(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-27
(45)【発行日】2023-12-05
(54)【発明の名称】シート
(51)【国際特許分類】
A47C 31/02 20060101AFI20231128BHJP
B68G 7/052 20060101ALI20231128BHJP
B60N 2/58 20060101ALI20231128BHJP
【FI】
A47C31/02 B
B68G7/052 A
B60N2/58
(21)【出願番号】P 2019201681
(22)【出願日】2019-11-06
【審査請求日】2022-10-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000109738
【氏名又は名称】デルタ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100176304
【氏名又は名称】福成 勉
(72)【発明者】
【氏名】奥井 貴弘
【審査官】望月 寛
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-275557(JP,A)
【文献】特開2009-148350(JP,A)
【文献】実開平06-045600(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47C 31/02
B68G 7/052
B60N 2/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パッドと、
前記パッドの表面を覆う表皮であって、前記パッドに対向する側から当該パッドに近づく方向に突出する吊込み部を有する表皮と、
前記吊込み部を前記パッドに固定する吊込み部材とを備え、
前記吊込み部は、互いに連続する直線部分および曲線部分を有しており、
前記吊込み部材は、長手方向に延びる第1縁および第2縁を有する帯状の本体部と、前記本体部よりも高い曲げ剛性を有し、かつ、前記本体部の前記第1縁に沿って取り付けられた線状の剛性部とを有しており、
前記吊込み部材の前記本体部は、前記剛性部が前記吊込み部の長手方向に延びる端縁から外側に離間した位置で当該端縁に沿って平行に延びかつ前記本体部の前記第2縁の部分が前記表皮に重なった状態で、前記表皮の前記吊込み部に重ね合わされ、
前記本体部は、前記直線部分から前記曲線部分にかけて連続的に前記吊込み部に縫着され、
前記吊込み部は、前記吊込み部材の前記本体部が折り返されないで前記吊込み部に沿って延びた状態で、前記パッドに固定され
、
前記吊込み部は、前記表皮を構成する隣接する2枚の表皮部分が縫着することによって形成され、
前記本体部が前記吊込み部に縫着される部分は、前記吊込み部における前記2枚の表皮部分が縫着される部分よりも当該吊込み部の長手方向に延びる端縁に近い側に位置し、
前記吊込み部材の前記本体部における前記第2縁の部分は、前記吊込み部の2枚の表皮部分の縫着部よりも上にあり、前記表皮における前記パッドに対向する側の面である前記曲線部分外側に位置する表皮部分に当接している、
シート
。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表皮の吊込み部が曲線部分を有するシート、およびシートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車などにおいて使用されるシートは、通常、特許文献1記載のシートのように、パッドの表面が表皮によって覆われた構造を有している。表皮は、パッドに向けて突出する吊込み部を有している。吊込み部は、シートの部位によっては曲線状に延びる曲線部分を有している。吊込み部は、吊込み部材によってパッド表面の溝の内部などに吊り込まれ、パッド内部のワイヤなどの係止部材にオームクリップなどの留具で固定されている。
【0003】
吊込み部材は、帯状に延びる本体部と、本体部の長手方向に延びる一方の縁に沿って取り付けられた曲げ剛性を有する剛性部とを有している。
【0004】
特許文献1記載の構造では、吊込み部材の本体部における長手方向に延びる他方の縁が表皮の吊込み部の端縁に合うように位置合わせされた状態で、本体部と吊り込み部とが縫い合わされた構造を採用している(例えば、
図14の模式図参照。なお、
図14では、36が吊込み部材、37が吊込み部、41が本体部(41aが他方の縁)、42が剛性部である。)
【0005】
この構造では、吊込み部材の本体部と表皮の吊込み部とが縫い合わされた状態で、吊込み部材の本体部を縫い合わせた部分で折り返して剛性部を表皮の吊り込み部から下方に離間させ、剛性部がパッド内部のワイヤなどの固定部に固定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1記載の構造は、吊込み部材の本体部における長手方向に延びる他方の縁が表皮の吊込み部の端縁に合うように位置合わせされた状態で、本体部と吊り込み部とが縫い合わされた構造を有している。そのため、吊込み部材の本体部を縫い合わせた部分で折り返して剛性部を表皮の吊り込み部から離間させた状態(同
図14参照)では、表皮の吊込み部の曲線部分において、吊込み部材の本体部の一方の縁に取り付けられた剛性部の周長が表皮の吊込み部の端縁の周長と合わなくなり、これらの周長の差によって、表皮にしわが発生するおそれがある。
【0008】
一方、しわの発生を防止するために、吊込み部の曲線部分だけ吊込み部材とは別のパーツ(伸び率の低い布など)を設けた場合には、シートの製造コストが高くなるとともに吊込み部材の取付作業における作業性の向上が困難である。
【0009】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであって、吊込み部の曲線部分における表皮のしわの発生を防ぐとともに製造コストを抑えながら吊込み部材の取付作業の作業性を向上することが可能なシートとその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明のシートは、パッドと、前記パッドの表面を覆う表皮であって、前記パッドに対向する側から当該パッドに近づく方向に突出する吊込み部を有する表皮と、前記吊込み部を前記パッドに固定する吊込み部材とを備え、前記吊込み部は、互いに連続する直線部分および曲線部分を有しており、前記吊込み部材は、長手方向に延びる第1縁および第2縁を有する帯状の本体部と、前記本体部よりも高い曲げ剛性を有し、かつ、前記本体部の前記第1縁に沿って取り付けられた線状の剛性部とを有しており、前記吊込み部材の前記本体部は、前記剛性部が前記吊込み部の長手方向に延びる端縁から外側に離間した位置で当該端縁に沿って平行に延びかつ前記本体部の前記第2縁の部分が前記表皮に重なった状態で、前記表皮の前記吊込み部に重ね合わされ、前記本体部は、前記直線部分から前記曲線部分にかけて連続的に前記吊込み部に縫着され、前記吊込み部は、前記吊込み部材の前記本体部が折り返されないで前記吊込み部に沿って延びた状態で、前記パッドに固定され、前記吊込み部は、前記表皮を構成する隣接する2枚の表皮部分が縫着することによって形成され、前記本体部が前記吊込み部に縫着される部分は、前記吊込み部における前記2枚の表皮部分が縫着される部分よりも当該吊込み部の長手方向に延びる端縁に近い側に位置し、前記吊込み部材の前記本体部における前記第2縁の部分は、前記吊込み部の2枚の表皮部分の縫着部よりも上にあり、前記表皮における前記パッドに対向する側の面である前記曲線部分外側に位置する表皮部分に当接していることを特徴とする。
【0011】
かかる構成では、吊込み部材の本体部は、剛性部が吊込み部の長手方向に延びる端縁から外側に離間した位置で当該端縁に沿って平行に延びかつ本体部の第2縁の部分が表皮に重なった状態で、表皮の前記吊込み部に重ね合わされている。しかも、本体部は、直線部分から曲線部分にかけて連続的に前記吊込み部に縫着されている。そして、吊込み部は、前記吊込み部材の前記本体部が折り返されないで前記吊込み部に沿って延びた状態で、前記パッドに固定されている。
【0012】
そのため、この構成では、吊込み部の曲線部分において、吊込み部材における曲げ剛性が高い剛性部が曲げられて吊込み部の長手方向に延びる端縁から外側に離間した位置で当該端縁に平行に延びる状態を維持しながら、吊込み部材の本体部が吊込み部に前記直線部分から前記曲線部分にかけて連続的に縫着される。また、吊込み部材の本体部における第2縁の部分は、吊込み部の2枚の表皮部分の縫着部よりも上にあり、表皮におけるパッドに対向する側の面である曲線部分外側に位置する表皮部分に当接している。これにより、吊込み部の曲線部分では、復元力が剛性部に生じている。この剛性部の復元力によって、剛性部が吊込み部の端縁の周長と一致した状態を維持しながら、吊込み部の2枚の表皮部分の縫着部よりも上にある吊込み部の本体部の第2縁の部分を介して表皮をパッドから離れる方向へ押し上げる。これにより、表皮は、吊込み部の曲線部分において外方へ張り出した立体形状になり、表皮のしわの発生を防ぐことが可能である。
【0013】
また、上記の構成では、表皮の吊込み部における直線部分から曲線部分にかけて1つの吊込み部材を連続的に縫着するだけでよいので、従来のように吊込み部の曲線部分だけ吊込み部材とは別のパーツを設ける必要が無い。そのため、製造コストを抑えながら吊込み部材の取付作業の作業性を向上することが可能になる。
【0014】
また、上記のシートでは、前記吊込み部は、前記表皮を構成する隣接する2枚の表皮部分が縫着することによって形成され、前記本体部が前記吊込み部に縫着される部分は、前記吊込み部における前記2枚の表皮部分が縫着される部分よりも当該吊込み部の長手方向に延びる端縁に近い側に位置している。
【0015】
かかる構成では、表皮の吊込み部において2か所の縫着部分が存在してもこれらの縫着部分の位置が異なるので、シートの外観を損ねるおそれが抑制される。
【0016】
さらに、上記のシートでは、前記吊込み部材の前記本体部における前記第2縁の部分は、吊込み部の2枚の表皮部分の縫着部よりも上にあり、前記表皮における前記パッドに対向する側の面である曲線部分外側に位置する表皮部分に当接している。
【0017】
かかる構成では、吊込み部材の本体部が表皮を外方へ押し出す効果を確実に発揮することが可能であり、吊込み部の曲線部分における表皮のしわの発生を確実に防ぐことが可能である。
【発明の効果】
【0024】
本発明のシートおよびその製造方法によれば、吊込み部の曲線部分における表皮のしわの発生を防ぐとともに製造コストを抑えながら吊込み部材の取付作業の作業性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明のシートの実施形態に係る自動車用シートのシートバックを概略的に示す斜視図である。
【
図2】(a)は
図1の表皮の吊込み部が吊込み部材によってパッドに固定される状態を示す断面説明図、(b)は(a)の吊込み部近傍の拡大断面図である。
【
図3】(a)は
図1の吊込み部材の全体斜視図、(b)は(a)の吊込み部材の端部の拡大図である。
【
図4】本発明のシートの製造方法の実施形態における吊込み部材の本体部を表皮の吊込み部に縫着する縫着工程を示す斜視説明図である。
【
図5】
図4の縫着工程後に、表皮の吊込み部を吊込み部材を介してバッドの溝に固定する表皮取付け工程を示す斜視説明図である。
図2の吊込み部に
図3の保持部材が固着された状態を示す斜視説明図である。
【
図6】
図5に対応する吊込み部の曲線部分および吊込み部材をパッドの溝に固定する工程を示す斜視説明図である。
【
図7】
図6の吊込み部材の剛性部をパッドの溝内部のワイヤなどの固定用線材にオームクリップなどの留具を用いて固定する工程を示す斜視説明図である。
【
図8】本発明のシートの製造方法の縫着工程によって吊込み部の曲線部分に吊込み部材が縫着された状態を簡単なサンプルで示した説明図である。
【
図10】
図9の断面図における寸法関係を示す断面説明図である。
【
図11】(a)は比較例として従来のシートにおける表皮の吊込み部が吊込み部材によってパッドに固定される状態を示す断面図、(b)は(a)の吊込み部近傍の拡大断面図である。
【
図12】比較例として従来のシートにおける表皮の吊込み部を吊込み部材を介してバッドの溝に固定する状態を示す斜視図である。
【
図13】比較例として従来のシートにおける吊込み部の曲線部分に吊込み部材が縫着されることによってしわが発生している状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、添付図面を参照しながら本発明の好ましい実施の一形態について詳述する。
【0027】
本発明のシートの一実施形態である自動車用シート1は、
図1に示されるように、着座者の背部を支持するシートバックを備えている。シートバックは、
図1~2に示されるように、パッド2と、パッド2の表面を覆う表皮3と、吊込み部材6とを備えている。
【0028】
パッド2は、ウレタンなどの発泡樹脂により製造された軟質の部材である。パッド2は、平面部2aおよび曲面部2bを有する。平面部2aは、シート1の着座者の背部を支持する部分である。曲面部2bは、平面部2aの周囲(
図2の右側)に互いに連続する山形に盛り上がった部分である。
【0029】
また、パッド2の平面部2aおよび曲面部2bとの間には、それぞれ、表皮3の吊込み部7が固定される凹部として、溝5が連続して形成されている。
【0030】
表皮3は、天然皮革や合成皮革またはファブリックなどから成る一層または、不織布、発泡樹脂層などから成る二層以上の膜状体からなる部材である。具体的には、表皮3は、
図2(a)、(b)に示されるように、パッド2の平面部2aおよび曲面部2bの表面を隙間なく覆うように、これら平面部2aおよび曲面部2bの表面形状に対応する形状を有する複数の表皮部分3a、3bを有する。
【0031】
表皮3は、隣接する表皮部分3a、3bの端部同士が縫着(
図2(b)の縫着部8参照)などによって互いに接合することにより形成されている。隣接する表皮部分3a、3bの端部同士が縫着部8によって接合された部分が吊込み部7を形成する。いいかえれば、表皮3は、パッド2に対向する側(
図2(a)、(b)における下側)から当該パッド2に向けて突出するとともに当該パッド2に固定される(引き込まれる)吊込み部7を有する。
【0032】
吊込み部7は、互いに連続する直線部分(例えば、
図1の範囲Aにおける上下方向に延びる部分)および曲線部分(例えば、
図1の範囲Bにおける略L字状に湾曲している2か所の部分)を有している。したがって、
図1に示される吊込み部7の全体形状は、逆U字状になる。
【0033】
また、パッド2の溝5も、上記の吊込み部7の全体形状に対応するように、逆U字状状(すなわち、直線部分および曲線部分をそれぞれ一対有する形状)を有する。
【0034】
吊込み部材6は、吊込み部7をパッド2に向けて吊り込むことにより、当該吊込み部7をパッド2に固定することが可能な構成を有する。
【0035】
具体的には、
図3(a)、(b)に示されるように、吊込み部材6は、帯状の本体部11と、本体部11の長手方向に延びる一方の縁(すなわち、
図9~10の長手方向に延びる下側の第1縁11b)に沿って取り付けられた線状の剛性部12とを有している。
【0036】
剛性部12は、吊込み部材6が吊込み部7に取り付けられる前の初期状態では、
図3(b)のような直線状または吊込み部7の曲線部分(
図1の範囲B)よりも緩やかな曲線状に延びる形状を有している。剛性部12の曲げ剛性は、本体部11の曲げ剛性よりも高く設定されている。
【0037】
なお、本体部11および剛性部12は、これらの条件を満たせばいかなる材料で製造してもよい。したがって、例えば、帯状の本体部11および円柱状の剛性部12を合成樹脂などで一体形成してもよい。また、本体部11を樹脂で成形し、剛性部12を金属線材などで製造して本体部11の第1縁11bに熱溶着や接着などによって固定してもよい。
【0038】
図3(a)、(b)に示されるように、吊込み部材6の本体部11は、剛性部12が吊込み部7の長手方向に延びる端縁7aから外側に離間した位置で当該端縁7aに平行に延びる(
図4参照)とともに本体部11の上側の第2縁11a(
図9~10参照)(すなわち、剛性部12の取り付けられた下側の第1縁11bと反対側の上側の縁)の部分が表皮3に重なった状態で、表皮3の吊込み部7に重ね合わされている。
【0039】
この吊込み部材6の本体部11は、
図2(b)および
図4に示されるように、表皮3の吊込み部7の直線部分(
図1の範囲A)から曲線部分(
図1の範囲B)にかけて連続的に吊込み部7に縫着されて縫着部9を形成している。
【0040】
吊込み部7は、上記のように、表皮3を構成する隣接する2枚の表皮部分3a、3bが縫着することによって形成されている。
【0041】
吊込み部材6の本体部11が吊込み部7に縫着される縫着部9は、吊込み部7における2枚の表皮部分3a、3bが縫着される縫着部8よりも当該吊込み部7の長手方向に延びる端縁7a(
図5および
図10)に近い側(
図2および
図9~10における下側)に位置している。
【0042】
図9~10に示されるように、吊込み部材6の本体部11における上側の第2縁11aの部分は、表皮3におけるパッド2に対向する側の面に当接している(具体的には、縫着部8を介して表皮部分3bに当接している)。
【0043】
吊込み部7は、吊込み部材6の本体部11が折り返されないで吊込み部7に沿って延びた状態で、パッド2に固定されている。
【0044】
(シート1の製造方法の説明)
上記のように構成されたシート1は、以下のようにして製造される。
【0045】
まず、
図4に示されるミシンMなどを用いて、表皮3を構成する複数の表皮部分3a、3bの端部同士を縫着部8のように縫着する。これにより、表皮3にはパッド2側に突出する吊込み部7が形成される(吊込み部形成工程)。
【0046】
ついで、表皮3の吊込み部7に吊込み部材6の本体部11を縫着する(縫着工程)。吊込み部材6としては、本体部11が同一の幅で直線的に延びる形状を有するものが使用される。
【0047】
吊込み部材6の縫着工程は、具体的には、
図4に示されるように、吊込み部材6の剛性部12を吊込み部7の長手方向に延びる端縁7aから所定距離(例えば、
図4および
図10に示される端縁7aと剛性部12の下端12a(遠位端)までの距離D1)だけ外側に離間した状態を維持するとともに本体部11の上側の第2縁11aの部分を表皮3に重ねながら、本体部11を直線部分から曲線部分にかけて連続的に吊込み部7に縫着する。
【0048】
この縫着工程において、縫着治具を用いて、剛性部12を吊込み部7の長手方向に延びる端縁7aから所定距離だけ外側に離間した状態を維持するように、剛性部12を保持しながら吊込み部材6の本体部11を吊込み部7に縫着するようにするのが好ましい。
【0049】
縫着治具についての形状については本発明ではとくに限定しないが、本体部11を直線部分から曲線部分にかけて連続的に吊込み部7に縫着している作業中(具体的には、
図4のミシンMを用いた縫製作業時に吊込み部7および吊込み部材6が同時に直線的に送り出される移動中)に剛性部12を吊込み部7の端縁7aから所定距離だけ外側に離間した状態に維持することが可能な構成であればよい。
【0050】
この縫着工程によって、1つの吊込み部材6を、表皮3の吊込み部7の直線部分(
図1の範囲Aおよび
図5)および曲線部分(
図1の範囲Bおよび
図6~7)に連続して縫着することが可能である。縫着後の吊込み部材6は、吊込み部7の形状(すなわち
図1の吊込み部7の逆U字状)に対応するように、直線的に延びる初期状態の形状から
図3(a)に示される逆U字状に変形する。
【0051】
縫着工程の後、
図5~7に示されるように、表皮3の吊込み部7に縫着された吊込み部材6をパッド2の溝5の直線部分および曲線部分にそれぞれ挿入する。そして、
図7に示されるように、吊込み部材6の下端の剛性部12を、オームクリップなどの留具22を用いて、溝5内部のワイヤなどの固定用線材21に固定する。この作業では、
図5に示されるようなオームクリップによる締結を行うホグリンガHなどの道具が用いられる。この固定作業により、表皮3の吊込み部7は、吊込み部材6を介してパッド2の溝5に固定される。その結果、吊込み部7がその全長(または必要な長さ)にわたってパッド2に固定された状態で、表皮3をパッド2の表面に取り付けることが可能である(表皮取付け工程)。これにより、シート1の製造が完了する。
【0052】
なお、近年では、パッド2の溝5の深さが浅くなる傾向であり、溝5の深さに対応して、吊込み部材6の本体部11の幅を狭くすることが要求されているが、上記のシート1の構成では、吊込み部材6を表皮3の吊込み部7に突き合わせる形(すなわち、あらかじめ剛性部12を吊込み部7の端縁7aから所定距離だけ外側に離間した状態)で縫着しているので、本体部11および剛性部12が外部から視認しやすいので、剛性部12をパッド2の溝5内部の固定用線材21に留具22で固定する作業を容易に行うことが可能である。
【0053】
(本実施形態の特徴)
(1)
本実施形態のシート1では、
図2(a)、(b)に示されるように、吊込み部材6の本体部11は、剛性部12が吊込み部7の長手方向に延びる端縁7aから外側に離間した位置で当該端縁7aに沿って平行に延びかつ本体部11の上側の第2縁11aの部分が表皮3に重なった状態で、表皮3の吊込み部7に重ね合わされている。しかも、本体部11は、吊込み部7の直線部分から曲線部分にかけて連続的に吊込み部7に縫着されている。そして、吊込み部7は、吊込み部材6の本体部11が折り返されないで吊込み部7に沿って延びた状態で、パッド2に固定されている。
【0054】
そのため、この構成では、吊込み部7の曲線部分において、吊込み部材6における曲げ剛性が高い剛性部12が曲げられて吊込み部7の長手方向に延びる端縁7aから外側に離間した位置で当該端縁7aに平行に延びる状態を維持しながら、吊込み部材6の本体部11が吊込み部7に直線部分から曲線部分にかけて連続的に縫着される。
また、吊込み部材6の本体部11における第2縁11aの部分は、吊込み部7の2枚の表皮部分3a、3bの縫着部8よりも上にあり、表皮3におけるパッド2に対向する側の面である曲線部分外側に位置する表皮部分3bに当接している。これにより、吊込み部7の曲線部分では、復元力が剛性部12に生じている。この剛性部12の復元力によって、剛性部12が吊込み部7の端縁7aの周長と一致した状態を維持しながら、
吊込み部の2枚の表皮部分3a、3bの縫着部8よりも上にある吊込み部7の本体部11の上側の第2縁11aの部分を介して表皮3をパッド2から離れる方向へ押し上げる(
図9の表皮3を押し上げる力Fを参照)。これにより、表皮3は、
図8に示されるように、吊込み部7の曲線部分において外方へ張り出した立体形状になり、表皮3のしわの発生を防ぐことが可能である。
【0055】
また、上記の構成では、表皮3の吊込み部7における直線部分から曲線部分にかけて1つの吊込み部材6を連続的に縫着するだけでよいので、従来のように吊込み部7の曲線部分だけ吊込み部材6とは別のパーツを設ける必要が無い。そのため、製造コストを抑えながら吊込み部材6の取付作業の作業性を向上することが可能になる。
【0056】
(2)
さらに具体的に言えば、本実施形態のシート1では、吊込み部材6は、本体部11の長手方向に延びる下側の第1縁11bに剛性部12が取り付けられた構成において、本体部11が表皮3の吊込み部7の直線部分(
図1の範囲A)から曲線部分(
図1の範囲B)にかけて連続的に吊込み部7に縫着されていることにより、表皮3の吊込み部7が表皮3の本体部分(具体的には、曲線部分外側に位置する表皮部分3b)に対し起き上がり、吊込み部材6の本体部11の上側の第2縁11aの部分が表皮3の裏側から表皮3を持ち上げることにより、表皮3の仕上がりが外側に張り出した立体形状となる。これによって、表皮3のしわが抑制されてシートの外観が向上する。
【0057】
しかも、吊込み部材6の本体部11の下側の第1縁11bに剛性部12が取り付けられており、剛性部12を表皮3の吊込み部7の端縁7aに平行に延びるように外側に離間させることによって、吊込み部材6を吊込み部7に対して正確に位置決めすることが可能になる。
【0058】
(3)
また、吊込み部材6の本体部11は、剛性部12が吊込み部7の長手方向に延びる端縁7aから外側に離間した位置で当該端縁7aに沿って平行に延びかつ本体部11の上側の第2縁11a(すなわち、剛性部12の取り付けられた下側の第1縁11bと反対側の縁)の部分が表皮3に重なった状態で、表皮3の吊込み部7に重ね合わされている。この構成では、吊込み部材6を折り返す構造でないため、製造公差、寸法ばらつきが小さくなる。
【0059】
例えば、
図10のように、剛性部12が吊込み部7の端縁7aから所定距離D1だけ外側に離間した位置で平行に延びる位置関係で、吊込み部材6の本体部11が吊込み部7に直線部分から曲線部分にかけて連続的に縫着されている。したがって、製造公差の基準となる距離D2(すなわち、表皮3の表皮部分3a、3b同士の縫着部8から剛性部12の下端(遠位端)12aまでの距離)は、距離D1の公差に依存し、しかも距離D1は縫着工程時に厳密に管理されていることを考慮すれば、当該基準距離D2の製造公差を小さくすることが可能である。
【0060】
以上のように本実施形態のシート1では、吊込み部7の曲線部分に吊込み部材6を取り付けるために、従来のような処理(例えば、曲線部分だけ別パーツを取り付けるなど)を施すことなく、1本の吊込み部材6を表皮3の吊込み部7に連続的に縫着することが可能であり、縫着作業の作業性が向上する。
【0061】
しかも、吊込み部材6の剛性部12が表皮3の吊込み部7の固定方向(
図9~10における下方)を向いているため、吊込み部材6の本体部11を折り返す手間が省けて組付け作業性が向上する。
【0062】
(4)
本実施形態のシート1では、
図2(a)、(b)に示されるように、吊込み部7は、表皮3を構成する隣接する2枚の表皮部分3a、3bが縫着することによって形成されている。吊込み部材6の本体部11が吊込み部7に縫着される縫着部9は、吊込み部7における2枚の表皮部分3a、3bが縫着される縫着部8よりも当該吊込み部7の長手方向に延びる端縁7a(
図10参照)に近い側に位置している。
【0063】
この構成では、表皮3の吊込み部7において2か所の縫着部8、9が存在してもこれらの縫着部の位置が異なるので、シート1の外観を損ねるおそれが抑制される。すなわち、縫着する位置が同じ場合では、シート1の外観を損ねるおそれがあり、例えば、表皮3が革の場合、縫着時の針穴が多数開くおそれがあり、表皮3が織物など布の場合には、縫着時に針が貫通する際に織り糸を切り、切れた織糸がシート1の表面に飛び出してシート1の外観を損ねるおそれがあり、これらシート1の外観を損ねる可能性は高い(具体的には、上記の構成の場合の損傷の可能性よりも約2倍となる)と考えられるが、上記の構成ではこれらシート1の外観を損ねるおそれが抑制される。
【0064】
(5)
本実施形態のシート1では、
図9~10に示されるように、吊込み部材6の本体部11における上側の第2縁11aの部分
は、吊込み部7の2枚の表皮部分3a、3bの縫着部8よりも上にあり、表皮3におけるパッド2に対向する側の面
である曲線部分外側に位置する表皮部分3bに当接している。これにより、吊込み部材6の本体部11が表皮3を外方へ押し出す効果を確実に発揮することが可能であり、吊込み部7の曲線部分における表皮3のしわの発生を確実に防ぐことが可能である。
【0065】
なお、
図9~10では、縫着部8を介して表皮部分3bに当接している状態が示されているが、表皮部分3bに直接当接してもよい。
【0066】
(6)
本実施形態のシート1の製造方法は、上記の構成のシート1を製造するために、吊込み部材6の剛性部12を吊込み部7の長手方向に延びる端縁7aから所定距離だけ外側に離間した状態を維持するとともに吊込み部材6の本体部11の上側の第2縁11aの部分を表皮3に重ねながら、本体部11を直線部分から曲線部分にかけて連続的に吊込み部7に縫着する縫着工程と、吊込み部材6の本体部11が折り返されないで吊込み部7に沿って延びた状態で、吊込み部7をパッド2に固定することにより、表皮3をパッド2に取り付ける表皮取付け工程とを含むことを特徴としている。
【0067】
この製造方法では、吊込み部材6の剛性部12を表皮3の吊込み部7の長手方向に延びる端縁7aから所定距離だけ外側に離間した状態を維持するとともに吊込み部材6の本体部11の上側の第2縁11aの部分を表皮3に重ねることにより、剛性部12を吊込み部7の長手方向に延びる端縁7aと平行な状態に維持しながら、吊込み部材6の本体部11を直線部分から曲線部分にかけて連続的に吊込み部7に縫着することが可能である。これにより、剛性部12を吊込み部7の曲線部分に追随して変形させながら吊込み部材6の本体部11を直線部分から曲線部分にかけて連続的に吊込み部7に縫着することが可能になる。その結果、表皮3の吊込み部7における直線部分から曲線部分にかけて1つの吊込み部材6を連続的に縫着する作業を確実に行うことが可能になる。その結果、上記のしわの発生を抑制したシート1の製造コストを抑えながら吊込み部材6の取付作業の作業性を向上することが可能になる。
【0068】
(7)
さらに具体的に言えば、本実施形態のシートの製造方法では、上記の縫着工程において、吊込み部材6の剛性部12を吊込み部7の長手方向に延びる端縁7aから所定距離だけ外側に離間した状態を維持するとともに吊込み部材6の本体部11の第2縁11aの部分を表皮3に重ねるので、吊込み部材6を折り返す作業が必要ないので、製造公差、寸法ばらつきが小さくなる。したがって、吊込み部7の曲線部分に吊込み部材6を取り付けるために、従来のような処理を施すことなく、1本の吊込み部材6を表皮3の吊込み部7に連続的に縫着することが可能であり、縫着作業の作業性が向上する。しかも、吊込み部材6の剛性部12を表皮3の吊込み部7の固定方向(
図9~10における下方)を向くように位置決めするため、吊込み部材6の本体部11を折り返す手間が省け、組み付け作業性が向上する。
【0069】
また、上記の縫着工程では、吊込み部材6の剛性部12を吊込み部7の長手方向に延びる端縁7aから所定距離だけ外側に離間した状態を維持するとともに吊込み部材6の本体部11の第2縁11aの部分を表皮3に重ねながら、本体部11を直線部分から曲線部分にかけて連続的に吊込み部7に縫着することにより、吊込み部7の曲線部分では、剛性部12に生じる復元力によって、剛性部12が吊込み部7の端縁7aの周長と一致した状態を維持しながら、吊込み部7の本体部11の上側の第2縁11aの部分を介して表皮3をパッド2から離れる方向へ押し上げる(
図9の表皮3を押し上げる力Fを参照)。これにより、表皮3は、
図8に示されるように、吊込み部7の曲線部分7bにおいて外方へ張り出した立体形状になり、表皮3のしわの発生を防ぐことが可能である。しかも、吊込み部材6の本体部11の長手方向に延びる第1縁11bに取り付けられた剛性部12を表皮3の吊込み部7の端縁7aから所定距離だけ外側に離間させることによって、吊込み部材6を吊込み部7に対して正確に位置決めすることが可能になる。
【0070】
また、この製造方法では、吊込み部材6の本体部11は、表皮3の吊込み部7の幅に関わらず、一定の幅で吊込み部7に縫製されるよう位置決めされる。したがって、吊込み部材6の本体部11の幅を表皮3の吊込み部7の幅に合わせて変更する必要がないため、本体部11の幅を統一させて吊込み部材6を共通化することが可能である。これにより、製造コストを低減することが可能である。
【0071】
また、本実施形態の吊込み部材6は、従来の吊込み部材(例えば、
図11~15に示される本体部41を折り返して用いる吊込み部材36)と比較して、本体部11の幅をより狭くすることが可能であり、この点についても製造コストの低減を図ることが可能になる。
【0072】
(8)
本実施形態のシート1の製造方法では、吊込み部材6として、本体部11が同一の幅で直線的に延びる形状を有するものを使用する。これにより、吊込み部材6を吊込み部7に縫着する前にあらかじめ吊込み部7の曲線部分に沿った形状に加工する必要がなく、製造コストを抑えることが可能である。
【0073】
(9)
本実施形態のシート1の製造方法では、縫着工程において、縫着治具を用いて、剛性部12を吊込み部7の長手方向に延びる端縁7aから所定距離だけ外側に離間した状態を維持するように、剛性部12を保持しながら吊込み部材6の本体部11を吊込み部7に縫着する。
【0074】
この特徴では、縫着工程において、縫着治具を用いて吊込み部材6の剛性部12を吊込み部材6の端縁7aから所定距離だけ外側に離間した状態で保持するので、吊込み部材6あるいは吊込み部7のいずれかに吊込み部材6の位置決め用の目印を設ける作業が不要になり、製造コストを低減することが可能である。
【0075】
(比較例との対比説明)
以下、上記の本実施形態のシート1の構成との比較例として、従来のシートの構造について
図11~15を参照しながら、本実施形態と比較例との対比説明をする。
【0076】
図11~15に示される比較例としての従来のシートの構造は、溝35を有するパッド32と、吊込み部37を有する表皮33と、吊込み部材36とを有する点、および吊込み部材36が本体部41および剛性部42を有する点では、上記実施形態の
図2(a)、(b)に示されるシート1の構造と共通する。
【0077】
ただし、
図11~15の比較例の構造は、以下の相違点(i)~(iii)で本実施形態とは異なる。
(i)
図11~15の比較例では、吊込み部材36の本体部41の長手方向に延びる縁41a(剛性部42と反対側の縁)が吊込み部37の端縁37aと一致するように位置合わせされているが、本実施形態では吊込み部7の端縁7a(
図4および
図10)と剛性部12とが所定距離D1だけ外側に離間するように位置合わせされている点で異なる。
(ii)
図11~15の比較例では、吊込み部材36の本体部41が吊込み部37に縫着される縫着部39の位置が表皮33の表皮部分33a、33b同士の縫着部38と一致しているが、本実施形態では、吊込み部材6の本体部11が吊込み部7に縫着される縫着部9(
図2および
図9~10)の位置が表皮3の表皮部分3a、3b同士の縫着部8よりも吊込み部7の端縁7aに近い側(下側)にずれている点で異なる。
(iii)
図11~15の比較例では、吊込み部材36の本体部41は吊込み部37に縫着された後に縫着部39の位置で折り返されて剛性部42がパッド32の溝35内部に固定されているが、本実施形態では、
図2に示されるように、吊込み部材6の本体部11は吊込み部7に縫着された後は折り返されておらず、本体部11は吊込み部7と平行に延びた状態で剛性部12がパッド2の溝5の内部に固定されている点で異なる。
【0078】
上記の相違点(i)~(iii)により、本実施形態では、上記の(本実施形態の特徴)の(1)のように、吊込み部7の曲線部分において、吊込み部材6における曲げ剛性が高い剛性部12が曲げられて吊込み部7の長手方向に延びる端縁7aから外側に離間した位置で当該端縁7aに平行に延びる状態を維持しながら、吊込み部材6の本体部11が吊込み部7に直線部分から曲線部分にかけて連続的に縫着されることにより、吊込み部7の曲線部分では、復元力が剛性部12に生じている。この剛性部12の復元力によって、剛性部12が吊込み部7の端縁7aの周長と一致した状態を維持しながら、吊込み部7の本体部11の第2縁11aの部分を介して表皮3をパッド2から離れる方向へ押し上げる(
図9の表皮3を押し上げる力Fを参照)。これにより、表皮3は、
図8に示されるように、吊込み部7の曲線部分7bにおいて外方へ張り出した立体形状になり、表皮3のしわの発生を防ぐことが可能である。
【0079】
一方、
図11~15の比較例では、吊込み部37の曲線部分では、吊込み部37の周長と吊込み部材36の本体部41の縁41a(剛性部42と反対側の縁)の周長とは一致するが、吊込み部37の周長と剛性部42との周長とは一致しなくなる。そのため、表皮33をパッド32から離れる方向へ押し上げる力は発生せず、表皮3は、
図13に示されるように、吊込み部37の曲線部分37bにおいてしわCが発生し、本実施形態のように表皮3のしわの発生を防ぐことは不可能である。
【0080】
また、本実施形態の構成では、表皮3の吊込み部7における直線部分から曲線部分にかけて1つの吊込み部材6を連続的に縫着するだけでよいので、従来のように吊込み部7の曲線部分だけ吊込み部材6とは別のパーツを設ける必要が無い。そのため、製造コストを抑えながら吊込み部材6の取付作業の作業性を向上することが可能になる。しかし、
図11~15の比較例では、吊込み部37の曲線部分37bにしわの発生を防ぐために、別のパーツを設ける必要があり、製造コストの抑制および吊込み部材36の取付作業の作業性の向上が不可能である。
【0081】
また、本実施形態では、上記の(本実施形態の特徴)の(3)のように、吊込み部材6の本体部11は、剛性部12が吊込み部7の長手方向に延びる端縁7aから外側に離間した位置で当該端縁7aに沿って平行に延びかつ本体部11の第2縁11a(すなわち、剛性部12の取り付けられた第1縁11bと反対側の縁)の部分が表皮3に重なった状態で、表皮3の吊込み部7に重ね合わされているので、吊込み部材6を折り返す構造でないため、製造公差、寸法ばらつきが小さくなる。一方、
図11~15の比較例では、吊込み部材36を折り返す構造であるため、製造公差、寸法ばらつきが大きくなる。例えば、
図15に示される比較例における製造公差の基準となる距離D3(すなわち、表皮33の表皮部分33a、33b同士の縫着部38から剛性部42の下端(遠位端)42aまでの距離)は、折り返されている本体部41の全長に依存しているので、当該基準距離D3の製造公差を小さくすることは困難であり、製造公差、寸法ばらつきが大きくなる。
【0082】
また、本実施形態では、上記の(本実施形態の特徴)の(4)のように、表皮3の吊込み部7において2か所の縫着部8、9が存在してもこれらの縫着部の位置が異なるので、シート1の外観を損ねるおそれが抑制されるが、
図11~12の比較例では、表皮33の吊込み部37において2か所の縫着部38、39の位置が一致しているので、シートの外観を損ねるおそれがある。
【0083】
さらに、本実施形態では、上記の(本実施形態の特徴)の(7)のように、吊込み部材6を折り返す作業が必要ないので、吊込み部材6の正確な位置決めが可能であり、製造公差、寸法ばらつきが小さくなるとともに、1本の吊込み部材6を表皮3の吊込み部7に連続的に縫着することが可能であり、縫着作業の作業性が向上する。しかも、吊込み部材6の剛性部12を表皮3の吊込み部7の吊り込まれる方向(
図9~10における下方)を向くように位置決めするため、吊込み部材6の本体部11を折り返す手間が省け、組み付け作業性が向上する。一方、
図11~15の比較例では、吊込み部材36を折り返す作業が必要であり手間がかかるとともに、吊込み部材36の正確な位置決めができないので、製造公差、寸法ばらつきが大きくなる。しかも、1本の吊込み部材36を表皮33の吊込み部37に連続的に縫着することができず、吊込み部37の曲線部分では別パーツが必要であり、縫着作業の作業性の向上が難しい。
【0084】
また、本実施形態の製造方法では、吊込み部材6の本体部11は、表皮3の吊込み部7の幅に関わらず、一定の幅で吊込み部7に縫製されるよう位置決めされる。したがって、吊込み部材6の本体部11の幅を表皮3の吊込み部7の幅に合わせて変更する必要がないため、体部11の幅を統一させて吊込み部材6を共通化することが可能である。これにより、製造コストを低減することが可能である。一方、
図11~15の比較例では、表皮33の吊込み部37の幅に対応する幅の本体部41を有する吊込み部材36が必要であるので、吊込み部材36の共通化は不可能であり、製造コストの低減は難しい。
【符号の説明】
【0085】
1 シート
3 表皮
3a、3b 表皮部分
6 吊込み部材
7 吊込み部
8 表皮部分同士の縫着部
9 本体部を吊込み部に縫着する縫着部
11 本体部
11a 第2縁
11b 第1縁
12 剛性部