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特許7391436ポリエステル系繊維材料用バインダー組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-27
(45)【発行日】2023-12-05
(54)【発明の名称】ポリエステル系繊維材料用バインダー組成物
(51)【国際特許分類】
   D06P 5/00 20060101AFI20231128BHJP
   D06M 15/643 20060101ALI20231128BHJP
   D06M 15/507 20060101ALI20231128BHJP
   D06M 15/263 20060101ALI20231128BHJP
   D06M 15/564 20060101ALI20231128BHJP
   D06M 13/17 20060101ALI20231128BHJP
【FI】
D06P5/00 104
D06M15/643
D06M15/507
D06M15/263
D06M15/564
D06M13/17
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2023071156
(22)【出願日】2023-04-24
【審査請求日】2023-06-09
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】511156210
【氏名又は名称】ユニ化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】弁理士法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】今井 稚也
【審査官】川嶋 宏毅
(56)【参考文献】
【文献】特開昭56-148981(JP,A)
【文献】特開2007-332523(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第113278080(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06P 1/00-7/00
C09D 11/00-13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル系樹脂繊維の印刷用バインダー組成物であって、
(A)分散剤、
(B)界面活性剤、
(C)アニオン系ポリエステル、
(D)シリコン系消泡剤、
(E)ウレタン系会合型増粘剤、
(F)アクリル共重合体系増粘剤、及び
(G)防腐
を含み、
前記アニオン系ポリエステル(C)が、前記印刷用バインダー組成物100重量%に対して40重量%~96重量%含まれており、且つ、前記印刷用バインダー組成物の粘度が30,000~80,000(mPa・s)となるように調整されていることを特徴とする、ポリエステル系樹脂繊維の印刷用バインダー組成物。
【請求項2】
請求項1に記載のポリエステル系樹脂繊維の印刷用バインダー組成物において、
さらに、(H)乾燥遅行剤が含まれる、ポリエステル系樹脂繊維の印刷用バインダー組成物。
【請求項3】
請求項1に記載のポリエステル系樹脂繊維の印刷用バインダー組成物において、
さらに、(I)ウレタン系ポリマーが含まれる、ポリエステル系樹脂繊維の印刷用バインダー組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステル系繊維材料用バインダー組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル樹脂を主原料とする繊維(以下、ポリエステル系繊維)は、耐熱性、耐薬品性、強度、染色性に優れており、比較的低コストで製造できる。そのため、ポリエステル系繊維から成る編物や織物等の生地は、一般的な被服はもちろん、スポーツ選手のユニフォーム、医師、看護師等の医療従事者のユニフォーム等の耐久性が求められる被服の素材として広く使用されている。
【0003】
例えばスポーツ選手用ユニフォームの場合、そのスポーツ選手が属するチームの名称やロゴマーク、選手名等がユニフォームの前面や背面に印刷されることが多く、通常このような印刷は転写機械捺染法、直接捺染法によって行われる(特許文献1)。転写機械捺染法、直接捺染法のいずれの方法でも、染料を生地に固着させるために、ウレタン樹脂バインダー、アクリル樹脂バインダー、ポリエステル樹脂バインダーといった水溶性の合成樹脂バインダーが用いられる。ポリエステル樹脂バインダーは、他の水溶性合成樹脂バインダーに比べると硬度が高い。そのため、スポーツ選手用ユニフォームのように、柔軟性が求められる被服には不向きであり、従来はウレタン樹脂バインダー、アクリル樹脂バインダーが使用されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2022-007571号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ポリエステル樹脂は、繊維以外にも、ペットボトルの容器やフィルム等、様々な分野で製品素材として広く利用されており、その分、廃棄される量も多い。そのため、従来よりポリエステル樹脂製品のリサイクル方法の研究が進められており、近年では、ポリエステル樹脂製品を化学的に処理することによりポリエステル樹脂を解重合し、モノマー成分を回収する方法が開発されている。この方法によると、製品中にポリエステル樹脂以外の合成樹脂が含まれていても、ポリエステル樹脂のモノマー成分を回収することができる。
【0006】
しかしながら、ポリエステル樹脂製品にポリエステル樹脂以外の合成樹脂が多く含まれると、回収されたモノマー成分に占める不純物の割合が大きくなり、精製に時間がかかってしまう。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、ポリエステル樹脂繊維材料の印刷に使用しても、前記生地の柔軟性を妨げず、且つポリエステル樹脂繊維材料のリサイクル性を損なわない印刷用バインダーを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために成された本発明は、ポリエステル系樹脂繊維の印刷用バインダー組成物であって、
(A)分散剤、
(B)界面活性剤、
(C)アニオン系ポリエステル
(D)シリコン系消泡剤、
(E)ウレタン系会合型増粘剤、
(F)アクリル共重合体系増粘剤、及び
(G)防腐剤
を含み、
前記アニオン系ポリエステル(C)が、前記印刷用バインダー組成物100重量%に対して40重量%~96重量%含まれており、且つ、前記印刷用バインダー組成物の粘度が30,000~80,000(mPa・s)となるように調整されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る印刷用バインダー組成物は、前記印刷用バインダー組成物全体の40重量%~96重量%をアニオン系ポリエステル(C)が占めるため、この印刷用バインダー組成物を用いてポリエステル樹脂材料に印刷した製品を化学的に処理したときに得られるモノマー成分に含まれる不純物を低減することができる。また、前記印刷用バインダー組成物の粘度が30,000~80,000(mPa・s)であるため、該印刷用バインダー組成物と染料、含量を用い転写機械捺染法、直接捺染法によってポリエステル樹脂繊維材料に印刷した場合でも、そのポリエステル樹脂繊維材料の柔軟性を妨げず、且つ該繊維材料のリサイクル性を損なわない。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に係るポリエステル樹脂繊維材料用の印刷用バインダー組成物について詳細に説明する。
【0011】
本発明に係る印刷用バインダー組成物は、
(A)分散剤、
(B)界面活性剤、
(C)ポリエステル樹脂、
(D)シリコン系消泡剤、
(E)ウレタン系会合型増粘剤、
(F)アクリル共重合体系増粘剤、及び
(G)防腐剤
を含み、
前記ポリエステル樹脂(C)が、前記印刷用バインダー組成物100重量%に対して40重量%~96重量%含まれており、且つ、前記印刷用バインダー組成物の粘度が30,000~80,000(mPa・s)となるように調整されているものである。
【0012】
印刷用バインダー組成物の粘度は、主に、前記分散剤(A)、前記界面活性剤(B)、前記ウレタン系会合型増粘剤(E)、及びアクリル共重合体系増粘剤(F)の配合量を増減することにより調整することができる。例えば、成分(A)、(B)、(E)及び(F)の合計含有量が、前記アニオン系ポリエステル(C)の含有量の3.5重量%~18.0重量%であるとき、印刷用バインダー組成物の粘度は30,000~80,000(mPa・s)となる。
【0013】
分散剤(A)は、印刷用バインダー組成物を水系媒体中に安定的に分散させるために用いられる。分散剤(A)は、ポリエステル樹脂との相溶性が高い化合物であればよく、例えばポリアクリル酸重合体から成る分散剤が好ましい。ポリアクリル酸重合体から成る分散剤として、大同化成工業株式会社製のダイドールDL(製品名)が挙げられる。
【0014】
界面活性剤(B)は、印刷用バインダー組成物の経時安定性を改善するために用いられる。界面活性剤(B)はカチオン界面活性剤、ノニオン(非イオン)界面活性剤、両性界面活性剤のいずれでもよいが、浸透性、乳化・分散性に優れる点で非イオン性界面活性剤を用いることが好ましい。好適な非イオン性界面活性剤として、例えば第一工業製薬株式会社のノイゲンXLシリーズの非イオン性界面活性剤がある。ノイゲンXLシリーズの非イオン性界面活性剤は、生分解性に優れているため、ポリエステル樹脂繊維材料に印刷した後で洗浄処理が必要となる印刷方法において有用である。
【0015】
ポリエステル樹脂(C)は、多価カルボン酸と多価アルコールにより形成された重合体であり、多価カルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ダイマー酸、5-スルホイソフタル酸ナトリウム、トリメリット酸、ピロメリット酸等が挙げられる。また、多価アルコールとしては、エチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等が挙げられる。
【0016】
シリコン消泡剤(D)は、印刷用バインダー組成物の製造時に発生する泡かみを防止するために用いられており、特にシリコン系消泡剤が用いられる。市販されているシリコン系消泡剤としては、ダウ・東レ株式会社製の自己乳化型シリコン系消泡剤(製品名:DOWSILTM FS Antiform 1266、DOW CORNING TORAY DK Q1-1247)がある。
【0017】
増粘剤(E)、(F)は、印刷用バインダー組成物を使ってインクを調整したときに印刷が可能な粘度が得られるようにするために用いられる。増粘剤として、ウレタン系化合型増粘剤とアクリル共重合体系増粘剤の2種類を用いた理由は、印刷用バインダー組成物に酸化チタンや活性炭が含まれる場合でも混和性が優れるため、比較的少量で粘度の調整が可能であるため、印刷用バインダー組成物の経時安定性に優れるため、等である。
【0018】
上記印刷用バインダー組成物においては、さらに、
(H)乾燥遅行剤を含むことが好ましい。乾燥遅行剤を含むことにより、例えばダイレクトプリント加工によりポリエステル樹脂繊維材料に図柄や文字を印刷する際にスクリーン版に付着したインク(バインダー)の乾燥を遅らせることができるため、作業性が向上する。
【0019】
上記印刷用バインダー組成物は、ポリエステル樹脂繊維材料に染料を固着するためのバインダーとして使用できるほか、前記繊維材料に印刷された図柄や文字等の印刷物を被覆することで該印刷物をポリエステル樹脂繊維材料に固着するためのトップコートとしても使用することができる。上記の印刷用バインダー組成物がトップコートとして使用される場合、さらに、(I)ウレタン系ポリマーが含まれることが好ましい。
【0020】
ウレタン系ポリマーを含むことにより、上記印刷用バインダー組成物と分散染料を用いてポリエステル樹脂繊維材料に印刷した場合の堅牢度を高めることができる。
【0021】
本発明に係る印刷用バインダー組成物は、上述した成分(A)~(I)の他に、酸化チタン(J)、活性炭(K)を含んでもよい。
【0022】
酸化チタンを加えることにより、パステル調の色を表現することができる。また、印刷用バインダー組成物に酸化チタンを加えたものは、白色の印刷加工に利用できる。例えば黒色(濃色)の生地の表面に直接印刷すると、生地の色が印刷物を通して見えてしまい、綺麗な色の印刷物を得ることができない。そのような場合に、生地の表面に、酸化チタンを加えた印刷用バインダー組成物を用いて白色の印刷をしておくことで、綺麗な色を表現することができる。
【0023】
また、ポリエステル生地の染色に利用される分散染料は、熱によって、あるいは時間の経過とともに昇華しやすく、ポリエステル生地に印刷加工がされていると、前記分散染料が印刷物に移染することがある。印刷用バインダー組成物に活性炭を加えることによって分散染料の昇華を防止することができるため、印刷物の色がポリエステル生地の染色に使用された分散染料の色の影響を受けることがなく、印刷物本来の色を表現することができる。
【0024】
さらに、印刷用バインダー組成物の固形分の量を調整する場合は、該組成物に水を加えるとよい。印刷用バインダー組成物の好適な固形分の量は、18~46%、pHは、6.2~8.2である。
【0025】
以下、実施例1~7により本発明を詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
まず、以下の表1~3に示す成分を混合して印刷用バインダーを調製した。表1に示す実施例1~4はクリア層用のバインダー(クリアバインダー)の組成であり、表2に示す実施例5,6はホワイト層用のバインダー(ホワイトバインダー)の組成であり、表3に示す実施例7は昇華防止用のバインダーの組成である。また、実施例1,3,4,6,7は、転写捺染用のバインダー組成、実施例2,5はダイレクトプリント用のバインダー組成である。表1~3のバインダー組成物、固形分の単位は重量%である。
【0026】
実施例1~7で用いた各成分の商品名は以下の通りである。
分散剤:ダイドール DL(大同化成工業株式会社、ポリアクリル酸重合体)
界面活性剤:ノイゲン XL-140(第一工業製薬株式会社、ポリオキシアルキレンデシルエーテル)
乾燥遅行剤:工業用プロピレングリコール(株式会社ADEX)
ウレタン樹脂:エバファノール HA-55(日華化学株式会社)
ポリエステル樹脂:ネオステッカーPBシリーズ(日華化学株式会社)
消泡剤:FS Antiform 1266(ダウ・東レ株式会社、自己乳化型シリコン系消泡剤)
酸化チタン:CR-501
増粘剤:アデカノール UH-450VF(株式会社ADEKA)
増粘剤:FLOPRINT TA-165A(株式会社エス・エヌ・エフ)
防腐剤:NB-1000(株式会社大力)
【0027】
【表1】
【0028】
【表2】
【0029】
【表3】
【0030】
<印刷用バインダーの調製工程>
1. 反応容器に必要量の水を入れ、そこに、分散剤と界面活性剤、乾燥遅行剤をそれぞれ秤量して加え、軽くかき混ぜる。分散剤、界面活性剤の量は、バインダーの粘度に大きく影響するため、正確に秤量する。
2. 続いて、ポリエステル樹脂(及びウレタン樹脂)を篩入れた後、反応容器をミキサーにセットし、回転数1000~2000rpmで反応容器内の混合物を撹拌する。
3. 撹拌したままの状態で消泡剤を反応容器内に投入し、1~2分撹拌を続ける。
4. 撹拌した状態で、酸化チタンを反応容器内に投入した後、次は、回転数1500rpm~2500rpmで5~10分間撹拌する。
5. 撹拌した状態で、増粘剤を反応容器に投入し、最初は回転数を1500rpm~2500rpmで撹拌した後、徐々に回転数を2500rpm~5500rpmまで上げながら混合物を撹拌する。撹拌は、最初は5分間程度、回転数を上げるごとに5~10分間程度ずつ行う。なお、異なる種類の増粘剤を加える場合は、それぞれを別のタイミングで反応容器内に加えることが望ましい。例えば、ウレタン会合型増粘剤とアクリル共重合体増粘剤を加える場合は、まずは、ウレタン会合型増粘剤を加え、この増粘剤が完全に混ざってからアクリル共重合体増粘剤を加えるとよい。
6. 5の撹拌した状態で防腐剤を投入し、3分程度攪拌して終了。
【0031】
<バインダーの評価>
<粘度>
実施例1~7の粘度を調べたところ、転写捺染用バインダーの実施例1,3,4の粘度は30,000~50,000(mPa・s)で、実施例6の粘度は30,000~80,000(mPa・s)であった。一方、ダイレクトプリント用バインダーの実施例2,5の粘度45,000~55,000(mPa・s)であった。転写捺染用バインダー、ダイレクトプリント用バインダーのいずれにおいても、印刷可能な粘度であった。
<pH>
また、実施例1~7のpHはいずれも、6.2~8.2の範囲内にあり、中性付近であった。
【0032】
上記した以外に、洗濯堅牢度、隠遮性、風合い、伸び、タックに関する一般的な試験を行ったが、いずれも良好な結果が得られた。
【要約】
【課題】ポリエステル樹脂繊維材料の印刷に使用しても、前記繊維材料の柔軟性を妨げず、且つリサイクル性を損なわない印刷用バインダーを提供する。
【解決手段】本発明のポリエステル系樹脂繊維の印刷用バインダー組成物は、
(A)分散剤(ダイドール DL)、
(B)界面活性剤 (ノイゲン XL-140)、
(C)ポリエステル樹脂 (ネオステッカーPBシリーズ)、
(D)シリコン系消泡剤 (ダウ1266、FS Antiform)、
(E)ウレタン系会合型増粘剤 (アデカノール)、
(F)アクリル共重合体系増粘剤(FLOPRINT)、及び
(G)防腐剤 (NB-1000)
を含み、
前記アニオン系ポリエステル(C)が、前記印刷用バインダー組成物100重量%に対して40重量%~96重量%含まれており、且つ、前記印刷用バインダー組成物の粘度が30,000~80,000(mPa・s)となるように調整されているものである。
【選択図】なし