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特許7391385望遠鏡の分割鏡のペアの段差の大きさを解析するための装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-27
(45)【発行日】2023-12-05
(54)【発明の名称】望遠鏡の分割鏡のペアの段差の大きさを解析するための装置
(51)【国際特許分類】
   G02B 23/02 20060101AFI20231128BHJP
   G02B 5/00 20060101ALI20231128BHJP
【FI】
G02B23/02
G02B5/00 Z
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020562429
(86)(22)【出願日】2019-12-26
(86)【国際出願番号】 JP2019051221
(87)【国際公開番号】W WO2020138328
(87)【国際公開日】2020-07-02
【審査請求日】2022-09-16
(31)【優先権主張番号】P 2018243100
(32)【優先日】2018-12-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503361400
【氏名又は名称】国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100067013
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 文昭
(74)【代理人】
【識別番号】100086771
【弁理士】
【氏名又は名称】西島 孝喜
(74)【代理人】
【識別番号】100109335
【弁理士】
【氏名又は名称】上杉 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120525
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100139712
【弁理士】
【氏名又は名称】那須 威夫
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 世智
【審査官】岡田 弘
(56)【参考文献】
【文献】特開平3-226708(JP,A)
【文献】特開2002-350730(JP,A)
【文献】特表2017-513060(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 23/00-23/22
G02B 7/00
G02B 7/18-7/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主鏡が複数の分割鏡で構成される望遠鏡の前記分割鏡のペアの段差の大きさを解析するための装置であって、
前記主鏡の光軸の中で前記分割鏡のそれぞれを投影した分割鏡像が重ならない所定位置に前記光軸に直交して配置されるマスクであって、前記分割鏡像のそれぞれの位置において、前記分割鏡の前記ペアのそれぞれの前記分割鏡像の境界の近傍に所定の間隔を開けてお互いに平行な対向する主スリットが形成されているマスクと、
前記望遠鏡の光軸の中で前記マスクの後方に配置される検出器と、を含み、
前記マスクは、それぞれの前記主スリットのペアのそれぞれに対して、それに平行でない所定の角度を有する少なくとも1つの基準スリットが配置されている、
ことを特徴とする装置。
【請求項2】
前記基準スリットは、前記主スリットに対して所定の角度を有し、前記主スリットの前記ペアのいずれか1つがある前記分割鏡像中において、前記主スリットの近傍に形成された補助スリットである、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記補助スリットは、前記主スリットに対して直角の角度を有する、請求項2に記載の装置。
【請求項4】
前記補助スリットは、お互いに平行な2つのスリットである、請求項2又は3に記載の装置。
【請求項5】
前記主スリットは、前記分割鏡像の前記境界に沿って形成されており、
前記基準スリットは、前記主スリットが配置されている前記境界の近傍の他の境界に沿って配置された他の前記主スリットである、請求項1に記載の装置。
【請求項6】
前記主スリットは、前記分割鏡像の前記境界に平行ではない所定の角度を有するように形成されており、
前記基準スリットは、前記主スリットが配置されている前記境界と異なる他の境界の近傍に前記他の境界に平行ではない所定の角度を有するように配置された他の主スリットである、請求項1に記載の装置。
【請求項7】
対向する前記主スリットのすべてのペアの方向は、異なる角度で交差している、請求項6に記載の装置。
【請求項8】
対向する前記主スリットのすべてのペアの方向は、単一の角度の整数倍で交差している、請求項7に記載の装置。
【請求項9】
主鏡が複数の離間された分割鏡で構成される望遠鏡の前記分割鏡のペアの段差の大きさを解析するための装置であって、
前記主鏡の光軸の中で前記分割鏡のそれぞれを投影した分割鏡像が重ならない所定位置に前記光軸に直交して配置されるマスクであって、前記分割鏡像のそれぞれの位置において、前記分割鏡の前記ペアのそれぞれの前記分割鏡像に所定の横方向距離を開けてお互いに平行に所定の長手方向距離だけ離間させて配置された主スリットが形成されているマスクと、
前記望遠鏡の光軸の中で前記マスクの後方に配置される検出器と、を含み、
前記マスクにおいて、それぞれの前記主スリットのペアのそれぞれの方向が異なる角度で交差している、
ことを特徴とする装置。
【請求項10】
それぞれの前記分割鏡像が重ならない前記所定位置は、前記望遠鏡の瞳面である、請求項1から9のいずれか1項に記載の装置。
【請求項11】
前記主鏡の焦点面の中心の光を通過させるピンホールを有する焦点面マスクを有する、請求項1から9のいずれか1項に記載の装置。
【請求項12】
前記主スリットの前記ペアのそれぞれの中心線と前記基準スリットの中心線との交点のそれぞれに対応して配置されたレンズの配列を含む結像レンズ系をさらに有する、請求項1から5のいずれか1項に記載の装置。
【請求項13】
請求項4に記載の装置を使用して、主鏡が複数の分割鏡で構成される望遠鏡の前記分割鏡のペアの段差を解消させる方法であって、
前記検出器で、前記主スリット及び前記補助スリットによって発生したそれぞれの回折パターンの画像を取得するステップと、
前記主スリットの前記回折パターンの干渉縞のピークが、前記それぞれの回折パターンの交点に来るように前記分割鏡の段差を調整するステップと、
前記補助スリットの前記回折パターンと前記主スリットの前記回折パターンとの交点のピークが、前記主スリットの前記回折パターンの中心線上に来るように前記分割鏡の傾きの角度を調整するステップと、
を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、望遠鏡の分割鏡のペアの段差の大きさを解析するための装置に関し、より詳しくは、補助スリットを有するスリットによって生じさせた回折パターンの干渉縞により望遠鏡の分割鏡のペアの段差の大きさを解析するための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
天体観測に使用される反射望遠鏡などの主鏡を有する望遠鏡は口径が大きいほど、集光力や分解能などのような基本的な光学性能が高くなり、観測対象の詳細な像を得ることができるようになる。しかし、大きい口径の主鏡は、製造が非常に難しく、また、運用も難しいという問題がある。そのため、主鏡を複数の分割鏡で構成した分割鏡タイプの反射望遠鏡が開発、使用されてきた。複数の分割鏡は、全体として主鏡の性能を発揮するためには、組み合わせた場合に、可能な限り1枚の主鏡と同様の形状に保たれ、1枚の主鏡として振る舞うことができる必要がある。そのため、各分割鏡の理想鏡面からのずれ、特に分割鏡同士の段差及び分割鏡の傾きを可能な限り減少させることが必要である。それぞれの分割鏡は、光軸方向の位置や光軸に対する傾きを調節する機構を有しているが、適切にそれらの位置や傾きのずれを測定し、それを最小化させるように調節する必要がある。しかし、特に、宇宙望遠鏡のような軌道上で運用される望遠鏡について、そのような技術は成熟していない。
【0003】
図1は、本発明が適用される従来の反射望遠鏡1の全体構成を示す図である。本発明は、反射望遠鏡1に組み込まれて使用されることになる。この例における反射望遠鏡1は、例えば、リッチー・クレチアン式望遠鏡のような、主鏡と、主鏡と光軸が一致している副鏡とを有する反射望遠鏡であり、複数の分割鏡10からなる主鏡と、副鏡20からなる主光学系を有している。なお、本発明は、主鏡を有する望遠鏡であれば、反射望遠鏡に限らず、シュミットカセグレン式のように反射式と屈折式を組み合わせた望遠鏡等にも適用できる。図1の例では、それぞれの分割鏡10は正六角形であり、中心の分割鏡10の周りに、辺同士を対向させて6個の分割鏡10を配置している。図3は、分割鏡10の構成を示す図である。この例の反射望遠鏡1においては、それぞれの分割鏡10は正六角形であり、中央に開口部を有する分割鏡10gの周りに、辺同士を対向させて6個の分割鏡10a、10b、10c、10d、10e、10fをそれらの中心が正六角形を形成するように配置している。各位置の分割鏡を個別に示す場合は、英小文字の接尾辞を付けた参照番号で表わすが、分割鏡を集合的に示す場合は、そのような接尾辞をつけない参照番号で表わす(以下、分割鏡像、スリットなどにおいても同様である)。反射望遠鏡1の通常の使用においては、図1には示していないが、主光学系の後方に結像レンズ系や反射光学系が備えられており、それによって撮像素子に観測対象像を投影する。
【0004】
分割鏡10の段差の大きさを解析するための手法としては、波長の異なる複数枚のPSF(点広がり関数、point spread function)像を取得して段差の大きさを推定するフィルタ方式、結像レンズ前においたグレーティング(回折格子)で白色のPSF像を回折させ、得られたスペクトル像から段差の大きさを推定するグレーティング方式、段差の大きさを測定する鏡のペアについて、瞳面(共役面)にそれぞれスリットを設け、その2つのスリットから得られる干渉縞から段差の大きさを測定するスリット干渉方式などがある。段差解析手法においては、測定時間、鏡の分割方向による影響、測定精度、光線利用効率が性能に関する重要な指標となる。また、装置構成は駆動部がなく単純であるほど環境変化や経年劣化に対して頑健である。それぞれの方式について、それらについて以下に説明する。フィルタ方式は、測定時にフィルタを切り換える必要があるため測定時間が長く、光線利用効率は高くないが、測定においては主鏡の分割方向に依存せず、測定精度はフィルタ枚数が多ければ高くすることができる、という特徴がある。一方で、測定精度を高めるためにフィルタ枚数を増やせば、駆動機構を含めそれだけ装置は大型化してしまう。従って、環境変化や経年劣化に対して頑健な構成とすることが難しくなる。グレーティング方式は、主鏡の分割方向と回折方向が直交すると測定ができないが、測定時間が短く、測定精度は高く、光線利用効率は高い、という特徴がある。スリット干渉方式は、フィルタの機械的な切り替えを要するフィルタ方式より測定時間は短く、またグレーティング方式と異なり主鏡の分割方向によらず測定できるという特徴を有する。ただし、スリット干渉方式は、光路中に挿入した細長いスリットで光源を回折させるため、光線利用効率は高くなく、また、測定手法の性質として平行な2スリットの回折光で形成した干渉縞が段差に伴って移動するという現象に基づくため、段差の検知と量の推定をすることはできるが、測定の基準となる段差ゼロ時の干渉縞位置を精度よく決定することが難しく、測定精度があまり高くない。ここでスリット干渉方式においては、光線利用効率が高くないことは、測定時間を長くしたり明るい光源を利用する等で対策が可能である。特に地上観測では光量の強い地上をターゲットにできるため、実用上のデメリットとしては極めて軽微である。従って、スリット干渉方式は、段差ゼロ時の干渉縞位置を精度よく決定することができれば測定精度を高くすることができ、測定時間、鏡の分割方向による影響、測定精度、光線利用効率のいずれについても性能の良好な段差解析手法となり得る可能性を有している。また、分割鏡の傾きは回折パターンに影響を与えるため、スリット干渉方式では分割鏡の傾きを検出できる可能性もある。従来技術として、スリット干渉方式を使用して、分割鏡からなる主鏡を有する望遠鏡の分割鏡の測定を行う方法がある(特許文献1)。その従来技術では、多色光のソースを使用して、2つの開口部を有するマスクを光軸に挿入し、それを通過した光を測定することにより、分割鏡の位置の測定を行っている。しかし、その従来技術は、段差ゼロ時の干渉縞位置を正確に特定することができるものではない。また、分割鏡の傾きを特定することもできない。またこの従来技術の改良として、マスクに平行な4つの開口部を設け、それぞれに位相板を挿入することで測定精度の向上を図った技術がある(非特許文献1)。しかし、その技術では、単色の光源を前提とするため段差の測定範囲は半波長以下に制限され、また多波長化するにも、一般的に位相板には波長依存性が存在するため、測定範囲の拡大は困難である。また、その技術でも結局のところ段差ゼロ時の干渉縞位置はキャリブレーション等の別の手段で決定する必要があるため、環境変動があれば精度を維持することはできない。本発明は、段差ゼロ時の干渉縞位置を精度よく決定することができ、また、所定の条件の場合には分割鏡の傾きも特定することができるように、従来のスリット干渉方式を改良するものである。
【0005】
スリット干渉方式では、反射望遠鏡1は、複数の分割鏡10と副鏡20を含む主光学系を有し、結像レンズ系(図示せず)、段差解析機構11を含んでいる。段差解析機構11は、マスク30、検出器40を含んでおり、マスク30のスリットを通過した光の回折パターンが検出器40上に投影される。反射望遠鏡1に入射した光を、結像レンズ系中あるいは結像レンズ系の直前に備えられた、図1に示すようなスリットを有するマスク30で遮り、対向する2つのスリットのペアを通った光の回折パターンがお互いに干渉することによって干渉縞を含む回折パターン50を撮像面である検出器40上に発生させる。その干渉縞の領域の強度最大部(「干渉縞のピーク」と呼ぶ)は、分割鏡10のペアのそれぞれの分割鏡10の段差の大きさに応じて位置が移動する。従って、干渉縞のピークの位置から、2つの分割鏡10の段差の大きさを解析することができる。干渉縞は波長のオーダーの段差の大きさの変化により、位相が揃って強度が高くなる部分(及び位相が反対で強度が低くなる部分)が移動するため、波長のオーダーの段差の存在を解析することが可能となる。図1の右の部分には、円形のマスク30上に、例として3つ示した分割鏡10の分割鏡像に対応する位置において、対向する2辺のそれぞれの近傍にその辺に平行に配置するようなパターンでスリットが形成されていることが示されている。このように、スリットは、分割鏡のペアのそれぞれの分割鏡像の位置において、分割鏡10の分割鏡像の対向する辺の近傍において、その辺に平行に形成される。図1の右下の部分には、段差の大きさに応じて回折パターン50の位置が移動することが示されている。図1の回折パターン50の3つの像は、それぞれ、段差の大きさが150nm、450nm、1μmの場合を示している。段差が大きくなるにつれて、図において矢印で示した干渉縞のピークが上部に移動している。スリット干渉方式では、このような移動量を検出することにより、段差の大きさを解析する。しかし、上下方向(回折パターンの伸びる方向)の移動量の基準となるような、回折パターン50とは別のパターンが存在しないため、回折パターン50の移動量を正確に特定することは難しい。そのため、段差の大きさを正確に測定することも難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】米国特許第5146072号
【非特許文献】
【0007】
【文献】Alan Wertheimer他1名、「High-accuracy white-light optical piston sensor for segmented optics」、104/Proceedings of SPIE Vol. 1755 Interferometry: Techniques and Analysis、The International Society for Optical Engineering、1993年2月5日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述のように、従来のスリット干渉方式では、干渉縞のピークの移動量を特定するための上下方向の基準が存在しない。干渉縞を有する回折パターンは1本の直線であるため、それが上下方向に移動しても、その移動量を正確に検出することが難しい。検出器40上の絶対位置で干渉縞のピークがどの程度移動したかを特定することもある程度は可能であるが、熱環境や振動等の種々の要因により、干渉縞の発生位置は変動することがあるため、正確な移動量の特定は難しい。このように、スリット干渉方式における、干渉縞の位置の正確な測定は難しく、従って、分割鏡の段差が小さくなるように調整することも難しいという問題が存在していた。本発明は、回折パターンに含まれる干渉縞のピークの移動量の基準とすることができるような別の回折パターンを発生させることにより、そのような課題を解決するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、主鏡が複数の分割鏡で構成される望遠鏡の分割鏡のペアの段差の大きさを解析するための装置において、主鏡の光軸の中で分割鏡のそれぞれを投影した分割鏡像が重ならない所定位置に光軸に直交して配置されるマスクであって、分割鏡像のそれぞれの位置において、分割鏡のペアのそれぞれの分割鏡像の境界の近傍に所定の間隔を開けてお互いに平行な対向する主スリットが形成されているマスクを含み、そのマスクには、それぞれの主スリットのペアのそれぞれに対して、それに所定の角度を有する少なくとも1つの基準スリットが配置されている、ことを特徴とする。基準スリットは、主スリットに対して所定の角度を有し、主スリットのペアのいずれか1つの主スリットの近傍に形成された補助スリットとすることもできる。また、基準スリットは、主スリットが配置されている境界の近傍の他の境界に沿って配置された他の主スリットとすることもできる。
補助スリットは、主スリットに対して直角の角度を有するように構成できる。補助スリットは、お互いに平行な2つのスリットとすることができる。主スリットは、分割鏡像の境界に沿って形成されており、基準スリットは、主スリットが配置されている境界と異なる他の境界に沿って配置された他の主スリットとすることもできる。
主スリットは、分割鏡像の境界に平行ではない所定の角度を有するように形成されており、基準スリットは、主スリットが配置されている境界と異なる他の境界の近傍に当該他の境界に平行ではない所定の角度を有するように配置された他の主スリットとすることができる。この場合、対向する主スリットのすべてのペアの方向は、異なる角度で交差、あるいは単一の角度の整数倍で交差するように構成できる。
また本発明は、主鏡が複数の離間された分割鏡で構成される望遠鏡の分割鏡のペアの段差の大きさを解析するための装置において、主鏡の光軸の中で分割鏡のそれぞれを投影した分割鏡像が重ならない所定位置に光軸に直交して配置されるマスクを含み、そのマスクには、分割鏡像のそれぞれの位置において、分割鏡のペアのそれぞれの分割鏡像に所定の横方向距離を開けてお互いに平行に所定の長手方向距離だけ離間させて配置された主スリットが形成されていることを特徴とすることもできる。
本発明は、それぞれの分割鏡像が重ならない所定位置は、望遠鏡の瞳面であるように構成できる。本発明は、主鏡の焦点面の中心の光を通過させるピンホールを有する焦点面マスクを有するように構成できる。本発明は、主スリットのペアのそれぞれの中心線と基準スリットの中心線との交点のそれぞれに対応して配置されたレンズの配列を含む結像レンズ系をさらに有するように構成できる。
本発明は、補助スリットがお互いに平行な2つのスリットである、主鏡が複数の分割鏡で構成される望遠鏡の分割鏡のペアの段差の大きさを解析するための装置を用いて、主鏡が複数の分割鏡で構成される望遠鏡の分割鏡のペアの段差を解消させる方法であって、検出器で、主スリット及び補助スリットによって発生したそれぞれの回折パターンの画像を取得し、主スリットの回折パターンの干渉縞のピークが、それぞれの回折パターンの交点に来るように分割鏡の段差を調整し、補助スリットの回折パターンと主スリットの回折パターンとの交点のピークが、主スリットの回折パターンの中心線上に来るように分割鏡の傾きの角度を調整することを特徴とすることもできる。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、分割鏡像が重ならない所定位置に光軸に直交して配置されるマスクにおいて、主スリットに対して平行でない所定の角度を有する基準スリットを設け、基準スリットからの回折パターンを主スリットからの回折パターンに重畳させることにより、主スリットの回折パターンの干渉縞の移動量を干渉縞のピークに基づいて特定するための基準となる交点を形成し、干渉縞の移動量を正確に特定することができ、分割鏡の段差を正確に求めることができるという効果を有する。また本発明は、基準スリットが2つの補助スリットである場合は、補助スリットからの回折パターンにも干渉縞を発生させて主スリットの回折パターンとの交点の強度最大部(「交点のピーク」と呼ぶ)を形成させることにより、主スリットの回折パターンの中心線からの交点のピークのずれ、すなわち補助スリットからの回折パターンのずれを特定することにより、分割鏡の傾きを正確に求めることができるという効果も有する。また本発明は、基準スリットが他の主スリットである場合は、全体のスリットの数を減少させることができ、観測すべき回折パターンの交点の数も減少させることができる、という効果も有する。また本発明は、基準スリットが他の主スリットであり、すべての主スリットのペアの方向が異なる角度となるようにすると、どの主スリットのペアを通過した回折パターン(干渉縞)も重なることがない、という効果を有する。また、本発明は、主スリットのペアのそれぞれの主スリットを、分割鏡のペアのそれぞれの分割鏡像に所定の横方向距離を開けてお互いに平行であり所定の長手方向距離だけ離間させて配置し、ある主スリットの基準スリットを他の主スリットとすると、分割鏡がお互いに離間された配置されていても、それらの分割鏡像のペアから干渉縞を有する干渉パターンを発生させて干渉縞のピークを形成させ、干渉縞の移動量を正確に特定することができ、分割鏡の段差を正確に求めることができる、という効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】従来の反射望遠鏡1の全体構成を示す図である。
図2】反射望遠鏡100に適用される本発明の概念を示す図である。
図3】分割鏡10の構成を示す図である。
図4】反射望遠鏡100の光学系の構成を表わす部分的側面図である(マスク30を瞳面に配置した場合)。
図5】反射望遠鏡100の光学系の構成を表わす部分的側面図である(ピンホールを有する焦点マスクを焦点面に配置した場合)。
図6】マスク30上のスリットの配置の一例を拡大して表わす図である(補助スリットが1つの場合)。
図7】マスク30上のスリットの配置の一例を拡大して表わす図である(補助スリットが2つの場合)。
図8】マスク30上のスリットの配置の一例を表わす図である(補助スリットが1つの場合)。
図9】マスク30上のスリットの配置の一例を表わす図である(補助スリットが2つの場合)。
図10】マスク30上のスリットの配置の一例を表わす図である(基準スリットが他の主スリットの場合)。
図11】回折パターンのためのレンズ26の配列の例を示す図である(基準スリットが補助スリットの場合)。
図12】回折パターンのためのレンズ26の配列の例を示す図である(基準スリットが他の主スリットの場合)。
図13】スリットの設計例及び回折パターンの例を表わす図である(補助スリットが1つの場合)。
図14】スリットの具体的な設計例及び回折パターンの例を表わす図である(補助スリットが1つの場合)。
図15】分割鏡段差の大きさを変化させた場合のスリットの回折パターンの例を表わす図である(補助スリットが1つの場合)。
図16】スリットの具体的な設計例及び回折パターンの例を表わす図である(補助スリットが2つで、主鏡に傾きがない場合)。
図17】スリットの具体的な設計例及び回折パターンの例を表わす図である(補助スリットが2つで、主鏡に傾きがある場合)。
図18】スリットの具体的な設計例及び回折パターンの例を表わす図である(基準スリットが他の主スリットの場合)。
図19】段差及び傾きを調節するための動作の動作フロー図である。
図20】マスク30上のスリットの配置の一例を表わす図である(回転型主スリット)。
図21】回転型主スリットの回折パターンの例を表わす図である。
図22】マスク30上のスリットの配置の一例を表わす図である(分布型主スリット)。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(本発明の概念)
図2は、本発明の概念を示す図である。従来の反射望遠鏡1に本発明に係る段差解析機構を組み込んだものが反射望遠鏡100である。反射望遠鏡100は、複数の分割鏡10と副鏡20(図1に図示)を含む主光学系を有し、結像レンズ系(図示せず)、段差解析機構110を含んでいる。この実施形態における分割鏡10は、前述した、図3に示す構成を有している。段差解析機構110は、マスク30、検出器40を含んでおり、マスク30のスリットを通過した光の回折パターンが検出器40上に投影される。回折パターンは、スリットに直交する方向に広がるように発生する。図2においては、円形のマスク30上に、例として3つ示した分割鏡10の像に対応する位置において、対向する2辺のそれぞれの近傍にその辺に平行に配置するようなパターンで主スリット32が形成されており、さらに、主スリット32に対して直角の角度を有し、主スリット32のペアの右側の主スリット32がある分割鏡像中でその主スリット32の近傍に補助スリット33が形成されていることが示されている。図2の右側には、そのようなマスク30のスリットを通過した光により形成される回折パターンが示されている。回折パターン51は主スリット32の回折パターンであり、干渉縞が形成されている。回折パターン52は、補助スリット33の回折パターンであり、これは、回折パターン51と直交して交わっており、交点を形成している。このように、主スリット32の回折パターンと交わって交点を形成する回折パターンが存在すると、その交点を基準にして主スリット32の回折パターンの干渉縞の移動量を正確に特定することができる。そのような基準となる交点を作る回折パターンを生じさせるスリットを基準スリットと呼ぶことにする。補助スリット33は基準スリットの一例である。回折パターンの干渉縞の移動量を正確に特定することによって、分割鏡10の段差の大きさを正確に求めることができる。なお、回折パターン及び干渉縞はスリットに直交する方向に広がるように発生するため、図2で上下方向に向いているように描かれている主スリット32からの回折パターン51は、実際には横方向に広がることになる。補助スリット33と、それからの回折パターン52との関係も同様である。
【0013】
(本発明の構成)
これから図面を参照し、本発明に係る構成を説明する。図4は、反射望遠鏡100の光学系の構成を表わす部分的側面図である。図4には、マスク30を瞳面に配置した場合が示されており、まず、この構成について説明する。反射望遠鏡100に入射した光は、結像レンズ系中あるいは結像レンズ系の直前に備えられた、スリットを有するマスク30で遮られ、対向する2つのスリットのペアを通った光の回折光がお互いに干渉することによって回折パターン50を撮像面である検出器40上に発生させる。検出器40は、CCDイメージセンサ、CMOSイメージセンサなどの撮像素子とすることができ、マスク30の後方に配置されて像が投影され、その像の画像によって回折パターンや干渉縞が観測される。マスク30は典型的には円形の金属や樹脂などで製作されたプレートにスリットを設けたものである。
【0014】
マスク30は、主鏡の光軸の中で分割鏡10のそれぞれを投影した分割鏡像が重ならない所定位置に光軸に直交して配置される。マスク30は、結像レンズ系側から見て分割鏡自身の分割鏡像が存在する位置、すなわち、瞳面に配置することができる。このような位置にマスク30を配置すると、それぞれの分割鏡10を通過した光がマスク30上でお互いに重ならずに分割鏡10自身の像である分割鏡像を形成するため、マスク30上のそれぞれの分割鏡10の分割鏡像内にスリットを設ければ、1つの分割鏡10からの光のみをそのスリットを通過させることができる。
【0015】
マスク30を瞳面に配置することに代えて、分割鏡10の焦点の位置に中心部などの所定の位置の光のみを通過させるピンホールを備えた焦点マスク22を置き、マスク30を焦点マスク22の後方の適当な位置に置くこともできる。図5は、ピンホールを有する焦点マスク22を焦点面に配置した場合の、反射望遠鏡100の光学系の構成を表わす部分的側面図である。この場合、焦点マスク22を通過した後にそれぞれの分割鏡10を通過した光が重なることがないため、マスク30を焦点マスク22の後方の任意の位置に配置しても、分割鏡10のそれぞれを投影した分割鏡像は重ならない。また、図4及び図5においては、2枚鏡タイプの望遠鏡を例にしているが、3枚鏡以上の望遠鏡を使用することもできる。3枚鏡タイプの場合、例えばKorsch 光学系などは望遠鏡が瞳面を有しているため(3次鏡と像面の間)、そこにスリットを有するマスクを設ければ、結像レンズは不要である。
【0016】
図4に戻る。焦点面21は分割鏡10の焦点に存在する仮想の面であり、ここに無限遠にある対象物の像が結像する。図4の例では、焦点面21には、何らかの構成を配置する必要はない。レンズ25とレンズ26とで結像レンズ系が構成されており、対象物を観測する(マスク30が存在しない)状態では、焦点面21に存在する対象物の像が結像レンズ系により検出器40上に投影される。すなわち、結像レンズ系は、焦点面21にある像を検出器40上に結像させる。段差解析機構110は、マスク30及び検出器40から構成されており、それを結像レンズ系に対して適切な位置に配置して使用される。この例では、マスク30は、レンズ25とレンズ26との間に存在する瞳面に配置されている。マスク30のスリットを通過した光の回折パターンが検出器40上に投影される。なお、反射望遠鏡100は、段差解析を行わない通常の観測時においては、段差解析機構110のマスク30を含まない構成からなり、観測対象からの光が主光学系の焦点において結像し、結像レンズ系によって検出器40上に投影されて観測される。マスク30は、主鏡の光軸の中で分割鏡10のそれぞれを投影した分割鏡像が重ならない所定位置の位置に配置されることによって、段差解析機構110が構成される。その際には、必要により、結像レンズ系の構成や位置、検出器40の位置などを調節することも可能である。あるいは、反射望遠鏡1の観測用の結像レンズ系を、マスク30を組み込んだ段差解析用の結像レンズ系で置き換え、それと検出器40との組み合わせにより段差解析機構110を構成させてもよい。またあるいは、ハーフミラーなどで光路を分岐し、通常観測を行う光学系と段差解析を行う光学系を併用する構成としてもよい。
【0017】
図5の例では、主鏡の焦点面に焦点マスク22が配置される。光軸中心の光のみを通す焦点マスク22があることで、レンズ25で平行光となった直後からお互いに重ならない分割鏡像が形成される。そのため、マスク30はレンズ25の後方の適当な位置に配置することができ、またレンズ25とレンズ26の間隔も狭めることができる。
【0018】
(主スリット)
図6は、補助スリットが主スリットに対して1つの場合の、マスク30上のスリットの配置の一例を拡大して表わす図である。図6を参照して主スリットの構成を説明する。マスク30上の分割鏡10のペアのそれぞれの分割鏡像の位置(分割鏡像の範囲内の位置)において、分割鏡10のペアのそれぞれの分割鏡像の境界の近傍に境界に沿って所定の間隔を開けてお互いに平行な対向する主スリット32が配置され、主スリット32のペアを形成する。なお、この実施形態では、主スリット32は境界に沿って(平行に)配置されているが、主スリット32のペアが平行であれば、主スリット32は必ずしも境界に沿って配置する必要はない。ここで境界とは、対向する2つの分割鏡像において対向する2つの辺の間の中心線のことを意味するものである。隣接する分割鏡像のペアにおいて、分割鏡像内において分割鏡像の境界の近傍にスリットを配置することは、分割鏡像のペアの対向する辺の近傍にそれぞれスリットを配置することとなる。これによって、境界を挟んで対向する主スリット32のペアが形成される。対向する主スリット32は、所定の間隔を開けて配置される。ここで「間隔(spacing)」とは、ペアを形成する2つの主スリット32のそれぞれについて、スリットの中心を通り長辺に平行な直線同士を結ぶ垂線の長さに相当するものであり、それらの2つの直線からなる平行線の「距離(distance)」に相当する長さである。「間隔」は、平行線を横切る方向の距離であるため「横方向距離(transverse distance)」と表現することも可能である。なお、主スリットのペアが対向することなく平行な方向に離間される後述の分布型主スリットにおいては、平行な方向の離間距離のことを「長手方向距離(longitudinal distance)」と呼ぶ。分布型主スリットにおいては、「間隔」を「長手方向距離」と混同することがないように、「間隔」を「横方向距離」と表現することとする。なお、主スリット32のペアは、好適には、同じ長さや幅を有している。分割鏡10が六角形であれば、2つの分割鏡10の六角形の分割鏡像の対向する2辺がほぼ境界の位置にあるため、そのそれぞれの辺の近傍に、その辺に平行な主スリット32を配置する。図6には、分割鏡10a、10b、10c、10fのそれぞれの分割鏡像31a、31b、31c、31fが破線で示されている。そのそれぞれの分割鏡像の境界に沿って、すなわち、六角形の辺に沿って主スリット32が形成されている。なお、分割鏡が、円形と、それを囲む分割したリングとからなる形状の場合は、円形と分割したリングの境界は曲線となるが、その曲線の接線方向に主スリット32が伸びるように形成するとよい。主スリット32をそのように形成することにより、2つの分割鏡10のそれぞれからの光をそれぞれ特定の1つの主スリット32のみを通過させ、かつ、対向する主スリット32のペアのそれぞれを通過して回折により広がった光による回折パターンをお互いに干渉させて、干渉縞のような干渉パターンを発生させることができる。その干渉縞は、分割鏡10のペアのそれぞれの分割鏡10の段差の大きさに応じて位置が移動する。従って、干渉縞の移動量は、干渉縞のピークの位置を観察することにより、正確に特定できる。なお、後述するスリットの設計例で示すように、干渉縞の周期は、主スリット32のペアの間隔に反比例する。そのため、主スリット32のペアの所定の間隔が大きいと、干渉縞の周期が短くなって干渉縞が不明瞭となり、観察しにくくなり、干渉縞の移動量を特定しにくくなる。従って、観察可能な程度の明瞭な干渉縞を生じさせるためには、スリットに平行な主スリット32のペアの所定の間隔を小さい適切な値(例えば1mm前後程度)にする必要がある。
【0019】
(回転型主スリット)
主スリット32は、典型的には、分割鏡像の対向する2辺(あるいは分割鏡像の境界)に沿って(平行に)配置されることによって、主スリット32のペアはお互いに平行に配置される。しかし、主スリット32のペアが平行であれば、それらの主スリット32のペアを通過した光から干渉パターンを得ることができるため、それぞれの主スリット32は、分割鏡像の辺(あるいは分割鏡像の境界)に必ずしも平行である必要はない。そのような、分割鏡像の辺(あるいは分割鏡像の境界)に平行ではない所定の角度を有するように形成された主スリットを、「回転型主スリット」と呼ぶことにする。回転型主スリットでは、どの主スリットのペア同士も互いに平行とはならないように配置することができ、それによって、すべての干渉パターンが角度方向に分離した回折パターンを得ることができる。図20には、回転型主スリットの配置の一例が示されている。回転型主スリットの基準スリットは、その回転型主スリットが近傍に配置されている境界と異なる他の境界の近傍に、当該他の境界に平行ではない所定の角度を有するように形成された他の回転型主スリットである。なお、分割鏡像の辺に平行な主スリット32は、回転型主スリットの特殊な場合と考えることができる。
【0020】
(分布型主スリット)
主スリット32は、典型的には、間隔が小さい位置に平行に配置された他の主スリットと対向してペアを形成するものである。それらは「対向」しているため、1つの主スリット32の中心部から伸ばした垂線上にペアを形成する他の主スリット32の中心部が存在するように配置される。そして、それぞれの主スリット32のペアの回折パターンが干渉して干渉パターン(干渉縞)を生じさせる。しかし、干渉縞を生じさせるためには、必ずしもスリットのペアが対向している必要はない。2つのスリットが平行であり、それらのスリットの所定の間隔(横方向距離)が小さい値であれば、その2つのスリットが対向しておらず、スリットに平行な方向(長手方向)に離れていても、観察できる程度の周期の干渉縞を生じさせることができる。分割鏡像のペアの辺が隣接しておらず、お互いに離間されて配置されている場合は、主スリットを対向させて配置しようとすれば、主スリットのペアの間隔が非常に大きくなり、観察可能な干渉縞を発生させることができない。この場合、スリットに平行な方向にスリットを離すように配置する一方で、スリットのペアの間の間隔(横方向距離)を所定の小さい値のままとすることで、観察可能な干渉縞を発生させることができる。このような主スリットは、長手方向に分布させられてペアを形成するものであるため、「分布型主スリット」と呼ぶことにする。図22には、分布型主スリットの配置の一例が示されている。分布型主スリットは、分割鏡のペアのそれぞれの分割鏡像に所定の横方向距離を開けてお互いに平行に所定の長手方向距離だけ離間させて配置されるように、それぞれの分割鏡像に形成される。通常、長手方向距離は、それら2つの分割鏡像の中心の距離に相当する。分割鏡像が六角形のような多角形であり、ペアを形成する分割鏡像のそれぞれが、主鏡の中心部に近い位置に、同一の直線上にある辺を有する場合、好適には、分布型主スリットは、分割鏡像の辺に平行に配置することによって分割鏡像の辺の近傍に形成される。このようにすると、分布型主スリットのペアのそれぞれの方向は、典型的には、異なる角度で交差している。そのスリットに平行な方向に離間する距離である長手方向距離は、1つの主スリットの中心点から、ペアを形成する他の主スリット(あるいは、その主スリットの中心線を含む直線)に垂線を引いたときに、その垂線の交点と当該他の主スリットの中心点との間の距離に相当する。主スリットのペアが「対向」している場合は、分布型主スリットにおいて、「長手方向距離」がゼロである特殊な場合と考えることができる。
【0021】
(基準スリット)
基準スリットは、主スリットからの回折パターンに対して平行ではない角度を持って交わり交点を形成するような回折パターンを生じるようなスリットである。すなわち、主スリット(あるいは主スリットのペア)の方向に対して、平行ではない、所定の角度を有するスリットであって、回折パターンがお互いに交わるようなスリットである。基準スリットによる回折パターンは、主スリットによる回折パターンに対して、基準スリットの主スリット32に対する角度と同じ角度で交差する。マスク30に形成される基準スリットは、大きく分けて、(1)主スリットに対して所定の角度を有し、主スリットのペアのいずれか1つがある分割鏡像中において、主スリットの近傍に形成された補助スリット、(2)主スリット(あるいは同じ干渉パターンを生じさせる主スリットの対向するペア)が配置されている境界と異なる他の境界の近傍に配置された、前記の主スリットに対して所定の角度を有する他の主スリット(あるいは同じ干渉パターンを生じさせる他の主スリットの対向するペア)、とすることができる。基準スリットが主スリットである場合、それを回転型主スリットや分布型主スリットとすることもできる。また、補助スリットについては、1つの主スリット(あるいは同じ干渉パターンを生じさせる主スリットの対向するペア)に対して、1つ形成する場合と、2つ形成する場合とがある。以下、それらについて説明する。
【0022】
(基準スリットの構成-1つの補助スリットの場合)
図6は、補助スリットが主スリットに対して1つの場合の、マスク30上のスリットの配置の一例を拡大して表わす図である。図8は、補助スリットが主スリットに対して1つの場合の、マスク30上のスリットの配置の一例を表わす図である。図6及び図8には、分割鏡10a、10b、10c、10d、10e、10fのそれぞれの分割鏡像31a、31b、31c、31d、31e、31fが破線で示されている(図6においては、分割鏡像31d、31eの図は省略されている)。分割鏡像は、分割鏡の配置を180°回転させたものとなるが、説明のため、図では、下部に投影される分割鏡像が上部にあるように記載している。
【0023】
図6を参照し、マスク30における、分割鏡像31aの位置のスリットと分割鏡像31bの位置のスリットについて説明する。分割鏡像31aにおいては、分割鏡像31bと対向する辺の近傍の位置にその辺に平行に主スリット32a1が形成され、その主スリット32a1に対して直角の角度で分割鏡像31aの内側に伸びる位置に補助スリット33a1が形成される。図においては、主スリット32は、六角形の分割鏡像の辺の長さに近い長さとして描いているが、その長さは、それより短くてもよい。補助スリットは、主スリットと平行でない所定の角度で形成されれば、直角でなくともよい。補助スリット33a1は、好適には、主スリット32a1の中心付近に配置される。主スリット32a1と対向する分割鏡像31bの主スリット32b3の側には補助スリットは形成されない。さらに分割鏡像31aにおいて、分割鏡像31gと対向する辺の近傍の位置に主スリット32a2が形成され、その主スリット32a2に対して直角の角度で分割鏡像31aの内側に伸びる位置に補助スリット33a2が形成される。主スリット32a2と対向する分割鏡像31gの主スリット32g6の側には補助スリットは形成されない。またさらに分割鏡像31aにおいて、分割鏡像31fと対向する辺の近傍の位置に主スリット32a3が形成される。主スリット32a3と対向する分割鏡像31fの主スリット32f1の側に補助スリット33f1が形成されているため、主スリット32a3には補助スリットは形成されない。
【0024】
分割鏡像31bにおいては、分割鏡像31aと対向する辺の近傍の主スリット32a1と対向する位置に主スリット32a1と平行に主スリット32b3が形成される。主スリット32b3と対向する分割鏡像31aの主スリット32a1の側に補助スリット33a1が形成されているため、主スリット32b3には補助スリットは形成されない。さらに分割鏡像31bにおいて、分割鏡像31cと対向する辺の近傍の位置に主スリット32b1が形成され、その主スリット32b1に対して直角の角度で分割鏡像31bの内側に伸びる位置に補助スリット33b1が形成される。主スリット32b1と対向する分割鏡像31cの主スリット32c3の側には補助スリットは形成されない。またさらに分割鏡像31bにおいて、分割鏡像31gと対向する辺の近傍の位置に主スリット32b2が形成され、その主スリット32b2に対して直角の角度で分割鏡像31bの内側に伸びる位置に補助スリット33b2が形成される。主スリット32b2と対向する分割鏡像31gの主スリット32g1の側には補助スリットは形成されない。
【0025】
図8には、すべての分割鏡像31a、31b、31c、31d、31e、31fと全ての主スリットと補助スリットの位置関係が示されている。補助スリットは、対向する主スリットのペアに対して1つ存在すればいいため、いずれの主スリットの側に形成されていてもよい。
【0026】
(基準スリットの構成-2つの補助スリットの場合)
図7は、補助スリットが主スリットに対して2つの場合の、マスク30上のスリットの配置の一例を拡大して表わす図である。図9は、補助スリットが主スリットに対して2つの場合の、マスク30上のスリットの配置の一例を表わす図である。図7及び図9には、分割鏡10a、10b、10c、10d、10e、10fのそれぞれの分割鏡像31a、31b、31c、31d、31e、31fが破線で示されている(図7においては、分割鏡像31d、31eの図は省略されている)。
【0027】
図7を参照し、マスク30における、分割鏡像31aの位置のスリットと分割鏡像31bの位置のスリットについて説明する。分割鏡像31aにおいては、分割鏡像31bと対向する辺の近傍の位置に主スリット32a1が形成され、その主スリット32a1に対して直角の角度で分割鏡像31aの内側に伸びる位置に2つの補助スリット34a1及び34a2が形成される。補助スリット34a1及び34a2はお互いに平行であり、対向している。補助スリット34a1及び34a2のペアは、好適には、同じ長さや幅を有している。主スリット32は、六角形の分割鏡像の辺の長さに近い長さとして描いているが、その長さは、それより短くてもよい。主スリット32a1と対向する分割鏡像31bの主スリット32b3の側には補助スリットは形成されない。さらに分割鏡像31aにおいて、分割鏡像31gと対向する辺の近傍の位置に主スリット32a2が形成され、その主スリット32a2に対して直角の角度で分割鏡像31aの内側に伸びる位置に2つの補助スリット34a3及び34a4が形成される。補助スリット34a3及び34a4は、好適には、その中点が、主スリット32a2の中心付近に配置される。主スリット32a2と対向する分割鏡像31gの主スリット32g6の側には補助スリットは形成されない。またさらに分割鏡像31aにおいて、分割鏡像31fと対向する辺の近傍の位置に主スリット32a3が形成される。主スリット32a3と対向する分割鏡像31fの主スリット32f1の側に2つの補助スリット34f1及び34f2が形成されているため、主スリット32a3には補助スリットは形成されない。
【0028】
分割鏡像31bにおいては、分割鏡像31aと対向する辺の近傍の位置に主スリット32b3が形成される。主スリット32b3と対向する分割鏡像31aの主スリット32a1の側に2つの補助スリット34a1及び34a2が形成されているため、主スリット32b3には補助スリットは形成されない。さらに分割鏡像31bにおいて、分割鏡像31cと対向する辺の近傍の位置に主スリット32b1が形成され、その主スリット32b1に対して直角の角度で分割鏡像31bの内側に伸びる位置に2つの補助スリット34b1及び34b2が形成される。主スリット32b1と対向する分割鏡像31cの主スリット32c3の側には補助スリットは形成されない。またさらに分割鏡像31bにおいて、分割鏡像31gと対向する辺の近傍の位置に主スリット32b2が形成され、その主スリット32b2に対して直角の角度で分割鏡像31bの内側に伸びる位置に2つの補助スリット34b3及び34b4が形成される。主スリット32b2と対向する分割鏡像31gの主スリット32g1の側には補助スリットは形成されない。
【0029】
図9には、すべての分割鏡像31a、31b、31c、31d、31e、31fと全ての主スリットと補助スリットの位置関係が示されている。2つの補助スリットは、対向する主スリットのペアに対して1つ存在すればいいため、いずれの主スリットの側に形成されていてもよい。
【0030】
(基準スリットの構成-他の主スリットの場合)
図10は、基準スリットが他の主スリットの場合の、マスク30上のスリットの配置の一例を表わす図である。図10には、分割鏡10a、10b、10c、10d、10e、10fのそれぞれの分割鏡像31a、31b、31c、31d、31e、31fが破線で示されている。基準スリットは、主スリット(あるいは同じ干渉パターンを生じさせる主スリットの対向するペア)が配置されている境界の近傍の他の境界に沿って配置された他の主スリット(あるいは同じ干渉パターンを生じさせる他の主スリットの対向するペア)である。主スリットが配置されている境界の近傍の他の境界とは、好適には、主スリットが配置されている境界に隣接しているがそれと平行ではない他の境界である。この場合、六角形の分割鏡像31においては、主スリットと、基準スリットとなる他のスリットとは、それぞれ連続した2辺に対応する位置に存在することになる。いずれの分割鏡像も、それと隣接する他の分割鏡像との境界を挟んで平行な対向する主スリットを有している。この例では、主スリットは、3つの分割鏡像の間の3つの境界の交点に対して回転対称な位置で配置している。主スリットは、分割鏡像の1つの辺の両側に1つずつ設ければよいが、この例では、図12に関して後述する結像レンズ系の6つのレンズの配置に合わせて、分割鏡像の1つの辺に対して、1つ又は2つの短い主スリットを、3つの分割鏡像の間の3つの境界の交点の近傍に設けている。このように、3つの主スリットのペアを回転対称な位置に配置することにより、それらからの3つの干渉パターンを交差させることができる。分割鏡像31aにおいては、分割鏡像31bと対向する辺の近傍の位置にその辺に平行に主スリット32a1が形成され、分割鏡像31bには、主スリット32a1に対向する位置に主スリット32b4が形成される。主スリット32a1と主スリット32b4のペアにより、干渉縞を生じる回折パターンが形成される。分割鏡像31aと分割鏡像31bの境界の隣の境界としては、分割鏡像31bと分割鏡像31gの境界、及び分割鏡像31aと分割鏡像31gの境界が存在する。これらの境界に沿って配置された主スリットは、主スリット32a1と主スリット32b4に対して120度の角度を有しているため、お互いの干渉パターンは基準となる交点を形成する。
【0031】
分割鏡像31bと分割鏡像31gの境界には、主スリット32b3と主スリット32g1のペアが存在し、これが、主スリット32a1と主スリット32b4のペアに対する基準スリットとなる。なお、分割鏡像31bと分割鏡像31gの境界には、主スリット32b2と主スリット32g2のペアも存在するが、これは、主スリット32a1と主スリット32b4のペアから距離が離れており、図12に関して後述する結像レンズ系の6つのレンズの内の異なるレンズを通ることになるため、主スリット32a1と主スリット32b4に対する基準スリットとしては使用しない。また、分割鏡像31aと分割鏡像31gの境界には、主スリット32a2と主スリット32g12のペアが存在し、これが、主スリット32a1と主スリット32b4のペアに対する基準スリットとなる。なお、分割鏡像31aと分割鏡像31gの境界には、主スリット32a3と主スリット32g11のペアも存在するが、これは、主スリット32a1と主スリット32b4のペアから距離が離れており、図12に関して後述する結像レンズ系の6つのレンズの内の異なるレンズを通ることになるため、主スリット32a1と主スリット32b4に対する基準スリットとしては使用しない。この例では、1つの主スリットのペアは、それの基準スリットとして、隣接する2つの主スリットのペアを有することになる。このように基準スリットを他の主スリットとすると、全体のスリットの数を減らすことができ、また、観察すべき回折パターンの交点の数も減らすことができる。ここで説明した例においては、基準スリットとして補助スリットを使用した場合は、そのような交点は12カ所であるが、基準スリットとして他の主スリットを使用した場合は、そのような交点は6カ所となる。
【0032】
(基準スリットの構成-回転型主スリット)
図20は、基準スリットが回転型主スリットの場合の、マスク30上のスリットの配置の一例を表わす図である。図20には、分割鏡10a、10b、10c、10d、10e、10fのそれぞれの分割鏡像31a、31b、31c、31d、31e、31fが破線で示されている。なお、この例では、中央に開口部を有する分割鏡10gは使用されておらず、それに対応する分割鏡像31gも存在しない。すなわち、辺同士を対向させた6個の六角形の分割鏡10a、10b、10c、10d、10e、10fをその中心が正六角形を形成するように配置した分割鏡の構成となっている。マスク30上の分割鏡10のペアのそれぞれの分割鏡像内の位置において、分割鏡10のペアのそれぞれの分割鏡像の境界の近傍だが、それに平行ではなく、所定の角度だけ回転させられた、お互いに平行な対向する回転型主スリットが配置され、回転型主スリットのペアを形成する。ある回転型主スリットに対応する基準スリットは、他のいずれかの回転型主スリットである。回転後の回転型主スリットのペアは、そのいずれもが、他の回転型主スリットのペアとは平行にならないように配置される。すなわち、すべての回転型主スリットのペアの方向(長手方向が指す方向)は、それぞれ、異なる角度で交差している。このように配置することで、それぞれの回転型主スリットのペアを通過した光の回折パターンがお互いに重ならなくなる。従って、すべての回転型主スリットのペアのそれぞれに対して、他の回転型主スリットのペアが基準スリットとなり得るが、実質的には、交差する角度が90度に近い他の回転型主スリットのペアが基準スリットとなる。このように、すべての回転型主スリットのペアからの回折パターンが所定の角度で交差し、重なることはないため、後述のように、結像レンズ系を回折パターンの発生部位ごとに小さいレンズを配置したものとする必要がない。いずれの分割鏡像も、それと隣接する他の分割鏡像との境界を挟んで、お互いに平行だが境界に対して回転させられた回転型主スリットを有している。この例では、回転型主スリットは、6つの分割鏡像の内で、隣接する分割鏡像の6つの境界の両側に配置されている。分割鏡は6つであるため、それぞれの境界はお互いに60度の整数倍の角度で交差している。そのため、主スリットを境界に対して平行に(回転させず)に配置すると、2つの主スリットのペアからの回折パターンが重なることとなり、そのままでは区別できなくなる。このような状態を防止するために、回転型主スリットは、そのすべてが同じ角度とならないように、分割鏡像の境界から、交互に回転方向を変えて15度ずつ回転させている。このようにすることによって、すべての回転型主スリットのペアが30度の整数倍の角度で交差することとなる。そのため、それらから発生する回折パターンも、30度の整数倍の角度で交差することとなり、お互いに重なることはない。回転型主スリットが交差する角度は、観察できる程度に回折パターンが回転方向に分離する必要があり、後述するように、最低でも10度の角度で交差する必要がある。それらが、30度という単一の角度の整数倍の角度で交差するようにすると、すべての回転型主スリットの交差する最小の角度が等間隔となる。すなわち、回転型主スリットのペアは6つ存在するため、それらの方向が、180度/6=30度という単一の角度の整数倍で交差するように配置でき、このときに、すべての回転型主スリットのペアの方向が単一かつ最大の角度の整数倍で交差することになる。従って、すべての回転型主スリットのペアから得られる回折パターンを観察した場合に、それぞれの干渉縞のような干渉パターンの重なりを最小にでき、最も、精密に干渉縞を観察することができることになる。具体的には、分割鏡像31aにおいて、分割鏡像31bと対向する辺の近傍の位置にその辺に時計回りに15度回転させて回転型主スリット32a1rが形成され、分割鏡像31bには、回転型主スリット32a1rに対向する位置にそれに平行に回転型主スリット32b3rが形成される。回転型主スリット32a1rと回転型主スリット32b3rからなる回転型主スリットペア32p1により、干渉縞を生じる回折パターンが形成される。分割鏡像31bにおいて、分割鏡像31cと対向する辺の近傍の位置にその辺に反時計回りに15度回転させて回転型主スリット32b1rが形成され、分割鏡像31cには、回転型主スリット32b1rに対向する位置にそれに平行に回転型主スリット32c3rが形成される。回転型主スリット32b1rと回転型主スリット32c3rからなる回転型主スリットペア32p2により、干渉縞を生じる回折パターンが形成される。同様に、分割鏡像31cにおける回転型主スリット32c1rと分割鏡像31dにおける回転型主スリット32d3rとからなる時計回りに15度回転させられた回転型主スリットペア32p3、分割鏡像31dにおける回転型主スリット32d1rと分割鏡像31eにおける回転型主スリット32e3rとからなる反時計回りに15度回転させられた回転型主スリットペア32p4、分割鏡像31eにおける回転型主スリット32e1rと分割鏡像31fにおける回転型主スリット32f3rとからなる時計回りに15度回転させられた回転型主スリットペア32p5、分割鏡像31fにおける回転型主スリット32f1rと分割鏡像31aにおける回転型主スリット32a3rとからなる反時計回りに15度回転させられた回転型主スリットペア32p6、が形成される。それらのすべての回折パターンはお互いに重なることがなく、30度の整数倍の角度で交差している。このように基準スリットを他の回転型主スリットとすると、すべての回折パターンが同時に投影されるようにしても、それぞれの回折パターンの干渉縞を特定して、それの移動量を干渉縞のピークの位置を観察することにより正確に特定できる。従って、後述するような結像レンズをそれぞれの主スリットペアに対応する小さいレンズの集合とした構成を採用する必要がない。
【0033】
(基準スリットの構成-分布型主スリット)
図22は、基準スリットが分布型主スリットの場合の、マスク30上のスリットの配置の一例を表わす図である。分布型主スリットは、それと平行な方向において離間した位置にあるが、間隔(それぞれのスリットの中心線を含む平行線同士の距離である横方向距離)が観測可能な干渉縞を生じさせる程度に小さいような、対応する他の分布型主スリットを有する、分割鏡像内において分割鏡の辺の近傍にその辺に平行に形成されたスリットである。図22には、離間して配置された3つの六角形の分割鏡10a、10c、10eのそれぞれの分割鏡像31a、31c、31eが破線で示されている。この分割鏡の構成は、辺同士を対向させた6個の六角形の分割鏡10a、10b、10c、10d、10e、10fをその中心が正六角形を形成するように配置したものから、1つ置きに分割鏡を省略した構成となっている。それぞれの分割鏡像は、その形状の六角形の1辺以上の距離を置いて離間しているため、平行な主スリットを対向させて配置すると、それらの間隔が大きくなり、干渉縞の周期が極めて小さくなって実質的に観測できなくなる。分布型主スリットは、そのような状況を防止するため、主スリット同士の間隔(横方向距離)を小さく保ったまま、長手方向距離を大きくすることによってペアのそれぞれを離間して配置した主スリットである。分割鏡像31aと分割鏡像31cにおいて、分割鏡像31eの近くにあり、お互いに平行なそれぞれの辺の近傍に、それぞれ、分布型主スリット32a3dと分布型主スリット32c1dを、お互いの横方向距離が小さくなる位置に形成する。図において、分布型主スリット32a3dと分布型主スリット32c1dの間に示した一点鎖線は、それらの中点(横方向距離が等しい点)を通る、スリットに平行な基準線である。基準線は、分布型主スリット32a3dと分布型主スリット32c1dの、スリットが近傍に形成された辺に平行である。この場合、分割鏡像同士は近距離で対向しているものではないため、それらの分割鏡像の間の境界は観念できない。しかし、基準線を挟んで基準線の近傍に主スリットのペアが形成されることは、分割鏡像が対向している場合の境界と同様である。図22においては、それぞれの分布型主スリットは、基準線を挟んで小さい横方向距離で離間された分布型主スリットのペアを分割鏡像のペアの位置(分割鏡像の範囲内の位置)に形成することができる範囲で、主鏡の中心部に近い位置に配置されている。
同様に、分割鏡像31cと分割鏡像31eにおいて、分割鏡像31aの近くにあり、お互いに平行なそれぞれの辺の近傍に、それぞれ、分布型主スリット32c3dと分布型主スリット32e1dを、お互いの横方向距離が小さくなる位置に形成する。さらに同様に、分割鏡像31eと分割鏡像31aにおいて、分割鏡像31cの近くにあり、お互いに平行なそれぞれの辺の近傍に、それぞれ、分布型主スリット32e3dと分布型主スリット32a1dを、お互いの横方向距離が小さくなる位置に形成する。これにより、分割鏡のペアのそれぞれの分割鏡像の辺の近傍に所定の間隔を開けてお互いに平行であり所定の長手方向距離だけ離間させて配置される分布型主スリットを、それぞれの分割鏡像に形成することができる。このように分布型主スリットを設けることで、お互いに長手方向距離が離れた位置に存在する分割鏡同士の段差の大きさを特定できるような干渉縞を回折パターンに生じさせることができる。
【0034】
(結像レンズ系)
干渉縞を含む回折パターンは、好適には、結像レンズ系によって検出器40に投影される。その際の結像レンズは、1枚のレンズであってもよいが、発生する干渉縞を含む回折パターンの発生部位ごとに小さいレンズを配置した構成とすると、それぞれの回折パターンを明確に分離させて検出器40に投影することができる。そのためには、結像レンズ系は、対向する主スリットのペアのそれぞれの中心線と基準スリットの中心線(基準スリットが2つの補助スリットの場合は、それらの中心線)との交点のそれぞれに対応して配置されたレンズの配列を含むとよい。このようにすると、それらのスリットを通過した光を、1つのレンズにより、それの周辺部を通過させることなく、投影することができるからである。図11は、基準スリットが補助スリットの場合の、回折パターンのためのレンズ26の配列の例を示す図である。この場合、12個のレンズの配列が必要である。図11には、破線でマスク30、分割鏡10の分割鏡像31、主スリット32が示されている。補助スリットは省略している。そして、主スリットのそれぞれのペアの位置にレンズ26が配置されている。具体的には、例えば、分割鏡像31aと分割鏡像31bの対向する辺の近傍にあるスリットの位置にレンズ26abが配置されている。他の分割鏡像についても同様である。なお、回転型主スリットの場合は、すべての回折パターンを分離させることができるため、回折パターンの発生部位ごとに小さいレンズを配置した構成を採用する必要はない。
【0035】
図12は、基準スリットが他の主スリットの場合の、回折パターンの発生部位ごとに小さいレンズを配置したレンズ26の配列の例を示す図である。この場合、6個のレンズの配列でよい。なお、分割鏡像の1つの辺に対して、1つ又は2つの短い主スリットを、3つの分割鏡像の間の3つの境界の交点の近傍に設けることより、主スリットを通過した光が、収差の多いレンズの周辺部を通過することを防止している。図12には、破線でマスク30、分割鏡10の分割鏡像31、主スリット32が示されている。そして、3つの分割鏡像の3つの境界の交点を中心にしてレンズ26が配置されている。具体的には、分割鏡像31aと分割鏡像31bと分割鏡像31gの共有頂点にレンズ26abgが配置されている。他の分割鏡像についても同様である。
【0036】
(スリットの設計例-1つの補助スリット)
これから、スリットの設計例、及びそれに対応する回折パターンを説明する。図13は、補助スリットが1つの場合の、スリットの設計例及び回折パターンの例を表わす図である。図13の(a)にはスリットパターンの例が示されている。第n番目のスリットについて、幅an、長さln、間隔dn(スリットがペアを形成する場合のそれらの間隔)とすると、幅anは各回折パターンの見える長さを決め、長さlnは明度に影響を与え、間隔dnは干渉縞の周期を決めるものである。2つの主スリット32は、それぞれ、幅がa1、長さがl1、お互いの中心線の間の間隔がd1である。そして補助スリット33は、幅がa2、長さがl2である。図13の(b)には、2つの分割鏡の段差の大きさが0.5μmの場合の回折パターンの例が示されている。縦に伸びる回折パターンは主スリットからの回折パターンであり、2つの主スリットからの回折パターンが干渉して干渉縞が発生している。横に伸びる薄い回折パターンは補助スリットからのものである。補助スリットは1つなので、干渉縞を有しない。λ0を光源の中心波長、Fをスリット後のレンズの焦点距離とすると、それぞれの回折パターンの長さは、
に比例している。そして干渉縞の周期は、
に比例している。また分割鏡の段差の大きさをΔZとすると、段差に起因する、スリットと直交する方向への干渉縞の移動量は、

と表される。
【0037】
(スリットの具体的設計例-1つの補助スリット)
図14は、補助スリットが1つの場合の、スリットの具体的な設計例及び回折パターンの例を表わす図である。図14の左側の図に示したスリットパターンにおいて、主スリット32a1及び32b1は、幅a1が50μm、長さl1が2.0mm、間隔d1が1.0mmである。また、補助スリット33は、幅a2が100μm、長さl2が1.0mmである。なお、補助スリット33は1つなので補助スリットが2つある場合の間隔d2は存在しない。光源の中心波長λ0が600nm、スリット後のレンズの焦点距離Fが300mm、主鏡系の焦点距離が50m、分割鏡段差の大きさが0.5μmとの条件の下、この設計例のスリットパターンによる回折パターンをシミュレーションで求め、図14の右側の図に示した。ここで、主スリット32a1及び32b1の回折パターンは干渉縞を形成しつつ縦に伸びてその長さは3.8mm、補助スリット33の各回折パターンは横に伸びてその長さは1.9mm、主スリット32a1及び32b1による干渉縞の周期は180μmである。干渉縞の周期は検出器の画素ピッチと光学系で決まる空間分解能程度までは小さくすることが可能であり、図14の場合は10μm程度までが目安となる。間隔d1を大きくすると、それに反比例して干渉縞の周期は小さくなるが、図14の例では、間隔d1は、1.0mmの十数倍程度まで大きくすることが可能である。補助スリット33の回折パターンは、補助スリットが1つであり、他の補助スリットからの回折パターンと干渉することがないため、干渉縞は作らずに、端に行くほど徐々に薄くなるパターンとなる。補助スリットの回折パターンが主スリットの回折パターンに直交して交点を形成しているため、この交点を主スリットの回折パターンにおける干渉縞の位置を特定するための基準とすることができる。ここでは、0.5μmの分割鏡段差の大きさのために、干渉縞のピークが交点から下方に移動している。なお、(式3)より、スリットと直交する方向への干渉縞の移動量は300μmである。図14に示された干渉縞のピークも、補助スリットの回折パターンが主スリットの回折パターンに直交して形成された交点の位置から、その程度移動していることが図から確認できる。このように、実際の観察によって測定された干渉縞のピークの移動量を(式3)に適用することより、分割鏡段差を求めることができることが理解される。
【0038】
図15は、補助スリットが1つの場合の、分割鏡段差の大きさを変化させた場合のスリットの回折パターンの例を表わす図である。図15の(a)、(b)、(c)においては、それぞれ、分割鏡段差の大きさが-0.15μm、0.5μm、1.0μmの場合の回折パターンを示している。分割鏡段差の大きさが-0.15μmの場合、主スリットの回折パターンの干渉縞のピークは交点のやや上方にある。分割鏡段差の大きさが0.5μmになると、干渉縞のピークは交点のやや下方に移動する。分割鏡段差の大きさが1.0μmになると、干渉縞のピークはさらに下方に移動する。図示していないが、分割鏡段差の大きさが0の場合は、干渉縞のピークは交点の位置に来る。このように、交点を基準として主スリットの回折パターンの干渉縞の上下方向の移動量や位置を正確に特定することができ、そのため、分割鏡段差の大きさを正確に特定することができる。
【0039】
(スリットの具体的設計例-2つの補助スリット)
基準スリットが2つの補助スリットである場合は、分割鏡の傾きを検出することができるため、シミュレーションの条件において分割鏡の傾きの有無を追加している。なお、基準スリットが1つの補助スリットや他の主スリットである場合、シミュレーションの条件において分割鏡の傾きは存在しないものとしている。図16は、補助スリットが2つで、主鏡に傾きがない場合の、スリットの具体的な設計例及び回折パターンの例を表わす図である。補助スリットが2つの場合は、2つの補助スリットを通過した回折光が干渉して、回折パターン中に干渉縞を生じる。図16の左側の図に示したスリットパターンにおいて、主スリット32a1及び32b1は、幅a1が50μm、長さl1が1.5mm、間隔d1が1.0mmである。補助スリット33a及び33bは、幅a2が40μm、長さl2が1.0mm、補助スリットの間隔d2が0.4mmである。光源の中心波長λ0が600nm、スリット後のレンズの焦点距離Fが300mm、主鏡系の焦点距離が50m、分割鏡段差の大きさが1.0μm、主鏡の傾きなし、との条件の下、この設計例のスリットパターンによる回折パターンをシミュレーションで求め、図16の右側の図に示した。ここで、主スリット32a1及び32b1の回折パターンは干渉縞を形成しつつ縦に伸びてその長さは3.8mm、補助スリット33の回折パターンは干渉縞を形成しつつ横に伸びてその長さは1.9mm、主スリット32a1及び32b1による干渉縞の周期は180μm、補助スリット33a及び33bによる干渉縞の周期は450μmである。回折パターンにおいて、補助スリットの回折パターンが主スリットの回折パターンに直交しているため、この交点を主スリットの回折パターンにおける干渉縞の位置を特定するための基準とすることができる。また、主スリットの回折パターンに加えて補助スリットの回折パターンも干渉縞を生じるため、補助スリットの回折パターンがずれた場合は、補助スリットからの回折パターンの干渉縞のピークが中心から移動するため、補助スリットの回折パターンと主スリットの回折パターンとが強め合って明るい点を生じる位置である、補助スリットの回折パターンと主スリットの回折パターンとの交点のピークがずれることになる。従って、補助スリットの回折パターンの移動量は、交点のピークの位置を観察することによって、正確に特定できる。交点のピークの位置を特定するための基準として、縦の主スリットの回折パターンの中心線を使用することができる。ここでは、1.0μmの分割鏡段差の大きさのために、主スリットの回折パターンの干渉縞のピークが交点から下方に移動している。ただし、主鏡に傾きがないため、交点のピークは縦の主スリットの回折パターンの中心線と一致している。
【0040】
図17は、補助スリットが2つで、主鏡に傾きがある場合の、スリットの具体的な設計例及び回折パターンの例を表わす図である。図17の左側の図に示したスリットパターンにおいて、主スリット32a1及び32b1は、幅a1が50μm、長さl1が1.5mm、間隔d1が1.0mmである。補助スリット33a及び33bは、幅a2が40μm、長さl2が1.0mm、補助スリットの間隔d2が0.4mmである。光源の中心波長λ0が600nm、スリット後のレンズの焦点距離Fが300mm、主鏡系の焦点距離が50m、分割鏡段差の大きさが1.0μm、主鏡の傾き50.0μdeg、との条件の下、この設計例のスリットパターンによる回折パターンをシミュレーションで求め、図17の右側の図に示した。ここで、主スリット32a1及び32b1の回折パターンは干渉縞を形成しつつ縦に伸びてその長さは3.8mm、補助スリット33の回折パターンは干渉縞を形成しつつ横に伸びてその長さは1.9mm、主スリット32a1及び32b1による干渉縞の周期は180μm、補助スリット33a及び33bによる干渉縞の周期は450μmである。主鏡に傾きがあると、主スリット32a1及び32b1からの回折パターンと、補助スリット33からの回折パターンとの中心が一致しなくなり、交点のピークが縦の主スリットの回折パターンの中心線からずれることになる。ここでは、1.0μmの分割鏡段差の大きさのために、主スリットの回折パターンの干渉縞のピークが交点から下方に移動している。そして、主鏡に傾きがあるため、交点のピークは縦の主スリットの回折パターンの中心線から右にずれている。このように、交点を基準として主スリットの回折パターンの干渉縞の上下方向の移動量や位置を正確に特定することができ、分割鏡段差の大きさを正確に特定することができるとともに、主スリットの回折パターンの中心線を基準として交点のピークの移動量、すなわち補助スリットからの回折パターンの移動量を正確に特定することができ、分割鏡の傾きの大きさを正確に特定することができる。分割鏡段差を補正するためには、この干渉縞のピークが中心に来るように段差を修正し、分割鏡の傾きを補正するためには、この交点のピークが中心線に来るように傾きを修正する。
【0041】
(スリットの具体的設計例-基準スリットが他の主スリット)
図18は、基準スリットが他の主スリットの場合の、スリットの具体的な設計例及び回折パターンの例を表わす図である。図18の左側の図に示したスリットパターンにおいて、分割鏡像31a、31b、31gの3つの境界の交点の近傍において、そのそれぞれの分割鏡像内に、対向する分割鏡像との境界を挟んで平行な対向する主スリットが形成されており、その上にレンズ26abgが配置されている。対向する主スリットのペアは3つで、それぞれが120度ずつ回転した関係となっている。いずれの主スリットも、幅a1が50μm、長さl1が1.5mm、間隔d1が1.0mmである。光源の中心波長λ0が600nm、スリット後のレンズの焦点距離Fが300mm、主鏡系の焦点距離が50m、分割鏡の段差については、分割鏡像31gを基準として、分割鏡像31aが-0.5μm、分割鏡像31bが+0.5μmの位置にある状態、との条件の下、この設計例のスリットパターンによる回折パターンをシミュレーションで求め、図18の右側の図に示した。ここで、主スリットの回折パターンは干渉縞を形成しつつ伸びてその長さは3.8mm、主スリットによる干渉縞の周期は180μmである。回折パターンにおいて、3つの主スリットの回折パターンが120度の角度で1点で交わって交点を形成しているため、この交点を主スリットの回折パターンにおける干渉縞の位置を特定するための基準とすることができる。分割鏡像31aと31bの主スリットによる回折パターンの干渉縞は左から右の方向に沿って伸びており、干渉縞のピークは、対応する分割鏡10aと10bの段差である1.0μmに対応する移動量だけ左に移動している。分割鏡像31bと31gの主スリットによる回折パターンの干渉縞は左上から右下の方向に沿って伸びており、干渉縞のピークは、対応する分割鏡10bと10gの段差である0.5μmに対応する移動量だけ左上に移動している。分割鏡像31aと31gの主スリットによる回折パターンの干渉縞は左下から右上の方向に沿って伸びており、干渉縞のピークは、対応する分割鏡10aと10gの段差である0.5μmに対応する移動量だけ左上に移動している。このように、交点を基準として主スリットの回折パターンの干渉縞の移動量や位置を正確に特定することができ、そのため、分割鏡段差の大きさを正確に特定することができる。分割鏡段差を補正するためには、この干渉縞のピークが中心に来るように段差を修正する。
【0042】
(スリットの具体的設計例-基準スリットが回転型主スリット)
図21は、基準スリットが回転型主スリットの場合の回折パターンの例を表わす図である。図21の(a)には、回転型主スリットがお互いに30度の整数倍の角度で交差している、図20に示したスリットの配置における回折パターンの例が示されている。それぞれの回折パターンは、それに対応する回転型主スリットと直交する方向に伸びる直線となる。図21の(a)には、回転型主スリットペア32p1から32p6に対応する回折パターンが示されている。それぞれの回折パターンにおいては、他の回折パターンとの交点を基準として、それに含まれる干渉縞や干渉縞のピークの位置を特定することができる。それによって、分割鏡の段差を特定することができる。図21の(b)には、回転型主スリットペアの交差する角度(すなわち、回折パターンの交差する角度)の最小値が10度の場合の回折パターンの例が示されている。この場合も、他の回折パターンとの交点を基準とすることが可能であるが、回折パターンの交差する角度が小さいため、隣接する回折パターンの干渉縞を交点に近い位置で区別することがやや難しくなってくる。しかし、交差する角度の最小値が10度未満になった場合には、隣接する回折パターンの干渉縞を区別することが難しくなるため、交差する角度の最小値は10度以上であることが望ましい。基準スリットが回転型主スリットの場合においても、それの幅an、長さln、間隔dn(分布型主スリットのペアの間隔)に対して、(式1)で示される長さの回折パターンが(式2)で示される周期の干渉縞を伴って発生することになる。
【0043】
(スリットの具体的設計例-基準スリットが分布型主スリット)
基準スリットが分布型主スリットの場合の回折パターンの例は図示していないが、分布型主スリットにおいても、それの幅an、長さln、間隔(横方向距離)dn(分布型主スリットのペアの間隔)が観念できるため、(式1)で示される長さの回折パターンが、スリットと直交する方向に(式2)で示される周期性を有する干渉縞を伴って発生することになる。図22には、分布型主スリット32a1dの幅a 1 、長さl 1 、分布型主スリット32a1dと32e3dのペアの間の間隔(横方向距離)d 1 が示されている。また、分布型主スリット32a1dと32e3dのペアの間の長手方向距離dlongも示されている。長手方向距離dlongの大きさは干渉縞のスリットと直交する方向の周期には影響を与えないが、明瞭な干渉縞を得るためには、過度に大きい値にはしない方が好ましい。図22に示したような配置の分布型主スリットでは、問題なく、明瞭な干渉縞が発生する。
【0044】
(段差(及び傾き)の調節の動作フロー)
段差解析機構110を使用して、段差(及び傾き)を調節するための動作の動作フローを説明する。図19は、段差及び傾きを調節するための動作の動作フロー図である。まず、反射望遠鏡100の方向を変え、基準となる光を発生する対象物を視界に入れて、そこからの光を反射望遠鏡100内に入射させる(ステップS101)。基準となる光は、白色光、多色スペクトル光などの、単色光ではない一般的な光とすることができる。対象物は、天体であってもいいし、地上の物体であってもいい。
【0045】
次に、分割鏡ペアからの反射光をマスクに導き、スリット(主スリット及び基準スリット)からのそれぞれの回折光を検出器40上に投影させる(ステップS102)。すなわち、反射望遠鏡100の方向を微調整し、対象物からの光がマスク上のスリットに適切に入射するようにし、回折光による回折パターンを発生させ、それを、検出器40上に投影させる。これにより、分割鏡の段差の大きさに対応した干渉縞のピークの移動(及び、補助スリットが2つの場合は、分割鏡の傾きに応じた交点のピークの移動)が発生した回折パターンが検出器40上に投影される。
【0046】
次に、検出器40から回折パターンを撮影した画像を取得する(ステップS103)。すなわち、検出器から画像のデータを読み出し、それを、解析用のコンピュータにロードする。コンピュータにロードされた画像は、ディスプレイに表示させ、オペレータが確認することができるようにする。検出器40の画素ピッチは既知であるため、画像より実際のパターンの大きさを特定することができる。その画像には、パターンの大きさを表わすスケールを重畳して表示させてもよい。また、そのスケールには、パターンの大きさに対応する段差の大きさを表示させてもよい。これにより、画像が表わす実際の干渉縞などの移動量の絶対値を正確に特定することができる。
【0047】
次に、主スリットの回折パターンの干渉縞のピークが回折パターンの交点に来るように分割鏡の段差を調節する(ステップS104)。すなわち、それぞれの対向する分割鏡のペアに対して、それに対応する主スリットから発生する回折パターンの干渉縞のピークが、主スリットの回折パターンと基準スリットの回折パターンの交点の位置に来るまで、分割鏡のペアの一方、あるいは両方の光軸方向の位置を、調整機構を動作させることによって段差を調節する。このようにして、分割鏡の段差を特定して、それをなくすように調節することが可能となる。なお、基準スリットが、1つの主スリットに対して1つの補助スリットで構成される場合や、他の主スリットである場合は、調節はここで終了となる。
【0048】
基準スリットが、1つの主スリットに対して2つの補助スリットで構成される場合は、さらに、分割鏡の傾きを検出、調節することができる。そのためには、それぞれの回折パターンについて干渉縞の交点のピークが中心線上に来るように分割鏡の傾きの角度を調整する(ステップS105)。すなわち、それぞれの対向する分割鏡のペアに対して、それに対応する主スリットの回折パターンと補助スリットの回折パターンとの交点のピークが、主スリットの回折パターンの中心線上に来るまで、調整機構を動作させることによって、傾きがある分割鏡の傾きを調節する。このようにして、分割鏡の傾きをさらに特定して、それをなくすように調節することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は、宇宙望遠鏡や地上望遠鏡などで使用される分割鏡から構成される主鏡を含む望遠鏡において、分割鏡の段差や傾きを修正するために利用することができる。
【符号の説明】
【0050】
1 :反射望遠鏡
10 :分割鏡
11 :段差解析機構
20 :副鏡
21 :焦点面
22 :焦点マスク
25 :レンズ
26 :レンズ
30 :マスク
31 :分割鏡像
32 :主スリット
33 :補助スリット(1つの場合)
34 :補助スリット(2つの場合)
40 :検出器
50 :回折パターン
51 :回折パターン
52 :回折パターン
100 :反射望遠鏡
110 :段差解析機構
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