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特許7391538菌体調製物の亜臨界抽出物および菌体調製物の亜臨界抽出物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-27
(45)【発行日】2023-12-05
(54)【発明の名称】菌体調製物の亜臨界抽出物および菌体調製物の亜臨界抽出物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/135 20160101AFI20231128BHJP
   A23L 33/145 20160101ALI20231128BHJP
   A61K 35/74 20150101ALI20231128BHJP
   A61K 35/744 20150101ALI20231128BHJP
   A61K 35/742 20150101ALI20231128BHJP
   A61K 35/747 20150101ALI20231128BHJP
   A61K 35/745 20150101ALI20231128BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20231128BHJP
   A61P 29/00 20060101ALN20231128BHJP
   A61P 43/00 20060101ALN20231128BHJP
   A61K 8/97 20170101ALN20231128BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALN20231128BHJP
【FI】
A23L33/135
A23L33/145
A61K35/74 D
A61K35/744
A61K35/742
A61K35/747
A61K35/745
A61P37/02
A61K35/74 A
A61P29/00
A61P43/00 105
A61K8/97
A61Q19/00
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019097080
(22)【出願日】2019-05-23
(65)【公開番号】P2020189814
(43)【公開日】2020-11-26
【審査請求日】2022-02-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000000158
【氏名又は名称】イビデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田畑 泰彦
(72)【発明者】
【氏名】水野 克秀
(72)【発明者】
【氏名】駒田 行哉
(72)【発明者】
【氏名】広瀬 直宏
【審査官】村松 宏紀
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第104311684(CN,A)
【文献】特開2014-233262(JP,A)
【文献】特開2017-085922(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104186708(CN,A)
【文献】韓国公開特許第2018-0084258(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K、A61P、A23L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳酸菌、連鎖球菌、ビフィズス菌および焼酎粕からなる群より選択される少なくとも1種の菌体または菌体培養物を155℃以上、220℃以下の温度、0.3MPa以上、2.0MPa以下の圧力に調整された亜臨界水で抽出処理を行うことを特徴とする免疫機能調整剤の製造方法。
【請求項2】
前記乳酸菌が、ラクトバチルス(Lactobacillus)属、ストレプトコッカス(Streptococcus)属、およびビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属からなる群より選択される属に属する乳酸菌である請求項記載の免疫機能調整剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、菌体調製物の亜臨界抽出物および菌体調製物の亜臨界抽出物の製造方法に関する。また、本発明は、菌体調製物の亜臨界抽出物を含む免疫機能調整剤、飲食品、飲料用または食品用添加物、化粧品組成物、抗炎症剤およびM2マクロファージ分化誘導剤、ならびに、それらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マクロファージ(Mφ)は、免疫機能を担う免疫細胞の1種であることが古くから知られているが、近年になって、マクロファージは、単純に感染性微生物や異物を除去するという機能だけでなく、生体の炎症状態の制御においても重要な役割を持つことが判明してきている。中でも大きな注目を集めている組織常在性マクロファージは、ほぼ全ての組織に恒常的に存在するものであり、免疫応答強度の調整やエネルギー代謝の調整など組織における生体の恒常性の維持に関与していると考えられている。
【0003】
マクロファージは、活性化の様式から炎症性マクロファージ(M1Mφ)と抗炎症性マクロファージ(M2Mφ)の二つのフェノタイプに大別される。そして、これらのMφバランス(M1/M2バランス)が、生体の恒常性維持において非常に重要であることが判明してきている。例えば、生活習慣病の1種である肥満は、皮下の脂肪組織におけるMφバランス(M1/M2バランス)が炎症(M1)側へ傾いて、マクロファージの機能が炎症促進性となっていていることが寄与していると考えられている。このようにM1Mφ側へ傾いたM1/M2バランスを正常化するためには、炎症を収束させるM2Mφの機能が重要である。このようなM2Mφの機能に基づく炎症作用の制御やマクロファージの局在の制御は再生医療分野においても需要が高まっているものである。
【0004】
特許文献1には、M2マクロファージへの誘導性を示す乳酸菌が記載されている。特許文献1では、特定の乳酸菌(ラクトバチルス ラムノーサス OLL2838)の加熱処理物(75℃、1時間)に、IL-10産生促進効果、および、未分化の(M0)MφからM2Mφへの分化誘導効果があることが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-181191号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載のIL-10産生促進効果およびM2Mφへの分化誘導効果は、特定の菌種のみがもつ効果にすぎない。任意の乳酸菌が適応し得るとは言えず、したがって汎用性が低く、広く浸透しがたいものである。また、特許文献1に記載の処理物では、M0MφのM1Mφへの誘導が消失していない。すなわち、すでにM1MφとなったマクロファージのM2Mφへの誘導効果は期待できないと考えられる。
【0007】
したがって、特許文献1に記載のM2マクロファージ分化誘導剤では、完全な炎症抑制効果が得られるとはいいがたい。すなわち、特許文献1に記載のM2マクロファージ分化誘導剤は、炎症の予防のためには適用可能であったとしても、炎症の治癒という目的には不十分であった。
【0008】
本発明は、前記問題点に鑑みてなされたもので、すでに起こっている炎症に対して治療を行うため、M1/M2バランスを是正すべく、M1Mφへ誘導されたマクロファージをM2Mφへと誘導する、汎用性の高い安全でかつ簡便な手法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、菌体、菌体処理物、および菌体培養物からなる群より選択される少なくとも1種の菌体調製物の亜臨界抽出物に関する。
【0010】
前記菌体培養物が、前記菌体の懸濁液、前記菌体を含む発酵液、または前記菌体を含む発酵残渣である亜臨界抽出物が好ましい。
【0011】
前記菌体が、乳酸菌、酵母、納豆菌、麹菌、および酢酸菌から選択される少なくとも1種である菌体である亜臨界抽出物が好ましい。
【0012】
前記乳酸菌が、ラクトバチルス(Lactobacillus)属、ストレプトコッカス(Streptococcus)属、およびビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属からなる群より選択される属に属する乳酸菌である亜臨界抽出物が好ましい。
【0013】
前記菌体を含む発酵残渣が醸造粕である亜臨界抽出物が好ましい。
【0014】
前記醸造粕が酒粕、焼酎粕、およびみりん粕からなる群より選択される少なくとも1種である醸造粕である亜臨界抽出物が好ましい。
【0015】
本発明は、また、菌体、菌体処理物、および菌体培養物からなる群より選択される少なくとも1種の菌体調製物を155℃以上、220℃以下の温度、0.3MPa以上、2.0MPa以下の圧力に調整された亜臨界水で抽出処理を行うことを特徴とする亜臨界抽出物の製造方法に関する。
【0016】
前記菌体培養物が、前記菌体の懸濁液、前記菌体を含む発酵液、または前記菌体を含む発酵残渣である亜臨界抽出物の製造方法が好ましい。
【0017】
前記菌体が、乳酸菌、酵母、納豆菌、麹菌、および酢酸菌から選択される少なくとも1種である菌体である亜臨界抽出物の製造方法が好ましい。
【0018】
前記乳酸菌が、ラクトバチルス(Lactobacillus)属、ストレプトコッカス(Streptococcus)属、およびビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属からなる群より選択される属に属する乳酸菌である亜臨界抽出物の製造方法が好ましい。
【0019】
前記菌体を含む発酵残渣が醸造粕である亜臨界抽出物の製造方法が好ましい。
【0020】
前記醸造粕が酒粕、焼酎粕、およびみりん粕からなる群より選択される少なくとも1種である醸造粕である亜臨界抽出物の製造方法が好ましい。
【0021】
本発明は、また、菌体、菌体処理物、および菌体培養物からなる群より選択される少なくとも1種の菌体調製物の亜臨界抽出物を含む免疫機能調整剤に関する。
【0022】
前記菌体培養物が、前記菌体の懸濁液、前記菌体を含む発酵液、または前記菌体を含む発酵残渣である免疫機能調整剤が好ましい。
【0023】
前記菌体が、乳酸菌、酵母、納豆菌、麹菌、および酢酸菌から選択される少なくとも1種である菌体である免疫機能調整剤が好ましい。
【0024】
前記乳酸菌が、ラクトバチルス(Lactobacillus)属、ストレプトコッカス(Streptococcus)属、およびビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属からなる群より選択される属に属する乳酸菌である免疫機能調整剤が好ましい。
【0025】
前記菌体を含む発酵残渣が醸造粕である免疫機能調整剤が好ましい。
【0026】
前記醸造粕が酒粕、焼酎粕、およびみりん粕からなる群より選択される少なくとも1種である醸造粕である免疫機能調整剤が好ましい。
【0027】
前記免疫機能調整剤が抗炎症性サイトカイン産生促進剤であることが好ましい。
【0028】
前記免疫機能調整剤が炎症性サイトカイン産生抑制剤であることが好ましい。
【0029】
前記免疫機能調整剤が、Th1優位の免疫応答が病態の増悪に関与する疾患の治療または予防用の免疫機能調整剤であることが好ましい。
【0030】
前記免疫機能調整剤が、マクロファージのM1/M2バランスの不均衡に関連する疾患の治療または予防用の免疫機能調整剤であることが好ましい。
【0031】
本発明は、また、菌体、菌体処理物、および菌体培養物からなる群より選択される少なくとも1種の菌体調製物を155℃以上、220℃以下の温度、0.3MPa以上、2.0MPa以下の圧力に調整された亜臨界水で抽出処理を行うことを特徴とする免疫機能調整剤の製造方法に関する。
【0032】
前記菌体培養物が、前記菌体の懸濁液、前記菌体を含む発酵液、または前記菌体を含む発酵残渣である免疫機能調整剤の製造方法が好ましい。
【0033】
前記菌体が、乳酸菌、酵母、納豆菌、麹菌、および酢酸菌から選択される少なくとも1種である免疫機能調整剤の製造方法が好ましい。
【0034】
前記乳酸菌が、ラクトバチルス(Lactobacillus)属、ストレプトコッカス(Streptococcus)属、およびビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属からなる群より選択される属に属する乳酸菌である免疫機能調整剤の製造方法が好ましい。
【0035】
前記菌体を含む発酵残渣が醸造粕である免疫機能調整剤の製造方法が好ましい。
【0036】
前記醸造粕が酒粕、焼酎粕、およびみりん粕からなる群より選択される少なくとも1種である免疫機能調整剤の製造方法が好ましい。
【0037】
本発明は、また、菌体、菌体処理物、および菌体培養物からなる群より選択される少なくとも1種の菌体調製物の亜臨界抽出物を含む飲食品に関する。
【0038】
前記菌体培養物が、前記菌体の懸濁液、前記菌体を含む発酵液、または前記菌体を含む発酵残渣である飲食品が好ましい。
【0039】
前記菌体が、乳酸菌、酵母、納豆菌、麹菌、および酢酸菌から選択される少なくとも1種である飲食品が好ましい。
【0040】
前記乳酸菌が、ラクトバチルス(Lactobacillus)属、ストレプトコッカス(Streptococcus)属、およびビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属からなる群より選択される属に属する乳酸菌である飲食品が好ましい。
【0041】
前記菌体を含む発酵残渣が醸造粕である飲食品が好ましい。
【0042】
前記醸造粕が酒粕、焼酎粕、およびみりん粕からなる群より選択される少なくとも1種である飲食品が好ましい。
【0043】
前記飲食品が抗炎症性効果を有する飲食品であることが好ましい。
【0044】
本発明は、また、菌体、菌体処理物、および菌体培養物からなる群より選択される少なくとも1種の菌体調製物を155℃以上、220℃以下の温度、0.3MPa以上、2.0MPa以下の圧力に調整された亜臨界水で抽出処理を行うことを特徴とする飲食品の製造方法に関する。
【0045】
前記菌体培養物が、前記菌体の懸濁液、前記菌体を含む発酵液、または前記菌体を含む発酵残渣である飲食品の製造方法が好ましい。
【0046】
前記菌体が、乳酸菌、酵母、納豆菌、麹菌、および酢酸菌から選択される少なくとも1種である飲食品の製造方法が好ましい。
【0047】
前記乳酸菌が、ラクトバチルス(Lactobacillus)属、ストレプトコッカス(Streptococcus)属、およびビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属からなる群より選択される属に属する乳酸菌である飲食品の製造方法が好ましい。
【0048】
前記菌体を含む発酵残渣が醸造粕である飲食品の製造方法が好ましい。
【0049】
前記醸造粕が酒粕、焼酎粕、およびみりん粕からなる群より選択される少なくとも1種である飲食品の製造方法が好ましい。
【0050】
本発明は、また、菌体、菌体処理物、および菌体培養物からなる群より選択される少なくとも1種の菌体調製物の亜臨界抽出物を含む飲料用または食品用添加物に関する。
【0051】
前記菌体培養物が、前記菌体の懸濁液、前記菌体を含む発酵液、または前記菌体を含む発酵残渣である飲料用または食品用添加物が好ましい。
【0052】
前記菌体が、乳酸菌、酵母、納豆菌、麹菌、および酢酸菌から選択される少なくとも1種である飲料用または食品用添加物が好ましい。
【0053】
前記乳酸菌が、ラクトバチルス(Lactobacillus)属、ストレプトコッカス(Streptococcus)属、およびビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属からなる群より選択される属に属する乳酸菌である飲料用または食品用添加物が好ましい。
【0054】
前記菌体を含む発酵残渣が醸造粕である飲料用または食品用添加物が好ましい。
【0055】
前記醸造粕が酒粕、焼酎粕、およびみりん粕からなる群より選択される少なくとも1種である飲料用または食品用添加物が好ましい。
【0056】
前記飲料用または食品用添加物が抗炎症性効果を有する飲料用または食品用添加物であることが好ましい。
【0057】
本発明は、また、菌体、菌体処理物、および菌体培養物からなる群より選択される少なくとも1種の菌体調製物を155℃以上、220℃以下の温度、0.3MPa以上、2.0MPa以下の圧力に調整された亜臨界水で抽出処理を行うことを特徴とする飲料用または食品用添加物の製造方法に関する。
【0058】
前記菌体培養物が、前記菌体の懸濁液、前記菌体を含む発酵液、または前記菌体を含む発酵残渣である飲料用または食品用添加物の製造方法が好ましい。
【0059】
前記菌体が、乳酸菌、酵母、納豆菌、麹菌、および酢酸菌から選択される少なくとも1種である飲料用または食品用添加物の製造方法が好ましい。
【0060】
前記乳酸菌が、ラクトバチルス(Lactobacillus)属、ストレプトコッカス(Streptococcus)属、およびビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属からなる群より選択される属に属する乳酸菌である飲料用または食品用添加物の製造方法が好ましい。
【0061】
前記菌体を含む発酵残渣が醸造粕である飲料用または食品用添加物の製造方法が好ましい。
【0062】
前記醸造粕が酒粕、焼酎粕、およびみりん粕からなる群より選択される少なくとも1種である飲料用または食品用添加物の製造方法が好ましい。
【0063】
本発明は、また、菌体、菌体処理物、および菌体培養物からなる群より選択される少なくとも1種の菌体調製物の亜臨界抽出物を含む化粧品組成物に関する。
【0064】
前記菌体培養物が、前記菌体の懸濁液、前記菌体を含む発酵液、または前記菌体を含む発酵残渣である化粧品組成物が好ましい。
【0065】
前記菌体が、乳酸菌、酵母、納豆菌、麹菌、および酢酸菌から選択される少なくとも1種である化粧品組成物が好ましい。
【0066】
前記乳酸菌が、ラクトバチルス(Lactobacillus)属、ストレプトコッカス(Streptococcus)属、およびビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属からなる群より選択される属に属する乳酸菌である化粧品組成物が好ましい。
【0067】
前記菌体を含む発酵残渣が醸造粕である化粧品組成物が好ましい。
【0068】
前記醸造粕が酒粕、焼酎粕、およびみりん粕からなる群より選択される少なくとも1種である化粧品組成物が好ましい。
【0069】
前記化粧品組成物が抗炎症性効果を有する化粧品組成物であることが好ましい。
【0070】
本発明は、また、菌体、菌体処理物、および菌体培養物からなる群より選択される少なくとも1種の菌体調製物を155℃以上、220℃以下の温度、0.3MPa以上、2.0MPa以下の圧力に調整された亜臨界水で抽出処理を行うことを特徴とする化粧品組成物の製造方法に関する。
【0071】
前記菌体培養物が、前記菌体の懸濁液、前記菌体を含む発酵液、または前記菌体を含む発酵残渣である化粧品組成物の製造方法が好ましい。
【0072】
前記菌体が、乳酸菌、酵母、納豆菌、麹菌、および酢酸菌から選択される少なくとも1種である化粧品組成物の製造方法が好ましい。
【0073】
前記乳酸菌が、ラクトバチルス(Lactobacillus)属、ストレプトコッカス(Streptococcus)属、およびビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属からなる群より選択される属に属する乳酸菌である化粧品組成物の製造方法が好ましい。
【0074】
前記菌体を含む発酵残渣が醸造粕である化粧品組成物の製造方法が好ましい。
【0075】
前記醸造粕が酒粕、焼酎粕、およびみりん粕からなる群より選択される少なくとも1種である化粧品組成物の製造方法が好ましい。
【0076】
本発明は、また、菌体、菌体処理物、および菌体培養物からなる群より選択される少なくとも1種の菌体調製物の亜臨界抽出物を含む抗炎症剤に関する。
【0077】
前記菌体培養物が、前記菌体の懸濁液、前記菌体を含む発酵液、または前記菌体を含む発酵残渣である抗炎症剤が好ましい。
【0078】
前記菌体が、乳酸菌、酵母、納豆菌、麹菌、および酢酸菌から選択される少なくとも1種である抗炎症剤が好ましい。
【0079】
前記乳酸菌が、ラクトバチルス(Lactobacillus)属、ストレプトコッカス(Streptococcus)属、およびビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属からなる群より選択される属に属する乳酸菌である抗炎症剤が好ましい。
【0080】
前記菌体を含む発酵残渣が醸造粕である抗炎症剤が好ましい。
【0081】
前記醸造粕が酒粕、焼酎粕、およびみりん粕からなる群より選択される少なくとも1種である抗炎症剤が好ましい。
【0082】
本発明は、また、菌体、菌体処理物、および菌体培養物からなる群より選択される少なくとも1種の菌体調製物を155℃以上、220℃以下の温度、0.3MPa以上、2.0MPa以下の圧力に調整された亜臨界水で抽出処理を行うことを特徴とする抗炎症剤の製造方法に関する。
【0083】
前記菌体培養物が、前記菌体の懸濁液、前記菌体を含む発酵液、または前記菌体を含む発酵残渣である抗炎症剤の製造方法が好ましい。
【0084】
前記菌体が、乳酸菌、酵母、納豆菌、麹菌、および酢酸菌から選択される少なくとも1種である抗炎症剤の製造方法が好ましい。
【0085】
前記乳酸菌が、ラクトバチルス(Lactobacillus)属、ストレプトコッカス(Streptococcus)属、およびビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属からなる群より選択される属に属する乳酸菌である抗炎症剤の製造方法が好ましい。
【0086】
前記菌体を含む発酵残渣が醸造粕である抗炎症剤の製造方法が好ましい。
【0087】
前記醸造粕が酒粕、焼酎粕、およびみりん粕からなる群より選択される少なくとも1種である抗炎症剤の製造方法が好ましい。
【0088】
本発明は、また、菌体、菌体処理物、および菌体培養物からなる群より選択される少なくとも1種の菌体調製物の亜臨界抽出物を含むM2マクロファージ分化誘導剤に関する。
【0089】
前記菌体培養物が、前記菌体の懸濁液、前記菌体を含む発酵液、または前記菌体を含む発酵残渣であるM2マクロファージ分化誘導剤が好ましい。
【0090】
前記菌体が、乳酸菌、酵母、納豆菌、麹菌、および酢酸菌から選択される少なくとも1種であるM2マクロファージ分化誘導剤が好ましい。
【0091】
前記乳酸菌が、ラクトバチルス(Lactobacillus)属、ストレプトコッカス(Streptococcus)属、およびビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属からなる群より選択される属に属する乳酸菌であるM2マクロファージ分化誘導剤が好ましい。
【0092】
前記菌体を含む発酵残渣が醸造粕であるM2マクロファージ分化誘導剤が好ましい。
【0093】
前記醸造粕が酒粕、焼酎粕、およびみりん粕からなる群より選択される少なくとも1種であるM2マクロファージ分化誘導剤が好ましい。
【0094】
前記分化誘導がM1マイクロファージからM2マイクロファージへの誘導を含む分化誘導であるM2マクロファージ分化誘導剤が好ましい。
【0095】
前記M2マクロファージ分化誘導剤が、抗炎症性効果を有するM2マクロファージ分化誘導剤であることが好ましい。
【0096】
前記M2マクロファージ分化誘導剤が、再生誘導を促進するM2マクロファージ分化誘導剤であることが好ましい。
【0097】
本発明は、また、菌体、菌体処理物、および菌体培養物からなる群より選択される少なくとも1種の菌体調製物を155℃以上、220℃以下の温度、0.3MPa以上、2.0MPa以下の圧力に調整された亜臨界水で抽出処理を行うことを特徴とするM2マクロファージ分化誘導剤の製造方法に関する。
【0098】
前記菌体培養物が、前記菌体の懸濁液、前記菌体を含む発酵液、または前記菌体を含む発酵残渣であるM2マクロファージ分化誘導剤の製造方法が好ましい。
【0099】
前記菌体が、乳酸菌、酵母、納豆菌、麹菌、および酢酸菌から選択される少なくとも1種であるM2マクロファージ分化誘導剤の製造方法が好ましい。
【0100】
前記乳酸菌が、ラクトバチルス(Lactobacillus)属、ストレプトコッカス(Streptococcus)属、およびビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属からなる群より選択される属に属する乳酸菌であるM2マクロファージ分化誘導剤の製造方法が好ましい。
【0101】
前記菌体を含む発酵残渣が醸造粕であるM2マクロファージ分化誘導剤の製造方法が好ましい。
【0102】
前記醸造粕が酒粕、焼酎粕、およびみりん粕からなる群より選択される少なくとも1種であるM2マクロファージ分化誘導剤の製造方法が好ましい。
【0103】
本発明は、また、炎症を予防および/または治療するための医薬の製造における、菌体、菌体処理物、および菌体培養物からなる群より選択される少なくとも1種の菌体調製物の亜臨界抽出物の使用に関する。
【0104】
本発明によれば、すでにM1マクロファージに分化したM1Mφに対して作用してM2Mφに誘導することができる。さらに、未分化の(M0)MφからM1Mφへの誘導を消失させることができる。したがって、本発明によるM2マクロファージ分化誘導によれば、炎症性の細胞を炎症抑制性へと誘導すること、および、M1/M2バランスを是正することができると期待される。
【発明の効果】
【0105】
本発明の亜臨界抽出物、ならびに、免疫機能調整剤、飲食品、飲料用または食品用添加物、化粧品組成物、抗炎症剤およびM2マクロファージ分化誘導剤は、M0MφをM2Mφへ誘導するとともに、M0MφからM1Mφへの誘導を消失させることができる。さらに、予めM1Mφへと誘導されたマクロファージに対しては、炎症抑制性であるM2Mφへ誘導することができる。したがって、炎症の予防だけでなく、従来行うことができなかった既に起こっている炎症の治癒を行うことができる。
【0106】
また、本発明の亜臨界抽出物、ならびに、免疫機能調整剤、飲食品、飲料用または食品用添加物、化粧品組成物、抗炎症剤およびM2マクロファージ分化誘導剤の製造方法によれば、M0MφをM2Mφへ誘導するとともに、M0MφからM1Mφへの誘導を消失させることができ、また、既にM1Mφへと誘導されているマクロファージもM2Mφへ誘導することができる亜臨界抽出物、ならびに、免疫機能調整剤、飲食品、飲料用または食品用添加物、化粧品組成物、抗炎症剤およびM2マクロファージ分化誘導剤を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0107】
図1】本発明の実施例の試験用試料および比較例の試験用試料をM0マクロファージに適用した場合の、NO産生量を示す図である。
図2】本発明の実施例の試験用試料をM1マクロファージに適用した場合の、アルギナーゼ活性を示す図である。
図3】本発明の実施例の試験用試料をM1マクロファージに適用した場合の、IL-10産生量を示す図である。
図4】本発明の実施例の試験用試料をM1マクロファージに適用した場合の、NO産生量を示す図である。
図5】本発明の実施例の試験用試料をM1マクロファージに適用した場合の、アルギナーゼ活性を示す図である。
図6】本発明の実施例の試験用試料および比較例の試験用試料をM1マクロファージに適用した場合の、NO産生量を示す図である。
図7】本発明の実施例の試験用試料および比較例の試験用試料をM1マクロファージに適用した場合の、アルギナーゼ活性を示す図である。
図8】本発明の実施例の試験用試料および比較例の試験用試料をM1マクロファージに適用した場合の、IL-10産生量を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0108】
本発明者らは、菌体のもたらす炎症/抗炎症サイクルに関して、菌体の様々な抽出物を用い鋭意検討を重ねてその作用を調べた。その結果、驚くべきことに、菌体を後述する亜臨界処理によって抽出することにより得られる亜臨界抽出物をマクロファージに作用させると、熱水抽出物などを使用した場合では確認されているM0MφからM1Mφへの誘導が消失した上で、M1MφからM2Mφへの誘導効果が発現されることを見出した。
【0109】
亜臨界抽出物
本発明の菌体調製物の亜臨界抽出物(以下、本発明の亜臨界抽出物ともいう)は、菌体、菌体処理物、および菌体培養物からなる群より選択される少なくとも1種の菌体調製物を亜臨界処理によって抽出することにより得られる抽出物である。
【0110】
菌体調製物の亜臨界抽出物をマクロファージに作用させると、上述のように、乳酸菌の熱水抽出物などをマクロファージに作用させた場合および未処理の菌体をマクロファージに作用させた場合では確認されたM0MφからM1Mφへの誘導が消失した上で、M1MφからM2Mφへの誘導を発現させることができる。また、M0MφからM2Mφへの誘導も発現される。したがって、本発明の亜臨界抽出物は、M2Mφ活性を増強することができる。
【0111】
菌体を亜臨界処理すると菌体の低分子化を引き起こすことができる。したがって、例えば乳酸菌などの菌体を亜臨界処理することにより得られる本発明の亜臨界抽出物は、乳酸菌などの菌体の菌体成分や細胞膜内に含まれる種々の機能性成分などの機能性生体高分子が、亜臨界処理により抽出および/または分解された物質を含んでいる。亜臨界抽出以外の抽出方法によって調製された抽出物や未処理の原料では発現することのできない、M0MφからM1Mφへの誘導消失効果およびM1MφからM2Mφへの誘導発現効果が本発明の亜臨界抽出物によって得られたことから、これらの効果は、本発明の亜臨界抽出物に含まれる低分子化された機能性生体高分子によるものであると考えられる。
【0112】
本発明において亜臨界処理に付される菌体調製物の菌体としては、野生の菌体や市販の菌体など任意の菌体を使用することができる。例えば、ヨーグルト、納豆および酒粕などの発酵食品、野菜および果物などの食品、またはその他の天然物を菌体としてそのまま使用してもよいし、これらの原材料から単離および/または培養したものを菌体として使用してもよい。食品などの食用および/または薬用に用いられる製品等から単離したものであれば安全に摂取できるという利点も考えられる。しかし、本発明で使用される菌体はこれらに限定されるものではない。菌体は、ヒトから単離された菌体であってもよい。また、上記菌体の突然変異体や遺伝子組換え技術を用いて作製した遺伝子組換え微生物(菌体等)を用いることもできる。
【0113】
本発明で用いる菌体は、生菌であってもよく、死菌であってもよい。死菌は、例えば、生菌に対し、加熱処理、UV照射処理、細胞破砕等の殺菌処理を施すことにより得られる。
【0114】
本発明で用いる菌体処理物としては、菌体の乾燥物(噴霧乾燥物、凍結乾燥物、真空乾燥物、ドラム乾燥物等)や凍結物、ペースト化物、水分散物等を用いることができる。また、得られた生菌または死菌に対して、摩砕や破砕等の処理を行った摩砕物や破砕物が使用されてもよい。
【0115】
本発明で用いる菌体培養物としては、菌体を培養した後の菌体の懸濁液や菌体の混合物(菌体を含む発酵液)、菌体を含む発酵残渣等を用いることができる。また、菌体培養物を処理して得られる細胞質または細胞壁画分などが用いられてもよい。なお、菌体を培養するための培地も特に制限されるものではなく、通常の、炭素源、窒素源、無機塩類、有機栄養素などを含む培地で菌体の培養が行われればよい。培養条件(培養温度、培養時のpH、培養期間等)も菌体を培養するための通常の培養条件を用いることができる。
【0116】
本発明で用いる菌体は、本発明の効果を損なわない限り特に限定されない。好適な例としては、例えば、乳酸菌、酵母、納豆菌、麹菌、および酢酸菌等を挙げることができる。本発明の菌体調製物には、このような菌体が生菌体、死菌体、または菌体破砕物の形態で含まれ得る。
【0117】
乳酸菌としては、例えば、ラクトバチルス(Lactobacillus)属、ラクトコッカス(Lactococcus)属、ロイコノストック(Leuconostoc)属、ペディオコッカス(Pediococcus)属、ストレプトコッカス(Streptococcus)属、ワイセラ(Weissella)属、テトラゲノコッカス(Tetragenococcus)属、エノコッカス(Oenococcus)属、エンテロコッカス(Enterococcus)属、バゴコッカス(Vagococcus)属、カルノバクテリウム(Carnobacterium)属、メリソコッカス(Melissococcus)属、トリココッカス(Trichococcus)属、アトポビウム(Atopobium)属、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属等からなる群より選択される属に属する乳酸菌が例示される。より好ましい乳酸菌としては、ラクトバチルス(Lactobacillus)属、ストレプトコッカス(Streptococcus)属、およびビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属からなる群より選択される属に属する乳酸菌を挙げることができる。しかしながら、本発明の乳酸菌はこれらに限定されない。
【0118】
酵母としては、例えば、サッカロマイセス(Saccharomyces)属、カンジダ(Candida)属、ジゴサッカロマイセス(Zygosaccharomyces)属、デバリオマイセス(Debaryomyces)属、ハンセヌラ(Hansenula)属、ステリグマトマイセス(Sterigmatomyces)属、ロドトルラ(Rhodotorula)属、シロバシジウム(Sirobasidium)属等からなる群より選択される属に属する酵母が例示される。しかしながら、これらに限定される訳ではない。
【0119】
納豆菌としては、例えば、バチルス(Bacillus)属に属する納豆菌が例示されるが、これらに限定される訳ではない。
【0120】
麹菌としては、例えば、アスペルギルス(Aspergillus)属に属する麹菌が例示される。例として、黒麹菌、白麹菌、または黄麹菌などを好適に使用することができる。しかしながら、これらに限定される訳ではない。
【0121】
酢酸菌としては、例えば、アセトバクター(Acetobacter)属またはグルコンアセトバクター(Gluconacetobacter)属に属する酢酸菌が例示される。しかしながら、これらに限定されない。
【0122】
本発明で用いられる発酵残渣の好適な例としては、醸造粕が挙げられる。ここで、醸造粕とは、発酵食品の製造過程で生じる副生成物、例えばアルコール醸造後の残留物等を意味する。本発明における醸造粕としては、例えば酒粕(日本酒を製造したのちの残留物)、焼酎粕(焼酎を蒸留したのちの残留物)、およびみりん粕(みりんを製造したのちの残留物)等が例示される。
【0123】
亜臨界抽出物の製造方法
本発明の亜臨界抽出物は、菌体調製物の亜臨界処理により得られる菌抽出物であることを特徴とするものである。本発明において、菌抽出物は、菌体調製物である原料を抽出処理することで得られる抽出処理物であり、具体的には、溶媒を用いて亜臨界処理を行う抽出工程により得られる。
【0124】
本発明の抽出工程における亜臨界処理とは、所定の温度および所定の圧力の条件下で亜臨界状態にした抽出溶媒としての亜臨界流体と、抽出対象の原料(本発明においては、菌体調製物)とを接触させることにより、抽出対象の原料から所望の成分を抽出する処理である。例えば、水は、圧力22.12MPa以上および温度374.15℃以上まで上げると液体でも気体でもない状態を示す。この点を水の臨界点といい、臨界点より低い近傍の温度および圧力の熱水を亜臨界水という。この亜臨界水は、誘電率低下とイオン積の向上とにより、優れた成分抽出作用および加水分解作用を有している。
【0125】
亜臨界処理に用いる抽出溶媒としては、水、または、水以外の溶媒、例えばエチレン、エタン、プロパン、二酸化炭素、メタノール、エタノールおよびそれらの混合物等が挙げられ得る。これらの溶媒のうち、安全性の観点から水を用いることが最も好ましい。また、水を使用することにより、水溶性成分の抽出効率が向上すると考えられる。
【0126】
亜臨界処理に用いる抽出溶媒として水を用いる場合、高温の水処理であれば、液体状態の水であっても、気体状態の水であっても問題なく利用することができる。即ち、亜臨界処理の処理槽へは、水蒸気を供給してもよく、または、水を供給してもよく、あるいはその両者を供給してもよい。水または水蒸気の温度は望ましくは100℃以上であり、また、反応場としては気体状態よりも液体状態の方が反応が進みやすいので、好適な反応場としては、密閉容器で強制的に液体の状態にした、いわゆる亜臨界の状態の水の使用が望ましい。より具体的な反応場の例としては、金属やセラミックスなどの耐圧容器に原料と抽出溶媒である水を入れて、密閉状態にして原料と水とを一定時間接触させることが挙げられる。すなわち、このような反応場において、亜臨界状態の水と原料との接触を一定時間以上行うことで得られる抽出物を本発明の亜臨界処理物とすることができる。
【0127】
したがって、本発明の亜臨界抽出物の製造方法としては、水を用いて菌体調製物を亜臨界処理する抽出工程を含むことが好ましい。強い加水分解作用を有する亜臨界処理により、菌体調製物は溶解され、また、分解され、低分子化され得る。さらに、亜臨界処理による抽出は、短時間で、かつ高抽出率で行うことができるため、少量の原料すなわち菌体調製物から効率よく抽出物を得ることができる。
【0128】
亜臨界水を用いた抽出工程は、155℃以上、220℃以下の温度で行われ得る。さらに、抽出効果を高めるという理由から、抽出工程は、165~220℃の間の温度で行うことが好ましく、180~200℃の間の温度がより好ましい。亜臨界処理を155℃未満の温度で行った場合、得られた亜臨界抽出物をマクロファージに作用させても、M0MφからM1Mφへの誘導活性が消失せず残存してしまう。また、亜臨界処理を220℃以上の温度で行うと、菌体調製物に含まれる有効成分が過分解してしまい、M1MφからM2Mφへの誘導活性が消失してしまう。
【0129】
亜臨界水を用いた抽出工程における亜臨界処理圧力は、各温度の飽和蒸気圧以上とすることが好ましい。各温度での飽和蒸気圧は、日本機械学会蒸気表(1968年)を参照するなどして決定することができる。160~210℃の間の10℃間隔における飽和蒸気圧を例示すると、160℃:0.62MPa(6.30at)、170℃:0.79MPa(8.08at)、180℃:1.00MPa(10.22at)、190℃:1.25MPa(12.80at)、200℃:1.55MPa(15.68at)、210℃:1.90MPa(19.45at)である。亜臨界処理圧力をこのような圧力とすることにより、抽出工程において効率的に菌抽出物が得やすくなる。なお、亜臨界処理の圧力の上限は特に定められないが、高圧装置の仕様上、20~30MPaあたりに抑えることが好ましいことがある。
【0130】
本発明においては、本発明の亜臨界抽出物の特徴であるM2Mφへの誘導性という観点から、抽出工程における亜臨界処理圧力が、0.3MPa以上、2.0MPa以下であることが好ましい。亜臨界処理圧力が0.3MPa未満であると、得られた亜臨界抽出物のM0MφからM1Mφへの誘導活性が消失せず残存してしまう。また、亜臨界処理圧力が2.0MPa以上であると、菌体調製物に含まれる有効成分が過分解してしまい、M1MφからM2Mφへの誘導活性が消失してしまう。
【0131】
本発明の菌体調製物の抽出工程における亜臨界処理は、5~150分の間の処理時間で行うことが好ましく、5~60分の間の処理時間で行うことがより好ましい。中でも5分~30分の間の処理時間で行うことがより好ましい。このような処理時間の範囲で亜臨界処理を行うことにより、菌体調製物の機能性成分が抽出工程において効率的に得られやすくなる。
【0132】
したがって、本発明の菌体調製物の亜臨界抽出物は、例えば、菌体、菌体処理物、および菌体培養物からなる群より選択される少なくとも1種の菌体調製物を155℃以上、220℃以下の温度、0.3MPa以上、2.0MPa以下の圧力に調整された亜臨界水で抽出処理を行うことによって製造される。また、好ましくは、抽出溶媒を水とした菌体調製物の亜臨界処理は、処理温度が180~200℃、処理圧力が各温度の飽和蒸気圧以上、処理時間が5~30分の条件下で行なわれ得る。このような条件で抽出工程を行うことにより、得られた菌体調製物の亜臨界抽出物のM0MφからM2Mφへの誘導性およびM1MφからM2Mφへの誘導性が顕著に向上し、M0MφからM1Mφへの誘導性が消失する。
【0133】
このようにして得られた本発明の亜臨界抽出物は、そのまま実用に供することができるが、必要に応じて、亜臨界抽出物を固液分離工程に付し、得られた液体部分を使用することもできる。
【0134】
ここで、固液分離工程とは、菌体調製物の亜臨界抽出物を、抽出液と原料残渣(固体物)とに分離する工程を意味している。具体的な固液分離工程としては、ろ紙を用いたろ過、遠心分離、デカンテーション、スクリュープレス、ローラープレス、ロータリードラムスクリーン、ベルトスクリーン、振動スクリーン、多重板振動フィルター、真空脱水、加圧脱水、ベルトプレス、遠心濃縮脱水、多重円板脱水などが挙げられる。なかでも、操作が簡便であり、分離効率に優れるという理由から、ろ過が好ましい。
【0135】
さらに、固液分離工程により固液分離されて得られる抽出液、または、菌体調製物の抽出工程から得られる亜臨界抽出物は、希釈、濃縮されたり、あるいは追加の乾燥工程を経て、ペースト状や保存性に優れた固形状または粉末状等に調製されてもよい。このような乾燥工程としては、一般的な乾燥方法を用いることができ、自然放置はもちろんのこと、加熱系である箱型乾燥や噴霧乾燥などの伝熱乾燥、マイクロ波乾燥などの内部発熱乾燥、非加熱系である凍結乾燥、真空乾燥、吸引乾燥、加圧乾燥、超音波乾燥等を用いることが可能である。一般的で簡便なオーブン、恒温槽を用いて乾燥することももちろん許容され得る。また、抽出液または亜臨界抽出物は、公知の方法で適宜精製されてもよい。
【0136】
本発明の亜臨界抽出物は、これらに限定する訳ではないが例えば、食品、化粧品、医薬品、試薬臨床分野など様々な用途に用いられ得る。また、本発明の亜臨界抽出物は、経口摂取するものであってもよく、経皮摂取するものであってもよい。好ましくは、本発明の亜臨界抽出物の用途としては、飲食品、飲料用または食品用添加物、化粧品組成物、および、医薬、例えば免疫機能調整剤、抗炎症剤、M2マクロファージ分化誘導剤などが挙げられる。
【0137】
理論に拘束されることを意図するものではないが、本発明の亜臨界抽出物は、M0Mφから抗炎症性のM2Mφへの誘導性およびM1Mφから抗炎症性のM2Mφへの誘導性に優れ、かつ、M0Mφから炎症性のM1Mφへの誘導性を消失させるものであり、これは、亜臨界処理により菌体成分や機能性成分が低分子化された際に、菌体が本来有していたM1Mφ誘導物質は分解される一方、菌体の保持するM2Mφ誘導物質は亜臨界処理によって菌体から抽出されて、さらに水に溶解されたことにより、高いM2Mφ誘導活性をもつ抽出物の作製が可能となったためと考えられる。
【0138】
したがって、本発明の亜臨界抽出物は、抗炎症性効果を期待して、例えば、飲食品、サプリメント、または、飲料用もしくは食品用添加物として提供され得る。この場合、経口で使用可能な任意の形態のものとすることができる。本発明において、飲食品とは、本発明の亜臨界抽出物を添加した加工食品やいわゆる特定保健用食品を含む。また、サプリメントとして使用する際の投与単位形態についても特に限定されず、例えば錠剤、カプセル剤、顆粒剤、液剤、散剤等が挙げられる。
【0139】
また、本発明の亜臨界抽出物は、抗炎症性効果を期待して、化粧品組成物として提供されてもよい。この場合、例えば経皮で使用可能な任意の形態のものとすることができる。本発明の化粧品組成物は、皮膚、粘膜、体毛、頭髪、頭皮、爪、歯、顔皮、口唇等に適用され得る。また、化粧品組成物は、本発明の亜臨界抽出物以外のその他の成分を1または2以上含んでいてもよい。その他の成分としては、本発明の効果を損なわない範囲内であれば、特に制限はなく、化粧品に通常用いられる成分、例えば、美白剤、保湿剤、酸化防止剤、油性成分、紫外線吸収剤、界面活性剤、増粘剤、アルコール類、粉末成分、色材、水性成分、水、各種皮膚栄養剤等を必要に応じて適宜配合することができる。また、化粧品組成物の剤型も制限されず、例えば水溶液系、可溶化系、乳化系、粉末系、油液系、ゲル系、軟膏系、エアゾール系、水-油2層系、水-油-粉末3層系など適宜選択することができる。
【0140】
また、本発明の亜臨界抽出物の用途は、医薬であってもよい。本発明の亜臨界抽出物を含む医薬は、様々な投与経路で投与することができる。経口または非経口のいずれの投与経路も利用することができ、また全身投与または局所投与のいずれでも良い。例えば本発明の医薬は、経口、静脈内、筋肉内、腹腔内、皮内、経皮、経鼻、吸入、病変内等の経路を用いて投与することができる。本発明の医薬の剤形は、特に限定されず、種々の剤形を適用できる。例えば、錠剤、散剤、顆粒剤、ドライシロップ剤、シロップ剤、カプセル剤、軟膏、クリーム剤、注射剤や液剤、点鼻薬、坐剤および貼付剤等が挙げられる。また、本発明の医薬は、本発明の効果を損なわない範囲内で、他の薬学的に許容される担体、賦形剤、希釈剤、結合剤、増量剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、分散剤、緩衝剤、保存剤、嬌味剤、香料、被膜剤等を任意に含み得る。
【0141】
本発明の医薬は、例えば、免疫機能調整剤である。本発明の免疫機能調整剤は、M0MφおよびM1MφからのM2Mφへの高い誘導活性を有している。マクロファージは活性化されて免疫調節性のサイトカインを分泌し、この分泌したサイトカインを介して様々なシグナルに応答することが知られている。マクロファージがTLRリガンドおよびIFN-γによる刺激によって活性化されると、炎症性マクロファージであるM1マクロファージに誘導される。M1マクロファージは、TNF-α、IL-12などの炎症性サイトカインを分泌し、Th1応答を促進し、細胞内寄生生物に対する耐性の役割を担う。マクロファージがIL-4/IL-13による刺激によって活性化されると、抗炎症性マクロファージであるM2マクロファージに誘導される。M2マクロファージは、IL-10などの抗炎症性サイトカインを分泌し、Th2応答を促進し、炎症の低減、組織修復促進などに関与する。したがって、本発明の免疫機能調整剤により、M1マクロファージ/M2マクロファージのバランスを調節して免疫機能を調整することができる。
【0142】
特定の作用機序に限定されることを意図するものではないが、本発明の免疫機能調整剤は、マクロファージのM1/M2バランスの不均衡に関連する疾患の治療または予防用のための医薬として使用され得る。マクロファージのM1/M2バランスは、様々な疾患の病態形成に関与しているとしていると考えられている。ここで、本発明におけるM1/M2バランスの不均衡とは、M2マクロファージと比較してM1マクロファージが過剰に存在する、または、M1マクロファージと比較してM2マクロファージが過小である状態を意味している。このようなマクロファージのM1/M2バランスの不均衡に関連する疾患としては、例えば、糖尿病、動脈硬化症、多発性硬化症、炎症性腸疾患などが例示される。本発明の免疫機能調整剤は、M2マクロファージへの分化を誘導することにより、M1/M2バランスの不均衡を是正することができ、その結果、マクロファージのM1/M2バランスの不均衡に関連する疾患を治療または予防することができる。したがって、本発明は、このような疾患の予防または治療するための方法であって、本発明の亜臨界抽出物の有効量を投与することを含む方法にも関する。
【0143】
本発明の免疫機能調整剤は、Th1優位の免疫応答が病態の増悪に関与することが知られている疾患に対して使用されることが特に好ましい。例えば動脈硬化症は、このような疾患のうちの一つである。本発明の免疫機能調整剤によれば、M1からM2へとマクロファージを誘導させることのできるので、Th1優位の免疫応答が病態の増悪に関与することが知られている疾患を有利に治療または予防できると考えられる。
【0144】
また、本発明の免疫機能調整剤は、M0MφおよびM1Mφを抗炎症性サイトカインを分泌するM2Mφへ誘導できるため、抗炎症性サイトカインの分泌を促進させる抗炎症性サイトカイン産生促進剤として作用し得るものである。さらに、本発明の免疫機能調整剤は、炎症性サイトカインを分泌するM1Mφへの誘導を消失させ、かつ既に存在しているM1MφもM2Mφへ誘導するため、炎症性サイトカイン産生抑制剤として作用し得る。
【0145】
本発明では、炎症性の細胞を炎症抑制性へと誘導できるため、すでに起こっている炎症を治療することが可能である。したがって、本発明の菌体調製物の亜臨界抽出物および本発明の製造方法により得られる菌体調製物の亜臨界抽出物は、炎症を予防および/または治療するための医薬の製造において使用され得る。また、本発明の医薬は、炎症の治療効果を有する抗炎症剤として提供され得る。
【0146】
本発明は、マクロファージのM2マクロファージへの分化誘導に有効なM2マクロファージ分化誘導剤を提供する。本発明のM2マクロファージ分化誘導剤は、菌体調製物の亜臨界抽出物を含み、上述のように、M0MφからM2Mφへの誘導性に加え、M1MφからM2Mφへの誘導性も有している。したがって、本発明のM2マクロファージ分化誘導剤は、分化誘導がM1マイクロファージからM2マイクロファージへの誘導を含むものである。M2マイクロファージへの誘導がより増強されると考えられる。理論に拘束されることを意図するものではないが、M2マクロファージには、寄生生物除去、免疫調節機能、炎症の低減、生体の再生誘導の促進などの効果があることが明らかとなってきている。したがって、M2マクロファージへの誘導を増大させることは、炎症の予防および治療、ならびに生体の再生誘導の促進、例えば組織修復の促進や血管新生などに有効な手段となる。しかしながら、本発明のM2マクロファージ分化誘導剤は、医薬としての用途に制限される訳ではなく、例えば研究用試薬としてin vitroで使用されてもよい。
【実施例
【0147】
本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0148】
試験用菌体調製物
<乳酸菌>
原料の菌体として、ラクトバチルス ブレビス(Lactobacillus brevis)、ラクトバチルス プランタルム(Lactobacillus plantarum)OLL2712(FERM BP-11262)、ラクトバチルス ラムノーサス(Lactobacillus rhamnosus)OLL2838(NITE P-313)、ラクトバチルス カゼイ(Lactobacillus casei)、スプレプトコッカス ズーエピデミクス(Streptococcus equi subsp. Zooepidemicus)HA-116(ATCC 39920)、ビフィドバクテリウム ビフィダム(Bifidobacterium bifidum)NBRC 100015を用いた。これらのうち、ATCC株については、American Type Culture Collectionから入手可能である。また、FERM株、NITE株およびNBRC株は、独立行政法人製品評価技術基盤機構バイオテクノロジーセンターから入手可能である。
【0149】
なお、ラクトバチルス ブレビス株およびラクトバチルス カゼイ株は、市販のヨーグルトから単離した。それぞれの16sリボゾームDNA配列を解析し、NCBIデータベース検索を行なったところ、ラクトバチルス ブレビスおよびラクトバチルス カゼイとして登録されている配列と、それぞれ99%および99%一致した。
【0150】
それぞれの菌株を37℃で18時間以上静置培養した。ビフィドバクテリウム ビフィダムは、窒素ガスで置換したのち、37℃で18時間以上静置培養した。全ての菌株は、de Man, Rogosa, and Shape(MRS)培地(Becton, Dickinson Co, Sparks, Md, USA)中で培養した。
【0151】
これらの培養物を、3,000rpm、10分、遠心分離し、菌体のみを回収した。滅菌蒸留水で2回、洗浄と遠心分離とを繰り返したのちに、固形分濃度0.65%となるように滅菌蒸留水を加えて調整し、試験用菌体調製物とした。固形分濃度は、乾燥した容器に菌液を入れ、105℃で4時間以上静置した試料の処理前および処理後の重量から換算した。
【0152】
<醸造粕>
鹿児島県の芋焼酎メーカーから入手した焼酎粕(焼酎製造時の蒸留工程より生じる蒸留残渣;固形分6.2~6.4%)を試験用菌体調製物としてそのまま実験に供した。
【0153】
<試験用試料の調製>
・実施例1
容積2Lの耐圧容器に、上記で固形分濃度0.65%に調整した試験用菌体調製物である乳酸菌(菌種:ラクトバチルス ブレビス(Lactobacillus brevis))を15g入れ、処理温度195℃、処理圧力1.40MPa、処理時間10分で亜臨界処理を行った。亜臨界処理の終了後、処理容器内の処理物(亜臨界処理液+固形物)を500mL容器に回収した。処理物を固形分濃度0.1%となるように調整して、試験用亜臨界抽出物とした。得られた試験用亜臨界抽出物は、-25℃で凍結保管した。後述する各評価に供する際は、室温で融解させたのち試験用試料として使用した。
【0154】
・実施例2
乳酸菌(菌種:ラクトバチルス カゼイ(Lactobacillus casei))を使用した以外は実施例1と同様の処理を行った。
【0155】
・実施例3
連鎖球菌(菌種:スプレプトコッカス ズーエピデミクス(Streptococcus equi subsp. Zooepidemicus))を使用した以外は実施例1と同様の処理を行った。
【0156】
・実施例4
乳酸菌(菌種:ラクトバチルス プランタルム(Lactobacillus plantarum))を使用した以外は実施例1と同様の処理を行った。
【0157】
・実施例5
乳酸菌(菌種:ラクトバチルス ラムノーサス(Lactobacillus rhamnosus))を使用した以外は実施例1と同様の処理を行った。
【0158】
・実施例6
ビフィズス菌(菌種:ビフィドバクテリウム ビフィダム(Bifidobacterium bifidum))を使用した以外は実施例1と同様の処理を行った。
【0159】
・実施例7~12
実施例1~6で得られたそれぞれの試験用亜臨界抽出物を、0.22μmのメンブレンフィルター(ミリポア社製)で滅菌を兼ねて固液分離としてろ過を用い、得られたろ液のみを試験用亜臨界処理ろ液とし、試験用試料として後述する各評価に供した。
【0160】
・実施例13
乳酸菌(菌種:ラクトバチルス ブレビス(Lactobacillus brevis))を使用し、処理温度165℃、処理圧力0.70MPa、処理時間20分で亜臨界処理を行った以外は実施例7と同様の処理を行った。
【0161】
・実施例14
乳酸菌(菌種:ラクトバチルス ブレビス(Lactobacillus brevis))を使用し、処理温度175℃、処理圧力0.89MPa、処理時間10分で亜臨界処理を行った以外は実施例7と同様の処理を行った。
【0162】
・実施例15
乳酸菌(菌種:ラクトバチルス ブレビス(Lactobacillus brevis))を使用し、処理温度175℃、処理圧力0.89MPa、処理時間30分で亜臨界処理を行った以外は実施例7と同様の処理を行った。
【0163】
・実施例16
乳酸菌(菌種:ラクトバチルス ブレビス(Lactobacillus brevis))を使用し、処理温度195℃、処理圧力1.40MPa、処理時間30分で亜臨界処理を行った以外は実施例7と同様の処理を行った。
【0164】
・実施例17
容積2Lの耐圧容器に、焼酎粕を200g入れ、処理温度135℃、処理圧力0.31MPa、処理時間20分で亜臨界処理を行った。亜臨界処理の終了後、処理容器内の処理物(亜臨界処理液+固形物)を1L容器に回収した。処理物を-25℃で凍結保管した。各評価に供する際には、凍結物を室温で融解させ、遠心分離(3,000rpm、5分)を行い、得られた上清を固形分濃度1%となるように調整し、0.22μmのメンブレンフィルター(ミリポア社製)でろ過し、得られたろ液のみを試験用亜臨界処理ろ液とし、試験用試料として後述する各評価に供した。
【0165】
・実施例18
処理温度155℃、処理圧力0.54MPa、処理時間20分で亜臨界処理を行った以外は実施例17と同様の処理を行った。
【0166】
・実施例19
処理温度175℃、処理圧力0.89MPa、処理時間20分で亜臨界処理を行った以外は実施例17と同様の処理を行った。
【0167】
・実施例20
処理温度195℃、処理圧力1.40MPa、処理時間20分で亜臨界処理を行った以外は実施例17と同様の処理を行った。
【0168】
・比較例1
200mLのビーカーに、固形分濃度0.65%に調整した乳酸菌(ラクトバチルス ブレビス(Lactobacillus brevis))50gを入れ、処理温度95℃、処理時間30分で熱水処理を行った。熱水処理の終了後、ビーカー内の処理物を50mL遠沈管容器に回収した。得られた熱水処理抽出物を固形分濃度0.1%となるように調整し、-25℃で凍結保管した。後述する各評価に供する際は、室温で融解させたのち使用した。
【0169】
・比較例2
乳酸菌(菌種:ラクトバチルス カゼイ(Lactobacillus casei))を使用した以外は比較例1と同様の処理を行った。
【0170】
・比較例3
連鎖球菌(菌種:スプレプトコッカス ズーエピデミクス(Streptococcus equi subsp. Zooepidemicus))を使用した以外は比較例1と同様の処理を行った。
【0171】
・比較例4
200mLのビーカーに、菌数を1.0×108個/mL(固形分濃度0.045%)に調整した乳酸菌(ラクトバチルス ラムノーサス(Lactobacillus rhamnosus))を30g入れ、処理温度70℃、処理時間60分で熱水処理を行った。熱水処理の終了後、ビーカー内の処理物を50mL遠沈管容器に回収した。得られた熱水処理抽出物を固形分濃度0.1%となるように調整し、-25℃で凍結保管した。各評価に供する際は、室温で融解させたのち使用した。
【0172】
・比較例5
乳酸菌(菌種:Lactobacillus rhamnosus)を使用した以外は比較例1と同様の処理を行った。
【0173】
・比較例6
焼酎粕を遠心分離して得られた上清を固形分濃度1%となるように調整した。調整物を0.22μmのメンブレンフィルター(ミリポア社製)でろ過し、得られたろ液のみを後述する各評価に供した。
【0174】
・比較例7
500mLのビーカーに、焼酎粕を200g入れ、処理温度95℃、処理時間30分で熱水処理を行った。熱水処理の終了後、ビーカー内の処理物を500mL容器に回収し、-25℃で凍結保管した。各評価に供する際には、凍結物を室温で融解させ、遠心分離(3,000rpm、5分)を行い、得られた上清を固形分濃度1%となるように調整し、0.22μmのメンブレンフィルター(ミリポア社製)でろ過し、得られたろ液のみを用いた。
【0175】
<マクロファージの分化誘導とその評価>
(1)マクロファージの細胞
M0マクロファージは、一般的に知られている、骨髄や血中に存在する単球を、M-CSFにより刺激することでマクロファージへと分化させる手法、あるいは、マクロファージ様細胞株を得る手法、例えばTHP-1(ヒト単球様細胞)のPMAによる刺激による分化によりマクロファージ様細胞株を得る手法やマウス由来マクロファージ様細胞株であるRAW264細胞を使用する手法などにより準備される。本発明では、マウス由来マクロファージ様細胞株であるRAW264細胞を用いた。なお、RAW264細胞は理化学研究所から入手した。
【0176】
(2)マクロファージの分化誘導
RAW264細胞に実施例および比較例で製造した試験用試料を所定量添加することにより、M0マクロファージを分化誘導させた。詳細な手法は後述される。
【0177】
なお、以下の(3)~(5)に記載される誘導性を評価する際、試験用試料そのものの評価を行う場合には、試験用試料をメンブレンフィルターろ過することなく実験を行った。しかしながらこれは、試験中に他菌やその他の不純物が混入するリスクが高まるものであるため、各試験用試料そのものの性状を評価したのちは、各試験用試料をそれぞれメンブレンフィルターでろ過をしたものをその後の評価に用いた。
【0178】
(3)M1マクロファージへの誘導性
炎症性のM1マクロファージへの誘導性を確認するためには、NOの産生量を定量する手法が一般的に知られている。M1マクロファージは、iNOSを発現し、アルギニンからNOを産生することで殺菌性を高めている(Fernando Oneissi Martinezら、Frontiers in Bioscience 13, 453-461, January 1, 2008.)。産生されたNOは酸化されてNO2となり、さらに、水と反応して亜硝酸または硝酸となる。グリース試薬を用いた方法では、生じた亜硝酸を定量することで、NO産生量を間接的に評価することができる。
【0179】
(4)M2マクロファージへの誘導性
抗炎症性のM2マクロファージへの誘導性を確認するためには、アルギナーゼの活性を評価する手法が知られている。M2マクロファージは、アルギナーゼ1を発現し、アルギニンからオルニチン、および、その下流のポリアミンとプロリンを産生する。これにより修復部位でのNO産生が抑制されるとともに、ポリアミン類およびプロリンを介した組織修復が促進される(J Immunol 2001, 167 (11): 6533-6544.)。すなわち、アルギナーゼ1は、炎症の初期に炎症性サイトカインの産生に利用される基質(アルギニン)を奪って枯渇させる。これにより、アルギナーゼ1には、炎症から炎症抑制へとスイッチを入れ替える働きがあると考えられている。
【0180】
iNOSとアルギナーゼ1はどちらも同じアルギニンを基質とするものであり、すなわち、M2マクロファージは、高レベルのアルギナーゼ1を発現することにより、NO産生を負に制御してNOの代謝経路をプロリンの産生に偏らせている。アルギナーゼの活性は、アルギニンからのオルチニンの産生において合成される尿素の量を定量することによって算出され得る。
【0181】
また、抗炎症性のM2マクロファージは、抗炎症性サイトカインとして知られているIL-10を発現することが知られている。したがって、産生されるIL-10の量を定量することで、M2マクロファージへの誘導性を評価することができる。
【0182】
(5)M1マクロファージからM2マクロファージへの誘導性
マクロファージは、リポ多糖(LPS)およびインターフェロンガンマ(IFN-γ)を添加することで、M1マクロファージへと形質誘導される(Adams, DO, Immunol Today, 1989, 10, 33-5)。M1マクロファージからM2マクロファージへの誘導性の評価は、このように誘導したM1マクロファージに試験用試料を添加して、M2マクロファージへの誘導性を評価するという手法で行った。
【0183】
<NO産生量の評価>
RAW264細胞をシャーレで4回以上継代培養を行った後に、シャーレから培地のみをアスピレーターを用いて除去し、次いで培地を10mL添加し、シャーレ底面に残った細胞を、スクレパーを使用してシャーレから剥離させた。これを、15mL遠沈管に回収し、800rpmで3分間遠心分離を行い、細胞を回収した。回収後、1.0×105個/mLになるように、培地中に分散させて細胞懸濁液を調整し、24ウェルプレートに500μLずつ添加した。その後、5%CO2存在下で37℃のインキュベータにオーバーナイトで静置することで細胞を増殖させた。細胞が十分に増殖していることを確認したのち、培地をアスピレーターを用いて除去した。
【0184】
予め誘導したM1Mφに対する試験用試料の誘導効果を評価をする際は、ここで培地を交換した後、終濃度が10ng/mLとなるようにINF-γとLPSとを培地に添加して5%CO2存在下で37℃のインキュベータにオーバーナイトで静置することで、M1Mφに分化誘導させた。
【0185】
M0マクロファージまたはM1マクロファージを含む各ウェルに450μLの培地を添加したのち、試験用試料である固形分濃度0.1%の試験用亜臨界抽出物または試験用亜臨界処理ろ液を50μL添加し、5%CO2存在下で37℃のインキュベータにオーバーナイトで静置し、培養した。回収した培養液にグリース試薬を添加することにより、上述のように、培養液中の亜硝酸が定量でき、NO産生量を間接的に評価することができる。亜硝酸の定量のための標品としては、ナトリウム硝酸塩を用い、10倍希釈系列を亜硝酸標準液として検量線を作成した。
【0186】
ポジティブコントロール(PC)としてLPSとINF-γを、ネガティブコントロール(NC)として滅菌水を、および、試験用亜臨界抽出物または試験用亜臨界処理ろ液を、それぞれを添加して得られた細胞培養液を100μLずつ24ウェルに採取した。100μLの100mg/mLグリース・ロミイン亜硝酸試薬(和光純薬社製)を添加し、20分間室温で静置して反応させた。反応終了後、マイクロプレートリーダーを用いて、540nmの吸光度を測定した。予め作成しておいた検量線から培養上清中の亜硝酸濃度を計算した。結果を図1に示す。
【0187】
図1は、実施例1~6および比較例1~5のNO産生(すなわち、M0MφからM1Mφへの誘導性)の評価結果を示している。図1から、亜臨界処理を施した試験用試料を用いた実施例1~6では、全ての条件において、NO産生が消失していたことがわかる。一方、熱水処理を施した試験用試料が用いられた比較例1~5では、全ての条件において、NO産生が確認された。
【0188】
以上のことから、亜臨界処理を施した菌体調製物は、原料の菌種に関わらず、M0マクロファージからのM1マクロファージへの誘導(M0M1φ→M1Mφ)を抑制できることが判明した。しかしながら、熱水処理を行った比較例1~5では、M1Mφへの誘導性が確認された。よって、熱水処理の比較例1~5は以降の検討から除外した。
【0189】
<アルギナーゼ活性の評価>
RAW264細胞をシャーレで4回以上の継代培養を行った後に、シャーレから培地のみをアスピレーターを用いて除去し、次いで培地を10mL添加し、シャーレ底面に残った細胞を、スクレパーを使用してシャーレから剥離させた。これを、15mL遠沈管に回収し、800rpmで3分間遠心分離を行い、細胞を回収した。回収後、1.0×105個/mLになるように、培地中に分散させて細胞懸濁液を調整し、24ウェルプレートに500μLずつ添加した。その後、5%CO2存在下で37℃のインキュベータにオーバーナイトで静置することで細胞を増殖させた。細胞が十分に増殖していることを確認したのち、培地をアスピレーターを用いて除去した。
【0190】
培地を交換した後、終濃度が10ng/mLとなるようにINF-γとLPSとを培地に添加して5%CO2存在下で37℃のインキュベータにオーバーナイトで静置することで、M1Mφに分化誘導させた。
【0191】
アルギナーゼ活性評価には、専用のキット(QuantiChrom TM Arginase Assay kit、BioAssay Systems社製)を用いた。試験用亜臨界処理ろ液を40μL添加したのち、キットの基質バッファーを各ウェルに10μL添加し、37℃のインキュベータにて2時間静置し反応させた。各ウェルにキット付属の尿素試薬を200μLずつ添加した。その後60分室温にて静置し、キット添付の手順書に準じて、430nmの吸光度を測定し、尿素濃度を算出した。結果を図2に示す。
【0192】
図2は、予め誘導したM1Mφに対して、実施例7~12の試験用試料(M0M1φ→M1Mφを抑制する効果が発見された実施例1~6の試験用試料である亜臨界処理物をフィルターろ過して試験用試料としたもの)を適用した場合の、アルギナーゼ活性(すなわち、M1MφからM2Mφへの誘導性)の評価結果を示している。図2に示されるように、亜臨界処理を施した実施例7~12では、原料の菌種に関わらず、全ての条件において、高い量の尿素が産生されており、高いアルギナーゼ活性を示していた。
【0193】
以上のことから、亜臨界処理を施した菌体調製物は、原料の菌種に関わらず、予めM1Mφへ誘導したマクロファージに対しても、抗炎症性へ誘導することができるという顕著な効果をもつことが判明した。
【0194】
<IL-10産生量の評価>
RAW264細胞をシャーレで4回以上継代培養を行った後に、シャーレから培地のみをアスピレーターを用いて除去し、次いで培地を10mL添加し、シャーレ底面に残った細胞を、スクレパーを使用してシャーレから剥離させた。これを、15mL遠沈管に回収し、800rpmで3分間遠心分離を行い、細胞を回収した。回収後、1.0×105個/mLになるように、培地中に分散させて細胞懸濁液を調整し、24ウェルプレートに500μLずつ添加した。その後、5%CO2存在下で37℃のインキュベータにオーバーナイトで静置することで細胞を増殖させた。細胞が十分に増殖していることを確認したのち、培地をアスピレーターを用いて除去した。
【0195】
培地を交換した後、終濃度が10ng/mLとなるようにINF-γとLPSとを培地に添加して5%CO2存在下で37℃のインキュベータにオーバーナイトで静置することで、M1Mφに分化誘導させた。
【0196】
IL-10産生評価には専用のキット(Quantikine(登録商標)ELISA mouse IL-10、R&D社製)を用いた。固形分濃度0.1%の試験用亜臨界抽出物をろ過した試験用亜臨界処理ろ液を用いて評価を実施した。なお、測定はキット添付の手順書の順序に準じて実施した。結果を図3に示す。
【0197】
図3は、予め誘導したM1Mφに対して実施例7~11の試験用試料(M0M1φ→M1Mφを抑制する効果が発見された実施例1~5の試験用試料である亜臨界処理物をフィルターろ過して試験用試料としたもの)を適用した場合の、IL-10産生量(すなわち、M1MφからM2Mφへの誘導性)の評価結果を示している。図3に示されるように、亜臨界処理を施した実施例7~11では、原料の菌種に関わらず、全ての条件において、試験用試料の非存在下に比べて存在時にIL-10の産生量が高くなる顕著なIL-10産生の増大が確認された。
【0198】
以上のことから、亜臨界処理を施した菌体調製物は、原料の菌種に関わらず、予めM1Mφへ誘導したマクロファージに対しても、抗炎症性へ誘導することができるという顕著な効果をもつことが判明した。
【0199】
図1より、亜臨界処理を施した場合、原料の菌種に関わらず、M0マクロファージからのM1マクロファージへの誘導を消失させることができることがわかった。また、図2および3より、予めM1マクロファージへ誘導したマクロファージに対しても、菌体調製物の亜臨界抽出物を添加することにより、原料の菌種に関わらず、高水準でM2マクロファージへ誘導させることができることがわかった。
【0200】
したがって、以降の試験では、菌種をラクトバチルス ブレビス(Lactobacillus brevis)に絞り、亜臨界処理の有効性についてさらなる検証を行った。
【0201】
<ラクトバチルス ブレビスを用いたNO産生量の評価>
図1に結果が示されているNO産生量の評価と同じ手法で、ラクトバチルス ブレビスを菌体とする亜臨界抽出物を用いた場合のNO産生量を調べた。ただし、本方法においては、予めM1マクロファージへ誘導したマクロファージに対する試験用試料の誘導効果を評価した。試験用試料としては、実施例7および14の試料を用いた。結果を図4に示す。
【0202】
図4から、亜臨界処理を施した試験用試料を用いることにより、亜臨界処理の条件に関わらず、予めM1マクロファージへ誘導したマクロファージから本来産生されているはずのNO産生が抑制されていることが判明した。この結果から、一旦誘導されたM1マクロファージも、亜臨界処理を施した試験用試料を用いることにより消失したと考えられる。
【0203】
<ラクトバチルス ブレビスを用いたアルギナーゼ活性の評価>
図2に結果が示されているアルギナーゼ活性の評価と同じ手法で、ラクトバチルス ブレビスを菌体とする亜臨界抽出物を用いた場合のアルギナーゼ活性を調べた。試験用試料としては、実施例7、13、15および16の試料を用いた。結果を図5に示す。
【0204】
図5から、亜臨界処理を施した試験用試料の全てにおいて、高いアルギナーゼ活性が確認された。亜臨界処理の条件に関わらず、亜臨界処理を施した試験用試料を用いれば、予めM1Mφへ誘導したマクロファージも抗炎症性へ誘導することができることがわかった。
【0205】
図4および図5に示された結果より、亜臨界処理を施した菌体調製物は、その亜臨界処理条件によらず、炎症性M1マクロファージに適用することで、炎症性M1マクロファージを抗炎症性M2マクロファージへと形質誘導することが判明した。
【0206】
<焼酎粕を用いたNO産生量の評価>
図4に結果が示されているNO産生量の評価と同じ手法で、すなわち予めM1マクロファージへ誘導したマクロファージに対して試験用試料を添加して、焼酎粕を菌体調製物の原料とする亜臨界抽出物を用いた場合のNO産生量を調べた。試験用試料としては、実施例20ならびに比較例6および7の試料を用いた。結果を図6に示す。
【0207】
図6に示されるように、亜臨界処理を施した試験用試料である実施例20では、予めM1マクロファージへ誘導したマクロファージから本来産生されているはずのNO産生が抑制されていることが判明した。したがって、一旦誘導されたM1マクロファージも、亜臨界処理を施した焼酎粕由来の試験用試料を用いることにより消失したと考えられる。一方、未処理の焼酎粕が試験用試料である比較例6、および、熱水処理を施した焼酎粕が試験用試料である比較例7では、NO産生が抑制されずそのまま残っていることがわかった。すなわち、比較例の試験用試料を用いた場合は、炎症性M1マクロファージは試験用試料が適用された後も、形質誘導されることなく、炎症性のままであると考えられる。
【0208】
<焼酎粕を用いたアルギナーゼ活性の評価>
図5に結果が示されているアルギナーゼ活性の評価と同じ手法で、焼酎粕を菌体調製物の原料とする亜臨界抽出物を用いた場合のアルギナーゼ活性を調べた。試験用試料としては、実施例20ならびに比較例6および7の試料を用いた。結果を図7に示す。
【0209】
図7に示されるように、亜臨界処理を施した試験用試料である実施例20では、高いアルギナーゼ活性が確認された。したがって、一旦誘導されたM1マクロファージも、亜臨界処理を施した焼酎粕由来の試験用試料を用いれば、抗炎症性へ誘導することができることがわかった。一方、未処理の焼酎粕が試験用試料である比較例6、および、熱水処理を施した焼酎粕が試験用試料である比較例7では、ポジティブコントロール程度のアルギナーゼ活性は見られたが、これら活性は、実施例20で確認された活性と比較すると低いものにすぎなかった。
【0210】
<焼酎粕を用いたIL-10産生量の評価>
図3に結果が示されているIL-10産生量の評価と同じ手法で、焼酎粕を菌体調製物の原料とする亜臨界抽出物を用いた場合のIL-10産生量を調べた。試験用試料としては、実施例17~20ならびに比較例6および7の試料を用いた。結果を図8に示す。
【0211】
図8に示されるように、亜臨界処理を施した試験用試料である実施例17~20では、亜臨界処理の条件に関わらず、全ての試験用試料において、高いIL-10産生が確認された。したがって、一旦誘導されたM1マクロファージも、亜臨界処理を施した焼酎粕由来の試験用試料を用いれば、抗炎症性へ誘導することができることがわかった。一方、未処理の焼酎粕が試験用試料である比較例6、および、熱水処理を施した焼酎粕が試験用試料である比較例7では、IL-10産生は確認されたものの、その産生量は、実施例20で確認された産生量と比較するとはるかに低いものにすぎなかった。
【0212】
上記の結果より、本発明の亜臨界抽出物および亜臨界抽出物をろ過したろ液は、原料である菌体調製物の菌種に関わらず、および、亜臨界処理の条件に関わらず、M0マクロファージからのM1マクロファージへの誘導を消失させ、M0マクロファージと同様にM1マクロファージもM2マクロファージへと誘導するという顕著な効果を有していることがわかる。未処理の菌体調製物や熱水抽出処理物では、M1マクロファージへの誘導が残存したままであることから、この効果は、亜臨界処理特有の効果、すなわち亜臨界処理による機能性生体高分子の低分子化によるものであると考えられる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8