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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-27
(45)【発行日】2023-12-05
(54)【発明の名称】晶析装置及び晶析方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 9/02 20060101AFI20231128BHJP
   B01F 23/40 20220101ALI20231128BHJP
   B01F 25/431 20220101ALI20231128BHJP
【FI】
B01D9/02 605
B01D9/02 602E
B01D9/02 603Z
B01D9/02 607A
B01D9/02 609B
B01F23/40
B01F25/431
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020174902
(22)【出願日】2020-10-16
(62)【分割の表示】P 2020519830の分割
【原出願日】2019-04-25
(65)【公開番号】P2021006345
(43)【公開日】2021-01-21
【審査請求日】2020-10-16
【審判番号】
【審判請求日】2022-11-28
(73)【特許権者】
【識別番号】502040041
【氏名又は名称】日揮株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002756
【氏名又は名称】弁理士法人弥生特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川野 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】田原 直樹
(72)【発明者】
【氏名】高橋 公紀
(72)【発明者】
【氏名】小黒 秀一
【合議体】
【審判長】三崎 仁
【審判官】松井 裕典
【審判官】金 公彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-104942(JP,A)
【文献】特開2019-30834(JP,A)
【文献】特開昭52-62773(JP,A)
【文献】特表2011-509173(JP,A)
【文献】特表2019-509894(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01F21/00-25/90
B01D9/00-9/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに混合されて単相の混合液を形成する第1の液体と第2の液体とが各々供給され、インダクションタイムの経過後に目的物質の結晶を析出させるために前記第1の液体と前記第2の液体との混合処理が行われる容器と、
前記容器内を第1の通流空間と、当該第1の通流空間を囲む第2の通流空間とに区画すると共に、当該第1の通流空間及び第2の通流空間のうちの一方の通流空間から他方の通流空間へ液体を移動させるために多孔質体(中空糸膜を除く)により構成される直管状の筒体と、
前記第1の通流空間及び第2の通流空間のうちの一方の通流空間に、前記第2の液体との混合により得られる混合液に対する前記目的物質の溶解度を低下させる貧溶媒であるか、または、前記目的物質の原料となる原料物質と反応して前記原料物質よりも前記混合液に対する溶解度が小さい前記目的物質を生成する反応晶析を進行させる反応液である前記第1の液体を供給するために、前記筒体の軸方向における前記容器の一端側に設けられる第1の供給口と、
前記一方の通流空間の圧力が前記第1の通流空間及び第2の通流空間のうちの他方の通流空間の圧力よりも高くなるように当該他方の通流空間に前記目的物質、または前記原料物質を含む前記第2の液体を供給するために、前記筒体の軸方向における前記容器の一端側に設けられる第2の供給口と、
前記他方の通流空間に前記第1の液体及び第2の液体の蛇行流を形成して前記混合液を生成するために、前記他方の通流空間において前記軸方向に見た当該他方の通流空間の左右を交互に塞ぐように、当該軸方向に沿って複数段に設けられる閉塞部材と、
前記一方の通流空間及び他方の通流空間のうちの他方の通流空間のみに開口するように前記筒体の軸方向における前記容器の他端側に設けられた、前記第1の液体及び前記第2の液体の混合液を流出させるための流出口と、
を備える液体混合ユニットと、
前記液体混合ユニットの前記流出口より抜き出された混合液を通流させる管路により構成され、前記混合液から前記目的物質の結晶を析出・成長させる熟成管と、を備える晶析装置。
【請求項2】
互いに混合されて単相の混合液を形成する第1の液体と第2の液体とが各々供給され、インダクションタイムの経過後に目的物質の結晶を析出させるために前記第1の液体と前記第2の液体との混合処理が行われる容器と、
前記容器内を第1の通流空間と、当該第1の通流空間を囲む第2の通流空間とに区画すると共に、当該第1の通流空間及び第2の通流空間のうちの一方の通流空間から他方の通流空間へ液体を移動させるために多孔質体により構成される筒体と、
前記第1の通流空間及び第2の通流空間のうちの一方の通流空間に、前記目的物質の原料となる原料物質と反応して前記原料物質よりも前記混合液に対する溶解度が小さい前記目的物質を生成する反応晶析を進行させる反応液である前記第1の液体を供給するために、前記筒体の軸方向における前記容器の一端側に設けられる第1の供給口と、
前記一方の通流空間の圧力が前記第1の通流空間及び第2の通流空間のうちの他方の通流空間の圧力よりも高くなるように当該他方の通流空間に前記原料物質を含む前記第2の液体を供給するために、前記筒体の軸方向における前記容器の一端側に設けられる第2の供給口と、
前記他方の通流空間に前記第1の液体及び第2の液体の蛇行流を形成して前記混合液を生成するために、前記他方の通流空間において前記軸方向に見た当該他方の通流空間の左右を交互に塞ぐように、当該軸方向に沿って複数段に設けられる閉塞部材と、
前記一方の通流空間及び他方の通流空間のうちの他方の通流空間のみに開口するように前記筒体の軸方向における前記容器の他端側に設けられた、前記第1の液体及び前記第2の液体の混合液を流出させるための流出口と、
を備える液体混合ユニットと、
前記液体混合ユニットの前記流出口より抜き出された混合液を通流させる管路により構成され、前記混合液から前記目的物質の結晶を析出・成長させる熟成管と、を備える晶析装置。
【請求項3】
前記筒体の軸方向を上下方向に向け前記第1の供給口、及び前記第2の供給口が設けられた前記容器の前記一端側を、前記容器の上に配置し、前記流出口が設けられた前記容器の前記他端側を、前記容器の下端側に配置したことを特徴とする請求項1または2に記載の晶析装置。
【請求項4】
前記第1の通流空間及び前記第2の通流空間よりも上方位置に設けられ、前記第1の液体または前記第2の液体と共に持ち込まれた気泡を集め、液体から分離するための容器からなる気液分離部と、前記気液分離部内で気泡が液体から分離されて形成された気体溜まりと液体との界面高さを検出するセンサ部と、前記センサ部により検出された界面高さが予め設定された界面高さ以下となった場合に、前記気体溜まりの気体を排出する排気部と、を備えたことを特徴とする請求項1または2に記載の晶析装置。
【請求項5】
前記第2の液体は、前記目的物質の微細結晶を含んでいることを特徴とする請求項1または2に記載の晶析装置。
【請求項6】
多孔質体(中空糸膜を除く)により構成される直管状の筒体によって内部が第1の通流空間と、当該第1の通流空間を囲む第2の通流空間とに区画され、インダクションタイムの経過後に目的物質の結晶を析出させるため、互いに混合されて単相の混合液を形成する第1の液体と第2の液体との混合処理が行われる容器に、前記第1の液体と前記第2の液体とを供給する工程と、
前記第1の通流空間及び前記第2の通流空間のうちの一方の通流空間から他方の通流空間へ、前記筒体を介して液体を移動させる工程と、
前記筒体の軸方向における前記容器の一端側に設けられる第1の供給口から前記一方の通流空間に、前記第2の液体との混合により得られる混合液に対する前記目的物質の溶解度を低下させる貧溶媒であるか、または、前記目的物質の原料となる原料物質と反応して前記原料物質よりも前記混合液に対する溶解度が小さい前記目的物質を生成する反応晶析を進行させる反応液である前記第1の液体を供給する工程と、
前記筒体の軸方向における前記容器の一端側に設けられる第2の供給口から、前記一方の通流空間の圧力が前記他方の通流空間の圧力よりも高くなるように当該他方の通流空間に、前記目的物質、または前記原料物質を含む前記第2の液体を供給する工程と、
前記他方の通流空間において前記軸方向に見た当該他方の通流空間の左右を交互に塞ぐように、当該軸方向に沿って複数段に閉塞部材が設けられ、前記他方の通流空間に前記第1の液体及び第2の液体の蛇行流を形成して前記混合液を生成する工程と、
前記一方の通流空間及び他方の通流空間のうちの他方の通流空間のみに開口するように前記筒体の軸方向における前記容器の他端側に設けられる流出口から、前記第1の液体及び前記第2の液体の混合液を流出させる工程と、
前記流出口より抜き出された混合液を通流させる管路により構成される熟成管にて、前記混合液から前記目的物質の結晶を析出・成長させる工程と、を含むことを特徴とする晶析方法。
【請求項7】
多孔質体により構成される筒体によって内部が第1の通流空間と、当該第1の通流空間を囲む第2の通流空間とに区画され、インダクションタイムの経過後に目的物質の結晶を析出させるため、互いに混合されて単相の混合液を形成する第1の液体と第2の液体との混合処理が行われる容器に、前記第1の液体と第2の前記液体とを供給する工程と、
前記第1の通流空間及び前記第2の通流空間のうちの一方の通流空間から他方の通流空間へ、前記筒体を介して液体を移動させる工程と、
前記筒体の軸方向における前記容器の一端側に設けられる第1の供給口から前記一方の通流空間に、前記目的物質の原料となる原料物質と反応して前記原料物質よりも前記混合液に対する溶解度が小さい前記目的物質を生成する反応晶析を進行させる反応液である前記第1の液体を供給する工程と、
前記筒体の軸方向における前記容器の一端側に設けられる第2の供給口から、前記一方の通流空間の圧力が前記他方の通流空間の圧力よりも高くなるように当該他方の通流空間に、前記原料物質を含む前記第2の液体を供給する工程と、
前記他方の通流空間において前記軸方向に見た当該他方の通流空間の左右を交互に塞ぐように、当該軸方向に沿って複数段に閉塞部材が設けられ、前記他方の通流空間に前記第1の液体及び第2の液体の蛇行流を形成して前記混合液を生成する工程と、
前記一方の通流空間及び他方の通流空間のうちの他方の通流空間のみに開口するように前記筒体の軸方向における前記容器の他端側に設けられる流出口から、前記第1の液体及び前記第2の液体の混合液を流出させる工程と、
前記流出口より抜き出された混合液を通流させる管路により構成される熟成管にて、前記混合液から前記目的物質の結晶を析出・成長させる工程と、を含むことを特徴とする晶析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、容器内で複数の液体を混合して混合を生成する液体混合ユニットを用いて晶析を行う晶析装置及び晶析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医薬品などの製造プロセスにおいて、複数の液体を混合する処理が行われる。この混合処理の一例としては、原料液から目的物質の結晶を得る晶析が挙げられる。例えば貧溶媒晶析は、目的物質が溶解した原料液に対し、目的物質の溶解度を低下させる貧溶媒を混合して、得られた混合液中に目的物質の結晶を析出させる。また、反応晶析は、原料物質を含む原料液に対し、原料物質と反応してより溶解度が小さい目的物質を生成する反応液を混合することにより、目的物質の結晶を析出させる。
【0003】
上記の晶析としては、容器内に収容された一の液体に他の液体を滴下させた後、容器内の各液体を撹拌して混合して多量の結晶を生成し、その結晶を容器内から一括して取り出して製品を製造するバッチ製造が行われている。しかし、このバッチ製造を行う装置としては、このような各工程が行われるように構成することで大型となる。さらに、容器内への液体の仕込みや結晶を析出させた混合液の払い出しなど、装置の運用が煩雑となる。そのため、バッチ製造によれば、製品の製造コストが高くなってしまうおそれが有る。そのような事情から、製品の製造コストの低減を図る目的で、連続的に液体同士を混合して少量ずつ結晶を生成し、その結晶を取り出して連続的に製品を製造する連続製造への転換が図られている。
【0004】
そのような連続製造を行うにあたり、上記の混合をどのように行うかが検討されている。具体的に述べると、上記の製造コストを抑えるために装置が小型化されると、装置内で液体を流通させるための配管について小型化されるので、配管径についても比較的小さくなる。しかし、そのように配管径が小さいと、当該配管内を通流する各液体が受ける圧力損失が大きい。さらに、少量ずつ生産を行うという連続製造の目的から、配管を流れる各液体の流量は比較的小さいものとなる。
【0005】
つまり、装置内を流れる各液体の流速を高くすることは難しく、各液体は装置内の流路を層流の状態で通流することになり、層流同士は流路内で互いに混合され難い。そのため、各液体を共通の流路(通流空間)に供給して、当該流路にて互いに混合することを図ったとしても、十分な混合を行えないおそれが有る。晶析を行う場合を例に挙げて説明したが、晶析以外の液体の混合を行う処理(具体例は発明の実施するための形態の項目で述べる)を行う場合においても、同様の問題が存在する。なお、流路にて複数の液体を混合するスタティックミキサーと呼ばれる器具が知られている。しかしこのスタティックミキサーを用いる場合においても、液体同士の十分な混合を行うためには、乱流となるように比較的高い流速で各液体を当該スタティックミキサーが設けられる流路に供給することが求められる。
【0006】
ところで、液体の混合を行う各処理では、液体同士の急激な反応を抑えるために、混合液中の第1の液体中に対する第2の液体の濃度を次第に高くして急激な濃度変化が抑制されるようにすることが求められる場合が有る。従来、下流側が2つの液体に共通の流路となるように合流するT字状の配管やY字状の配管の上流側から各液体を同時に供給することで液体同士の混合が行われることが有る。しかし、そのような混合手法によれば、共通の流路に各液体が一度に流れ込むので、上記の急激な反応が起きてしまうおそれが有る。
【0007】
なお、特許文献1には容器300内に多孔質の本体150が設けられた装置が示されており、上記の本体150には、第1の流れ(第1の流体)が通過する多数の供給チャンネル(孔部)110と、第2の流れ(第2の流体)が通過する多数の掃引チャンネル210(孔部)とが、互いに直交して設けられている。上記の容器300には、当該容器300内における上記の第2の流れを蛇行流とするための仕切り358と、掃引チャンネル210を通過した第2の流れを排出するパージ排出口2102と、が設けられている。そして、供給チャンネル110を通過した第1の流れは、第2の流れとは別に、第2組成物1802として容器300から流出することが示されている。つまり、特許文献1には流体同士の混合を行い得るようにも記載されているが、この特許文献1の装置は、多孔質の本体150を介して第1の流れと第2の流れとの間で物質を移動させて、そのように物質の移動が行われた第1の流れと第2の流れとを容器300に別々に設けられた取り出し口から取り出すものである。従って、本発明のように2つの流体を混合して混合流体として取り出すものではなく、本発明とは構成が異なる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2008-521595(図7
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、通流空間を流れる複数の液体を確実に混合して混合を生成すると共に、一方の液体中における他方の液体の濃度が徐々に上昇するように混合を行うことにより目的物質の晶析を行う技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の晶析装置は、互いに混合されて単相の混合液を形成する第1の液体と第2の液体とが各々供給され、インダクションタイムの経過後に目的物質の結晶を析出させるために前記第1の液体と前記第2の液体との混合処理が行われる容器と、
前記容器内を第1の通流空間と、当該第1の通流空間を囲む第2の通流空間とに区画すると共に、当該第1の通流空間及び第2の通流空間のうちの一方の通流空間から他方の通流空間へ液体を移動させるために多孔質体(中空糸膜を除く)により構成される直管状の筒体と、
前記第1の通流空間及び第2の通流空間のうちの一方の通流空間に、前記第2の液体との混合により得られる混合液に対する前記目的物質の溶解度を低下させる貧溶媒であるか、または、前記目的物質の原料となる原料物質と反応して前記原料物質よりも前記混合液に対する溶解度が小さい前記目的物質を生成する反応晶析を進行させる反応液である前記第1の液体を供給するために、前記筒体の軸方向における前記容器の一端側に設けられる第1の供給口と、
前記一方の通流空間の圧力が前記第1の通流空間及び第2の通流空間のうちの他方の通流空間の圧力よりも高くなるように当該他方の通流空間に前記目的物質、または前記原料物質を含む前記第2の液体を供給するために、前記筒体の軸方向における前記容器の一端側に設けられる第2の供給口と、
前記他方の通流空間に前記第1の液体及び第2の液体の蛇行流を形成して前記混合液を生成するために、前記他方の通流空間において前記軸方向に見た当該他方の通流空間の左右を交互に塞ぐように、当該軸方向に沿って複数段に設けられる閉塞部材と、
前記一方の通流空間及び他方の通流空間のうちの他方の通流空間のみに開口するように前記筒体の軸方向における前記容器の他端側に設けられた、前記第1の液体及び前記第2の液体の混合液を流出させるための流出口と、
を備える液体混合ユニットと、
前記液体混合ユニットの前記流出口より抜き出された混合液を通流させる管路により構成され、前記混合液から前記目的物質の結晶を析出・成長させる熟成管と、を備える。
本発明の他の晶析装置は、互いに混合されて単相の混合液を形成する第1の液体と第2の液体とが各々供給され、インダクションタイムの経過後に目的物質の結晶を析出させるために前記第1の液体と前記第2の液体との混合処理が行われる容器と、
前記容器内を第1の通流空間と、当該第1の通流空間を囲む第2の通流空間とに区画すると共に、当該第1の通流空間及び第2の通流空間のうちの一方の通流空間から他方の通流空間へ液体を移動させるために多孔質体により構成される筒体と、
前記第1の通流空間及び第2の通流空間のうちの一方の通流空間に、前記目的物質の原料となる原料物質と反応して前記原料物質よりも前記混合液に対する溶解度が小さい前記目的物質を生成する反応晶析を進行させる反応液である前記第1の液体を供給するために、前記筒体の軸方向における前記容器の一端側に設けられる第1の供給口と、
前記一方の通流空間の圧力が前記第1の通流空間及び第2の通流空間のうちの他方の通流空間の圧力よりも高くなるように当該他方の通流空間に前記原料物質を含む前記第2の液体を供給するために、前記筒体の軸方向における前記容器の一端側に設けられる第2の供給口と、
前記他方の通流空間に前記第1の液体及び第2の液体の蛇行流を形成して前記混合液を生成するために、前記他方の通流空間において前記軸方向に見た当該他方の通流空間の左右を交互に塞ぐように、当該軸方向に沿って複数段に設けられる閉塞部材と、
前記一方の通流空間及び他方の通流空間のうちの他方の通流空間のみに開口するように前記筒体の軸方向における前記容器の他端側に設けられた、前記第1の液体及び前記第2の液体の混合液を流出させるための流出口と、
を備える液体混合ユニットと、
前記液体混合ユニットの前記流出口より抜き出された混合液を通流させる管路により構成され、前記混合液から前記目的物質の結晶を析出・成長させる熟成管と、を備える。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、多孔質体により構成される筒体によって容器内を第1の通流空間と第2の通流空間とに区画しているので、第1の通流空間及び第2の通流空間のうちの一方の通流空間から他方の通流空間へ、筒体の軸方向に均一性高く液体が供給される。従って、複数の液体を確実に混合して混合を生成することができ、且つ一方の液体中における他方の液体の濃度が徐々に上昇するように混合を行いながら晶析を実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の第1の実施形態に係る流体混合ユニットを含む晶析装置の構成図である。
図2】前記流体混合ユニットの縦断側面図である。
図3】前記流体混合ユニットの横断平面図である。
図4】前記流体混合ユニットを構成する容器の内部を示す斜視図である。
図5】前記容器の内部に設けられるバッフル板の斜視図である。
図6】前記バッフル板の側面図である。
図7】前記容器の内部における各液体の流れを示す模式図である。
図8】第2の実施形態に係る流体混合ユニットの縦断側面図である。
図9】前記第2の実施形態に係る流体混合ユニットの横断平面図である。
図10】第3の実施形態に係る流体混合ユニットの縦断側面図である。
図11】前記第3の実施形態に係る流体混合ユニットの横断平面図である。
図12】前記バッフル板の他の構成例を示す平面図である。
図13】前記バッフル板の他の構成例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は、本発明の第1の実施形態に係る流体混合ユニット3を備える晶析装置1を示しており、この晶析装置1は貧溶媒晶析を連続的に実施するように構成されている。晶析装置1は、原料液供給部11と、貧溶媒供給部21と、原料液及び貧溶媒を混合して混合液(混合流体)を生成する流体混合ユニット3と、流体混合ユニット3より流出する混合液から目的物質の結晶を析出・成長させる熟成管5と、熟成管5で成長した結晶を分離する固液分離部50と、熟成管5へ向かう混合液中の気泡をトラップして除去する排気部6と、を備えている。また、晶析装置1は、流体混合ユニット3を構成する処理容器31の下部側から原料液及び貧溶媒を各々供給し、当該処理容器31の上部側から上記の混合液を流出させる、アップフロー型の装置として構成されている。
【0014】
原料液供給部11は、原料液を貯留した原料液タンク12と、この原料液タンク12から抜き出された原料液を処理容器31に供給するための原料液供給ライン13とを備える。原料液供給ライン13には、ダイアフラムポンプ14と、圧力計15と、開閉バルブ16と、が上流側からこの順に設けられている。背景技術の項目で述べたように、原料液には晶析の目的物質が含まれる。なお、当該原料液は、目的物質の微細結晶(種晶)を含んでもよい。
【0015】
貧溶媒供給部21は、貧溶媒を貯留した貧溶媒タンク22と、この貧溶媒タンク22から抜き出された貧溶媒を処理容器31に供給するための貧溶媒供給ライン23を備える。貧溶媒供給ライン23には、ダイアフラムポンプ24と、圧力計25と、開閉バルブ26と、圧力計27と、が上流側からこの順に設けられている。
【0016】
続いて流体混合ユニット(液体混合ユニット)3について、縦断側面図である図2、及び横断平面図である図3を参照しながら説明する。流体混合ユニット3は、上記の処理容器31と、多孔質膜32と、閉塞部材である多数のバッフル板4と、を備えている。処理容器31は、垂直に起立した縦長の円形の容器であり、当該処理容器31において、側壁の下端部には側壁供給口33が、底壁には底壁供給口34が夫々開口している。上記の原料液供給ライン13の下流端は、第2の供給口である側壁供給口33に原料液(第2の液体)を供給できるように、処理容器31の下部側の側壁に接続されている。上記の貧溶媒供給ライン23の下流端は、第1の供給口である底壁供給口34に貧溶媒(第1の液体)を供給できるように、処理容器31の底部に接続されている。
【0017】
上記の多孔質膜32は縦長の円筒体として処理容器31内に設けられており、処理容器31の側壁と多孔質膜32とは、互いの筒軸が一致する二重管を形成している。なお、図3中のOは、当該筒軸を示している。多孔質膜32は処理容器31の内部空間の下端から上端に亘って設けられ、当該多孔質膜32により当該内部空間は、第1の通流空間35と、当該第1の通流空間35を囲む第2の通流空間36とに区画されている。上記の側壁供給口33は第2の通流空間36に、上記の底壁供給口34は第1の通流空間35に夫々開口している。
【0018】
上記の多孔質膜32については、多孔質ガラスや多孔質セラミックス、多孔質高分子など種々の材料からなるものを利用することができる。例えば多孔質膜32は、平均細孔径が0.01~50μmの範囲であるものであるものを用いることができる。また、より好適には、平均細孔径が0.01~10μmであるものを用いる。多孔質膜32の細孔径分布は、例えば水銀圧入法やガス吸着法により測定することができる。
【0019】
この晶析装置1においては、第1の通流空間35の圧力が第2の通流空間36の圧力よりも高くなるように、原料液供給部11、貧溶媒供給部21から夫々原料液、貧溶媒が処理容器31に供給される。そのように第1の通流空間35と第2の通流空間36との間に圧力差が形成されることで、貧溶媒は図3に点線の矢印で示すように、多孔質膜32に設けられる細孔を介して第1の通流空間35から第2の通流空間36に流入する。そのように第2の通流空間36に貧溶媒が流入することで、後に図6で詳しく説明するように、当該第2の通流空間36の上方側に向かうほど、混合液中の貧溶媒の濃度が高くなる濃度分布が形成される。
【0020】
なお、上記の貧溶媒供給ライン23の圧力計27は、既述のように第1の通流空間35の圧力が第2の通流空間36の圧力よりも高く保たれることを監視するために用いられる。また、上記の混合液中の貧溶媒の濃度分布を形成可能な場合は、平均細孔径が50μmよりも大きな多孔質膜32を用いることもできる。このような多孔質膜32を構成する材料としては、焼結金属を例示することができる。
【0021】
ところで、処理容器31の側壁の上端部には、上記の混合液を流出させるための流出口39が形成されている。そのような位置に形成されることで、当該流出口39は第1の通流空間35及び第2の通流空間36のうち、第1の通流空間35のみに開口している。なお、上記のように処理容器31は垂直に起立しているため、筒体である多孔質膜32の軸方向は垂直方向であり、この軸方向における処理容器31の一端側(下端側)に上記の側壁供給口33及び底壁供給口34が開口し、当該軸方向における処理容器31の他端側(上端側)に流出口39が開口している。
【0022】
続いて処理容器31内に設けられるバッフル板4について、図4図6も参照しながら説明する。図4図5は、バッフル板4の斜視図であり、図6はバッフル板4の側面図である。各バッフル板4は円環部材であり、より詳しくは円環の外周円の2点を結ぶ弦に沿って端部が切り欠かれた形状とされている。図中41は切り欠かれた部位の側壁であり、処理容器31の内壁との間に隙間40を形成する。バッフル板4については互いに等間隔を開けて配置され、筒体である多孔質膜32の軸方向(垂直方向)に沿って、多段に設けられている。そして、軸方向に見ると、バッフル板4は第2の通流空間36の左右の一方または他方を塞ぐ。また、軸方向に沿って見ると、バッフル板4は第2の通流空間36の左右の一方、他方を交互に塞いで配置され、第2の通流空間36には蛇行流の流路が形成されている。
【0023】
上記の第2の通流空間36の左右をバッフル板4の左右とする。このバッフル板4の左右において、側壁41が設けられて第2の通流空間36を塞がない側を開放側、当該開放側の反対で第2の通流空間36を塞ぐ側を閉鎖側とする。バッフル板4の厚さは、開放側の端部から閉鎖側の端部に向かうにつれて上昇する。より具体的にはバッフル板4は側面視、上下対称であり、開放側から閉鎖側へ向かうにつれて下側(処理容器31の一端側)へ向かって漸近する下側傾斜面42と、開放側から閉鎖側に向かうにつれて上側(処理容器31の他端側)へ向かって漸近する上側傾斜面43と、を備えている。
【0024】
このように下側傾斜面42及び上側傾斜面43が設けられる理由について説明する。原料液供給部11から第2の通流空間36に供給される原料液に、気泡101が含まれることが考えられる(図6参照)。この気泡101はその浮力と、第2の通流空間36における液流から受ける圧力とにより、バッフル板4の下面に沿って移動するが、当該下面が下側傾斜面42として構成されていることで、図6中に実線の矢印で示すように、当該下側傾斜面42にガイドされて上方へと排出されやすい。従って、気泡101の体積の分だけ第2の通流空間36における液体の体積が減って液体同士の混合が起こり難くなってしまうことを防ぐことができる。第2の通流空間36における液体のレイノルズ数が後述のような低い値となる場合、気泡101は液流によって比較的押し流され難いので、当該気泡101の排出を促進するために、このような下側傾斜面42を設けることが特に好ましい。
【0025】
また、上記のように貧溶媒が多孔質膜32を介して第1の通流空間35から第2の通流空間36に流入するが、そのように第2の通流空間36に流れ出た貧溶媒は下側傾斜面42及び上側傾斜面43にガイドされて上方側へと向かうことで、バッフル板4の周囲で当該貧溶媒の流れが淀むことが抑制され、原料液との混合がより効率良く行われる。
【0026】
図6中、水平面(筒軸Oに対する直交面)をL0で示している。上記の下側傾斜面42及び上側傾斜面43は、閉鎖側よりも開放側の方が水平面L0に対する傾斜が急に構成されている。また、図6中、開放側の端部における下側傾斜面42、上側傾斜面43が夫々水平面L0に対してなす角度をθ1、θ2として示している。角度θ1、θ2が大きすぎると、バッフル板4の厚さが大きくなり、第2の通流空間36に十分な数のバッフル板4を配置できなくなってしまう。そのため角度θ1、θ2については例えば0°~40°とすることが好ましい。
【0027】
ところでバッフル板4は、後に詳しく説明するように処理容器31内における流路を長く且つ狭くすることで、第2の通流空間36における原料液と貧溶媒との混合を促進する。その観点から、図2に示すように処理容器31の内部空間の軸方向における長さをL1、隣接するバッフル板4の間隔をL2、バッフル板4の閉鎖側の端部における厚さをL3とすると、例えばL2/L1を0.1以下、例えばL3/L1を0.1以下とし、処理容器31内に設けるバッフル板4の枚数としては10枚以上であることが好ましい。なお、上記の間隔L2について補足しておくと、間隔L2は各バッフル板4の閉鎖側の端についての上記の軸方向における間隔である。また、そのように流路を長く且つ狭くする観点から、図3に示すように、筒軸Oと処理容器31の内壁との距離をL4、筒軸方向に見た隙間40の幅(弦を等分する点と弧を等分する点との距離)をL5とすると、L5/L4は1以下であることが好ましい。
【0028】
図1に戻って、流体混合ユニット3以外の晶析装置1の各部の構成について説明する。流出口39から流出した混合液は、処理容器31の上部側の側壁に設けられるT型繋ぎ51に供給される。このT型繋ぎ51には、ライン52が接続されている。ライン52には、上流側から順に圧力計53、ニードルバルブ54が設けられている。ライン52におけるニードルバルブ54の下流側は上記の熟成管5として構成されており、当該熟成管5は、原料液と貧溶媒との混合液から、目的物質の結晶が析出して所望の結晶径に成長するまで、前記混合液を通流させる役割を有する。そして熟成管5の下流端部には、上記の固液分離部50が設けられている。固液分離部50は、例えば固液分離用のフィルターと、アスピレーターとを組み合わせて構成され、混合液を結晶と廃液とに分離する。図中55は、分離された結晶を収容する受け入れ容器である。
【0029】
続いて、排気部6について説明する。当該排気部6は、上記のT型繋ぎ51の側面から分岐した分岐管61に接続された容器である気液分離部62と、例えば超音波レベルセンサにより構成され、気液分離部62内の液面レベル(気体溜まりと液体との界面高さ)を測定する液面計63と、液面計63による液面レベルの検出結果に基づき、脱気バルブ65の開閉を実行するバルブコントローラ64と、を備えている。上記の流出口39から放出され、気液分離部62に流れ込んだ気泡101は、当該気液分離部62にトラップされて、気体溜りを形成する。バルブコントローラ64は、液面計63にて検出された液面レベルが、予め設定された液面レベル以下となった場合に、脱気バルブ65を開いて、気体溜まりの気体を外部へ排出するように構成されている。
【0030】
続いて晶析装置1の作用について、処理容器31内における原料液の流れ、貧溶媒の流れを実線の矢印、点線の矢印で夫々示す図7も参照しながら説明する。先ず、開閉バルブ16、26が開かれ、ダイアフラムポンプ14、15が駆動し、原料液タンク12内の原料液が所定流量で連続的に側壁供給口33を介して第2の通流空間36に供給されると共に、貧溶媒タンク22内の貧溶媒が所定流量で連続的に第1の通流空間35に供給される。
【0031】
第1の通流空間35を流れる貧溶媒のレイノルズ数及び第2の通流空間36を流れる原料液のレイノルズ数は、例えば各々2000以下である。このようなレイノルズ数であるため、第1の通流空間35を流れる貧溶媒、第2の通流空間36を流れる原料液は夫々層流である。原料液及び貧溶媒は、第1の通流空間35の圧力が第2の通流空間36の圧力よりも高くなるように供給され、第1の通流空間35から貧溶媒が、多孔質膜32に設けられる細孔37を介して第2の通流空間36に流入する。
【0032】
バッフル板4が設けられることにより、第2の通流空間36において底壁供給口34から流出口39に至るまでの流路は、比較的長く形成されているので、原料液と貧溶媒とは処理容器31に流入してから流出するまでに比較的長い時間、互いに接する。また、バッフル板4によって原料液は多孔質膜32の左右に蛇行して流れることで、多孔質膜32から流出する貧溶媒に対して撹拌作用が得られる。さらに、バッフル板4に挟まれて形成される第2の通流空間36における流路の高さは比較的小さいため、バッフル板4を設けない場合に比べて第2の通流空間36を流れる原料液及び貧溶媒の流速が高くなり、上記の撹拌作用が比較的高くなる。これらの要因によって、原料液と貧溶媒との混合が効率良く進行する。このように貧溶媒との混合が行われることで、原料液に含まれる目的物質の溶解度が低下する。なお、貧溶媒の混合により、混合液中の目的物質の濃度が飽和状態となってから、目的物質の結晶の析出が始まるまでにはある程度の時間の経過が必要であり、この時間をインダクションタイムと呼ぶ。
【0033】
また、多孔質膜32においては多数の細孔37が、多孔質膜32の面内に均一性高く分布している。そのため、貧溶媒は多孔質膜32の面内の各位置からほぼ同じ流速で第2の通流空間56内に流入し、上記の混合が行われる。従って、蛇行して上方へと流れる原料液から見れば、徐々に貧溶媒が供給される状態となる。その結果として、図7に併記しているグラフに示すように、第2の通流空間56の各高さ位置における混合液中の貧溶媒の平均濃度が、下部側から上部側へ向けて連続的に高くなる濃度分布が形成される。(図7には貧溶媒の濃度が比例的に増加する例を示してある)。
【0034】
上記のように第2の通流空間36で生成された混合液は流出口39から連続的に流出し、ライン52、ニードルバルブ54を介して熟成管5に供給される。そして混合液が熟成管5内を通流する過程でインダクションタイムが経過し、目的物質の結晶が析出、成長する。この混合液は固液分離部50に供給され、目的物質の結晶が、液体から分離されて受入容器55に収容される。結晶が分離された液体は、廃液として処理される。なお、析出した目的物質の結晶により、ライン52におけるニードルバルブ54の閉塞が発生した場合には、圧力計53の圧力上昇として検知されるので、ダイアフラムポンプ14、24の動作が停止する。また、このように熟成管5に混合液が供給される過程で、気泡が気液分離部62に流入して気体溜まりが形成される。そして、液面計63にて検出される液面レベルが予め設定されたレベル以下となったら、既述ように脱気バルブ65が開かれ、気液分離部62内の気体が外部へ排出される。
【0035】
上記のように流体混合ユニット3を用いることで、原料液と貧溶媒とを確実に混合して混合液として流出口39から流出させることができ、第2の通流空間36を流出口39へ向けて通流する原料液中の貧溶媒の濃度が徐々に上昇するように混合を行うことができる。従って例えば、原料液中の貧溶媒の濃度を急激に高くすると、生成する結晶の性質が劣化する場合などの不具合が生じる場合などに、流体混合ユニット3を好ましく用いることができる。
【0036】
なお、上記の説明で原料液及び貧溶媒を「連続的に供給する」操作には、これらの液体の流量を一定にして連続的に供給する場合の他に、所定流量での供給と停止や、供給量の増減を断続的に繰り返す場合も含まれる。また、混合液が「連続的に流出する」ことについても、混合液の流量が一定で連続的に流出する場合の他に、所定流量での流出と流出の停止が行われたり、流出量の増減を一定間隔で断続的に繰り返す場合も含まれる。
【0037】
ところで、例えば配管径が数10mmの配管を備える装置において、当該配管中を比較的低い流量で複数の液体を流して混合を行うとする。その場合、当該配管中の液体のレイノルズ数が数10と小さくなることが有る。その装置において、各液体の流速を高くすることが可能であるならば、流速を高くして乱流を形成して互いに混合し、バッファータンクに混合液を受けるなどして混合液を得ることが考えられる。しかし、流体混合ユニット3を用いることで、そのように乱流を形成したり、バッファータンクを設ける必要が無くなる。従って流体混合ユニット3を用いることで液体同士の混合を行うにあたり、装置構成を簡素にすることができる利点が有る。なお、背景技術の項目で述べたように装置の構成上、各液体の流速を高くできない場合が有り、その場合には液体同士の混合を行うために、当該流体混合ユニット3を用いることが特に有効となる。また、背景技術の項目で述べたバッチ製造を行うための装置は、容器内に供給された液体同士を撹拌するために、当該容器に撹拌機構が設けられる。しかし、流体混合ユニット3によれば、液体を混合するにあたりそのような撹拌機構が不要であるので、その観点からも当該流体混合ユニット3を用いることで、装置構成を簡素とすることができる。
【0038】
また、上流側が分岐すると共に下流側が合流する微小なT字あるいはY字の流路を備えるマイクロリアクターと呼ばれる器具が知られている。上流側が2つの液体が別々に供給され、毛細管現象により各液体は自動で下流側へ流れて互いに接して合流する。しかし、このマイクロリアクターによる混合は、背景技術の項目で述べたように一方の液体中における他方の液体の濃度が急激に上昇してしまうし、毛細管現象が作用するように流路が微小であるため供給できる液体の流量に制限が有る。マイクロリアクターの代わりに流体混合ユニット3を用いてもよく、その場合には上記の濃度の急激な上昇を防ぐことができ、且つ供給可能な液体の流量の自由度が高いという利点が有る。
【0039】
続いて、第2の実施形態に係る流体混合ユニット7について、縦断側面図である図8及び横断平面図である図9を参照しながら、流体混合ユニット3との差異点を中心に説明する。流体混合ユニット7においては、第2の通流空間36にバッフル板4が設けられる代わりに、第1の通流空間35にバッフル板44が設けられている。このバッフル板44により、流体混合ユニット7においては第1の通流空間45に蛇行流が形成される。また、流出口39が処理容器31の天井部に設けられており、第1の通流空間35及び第2の通流空間36のうち、第1の通流空間35のみに開口している。そして、原料液供給ライン13が処理容器31の底壁供給口34に、貧溶媒供給ライン23が処理容器31の側壁供給口33に夫々接続されている。
【0040】
上記のバッフル板44は概ね円形に構成されており、より詳しくは円周の2点を結ぶ弦に沿うように、円の端部が切り欠かれた形状とされている。図中の48はこのように切り欠かれた部位の側壁であり、49は側壁48と多孔質膜32との間の隙間である。このバッフル板44についてもバッフル板4と同様、下側傾斜面42及び上側傾斜面43を備えるように、開放側(側壁48が設けられる側)から閉鎖側(側壁48が設けられる側の反対側)に向かうにつれて厚さが大きくなる。そして、バッフル板44についてもバッフル板4と同様に、多孔質膜32の筒体の軸方向に多段に設けられており、当該軸方向に沿って見て左右の一方、他方を交互に塞ぐように配置されている。
【0041】
第1の通流空間35における圧力の方が、第2の通流空間36における圧力よりも低くなるように原料液及び貧溶媒が供給され、バッフル板44により、原料液は第1の通流空間35を左右に蛇行して上方へ向かう。その一方で、多孔質膜32の内周面の各部から均一性高く第1の通流空間35に貧溶媒が供給される。なお、図9の点線の矢印は貧溶媒の流れを示している。既述の第2の通流空間36にバッフル板4が設けられた場合と同様に、バッフル板44が設けられることで原料液と貧溶媒との接触時間が長くなると共に撹拌性が高くなり、効率良く混合が行われ、流出口39から生成した混合液を流出させることができる。また、上記のように多孔質膜32を介して第1の通流空間35に貧溶媒が供給されるので、流出口39に向けて通流する原料液に徐々に貧溶媒が供給され、第1の通流空間35の各高さ位置における混合液中の貧溶媒の平均濃度は下部側から上部側に向けて連続的に高くなる。つまり、流体混合ユニット7も流体混合ユニット3と同様の効果を奏する。
【0042】
説明の便宜上、貧溶媒晶析を行う場合を説明してきたが、本技術は反応晶析に適用してもよいし、晶析のみに適用されることには限られない。例えば一の液体と他の液体とを一度に多量に混合すると、各液体同士が急激に反応し、発熱などが起こる危険な状態となったり、固化してしまうような場合に流体混合ユニット3、7を用いることで、そのような発熱や固化を抑制することができる。例えば一の液体として水、他の液体として硫酸とを混合する場合に適用し、過度の発熱及び突沸を防ぐことができる。その他、医薬品の連続製造においてタンパク質を含む原料液のpHを調整するために、pH調整剤としてアルカリ水溶液(例えばNaOH)を供給する場合が有る。例えば容器内に貯留した原料液に配管を介してアルカリ水溶液を滴下すると、容器内の原料液の液溜まりにおいてアルカリが滴下される位置のpHが局所的且つ急激に変化し、原料液中のタンパク質が変性し、製品の品質低下が起きてしまうおそれが有る。しかし流体混合ユニット3、7を用いることで、そのような急激なpHの変化を抑制し、製品の品質低下を抑制することができる。
【0043】
続いて第3の実施形態に係る流体混合ユニット8について、縦断側面図である図10、横断平面図である図11を夫々参照して、上記の流体混合ユニット3との差異点を中心に説明する。この流体混合ユニット8においては流体混合ユニット3との差異点として、多孔質膜32A、32B、32C、第1の通流空間35A、35B、35C、底壁供給口34A、34B、34Cが設けられ、多孔質膜32A~32Cは、バッフル板4を貫通するように設けられている。このような構成により、第1の通流空間35A、35B、35Cに各々異なる液体を供給し、多孔質膜32A、32B、32Cを介して各液体を第2の通流空間36に供給することができる。
【0044】
例えば、底壁供給口34A、34B、34Cから液体である薬品81、82、83を夫々供給し、側壁供給口33から液体である薬品84を供給する。そして薬品81~84の反応生成物である液体を流出口39から流出させる。図中85は、多孔質膜32Cの下部側を覆うフィルムであり、このフィルム85に覆われた部位からは薬品83が流出しない。従って、薬品84は薬品81及び薬品82と反応した後に、薬品83と反応する。このようにフィルム85によって第2の通流空間36における反応の順番を調整することができる。この流体混合ユニット8についても流体混合ユニット3と同様にバッフル板4の作用によって確実に各薬品81~84の混合を行うことができる。そして、第2の通流空間36を通流する薬品84に対して薬品81~83を徐々に供給して混合することができる。
【0045】
ところで第1の実施形態の流体混合ユニット3のバッフル板について、処理容器31内を左右交互に塞ぐことができればよいため、既述のバッフル板4のように構成することには限られない。例えば、上記の隙間40を形成する切り欠きを備える代わりに、バッフル板を厚さ方向に貫通する貫通孔46を設けてもよい。また、バッフル板としては環状部材として構成することに限られず、図13に示すようにアーチ状に形成してもよい。ただし、既述したように蛇行流の流路を長くすることで、液体同士の混合をより確実に行うことができる。その観点からバッフル板としては上記のバッフル板4のように、環状部材とすると共に切り欠きを備える構成とすることが好ましい。なお、第2の実施形態の流体混合ユニット7に設けるバッフル板についてもバッフル板44のように構成することに限られず、貫通孔46を備える構成としてもよいし、例えば半円状に構成してもよい。
【0046】
また、既述の各流体混合ユニット3、7、8は、既述のように流出口39が上側、側壁供給口33及び底壁供給口34が下側となるように用いることに限られず、上下を逆に配置して用いてもよいし、横置きで用いてもよい。ただし、図6で説明したようにバッフル板4により気泡101を処理容器31の上方へ向けて排出しやすくするために、既述の例のように流出口39が上側、側壁供給口33及び底壁供給口34が下側となるように用いることが好ましい。
【0047】
なお、第1の実施形態の流体混合ユニット3においては、第1の通流空間35、第2の通流空間36に夫々下部側から上部側に向けて貧溶媒、原料液を供給しているが、第1の通流空間35に処理容器31の上部側から貧溶媒を供給してもよい。即ち、底壁供給口34を設ける代りに処理容器31の天井部に供給口を設け、当該天井部の供給口から貧溶媒を第1の通流空間35に供給してもよい。そのような構成としても、上記のように多孔質膜32の各部から均一性高く貧溶媒を第2の通流空間36に供給することができるので、第2の通流空間36を通流する原料液中の貧溶媒の濃度が徐々に上昇するように混合を行うことができる。同様に、第2の実施形態の流体混合ユニット7について、貧溶媒の供給口としては処理容器31の底壁に形成することに限られず、天井部や側壁に形成してもよい。
【0048】
なお、バッフル板4、44については、例えば上側傾斜面43及び下側傾斜面42のいずれか一方のみを備えるように、開放側から閉鎖側に向かうにつれて厚さが大きくなるように形成してもよい。また閉塞部材としてはバッフル板4、44のように板状に形成することに限られず、比較的厚さが大きいブロック状に形成してもよい。ただし、処理容器31内に多数設けて上記のように流路を長くするために、板状とすることが好ましい。また、上記の各実施形態で説明したバッフル板と多孔質膜32とは、別個に成型して互いに接合されたものであってもよいし、一体成型されたものであってもよい。また、処理容器31は円形であることに限られず、角型であってもよい。また、多孔質膜32の筒体についても円形であることに限られず、角型であってもよい。さらに、各流体混合ユニットで混合する流体としては液体に限られず、気体であってもよい。
【0049】
ところで、第1の実施形態の流体混合ユニット3について、第1の通流空間35を流れる貧溶媒のレイノルズ数及び第2の通流空間36を流れる原料液のレイノルズ数は、例えば各々2000以下とすると説明した。補足すると、上記のように第2の通流空間36には上記のようにバッフル板4が設けられているが、ここでいう第2の通流空間36とは、バッフル板4が設けられていないと仮定した場合における第2の通流空間36である。つまり、バッフル板4が無い状態で原料液を供給したときに、第2の通流空間36における原料液のレイノルズ数が例えば2000以下ということである。また、第2の実施形態の流体混合ユニット7についても、第1の通流空間35を流れる原料液のレイノルズ数及び第2の通流空間36を流れる貧溶媒のレイノルズ数は、例えば各々2000以下である。第2の実施形態には第1の通流空間35にバッフル板44が設けられているが、ここでいう第1の通流空間35とは、バッフル板44が設けられていないと仮定した場合における第1の通流空間35である。つまり、バッフル板44が無い状態で、原料液を供給したときに第1の通流空間36における原料液のレイノルズ数が例えば2000以下ということである。
なお、今回開示された実施形態は、全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。上記の実施形態は、添付の特許請求の範囲及びその趣旨を逸脱することなく、様々な形態で省略、置換、変更されてもよい。
【0050】
(評価試験)
評価試験として上記の流体混合ユニット3と略同様に構成された試験用の流体混合ユニットを用いて、液体同士の混合が適切に行われるか否かを確認した。この試験用の流体混合ユニットの詳細を示すと、当該流体混合ユニットを構成する多孔質膜32については、外径6mm、内径4mm、高さ20cmである。バッフル板4は5mm間隔で、38枚を取り付けた。バッフル板4の閉鎖側の端部の厚さL3(図2参照)は2mmである。また、切り欠きを避けて計測されるバッフル板4の直径は1.96cmである。またバッフル板4と処理容器31の内壁との隙間40の幅L5(図3参照)は、2mmである。またこの例では、バッフル板4のバッフル板4はポリテトラフルオロエチレン、処理容器31の側壁は透明なアクリル樹脂により各々構成している。なお、既述の実施形態におけるバッフル板4、処理容器31についても各々このような材料により構成してもよい。
【0051】
このような試験用の流体混合ユニットの底壁供給口34から食紅が添加されて着色された水(食紅水)を20mL/分、側壁供給口33から無色の水を50mL/分で夫々供給した。その結果、第2の通流空間36の下側から上側に向かうにつれて流通する液体の色が濃くなっていることが目視で確認された。そして、第2の通流空間36の同じ高さで、横方向に異なる各位置における色の濃さは同様であった。従って、第2の通流空間36の上側へ向かうほど、食紅水の濃度が高くなるように液体同士の混合が行われていることが確認された。
【0052】
比較試験として、バッフル板4を設けないことを除いて評価試験と同様の条件の試験を行った。その結果、第2の通流空間36において着色された液体の層を外周から囲むように無色の液体の層が形成されることが確認された。着色された層は、処理容器31の高さに比例するようにその厚さが増加していた。つまり多孔質膜32の各部からは均一性高く食紅水が第2の通流空間36へ流入しているが、十分に混合がなされてはいない。従って、この評価試験及び比較試験の結果から、上記の実施形態の流体混合ユニット3を用いることで、既述したように液体同士の混合を良好に行うことができることが確認された。
【符号の説明】
【0053】
3、7、8 流体混合ユニット
31 多孔質膜
33 側壁供給口
34 底壁供給口
35 第1の通流空間
36 第2の通流空間
39 流出口
4、44 バッフル板
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13