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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-27
(45)【発行日】2023-12-05
(54)【発明の名称】摺動部品
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/34 20060101AFI20231128BHJP
   F16C 17/04 20060101ALI20231128BHJP
【FI】
F16J15/34 G
F16C17/04 Z
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021543709
(86)(22)【出願日】2020-08-25
(86)【国際出願番号】 JP2020032010
(87)【国際公開番号】W WO2021044904
(87)【国際公開日】2021-03-11
【審査請求日】2023-02-20
(31)【優先権主張番号】P 2019159594
(32)【優先日】2019-09-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000101879
【氏名又は名称】イーグル工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098729
【弁理士】
【氏名又は名称】重信 和男
(74)【代理人】
【識別番号】100206911
【弁理士】
【氏名又は名称】大久保 岳彦
(74)【代理人】
【識別番号】100204467
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 好文
(74)【代理人】
【識別番号】100148161
【弁理士】
【氏名又は名称】秋庭 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100195833
【弁理士】
【氏名又は名称】林 道広
(72)【発明者】
【氏名】岡 昌男
【審査官】大谷 謙仁
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/139231(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/103631(WO,A1)
【文献】特開昭63-190975(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/34
F16C 17/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の密封環が相対回転するように配置された摺動部品であって、
前記密封環の摺動面には、対向する摺動面に接触可能な周方向に延びるランドと、軸方向に凹み内径側に延び内径側に開放された内凹部と、軸方向に凹み外径側に延び外径側に開放された外凹部と、が形成されており、
前記内凹部は内径側に向かうにつれて幅広に、かつ、内径側に向かって周方向時計回り方向にも反時計回り方向にも広がるように形成されているとともに、前記外凹部は外径側に向かうにつれて幅広に、かつ、外径側に向かって周方向時計回り方向にも反時計回り方向にも広がるように形成されている摺動部品。
【請求項2】
一対の密封環が相対回転するように配置された摺動部品であって、
前記密封環の摺動面には、対向する摺動面に接触可能な周方向に延びるランドと、軸方向に凹み内径側に延び内径側に開放された内凹部と、軸方向に凹み外径側に延び外径側に開放された外凹部と、が形成されており、
前記内凹部および前記外凹部はそれぞれ径線を基準として線対称形状である摺動部品。
【請求項3】
前記内凹部と前記外凹部とは周方向にオーバーラップしている請求項1または2に記載の摺動部品。
【請求項4】
前記内凹部の外端と前記外凹部の内端とは周方向に一致している請求項1または2に記載の摺動部品。
【請求項5】
前記内凹部と前記外凹部とは周方向に交互に等配されている請求項1ないし請求項のいずれかに記載の摺動部品。
【請求項6】
前記内凹部および前記外凹部は、それぞれの周縁が湾曲している請求項1ないし請求項のいずれかに記載の摺動部品。
【請求項7】
前記ランド、前記内凹部および前記外凹部は、一方の前記密封環に形成されている請求項1ないし請求項のいずれかに記載の摺動部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、相対回転する摺動部品に関し、例えば自動車、一般産業機械、あるいはその他のシール分野の回転機械の回転軸を軸封する軸封装置に用いられる摺動部品、または自動車、一般産業機械、あるいはその他の軸受分野の機械の軸受に用いられる摺動部品に関する。
【背景技術】
【0002】
軸封装置や軸受に用いられる摺動部品は摺動面を平滑に形成することで耐久性やエネルギ損失を少なくしている。例えば、被密封流体の漏れを防止する軸封装置として、メカニカルシールは、相対回転し摺動面同士が摺動する一対の環状の密封環を備えている。このようなメカニカルシールの一例として、特許文献1には、静止密封環および回転密封環を有し、一方の密封環の摺動面に多数のディンプルが形成されたものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-207209号公報(第5頁、第1図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のような摺動部品は、使用時にディンプルに被密封流体が保持されることで、摺動面間に被密封流体が介在し摺動面間において発生する摩擦力が軽減されており、それぞれの摺動面が摩耗し難くなっている。また、摺動面は微視的には凹凸形状をなしており凸部の一部が欠損することで微細な摩耗粉が発生し、これらの摩耗粉はいずれかのディンプルに流入し回収されるようになっている。一方、微視的には摺動面は物理的・化学的に安定した表層を形成しているが、一部が欠損した凸部の欠損箇所は、摺動部品の基部が剥き出しとなり、表層に比べ活性を有し他の部材、例えば欠損した摩耗粉と結合し易い状態となっている。また、ディンプル内に回収された摩耗粉は、摺動部品同士の相対移動によって当該ディンプルから再び摺動面間に流出し得るため、摺動面間に残留しやすく、他の箇所の摺動面に堆積箇所を生じせしめ結果として摺動面が損傷しやすい虞があった。
【0005】
本発明は、このような問題点に着目してなされたもので、摺動面の損傷を低減可能な摺動部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために、本発明の摺動部品は、
一対の密封環が相対回転するように配置された摺動部品であって、
前記密封環の摺動面には、対向する摺動面に接触可能な周方向に延びるランドと、軸方向に凹み内径側に延び内径側に開放された内凹部と、軸方向に凹み外径側に延び外径側に開放された外凹部と、が形成されている。
これによれば、周方向において内凹部および外凹部が少なくとも配置されているので、一対の密封環の相対回転に伴ってランドで発生した摩耗粉は相対回転に伴って移動し、内凹部または外凹部に回収され外部に迅速に排出される。このことから、摺動面の損傷を低減することができる。
【0007】
前記内凹部と前記外凹部とは周方向にオーバーラップしていてもよい。
これによれば、ランドで欠損した摩耗粉は一対の密封環の相対回転に伴って内凹部または外凹部に確実に回収されやすい。
【0008】
前記内凹部の外端と前記外凹部の内端とは周方向に一致していてもよい。
これによれば、ランドで欠損した摩耗粉は一対の密封環の相対回転に伴って内凹部または外凹部に確実に回収されやすい。
【0009】
前記内凹部と前記外凹部とは周方向に交互に等配されていてもよい。
これによれば、ランドで欠損した摩耗粉は一対の密封環の相対回転に伴って内凹部または外凹部に確実に回収されやすい。
【0010】
前記内凹部および前記外凹部はそれぞれ径線を基準として線対称形状であってもよい。
これによれば、いずれの回転方向であっても摩耗粉を確実に回収できる。
【0011】
前記内凹部は内径側に向かうにつれて幅広に形成されているとともに、前記外凹部は外径側に向かうにつれて幅広に形成されていてもよい。
これによれば、内凹部に回収された摩耗粉を摺動面よりも内径側に排出しやすくなっているとともに、外凹部に回収された摩耗粉を摺動面よりも外径側に排出しやすくなっている。
【0012】
前記内凹部および前記外凹部は、それぞれの周縁が湾曲していてもよい。
これによれば、内凹部または外凹部に回収された摩耗粉を円滑に摺動面の内径側または外径側に放出しやすくなる。
【0013】
前記ランド、前記内凹部および前記外凹部は、一方の前記密封環に形成されていてもよい。
これによれば、ランド、内凹部および外凹部の相対位置がずれないので構造が単純であるばかりか、確実に内径側と外径側との間を密封できる。
【0014】
前記ランドは、周方向に亘って延設されていてもよい。
これによれば、シール性を向上させることができる。
【0015】
前記内凹部および外凹部は、それぞれ軸方向の寸法よりも周方向の寸法の方が長寸となっていてもよい。
これによれば、内凹部または外凹部に回収された摩耗粉を摺動面の内径側または外径側に放出しやすくなる。
【0016】
前記ランドは、DLC(Diamond Like Carbon)膜またはTiN膜で形成されていてもよい。
これによれば、ランドの高さを形成することが可能であるとともに摺動面間で発生する摩擦係数を低減しやすい。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施例1におけるメカニカルシールの一例を示す縦断面図である。
図2】(a)は、静止密封環の摺動面を軸方向から見た図であり、(b)は、静止密封環の摺動面において回転密封環の摺動面と対向する領域を説明するための図である。
図3】(a)は図2(a)のα-α断面図であり、(b)は図2(a)のβ-β断面図であり、(c)は図2(a)のγ-γ断面図である。
図4】(a)~(d)は、摺動面の表面が削れた状態を微視的に示す模式図である。
図5】(a)~(e)は、摩耗粉の排出を説明する模式図である。
図6】(a)は、本発明の実施例2における静止密封環の摺動面を軸方向から見た図であり、(b)は、本発明の実施例2における静止密封環の摺動面において回転密封環の摺動面と対向する領域を説明するための図である。
図7】(a)は、本発明の実施例3における静止密封環の摺動面を軸方向から見た図であり、(b)は、本発明の実施例3における静止密封環の摺動面において回転密封環の摺動面と対向する領域を説明するための図である。
図8】(a)は、本発明の実施例4における静止密封環の摺動面を軸方向から見た図であり、(b)は、本発明の実施例4における静止密封環の摺動面において回転密封環の摺動面と対向する領域を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明に係る摺動部品を実施するための形態を実施例に基づいて以下に説明する。
【実施例1】
【0019】
実施例1に係る摺動部品につき、図1から図5を参照して説明する。尚、本実施例においては、摺動部品がメカニカルシールである形態を例に挙げ説明する。また、メカニカルシールを構成する密封環の外径側を被密封流体側としての被密封液体側(高圧側)、内径側を漏れ側としての大気側(低圧側)として説明する。また、説明の便宜上、図面において、摺動面に形成される凹部にドットを付すこともある。
【0020】
図1に示される一般産業機械用のメカニカルシール1は、摺動面の外径側から内径側に向かって漏れようとする被密封液体Lを密封するインサイド形のものであって、被取付機器のハウジング4に非回転状態かつ軸方向移動可能な状態で設けられた摺動部品である円環状の密封環としての静止密封環5と、高圧流体側のポンプインペラ(図示省略)を駆動させる回転軸8側にスリーブ2を介してこの回転軸8と一体的に回転可能な状態に設けられた摺動部品である円環状の密封環としての回転密封環3と、を有している。
【0021】
静止密封環5と回転密封環3とは、静止密封環5を軸方向に付勢するスプリング6およびベローズ7によって、静止密封環5の摺動面S1と回転密封環3の摺動面S2とが互いに密接摺動するようになっている。尚、回転密封環3の摺動面S2は平坦面となっており、この平坦面には溝等の凹部が設けられていない。
【0022】
図2,3に示されるように、静止密封環5は、基材Bが硬質セラミックス(窒化珪素,ジルコニア,アルミナ,SiC等)で形成されており、平坦な回転密封環3との対向面BaにDLC(Diamond Like Carbon)膜Fが成膜されている。本実施例において、DLC膜Fは略同幅の波形形状が環状に形成されており、摺動面S1のランド9を周方向に亘って構成している。尚、DLC膜に限らず、TiN(窒化チタン)膜が製膜されていてもよい。さらに尚、回転密封環3の摺動面S2にDLC膜が一面に成膜されていてもよい。
【0023】
図2に示されるように、静止密封環5の摺動面S1のランド9以外の箇所は、複数の内凹部11および複数の外凹部12が周方向に等配されている。すなわち、摺動面S1はランド9、内凹部11および外凹部12により構成されており、ランド9は摺動面S1の接触領域であり、内凹部11および外凹部12は摺動面S1の非接触領域である。
【0024】
内凹部11は、ランド9の上面よりも軸方向に凹み、摺動面S1の径方向に延びる一点鎖線で示す径線D1を基準とした軸方向視二次曲線ないし双曲線によって囲まれる形状をなしており、静止密封環5の内径側に開放する開口部11aと、ランド9の内径側の周縁としての周壁11bと、周壁11bに略直行して内径側に延びるとともにランド9の上面と平行な基材B(図3参照。)の上面により形成される底壁11cとによって区画されている。内凹部11の最も外径側を外端としての閉塞端11dと称する。また、内凹部11は、ランド9の上面から底壁11cまでの軸方向の寸法Y1(図3(a)参照。)よりも、回転密封環3の摺動面S2と対向する領域の内径側境界の周方向の寸法X1(図2(b)参照。)の方が長寸(X1>Y1)となっている。
【0025】
外凹部12は、ランド9の上面よりも軸方向に凹み、摺動面S1の径方向に延びる一点鎖線で示す径線D2を基準とした軸方向視二次曲線ないし双曲線によって囲まれる形状をなしており、静止密封環5の外径側に開放する開口部12aと、ランド9の外径側の周縁としての周壁12bと、周壁12bに略直行して外径側に延びるとともにランド9の上面と平行な基材B(図3参照。)の上面により形成される底壁12cとによって区画されている。外凹部12の最も内径側を内端としての閉塞端12dと称する。また、外凹部12は、ランド9の上面から底壁12cまでの軸方向の寸法Y2(図3(b)参照。)よりも、回転密封環3の摺動面S2と対向する領域の外径側境界の周方向の寸法X2(図2(b)参照。)の方が長寸(X2>Y2)となっている。尚、外凹部12の閉塞端12dは、内凹部11の閉塞端11dよりも内径側に位置しており、すなわち内凹部11と外凹部12とは周方向にオーバーラップしている。
【0026】
また、図2(a)を参照し、静止密封環5の摺動面S1は、回転密封環3の摺動面S2(図3(a)参照。)よりも径方向幅が広い。このことから、回転密封環3が相対回転したときに、回転密封環3が一時的に径方向にずれが生じても、回転密封環3の摺動面S2の全面に静止密封環5の摺動面S1のランド9、内凹部11および外凹部12が位置する状態で摺動させることができる。
【0027】
次に、摺動面S1,S2同士の摩耗により発生する摩耗粉10が排出される動作について説明する。摺動面S1,S2は微視的には凹凸形状をなしており、図4(a)に示されるように、回転密封環3が静止密封環5に対して矢印の方向に相対回転すると摺動面S1のランド9の凸部13と摺動面S2の凸部15とが接触する。尚、摺動面S1,S2は微視的には物理的・化学的に安定した(すなわち不活性化された)表層を形成しており、この表層を図4においてハッチングで示す。
【0028】
次いで図4(b),図5(a)に示されるように、凸部13,15同士が接触した後、一方(ここでは回転密封環3側とする。)の凸部13の一部が欠損することで微細な摩耗粉10が発生することがある。このとき、凸部13の欠損箇所14は不活性化された表面が無くなり回転密封環3の深部が表出し、他の素材と結合し易い状態(すなわち活性化された状態。)となり、例えば回転密封環3がSiCにより形成されている場合、摺動面S2の表面の凸部13が欠損することで当該欠損箇所の端面はSi-のようないわゆる結合の手を有した状態となる。
【0029】
また、摩耗粉10は、図4(c),図5(b)に示されるように、回転密封環3の回転とともに被密封液体Lによって矢印方向へと流され、摺動面S1のランド9から非接触領域(図5では外凹部12)へと移動したのち、被密封液体Lの流れとともに被密封液体側へと移動し回転密封環3の外部へ排出される(図5(c)~(e)参照)。これによれば、ランド9の摩耗粉10が外凹部12に回収され外部に迅速に排出されるため、摩耗粉10の欠損箇所14での堆積を防止できる。
【0030】
このとき、図4(d)に示されるように、凸部13の一部が欠損して活性化層が露出された欠損箇所14は、被密封液体Lに晒された状態でしばらくの間摺動することで、熱的・機械的・化学的な作用によって当該欠損箇所の周囲の表層と略同じ構造となり不活性化される。そのため、仮に摩耗粉10がランド9を漂っていたとしても、欠損箇所14が時間経過とともに不活性化されるため、摩耗粉10が欠損箇所14に付着しにくい。尚、摺動面S1のランド9のDLC膜Fから摩耗粉が発生した場合でも同様である。
【0031】
以上説明したように、静止密封環5の摺動面S1には、対向する摺動面S2に接触可能な周方向に延びるランド9と、軸方向に凹み内径側に延び内径側に開放された内凹部11と、軸方向に凹み外径側に延び外径側に開放された外凹部12と、が形成されていることから、周方向において内凹部11および外凹部12が少なくとも配置されているので、回転密封環3および静止密封環5の相対回転に伴ってランド9で発生した摩耗粉10は相対回転に伴って移動し、内凹部11または外凹部12に回収され外部に迅速に排出される。このことから、摺動面S1,S2の損傷を低減することができる。
【0032】
また、内凹部11と外凹部12とは周方向にオーバーラップしているため、ランド9で欠損した摩耗粉10は回転密封環3および静止密封環5の相対回転に伴って内凹部11または外凹部12に確実に回収されやすい。
【0033】
また、内凹部11と外凹部12とは周方向に交互に等配されているため、ランド9で欠損した摩耗粉10は回転密封環3および静止密封環5の相対回転に伴って内凹部11または外凹部12に確実に回収されやすい。
【0034】
また、内凹部11および外凹部12はそれぞれ径線D1,D2を基準として線対称形状であるため、いずれの回転方向であっても摩耗粉10を確実に回収できる。
【0035】
また、内凹部11は内径側に向かうにつれて幅広に形成されているとともに、外凹部12は外径側に向かうにつれて幅広に形成されているため、内凹部11に回収された摩耗粉10を摺動面S1よりも内径側に排出しやすくなっているとともに、外凹部12に回収された摩耗粉10を摺動面S2よりも外径側に排出しやすくなっている。
【0036】
また、内凹部11および外凹部12は、それぞれの周壁11b,12bが湾曲しているため、内凹部11または外凹部12に回収された摩耗粉10を円滑に摺動面S1の内径側または外径側に放出しやすくなっている。
【0037】
また、ランド9は、周方向に亘って延設されているため、シール性を向上させることができる。
【0038】
また、内凹部11および外凹部12は、それぞれ軸方向の寸法Y1,Y2よりもそれぞれの回転密封環3の摺動面S2と対向する領域の境界の周方向の寸法X1,X2の方が長寸(X1>Y1,X2>Y2)となっているため、内凹部11または外凹部12に回収された摩耗粉10を摺動面S1の内径側または外径側に放出しやすくなっている。
【0039】
また、ランド9は、DLC膜FまたはTiN膜で形成されているため、ランド9の高さを極低く形成することが可能であるとともに回転密封環3および静止密封環5間で発生する摩擦係数を低減しやすい。また、摺動面S1の内凹部11および外凹部12が浅く形成されるため、外部からの異物の混入を抑制できる。
【実施例2】
【0040】
実施例2に係るメカニカルシールにつき、図6を参照して説明する。尚、前記実施例1と同一構成で重複する構成の説明を省略する。
【0041】
本実施例2のメカニカルシール101において、図6に示されるように、静止密封環105の摺動面S3のランド109以外の箇所は、複数の内凹部111および複数の外凹部112が周方向に等配されている。内凹部111は、摺動面S3の径方向に延びる一点鎖線で示す径線D3を基準とした軸方向視略半円によって囲まれる形状をなしており、静止密封環105の内径側に開放する開口部111aと、ランド109の内径側周縁をなす円弧状の周壁111bと、周壁111bに略直行して内径側に延びるとともにランド109の上面と平行な基材Bの上面により形成される底壁111cとによって区画されている。内凹部111の最も外径側を閉塞端111dと称する。
【0042】
外凹部112は、摺動面S3の径方向に延びる一点鎖線で示す径線D4を基準とした軸方向視半円によって囲まれる形状をなしており、静止密封環105の外径側に開放する開口部112aと、ランド109の外径側周縁をなす周壁112bと、周壁112bに略直行して外径側に延びるとともにランド109の上面と平行な基材Bの上面により形成される底壁112cとによって区画されている。外凹部112の最も内径側を閉塞端112dと称する。
【0043】
摺動面S3,S2同士の摩耗により発生する摩耗粉10は実施例1と同様に、回転密封環3の回転とともに被密封液体Lによって回転方向へと流され摺動面S3のランド109から内凹部111または外凹部112へと移動したのち、被密封液体Lの流れとともに回転密封環3の外部へ排出されるようになっている。
【0044】
また、内凹部111の閉塞端111dと外凹部112の閉塞端112dとは略同心円上に配置されている。このことから、内凹部111の閉塞端111dと外凹部112の閉塞端112dとは周方向に一致しているため、ランド109で欠損した摩耗粉10は回転密封環3および静止密封環105の相対回転に伴って内凹部111または外凹部112に確実に回収されやすい。
【実施例3】
【0045】
実施例3に係るメカニカルシールにつき、図7を参照して説明する。尚、前記実施例1と同一構成で重複する構成の説明を省略する。
【0046】
本実施例3のメカニカルシール201において、図7に示されるように、静止密封環205の摺動面S4のランド209以外の箇所は、複数の内凹部211および複数の外凹部212が周方向に等配されている。内凹部211は、摺動面S4の径方向に延びる一点鎖線で示す径線D5を基準とした軸方向略矩形状に囲まれる形状をなしており、静止密封環205の内径側に開放する開口部211aと、ランド209の内径側周縁をなす周壁211b,211b’,211b’’と、周壁211b,211b’,211b’’に略直行して内径側に延びるとともにランド209の上面と平行な基材Bの上面により形成される底壁211cとによって区画されている。内凹部211の最も外径側を閉塞端211dと称する。
【0047】
外凹部212は、摺動面S4の径方向に延びる一点鎖線で示す径線D6を基準とした軸方向矩形状に囲まれる形状をなしており、静止密封環205の外径側に開放する開口部212aと、ランド209の外径側周縁をなす周壁212b,212b’,212b’’と、周壁212b,212b’,212b’’に略直行して外径側に延びるとともにランド209の上面と平行な基材Bの上面により形成される底壁212cとによって区画されている。外凹部212の最も内径側を閉塞端212dと称する。
【0048】
摺動面S4,S2同士の摩耗により発生する摩耗粉10は実施例1と同様に、回転密封環3の回転とともに被密封液体Lによって回転方向へと流され摺動面S4のランド209から内凹部211または外凹部212へと移動したのち、被密封液体Lの流れとともに回転密封環3の外部へ排出されるようになっている。
【0049】
また、内凹部211の閉塞端211dと外凹部212の閉塞端212dとは略同心円上に配置されている。このことから、内凹部211の閉塞端211dと外凹部212の閉塞端212dとは周方向に一致しているため、ランド209で欠損した摩耗粉10は回転密封環3および静止密封環205の相対回転に伴って内凹部211または外凹部212に確実に回収されやすい。
【実施例4】
【0050】
実施例4に係るメカニカルシールにつき、図8を参照して説明する。尚、前記実施例1と同一構成で重複する構成の説明を省略する。
【0051】
本実施例4のメカニカルシール301において、図8に示されるように、静止密封環305の摺動面S5の径方向幅は回転密封環3の摺動面S2の径方向幅と略同一となっており、摺動面S5のランド309以外の箇所は、複数の内凹部311および複数の外凹部312が周方向に等配されている。内凹部311は、摺動面S5の径方向に延びる一点鎖線で示す径線D7を基準とした軸方向略矩形状に囲まれる形状をなしており、静止密封環305の内径側に開放する開口部311aと、ランド309の内径側周縁をなす周壁311b,311b’,311b’’と、周壁311b,311b’,311b’’に略直行して内径側に延びるとともにランド309の上面と平行な基材Bの上面により形成される底壁311cとによって区画されている。内凹部311の最も外径側を閉塞端311dと称する。
【0052】
外凹部312は、摺動面S5の径方向に延びる一点鎖線で示す径線D8を基準とした軸方向矩形状に囲まれる形状をなしており、静止密封環305の外径側に開放する開口部312aと、ランド309の外径側周縁をなす周壁312b,312b’,312b’’と、周壁312b,312b’,312b’’に略直行して外径側に延びるとともにランド309の上面と平行な基材Bの上面により形成される底壁312cとによって区画されている。外凹部312の最も内径側を閉塞端312dと称する。
【0053】
摺動面S5,S2同士の摩耗により発生する摩耗粉10は実施例1と同様に、回転密封環3の回転とともに被密封液体Lによって回転方向へと流され摺動面S5のランド309から内凹部311または外凹部312へと移動したのち、被密封液体Lの流れとともに回転密封環3の外部へ排出されるようになっている。
【0054】
また、内凹部311の閉塞端311dと外凹部312の閉塞端312dとは略同心円上に配置されている。このことから、内凹部311の閉塞端311dと外凹部312の閉塞端312dとは周方向に一致しているため、ランド309で欠損した摩耗粉10は回転密封環3および静止密封環305の相対回転に伴って内凹部311または外凹部312に確実に回収されやすい。
【0055】
以上、本発明の実施例を図面により説明してきたが、具体的な構成はこれら実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれる。
【0056】
例えば、摺動面にDLC膜Fを設けることでランドを構成すると説明したが、これに限らず摺動面に削り加工を施し凹部を形成してランドを構成してもよい。
【0057】
また、ランド、内凹部および外凹部は、静止密封環に形成されていると説明したが、これに限らずランド、内凹部および外凹部が回転密封環または静止密封環の一方に形成されていなくてもよいが、好ましくは回転密封環または静止密封環の一方に形成されているのがよい。この場合、ランド、内凹部および外凹部の相対位置がずれないので構造が単純であるばかりか、確実に内径側と外径側との間を密封できる。
【0058】
また、実施例1において内凹部11と外凹部12とは周方向にオーバーラップし、実施例2~実施例4において内凹部の閉塞端と外凹部の閉塞端とは周方向に一致していると説明したが、これに限らず、実施例1において内凹部の閉塞端と外凹部の閉塞端とは周方向に一致していてもよいし、実施例2~実施例4において内凹部の閉塞端と外凹部の閉塞端とは周方向にオーバーラップしていてもよい。さらに、実施例1~実施例4において、内凹部と外凹部とは周方向にオーバーラップも閉塞端同士の一致もしない構成であってもよい。
【0059】
また、内凹部および外凹部の形状は、各実施例で挙げられた形状に限らず、例えば軸方向視略三角形であってもよい。
【0060】
また、内凹部および外凹部の数は、図2図6図8に示された数に限らずいくつでもよい。
【0061】
また、複数の内凹部および複数の外凹部は、周方向に等配されていると説明したが、これに限らず周方向に等配されていなくてもよい。
【0062】
また、複数の内凹部および複数の外凹部は、周方向に交互に配置されていると説明したが、これに限らず例えば周方向に順に内凹部、内凹部、外凹部、外凹部、…と配置されていてもよい。
【0063】
また、ランドに正圧や負圧を発生させるための溝や、潤滑性を良化させるためのディンプルが設けられていてもよい。
【符号の説明】
【0064】
1 メカニカルシール
2 スリーブ
3 回転密封環(密封環)
4 ハウジング
5 静止密封環(密封環)
6 スプリング
7 ベローズ
8 回転軸
9 ランド
10 摩耗粉
11 内凹部
11b 周壁(周縁)
11d 閉塞端(外端)
12 外凹部
12b 周壁(周縁)
12d 閉塞端(内端)
14 欠損箇所
101 メカニカルシール
105 静止密封環
109 ランド
111 内凹部
112 外凹部
201 メカニカルシール
205 静止密封環
309 ランド
311 内凹部
312 外凹部
401 メカニカルシール
405 静止密封環
409 ランド
411 内凹部
412 外凹部
A 大気側(低圧側)
B 基板
Ba 対向面
D1~D8 径線
F DLC膜
L 被密封液体
M 被密封液体側(高圧側)
S1~S5 摺動面
X1,X2 周方向の寸法
Y1,Y2 軸方向の寸法
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8