(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-27
(45)【発行日】2023-12-05
(54)【発明の名称】電子部品搬送用のトレイ又はキャリアテープとその製造方法並びに再生方法
(51)【国際特許分類】
B65D 85/86 20060101AFI20231128BHJP
【FI】
B65D85/86
(21)【出願番号】P 2023141297
(22)【出願日】2023-08-31
【審査請求日】2023-09-04
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】393000881
【氏名又は名称】株式会社マルアイ
(74)【代理人】
【識別番号】110003063
【氏名又は名称】弁理士法人牛木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】河野 祐貴
(72)【発明者】
【氏名】岡明 周作
(72)【発明者】
【氏名】毛利 英希
(72)【発明者】
【氏名】宮坂 英史
(72)【発明者】
【氏名】石川 直人
(72)【発明者】
【氏名】関原 礼奈
(72)【発明者】
【氏名】武井 勝士
(72)【発明者】
【氏名】生松 萌
【審査官】宮崎 基樹
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-318970(JP,A)
【文献】特開2010-222030(JP,A)
【文献】特開2014-227216(JP,A)
【文献】特許第6656450(JP,B1)
【文献】特開2004-025570(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D 85/86
B65D 65/40
B32B 1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチックシートである基材層と、
前記基材層の少なくとも片面側に設けられた導電インキ層と、
前記基材層と導電インキ層との間に設けられた、アルカリ溶液中で前記導電インキ層を除去させる中間層とを有し、前記導電インキ層側の表面抵抗値が1×10
3~×1×10
13Ω/□である電子部品用の搬送トレイ又はキャリアテープ。
【請求項2】
前記基材層、導電インキ層、及び中間層の積層シートの延伸を伴う成型品である請求項1に記載の電子部品用の搬送トレイ又はキャリアテープ。
【請求項3】
前記導電インキ層の厚みが、基材層、導電インキ層、及び中間層の積層シートを延伸前後の厚みの比からを算出した延伸倍率が2倍となるように延伸したときに、該延伸部分の抵抗値上昇率が80倍以内となる厚みである請求項1に記載の電子部品用の搬送トレイ又はキャリアテープ。
【請求項4】
前記中間層が、アルカリ溶液中で膨潤又は溶解可能な樹脂組成物を含有する請求項1に記載の電子部品用の搬送トレイ又はキャリアテープ。
【請求項5】
前記基材層、導電インキ層、及び中間層の積層シートを延伸して成型する工程を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の電子部品用の搬送トレイ又はキャリアテープの製造方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の電子部品用の搬送トレイ又はキャリアテープをアルカリ溶液中に浸漬して、前記基材層と導電インキ層との間に設けられた前記中間層を膨潤又は溶解させ、電子部品用の搬送トレイ又はキャリアテープから少なくとも前記導電インキ層を除去する工程、及び
前記導電インキ層を除去した基材層を、成型材料として再生する工程を含む、電子部品用の搬送トレイ又はキャリアテープの再生方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子部品用の搬送トレイ又はキャリアテープとその製造方法並びに再生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子部品を組み込んだ電子機器に小型化、軽量化、高機能化が要望される中で、電子機器を製造する際に、電子部品をトレイやキャリアテープで搬送して電子機器製品に組み込むことが行われている。
【0003】
電子部品搬送トレイは、半導体チップ、液晶モジュール、ハードディスク部品等の半導体素子を要素とする電子部品を収納する多数の収納部を、その形状に合わせて真空成型等により設けた合成樹脂製のトレイであり、キャリアテープも電子部品の搬送や実装に使用されるものである。電子部品搬送トレイは収納部の中に電子部品を挿入した状態でトレイを多数積み重ね、またキャリアテープでは電子部品と共に巻き取り、搬送や保管に供される。
【0004】
このような電子部品用の搬送トレイ又はキャリアテープでは、搬送や保管その他の取扱いの際に、搬送トレイ又はキャリアテープと電子部品との摩擦、搬送トレイ又はキャリアテープ同士の摩擦等によって静電気が発生することがあり、この静電気によって障害を引き起こすという問題があるため、電子部品用の搬送トレイ又はキャリアテープに導電性を付与して静電気の発生を抑える必要がある。
【0005】
この静電気の発生を抑えるために、従来、電子部品搬送用のトレイ又はキャリアテープの基材である剛性、成型性、形状保持性等を持つ合成樹脂シートの表面にカーボンナノチューブや(特許文献1)、導電性高分子を含む導電インキをコーティングする方法等が検討されている。
【0006】
現在、導電インキをコーティングした電子部品用の搬送トレイ又はキャリアテープは導電インキを容易に脱離することができないため、使用後は廃棄してしまっている。しかしながら、脱炭素社会の実現や地球温暖化抑制につながる重要な取り組みとして、プラスチックのリサイクルが求められている。
【0007】
従来、印刷したプラスチックシートから印刷層を除去する技術として、プラスチックシートと印刷層との間に、アルカリ溶液中で膨潤又は溶解可能な樹脂組成物を含有する脱離インキによる中間層を設け、印刷したプラスチックシートをアルカリ溶液中で処理して印刷層及び脱離層を脱離、除去する方法が提案されている(特許文献2~6)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特許第6656450号公報
【文献】特許第3934292号公報
【文献】特許第6388131号公報
【文献】特許第6631964号公報
【文献】特許第6928766号公報
【文献】特許第7100750号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、電子部品用の搬送トレイ又はキャリアテープは導電性を付与して静電気の発生を抑える必要がある。アルカリ溶液中で前記導電インキ層を除去させる中間層を設けると、導電インキ層は所望の導電性が得られないという問題があった。
【0010】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、基材をリサイクルして再利用することができる電子部品用の搬送トレイ又はキャリアテープとその製造方法並びに再生方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
アルカリ溶液で脱離できるインキ自体は既存技術であるが、これを導電インキ層と組み合わせることは従来検討されていない。中間層を設けると導電インキ層に所望の導電性が得られないのは、中間層の凹凸や真空成型等による延伸が要因として考えられる。そこで、本発明者は鋭意検討を行った結果、導電インキ層の厚みを調整することで、導電性と脱離性を両立する導電トレイが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明の電子部品用の搬送トレイ又はキャリアテープは、プラスチックシートである基材層と、
前記基材層の少なくとも片面側に設けられた導電インキ層と、
前記基材層と導電インキ層との間に設けられた、アルカリ溶液中で前記導電インキ層を除去させる中間層とを有し、前記導電インキ層側の表面抵抗値が1×103~×1×1013Ω/□であることを特徴としている。
この電子部品用の搬送トレイ又はキャリアテープは、前記基材層、導電インキ層、及び中間層の積層シートの延伸を伴う成型品であることが好ましい。
この電子部品用の搬送トレイ又はキャリアテープは、前記導電インキ層の厚みが、基材層、導電インキ層、及び中間層の積層シートを延伸前後の厚みの比からを算出した延伸倍率が2倍となるように延伸したときに、該延伸部分の抵抗値上昇率が80倍以内となる厚みであることが好ましい。
この電子部品用の搬送トレイ又はキャリアテープは、前記中間層が、アルカリ溶液中で膨潤又は溶解可能な樹脂組成物を含有することが好ましい。
本発明の電子部品用の搬送トレイ又はキャリアテープの製造方法は、前記基材層、導電インキ層、及び中間層の積層シートを延伸して成型する工程を含むことを特徴としている。
本発明の電子部品用の搬送トレイ又はキャリアテープの再生方法は、前記電子部品用の搬送トレイ又はキャリアテープをアルカリ溶液中に浸漬して、前記基材層と導電インキ層との間に設けられた前記中間層を膨潤又は溶解させ、電子部品用の搬送トレイ又はキャリアテープから少なくとも前記導電インキ層を除去する工程、及び
前記導電インキ層を除去した基材層を、成型材料として再生する工程を含むことを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、アルカリ溶液中で導電インキ層を除去させる中間層を、導電インキ層と基材層との間に存在させることで、電子部品搬送用のトレイ又はキャリアテープをアルカリ溶液中に浸漬して導電インキ層と中間層を除去することができ、基材層を無印刷状態に戻すことができる。そのため基材をリサイクルして再利用することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の電子部品用の搬送トレイ又はキャリアテープの層構造を模式的に示す縦断面図である。
【
図2】中間層(脱離インキ)を設けずに導電インキの塗布厚を変更した試験片について、塗布厚と抵抗値の関係を示すグラフである。
【
図3】導電インキの塗布厚を変更した試験片について、真空成型の延伸倍率と抵抗値の関係を示す追随性試験のグラフである。
【
図4】実施例及び比較例における追随性試験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明を実施するための形態について説明する。
【0015】
本発明の電子部品用の搬送トレイ又はキャリアテープは、プラスチックシートである基材層と、前記基材層の少なくとも片面側に設けられた導電インキ層と、前記基材層と導電インキ層との間に設けられた、アルカリ溶液中で前記導電インキ層を除去させる中間層とを有する。
図1は、本発明の電子部品用の搬送トレイ又はキャリアテープの層構造を模式的に示す縦断面図である。この例では、基材層1と、その片面側に設けられた導電インキ層2との間に、アルカリ溶液中で導電インキ層2を除去させる中間層3を有している。なお、中間層3及び導電インキ層2は、基材層1の両面に設けてもよい。
【0016】
基材層は、長尺のプラスチックシートであり、電子部品用の搬送トレイ又はキャリアテープに剛性、成型性、形状保持性等を付与する。基材層には、成型加工性のある樹脂材料を用いることができる。樹脂材料としては、合成樹脂、中でも熱可塑性樹脂が好ましい。具体的には、例えば、非晶性ポリエチレンテレフタレート樹脂(A-PET)等のポリエステル樹脂、ポリプロピレン樹脂等のポリオレフィン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体樹脂(ABS樹脂)等が挙げられる。基材層には、本発明の効果を損なわない範囲内において、樹脂材料に通常配合される公知の添加剤等、他の成分を配合することができる。
【0017】
基材層の厚みは、電子部品用の搬送トレイの場合、強度と成型性の点から0.2~2.0mmが好ましく、0.4~1.4mmがより好ましい。
基材層の厚みは、電子部品用のキャリアテープの場合、強度と成型性の点から0.1~1.0mmが好ましく、0.2~0.4mmがより好ましい。
【0018】
導電インキ層は、導電インキを塗布、乾燥して形成した層である。導電インキは、導電材料を液体中に分散させた分散液であり、導電材料及び、水や有機溶剤等の溶媒を含有し、またバインダー樹脂等の他の成分を含有してもよい。例えば、公知の導電インキ、また市販の導電インキを用いることができる。導電材料としては、導電性炭素材料、導電性高分子、金属粒子、導電性酸化物粒子等が挙げられる。導電性炭素材料としては、例えば、導電性カーボンブラック、カーボンナノチューブ、グラフェン、グラファイト、導電性炭素繊維等が挙げられる。導電性高分子としては、例えば、ポリチオフェン類、ポリピロール類、ポリアニリン類、ポリアズレン類、ポリインドール類、ポリカルバゾール類、ポリアセチレン類、ポリフラン類、ポリパラフェニレンビニレン類、ポリアズレン類、ポリパラフェニレン類、ポリパラフェニレンサルファイド類、ポリイソチアナフテン類、ポリチアジル類等が挙げられる。ポリチオフェン類としては、例えば、PEDOT(ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン))を含むPEDOT/PSS(ポリ(スチレンスルホン酸)等が挙げられる。金属又は合金としては、例えば、金、白金、銀、銅、ニッケル、ロジウム、パラジウム、マグネシウム、クロム、チタン、鉄等、又はそれらの合金等が挙げられる。導電性酸化物粒子としては、例えば、酸化インジウムスズ(ITO)、インジウム亜鉛酸化物(IZO)等が挙げられる。
【0019】
導電インキ層の厚みは、基材層、導電インキ層、及び中間層の積層シートを延伸前後の厚みの比からを算出した延伸倍率が2倍となるように延伸したときに、該延伸部分の抵抗値上昇率が80倍以内となる厚みが好ましく、50倍以内となる厚みがより好ましく、20倍以内となる厚みがさらに好ましい。ここで、積層シートは、基材上に脱離インキを印刷し、脱離インキ上に導電インキを重ねて印刷することにより、中間層及び導電インキ層を基材上に設けた乾燥後の積層シートである。基材は、実際に製造する電子部品用の搬送トレイ又はキャリアテープの基材を用いてよいが、一つの基準として、厚み0.5mmの非晶性ポリエチレンテレフタレート樹脂(A-PET)又はポリプロピレン樹脂(PP)を用いて抵抗値上昇率を測定してもよい。抵抗値上昇率の測定に際して延伸の方法は特に限定されないが、例えば、基材を真空成型により加工することで行うことができる。
【0020】
導電インキ層の厚みが上記の範囲内であれば、延伸による抵抗値の上昇を抑制でき、導電インキを中間層を設けずに基材に塗布し導電インキ層を形成したときの目的の抵抗値から大幅に増加してしまうことがない。
【0021】
導電インキ層の厚みは、上記の抵抗値上昇率を小さくするために、また延伸後の抵抗値を小さくする点から、通常よりも厚くすることが好ましいが、厚すぎると乾燥に時間がかかり生産性が悪化する。導電インキの厚みは導電材料の種類、形状、大きさ、元々の導電率によって必要な厚みが異なるが、導電材料の種類に応じて中間層を設けずに基材に塗布して目的の抵抗値が得られる基準厚みの1.5~3.0倍の範囲内であることが好ましい。例えば、導電材料がカーボンナノチューブのインキである場合は、導電インキ層の厚みは、0.3μmを基準として1.5~3.0倍の範囲内であることが好ましい。導電材料が導電性高分子のインキである場合は、導電インキ層の厚みは、1.0μmを基準として1.5~3.0倍の範囲内であることが好ましい。
【0022】
中間層には、従来、印刷した基材層から印刷層を脱離、除去する技術として知られている、脱離インキが用いられる。特許文献2~6にはそのような脱離インキが開示されており、その記載が参照される。この脱離インキは、これを印刷したプライマー層と、その上に印刷された印刷層を、アルカリ溶液で基材層から容易に除去することができる。なお、脱離とは、基材から中間層が溶解せずに剥離する場合と、溶解して剥離する場合との両方の形態を含む。このアルカリ溶液中で膨潤又は溶解し、それにより基材層から導電インキ層を脱離することができる。プラスチックシートの基材層表面に脱離インキの中間層を設けることによって、リサイクル時には、導電インキ層が形成された中間層はアルカリ溶液によって基材層から剥がれ、上層の導電インキ層(インキ被膜)は小片化せずに中間層と一緒に剥離するので後処理も容易になる。アルカリ溶液での中和処理によって処理液は中間層に達し、中間層は中和されることによって親水化、又は、膨潤によって基材層との接着性がなくなり、中間層は導電インキ層ごと自発的にフィルム状又は塊状状態で基材層から脱落することにより、脱離物の分離等の後処理も容易になる。
【0023】
中間層は、アルカリ溶液中で膨潤又は溶解可能な樹脂組成物を含有する。中間層の樹脂組成物は、pHに依存して電荷特性が変化する、例えば酸性官能基や水酸基を有し、アルカリ溶液による脱離性や、基材密着性等を考慮して酸価や水酸基価を調整することで、導電インキ層と基材層を密着しつつ、アルカリ溶液中で膨潤又は溶解し、これらを剥離する。酸性官能基とは、酸価を測定する際に、水酸化カリウムで中和され得る官能基を指し、具体的にはカルボキシル基やスルホン酸基等が挙げられ、好ましくはカルボキシル基である。
【0024】
アルカリ溶液中で膨潤又は溶解する樹脂骨格としては、例えば、ポリエステル系樹脂、ポリアクリル系樹脂、アクリル変性ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリル変性ポリウレタン樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ロジン系樹脂、スチレン-マレイン酸共重合樹脂等が挙げられる。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらの樹脂骨格には、例えば、酸性官能基や水酸基を持つ重合性モノマーを使用し、単独重合又は共重合させる等の方法により、酸性官能基や水酸基が導入される。また、中間層には、常温で製膜性がある樹脂に、酸性官能基を有する低分子化合物を混合して使用することもでき、また、アルカリ溶液に対して分解し易いエステル構造を有する樹脂を含羞してもよい。
【0025】
中間層の脱離インキは、アルカリ溶液中で膨潤又は溶解可能な樹脂組成物を、水系又は溶剤系の溶媒中に溶解及び/又は分散することにより製造することができ、必要に応じて、公知の添加剤などその他成分を含有してもよい。
【0026】
中間層の厚みは、脱離性や導電インキの追随性の点から、1.5~4.0μmが好ましく、2.0~3.0μmがより好ましい。
【0027】
本発明の電子部品用の搬送トレイ又はキャリアテープは、例えば、基材上に脱離インキを印刷し、脱離インキ上に導電インキを重ねて印刷することにより、中間層及び導電インキ層を基材上に設けることができる。印刷は片面、両面のいずれであってもよい。印刷方法は、特に限定されないが、例えば、グラビア印刷機、リバースグラビア、コンマコーター、リップコーター等が使用できる。脱離インキと導電インキは、印刷し、その後乾燥させることにより、中間層と導電インキ層を形成することができる。
【0028】
導電インキ層を形成した面の表面抵抗値は、電子部品用の搬送トレイ又はキャリアテープに必要な導電性と、インキの乾燥時間が短い印刷適正の点から、1×103~×1×1013Ω/□が好ましく、1×104~×1×1012Ω/□がより好ましく、1×105~×1×1011がさらに好ましい。
【0029】
本発明の電子部品用の搬送トレイ又はキャリアテープは、基材層、導電インキ層、及び中間層の積層シートの延伸を伴う成型品であることが好ましい。延伸を伴う成型方法としては、特に限定されないが、例えば、真空成型、プレス成型、圧空成型、真空圧空成型等の公知の方法を用いることができる。これらの中でも、本発明の電子部品用の搬送トレイ又はキャリアテープは、真空成型で加工されることが好ましい。
【0030】
電子部品用の搬送トレイは、載置する電子部品の大きさや形状に合わせて、ポケットとなる多数の収納部を形成するように、シートを成型する。この電子部品用の搬送トレイは、例えば、収納部に半導体素子を要素とする電子部品を挿入し、トレイを多数段積み重ねて必要な場所に搬送し、保管し、その後の工程でこのトレイからピックアップして使用される。
【0031】
電子部品用のキャリアテープは、載置する電子部品の大きさや形状に合わせて、ポケットとなる多数の収納部を形成するように、シートを成型する。この電子部品用のキャリアテープは、例えば、収納部に半導体素子を要素とする電子部品を挿入しカバーテープで封止後にリールへ巻き取り、必要な場所に搬送し、保管し、その後の工程でこのテープからピックアップして使用される。
【0032】
(電子部品用の搬送トレイ又はキャリアテープの再生方法)
本発明の電子部品用の搬送トレイ又はキャリアテープは、以下の工程A、Bを含む方法により、再生することができる。
(工程A)電子部品用の搬送トレイ又はキャリアテープをアルカリ溶液中に浸漬して、基材層と導電インキ層との間に設けられた中間層を膨潤又は溶解させ、電子部品用の搬送トレイ又はキャリアテープから少なくとも導電インキ層を除去する工程
(工程B)導電インキ層を除去した基材層を、成型材料として再生する工程
【0033】
工程Aにおいて、アンカーコートの中間層がアルカリ溶液により膨潤又は溶解することにより、中間層と導電インキ層が基材から脱離する。すなわち、中間層が中和して膨潤することにより脱離する場合と、中間層が溶解して脱離する場合の両方の形態を含む。
【0034】
脱離後の基材を、再生基材として得ることを目的としているため、基材から、中間層と導電インキ層をできる限り多く除去した態様が好適である。具体的には、中間層100質量%のうち、面積や膜厚方向において少なくとも50質量%以上が脱離していることが好ましい。より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上、特に好ましくは90質量%以上である。
【0035】
アルカリ溶液に使用するアルカリ化合物は特に限定されず、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、アンモニア、水酸化バリウム、炭酸ナトリウム等が挙げられる。好ましくは、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムである。アルカリ溶液の溶媒は特に限定されないが、水を主体とする溶媒が好ましい。中間層を膨潤又は溶解し、基材を脱離させるのに十分な塩基性を保持する点から、アルカリ溶液は、アルカリ化合物を溶液全体の0.5~20質量%含むことが好ましく、より好ましくは1~15質量%、さらに好ましくは3~15質量%である。
【0036】
アルカリ溶液は、基材層、中間層、及び導電インキ層の積層シートの端部分から浸透して中間層に接触し、膨潤又は溶解することで、基材層と、中間層及び導電インキ層を分離する。従って効率的に脱離工程を進めるために、電子部品用の搬送トレイ又はキャリアテープは、裁断又は粉砕され、アルカリ溶液に浸漬する際に、断面に中間層が露出している状態であることが好ましい。このような場合、より短時間で基材層を脱離することができる。
【0037】
電子部品用の搬送トレイ又はキャリアテープを浸漬する時のアルカリ溶液の温度は、好ましくは25~120℃、より好ましくは30~120℃、さらに好ましくは30~80℃である。アルカリ溶液への浸漬時間は、好ましくは1分間~24時間、より好ましくは1分間~12時間、さらに好ましくは1分間~6時間である。脱離効率を向上させるために、アルカリ溶液の攪拌又は循環等を行うことが好ましい。
【0038】
工程Bでは、中間層及び導電インキ層を除去した基材層を、成型材料として再生する。基材層から、導電インキ層と共に中間層が剥離し、基材を脱離・回収した後、基材を水洗することにより、アルカリ水溶液が除去される。必要に応じて乾燥工程をさらに含んでもよい。これにより、リサイクル基材を得ることができる。
【0039】
得られたリサイクル基材は、押出機等によりペレット状に加工し、再生樹脂として再利用することができる。具体的には、例えば、中間層及び導電インキ層を除去した基材層を溶融し、再生する工程を含む。必要に応じて各種添加剤等を加え、混練機、押出機等を用いて、混合や溶融混練を行い、ペレット状、粉体状、顆粒状あるいはビーズ状等の形状の樹脂組成物を得ることができる。さらに再生樹脂に、マスターバッチを混合して成型材料としてもよい。マスターバッチは、再生樹脂に対して相溶性を有するものであれば特に限定されず、各種の熱可塑性樹脂を使用できる。マスターバッチは、無機顔料、有機顔料等の着色剤等の公知の添加剤を混練したものを用いてもよい。得られた成型材料を、例えば、射出成形、押出し成形、ブロー成形、圧縮成形等のより成型することで、成型体を得ることができる。この成型材料は、リサイクル利用率が高いだけでなく、成型性を有し、かた再生樹脂が淡色であるため、上記成型方法にかかわらず、淡色から濃色までに均一に着色された成型体を提供することができ、電子部品用の搬送トレイ又はキャリアテープや、その他の成型品のリサイクルに用いることができる。
【実施例】
【0040】
以下に、実施例により本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0041】
(基材)
プラスチックシートとして、厚み0.5mmの非晶性ポリエチレンテレフタレート樹脂(A-PET)又はポリプロピレン樹脂(PP)を用いた。
【0042】
(導電インキ)
CNTインキ
多層カーボンナノチューブ(Nanocyl社製 NC7000)32gと分散剤100gを純水:イソプロパノール=5:1の混合溶媒2400gに滴下後、超音波分散機にて130分間分散し、CNT分散液を作製した。このCNT分散液に熱可塑性飽和ポリエステル樹脂の水分散体(ペスレジンA-645GH 高松油脂(株)製)を1620g混合し、CNTインキを得た。
【0043】
アニリンインキ
ポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA 富士フイルム和光純薬)9gをトルエン:メチルエチルケトン=1:1の混合溶媒51gに溶解し、PMMA溶液を作製した。イオン交換水120g、ドデシルベンゼンスルホン酸15g、アニリン34g、硫酸3gの混合物に、イオン交換水225gと過硫酸アンモニウム103gを滴下後、水分を除去し、ポリアニリン顔料を作製した。このポリアニリン顔料とPMMA溶液を混合し、高速撹拌機にて30分間分散し、アニリンインキを得た。
【0044】
(脱離インキ)
次の脱離インキを使用した。
脱離インキ1:東洋インキ(株)製 油性アンカーコート剤
脱離インキ2:東洋インキ(株)製 水性アンカーコート剤
脱離インキ3:高松油脂(株)製 ペスレジンA-680(熱可塑性飽和ポリエステル樹脂の水分散体)
【0045】
(試験片の作製)
脱離インキをバーコーターにて基材上に印刷し、さらに導電インキをバーコーターにて脱離インキ上に重ねて印刷して試験片を作製した。
【0046】
試験方法
脱離性
純水197gに水酸化ナトリウム3gを入れ、マグネットスターラーで攪拌し溶解させ、アルカリ溶液として1.5%水酸化ナトリウム溶液を作製した。次の条件で試験片をアルカリ溶液内で攪拌し、インキの脱離性を確認した。判断基準は、生原反と脱離した試験片の色差ΔE*abを分光測色計(日本電色工業(株))を用いて測定し、ΔE*(ab)が3未満であれば〇、3以上であれば×とした。
<脱離性試験条件>
試験片:2.5cm角
攪拌法:マグネットスターラー
試験温度:70℃
試験時間:10分
【0047】
追随性
円筒形状の型を用いて真空成型後、各延伸部の抵抗値と厚みを測定した。抵抗値は表面抵抗値測定装置ULTRA MEGOHMMETER SM 8220(東亜ディーケーケー(株)製)、厚みはDIGIMATIC MICROMETER((株)ミツトヨ製)を用いて測定し、延伸前後の厚みの比から延伸倍率を算出した。判断基準は、厚み0.5mmの基材を真空成型により加工し、0.25mmに延伸された部分を2倍延伸とし、2倍延伸で抵抗値上昇率が50倍以内であれば〇、抵抗値上昇率が50倍超過80倍以内であれば△、抵抗値上昇率が80倍を超えた場合は×とした。
【0048】
生産性
生産機での印刷を想定した際のインキ乾燥性などの印刷適正やコスト面などの観点から判断した。
【0049】
リサイクルペレットの評価
アルカリ脱離試験後の各試験片を細かく裁断し、これを1軸押出機で押し出し、水で急冷してペレットを作製した。作製したペレットと生原反から作製したペレットの色差ΔE*abを分光測色計(日本電色工業(株))を用いて測定し、生原反の状態まで再生できているか否かを確認した。判断基準は、ΔE*(ab)が3未満であれば〇、3以上であれば×とした。
【0050】
(1)導電インキの基準塗布厚
導電インキとしてCNTインキを使用し、導電インキの基材への塗布をバーコーターNo.2~No.24に変更することにより、導電インキの塗布厚を変更して抵抗値を測定した。その結果を
図2に示す。導電インキの塗布厚を増すことで抵抗値は低下していく。CNTインキを用いた搬送トレイ又はキャリアテープの抵抗値は1×10
7未満が好ましく、十分な抵抗値が得られるバーコーターNo.4を基準塗布厚とした。
【0051】
(2)脱離インキの塗布厚
脱離インキの基材への塗布をバーコーターNo.2~No.24に変更することにより、脱離インキ1、2の塗布厚を変更して、上記の脱離性試験を行った。その結果を表1に示す。脱離インキは塗布厚が薄いと脱離インキ層の膜応力が弱いため一部が膜として綺麗に脱離しない(表1にはインキが脱離していない部分と、脱離した部分の両方の色差を記載した)。しかし塗布厚が厚過ぎるとシートの成型時に脱離インキが伸びずに追随性が悪化し、電子部品用の搬送トレイ又はキャリアテープの導電性を阻害する。以上の結果より、脱離インキの塗布厚は1.5~4.0μmの範囲内とし、以下の試験ではインキの塗布厚を2.0μmとした。
【表1】
【0052】
(3)中間層(脱離インキ)を有する場合の導電インキの塗布厚
導電インキとしてCNTインキを使用し、導電インキの基材への塗布をバーコーターNo.4~No.12に変更することにより、導電インキの塗布厚を変更して、上記の追随性試験を行った。その結果を
図3に示す。脱離インキ上に導電インキを塗布すると、導電インキのみの場合に比べて追随性が悪化する。導電インキの塗布厚を増すことで追随性は改善される。基材表面に塗布した脱離インキの表面は凹凸が存在するため、導電インキが薄い場合、延伸された際に導電インキの繋がりが凹凸によって切れ易くなり、導電性が低下すると考えられる。一方、導電インキが厚い場合には、延伸された際にも導電インキの繋がりが残り、導電性の低下を抑制すると考えられる。しかし、導電インキの塗布厚を厚くし過ぎるとインキの乾燥に時間が掛かってしまう。これらの点から、電子部品用の搬送トレイ又はキャリアテープとしての必要な抵抗値や生産性を考慮すると、導電インキの塗布厚は通常厚みの1.5~3.0倍以内とすることが好ましいことが明らかとなった。通常、バーコーターNo.4を基準塗布厚としていたが、上記の結果から、以下の試験ではバーコーターNo.6を基準とした。
【0053】
実施例1
厚み0.5mmのA-PET基材に脱離インキ1をバーコーターにて厚み2μmになるように印刷し、60℃で30分乾燥させた。脱離インキ1の上に導電インキとしてCNTインキをバーコーターにて厚み0.3μmになるように印刷し、60℃で30分乾燥させ、試験片を作製した。
【0054】
実施例2
導電インキをアニリンインキに変更し厚み1.0μmになるよう印刷し、それ以外は実施例1と同様にして試験片を作製した。
【0055】
実施例3
基材をPP基材に変更し、それ以外は実施例1と同様にして試験片を作製した。
【0056】
実施例4
脱離インキを脱離インキ2に変更し、それ以外は実施例1と同様にして試験片を作製した。
【0057】
実施例5
脱離インキを脱離インキ3に変更し、それ以外は実施例1と同様にして試験片を作製した。
【0058】
実施例6
導電インキの厚みを0.3μmから0.4μmに変更し、それ以外は実施例1と同様にして試験片を作製した。
【0059】
実施例7
導電インキの厚みを0.3μmから0.6μmに変更し、それ以外は実施例1と同様にして試験片を作製した。
【0060】
比較例1
脱離インキを印刷せずに、基材に導電インキを厚み0.2μmで直接印刷し、それ以外は実施例1と同様にして試験片を作製した。
【0061】
比較例2
脱離インキを印刷せずに、基材に導電インキを厚み0.67μmで直接印刷し、それ以外は実施例2と同様にして試験片を作製した。
【0062】
比較例3
導電インキの厚みを0.3μmから0.2μmに変更し、それ以外は実施例1と同様にして試験片を作製した。
【0063】
比較例4
導電インキの厚みを0.3μmから1.2μmに変更し、それ以外は実施例1と同様にして試験片を作製した。
【0064】
上記の実施例及び比較例の試験片について、脱離性、追随性の試験及び生産性の確認を行った。その結果を表2に示す。また、実施例及び比較例における脱離試験において分光測色計を用いて測定した色差値を表3に示す。さらに、リサイクルペレットの評価を行った結果として、分光測色計を用いて測定した色差値を表4に示す。
【0065】
【0066】
【0067】
【0068】
比較例1、2は、追随性、生産性は良好であるがインキ脱離性はなかった。またリサイクルペレットの評価では、インキが脱離していないため再生A-PETと比べ色差が大きくなった。比較例3は、脱離性、生産性は良好であるが、追随性が悪い。一方、実施例1、2は脱離性、生産性が良好であり導電インキの厚みを基準×1.5倍にすることで追随性も良好となった。またリサイクルペレットの評価では、再生A-PETとの色差が小さく、問題なくリサイクルが行えると考えられる。実施例3~5も脱離性、追随性、印刷適正が良好であった。実施例6は、追随性は導電インキの厚みが基準×2.0倍のため実施例1よりもさらに良好で、実施例7は、追随性は導電インキの厚みが基準×3.0倍のため実施例6よりもさらに良好であった。比較例4は、脱離性は良好であったが、追随性は実施例7に比べ導電インキの厚みが2倍になっているものの大きくは変化せず、また導電インキの厚みが厚過ぎるためインキの乾燥時間が長く、クラックが発生する懸念もあり生産性が悪い。
【符号の説明】
【0069】
1 基材層
2 導電インキ層
3 中間層
【要約】
【課題】基材をリサイクルして再利用することができる電子部品用の搬送トレイ又はキャリアテープとその再生方法を提供する。
【解決手段】本発明の電子部品用の搬送トレイ又はキャリアテープは、プラスチックシートである基材層と、前記基材層の少なくとも片面側に設けられた導電インキ層と、前記基材層と導電インキ層との間に設けられた、アルカリ溶液中で前記導電インキ層を除去させる中間層とを有し、前記導電インキ層側の表面抵抗値が1×10
3~×1×10
13Ω/□である。
【選択図】
図1