力信号取得部、31b…アナログデジタル変換部、31c…アナログデジタル変換部、32b…フーリエ変換部、32c…フーリエ変換部、40…位相関係取得部、50…振幅取得部、60…電気角取得部、70…パラメータ設定部
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