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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-27
(45)【発行日】2023-12-05
(54)【発明の名称】前段階の精巣胚細胞腫瘍の早期発見
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6851 20180101AFI20231128BHJP
   C12Q 1/686 20180101ALI20231128BHJP
   C12Q 1/6886 20180101ALI20231128BHJP
【FI】
C12Q1/6851 Z ZNA
C12Q1/686 Z
C12Q1/6886 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019521755
(86)(22)【出願日】2017-11-02
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-11-14
(86)【国際出願番号】 EP2017078079
(87)【国際公開番号】W WO2018083186
(87)【国際公開日】2018-05-11
【審査請求日】2020-10-21
【審判番号】
【審判請求日】2022-03-30
(31)【優先権主張番号】16196813.6
(32)【優先日】2016-11-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】517376779
【氏名又は名称】ミーアディテクト ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100088904
【弁理士】
【氏名又は名称】庄司 隆
(72)【発明者】
【氏名】シュピーケルマン,マイケ
(72)【発明者】
【氏名】ヴィンター,ニーナ
(72)【発明者】
【氏名】ベルジュ,ガザンフェル
(72)【発明者】
【氏名】ラドック,アルロ
【合議体】
【審判長】長井 啓子
【審判官】加々美 一恵
【審判官】高堀 栄二
(56)【参考文献】
【文献】Endocrine-Related Cancer、2012年、Vol.19、P365-379
【文献】ANDROLOGY、2015年、Vol.3、P.78-84
【文献】Analytical Biochemistry、2016年3月、V.501、P.66-74
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q1/00-3/00
C12N15/00-15/90
UNIPLOT/GENESEQ
SWISSPROT/GENESEQ
JSTPLUS/JMEDPLUS/JST7580(JDreamIII)
CAPLUS/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
得られた血清から精巣上皮内腫瘍(TIN)を検出する方法であって、該方法は、該血清中のmiR-371a-3pの発現レベルを測定することを含み、ここで、前記miR-371a-3pの発現レベルが前記TINの有無の指標であって、
前記方法は、
(i)前記血清から単離/取得されたcDNAを含むバッチAを準備する工程であって、
ここで、工程(i)が、
(ia)前記血清からRNAを単離する工程と、
(ib)工程(ia)で単離された前記RNAをcDNAに変換し、それにより前記cDNAを含むバッチAを準備する工程と、
を含む、工程と、
(ii)工程(i)において準備されたバッチAの3つ以上のアリコートを準備して、該3つ以上のアリコートのそれぞれを用いて独立したポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を実施することで、miR-371a-3pを増幅させ、それにより前記増幅されたmiR-371a-3pを含む3つ以上のバッチBを準備する工程と、
(iii)
(a) 等量の前記3つ以上のバッチBを混合し、それによりバッチCを準備して、PCRベースのアプローチによってバッチCにおけるmiR-371a-3pのレベルを測定する工程であって、又は
(b) PCRベースのアプローチによって前記3つ以上のバッチBのそれぞれにおけるmiR-371a-3pのレベルを測定し、前記PCRベースのアプローチによって測定されたmiR-371a-3pの3つ以上のレベルの平均値を計算する工程であって、
ここで、工程(iii)(a)で測定された前記レベル又は工程(iii)(b)で計算された前記平均値が前記血清中のmiR-371a-3pの発現レベルに相当する、工程と、
を含
対照と比較して増加しているmiR-371a-3pの発現レベルは、前記TINの存在の指標である、方法。
【請求項2】
予め決定されたカットオフ値より高いmiR-371a-3pの発現レベルは、前記TINの存在の指標である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
工程(ii)において、バッチAの3つのアリコートを準備する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記PCRベースのアプローチは、定量的リアルタイムPCR(qRT-PCR)又はデジタルPCR(dPCR)である、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被験体において前段階の精巣胚細胞腫瘍、特に精巣上皮内腫瘍(TIN:testicular intraepithelial neoplasia)を検出する方法、及びTINの検出に対するバイオマーカーとしてのmiR-371a-3pの使用に関する。本発明は、更に、TINの検出に対する、miR-371a-3p特異的プライマー及び/又はmiR-371a-3p特異的プローブ、並びに対応するキットの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
精巣胚細胞癌は、年齢が20歳~45歳の若い男性において最も頻繁に生じる癌である。早期発見、適切な治療及び綿密なモニタリングによって、精巣癌からの回復の見込みは非常に良好であり、治療及びモニタリングの長期的効果は計り知れないが、精巣癌を再発する又は再燃に苦しむリスクは腫瘍のタイプ及びステージによっては最大31%となる可能性がある。精巣癌の発症に関する既知の危険因子として、家族歴及び潜在睾丸(停留睾丸)が挙げられ、精巣癌を発症するリスクを4倍に増加させる。
【0003】
精巣胚細胞癌は、「上皮内癌(carcinoma in situ:非浸潤性癌)(CIS)」、「分類不能の精細管内胚細胞腫瘍(IGCNU:intratubular germ cell neoplasia,unclassified)」及び「精巣上皮内腫瘍(TIN)」とも称される前駆病変である「非浸潤性胚細胞腫瘍(germ cell neoplasia in situ)(GCNIS)」から生じる(非特許文献1、非特許文献2)。TINは精巣胚細胞腫瘍の一定の前駆病変であり、精巣胚細胞癌が浸潤性となる何年も前から睾丸に存在する場合がある(非特許文献3)。前駆病変を持つ精巣の50%が5年以内に浸潤癌へと進行し、70%は7年以内に浸潤癌となる。TINを持つ睾丸の事実上ほとんど全てが最終的に癌を発症する(非特許文献4)。
【0004】
したがって、TINの早期発見及びその後の適切な治療は、浸潤性の精巣胚細胞癌の発症から患者を保護することができる可能性がある。
【0005】
これまでのところ、手術によってのみ患者の精巣組織中のTINを検出することができる。重大な疑いがなければ手術は行われないため、TINの検出はどちらかといえば無作為である。したがって、非侵襲的な、例えば血清に基づくTINの検出方法が必要とされている。
【0006】
miR-371-3クラスタのmiRNAは、元々は(originally)胚細胞腫(germ cell tumor)(GCT)組織で検出され(非特許文献5)、別々の研究によって高い血清レベルを確認した(非特許文献6、非特許文献7)。しかしながら、miR-371-3クラスタのmiRNAの(血清)発現レベルとTINとの間のつながりを確立する先の試みは失敗に終わった(非特許文献8、非特許文献9)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】Berney D.M. et al., 2016, Histopathology 69(1):7-10
【文献】Moch H. et al., 2016, Eur Urol 70(1):93-105
【文献】Dieckmann K.P. & Skakkebaek N.E., 1999, Int J Cancer 83(6):815-22
【文献】Skakkebaek N.E. et al., 1987, Int J Androl 10(1):19-28
【文献】Palmer R.D. et al., 2010, Cancer Res 70(7):2911-23
【文献】Dieckmann K.P. et al., 2012, Br J Cancer 107(10):1754-60
【文献】Gillis A.J. et al., 2013, Mol Oncol 7(6):1083-92
【文献】Spiekermann M. et al., 2014, Andrology 3(1):78-84
【文献】van Agthoven T. & Looijenga L.H., 2016, OncotargetDOI:10.18632/oncotarget.10867
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特定の検出方法(最初に国際出願PCT/EP2016/059604号に記載されている)を使用することによって、本発明者らは、ここに、初めて、特定のmiRNA miR-371a-3pの体液発現レベルが、TINの存在に関するバイオマーカーとしての役割を果たし、TIN患者と健康な個体とを区別することができることを示した。
【課題を解決するための手段】
【0009】
一態様においては、本発明は、被験体において精巣上皮内腫瘍(TIN)を検出する方法であって、該方法は、該被験体に由来する生体試料中のmiR-371a-3pの発現レベルを測定することを含み、ここで、miR-371a-3pの発現レベルが被験体におけるTINの有無の指標である、方法に関する。
【0010】
一実施の形態においては、上記方法は、
(i)生体試料から単離/取得されたcDNAを含むバッチAを準備する工程であって、
ここで、工程(i)が、
(ia)生体試料からRNAを単離する工程と、
(ib)工程(ia)で単離されたRNAをcDNAに変換し、それによりcDNAを含むバッチAを準備する工程と、
を含む、工程と、
(ii)工程(i)において準備されたバッチAの3つ以上のアリコートを準備して、該3つ以上のアリコートのそれぞれを用いて独立したポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を実施することで、miR-371a-3pを増幅させ、それにより増幅されたmiR-371a-3pを含む3つ以上のバッチBを準備する工程と、
(iii)等量の3つ以上のバッチBを混合し、それによりバッチCを準備して、PCRベースのアプローチによってバッチCにおけるmiR-371a-3pのレベルを測定する工程であって、
ここで、工程(iii)で測定されたレベルが生体試料中のmiR-371a-3pの発現レベルに相当する、工程と、
を含む。
【0011】
別の実施の形態においては、上記方法は、
(i)生体試料から単離/取得されたcDNAを含むバッチAを準備する工程であって、
ここで、工程(i)が、
(ia)生体試料からRNAを単離する工程と、
(ib)工程(ia)で単離されたRNAをcDNAに変換し、それによりcDNAを含むバッチAを準備する工程と、
を含む、工程と、
(ii)工程(i)で準備されたバッチAの3つ以上のアリコートを準備して、該3つ以上のアリコートのそれぞれを用いて独立したポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を実施することで、miR-371a-3pを増幅させ、それにより増幅されたmiR-371a-3pを含む3つ以上のバッチBを準備する工程と、
(iii)PCRベースのアプローチによって3つ以上のバッチBのそれぞれにおけるmiR-371a-3pのレベルを測定し、PCRベースのアプローチによって測定されたmiR-371a-3pの3つ以上のレベルの平均値を計算する工程であって、
ここで、工程(iii)で計算された平均値が生体試料中のmiR-371a-3pの発現レベルに相当する、工程と、
を含む。
【0012】
一実施の形態においては、対照と比較して増加しているmiR-371a-3pの発現レベルは、被験体におけるTINの存在の指標である。
【0013】
一実施の形態においては、予め決定されたカットオフ値より高いmiR-371a-3pの発現レベルは、被験体におけるTINの存在の指標である。
【0014】
一実施の形態においては、生体試料は、体液、組織、細胞、細胞溶解物及び細胞培養上清からなる群から選択される。
【0015】
一実施の形態においては、体液は、血清、血漿、精漿、水瘤液、精液瘤液、全血、尿、羊水、滲出液、痰、唾液及び脳脊髄液からなる群から選択される。
【0016】
一実施の形態においては、体液は血清である。
【0017】
一実施の形態においては、組織は、天然組織、急速凍結された組織及びホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)された組織からなる群から選択される。
【0018】
一実施の形態においては、工程(ii)において、バッチAの3つのアリコートを準備する。
【0019】
一実施の形態においては、PCRベースのアプローチは、定量的リアルタイムPCR(qRT-PCR)又はデジタルPCR(dPCR)である。
【0020】
別の態様においては、本発明は、精巣上皮内腫瘍(TIN)の検出に対するバイオマーカーとしてのmiR-371a-3pの使用に関する。
【0021】
一実施の形態においては、miR-371a-3pは、体液に基づくバイオマーカーとして使用され、ここで、体液は、上に定義される通りであることが好ましい。
【0022】
一実施の形態においては、miR-371a-3pは、血液に基づくバイオマーカー、特に、血清に基づくバイオマーカーとして使用される。
【0023】
別の態様においては、本発明は、精巣上皮内腫瘍(TIN)の検出に対する、少なくとも1つのmiR-371a-3p特異的プライマー及び/又はmiR-371a-3p特異的プローブの使用に関する
【0024】
別の態様では、本発明は、精巣上皮内腫瘍(TIN)を検出する方法における使用に対する少なくとも1つのmiR-371a-3p特異的プライマー及び/又はmiR-371a-3p特異的プローブに関し、ここで、該方法は、上に定義される通りであることが好ましい。
【0025】
別の態様では、本発明は、精巣上皮内腫瘍(TIN)の検出に対する、少なくとも1つのmiR-371a-3p特異的プライマー及び/又はmiR-371a-3p特異的プローブを備えるキットの使用に関する。
【0026】
一実施の形態においては、上記キットは、生体試料からRNAを単離する手段、及び/又は生体試料から単離されたRNAをcDNAに変換する手段を更に備える。
【0027】
一実施の形態においては、生体試料は、上に定義される体液である。一実施の形態においては、体液は血清である。
【0028】
別の態様では、本発明は、精巣上皮内腫瘍(TIN)を検出する方法における使用に対する上に定義されるキットに関し、ここで、該方法は、上に定義される通りであることが好ましい。
【0029】
更に別の態様では、本発明は、被験体において精巣上皮内腫瘍(TIN)を治療する、又は被験体において精巣癌、特に精巣胚細胞癌を予防する方法に関し、該方法は、(i)上に定義される方法によって被験体においてTINを検出することと、(ii)該被験体に対して治療法を提供することとを含み、ここで、該治療法は、放射線療法、睾丸摘出術及び/又は化学療法であることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】本発明による方法の概略図を示している(実施例1)。3回のqRT-PCRに引き続き、データの評価のために算術平均値を計算する。
図2】本発明による方法の概略図を示している(実施例2)。3回の独立した前増幅反応からの等量の混合物を用いて1回だけqRT-PCRを行って、データの評価のために測定平均値を得る。
図3】TINを有する18名の患者及び20名の対照における相対的なmiR-371a-3pの発現を示す図である。エラーバーは標準偏差を表し、y軸は対数目盛で表される。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明は、前後で詳細に記載されているが、本発明は、本明細書に記載される特定の方法論、プロトコル及び試薬に限定されるものではなく、これらは変更することができると理解されるべきである。また、本明細書で使用される用語は、単に特定の実施形態を説明するためのものであると理解されるべきであり、本発明の範囲を限定することを目的とするものではなく、本発明の範囲は、付属の特許請求の範囲によってのみ限定されることとなる。特に定義されない限り、本明細書で使用される全ての技術用語及び科学用語は、当業者によって通常理解されるのと同じ意味を有する。
【0032】
以下で、本発明の特定の構成要素を記載することとする。これらの構成要素は、特定の実施形態をもって列挙されることがあるが、それらの構成要素を、あらゆる様式及びあらゆる数において組み合わせることで、更なる実施形態を作り出すことができると理解されるべきである。様々に記載される例及び好ましい実施形態は、本発明を明示的に記載された実施形態のみに限定するものと解釈されるべきではない。この詳細な説明は、明示的に記載された実施形態と幾つもの開示された構成要素及び/又は好ましい構成要素とを合わせた実施形態をサポートし、かつ包含するものと理解されるべきである。さらに、本出願に記載される全ての構成要素のあらゆる並び替え及び組み合わせも、内容により特に指示されない限り、本出願の詳細な説明によって開示されるものと考慮されるべきである。
【0033】
好ましくは、本明細書で使用される用語は、「生物工学用語の多言語用語集(IUPAC推奨)(A multilingual glossary ofbiotechnological terms (IUPAC Recommendations))」、H.G.W. Leuenberger、 B. Nagel及びH.Koelbl編、Helvetica Chimica Acta、スイス、CH-4010バーゼル、(1995)に記載されるように定義される。
【0034】
本発明の実施では、特に示されない限り、当該分野での文献(例えば、モレキュラー・クローニング:研究室マニュアル(Molecular Cloning: A Laboratory Manual)、第3版、J. Sambrook他編、Cold Spring Harbor LaboratoryPress、Cold Spring Harbor 2000を参照)に説明される化学、生化学、細胞生物学、免疫学及び組換えDNA技術の慣用の方法が使用されることとなる。
【0035】
以降の本明細書及び特許請求の範囲全体を通じて、内容により特に必要とされない限り、用語「含む(comprise)」並びに「含む(comprises)」及び「含む(comprising)」等の別形は、示された要素、整数若しくは工程又は複数の要素、複数の整数若しくは複数の工程の群を包含することを意味するが、その他のあらゆる要素、整数若しくは工程又は複数の要素、複数の整数若しくは複数の工程の群を除外することを意味するものではないと理解されることとなるが、幾つかの実施形態においては、そのようなその他の要素、整数若しくは工程又は複数の要素、複数の整数若しくは複数の工程の群が排除されることがある、すなわち、その対象は、示された要素、整数若しくは工程又は複数の要素、複数の整数若しくは複数の工程の群を包含することにある。数量が特定されていない語(The terms "a" and "an" and "the")及び本発明の記載に関して(特に特許請求の範囲において)使用される同様の指示は、本明細書で特に示されない限り、又は内容により明らかに矛盾しない限り、単数及び複数の両方を包含するものと理解されるべきである。本明細書における値の範囲の列挙は、単に、その範囲内に含まれるそれぞれ別々の値を個別に指す略式法としての役割を果たすものと解釈されるにすぎない。本明細書で特に示されない限り、それぞれの個別の値は、その値が本明細書で個別に列挙されているかのごとく、本明細書中に組み込まれる。本明細書に記載される全ての方法は、本明細書で特に示されない限り、又は内容により明らかに矛盾しない限り、任意の適切な順序で行うことができる。本明細書中で規定されるあらゆる例又は例示的な言い回し(例えば、「等の(such as)」)の使用は、単に本発明をより良く説明するものと解釈されるにすぎず、決してその他の点で規定される本発明の範囲に限定を与えるものではない。本明細書中の言い回しは、本発明の実施に必須な何らかの規定されていない構成要素を示していると解釈されるべきではない。
【0036】
精巣上皮内腫瘍(TIN)は、精巣胚細胞腫瘍の前駆病変であり、「非浸潤性胚細胞腫瘍(GCNIS)」、「上皮内癌(CIS)」、又は「分類不能の精細管内胚細胞腫瘍(IGCNU)」としても知られる。これらの用語は、本発明に関して区別なく使用される。本明細書において区別なく使用される用語「精巣胚細胞腫瘍」及び「精巣胚細胞癌」は、睾丸にある胚細胞に由来する精巣の腫瘍/癌(全精巣癌の約95%)を指す。
【0037】
microRNA(miRNA)は、遺伝子調節の複雑なネットワークにおいて重要な役割を果たす、短く、高度に保存された非コーディングRNAである。miRNAは、メッセンジャーRNA(mRNA)に特異的に結合し、mRNAの安定性及び翻訳の調節を通じて遺伝子発現を制御する。一般的には、miRNAは21個~23個のヌクレオチドからなる。一実施形態においては、本明細書で言及されるmiR-371a-3pは、ヒトmiR-371a-3p(ホモ・サピエンス(Homo sapiens)、hsa)である。一実施形態においては、hsa-miR-371a-3pは(5'-3')配列AAGUGCCGCCAUCUUUUGAGUGU(配列番号1)を有する。
【0038】
本明細書で使用される用語「発現レベル」は、相対発現レベル、すなわち、1以上の参照核酸分子(例えば、miR-93-5p等の別のmiRNA)の発現レベルと比べたmiR-371a-3pの発現レベル、又は絶対発現レベル、すなわち実際のmiR-371a-3pの量を指す場合がある。本発明によれば、「生体試料中のmiR-371a-3pの発現レベルを測定すること」は、「生体試料中のmiR-371a-3pの有無を判定すること」であってもよい。本発明によれば、生体試料中のmiR-371a-3pの発現レベル(又は有無)は、生体試料が得られる被験体におけるTINの有無及び/又は程度/進行の指標である。一実施形態においては、対照(例えば、TINを有しない被験体のmiR-371a-3pの発現レベル)と比較して増加されたmiR-371a-3pの発現レベルは、被験体におけるTINの存在の指標である。一実施形態においては、予め決定されたカットオフ値よりも高いmiR-371a-3pの発現レベルは、被験体におけるTINの存在の指標である。一実施形態においては、miR-371a-3pの相対量(relative quantity)(RQ)が測定され、ここで、カットオフ値は5であることが好ましい。
【0039】
本明細書で使用される用語「核酸分子」は、DNAであってもよく、又はRNAであってもよい。
【0040】
本発明においては、用語「DNA」は、デオキシリボヌクレオチド残基を含む分子に関連し、好ましくはデオキシリボヌクレオチド残基から全体的に又は本質的に構成される。「デオキシリボヌクレオチド」は、β-D-リボフラノシル基の2'位にヒドロキシル基を欠いたヌクレオチドに関連する。本明細書で使用される用語「相補的DNA(cDNA)」とは、逆転写酵素によって触媒される反応においてRNAテンプレートから合成される二本鎖DNAを指す。
【0041】
本発明においては、用語「RNA」は、リボヌクレオチド残基を含む分子に関連し、好ましくはリボヌクレオチド残基から全体的に又は本質的に構成される。「リボヌクレオチド」は、β-D-リボフラノシル基の2'位にヒドロキシル基を有するヌクレオチドに関連する。
【0042】
本明細書に記載されるとともに本発明により使用される方法(国際出願PCT/EP2016/059604号も参照)は、特定の核酸分子、例えば、miR-371a-3pの検出下限での検出を可能にする。一実施形態においては、用語「検出下限」とは、PCRベースのアプローチによって、例えば定量的リアルタイムPCR(qRT-PCR)又はデジタルPCR(dPCR)によって規定される検出下限を指す。
【0043】
一実施形態においては、用語「検出下限」は、生体試料中の特定の核酸分子、例えば、miR-371a-3pの濃度が、1×10-11 M以下、又は1×10-12 M以下、又は1×10-13 M以下、又は1×10-14 M以下、又は1×10-15 M以下、又は1×10-16 M以下であることを意味する。一実施形態においては、用語「検出下限」は、生体試料中の特定の核酸分子、例えば、miR-371a-3pの濃度が、1×10-11 Mから1×10-17 Mの間、又は1×10-12 Mから1×10-17 Mの間、又は1×10-13 Mから1×10-17 Mの間、又は1×10-14 Mから1×10-17 Mの間、又は1×10-15 Mから1×10-17 Mの間、又は1×10-16 Mから1×10-17 Mの間であることを意味する。
【0044】
一実施形態においては、用語「検出下限」は、生体試料中の特定の核酸分子、例えば、miR-371a-3p分子の数が、10000個以下、又は5000個以下、又は2500個以下、又は1000個以下、又は500個以下、又は250個以下であることを意味する。一実施形態においては、用語「検出下限」は、生体試料中の特定の核酸分子の数が、20個から10000個の間、又は20個から5000個の間、又は20個から2500個の間、又は20個から1000個の間、又は20個から500個の間、又は20個から250個の間であることを意味する。一実施形態においては、用語「検出下限」は、生体試料中の特定の核酸分子の数が、50個から10000個の間、又は50個から5000個の間、又は50個から2500個の間、又は50個から1000個の間、又は50個から500個の間、又は50個から250個の間であることを意味する。一実施形態においては、用語「検出下限」は、生体試料中の特定の核酸分子の数が、100個から10000個の間、又は100個から5000個の間、又は100個から2500個の間、又は100個から1000個の間、又は100個から500個の間、又は100個から250個の間であることを意味する。
【0045】
一実施形態においては、本明細書で列挙される1種以上の特定の核酸分子の濃度又は数とは、生体試料(ここで、特定のRNA分子は、相応のcDNA分子に変換される)から単離/取得されたcDNAを含むバッチA中の1種以上の特定の核酸分子の濃度又は数を指す。一実施形態においては、本明細書で列挙される1種以上の特定の核酸分子の濃度又は数とは、生体試料から単離/抽出されたRNA中の1種以上の特定の核酸分子の濃度又は数を指す。
【0046】
一実施形態においては、本発明による方法の工程(ii)における3つ以上のアリコートのそれぞれを用いて実施される独立したPCRは、前増幅PCR反応である。
【0047】
本発明による好ましい生体試料は、体液、組織、細胞、細胞溶解物及び細胞培養上清からなる群から選択される。
【0048】
好ましくは、体液は、血清、血漿、精漿、水瘤液、精液瘤液、全血、尿、羊水、滲出液、痰、唾液及び脳脊髄液からなる群から選択される。一実施形態においては、体液は、血清である。
【0049】
組織は、好ましくは、天然組織、急速凍結された組織及びホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)された組織からなる群から選択される。
【0050】
RNA、例えばトータルRNA又はmiRNAを生体試料から単離(又は抽出)するための手段及び方法は、当業者に知られており、それには、市販のキット、例えばRNeasy Mini Kit及びmiRNeasy Mini Kit(両者ともQiagen社製)が含まれる。
【0051】
RNAをcDNAに変換する工程は、好ましくは、逆転写酵素を使用する逆転写(RT)によって行われる。逆転写及びcDNAの合成のための手段及び方法は、当業者に知られており、それには市販のキット、例えばTaqMan(商標)microRNA RT Kit(Life Technologies/Thermo Fisher Scientific社製)が含まれる。
【0052】
本発明による好ましいPCRベースのアプローチは、定量的リアルタイムPCR(qRT-PCR)及びデジタルPCR(dPCR)である。
【0053】
一実施形態においては、qRT-PCRは、蛍光標識されたプローブの使用を含む蛍光ベースのqRT-PCRである。一実施形態においては、蛍光標識されたプローブは、蛍光レポーター色素及びクエンチャー色素の両方で標識されたオリゴヌクレオチド(=デュアル標識プローブ)からなる。適切な蛍光レポーター色素/部及びクエンチャー色素/部は、当業者に良く知られており、それには、限定されるものではないが、レポーター色素/部の6-FAM(商標)、JOE(商標)、Cy5(商標)及びCy3(商標)並びにクエンチャー色素/部のdabcyl、TAMRA(商標)及びBHQ(商標)-1、BHQ(商標)-2又はBHQ(商標)-3が含まれる。プローブ特異的な産物の増幅は、プローブの開裂を引き起こし(=増幅に媒介されるプローブの退去)、それによりリポーター蛍光の増大が起こる。蛍光ベースのqRT-PCRで使用するためのその他の適切な蛍光色素には、EvaGreen(商標)及びSYBR(商標)Greenが含まれる。一般的に、反応における蛍光の増大(リアルタイムで測定される)は、ターゲット増幅物の増大と正比例している。
【0054】
dPCRは、核酸分子の絶対的定量化及び検出のための従来のqRT-PCRに対する代替法である。dPCRは、DNA又はcDNAの試料を多くの個々の並行したPCR反応へと分割することによって作動し、これらの反応の幾つかは、ターゲット核酸分子を含む(陽性)が、その他は含まない(陰性)。単一の分子は、百万倍以上に増幅され得る。増幅の間に、色素標識されたプローブを使用することで、配列特異的なターゲットが検出される。ターゲット配列が存在しない場合に、シグナルは累積しない。PCR分析に続き、陰性反応画分を使用することで、標準物又は内在性コントロールを必要とすることなく、試料中のターゲット分子数の絶対数が導き出される。
【0055】
本明細書で使用される表現「少なくとも1つのmiR-371a-3p特異的プライマー」は、例えば、RNAのcDNAへの変換に使用される特定のヘアピン構造を有するmiR-371a-3p特異的プライマー(例えば、ステムループプライマー)等の単一のmiR-371a-3p特異的プライマー、及び/又はqRT-PCRに使用されるmiR-371a-3p特異的プライマー対を指す。
【0056】
miR-371a-3特異的なプライマー及びプローブの設計及び作製に適したアプローチが当業者に知られている。また、miR-371a-3p特異的なプライマー及びプローブは、例えばLifeTechnologies社(Thermo Fisher Scientific社、米国カリフォルニア州カールスバッド)及びApplied Biosystems社(ドイツ、ダルムシュタット)から商業的に入手可能である。
【0057】
本明細書で使用される用語「キット」(又は「キットの部品(kit of parts)」)は、1以上の容器、及び任意にデータ記憶媒体を備える製品を指す。上記1以上の容器は、1以上の上に言及される手段又は試薬で満たされていてもよい。例えば、希釈剤、バッファー、及びdNTP等の更なる試薬が入った追加の容器が上記キットに備えられていてもよい。上記データ記憶媒体は、非エレクトロニカル(non-electronical)データ記憶媒体、例えば、情報リーフレット、情報シート、バーコード若しくはアクセスコード等のグラフィカルデータ記憶媒体、又はフロッピーディスク、コンパクトディスク(CD)、デジタルバーサタイルディスク(DVD)、マイクロチップ、若しくは別の半導体に基づくエレクトロニカル(electronical)データ記憶媒体等のエレクトロニカルデータ記憶媒体であってもよい。アクセスコードは、データベース、例えばインターネットデータベース、集中データベース又は分散データベースへのアクセスを可能とし得る。上記データ記憶媒体は、本発明の方法でのキットの使用に関する指示を含んでもよい。データ記憶媒体は、miR-371a-3pの発現レベルに対するカットオフ値又は基準レベルを含んでもよい。データ記憶媒体が、データベースへのアクセスを可能とするアクセスコードを含む場合、上記閾値又は基準レベルをこのデータベースに寄託する。さらに、データ記憶媒体は、本発明の方法を実行する方法についての情報又は指示を含んでもよい。
【0058】
本明細書で使用される用語「被験体」は、あらゆる生物、例えば脊椎動物、特にヒト及びそれ以外の哺乳類の両方を含むあらゆる哺乳類、例えば齧歯類、ウサギ又は非ヒトの霊長類(例えばサル)等の動物に関連する。齧歯類は、マウス、ラット、ハムスター、モルモット又はチンチラであってよい。好ましくは、被験体は、雄性被験体である。好ましくは、被験体は、ヒトである。一実施形態においては、被験体は、疾病又は疾患、特に本明細書で規定された疾病若しくは疾患を伴う又はそれらの疾病若しくは疾患を有すると疑われる被験体であり、本明細書では、「患者」とも呼ばれる。一実施形態においては、被験体は、精巣癌の家族歴がある、及び/又は潜在睾丸(停留睾丸)を有している、若しくはかつて有していた。
【0059】
また、本発明は、被験体においてTINを治療する、又は被験体において、精巣癌、特に精巣胚細胞癌を予防する方法を提供し、該方法は、(i)本明細書に定義される方法によって被験体においてTINを検出することと、(ii)被験体に治療法を提供することとを含む。本発明によれば、治療法として、好ましくは、放射線療法、特に局所放射線療法、睾丸摘出術及び/又は化学療法が挙げられる。例えば、局所放射線療法は、2 Gyずつに分けて16 Gy~20Gyの照射を含んでもよい。例えば、精巣が1つである(solitarytestis)場合、放射線療法が行われ得る。例えば、対側の精巣が健康である場合には、睾丸摘出術が行われ得る。本発明によれば、治療法に先行して、被験体のモニタリング、例えば定期的な精巣の超音波検査が行われてもよい。
【0060】
本発明を、以下の実施例によって更に説明するが、実施例は、本発明の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。
【実施例
【0061】
比較例1
a)RNA単離
血清試料から、トータルRNAを、QIAGEN社製のmiRNeasyMini Kitを使用して製造元の使用説明書に従って血清試料について若干の変更を加えて単離した:200 μlの血清に対して1 mlのQIAzol及び200 μlのクロロホルムを使用した。
【0062】
b)cDNA合成
血清試料中のmiR-371a-3pの定量化のために、6 μlのトータルRNAを、TaqMan(商標)microRNA RT Kit(Life Technologies/Thermo Fisher Scientific社製)並びにmiR-371a-3p及びmiR-93-5p(正規化のため)(Life Technologies/Thermo FisherScientific社製、アッセイID:002124(miR-371a-3p)及び000432(miR-93-5p))に関するステムループプライマーそれぞれ1 μlからなるプライマープールを使用して逆転写した。
【0063】
c)前増幅
血清中のRNA/miRNAの濃度が低いため、qRT-PCRの前に、前増幅工程を実施した。前増幅反応物は、4 μlの逆転写(RT)産物、1.12 μlの分析物(1:100希釈)(miR-371a-3p及びmiR-93-5pのそれぞれ)、4 μlの5×Real Time ready cDNA Pre-Amp Master(Roche、ドイツ、マンハイム)及びヌクレアーゼ不含の水からなっており、その水は20 μlの全反応容量になるまで加えられる。前増幅は、95℃で1分間に引き続き、95℃で15秒及び60℃で4分間を14サイクルで行った。次いで、前増幅産物を、ヌクレアーゼ不含の水中で1:2希釈し、その希釈された前増幅産物5 μlを、qRT-PCRのために使用した。
【0064】
d)TaqMan(商標)プローブを使用する定量的リアルタイムPCR(qRT-PCR)によるmiRNAの検出
qRT-PCR反応物は、10 μlのFASTstart Universal Probe Master(Roche、ドイツ、マンハイム)、1 μlの特定の分析物、及びヌクレアーゼ不含の水からなっており、全反応容量は20 μlであった。qRT-PCRは、7500 Fast Real-Time PCR System(LifeTechnologies/Thermo Fisher Scientific社製)において、以下のサイクル条件:95℃で10分間、次いで95℃で15秒及び60℃で1分間を40サイクルで行った。相対量(RQ)は、ΔΔCt法を使用して計算した。
【0065】
qRT-PCR法の検出下限で測定が行われる場合には、前増幅工程の間にしばしば問題が生ずる。miRNA分子は、ピペット操作でcDNA合成に入れられ、1:1でcDNA分子へと転写された。つまり、最初にmiRNA分子が少量しか存在しない場合に、これはまた、同じく少量のcDNAしかもたらさないことを意味する。別の実験の間に結果を再現すべき場合に、前増幅のために正確に同量のcDNA/miRNA分子をピペット操作で反応チューブに再び入れることは統計学的に不可能である。これについての解釈は、例えば10個のmiRNA又はcDNA分子が全ての反応チューブに存在するということである。特定のアリコートを、前増幅のために、そのチューブからピペット操作で取り出して後続の反応チューブに入れる場合に、その統計学的確率のため、毎回同量のcDNA/miRNA分子を取り出すことは不可能である。このため、1回のピペット操作工程の間に、5個のcDNA/miRNA分子、8個のcDNA/miRNA分子、3個のcDNA/miRNA分子が後続の前増幅反応へと移されるか、又はそのcDNA/miRNA分子が一切移されないことさえ考えられる。本発明の実験は、これが、検出下限での再現的結果が非常に困難であるか、又は不可能でさえある理由であることを裏付けている。
【0066】
表1には、RNA単離後に個別のcDNA合成、前増幅及びqRT-PCRによって別々に2回(A及びB)処理された1つの試料のmiRNA分析の結果が示されている。ここでは、実行「A」における試料のmiRNA-371a-3pのCt値が、実行「B」で得られる値とは本質的に異なることを明らかに理解することができる。それに対して、同じ試料のmiRNA-93のCt値は、それぞれの実行において殆ど同一である。これにより、同じ試料について、ターゲットmiRNA-371a-3pの実行「A」及び「B」についての完全に異なる発現レベルがもたらされる。この現象は、極めて少量のmiRNA分子の統計学的分布によるものであり、例えばcDNA合成のために使用される1005個の分子に対して1002個のmiRNA分子がある場合に、前増幅及びqRT-PCR後のCt値における差は殆ど分からない。しかしながら、ピペット操作で前増幅反応に入れられる5個の分子に対して2個の分子しか存在しない場合に、その差は、前増幅プロセスのサイクル(例えば14サイクル)の間に指数関数的に増大し、qRT-PCR後には発現レベル及びCt値それぞれにおいて莫大な差が検出される。各サイクルの間の増幅の効率が100%であると仮定して、14サイクルの前増幅後に、2分子は16384分子になり、5分子は6103515625分子になる。
【0067】
表1:qRT-PCRにおける測定の再現性を試験する実験のまとめ(A及びBは、同じ試料の異なる実行である);ターゲット名=測定されるmiRNA;Ct=閾値サイクル;Ct平均=3回のqRT-PCRの平均値)。
【表1】
【0068】
これらの差は、表2でも確認することができ、そこでは、通常miRNA-371a-3pを非常に高いレベルで発現する細胞系統(HT 27)は、検出下限に達するまで希釈されているので、Ct値の変動が生ずる。
【0069】
表2:miRNAの希釈列;ターゲット名=測定されるmiRNA;Ct=閾値サイクル;Ct平均=2回のqRT-PCRの平均値;検出不可能=qRT-PCRの間に検出可能なシグナルなし)。
【表2】
【0070】
別の実験において、規定量の合成miRNA、いわゆるcel-miRNA-39を、例としてcDNA合成のために使用する。結果を、表3に示す。ここでも、約100個のmiRNA分子(約0.0000000002ピコモル)において、Ct値に関して大きな差が生ずることを確認することができる。
【0071】
表3:分子レベルでのmiRNAcel-miRNA-39希釈;ターゲット名=測定されるmiRNA;Ct=閾値サイクル;Ct平均=2回のqRT-PCRの平均値;Ct MV=同じ試料の3回の前増幅実行の平均値;理論的Ct=最高濃度の値に基づいて数学的に決定されたCt値;ud=検出不可能、つまりqRT-PCRの間に検出可能なシグナルなし)。
【表3-1】
【表3-2】
【0072】
e)まとめ
上記データは、検出下限での信頼することができる結果をもたらすという課題が前増幅工程に関連していることを示している。1つの試料について1回の前増幅が実施され、かつこの前増幅産物がqRT-PCRを使用して測定される場合に、これは、毎回一定の結果をもたらす(表1、表2及び表3における3回/2回のqRT-PCRアッセイを参照)。しかしながら、数回の前増幅が、1つのcDNA反応チューブのなかで実施され、かつこれらの前増幅が、統計学によって種々の量のcDNA分子を含む場合に、これは、後続のqRT-PCRにおけるCt値に顕著な差異をもたらす。最良の混合手順であっても、cDNA合成からの少量のcDNA分子を均等に前増幅の反応チューブに分配することは不可能である。その後に、誤差が現れ、Ct値の大きな変動が起こる。このことは、14サイクルのそれぞれで分子数が2倍になることによって説明される。
【0073】
実施例1
前増幅プロセスのために、試料をcDNA合成の後に3つの反応チューブに分けた。その後に、qRT-PCRを、3つの反応チューブのそれぞれで別々に実施した(表4及び図1を参照)。Ct値の偏差及び得られた種々の発現レベル(ここでは、例としてmiR-371a-3pについて)を検討するために、3つのRQ値の平均値を、数学的に決定した(算術平均)(RQ=相対量=発現)。
【0074】
表4:qRT-PCRの結果;RQ=相対量;数学的RQ-MV Ct=RQの数学的平均値;平均=3回のqRT-PCRの平均値;検出不可能=qRT-PCRの間に検出可能なシグナルなし。
【表4】
【0075】
実施例2
試料を、実施例1のようにcDNA合成後に、前増幅のために3つの反応チューブに分けた。その後に、同一容量を、3つの前増幅反応チューブのそれぞれから取り、一緒にしてピペット操作で1つの反応チューブに入れ、そして単回の後続のqRT-PCRのために良く混合した(図2を参照)。
【0076】
Ct値及び測定された発現レベルにおける差をそれぞれ補償するために、3回の前増幅を行った。これらの差は、RQ値の平均値の計算によるか(実施例1=計算された平均値/算術平均)、又は実施例2のように、3つの前増幅反応物を混合して、その混合物を後続のqRT-PCR分析において使用することによって補償することができ、こうして結果の解釈のために方法的な平均値/測定された平均が導き出される。この研究結果を、表5に列挙する。
【0077】
表5:qRT-PCRの結果;RQ=相対量;数学的RQ-MV Ct=RQの数学的平均値;Ct平均=3回のqRT-PCRの平均値;検出不可能=qRT-PCRの間に検出可能なシグナルなし;Zus=試料は、実施例2のプロトコルにより処理された(方法的な平均値)。
【表5】
【0078】
総合すると、実施例1及び2に例示される方法は、約0.0000000002ピコモルの検出下限でさえも特定の核酸分子を正確かつ信頼性高く分析する可能性をもたらす。
【0079】
実施例3
上記実施例2に記載される方法(国際出願PCT/EP2016/059604号も参照されたい)を使用してTINを有するが精巣胚細胞癌を有しない18名の患者(平均年齢:33.4±6.5)及び20名の対照(平均年齢:37.5±10.8)の血清においてmiR-371a-3pの相対的な発現を定量した。
【0080】
A.方法論
a)RNA単離
血清試料から、トータルRNAを、QIAGEN社製のmiRNeasyMini Kitを使用して製造元の使用説明書に従って血清試料について若干の変更を加えて単離した:200 μlの血清に対して1 mlのQIAzol及び200 μlのクロロホルムを使用した。
【0081】
b)cDNA合成
血清試料中のmiR-371a-3pの定量化のために、6 μlのトータルRNAを、TaqMan(商標)microRNA RT Kit(Life Technologies/Thermo Fisher Scientific社製)並びにmiR-371a-3p及びmiR-93-5p(正規化のため)(Life Technologies/Thermo FisherScientific社製、アッセイID:002124(miR-371a-3p)及び000432(miR-93-5p))に関するステムループプライマーそれぞれ1 μlからなるプライマープールを使用して逆転写した。
【0082】
c)前増幅
血清中のRNA/miRNAの濃度が低いため、qRT-PCRの前に、前増幅工程を実施した。cDNA合成の後、前増幅のため、最初に試料を3つの反応チューブに分けた。前増幅反応物は、4 μlの逆転写(RT)産物、1.12 μlの分析物(1:100希釈)(miR-371a-3p及びmiR-93-5pのそれぞれ)、4 μlの5×Real Time ready cDNA Pre-Amp Master(Roche、ドイツ、マンハイム)及びヌクレアーゼ不含の水からなっており、その水は20 μlの全反応容量になるまで加えられる。前増幅は、95℃で1分間に引き続き、95℃で15秒及び60℃で4分間を14サイクルで行った。
【0083】
その後に、同一容量を、3つの前増幅反応チューブのそれぞれから取り、一緒にしてピペット操作で1つの反応チューブに入れ、そして単回の後続のqRT-PCRのために良く混合した。次いで、前増幅産物を、ヌクレアーゼ不含の水中で1:2希釈し、その希釈された前増幅産物5 μlを、qRT-PCRのために使用した。
【0084】
d)TaqMan(商標)プローブを使用する定量的リアルタイムPCR(qRT-PCR)によるmiRNAの検出
qRT-PCR反応物は、10 μlのFASTstart Universal Probe Master(Roche、ドイツ、マンハイム)、1 μlの特定の分析物、及びヌクレアーゼ不含の水からなっており、全反応容量は20 μlであった。qRT-PCRは、7500 Fast Real-Time PCR System(Life Technologies社製/Thermo Fisher Scientific社製)において、以下のサイクル条件:95℃で10分間、次いで95℃で15秒及び60℃で1分間を40サイクルで行った。相対量(RQ)は、ΔΔCt法を使用して計算した。
【0085】
B.結果
結果を図3に示す。TIN患者における平均miR-371a-3p発現は標準偏差58.74を伴って30.75 RQ(相対量)であった。対照では、miRNAの平均発現は標準偏差1.73を伴って0.77 RQであった。両側マン-ホイットニーU検定は、p=0.007によりこの差を有意と証明した。
【0086】
精巣胚細胞腫瘍に対して、miR-371a-3pを血清に基づくバイオマーカーとして使用することができる。先の研究では、腫瘍と対照とを区別するため、RQ=5のカットオフ値が選択された(DieckmannK.P. et al., 2016, Eur Urol doi:10.1016/j.eururo.2016.07.029)。
【0087】
このカットオフ値を使用して、TIN患者18名中8名(44.4%)がmiR-371a-3pの血清レベルの上昇を提示したのに対し、対照20名中1名(5%)のみが陽性であった。この割合における差が有意であるかどうかを検定するため、両側フィッシャー正確検定を利用し、p=0.007により有意差の分布を実証した。したがって、対照よりも有意に多いTIN患者を上記試験によって検出することができる。
【0088】
臨床ルーチンでは、精巣胚細胞腫瘍の診断に対して、古典的バイオマーカーであるα-フェトプロテイン(AFP)、ヒト絨毛膜性ゴナドトロピン(bHCG)のβ-サブユニット、及び乳酸脱水素酵素(LDH)が使用される。これらは、通常、TINの検出には適していない。1つの古典的マーカーの増加が全体的な陽性スコアを構成すると想定して、3つ全ての古典的マーカーを1つのパネルに組み合わせた場合であっても、本発明によるmiR-371a-3p試験で検出可能なTIN患者18名中8名(44.4%)と比較して、TIN患者10名中わずか1名(10%)が検出可能であるに過ぎなかった。
【0089】
TIN患者と健康なドナーとの違いを検出することが可能になることで、例えば精巣癌に対するリスクグループのスクリーニング及び/又はモニタリングに対して新たな機会が開かれる。いずれの場合も精巣胚細胞腫瘍となるTINの早期発見は、浸潤癌疾患から患者を保護することができ、したがって、より良好な生活の質及び医療制度に関する費用の削減を保証する。本発明は、正確で信頼できる技術により、体液中に前段階の胚細胞腫瘍(TIN)を有する患者の早期発見の可能性を提供する。
【符号の説明】
【0090】
図面訳
図1
RNA-isolation RNA単離
cDNA-synthesis cDNA合成
Preamplification 前増幅
Real-time PCR リアルタイムPCR

図2
RNA-isolation RNA単離
cDNA-synthesis cDNA合成
Preamplification 前増幅
Real-time PCR リアルタイムPCR

図3
relative miR-371a-3pexpression 相対miR-371a-3p発現
control 対照
Error bars エラーバー
図1
図2
図3
【配列表】
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